説明

プラスチック光ファイバ素線の製造方法及びプラスチック光ファイバ素線、並びに光伝送体。

【課題】低伝送損失を実現するプラスチック光ファイバ素線を製造する。
【解決手段】複数の重合体層が積層してなる第1部材17と、円筒状の第2部材19とを別々に形成する。第1部材17を第2部材19の中に挿入した後、更に円筒状の第3部材21と組合せてプリフォーム12とする。第1部材形成工程18では、第1部材17の最内層の配向度S1と最外層の配向度S2との差が0以上0.2未満となるように第1部材17を形成する。第1部材形成工程18では、少なくとも1種類以上の重合性組成物と、チオール基を有する連鎖移動剤とを含む層形成材料を中空管の中に注入し、重合させる工程を繰り返し行なって第1部材17とする。プリフォーム12を加熱延伸すると、加熱による熱収縮が抑制された低伝送損失のPOF11を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラスチック光ファイバ素線の製造方法及びプラスチック光ファイバ素線、並びに光伝送体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
情報通信ネットワークの高速化や大容量化を受け、高伝送容量及び大幅な高速通信を実現することができる光伝送体として、プラスチック光ファイバ素線(Plastic Optical Fiber;POF)が注目されている。POFは、重合体層からなり、光を伝播するコアと、コアの外周に配され光をコアに閉じ込めるクラッドとからなる。また、POFは、径の外側から中心に向かうに従って変化する屈折率分布を有し、コアに向かって所定の角度で光を入射して、屈折率の異なる界面で光を全反射させることにより繰り返し反射させながら光を伝播させる光伝送体である。
【0003】
上記の屈折率分布の違いにより、POFはステップインデックス型(以下、SI型と称する)、グレーデッドインデックス型(以下、GI型と称する)等に分類される。中でも、GI型POFは、径の外側から中心に向かうにしたがい次第に屈折率が高くなるPOFであり、光信号の出力時間に差異が生じにくい。これにより大容量化が可能であることから、光伝送体として非常に注目されている。
【0004】
一般に、GI型POFをはじめとするPOFは、コア及びクラッドの前駆体であるコア部とクラッド部とを有する光ファイバ母材(プリフォーム)を作製した後、このプリフォームを加熱延伸させることにより作製することができる。ただし、POFは、重合性組成物を重合させて形成した重合体層より構成されるため、重合体層における微小な密度や組成の不ぞろいによって生じる光のレイリー散乱や構造の乱れにより、光の伝送損失であるレイリー散乱損失や構造不整損失等が発生する。そこで、低伝送損失のPOFを製造する方法の提案として、1種類あるいは複数種類のモノマーに、所定の範囲で添加量を調整しながら連鎖移動剤や重合開始剤を添加して複数の重合体層を形成するとき、各重合体層でのTgの差が所定の範囲を満たすようにしてプリフォームを形成した後、このプリフォームを加熱延伸することによりPOFを製造する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平10−245410号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記のように連鎖移動剤や重合開始剤の添加量を調整してプリフォームを作製しても、プリフォームを加熱延伸する場合、プリフォームの中心部よりも外周部の方がより加熱されるので、外周部に比べて熱のかかりにくいプリフォームの中心部が延伸によって配向する。このようにして得られたPOFは、高温環境下において配向の緩和によりコアの中心が優先的に収縮してしまうので、光導波路構造の不整を引き起こし光損失が悪化する恐れがある。
【0006】
したがって、本発明は、複数の重合体層からなるプリフォームが加熱延伸される際に、熱のかかりにくいプリフォームの中心部の配向を抑制することで、得られたPOFの断面方向での不均一な熱収縮を抑制し、低伝送損失のPOFを製造することができる方法の提供を目的とする。また、このPOFを使用して光学特性に優れた光伝送体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプラスチック光ファイバ素線(POF)の製造方法は、複数の重合体層からなるコア部とコア部の外周に配されるクラッド部とを有するプリフォームを加熱延伸することにより、プラスチック光ファイバ素線を製造する方法において、コア部の最内層の配向度S1と最外層の配向度S2との差が、0以上0.2未満となるようにコア部の分子量を調整して形成するコア部形成工程を有することを特徴とする。
【0008】
また、コア部形成工程では、少なくとも1種類以上の重合性組成物と、チオール基を有する連鎖移動剤とを含む層形成材料を中空管の中に注入し、これを加熱重合させて重合体層を形成する工程を繰り返し行うことで、中空管の内側に重合体層を同心円状に積層させた複層構造の前記コア部を形成し、重合体層におけるチオール基を含む連鎖移動剤の添加量を調整することにより重合体層の分子量を調整することが好ましい。
【0009】
また、コア部形成工程では、径の外側から中心に向かうにしたがい、層形成材料に含ませる高屈折率の重合性組成物の割合を高くすることが好ましい。さらに、コア部形成工程では、径の外側から中心に向かうにしたがい、層形成材料に含ませるチオール基を含む連鎖移動剤の割合を高くすることが好ましい。
【0010】
また、コア部の最内層と最外層とのチオール基を含む割合の差が、0.001mol%以上0.5mol%以下となるように形成されることが好ましい。なお、プリフォームを加熱延伸する際には、温度の異なる余熱区間と加熱区間とを連続して設けた加熱装置を用いることが好ましい。
【0011】
本発明のPOFは、上記いずれかひとつの製造方法により製造されたことを特徴とし、このPOFを用いて形成されることを特徴とする光伝送体を含む。なお、光伝送体は、パッチコードであることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、複数の重合体層からなるプリフォームが熱収縮することを抑制しながら加熱延伸して、低伝送損失のPOFを製造することができる。また、このPOFを使用することで、パッチコードを代表とする光学特性に優れた光伝送体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について実施形態を示しながら説明する。ただし、本発明は、ここに示す形態に限定されるものではない。
【0014】
図1に、本発明に係わるプラスチック光ファイバ素線(以下、POFと称する)の製造工程を示す。POF製造工程10は、POF11の前駆体であるプリフォーム12を形成するプリフォーム形成工程14と、プリフォーム12を加熱延伸してPOF11とする加熱延伸工程15とを有する。
【0015】
本発明では、コアと、その外周に配されるクラッドとを少なくとも有するPOF11を製造する。また、このクラッドは、コアのすぐ外側に配される外殻部として配される。したがって、プリフォーム形成工程14は、第1部材17を形成する第1部材形成工程18と、第2部材19を形成する第2部材形成工程20と、さらに、第2部材19の外周に配される部材の第3部材21を形成する第3部材形成工程22と、各部材を組合せてプリフォーム12とする組合せ工程24とを有する。なお、第1部材17はコアの前駆体であるコア部であり、第2部材19はクラッドの前駆体であるクラッド部を含む部材である。
【0016】
第1部材形成工程18では、複数の重合体層を同心円状に積層させた複層構造の第1部材17を形成する。なお、第1部材形成工程18の詳細は、後ほど、図3を示して説明する。
【0017】
第2部材形成工程20では、円筒状の第2部材19を形成する。本実施形態では、市販の溶融押出成形機で重合性組成物を溶融押出して、所望の径の第2部材19を形成する。また、第3部材形成工程22では、円筒状の第3部材21を形成する。なお、第3部材形成工程22は、第2部材形成工程20と同様の方法で行なえばよい。上記のように、第2部材19及び第3部材21(以下、これらを総称して外殻部とする)は、所望の重合性組成物を加熱重合させることで形成される重合体である。本発明において外殻部を形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、予め用意したパイプの中に所望の重合性組成物を注入した後、重合させることで、パイプの内側に円筒状の重合体を形成して、このパイプを除いた重合体のみを外殻部とする方法が挙げられる。
【0018】
なお、第2部材19の内径が第1部材17の外径よりも大きくなるように形成することが好ましく、第3部材21の内径が第2部材19の外径よりも大きくなるように形成することが好ましい。これにより、次の組合せ工程24では、外気温による膨張などの影響を受けることなく簡易に各部材を組合せることができるので、作業性が向上する。加えて、互いに接触させることなく各部材を組合せることができるので、各部材同士の界面に発生したキズによる伝送損失が発生しない。このようにして形成されるプリフォーム12からは、低伝送損失のPOF11を得ることができる。
【0019】
組合せ工程24は、第1組合せ工程24aと第2組合せ工程24bとを有している。組合せ工程24では、先ず、第1組合せ工程24aにおいて、第2部材19の中に第1部材17を挿入する。次に、第2組み合わせ工程24bにおいて、先ほど組合せた部材を第3部材21の中に挿入する。これにより、第3部材21の内側に第2部材19を配し、さらに、その内側に第1部材17を配したプリフォーム12を形成することができる。
【0020】
本発明では、加熱延伸工程15において、プリフォーム12を加熱延伸する場合、温度の異なる余熱区間と加熱区間とを連続して設けた加熱装置を用いることを特徴とする。そこで、本実施形態では、図2に示すように、余熱区間25aと加熱区間25bとを連続して設けた加熱炉25を用いて、各区間の温度が異なるように調整しながらプリフォーム12を加熱する。このとき、加熱炉25内の所定の位置にプリフォーム12を配した後、余熱区間25aにおいてプリフォーム12を加熱してから、異なる温度に調整した加熱区間25bにおいて、さらにプリフォーム12を加熱する。この後、溶融部12aからプリフォーム12を線引(延伸)することで、所望の径のPOF11とする。これにより、プリフォーム12を徐々に加熱することができるので、急激な温度変化による熱ダメージを低減することが可能となり、熱収縮の発生も抑制することができる。
【0021】
本実施形態では、余熱区間25aでの温度を、100〜250℃の範囲で略一定となるように調整し、加熱区間25bでの温度を、余熱区間25aよりも高めの200〜300℃となるように調整している。ただし、余熱区間25a及び加熱区間25bでの温度範囲は特に限定されるものではなく、プリフォーム12を徐々に加熱しながらも、その中心部まで十分に熱を加えることができるものであれば良い。また、プリフォーム12の送り込み速度は0.1〜1mm/分とすることが好ましい。ただし、この送り込み速度範囲は特に限定されるものではなく、余熱区間25a及び加熱区間25bにおいてプリフォーム12に十分な熱を加えることができるものであれば良い。なお、例えば、余熱区間25aと加熱区間25bとの各区間の長さを十分に長くすると、プリフォーム12の送り込み速度を上記範囲より早くしても、十分な熱をプリフォーム12に加えることができる。さらに、加熱延伸工程15では、プリフォーム12が径の中心に空洞を有する場合(図4参照)、この空洞を減圧しながらプリフォーム12を加熱延伸することが好ましい。これにより、プリフォーム12の内部に気泡が発生するのを抑制して、欠陥の少ないPOF11を得ることができる。
【0022】
線引後のPOF11は、その線径を線径モニタ27により常時確認しながら巻取装置(図示しない)の芯材28に巻き取る。このようにして、リール状のPOF11を得ることができる。本実施形態のように、線径モニタ27により、POF11の外径を常時確認して、この確認結果に応じて加熱炉25の内部のプリフォーム12の位置や余熱区間25aあるいは加熱区間25bの温度、巻取装置の巻取速度などを適宜調整すると、外径が略一定のPOF11を製造することができるので好ましい。なお、円柱状のプリフォーム12は、加熱された状態で長手方向に延伸されてPOF11とされるが、プリフォーム12はPOF11とされなくとも、この状態のままで光伝送体としての機能を発現する。
【0023】
本発明のPOF11の外周に被覆層を設けることでプラスチック光ファイバコード(以下、コードと称する)を得ることができる。さらに、複数本のコードを含む集合体の外周に被覆層を設けるとプラスチック光ファイバケーブル(以下、ケーブルと称する)を得ることができる。
【0024】
コードを形成する場合には、POF11の外周に一次被覆を施した後、二次被覆を施すことで被覆層を形成させる方法が一般的である。このように段階的に被覆を行うと、POF11への熱ダメージを低減しながら所望の機能を有する被覆層を設けることができる。なお、被覆層の数は、1層または2層に限定されるものではない。このように外周に被覆層を設けたPOF11は、一般的に、プラスチック光ファイバ心線またはプラスチック光ファイバコード(ともに、Plastic Optical Code)と称される。
【0025】
複数本のコードの外周に被覆層を設けるとケーブル(Plastic Optical Cable)を得ることができる。本発明では、1本のコードを使用し、必要に応じてさらに被覆を施されたものをシングルファイバケーブルと称する。また、コードが抗張力線等とともに複数本組合せて集合体を形成後、この集合体の外周にさらなる被覆材を被覆したものをマルチファイバケーブルと称する。なお、本発明のケーブルは、上記のシングルファイバケーブルとマルチファイバケーブルとの両方を含む。
【0026】
次に、第1部材形成工程18について説明する。図3は、第1部材形成工程18の流れを示す説明図である。図3に示すように、第1部材17は、第1層30、第2層31、第(n−1)層32、第n層33を順に形成して、同心円状に積層させることにより形成する。したがって、第1部材形成工程18は、第1層形成工程35と、第2層形成工程36と、第(n−1)層形成工程37と、第n層形成工程38とを有する。また、各層形成工程35〜38は、層形成材料を注入する第1〜第n注入工程35a〜38aと、この層形成材料を加熱重合する第1〜第n重合工程35b〜38bとを有する。
【0027】
本発明では、複数の重合体層からなる第1部材17の最内層の配向度S1と最外層の配向度S2とが、0以上0.2未満となるように分子量を調整しながら第1部材17を形成する第1部材形成工程18を有することを特徴とする。このように第1部材17を構成する複数の重合体層のうち、最外層に配される重合体層よりも、径の中心に近い重合体層の配向度が同等あるいは小さくなるようにすると、第1部材17を加熱しても熱収縮が抑制されるため、低伝送損失のPOFを得ることができる。ただし、配向度が上記の条件を満たさない場合には、加熱による第1部材17の熱収縮が大きいので、POFの伝送損失は増加する。
【0028】
本発明の第1部材形成工程18では、少なくとも1種類以上の重合性組成物と、チオール基を有する連鎖移動剤とを含む層形成材料を中空管39の中に注入し、これを加熱重合させて重合体層を形成する工程を繰り返し行うことで、中空管39の内側に重合体層を同心円状に積層させた複層構造の第1部材17を形成する。このとき、重合性組成物の屈折率に応じて連鎖移動剤のチオール基の含まれる割合を変更し、各重合体層におけるチオール基を含む連鎖移動剤の添加量を調整することにより重合体層の分子量を調整する。したがって、各注入工程で用いる層形成材料は、上記を満たすようにして調製される。
【0029】
また、第1部材形成工程18では、径の外側から中心に向かうにしたがい、層形成材料に含ませる高屈折率の重合性組成物の割合を高くする。さらには、径の外側から中心に向かうにしたがい、層形成材料に含ませるチオール基を含む連鎖移動剤の添加する割合を高くすることを特徴とする。
【0030】
そこで、本実施形態では、第1注入工程35で使用する層形成材料を、高屈折率の重合性組成物の割合が最も低くなるようにして、かつチオール基の含む割合が低い連鎖移動剤を添加して調製する。そして、この第1層形成材料を中空管39の中に注入する。なお、第2注入工程36、・・・・、第(n−1)注入工程37の順に、重合性組成物の屈折率に応じて連鎖移動剤のチオール基を含む割合を変更させる。第n注入工程38aで使用する層形成材料は、屈折率の高い重合性組成物の割合が最も高くなるようにし、かつ連鎖移動剤のチオール基を含む割合が高くなるようにして調製する。
【0031】
また、第1注入工程35a〜第n注入工程38aの後では、連続して、第1重合工程35b〜第n重合工程38bを行なう。なお、各重合工程35b〜38bでは、中空管39を回転させることにより重合性組成物を重合させる回転重合法を用いる。回転重合法の詳細については後述する。以上により、径の中心に向かうに従い、屈折率は高くなる一方で、分子量が低く、配向度が小さい重合体層を形成することができる。
【0032】
なお、第1部材形成工程18では、第1注入工程35a〜第n注入工程38aでの層形成材料の注入量を、内側の層に向かうにしたがい次第に減らすようにすると、各層の厚みを概ね一定もしくは近似した値に調整することができるので好ましい。ただし、注入量は、特に限定されるものではなく、形成したい層の厚みを考慮しながら調整すればよい。また、本実施形態では、中空管39の内側に同心円状のn層構造を形成させたが、所望の層数の複層構造を形成した後、中空管39を取り除いて、n層の重合体層のみからなる部材を第1部材17として用いる。なお、中空管39を除去せずに、中空管39の内側にn層構造を形成させた部材を第1部材17として用いてもよい。
【0033】
本実施形態では、第1部材17すなわちコア部の最内層と最外層とのチオール基を含む割合の差が、0.001mol%以上0.5mol%以下となるように形成する。より好ましくは、上記の割合の差が0.01mol%以上0.05mol%以下となるようにする。このようなコア部は、重合体層の配向度が好適に調整されているので、加熱による熱収縮が抑制される。ただし、上記の割合の差が、0.001mol%未満の場合では、コア部における配向度の差が小さすぎて熱収縮を抑制する効果が得られないため、プリフォーム12を加熱して得られるPOF11の伝送損失は上昇する。一方で、上記の割合の差が0.5mol%を超えると、逆にコア部の中心よりもその外側の方が配向してしまうので、コア部の断面方向において不均一な熱収縮が発生してしまう。そのため、導波路構造が不整となり、プリフォーム12を加熱して得られるPOF11の伝送損失が上昇してしまうおそれがある。
【0034】
連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン類(例えば、n−ブチルメルカプタン、n−ペンチルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタン等)、チオフェノール類(チオフェノール、m−ブロモチオフェノール、p−ブロモチオフェノール、m−トルエンチオール、p−トルエンチオール等)などを用いることが好ましい。特に、n−オクチルメルカプタン、n−ラウリルメルカプタン、tert−ドデシルメルカプタンのアルキルメルカプタンを用いるのが好ましい。また、メタクリル系樹脂と類似した構造を持つエステルメルカプタン類(例えば、3−メルカプトプロピオン酸エチル等)やC−H結合の水素原子が重水素原子やフッ素原子で置換された連鎖移動剤を用いることもできる。なお、連鎖移動剤は、これらに限定されるものではないし、2種類以上を併用してもよい。
【0035】
なお、形成されてなる各層間の親和性やポリマーの調整および製造におけるハンドリング性の観点から、各層形成材料は、屈折率の異なる2種類のモノマーの配合比を変更しながら調製することが好ましい。ただし、最終製品の光学的および/または機械的性能向上や製造適性を考慮して、3種類以上の重合性組成物を用いてもよい。その際には、層ごとに成分や配合比が変化していてもよい。このように、異なる屈折率を示すホモポリマーのモノマーを異なる配合比で共重合させることにより、各層の屈折率に差を発現させることができる。また、各層は同じ重合性組成物を用いて形成されるので、隣接する層で形成される界面での親和性を向上させることができ、界面における散乱を低減させることができる。一方、各層を異なる重合性組成物により形成させると、隣接する層で形成される界面の親和性を向上させるのが困難であり、光の散乱により伝送損失が上昇してしまうために好ましくない。
【0036】
また、所望の屈折率分布を第1部材17すなわちコア部に発現させるために、異なる屈折率を示す重合性組成物を少なくとも2種類用いて、これらを共重合させることにより第1層30〜第n層33を形成し、各層における重合性組成物の配合比が、隣接する層で互いに異なるように調整することが好ましい。これにより、隣接する層間での整合性を高めながら、所望の屈折率分布のコア部を形成することができる。そこで、本実施形態では、異なる屈折率を示す重合性組成物として、重合体の屈折率が1.41である重水素置換した2,2,2トリフルオロエチルメタクリレート(3FMd7)と、重合体の屈折率が1.49である重水素置換したペンタフルオロフェニルメタクリレート(PFPMAd5)とをそれぞれ用いて異なる配合比となるように調整し、かつ重合性組成物の屈折率の大きさに応じながら適宜選択したチオール基を含む連鎖移動剤を添加する。なお、本実施形態のように、水素原子が一部重水素原子とされた3FMd7とPFPMAd5とを使用して層を形成すると、低伝送損失を示す重合体層を形成することができるので好ましい。
【0037】
図4は、本実施形態におけるプリフォーム12の径方向での断面図である。図4に示すように、プリフォーム12は、第1部材17と、第1部材17の外周に配される第2部材19と、最外殻に配される第3部材21とを有する。なお、上記したが、第1部材17はコアの前駆体であるコア部であり、第2部材19は、クラッド部となる部位を含む。
【0038】
各部材は、互いに接触することなく組合せることができるように外径や内径を調整しながら形成されるので、第1部材17と第2部材19との間、及び第2部材19と第3部材21との間には空隙40が存在している。また、プリフォーム12は、径の中心に空洞41を有している。ただし、空隙40や空洞41は、製造の途中において消失する場合があるため、その存在及び形状等は、特に限定されるものではない。なお、断面円形の径とプリフォーム12の外径との比率も、図4に示す形態に限定されるものではなく製造条件に応じて変動するものである。
【0039】
また、図4では、説明の便宜上、第1部材17を構成する第1層30〜第n層33の各層間の境界を示しているが、製造条件などにより境界の明確さは異なり、必ずしも確認できるものでなくてもよく、光の伝播を考慮すると光学的には境界は存在しないことが好ましい。なお、プリフォーム12を加熱延伸させてPOF11とする前に、プリフォーム12を加熱延伸させて所望の径にしてから、平板状などに切断すると、空洞41を消去することができ、このような部材は、径方向に従って特定の屈折率分布を有するGRINレンズを製造することができる。
【0040】
図5は、本発明に係わるPOF11の径方向での断面図である。POF11はプリフォーム12を加熱延伸して得られるため、構成部材はプリフォーム12と略同等である。そこで、ここでは、POF11を構成する部材には、プリフォーム12と異なる符号を付すが、名称は同じものを用いる場合もある。したがって、POF11は、プリフォーム12における第1部材(以下、コアと称する場合もある)17が加熱延伸して得られる第1層130〜第n層133のn層構造である第1部材117と、同じく、第2部材19が加熱延伸して得られる第2部材119と、第3部材21が加熱延伸して得られる第3部材121とを含む。なお、POF11は、プリフォーム12を加熱溶融した後に、長手方向に延伸させたものであるため、各部材の径は細径となると同時に、空隙40や空洞41は消失する。一方で、屈折率分布や光学特性はプリフォーム12と略同等である。
【0041】
POF11の外径は、加熱延伸工程15でのプリフォーム12の延伸の程度により決定され、加熱延伸後の第3部材121の外径に等しいので、第3部材121の外径を調整することで大口径のPOF11を容易に得ることが可能となる。したがって、本実施形態のように各部材を嵌合させてPOFを製造すると、コア117の体積を調整することなく第3部材122の外径を調整するだけで、自由にPOF11の口径を調整することができるので、光伝送能力を低下させることなく低コスト化を実現することができるなどのメリットがある。
【0042】
図6は、POF11の径方向での屈折率分布図である。図6の縦軸は屈折率の高低を表し、上に行くほど高い値を示す。また、横軸はPOFの半径方向を示し、(A)は外殻部を意味する領域であり、(B)はコアを意味する領域である。
【0043】
図6に示すように、本実施形態のPOF11は、コアの径の外側から中心に向かうに従い連続して高くなる屈折率分布を有する。そして、その外周に配する外殻部の屈折率は、コア部の最外層の屈折率が外殻部の最内層の屈折率よりも大きくなるように調整されている。このような屈折率分布を有するPOF11は、GI型POFとされ、大容量化が可能である等の特徴を有する。また、POF11はポリマーで形成されているために、優れた機械特性と透明性を示す。さらに、屈折率の異なる複数の層で構成された複層構造により高屈折率化を実現したPOF11であるので、このPOF11を利用すると、パッチコードをはじめとする優れた光学特性を有する光伝送体を作製することが可能となる。なお、本実施形態では、GI型POFを示したが、コア117の屈折率の変化は段階的(マルチステップインデックス型と称されることがある)であってもよいし、連続的であってもよい。
【0044】
各層に屈折率の高低分布を付与させる方法としては、上記の他に、各層130〜133を形成させる重合性組成物に添加量を調整しながら屈折率調整剤を添加して、これを重合させることでも、所望の屈折率分布を付与することが可能である。この場合には、径の内側にしたがい屈折率調整剤の添加量を高くすることで、外側から径の中心に向かうにしたがい次第に屈折率を高くすることができる。屈折率調整剤の詳細に関しては、後で説明する。
【0045】
次に、各部材を形成する際に使用する材料について説明する。本発明では、第1部材17を形成する材料として、アクリル系の樹脂などに代表される非晶質の熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、第2部材19はフッ化ビニリデン単位が含まれる樹脂を用いることが好ましく、第3部材21はアクリル系の樹脂を用いることが好ましい。これにより、プリフォーム12を延伸させた際に、各部材をしっかりと密着させて、光学特性や物理性能に優れるPOF11を得ることができる。
【0046】
第3部材21を形成させる材料として、メタクリル樹脂またはポリカーボネート樹脂を使用すると、強靭性や透明性に優れるプリフォーム12を形成することができる。このようなプリフォーム12は、途中で切断することなく加熱延伸することが可能である。なお、本実施形態では、第3部材21を形成させる材料として、メタクリル樹脂(PMMA)を使用する。このよう第3部材21を最外層とすると、優れた強靭性を付与して、POF11の生産性や取り扱い性を向上させることができ、かつ曲げ変形による伝送損失の低下を防止することができる。その他にも、PMMAの特性でもある優れた透明性をPOF11に付与することができる。なお、本実施形態では、プリフォーム12として第3部材を設ける態様を示しているが、第3部材は必須の構成ではない。すなわち、上記のような目的をもって適宜選択すれば良く、例えば、プリフォームは、コア部となる第1部材とクラッド部を含む第2部材のみからなることがあってもよく、このプリフォームから得られるPOFも本発明には適用される。
【0047】
第1部材17を形成する材料について説明する。第1層30〜第n層33を形成する重合性組成物は、光散乱が生じないように非晶質のポリマーとし、互いに密着性に優れることが好ましい。より好ましくは、機械的特性や耐湿熱性に優れているポリマーとすることである。
【0048】
層形成材料として使用する重合性組成物の中で、第1層用モノマーは、ポリマーの中でも屈折率が低いものであることが好ましい。また、第1層〜第n層用モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸エステル類(フッ素不含(メタ)アクリル酸エステル(a)、含フッ素(メタ)アクリル酸エステル(b))、スチレン系化合物(c)、ビニルエステル類(d)、主鎖環状含フッ素ポリマー形成モノマー類(e)、非晶質フッ素樹脂(例えば、テフロン(登録商標)AF)、AVA樹脂、ノルボルネン系樹脂(例えば、ZEONEX(登録商標:日本ゼオン(株)製))、ファンクショナルノルボルネン系樹脂(例えば、ARTON(登録商標:JSR製)など)ポリカーボネート類の原料であるビスフェノールAなどを重合性組成物として用いて重合させたものとすることができる。なお、各層用モノマーを選択する際には、少なくとも一方の屈折率や親和性などの関係を考慮することが好ましい。
【0049】
上記の(a)フッ素不含メタクリル酸エステルおよびフッ素不含アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸−tert−ブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ジフェニルメチル、アダマンチルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボニルメタクリレートなどが挙げられ、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸−tert−ブチル、アクリル酸フェニルなどが挙げられる。
【0050】
(b)含フッ素アクリル酸エステルおよび含フッ素メタクリル酸エステルとしては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1−トリフルオロメチル−2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレートなどが挙げられる。
【0051】
(c)スチレン系化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ブロモスチレンなどが挙げられ、(d)ビニルエステル類としては、ビニルアセテート、ビニルベンゾエート、ビニルフェニルアセテート、ビニルクロロアセテートなど、(e)主鎖環状含フッ素ポリマー形成モノマー類としては、モノマーとして環状構造を有するまたもしくは環化重合することによって非晶質の主鎖に環状構造を有する含フッ素重合体を形成するポリマーを形成するものであり、サイトップ(登録商標)として知られるポリパーフルオロブタニルビニルエーテルや特開平8−334634などに例示される主鎖に脂肪環もしくは複素環を有するようなポリマーを形成するモノマー、および特願2004−186199号に例示されるものなどが挙げられる。もちろん、これらに限定されるものではなく、重合性組成物の単独あるいは共重合体からなるポリマーの屈折率が、光伝送体に成形されたときに所定の屈折率分布を成形体の中で有するように、種類や組成比を決定することが好ましい。
【0052】
また、第1層用モノマーとしては、上記の各種化合物の他に以下のものが挙げられる。例えば、メチルメタクリレート(MMA)とトリフルオロエチルメタクリレート(3FM)やヘキサフルオロイソプロピルメタクリレートなどのフッ化(メタ)アクリレートとの共重合体がある。その他にも、MMAと、tert−ブチルメタクリレートなどの分岐を有する(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレート、ノルボルニルメタクリレート、トリシクロデカニルメタクリレートなどの脂環式(メタ)アクリレートなどとの共重合体がある。さらには、ポリカーボネート(PC)、ノルボルネン系樹脂(例えば、ZEONEX(登録商標:日本ゼオン(株)製))、ファンクショナルノルボルネン系樹脂(例えば、ARTON(登録商標:JSR製)など)、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)など)を用いることもできる。フッ素樹脂の共重合体(例えば、PVDF系共重合体)やテトラフルオロエチレンパーフルオロ(アルキルビニルエーテル(PFA))ランダム共重合体、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)共重合体などを用いることもできる。
【0053】
また、POF11を近赤外光用途に用いるためには、ポリマーを構成するC−H結合に起因した吸収損失が起こるために、特許3332922号公報や特開2003−192708号公報などに記載されているような、C−H結合の水素原子を重水素原子やフッ素などで置換したポリマーを用いることで、この伝送損失を生じる波長域を長波長化することができ、伝送信号光の損失を軽減することができる。このようなポリマーとしては、例えば、重水素化ポリメチルメタクリレート(PMMA−d8)、ポリトリフルオロエチルメタクリレート(P3FMA)、ポリヘキサフルオロイソプロピル2−フルオロアクリレート(HFIP 2−FA)などを例示することができる。モノマー以外の成分もC−H結合を低減させたものを用いるとさらに好ましい。なお、原料となる化合物は、重合後の透明性を損なわないためにも、不純物や散乱源となる異物は重合前に十分に除去されることが望ましい。
【0054】
本発明においては、重合性組成物を重合させてコポリマーとする際において、重合開始剤を使用する。重合開始剤としては、例えば、ラジカルを生成するものが各種ある。例えばラジカルを生成するものとして、過酸化ベンゾイル(BPO)、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサネート(PBO)、ジ−tert−ブチルパーオキシド(PBD)、tert−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート(PBI)、n−ブチル−4,4−ビス(tert−ブチルパーオキシ)バラレート(PHV)などのパーオキサイド系化合物が挙げられる。また、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1′−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2′−アゾビス(2−メチルプロパン)、2,2′−アゾビス(2−メチルブタン)、2,2′−アゾビス(2−メチルペンタン)、2,2′−アゾビス(2,3−ジメチルブタン)、2,2′−アゾビス(2−メチルヘキサン)、2,2′−アゾビス(2,4−ジメチルペンタン)、2,2′−アゾビス(2,3,3−トリメチルブタン)、2,2′−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、3,3′−アゾビス(3−メチルペンタン)、3,3′−アゾビス(3−メチルヘキサン)、3,3′−アゾビス(3,4−ジメチルペンタン)、3,3′−アゾビス(3−エチルペンタン)、ジメチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジエチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジ−tert−ブチル−2,2′−アゾビス(2−メチルプロピオネート)などのアゾ系化合物が挙げられる。なお、重合開始剤は、これらに限定されるものではない。また、2種類以上を併用してもよい。
【0055】
コポリマーとしたときの機械特性や熱物性などの各種物性値を全体にわたって均一に保つために、重合度の調整を行うことが好ましい。重合度の調整のためには、連鎖移動剤を使うことができる。連鎖移動剤については、併用する重合性モノマーの種類に応じて、適宜、種類および添加量を選択できる。各モノマーに対する連鎖移動剤の連鎖移動定数は、例えば、ポリマーハンドブック第3版(J.BRANDRUPおよびE.H.IMMERGUT編、JOHN WILEY&SON発行)を参照することができる。また、該連鎖移動定数は大津隆行、木下雅悦共著「高分子合成の実験法」化学同人、昭和47年刊を参考にして、実験によっても求めることができる。
【0056】
その他にも、第1層30〜第n層33の一部に、光伝送性能を低下させない範囲で、その他の添加剤を添加することができる。例えば、第1層30〜第n層33もしくはその一部に耐候性や耐久性などを向上させる目的で、安定剤を添加することができる。
【0057】
また、光伝送性能の向上を目的として、光信号増幅用の誘導放出機能化合物を添加することもできる。該化合物を添加することにより、減衰した信号光を励起光により増幅することができ、伝送距離が向上するので、例えば、光伝送リンクの一部にファイバ増幅器として用いることができる。これらの添加剤も、前記原料となる各種重合性組成物に添加した後、重合することによって、第1層30〜第n層33、もしくはそれらの一部に含有させることができる。
【0058】
所望の屈折率分布を付与する方法として、各層を形成させる主成分に屈折率調整剤を添加する場合には、屈折率調整剤として、非重合性の化合物を用いることが好ましい。第1部材11を形成させる際に屈折率調整剤を添加する場合には、第1層30〜第n層33を形成する主成分に対してその添加率が0.01重量%以上25重量%以下とすることが好ましい。より好ましくは、添加率が1質量%以上20重量%以下とすることである。これにより、断面円形の径方向における屈折率分布係数を上記のような好ましい範囲により制御しやすくなる。
【0059】
屈折率調整剤としては高屈折率で分子体積が大きく、重合に関与せず、溶融状態のポリマー中で所定の拡散速度を有する低分子化合物を用いることが好ましい。なお、屈折率調整剤は、モノマーに限定されず、オリゴマー(ダイマー、トリマーなどを含む)であってもよい。
【0060】
また、屈折率調整剤としては、例えば、安息香酸ベンジル(BEN)、硫化ジフェニル(DPS)、リン酸トリフェニル(TPP)、フタル酸ベンジル−n−ブチル(BBP)、フタル酸ジフェニル(DPP)、ジフェニル(DP)、ジフェニルメタン(DPM)、リン酸トリクレジル(TCP)、ジフェニルスルホキシド(DPSO)などの非重合性低分子化合物を用いてもよく、中でも、BEN、DPS、TPP、DPSOを使用することが好ましい。このような屈折率調整剤を、第1部材17や第2部材19や第3部材21を含む外殻部を形成させるホモポリマーに添加し、さらに、屈折率調整剤の濃度分布を調整することにより各部材の屈折率を所望の値に制御することができる。
【0061】
前述した重合開始剤や連鎖移動剤や屈折率調整剤の各添加量は、使用する第1層〜第n層用モノマーである重合性組成物の種類などに応じて、好ましい範囲を適宜決定することができる。本実施形態においては、重合開始剤は、第1層30〜第n層33の重合性組成物に対して、0.005質量%以上0.050質量%以下となるように添加しているが、この添加率を0.010質量%以上0.020質量%以下とすることがより好ましい。また、前記連鎖移動剤は、第1層〜第n層の重合性組成物に対して、0.10質量%以上0.40質量%以下となるように添加しているが、この添加率を0.15質量%以上0.30質量%以下とすることがより好ましい。
【0062】
また、本実施形態においては、断面円形の径の外側から中心に向けて屈折率が連続的に高くなるように、第1層30〜第n層33の生成方法として、後述のような回転ゲル重合法を適用している。また、第1〜第n層用モノマーは、3FMd7とPFPMAd5とをそれぞれ用いている。
【0063】
次に、プリフォーム12の製造方法について、詳細に説明する。ここで説明する工程は、図1に示したPOF製造工程10に従うものである。ただし、本実施形態は、本発明の一様態としての例示であり、限定されるものではない。図7に、プリフォーム12を作製する際に使用する重合容器の断面図を示す。重合容器50は、円筒管状の容器本体50aとこの容器本体50aの両端をそれぞれ塞ぐ蓋50bとを有し、本実施形態においてはSUS製とされる。また、重合容器50は、その内径が中に収容されるパイプ60の外径よりもわずかに大きいものであり、重合容器50の回転に伴ってパイプ60が回転することができるようにされている。なお、上記のパイプは、図3に使用する中空管39を意味する。
【0064】
先ず、この重合容器50に、あらかじめ、市販の溶融押出成形により成型したパイプ60を収容する。次に、栓51でパイプ60の片端部を塞ぐ。この栓51は、第1部材17を形成する第1層〜第n層形成材料に溶解しない素材からなり、可塑剤などを溶出させるような化合物も含まないものとする。このような素材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などが挙げられる。
【0065】
片端部を栓51で塞いだ後、第1層30を形成させる第1層形成材料30aをパイプ60の中に注入する。そして、他方の端部を栓51で塞いでから、重合容器50を回転させることにより第1層形成材料30aを重合させて第1層30を形成させる。なお、パイプ60が重合容器50の回転に応じることができるように、重合容器50の内面などにパイプ60を支持する支持部材を設けてもよい。
【0066】
上記のように重合容器50を回転させる際には、回転重合装置を利用する。図8に、回転重合装置70の概略図を示す。回転重合装置70は、装置本体72の中に設けられた複数の回転部材73と駆動部76と装置本体72内の温度を検知してその検知結果に応じて内部温度を制御するための温度コントローラ77とを有している。
【0067】
回転部材73は、円柱形状であり、2本の周面で少なくともひとつの重合容器50を支持することができるように、長手方向が互いに概ね平行かつ略水平となっている。各回転部材73は、その一端が装置本体72の側面に回動自在に取り付けられており、駆動部76によりそれぞれ独立した条件で回転駆動される。なお、駆動部76には、駆動部76の駆動を制御するためにコントローラ(図示しない)が備えられている。
【0068】
図9に、重合容器50の回転方法についての説明図を示す。重合反応時においては、隣り合う回転部材73の周面により形成される谷部に重合容器50がセットされた後、回転部材73の回転に応じて重合容器50は回転させられる。図9では、回転部材73の回転軸を符号73aで示している。このように、回転重合装置71に重合容器50をセットさせて回転させることにより、第1層形成材料30aを重合させることができる。なお、本実施形態では、重合容器50の回転をサーフェスドライブ式としているが、重合容器50の回転方式は、特に限定されるものではない。
【0069】
また、本実施形態では、図9に示すように、重合容器50の両端の蓋50bに磁石50cを備えるとともに、隣り合う2本の回転部材73の間の下方に磁石75を備えている。これにより、回転時において重合容器50が回転部材73から浮くことを防止することができる。ただし、重合容器50の回転部材73からの浮きを防止する方法としては、本形態に限定されるものではない。例えば、回転部材73と同様な回転手段を、セットされた重合容器50の上部に接するように設けて、同様に回転させることにより重合容器50の浮きを防止する方法や重合容器50の上方に押さえ手段を設けて、重合容器50に所定の荷重をかけることにより浮きを防止する方法などが挙げられる。なお、本発明は浮き防止方法に依存するものではなく、いずれの方法も適用することができる。
【0070】
また、回転重合の前に、パイプ60を立てた状態で第1層30を予備重合させてもよい。予備重合を行う際には、必要に応じて所定の回転機構によりパイプ60の円管軸を回転中心として回転させる。このようにパイプ60の長手方向を概ね水平に保ちながら回転させると、パイプ60の内面全体に第1層30が生成しやすくなるため好ましい。なお、本発明では、第1層30の重合時において、パイプ60の長手方向を水平とすることが、パイプ60の内面全体に第1層30を形成する上でもっとも好ましい。ただし、略水平であればよく、回転軸の許容される角度は水平に対して概ね5°以内である。
【0071】
なお、第1層〜第n層形成材料に使用する第1層〜第n層用モノマーを濾過や蒸留などを行うことにより、重合禁止剤や水分および不純物などをあらかじめ除去してから用いることが好ましい。なお、モノマーや重合開始剤を混合した後に、この混合物を超音波処理して溶存気体や揮発成分を除去することが好ましい。さらに、必要に応じて、第1層形成工程35の前後において、公知の減圧装置によりパイプ60や第1層形成材料30aを減圧処理してもよい。
【0072】
以上のようにして第1層30が形成されたパイプ60を、回転重合装置71から取り出した後、本実施形態では、所定温度に設定された恒温槽などの加熱手段により所定時間の加熱処理をしている。
【0073】
次に、第2層31〜第n層33を形成させる。図10に、第2層31〜第n層33の生成開始時における重合容器50の断面図を示す。重合容器50は、第1層30を生成させた際に用いたものと同じであるため同一の符号を用いる。まず、第2層形成材料31aを第1層30の中空部に注入する。そして、栓51により注入口を塞ぎ、第1層30が形成されたパイプ60の長手方向を略水平状態とし、パイプ60の断面円形の中心が回転軸となるように回転させながら反応を開始する。このように回転させながら重合を進めることにより第2層31を形成させる。第2層〜第n層形成材料を重合させる際には、第1層30を作製する際に使用した回転重合装置71(図8参照)を用いる。なお、注入方法は各層ごとに開栓して注入する方法のほか、回転軸に沿って栓を貫通するように注入管を入れて注入管より導入する方法など、他に知られている方法でも行うことができる。また、必要に応じては、第2層形成材料31aをはじめとする第2層〜第n層形成材料を注入する前後において、公知の減圧装置によりパイプ60や注入物を減圧処理してもよい。
【0074】
このとき、第2層形成材料31aが重合を開始すると、第1層30の内壁が第2層形成材料31aにより膨潤し、重合初期段階において膨潤層を形成する。この膨潤層は、ゲル状態となっているため、重合速度が加速(ゲル効果と称する)する。このような現象から、本発明では、あらかじめ作製された管状部材を回転させながら、この管状部材と注入された重合性組成物との反応により膨潤層を形成させて重合性組成物を重合させる反応方法を回転ゲル重合法と称する。なお、この重合反応は、本実施形態のように、管状部材の長手方向が水平とされることがより好ましい。
【0075】
各重合反応の反応速度は、適宜調整されることが好ましい。例えば、各重合性組成物の反応度合いを表す転化率が、1時間あたり5〜90%となるように反応速度を調整することが好ましい。より好ましくは、1時間あたりの転化率が10〜85%となるように調整することであり、さらに好ましくは20〜80%である。この反応速度の制御は、重合開始剤の種類や重合温度の調整などにより制御することができる。重合性組成物の転化率の求め方は周知の方法を用いればよく特に限定はされない。例えば、ガスクロマトグラフィによる残留モノマーの定量分析と目視評価とを実施して両者の関係をあらかじめ求めておき、この関係をもとに目視観察にて評価すればよい。上記のような回転ゲル重合法においては、その反応温度を用いる重合性組成物の沸点以下とすることが好ましい。また、回転速度を適宜調整することにより、第1層30〜第n層33の転化率などを制御する。
【0076】
以上の方法により、所定の材料により生成された第1層30〜第n層33の複層構造をパイプ60の内側に形成させる。そして、パイプ60を取り除いたn層構造を第1部材17として使用する。また、あらかじめ市販の溶融押出成形により円筒状の第2部材19と第3部材21とを作製する。そして、組合せ工程24において、各部材20〜22を順次組合せてプリフォーム12とする。なお、第1部材17におけるパイプ60の有無は、光学特性に影響を及ぼすものではないため、特に限定はされない。
【0077】
加熱延伸工程15において、プリフォーム12を加熱しながら溶融延伸させることにより所望の直径(例えば、200〜1000μm)を有するPOF11とする。ただし、本発明では、一度、プリフォーム12を加熱した後、温度を変更して再度加熱する2段階加熱を行なう。なお、プリフォーム12の延伸方法は、特開平07−234322号公報などに記載される各種延伸方法を適用することができる。
【0078】
POF11は、曲げ、耐候性の向上、吸湿による性能低下抑制、引張強度の向上、耐踏付け性付与、難燃性付与、薬品による損傷からの保護、外部光線によるノイズ防止、着色などによる商品価値の向上などを目的として、通常、その表面に1層以上の保護層を被覆して使用される。
【0079】
本発明により得られるPOF11の外周を被覆層で覆うとコードとなり、1本あるいは複数のコードをまとめた外周を被覆層で覆うとケーブルとなる。ただし、コードをシングルファイバケーブルとして用いることもある。ケーブルとされるときの被覆の形態としては、1本のコードと被覆材との界面、あるいは複数本束ねた状態のコードの外周と被覆材との界面が、すべて接するように被覆されている密着型の被覆と、被覆材とコードとの界面に空隙を有するルース型被覆とがある。ルース型被覆では、例えば、コネクタとの接続部において被覆層を剥離した場合、その端面の空隙から水分が浸入して長手方向に拡散されるおそれがあるため、通常は密着型が好ましい。
【0080】
しかし、被覆材とコードとが密着していないので、ケーブルにかかる応力や熱などのダメージの多くを、被覆層により緩和させることができるという利点を有する。そのため、ルース型の被覆は、使用目的によっては好ましく用いることができる。ルース型被覆の場合のコネクタ接続部からの水分の伝播については、コードと被覆材との界面の空隙部に流動性を有するゲル状の半固体や粉粒体を充填することにより、防止することができる。さらに、これらの半固体や粉粒体に対して耐熱や機械的機能の向上などの他の異なる機能を付与させることにより、多機能な被覆層を形成したケーブルを製造することができる。また、ルース型の被覆とするには、クロスヘッドダイの押出し口ニップルの位置を調整し減圧装置による減圧度を加減することにより、空隙を有する層を形成することができる。この空隙層の厚みは前述のニップル厚みと空隙層とを加圧/減圧することにより調整することができる。なお、第1、第2の被覆工程で設けられる被覆材には、難燃剤や紫外線吸収剤、酸化防止剤、昇光剤、滑材などを光伝送特性に影響を及ぼさない条件範囲で添加してもよい。
【0081】
この難燃剤としては、臭素を始めとするハロゲン含有の樹脂や添加剤、リン含有のものがあるが、燃焼時における毒性ガス低減などの安全性の観点では、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物が主流となりつつある。ただし、このような金属水酸化物は、その内部に水分を結晶水として有している。この水分は、これら金属水酸化物の製法過程における付着水に起因するものであり完全除去は不可能とされる。したがって、金属水酸化物による難燃性付与は、POF11に接する被覆層には含有させず、ケーブルとしての外表となる被覆層に対してのみ行うことが望ましい。
【0082】
また、ケーブルに複数の機能を付与させるために、さらに、適宜機能性層となる被覆層を積層させてもよい。難燃化層以外の機能層としては、例えば、POF11の吸湿を抑制するためのバリア層や、POF11に含有された水分を除去するための吸湿材料層などが挙げられる。なお、この吸湿材料層の付与方法としては、例えば、吸湿テープや吸湿ジェルを所定の被覆層内や被覆層間に設ける方法がある。
【0083】
さらに、その他の機能性層としては、可撓時の応力緩和のための柔軟性素材層や外部からの応力を緩衝するための緩衝材として機能する発泡材料層、剛性を向上させるための強化層などが挙げられる。また、ケーブルの構造材(被覆材)としては、樹脂以外にも、例えば、高い弾性率を有する繊維(いわゆる抗張力繊維)および/または剛性の高い金属線などの線材を熱可塑性樹脂に含有させたものが挙げられる。このような材料を用いると、ケーブルの力学的強度を補強することができるために好ましい。
【0084】
なお、抗張力繊維としては、例えば、アラミド繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維が挙げられる。そして、金属線としては、ステンレス線、亜鉛合金線、銅線などが挙げられる。ただし、本発明に適用することができる抗張力繊維および金属線は、これらに限定されるものではない。また、その他にも、ケーブルを保護するための金属管の外装や架空用の支持線、配線時の作業性を向上させるための機構などをケーブルの外周部に組み込むこともできる。
【0085】
ケーブルの形状は、コードを同心円上にまとめた集合型のものや一列に並べたテープ型のもの、さらに、それらを押え巻やラップシースなどでまとめたものなどが挙げられる。なお、これらの使用形態は、用途に応じて適宜選択すればよい。
【0086】
本発明のPOFからなるケーブルは、従来品と比べて軸ずれに対する許容度が高いために、突き合せにより接合しても用いることができる。ただし、より好ましくは、ケーブルの端部に接続用光コネクタを備えて、互いの接続部を確実に固定することである。また、コネクタは、一般に知られているPN型、SMA型、SMI型などの市販の各種コネクタを利用することが可能である。そのため、本発明により得られるケーブルは、種々の発光素子や受光素子や光スイッチ、光アイソレータ、光集積回路、光送受信モジュールなどの光部品を含む光信号処理装置などが組み合わされて好適に用いられる。この際、必要に応じて他の光ファイバなどと組合せてもよい。それらに関連する技術としてはいかなる公知の技術も適用することができる。例えば、プラスティックオプティカルファイバの基礎と実際(エヌ・ティー・エス社発行)、日経エレクトロニクス2001.12.3号110頁〜127頁「プリント配線基板に光部品が載る,今度こそ」などを参考にすることができる。
【0087】
また、上記の文献に記載の種々の技術と組み合わせることによって、コンピュータや各種デジタル機器内の装置内配線,車両や船舶などの内部配線,光端末とデジタル機器,デジタル機器同士の光リンクや一般家庭や集合住宅・工場・オフィス・病院・学校などの屋内や域内の光LANなどをはじめとする高速大容量のデータ通信や電磁波の影響を受けない制御用途などの短距離に適した光伝送システムに好適に用いることができる。
【0088】
さらに、IEICE TRANS. ELECTRON.,VOL.E84−C,No.3,MARCH 2001,p.339−344 「High−Uniformity Star Coupler Using Diffused Light Transmission」,エレクトロニクス実装学会誌 Vol.3,No.6,2000 476頁〜480頁「光シートバス技術によるインタコネクション」の記載されているものや、特開2003−152284号公報に記載の導波路面に対する発光素子の配置;特開平10−123350号、特開2002−90571号、特開2001−290055号などの各公報に記載の光バス;特開2001−74971号、特開2000−329962号、特開2001−74966号、特開2001−74968号、特開2001−318263号、特開2001−311840号などの各公報に記載の光分岐結合装置;特開2000−241655号などの公報に記載の光スターカプラ;特開2002−62457号、特開2002−101044号、特開2001−305395号などの各公報に記載の光信号伝達装置や光データバスシステム;特開2002−23011号などに記載の光信号処理装置;特開2001−86537号などに記載の光信号クロスコネクトシステム;特開2002−26815号などに記載の光伝送システム;特開2001−339554号、特開2001−339555号などの各公報に記載のマルチファンクションシステム;や各種の光導波路、光分岐器、光結合器、光合波器、光分波器などと組み合わせることで、多重化した送受信などを使用したより高度な光伝送システムを構築することができる。以上の光伝送用途以外にも、照明(導光)やエネルギー伝送、イルミネーション、レンズ、センサ分野にも用いることができる。なお、レンズとしては、例えば、径の中心から外側に向かって次第に屈折率が低くなる凸レンズや、逆に、径の中心から外側に向かって次第に屈折率が高くなる凹レンズにも本発明を適用させることができる。
【0089】
以下、本発明に関する実施例1及び比較例1,2を示し、本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、プリフォーム12の製造方法などに関しては実施例1において詳細に説明するものとし、比較例1,2では、実施例1と同じ場合、説明を省略する。
【実施例1】
【0090】
図1に示すPOF製造工程10にしたがいPOF11を作製した。第1部材形成工程18では、2種類の液A,Bを表1に示す配合比で混合し調製した11種類の層形成材料を順次重合させて11層の重合体層を形成した。液Aは、3FMd7に0.03mol%の3−メルカプトプロピオン酸エチルを添加したものであり、液Bは、PFPMAd5に0.1675mol%の3−メルカプトプロピオン酸エチルを添加したものである。なお、コア117を形成する最内層と最外層とのチオール基を含む割合の差は、0.023mol%であった。
【0091】
先ず、予め溶融押出成形により作製した内径18.5mm、外径19.5mm、長さ27cmの中空状のPVDF管をパイプ60として、このパイプ60の中に、第1層形成材料30aを、孔径が0.2μmのPTFEメンブランフィルタにより濾過しながら注入した。第1層形成材料30aは、液Aを21.73mlと液Bを4.56mlとを混合したものに、重合開始剤としてMAIB(2,2ジメチルアゾビスイソブチレート))を0.05mol%添加して調製した。なお、各層の屈折率及びチオール基を含む割合(表1ではチオール濃度と記す)は、表1に示す通りである。
【0092】
次に、第1層形成材料30aが注入されたパイプ60を、回転重合装置71の容器本体50aに長手方向が水平となるようにセットし、2000rpmで回転させながら90℃の雰囲気下で2時間の加熱重合を行った。重合容器50はSUS製のものを使用した。また、回転する重合容器50の近傍、具体的には1〜2cm離れた位置に非接地型熱電対を設けて温度を測定した。そして、この測定温度を重合反応による温度として、測定された重合反応の発熱における温度ピーク(発熱ピーク)を求めたところ、実施例1では、重合開始から約1時間20分経過したときに67℃の発熱ピークが認められた。以上により、パイプ60の内面に第1層30を形成させた。なお、得られた第1層30の転化率は90%であった。
【0093】
次に、重合容器50から第1層30が形成されたパイプ60を取り出し、その中空部に第2層形成材料31aを注入した後、回転重合させて、第1層30の内側に第2層31を形成させ、これを第2部材19とした。なお、重合方法及び条件は、第1層30を形成したときと同じにした。第2層形成材料31aとしては、液Aを7.57mlと液Bを1.99mlとを混合したものに、重合開始剤として0.05mol%のMAIBを添加して調製した。第2層31を形成した後、表1に示すように配合比を変更して調製した第3〜第11層形成材料を用いて、径の中心に向かうにしたがい各層用材料の注入量を減らしながら、上記と同じ工程を繰り返し行うことで、パイプ60の内側に、第1層を最外層とし、第11層を最内層とする11層の重合体層を形成した。なお、各層形成材料には、重合開始剤として0.05mol%のMAIBを添加した。また、第11層形成材料を重合させた後では、90℃に加熱させた状態で6時間保持して、残存する重合性組成物を反応させた。その後、パイプ60を除去して第1部材17を含む第2部材19とした。第2部材19の外径は18.5mmであった。
【0094】
次に、予め市販の溶融押出成形によりDyneon(登録商標;住友スリーエム(株)製)ペレットを用いて作製した内径が18.8mm、外径が19.8mmであり、屈折率が1.36である中空状の第3部材21の中に、第1部材17を含む第2部材19を挿入した。この後、予め市販の溶融押出成形によりPMMAペレット(アクリペット(登録商標);三菱レイヨン(株)製)を用いて作製した内径が20.5mm、外径が64.5mmであり、屈折率が1.49の円筒状の外径調整部材の中に、先ほど組合せた部材を挿入した。これにより、第1部材17の外に第2部材19を配し、さらにその外周に外径調整部材となる第3部材21を配してプリフォーム12を形成した。
【0095】
プリフォーム12を、図2に示す加熱炉25により加熱延伸してPOF11とした。加熱炉25では、余熱区間25aを220℃とし、加熱区間25bを240℃となるように温度を調整した。また、プリフォーム12の空隙40を減圧しながら加熱延伸した。完成したPOF11は、第3部材121の外径が750μmであり、コア117の外径が250μmであり、長さが700mであった。なお、POF11の外径における変動は±15μmであった。
【0096】
完成したPOF11をサンプルとし、このコア117の最内層及び最外層付近の配向度として、赤外二色法により分子配向を測定したところ、最内層と最外層の配向度の差は0.05であった。また、完成したPOF11の波長850nmにおける伝送損失を測定したところ、伝送損失は100dB/kmであった。さらに、POF11を、恒温槽を用いて70℃で240時間加熱した後、同じく波長850nmにおける伝送損失を測定した。その結果、伝送損失は95dB/kmであった。
【0097】
〔比較例1〕
比較例1では、実施例1と同じ製造条件でプリフォーム12及びPOF11を製造した。ただし、第1部材形成工程18では、液Aを3FMd7とし、液BをPFPMAd5として、表1に示す配合比で混合した後、0.05mol%の3−メルカプトプロピオン酸エチルをとMAIBとを添加したものを層形成材料として調製した。なお、各層形成材料には、同じ種類の3−メルカプトプロピオン酸エチル及びMAIBを同量ずつ添加した。また、コア117を形成する最内層と最外層とのチオール基を含む割合の差は、0mol%であった。
【0098】
また、実施例1と同様にして、完成したPOF11をサンプルとし、このコア117の最内層及び最外層付近の配向度として、赤外二色法により分子配向を測定したところ、最内層と最外層の配向度の差は0.2であった。完成したPOF11の波長850nmにおける伝送損失を測定したところ、加熱前のPOF11は伝送損失が100dB/kmであり、加熱後のPOF11では140dB/kmであった。
【0099】
〔比較例2〕
比較例2では、実施例1と同じ製造条件でプリフォーム12及びPOF11を製造した。ただし、第1部材形成工程18では、液Aを3FMd7とし、液BをPFPMAd5として、表1に示す配合比で混合したものに、第1層形成材料では、0.05mol%の3−メルカプトプロピオン酸エチルとMAIBとを添加した。続けて、最内層に向うにしたがって各層におけるチオール基を含む割合を徐々に高めて、第11層目には、0.6mol%の3−メルカプトプロピオン酸エチルを添加した。なお、各層に添加するMAIBの量は同じとした。また、コア117を形成する最内層と最外層とのチオール基を含む割合の差は、0.55mol%であった。
【0100】
また、実施例1と同様にして、完成したPOF11をサンプルとし、このコア117の最内層及び最外層付近の配向度として、赤外二色法により分子配向を測定したところ、最内層の配向が最外層の配向度よりも小さく、その差は0.2であった。また、完成したPOF11の波長850nmにおける伝送損失を測定したところ、加熱前のPOF11は伝送損失が200dB/kmであり、この時点で、実用可能な機械強度を得ることができなかったため、加熱後の伝送損失は測定しなかった。
【0101】
表1に、実施例及び比較例で用いた層形成材料における配合比等を示す。
【0102】
【表1】

【0103】
実施例1では、POF11を加熱しても伝送損失の増加はほとんどみられなかった。一方で、比較例1では、加熱前に比べて加熱後のPOF11では伝送損失が増加した。また、比較例2では、実用可能な機械強度を得ることができなかったため、加熱前でのPOF11の伝送損失しか測定することができなかった。なお、加熱前のPOF11の伝送損失は、非常に高い値を示した。
【0104】
以上より、複数の重合体層からなり、その最内層と最外層の配向度の差を小さい、若しくは略同等となるようなコアを形成すると、非常に低伝送損失であるPOFを得ることができることを確認した。このように各層において所望の配向度とするには、重合性組成物とチオール基を含む連鎖移動剤とを混合した層形成材料を用いて重合体層を形成し、この重合性組成物の屈折率の高さに応じて連鎖移動剤のチオール基を含む割合を選択することが有効であることも確認した。また、コアの前駆体であるコア部は、その最内層と最外層とのチオール基を含む割合の差が、0.001mol%以上0.5mol%以下となるように形成することが有効で有ることも確認した。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】本発明でのPOFの製造工程図である。
【図2】加熱延伸工程の概略図である。
【図3】第1部材形成工程の工程図である。
【図4】本発明により製造されたプリフォームの径方向での断面図である。
【図5】本発明により製造されたPOFの径方向での断面図である。
【図6】本実施形態で製造したPOFの屈折率分布図である。
【図7】重合容器の断面図である。
【図8】回転重合装置の概略図である。
【図9】重合容器の回転方法についての説明図である。
【図10】第1層形成後の重合容器の断面図である。
【符号の説明】
【0106】
10 POF製造工程
11 プラスチック光ファイバ素線(POF)
12 プリフォーム
15 加熱延伸工程
17 第1部材
18 第1部材形成工程
25 加熱炉
25a 余熱区間
25b 加熱区間


【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の重合体層からなるコア部と前記コア部の外周に配されるクラッド部とを有するプリフォームを加熱延伸することにより、プラスチック光ファイバ素線を製造する方法において、
前記コア部の最内層の配向度S1と最外層の配向度S2との差が、0以上0.2未満となるように前記コア部の分子量を調整して形成するコア部形成工程を有することを特徴とするプラスチック光ファイバ素線の製造方法。
【請求項2】
前記コア部形成工程では、少なくとも1種類以上の重合性組成物と、チオール基を有する連鎖移動剤とを含む層形成材料を中空管の中に注入し、これを加熱重合させて前記重合体層を形成する工程を繰り返し行うことで、中空管の内側に前記重合体層を同心円状に積層させた複層構造の前記コア部を形成し、前記重合体層における前記チオール基を含む連鎖移動剤の添加量を調整することにより前記重合体層の分子量を調整することを特徴とする請求項1記載のプラスチック光ファイバ素線の製造方法。
【請求項3】
前記コア部形成工程では、径の外側から中心に向かうにしたがい、層形成材料に含ませる高屈折率の重合性組成物の割合を高くすることを特徴とする請求項1または2記載のプラスチック光ファイバ素線の製造方法。
【請求項4】
前記コア部形成工程では、径の外側から中心に向かうにしたがい、層形成材料に含ませるチオール基を含む前記連鎖移動剤の割合を高くすることを特徴とする請求項1ないし3いずれかひとつ記載のプラスチック光ファイバ素線の製造方法。
【請求項5】
前記コア部の最内層と最外層とのチオール基を含む割合の差が、0.001mol%以上0.5mol%以下となるように形成されることを特徴とする請求項1ないし4いずれかひとつ記載のプラスチック光ファイバ素線の製造方法。
【請求項6】
前記プリフォームを加熱延伸する際には、温度の異なる余熱区間と加熱区間とを連続して設けた加熱装置を用いることを特徴とする請求項1記載のプラスチック光ファイバ素線の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし6いずれかひとつ記載の製造方法により製造されたことを特徴とするプラスチック光ファイバ素線。
【請求項8】
請求項7記載のプラスチック光ファイバ素線を用いて形成されることを特徴とする光伝送体。
【請求項9】
前記光伝送体は、パッチコードであることを特徴とする請求項8記載の光伝送体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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