説明

プラズマ切断トーチ

【課題】冷却性能を向上して温度上昇を抑制するプラズマ切断トーチを実現する。
【解決手段】作動ガス導入管が中央に挿入されたトーチ本体金具の先端部に、先端に陰極材を有する電極を取り付け、電極と同軸上で電極外周部にプラズマ流を緊縮するチップと耐熱性を有するオリフィスとを隣接して設け、作動ガス導入管に導入した作動ガスが電極およびトーチ本体金具の内面と作動ガス導入管の外面との間の環状経路を通ってオリフィスを介してチップの内外面に通るように構成されたプラズマ切断トーチであり、電極内に挿入筒を設け、挿入筒の外周部に螺旋状の溝を設け、挿入筒の端部が電極の底部又は陰極材と接するように電極の内部に挿入筒を設ける。また、作動ガス導入管の外周部に螺旋状の溝を設け、作動ガス導入管の外周部とトーチ本体金具の内面とが接触するように作動ガス導入管をトーチ本体金具内に設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動ガスを用いるプラズマ切断トーチに関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラズマ切断トーチの電極を冷却するため、従来から、電極の周囲にフィン状の溝を設けて冷却するものが知られている(例えば、特許文献1や特許文献2参照)。しかし、電極に装着される陰極材は、フィンから離れた位置に設けられていた。そのため、陰極材に対する冷却効果は十分ではなく、長時間(例えば、1時間程度)切断作業を行うことができず、電極の寿命は短かった。
【0003】
近年、電極の内部に作動ガスを吹き付けて冷却することで、電極の寿命を飛躍的に長くする(例えば、3〜4時間程度)ものが知られている(例えば、特許文献3参照)。しかし、従来のプラズマ切断トーチは、先端部(電極やチップの辺り)の冷却を重視しており、トーチ本体全体としての冷却は行われていなかった。そのため、プラズマ切断トーチの先端部とトーチ本体部への作動ガスの入り口部との温度差が生じていた。そして、この温度差により、トーチ本体部を構成する金具部と樹脂部との間に隙間が生じていた。また、セラミック部と樹脂部との熱膨張の差により、セラミック部と樹脂部との接触面に隙間を生じていた。そして、この隙間に、高周波電流が流れ易くなり、絶縁を確保することができなかった。
【0004】
図9に、作動ガスを用いる従来のプラズマアーク切断装置の概略構成を示す。図9において、作動ガスを圧縮するコンプレッサ2は、レギュレータ3に接続され、レギュレータ3により作動ガスの二次圧力を一定値に調整している。さらに、レギュレータ3は、切断用電源4の内部と接続されており、切断用電源4に設けられたプラズマアークの始動や停止の指示によりオンオフするガスバルブ(図示せず)に接続されている。このガスバルブは、作動ガスをトーチ先端部1に送る冷却ケーブル8に接続されている。また、切断用電源4には、母材5と接続するための接地ケーブル6が設けられている。さらに、切断用電源4には、アークスタートを良好にするための高周波電圧を出力するためのパイロットケーブル9と、トーチスイッチケーブル10が設けられている。
【0005】
一方、プラズマ切断トーチ7は、電線を内蔵した冷却ケーブル8と、パイロットケーブル9と、トーチスイッチケーブル10により、切断用電源4に接続されている。なお、チップを母材5に接触して切断する接触切断では、パイロットケーブル9は使用しない。また、作動ガスは、冷却ケーブル8を介して、切断用電源4からプラズマ切断トーチ7のトーチ先端部1へ供給される。
【0006】
プラズマアーク切断装置11は、以上のように構成されている。
【0007】
次に、従来のプラズマ切断トーチの構造について、図10と図11を用いて説明する。なお、図10はプラズマ切断トーチ7の断面図である。図11は、図10のB−B矢視断面図である。
【0008】
図10において、作動ガス50は、図示しない冷却ケーブルが取付けられた取付ナット51から、パイプ52内を通り、ヘッド金具53内の空洞55に導かれ、作動ガス導入管12へと送られる。作動ガス導入管12は、銅又は銅合金からなる導入管固定金具54により本体金具13に固定される。作動ガス導入管12は、本体金具13の内部に配置される。本体金具13の先端部には、銅もしくは銅合金からなる電極14が螺着されている。この電極14の内部には、複数の小孔が設けられた挿入筒16Aが挿入されている。
【0009】
また、電極14の先端には、ジルコニウムやハフニウムなどの陰極材15を埋め込んだ電子放射面を有している。電極14の外周部には、同軸状でかつプラズマアークを絞って母材5にプラズマ流を供給するための、銅もしくは銅合金からなるチップ16が設けられている。さらに、このチップ16に隣接し、かつ電極14とチップ16とを電気的に絶縁するオリフィス17が設けられている。オリフィス17には、本体金具13に設けられた小孔13aと連通する小孔17aと、チップ16の内面側に連通する小孔17bが設けられている。また、チップ16とオリフィス17の外周部には、ノズル金具18が設けられている。そして、ノズル金具18とチップ16とが螺着することにより、チップ16とオリフィス17は、本体金具13に対して固定される。
【0010】
また、ノズル金具18の外周部には、導電部の外部への露出を防止するノズル19が螺着して固定されている。ノズル19の先端開口は、ノズル金具18に設けられた小孔18aを介してオリフィス17の小孔17aに連通している。従って、本体金具13の小孔13aからオリフィス17の小孔17aに流入した作動ガス50は、オリフィス17の小孔17bとノズル金具18の小孔18aにより、チップ16の内面と外面に分流される。
【0011】
また、モールド部20は、ノズル19に隣接してノズル金具18を覆って設けられた絶縁材であり、トーチ本体部の形成と、トーチ本体部の導電部の外部露出を防止している。
【0012】
次に、作動ガス50の流れについて説明する。図10において矢印で示すように、作動ガス50は、電線を内蔵する冷却ケーブル(図示せず)を接続した取付ナット51内から、パイプ52内を通過し、ヘッド金具53に設けられている空洞55に流れる。そして、空洞55から作動ガス導入管12に流れ、さらに、電極14と同軸に開口した挿入筒16Aの開口部から小孔を経て、電極14の内面および本体金具13の内周面と作動ガス導入管12の外周面との間の環状経路21を通る。さらに、本体金具13に設けられた小孔13aから、オリフィス17の小孔17aを通って、オリフィス17の外周面とノズル金具18の内周面との間の経路を通る。この経路から、オリフィス17の小孔17bを通る経路と、ノズル金具18の小孔18aを通る経路とに分かれる。一方の経路として、作動ガス50は、オリフィス17の小孔17bから電極14の外周面とチップ16の内周面との間の経路を通り、チップ16の先端開口部より外部に噴出される。また、他方の経路として、作動ガス50は、ノズル金具18の小孔18aから、チップ16の外周面とノズル19の内周面との間の経路を通って、ノズル19の先端開口部より外部に噴出される。
【0013】
このようにして、作動ガス50は、電極14およびチップ16の内外周面を通り、電極14およびチップ16を冷却すると共に、プラズマアークの緊縮を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】実開昭62−082184号公報
【特許文献2】実開昭63−196374号公報
【特許文献3】特開平3−114677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上記従来のプラズマ切断トーチ7では、図10で示したように、作動ガス50は、冷却ケーブル8が取付けられた取付ナット51からパイプ52内を通過し、ヘッド金具53に設けられた空洞55に導かれ、作動ガス導入管12へと送られるようになっている。しかし、作動ガス50が短時間で通過してしまい、本体金具13や、ヘッド金具53や、導入管固定金具54といった金具部や、モールド部20に対して、十分な冷却を行うことができない。そして、切断を繰り返すなどのヒートサイクルや、異常な作業の吹き上げを生じる切断などを行うと、金具部の温度が上昇する。この場合、モールド部20と本体金具13や、モールド部20とオリフィス17など、樹脂部と金属部、樹脂部とセラミック部の膨張係数の違いから、接合面にミクロの隙間を生じる。そして、温度上昇が高いときは、樹脂部の膨らみや溶融を派生し、絶縁性が劣化することがあった。
【0016】
なお、本体金具13の中央に挿入された作動ガス導入管12のその先端に、小孔を有した銅合金の筒状の挿入筒16Aを圧入していた(例えば、特許文献3参照)。これにより、電極の長寿命化が図れた。しかし、これでも不十分であり、電極の寿命に問題があった。
【0017】
これは、作動ガス50が、作動ガス導入管12のセンタを通過した後、環状経路21を経てチップ16の内外面を流れるが、作動ガス導入管12の外周部には、図12に示すように軸方向に平行なフィン状のスリットを設けているため、作動ガス50は、短時間で通過してしまい、冷却効果は少なく、緊縮したプラズマアークを発生することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明のプラズマ切断トーチは、作動ガス導入管が中央に挿入されたトーチ本体金具の先端部に、先端に陰極材を有する電極を取り付け、前記電極と同軸上で前記電極外周部に、プラズマ流を緊縮するチップと耐熱性を有する絶縁物からなるオリフィスとを隣接して設け、前記作動ガス導入管に導入した作動ガスが、前記電極および前記トーチ本体金具の内面と前記作動ガス導入管の外面との間の環状経路を通って前記オリフィスを介して前記チップの内外面に通るように構成されたプラズマ切断トーチであって、前記電極内に銅または銅合金からなる挿入筒を設け、前記挿入筒の外周部に螺旋状の溝を設け、前記挿入筒の端部が前記電極の底部又は前記陰極材と接するように前記電極の内部に前記挿入筒を圧入して設けたものである。
【0019】
また、本発明のプラズマ切断トーチは、上記に加えて、挿入筒に設ける螺旋状の溝の数は、3個以上としたものである。
【0020】
また、本発明のプラズマ切断トーチは、作動ガス導入管が中央に挿入されたトーチ本体金具の先端部に、先端に陰極材を有する電極を取り付け、前記電極と同軸上で前記電極外周部に、プラズマ流を緊縮するチップと耐熱性を有する絶縁物からなるオリフィスとを隣接して設け、前記作動ガス導入管に導入した作動ガスが、前記電極および前記トーチ本体金具の内面と前記作動ガス導入管の外面との間の環状経路を通って前記オリフィスを介して前記チップの内外面に通るように構成されたプラズマ切断トーチであって、前記作動ガス導入管の外周部に螺旋状の溝を設け、前記作動ガス導入管の外周部とトーチ本体金具の内面とが接触するように前記作動ガス導入管を前記トーチ本体金具内に設けたものである。
【0021】
また、本発明のプラズマ切断トーチは、上記に加えて、作動ガス導入管に設ける螺旋状の溝の数は、2個以上としたものである。
【0022】
また、本発明のプラズマ切断トーチは、作動ガス導入管が中央に挿入されたトーチ本体金具の先端部に、先端に陰極材を有する電極を取り付け、前記電極と同軸上で前記電極外周部に、プラズマ流を緊縮するチップと耐熱性を有する絶縁物からなるオリフィスとを隣接して設け、前記作動ガス導入管に導入した作動ガスが、前記電極および前記トーチ本体金具の内面と前記作動ガス導入管の外面との間の環状経路を通って前記オリフィスを介して前記チップの内外面に通るように構成されたプラズマ切断トーチであって、前記作動ガス導入管の入口部に、銅または銅合金からなる円筒状の中心部を空洞にした導入管固定金具を設け、前記導入管固定金具は、前記導入管固定金具の外周部から中心部に連通する穴を複数備え、前記導入管固定金具は外周部に凸部を備え、前記導入管固定金具は作動ガスを導くパイプと作動ガス導入管の入口部との間に設けられ、前記導入管固定金具の外側には空洞を隔てて銅または銅合金のヘッド金具を設けたものである。
【0023】
また、本発明のプラズマ切断トーチは、上記に加えて、導入管固定金具に設けられた穴の作動ガス経路軸断面は、作動ガス導入管の作動ガス軸断面より大きいものである。
【0024】
また、本発明のプラズマ切断トーチは、上記に加えて、導入管固定金具の外周部に設ける凸部は、フィン状あるいはドーナツ状としたものである。
【発明の効果】
【0025】
本発明のプラズマ切断トーチでは、電極内に銅または銅合金からなる挿入筒設け、挿入筒の端部に等間隔の溝を挿入筒の円周方向に設け、挿入筒の端部が電極の底部又は陰極材と接する構成としている。これにより、電極内の挿入筒の熱容量が増え、電極および陰極材の冷却を行うことができ、電極寿命を延ばすことができる。
【0026】
また、本発明のプラズマ切断トーチでは、作動ガス導入管の外周部に等間隔の螺旋状の溝を設けた構成としている。そして、作動ガス導入管は、作動ガス導入管の螺旋状外周部とトーチ本体金具の内面とが接触するように配置されている。このような構成とすることで、作動ガスの温度上昇を押さえ、冷却した作動ガスをチップまで供給する緊縮したプラズマアークを発生させるプラズマ切断トーチを実現でき、また、シリーズアークをなくしてチップの寿命を長くすることができる。
【0027】
また、本発明のプラズマ切断トーチでは、ヘッド金具により形成された空洞から、導入管固定金具を介して作動ガス導入管に作動ガスを流して冷却効率を向上している。これにより、繰り返し切断や、異常な吹き上げを生じる切断作業を行ったとしても、モールド部や金具部の温度上昇を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態1におけるプラズマ切断トーチの要部断面図
【図2】本発明の実施の形態1におけるプラズマ切断トーチのトーチ本体部の要部断面図
【図3】本発明の本実施の形態1におけるプラズマ切断トーチの図1や図2におけるA−A断面を示す図
【図4】本発明の実施の形態1におけるヘッド金具の一例を示す図
【図5】(a)本発明の実施の形態1における挿入管の一例を示す図(b)本発明の実施の形態1における挿入管の一例を示す図(c)本発明の実施の形態1における電極の一例を示す図
【図6】本発明の実施の形態1における作動ガス導入管の一例を示す図
【図7】接触切断を行った時の従来のプラズマ切断トーチと本発明のプラズマ切断トーチとの電極の寿命比較を示す図
【図8】従来の切断トーチと本発明の切断トーチとのチップ穴径に対する限界電流を示す図
【図9】従来の一般的なプラズマアーク切断装置の斜視図
【図10】従来のプラズマ切断トーチの断面図
【図11】従来のプラズマ切断トーチにおける図10のB−B矢視断面を示す図
【図12】従来の作動ガス導入管の矢視図
【図13】従来のプラズマ切断トーチのトーチ先端部の電極と挿入筒を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図8を用いて説明する。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本実施の形態1におけるプラズマ切断トーチの要部断面図である。図2は、本実施の形態1におけるプラズマ切断トーチのトーチ本体部の要部断面図である。図3は、本実施の形態1におけるプラズマ切断トーチの図1や図2におけるA−A断面を示す図である。図4は、本実施の形態1におけるヘッド金具の一例を示す図である。図5は、本実施の形態1における挿入管の一例と電極の一例を示す図である。図6は、本実施の形態1における作動ガス導入管の一例を示す図である。図7は、接触切断を行った時の従来のプラズマ切断トーチと本発明のプラズマ切断トーチとの電極の寿命比較を示す図である。図8は、従来の切断トーチと本発明の切断トーチとのチップ穴径に対する限界電流を示す図である。
【0031】
なお、「背景技術」や「発明が解決しようとする課題」の項で説明した構成と同様の箇所については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。また、本実施の形態1のプラズマ切断トーチは、主に3つの構成上の特徴があり、以下、順に説明する。
【0032】
先ず、本実施の形態1のプラズマ切断トーチの1つ目の構成の特徴について説明する。
【0033】
図1は、プラズマ切断トーチの断面図である。図1において、取付ナット51とパイプ52を除いた部分をトーチ本体部と呼ぶことにする。図2は、トーチ本体部の断面図である。
【0034】
図1と図2において、本実施の形態1のプラズマ切断トーチは、作動ガス導入管12のガス入り口部分に、導入管固定金具54を設けており、この導入管固定金具54の形状が特徴の1つである。導入管固定金具54の外観の一例を図3に示す。導入管固定金具54は、銅または銅合金からなり、円筒状であり、中心部を空洞にしている。また、この導入管固定金具54は、外周部から中心部に連通する穴を側壁に複数設けてあり、さらに、外周部にフィン状またはドーナツ状の凸部が設けられている。
【0035】
なお、導入管固定金具54は、作動ガス50を導くパイプ52と、作動ガス導入管12の入口部分との間に設けられている。そして、この導入管固定金具54の外周に空洞が出来るように、導入管固定金具54の外側に、銅または銅合金のヘッド金具53が設けられている。導入管固定金具54の軸に直交する導入管固定金具54の作動ガス経路断面は、作動ガス導入管12のガス経路軸断面より大きくしている。
【0036】
次に、作動ガス50の流れについて説明する。
【0037】
図1において、取付ナット51には、「背景技術」の説明に用いた図9で示した冷却ケーブル8が取り付けられる。作動ガス50は、パイプ52を通ってヘッド金具53の内側の空洞55に導かれ、空洞55から導入管固定金具54の側壁の穴を通って導入管固定金具54内を通過して作動ガス導入管12に導かれる。
【0038】
このように、作動ガス50が、空洞55から導入管固定金具54を通過する際に、ヘッド金具53の熱を奪ってヘッド金具53を冷却する。
【0039】
なお、導入管固定金具54は、外周部に、フィン状またはドーナツ状の凸部を設けており、作動ガス50との接触面積が大きくなっている。これにより、さらに放熱効果を上げており、ヘッド金具53の温度が上がらない効果を奏する。
【0040】
以上のように、本実施の形態1のプラズマ切断トーチでは、ヘッド金具53により形成された空洞55から、導入管固定金具54を介して作動ガス導入管12に作動ガス50を流して冷却効率を向上している。これにより、繰り返し切断や、異常な吹き上げを生じる切断作業を行ったとしても、モールド部20や金具部の温度上昇を例えば30deg以下に低く抑えることができる。
【0041】
従って、モールド部20と本体金具13、モールド部20やオリフィス17などの樹脂部と金属部、樹脂部とセラミック部、との膨張によるヒズミを少なくし、接合面のミクロの隙間発生や異常使用による樹脂の溶融、膨らみ、をなくすことができ、安全なプラズマ切断トーチを実現することができる。
【0042】
次に、本実施の形態1のプラズマ切断トーチの2つ目の構成の特徴について説明する。
【0043】
図2において、電極14の内部に、銅または銅合金からなる挿入筒16Bを圧入して設ける構成としている。そして、挿入筒16Bに等間隔の3個以上の溝を設けている。より具体的には、挿入筒16Bの円周方向に螺旋状に溝を設けている。この挿入筒16Bは、端部が電極14の底部または陰極材15と接するように電極14内に設けられている。
【0044】
ここで、電極14と陰極材15と挿入筒16Bを図5に示す。図5(c)は電極14に陰極材15が取り付けられた状態を示している。そして、図5(c)の電極14の内部に、図5(a)に示す挿入筒16Bが設けられる。なお、図5(b)は、図5(a)の挿入筒16Bを上下反転した状態を示す参考図である。
【0045】
上記のように電極14内に挿入筒16Bを設けることで、電極14内の挿入筒16Bの熱伝達を容易にし、熱容量も増加し、電極14や陰極材15の強制冷却を行うことができる。
【0046】
なお、作動ガス50は、挿入筒16Bのセンタを通過して陰極材15の内側端部に放出され、電極14よりも陰極材15の方が高温となる。そして、プラズマアークは電極14の中心部に集中して発生する。このため、アークが真っ直ぐになり、斜め切断の異常切断が解消される。
【0047】
以上のように、本実施の形態1のプラズマ切断トーチでは、電極14内に銅または銅合金からなる挿入筒16B設け、挿入筒16Bの端部に等間隔の3個以上の溝を挿入筒16Bの円周方向に設け、挿入筒16Bの端部が電極14の底部又は陰極材15と接するように、電極14の内部に挿入筒16Bを圧入した構成としている。従って、電極14内の挿入筒16Bの熱容量アップと、電極14および陰極材15の強制冷却を行う作用があり、電極寿命をさらに2割程度延ばすことができた。
【0048】
次に、本実施の形態1のプラズマ切断トーチの3つ目の構成の特徴について説明する。
【0049】
図6に示すように、作動ガス導入管12は、外周部に等間隔の螺旋状の溝を2個以上設けた構成としている。そして、作動ガス導入管12は、作動ガス導入管12の螺旋状外周部と本体金具13の内面とが接触するように配置されている。このような構成とすることで、作動ガス50の温度上昇を押さえ、冷却した作動ガス50をチップ16まで供給する緊縮したプラズマアークを発生させるプラズマ切断トーチを実現することができる。そして、シリーズアークをなくし、チップ16の寿命も長くする効果がある。
【0050】
以上のように、3つの構成上の特徴を有する本実施の形態1のプラズマ切断トーチによれば、トーチ本体部の先端部(電極14やチップ16の辺り)からケーブル類継手部である取付ナット51までの冷却効果を高めることができ、図7に示すように電極寿命を延ばすことができる。なお、図7は、切断時間に対する電極の消耗長を示しており、下側のラインが本実施の形態1の結果である。図7より、本実施の形態1のプラズマ切断トーチの方が、同じ切断時間において、従来のプラズマ切断トーチと比べて消耗長が短いことがわかる。なお、試験条件は、母材がSPHt12mm、母材間0mm(接触切断)、電流60A、エアー圧力5kgf/cm2、切断長25cmの切りはなし切断である。
【0051】
また、本実施の形態1のプラズマ切断トーチによれば、切断能力を超える厚い板での吹き上げる異常な切断を行っても、急激な温度上昇もなく、モールド部20の部分は損傷せず、絶縁が確保されていた。なお、耐圧の限界値は、10kV/mmであった。また、モールド部20の溶融や膨らみ等の欠陥は観られなかった。
【0052】
また、図8に、チップ16の同じ穴径に対しての電流が多く流せることを示すシリーズアーク発生限界グラフを示す。図8の左側のラインが、本実施の形態1のプラズマ切断トーチの結果を示している。図8より、本実施の形態1によれば、チップ16の同一穴径において、従来のプラズマ切断トーチと比べて電流を多く流すことができ、能力の高いプラズマ切断トーチを実現することできる。
【0053】
また、冷却効率を高めたことにより、高価な陰極材15であるHf(ハフニウム)を最大限利用することができ、エコであり、さらに、長期安全性を確保したプラズマ切断トーチを提供することができる効果は大きい。
【0054】
また、手動切断や自動切断においても、切断品質の長期安定化が図れるプラズマ切断トーチを供給でき、その効果には大なるものがある。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明のプラズマ切断トーチは、使用時の温度上昇を抑制することができ、作動ガスを用いて加工を行うプラズマ切断トーチ等として産業上有用である。
【符号の説明】
【0056】
1 トーチ先端部
2 コンプレッサ
3 レギュレータ
4 切断用電源
5 母材
6 接地ケーブル
7 プラズマ切断トーチ
8 冷却ケーブル
9 パイロットケーブル
10 トーチスイッチケーブル
11 プラズマアーク切断装置
12 作動ガス導入管
13 本体金具
14 電極
15 陰極材
16 チップ
16A 挿入筒
16B 挿入筒
17 オリフィス
13a、17a、17b、18a 小孔
18 ノズル金具
19 ノズル
20 モールド部
21 環状経路
50 作動ガス
51 取付ナット
52 パイプ
53 ヘッド金具
54 導入管固定金具
55 空洞

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動ガス導入管が中央に挿入されたトーチ本体金具の先端部に、先端に陰極材を有する電極を取り付け、前記電極と同軸上で前記電極外周部に、プラズマ流を緊縮するチップと耐熱性を有する絶縁物からなるオリフィスとを隣接して設け、前記作動ガス導入管に導入した作動ガスが、前記電極および前記トーチ本体金具の内面と前記作動ガス導入管の外面との間の環状経路を通って前記オリフィスを介して前記チップの内外面に通るように構成されたプラズマ切断トーチであって、
前記電極内に銅または銅合金からなる挿入筒を設け、前記挿入筒の外周部に螺旋状の溝を設け、前記挿入筒の端部が前記電極の底部又は前記陰極材と接するように前記電極の内部に前記挿入筒を圧入して設けたプラズマ切断トーチ。
【請求項2】
挿入筒に設ける螺旋状の溝の数は、3個以上である請求項1記載のプラズマ切断トーチ。
【請求項3】
作動ガス導入管が中央に挿入されたトーチ本体金具の先端部に、先端に陰極材を有する電極を取り付け、前記電極と同軸上で前記電極外周部に、プラズマ流を緊縮するチップと耐熱性を有する絶縁物からなるオリフィスとを隣接して設け、前記作動ガス導入管に導入した作動ガスが、前記電極および前記トーチ本体金具の内面と前記作動ガス導入管の外面との間の環状経路を通って前記オリフィスを介して前記チップの内外面に通るように構成されたプラズマ切断トーチであって、
前記作動ガス導入管の外周部に螺旋状の溝を設け、前記作動ガス導入管の外周部とトーチ本体金具の内面とが接触するように前記作動ガス導入管を前記トーチ本体金具内に設けたプラズマ切断トーチ。
【請求項4】
作動ガス導入管に設ける螺旋状の溝の数は、2個以上である請求項3記載のプラズマ切断トーチ。
【請求項5】
作動ガス導入管が中央に挿入されたトーチ本体金具の先端部に、先端に陰極材を有する電極を取り付け、前記電極と同軸上で前記電極外周部に、プラズマ流を緊縮するチップと耐熱性を有する絶縁物からなるオリフィスとを隣接して設け、前記作動ガス導入管に導入した作動ガスが、前記電極および前記トーチ本体金具の内面と前記作動ガス導入管の外面との間の環状経路を通って前記オリフィスを介して前記チップの内外面に通るように構成されたプラズマ切断トーチであって、
前記作動ガス導入管の入口部に、銅または銅合金からなる円筒状の中心部を空洞にした導入管固定金具を設け、前記導入管固定金具は、前記導入管固定金具の外周部から中心部に連通する穴を複数備え、前記導入管固定金具は外周部に凸部を備え、前記導入管固定金具は作動ガスを導くパイプと作動ガス導入管の入口部との間に設けられ、前記導入管固定金具の外側には空洞を隔てて銅または銅合金のヘッド金具を設けたプラズマ切断トーチ。
【請求項6】
導入管固定金具に設けられた穴の作動ガス経路軸断面は、作動ガス導入管の作動ガス軸断面より大きい請求項5記載のプラズマ切断トーチ。
【請求項7】
導入管固定金具の外周部に設ける凸部は、フィン状あるいはドーナツ状である請求項5または6記載のプラズマ切断トーチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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