説明

ブレーキドラム

【課題】連れ回り強度、径方向の強度と剛性、接合強度及び放熱性を向上することができるブレーキドラムを提供する。
【解決手段】ドラムブレーキに用いられるブレーキドラム3において、外周面5に複数の突起6を有し、前記複数の突起6はブレーキドラム3の鋳造時に外周面5全体に形成され、少なくとも一部の突起6が括れ形状を有している。前記突起6の高さが0.3〜5.0mm、突起6の個数が5〜100個/cmであることが好ましい。ブレーキドラム3は遠心鋳造により製造されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両や自動二輪車のドラムブレーキに用いられるブレーキドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキドラムとして例えば特許文献1に示すものがある。ブレーキドラムの外周面に微細な凹凸を形成することにより、表面積を増大させて放熱性を向上させ、ブレーキドラムに発生した熱を微細な凹凸から効率よくホイールハブに伝導するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−084889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に示すブレーキドラムでは、外周面に微細な凹凸を有するものの、ショットブラストによって凹凸を形成しているため、回転方向の連れ回り強度が充分でない。また、径方向の剛性が充分でないことから、ブレーキシューとの摩擦から起因する振動によって異音を発生する場合がある。
【0005】
本発明の目的は、連れ回り強度、径方向の強度と剛性、接合強度及び放熱性を向上することができるブレーキドラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ドラムブレーキに用いられるブレーキドラムにおいて、外周面に複数の突起を有し、前記複数の突起はブレーキドラムの鋳造時に外周面全体に形成され、少なくとも一部の突起が括れ形状を有していることを特徴とする。
【0007】
前記突起の高さが0.3〜5.0mm、突起数が5〜100個/cmであることが好ましい。
【0008】
前記ブレーキドラムの材質が鋳鉄、鋳鋼、又はアルミニウム合金であることが好ましい。
【0009】
前記ブレーキドラムは遠心鋳造により製造されることが好ましい。
【0010】
前記ブレーキドラムは、例えばアルミニウム合金又はマグネシウム合金からなる部材中に鋳包みにより装着される。
【発明の効果】
【0011】
本発明のブレーキドラムによれば、外周面全体に複数の突起を有することにより、連れ回り強度や放熱性が向上する。また、径方向の強度と剛性が向上し、異音対策になる。また、突起の一部又は全部が括れ突起であることにより、連れ回り強度、接合強度が向上し、薄肉化も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施形態を示す縦断面図である。
【図2】ブレーキドラムを示す斜視図である。
【図3】圧縮試験の概要図である。
【図4】連れ回り強度試験の概要図である。
【図5】圧縮試験の試験結果を示すグラフである。
【図6】連れ回り強度試験の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1はドラムブレーキを示している。ホイール1の円筒状をなすドラム部2の内周面にブレーキドラム3が鋳包みにより装着されている。ホイール1はアルミニウム合金又はマグネシウム合金からなり、ブレーキドラム3は鋳鉄、鋳鋼、又はアルミニウム合金で形成されている。4はブレーキドラム3の内周に押し付けられる作用をなすブレーキシューである。
【0015】
円筒形状をなすブレーキドラム3(図2参照)の外周面5には全体にわたって突起6が複数形成されている。これらの突起6の中、一部又は全部の突起6が括れ形状を有している。突起6の高さは0.3〜5.0mm、突起6の個数は5〜100個/cmである。
【0016】
突起6の高さが0.3mm未満の場合は回転方向の連れ回り強度が不充分となり、5.0mmを越えると肉厚減効果がなくなる。突起6の個数が5個/cm未満の場合は回転方向の連れ回り強度が不充分となり、100個/cmを越えると鋳造性が悪くなる。
【0017】
ブレーキドラム3は遠心鋳造法により製造される。以下、ブレーキドラム3の製造方法を説明する。
【0018】
珪藻土、ベントナイト(粘結剤)、水、及び界面活性剤を所定の割合で混合して塗型材が作製される。200〜400℃に加熱されて回転する鋳型(金型)の内面に塗型材が噴霧塗布され、鋳型の内面に塗型層が形成される。界面活性剤の作用により、塗型層内から発生する蒸気の泡によって塗型層に複数の凹穴が形成される。塗型層を乾燥後、回転する鋳型内に金属溶湯が鋳込まれる。このとき、塗型層の凹穴に溶湯が充填され、均一な複数の突起が形成される。溶湯が硬化してブレーキドラムが形成された後、塗型層とともにブレーキドラムが鋳型から取り出される。ブラスト処理により、塗型材が除去され、少なくとも一部の突起が括れ形状を有している複数の突起を外周面の全体にわたって有するブレーキドラムが製造される。
【0019】
図5は万能引張圧縮試験機で試験片に圧縮荷重をかけたときの荷重とストローク(変位)の関係を示す図である。図3に圧縮試験の概要図を示す。アルミニウム合金製の円筒部材7の内周に鋳鉄製の円筒形状をなすブレーキドラム3Aを鋳包んで形成した試験片8に対して、オートグラフにて上方から圧縮荷重Pをかけ、破壊に至るまでの変位−荷重を計測する。押込みスピードは3mm/minである。
【0020】
上記試験で使用した本発明のブレーキドラムは突起高さが0.6〜0.75mm、突起の個数が10〜29個/cmであり、比較例のブレーキドラムは外周面に突起が形成されておらず、表面粗さの凹凸の最大高さRyが100〜250μm、凹凸の平均間隔Smが0.7〜1.4mmである。
【0021】
図5に示されているように、圧縮荷重は、変位が1.3mm、1.8mm、2.3mmで本発明が比較例より約1.3〜1.4倍高い。また、破壊荷重は本発明が約19kN、比較例が約12.5kNで、本発明が比較例より約1.5倍高い。
【0022】
図6は万能引張圧縮試験機で試験片に荷重をかけ、回転方向に捩じったときの連れ回り強度の試験結果を示す図である。図4に連れ回り強度試験の概要図を示す。試験片8は、アルミニウム合金製の円筒部材7の内周に鋳鉄製の円筒形状をなすブレーキドラム3Bを鋳包んで形成されている。ブレーキドラム3Bの内周には複数の凹部が周方向に間隔をおいて形成されている。試験片8が装着される治具9は、試験片8のブレーキドラム3Bの内周に装着される本体部10を有しており、本体部10の外周にはブレーキドラム3Bの内周の凹部に入る歯部が複数形成されている。治具9は本体部10の側面の中央部に固定されて側方に延びるアーム部11を有している。
【0023】
試験片8が治具9の本体部10にセットされる。なお、試験片8のブレーキドラム3Bの内周と治具9の本体部10の外周との間の隙間に薄いスリーブ(図示せず)が挿入される。試験片8は固定された状態で、オートグラフにて治具9のアーム部11(アーム長さ200mm)に上方から荷重Pをかけ、試験片8を回転方向に捩じった際に試験片8が破壊したときの荷重kg−m(連れ回り強度)を測定した。押込みスピードは6mm/minである。
【0024】
上記試験で使用した本発明のブレーキドラムは突起高さが0.6〜0.75mm、突起の個数が10〜29個/cmであり、比較例のブレーキドラムは外周面に突起が形成されておらず、表面粗さの凹凸の最大高さRyが100〜250μm、凹凸の平均間隔Smが0.7〜1.4mmである。
【0025】
図6は比較例の連れ回り強度を1としたときの相対値を示している。図6に示されているように、連れ回り強度は本発明が比較例に対して約3.5倍高いことがわかる。
【符号の説明】
【0026】
1 ホイール
2 ドラム部
3 ブレーキドラム
4 ブレーキシュー
5 外周面
6 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドラムブレーキに用いられるブレーキドラムにおいて、外周面に複数の突起を有し、前記複数の突起はブレーキドラムの鋳造時に外周面全体に形成され、少なくとも一部の突起が括れ形状を有していることを特徴とするブレーキドラム。
【請求項2】
前記突起の高さが0.3〜5.0mm、突起数が5〜100個/cmであることを特徴とする請求項1記載のブレーキドラム。
【請求項3】
前記ブレーキドラムの材質が鋳鉄、鋳鋼、又はアルミニウム合金であることを特徴とする請求項1又は2記載のブレーキドラム。
【請求項4】
遠心鋳造により製造されることを特徴とする請求項1、2又は3記載のブレーキドラム。
【請求項5】
アルミニウム合金又はマグネシウム合金からなる部材中に、鋳包みにより装着されることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のブレーキドラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−184810(P2012−184810A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48822(P2011−48822)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【出願人】(000215785)TPR株式会社 (80)
【出願人】(591206120)TPR工業株式会社 (24)
【Fターム(参考)】