説明

プラスチックロッドレンズの製造方法および製造装置

【課題】均一な直径のプラスチックロッドレンズを、多錘処理によって効率よく安定的に製造することができるプラスチックロッドレンズの製造方法及び製造装置を提供すること。
【解決手段】本発明のプラスチックロッドレンズの製造方法は、複数の吐出口を有する紡糸ヘッド2のそれぞれの吐出口から未硬化ストランドファイバ4を引き上げるステップと、それぞれの吐出口から引き上げられてきた複数本の未硬化ストラントファイバをさらに引き上げながら硬化処理8するステップとを備え、引き上げステップ開始から硬化処理ステップ完了までの間、複数本の未硬化ストラントファイバが、鉛直方向に対し0.3度以内の角度で引き上げられる、ことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチックロッドレンズの製造方法および製造装置に関し、詳細には、紡糸ノズルから上方に向けて連続的に吐出された複数本のストラントファイバを硬化させ複数本のプラスチックロッドレンズ糸状体を同時に製造するプラスチックロッドレンズの製造方法および製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形状を有するプラスチックロッドレンズが知られている。このプラスチックロッドレンズは、複数本が並列配列した状態で接着固定されたロッドレンズアレイとし使用されることがある。
【0003】
このようなロッドレンズアレイは、例えば、複写機、ファクシミリ、スキャナ等で使用されるラインセンサ用の光学部品として、また、LEDプリンタで使用される書込みデバイス用の光学部品として広く用いられている。
【0004】
ここで、プラスチックロッドレンズは、ロッドレンズの材料である未硬化粘性材料を、複合紡糸ノズルから吐出させて糸状体(ストランドファイバ)を紡出し、紡出した糸状体を硬化させた後、所定の長さに切断することによって製造される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−142433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
直径にバラツキがあるロッドレンズを用いてでロッドレンズアレイを作製すると、ロッドレンズアレイの光学性能が悪化し、ロッドレンズアレイを用いた光学部品の解像度が低くなる。このため、ロッドレンズアレイの構成部品であるロッドレンズには、直径変動(直径のバラツキ)が少ないことが求められている。
さらに、近年では、ロッドレンズアレイに、より高い解像度が要求されているため、その構成部品であるロッドレンズの直径に対して、より高い均一性が求められている。
【0007】
ここで、プラスチックロッドレンズは、大量生産及び設備小型化等を実現するため、単一の紡糸ヘッドに設けられた複数の吐出口から同時に複数本の未硬化ストラントファイバを上方に向けて吐出させ、この複数本のストラントファイバを上方に向けて搬送しながら硬化させる多錘処理によって製造されるのが一般的である。
【0008】
しかしながら、このような多錘処理では、製造されたプラスチックロッドレンズの直径変動が、許容範囲を超えてしまう場合があるという問題あった。
【0009】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、均一な直径のプラスチックロッドレンズを、多錘処理によって効率よく安定的に製造することができるプラスチックロッドレンズの製造方法及び製造装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明の発明者は、種々の実験及び検討を重ねた結果、多錘処理によるプラスチックロッドの製造過程おいては、単一の紡糸ヘッドの異なる位置に配置された複数の吐出口から複数本の未硬化ストラントファイバが吐出され、これら複数本の未硬化ストラントファイバが上方に設けられた1台の引き取りロールによって上方に向けて搬送されながら拡散処理及び硬化処理が行われているため、未硬化ストラントファイバ毎に搬送中の傾斜角が異なり、この傾斜角が所定値より大きくなると、硬化後のプラスチックロッドレンズ糸状体の直径変動が許容範囲を超えてしまうことを見出した。
本発明はこの知見に基づいてなされたものである。
【0011】
本発明によれば、
プラスチックロッドレンズの製造方法であって、
複数の吐出口を有する紡糸ヘッドのそれぞれの吐出口から未硬化ストランドファイバを引き上げるステップと、
前記それぞれの吐出口から引き上げられてきた複数本の未硬化ストラントファイバをさらに引き上げながら硬化処理するステップとを備え、
前記引き上げステップ開始から硬化処理ステップ完了までの間、前記複数本の未硬化ストラントファイバが、鉛直方向に対し0.3度以内の角度で引き上げられる、
ことを特徴とするプラスチックロッドレンズの製造方法が提供される。
【0012】
このような構成によれば、流動性が残存する未硬化ストランドファイバに対し、重力が円周方向において略均一に作用するため、直径変動を抑制することができる。
【0013】
本発明の他の好ましい態様によれば、
前記硬化処理を行う硬化手段の上方に、前記硬化処理を終えた複数本のストラントファイバが通過する孔を備えた治具が配置され、
前記硬化処理ステップを終えた複数本のストラントファイバが、前記孔を通過させられることにより、前記引き上げステップ開始から硬化処理ステップ完了までの間、鉛直方向に対し0.3度以内の角度で引き上げられる。
【0014】
本発明の他の態様によれば、
プラスチックロッドレンズの製造装置であって、
複数の吐出口を有しそれぞれの吐出口から未硬化ストランドファイバを上方に向けて連続的に吐出する紡糸ヘッドと、
前記紡糸ヘッドの上方に配置され、前記複数の吐出口のそれぞれから上方に向けて連続的に吐出された複数本の未硬化ストラントファイバを上方に向かって搬送させながら硬化させプラスチックロッドレンズ糸状体とする硬化装置と、
前記硬化装置に対し前記未硬化ストラントファイバおよびプラスチックロッドレンズ糸状体の搬送方向下流側に配置され、前記プラスチックロッドレンズ糸状体を連続的に搬送することにより、前記紡糸ヘッドのそれぞれの吐出口から吐出された複数本の未硬化ストランドファイバを前記硬化装置内で上方に向けて搬送する搬送装置と、
前記硬化装置と搬送装置の間に配置され、前記プラスチックロッドレンズ糸状体に接触することにより、前記複数の吐出口から吐出された前記未硬化ストラントファイバのそれぞれが、前記硬化装置での硬化が完了するまでの間、鉛直方向に対し0.3度以内の角度で上方に向けて搬送させられるようにする搬送角度調整装置と、備えている、
ことを特徴とするプラスチックロッドレンズの製造装置が提供される。
【0015】
このような構成によれば、1台の搬送装置(例えば巻き取りロール)で複数本のストランドファイバ(プラスチックロッドレンズ糸状体)を搬送ることができるので、均一な糸径のロッドレンズを安価で効率よく安定的に製造することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、均一な直径のプラスチックロッドレンズを、多錘処理によって効率よく安定的に製造することができるプラスチックロッドレンズの製造方法及び製造装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好ましい実施形態のプラスチックロッドレンズ製造装置の模式的な図面である。
【図2】複合紡糸ノズルと複合紡糸ノズルから吐出された未硬化ストラントファイバとの断面構造を模式的に示す図面である。
【図3】拡散工程前の未硬化ストラントファイバ内の屈折率分布を模式的に示すグラフである。
【図4】拡散工程後の未硬化ストラントファイバ内の屈折率分布を模式的に示すグラフである。
【図5】硬化処理部の下流に冶具を設置した状態における未硬化ストラントファイバおよびプラスチックロッドレンズ糸状体を模式的に示す図である。
【図6】冶具の変形例を示す斜視図である。
【図7】冶具の他の変形例を示す斜視図である。
【図8】紡糸ヘッドに断熱材を配置した状態を示す模式的な断面図である。
【図9】実施例1で製造されたプラスチックロッドレンズの糸径の変動を示すグラフである。
【図10】実施例2で製造されたプラスチックロッドレンズの糸径の変動を示すグラフである。
【図11】比較例において製造されたプラスチックロッドレンズの糸径の変動を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に沿って本発明の好ましい実施形態について説明する。
図1は、本発明の好ましい実施形態であり且つ本発明の好ましい実施形態のプラスチックロッドレンズ製造方法を実施するプラスチックロッドレンズ製造装置の構成を示す模式的な図面である。
【0019】
図1に示されているように、本発明のプラスチックロッドレンズ製造装置(紡糸装置)1は、下部に設けられた紡糸ヘッド2を備え、さらに、紡糸ヘッド2から吐出された未硬化ストラントファイバ4の上方に向かう搬送経路に沿って、相互拡散部6,硬化処理部8(硬化装置)、第1ニップローラ10(搬送装置)を備えている。
【0020】
プラスチックロッドレンズ製造装置1では、紡糸ヘッド2から吐出された未硬化ストラントファイバ4は、相互拡散部6において、内部で隣接する異種粘性材料間での相互拡散が行われた後、硬化処理部8で硬化されてプラスチックロッドレンズ糸状体12となる。
【0021】
尚、本実施形態のプラスチックロッドレンズ製造装置1では、後述するように、紡糸ヘッドから4本の未硬化ストラントファイバ4が同時に吐出され、これら4本の未硬化ストラントファイバ4が、相互拡散部6、硬化処理部8を通して搬送され、4本のプラスチックロッドレンズ糸状体となるように構成されている。
【0022】
第1ニップローラ10は、これらプラスチックロッドレンズ糸状体12を挟持して搬送することにより、紡糸ヘッド2から吐出された4本の未硬化ストラントファイバ4を、拡散処理部6、硬化処理部8を通して上方に搬送する機能を備えている。
【0023】
また、第1ニップローラ10は4本のプラスチックロッドレンズ糸条体12を、下流方向に搬送する機能も備え、第1ニップローラ10によって下流側に搬送された4本のプラスチックロッドレンズ糸条体12は、切断装置14によって、所定長のプラスチックロッドレンズ材16に切断される。
【0024】
本実施形態では、紡糸ヘッド2は、4つの複合紡糸ノズル18を備え、同時に、4本の未硬化ストラントファイバ4を吐出できるように構成されている。尚、4つの複合紡糸ノズル18は、同一円周上に互いに90度の角度間隔で配置されている(図5)。
【0025】
プラスチックロッドレンズ製造装置1では、各複合紡糸ノズル18に、5台の混練ユニット(20、22、24、26、28)のそれぞれで混練され硬化後に互いに異なる屈折率を示す5種類の未硬化粘性材料(R1、R2、R3、R4、R5)が供給されるように構成されている。
【0026】
図2は、複合紡糸ノズル18と複合紡糸ノズル18から吐出された未硬化ストラントファイバ4の断面構造を模式的に示す図面である。
【0027】
図2に示されているように、複合紡糸ノズル18からは、従来技術の複合紡糸ノズルと同様に、5種類の未硬化粘性材料(R1、R2、R3、R4、R5)が、同心円状に5重に積層して吐出(賦形)される。
5種類の未硬化粘性材料(R1、R2、R3、R4、R5)は、硬化後の屈折率n1、n2、n3、n4、n5が、n1>n2>n3>n4>n5の関係を有するので、複合紡糸ノズル18から吐出された未硬化ストラントファイバ4では、硬化後の屈折率が中心から外側に向かって順次に低くなる。
【0028】
なお、5種類の未硬化粘性材料(R1、R2、R3、R4、R5)による同心状の各層の厚みは、レンズ性能の発現が可能な条件になるように設定される。
【0029】
また、未硬化粘性材料の吐出時の粘度は、102〜107Pa・sの範囲内が好ましい。粘度が小さすぎると、賦形の際に、糸切れが生じ易くなり、糸状体の形成が困難となる。また、粘度が大きすぎると、賦形時の操作性が不良となり、各層の同心同円が損なわれたり、太さ斑の大きな糸状体となり易く好ましくない。賦形時の温度は、0℃〜150℃の範囲内が好ましい。
【0030】
未硬化粘性材料は、未硬化ストラントファイバを生成する際の粘度調整を容易にし、糸状体の中心で極大であり、外周へ向かって連続的に低下する屈折率分布を与えるために、ラジカル重合性ビニル単量体と、この単量体に可溶な可溶性ポリマーとを主な組成とするのが好ましい。
【0031】
ラジカル重合性ビニル単量体としては、例えば、メチルメタクリレート(n=1.49)、スチレン(n=1.59)、クロルスチレン(n=1.61)、酢酸ビニル(n=1.47)、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、2,2,3,4,4,4-ヘキサフルオロプチル(メタ)アクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート等のフッ素化アルキル(メタ)アクリレート(n=1.37〜1.44)、屈折率1.43〜1.62の(メタ)アクリレート類たとえばエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、脂環式(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキレングリコール(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ又はトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ、トリ又はテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられ、その他にもジエチレングリコールビスアリルカーボネイト、フッ素化アルキレングリコールポリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0032】
可溶性ポリマーは、上記のラジカル重合性ビニル単量体から生成するポリマーと相溶性が良いものが望ましい。そのような可溶性ポリマーとしては、例えばポリメチルメタクリレート(n=1.49)、ポリメチルメタクリレート系共重合体(n=1.47〜1.50)、ポリ4−メチルペンテン−1(n=1.46)、エチレン/酢酸ビニル共重合体(n=1.46〜1.50)、ポリカーボネート(n=1.50〜1.57)、ポリフッ化ビニリデン(n=1.42)、フッ化ンビニリデン/テトラフルオロエチレン共重合体(n=1.42〜1.46)、フッ化ビニリデン/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロペン共重合体(n=1.40〜1.46)、フッ化アルキル(メタ)アクリレート系重合体が挙げられる。
【0033】
また、各層に同一の屈折率を有する可溶性ポリマーを用いれば、未硬化粘性材料の粘度を調整し、中心から外側に向って連続的な屈折率分布を有するプラスチックロッドレンズが得られるので好ましい。特に、ポリメチルメタクリレートは、透明性に優れ、屈折率も高いので、屈折率分布型のプラスチックロッドレンズの材料として好ましい。
【0034】
さらに、未硬化粘性材料には、賦形した糸状体を硬化処理部で、硬化させるために、熱硬化触媒、又は光硬化触媒が添加されている。また、熱硬化触媒と光硬化触媒の両方を未硬化粘性材料に添加しておいてもよい。
本実施形態では、紫外線により粘性材料を硬化させるため光硬化触媒が添加されている。
【0035】
熱硬化触媒としては、例えば、通常パーオキサイト系又はアゾ系の触媒が挙げられる。
【0036】
光硬化触媒としては、例えば、ベンゾフェノン、ベンゾインアルキルエーテル、4'-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンジルメチルケタール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、クロロチオキサントン、チオキサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、N−メチルジエタノールアミン、又は、トリエチルアミン等が挙げられる。
【0037】
また、本発明においては、フレア光やクロストーク光を除去してレンズ性能を高めるために、屈折率分布の不整な外周部付近に、可視光および近赤外光の領域のうち少なくとも一部の波長域の光を吸収する光吸収剤を含有する光吸収剤含有層を形成させても良い。
【0038】
光吸収剤としては、ロッドレンズが用いられる光学系で使用される波長の光を吸収し得る種々の染料や顔料、色素が使用できる。これらの光吸収剤は、特定波長域のみを吸収する光吸収剤であって、吸収する波長がそれぞれ異なる光吸収剤を2種以上組み合わせて用いてもよい。例えばレンズアレイとしてカラースキャナに用いる場合には、RGB各波長の光を吸収する染料を組み合わせて用いることができる。また、本発明における光吸収剤としては、上記のように可視光(400nm〜700nm程度)および近赤外(700nm〜1000nm程度)のうち特定波長域のみを吸収するものを用いてもよいし、全波長域を吸収するものを用いてもよい。可視光領域の全ての光を吸収する層を形成する場合は、複数種の光吸収剤を混合して黒色としたものや、カーボンブラックやグラファイトカーボン等の黒色の光吸収剤を用いることができる。
【0039】
また、光吸収剤は、光吸収剤含有層においてほぼ均一に存在し、できるだけ均一に存在していることが好ましい。その際、光吸収剤含有層を構成する高分子中に光吸収剤分子が均一に分散あるいは結合されていることが好ましい。また、光吸収剤の光吸収剤含有層における含有量は、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜1質量%がより好ましい。
【0040】
相互拡散部6では、未硬化ストラントファイバ4内の隣接する未硬化粘性材料(R1、R2、R3、R4、R5)間で、主に単量体成分をUV照射により相互に拡散させ、未硬化ストラントファイバ4内における屈折率分布を、図3に示されている階段状の分布から、図4に示されているような連続的に分布にする。
【0041】
本実施形態のプラスチックロッドレンズ製造装置1は、相互拡散部6内に第1UV照射装置30が設けられ、相互拡散部6内を通過する未硬化ストラントファイバ4に対して、弱い紫外線を照射するように構成されている。
【0042】
硬化処理部8には、内部を通過する未硬化ストラントファイバ4に紫外線を照射し、未硬化ストラントファイバ4内の粘性材料(R1、R2、R3、R4、R5)を硬化させるために、第2UV照射装置32が設けられている。
【0043】
第2UV照射装置32の光源としては、150〜600nmの波長の光を発生する炭素アーク灯、高圧水銀灯、中圧水銀灯、低圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、キセノンランプ又はレーザ等が好ましい。
【0044】
なお、未硬化粘性材料に熱硬化触媒を添加しておき、熱処理により、糸状体を硬化させる場合、硬化処理部を一定の温度に制御された加熱炉等とし、未硬化ストラントファイバ4を所定時間加熱するのがよい。
【0045】
また、未硬化粘性材料に、光硬化触媒と熱硬化触媒の両方を添加しておき、熱処理と光硬化処理の両方を行って、未硬化ストラントファイバを硬化させる構成でもよい。
【0046】
本実施形態では、第1ニップローラ10の下流に第2ニップローラ34を設けられ、所定の温度条件下で、第1ニップローラ10と第2ニップローラ34の周速度比を制御してプラスチックロッドレンズ糸状体に延伸処理が行われる。
【0047】
延伸処理は、硬化処理に引き続いて行われても、硬化させたプラスチックロッドレンズ糸状体を巻き取り部に一旦巻き取った後に行ってもよい。
【0048】
また、延伸処理を行った糸状体に、必要に応じて緩和処理を行ってもよい。緩和処理は、例えば、第2ニップローラ34の下流に設けた第3ニップローラ(図示せず)を設け、第2ニップローラ34と第3ニップローラの周速度を同じにして、あるいは第3ニップローラの周速度を少し遅めに設定して行う。
緩和処理は、延伸処理に引き続いて行ってもよいし、延伸処理したプラスチックロッドレンズ糸状体を巻き取り部に一旦巻き取った後に行ってもよい。
【0049】
図5に示されているように、本実施形態のプラスチックロッドレンズ製造装置1では、硬化処理部8と第1ニップローラ10との間に、複合紡糸ノズルの数(即ち、多錘処理により同時に製造されるプラスチックロッドレンズ糸状体12の本数)に対応する数の孔36が形成された板状の治具(搬送角度調整装置)38が設けられている。
【0050】
治具38は、各孔36にプラスチックロッドレンズ糸状体12が1本づつ挿通されるように構成されている。
治具38は、孔36に挿通されたプラスチックロッドレンズ糸状体12に接触し、複合紡糸ノズル18から吐出された4本の未硬化ストラントファイバ4のそれぞれが、硬化処理部8での硬化が完了するまでの間、鉛直方向に対し0.3度以内の角度で上方に向かって搬送されるように配向するように構成されている。
【0051】
未硬化ストラントファイバ4の搬送方向は、鉛直方向に対する角度αは±0.3度以内が好ましく、±0.1度以内がさらに好ましい。角度αを±0.3度より大きく引き上げると、未硬化ストラントファイバの自重が円周方向に均一に荷重がかからず糸径変動が増大するため好ましくない。
【0052】
本実施形態では、治具38は、同一円周状に略等しい角度間隔で孔36が形成された板体であるが、外周面に周方向に延びる未硬化ストラントファイバ収容溝Gが形成され水平軸線を中心に回転可能な円盤状のガイドロール36’(図6)、未硬化ストラントファイバ挿通用の貫通孔Hが上下方向に延びるように形成されたセラミック製ガイド36”(図7)、その他の、糸状体の変形やキズがつきにくい構造でもよい。さらに、このような冶具を糸状体の個数設置し垂直に引き上げる構成でもよい。
【0053】
糸状体を通過させる冶具38の孔36の径は、プラスチックロッドレンズ12の直径より少し大きめに設定されている。孔36の径が大きすぎるとプラスチックロッドレンズ12の引上げ角度が変化し所定の角度が保てなくなり、孔36の径が小さすぎると、プラスチックロッドレンズ12の直径が外乱で大きく変動した場合、詰まり、糸切れを起こしてしまう可能性があるためである。
また、孔36の開口端は、プラスチックロッドレンズ12を変形させたり、キズ付けたりすることがないように、面取り加工が施されていることが好ましい。
【0054】
また、冶具を用いず硬化処理工程後まで糸状体の鉛直角度が小さくなる構造であればどのような構成でもよい。
【0055】
図8は、紡糸ヘッド2及び相互拡散処理部6の模式的な断面図である。図8に示されているように、本実施形態では、紡糸ヘッド2は、周囲が断熱材40で覆われている。
さらに、本実施形態では、複合紡糸ノズル18は紡糸ヘッド2に付属したの温度調節器(図示せず)で温調され、さらに、複合紡糸ノズル18から紡出された糸状体4周辺の温度は、糸状体4から遊離する揮発性物質を除去するための導入される不活性ガスの温度を調整することにより一定に保たれている。
【0056】
プラスチックロッドレンズの製造過程では、周囲の温度変動や、導入される不活性ガスと紡糸ヘッド2との温度差、その他の温度差等の影響で、レンズの径変動がおこりやすいが、図8のように断熱材40を配置することで、紡糸ヘッド2の吐出部と吐出口と相互拡散処理部6との温度差が減少し、この部分の温度差に起因するプラスチックロッドレンズの径変動を抑制することができる。
【実施例1】
【0057】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
実施例1では、糸状体の第1層目〜第5層目に積層する未硬化粘性材料として、以下の組成のものを使用した。
【0058】
第1層目の未硬化粘性材料の組成は、ポリメチルメタクリレート(粘性率η=0.40、MEK(メチルエチルケトン)中、25℃にて測定、以下、実施例及び比較例におけるポリメチルメタクリレートはこれと同じ。)47質量部、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルメタクリレート30質量部、メチルメタクリレート23質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びハイドロキノン0.1質量部である。
【0059】
第2層目の未硬化粘性材料の組成は、ポリメチルメタクリレート50質量部、メチルメタクリレート40質量部、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニルメタクリレート10質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びハイドロキノン0.1質量部である。
【0060】
第3層目の未硬化粘性材料の組成は、ポリメチルメタクリレート50質量部、メチルメタクリレート40質量部、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート10質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びハイドロキノン0.1質量部である。
【0061】
第4層目の未硬化粘性材料の組成は、ポリメチルメタクリレート50質量部、メチルメタクリレート40質量部、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート10質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びハイドロキノン0.1質量部である。
【0062】
第5層目の未硬化粘性材料の組成は、ポリメチルメタクリレート42質量部、メチルメタクリレート18質量部、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート40質量部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.25質量部及びハイドロキノン0.1質量部である。
【0063】
なお、クロストーク光やフレア光を抑制する目的で、加熱混練前の第4層及び第5層用の各原液中に原液全体に対して染料Blue ACR(日本化薬(株)製、最大吸収波長576,616nm)0.12質量%、染料MS Yellow HD−180(三井東圧染料(株)製、最大吸収波長433nm)0.10質量%、染料MS Magenta HM−1450(三井東圧染料(株)製、最大吸収波長520nm)0.08質量%を添加した。
そして、これらの未硬化粘性材料を、それぞれ70℃の温度で予備攪拌し、その後、40℃の温度に冷却して保管した。
【0064】
次に、未硬化粘性材料を、混練ユニットに投入し紡糸装置2へ送りロッドレンズを連続生産した。
紡糸装置では、5種類の未硬化粘性材料を4つの複合紡糸ノズルから同時に押し出した。本実施例では、複合紡糸ノズルの温度を50℃とし、各層の半径比を、ロッドレンズの半径方向の各層の厚さ(1層目は半径)の比に換算して、1層目/2層目/3層目/4層目/5層目=18/50/29/2/1とした。
【0065】
次いで、4つの複合紡糸ノズル18から押し出された糸状体を、第一ニップローラで引き取り(300cm/分)、長さ55cmの相互拡散処理部6を通し、続いて長さ120cm、40Wのケミカルランプ18本が中心軸の周囲に等間隔に配設された第1硬化処理部(第1光照射部)、更に2KW高圧水銀灯3本が中心軸の周囲に等間隔に配設された第2硬化処理部(第2光照射部)に糸状体4を通過させて硬化させた。このとき硬化処理上部に冶具38を設置し、複合紡糸ノズル18の吐出口より糸状体4が鉛直方向に対して0.3度の角度にて引き上げた。相互拡散処理部における窒素流量は72L/分であった。得られたレンズ原糸の半径は0.30mmであった。
【0066】
このようにして、ロッドレンズを連続して生産し、糸径変動を測定した。
糸径変動の測定結果を図9に示す。グラフの横軸は、連続生産開始からの経過時間を表し、縦軸は、糸径の偏差を表す。図9に示すように、連続生産したロッドレンズの糸径の変動幅は、±1.5μm以内であった。
【実施例2】
【0067】
次に、実施例2について説明する。
実施例2では、紡糸ヘッド及び相互拡散処理工程に断熱材を配置した点以外は、実施例1と全く同じようにしてロッドレンズを製造した。
そして、実施例2についても、上記の実施例と同一方法で、ロッドレンズを連続して生産し、糸径変動を測定した。
【0068】
糸径変動の測定結果を図10に示す。グラフの横軸は、連続生産開始からの経過時間を表し、縦軸は、糸径の偏差を表す。図8に示すように、連続生産したロッドレンズの糸径の変動幅は、±1.0μm以内であった。
【0069】
[比較例]
次に、比較例について説明する。
比較例では、このとき硬化処理上部に冶具を設置しない点を除き、実施例1と全く同じようにしてロッドレンズを製造した。このときの複合紡糸ノズル18の吐出口より糸状体4が引き上げられた角度は鉛直方向0.5度であった。
【0070】
そして、比較例についても、上記の実施例と同一方法で、ロッドレンズを連続して生産し、糸径変動を測定した。
糸径変動の測定結果を図11に示す。グラフの横軸は、連続生産開始からの経過時間を表し、縦軸は、糸径の偏差を表す。図11に示すように、連続生産したロッドレンズの糸径の変動幅は、±3.0μm以内であった。
【0071】
このように、複合紡糸ノズルの吐出口より糸状体4が引き上げられる角度を鉛直方向±0.3度以内にし、紡糸ヘッド及び相互拡散処理工程に断熱材を配置することによって均一な糸径のロッドレンズを安価で効率よく安定的に製造することができる。
【符号の説明】
【0072】
1:プラスチックロッドレンズ製造装置(紡糸装置)
2:紡糸ヘッド
4:未硬化ストラントファイバ
6:相互拡散部
8:硬化処理部
10:第1ニップローラ
12:プラスチックロッドレンズ糸状体
14:切断装置
16:プラスチックロッドレンズ材
20、22、24、26、28:混練ユニット
38:治具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチックロッドレンズの製造方法であって、
複数の吐出口を有する紡糸ヘッドのそれぞれの吐出口から未硬化ストランドファイバを引き上げるステップと、
前記それぞれの吐出口から引き上げられてきた複数本の未硬化ストラントファイバをさらに引き上げながら硬化処理するステップとを備え、
前記引き上げステップ開始から硬化処理ステップ完了までの間、前記複数本の未硬化ストラントファイバが、鉛直方向に対し0.3度以内の角度で引き上げられる、
ことを特徴とするプラスチックロッドレンズの製造方法。
【請求項2】
前記硬化処理を行う硬化手段の上方に、前記硬化処理を終えた複数本のストラントファイバが通過する孔を備えた治具が配置され、
前記硬化処理ステップを終えた複数本のストラントファイバが、前記孔を通過させられることにより、前記引き上げステップ開始から硬化処理ステップ完了までの間、鉛直方向に対し0.3度以内の角度で引き上げられる、
請求項1に記載のプラスチックロッドレンズの製造方法。
【請求項3】
プラスチックロッドレンズの製造装置であって、
複数の吐出口を有しそれぞれの吐出口から未硬化ストランドファイバを上方に向けて連続的に吐出する紡糸ヘッドと、
前記紡糸ヘッドの上方に配置され、前記複数の吐出口のそれぞれから上方に向けて連続的に吐出された複数本の未硬化ストラントファイバを上方に向かって搬送させながら硬化させプラスチックロッドレンズ糸状体とする硬化装置と、
前記硬化装置に対し前記未硬化ストラントファイバおよびプラスチックロッドレンズ糸状体の搬送方向下流側に配置され、前記プラスチックロッドレンズ糸状体を連続的に搬送することにより、前記紡糸ヘッドのそれぞれの吐出口から吐出された複数本の未硬化ストランドファイバを前記硬化装置内で上方に向けて搬送する搬送装置と、
前記硬化装置と搬送装置の間に配置され、前記プラスチックロッドレンズ糸状体に接触することにより、前記複数の吐出口から吐出された前記未硬化ストラントファイバのそれぞれが、前記硬化装置での硬化が完了するまでの間、鉛直方向に対し0.3度以内の角度で上方に向けて搬送させられるようにする搬送角度調整装置と、備えている、
ことを特徴とするプラスチックロッドレンズの製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−64966(P2011−64966A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−215953(P2009−215953)
【出願日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】