説明

ブレーキ装置、クラッチ装置、制動装置、および摩擦力制御装置

【課題】ブレーキ、クラッチの押付圧、接触力を大きくすること無く摩擦係数を高めることができるブレーキ装置、クラッチ装置及び制動装置に関する。
【解決手段】鉄道車両と一体に設けられ、レール1に接触する金属製のブレーキシュー3により鉄道車両へ制動力を作用させるブレーキ装置2であって、前記ブレーキシュー3がレール1と接触する際に通電することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレーキ、クラッチの押付圧、接触力を大きくすること無く摩擦係数を高めることができるブレーキ装置、クラッチ装置、制動装置、および摩擦力制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄道車両のブレーキ制御に関する研究が行われている。例えば、特許文献1に示される車両ブレーキ用制輪子では、鉄道車両の車輪に押し付けられる摩擦面を含む鋳鉄製の制輪子本体と、この制輪子本体に埋め込まれており、一部が上記摩擦面に露出する、セラミックスブロックと、を具備し、このセラミックスブロックと車輪との接触により同ブロックから脱落するセラミックス粒子が上記摩擦面に供給されることで、制輪子と車輪との間の摩擦係数上昇に寄与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−103267公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般的に摩擦力を用いてブレーキの制動力を高めるためには、接触面の押付力を高めるか、摩擦係数を大きくする必要がある。しかし、押付力を高めるためにはアクチュエータの出力を大きくするとともに、ブレーキの構造的な強度を高めなければならず、ブレーキの大きさや質量の制約を受けるという問題がある。
また、上記引用文献1の車両ブレーキ用制輪子のようにセラミックス粒子を利用して摩擦係数を高めることもあるが、特殊な構造を必要とするという問題がある。
更に、鉄道車両の場合のようにレールと車輪との摩擦力で制動力を得る場合は、車両の自重と摩擦係数によってレールと車輪間の摩擦力が決まり、このため摩擦力の調整が難しいのが現状である。
【0005】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、特殊な構造、アクチュエータの出力、ブレーキの構造的な強度によらず、新たな手法によりブレーキ、クラッチの押付圧、接触力を大きくすること無く摩擦係数を高めることができ、また、鉄道車両の場合に車両の自重によらず、レールと車輪間の摩擦係数を高めることができるブレーキ装置、クラッチ装置及び制動装置に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明は、鉄道車両と一体に設けられ、レール、車輪、または車輪と一体回転するディスクのいずれかに接触する導電性材料からなるブレーキ片により前記鉄道車両へ制動力を作用させるブレーキ装置であって、前記ブレーキ片が前記レール、車輪、またはディスクの少なくともいずれかと接触する際に、該ブレーキ片とこれに接触する部材との間に通電することを特徴とする。
【0007】
そして、上記ブレーキ装置によれば、ブレーキ片が、レール、車輪、またはディスクの少なくともいずれかと接触する際に、該ブレーキ片とこれに接触する部材との間に通電することにより、これらブレーキ片とこれに接触する部材との摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0008】
また、上記ブレーキ装置では、前記ブレーキ片は一部材により構成され、該ブレーキ片からレール又は車輪に通電されることが好ましい。
【0009】
また、上記ブレーキ装置では、前記ブレーキ片は二部材により構成され、一方のブレーキ片からレール又は車輪を経由して他方のブレーキ片に通電されることが好ましい。
【0010】
また、上記ブレーキ装置では、前記ブレーキ片はディスクブレーキを挟むブレーキキャリパにより構成され、該ブレーキキャリパから前記ディスクブレーキを経て、車輪及びこれに接触するレールに通電されることが好ましい。
【0011】
また、上記ブレーキ装置では、前記ブレーキ片はディスクブレーキを挟む一対のブレーキキャリパにより構成され、一方のブレーキキャリパから前記ディスクブレーキを経て他方のブレーキキャリパに通電されることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、一つの回転軸に設けられた第1クラッチ板と他の回転軸に設けられた第2クラッチ板とを互いに接触させることにより、一の回転軸と他の回転軸との間で動力を伝達するクラッチ装置であって、前記第1、第2のクラッチ板が接触する際に両クラッチ板の間に通電することを特徴とする。
【0013】
そして、上記クラッチ装置によれば、第1、第2のクラッチ板が接触する際に両クラッチ板の間に通電することにより、これらクラッチ板が接触する際の摩擦係数が著しく高くなり、これにより回転軸の動力伝達を確実に行うことができる。
【0014】
また、本発明は、レール上を車輪によって走行する車両の制動装置または摩擦力制御装置であって、前記車輪を支持する回転軸に対して接触子を介して電流を流し、前記車輪とレールとに通電することを特徴とする。
【0015】
そして、本発明の制動装置によれば、車輪を支持する回転軸に対して接触子を介して電流を流し、車輪とレールとに通電することにより、これら車輪とレールとの摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作、車両発進時の動力伝達を確実に行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のブレーキ装置によれば、ブレーキ片が、レール、車輪、またはディスクの少なくともいずれかと接触する際に、該ブレーキ片とこれに接触する部材との間に通電することにより、これらブレーキ片とこれに接触する部材との摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0017】
また、本発明のクラッチ装置によれば、第1、第2のクラッチ板が接触する際に両クラッチ板の間に通電することにより、これらクラッチ板が接触する際の摩擦係数が著しく高くなり、これにより回転軸の動力伝達を確実に行うことができる。
【0018】
また、本発明の摩擦力制御装置によれば、車輪を支持する回転軸に対して接触子を介して電流を流し、車輪とレールとに通電することにより、これら車輪とレールとの摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作、車両発進時の動力伝達を確実に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施例1を示すレールブレーキ装置である。
【図2】(A)本発明の実施例に使用されるブレーキシュー(ブレーキ片)の概要と物理的特性、(B)ブレーキ試験の条件を示す表である。
【図3】ブレーキ試験の結果を示すグラフであって、(A)試験時間に対する押付力、摩擦力の変化を示すグラフ、(B)試験時間に対する摩擦係数の変化を示すグラフ、(C)試験時間に対する試験片温度の変化を示すグラフである。
【図4】実施例1の変形例1を示すレールブレーキ装置の側面図である。
【図5】実施例1の変形例2を示すレールブレーキ装置の平面図である。
【図6】本発明の実施例2を示す車輪ブレーキ装置である。
【図7】実施例2の変形例1を示す車輪ブレーキ装置である。
【図8】実施例2の変形例2を示す車輪ブレーキ装置である。
【図9】本発明の実施例3を示すディスクブレーキ装置である。
【図10】実施例3の変形例を示すディスクブレーキ装置である。
【図11】本発明の実施例4を示す制動装置である。
【図12】本発明の実施例4を示すクラッチ装置である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施例1]
本発明の実施例1について図1〜図5を参照して説明する。
まず、図1において符号1で示すものは鉄道車両(図示略)が走行されるレールであって、鉄道車両の下面には、該レール1の上面に接触してブレーキ力を発生させるレールブレーキ装置2が設けられている。
このレールブレーキ装置2は、導電性を有する金属材料により形成されて前記レール1の上面に接触するブレーキシュー3と、該ブレーキシュー3を駆動する駆動機構4と、から構成される。
前記駆動機構4は、前記ブレーキシュー3をレール1の上面に対して近接離間するように支持するとともに、ブレーキ力を発生させる際に、該ブレーキシュー3をレール1の上面に対して近接させかつ押し付けるように駆動される。なお、このときの駆動機構4による押付は、例えば、油圧又は空圧シリンダ、モータなどの機械的な力、又は電磁石などの吸着力が利用される。
【0021】
また、前記駆動機構4には、ブレーキシュー3がレール1と接触する際に、該電流を供給してこれらブレーキシュー3とレール1との間を通電する電流供給手段5が設けられている。この電流供給手段5では、ブレーキシュー3をプラス、接地されているレール1をマイナスの電極に印加することで、ブレーキシュー3からレール1に対して直流電流を流して通電する。そして、このときの通電によって、ブレーキシュー3とこれに接触するレール1との摩擦係数が著しく高くなり(図2、図3の実験結果を参照)、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0022】
ここで、ブレーキシューに相当する試験片を、相手側のレールに相当する銅製のロータと摺動させた場合の摩擦試験について、図2及び図3を参照して説明する。
この摩擦試験では、ブレーキシューに相当する試験片として、図2(A)に示すように、密度が7.1(g/cm)、硬さを98(HB)、引張強さを282(MPa)、シャルピー衝撃度を21.7(J/cm)、抵抗率を40(μΩcm)に調整した、クロムを含んだ鉄を素地とした「TF5A」を使用した。
また、試験条件は、図2(B)に示すように、ブレーキシューに相当する試験片を、レールに相当するロータと100(km/h)の摺動速度で摺動させつつ、これらブレーキシューとロータとに対して、50(A)の直流電流を通電させることで行った。なお、試験時間は30(min)、摺動距離は50(km)、ロータの回転方向は反時計回りとした。
【0023】
このような試験片(TF5A)及び条件で試験を行った結果を図3に示す。図3は、(a)は時間に対するロータへのブレーキシューの押付圧及び摩擦力の変化を示し、(b)は時間に対するロータへのブレーキシューの摩擦係数の変化を示し、(c)は時間に対するブレーキシューの温度変化を示すグラフである。
そして、図3(b)を参照して判るように、時間とともに摩擦係数が徐々に低下し、一定の値(本例では0.3程度)となるが、特に車両制動に必要な試験開始から300(s)までの間は、押付力が一定であるのに対して摩擦係数が0.3以上と高くなることが確認された。
すなわち、ブレーキシューに相当する試験片を、レールに相当するロータと摺動させつつ、これらブレーキシューとロータとに対して直流電流を通電させることによって、試験開始から一定時間、高い摩擦係数を得ることが確認された。
なお、上記摩擦試験では、「TF5A」の試験片を使用したが、図2(A)に示すように、その他の試験片についても、同様、ブレーキシューとロータとに対して直流電流を通電させることによって、試験開始から一定時間、高い摩擦係数を得ることができる、との結果が確認されている。
【0024】
上記の実験により、下記の事項が確認された。
(1) 温度条件による電流制御ができる
実験結果より、温度が上昇すると摩擦係数が小さくなる関係が見られる。これにより、いずれかの摺動材の温度を測定し、一定温度以上になったら通電を停止する制御を行うことによって、制動効果のない無駄な通電を防止することができる。
(2) 温度変化率による電流制御を行う
実験結果より、温度が上昇すると摩擦係数が小さくなる関係が見られるが、一定温度以上になると温度の時間変化率(温度の時間微分)が小さくなり、ある程度の温度で飽和する傾向にある。これにより、いずれかの摺動材の温度を測定し、温度の時間変化率が一定以下になったら通電を停止する制御を行うことも有効である。
(3) 通電時間を設定
実験結果より、数十秒〜百秒程度で摩擦係数が小さくなる傾向が見られる。単位時間あたりの温度上昇率は摺動させる材料の熱容量や熱伝導性にある程度依存する可能性があるので、実験データを基に有効な通電時間を予め決めておき、一定時間経ったら通電を停止するよう制御することも有効である。
(4) 接触電圧の条件による電流制御を行う
実験結果では接触電圧から離線率を判定しており、電源電圧100Vに対して接触電圧10〜90Vを生じた場合にアーク離線、90V以上を生じた場合に完全離線と判定している。実験結果の離線率のグラフより、摩擦係数が大きくなる状況では離線率が高く、したがって接触電圧が大きいという傾向が顕著に見られる。これにより、接触電圧の変化を測定し、一定以下の接触電圧になったら通電を停止する制御を行うことも有効である。
【0025】
以上詳細に説明したように本実施例1に示されるブレーキ装置によれば、ブレーキシュー3がレール1と接触する際に、該ブレーキシュー3がレール1との間に通電することにより、これらレール1に対するブレーキシュー3の摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0026】
(実施例1の変形例1)
上記実施例1のレールブレーキ装置2では、一部材で形成されたブレーキシュー3によりブレーキ装置を構成したが、図4に示すように、符号10A・10Bで示すようにブレーキシュー10を二部材で構成し、かつこれら二部材のブレーキシュー10の後部を絶縁体11によって支持するようにしても良い。そして、このブレーキシュー10の部材10A・10B間に交流電流を流すようにすれば、ブレーキシュー10がレール1に接触・摺動される際に、これらブレーキシュー10とレール1とが通電されることで、上記と同様に、レール1に対するブレーキシュー10の摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0027】
(実施例1の変形例2)
上記実施例1では、レール1の上面に対してブレーキシュー2又はブレーキシュー10を摺動させるようにしたが、これに限定されず、図5の平面図に示すように、一対のブレーキシュー12・13で側方からレール1を挟むように駆動し、これによって該レール1に対してブレーキシー12・13を摺動させてブレーキ力を発生させるようにしても良い。そして、このときレール1を介して一対のブレーキシュー12・13の間に直流電流又は交流電流を流して通電するようにすれば、上記と同様に、レール1に対するブレーキシュー12・13の摩擦係数を高くすることができ、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0028】
[実施例2]
本発明の実施例2について図6〜図8を参照して説明する。
図6において符号20で示すものはレール1上を走行する鉄道車両の車輪であって、該鉄道車両の下部には、該車輪20の周面に接触してブレーキ力を発生させる車輪ブレーキ装置21が設けられている。
この車輪ブレーキ装置21は、導電性を有する金属材料により形成されて前記レール1の周面に接触するブレーキシュー22と、該ブレーキシュー22を駆動する駆動機構23と、から構成されるものであって、前記ブレーキシュー22は一部材により構成されている。
【0029】
前記駆動機構23には、ブレーキシュー22がレール1と接触する際に、該電流を供給してこれらブレーキシュー22とレール1との間を通電する電流供給手段24が設けられている。この電流供給手段24では、ブレーキシュー22をプラス、接地されているレール1をマイナスの電極に印加することで、ブレーキシュー22から車輪20を経由してレール1に直流電流を流して通電する。そして、このときの通電によって、ブレーキシュー22とこれに接触する車輪20、及び該車輪20とこれが走行されるレール1との摩擦係数が著しく高くなり(通電と摩擦係数との関係は図2、図3の実験結果と同様)、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0030】
以上詳細に説明したように本実施例2に示されるブレーキ装置によれば、ブレーキシュー22が車輪20と接触する際に、ブレーキシュー22から車輪20を経由してレール1に直流電流を流して通電することにより、ブレーキシュー22とこれに接触する車輪20、及び該車輪20とこれが走行されるレール1との摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0031】
(実施例2の変形例1)
上記実施例2のレールブレーキ装置21では、一部材で形成されたブレーキシュー22によりブレーキ装置を構成したが、図7に示すように、符号30A・30Bで示すようにブレーキシュー30を二部材で構成し、かつこれら二部材のブレーキシュー30を絶縁体31によって支持するようにしても良い。そして、このブレーキシュー30の部材30A・30B間に交流電流を流すようにすれば、ブレーキシュー30が車輪20に接触・摺動される際に、これらブレーキシュー30と車輪20とが通電されることで、上記と同様に、車輪20に対するブレーキシュー30の摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0032】
(実施例2の変形例2)
上記実施例2では、車輪20の上面に対して1部材のブレーキシュー22、又は絶縁体31によって支持された二部材(30A・30B)からなるブレーキシュー30により摺動させるようにしたが、これに限定されず、図8に示すように、車輪20の周方向に間隔をおいて一対のブレーキシュー32・33を配置し、車輪20に対してブレーキシー32・33を同時に摺動させてブレーキ力を発生させるようにしても良い。そして、このとき車輪20を介して一対のブレーキシュー32・33の間に直流電流又は交流電流を流して通電するようにすれば、上記と同様に、車輪20に対するブレーキシュー32・33の摩擦係数を高くすることができ、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0033】
[実施例3]
本発明の実施例3について図9及び図10を参照して説明する。
図9に示すように、レール1上を走行する鉄道車両の車輪20の車軸20Aには、車両にブレーキ力を発生させるディスクブレーキ装置40が設けられている。
このディスクブレーキ装置40は、車軸20Aと一体に設けられたディスク41と、該ディスク41を挟みかつ該ディスク41と摺動するブレーキキャリパ42とから構成されている。
【0034】
このブレーキキャリパ42は、裏板(図示略)に支持されてその間に前記ディスク41を挟む一対のブレーキシュー42A・42Aと、該ブレーキシュー42A・42Aを近接離間させるように駆動する駆動機構(図示略)とを有するものであって、これら一対のブレーキシュー42A・42Aを互いに近接させたときに、前記ディスク41と摺動してブレーキ力を発生させる。
【0035】
また、前記ブレーキシュー42A・42Aは導電性を有する金属材料により形成されており、電流供給手段43により電流が供給されるようになっている。
この電流供給手段43では、ブレーキキャリパ42が作動して、ブレーキシュー42A・42Aがディスク41と摺動したときに、ブレーキシュー42A・42Aをプラス、接地されているレール1をマイナスの電極に印加することで、ブレーキシュー42A・42Aからレール1に対して直流電流を流して通電する。そして、このときの通電によって、ブレーキシュー42A・42Aとこれに接触するディスク41、及び該車輪20とこれが走行されるレール1との摩擦係数が著しく高くなり(図2、図3の実験結果と同様)、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0036】
以上詳細に説明したように本実施例3に示されるブレーキ装置によれば、ブレーキシュー42A・42Aがディスク41と接触する際に、ブレーキシュー42A・42Aからディスク41、車軸20A、車輪20を経由してレール1に直流電流を流して通電することにより、ブレーキシュー42A・42Aとこれに接触するディスク41、及び該車輪20とこれが走行されるレール1との摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0037】
なお、実施例3は一般的な車両のディスクブレーキ装置40であるが、例えば新幹線などのディスク41が車輪20に直接取り付けられているディスクブレーキ装置に本技術を適用しても良い。
【0038】
(実施例3の変形例)
上記実施例3のディスクブレーキ装置40では、ブレーキシュー42A・42Aをプラス、接地されているレール1をマイナスの電極に印加して、ブレーキシュー42A・42Aからレール1に対して直流電流を流して通電するようにしたが、ブレーキシュー42A・42Aに交流電流を流すようにすれば、ブレーキシュー30がディスク41に接触・摺動される際に、これら42A・42Aとディスク41とが通電されることで、上記と同様に、ディスク41に対する42A・42Aの摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作を確実に行うことができる。
【0039】
[実施例4]
本発明の実施例4について図11及び図12を参照して説明する。上述した実施例1〜3では、ブレーキ装置2・21・40に通電したが、車輪20とレール1に直接通電する形態の制動装置50であっても良い。
具体的には、図11に示すように、車輪20の車軸20Aに、カーボンブラシ等の接触子(図示略)を有する電流供給手段51により通電する。このとき、カーボンブラシ等の接触子をプラス、接地されているレール1をマイナスの電極に印加して、接触子から車軸20A、車輪20を通じてレール1に対して直流電流を流して通電する。そして、このときの通電によって、車輪20とこれに接触するレール1との摩擦係数が著しく高くなり、これにより車両を停止させる際のブレーキ操作、車両発進時の動力伝達を確実に行うことができる
【0040】
また、図12に示されるように、クラッチ板60・61の接触・離間によって一方の回転軸62から他方の回転軸63に動力を伝達するクラッチ装置64において、カーボンブラシ等の接触子(図示略)を有する電流供給手段65により通電する。このとき、一方の回転軸62をプラスとし、他方の回転軸63をマイナスとして、接触子を通じて、クラッチ板60・61が接触・摺動したときに、該クラッチ板60・61に対して直流電流を流して通電する。そして、このときの通電によって、互いに接触・摺動するクラッチ板60・61の摩擦係数を高くすることができ、クラッチ操作を確実に行うことができる。
【0041】
上記各実施形態では、車輪〜レール間の通電、ブレーキ〜車輪〜ブレーキ間の通電、ブレーキ〜車輪〜レール間の通電、によって接触面の摩擦係数を高めるようにしたが、車軸〜車輪〜ブレーキパッド〜レールの各部から構成される電気回路のいずれの部分からいずれの部分へ電流を流すかが実施形態に限定されるものでないのは勿論である。すなわち、互いに接触して摩擦力を作用させる一の部材と他の部材との間に電流を流すことによって本願の効果を得ることができる。またブレーキと車輪等との間の通電は直流、交流のいずれであっても良い。
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものでは無く、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、鉄道車両等に適用されて、ブレーキ、クラッチの押付圧、接触力を大きくすること無く摩擦係数を高めることができるブレーキ装置、クラッチ装置及び制動装置に関する。
【符号の説明】
【0043】
1 レール
2 レールブレーキ装置
3 ブレーキシュー(ブレーキ片)
10 ブレーキシュー(ブレーキ片)
12 ブレーキシュー(ブレーキ片)
13 ブレーキシュー(ブレーキ片)
20 車輪
20A 車軸
21 車輪ブレーキ装置
22 ブレーキシュー(ブレーキ片)
23 駆動機構
24 電流供給手段
30 ブレーキシュー(ブレーキ片)
31 絶縁体
32 ブレーキシュー(ブレーキ片)
33 ブレーキシュー(ブレーキ片)
40 ディスクブレーキ装置
41 ディスク
42 ブレーキキャリパ
42A ブレーキシュー(ブレーキ片)
43 電流供給手段
50 制動装置
51 電流供給手段
61〜64 クラッチ装置
65 電流供給手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両と一体に設けられ、レール、車輪、または車輪と一体回転するディスクのいずれかに接触する導電性材料からなるブレーキ片により前記鉄道車両へ制動力を作用させるブレーキ装置であって、
前記ブレーキ片が前記レール、車輪、またはディスクの少なくともいずれかと接触する際に、該ブレーキ片とこれに接触する部材との間に通電することを特徴とするブレーキ装置。
【請求項2】
前記ブレーキ片は一部材により構成され、該ブレーキ片からレール又は車輪に通電されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項3】
前記ブレーキ片は二部材により構成され、一方のブレーキ片からレール又は車輪を経由して他方のブレーキ片に通電されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項4】
前記ブレーキ片はディスクブレーキを挟むブレーキキャリパにより構成され、該ブレーキキャリパから前記ディスクブレーキを経て、車輪及びこれに接触するレールに通電されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項5】
前記ブレーキ片はディスクブレーキを挟む一対のブレーキキャリパにより構成され、一方のブレーキキャリパから前記ディスクブレーキを経て他方のブレーキキャリパに通電されることを特徴とする請求項1に記載のブレーキ装置。
【請求項6】
一つの回転軸に設けられた第1クラッチ板と他の回転軸に設けられた第2クラッチ板とを互いに接触させることにより、一の回転軸と他の回転軸との間で動力を伝達するクラッチ装置において、
前記第1、第2のクラッチ板が接触する際に両クラッチ板の間に通電することを特徴とするクラッチ装置。
【請求項7】
レール上を車輪によって走行する車両の摩擦力制御装置であって、
前記車輪を支持する回転軸に対して接触子を介して電流を流し、前記車輪とレールとに通電することを特徴とする摩擦力制御装置。
【請求項8】
レール上を車輪によって走行する車両の制動装置であって、
前記車輪に接触するブレーキ片に電流を流し、該ブレーキ片から車輪とレールとに通電することを特徴とする制動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−194927(P2011−194927A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60989(P2010−60989)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000173784)公益財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【Fターム(参考)】