説明

プラスチック製偏光レンズ

【課題】予備成形された偏光素子の変形を軽減し、偏光性能の良い偏光レンズを得ることである。
【解決手段】曲面状に成形された曲面部と曲面部の周縁に鍔状に成形された2以上の円環部とからなることを特徴とするプラスチック製偏光レンズ用偏光素子により、上記課題を解決する。また、2以上の円環部の代わりに略U字状の断面を有する円環部としても良い。上記のような円環部を有する偏光素子により、リブによる形状維持の効果は強力になり、偏光性能のよい偏光レンズを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特殊な形状をしたプラスチック製偏光レンズ偏向素子に関する。また、その偏光素子を使用したプラスチック製偏光レンズ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチック製偏光レンズを使用した眼鏡は、スキーや釣りといったスポーツの分野において使用される他、自動車の運転時にもその防眩性が好まれ使用されている。プラスチック製偏光レンズを製造する方法としては、射出成形法、プレス成形法、キャスト法等があるが、視力矯正の性能も求める場合、熱硬化型樹脂の高屈折率化や、歪みの少なさといった理由からキャスト法によるものが好ましい。キャスト法は、ガスケットと1対のモールドとから組み立てられるシェル内において熱硬化型樹脂を重合硬化させる方法で、シェルの組立時にシェル内に偏光素子を配置する。
【0003】
特許文献1〜3にはキャスト法により、偏光素子を内部に組み込んで成形する偏光レンズの製造方法が開示されている。偏光レンズに使用される偏光素子は、主にフィルム状のものが使用され、偏光レンズの製造の際に予め曲面状に予備成形される。しかしながら、フィルム状の偏光素子は厚さが薄く、変形しやすいので、予備成形された形状を維持してシェル内に配置することが難しく、せっかく形状を維持して配置できても重合硬化の際にその形状を崩してしまうという欠点があった。内部の偏光素子が変形している偏光レンズは、装着者に不快感を与え、偏光レンズとしての性能は非常に悪い。フィルム状の偏光素子に樹脂を積層し、厚さを与えて変形を予防する方法も提案されているが、手間やコストがかかり、樹脂の重合硬化に悪影響を及ぼす場合もあった。
【特許文献1】特公昭53−29711号公報
【特許文献2】特公昭55−13009号公報
【特許文献3】特開2005−67186号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明が解決しようとする課題は、予備成形された偏光素子の変形を軽減し、偏光性能の良い偏光レンズを得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は鋭意検討を重ねた結果、偏光素子の予備成形時に、ある特定の形状に成形することにより上記目的を達成することができた。すなわち、請求項1に記載の発明のプラスチック製偏光レンズ用偏光素子は、曲面状に成形された曲面部と曲面部の周縁に鍔状に成形された2以上の円環部とからなることを特徴とする。1の円環部は、隣り合う円環部とは角度をつけて形成し、リブの効果で曲面部の形状維持を図る。偏光素子の曲面部は通常、レンズの前面部の曲面に近い曲率半径で形成される。
【0006】
本発明に用いられる偏光素子は、光学的異方性を有するフィルム状のものであり、代表的なものとして、ヨウ素又は2色性染料を含めて一軸方向に延伸して分子配向されたポリビニールアルコールのフィルムが挙げられる。一軸方向に延伸して製造されていることもあり、これが曲面状に予備成形されると延伸方向(配向方向)を軸に丸まるように変形してしまう。本発明の偏光素子は、曲面部の周縁部に少なくとも2つの円環部を有している為、優れた形状維持効果を発揮し、上記のような丸まろうとする力に対抗することができる。1のみの円環部しか有さない偏光素子の場合、1の円環部はその面に直交する方向の力に弱く、その方向の力に屈して折れ曲がってしまい、形状維持効果はあまり期待できない。これに対し本発明の偏光素子は、異なる角度で連接された円環部を複数有することにより、円環部同士が互いに補強し合い、形状維持効果は強力になる。それぞれの円環部の面は多少曲面に成形しても良い。最外の円環部は、偏光レンズ製造の際にシェル内に配置するための保持部としても機能する。最外の円環部の外形は、シェルに配置する適切な大きさにするため、ガスケットの外形より小さく成形される。
【0007】
請求項1に記載の偏光素子に代替し得るものとして、請求項2に記載のプラスチック製偏光レンズ用偏光素子は、曲面状に成形された曲面部と曲面部の周縁に略U字状の断面を有する円環部とからなることを特徴とする。この形状の円環部は、1の円環部でも十分に形状維持効果を発揮するが、この周縁に更にリブを設けても良い。同様に、最外の円環部の外形は、ガスケットの外形より小さく成形される。
【0008】
請求項3に記載の発明のプラスチック製偏光レンズは、請求項1又は2に記載の偏光素子を内部に有することを特徴とする。上記のように強力な形状維持効果を発揮する偏光素子を内部に有する偏光レンズは、偏光素子の変形が少なく、偏光性能が高い。なお、偏光素子の円環部を含む部分は、多少径は小さくなるが、外観を良くするためコバ刷りして取り除いたレンズとしても良い。
【0009】
また、本発明のプラスチック製偏光レンズは、従来のレンズ同様の機能を付加し得る。例えば、耐擦傷性を向上させるハードコート層、耐衝撃性及びハードコートの密着性を向上させるプライマー層、有機又は無機の反射防止層、防曇層、撥水層等が設けられていても良い。他にも紫外線吸収剤をレンズやハードコートに混入させたり、染色したりフォトクロミックの特性を与えるといった公知のレンズ機能の付加方法も勿論採り得る。
【0010】
請求項4に記載のプラスチック製偏光レンズの製造方法は、請求項1又は2に記載の偏光素子をシェル内に配置し、シェル内にモノマーを注入して重合硬化することを特徴とする。上記のように強力な形状維持効果を発揮する偏光素子は、変形しにくい上に、破れにくいといった特性もあるので、非常に扱いやすい。偏光素子の配置方法は公知の手段であれば何れの方法でも構わないが、上記の偏光素子を使用することで手間がかからず、製造にかかる時間を短縮できる。
【0011】
注入するモノマーは、熱硬化性樹脂で一般に眼鏡用レンズに使用され得る樹脂のモノマーであるなら何でも良い。熱硬化性樹脂の例を挙げると、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリチオウレタン系樹脂、エピスルフィド樹脂等があるが、本発明はこれらに限定されない。強力な形状維持効果を発揮する偏光素子は、樹脂の重合硬化時においても変形を受けずに済む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、偏光素子が変形しにくく、破れにくいので、扱いやすく、シェル内に配置する際に手間がかからない。重合硬化の際にも、偏光素子の形状維持効果が発揮され、偏光素子の変形の少ないプラスチック製偏光レンズを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の偏光素子の一実施例を図1(a)及び(b)に示す。図1(a)は偏光素子1の正面図であり、図1(b)は偏光素子1の側面図である。偏光素子は、曲面部2と第一円環部3と第二円環部4とからなる。曲面部2の周縁に第一円環部3が鍔状に形成され、さらに第一円環部3の周縁に角度をつけて第二円環部4が鍔状に形成されている。
【0014】
図2(a)は、図1の偏光素子1を、中心を含む直線で切った断面形状を示している。このような断面を持つもの以外に、本発明の偏光素子の他の実施例を図2(b)〜(d)に示す。図2(c)及び(d)の例では、第三円環部5が設けられている。また、断面が略U字状の円環部6を持つ実施例を図3(a)〜(d)に示す。
【0015】
以下に、図1の偏光素子1を使用したプラスチック製偏光レンズの製造方法を説明するが、本発明はこれに限定されない。
【実施例】
【0016】
ポリビニールアルコールからなる偏光フィルムを熱曲げにより予備成形し、曲面部2と第一円環部3と第二円環部4とからなる偏光素子1とした。曲面部2の曲率半径は200mm、外形74mmとし、最外円環部である第二円環部4の外形を77mmとした。
【0017】
図4はシェルの組立に使用したガスケット10を示している。ガスケット10は外形85mm、内径80mmで、内周面には突出部11が設け、突出部11における内径は77mmとした。突出部11の内周面には、偏光素子を配置する為の部材として、前面保持部12aと後面保持部12bとをそれぞれ複数設けた。
【0018】
図5は、シェルの組立に使用した各部品を組立の上下順に示している。シェルの組立に先立ち、偏光素子1を配置するため、最外円環部である第二円環部4をガスケット10に設けられた前面保持部12aと後面保持部12bの間に嵌め込ませた。図6は組立後のシェルの断面図を示しているが、偏光素子1は、前面保持部12aと後面保持部12bにより、適切な位置に保持されている。前面保持部12aと後面保持部12bは、互いに重なり合わずに設けられていて、このように保持部材をずらすことにより、偏光素子に皺が寄るのを防いでいる。重なり合わない保持部材により保持できるのも、偏光素子のリブによる形状維持効果があって可能となっている。
【0019】
ガスケット10に偏光素子1を配置した後、外形が80mmの前面用モールド21と後面用モールド22をガスケット10に嵌合させ、シェル30とした。図6に示すように、モールドはガスケット突出部11の両壁11a及び11bとの接触により、適切な位置に配置される。
【0020】
シェル30の組立後、図示しないゴムバンドをシェル30にかけてシェル30の組立状態を維持し、ガスケット10の側面に設けられた注入口13から、ポリチオウレタン樹脂のモノマー(三井化学(株)製、MR−7)を注入した。モノマー注入の過程で、偏光素子1とガスケット10との隙間から、偏光素子1と前面用モールド21とガスケット10で囲まれた空隙部にもモノマーが供給されていくが、モノマーの通りを良くしたい場合は、偏光素子1にモノマー通過用の穴を設けても良い。モノマー注入後、シェル30を重合炉に入れて30℃〜100℃で20時間の条件で加熱重合した。重合後、離型して100℃で1時間アニーリングをし、コバ擦りをして直径77mmのプラスチック製偏光レンズ50(図7)を得た。プラスチック製偏光レンズ50は、その内部に有する偏光フィルム1の曲面部に変形が少なく、偏光性能の優れた偏光レンズであった。更に、プラスチック製偏光レンズ50をコバ擦りによって偏光素子1の円環部を含む部分を取り除き、直径74mmのプラスチック製偏光レンズ51(図8)を得た。プラスチック製偏光レンズ51は、偏光素子1の円環部や保持部材による穴を無くしたので、外観上優れたレンズとなった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】偏光素子の一実施例を示したもので、(a)は正面図(b)は側面図である。
【図2】2以上の円環部の偏光素子の実施例を示した断面形状図である。
【図3】断面略U字状円環部の偏光素子の実施例を示した断面形状図である。
【図4】ガスケットを示した斜視図である。
【図5】シェル組立時の各部品を示した斜視図である。
【図6】組立後のシェルの断面図である。
【図7】プラスチック製偏光レンズの斜視図である。
【図8】プラスチック製偏光レンズの斜視図である。
【符号の説明】
【0022】
1 偏光素子
2 円環部
3 第一円環部
4 第二円環部
5 第三円環部
6 断面がU字状の円環部
10 ガスケット
11 突出部
12a 前面保持部
12b 後面保持部
13 注入口
21 前面用モールド
22 後面用モールド
50 プラスチック製偏光レンズ
51 プラスチック製偏光レンズ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラスチック製偏光レンズ用偏光素子であって、曲面状に成形された曲面部と曲面部の周縁に鍔状に成形された2以上の円環部とからなることを特徴とする偏光素子。
【請求項2】
プラスチック製偏光レンズ用偏光素子であって、曲面状に成形された曲面部と曲面部の周縁に略U字状の断面を有する円環部とからなることを特徴とする偏光素子。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の偏光素子を内部に有することを特徴とするプラスチック製偏光レンズ。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の偏光素子をシェル内に配置し、シェル内にモノマーを注入して重合硬化することを特徴とするプラスチック製偏光レンズの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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