説明

プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法

【課題】大気からの不純物ガスの混入を抑制でき、高分子材料の表面改質特性に優れたプラズマ処理を行うことができるプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】ガス流路rを備えたノズル20と、ノズル20を挟んで対向配置され、ガス流路r内で略大気圧下で放電を発生させ、処理ガスの励起活性種を生成させるための1対の放電電極4及び5と、ノズル20並びに放電電極4及び5が内部に配置され、処理ガスの送出方向z両端に開口部を有する一体成形された電極ホルダ6と、少なくともノズル20を、放電電極5の側から電極ホルダ6内の基準面に向かって押圧して電極ホルダ6に固定する固定部材と、電極ホルダ6の一端に設けられ、ガス流路rの一端から処理ガスを導入するためのガス導入部材3と、電極ホルダ6の他端を閉塞するとともに、ガス流路rから前記励起活性種を含む処理ガスを排出する排出口を有する閉塞部材11と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ処理装置及びプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
大気圧下でのプラズマ処理方法としては、大きく分けて、プラズマより励起された空間に基材を直接挿入して行なうダイレクト型のプラズマ処理と、ガスを一方向から導入し、プラズマより励起させた後、活性種をプラズマ下流に輸送して基材を処理するリモート型のプラズマ処理がある。
特に、リモート型の大気圧プラズマ処理は、プラズマの励起空間と基材の処理空間とが分かれているため、高エネルギーを有したイオン種や電子(以下、これらを「荷電粒子」ともいう)が基材に照射されるのを抑制できるという特徴がある。これは、荷電粒子の励起寿命が一般的に短いためである。
また、リモート型の大気圧プラズマ処理は、タイレクト型のプラズマ処理に比べ、基材の形状に関する制約が緩いという特徴がある。そのため、ガラス基板洗浄を代表例として、表面改質、CVD、エッチング等の各種の表面加工に広く用いられている。
【0003】
大気圧プラズマ処理に用いるプラズマ処理用ガスとしては、例えば、安定して存在する酸素励起種によりプラズマ処理能力を高くすることを目的とし、窒素に対して酸素が体積比率で0.01〜0.7%の濃度であるプラズマ処理用ガスが知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、大気圧プラズマ処理に用いるプラズマ処理装置として、所定の間隔をもって対向させた2枚の誘電体板の間隙をガス流路とし、前記2枚の誘電体板を挟んでその外側に一対の電極を対向配置させた構成のプラズマ処理装置が知られている(例えば、特許文献2及び3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−311314号公報
【特許文献2】特開平9−092493号公報
【特許文献3】特開2006−261017号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
大気圧プラズマ処理を使って高分子基材の表面改質を行なう場合、ダイレクト方式に比べ高エネルギーを有したイオン種の影響の少ないリモート方式が優位であると考えられる。高エネルギーの活性種の照射は、高分子鎖の切断に繋がり、高分子表面の低分子量化を進行させ、基材と繋がっている分子鎖からせっかくプラズマ処理で導入した官能基を除去してしまう可能性があるためである。
また、プラズマ処理空間への大気中の酸素の混入は、プラズマによる原子状酸素の生成により、高分子の表面は容易に酸化を受けることになり、特定の官能基の導入を阻害するばかりか、分子鎖にアルコキシラジカルを形成させることになり、分子鎖の切断反応を引き起こし、高エネルギーの活性種の照射と同様に高分子表面の低分子量化を進行させる恐れがある。
【0006】
しかしながら、従来のリモート型プラズマ処理装置では、プラズマ処理空間への大気の微量な混入に関して、十分な配慮がなされていなかった。例えば、特許文献1に記載のプラズマ処理のように、意図的に酸素ガスを添加する処理方法が、種々の表面加工で選ばれてきたためである。
例えば、特許文献2に記載のプラズマ処理装置は、ガス導入ブロックと2枚の誘電体板を使ったノズルと接続する際のガス流路の気密性や、ノズル下流部のホルダの気密性に問題がある。また、当該プラズマ処理装置では、複数の部材を組み合わせてなる電極ホルダが用いられており、各部材の結合部における気密性に問題がある。この特許文献2の実施例では、ヘリウム、3%程度のCFガス、及び0.1%程度の酸素ガスを使ったエッチングの例が示されており、大気中の酸素の微量混入を問題視して設計されたプラズマ処理装置とは言い難い。
【0007】
また、特許文献3で開示されている処理装置は、装置の構成部材(電極ホルダを含む)が向かい合わせで取り付けられており、電極ホルダは、放電電極及びノズル部材の保持と、大気に対するシールと、を兼ねているが、このような構造ではシールが不十分になり易く、また、ガスを導入するユニットとの結合を考えた場合、どうしてもシールが不連続になってしまい、結合部からの大気の流入が避けられない。
【0008】
本発明は上記に鑑みなされたものであり、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明の目的は、大気からの不純物ガスの混入を抑制でき、高分子材料の表面改質特性に優れたプラズマ処理を行うことができるプラズマ処理装置を提供することである。
また、本発明の目的は、高分子材料の表面改質特性に優れたプラズマ処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 処理ガスを流通して被処理体の表面に送出するガス流路を備え、誘電体で構成されたノズルと、
前記ノズルを挟んで対向配置され、前記ガス流路内で略大気圧下で放電を発生させ、該処理ガスの励起活性種を生成させるための1対の放電電極と、
前記ノズル及び前記1対の放電電極が内部に配置されるとともに、前記処理ガスの送出方向についての両端に開口部を有する一体成形された電極ホルダと、
少なくとも前記ノズルを、前記1対の放電電極の一方の側から前記電極ホルダ内の基準面に向かって押圧して前記電極ホルダに固定する固定部材と、
前記電極ホルダの一端に設けられ、前記ガス流路の一端から処理ガスを導入するためのガス導入部材と、
前記電極ホルダの他端を閉塞するとともに、前記ガス流路から前記励起活性種を含む処理ガスを排出する排出口を有する閉塞部材と、
を備えたプラズマ処理装置である。
【0010】
<2> 前記ノズルを前記押圧方向について二等分する面が、前記電極ホルダの前記内部を前記押圧方向について二等分する面に対し、前記押圧方向に0.10mm以上0.25mm以下ずれている<1>に記載のプラズマ処理装置である。
<3> 前記電極ホルダ及び前記ガス導入部材、並びに、前記電極ホルダ及び前記閉塞部材の少なくとも一方が、シール部材を介して固定されている<1>又は<2>に記載のプラズマ処理装置である。
【0011】
<4> 前記ノズルの一端と前記ガス導入部材との間に、
前記ノズル側にノズル口を備え、かつ、前記ガス導入部材側に前記ノズル口と連通するガス供給口を備えたノズルキャップを有し、
前記ガス供給口を前記押圧方向について二等分する面が、前記ノズル口を前記押圧方向について二等分する面に対し、前記押圧方向に0.10mm以上0.25mm以下ずれている<1>〜<3>のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置である。
<5> 前記ノズルは、スペーサーと、前記ガス流路が形成されるように前記スペーサーを介して平行配置された2枚の誘電体板と、から構成される<1>〜<4>のいずれか1つに記載のプラズマ処理装置である。
【0012】
<6> 高分子材料を用いた被処理体を、略大気圧下における放電により生成された、酸素混入量5ppm以下の処理ガスの励起活性種によって処理することを含むプラズマ処理方法である。
<7> 前記高分子材料がポリオレフィンを含む<6>に記載のプラズマ処理方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、大気からの不純物ガスの混入を抑制でき、高分子材料の表面改質特性に優れたプラズマ処理を行うことができるプラズマ処理装置を提供することができる。
また、本発明によれば、高分子材料の表面改質特性に優れるプラズマ処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一例に係るプラズマ処理装置を、xz平面で切断したときの断面図である。
【図2】本発明の一例に係るプラズマ処理装置を、xy平面で切断したときの断面図である。
【図3】本発明の一例に係るプラズマ処理装置を、xz平面で切断したときの断面図である。
【図4】(a)は、本発明の一例に係るプラズマ処理装置のノズルキャップの上面図であり、(b)は、該ノズルキャップの底面図である。
【図5】本発明の一例に係るプラズマ処理装置を、xz平面で切断したときの断面図である。
【図6】本発明の一例に係るプラズマ処理装置からガス導入ユニットを外したときの上面図である。
【図7】本発明の一例に係るプラズマ処理装置から閉塞部材を外したときの底面図である。
【図8】本発明の一例に係るプラズマ処理装置の底面図である。
【図9】本発明の別の一例に係るプラズマ処理装置を、xy平面で切断したときの断面図である。
【図10】比較用のプラズマ処理装置を、xz平面で切断したときの断面図である。
【図11】比較用のプラズマ処理装置を、xy平面で切断したときの断面図である。
【図12】比較用のプラズマ処理装置からガス導入ユニットを外したときの上面図である。
【図13】比較用のプラズマ処理装置から閉塞部材を外したときの底面図である。
【図14】比較用のプラズマ処理装置の底面図である。
【図15】比較用のプラズマ処理装置の側面図である。
【図16】本発明における機密性試験の一例を示す概略図である。
【図17】本発明において、プラズマ処理装置の下流側における酸素濃度の測定方法を示す概略図である。
【図18】本発明の一例に係るプラズマ処理装置の下流側における酸素濃度と、x方向の測定位置と、の関係を示すグラフである。
【図19】比較用のプラズマ処理装置の下流側における酸素濃度と、x方向の測定位置と、の関係を示すグラフである。
【図20】本発明の一例に係る、ポリエチレンフィルムのプラズマ処理結果を示すグラフである。
【図21】本発明の一例に係る、ポリプロピレンフィルムのプラズマ処理結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のプラズマ処理方法について説明し、引き続き、本発明のプラズマ処理装置について説明する。
【0016】
≪プラズマ処理方法≫
本発明のプラズマ処理方法は、高分子材料を用いた被処理体を、略大気圧下における放電により生成された、酸素混入量5ppm以下の処理ガスの励起活性種によって処理することを含む。
プラズマ処理方法を上記本発明の構成とすることにより、高分子材料の表面改質特性が向上する。
【0017】
このような効果が得られる理由は以下のように推定される。但し、本発明は以下の理由に限定されることはない。
即ち、プラズマ処理空間へ大気中の酸素が混入すると、プラズマにより原子状酸素(例えば、酸素原子ラジカルや酸素原子イオン等の酸素原子の励起活性種)が生成される。これらの原子状酸素により、高分子の表面は容易に酸化を受けることになる。これらの原子状酸素は、特定の官能基の導入を阻害するばかりか、分子鎖にアルコキシラジカルを形成させることになり、高分子中の分子鎖の切断反応を引き起こし、高分子表面の低分子量化を進行させる恐れがある。
そこで、処理ガスへの酸素混入量を上記範囲とすることで、高分子表面の酸化や高分子表面の低分子量化等が抑制され、高分子材料の表面改質特性が向上するものと推定される。
ここで、表面改質特性とは、例えば、プラズマ処理により高分子材料の親水化を行う系では、高分子材料表面の水接触角を小さくする性質を指す。
この水接触角は、高分子材料のぬれ性向上や接着性向上の観点から、プラズマ処理から0.1時間経過後に測定したときに、60°以下が好ましく、55℃以下がより好ましい。
【0018】
本発明における高分子材料を用いた被処理体は、少なくともプラズマ処理による被処理面が、高分子材料を用いて構成されている被処理体を指す。
具体的には、前記被処理体は、高分子材料からなる基材(高分子基材)であってもよいし、表面が高分子材料で被覆された高分子基材以外の基材(例えば、ガラス、シリコン等の半導体、金属、等の無機基材)基材であってもよい。
【0019】
前記高分子材料としては特に限定はなく、例えば、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリメチルペンテン、シクロオレフィン系樹脂等)、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートを含む脂肪族又は芳香族ポリエステル)、ポリイミド、ポリカーボネイト、ポリアミド(ナイロンを含む脂肪族又は芳香族ポリアミド)、芳香族ポリエーテルケトン、ポリウレタン、フッ素樹脂、各種合成ゴム、羊毛、絹等が挙げられる。
上記の中でも、表面改質特性の効果の点で、ポリオレフィンが好ましく、ポリエチレン又はポリプロピレンがより好ましく、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0020】
本発明における高分子材料は、単一成分からなるものであってもよいし、二以上の成分からなるものであってもよい。
また、前記高分子材料には、微量(例えば、5質量%以下)であれば、無機材料等の不純物が含まれていてもよい。
【0021】
また、本発明における略大気圧は、一般的な大気圧プラズマ処理における圧力であれば特に限定はなく、具体的には、大気圧(0.1MPa)の0.8倍以上1.2倍以下の範囲の圧力を指す。
【0022】
前記処理ガスとしては酸素以外の気体であれば特に制限は無く、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等が主成分となる処理ガスとして挙げられる。また、これらに、5体積%以下の範囲で、水素、亜酸化窒素、二酸化炭素等のガスや、メタン、ケトン類(アセトン、2−ブタノン等)、アルコール類(エタノールや2−プロパノール等)、アクリル酸等の有機モノマーを適宜微量添加することもできる。
また、本発明における励起活性種は、前記処理ガスを媒体とした放電により生じる物質を指す。例えば、処理ガスが窒素である場合には、窒素プラズマ中に含まれる窒素原子ラジカル、窒素原子イオン等である。
【0023】
本発明では、前記処理ガスに対する酸素混入量が5ppm以下であることが必要である。
前記酸素混入量が5ppmを超えると、表面改質特性が劣化する。
前記酸素混入量は、表面改質特性の効果をより効果的に得る観点からは、3ppm以下がより好ましい。
このようなppmの領域の酸素混入量(酸素濃度)は、東レエンジニアリング(株)のジルコニア式酸素濃度計LC−850KSを用いて測定できる。
【0024】
また、前記処理ガスの供給量(流量)は、ガス流路内のガス流速が0.5m/s以上9m/s以下となるように設定することが好ましい。
前記ガス流速が0.5m/s以上であると、高分子材料の表面改質特性がより効果的に得られる。
前記ガス流速が9m/s以下であると、ガス流速が早いために大気圧プラズマでガスが効率よく励起されなくなる現象をより効果的に抑制できる。
前記ガス流速は、3m/s以上8m/s以下がより好ましく、5m/s以上8m/s以下が特に好ましい。
【0025】
本発明のプラズマ処理方法に用いるプラズマ処理装置には特に限定はないが、例えば、後述する本発明のプラズマ処理装置が好適である。
【0026】
≪プラズマ処理装置≫
本発明のプラズマ処理装置は、処理ガスを流通して被処理体の表面に送出するガス流路を備え、誘電体で構成されたノズルと、前記ノズルを挟んで対向配置され、前記ガス流路内で略大気圧下で放電を発生させ、該処理ガスの励起活性種を生成させるための1対の放電電極と、前記ノズル及び前記1対の放電電極が内部に配置されるとともに、前記処理ガスの送出方向についての両端に開口部を有する一体成形された電極ホルダと、少なくとも前記ノズルを、前記1対の放電電極の一方の側から前記電極ホルダ内の基準面に向かって押圧して前記電極ホルダに固定する固定部材と、前記電極ホルダの一端に設けられ、前記ガス流路の一端から処理ガスを導入するためのガス導入部材と、前記電極ホルダの他端を閉塞するとともに、前記ガス流路から前記励起活性種を含む処理ガスを排出する排出口を有する閉塞部材と、を備えて構成される。
上記構成では、一体成形された、継ぎ目のない電極ホルダを用いるため、ガス流路の気密性が極めて高く、プラズマ雰囲気(ガス流路)への大気(例えば、酸素)の混入を抑制することができる。従って、高分子材料の表面改質特性に優れたプラズマ処理を行うことができる。
しかも、上記構成によれば、一対の放電電極のうちの一方の側から電極ホルダ内の基準面に向かって押圧してノズルを電極ホルダに固定するので、一対の放電電極の両側から押圧してノズルを電極ホルダに固定する場合に比べて、ノズルの位置決めを再現性よく行うことができる。
更に、上記構成では、各構成部材を接合や接着等で一体化しなくてもガス流路の気密性を高く保つことができ、プラズマ処理装置をボルト等の固定部材を用いた組み立て式で構成することができる。このため、部材の交換や分解・清掃等を容易に行なえる。
【0027】
本発明のプラズマ処理装置は、処理ガスへの大気の混入を低減する必要がある用途に特に制限無く用いられる。
特に、前述の本発明のプラズマ処理方法に好適である。
以下、本発明のプラズマ処理装置の一例を、図1〜図9を参照しながら説明するが、本発明は以下の一例に限定されることはない。
【0028】
(プラズマ処理装置の全体構成)
図1は、本発明の一例であるプラズマ処理装置100を、処理ガスの送出方向z(以下、「z方向」ともいう)及び固定部材による押圧方向x(以下、「x方向」ともいう)を含む平面(以下、「xz平面」ともいう)で切断したときの断面図である。ここで、前記x方向及び前記z方向の双方に直交する方向(以下、「y方向」ともいう)についての切断位置は、一対の放電電極に対し電圧を印加するための一対の電極端子の位置である。
また、x方向は、2枚の誘電体板の法線方向と一致している。
図2は、プラズマ処理装置100を、x方向及びy方向を含む平面(以下、「xy平面」ともいう)で切断したときの断面図である。ここで、z方向に関する切断位置は、少なくともノズルを固定するための固定部材の位置である。
【0029】
図1に示すように、プラズマ処理装置100は、処理ガスを流通して被処理体1の表面に向かって送出するためのガス流路rを備えたノズル20を有する。
ノズル20は、図2に示すように、y方向両端部のスペーサー(スペーサー21及びスペーサー22)と、該スペーサーを介して互いに平行配置された2枚の誘電体板(誘電体板7及び誘電体8)と、から構成されている。そして2枚の誘電体板の間隙がガス流路rとなっている。
前記誘電体板を構成する誘電体としては特に限定はなく、例えば、ガラス、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスや、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂材料を用いることができる。
中でも、誘電率が高く、プラズマ照射に対する耐性が高い点で、セラミックスが好ましく、アルミナがより好ましい。
【0030】
誘電体板7及び誘電体板8の厚みは、いずれも0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。また、スペーサー21の厚み、スペーサー22の厚み、及びガス流路rのギャップ間隔(即ち、誘電体板7と誘電体板8との間隙のx方向についての長さ)は、いずれも0.5mm以上1.5mm以下であることが好ましい。
また、ノズル20の全体の厚み(x方向についての長さ)は、1.5mm以上4.5mm以下であることが好ましい。
【0031】
プラズマ処理装置100では、ノズル20の各構成部材(誘電体板7、誘電体板8、スペーサー21及びスペーサー22)を接合や接着等で一体化しなくても、後述する電極ホルダ6の内部空間により、ガス流路rの気密性が高く保たれるため、ノズルを安価に構成できる。
【0032】
更に、プラズマ処理装置100は、図1に示すように、前記ノズル20を挟んで対向配置された1対の放電電極(放電電極4及び放電電極5)を備える。
放電電極4及び放電電極5は、前記ガス流路内で略大気圧下で放電を発生させることにより、該処理ガスの励起活性種を生成させるための部材である。
放電電極4及び放電電極5の材質としては一般的な電極材料を用いることができ、例えば、金属(ステンレス、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金)等を用いることができる。
【0033】
更に、プラズマ処理装置100は、図1に示すように、前記ノズル20及び前記1対の放電電極(放電電極4及び放電電極5)が内部に配置される電極ホルダ6を備える。
電極ホルダ6は、z方向についての両端に開口部を有して一体成形されている。即ち、電極ホルダ6は、少なくとも両端部に開口部を有する一の部材として構成されている(本明細書中ではこのような部材の形状を、「筒状」と称することがある)。
前記開口部に関し更に詳細に説明すると、電極ホルダ6は、z方向についての一端(処理ガスの送出方向についての上流側)に、ガス導入ユニット3からガス流路r内に処理ガスを導入するための開口部を有し、z方向についての他端(処理ガスの送出方向についての下流側)に、前記ノズル20及び前記1対の放電電極4及び放電電極5を出し入れするための開口部を有している。
電極ホルダ6の材質については、電気絶縁性を有した材料であれば特に限定はなく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、MCナイロン、ガラスエポキシ樹脂、ポリエステル系コンポジット等の切削可能な樹脂材料を用いることができる。
【0034】
更に、図1に示すように、放電電極4には、電極ホルダ6に設けられた貫通穴に挿入された、電極部材9の一端が接続している。同様に、放電電極5には、電極ホルダ6に設けられた貫通穴に挿入された、電極部材12の一端が接続している。
電極部材9及び12の他端は、図示しない放電プラズマ発生用電源に接続されており、放電電極4及び放電電極5に電圧を印加できるようになっている。
電極部材9及び12用の電極ホルダ6の貫通穴は、Oリング19及び18がそれぞれ付属した樹脂製のシールフランジ13及び14によりシールされており、ガス流路rへの大気の進入が抑制されている。シールフランジ13及び14は、ボルト等の公知の固定手段により電極ホルダ6に固定される。
ここで、Oリング19及び18に代えて、シート状ガスケット等の公知のシール部材を用いてもよいが、プラズマ処理装置の分解及び再組み立てを通じて繰り返し利用できる点からは、Oリングが好ましい。
【0035】
更に、プラズマ処理装置100は、図2に示すように、ノズル20及び放電電極4及び5を、一方の放電電極(放電電極5)の側から押圧して電極ホルダ6に固定するための固定部材(固定ボルト31及び32)を備える。
固定ボルト31及び32は、ノズル20並びに放電電極4及び5を、放電電極5側から電極ホルダ6内壁の基準面B1に向けて押圧している。
ここで、基準面B1は、誘電体板7と電極ホルダ6とが接する面である。
【0036】
更に、プラズマ処理装置100は、図1に示すように、電極ホルダ6の一端に設けられ、ガス流路rの一端から処理ガスを導入するためのガス導入ユニット3(ガス導入部材)を備える。ガス導入ユニット3は、ボルト等の公知の固定手段により電極ホルダ6に固定される。
ガス導入ユニット3は、図示しないガス供給源からガス流路rへ処理ガスを供給するための接続部材である。
ガス導入ユニット3の材質には特に限定はないが、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属や、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、MCナイロン等の切削可能な樹脂材料が挙げられる。
【0037】
更に、プラズマ処理装置100は、図1に示すように、電極ホルダ6の他端(下流側の端部)を閉塞するとともに、ガス流路rから前記処理ガスを排出する排出口を有する閉塞部材11を有する。即ち、閉塞部材11は、電極ホルダ6の他端(下流側の端部)の開口部のうち、前記排出口以外の部分を閉塞する。図1では、排出口にノズル20の下流側の一端が貫通しているが、該一端は必ずしも貫通する必要はない。
閉塞部材11の材質は電気絶縁性を有した材料であれば特に限定はなく、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアセタール、MCナイロン、ガラスエポキシ樹脂、ポリエステル系コンポジット等の切削可能な樹脂材料を用いることができる。閉塞部材11は、ボルト等の公知の固定手段により電極ホルダ6に固定される。
図7は、プラズマ処理装置100から閉塞部材11を外したときの底面図(xy平面図)である。
図7に示すように、電極ホルダ6の内部空間は、ノズル20、放電電極4、及び放電電極5に対し、クリアランスを有するように設計されている。クリアランスについては後述する。
図8は、プラズマ処理装置100の底面図(xy平面図)である。
図8に示すように、閉塞部材11は、電極ホルダ6の他端(下流側の端部)の開口部のうち、処理ガスの排出口以外の部分を閉塞する。図8では、前記排出口は、ノズル20に対しクリアランスを有するように設計されている。
【0038】
また、図1に示すように、プラズマ処理装置100は、ノズル20の一端とガス導入ユニット3との間に、ノズルキャップ10を有している。
ノズルキャップ10は、ノズル20側にノズル口を、前記ガス導入ユニット3側に前記ノズル口と連通するガス供給口を、それぞれ備えている。これにより処理ガスが、ガス導入ユニット3から、ガス供給口及びノズル口を通ってガス流路rに導入される。
なお、プラズマ処理装置100では、加工の容易性の観点より、ノズルキャップ10と電極ホルダ6とを別個の部材としているが、本発明では、これらが一体化した部材を電極ホルダとして用いてもよい。
【0039】
プラズマ処理装置100では、ガス導入ユニット3及びノズルキャップ10、ノズルキャップ10及び電極ホルダ6、並びに、電極ホルダ6及び閉塞部材11は、それぞれ、シール部材としてのOリング15、Oリング16、及びOリング17を介して接続されている。
ここで、Oリング15、Oリング16、及びOリング17に代えて、シート状ガスケット等の公知のシール部材を用いてもよいが、プラズマ処理装置の分解及び再組み立てを通じて繰り返し利用できる点からは、Oリングが好ましい。
特に、本実施形態では、電極ホルダ6が一の部材として構成されているため、シール部材により、該電極ホルダ6と他の部材(ノズルキャップ10又は閉塞部材11)との接合面のみをシールすれば足りる。このため、本実施形態は、シール部材としてOリングを使用できるという利点を有する。
なお、電極ホルダが二以上の部材を継ぎ合わせた構成となっている場合には、電極ホルダと他の部材との接合面に加え、電極ホルダ用部材同士の接合面(継ぎ目)をもシールする必要があるため、Oリングを使用することは困難である。
【0040】
(ノズル及び1対の放電電極の収納方法、並びにノズルの固定方法)
筒状の電極ホルダ6を用いる際に特に問題となるのが、ノズル20並びに放電電極4及び5を電極ホルダ6内部に収納する方法と、ノズル20を固定する方法である。
図2に示すように、プラズマ処理装置100では、電極ホルダ6の内部に、ノズル20並びに放電電極4及び5を収納しやすくするために、xy断面において、電極ホルダ6の内部空間がノズル20並びに放電電極4及び5よりも一回り大きく設計されることが好ましい。
このようにすることで、電極ホルダ6の端部(例えば、z方向下流側の端部)に設けられた開口部を介し、電極ホルダ6の内部空間に、ノズル20並びに放電電極4及び5を容易に収納できる。
具体的には、前記内部空間の最大幅(x方向についての最大長さ)が、ノズル20並びに放電電極4及び5の幅(x方向についての長さ)の合計よりも、0.20mm〜0.50mm長いことが好ましい。以下、前記内部空間の幅と、ノズル20並びに放電電極4及び5の幅の合計と、の差を「クリアランス」ともいう。
【0041】
また、図2に示すように、プラズマ処理装置100では、固定ボルト31及び32により、ノズル20並びに放電電極4及び5を、放電電極5の外側から、放電電極4側の電極ホルダ6内壁の基準面B1に向けて押圧して固定する。このため、前記ノズル20をx方向について二等分する中心面C1が、前記電極ホルダの前記内部をx方向について二等分する中心面C2に対し、x方向側にずれていることが好ましい。
そのずれ量は、前記クリアランスの1/2であることが好ましく、0.10mm以上0.25mm以下であることがより好ましい。
【0042】
また、図2に示すように、前記固定部材による、ノズル20並びに放電電極4及び5の固定位置(y方向について固定位置)は、放電電極4、誘電体板7、スペーサ21(又はスペーサ22)、誘電体板8、及び放電電極5が重なる位置となっている。これにより、放電電極5をノズル20に接触させて固定できる(但し、後述するプラズマ処理装置200に示すように、この接触は必須ではない)。
図3は、プラズマ処理装置100を、xz平面により、y方向について前記固定部材の位置の位置で切断したときの断面図である。
図3に示すように、z方向についての固定位置は2箇所となっている。従って、プラズマ処理装置100としては、固定箇所は、y方向について2箇所、z方向について2箇所の計4箇所となっている。
但し、z方向についての固定位置は図3の形態に限定されず、1箇所のみであってもよい。
【0043】
プラズマ処理装置100におけるノズル20の具体的な固定方法としては、固定ボルト31、32、37としてステンレス製の六角穴付止めネジを使用し、放電電極5を介してノズル20を固定する方法が挙げられる。
このとき、図2及び図3に示すように、筒状の電極ホルダ6内部を大気からシールするために、Oリング35、36、39が付属した樹脂製のシールボルト33、34、38で、電極ホルダ6に設けられた固定ボルト用の貫通穴をシールする。
【0044】
また、固定部材は少なくともノズル20を固定すればよいので、固定位置は図2に示す位置に限定されない。
例えば、プラズマ処理装置100の変形例である、図9に示すプラズマ処理装置200のように、誘電体板7、スペーサ21(又はスペーサ22)、及び誘電体板8のみが重なる位置を固定してもよい。
ここで、図9は、変形例に係るプラズマ処理装置200を、xy平面で切断したときの断面図である。ここで、z方向に関する切断位置は、ノズルを固定するための固定部材の位置である。
図9に示すように、プラズマ処理装置200では、プラズマ処理装置100における電極ホルダ6に代えて、固定部材が挿入される穴の位置を、誘電体板7、スペーサ21(又はスペーサ22)、及び誘電体板8のみが重なる位置に変更した電極ホルダ206を用いる。また、固定ボルト31及び32に代えて、放電電極5の厚み分だけ長い固定ボルト231及び232を用いる。
その他の部材については、プラズマ処理装置100と同一であるため、同じ符号を付して説明を省略する。
【0045】
(ノズルキャップ)
次に、プラズマ処理装置100の構成部材であるノズルキャップ10について、図4(a)及び図4(b)を参照して説明する。
図4(a)は、ノズルキャップ10の上面図(z方向上流側からみた図)であり、図4(b)は、ノズルキャップ10の底面図(z方向下流側からみた図)である。
図4(a)及び図4(b)に示すように、ノズルキャップ10は、z方向下流側の面にノズル口102を備え、z方向上流側の面にガス供給口104を備えている。ここで、ノズル口102とガス供給口104とは連通している。
また、前記z方向上流側の面には、図1に示すOリング15を配置するためのOリング用溝115が設けられている。
【0046】
図6は、プラズマ処理装置100からガス導入ユニット3を外したときの上面図(xy平面図)である。
図6に示すようにガス供給口104は、ノズルキャップ10をプラズマ処理装置100に組み込んだときに、ノズル20のガス流路rと連通するようになっている。
図6では、ノズル20並びに放電電極4及び5の位置を破線で表している。ここでは、簡単のため、電極ホルダ6の内部空間等は省略して表している。
また、図1に示すように、ノズル口102は、ノズルキャップ10をプラズマ処理装置100に組み込んだときに、ノズル20の上流側の一端が挿入されるようになっている。
【0047】
また、前述の電極ホルダ6の内部空間の場合と同様に、脱着の容易さの観点より、ノズル口102は、ノズル20に対しクリアランスを有するように設計されている。
x方向についてのクリアランスは0.20mm以上0.50mm以下であることが好ましい。
また、ノズルキャップ10は、プラズマ処理装置100に組み込んだときに、ノズル20の誘電体7側の面がノズル口102の内壁に接するように設計されている。
ノズルキャップ10では、ノズル20の誘電体7側の面と、ノズル口102の内壁と、の接触面を、基準面としている(図4(b)中の基準面B11)。
以上により、ノズル20の位置決めが再現性よく行われる。
【0048】
また、図4(b)に示すように、ガス供給口104をx方向について二等分する中心面C11は、ノズル口102をx方向について二等分する中心面C12に対し、x方向にずれている。
そのずれ量としては、前記クリアランスの1/2であることが好ましく、具体的には、0.10mm以上0.25mm以下であることが好ましい。
【0049】
なお、前述の中心面C1(図2)と中心面C11(図4(a))とは、xy平面において、重なるように設計されている。
また、前述の中心面C2(図2)と中心面C12(図4(a))とは、xy平面において、重なるように設計されている。
また、前述の基準面B1(図2)と基準面B11(図4(a))とは、xy平面において、重なるように設計されている。
【0050】
本実施形態に係るプラズマ処理装置100は、以上のような構成とすることにより、筒状の電極ホルダ内部に、1対の放電電極及びノズルを容易に収納でき、かつ、ノズルの位置ずれを抑制でき、ノズルを再現性よく固定できる。
【0051】
(冷却水導入継手部材)
次に、放電電極に対する冷却水導入継手部材について、図5を参照して説明する。
図5は、プラズマ処理装置100を、xz平面で切断したときの断面図である。ここで、y方向に関する切断位置は、冷却水導入継手部材の位置である。
図5に示すように、放電電極4には、Oリング29を介し、電極ホルダ6の外部から内部へ貫通する穴に挿入された冷却水導入継手部材23の一端が接続している。同様に、放電電極5には、Oリング30を介し、電極ホルダ6の外部から内部へ貫通する穴に挿入された冷却水導入継手部材24の一端が接続している。
冷却水導入継手部材23及び24の他端は、図示しない循環冷却水装置に接続されている。
以上により、放電電極4及び放電電極5を循環冷却水により冷却できるようになっている。
また、冷却水導入継手部材23及び24用の電極ホルダ6の貫通穴は、Oリング27及び28がそれぞれ付属した樹脂製のシールフランジ25及び26によりシールされており、ガス流路rへの大気の進入が抑制されている。シールフランジ25及び26は、ボルト等の公知の固定手段により電極ホルダ6に固定される。
図5中、プラズマ処理装置100におけるその他の部材については図1と同一であるため、同じ符号を付して説明を省略する。
【0052】
(プラズマ処理装置によるプラズマ処理)
次に、プラズマ処理装置100により、被処理体をプラズマ処理する場合の一例について、図1を参照しながら説明する。
まず、図1に示すように、プラズマ処理装置100のz方向下流側(閉塞部材11の排出口)と、処理ステージ2の被処理体1を載置する側の表面とが対向するように、プラズマ処理装置100と処理ステージ2とを配置させる。ここで、プラズマ処理装置100と処理ステージ2とは、xy平面内で相対移動できるようになっている。
次に、処理ステージ2上に被処理体1を載置する。
この際、公知の吸着手段等により、被処理体1を処理ステージ2上に固定してもよい。
【0053】
次に、電極端子9及び12を介し、放電電極4と放電電極5との間に電圧を印加するとともに、外部のガス供給源より、ガス導入部材材3及びノズルキャップ10を介してノズル20内のガス流路rに、一定の流量で処理ガスを供給する。
これにより、ガス流路r内に放電が発生し、この放電により、処理ガスの励起活性種が生成される。
励起活性種を含んだ処理ガスは、閉塞部材11の排出口から排出され、被処理体1の表面に到達する。
以上により、前記励起活性種による被処理体1表面のプラズマ処理が行われる。
このとき、プラズマ処理装置100と処理ステージ2とを、xy平面内で相対移動させることで、被処理体1上の各領域を処理することができる。
【0054】
以上で説明したプラズマ処理装置100では、前述のとおり、一体成形された、継ぎ目のない筒状の電極ホルダ6を備えているため、電極ホルダ6の内部空間の気密性が非常に高く、この内部空間内に位置するガス流路rの気密性も非常に高くなっている。
従って、プラズマ処理装置100によれば、略大気圧下における放電により、大気の混入量が極めて少ない(例えば、5ppm以下)処理ガスから、励起活性種を生成させることができ、該励起活性種により被処理体を処理できる。
このため、プラズマ処理装置100を用いることで、高分子材料に対する表面改質特性に優れたプラズマ処理を行うことができる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって制限されるものではない。
【0056】
〔実施例1〕
実施例1として、本実施形態に係るプラズマ処理装置、及び比較のプラズマ処理装置について、それぞれ機密性試験を行い、結果を比較した。
【0057】
<プラズマ処理装置100の作製>
図1〜8に示すプラズマ処理装置100を作製した。
ここで、誘電体板7及び8としては、いずれも、340.0mm(y方向)×56.0mm(z方向)×1.0mm(x方向)の、純度99.9%の高純度アルミナ板を用いた。また、スペーサー21及び22としては、いずれも、20.0mm(y方向)×56.0mm(z方向)×1.0mm(x方向)の、純度99.9%の高純度アルミナ板を用いた。
これらの部材(誘電体板7及び8、並びに、スペーサー21及び22)を用い、ノズル20を構成した。
詳しくは、ノズル20では、ガス流路rのギャップ間隔(x方向)を1.0mmとし、ノズル20全体の厚みを3.0mmとした。
尚、ガス流路rの幅(y方向)は300.0mmとし、ガス流路rの長さ(z方向)は56.0mmとした。
従って、ガス流路rの断面積(xy平面で切断したときの断面積。以下同じ。)は0.0003mとなっている。
また、ノズル20並びに放電電極4及び5の幅の合計と、電極ホルダ6の内部空間と、のx方向のクリアランスは、0.30mmとした。中心面C1と中心面C2とのx方向についての距離(ずれ量)は、0.15mmとした。
【0058】
<比較用のプラズマ処理装置300の作製>
特開2006−261017号公報に開示されている構造を参考にし、プラズマ処理装置100と同じ、ガス流路rの幅300mm、ガス流路rのギャップ間隔1.0mmの比較用のプラズマ処理装置300を作製した。
上記公報に開示されているプラズマ処理装置は、装置の構成部材が向かい合わせで取り付けられている。そのため、電極ホルダを構成する2つの部材同士の固定は、電極やノズル部材の保持と、ガス流路の大気に対するシールと、を兼ねていることになる。
即ち、電極ホルダを構成する2つの部材によりノズル及び1対の放電電極を挟み込むことで、ノズル及び1対の放電電極を電極ホルダに固定するとともに、ガス流路の大気に対するシールを行っている。
【0059】
図10に、比較用のプラズマ処理装置300をxz平面により、y方向について電極端子309及び312の位置で切断したときの断面図を示す。
図11に、比較用のプラズマ処理装置300をxy平面により、z方向について、電極ホルダ用部材同士を固定するボルトの位置で切断したときの断面図を示す。
図10及び図11に示すように、プラズマ処理装置300では、2つの電極ホルダ用部材(電極ホルダ用部材301及び302)を組み合わせて、電極ホルダとした。
まず、誘電体板307及び308、並びに、スペーサー321及び322を用い、ノズル320を構成した。更に、放電電極304及び305を準備した。ここで、ノズル320並びに放電電極304及び305の構造及び材質は、プラズマ処理装置100におけるノズル20並びに放電電極4及び5と同様とした。
【0060】
次に、放電電極305、ノズル320、放電電極304の順で重ね合わせ、x方向について両側から、電極ホルダ用部材301及び302により挟み込み、電極ホルダ用部材301と電極ホルダ用部材302との接合部にシート状ガスケット333及び334を介在させ、電極ホルダ用部材301及び302をボルトで固定した。
ここで、電極ホルダ用部材301及び電極ホルダ用部材302に、ノズル320並びに放電電極304及び305の保持と、ガス流路rの大気に対するシールと、を兼ねさせるため、電極ホルダ用部材301及び302によりノズル320並びに放電電極304及び305を、シート状ガスケット333及び334を介在させずに挟み込んだ際、接合部における電極ホルダ用部材301と電極ホルダ用部材302との間隔(x方向)が、シート状ガスケットの厚み未満となるような設計とした。
また、電極ホルダ用部材301と放電電極305とのx方向のクリアランス、及び、電極ホルダ用部材302と放電電極304とのx方向のクリアランスは、いずれもゼロとした。
シート状ガスケット333及び334としては、0.5mm厚のシート状ガスケットを使用した。
【0061】
電極ホルダ用部材301及び302のボルトによる固定位置は、y方向について2箇所(両端部)、z方向について2箇所、の計4箇所とした。
【0062】
比較用のプラズマ処理装置300における電極ホルダは、樹脂製の電極ホルダ用部材301と、樹脂製の電極ホルダ用部材302と、の2つに分割されているため、シール部材として、Oリングを使うことができない。特開2006−261017公報には明示されていないが、シール部材として一般的なテフロン(登録商標)製のシート状ガスケットを適当な形状に切り出し、シート状ガスケット333及び334として使用した。
【0063】
次に、図10に示すように、電極ホルダ用部材301及び302を組み合わせて構成された電極ホルダの、z方向上流側の端部に、アルミ合金製のガス導入ユニット303(構造及び材質は、プラズマ処理装置100におけるガス導入ユニット3と同様である)を固定した。
このとき、電極ホルダとガス導入ユニット303との接合部に、リング状に切り出したテフロン(登録商標)製のシート状ガスケット314を介在させ、電極ホルダとガス導入ユニット303とをボルトで固定した。
【0064】
次に、図10に示すように、電極ホルダ用部材301及び302を組み合わせて構成された電極ホルダのx方向下流側の端部に、樹脂製の閉塞部材311を固定した。
電極ホルダと閉塞部材311との接続は、樹脂製同士であることから、シート状ガスケットは使わずにボルトで固定した。
【0065】
その他、共通する構成についてはプラズマ処理装置100と同様の構成とし、比較用のプラズマ処理装置300を作製した。
図12に、プラズマ処理装置300からガス導入ユニット303を外したときの上面図を、図13に、プラズマ処理装置300から閉塞部材311を外したときの底面図を、図14に、プラズマ処理装置300の底面図を、図15に、プラズマ処理装置300の側面図を、それぞれ示した。
【0066】
<機密性試験>
図16に示すように、プラズマ処理装置100の閉塞部材11と、機密性治具162と、をOリング163を介在させてボルトで固定し、閉塞部材11の排出口を塞いだ。
次に、ガス導入ユニット3を、該ガス導入ユニット3の配管継手を介し、真空ポンプ161に接続し、真空ポンプ161で排気を行い、機密性試験を行った。
比較用のプラズマ処理装置300についても同様の試験を行った。
真空ポンプ161で排気を開始すると、プラズマ処理装置100と比較用のプラズマ処理装置300とで次のような違いがあった。
プラズマ処理装置100: 真空ポンプの排気音が次第に小さくなり、聞こえなくなった。
比較用のプラズマ処理装置300: 真空ポンプの排気音が聞こえ続け、プラズマ処理装置300からリーク音が聞こえ続けた。
以上の結果より、プラズマ処理装置100では、ガス流路の機密性が高いことが確認された。従って、プラズマ処理時には、大気の流入が抑制される。
【0067】
〔実施例2〕
実施例2として、本実施形態に係るプラズマ処理装置100、及び比較用のプラズマ処理装置300のそれぞれについて、処理ガスの排出口における酸素濃度を測定した。
図17に、プラズマ処理装置100の排出口における酸素濃度の測定方法の概略を示す。
まず、プラズマ処理装置100のz方向下流側(閉塞部材11の排出口)に、xy平面と平行となるように、酸素濃度測定用ステージ172を配置させた。ここで、閉塞部材11と酸素濃度測定用ステージ172とのギャップは2.0mmとなるように調整した。
酸素濃度測定用ステージ172は、酸素濃度測定口173を有している。また、この酸素濃度測定用ステージ172は、矢印Sの方向(x方向:誘電体板7及び8の法線方向)に移動できるようになっている。
【0068】
次に、プラズマ処理装置100外部のガス供給源より、ガス導入部材3及びノズルキャップ10を介してノズル20内のガス流路rに、一定の流量(20L/min、60L/min、120L/min、及び180L/minの各流量)でNガスを供給し、閉塞部材11の排出口からガスを排出させた。
ここで、Nガス流量をガス流路rの断面積で割ることによりNガス流速を求めると下記表1の値となる。
【0069】
【表1】

【0070】
排出されたガスを、酸素濃度測定口173を通じて酸素濃度測定用ステージ172の反対面からサンプリング部174によりサンプリングし、配管175を通じて酸素濃度測定装置176に導入した。
以上により、前記ガス中の酸素濃度を、酸素濃度測定装置176により測定した。サンプリングの速度(流量)は0.2L/minとした。
酸素濃度測定装置176としては、東レエンジニアリング(株)製のジルコニア式酸素濃度計LC−850KSを用いた。ガスをサンプリングするためのサンプリング部174、配管175、継手等は全て金属製である。
【0071】
次に、酸素濃度測定用ステージ172をx方向(矢印S方向)に移動させ、x方向の各測定位置における酸素濃度を測定した。
ここで、測定位置は、ノズル20のx方向についての中心を0mmとした。
【0072】
上記プラズマ処理装置100と同様の条件で、比較用のプラズマ処理装置300を用い、排出口から排出されたガス中の酸素濃度を測定した。
プラズマ処理装置100における測定結果を図18に、比較用のプラズマ処理装置300における測定結果を図19に、それぞれ示した。
【0073】
プラズマ処理装置100を用いた場合には、図18に示すように、N流速を、1.11m/s、3.33m/s、6.67m/s、及び10m/sの各流速とした場合を通じ、測定位置−30mm〜+30mmの範囲で、酸素濃度は2〜3ppmに抑えられていた。即ち、酸素濃度のN流速依存性は非常に小さかった。
【0074】
一方、比較用のプラズマ処理装置300を用いた場合には、図19に示すように、酸素濃度のN流速依存性は大きかった。
具体的には、N流速1.11m/s及びN流速3.33m/sの場合には、測定位置−30mm〜+30mmの範囲で酸素濃度は30ppmを超えていた。
流速を上げるにつれ、酸素濃度は減少していくものの、N流速6.67m/sの場合で16ppm程度、N流速10m/sの場合で10ppm程度であり、プラズマ処理装置100に比べて明らかに酸素濃度が高かった。
【0075】
以上により、実際の酸素濃度測定からも、本実施形態に係るプラズマ処理装置100を用いた場合、ガス流路への大気の流入が抑制されることが示された。
【0076】
〔実施例3〕
<高分子基材のプラズマ処理>
実施例1で作製したプラズマ処理装置100を用い、高分子フィルム(ポリエチレンフィルム(PEフィルム)、及びポリプロピレンフィルム(PPフィルム))の表面処理を行った。
具体的には、図1に示すように、プラズマ処理装置100のz方向下流側(閉塞部材11の排出口)と、処理ステージ2の被処理体1を載置する側の表面とが対向するように、プラズマ処理装置100と処理ステージ2とを配置させた。ここで、閉塞部材11と、高分子フィルム表面(プラズマ処理される面)と、のギャップは1.0mmとなるように調整した。
次に、被処理体1としてのPEフィルム又はPPフィルムを処理ステージ2上に載置し、プラズマ処理装置100を用いて表面処理を行った。
【0077】
ここで、処理ガスとしては、NガスとOガスとの混合ガスを用いた。
処理ガスの流量は120L/minとした(ガス流路r内の流速は6.67m/s)。
処理ガス中の酸素濃度は、実施例2と同様の方法で、測定位置0mmの位置で測定した。
また、放電電極4及び放電電極5間の電極電圧は、ピークトゥピーク値(p−p)で13.0kV〜13.5kVとなるようにした。周波数、電源電圧、電源電流、電源電力、電極電圧の諸条件は、表1に示すとおりである。
処理速度(処理ステージ2の移動速度)は、0.2m/minとした。
【0078】
PEフィルムとしては、(株)プライムポリマーの低密度PE樹脂を使った、厚み230μmのインフレ成形フィルムを用いた。
PPフィルムとしては、(株)プライムポリマーのアイソタクチックPP樹脂を使った、厚み50μmのフィルムを用いた。
【0079】
上記の条件で高分子フィルムの表面処理を行った後、処理面の水滴接触角を接触角測定器(協和界面科学(株) 表面エネルギー解析装置 CA−XE型)で測定し、高分子フィルム表面の親水性を評価した。
【0080】
上記と同様にして、混合ガス中の酸素濃度、プラズマ処理から水滴接触角測定までの経過時間、を種々変化させ、プラズマ処理装置100による高分子フィルムの親水化処理の評価を行った。
評価結果を表2に示す。
また、ポリエチレンフィルムのプラズマ処理結果を図20に、ポリプロピレンフィルムのプラズマ処理結果を図21に、それぞれ示す。
なお、図20及び図21は、いずれも、処理ガス中の酸素濃度と、水接触角(プラズマ処理から水滴接触角測定までの経過時間は0.1h)と、の関係を示している。

【0081】
【表2】

【0082】
表2、図20、及び図21に示すように、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムのいずれを用いた場合においても、ともに、酸素濃度の減少に伴い、接触角が減少する傾向を示し、親水性が改善されていることがわかる。
特に酸素濃度5ppm以下では、優れた表面改質特性が得られた。
【符号の説明】
【0083】
1 被処理体
3 ガス導入部材
4、5 放電電極
7、8 誘電体板
6 電極ホルダ
11 閉塞部材
20 ノズル
21、22 スペーサー
31、32、37 固定ボルト
100、200 プラズマ処理装置
r ガス流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理ガスを流通して被処理体の表面に送出するガス流路を備え、誘電体で構成されたノズルと、
前記ノズルを挟んで対向配置され、前記ガス流路内で略大気圧下で放電を発生させ、該処理ガスの励起活性種を生成させるための1対の放電電極と、
前記ノズル及び前記1対の放電電極が内部に配置されるとともに、前記処理ガスの送出方向についての両端に開口部を有する一体成形された電極ホルダと、
少なくとも前記ノズルを、前記1対の放電電極の一方の側から前記電極ホルダ内の基準面に押圧して前記電極ホルダに固定する固定部材と、
前記電極ホルダの一端に設けられ、前記ガス流路の一端から処理ガスを導入するためのガス導入部材と、
前記電極ホルダの他端を閉塞するとともに、前記ガス流路から前記励起活性種を含む処理ガスを排出する排出口を有する閉塞部材と、
を備えたプラズマ処理装置。
【請求項2】
前記ノズルを前記押圧方向について二等分する面が、前記電極ホルダの前記内部を前記押圧方向について二等分する面に対し、前記押圧方向に0.10mm以上0.25mm以下ずれている請求項1に記載のプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記電極ホルダ及び前記ガス導入部材、並びに、前記電極ホルダ及び前記閉塞部材の少なくとも一方が、シール部材を介して固定されている請求項1又は請求項2に記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記ノズルの一端と前記ガス導入部材との間に、
前記ノズル側にノズル口を備え、かつ、前記ガス導入部材側に前記ノズル口と連通するガス供給口を備えたノズルキャップを有し、
前記ガス供給口を前記押圧方向について二等分する面が、前記ノズル口を前記押圧方向について二等分する面に対し、前記押圧方向に0.10mm以上0.25mm以下ずれている請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項5】
前記ノズルは、スペーサーと、前記ガス流路が形成されるように前記スペーサーを介して平行配置された2枚の誘電体板と、から構成される請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のプラズマ処理装置。
【請求項6】
高分子材料を用いた被処理体を、
略大気圧下における放電により生成された、酸素混入量5ppm以下の処理ガスの励起活性種によって処理することを含むプラズマ処理方法。
【請求項7】
前記高分子材料がポリオレフィンを含む請求項6に記載のプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【公開番号】特開2010−248454(P2010−248454A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−102383(P2009−102383)
【出願日】平成21年4月20日(2009.4.20)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】