説明

ブロモ化ポルフィセン誘導体及びそれを含有する光線力学治療剤

【課題】可視部の光吸収が大きく安定で高い量子収率で一重項酸素を生成し、光線力学的治療剤、有害有機物質分解・除去剤、及び有機合成触媒としての光増感物質の提供。
【解決手段】ブロモ化ポルフィセン誘導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光により、高い量子収率で一重項酸素を発生するブロモ化ポルフィセン誘導体、該誘導体を含有する、光線力学療法(PDT)に用いられる光線力学治療剤、環境浄化のための、有害有機物分解・除去剤、及び有機合成触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
一重項酸素は、種々の不飽和結合を有する分子や電子に富んだ分子を攻撃する活性種であり、精密化学合成、ポリマーサイエンス、光線力学的療法(以下、PDTという)、汚水や汚泥の処理等、それを利用する種々の応用分野がある。そのため、一重項酸素の発生やそれとの反応に人々の注目が集められている。
一重項酸素を発生する通常の手段は、光増感物質を用いる方法であり、光増感物質が特定の波長の光を吸収し、その結果として形成された励起状態が、基底状態の三重項酸素へのエネルギー移動を誘発することにより、一重項酸素が発生する。
【0003】
PDTとは、ヒトや動物の疾病組織を処置する方法であって、光を照射することにより一重項酸素等の活性酸素種を発生する光増感物質を含有する光力学治療剤を、例えば静脈注射等で患者に投与した後、疾病組織に局所的に光を照射し、発生した活性酸素種により該疾病組織のみを破壊する、癌及び他の疾患を治療する方法である。
【0004】
光増感物質として色素を含めると膨大な種類の物質が存在するが、PDTに使用される物質は、腫瘍などの特定組織に選択的親和性を有し、毒性が少なく、発癌性のないことが必要で、現在日本の厚生労働省の認可を受けているものとして、ポルフィリン及びクロリン(ポルフィリン環の1ヵ所が二重結合でないもの)等がある。また、このような光増感剤として、種々の置換基を有するポルフィリン誘導体及びそれらの金属錯体が、また、ポルフィリンの異性体であるポルフィセンがあり、それらがPDTに用いられることが提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、光増感物質に光を照射して発生する一重項酸素により、汚水中の有害有機物を分解・除去して環境を浄化する方法も提案されている(特許文献2)。ここでは、高分子粒子に担持された大環状金属錯体化合物である金属フタロシアニン化合物又は金属ポルフィリン化合物が、光増感物質として用いられている。
【0006】
このように、一重項酸素を活性種として種々の分野に応用するためには、光増感物質として、安定で、高い量子収率で一重項酸素を発生し、加えて可視部の光吸収が大きい化合物が望まれる。中でも高い量子収率で一重項酸素を発生することが重要であり、2,7,12,17−テトラ(n−プロピル)ポルフィセンの一重項酸素の量子収率が、36%であることが知られている(非特許文献1)。
【0007】
【特許文献1】特公表2002−523509号公報
【特許文献2】特開2003−225569号公報
【非特許文献1】E. Vogel. et al., J. Photochem. Photobiol., B:Biology, 3, 193-207 (1989)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本願発明は、可視部の光吸収が大きく、安定で、高い量子収率で一重項酸素を生成することができる、光増感物質を提供することを課題とする。
【0009】
そのため、本発明者等は、重原子効果(原子番号の大きな原子や金属イオンなどの元素が化合物の中に含まれると、三重項状態と呼ばれる光励起状態の生成効率が増大する現象)に着目し、可視光領域に強い吸収帯を有する2,7,12,17−テトラ−n−プロピルポルフィセンを用いて、三重項状態の生成効率を高め、もって三重項状態が酸素分子にエネルギーを与えることによって生成する一重項酸素の量子収率を向上させることを検討した。
【0010】
その結果、ポルフィセン骨格に臭素原子を導入した化合物は、原料化合物である臭素原子を導入しない化合物と比較して一重項酸素の量子収率が極度に増大すること及び該化合物が、光照射に対して極めて安定であることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0011】
従って、本願発明は、以下の(1)〜(4)のとおり特定される。
(1) 光を照射することにより、高い量子収率で一重項酸素を生成する、下記式(1)(化2)のブロモ化ポルフィセン誘導体。
【0012】
【化1】

(X、Xは水素原子又は臭素原子であり、XとXは同時に水素原子ではなく、Mは2個の水素原子又はパラジウム原子であり、nPrは、n−プロピル基を表す)
【0013】
(2) (1)のブロモ化ポルフィセン誘導体を含有する光線力学的治療剤。
(3) (1)のブロモ化ポルフィセン誘導体を含有する環境浄化のための、有害有機物分解・除去剤。
(4) (1)のブロモ化ポルフィセン誘導体を含有する物質変換のための、有機合成触媒。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、テトラノルマルプロピルポルフィセンをブロモ化することにより得られたモノブロモ化及びジブロモ化ポルフィセン誘導体(3−ブロモ化体及び3,18−ジブロモ化体)は、既存のポルフィリン誘導体や、原料テトラノルマルプロピルポルフィセンと比較して、非常に高い量子収率で一重項酸素を生成し、光増感反応における触媒活性が高く、一重項酸素や光に対しても安定である。さらに、ジブロモ化体をパラジウム錯体化した化合物は、更に高い量子収率(ほぼ100%)で一重項酸素を生成した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のブロモ化に用いられた2,7,12,17−テトラ−n−プロピルポルフィセン(TPrPcという)は、光照射による一重項酸素の量子収率が公知の化合物であり、公知の方法(Angew. Chem. Int., Ed. Engl. 26(No.9), 928-931(1987)で製造できる。このTPrPcのブロモ化は、下記反応式(化3)に基づいて、反応させる臭素の当量数を変えることにより臭素の置換数を容易に変えることができ、各1〜4ブロモ化体を収率よく合成することができる。
【0016】
【化2】

ここで、X、Xは水素原子又は臭素原子であり、XとXは同時に水素原子ではない。
【0017】
反応は、溶媒に溶かした臭素を約2〜約10分を要して滴下しながら、室温で行なうことができる。溶媒は、TPrPcと臭素を溶解し、臭素と反応しないものであれば、どのようなものでも良く、例えば、四塩化炭素が好適に用いられる。得られたブロモ化ポルフィセン誘導体は、定法に従って、溶媒中、塩化パラジウムにより、パラジウム錯体化することができる。何れの反応物も、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、再結晶して、所望の誘導体を得ることができる。
【0018】
得られた各ブロモ化誘導体の光照射による一重項酸素生成量子収率を、本願明細書の実施例の項に記載した方法により、原料TPrPcの公知の一重項酸素生成量子収率を基に、算出した。
【0019】
原料TPrPcのブロモ化により得られる1〜4の置換数のいずれのブロモ化ポルフィセン誘導体も、光照射により、一重項酸素生成量子収率が36%である原料TPrPcと比較して、高い量子収率で一重項酸素を生成するが、特に、モノブロモ化体(以下、Br1という)とジブロモ化体(以下、Br2という)が、90%以上の極めて高い一重項酸素生成量子収率を示す。加えて、それらのブロモ化ポルフィセン誘導体をパラジウム錯体化することにより、光照射による一重項酸素生成量子収率が更に上昇し、ジブロモ化ポルフィセンのパラジウム錯体(以下、PdBr2という)は、ほぼ100%の一重項酸素生成量子収率を示す。
【0020】
また、本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体は、原料TPrPcと同等に、光に対して安定であり、光増感反応雰囲気下で分解することがなく、既存のテトラフェニルポルフィリンより、極めて高い耐久性を有する。
【0021】
本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体は、可視部の光吸収が大きく、光照射により、高い一重項酸素生成量子収率を有し、光増感反応雰囲気下で高い安定性を有するので、極めてマイルドな条件下(例えば、室温で)で、種々の不飽和結合を有する分子や電子に富んだ分子を攻撃する活性種を生成する光増感物質として、精密化学合成(物質変換のための、有機合成触媒として)、ポリマーサイエンス、光線力学的療法(以下、PDTという)、汚水や汚泥の処理等、種々の応用分野に有効に利用できる。
【0022】
例えば、精密化学合成分野では、1,5−ヒドロキシナフタレンを、本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体の存在下、溶媒中、空気雰囲気下、室温で、光を照射することにより、ジュグロン(1)(Juglone (1))を高収率で得ることができる。ジュグロン(1)は、生物学的に活性なキノイド化合物を構築・合成する原料として有用である。
【0023】
また、ポリマーサイエンス分野では、例えば、本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体を、ポリマーのグラフト化反応での水素引き抜き剤として、利用できる。
【0024】
光増感物質を動物の全身又は局所に投与し、次いで、酸素供給下に、癌等の罹患標的組織に光照射することにより、一重項酸素を発生させ、それにより標的細胞組織を破壊して、疾患を治療する方法(光線力学的治療:PDT)において、前述のとおり、本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体は、光照射により、効率的に一重項酸素を生成することができることから、光線力学的治療剤として、使用することができる可能性がある。
【0025】
さらに、光増感物質存在下に光を照射して、水中又は土中の環境汚染物質、例えば、クロルフェノール類を分解して、最終的には無機物質にまで酸化できることが知られている(Meiqin Hu, et.al., Chem. Letters, Vol.33, No.9 (2004))。本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体は、可視部の光吸収が大きく、光照射により、高い一重項酸素生成量子収率を有し、光増感反応雰囲気下で高い安定性を有するので、環境浄化のための有害有機物分解・除去剤(環境汚染物質除去剤)として、好適に使用することができる。
【0026】
上述のとおり、本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体は、種々の用途に応用することができるが、その形態は、懸濁剤、溶液、クリーム、軟膏、ゲル、シロップ等の液体、半固体、固体のいずれであってもよい。また、本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体を、ポリスチレン等のポリマーやシリカゲル等の無機固体に固定化して使用することもできる。
【実施例】
【0027】
[ポルフィセン誘導体の一重項酸素発生量子収率(ΦΔ)の測定方法]
600nmにおける吸光度(A600)が0.05、0.07及び0.1のポルフィセン誘導体の3種のトルエン溶液を用意した。それらの溶液に励起波長600nmの光を照射し、測定装置フルオロログ(Fluorolog-3:JOBIN YVON(堀場製作所製))を用いて、発光スペクトルを測定した。このスペクトルから、1270nmのピーク面積を算出し、一重項酸素による発光強度とした。
【0028】
各濃度における一重項酸素による発光強度は、その吸光度(A600)に比例するので、発光強度を吸光度(A600)に対してプロットし、その傾きを算出した。
TPrPcの一重項酸素発生の量子収率(ΦΔ)が、文献値より0.36と報告されている(E.Vogel et al., J. Photochem. Photobiol., B:Biology, 3, 193-207(1989))ので、その値を基に、測定した上記傾きから一重項酸素発生の量子収率(ΦΔ)を算出した。
【0029】
また、以下のNMR分析、MS分析及びUV−VIS分析に用いられた装置はそれぞれ、AVANCE 500核磁気共鳴装置((株)ブルカー・バイオスピン社製)、Autoflex質量分析装置((株)ブルカー・ダルトニクス社製)及びU-3300分光光度計((株)日立製作所製である。
【0030】
実施例1(ブロモ化ポルフィセン(1置換体)(Br1という)の合成)
50mg(100μmol)の2,7,12,17−テトラ−n−プロピルポルフィセン(TPrPcという)を四塩化炭素30mlに溶解し、2.5%酢酸ナトリウム水溶液20mlを加えた。その後、5μl(100μmol)の臭素を10mlの四塩化炭素希釈した溶液を5分かけて滴下した。滴下後、室温で1時間攪拌し、飽和チオ硫酸ナトリウム溶液を加えて分液した。有機層を蒸留水で3回洗い、硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。その後、紫色残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:n−ヘキサン=1:6v/v、φ5cm×30cm)で精製した。カラム第1成分は2置換体であり、第2成分が1置換体であった。塩化メチレン/n−ヘキサンで再結晶し、下記式(2)(化3)のブロモ化ポルフィセン(1置換体)(Br1)の紫色の針状結晶を得た(33mg、57%)。
【0031】
【化3】

【0032】
1H-NMR(δvalue, CDCl3): 1.29-1.35(m, 12H), 2.25-2.44(m, 8H), 3.96-4.05(m, 8H), 9.24(s, 1H), 9.35(s, 1H), 9.60-9.73(m, 4H), 10.14(s, 1H)
HRMS(FAB): Caled.(C32H37BrN4として):556.2202
実測値:556.2256
元素分析:Caled.(C32H37BrN4として): C, 48.93; H, 6.69; N, 10.05
Found: C, 48.02; H, 6.62; N, 9.80
【0033】
実施例2(ブロモ化ポルフィセン(2置換体)(Br2という)の合成)
50mg(100μmol)のTPrPcを四塩化炭素30mlに溶解し、2.5%酢酸ナトリウム水溶液20mlを加えた。その後、10μl(200μmol)の臭素を10mlの四塩化炭素希釈した溶液を5分かけて滴下した。滴下後、室温で1時間攪拌し、飽和チオ硫酸ナトリウム溶液を加えて分液した。有機層を蒸留水で3回洗い、硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。その後、紫色残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:n−ヘキサン=1:6v/v、φ5cm×30cm)で精製した。カラム第1成分は2置換体であり、第2成分が1置換体であった。塩化メチレン/n−ヘキサンで再結晶し、下記式(3)(化4)のブロモ化ポルフィセン(2置換体)(Br2)の紫色の針状結晶を得た(47mg、70%)。
【0034】
【化4】

【0035】
1H-NMR(δ value(ppm), CDCl3): 1.29-1.34(m, 12H), 2.26-2.42(m, 8H), 3.92-4.04(m, 8H), 9.67(d, 2H), 9.73(d, 2H), 10.16(s, 2H)
HMRS(FAB): Caled.(C32H36Br2N4+として): 634.1307
Found: 634.1401
元素分析: Caled.(C32H36Br2N4として): C, 60.39; H, 5.70; N, 8.80
Found: C, 60.04; H, 5.66; N,8.72
【0036】
実施例3(ブロモ化ポルフィセン(1置換体)Pd錯体(PdBr1という)の合成)
実施例1で得られたブロモ化ポルフィセン(1置換体)(Br1)30mg(54μmol)とPdCl52mg(293μmol)を無水DMF5mlに溶解し、窒素雰囲気下で1時間還流、還流後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムで精製(塩化メチレン:n−ヘキサン=1:6v/v、φ7cm×17cm)、塩化メチレン/n−ヘキサンで再結晶し、下記式(4)(化5)のブロモ化ポルフィセン(1置換体)Pd錯体(PdBr1という)の紫色の針状結晶を得た(15.4mg、43%)。
【0037】
【化5】

【0038】
1H-NMR(δ value(ppm), CDCl3): 1.23-1.37(m, 12H), 2.21-2.36(m, 8H), 3.83-3.92(m, 8H), 9.08(s, 1H), 9.26-9.33(m, 4H)
MALDI-MS: Obsd.: 661.1
元素分析: Caled.(C32H35N4BrPdとして): C, 58.06; H,5.33; N, 8.46
Found: C, 58.30; H, 5.38; N, 8.51
【0039】
実施例4(ブロモ化ポルフィセン(2置換体)Pd錯体(PdBr2という)の合成)
実施例2で得られたブロモ化ポルフィセン(2置換体)(Br2)3mg(4.7μmol)とPdCl2.1mg(11.8μmol)を無水DMF5mlに溶解し、窒素雰囲気下で1時間還流、還流後、溶媒を留去し、シリカゲルカラムで精製(塩化メチレン:n−ヘキサン=1:6v/v、φ2cm×20cm)、塩化メチレン/n−ヘキサンで再結晶し、下記式(5)(化6)のブロモ化ポルフィセン(2置換体)Pd錯体(PdBr2)の紫色の針状結晶を得た(0.37mg、11%)。
【0040】
【化6】

【0041】
1H-NMR(δ value(ppm), CDCl3):1.23-1.38(m, 12H), 2.22-2.45(m, 8H), 3.85-4.05(m, 8H), 9.05(s, 2H), 9.33-9.45(m, 4H)
MALDI-MS: Obsd.: 738.98
【0042】
比較例1(ブロモ化ポルフィセン(3置換体:Br3という)の合成)
50mg(100μmol)のTPrPcを四塩化炭素30mlに溶解し、2.5%酢酸ナトリウム水溶液20mlを加えた。その後、15μl(300μmol)の臭素を10mlの四塩化炭素で希釈した溶液を5分かけて滴下した。滴下後、室温で1時間攪拌し、飽和チオ硫酸ナトリウム溶液を加えて分液した。有機層を蒸留水で3回洗い、硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。その後、紫色残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:n−ヘキサン=1:6v/v、φ5cm×100cm)で精製した。カラム第1成分は2置換体であり、第2成分が3置換体であった。塩化メチレン/n−ヘキサンで再結晶し、下記式(6)((化7)のブロモ化ポルフィセン(3置換体)(Br3)の紫色の針状結晶を得た(32mg、40%)。
【0043】
【化7】

【0044】
1H-NMR(δ value(ppm), CDCl3): 1.25-1.31(m, 12H), 2.10-2.43(m, 8H), 3.79-3.94(m, 8H), 9.48(d, 1H), 9.49(d, 1H), 9.70(d, 1H), 10.04(s, 2H)
HMRS(FAB): Caled.(C32H37BrN4+として): 712.0412
Found: 712.0252
元素分析: Caled.(C32H35N4Br3として): C, 53.73; H,4.93; N, 7.83
Found: C, 53.73; H, 4.93; N, 7.83
【0045】
比較例2(ブロモ化ポルフィセン(4置換体)(Br4という)の合成)
50mg(100μmol)のTPrPcを四塩化炭素30mlに溶解し、2.5%酢酸ナトリウム水溶液20mlを加えた。その後、30μl(600μmol)の臭素を10mlの四塩化炭素で希釈した溶液を5分かけて滴下した。滴下後、室温で1時間攪拌し、飽和チオ硫酸ナトリウム溶液を加えて分液した。有機層を蒸留水で3回洗い、硫酸マグネシウムで脱水し、溶媒を減圧留去した。その後、紫色残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(塩化メチレン:n−ヘキサン=1:6v/v、φ5cm×100cm)で精製した。カラム第3成分は5置換体であり、第4成分が3置換体であり、第5成分が4置換体であった。塩化メチレン/n−ヘキサンで再結晶し、下記式(7)(化8)のブロモ化ポルフィセン(4置換体)(Br4)の紫色の針状結晶を得た(25mg、30%)。
【0046】
【化8】

【0047】
1H-NMR(δvalue(ppm), CDCl3): 1.21(t, 12H), 2.06(m, 8H), 3.76(t, 8H), 9.48(s, 4H)
TOF-MS(MALDI): m/z=795.7(M+H)+
元素分析: Caled.(C32H34N4Br4として): C, 48.39; H,4.31; N, 7.05
Found: C, 48.22; H, 4.31; N, 7.05
【0048】
比較例3(テトラプロピルポルフィセンPd錯体(PdTPrPcという)の合成)
TPrPc30mg(63μmol)とPdCl60mg(340μmol)を無水DMF5mlに溶かし、窒素雰囲気下で1時間還流。還流後、溶媒を留去し、シリカゲルカラム(塩化メチレン, φ4cm×10cm)で精製した。塩化メチレン/n-ヘキサンで再結晶し、紫色の下記式8(化9)の針状結晶のテトラプロピルポルフィセンPd錯体(PdTPrPc)を得た。(35.2mg,96%)
【0049】
【化9】

【0050】
1H-NMR(δvalue(ppm), CDCl3): 1.35(t, 12H), 2.39(m, 8H), 4.01(t, 8H), 8.95(s, 4H), 9.63(s, 4H)
元素分析: Calcd.(C32H36N4Pdとして): C 65.92; H, 6.22; N, 9.61
Found: C, 65.86; H, 6.21; N, 9.64
MALDI-MS: Obsd.: 581.08(M+H)
【0051】
[ポルフィセン誘導体の一重項酸素発生量子収率(ΦΔ)の測定]
前記測定方法にしたがって、実施例1〜4及び比較例1〜4のポルフィセン誘導体の一重項酸素発生量子収率(ΦΔ)を測定した。各スペクトルの例を図1(図1)に、また、各誘導体の一重項酸素の発生の量子収率(ΦΔ)を表1(表1)に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
この結果から、TPrPcをブロモ化した誘導体は、原料であるブロモ化しないTPrPcと比較して、一重項酸素の発生の量子収率が高くなり、特に1ブロモ体及び2ブロモ体は、極めて高い一重項酸素の生成の量子収率を示した。
【0054】
[光増感反応]
1,5−ジヒドロキシナフタレンを基質とした下記スキーム(化10)の光増感反応を行った。
【0055】
【化10】

【0056】
基質として、1,5−ジヒドロキシナフタレン20mg(0.125mmol)を25mlのメスフラスコに入れ、CHCl/MeOH =9/1(V/V)の溶媒に溶かしメスアップし、基質溶液を調製した。また、3.83×10−6Mの各ポルフィセン誘導体の溶液を調製し、基質溶液2mlと各ポルフィセン誘導体の溶液1mlを反応容器(石英セル)に入れ、反応溶液の調製を行った。空気下、室温で、500Wのタングステンランプを用い、カットフィルターで460nm以上の光を反応溶液に照射し、UVvisスペクトルで反応を追跡した。
反応3時間後の反応溶液を31倍希釈した溶液のUVvisスペクトルを測定し、生成物のモル吸光係数(ε427=3392)から、生成物濃度を算出した。その生成物濃度を触媒濃度で割ってターンオーバー数(TON)を得た。結果を表2(表2)に示す。
【0057】
【表2】

【0058】
従って、本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体は、基質として、1,5−ジヒドロキシナフタレンを用いた光増感反応において、高い触媒活性を示し、特に2ブロモ体(Br2)の活性は極めて高かった。
【0059】
[ブロモ化プロフィセン誘導体の耐久性]
ブロモ化プロフィセン誘導体の溶液(4.0×10−6M,CHCl/MeOH)=9/1 v/v)に500Wタングステンランプを用いて、空気下、室温にて、カットフィルターを用いて460nm以上の光を、10時間照射し、UVvisスペクトルで追跡を行った。
10時間後のUVvisスペクトルから、各プロフィセン誘導体のSoret帯に由来するピークの吸光度変化より、下記式(数1)に従い、プロフィセン誘導体の生存率を算出した。結果を表3(表3)に示す。
【0060】
【数1】

Asoret*: 光照射後の吸光度、 Asoret: 光照射前の吸光度
【0061】
【表3】

この結果から、本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体は、光に対して安定であり、既存のテトラフェニルポルフィリンより、極めて安定である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のブロモ化ポルフィセン誘導体は、光照射により、可視部の光吸収が大きく、高い量子収率で一重項酸素を生成し、安定であるので、光線力学療法(PDT)に用いられる光線力学治療剤、環境浄化のための有害有機物分解・除去剤(環境汚染物質除去剤)、及び酸化反応等の有機合成触媒として、好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】縦軸を発光強度、横軸を波長(nm)とした、ブロモ化した各試料に光を照射したときに生成する、一重項酸素による発光スペクトルの1例である。
【符号の説明】
【0064】
TPrPcは、原料の2,7,12,17−テトラ−n−プロピルポルフィセンの発光スペクトルである。
Br1は、TPrPcを、モノブロモ化した化合物の発光スペクトルである。
Br2は、TPrPcを、ジブロモ化した化合物の発光スペクトルである。
Br3は、TPrPcを、トリブロモ化した化合物の発光スペクトルである。
Br4は、TPrPcを、テトラブロモ化した化合物の発光スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を照射することにより、高い量子収率で一重項酸素を生成する下記式(1)(化1)のブロモ化ポルフィセン誘導体。
【化1】

(X、Xは水素原子又は臭素原子であり、XとXは同時に水素原子ではなく、Mは2個の水素原子又はパラジウム原子であり、nPrは、n−プロピル基を表す)
【請求項2】
請求項1のブロモ化ポルフィセン誘導体を含有する光線力学的治療剤。
【請求項3】
請求項1のブロモ化ポルフィセン誘導体を含有する環境浄化のための、有害有機物分解・除去剤。
【請求項4】
請求項1のブロモ化ポルフィセン誘導体を含有する物質変換のための、有機合成触媒。

【図1】
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【公開番号】特開2009−51737(P2009−51737A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−216934(P2007−216934)
【出願日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年3月12日 社団法人 日本化学会発行の「日本化学会第87春季年会 講演予稿集 CD−ROM」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成19年7月7日 高分子学会九州支部、日本分析化学会九州支部、電気化学会九州支部、有機合成化学協会九州山口支部、繊維学会西部支部、化学工学会九州支部、日本化学会九州支部、日本農芸化学会西日本支部共催の「第44回化学関連支部合同九州大会 外国人研究者交流国際シンポジウム」に文書をもって発表
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】