説明

プラズマミグ溶接方法

【課題】1つの溶接トーチからミグアークとプラズマアークとを同時に発生させるプラズマミグ溶接方法において、ミグアークのアーク長制御をより精密に行なうこと。
【解決手段】ミグ溶接電圧Vwmを、基準電圧波形を中心電圧値とする変動範囲Vc±ΔVc内に制限してミグ溶接電圧制限値Vftを算出し、この算出値によってアーク長制御を行う。第n回目のパルス周期の開始時に、第n−1回目〜第n−k回目(kは2以上の整数)までのパルス周期のミグ溶接電圧Vwmが上記変動範囲の下限値以下であったときは、ミグ溶接電圧制限値Vftを基準電圧波形の中心電圧値Vcとして算出する。これにより、ミグ溶接電圧Vwmに重畳する異常電圧を除去することができるので、高精度のアーク長制御が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1つの溶接トーチを用いてミグアークとプラズマアークとを同時に発生させて溶接を行うプラズマミグ溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラズマ溶接方法とミグ溶接方法とを組み合わせたプラズマミグ溶接方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。このプラズマミグ溶接方法においては、溶接トーチを通して送給される溶接ワイヤと母材との間にミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させる。これと同時に、溶接ワイヤを囲むようにアルゴンなどのガスを供給し、このガスを介して溶接トーチと母材との間にプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させる。溶接ワイヤは、ミグアークを発生させる電極として機能すると共に、その先端が溶融することにより溶滴となって母材の接合を補助する。したがって、プラズマミグ溶接方法は、厚板の高効率溶接、薄板の高速溶接等に使用されることが多い。
【0003】
上記のミグ溶接電流は、スパッタの発生を抑制し、かつ、溶滴を安定して供給するために、一般的に直流のパルス波形が使用されることが多い。したがって、ミグ溶接方法は、一般的なミグパルス溶接方法である。ミグパルス溶接方法を含む消耗電極式アーク溶接方法では、溶接中のアーク長を適正値に維持することが重要であるために、アーク長制御が行われる。他方、プラズマアークは、溶接ワイヤを囲むように配置された非消耗電極であるプラズマ電極と母材との間に発生するので、そのアーク長はプラズマ電極と母材との距離によって設定される。したがって、プラズマアークのアーク長制御は必要でない。上記のプラズマ溶接電流には、直流又は直流パルス波形が使用される。これ以降の説明において、単にアーク長と記載したときはミグアークのアーク長を意味している。以下、上述した従来技術のプラズマミグ溶接方法について説明する。
【0004】
図5は、従来技術のプラズマミグ溶接方法を示す波形図である。同図(A)はミグ溶接電流Iwmを示し、同図(B)はミグ溶接電圧Vwmを示し、同図(C)はプラズマ溶接電流Iwpを示す。以下、同図を参照して説明する。
【0005】
同図(A)に示すように、時刻t1〜t2のピーク立上り期間Tup中は、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する遷移電流が通電し、続いて時刻t2〜t3のピーク期間Tp中は、上記のピーク電流Ipが通電し、続いて時刻t3〜t4のピーク立下り期間Tdw中は、上記のピーク電流Ipから上記のベース電流Ibへと下降する遷移電流が通電し、続いて時刻t4〜t5のベース期間Tb中は、上記のベース電流Ibが通電する。また、上記のミグ溶接電流Iwmの通電に対応して、同図(B)に示すように、上記のピーク立上り期間Tup中は、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する遷移電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加し、続いて上記のピーク期間Tp中は、上記のピーク電圧Vpが印加し、続いて上記のピーク立下り期間Tdw中は、上記のピーク電圧Vpから上記のベース電圧Vbへと下降する遷移電圧が印加し、続いて上記のベース期間Tb中は、上記のベース電圧Vbが印加する。時刻t1〜t5の期間を1パルス周期Tfとして繰り返して溶接が行われる。
【0006】
ミグ溶接では、良好な溶接品質を得るためにアーク長を適正値に維持するアーク長制御が行われる。通常、このアーク長制御は、ミグ溶接電圧Vwmがアーク長と略比例関係にあることを利用して、ミグ溶接電圧Vwmの平均値が予め定めた電圧設定値と等しくなるようにパルス周期が制御される。このアーク長制御の方式は、周波数変調方式と呼ばれる。この場合、ピーク立上り期間Tup、ピーク期間Tp、ピーク立下り期間Tdw、ピーク電流Ip及びベース電流Ibは所定値に設定され、パルスパラメータとなる。ピーク電流Ipは臨界値以上に設定され、ピーク期間Tpと組み合わせてユニットパルス条件と呼ばれる。このユニットパルス条件は、1パルス周期1溶滴移行になるように設定される。ベース電流Ibは、臨界値未満の数十A程度の小電流値に設定される。ピーク立上り期間Tup及びピーク立下り期間Tdwは、ミグアークの硬直性、広がり等のアーク特性を調整するパラメータである。母材が鉄鋼材料であるときは、両値は小さな値に設定されるので、ミグ溶接電流Iwmは矩形波形となる。他方、母材がアルミニウム材料であるときは、両値は大きな値に設定されるので、ミグ溶接電流Iwmは台形波形となる。上記のパルスパラメータは、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度等に応じて適正値に設定される。アーク長制御の方式には、上記の周波数変調方式以外にパルス幅変調方式がある。このパルス幅変調方式では、ピーク立上り期間Tup、ピーク立下り期間Tdw、パルス周期Tf、ピーク電流Ip及びベース電流Ibがパルスパラメータとなり所定値に設定され、ミグ溶接電圧Vwmの平均値が予め定めた電圧設定値と等しくなるようにピーク期間(パルス幅)Tpが制御される。
【0007】
他方、同図(C)に示すように、プラズマ溶接電流Iwpは、定電流制御されており、予め定めた一定値の直流波形となる。したがって、プラズマアークは、一定値のプラズマ溶接電流Iwpの通電によって発生している。
【0008】
ところで、ミグパルス溶接においては、アークの陰極点は母材表面の酸化皮膜が存在する位置に形成される性質を有している。アークによって酸化皮膜は除去(クリーニング)されていくので、陰極点は酸化皮膜が残っている個所を求めて周辺部へと移動して形成されるようになる。この結果、アークは常に移動している不安定な状態になるために、短絡が発生しやすくなる。溶接ワイヤと母材とが短絡するとアークが消弧して陰極点が消滅し、短絡が解除されてアークが再点弧すると陰極点が再形成される。このように陰極点の消滅・再形成があったとき、母材表面の酸化皮膜の不均一に起因するアーク陰極点のふらつき現象が発生したとき等において、異常電圧がミグ溶接電圧Vwmに重畳することになる。この陰極点の消滅又は再形成に伴う異常電圧はアーク長とは比例しない電圧であるので、アーク長を正確に検出するためにはミグ溶接電圧Vwmに重畳した異常電圧を除去する必要がある。この除去のための方法としては、パルス波形の基準電圧波形Vc及び変動範囲ΔVcを設定し、ミグ溶接電圧VwmがVc±ΔVcの範囲外になる部分は異常電圧であるとしてカットして制限する従来技術が提案されている。以下、この従来技術について説明する(特許文献2及び3参照)。
【0009】
図6は、上記の基準電圧波形Vcの設定方法を示す図である。まず、図8で後述するように、基準ピーク電圧値Vpc、基準ベース電圧値Vbc及び変動範囲ΔVcを設定する。そして、同図に示すように、ピーク立上り期間Tupの開始時点を0秒とする経過時間tによって、下式のように基準電圧波形Vcが定義される。
0≦t<Tup
Vc=((Vpc−Vbc)/Tup)・t+Vbc (11)式
Tup≦t<Tup+Tp
Vc=Vpc (12)式
Tup+Tp≦t<Tup+Tp+Tdw
Vc=((Vbc−Vpc)/Tdw)・(t−Tup−Tp)+Vpc (13)式
Tup+Tp+Tdw≦t<Tup+Tp+Tdw+Tb
Vc=Vbc (14)式
【0010】
例えば、同図に示すように、経過時間t=taにおけるミグ溶接電圧検出値がVd1であったとする。経過時間taはTup+Tp≦ta<Tup+Tp+Tdwのときであるので、上記(13)式に代入して、基準電圧波形の中心電圧値Vc1は下式となる。
Vc1=((Vbc−Vpc)/Tdw)・(ta−Tup−Tp)+Vpc
したがって、経過時間taのときのミグ溶接電圧検出値Vd1は、変動範囲Vc1±ΔVc内に制限される。すなわち、Vd1≧Vc1+ΔVcのときにはミグ溶接電圧制限値Vft1=Vc1+ΔVcに制限され、Vd1≦Vc1−ΔVcのときにはVft1=Vc1−ΔVcに制限される。このようにして算出されたミグ溶接電圧制限値Vftは、異常電圧が略除去されたアーク長に略比例する電圧値となる。上記の変動範囲ΔVcは、予め定めた定数である。その値は、接ワイヤの材質、直径、送給速度、溶接速度、溶接継手等の溶接条件に応じて実験によって適正値に設定される。その値は、0.3〜2V程度である。
【0011】
図7は、短絡解除直後のアーク再点弧に伴う異常電圧発生時の電圧波形図である。同図(A)はミグ溶接電圧Vwmの時間変化を示し、同図(B)は基準電圧波形によって異常電圧を除去した後のミグ溶接電圧制限値Vftの時間変化を示す。同図(B)に示すように、ミグ溶接電圧Vwmは基準電圧波形を中心電圧値Vcとする変動範囲Vc±ΔVc内に制限される。この結果、時刻t1〜t2の短絡期間中のミグ溶接電圧制限値Vft=Vc−ΔVcとなり、時刻t2〜t3の異常電圧発生期間中のミグ溶接電圧制限値Vft=Vc+ΔVcとなる。このように、異常電圧を略除去することができる。
【0012】
図8は、図6で上述した基準電圧波形Vcを自動設定する方法を説明するためのミグ溶接電圧制限値Vftの時間変化を示す図である。同図において、現時点は時刻tnであり、第n回目のパルス周期Tf(n)の開始時点である。また、第n−1回目のパルス周期Tf(n-1)におけるピーク期間のみのミグ溶接電圧制限値の平均値がピーク電圧制限値Vpf(n-1)であり、ベース期間のみのミグ溶接電圧制限値の平均値がベース電圧制限値Vbf(n-1)である。同様に、第n−m回目のパルス周期Tf(n-m)におけるピーク期間のみのミグ溶接電圧制限値の平均値がピーク電圧制限値Vpf(n-m)であり、ベース期間のみのミグ溶接電圧制限値の平均値がベース電圧制限値Vbf(n-m)である。
【0013】
時刻tnにおいて、上記の第(n-1)〜第(n-m)回目のピーク電圧制限値Vpfを入力として、下式のようにピーク電圧移動平均値Vpr(n)を算出する。
Vpr(n)=(Vpf(n-1)+…+Vpf(n-m))/m (21)式
同様に、時刻tnにおいて、上記の第(n-1)〜第(n-m)回目のベース電圧制限値Vbfを入力として、下式のようにベース電圧移動平均値Vbr(n)を算出する。
Vbr(n)=(Vbf(n-1)+…+Vbf(n-m))/m (22)式
【0014】
そして、上述した(11)〜(14)式において、基準ピーク電圧値Vpcに上記のピーク電圧移動平均値Vprを代入し、かつ、基準ベース電圧値Vbcに上記のベース電圧移動平均値Vbrを代入すると、下式のように第n回目のパルス周期Tf(n)期間中の基準電圧波形が自動設定される。
0≦t<Tup
Vc(n)=((Vpr(n)−Vbr(n))/Tup)・t+Vbr(n) (31)式
Tup≦t<Tup+Tp
Vc(n)=Vpr(n) (32)式
Tup+Tp≦t<Tup+Tp+Tdw
Vc(n)=((Vbr(n)−Vpr(n))/Tdw)・(t−Tup−Tp)+Vpr(n) (33)式
Tup+Tp+Tdw≦t<Tup+Tp+Tdw+Tb
Vc(n)=Vbr(n) (34)式
【0015】
上述したように、パルス周期の開始時点ごとに、上記のピーク電圧移動平均値Vpr及びベース電圧移動平均値Vbrを算出し、上記(31)式〜(34)式によって基準電圧波形が自動設定される。上記において、ピーク電圧移動平均値Vprを算出するときに、ピーク電圧制限値Vpfを重み付け移動平均して算出しても良い。同様に、ベース電圧移動平均値Vbrを算出するときに、ベース電圧制限値Vbfを重み付け移動平均して算出しても良い。また、移動平均する期間の長さ(移動平均期間、所定期間)は、過去4〜16周期程度に設定する。この移動平均期間は、溶接ワイヤの材質、直径、送給速度、溶接速度、溶接継手等の溶接条件に応じて実験によって適正値に設定される。アークスタートからm回のパルス周期Tfが経過するまでは、上記のピーク電圧移動平均値Vpr及び上記のベース電圧移動平均値Vbrを(21)式及び(22)式に基づいて算出することができない。そこで、この期間中は、ピーク電圧初期値及びベース電圧初期値を予め設定しておき、ピーク電圧移動平均値Vpr及びベース電圧移動平均値Vbrとして使用するようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】特開2008−229641号公報
【特許文献2】特許第4263886号公報
【特許文献3】特開2007−307564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
上述したように、ミグ溶接電圧Vwmには、送給速度の変動、トーチ高さの変動、溶融池状態の変動等に起因するアーク長の変動に伴う電圧変動と、陰極点の消滅又は再形成に起因する異常電圧とが重畳している。このアーク長の変動に伴う電圧変動は、アーク長制御を行うために正確に検出する必要がある。他方、アーク長の変動とは関係しない異常電圧については、できる限り除去することが、精密なアーク長制御を行うためには望ましい。上述した基準電圧波形Vc及び変動範囲ΔVcを使用した異常電圧除去方法では、アーク長の変動に伴う電圧変動は除去することなくそのまま残し、陰極点の消滅又は再形成に起因する異常電圧については略除去することができる。このために、精密なアーク長制御を行うことができる。
【0018】
ところで、プラズマミグ溶接では、鉄鋼又はステンレス鋼を溶接する場合にも、ミグアークをシールドするガス(センターガス)にアルゴンガスを使用する。アルゴンガスを使用した場合には、炭酸ガス又は炭酸ガスとアルゴンガスとの混合ガスを使用する場合に比べて、炭酸ガスの解離熱による熱損失がないためにミグアークが高温になる。さらに、プラズマアークによるミグアークの収縮作用により、溶融池の温度が局所的に高温になる。これらの理由から、プラズマミグ溶接による鉄鋼又はステンレス鋼の溶接では、溶融池から金属蒸気が発生しやすい状態となる。この金属蒸気は溶融池から短時間に急激に噴出されて、ミグアーク内に混入する。金属蒸気が混入すると、ミグアークの電気伝導度が高くなるので、同一の電流を通電するときの電圧は低くなる。このために、ミグアークに金属蒸気が混入すると、ミグ溶接電圧Vwmの波形は全体的に減少する方向にシフトした波形となる。金属蒸気の噴出は50〜500ms程度の間継続し、その後は停止する。ここで、仮に1パルス周期Tfを10msとすると、金属蒸気の噴出期間は、5〜50周期に相当する。この金属蒸気の噴出が継続している間は、ミグ溶接電圧Vwmは減少した状態にある。しかし、このミグ溶接電圧Vwmの減少状態は、ミグアークのアーク長とは直接的には関係のない値となる。したがって、この金属蒸気の噴出による電圧変動は、新たな要因による異常電圧として除去する必要がある。
【0019】
従来技術が想定している異常電圧は、上述したように、陰極点の消滅又は再形成に起因する異常電圧である。この陰極点の消滅又は再形成に起因する異常電圧は、1パルス周期内で発生して消滅するのがほとんどの場合である。ときたま2パルス周期にわたって発生する場合もあるが、希なケースである。このことを前提として、基準電圧波形Vcを自動設定するためのピーク電圧移動平均値Vpr及びベース電圧移動平均値Vbrの移動平均期間が、比較的短い期間に設定されている。すなわち、移動平均期間の長さは、アーク長制御の過渡応答性を決めることになるので、移動平均期間を短い期間に設定することは過渡応答性を迅速にすることになる。このような従来技術の異常電圧除去方法において、上述したような金属蒸気の噴出に起因する異常電圧を除去する場合には、以下のような問題が生じる。金属蒸気に起因する異常電圧(ミグ溶接電圧の減少した状態)は、上述したように、5〜50周期にわたって発生する。このように陰極点の消滅又は再形成に起因する異常電圧に比べて長い期間金属蒸気に起因する異常電圧が発生していることになる。このために、ピーク電圧移動平均値Vpr及びベース電圧移動平均値Vbrは徐々に減少するので、基準電圧波形Vcも減少方向にシフトすることになる。基準電圧波形Vcが減少方向にシフトすると、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧が変動範囲Vc±ΔVc内に入ることになり、異常電圧がそのまま除去されない状態となる。このような状態になると、異常電圧が重畳したミグ溶接電圧制限値Vftによってアーク長制御が行われることになるので、アーク長制御が不安定になる。上述したことをまとめると、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧の発生は、その発生期間が長いために、従来技術の異常電圧除去方法では充分に除去されないので、アーク長制御が不安定になる。これを解決するために、移動平均期間を長くすると、アーク長制御系の過渡応答性が悪くなる。
【0020】
そこで、本発明では、アーク長制御系の過渡応答性を迅速な状態に維持したままで、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧を除去することができるプラズマミグ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、溶接トーチを通して送給される溶接ワイヤと母材との間にミグ溶接電圧を印加してミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させ、
ピーク立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する遷移電流を通電し、続くピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、続くピーク立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する遷移電流を通電し、続くベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの通電を1パルス周期として繰り返して前記ミグ溶接電流を通電し、
前記ミグ溶接電圧を検出し、このミグ溶接電圧検出値を入力として基準電圧波形を中心電圧値とする予め定めた変動範囲内に制限してミグ溶接電圧制限値を算出し、このミグ溶接電圧制限値に基づいて前記パルス周期又は前記ピーク期間を変化させて前記ミグアークのアーク長制御を行い、
前記ピーク期間中の前記ミグ溶接電圧制限値を過去所定期間にわたり移動平均してピーク電圧移動平均値を算出すると共に、前記ベース期間中の前記ミグ溶接電圧制限値を前記過去所定期間にわたり移動平均してベース電圧移動平均値を算出し、前記基準電圧波形を前記ピーク立上り期間中は前記ベース電圧移動平均値から前記ピーク電圧移動平均値へと上昇する遷移電圧に設定し、続く前記ピーク期間中は前記ピーク電圧移動平均値に設定し、続く前記ピーク立下り期間中は前記ピーク電圧移動平均値から前記ベース電圧移動平均値へと下降する遷移電圧に設定し、続く前記ベース期間中は前記ベース電圧移動平均値に設定し、
前記溶接ワイヤを囲むように供給されるガスを介して前記溶接トーチと前記母材との間にプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させるプラズマミグ溶接方法において、
第n回目の前記パルス周期を開始するときに、第n−1回目〜第n−k回目(kは2以上の整数)までの前記パルス周期における全ての前記ミグ溶接電圧検出値が前記基準電圧波形を中心電圧値とする前記変動範囲の下限値以下であったときは、第n回目の前記パルス周期における前記ミグ溶接電圧制限値を前記基準電圧波形の中心電圧値として算出する、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接方法である。
【0022】
請求項2の発明は、前記整数kを、ミグ溶接電流の平均値が大きくなるのに伴い大きくなるように変化させる、
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマミグ溶接方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧をミグ溶接電圧から除去することができるので、安定したアーク長制御を行うことができる。さらに、本発明では、基準電圧波形を自動設定するためにミグ溶接電圧制限値を移動平均する期間(移動平均期間)を長くする必要がないので、アーク長制御系の過渡応答性を迅速に保つことができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1に係るプラズマミグ溶接方法を示す波形図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。
【図3】図2の溶接装置を構成するミグ溶接電源PSMのブロック図である。
【図4】図2の溶接装置を構成するプラズマ溶接電源PSPのブロック図である。
【図5】従来技術のプラズマミグ溶接方法を示す波形図である。
【図6】従来技術において、異常電圧を除去するために使用する基準電圧波形Vcの設定方法を示す図である。
【図7】従来技術において、短絡解除直後のアーク再点弧に伴う異常電圧発生時の電圧波形図である。
【図8】従来技術において、図6で上述した基準電圧波形Vcを自動設定する方法を説明するためのミグ溶接電圧制限値Vftの時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0026】
[実施の形態1]
実施の形態1に係る発明は、第n回目の前記パルス周期を開始するときに、第n−1回目〜第n−k回目(kは2以上の整数)までの前記パルス周期における全ての前記ミグ溶接電圧検出値が前記基準電圧波形を中心電圧値とする前記変動範囲の下限値以下であったときは、第n回目のパルス周期におけるミグ溶接電圧制限値を基準電圧波形の中心電圧値として算出するものである。すなわち、本実施の形態では、パルス周期中の全てのミグ溶接電圧Vwmが変動範囲の下限値Vc−ΔVc以上である状態が複数回のパルス周期にわたって連続したときは、上述した金属蒸気の噴出に起因する異常電圧が発生したと判別し、ミグ溶接電圧制限値Vftを基準電圧波形の中心電圧値Vcとして出力することでこの異常電圧を除去している。以下、この実施の形態について説明する。
【0027】
図1は、本発明の実施の形態1に係るプラズマミグ溶接方法を示す波形図である。同図(A)はミグ溶接電流Iwmを示し、同図(B)はミグ溶接電圧Vwmを示し、同図(C)はプラズマ溶接電流Iwpを示し、同図(D)はミグ溶接電圧制限値Vftを示す。同図において、ミグ溶接電流Iwm及びミグ溶接電圧Vwmの波形は、上述した図5と同様に台形波であるが、図面を分かりやすくするために矩形波として示している。以下、同図を参照して説明する。
【0028】
同図は、第n−3回目のパルス周期Tf(n-3)から第n+3回目のパルス周期Tf(n+3)までの7周期分の波形を示している。同図では、第n−2回目のパルス周期Tf(n-2)において金属蒸気の噴出に起因する異常電圧(電圧の減少状態)が発生し、第n+1回目のパルス周期Tf(n+1)において異常電圧の発生が停止した場合である。したがって、第n−2回目のパルス周期Tf(n-2)から第n+1回目のパルス周期Tf(n+1)の4周期中のミグ溶接電圧Vwmの波形は、減少する方向にシフトしている。
【0029】
(1)第n−3回目のパルス周期Tf(n-3)中の動作
第n−3回目のパルス周期Tf(n-3)の開始時点において、上述した(21)式からピーク電圧移動平均値Vpr(n-3)を算出し、(22)式からベース電圧移動平均値Vbr(n-3)を算出する。そして、上述した(31)式〜(34)式に基づいて基準電圧波形Vc(n-3)を自動設定する。この基準電圧波形は、各パルス周期の開始時点において順次行われる。本パルス周期中は、ミグアークは安定した定常状態にあるので、陰極点の消滅又は再形成に起因する異常電圧及び金属蒸気の噴出に起因する異常電圧は共に発生していない。また、同図(B)に示すミグ溶接電圧Vwm(n-3)の波形は、ほぼ基準電圧波形Vc(n-3)と等しい状態にある。このために、同図(D)に示すように、ミグ溶接電圧制限値Vft(n-3)の波形は、同図(B)に示すミグ溶接電圧Vwm(n-3)の波形と同一となり、基準電圧波形Vc(n-3)とほぼ等しい波形となる。同図(A)に示すように、ミグ溶接電流Iwmを形成するピーク電流Ip及びベース電流Ibは、定電流制御されているので、7周期共に同一の波形となる。同図(C)に示すように、プラズマ溶接電流Iwpは、一定値の直流波形であり、その値は定電流制御されているので、7周期共に同一の値となる。
【0030】
(2)第n−2回目のパルス周期Tf(n-2)中の動作
第n−2回目のパルス周期Tf(n-2)において、金属蒸気の噴出が生じたために、同図(B)に示すように、ミグ溶接電圧Vwm(n-2)は全体的に減少する方向にシフトした波形となる。そして、この周期中の全てのミグ溶接電圧Vwm(n-2)は、基準電圧波形を中心電圧値とする予め定めた変動範囲の下限値Vc(n-2)−ΔVcよりもかなり小さな値となっている。このために、同図(D)に示すように、ミグ溶接電圧制限値Vft(n-2)は、基準電圧波形を中心電圧値とする変動範囲の下限値Vc(n-2)−ΔVcの値となる。
【0031】
(3)第n−1回目のパルス周期Tf(n-1)中の動作
第n−1回目のパルス周期Tf(n-1)中も金属蒸気の噴出が継続しているので、同図(B)に示すように、ミグ溶接電圧Vwm(n-1)は全体的に減少する方向にシフトした波形のままである。本周期開始時点での基準電圧波形Vc(n-1)は、前の周期のミグ溶接電圧制限値Vft(n-2)が減少したために、少し減少した波形となる。そして、この周期中の全てのミグ溶接電圧Vwm(n-1)は、基準電圧波形を中心電圧値とする変動範囲の下限値Vc(n-1)−ΔVcよりもかなり小さな値となっている。このために、同図(D)に示すように、ミグ溶接電圧制限値Vft(n-1)は、基準電圧波形を中心電圧値とする変動範囲の下限値Vc(n-1)−ΔVcの値となる。
【0032】
(4)第n回目のパルス周期Tf(n)中の動作
第n回目のパルス周期Tf(n)中も金属蒸気の噴出が継続しているので、同図(B)に示すように、ミグ溶接電圧Vwm(n)は全体的に減少する方向にシフトした波形のままである。本周期開始時点での基準電圧波形Vc(n)は、前の周期のミグ溶接電圧制限値Vft(n-2)及びVft(n-1)が減少したために、少し減少した波形となる。本周期の開始時点において、それ以前の2周期Tf(n-2)、Tf(n-1)中の全てのミグ溶接電圧Vwm(n-2)、Vwm(n-1)が変動範囲の下限値以下であったので、本周期中のミグ溶接電圧Vwm(n)の値に関係なしに、ミグ溶接電圧制限値Vft(n)は基準電圧波形の中心電圧値Vc(n)となる。したがって、同図(D)に示すように、ミグ溶接電圧制限値Vft(n)は、前の周期よりもかなり増加した波形となり、第n−3回目のパルス周期Tf(n-3)におけるミグ溶接電圧制限値Vft(n-3)よりも少しだけ減少した波形となる。このようにして、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧を除去することができる。
【0033】
(5)第n+1回目のパルス周期Tf(n+1)中の動作
第n+1回目のパルス周期Tf(n+1)中も金属蒸気の噴出が継続しているので、同図(B)に示すように、ミグ溶接電圧Vwm(n+1)は全体的に減少する方向にシフトした波形のままである。本周期開始時点での基準電圧波形Vc(n+1)は、前の周期のミグ溶接電圧制限値Vft(n)が増加したために、少し増加した波形となる。本周期の開始時点において、それ以前の2周期Tf(n-1)、Tf(n)中の全てのミグ溶接電圧Vwm(n-1)、Vwm(n)が変動範囲の下限値以下であったので、本周期中のミグ溶接電圧Vwm(n+1)の値に関係なしに、ミグ溶接電圧制限値Vft(n+1)は基準電圧波形の中心電圧値Vc(n+1)となる。したがって、同図(D)に示すように、ミグ溶接電圧制限値Vft(n+1)は、前の周期よりも少しだけ増加した波形となる。このようにして、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧を除去することができる。
【0034】
(6)第n+2回目のパルス周期Tf(n+2)中の動作
第n+2回目のパルス周期Tf(n+2)において金属蒸気の噴出が停止するので、同図(B)に示すように、ミグ溶接電圧Vwm(n+2)は増加して第n−3回目のパルス周期Tf(n-3)と同様の定常状態の波形に戻る。本周期開始時点での基準電圧波形Vc(n+2)は、前の周期のミグ溶接電圧制限値Vft(n+1)が増加したために、少し増加した波形となる。本周期の開始時点において、それ以前の2周期Tf(n)、Tf(n+1)中の全てのミグ溶接電圧Vwm(n)、Vwm(n+1)が変動範囲の下限値以下であったので、本周期中のミグ溶接電圧Vwm(n+2)の値に関係なしに、ミグ溶接電圧制限値Vft(n+2)は基準電圧波形の中心電圧値Vc(n+2)となる。したがって、同図(D)に示すように、ミグ溶接電圧制限値Vft(n+2)は、前の周期よりも少しだけ増加した波形となる。
【0035】
(7)第n+3回目のパルス周期Tf(n+3)中の動作
第n+3回目のパルス周期Tf(n+3)においても金属蒸気の噴出は停止しているので、同図(B)に示すように、ミグ溶接電圧Vwm(n+3)は第n−3回目のパルス周期Tf(n-3)と同様の定常状態の波形となる。本周期開始時点での基準電圧波形Vc(n+3)は、前の周期のミグ溶接電圧制限値Vft(n+2)が増加したために、少し増加した波形となる。本周期の開始時点において、それ以前の2周期Tf(n+1)、Tf(n+2)中の全てのミグ溶接電圧Vwm(n+1)、Vwm(n+2)が変動範囲の下限値以下ではないので、本周期中のミグ溶接電圧Vwm(n+3)は基準電圧波形を中心電圧値とする変動範囲Vc(n+3)±ΔVc内に制限される。したがって、同図(D)に示すように、ミグ溶接電圧制限値Vft(n+3)は、第n−3回目のパルス周期Tf(n-3)におけるミグ溶接電圧制限値Vft(n-3)とほぼ等しい波形となる。
【0036】
上述した本実施の形態に係る異常電圧の除去方法を整理すると、以下のようになる。
1)各パルス周期の開始時点において従来技術と同様にミグ溶接電圧制限値Vftを移動平均することによって基準電圧波形を自動設定する。
2)第n回目のパルス周期Tf(n)の開始時点において、第n−1回目〜第n−k回目の各パルス周期における全てのミグ溶接電圧Vwmが、基準電圧波形を中心電圧値とする予め定めた変動範囲の下限値Vc−ΔVc以下であるときは、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧が発生していると判別する。ここで、kは2以上の整数である。
3)金属蒸気の噴出に起因する異常電圧の発生を判別したときは、第n回目のパルス周期Tf(n)におけるミグ溶接電圧制限値Vft(n)を基準電圧波形の中心電圧値Vc(n)として算出する。
【0037】
したがって、同図は、k=2の場合を例示したことになる。ここで、kの設定方法について説明する。上述したように、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧は5〜50周期程度の間発生する。他方、陰極点の消滅又は再形成に起因する異常電圧は、ほぼ1周期内で発生する。これらのことから、kは、2〜5程度に設定される。kは実験によって適正値に設定される。ミグ溶接電流Iwmの平均値(送給速度)が大きくなるのに伴い、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧の発生期間は長くなる傾向がある。このために、kを、ミグ溶接電流Iwmの平均値が大きくなるのに伴い大きくなるように変化させても良い。また、nは、正の整数であるが、n≧k+1である。したがって、アークスタートから第k回目のパルス周期までは、上記の異常電圧の判別は禁止する。アークスタート直後に金属蒸気の噴出が発生する確率は低いので、問題にはならない。
【0038】
上述した実施の形態1によれば、金属蒸気の噴出に起因する異常電圧をミグ溶接電圧から除去することができるので、安定したアーク長制御を行うことができる。さらに、本実施の形態に係る異常電圧の除去方法では、基準電圧波形を自動設定するためにミグ溶接電圧制限値を移動平均する期間(移動平均期間)を長くする必要がないので、アーク長制御系の過渡応答性を迅速に保つことができる。
【0039】
図2は、本発明の実施の形態1に係るプラズマミグ溶接方法を実施するための溶接装置の構成図である。以下、同図を参照して、各構成物について説明する。
【0040】
本溶接装置は、破線で囲まれた溶接トーチWT、ミグ溶接電源PSM及びプラズマ溶接電源PSPを備えている。溶接トーチWTは、シールドガスノズル52内に、プラズマノズル51、プラズマ電極1b及び給電チップ4が同心軸上に配置された構造となっている。シールドガスノズル52とプラズマノズル51との隙間からはアルゴンガスから成るシールドガス63が供給される。プラズマノズル51とプラズマ電極1bとの間にはアルゴンガスから成るプラズマガス62が供給される。プラズマ電極1bと給電チップ4との間にはアルゴンガスから成るセンターガス61が供給される。
【0041】
給電チップ4に設けられた貫通孔からは、溶接ワイヤ1aが送給される。給電チップ4は、溶接ワイヤ1aに対して導通している。溶接ワイヤ1aは、送給モータWMを駆動源とする送給ロール7の回転によって送給される。プラズマ電極1bは、たとえば銅又は銅合金からなり、図外の経路を通る冷却水によって間接的に水冷されている。プラズマノズル51は、たとえば銅又は銅合金からなり、冷却水を通す流路が形成されていることにより、直接冷却されている。溶接トーチWTは、通常ロボット(図示は省略)によって保持された状態で、母材2に対して移動させられる。溶接ワイヤ1aの先端と母材2との間には、ミグアーク3aが発生する。非消耗電極であるプラズマ電極1bと母材2との間には、プラズマガス62によって熱的に拘束されたプラズマアーク3bが発生する。したがって、ミグアーク3aは、プラズマアーク3bに包まれた状態になっている。このために、プラズマアーク3bは、ミグアーク3aの形状が広がるのを拘束する作用がある。
【0042】
ミグ溶接電源PSMは、給電チップ4を介して溶接ワイヤ1aと母材2との間に、ミグ溶接電圧Vwmを印加することにより、ミグ溶接電流Iwmを通電するための電源である。ミグ溶接電源PSMからは、送給モータWMに対して送給制御信号Fcが送られ、溶接ワイヤ1aの送給速度が制御される。ミグ溶接電源PSMからミグ溶接電圧Vwmが印加されるときは、溶接ワイヤ1aが+側とされる。ミグ溶接電源PSMは、定電圧特性の電源であり、ミグ溶接電圧Vwmが予め定めた電圧設定信号Vr(図示は省略)の値と等しくなるように制御される。また、ミグ溶接電流Iwmの平均値は、溶接ワイヤ1aの送給速度によってその値がほぼ定まる。本実施の形態では、このミグ溶接電源PSMに、図1で上述した金属蒸気の噴出に起因する異常電圧を除去する回路を内臓している。この点に関しては、図3で後述する。
【0043】
プラズマ溶接電源PSPは、プラズマ電極1bと母材2との間にプラズマ溶接電圧Vwpを印加することによりプラズマ溶接電流Iwpを通電するための電源である。プラズマ溶接電源PSPからプラズマ溶接電圧Vwpが印加されるときは、プラズマ電極1bが+側とされる。プラズマ溶接電源PSPは、定電流特性の電源であり、プラズマ溶接電流Iwpが所定値になるように制御される。
【0044】
図3は、図2で上述した溶接装置を構成するミグ溶接電源PSMのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0045】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、ミグ溶接電圧Vwm及びミグ溶接電流Iwmを出力する。この電源主回路PMは、図示は省略するが、商用電源を整流する1次整流回路と、整流された直流を平滑するコンデンサと、平滑された直流を高周波交流に変換するインバータ回路と、高周波交流をアーク溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランスと、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路と、整流された直流を平滑するリアクトルと、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってPWM変調制御を行ないその結果に基づいてインバータ回路を駆動する駆動回路と、を含んでいる。溶接ワイヤ1aは、送給モータWMに結合された送給ロール7によって給電チップ4内を通って送給され、母材2との間にミグアーク3aが発生する。溶接トーチの構造は図2のとおりであるが、ここでは簡略化して図示している。
【0046】
電圧検出回路VDは、上記のミグ溶接電圧Vwmを検出して、ミグ溶接電圧検出信号Vdを出力する。変動範囲設定回路ΔVCは、予め定めた変動範囲設定信号ΔVcを出力する。金属蒸気異常電圧判別回路MDは、上記のミグ溶接電圧検出信号Vd、後述する基準電圧波形信号Vc、上記の変動範囲設定信号ΔVc及び後述する経過時間信号Stを入力として、第n回目のパルス周期の開始時点において、第n−1回目〜第n−k回目の各パルス周期における全てのミグ溶接電圧検出信号Vdの値が、経過時間信号Stに対応する基準電圧波形信号Vc及び変動範囲設定信号ΔVcによって定まる変動範囲の下限値Vc−ΔVc以下である条件が成立するときはHighレベルとなり、不成立のときはLowレベルになる金属蒸気異常電圧判別信号Mdを出力する。ここで、kは2以上の整数である。したがって、上述した図1においては、この金属蒸気異常電圧判別信号Mdは、第n回目のパルス周期Tf(n)の開始時点でHighレベルになり、第n+3回目のパルス周期Tf(n+3)の開始時点でLowレベルになる。ミグ溶接電圧制限値算出回路FTは、上記のミグ溶接電圧検出信号Vd、後述する基準電圧波形信号Vc、上記の変動範囲設定信号ΔVc、後述する経過時間信号St及び上記の金属蒸気異常電圧判別信号Mdを入力として、
a)金属蒸気異常電圧判別信号MdがLowレベル(正常電圧時)のときは、図6で上述したように、経過時間信号Stに対応するミグ溶接電圧検出信号Vdを基準電圧波形信号Vc及び変動範囲設定信号ΔVcによって定まる変動範囲Vc±ΔVc内に制限して、ミグ溶接電圧制限値信号Vftを出力し、
b)金属蒸気異常電圧判別信号がHighレベル(異常電圧時)のときは、経過時間信号Stに対応する基準電圧波形信号Vcの値をそのままミグ溶接電圧制限値信号Vftとして出力する。
電圧移動平均値算出回路VRAは、このミグ溶接電圧制限値信号Vftを入力として、図8で上述したように、ピーク電圧移動平均値信号Vpr及びベース電圧移動平均値信号Vbrを算出する。これらの算出方法は、上述した(21)式及び(22)式に基づいて行われる。基準電圧波形設定回路VCは、これらピーク電圧移動平均値信号Vpr及びベース電圧移動平均値信号Vbrを入力として、図6で上述したような基準電圧波形信号Vcを出力する。この基準電圧波形信号Vcの設定は、上述した(31)式〜(34)式に基づいて行われる。
【0047】
電圧積分回路SVは、各パルス周期の開始時点から上記のミグ溶接電圧制限値信号Vftを積分(1/t)∫Vft・dtして、電圧積分値信号Svを出力する。ここで、tは各パルス周期の開始時点からの経過時間(秒)である。したがって、この電圧積分値信号Svの値は、ミグ溶接電圧制限値信号Vftの平均値を刻々と算出していることになる。電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。比較回路CMは、上記の電圧積分値信号Svと上記の電圧設定信号Vrとを比較して、同じ値になった時点でパルス周期を終了するために短時間Highレベルとなるパルス周期信号Tfを出力する。Sv=Vrとなることは、各パルス周期におけるミグ溶接電圧制限値信号Vftの平均値が電圧設定信号Vrの値と等しくなったことを意味している。このようにして、上述したアーク長制御が行われる。したがって、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化する間隔が各パルス周期の長さとなる。
【0048】
経過時間測定回路STは、上記のパルス周期信号TfがHighレベルに変化した時点(各パルス周期の開始時点)からの経過時間を測定して、経過時間信号Stを出力する。ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。電流制御設定回路IRCは、上記の経過時間信号Stを入力として、予め定めたピーク立上り期間Tup中は上記のベース電流設定信号Ibrの値から上記のピーク電流設定信号Iprの値へと上昇する電流制御設定信号Ircを出力し、その後の予め定めたピーク期間Tp中は上記のピーク電流設定信号Iprの値を電流制御設定信号Ircとして出力し、その後の予め定めたピーク立下り期間Tdw中は上記のピーク電流設定信号Iprの値から上記のベース電流設定信号Ibrの値へと下降する電流制御設定信号Ircを出力し、その後は経過時間信号Stが0にリセットされるまでのベース期間Tb中は上記のベース電流設定信号Ibrの値を電流制御設定信号Ircとして出力する。ミグ溶接電流検出回路IDMは、上記のミグ溶接電流Iwmを検出して、ミグ溶接電流検出信号Idmを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Ircとこのミグ溶接電流検出信号Idmとの誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。送給制御回路FCは、予め定めた送給速度設定値で溶接ワイヤ1aを送給するための送給制御信号Fcを上記の送給モータWMに出力する。これらのブロックによって、上記の電流制御設定信号Ircに相当する図5で上述したようなミグ溶接電流Iwmが通電する。
【0049】
図4は、図2で上述した溶接装置を構成するプラズマ溶接電源PSPのブロック図である。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0050】
電源主回路PMは、3相200V等の商用電源(図示は省略)を入力として、後述する電流誤差増幅信号Eiに従ってインバータ制御等の出力制御を行いプラズマ溶接電流Iwp及びプラズマ溶接電圧Vwpを出力する。このプラズマ溶接電流Iwpは、プラズマ電極1b、プラズマアーク3b、母材2を通って通電する。溶接トーチの構造は上述した図1のとおりであるが、ここでは簡略化して図示している。
【0051】
プラズマ溶接電流設定回路IWPRは、予め定めたプラズマ溶接電流設定信号Iwprを出力する。プラズマ溶接電流検出回路IDPは、上記のプラズマ溶接電流Iwpを検出して、プラズマ溶接電流検出信号Idpを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記のプラズマ溶接電流設定信号Iwprと上記のプラズマ溶接電流検出信号Idpとの誤差を増幅して電流誤差増幅信号Eiを出力する。この電流誤差増幅信号Eiに従って溶接電源の出力制御が行われることによって、図5(C)で上述した直流のプラズマ溶接電流Iwpが通電する。上述したプラズマ溶接電源PSPは、プラズマ溶接電流Iwpがプラズマ溶接電流設定信号Iwprの値と等しくなるように出力制御されるので、定電流特性の電源となる。上記のプラズマ溶接電流設定信号Iwprをパルス波形状に変化させると、プラズマ溶接電流Iwpはパルス波形となる。
【0052】
上述した実施の形態においては、アーク長制御を周波数変調方式で行う場合を例示したが、上述したように、パルス幅変調方式を使用しても良い。この場合には、ピーク期間Tpがフィードバック制御されることになる。
【符号の説明】
【0053】
1a 溶接ワイヤ
1b プラズマ電極
2 母材
3a ミグアーク
3b プラズマアーク
4 給電チップ
51 プラズマノズル
52 シールドガスノズル
61 センターガス
62 プラズマガス
63 シールドガス
7 送給ロール
CM 比較回路
EI 電流誤差増幅回路
Ei 電流誤差増幅信号
FC 送給制御回路
Fc 送給制御信号
FT ミグ溶接電圧制限値算出回路
Ib ベース電流
IBR ベース電流設定回路
Ibr ベース電流設定信号
IDM ミグ溶接電流検出回路
Idm ミグ溶接電流検出信号
IDP プラズマ溶接電流検出回路
Idp プラズマ溶接電流検出信号
Ip ピーク電流
IPR ピーク電流設定回路
Ipr ピーク電流設定信号
IRC 電流制御設定回路
Irc 電流制御設定信号
Iwm ミグ溶接電流
Iwp プラズマ溶接電流
IWPR プラズマ溶接電流設定回路
Iwpr プラズマ溶接電流設定信号
k 整数
MD 金属蒸気異常電圧判別回路
Md 金属蒸気異常電圧判別信号
PM 電源主回路
PSM ミグ溶接電源
PSP プラズマ溶接電源
ST 経過時間測定回路
St 経過時間信号
SV 電圧積分回路
Sv 電圧積分値信号
t、ta 経過時間
Tb ベース期間
Tdw ピーク立下り期間
Tf パルス周期(信号)
Tp ピーク期間
Tup ピーク立上り期間
Vb ベース電圧
Vbc 基準ベース電圧値
Vbf ベース電圧制限値
Vbr ベース電圧移動平均値(信号)
VC 基準電圧波形設定回路
Vc 基準電圧波形(信号)
VD 電圧検出回路
Vd ミグ溶接電圧検出信号
Vft ミグ溶接電圧制限値(信号)
Vp ピーク電圧
Vpc 基準ピーク電圧値
Vpf ピーク電圧制限値
Vpr ピーク電圧移動平均値(信号)
VR 電圧設定回路
Vr 電圧設定信号
VRA 電圧移動平均値算出回路
Vwm ミグ溶接電圧
Vwp プラズマ溶接電圧
WM 送給モータ
WT 溶接トーチ
ΔVC 変動範囲設定回路
ΔVc 変動範囲設定信号
ΔVc 変動範囲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶接トーチを通して送給される溶接ワイヤと母材との間にミグ溶接電圧を印加してミグ溶接電流を通電することによってミグアークを発生させ、
ピーク立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する遷移電流を通電し、続くピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、続くピーク立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する遷移電流を通電し、続くベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの通電を1パルス周期として繰り返して前記ミグ溶接電流を通電し、
前記ミグ溶接電圧を検出し、このミグ溶接電圧検出値を入力として基準電圧波形を中心電圧値とする予め定めた変動範囲内に制限してミグ溶接電圧制限値を算出し、このミグ溶接電圧制限値に基づいて前記パルス周期又は前記ピーク期間を変化させて前記ミグアークのアーク長制御を行い、
前記ピーク期間中の前記ミグ溶接電圧制限値を過去所定期間にわたり移動平均してピーク電圧移動平均値を算出すると共に、前記ベース期間中の前記ミグ溶接電圧制限値を前記過去所定期間にわたり移動平均してベース電圧移動平均値を算出し、前記基準電圧波形を前記ピーク立上り期間中は前記ベース電圧移動平均値から前記ピーク電圧移動平均値へと上昇する遷移電圧に設定し、続く前記ピーク期間中は前記ピーク電圧移動平均値に設定し、続く前記ピーク立下り期間中は前記ピーク電圧移動平均値から前記ベース電圧移動平均値へと下降する遷移電圧に設定し、続く前記ベース期間中は前記ベース電圧移動平均値に設定し、
前記溶接ワイヤを囲むように供給されるガスを介して前記溶接トーチと前記母材との間にプラズマ溶接電流を通電することによってプラズマアークを発生させるプラズマミグ溶接方法において、
第n回目の前記パルス周期を開始するときに、第n−1回目〜第n−k回目(kは2以上の整数)までの前記パルス周期における全ての前記ミグ溶接電圧検出値が前記基準電圧波形を中心電圧値とする前記変動範囲の下限値以下であったときは、第n回目の前記パルス周期における前記ミグ溶接電圧制限値を前記基準電圧波形の中心電圧値として算出する、
ことを特徴とするプラズマミグ溶接方法。
【請求項2】
前記整数kを、ミグ溶接電流の平均値が大きくなるのに伴い大きくなるように変化させる、
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマミグ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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