説明

プラスチック廃材のリサイクル成形方法

【課題】多種類のプラスチック材料が混在するプラスチック廃材を再利用し、機械的強度を備えたプラスチック成形品を成形し得るようにし、プラスチック廃材のリサイクルを促進させる。
【解決手段】スチレン系熱可塑性エラストマーと平均粒子径0.1〜0.5μmの炭酸カルシウムからなる微粉末とを混合してなる改質剤を多種類のプラスチック材料が混在するプラスチック廃材に添加して溶融し所定形状の成形品とする。上記改質剤は熱可塑性エラストマーを1重量部に対して微粉末を2〜3重量部混合してなるものとする。またプラスチック廃材を100重量部に対して改質剤を1〜20重量部の割合で添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多種類のプラスチック材料が混在するプラスチック材料の物性改善、特に多種類のプラスチック材料やプラスチック廃材を再利用し、一定の機械的強度を備えたプラスチック成形品を成形するプラスチック廃材のリサイクル成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表1は一般家庭からゴミとして排出されるボトル、トレー等のプラスチック製容器、およびフィルム等のプラスチック包装材からなるプラスチック廃材の成分を分析した結果である。
【表1】

【0003】
各成分は回収された都市や時期によりバラツキがあるが、一般にゴミとして排出されるプラスチック廃材は、上記のようにポリプロピレンおよびポリエチレンを主成分とし、これにポリスチレンが11重量%前後含まれており、この3種のプラスチックで89(重量)%以上を占める。なお、このようなプラスチック廃材は、主としてプラスチック製容器をリサイクルする目的で集められた材料であることから「容リ材」と称される。
【0004】
ところでこのような多種類のプラスチック材料が混在するプラスチック廃材を処理する方法には、従来から燃料として燃やすサーマルリサイクル法、原材料に戻すケミカルリサイクル法、および、新たなプラスチック成形品を成形する材料として再利用するマテリアルリサイクル法があるが、このうちでマテリアルリサイクル法は、省資源、省エネルギー、経済性、および環境対策の観点から最も望ましい処理方法であると言える。
しかしながら、上記プラスチック廃材は、それぞれ特性を異にする多種類のプラスチック材料の混合体であるので、従来のマテリアルリサイクル法では、成形品を成形する際に異種材料間で相間剥離が発生して物性が低下し、特に衝撃強度が著しく低下するため製品としての用途が限られるという問題があった。
【0005】
また、下記特許文献1等に示されたように、従来からプラスチックに添加されている公知の安定剤や改質剤、或いは金属不活性剤、難燃剤等をプラスチック廃材に添加したり、ポリプロピレンやポリエチレン等の所謂バージン材をプラスチック廃材に混ぜることが考えられていたが、これらの方法ではコストが高くなり、その割に十分な機械的強度が達成されないという問題があった。
【特許文献1】特開2005−23190号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、上記従来の改質材の欠点を克服し、機械的強度が優れた成形品をプラスチック廃材によって容易に成形することができるプラスチック廃材のリサイクル成形方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのために請求項1に記載したプラスチック廃材のリサイクル成形方法の発明は、熱可塑性エラストマーと粒子径1μm未満の微粉末とを混合してなる改質剤を多種類のプラスチック材料が混在するプラスチック廃材に添加して溶融し所定形状の成形品とすることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は上記プラスチック廃材のリサイクル成形方法において、プラスチック廃材はポリプロピレンおよびポリエチレンを主成分とするものであることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は上記プラスチック廃材のリサイクル成形方法において、微粉末は平均粒子径0.1〜0.5μmの炭酸カルシウムからなるものであることを特徴とする。
また、請求項4に記載の発明は上記プラスチック廃材のリサイクル成形方法において、熱可塑性エラストマーはポリスチレンとポリブタジエンを共重合したスチレン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする。
また、請求項5に記載の発明は上記プラスチック廃材のリサイクル成形方法において、熱可塑性エラストマーはポリスチレンとポリエチレン・ポリブチレンを共重合したスチレン系熱可塑性エラストマーであることを特徴とする。
また、請求項6に記載の発明は上記プラスチック廃材のリサイクル成形方法において、改質剤は熱可塑性エラストマーを1重量部に対して微粉末を2〜3重量部混合してなるものであることを特徴とする。
また、請求項7に記載の発明は上記プラスチック廃材のリサイクル成形方法において、プラスチック廃材を100重量部に対して改質剤を1〜20重量部の割合で添加することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る改質剤をプラスチック廃材に添加することにより、成形品の機械的強度が向上する。また、低コストで改質できるのでプラスチック廃材のマテリアルリサイクルを促進させる。このため資源の循環型社会が実現され地球環境の保護に役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この改質剤はスチレン系熱可塑性エラストマーを1重量部に対して平均粒子径0.1〜0.5μmの炭酸カルシウム微粉末を2〜3重量部混合してなる。なお、このスチレン系熱可塑性エラストマーと炭酸カルシウム微粉末との混合比は、コスト面からも望ましい。
スチレン系熱可塑性エラストマーは、図1に示したように、ポリスチレン部分(ハードセグメント)と、柔らかい性質を与えるポリブタジエンまたはポリエチレン・ポリブチレンの部分(ソフトセグメント)をブロック状に共重合させた基本単位構造を持ち、これらは夫々SBS、SEBSと表されている。ポリスチレンの末端ブロックは互いに凝集して極微小粒子を形成し、この極微小粒子が均一に分散し架橋ゴムの架橋点に相当する役割を果たすため三次元網目構造の弾性体としての性質を示す。しかし、140〜230℃に加熱すると溶融し、熱可塑性樹脂としての流動性を示す。なお、SEBSはSBSのブタジエン部分を水素添加して不飽和二重結合をなくしたもので、優れた耐熱性・耐候性を有する。
この実施形態ではアロン化成株式会社から商品名「エラストマーAR−140」として市販されているスチレン系熱可塑性エラストマーを使用する。表2はこのスチレン系熱可塑性エラストマーの基本物性を示す。
【表2】

【0010】
また、上記微粉末は炭酸カルシウムを乾式で機械的に超微粉砕することにより、平均粒子径0.1〜0.5μmの球形に近い不定形粒子となる。そして、この微粉末に金属石鹸により再凝集防止処理を施すのが望ましい。
上記スチレン系熱可塑性エラストマーとこの微粉末とを混合するに際しては、150℃程度に加熱した容器にスチレン系熱可塑性エラストマーを入れて該エラストマーを溶融した後、微粉末を少量ずつ十分に混練されたのを確かめながら3回程度に分けて投入することにより、該微粉末を該エラストマー中に均一に分散させるようにする。なお、微粉末を一度に投入することは均一な分散を困難にするので好ましくない。
【0011】
一方、一般家庭から排出されるプラスチック廃材は、破砕機に掛けて数センチ〜数ミリのチップ状に破砕し、このプラスチック廃材を1重量部に対して上記改質剤を0.01〜0.2重量部の割合で添加し、以下に例示するようにこれを溶融し所定形状の成形品に成形する。
【0012】
次に上記プラスチック廃材を溶融成形する手段を説明する。プラスチック廃材を溶融成形するには、プレス成形装置による方法と、押出成形装置による方法と、射出成形装置による方法とがある。プレス成形装置を使用するに際しては、先ず図2に示した回転羽根型ミキシング機を使用する。この回転羽根型ミキシング機1は、チャンバ2中を貫通するモータ3の回転軸4に螺旋状のスクリュ5および複数の羽根6が設けられ、該チャンバの下部にシャッター7を備えた排出口8を設けてなるもので、ホッパー9にプラスチック廃材を上記改質剤と共に投入し、モータ3の駆動によってスクリュ5および羽根6を高速回転させ、これらを混合攪拌するとともに、該羽根6によりプラスチック廃材を激しく衝突させ、そのときの摩擦による自己発熱により、該プラスチック廃材が溶融し、ゲル状態となる。こうしてゲル状態となったプラスチック廃材はシャッター7を開けて取り出される。図3は下型10aと上型10bとからなるプレス成形装置10を示し、ゲル状態となったプラスチック廃材11を該下型内にセットして上型10bを圧下することにより該プラスチック廃材を所定形状に成形することができる。
【0013】
表3はスチレン系熱可塑性エラストマーを1重量部に対して上記炭酸カルシウム微粉末を2重量部混合した改質剤(以下、改質剤Aという)をプラスチック廃材に添加したことによる物性の改善効果を試験した結果を示す。また表4はスチレン系熱可塑性エラストマーを1重量部に対して上記炭酸カルシウム微粉末を3重量部混合した改質剤(以下、改質剤Bという)をプラスチック廃材に添加したことによる物性の改善効果を試験した結果を示す。これらの試験には、上記プレス成形(面圧50kg/cmとする)により、一辺の長さが200mmで厚さ5mmの正方形板を成形しこれをテストピースとして用いた。なお、表3中(1)は改質剤を全く添加しないで成形したテストピースの機械的強度を測定した結果を示す。表3中(2)〜(6)はプラスチック廃材を100重量部に対して改質剤Aの添加割合を夫々3〜20重量部としたときの上記テストピースの機械的強度を示す。また、表4中(7)〜(11)は同じく改質剤Bの添加割合を3〜20重量部としたときの上記テストピースの機械的強度を示す。
【表3】

【表4】

【0014】
このように改質剤Aおよび改質剤Bは、プラスチック廃材に添加することにより、その成形品の機械的強度を大幅に向上させることが分かったが、改質剤Aは特に衝撃強度を改善する効果が顕著であるのに対し、改質剤Bは引張強度を改善する効果が顕著であることが判明した。このため成形品の用途によって改質剤Aと改質剤Bとを使い分けることが望ましい。
【0015】
なお、プラスチック廃材に対するこれらの改質剤の添加割合については、この表3,表4に示されたように、プラスチック廃材を100重量部に対して改質剤を1〜20重量部の割合で添加するのがよく、改質剤の添加割合が1重量部以下では機械的強度を向上させるには至らない。また、改質剤を20重量部以上添加してもコストを増大させるだけでさらなる機械的強度の向上は見込めない。
【0016】
このように本発明に係る改質剤は、熱可塑性エラストマーに粒子径1μm未満(好ましくは、平均粒子径0.1〜0.5μm)の微粉末を混合したものであるので、該微粉末が溶融したプラスチック廃材と混じることにより三次元網目構造の熱可塑性エラストマーと相俟って種類の異なるプラスチックを結合させ相間剥離を防止する。このため、成形品の物性、機械的強度を著しく向上させる。このため、運搬用パレットのような耐衝撃性を要する物品にまで用途が拡大され、製品価値の高い物に容易にリサイクルすることができる。
【0017】
なお、この実施形態はプレス成形装置によって成形する過程を示したが、本発明ではプレス成形装置によるものだけでなく射出成形装置や押出成形装置によっても成形することが可能である。図4はスクリュー型押出成形装置15を例示するもので、横置されたシリンダ20の基部上面にホッパ21が設けられ、該シリンダ20中にモータ22により回転するスクリュ23が設けられ、該シリンダの先端部にはダイス24に連なる材料押出通路が形成された金型25が設けられている。26は該シリンダの外周に設けられたバンドヒータである。また、27はダイス24の先方に設けられた支持ローラである。
【0018】
この押出成形装置では、ホッパ21にプラスチック廃材を上記改質剤と共に投入し、スクリュ23を旋回させることにより該プラスチック廃材を混合攪拌し、バンドヒータ26の加熱により該プラスチック廃材を溶融させる。そしてゲル状態となったプラスチック廃材をダイス24から押し出し、成形品28を支持ローラ27に支持させ抽出するものである。このように押出成形による方法は、溶融・成形が連続的に行われることから生産性を向上させる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係る改質剤を構成する熱可塑性エラストマーの基本単位構造を示す模式図。
【図2】本発明に係る成形方法を実施するための回転羽根型ミキシング機の縦断面図。
【図3】本発明に係る成形方法を実施するためのプレス成形装置の縦断面図。
【図4】本発明に係る成形方法を実施するための押出成形装置の縦断面図。
【符号の説明】
【0020】
1 回転羽根型ミキシング機
10 プレス成形装置
15 スクリュー型押出成形装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性エラストマーと粒子径1μm未満の微粉末とを混合してなる改質剤を多種類のプラスチック材料が混在するプラスチック材料に添加して溶融し所定形状の成形品とすることを特徴としたプラスチック材料の成形方法。
【請求項2】
プラスチック廃材はポリプロピレンおよびポリエチレンを主成分とするものである請求項1に記載したプラスチック材料の成形方法。
【請求項3】
微粉末は平均粒子径0.1〜0.5μmの炭酸カルシウムからなるものである請求項1または2に記載したプラスチック材料の成形方法。
【請求項4】
熱可塑性エラストマーはポリスチレンとポリブタジエンを共重合したスチレン系熱可塑性エラストマーである請求項1〜3のいずれかに記載したプラスチック材料の成形方法。
【請求項5】
熱可塑性エラストマーはポリスチレンとポリエチレン・ポリブチレンを共重合したスチレン系熱可塑性エラストマーである請求項1〜4のいずれかに記載したプラスチック材料の成形方法。
【請求項6】
改質剤は熱可塑性エラストマーを1重量部に対して微粉末を2〜3重量部混合してなるものである請求項1〜5のいずれかに記載したプラスチック材料の成形方法。
【請求項7】
プラスチック材料を100重量部に対して改質剤を1〜20重量部の割合で添加する請求項1〜6のいずれかに記載したプラスチック材料の成形方法。
【請求項8】
多種類のプラスチック材料が混在するプラスチック材料はプラスチック廃材である請求項1〜7のいずれかに記載したプラスチック廃材のリサイクル成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−291213(P2007−291213A)
【公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−119547(P2006−119547)
【出願日】平成18年4月24日(2006.4.24)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(398000956)株式会社コーハン (14)
【Fターム(参考)】