説明

プラスチックレンズ

【課題】芳香環を有するポリイソシアナート化合物及びポリチオール化合物を含有する組成物を重合してなる、耐候性に優れるプラスチックレンズを提供する。
【解決手段】(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物及び(B)ポリチオール化合物の合計量100質量部に対して、(C)下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール系化合物0.5〜5.0質量部と(D)フェノール類0.5〜5.0質量部とを含有する組成物を重合してなるプラスチックレンズである。



(式中、Y1は水素原子又はハロゲン原子を表し、Y2及びY3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基、又は水酸基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックレンズに関する。さらに詳しくは、芳香環を有するポリイソシアナート化合物とポリチオール化合物とを含有する組成物を重合してなる、優れた耐候性を有するプラスチックレンズに関する。
【背景技術】
【0002】
高屈折率を有するプラスチックレンズとして、エピスルフィド樹脂や、ポリイソシアナート化合物及びポリチオール化合物を重付加させた樹脂からなるプラスチックレンズが知られている。例えば、上記のプラスチックレンズを眼鏡レンズに用いる場合は、高屈折率を有する樹脂を用いてレンズの肉厚を軽減し、装用者の印象を良くするという効果が期待される。さらに樹脂の着色としては、初期着色と経年変化が少なく、優れた耐候性を有することが要求される。このような樹脂を用いたプラスチックレンズの耐候性を向上させる方法として、該プラスチックレンズを形成するためのエピスルフィド樹脂を主成分とする組成物に、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を添加する方法が知られている(特許文献1参照)。
しかしながら、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤は、耐候性に乏しい芳香族イソシアナート化合物を用いた樹脂の耐候性を改善するために必要な量を、原料中に溶解させることができなかった。さらに、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を大量に加えると、樹脂が黄色く着色するという問題も生じやすくなる。
【0003】
一方、特定のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤を添加することにより、光学特性の低下を最小限に抑え、かつ高い紫外線カット率を有する、ポリイソシアナート及びポリチオール化合物を含有するプラスチックレンズ用重合性組成物が知られている(特許文献2参照)。
また、安定剤として、10〜5000ppmのフェノール類を添加したイソシアナート化合物とポリチオール化合物等の活性水素化合物とを用いた光学用ウレタン樹脂、及びこれを用いてなるプラスチックレンズが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−84006号公報
【特許文献2】特開2008−56854号公報
【特許文献3】特開平05−78441号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2及び3では、プラスチックレンズの初期の光学特性や光学歪等を防止することを目的としており、プラスチックレンズの耐候性向上については何ら言及されていない。
本発明は、耐候性に乏しい、芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物と、ポリチオール化合物とを重付加させてなる、耐候性に優れるプラスチックレンズを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物及びポリチオール化合物の合計量に対し、特定のベンゾトリアゾール系化合物とフェノール類とを特定量含有させた組成物を用いることにより、上記課題を解決しうることを見出した。
すなわち本発明は、(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物及び(B)ポリチオール化合物の合計量100質量部に対して、(C)下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール系化合物0.5〜5.0質量部と(D)フェノール類0.5〜5.0質量部とを含有する組成物を重合してなるプラスチックレンズに関する。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Y1は水素原子又はハロゲン原子を表し、Y2及びY3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基、又は水酸基を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明により、芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物及びポリチオール化合物を用いても、耐候性に優れるプラスチックレンズを提供することができる。本発明のプラスチックレンズは、眼鏡用レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズ等に好適に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物及び(B)ポリチオール化合物の合計量100質量部に対して、(C)下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール系化合物0.5〜5.0質量部と(D)フェノール類0.5〜5.0質量部とを含有する組成物を重合してなるプラスチックレンズに関する。
以下、組成物中に含有される各成分について説明する。
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Y1は水素原子又はハロゲン原子を表し、Y2及びY3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基、又は水酸基を表す。)
【0013】
<(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物>
本発明に用いられるポリイソシアナート化合物は、芳香環を有するポリイソシアナート化合物を必須成分として含有していれば、特に制限なく用いることができる。
芳香環を有するポリイソシアナート化合物としては、1,4−フェニレンジイソシアナート、メチル−1,3−フェニレンジイソシアナート、1,3−ビス(イソシアナートメチル)ベンゼン、1,3−ビス(2−イソシアナートプロピル)ベンゼン、4,4’−メチレンビスフェニルビスイソシアナート、2,4’−メチレンビスフェニルビスイソシアナート、1,5−ジイソシアナトナフタレン、(3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニリレン)ビスイソシアナート等のポリイソシアナート化合物が挙げられる。
上記の芳香環を有するポリイソシアナート化合物において、比較的屈折率が高いポリイソシアナート化合物を選択することにより、高屈折率のプラスチックレンズを容易に得ることができる。上記観点から、芳香環を有するポリイソシアナート化合物としては、4,4’−メチレンビスフェニルビスイソシアナート、2,4’−メチレンビスフェニルビスイソシアナート、及びメチル−1,3−フェニレンジイソシアナートから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
これらの芳香環を有するポリイソシアナート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに、芳香環を有するポリイソシアナート化合物と、脂肪族ポリイソシアナート化合物もしくは脂環を有するポリイソシアナート化合物とを組み合わせて用いても良い。
【0014】
また、本発明に用いられる(A)成分として、芳香環を有しないポリイソシアナート化合物を組み合わせて用いてもよい。
芳香環を有しないポリイソシアナート化合物としては、例えば、脂肪族ポリイソシアナート化合物、又は脂環を有するポリイソシアナート化合物等が挙げられる。脂肪族ポリイソシアナート化合物としては、1,6−ヘキサメチレンジイソシアナート等が挙げられる。
これらの芳香環を有しないポリイソシアナート化合物は、芳香環を有しないポリイソシアナート化合物と組み合わせることにより、1種又は2種以上を用いても良い。
【0015】
本発明に用いられる(A)ポリイソシアナート化合物全量における、芳香環を有するポリイソシアナート化合物の割合は、得られるプラスチックレンズの屈折率等に応じて適宜選択することができる。
【0016】
<(B)ポリチオール化合物>
本発明に用いられる(B)ポリチオール化合物としては、1,2−エタンジチオール、 1,1−プロパンジチオール、1,2−プロパンジチオール、1,3−プロパンジチオール、2,2−プロパンジチオール、1,6−ヘキサンジチオール、1,2,3−プロパントリチオール、1,1−シクロヘキサンジチオール、1,2−シクロヘキサンジチオール、2,2−ジメチルプロパン−1,3−ジチオール、3,4−ジメトキシブタン−1,2−ジチオール、2−メチルシクロヘキサン−2,3−ジチオール、1,1−ビス(メルカプトメチル)シクロヘキサン、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、エチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジエチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ジエチレングリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、1,2−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,3−ジメルカプトプロピルメチルエーテル、2,2−ビス(メルカプトメチル)−1,3−プロパンジチオール、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、ビス(2−メルカプトエチル)ジスルフィド、トリメチロールプロパンビス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパンビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、4,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオール、4,8−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオール、5,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオール等の脂肪族又は脂環を有するポリチオール化合物や、1,2−ジメルカプトベンゼン、1,3−ジメルカプトベンゼン、 1,4−ジメルカプトベンゼン、1,2−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3−トリメルカプトベンゼン、 1,2,4−トリメルカプトベンゼン、1,3,5−トリメルカプトベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、2,2’−ジメルカプトビフェニル、4,4’−ジメルカプトビフェニル、4,4’−ジメルカプトビベンジル、2,5−トルエンジチオール、3,4−トルエンジチオール、1,4−ナフタレンジチオール、1,5−ナフタレンジチオール、2,6−ナフタレンジチオール、2,7−ナフタレンジチオール、 2,4−ジメチルベンゼン−1,3−ジチオール、4,5−ジメチルベンゼン−1,3−ジチオール、9,10−アントラセンジメタンチオール、1,3−ジ(p−メトキシフェニル)プロパン−2,2−ジチオール、1,3−ジフェニルプロパン−2,2−ジチオール、フェニルメタン−1,1−ジチオール、2,4−ジ(p−メルカプトフェニル)ペンタン等の芳香族ポリチオールが挙げられる。
上記のうち、耐熱性及び得られるプラスチックレンズの外観性の観点から、ビス(2−メルカプトエチル)エーテル、ビス(2−メルカプトエチル)スルフィド、2,5−ビス(メルカプトメチル)−1,4−ジチアン、トリメチロールプロパンビス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパンビス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、4,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオール、4,8−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオール、5,7−ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオールが好ましい。
これらのポリチオール化合物は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物及び(B)ポリチオール化合物の配合割合は、(A)成分中のNCO基と(B)成分中のSH基とのモル比(NCO基/SH基)が0.5〜2.0の範囲であることが好ましく、0.95〜1.05の範囲であることがより好ましい。上記NCO基/SH基のモル比が1.0に近いほど、(A)成分と(B)成分との重合反応において未反応のNCO基及びSH基の残存率が低くなり、未反応基の少ないプラスチックレンズが得られるため好ましい。
【0018】
<(C)ベンゾトリアゾール系化合物>
本発明のプラスチックレンズに用いられる組成物には、得られるプラスチックレンズの耐候性向上の観点から、(C)下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール系化合物を必須成分として含有する。
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、Y1は水素原子又はハロゲン原子を表し、Y2及びY3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基、又は水酸基を表す。)
【0021】
一般式(1)中、Y1は水素原子又は塩素原子であることが好ましく、Y2はメチル基、tert−ブチル基、tert−アミル基、tert−オクチル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、又はオクトキシ基であることが望ましく、Y3は水素又はtert−ブチル基又はtert−アミル基であることが望ましい。
上記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール系化合物としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−エトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−アミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクチルオキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(ジメチルベンジル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−ドデシル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−{2’−ヒドロキシ−3’−ジメチルベンジル−5’−(1,1,3,3−テトラメチル)フェニル}ベンゾトリアゾール等が挙げられる。これらのベンゾトリアゾール系化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のうち、組成物中の(A)及び(B)成分への溶解性、及び外観性の観点から、2−(2’−ヒドロキシフェニル−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを用いることが好ましい。
【0022】
上記(C)ベンゾトリアゾール系化合物の含有量は、組成物中に含有される(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物及び(B)ポリチオール化合物の合計量100質量部に対して、0.5〜5.0質量部であり、好ましくは1.0〜1.5質量部である。(C)成分の含有量が0.5質量部未満であると、得られるプラスチックレンズは十分な耐候性が得られず、また5.0質量部を超えると組成物が白濁するか、著しく着色する場合がある。
【0023】
<(D)フェノール類>
本発明のプラスチックレンズに用いられる組成物において、前記(C)成分と(D)フェノール類とを必須成分とし、これらを併用することで、プラスチックレンズに十分な耐候性を付与することができる。
本発明に用いられるフェノール類としては、フェノール、クレゾール、エチルフェノール、イソプロピルフェノール、tert−ブチルフェノール、ヘキシルフェノール、シクロヘキシルフェノール、2−メトキシフェノール、4−メトキシフェノール、2,6−ジメチル−p−クレゾール、2,6−ジエチル−p−クレゾール、2,6−ジ−n−プロピル−p−クレゾール、2,6−ジイソプロピル−p−クレゾール、2,6−ジ−n−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジイソブチル−p−クレゾール、4−アリル−2−メトキシフェノール、2,4−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール等の置換フェノール類、ヒンダードフェノール類、カテコール、レゾルシン、ヒドロキノン、tert−ブチルカテコール、ピロガロール等の多価フェノール類、ビフェノール、ジメチルビフェノール等のビフェノール類、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、メチレン−ビス(メチル−tert−ブチルフェノール)、チオ−ビス(メチル−tert−ブチルフェノール)等のビスフェノール類、ナフトール、ジヒドロキシナフタレン等のナフトール類や、これらのハロゲン置換体等が挙げられる。
上記のうち、得られるプラスチックレンズの外観性の観点から、(D)フェノール類が、(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−アルキル)フェニル基を有するヒンダードフェノール類であることが好ましい。なお、上記アルキル基はメチル基又はtert−ブチル基であることが好ましい。
【0024】
上記の(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−アルキル)フェニル基を有するヒンダードフェノール類としては、例えば(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルメタン〔2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール〕、1,6−ヘキサメチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアミノ)−1,3,5−トリアジン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオナート]、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N−N'−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナムアミド)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジルホスフォネートジエチルエステル、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、イソオクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート等が挙げられる。
上記のうち、組成物中の(A)及び(B)成分への溶解性、及び、得られるプラスチックレンズの外観性の観点から、(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルメタン〔2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール〕を用いることが好ましい。
これらのフェノール類は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0025】
上記(D)フェノール類の含有量は、組成物中に含有される(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物及び(B)ポリチオール化合物の合計量100質量部に対して、0.5〜5.0質量部であり、好ましくは1.0〜1.5質量部である。(D)成分の含有量が0.5質量部未満であると、得られるプラスチックレンズは十分な耐候性が得られず、また5.0質量部を超えると、得られるプラスチックレンズの外観性を損なうか、もしくは組成物中への(D)フェノール類の溶解性等の問題を生じる場合がある。
【0026】
組成物中の上記(C)成分及び(D)成分の合計量は、外観性、溶解性、及び得られるプラスチックレンズの耐候性の観点から、(A)成分及び(B)成分の合計量100質量部に対し1.0〜10.0質量部の範囲であり、1.5〜5.0質量部の範囲であることが好ましい。
また、上記(C)成分と(D)成分の配合比は、外観性、溶解性、及び得られるプラスチックレンズの耐候性の観点から、1:9〜9:1であることが好ましく、3:7〜7:3であることがより好ましい。
【0027】
<その他の成分>
上記(A)〜(D)成分を含有する組成物は、必要に応じて、重合触媒、離型剤、架橋剤、光安定剤、着色防止剤、染料、粘度調整剤、重合調整剤等を含有していてもよい。
重合触媒としては、有機錫化合物が好ましく、例えば、ジブチル錫ジアセテ−ト、ジブチル錫ジラウレ−ト、ジブチル錫ジクロライド、ジメチル錫ジクロライド、モノメチル錫トリクロライド、トリメチル錫クロライド、トリブチル錫クロライド、トリブチル錫フロライド、ジメチル錫ジブロマイド等が挙げられる。これらの重合触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合触媒の配合割合は、(A)及び(B)成分の重合速度の観点から、(A)及び(B)成分の合計量100質量部に対し、0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0028】
離型剤としては、例えば酸性リン酸エステル類を内部添加する方法を用いることができ、イソプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、ジブトキシエチルアシッドホスフェート、ヘキシルアシッドホスフェート、ジヘキシルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、2−エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジ(2−エチルヘキシル)アシッドホスフェート、ノニルアシッドホスフェート、ジノニルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ジデシルアシッドホスフェート、ドデシルアシッドホスフェート、ジドデシルアシッドホスフェート、トリデシルアシッドホスフェート、ジ(トリデシル)アシッドホスフェート、テトラデシルアシッドホスフェート、ジ(テトラデシル)アシッドホスフェート、ヘキサデシルアシッドホスフェート、ジヘキサデシルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、ジテアリルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ジ(フェニル)アシッドホスフェート、プロピルフェニルアシッドホスフェート、ジ(プロピルフェニル)アシッドホスフェート、ブチルフェニルアシッドホスフェート、ジ(ブチルフェニル)アシッドホスフェート等のリン酸エステル、リン酸ジエステル化合物を用いることができる。これらの離型剤はポリウレタンの反応触媒作用を併せ持つものがあるため、芳香環を有するイソシアナート化合物及びポリチオール化合物の反応速度と離型作用、並びに組成物の透明性を考慮して選択する必要がある。
離型剤は単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
離型剤の配合割合は、離型作用、外観性、及び触媒作用の観点から、(A)及び(B)成分の合計量100質量部に対し、0.01〜1.00質量部であることが好ましい。
【0029】
[プラスチックレンズ]
本発明のプラスチックレンズは、必須成分として上記(A)〜(D)成分を含有する組成物を重合してなる。組成物中の各成分の混合順序や混合方法は、各成分を均一に混合することができれば特に限定されず、公知の方法で行うことができる。
組成物の重合は公知の方法で行えばよいが、プラスチックレンズの作製という観点から、注型重合を用いることが好ましい。注型重合は、例えば、上記(A)〜(D)成分、及び、必要に応じて添加されるその他の成分を混合して組成物を調製し、ガラス又は金属製のモールドと樹脂製のガスケットとを組み合わせたモールド型に注入し、加熱して重合を行う。重合条件は使用する(A)及び(B)成分の種類によって異なるが、例えば、重合温度は0〜150℃、重合時間は0.5〜72時間である。
【0030】
以上のようにして得られたプラスチックレンズは、優れた耐候性を有しており、例えば、眼鏡用レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズ等として有用である。
なお、プラスチックレンズの耐候性は、実施例に記載の方法で評価することができる。
【実施例】
【0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、プラスチックレンズの諸物性は、以下に示す方法により評価した。
【0032】
[実施例1〜5及び比較例1〜5]
(1)重合前の組成物の外観評価(透明性)
実施例及び比較例に記載の組成物を調合し、重合前のモノマー外観を比色管(50ml用)に50ml入れ、暗室、蛍光下にて透明性を評価した。組成物中の各成分が相溶し、透明なものを「合格」、組成物中にくもりや濁りがあるものや、(C)及び/又は(D)成分等の不溶解分があるものを「不合格」とした。
【0033】
(2)プラスチックレンズの外観(透明性)
実施例及び比較例に記載の方法で作製したプラスチックレンズの外観を目視観察し、曇りが見られないものを「合格」、曇りが見られるものを「不合格」評価とした。
【0034】
(3)プラスチックレンズの外観(初期着色)
実施例及び比較例に記載の方法で作製したD−000のプラスチックレンズ(ct2.0mm)において、株式会社村上色彩技術研究所製DOT−3CにてX、Y、Zを測定し、YI値を算出した。
【0035】
(4)プラスチックレンズの耐候性評価
実施例及び比較例に記載の方法で作製したD−000のプラスチックレンズ(ct2.0mm)に対し、SUGA試験機キセノンウェザーメータにて72時間照射を行った後、株式会社村上色彩技術研究所製DOT−3CにてX、Y、Zを測定し、YI値を算出した。照射後のYI値から照射前のYI値を差し引いてΔYI値を求め、このΔYI値が小さいものほど耐候性が良好であると評価した。
【0036】
(実施例1)
300mlナス型フラスコに、(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物である(A1)4,4’−メチレンビスフェニルビスイソシアナート(MDI)39.88gと、芳香環を有しないポリイソシアナート化合物である(A2)ヘキサメチレンジイソシアナート11.49gを仕込み、(C)ベンゾトリアゾール系化合物として(C1)2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール1.50g、(D)フェノール類として(D1)(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ)フェニルメタン〔2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール〕1.50g、離型剤としてブトキシエチルアシッドホスフェートとジブトキシエチルアシッドホスフェートの5:5(質量比)の混合物を0.10g、重合触媒として、ジメチル錫ジクロライド0.10gを添加し、窒素雰囲気下にて50℃で10分間撹拌し溶解させた。
次に、(B)ポリチオール化合物として(B1)2,5−ジメルカプトメチル−1,4−ジチアンを31.40g、及び(B2)ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)を17.23g配合し、30℃まで降温した後、0.5kPaで20分間減圧撹拌を行い、組成物1を調製した。
この組成物1を1.0μmのポリテトラフルオロエチレン・メンブランフィルターを用いて濾過した。これを中心厚2.0mmのD−000のレンズ型に注入し、初期温度30℃から最終温度120℃の温度プログラムにて24時間注型重合を行い、プラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0037】
(実施例2)
(C1)2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールの添加量を2.5gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0038】
(実施例3)
(C1)2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールの添加量を0.5gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0039】
(実施例4)
(D1)2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールの添加量を2.5gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0040】
(実施例5)
(D1)2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールの添加量を0.5gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0041】
(比較例1)
(C1)2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール及び(D1)2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0042】
(比較例2)
(C1)2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0043】
(比較例3)
(D1)2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールを添加しなかったこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0044】
(比較例4)
(C1)2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールの添加量を0.4g、(D1)2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールの添加量を0.4gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。
【0045】
(比較例5)
(C1)2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールの添加量を5.5g、(D1)2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールの添加量を5.5gとしたこと以外は、実施例1と同様の方法でプラスチックレンズを作製した。評価結果を表1に示す。なお、比較例5では、組成物中に(C1)成分を完全に溶解させることができなかった。
【0046】
【表1】

【0047】
表1より、実施例1〜5で得られたプラスチックレンズは、(C)及び/又は(D)成分を含有しない比較例1〜3、(C)及び(D)成分の含有量が本願発明の範囲外である比較例4で得られたプラスチックレンズに比べ、優れた外観性及び耐候性を有する。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明によれば、眼鏡用レンズ、カメラレンズ、プロジェクターレンズ、望遠鏡レンズ、拡大鏡レンズ等に好適に用いられる、耐候性に優れたプラスチックレンズを提供できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)芳香環を有するポリイソシアナート化合物を含有するポリイソシアナート化合物及び(B)ポリチオール化合物の合計量100質量部に対して、(C)下記一般式(1)で表されるベンゾトリアゾール系化合物0.5〜5.0質量部と(D)フェノール類0.5〜5.0質量部とを含有する組成物を重合してなるプラスチックレンズ。
【化1】


(式中、Y1は水素原子又はハロゲン原子を表し、Y2及びY3は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜8の炭化水素基、炭素数1〜8のアルコキシ基、又は水酸基を表す。)
【請求項2】
前記(A)成分中に含有される芳香環を有するポリイソシアナート化合物が、4,4’−メチレンビスフェニルビスイソシアナート、2,4’−メチレンビスフェニルビスイソシアナート、及びメチル−1,3−フェニレンジイソシアナートから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のプラスチックレンズ。
【請求項3】
前記(C)ベンゾトリアゾール系化合物が、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプラスチックレンズ。
【請求項4】
前記(D)フェノール類が、(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−アルキル)フェニル基を有するヒンダードフェノール類であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプラスチックレンズ。
【請求項5】
前記ヒンダードフェノール類が、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾールであることを特徴とする請求項4に記載のプラスチックレンズ。

【公開番号】特開2012−181268(P2012−181268A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42887(P2011−42887)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】