説明

プラスチック歯車

【課題】 射出成形により製造した場合でも、外周に歯部を高い精度をもって形成可能なプラスチック歯車を提供すること。
【解決手段】 成形プラスチック歯車1を射出成形する際、ピンポイントゲート9を最内周の環状ウェブ51に相当する位置に配置し、歯部3から遠ざける。また、最外周の環状ウェブ54の他、内側から2番目の環状ウェブ52についても、リブ無しの環状ウェブとする。このため、リブ61、63に相当する部分で発生しがちな樹脂の収縮が歯部3の形状や寸法精度に影響を及ぼさない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタや複写機などのOA機器、自動車ウィンドレギュレーターなどの精密駆動系に用いられるプラスチック歯車に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プリンタや複写機などのOA機器、自動車ウィンドレギュレーターなどの精密駆動系に用いられている成形プラスチック歯車は、射出成形用金型のキャビティ内にゲートから溶融樹脂を注入することにより成形される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このようなプラスチック歯車は、図4に示すように、外周に形成される歯部103の歯底部分近傍の環状リム130の内側が肉薄のウェブ105とされ、かつ、ウェブ105には、このウェブ105を3つの同心円状の環状ウェブ151、152、153に分割する2本の環状リム141、142が形成されている。また、3つの環状ウェブ151、152、153のうち、内側から1番目の環状ウェブ151と、2番目の環状ウェブ152とには、放射状に延びた複数本のリブ161、162が各々形成されている。このため、3つの環状ウェブ151、152、153のうち、内側から1番目の環状ウェブ151と2番目の環状ウェブ152は、リブ有りの環状ウェブになっているのに対して、内側から3番目の環状ウェブ153は、リブ無しの環状ウェブになっている。なお、内側から2番目の環状ウェブ152に対しては、樹脂成形時に複数のゲート109が等角度間隔で配置される。
【0004】
このような構造のプラスチック歯車101では、ウェブ105に対して、環状リム141、142やリブ161、162が形成されているので、軽量化と剛性の向上とを図ることができる。また、最外周の環状ウェブ153は、リブが形成されていないリブ無しの環状ウェブになっているため、樹脂成形の際、歯部103には、リブの存在に起因するひけが発生しない。
【特許文献1】特開平10−278124号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、図4に示すプラスチック歯車101では、それを樹脂成形する際のゲート109が外周側に位置し、歯部103に近いため、歯部103では、周方向においてゲート109に近い部分と遠い部分との間に大きな射出圧力差が発生してしまう。すなわち、ゲート109に最も近い部分では射出圧力が最も高く、この部分から周方向にずれるにしたがって射出圧力が段々に低下する。このため、歯部103に対する転写性にばらつきが発生し、噛み合い精度が低いという問題がある。
【0006】
そこで、本願発明は、図5に示すように、3つの環状ウェブ151、152、153のうち、内周側の環状ウェブ151に対してゲート109を等角度間隔で配置することを提案するものである。しかしながら、内周側の環状ウェブ151に対してゲート109を配置すると、その分、ゲート109と歯部103とが離れているため、成形樹脂に対しては、可能な限り高い圧力を印加して、その転写性を高める必要があり、その結果、最外周の環状ウェブ153だけでは、リブ161、162の影響を抑えることができず、JGMA規格の1級、0級精度の成形プラスチック歯車を成形することが大変、困難であるという問題点がある。
【0007】
以上の問題を鑑みて、本発明の課題は、射出成形により製造した場合でも、外周に歯部を高い精度をもって形成可能なプラスチック歯車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明では、外周に形成される歯部の歯底部分の内側を肉薄のウェブとしたプラスチック歯車であって、前記ウェブには、当該ウェブを複数の同心円状の環状ウェブに分割する複数本の肉厚の環状リムが同心状に形成され、前記複数の環状ウェブのうち、樹脂成形時にゲートが配置される環状ウェブより外周側には、前記環状リム同士を接続するリブが形成されていないリブ無しの環状ウェブが2つ以上、形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明では、プラスチック歯車を樹脂成形する際、ゲートを内周側に配置し、歯部から遠ざけてある。このため、歯部では、ゲートに近い部分とゲートから遠い部分との間に大きな射出圧力差が発生しない。従って、歯部に対する転写性にばらつきが発生しない。また、ゲートを内周側に配置した場合には、射出圧力を高めることにより歯部での転写性を高める必要があるが、このような場合でも、ゲートが配置される環状ウェブの外周側に、2つ以上のリブ無しの環状ウェブが配置されているので、たとえ他の環状ウェブにリブが形成されている場合でも、リブの影響によって、歯部の形状や寸法精度が低下することがない。また、全ての環状ウェブがリブ無しの環状ウェブであっても、リブの影響によって、歯部の形状や寸法精度が低下することがない。それ故、直径が40mm以上の大口径のプラスチック歯車を製造する場合でも、JGMA規格の1級、0級の精度を確保することができる。
【0010】
本発明において、前記2つ以上のリブ無しの環状ウェブには、最外周の環状ウェブが含まれていることが好ましい。このように構成すると、樹脂成形の際、歯部には、リブの存在に起因するひけが発生しない。
【0011】
本発明において、前記複数の環状ウェブには、前記2つ以上のリブ無しの環状ウェブと、前記リブが複数本、放射状に形成されたリブ有りの環状ウェブとが含まれていることがある。この場合、前記複数の環状ウェブでは、前記リブ無しの環状ウェブと前記リブ有りの環状ウェブが交互に配置されていることが好ましい。このように構成すると、リブ有り環状ウェブでの溶融樹脂の流動の乱れを、その外周側に隣接するリブ無し環状ウェブで取り除くことができる。また、リブ有りの環状ウェブが2つ以上配置されている場合には、リブ有りの環状ウェブ同士、リブの角度位置がずれていることが好ましい。このように構成すると、リブでの樹脂の収縮が周方向の特定位置に集中しないので、リブの影響によって、歯部の形状や寸法精度が低下することがない。
【0012】
本発明の別の形態では、前記複数の環状ウェブはいずれも、リブ無しの環状ウェブである構成を採用してもよい。
【0013】
本発明において、前記複数の環状ウェブのうち、最内周の環状ウェブに対して前記ゲートが配置されていることが好ましい。
【0014】
本発明において、前記複数の環状ウェブには、前記2つ以上のリブ無しの環状ウェブと、前記リブが複数本、放射状に形成されたリブ有りの環状ウェブとが含まれている場合、前記複数の環状ウェブのうち、最内周の環状ウェブに対して前記ゲートが配置されているとともに、少なくとも、内側から2番目の環状ウェブが前記リブ無しの環状ウェブであり、当該内側から2番目の環状ウェブは、前記リブ有りの環状ウェブよりも厚さが0.5mm以上、薄いことが好ましい。このように構成すると、ゲートから射出された溶融樹脂は、内側から2番目の環状ウェブで流量が搾られた後、外周側に向けて流動するので、射出圧力が均一化される。それ故、歯部に対しては、射出圧力が均等に加わることになるので、高精度なプラスチック歯車を製造できる。
【0015】
本発明において、前記複数の環状ウェブには、前記2つ以上のリブ無しの環状ウェブと、前記リブが複数本、放射状に形成されたリブ有りの環状ウェブとが含まれている場合、前記複数の環状ウェブのうち、最内周の環状ウェブに対して前記ゲートが配置されているとともに、少なくとも、内側から2番目の環状ウェブが前記リブ無しの環状ウェブであり、当該内側から2番目の環状ウェブの厚さと、前記リブ有りの環状ウェブの厚さの比が1:1.15から1:2までの範囲内にあることが好ましい。このように構成すると、ゲートから射出された溶融樹脂は、内側から2番目の環状ウェブで流量が搾られた後、外周側に向けて流動するので、射出圧力が均一化される。それ故、歯部に対しては、射出圧力が均等に加わることになるので、高精度なプラスチック歯車を製造できる。
【0016】
本発明において、前記最外周の環状ウェブは、他の環状ウェブよりも幅が狭いことが好ましい。このように構成すると、プラスチック歯車の外周側の剛性を高めることができるので、最外周の環状ウェブにリブが形成されていないことによる剛性不足を防止でき、歯車同士が噛み合った際、歯部の変形を防止できる。また、溶融樹脂の流動の乱れについては、内側のリブ無し環状ウェブで除去されているので、最外周の環状ウェブについては幅が狭い場合でも、歯部の形状精度が低下することがない。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、ゲートから歯部に至る溶融樹脂の流動経路上には、隣り合う環状リムの間を繋ぐリブが形成されずにウェブのみで繋がれることになる環状部分が2つ以上、設けられている。このため、成形プラスチック歯車を射出成形する際、ゲートから射出される溶融樹脂は、2つ以上の環状部分を通ってプラスチック歯車の外周側、すなわち歯部に向かって流動することになる。リブに沿って流動する溶融樹脂は、環状部分に至ると、ここではウェブに沿って流動することになるので、均一に流動する。すなわち、環状部分は流動する溶融樹脂に対しバッファ的役割を果たし、本発明では、環状部分がゲートから歯部に至る溶融樹脂の流動経路上に2つ以上、設けられているので、環状歯車部材に向けて溶融樹脂を均一に流動させることができる。それ故、本発明によれば、直径が40mm以上の大口径の成形プラスチック歯車を製造するような場合でも、高精度に製造することができ、従来の成形プラスチック歯車に比べて、歯車精度を格段に向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
図面を参照して、本発明を適用したプラスチック歯車の一例を説明する。
[実施の形態1]
(歯車の構成)
図1(a)、(b)は、本発明の実施の形態1に係るプラスチック歯車を示す正面図、およびそのA−A′線で切断した部分の概略断面図である。
【0019】
図1(a)、(b)に示すように、本形態のプラスチック歯車1は、プリンタや複写機などのOA機器、自動車ウィンドレギュレーターなどの精密駆動系に用いられるものであり、直径が例えば約40mm以上の大きな径を有している。
【0020】
本形態において、プラスチック歯車1は、中央に円筒形のハブ2を有するとともに、外周に歯部3を有している。また、プラスチック歯車1において、ハブ2と歯部3の間は、歯底部分近傍の環状リム30の内側部分が肉抜きされて肉薄のウェブ5が形成されている。ウェブ5には、ウェブ5を複数の同心円状の環状ウェブ51、52、53、54に分割する複数本の肉厚の環状リム41、42、43が同心状に形成されており、本形態では、3本の環状リム41、42、43によって、4つの環状ウェブ51、52、53、54が形成されている。
【0021】
これら4つの環状ウェブ51、52、53、54のうち、まず、最内周の環状ウェブ51には、プラスチック歯車1を樹脂成形する際の複数のピンポイントゲート9が等角度間隔に配置される。また、最内周の環状ウェブ51は、その両面に複数本のリブ61が放射状に配置されたリブ有りの環状ウェブになっており、ハブ2と環状リム41は、これらのリブ61によって繋がっている。本形態では、6本のリブ61の各間にピンポイントゲート9が配置されている。
【0022】
次に、内側から2番目の環状ウェブ52は、その両面のいずれにもリブが形成されていないリブ無しの環状ウェブになっている。
【0023】
次に、内側から3番目の環状ウェブ53は、その両面に複数本のリブ63が放射状に配置されたリブ有りの環状ウェブになっており、リム42とリム43は、これらのリブ63によって繋がっている。本形態では、12本のリブ63が形成され、これらのリブ63は、最内周の環状ウェブ51に形成されているリブ61と角度位置が完全にずれた位置に形成さされている。
【0024】
そして、4番目の環状ウェブ54(最外周の環状ウェブ)は、その両面のいずれにもリブが形成されていないリブ無しの環状ウェブになっている。
【0025】
ここで、リブ無しの環状ウェブである内側から2番目の環状ウェブ52の厚さをt2とし、リブ有りの環状ウェブである内側から1番目、3番目の環状ウェブ51、53の厚さをt1、t3とすると、厚さt1、t2、t3は、下式
t2<t1=t3
t2:t1=1:1.15〜1:2
で示す関係にある。
【0026】
また、リブ無しの環状ウェブである内側から2番目の環状ウェブの厚さ52をt2とし、リブ有りの環状ウェブ51、53の厚さをt1、t3とすると、厚さt1、t2、t3は、下式
t2<t1=t3
t1−t2=0.5mm
を満たすように設計されることもある。例えば、2番目の環状ウェブ52の厚さt2を2.0mmとし、1番目、3番目の環状ウェブ51、53の厚さt1、t3を2.5mmとする。
【0027】
なお、リブ無しの環状ウェブである内側から4番目の環状ウェブ54(最外周の環状ウェブ)の厚さt4は、同じくリブ無しの環状ウェブである内側から2番目の環状ウェブ52の厚t2と同等に設計される。
【0028】
(歯車の製造方法)
このようなプラスチック歯車1は、ピンポイントゲート9から成形金型(図示せず)のキャビティ内に射出された溶融樹脂、例えばPOM(ポリオキシメチレン)などにより成形される。その際、ピンポイントゲート9は、最内周の環状ウェブ51に相当する位置に配置されるので、ピンポイントゲート9から歯部3に向かう溶融樹脂は、各環状ウェブ51、52、53、54、リブ61、63、環状リム41、42、43、30を経由する。その際、環状リム41、42、43、30は、流動する溶融樹脂に対しバッファ的役割を果たし、環状リム41、42、43、30からその外側の歯部3に向かって溶融樹脂が均一に流動することとなる。
【0029】
(本形態の効果)
このように本形態では、プラスチック歯車1を樹脂成形する際、ピンポイントゲート9を最内周の環状ウェブ51に相当する位置に配置し、歯部3から遠ざけてある。このため、歯部3では、周方向においてピンポイントゲート9に近い部分と遠い部分との間に大きな射出圧力差が発生しないので、歯部3に対する転写性にばらつきが発生しない。また、ピンポイントゲート9を内周側に配置した場合には、射出圧力を高めることにより歯部3での転写性を高める必要がある。それでも本形態では、最外周の環状ウェブ54の他、内側から2番目の環状ウェブ52についても、リブ無しの環状ウェブとしてあるため、たとえ他の環状ウェブ51、53に肉厚のリブ61、63が形成されている場合でも、リブ61、63に相当する部分で発生しがちな樹脂の収縮が歯部3の形状や寸法精度に影響を及ぼさない。よって、本形態によれば、直径が40mm以上の大口径のプラスチック歯車1を製造する場合でも、高精度に製造することができる。ここで、本発明者らが行ったJGMA規格に基づく噛み合い試験によると、従来に比べて20μm〜40μmも歯車精度を向上させることができ、JGMA規格の1級、0級の精度を確保することができた。また、JIS規格に基づく歯形、歯すじの試験では、略計算値に近い実測値を得ることができた。
【0030】
また、本形態では、リブ無しの環状ウェブ52、54とリブ有りの環状ウェブ51、53が交互に配置されているため、リブ有りの環状ウェブ51、53での溶融樹脂の流動の乱れを、その外周側に隣接するリブ無し環状ウェブ52、54で効率よく取り除くことができる。
【0031】
さらに、リブ有りの環状ウェブ51、53同士、リブ61、63の角度位置がずれているため、リブ61、63での樹脂の収縮が周方向の特定位置に集中しないので、リブ61、63の影響によって、歯部3の形状や寸法精度が低下することがない。
【0032】
また、本形態において、内側から2番目の環状ウェブ52がリブ無しの環状ウェブであり、この2番目の環状ウェブ52の厚さは、リブ有りの環状ウェブ51、53の厚さより薄い。例えば、内側から2番目の環状ウェブ52は、リブ有りの環状ウェブ51、53よりも厚さが0.5mm、薄い。また、内側から2番目の環状ウェブ52の厚さと、リブ有りの環状ウェブ51、53の厚さの比が1:1.15から1:2までの範囲内にある。このため、ピンポイントゲート9から射出された溶融樹脂は、内側から2番目の環状ウェブ52で流量が搾られた後、外周側に向けて流動するので、射出圧力が均一化される。それ故、歯部3に対しては、射出圧力が均等に加わることになるので、高精度なプラスチック歯車1を製造できる。
【0033】
さらに、最外周の環状ウェブ54は、他の環状ウェブ51、52、53よりも幅が狭いので、プラスチック歯車1の外周側の剛性を高めることができる。従って、最外周の環状ウェブ54にリブが形成されていないことによる剛性不足を防止でき、歯車同士が噛み合った際、歯部3の変形を防止できる。また、溶融樹脂の流動の乱れについては、それより内側のリブ無しの環状ウェブ52(内側から2番目の環状ウェブ52)で除去されているので、最外周の環状ウェブ54については幅が狭い場合でも、歯部3の形状精度が低下することがない。
[実施の形態2]
図2(a)、(b)は、本発明の実施の形態2に係るプラスチック歯車を示す正面図、およびそのB−B′線で切断した部分の概略断面図である。なお、本形態および後述する実施の形態3は、基本的な構成が実施の形態1と共通しているので、対応する機能を有する部分には同一の符号を付してそれらの説明を省略する。
【0034】
図2(a)、(b)に示すように、本形態のプラスチック歯車1も、実施の形態1と同様、ハブ2と歯部3の間は、歯底部分近傍の環状リム30の内側部分が肉抜きされて肉薄のウェブ5が形成されている。ウェブ5には、ウェブ5を6つ同心円状の環状ウェブ51、52、53、54、55、56に分割する5本の肉厚の環状リム41、42、43、44、45が同心状に形成されている。
【0035】
これら6つの環状ウェブ51、52、53、54、55、56のうち、まず、最内周の環状ウェブ51には、プラスチック歯車1を樹脂成形する際の複数のピンポイントゲート9が等角度間隔に配置される。また、最内周の環状ウェブ51は、その両面に6本のリブ61が放射状に配置されたリブ有りの環状ウェブになっており、ハブ2と環状リム41は、これらのリブ61によって繋がっている。
【0036】
次に、内側から2番目の環状ウェブ52は、その両面のいずれにもリブが形成されていないリブ無しの環状ウェブになっている。
【0037】
次に、内側から3番目の環状ウェブ53は、その両面に6本のリブ63が放射状に配置されたリブ有りの環状ウェブになっており、リム42とリム43は、これらのリブ63によって繋がっている。
【0038】
次に、内側から4番目の環状ウェブ54は、その両面のいずれにもリブが形成されていないリブ無しの環状ウェブになっている。
【0039】
次に、内側から5番目の環状ウェブ55は、その両面に12本のリブ65が放射状に配置されたリブ有りの環状ウェブになっており、リム44とリム45は、これらのリブ63によって繋がっている。
【0040】
そして、6番目の環状ウェブ55(最外周の環状ウェブ)は、その両面のいずれにもリブが形成されていないリブ無しの環状ウェブになっている。
【0041】
ここで、リブ無しの環状ウェブである内側から2番目の環状ウェブ52の厚さをt2とし、リブ有りの環状ウェブである内側から1番目、3番目、5番目の環状ウェブ51、53、55の厚さをt1、t3、t5とすると、厚さt1、t2、t3、t5は、下式
t2<t1=t3=t5
t2:t1=1:1.15〜1:2
で示す関係にある。
【0042】
また、リブ無しの環状ウェブである内側から2番目の環状ウェブの厚さ52をt2とし、リブ有りの環状ウェブ51、53、55の厚さをt1、t3、t5とすると、厚さt1、t2、t3、t5は、下式
t2<t1=t3=t5
t1−t2=0.5mm
を満たすように設計されることもある。例えば、2番目の環状ウェブ52の厚さt2を2.0mmとし、1番目、3番目、5番目の環状ウェブ51、53、55の厚さt1、t3、t5を2.5mmとする。
【0043】
なお、リブ無しの環状ウェブである内側から6番目の環状ウェブ56(最外周の環状ウェブ)の厚さt6は、同じくリブ無しの環状ウェブである内側から2番目の環状ウェブ52の厚t2と同等に設計される。
【0044】
このように構成した場合も、プラスチック歯車1を樹脂成形する際、ピンポイントゲート9を最内周の環状ウェブ51に相当する位置に配置し、歯部3から遠ざけてあるため、歯部3では、周方向においてピンポイントゲート9に近い部分と遠い部分との間に大きな射出圧力差が発生しないので、歯部3に対する転写性にばらつきが発生しない。また、射出圧力を高めることにより歯部3での転写性を高めた場合でも、本形態では、最外周の環状ウェブ56の他、内側から2番目、4番目の環状ウェブ52、54についても、リブ無しの環状ウェブとしてあるため、たとえ他の環状ウェブ51、53、55に肉厚のリブ61、63、65が形成されている場合でも、リブ61、63、65に相当する部分で発生しがちな樹脂の収縮が歯部3の形状や寸法精度に影響を及ぼさない。よって、本形態によれば、直径が40mm以上の大口径のプラスチック歯車1を製造する場合でも、JGMA規格の1級、0級の精度を確保することができるなど、実施の形態1と同様な効果を奏する。
[実施の形態3]
図3(a)、(b)は、本発明の実施の形態3に係るプラスチック歯車を示す正面図、およびそのC−C′線で切断した部分の概略断面図である。
【0045】
図3(a)、(b)に示すように、本形態のプラスチック歯車1も、実施の形態1、2と同様、ハブ2と歯部3の間は、歯底部分近傍の環状リム30の内側部分が肉抜きされて肉薄のウェブ5が形成されている。ウェブ5には、ウェブ5を6つ同心円状の環状ウェブ51、52、53、54、55、56に分割する5本の肉厚の環状リム41、42、43、44、45が同心状に形成されている。これら6つの環状ウェブ51、52、53、54、55、56はいずれも、その両面のいずれにもリブが形成されていないリブ無しの環状ウェブになっている。
【0046】
このように構成した場合も、プラスチック歯車1を樹脂成形する際、ピンポイントゲート9を最内周の環状ウェブ51に相当する位置に配置し、歯部3から遠ざけてあるため、歯部3では、周方向においてピンポイントゲート9に近い部分と遠い部分との間に大きな射出圧力差が発生しないので、歯部3に対する転写性にばらつきが発生しない。また、射出圧力を高めることにより歯部3での転写性を高めた場合でも、本形態では、環状ウェブ51、52、53、54、55、56のいずれについても、リブ無しの環状ウェブとしてあるため、リブを形成した場合に発生するリブに相当する部分で発生しがちな樹脂の収縮が歯部3の形状や寸法精度に影響を及ぼさない。
【0047】
[その他の形態]
なお、実施の形態1、2のいずれにおいても、環状リムおよびリブをウェブ5の両面に形成したが、片面のみに形成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】(a)、(b)は、本発明の実施の形態1に係る成形プラスチック歯車を示す正面図、およびそのA−A′線で切断した部分の概略断面図である。
【図2】(a)、(b)は、本発明の実施の形態1の変形例に係るプラスチック歯車を示す正面図、およびそのB−B′線で切断した部分の概略断面図である。
【図3】(a)、(b)は、本発明の実施の形態2に係る成形プラスチック歯車を示す正面図、およびそのC−C′線で切断した部分の概略断面図である。
【図4】(a)、(b)は、従来の成形プラスチック歯車を示す正面図、およびそのD−D′線で切断した部分の概略断面図である。
【図5】(a)、(b)は、参考例に係る成形プラスチック歯車を示す正面図、およびそのE−E′線で切断した部分の概略断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 プラスチック歯車
2 ハブ
3 歯部
5 ウェブ
9 ピンポイントゲート
30 歯底部分近傍の環状リム
41〜45 環状リム
51〜56 環状ウェブ
61、63、65 リブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に形成される歯部の歯底部分の内側を肉薄のウェブとしたプラスチック歯車であって、
前記ウェブには、当該ウェブを複数の同心円状の環状ウェブに分割する複数本の肉厚の環状リムが同心状に形成され、
前記複数の環状ウェブのうち、樹脂成形時にゲートが配置される環状ウェブより外周側には、前記環状リム同士を接続するリブが形成されていないリブ無しの環状ウェブが2つ以上、形成されていることを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項2】
請求項1において、前記2つ以上のリブ無しの環状ウェブには、最外周の環状ウェブが含まれていることを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項3】
請求項1または2において、前記複数の環状ウェブには、前記2つ以上のリブ無しの環状ウェブと、前記リブが複数本、放射状に形成されたリブ有りの環状ウェブとが含まれていることを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項4】
請求項3において、前記複数の環状ウェブでは、前記リブ無しの環状ウェブと前記リブ有りの環状ウェブが交互に配置されていることを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項5】
請求項3または4において、前記リブ有りの環状ウェブが2つ以上配置され、当該リブ有りの環状ウェブの間では前記リブの角度位置がずれていることを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項6】
請求項1または2において、前記複数の環状ウェブはいずれも、リブ無しの環状ウェブであることを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかにおいて、前記複数の環状ウェブのうち、最内周の環状ウェブに対して前記ゲートが配置されていることを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項8】
請求項3ないし5のいずれかにおいて、前記複数の環状ウェブのうち、最内周の環状ウェブに対して前記ゲートが配置されているとともに、少なくとも、内側から2番目の環状ウェブが前記リブ無しの環状ウェブであり、
当該内側から2番目の環状ウェブは、前記リブ有りの環状ウェブよりも厚さが0.5mm以上、薄いことを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項9】
請求項3ないし5のいずれかにおいて、前記複数の環状ウェブのうち、最内周の環状ウェブに対して前記ゲートが配置されているとともに、少なくとも、内側から2番目の環状ウェブが前記リブ無しの環状ウェブであり、
当該内側から2番目の環状ウェブの厚さと、前記リブ有りの環状ウェブの厚さの比が1:1.15から1:2までの範囲内にあることを特徴とするプラスチック歯車。
【請求項10】
請求項1ないし9のいずれかにおいて、前記最外周の環状ウェブは、他の環状ウェブよりも幅が狭いことを特徴とするプラスチック歯車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−70914(P2006−70914A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−251423(P2004−251423)
【出願日】平成16年8月31日(2004.8.31)
【出願人】(591021671)日本電産ニッシン株式会社 (13)
【Fターム(参考)】