プラズマ処理装置
【課題】ガス導入チューブ内でのプラズマの発生を防ぐことのできるプラズマ処理装置を提供すること。
【解決手段】一端部がカソード部のガス導入口に接続され、他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブ25の中空部内に、この中空部を長手方向に沿って複数に分ける通気性を有する複数の導体31と、ガス導入チューブ25の中空部を狭めて、その中空部よりも断面積が小さいガス流路をガス導入チューブ25の一端部と他端部との間に形成する複数の誘電体32と、を設けた。
【解決手段】一端部がカソード部のガス導入口に接続され、他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブ25の中空部内に、この中空部を長手方向に沿って複数に分ける通気性を有する複数の導体31と、ガス導入チューブ25の中空部を狭めて、その中空部よりも断面積が小さいガス流路をガス導入チューブ25の一端部と他端部との間に形成する複数の誘電体32と、を設けた。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ雰囲気下で被処理物の処理を行うプラズマ処理装置に関し、詳しくは、高周波電力が印加されるカソード部にプロセスガスの導入部が設けられ、そのカソード部の内部空間にプラズマを発生させるプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波放電を利用したプラズマ処理装置において、高周波放電が行われる放電空間内にプロセスガスを導入する場合、その導入部はアノード部に設けることが一般的であった。しかし、例えば特許文献1に開示されるように、筒状のカソード部によって放電空間の大部分が囲まれ、そのカソード部の底に形成された開口に対向される被処理物の支持部がアノード部として機能する構造の場合、アノード側にガスを導入してもカソード部によって大部分が囲まれる放電空間にプラズマを生じさせることは難しく、また、被処理物の支持部が回転テーブル上に設けられていることからアノード側へのガス管レイアウトが困難なこともあって、カソード部にガスの導入部を設けている。
【0003】
しかし、高周波電圧が印加されるカソード部にガス導入部を設けた場合、ガスの導入路に高周波電圧が作用することになり、この電圧によってガス導入路に放電が起こり、プラズマが発生して、ガス導入路を内部に形成する例えば樹脂材料からなるガス導入チューブが溶断してしまう問題があった。
【特許文献1】特開2002−256428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガス導入チューブ内でのプラズマの発生を防ぐことのできるプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
プラズマが生起される内部空間と、前記内部空間に連通するガス導入口と、前記内部空間に連通する開口部とを有し、高周波電力が印加される筒状のカソード部と、
被処理物を、前記開口部を介して前記内部空間に臨ませる位置に支持可能なアノード部と、
一端部が前記ガス導入口に接続され、前記一端部よりもガスの流れの上流側に位置する他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブと、
前記ガス導入チューブの中空部を長手方向に沿って複数に分けるように前記中空部に設けられた通気性を有する導体と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置が提供される。
【0006】
また、本発明の他の一態様によれば、
プラズマが生起される内部空間と、前記内部空間に連通するガス導入口と、前記内部空間に連通する開口部とを有し、高周波電力が印加される筒状のカソード部と、
被処理物を、前記開口部を介して前記内部空間に臨ませる位置に支持可能なアノード部と、
一端部が前記ガス導入口に接続され、前記一端部よりもガスの流れの上流側に位置する他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブと、
前記ガス導入チューブの中空部を狭めて、前記中空部よりも断面積が小さいガス流路を前記一端部と前記他端部との間に形成するように前記中空部に設けられた誘電体と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ガス導入チューブ内でのプラズマの発生を防いで、ガス導入チューブの損傷や溶断を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置1の要部の模式断面図である。
また、図2は、同プラズマ処理装置1においてプラズマ生起装置3a〜3gと回転テーブ ル5との配置関係を表す模式斜視図である。
【0010】
プラズマ処理装置1は、図示しない真空排気系により内部が減圧される真空室7を有する。真空室7の上部は円盤状の上蓋9により気密に塞がれている。上蓋9には、複数のプラズマ生起装置3a〜3gが設けられている。複数のプラズマ生起装置3a〜3gは、図2に表されるように、上蓋9の周方向に沿って配置されている。プラズマ生起装置3a〜3gは、その一部が上蓋9を貫通して真空室7内に臨んでいる。
【0011】
真空室7内には回転テーブル5が設けられている。回転テーブル5において、上蓋9に向き合う面の外周側部分には、被処理物10の支持部12(図1に図示)が、周方向に沿って複数設けられている。回転テーブル5は、図示しないモータにより、中心軸(図2において1点鎖線で表される)のまわりに回転可能となっている。回転テーブル5及び支持部12は、例えばステンレスまたはアルミニウム材料からなり、接地されている。支持部12は、後述する高周波放電のアノード部として機能する。
【0012】
複数のプラズマ生起装置3a〜3gのうち、例えば、プラズマ生起装置3b〜3gは被処理物10へのスパッタ成膜に用いられ、プラズマ生起装置3aは被処理物10へのスパッタエッチングに用いられる。
【0013】
図1に、スパッタエッチング用のプラズマ生起装置3aの模式断面を表す。プラズマ生起装置3aはカップ状を呈し、内部空間14を真空室7内に臨ませた状態で上蓋9に取り付けられている。プラズマ生起装置3aは、接地された接地部16と、高周波電源23より高周波電力が印加されるカソード部18とを有する。接地部16は、例えばアルミニウム材料からなる。カソード部18は、例えばステンレス材料からなり、内側に、プラズマが生起される内部空間14を有する。カソード部18の上壁部には、内部空間14と連通するガス導入口26が形成されている。
【0014】
接地部16及びカソード部18の底にはそれぞれ開口部17、19が形成され、これら開口部17、19を一致させて、接地部16の内側にカソード部18が配設されている。カソード部18の下端と、接地部16のリング状の底部16aとの間には、例えばフッ素樹脂やセラミックス材料からなるリング状の絶縁部材21が介在されている。また、カソード部18の外面と、接地部16の内面との間には、例えば150mmの空隙が形成されている。したがって、カソード部18と接地部16とは、互いに電気的に絶縁されている。
【0015】
接地部16及びカソード部18の上壁部には、これら上壁部を貫通して、ガス導入チューブ25が設けられている。ガス導入チューブ25は、電気絶縁性を有する材料、例えばフッ素樹脂からなる。ガス導入チューブ25の一端部は、カソード部18のガス導入口26に気密に接続されている。ガス導入チューブ25の他端部は、接地部16の上壁部を気密に貫通し、この他端部側の開口には、図示しない継手を介してガス搬送管27が接続されている。ガス搬送管27は、例えばステンレス材料からなり、接地されている。
【0016】
ガス導入チューブ25の一端部側の開口はネット29で覆われ、このネット29により、内部空間14で生じたプラズマPがガス導入チューブ25内に入り込むことが抑制される。ネット29は、例えばステンレスからなり、ガス導入チューブ25から内部空間14へのガスの円滑な導入を妨げない通気性を有する。ネット29は導体に限らず絶縁体でもよい。
【0017】
次に、ガス導入チューブ25の内部構造の第1の具体例について説明する。
図3は、内部を点線で表したガス導入チューブ25の拡大側面図であり、図4は図3におけるA−A線方向の拡大断面図である。第1の具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に、複数の導体31と、複数の誘電体32とが、ガス導入チューブ25の長手方向に沿って交互に配置されている。
【0018】
図5は導体31の拡大平面図である。
導体31は、例えばステンレス材料からなる円形リング状のワッシャである。複数の導体31は、略等間隔で互いに離間されて、ガス導入チューブ25の長手方向に沿って配置されている。各導体31は互いに電気的に接続されていない。各導体31は、その径方向が、ガス導入チューブ25の長手方向に略垂直となるような姿勢でガス導入チューブ25内に配置されている。なお、導体31の材質はステンレスに限らず、例えば、銅、アルミニウム、その他金属や合金を用いることができる。
【0019】
次に、図6は、ガス導入チューブ25の中空部に装入される前の状態(自然状態)の誘電体32の拡大斜視図である。誘電体32は、例えば、ガス導入チューブ25と同材料、同径のものを、径方向寸法が略半分となる位置で長手方向に沿って切り裂いて、且つそれを長手方向に垂直な面で分断して得たものである。誘電体32は、弾性を有する例えばフッ素樹脂からなるので、図6に表される自然状態のものを縮径させるように丸めた状態でガス導入チューブ25の中空部に装入すると、自然状態に戻ろうとする拡径方向への復元力により誘電体32の外周面が、ガス導入チューブ25の中空部の内周面に圧接する。これにより、誘電体32はガス導入チューブ25の中空部内で固定される。なお、誘電体32の材質はフッ素樹脂に限らず、その他の樹脂、あるいは、セラミックスや石英などを用いてもよい。
【0020】
導体31は、図3に表されるように、隣り合う2つの誘電体32の端面の間で狭圧された状態となっており、これにより、導体31はその位置が固定されている。各導体31は、誘電体32を間に介在させて平行に対向している。
【0021】
誘電体32がガス導入チューブ25の中空部に装入された状態では、図4に表されるように、誘電体32の中空部32aは完全にはつぶされずに、例えば、ガス導入チューブ25の中空部の断面積の約半分ほどの断面積を有する中空部32aがガス導入チューブ25内に確保される。上記ガス搬送管27からガス導入チューブ25の他端部に流入したプロセスガスは、誘電体32の中空部32a及び導体31の中空孔31aを通って一端部に向けて流れる。すなわち、本具体例では、誘電体32の中空部32a及び導体31の中空孔31aが、ガス流路として機能する。
【0022】
次に、プラズマ処理装置1の動作について説明する。真空室7内が図示しない真空排気系により排気されて減圧された状態で、回転テーブル5が回転されると共に、各プラズマ生起装置3a〜3gが作動される。回転テーブル5の回転により、各支持部12に支持された各被処理物10は、各プラズマ生起装置3a〜3gに対向する位置を通過しながら、円を描く軌跡で移動され、各被処理物10がプラズマ生起装置3b〜3gに対向する位置を通過する際にはスパッタ成膜を受け、プラズマ生起装置3aを通過する際にはスパッタエッチングを受ける。
【0023】
例えば、図1に表されるスパッタエッチング用のプラズマ生起装置3aにおいては、高周波電源23よりカソード部18に高周波電力が印加されると共に、図示しないガス源から、ガス搬送管27及びガス導入チューブ25を介して、カソード部18の内部空間14に、例えばアルゴンガスが導入される。
【0024】
これにより、内部空間14に放電が起こりプラズマPが生起される。その内部空間14に連通する開口部17、19に対向する位置に被処理物10が移動されると、その被処理物10は加速されたアルゴンイオンによってスパッタエッチングされる。
【0025】
ここで、ガス導入チューブ25の一端部は、高周波電圧が印加されるカソード部18のガス導入口26に接続され、他端部は、接地された接地部16及びガス搬送管27に結合されているため、ガス導入チューブ25内のガス流路には、一端部から他端部にかけて高周波電圧がかかる。
【0026】
しかし、本具体例では、そのガス流路にかかる電圧は、ガス導入チューブ25内でガス流路に沿って互いに離間して配置された複数の導体31によって分割されるので、ガス流路を、その分割された比較的小さな電圧がそれぞれかかる複数の小さな空間の集まりとして構成することができる。この結果、ガス流路内での放電及びプラズマの発生を防いで、ガス導入チューブ25の損傷や溶断を防げる。
【0027】
ガス導入チューブ25の両端にかかる高周波電圧のピーク値をV、ガス導入チューブ25内を流れるガスが放電を起こすのに必要な最小電圧をVsとすると、導体31によるガス流路の分割数nは、V/n<Vsを満足するように決められる。Vsは、例えば、パッシェンの法則に基づいて、平行電極(この場合導体31)間距離dと、ガス圧力pとの積pdの関数として定めることができる。またVsとpdとの関係はガス種によっても変わる。
【0028】
本具体例では、例えば、Vs=100[V]に設定し、また、V=6000[V]であったので、70個の導体31を用いてガス流路を71分割した。すなわち、導体31によって分けられたガス流路中の各部分にかかる電圧を、Vsより小さい(6000/71≒86[V])程度に抑えることができ、ガス流路中に、Vsより大きい電圧がかかる部分がなく、ガス流路中での放電及びプラズマの発生を防ぐことができる。
【0029】
なお、ガス導入チューブ25の長さ(カソード部18のガス導入口26に接続された部分から接地部16を貫通している部分までの距離)Lは、高周波電力によるガス導入チューブ25の加熱を抑えるため、200mm以上が好ましい。本具体例では例えばL=700mmとした。したがって、上述した70個の導体31は、略10mm間隔でガス導入チューブ25の長手方向に沿って配置されている。
【0030】
導体31を略等間隔で配置しているために、導体31によって分けられるガス流路の各部分にかかる電圧を、上記Vsより小さな所望の電圧に確実且つ容易に設定することができる。導体31が不均等配置であると、ガス流路中の各部分にかかる電圧がばらつき、導体31間の距離が比較的大きな部分では上記Vs以上の電圧がかかり放電が起こってしまう可能性がある。
【0031】
また、本具体例では、導体31として、図5に表される外径Dが4.4mm、中央孔31aの内径dが2.1mmのワッシャを用いた。しかし、これに限らず、ガスの通過を妨げない通気性を有する導体であればよい。
【0032】
また、本具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に誘電体32を配置して、ガス流路を狭めている。具体的には、誘電体32によって、ガス導入チューブ25の中空部の断面積の約50%が塞がれる。すなわち、本具体例でガス流路として機能する誘電体32の中空部32a(図4参照)の断面積は、ガス導入チューブ25の中空部の断面積の約半分である。ガス導入チューブ25の外径は例えば8mm、内径は例えば6mmである。
【0033】
放電が起こり、また、それが安定して持続するには、ある程度の広さの空間が必要であるので、上記のようにガス流路を狭めることは、ガス流路にプラズマを発生しにくくする。放電に必要な空間広さは、ガス導入チューブ25に加わる高周波電圧、内部を流れるガスの圧力や種類などに依存する。したがって、ガス流路を狭める割合は50%に限らず、前記条件等により、例えば20〜90%の範囲で適宜調整可能である。なお、誘電体32はガス流路に沿って存在するが、誘電体32には高周波電流は流れず、よって不要な電力消費を回避できる。
【0034】
以上述べたように、本具体例によれば、導体31によってガス導入チューブ25にかかる電圧を分割することと、誘電体32によってガス流路を狭めることとの相乗効果により、ガス導入チューブ25内におけるプラズマの発生を確実に防ぐことができる。これにより、ガス導入チューブ25がプラズマにより損傷したり溶断することを防ぐことができ、ガス導入チューブ25の使用寿命を長くできる。この結果、コスト低減や、装置稼働率の向上が図れる。また、ガス導入チューブ25の耐圧向上により、より高パワーの電力をカソード部18に供給することもできる。
【0035】
次に、上述した本発明の第1の具体例の構成を採用した場合と、ガス導入チューブ25の内部に何も装入せずにガス導入チューブ25だけの構成とした比較例の場合とで、高周波放電テストを行った結果について説明する。カソード部18は、内径が200mm、高さが100mmのものを用いた。スパッタエッチング時の内部空間14内におけるアルゴンガスの圧力は3[Pa]と5[Pa]の場合とで行った。
【0036】
比較例の構成では、内部空間14の圧力が3[Pa]と5[Pa]の場合共に、カソード部18への投入電力が500[W]で、ガス導入チューブ25が溶断してしまった。これに対し、本発明の第1の具体例では、内部空間14の圧力が3[Pa]と5[Pa]の場合共に、カソード部18への投入電力が500[W]でも、さらに1[kW]でも、ガス導入チューブ25に損傷や溶断は見られなかった。
【0037】
次に、図7、8を参照して本発明の第2の具体例について説明する。第2の具体例は、ガス導入チューブ25の内部構成のみが上記第1の具体例と異なる。
図7は、第2の具体例に係るガス導入チューブ25の内部構成を表す拡大側面図であり、図8は、ガス導入チューブ25と、この内部に装入される複数の導体35とを分けて表した模式斜視図である。
【0038】
第2の具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に、複数の導体35が、略等間隔で互いに離間されて、ガス導入チューブ25の長手方向に沿って配置されている。導体35は、図8に表されるように、例えば金属材料からなる円形の網板である。各導体35は、ガス導入チューブ25内で互いに電気的に接続されていない。各導体35は、その径方向が、ガス導入チューブ25の長手方向に略垂直となるような姿勢でガス導入チューブ25内に配置されている。各導体35の直径は、ガス導入チューブ25の中空部の内径よりわずかに大きく、導体35の縁端部が、ガス導入チューブ25の中空部の内周面にくいこむようにして各導体35は保持されている。
【0039】
以上のように構成される第2の具体例においても、ガス流路にかかる電圧は、ガス導入チューブ25内でガス流路に沿って互いに離間して配置された複数の導体35によって分割されるので、ガス流路内での放電及びプラズマの発生を防いで、ガス導入チューブ25の損傷や溶断を防げる。
【0040】
次に、図9を参照して本発明の第3の具体例について説明する。第3の具体例においても、ガス導入チューブ25の内部構成のみが上記第1の具体例と異なる。
図9は、第3の具体例に係るガス導入チューブ25の横断面図である。
【0041】
第3の具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に、複数本のチューブ状の誘電体41〜49を装入することでガス流路を狭めて、ガス流路にプラズマが発生しにくくしている。各誘電体41〜49は、例えばフッ素樹脂やセラミックス材料からなる。
【0042】
図1に表されるガス搬送管27からガス導入チューブ25の他端部に流入したプロセスガスは、各誘電体41〜49の中空部、各誘電体41〜49どうしの隙間52、および各誘電体41〜49とガス導入チューブ25の内周面との間の隙間53を通って一端部に向けて流れる。
【0043】
ガス流路が細くなればなるほどプラズマは発生しにくくなるが、ガス流路の断面積の減少はガスのコンダクタンスの低下をきたす。そこで、第3の具体例では、ガス流路を、ガス導入チューブ25の断面方向でひとつながりにせず、プラズマの発生を防ぐべくより小さな断面積の複数の流路(各誘電体41〜49の中空部、各誘電体41〜49どうしの隙間52、および各誘電体41〜49とガス導入チューブ25の内周面との間の隙間53)の集合とすることで、コンダクタンスの低下を抑えつつ、プラズマの発生を防止できる。
【0044】
次に、図10を参照して本発明の第4の具体例について説明する。
図10は、第4の具体例に係るガス導入チューブ25の横断面図である。第4の具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に、断面が例えば十字状の誘電体51を装入することでガス流路を狭めて、ガス流路にプラズマが発生しにくくしている。誘電体51は、例えばフッ素樹脂やセラミックス材料からなる。
【0045】
図1に表されるガス搬送管27からガス導入チューブ25の他端部に流入したプロセスガスは、誘電体51と、ガス導入チューブ25の内周面との間の隙間54a〜54dを通って一端部に向けて流れる。
【0046】
第4の具体例においても、第3の具体例と同様、ガス流路を、ガス導入チューブ25の断面方向でひとつながりにせず、プラズマの発生を防ぐべくより小さな断面積の複数の流路54a〜54dの集合とすることで、コンダクタンスの低下を抑えつつ、プラズマの発生を防止できる。
【0047】
また、複数の誘電体41〜49を用いる第3の具体例に比べ、第4の具体例では1つの誘電体51だけで済むので、その分、部品点数の増大が図れ低コストである。さらに、ガス導入チューブ25内への装入作業も容易である。
【0048】
本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0049】
本発明は、アルゴンガスのような不活性ガスを用いたスパッタエッチング処理に限らず、反応性ガスを用いた反応性スパッタ、イオン注入、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、その他のプラズマを用いる処理を行う装置に適用可能である。
【0050】
また、被処理物としては、半導体ウェーハ、ディスク状記録媒体の基板、液晶用ガラス基板などが一例として挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の要部の模式断面図である。
【図2】同プラズマ処理装置においてプラズマ生起装置と回転テーブルとの配置関係を表す模式斜視図である。
【図3】本発明の第1の具体例に係るガス導入チューブの拡大側面図である。
【図4】図3におけるA−A線方向の拡大断面図である。
【図5】同第1の具体例において、ガス導入チューブ内に装入される導体の拡大平面図である。
【図6】同第1の具体例において、ガス導入チューブ内に装入される誘電体の拡大斜視図である。
【図7】本発明の第2の具体例に係るガス導入チューブの拡大側断面図である。
【図8】同第2の具体例において、ガス導入チューブ及びこの内部に装入される複数の導体を表した拡大斜視図である。
【図9】本発明の第3の具体例に係るガス導入チューブの拡大横断面図である。
【図10】本発明の第4の具体例に係るガス導入チューブの拡大横断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 プラズマ処理装置
3a〜3g プラズマ生起装置
5 回転テーブル
7 真空室
10 被処理物
14 内部空間
18 カソード部
25 ガス導入チューブ
26 ガス導入口
31 導体
32 誘電体
35 導体
41〜49 誘電体
51 誘電体
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ雰囲気下で被処理物の処理を行うプラズマ処理装置に関し、詳しくは、高周波電力が印加されるカソード部にプロセスガスの導入部が設けられ、そのカソード部の内部空間にプラズマを発生させるプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
高周波放電を利用したプラズマ処理装置において、高周波放電が行われる放電空間内にプロセスガスを導入する場合、その導入部はアノード部に設けることが一般的であった。しかし、例えば特許文献1に開示されるように、筒状のカソード部によって放電空間の大部分が囲まれ、そのカソード部の底に形成された開口に対向される被処理物の支持部がアノード部として機能する構造の場合、アノード側にガスを導入してもカソード部によって大部分が囲まれる放電空間にプラズマを生じさせることは難しく、また、被処理物の支持部が回転テーブル上に設けられていることからアノード側へのガス管レイアウトが困難なこともあって、カソード部にガスの導入部を設けている。
【0003】
しかし、高周波電圧が印加されるカソード部にガス導入部を設けた場合、ガスの導入路に高周波電圧が作用することになり、この電圧によってガス導入路に放電が起こり、プラズマが発生して、ガス導入路を内部に形成する例えば樹脂材料からなるガス導入チューブが溶断してしまう問題があった。
【特許文献1】特開2002−256428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ガス導入チューブ内でのプラズマの発生を防ぐことのできるプラズマ処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
プラズマが生起される内部空間と、前記内部空間に連通するガス導入口と、前記内部空間に連通する開口部とを有し、高周波電力が印加される筒状のカソード部と、
被処理物を、前記開口部を介して前記内部空間に臨ませる位置に支持可能なアノード部と、
一端部が前記ガス導入口に接続され、前記一端部よりもガスの流れの上流側に位置する他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブと、
前記ガス導入チューブの中空部を長手方向に沿って複数に分けるように前記中空部に設けられた通気性を有する導体と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置が提供される。
【0006】
また、本発明の他の一態様によれば、
プラズマが生起される内部空間と、前記内部空間に連通するガス導入口と、前記内部空間に連通する開口部とを有し、高周波電力が印加される筒状のカソード部と、
被処理物を、前記開口部を介して前記内部空間に臨ませる位置に支持可能なアノード部と、
一端部が前記ガス導入口に接続され、前記一端部よりもガスの流れの上流側に位置する他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブと、
前記ガス導入チューブの中空部を狭めて、前記中空部よりも断面積が小さいガス流路を前記一端部と前記他端部との間に形成するように前記中空部に設けられた誘電体と、
を備えることを特徴とするプラズマ処理装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ガス導入チューブ内でのプラズマの発生を防いで、ガス導入チューブの損傷や溶断を防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を適用した具体的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0009】
図1は、本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置1の要部の模式断面図である。
また、図2は、同プラズマ処理装置1においてプラズマ生起装置3a〜3gと回転テーブ ル5との配置関係を表す模式斜視図である。
【0010】
プラズマ処理装置1は、図示しない真空排気系により内部が減圧される真空室7を有する。真空室7の上部は円盤状の上蓋9により気密に塞がれている。上蓋9には、複数のプラズマ生起装置3a〜3gが設けられている。複数のプラズマ生起装置3a〜3gは、図2に表されるように、上蓋9の周方向に沿って配置されている。プラズマ生起装置3a〜3gは、その一部が上蓋9を貫通して真空室7内に臨んでいる。
【0011】
真空室7内には回転テーブル5が設けられている。回転テーブル5において、上蓋9に向き合う面の外周側部分には、被処理物10の支持部12(図1に図示)が、周方向に沿って複数設けられている。回転テーブル5は、図示しないモータにより、中心軸(図2において1点鎖線で表される)のまわりに回転可能となっている。回転テーブル5及び支持部12は、例えばステンレスまたはアルミニウム材料からなり、接地されている。支持部12は、後述する高周波放電のアノード部として機能する。
【0012】
複数のプラズマ生起装置3a〜3gのうち、例えば、プラズマ生起装置3b〜3gは被処理物10へのスパッタ成膜に用いられ、プラズマ生起装置3aは被処理物10へのスパッタエッチングに用いられる。
【0013】
図1に、スパッタエッチング用のプラズマ生起装置3aの模式断面を表す。プラズマ生起装置3aはカップ状を呈し、内部空間14を真空室7内に臨ませた状態で上蓋9に取り付けられている。プラズマ生起装置3aは、接地された接地部16と、高周波電源23より高周波電力が印加されるカソード部18とを有する。接地部16は、例えばアルミニウム材料からなる。カソード部18は、例えばステンレス材料からなり、内側に、プラズマが生起される内部空間14を有する。カソード部18の上壁部には、内部空間14と連通するガス導入口26が形成されている。
【0014】
接地部16及びカソード部18の底にはそれぞれ開口部17、19が形成され、これら開口部17、19を一致させて、接地部16の内側にカソード部18が配設されている。カソード部18の下端と、接地部16のリング状の底部16aとの間には、例えばフッ素樹脂やセラミックス材料からなるリング状の絶縁部材21が介在されている。また、カソード部18の外面と、接地部16の内面との間には、例えば150mmの空隙が形成されている。したがって、カソード部18と接地部16とは、互いに電気的に絶縁されている。
【0015】
接地部16及びカソード部18の上壁部には、これら上壁部を貫通して、ガス導入チューブ25が設けられている。ガス導入チューブ25は、電気絶縁性を有する材料、例えばフッ素樹脂からなる。ガス導入チューブ25の一端部は、カソード部18のガス導入口26に気密に接続されている。ガス導入チューブ25の他端部は、接地部16の上壁部を気密に貫通し、この他端部側の開口には、図示しない継手を介してガス搬送管27が接続されている。ガス搬送管27は、例えばステンレス材料からなり、接地されている。
【0016】
ガス導入チューブ25の一端部側の開口はネット29で覆われ、このネット29により、内部空間14で生じたプラズマPがガス導入チューブ25内に入り込むことが抑制される。ネット29は、例えばステンレスからなり、ガス導入チューブ25から内部空間14へのガスの円滑な導入を妨げない通気性を有する。ネット29は導体に限らず絶縁体でもよい。
【0017】
次に、ガス導入チューブ25の内部構造の第1の具体例について説明する。
図3は、内部を点線で表したガス導入チューブ25の拡大側面図であり、図4は図3におけるA−A線方向の拡大断面図である。第1の具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に、複数の導体31と、複数の誘電体32とが、ガス導入チューブ25の長手方向に沿って交互に配置されている。
【0018】
図5は導体31の拡大平面図である。
導体31は、例えばステンレス材料からなる円形リング状のワッシャである。複数の導体31は、略等間隔で互いに離間されて、ガス導入チューブ25の長手方向に沿って配置されている。各導体31は互いに電気的に接続されていない。各導体31は、その径方向が、ガス導入チューブ25の長手方向に略垂直となるような姿勢でガス導入チューブ25内に配置されている。なお、導体31の材質はステンレスに限らず、例えば、銅、アルミニウム、その他金属や合金を用いることができる。
【0019】
次に、図6は、ガス導入チューブ25の中空部に装入される前の状態(自然状態)の誘電体32の拡大斜視図である。誘電体32は、例えば、ガス導入チューブ25と同材料、同径のものを、径方向寸法が略半分となる位置で長手方向に沿って切り裂いて、且つそれを長手方向に垂直な面で分断して得たものである。誘電体32は、弾性を有する例えばフッ素樹脂からなるので、図6に表される自然状態のものを縮径させるように丸めた状態でガス導入チューブ25の中空部に装入すると、自然状態に戻ろうとする拡径方向への復元力により誘電体32の外周面が、ガス導入チューブ25の中空部の内周面に圧接する。これにより、誘電体32はガス導入チューブ25の中空部内で固定される。なお、誘電体32の材質はフッ素樹脂に限らず、その他の樹脂、あるいは、セラミックスや石英などを用いてもよい。
【0020】
導体31は、図3に表されるように、隣り合う2つの誘電体32の端面の間で狭圧された状態となっており、これにより、導体31はその位置が固定されている。各導体31は、誘電体32を間に介在させて平行に対向している。
【0021】
誘電体32がガス導入チューブ25の中空部に装入された状態では、図4に表されるように、誘電体32の中空部32aは完全にはつぶされずに、例えば、ガス導入チューブ25の中空部の断面積の約半分ほどの断面積を有する中空部32aがガス導入チューブ25内に確保される。上記ガス搬送管27からガス導入チューブ25の他端部に流入したプロセスガスは、誘電体32の中空部32a及び導体31の中空孔31aを通って一端部に向けて流れる。すなわち、本具体例では、誘電体32の中空部32a及び導体31の中空孔31aが、ガス流路として機能する。
【0022】
次に、プラズマ処理装置1の動作について説明する。真空室7内が図示しない真空排気系により排気されて減圧された状態で、回転テーブル5が回転されると共に、各プラズマ生起装置3a〜3gが作動される。回転テーブル5の回転により、各支持部12に支持された各被処理物10は、各プラズマ生起装置3a〜3gに対向する位置を通過しながら、円を描く軌跡で移動され、各被処理物10がプラズマ生起装置3b〜3gに対向する位置を通過する際にはスパッタ成膜を受け、プラズマ生起装置3aを通過する際にはスパッタエッチングを受ける。
【0023】
例えば、図1に表されるスパッタエッチング用のプラズマ生起装置3aにおいては、高周波電源23よりカソード部18に高周波電力が印加されると共に、図示しないガス源から、ガス搬送管27及びガス導入チューブ25を介して、カソード部18の内部空間14に、例えばアルゴンガスが導入される。
【0024】
これにより、内部空間14に放電が起こりプラズマPが生起される。その内部空間14に連通する開口部17、19に対向する位置に被処理物10が移動されると、その被処理物10は加速されたアルゴンイオンによってスパッタエッチングされる。
【0025】
ここで、ガス導入チューブ25の一端部は、高周波電圧が印加されるカソード部18のガス導入口26に接続され、他端部は、接地された接地部16及びガス搬送管27に結合されているため、ガス導入チューブ25内のガス流路には、一端部から他端部にかけて高周波電圧がかかる。
【0026】
しかし、本具体例では、そのガス流路にかかる電圧は、ガス導入チューブ25内でガス流路に沿って互いに離間して配置された複数の導体31によって分割されるので、ガス流路を、その分割された比較的小さな電圧がそれぞれかかる複数の小さな空間の集まりとして構成することができる。この結果、ガス流路内での放電及びプラズマの発生を防いで、ガス導入チューブ25の損傷や溶断を防げる。
【0027】
ガス導入チューブ25の両端にかかる高周波電圧のピーク値をV、ガス導入チューブ25内を流れるガスが放電を起こすのに必要な最小電圧をVsとすると、導体31によるガス流路の分割数nは、V/n<Vsを満足するように決められる。Vsは、例えば、パッシェンの法則に基づいて、平行電極(この場合導体31)間距離dと、ガス圧力pとの積pdの関数として定めることができる。またVsとpdとの関係はガス種によっても変わる。
【0028】
本具体例では、例えば、Vs=100[V]に設定し、また、V=6000[V]であったので、70個の導体31を用いてガス流路を71分割した。すなわち、導体31によって分けられたガス流路中の各部分にかかる電圧を、Vsより小さい(6000/71≒86[V])程度に抑えることができ、ガス流路中に、Vsより大きい電圧がかかる部分がなく、ガス流路中での放電及びプラズマの発生を防ぐことができる。
【0029】
なお、ガス導入チューブ25の長さ(カソード部18のガス導入口26に接続された部分から接地部16を貫通している部分までの距離)Lは、高周波電力によるガス導入チューブ25の加熱を抑えるため、200mm以上が好ましい。本具体例では例えばL=700mmとした。したがって、上述した70個の導体31は、略10mm間隔でガス導入チューブ25の長手方向に沿って配置されている。
【0030】
導体31を略等間隔で配置しているために、導体31によって分けられるガス流路の各部分にかかる電圧を、上記Vsより小さな所望の電圧に確実且つ容易に設定することができる。導体31が不均等配置であると、ガス流路中の各部分にかかる電圧がばらつき、導体31間の距離が比較的大きな部分では上記Vs以上の電圧がかかり放電が起こってしまう可能性がある。
【0031】
また、本具体例では、導体31として、図5に表される外径Dが4.4mm、中央孔31aの内径dが2.1mmのワッシャを用いた。しかし、これに限らず、ガスの通過を妨げない通気性を有する導体であればよい。
【0032】
また、本具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に誘電体32を配置して、ガス流路を狭めている。具体的には、誘電体32によって、ガス導入チューブ25の中空部の断面積の約50%が塞がれる。すなわち、本具体例でガス流路として機能する誘電体32の中空部32a(図4参照)の断面積は、ガス導入チューブ25の中空部の断面積の約半分である。ガス導入チューブ25の外径は例えば8mm、内径は例えば6mmである。
【0033】
放電が起こり、また、それが安定して持続するには、ある程度の広さの空間が必要であるので、上記のようにガス流路を狭めることは、ガス流路にプラズマを発生しにくくする。放電に必要な空間広さは、ガス導入チューブ25に加わる高周波電圧、内部を流れるガスの圧力や種類などに依存する。したがって、ガス流路を狭める割合は50%に限らず、前記条件等により、例えば20〜90%の範囲で適宜調整可能である。なお、誘電体32はガス流路に沿って存在するが、誘電体32には高周波電流は流れず、よって不要な電力消費を回避できる。
【0034】
以上述べたように、本具体例によれば、導体31によってガス導入チューブ25にかかる電圧を分割することと、誘電体32によってガス流路を狭めることとの相乗効果により、ガス導入チューブ25内におけるプラズマの発生を確実に防ぐことができる。これにより、ガス導入チューブ25がプラズマにより損傷したり溶断することを防ぐことができ、ガス導入チューブ25の使用寿命を長くできる。この結果、コスト低減や、装置稼働率の向上が図れる。また、ガス導入チューブ25の耐圧向上により、より高パワーの電力をカソード部18に供給することもできる。
【0035】
次に、上述した本発明の第1の具体例の構成を採用した場合と、ガス導入チューブ25の内部に何も装入せずにガス導入チューブ25だけの構成とした比較例の場合とで、高周波放電テストを行った結果について説明する。カソード部18は、内径が200mm、高さが100mmのものを用いた。スパッタエッチング時の内部空間14内におけるアルゴンガスの圧力は3[Pa]と5[Pa]の場合とで行った。
【0036】
比較例の構成では、内部空間14の圧力が3[Pa]と5[Pa]の場合共に、カソード部18への投入電力が500[W]で、ガス導入チューブ25が溶断してしまった。これに対し、本発明の第1の具体例では、内部空間14の圧力が3[Pa]と5[Pa]の場合共に、カソード部18への投入電力が500[W]でも、さらに1[kW]でも、ガス導入チューブ25に損傷や溶断は見られなかった。
【0037】
次に、図7、8を参照して本発明の第2の具体例について説明する。第2の具体例は、ガス導入チューブ25の内部構成のみが上記第1の具体例と異なる。
図7は、第2の具体例に係るガス導入チューブ25の内部構成を表す拡大側面図であり、図8は、ガス導入チューブ25と、この内部に装入される複数の導体35とを分けて表した模式斜視図である。
【0038】
第2の具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に、複数の導体35が、略等間隔で互いに離間されて、ガス導入チューブ25の長手方向に沿って配置されている。導体35は、図8に表されるように、例えば金属材料からなる円形の網板である。各導体35は、ガス導入チューブ25内で互いに電気的に接続されていない。各導体35は、その径方向が、ガス導入チューブ25の長手方向に略垂直となるような姿勢でガス導入チューブ25内に配置されている。各導体35の直径は、ガス導入チューブ25の中空部の内径よりわずかに大きく、導体35の縁端部が、ガス導入チューブ25の中空部の内周面にくいこむようにして各導体35は保持されている。
【0039】
以上のように構成される第2の具体例においても、ガス流路にかかる電圧は、ガス導入チューブ25内でガス流路に沿って互いに離間して配置された複数の導体35によって分割されるので、ガス流路内での放電及びプラズマの発生を防いで、ガス導入チューブ25の損傷や溶断を防げる。
【0040】
次に、図9を参照して本発明の第3の具体例について説明する。第3の具体例においても、ガス導入チューブ25の内部構成のみが上記第1の具体例と異なる。
図9は、第3の具体例に係るガス導入チューブ25の横断面図である。
【0041】
第3の具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に、複数本のチューブ状の誘電体41〜49を装入することでガス流路を狭めて、ガス流路にプラズマが発生しにくくしている。各誘電体41〜49は、例えばフッ素樹脂やセラミックス材料からなる。
【0042】
図1に表されるガス搬送管27からガス導入チューブ25の他端部に流入したプロセスガスは、各誘電体41〜49の中空部、各誘電体41〜49どうしの隙間52、および各誘電体41〜49とガス導入チューブ25の内周面との間の隙間53を通って一端部に向けて流れる。
【0043】
ガス流路が細くなればなるほどプラズマは発生しにくくなるが、ガス流路の断面積の減少はガスのコンダクタンスの低下をきたす。そこで、第3の具体例では、ガス流路を、ガス導入チューブ25の断面方向でひとつながりにせず、プラズマの発生を防ぐべくより小さな断面積の複数の流路(各誘電体41〜49の中空部、各誘電体41〜49どうしの隙間52、および各誘電体41〜49とガス導入チューブ25の内周面との間の隙間53)の集合とすることで、コンダクタンスの低下を抑えつつ、プラズマの発生を防止できる。
【0044】
次に、図10を参照して本発明の第4の具体例について説明する。
図10は、第4の具体例に係るガス導入チューブ25の横断面図である。第4の具体例では、ガス導入チューブ25の中空部に、断面が例えば十字状の誘電体51を装入することでガス流路を狭めて、ガス流路にプラズマが発生しにくくしている。誘電体51は、例えばフッ素樹脂やセラミックス材料からなる。
【0045】
図1に表されるガス搬送管27からガス導入チューブ25の他端部に流入したプロセスガスは、誘電体51と、ガス導入チューブ25の内周面との間の隙間54a〜54dを通って一端部に向けて流れる。
【0046】
第4の具体例においても、第3の具体例と同様、ガス流路を、ガス導入チューブ25の断面方向でひとつながりにせず、プラズマの発生を防ぐべくより小さな断面積の複数の流路54a〜54dの集合とすることで、コンダクタンスの低下を抑えつつ、プラズマの発生を防止できる。
【0047】
また、複数の誘電体41〜49を用いる第3の具体例に比べ、第4の具体例では1つの誘電体51だけで済むので、その分、部品点数の増大が図れ低コストである。さらに、ガス導入チューブ25内への装入作業も容易である。
【0048】
本発明は上記具体例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて種々の変形が可能である。
【0049】
本発明は、アルゴンガスのような不活性ガスを用いたスパッタエッチング処理に限らず、反応性ガスを用いた反応性スパッタ、イオン注入、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)、その他のプラズマを用いる処理を行う装置に適用可能である。
【0050】
また、被処理物としては、半導体ウェーハ、ディスク状記録媒体の基板、液晶用ガラス基板などが一例として挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の一実施形態に係るプラズマ処理装置の要部の模式断面図である。
【図2】同プラズマ処理装置においてプラズマ生起装置と回転テーブルとの配置関係を表す模式斜視図である。
【図3】本発明の第1の具体例に係るガス導入チューブの拡大側面図である。
【図4】図3におけるA−A線方向の拡大断面図である。
【図5】同第1の具体例において、ガス導入チューブ内に装入される導体の拡大平面図である。
【図6】同第1の具体例において、ガス導入チューブ内に装入される誘電体の拡大斜視図である。
【図7】本発明の第2の具体例に係るガス導入チューブの拡大側断面図である。
【図8】同第2の具体例において、ガス導入チューブ及びこの内部に装入される複数の導体を表した拡大斜視図である。
【図9】本発明の第3の具体例に係るガス導入チューブの拡大横断面図である。
【図10】本発明の第4の具体例に係るガス導入チューブの拡大横断面図である。
【符号の説明】
【0052】
1 プラズマ処理装置
3a〜3g プラズマ生起装置
5 回転テーブル
7 真空室
10 被処理物
14 内部空間
18 カソード部
25 ガス導入チューブ
26 ガス導入口
31 導体
32 誘電体
35 導体
41〜49 誘電体
51 誘電体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラズマが生起される内部空間と、前記内部空間に連通するガス導入口と、前記内部空間に連通する開口部とを有し、高周波電力が印加される筒状のカソード部と、
被処理物を、前記開口部を介して前記内部空間に臨ませる位置に支持可能なアノード部と、
一端部が前記ガス導入口に接続され、前記一端部よりもガスの流れの上流側に位置する他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブと、
前記ガス導入チューブの中空部を長手方向に沿って複数に分けるように前記中空部に設けられた通気性を有する導体と、
を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
プラズマが生起される内部空間と、前記内部空間に連通するガス導入口と、前記内部空間に連通する開口部とを有し、高周波電力が印加される筒状のカソード部と、
被処理物を、前記開口部を介して前記内部空間に臨ませる位置に支持可能なアノード部と、
一端部が前記ガス導入口に接続され、前記一端部よりもガスの流れの上流側に位置する他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブと、
前記ガス導入チューブの中空部を狭めて、前記中空部よりも断面積が小さいガス流路を前記一端部と前記他端部との間に形成するように前記中空部に設けられた誘電体と、
を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記誘電体は、前記中空部よりも断面積が小さい複数のガス流路を前記一端部と前記他端部との間に形成することを特徴とする請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記ガス導入チューブの両端にかかる高周波電圧のピーク値をV、前記ガス導入チューブ内を流れるガスが放電を起こすのに必要な最小電圧をVsとすると、前記導体によるガス流路の分割数nは、V/n<Vsを満足する
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【請求項1】
プラズマが生起される内部空間と、前記内部空間に連通するガス導入口と、前記内部空間に連通する開口部とを有し、高周波電力が印加される筒状のカソード部と、
被処理物を、前記開口部を介して前記内部空間に臨ませる位置に支持可能なアノード部と、
一端部が前記ガス導入口に接続され、前記一端部よりもガスの流れの上流側に位置する他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブと、
前記ガス導入チューブの中空部を長手方向に沿って複数に分けるように前記中空部に設けられた通気性を有する導体と、
を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項2】
プラズマが生起される内部空間と、前記内部空間に連通するガス導入口と、前記内部空間に連通する開口部とを有し、高周波電力が印加される筒状のカソード部と、
被処理物を、前記開口部を介して前記内部空間に臨ませる位置に支持可能なアノード部と、
一端部が前記ガス導入口に接続され、前記一端部よりもガスの流れの上流側に位置する他端部が接地された部材に結合された電気絶縁性のガス導入チューブと、
前記ガス導入チューブの中空部を狭めて、前記中空部よりも断面積が小さいガス流路を前記一端部と前記他端部との間に形成するように前記中空部に設けられた誘電体と、
を備えたことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項3】
前記誘電体は、前記中空部よりも断面積が小さい複数のガス流路を前記一端部と前記他端部との間に形成することを特徴とする請求項2記載のプラズマ処理装置。
【請求項4】
前記ガス導入チューブの両端にかかる高周波電圧のピーク値をV、前記ガス導入チューブ内を流れるガスが放電を起こすのに必要な最小電圧をVsとすると、前記導体によるガス流路の分割数nは、V/n<Vsを満足する
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマ処理装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2007−59103(P2007−59103A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−240470(P2005−240470)
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月22日(2005.8.22)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】
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