プラズマ切断装置用ノズル及びプラズマトーチ
【課題】オリフィス内面を含むノズル内面に電極材が付着して切断品質が低下するのを抑える。
【解決手段】このプラズマ切断装置用ノズル6は、先端側に配置されたワークにプラズマジェットを噴出してワークを切断するためのものであり、筒状部6aと先端部6bとを備えている。筒状部は先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面25bが形成された空間を内部に有する。先端部6bは、筒状部6aの先端側に形成されており、テーパ内面25bのさらに先端側に形成されたオリフィス26と、ワークに対向する先端面26aと、を有する。そして、テーパ内面25b及びオリフィス26の内面にはセラミック系材料の被膜Cが形成されている。また、テーパ内面25bのテーパ角度は80°以上105°以下である。
【解決手段】このプラズマ切断装置用ノズル6は、先端側に配置されたワークにプラズマジェットを噴出してワークを切断するためのものであり、筒状部6aと先端部6bとを備えている。筒状部は先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面25bが形成された空間を内部に有する。先端部6bは、筒状部6aの先端側に形成されており、テーパ内面25bのさらに先端側に形成されたオリフィス26と、ワークに対向する先端面26aと、を有する。そして、テーパ内面25b及びオリフィス26の内面にはセラミック系材料の被膜Cが形成されている。また、テーパ内面25bのテーパ角度は80°以上105°以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ切断に用いられるプラズマ切断装置用のノズル及びそれを含むプラズマトーチに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ切断装置は、プラズマアークを噴射して金属板等のワークを熱切断する装置である。プラズマ切断装置にはプラズマトーチが設けられており、プラズマトーチは消耗部品としての電極及びノズルを有している。
【0003】
このようなプラズマ切断装置では、プラズマトーチの電極とワークとの間にプラズマアークが発生する。プラズマアークはノズルで細く絞り込まれ、これにより高温かつ高圧のプラズマジェットが生成される。そして、プラズマジェットがワークに噴射されることにより、ワークが切断される。ここで、プラズマアークは以下のような過程により生成されることが知られている。
【0004】
まず、電極とノズルとの間に、小流量のプラズマガスが供給され、プラズマガスの流れが生成される。この状態で、電極に高電圧が印加されると、電極とノズルの内面との間に絶縁破壊が発生する。そして、この絶縁破壊をトリガーにして電極とノズルとの間にパイロットアークが発生する。パイロットアークは、プラズマガスの流れに乗ってワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極とワークとの間にプラズマアークが生成される。
【0005】
以上のようなプラズマ切断装置において、特許文献1の従来技術の欄には、ノズルの長寿命化を図るために、ノズル先端にセラミックをコーティングすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−99783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電極に設けられる電極材は、一般的にハフニウムが用いられる。本件発明者は、電極材としてハフニウムを用い、プラズマガスとして酸素を用いたプラズマ切断装置においては、以下のような技術的課題があることを発見した。以下、この技術的課題について詳細に説明する。
【0008】
ある程度の切断回数あるいは切断時間が経過すると、ハフニウム電極の損耗と切断品質の劣化が進行する。これは、損耗したハフニウムが飛散してノズル内壁面に付着し、この付着したハフニウムが切断品質の劣化の要因であることが判明した。より詳細には、ハフニウム及びその酸化物等がノズル内壁面に付着し堆積すると、ノズル先端のオリフィス内壁面に凹凸が生じ、また軸対称性が維持されなくなる。このようなノズルオリフィスの損傷は、プラズマアークの拡がり、曲がり、歪みを発生させ、結果的に、ワークの切断面の粗さ、直角性等の品質の低下を招くことになる。
【0009】
以上のことは、ノズル内壁面に付着したハフニウムを除去することで、劣化した切断品質が復帰することでも証明できた。
【0010】
そこで、特許文献1に示されるようなセラミック等の被膜をノズル内面に形成することが考えられる。しかし、前述の損耗したハフニウムが被膜表面に付着し、被膜を損傷させながら、この被膜をノズル内面から離脱させることが予想される。しかも、このような現象は切断処理中において継続して生じるので、ノズル内面を被膜のみによって保護し続けることは困難であり、好適なノズル形状を維持できないと考えられる。
【0011】
本発明の課題は、オリフィス内面を含むノズル内面に電極材が付着して切断品質が低下するのを抑えることにある。より詳細には、ノズル内面等に被膜を形成した場合に、被膜によるノズル内面の保護効果が長期にわたって維持できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、先端側に配置されたワークにプラズジェットを噴出してワークを切断するためのものであり、筒状部と先端部とを備えている。筒状部は先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面が形成された空間を内部に有する。先端部は、筒状部の先端側に形成されており、テーパ内面のさらに先端側に形成されたオリフィスと、ワークに対向する先端面と、を有する。そして、テーパ内面及びオリフィスの内面にはセラミック系材料の被膜が形成されている。また、テーパ内面のテーパ角度は80°以上105°以下である。
【0013】
このノズルがプラズマトーチに装着された場合、ノズルの内部には電極が配置される。そして、ノズルのテーパ内面と電極の外周縁との間の最短ギャップの位置で絶縁破壊が生じる。この第1発明での「テーパ内面」とは、少なくとも、ノズル内面のうちの電極外周縁に最も近接する位置から先端側(オリフィス側)に向かう面を含む部分である。
【0014】
ここでは、少なくともノズルのテーパ内面及びオリフィス内面にセラミック系材料の被膜が形成されているので、飛散した電極材が各内面に付着しにくい。このため、特にオリフィスの損傷が抑えられ、比較的長期にわたって初期のオリフィス形状が維持される。また、テーパ内面のテーパ角度が80°以上105°以下に設定されているので、飛散した電極材がノズル内部に堆積するのを抑えることができる。このため、切断品質の低下を抑え、ノズルの長寿命化を図ることができる。
【0015】
テーパ角度を80°以上105°以下に設定するのは以下の理由による。
【0016】
<下限角度80°について>
一般的な形状の電極を用いてノズル内面のテーパ角度を小さくした場合の例を図1に示している。この図1に示す例では、ノズルNのテーパ部の内面の角度(テーパ角度)αは70°である。ここで、絶縁破壊性の向上と、プラズマガス流れの安定性確保のためには、電極Eとノズル内面Niとの最短ギャップを最適値にする必要がある。このため、ノズル内面Niのテーパ角度αを小さくし、かつ最短ギャップの最適値を確保した場合は、図1に示すように、電極Eの先端部がノズルオリフィスNoから大きく離間することになる。すると、電極Eの先端外周縁とノズル内面Niとの間に発生したパイロットアークがノズル内部から伸長せず、パイロットアークの途切れ現象が発生する。この結果、再着火動作が繰り返され、ノズル内面に形成された被膜直下の基材にまで達するアーク痕が形成されて、被膜の剥離が促進されることになる。さらに、同様の理由によってメインアーク移行時に電流値が増大し、この電流値増大に伴うメインアークのふらつきがオリフィス付近で発生することになる。この結果、前記同様に、被膜の剥離が促進されることになる。
【0017】
そこで、図2に示すように、電極Eの先端部の形状を図1に比較して細くし、電極先端部をノズルオリフィスNoに近づけることが考えられる。しかし、この場合は、電極先端の電極材hを冷却するための水冷パイプWpを電極材hに近づけることができない。このため、電極材hの冷却不足が生じ、電極材hの消耗を抑制することができない。なお、図2において、冷却水の流れを破線で示している。
【0018】
以上を考慮して、ノズルのテーパ内面の角度αは80°以上が好ましい。
【0019】
<上限角度105°について>
前述の場合とは逆に、ノズルのテーパ内面の角度αを例えば120°にした場合、飛散した電極材がテーパ内面に到達しやすくなり、かつテーパ内面に長時間滞在しやすくなる。このため、テーパ内面に電極材付着防止のために被膜を形成しても、飛散した電極材によって被膜がダメージを受けやすい。その結果、被膜は剥離されて電極材付着防止効果が低下する。この場合、特に、ノズルオリフィス入口部への集中が著しく、ダメージが大きくなって切断品質の著しい低下を招く。
【0020】
また、テーパ角度を120°にすると、鈍角であるがために、プラズマガスの流れに対してテーパ内面が抵抗になりやすい。このために、異常放電を誘発しやすく、ノズル入口部にダメージを与える可能性が大きくなる。
【0021】
以上を考慮して、ノズルのテーパ内面の角度αは105°以下が好ましい。
【0022】
第2発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第1発明のノズルにおいて、筒状部はテーパ内面とオリフィスとをつなぐ曲面を有しており、曲面にはセラミック系材料の被膜が形成されている。
【0023】
ここで、ノズルのオリフィス入口部、すなわちテーパ内面とオリフィスとの境界部は、プラズマガスが収斂する領域である。本件発明者の一連の実験によれば、この部分は、他のノズル内面に比較して電極材が集中して付着することが判明した。このため、テーパ内面とオリフィスとの境界をエッジにしたまま、この境界部に被膜を形成しても、被膜がダメージを受けて剥離しやすい。
【0024】
そこで第2発明では、テーパ内面とオリフィスとの間に曲面が形成されている。この曲面により、オリフィス入口部においてプラズマガスを整流する効果が得られる。このガス整流効果によって、飛散した溶融電極材の排出が促進され、ノズル内面に溶融電極材が付着するのを抑えることができる。このため、ノズル内面へのダメージを抑制できる。
【0025】
第3発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第2発明のノズルにおいて、テーパ内面の最大内径D1に対する最小内径D2の比D2/D1は、0.5以下である。
【0026】
ここで、アーク収束部において特に収束の激しい最小内径D2がノズルの容量を規定するD1に対して大きくなると、アーク生成時に飛散した電極材がオリフィスに到達するまでの間に電極に対し向かい合う時間が延び、ノズル内面の特に曲面に付着する可能性が高くなる。
【0027】
そこで、第3発明では、テーパ内面の最大内径D1に対する最小内径D2の比D2/D1を0.33以上0.5以下にしている。このため、飛散した電極材がノズル内面の特に曲面に付着するのを抑えることができる。
【0028】
第4発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第2発明のノズルにおいて、テーパ内面の最小内径D2に対する曲面のノズル軸方向長さHの比H/D2は、0.75以上0.87以下である。
【0029】
ここで、H/D2が大きくなると、プラズマがノズル内面の曲面で収束する距離が相対的に長くなり、オリフィス迄の距離が長くなる。このように、プラズマが収束する距離が延びると、プラズマアークがふらつき易くなる。特に、ノズル内面における曲面でのアークのふらつきは、後に続くオリフィス部で特に顕著に現れることになり、結果としてオリフィス部の被膜の剥離が促進される。
【0030】
そこで、第4発明では、曲面のテーパ内面の最小内径D2に対する曲面のノズル軸方向長さHの比H/D2を0.75以上0.87以下にしている。このため、ノズル内面においてプラズマが収束する距離が比較的短くなり、アークのふらつきを抑えて、オリフィス部での被膜の剥離を抑えることができる。
【0031】
第5発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第2発明のノズルにおいて、先端面にはセラミック系材料の被膜が形成されている。
【0032】
ここでは、ノズル先端面にも被膜が形成されているので、メインアークに移行した後も電極材等がノズル先端面に付着するのを抑制でき、切断品質の低下を抑え、ノズルの長寿命化を図ることができる。
【0033】
第6発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第5発明のノズルにおいて、筒状部の外周面には冷却用フィンが設けられている。
【0034】
冷却用フィンを設けたノズルでは、ノズルの冷却能力が高くなり、ノズル内面の温度を低く保つことができる。このため、電極材付着時の被膜の温度を低く抑えることが可能になり、被膜の劣化を抑制できる。
【0035】
第7発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第6発明のノズルにおいて、先端部は、オリフィスと先端面との間に形成された面取り部をさらに有している。
【0036】
第8発明に係るプラズマトーチは、プラズマ切断装置に設けられるものであって、第1発明から第7発明のいずれかのノズルと、先端外周縁部がノズルのテーパ内面に対向するように配置された電極と、を備えている。
【発明の効果】
【0037】
以上のような本発明では、オリフィス内面を含むノズル内面に形成された被膜によって、飛散する電極材からノズル内面を保護することができる。また、ノズルのテーパ内面のテーパ角度を80°以上105°以下に設定することによって、安定したプラズマアークを形成でき、かつ被膜の剥離を抑えて、切断品質が低下するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ノズル内面のテーパ角度と電極配置との関係を示す図。
【図2】ノズル内面のテーパ角度に対する電極及び冷却用パイプの位置関係を示す図。
【図3】プラズマトーチの断面図。
【図4】プラズマトーチ先端部の拡大断面図。
【図5】ノズルの拡大断面図。
【図6】ノズルの外観図。
【図7】ノズルの別の例の外観図。
【図8】ノズルの寸法関係を示す図。
【図9】ノズル内面のテーパ角度とノズル内径比との関係を示す図。
【図10】ノズル内面のテーパ角度とノズル内面の曲面部長さ/最小内径との関係を示す図。
【図11】ノズル内面のテーパ角度とショット数とによるノズル内面の被膜剥離の様子を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。図3は、本発明の一実施形態に係るプラズマトーチ1の中心軸線(以下、単に「軸線」と呼ぶ)を含む平面での断面図である。
【0040】
[全体構成]
プラズマトーチ1は、鋼板などの金属材料を切断するためのプラズマ切断装置に備えられるものである。図示されていないが、プラズマ切断装置は、プラズマトーチ1にパイロットアークやプラズマアークを発生させ、且つ、プラズマアークを制御するためのアーク電源回路及び制御装置を備えている。また、プラズマ切断装置は、プラズマトーチ1へプラズマガス及びアシストガスを供給するガス供給システム、及び、プラズマトーチ1へ冷却液を供給する冷却システムなどの装置を備えている。
【0041】
プラズマトーチ1は、トーチ本体2、電極3、第1案内部材4、第2案内部材5、ノズル6、キャップ部7などを有する。トーチ本体2、電極3、第1案内部材4、第2案内部材5、ノズル6、及びキャップ部7は、同軸に配置されている。
【0042】
[トーチ本体]
トーチ本体2は、ベース部11、電極支持部12、ノズル支持部13、冷却パイプ14、ホルダ15、冷却液供給パイプ16、冷却液排出パイプ17などを有する。ベース部11、電極支持部12、ノズル支持部13、冷却パイプ14は同軸に配置されている。
【0043】
ベース部11は概ね円筒状に形成されている。ベース部11の内部には空間が形成されており、この内部空間に、電極支持部12、冷却液供給パイプ16及び冷却液排出パイプ17が挿入されている。ベース部11の先端部には、ベース部11の内部空間に連通する孔11aが形成されている。
【0044】
電極支持部12は、概ね円筒状に形成されてベース部11の孔11aに挿入されており、先端部(図3の下方端部)に電極3を支持している。電極支持部12の外面とベース部11の内面との間には、例えばOリングなどのシール部材S1が設けられている。電極支持部12は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。電極支持部12は、図示しない電気配線を介してアーク電源回路へ接続される。電極支持部12は軸線方向に貫通する孔12aを有している。
【0045】
ノズル支持部13は、概ね円錐状に形成されて軸線方向に貫通する孔13aを有しており、先端部にノズル6を支持している。ノズル支持部13は、ベース部11の先端部に取り付けられ、電極支持部12の先端部外周を覆っている。ノズル支持部13の内面は、電極支持部12の外面に対して間隔を空けて配置される。これにより、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間には、プラズマガスが通るプラズマガス通路P1が形成されている。プラズマガス通路P1は、図示しないガス供給パイプを介してガス供給システムに接続されている。ノズル支持部13は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。また、ノズル支持部13は、図示しない電気配線を介してアーク電源回路に接続される。
【0046】
冷却パイプ14は、冷却液供給パイプ16からの冷却液を電極3に導いて電極3を冷却するものであり、電極支持部12の孔12a内に配置されている。冷却パイプ14の基端部(図1において上方端部)はベース部11の内部空間内に配置され、先端部は電極支持部12の先端部から突出している。冷却パイプ14の外面と電極支持部12の内面との間には空間が形成されており、この空間はベース部11の内部空間と連通している。また、冷却パイプ14の外面は、電極3の内面に対して間隔を空けて配置されている。
【0047】
ホルダ15は、概ね円筒状に形成されてベース部11の外周に嵌合されており、キャップ部7を支持している。ホルダ15の外周面には、後述するナット18の雌ネジ部と螺合する雄ネジ部が形成されている。
【0048】
冷却液供給パイプ16は、冷却システムからの冷却液を冷却パイプ14へ送るためのパイプであり、ベース部11の内部空間に挿入されている。この冷却液供給パイプ16の基端部は冷却システムに接続され、先端部はベース部11の内部空間内において冷却パイプ14の基端部に接続されている。
【0049】
冷却液排出パイプ17は、冷却液をベース部11の内部空間から冷却システムへ送るためのパイプであり、ベース部11の内部空間に挿入されている。この冷却液排出パイプ17の基端部は冷却システムに接続され、先端部はベース部11の内部空間内に配置されている。
【0050】
以上のような構成により、冷却液供給パイプ16から冷却パイプ14を介して供給された冷却液は、電極3に導かれ、その後、冷却パイプ14の外面と電極3の内面との間の空間を通過し、さらに冷却パイプ14の外面と電極支持部12の内面との間の空間を通過して、ベース部11の内部空間に送られる。
【0051】
[電極]
電極3は、図3に示すように、概ね円筒状に形成されており、基端部が電極支持部12の孔12aに挿入され、電極支持部12に着脱可能に取り付けられている。電極3の基端部が電極支持部12の孔12aに挿入された状態では、冷却パイプ14の先端部が電極3の内部空間内に配置されている。また、電極3と電極支持部12との間の隙間は、図示しないシール部材によって封止されている。これにより、電極支持部12の孔12aの先端側が閉塞される。さらに、電極3は、電極支持部12と接触することによって電極支持部12と電気的に接続されている。
【0052】
また、電極3は、図4に拡大して示すように、電極基体35と電極材36とを有している。電極基体35は、先端部が閉じられ基端部が開放された概ね円筒状の部材である。電極基体35は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。電極基体35の外周面には径方向外方に突出するフランジ19が形成されており、さらに内部には空間が形成されている。フランジ19の一方の面は電極支持部12の先端部と接触し、他方の面は第1案内部材4と接触している。また、電極3の内部空間は、基端側は開放され、先端側は閉塞されている。
【0053】
電極基体35の先端部には、テーパ面38と放出面39とが形成されている。テーパ面38は、電極基体35の外周面から先端側(放出面39側)に行くにしたがって径が小さくなる形状である。放出面39は軸線と直交する平坦な面であり、その中央部には内部に凹む凹部41が形成されている。放出面39の裏側には、基端部へ向けて突出する凸部43が形成されている。図3に示すように、冷却パイプ14の先端部は、この凸部43の外側を覆うように配置されている。
【0054】
電極材36は、熱電子高放出性材料であるハフニウム(hafnium:Hf)で形成されている。電極材36は、電極基体35の凹部41に挿入され、ろう付けにより固定されている。電極材36は、概ね円筒状に形成されており、先端部には、基端側へ向けて凹む凹部36aが形成されている。
【0055】
[第1案内部材]
第1案内部材4は、図4に示すように、概ね円筒状に形成され、基端側に大径部20を有し、先端側に小径部21を有している。また、第1案内部材4は絶縁性を有する材料で形成されている。第1案内部材4は、ノズル6の内部において、基端側に配置されている。第1案内部材4は軸線方向に貫通する孔4aを有し、この孔4a内に電極3が挿入されている。このように、第1案内部材4は、電極3とノズル6との間に配置されることにより、電極3とノズル6とを電気的に絶縁している。なお、第1案内部材4の内面と電極3の外面との間にはシール部材S2が設けられ、第1案内部材4の外面とノズル6の内面との間にはシール部材S3が設けられている。
【0056】
また、第1案内部材4は、軸線方向において、電極3のフランジ部19の先端側に配置されている。第1案内部材4の基端部はフランジ部19に接触している。第1案内部材4の大径部20の外周面には、軸線方向に延びる複数の溝4bが形成されている。この複数の溝4bの先端側は、第1案内部材4とノズル6の内面との間の空間に連通し、溝4bの基端側の側部は、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間のプラズマガス通路P1に連通している。
【0057】
[第2案内部材]
第2案内部材5は、図4に示すように、軸線方向に貫通する孔5aを有する概ね環状の部材である。第2案内部材5の孔5aには、電極3及び第1案内部材4の小径部21が挿入されている。従って、第2案内部材5は、径方向において、ノズル6の内面と第1案内部材4の小径部21との間に配置されている。また、第2案内部材5は、軸線方向において、第1案内部材4の大径部20とノズル6の内面との間に配置されている。この第2案内部材5の先端側端面には、内部と外部と連通する複数の溝5bが設けられている。各溝5bは、径方向及び周方向に対して斜めに延びている。この第2案内部材5の溝5bを通過したプラズマガスは、電極3の外周を旋回するように流れる。
【0058】
[ノズル]
ノズル6は、銅製であり、図4及び図5に示すように、概ね円筒状に形成されている。このノズル6は、基端側から順に、内部に空間を有する筒状部6aと、筒状部6aの先端側に形成された先端部6bとを有している。
【0059】
ノズル6の筒状部6aの外周面には、軸線方向に沿って所定の領域に冷却用のフィン22が設けられている。冷却用フィン22の外観を図6に示している。ここでは、円周方向及び軸線方向の両方向に沿って形成された凹凸によって冷却用フィン22が形成されている。なお、図7に示すように、軸線方向のみに沿った凹凸によって冷却用フィン22’が形成されていてもよい。
【0060】
筒状部6aの外周面において、冷却用フィン22の基端側には、径方向に突出する突出部23が形成されている。この突出部23の上面23aとノズル支持部13の先端部との間には、図示しない電気接触子が配置されている。この電気接触子を介して、ノズル6はノズル支持部13と電気的に接続されている。
【0061】
筒状部6aの内部空間には、収納部24及び電極対向部25が形成されている。収納部24には、電極3、第1案内部材4、及び第2案内部材5が収納されている。電極対向部25は電極3の先端部と対向する部分であり、第1対向面25a及び第2対向面25bを有している。第1対向面25aは、電極対向部25において基端側に形成され、軸線方向に平行な面である。また、第2対向面25bは、第1対向面25aに連続して先端側に形成されており、先端側に向かって径が小さくなるテーパ面である。すなわち、第2対向面25bはテーパ内面となっている。電極対向部25の各対向面25a,25bと電極3の外周面との間には隙間が形成され、プラズマガスが流れる通路が形成されている。第2対向面(テーパ内面)25bのさらに先端側には、曲面25cが形成されている。
【0062】
先端部6bは、ほぼ円錐状に形成されており、中心部には軸線方向に貫通するオリフィス26が形成されている。このオリフィス26は、曲面25cを介して第2対向面25bに連続している。また、先端部6bの下端には、軸線方向と直交する平坦な先端面26aが形成されている。オリフィス26と先端面26aとの間(境界部)には面取り部26bが形成されている。
【0063】
ノズル6において、第1対向面25aと、テーパ内面としての第2対向面25bと、オリフィス26の内面と、面取り部26bを含む先端面26aと、には、セラミック系材料であるボロンナイトライドの被膜Cがコーティングされている。図5において、被膜Cが形成された部分を太い破線で示している。なお、この実施形態では、電極対向部25において、全内面に被膜Cが形成されているが、少なくとも第2対向面25bのうちの、電極3との最短ギャップの位置(電極3の外周縁44に最も近い位置)から先端側に形成されていればよい。電極材は、主に最短ギャップから先端側に飛散するからである。
【0064】
また、第2対向面25bのテーパ角度αは、この実施形態では90°に設定されている。テーパ角度は、前述の理由から、80°以上105°以下が好ましいが、特に好ましいのは90°である。
【0065】
図8を用いて、ノズルの具体的な寸法形状について説明する。図8において、RU,RD,D1,D2,Hはそれぞれ以下を意味する。
【0066】
RU:曲面25cの基端側の端(上端)。
【0067】
RD:曲面25cの先端側の端(下端)。
【0068】
D1:第1対向面25aが形成された部分の内径。すなわち、テーパ内面25bの最大内径に相当。
【0069】
D2:RUにおける内径。すなわち、テーパ内面25bの最小内径に相当。
【0070】
H :曲面25cの軸線方向の長さ。
【0071】
そして、図9に示すように、テーパ内面25bの最大内径D1に対する最小内径D2の比D2/D1は、0.33以上で0.5以下が好ましい。アーク収束部において特に収束の激しい最小内径D2がノズルの容量を規定するD1に対して0.5より大きくなると、アーク生成時に飛散した電極材がオリフィスに到達するまでの間に電極に対して向かい合う時間が延び、ノズル内面の特に曲面25cに付着する可能性が高くなるからである。なお、図9は、テーパ内面のテーパ角度に対するD2/D1の関係を示したものである。
【0072】
また、図10に示すように、テーパ内面25bの最小内径D2に対する曲面25cの軸線方向の長さHの比H/D2については、0.75以上で0.87以下が好ましい。H/D2が0.87より大きくなると、プラズマが曲面25cで収束する距離が相対的に長くなり、オリフィス迄の距離が延びることでプラズマアークがふらつき易くなる。曲面25cでのアークのふらつきは後に続くオリフィス部で特に顕著に現れることになり、結果としてオリフィス部の被膜の剥離が促進されるからである。なお、図10は、テーパ角度に対するH/D2の関係を示したものである。
【0073】
[キャップ部]
キャップ部7は、図3に示すように、トーチ本体2の先端に取り付けられ、ノズル6を覆う部材である。キャップ部7は、アウターキャップ31と、インナーキャップ32と、シールドキャップ33とを有する。各キャップ31,32,33は、概ね円錐台状に形成され、電極3及びノズル6と同軸に配置されている。
【0074】
アウターキャップ31は、ナット18によってホルダ15に固定されており、トーチ本体2の先端部とノズル支持部13の外側を覆っている。また、アウターキャップ31の内面とホルダ15の外面との間にはシール部材S4が設けられている。アウターキャップ31の先端には、軸線方向に貫通する孔31aが形成されている。
【0075】
インナーキャップ32はアウターキャップ31の孔31aに挿入されている。インナーキャップ32の外面とアウターキャップ31の内面との間にはシール部材S5が設けられている。インナーキャップ32には軸線方向に貫通する32a孔が形成されており、この孔32aにはノズル6の先端部が挿入されている。そして、ノズル6の先端部がインナーキャップ32の内面によって保持されている。ノズル6の先端部の外面とインナーキャップ32の内面との間にはシール部材S6が設けられている。
【0076】
アウターキャップ31及びインナーキャップ32の各内面は、ノズル支持部13及びノズル6の外面に対して間隔を空けて配置されている。これにより、ノズル6を冷却するための冷却液が通過する冷却液通路P2が構成されている。冷却液通路P2は、図示しない冷却液供給パイプ及び冷却液排出パイプを介して冷却システムに接続されている。
【0077】
シールドキャップ33は、アウターキャップ31の孔31aに挿入され、ノズル6の先端部を覆っている。シールドキャップ33の外面とアウターキャップ31の内面との間にはシール部材S7が設けられている。シールドキャップ33は、軸線方向に貫通し、ノズル6の孔6aと同軸に形成された孔33aを有している。また、シールドキャップ33の内面とノズル6の外面との間にはアシストガス通路P3が形成されている。アシストガス通路P3は、冷却液通路P2に対してシール部材S4によって遮断されており、アウターキャップ31の内部に形成されたアシストガス供給通路P4に連通している。アシストガス供給通路P4は、図示しないガス供給パイプを介してガス供給システムに接続されている。
【0078】
[動作]
このプラズマトーチ1では、まず、電極3とノズル6との間に、小流量のプラズマガスが流され、プラズマガスの流れが生成される。すなわち、ガス供給システムから、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間のプラズマガス通路P1にプラズマガスが供給される。プラズマガスは、プラズマガス通路P1から、第1及び第2案内部材4,5に案内されて、旋回しながら電極3の外周を流れる。この状態で、電極3に高電圧が印加されると、電極基体35の放出面39の外周縁とノズル6の内面との間(最短ギャップ位置)に絶縁破壊が発生する。この絶縁破壊をトリガーにして電極3とノズル6の内面との間にパイロットアークが発生する。パイロットアークはノズル6内面の傾斜及び旋回するプラズマガスの流れに沿って中央部に移行し、さらにワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極3とワークとの間にメインアークが生成される。
【0079】
以上の処理において、プラズマが生成される際に、電極材であるハフニウムが溶融し、ノズル6の内面(特に第2対向面25b)及びオリフィス26の内面に飛散する。しかし、ノズル6及びオリフィス26の内面にはボロンナイトライド被膜Cが形成されているので、これらの内面に溶融ハフニウムは付着しにくい。しかも、ノズル6の第2対向面25bのテーパ角度は90°に設定されているので、プラズマガスの流れがスムーズになる等の理由によって、溶融ハフニウムは、第2対向面25bに対してより付着しにくい。また、溶融ハフニウムが第2対向面25bに付着しても、堆積しにくい。さらに、第2対向面25bとオリフィス26とが曲面25cを介して連続して形成されているので、プラズマガスがノズル内面から離れることなくスムーズにオリフィス26に流入する。このため、溶融ハフニウムの排出が促進され、ノズル6及びオリフィス26の内面に溶融ハフニウムが堆積するのを抑制することができる。
【0080】
また、メインアークが発生した後は、ノズル6の先端面26aにも溶融ハフニウムやワークの溶融物が飛散する。しかし、この実施形態では、この先端面26aにもボロンナイトライド被膜Cが形成されているので、これらの溶融物の付着を抑えることができる。
【0081】
以上から、ボロンナイトライド被膜Cの付着防止効果を長期にわたって良好に維持することができる。このため、特に、ノズル6のオリフィス26の壁面が損傷を受けるのを抑えることができ、従来に比較して長時間にわたって良好な切断品質を維持することができる。すなわち、ノズル6の長寿命化が実現できる。
【0082】
[実験例]
図11にテーパ内面(第2対向面)25bのテーパ角度を種々変えた場合のノズル内面の様子を示している。図11は、ノズル内面及びオリフィスを基端側(図1の上方)から観察したものである。テーパ角度は、図の左から70°、80°、90°、105°、120°に設定されている。また、図の上から順に、ショット数(起動回数)が1回、100回、200回、300回、400回、400回で斜め上方から観察、600回、800回の場合を示している。図11において、白い部分はボロンナイトライド被膜が残っている部分であり、黒い部分はボロンナイトライド被膜が剥離された部分である。なお、供試ノズルのオリフィス直径はφ1.3mm、電流値は135A、ショット数1回あたりの連続アーク起動時間は20秒間とした。
【0083】
この実験結果から明らかなように、テーパ角度が70°の場合は、ショット数が300回でオリフィスの入口部におけるボロンナイトライド被膜が剥離されている。一方、テーパ角度が80°の場合は、400回を越えてオリフィス部のボロンナイトライド被膜が剥離されているが、この場合は長寿命化が図られていると評価できる。また、テーパ角度が90°の場合は、ショット数が800回以上であってもオリフィスの入口部においてダメージがほとんどなく、ボロンナイトライド被膜が残っている。さらに、テーパ角度が105°の場合は、80°の場合と同様で、400回を越えて曲面を主にオリフィス部迄のボロンナイトライド被膜が剥離されているが、この場合は長寿命化が図られていると評価できる。テーパ角度が120°の場合は、ショット数が100回で曲面からオリフィスの入口部におけるボロンナイトライド被膜が剥離されている。
【0084】
このように、テーパ角度が70°や120°の場合は、特にオリフィス入口部のボロンナイトライド被膜が早期に剥離されている。ボロンナイトライド被膜が剥離されると、溶融ハフニウムが付着しやすくなり、オリフィス形状が変化する。オリフィス形状の変化は、切断品質の低下を招くことになる。
【0085】
以上から、テーパ角度を80°以上105°以下に設定すれば、ボロンナイトライド被膜は長時間にわたって維持され、付着防止効果の低下を抑えることができることがわかる。
【0086】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0087】
(a)前記実施形態では、第2対向面(テーパ内面)25bのテーパ角度を90°に設定したが、80°以上105°以下の角度であれば、同様の作用効果を得ることができる。
【0088】
(b)ボロンナイトライド被膜Cは、第2対向面25bにおいては、少なくとも電極3との最短ギャップ位置から先端側にかけて形成されていればよい。
【0089】
(c)被膜は、第2対向面25bの少なくとも電極3との最短ギャップ位置から曲面25c及びオリフィス26の内面にかけて形成されていればよい。
【0090】
(d)被膜の材料はボロンナイトライドに限定されない。ボロンナイトライド以外のセラミック系材料を用いてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 プラズマトーチ
3 電極
6 ノズル
6a 筒状部
6b 先端部
22 冷却用フィン
25 電極対向部
25a 第1対向面
25b 第2対向面(テーパ内面)
25c 曲面
26 オリフィス
26a 先端面
26b 面取り部
C ボロンナイトライド被膜
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラズマ切断に用いられるプラズマ切断装置用のノズル及びそれを含むプラズマトーチに関する。
【背景技術】
【0002】
プラズマ切断装置は、プラズマアークを噴射して金属板等のワークを熱切断する装置である。プラズマ切断装置にはプラズマトーチが設けられており、プラズマトーチは消耗部品としての電極及びノズルを有している。
【0003】
このようなプラズマ切断装置では、プラズマトーチの電極とワークとの間にプラズマアークが発生する。プラズマアークはノズルで細く絞り込まれ、これにより高温かつ高圧のプラズマジェットが生成される。そして、プラズマジェットがワークに噴射されることにより、ワークが切断される。ここで、プラズマアークは以下のような過程により生成されることが知られている。
【0004】
まず、電極とノズルとの間に、小流量のプラズマガスが供給され、プラズマガスの流れが生成される。この状態で、電極に高電圧が印加されると、電極とノズルの内面との間に絶縁破壊が発生する。そして、この絶縁破壊をトリガーにして電極とノズルとの間にパイロットアークが発生する。パイロットアークは、プラズマガスの流れに乗ってワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極とワークとの間にプラズマアークが生成される。
【0005】
以上のようなプラズマ切断装置において、特許文献1の従来技術の欄には、ノズルの長寿命化を図るために、ノズル先端にセラミックをコーティングすることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−99783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電極に設けられる電極材は、一般的にハフニウムが用いられる。本件発明者は、電極材としてハフニウムを用い、プラズマガスとして酸素を用いたプラズマ切断装置においては、以下のような技術的課題があることを発見した。以下、この技術的課題について詳細に説明する。
【0008】
ある程度の切断回数あるいは切断時間が経過すると、ハフニウム電極の損耗と切断品質の劣化が進行する。これは、損耗したハフニウムが飛散してノズル内壁面に付着し、この付着したハフニウムが切断品質の劣化の要因であることが判明した。より詳細には、ハフニウム及びその酸化物等がノズル内壁面に付着し堆積すると、ノズル先端のオリフィス内壁面に凹凸が生じ、また軸対称性が維持されなくなる。このようなノズルオリフィスの損傷は、プラズマアークの拡がり、曲がり、歪みを発生させ、結果的に、ワークの切断面の粗さ、直角性等の品質の低下を招くことになる。
【0009】
以上のことは、ノズル内壁面に付着したハフニウムを除去することで、劣化した切断品質が復帰することでも証明できた。
【0010】
そこで、特許文献1に示されるようなセラミック等の被膜をノズル内面に形成することが考えられる。しかし、前述の損耗したハフニウムが被膜表面に付着し、被膜を損傷させながら、この被膜をノズル内面から離脱させることが予想される。しかも、このような現象は切断処理中において継続して生じるので、ノズル内面を被膜のみによって保護し続けることは困難であり、好適なノズル形状を維持できないと考えられる。
【0011】
本発明の課題は、オリフィス内面を含むノズル内面に電極材が付着して切断品質が低下するのを抑えることにある。より詳細には、ノズル内面等に被膜を形成した場合に、被膜によるノズル内面の保護効果が長期にわたって維持できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、先端側に配置されたワークにプラズジェットを噴出してワークを切断するためのものであり、筒状部と先端部とを備えている。筒状部は先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面が形成された空間を内部に有する。先端部は、筒状部の先端側に形成されており、テーパ内面のさらに先端側に形成されたオリフィスと、ワークに対向する先端面と、を有する。そして、テーパ内面及びオリフィスの内面にはセラミック系材料の被膜が形成されている。また、テーパ内面のテーパ角度は80°以上105°以下である。
【0013】
このノズルがプラズマトーチに装着された場合、ノズルの内部には電極が配置される。そして、ノズルのテーパ内面と電極の外周縁との間の最短ギャップの位置で絶縁破壊が生じる。この第1発明での「テーパ内面」とは、少なくとも、ノズル内面のうちの電極外周縁に最も近接する位置から先端側(オリフィス側)に向かう面を含む部分である。
【0014】
ここでは、少なくともノズルのテーパ内面及びオリフィス内面にセラミック系材料の被膜が形成されているので、飛散した電極材が各内面に付着しにくい。このため、特にオリフィスの損傷が抑えられ、比較的長期にわたって初期のオリフィス形状が維持される。また、テーパ内面のテーパ角度が80°以上105°以下に設定されているので、飛散した電極材がノズル内部に堆積するのを抑えることができる。このため、切断品質の低下を抑え、ノズルの長寿命化を図ることができる。
【0015】
テーパ角度を80°以上105°以下に設定するのは以下の理由による。
【0016】
<下限角度80°について>
一般的な形状の電極を用いてノズル内面のテーパ角度を小さくした場合の例を図1に示している。この図1に示す例では、ノズルNのテーパ部の内面の角度(テーパ角度)αは70°である。ここで、絶縁破壊性の向上と、プラズマガス流れの安定性確保のためには、電極Eとノズル内面Niとの最短ギャップを最適値にする必要がある。このため、ノズル内面Niのテーパ角度αを小さくし、かつ最短ギャップの最適値を確保した場合は、図1に示すように、電極Eの先端部がノズルオリフィスNoから大きく離間することになる。すると、電極Eの先端外周縁とノズル内面Niとの間に発生したパイロットアークがノズル内部から伸長せず、パイロットアークの途切れ現象が発生する。この結果、再着火動作が繰り返され、ノズル内面に形成された被膜直下の基材にまで達するアーク痕が形成されて、被膜の剥離が促進されることになる。さらに、同様の理由によってメインアーク移行時に電流値が増大し、この電流値増大に伴うメインアークのふらつきがオリフィス付近で発生することになる。この結果、前記同様に、被膜の剥離が促進されることになる。
【0017】
そこで、図2に示すように、電極Eの先端部の形状を図1に比較して細くし、電極先端部をノズルオリフィスNoに近づけることが考えられる。しかし、この場合は、電極先端の電極材hを冷却するための水冷パイプWpを電極材hに近づけることができない。このため、電極材hの冷却不足が生じ、電極材hの消耗を抑制することができない。なお、図2において、冷却水の流れを破線で示している。
【0018】
以上を考慮して、ノズルのテーパ内面の角度αは80°以上が好ましい。
【0019】
<上限角度105°について>
前述の場合とは逆に、ノズルのテーパ内面の角度αを例えば120°にした場合、飛散した電極材がテーパ内面に到達しやすくなり、かつテーパ内面に長時間滞在しやすくなる。このため、テーパ内面に電極材付着防止のために被膜を形成しても、飛散した電極材によって被膜がダメージを受けやすい。その結果、被膜は剥離されて電極材付着防止効果が低下する。この場合、特に、ノズルオリフィス入口部への集中が著しく、ダメージが大きくなって切断品質の著しい低下を招く。
【0020】
また、テーパ角度を120°にすると、鈍角であるがために、プラズマガスの流れに対してテーパ内面が抵抗になりやすい。このために、異常放電を誘発しやすく、ノズル入口部にダメージを与える可能性が大きくなる。
【0021】
以上を考慮して、ノズルのテーパ内面の角度αは105°以下が好ましい。
【0022】
第2発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第1発明のノズルにおいて、筒状部はテーパ内面とオリフィスとをつなぐ曲面を有しており、曲面にはセラミック系材料の被膜が形成されている。
【0023】
ここで、ノズルのオリフィス入口部、すなわちテーパ内面とオリフィスとの境界部は、プラズマガスが収斂する領域である。本件発明者の一連の実験によれば、この部分は、他のノズル内面に比較して電極材が集中して付着することが判明した。このため、テーパ内面とオリフィスとの境界をエッジにしたまま、この境界部に被膜を形成しても、被膜がダメージを受けて剥離しやすい。
【0024】
そこで第2発明では、テーパ内面とオリフィスとの間に曲面が形成されている。この曲面により、オリフィス入口部においてプラズマガスを整流する効果が得られる。このガス整流効果によって、飛散した溶融電極材の排出が促進され、ノズル内面に溶融電極材が付着するのを抑えることができる。このため、ノズル内面へのダメージを抑制できる。
【0025】
第3発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第2発明のノズルにおいて、テーパ内面の最大内径D1に対する最小内径D2の比D2/D1は、0.5以下である。
【0026】
ここで、アーク収束部において特に収束の激しい最小内径D2がノズルの容量を規定するD1に対して大きくなると、アーク生成時に飛散した電極材がオリフィスに到達するまでの間に電極に対し向かい合う時間が延び、ノズル内面の特に曲面に付着する可能性が高くなる。
【0027】
そこで、第3発明では、テーパ内面の最大内径D1に対する最小内径D2の比D2/D1を0.33以上0.5以下にしている。このため、飛散した電極材がノズル内面の特に曲面に付着するのを抑えることができる。
【0028】
第4発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第2発明のノズルにおいて、テーパ内面の最小内径D2に対する曲面のノズル軸方向長さHの比H/D2は、0.75以上0.87以下である。
【0029】
ここで、H/D2が大きくなると、プラズマがノズル内面の曲面で収束する距離が相対的に長くなり、オリフィス迄の距離が長くなる。このように、プラズマが収束する距離が延びると、プラズマアークがふらつき易くなる。特に、ノズル内面における曲面でのアークのふらつきは、後に続くオリフィス部で特に顕著に現れることになり、結果としてオリフィス部の被膜の剥離が促進される。
【0030】
そこで、第4発明では、曲面のテーパ内面の最小内径D2に対する曲面のノズル軸方向長さHの比H/D2を0.75以上0.87以下にしている。このため、ノズル内面においてプラズマが収束する距離が比較的短くなり、アークのふらつきを抑えて、オリフィス部での被膜の剥離を抑えることができる。
【0031】
第5発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第2発明のノズルにおいて、先端面にはセラミック系材料の被膜が形成されている。
【0032】
ここでは、ノズル先端面にも被膜が形成されているので、メインアークに移行した後も電極材等がノズル先端面に付着するのを抑制でき、切断品質の低下を抑え、ノズルの長寿命化を図ることができる。
【0033】
第6発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第5発明のノズルにおいて、筒状部の外周面には冷却用フィンが設けられている。
【0034】
冷却用フィンを設けたノズルでは、ノズルの冷却能力が高くなり、ノズル内面の温度を低く保つことができる。このため、電極材付着時の被膜の温度を低く抑えることが可能になり、被膜の劣化を抑制できる。
【0035】
第7発明に係るプラズマ切断装置用ノズルは、第6発明のノズルにおいて、先端部は、オリフィスと先端面との間に形成された面取り部をさらに有している。
【0036】
第8発明に係るプラズマトーチは、プラズマ切断装置に設けられるものであって、第1発明から第7発明のいずれかのノズルと、先端外周縁部がノズルのテーパ内面に対向するように配置された電極と、を備えている。
【発明の効果】
【0037】
以上のような本発明では、オリフィス内面を含むノズル内面に形成された被膜によって、飛散する電極材からノズル内面を保護することができる。また、ノズルのテーパ内面のテーパ角度を80°以上105°以下に設定することによって、安定したプラズマアークを形成でき、かつ被膜の剥離を抑えて、切断品質が低下するのを抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ノズル内面のテーパ角度と電極配置との関係を示す図。
【図2】ノズル内面のテーパ角度に対する電極及び冷却用パイプの位置関係を示す図。
【図3】プラズマトーチの断面図。
【図4】プラズマトーチ先端部の拡大断面図。
【図5】ノズルの拡大断面図。
【図6】ノズルの外観図。
【図7】ノズルの別の例の外観図。
【図8】ノズルの寸法関係を示す図。
【図9】ノズル内面のテーパ角度とノズル内径比との関係を示す図。
【図10】ノズル内面のテーパ角度とノズル内面の曲面部長さ/最小内径との関係を示す図。
【図11】ノズル内面のテーパ角度とショット数とによるノズル内面の被膜剥離の様子を示す写真。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態を説明する。図3は、本発明の一実施形態に係るプラズマトーチ1の中心軸線(以下、単に「軸線」と呼ぶ)を含む平面での断面図である。
【0040】
[全体構成]
プラズマトーチ1は、鋼板などの金属材料を切断するためのプラズマ切断装置に備えられるものである。図示されていないが、プラズマ切断装置は、プラズマトーチ1にパイロットアークやプラズマアークを発生させ、且つ、プラズマアークを制御するためのアーク電源回路及び制御装置を備えている。また、プラズマ切断装置は、プラズマトーチ1へプラズマガス及びアシストガスを供給するガス供給システム、及び、プラズマトーチ1へ冷却液を供給する冷却システムなどの装置を備えている。
【0041】
プラズマトーチ1は、トーチ本体2、電極3、第1案内部材4、第2案内部材5、ノズル6、キャップ部7などを有する。トーチ本体2、電極3、第1案内部材4、第2案内部材5、ノズル6、及びキャップ部7は、同軸に配置されている。
【0042】
[トーチ本体]
トーチ本体2は、ベース部11、電極支持部12、ノズル支持部13、冷却パイプ14、ホルダ15、冷却液供給パイプ16、冷却液排出パイプ17などを有する。ベース部11、電極支持部12、ノズル支持部13、冷却パイプ14は同軸に配置されている。
【0043】
ベース部11は概ね円筒状に形成されている。ベース部11の内部には空間が形成されており、この内部空間に、電極支持部12、冷却液供給パイプ16及び冷却液排出パイプ17が挿入されている。ベース部11の先端部には、ベース部11の内部空間に連通する孔11aが形成されている。
【0044】
電極支持部12は、概ね円筒状に形成されてベース部11の孔11aに挿入されており、先端部(図3の下方端部)に電極3を支持している。電極支持部12の外面とベース部11の内面との間には、例えばOリングなどのシール部材S1が設けられている。電極支持部12は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。電極支持部12は、図示しない電気配線を介してアーク電源回路へ接続される。電極支持部12は軸線方向に貫通する孔12aを有している。
【0045】
ノズル支持部13は、概ね円錐状に形成されて軸線方向に貫通する孔13aを有しており、先端部にノズル6を支持している。ノズル支持部13は、ベース部11の先端部に取り付けられ、電極支持部12の先端部外周を覆っている。ノズル支持部13の内面は、電極支持部12の外面に対して間隔を空けて配置される。これにより、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間には、プラズマガスが通るプラズマガス通路P1が形成されている。プラズマガス通路P1は、図示しないガス供給パイプを介してガス供給システムに接続されている。ノズル支持部13は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。また、ノズル支持部13は、図示しない電気配線を介してアーク電源回路に接続される。
【0046】
冷却パイプ14は、冷却液供給パイプ16からの冷却液を電極3に導いて電極3を冷却するものであり、電極支持部12の孔12a内に配置されている。冷却パイプ14の基端部(図1において上方端部)はベース部11の内部空間内に配置され、先端部は電極支持部12の先端部から突出している。冷却パイプ14の外面と電極支持部12の内面との間には空間が形成されており、この空間はベース部11の内部空間と連通している。また、冷却パイプ14の外面は、電極3の内面に対して間隔を空けて配置されている。
【0047】
ホルダ15は、概ね円筒状に形成されてベース部11の外周に嵌合されており、キャップ部7を支持している。ホルダ15の外周面には、後述するナット18の雌ネジ部と螺合する雄ネジ部が形成されている。
【0048】
冷却液供給パイプ16は、冷却システムからの冷却液を冷却パイプ14へ送るためのパイプであり、ベース部11の内部空間に挿入されている。この冷却液供給パイプ16の基端部は冷却システムに接続され、先端部はベース部11の内部空間内において冷却パイプ14の基端部に接続されている。
【0049】
冷却液排出パイプ17は、冷却液をベース部11の内部空間から冷却システムへ送るためのパイプであり、ベース部11の内部空間に挿入されている。この冷却液排出パイプ17の基端部は冷却システムに接続され、先端部はベース部11の内部空間内に配置されている。
【0050】
以上のような構成により、冷却液供給パイプ16から冷却パイプ14を介して供給された冷却液は、電極3に導かれ、その後、冷却パイプ14の外面と電極3の内面との間の空間を通過し、さらに冷却パイプ14の外面と電極支持部12の内面との間の空間を通過して、ベース部11の内部空間に送られる。
【0051】
[電極]
電極3は、図3に示すように、概ね円筒状に形成されており、基端部が電極支持部12の孔12aに挿入され、電極支持部12に着脱可能に取り付けられている。電極3の基端部が電極支持部12の孔12aに挿入された状態では、冷却パイプ14の先端部が電極3の内部空間内に配置されている。また、電極3と電極支持部12との間の隙間は、図示しないシール部材によって封止されている。これにより、電極支持部12の孔12aの先端側が閉塞される。さらに、電極3は、電極支持部12と接触することによって電極支持部12と電気的に接続されている。
【0052】
また、電極3は、図4に拡大して示すように、電極基体35と電極材36とを有している。電極基体35は、先端部が閉じられ基端部が開放された概ね円筒状の部材である。電極基体35は、金属製であり、例えば銅によって形成されている。電極基体35の外周面には径方向外方に突出するフランジ19が形成されており、さらに内部には空間が形成されている。フランジ19の一方の面は電極支持部12の先端部と接触し、他方の面は第1案内部材4と接触している。また、電極3の内部空間は、基端側は開放され、先端側は閉塞されている。
【0053】
電極基体35の先端部には、テーパ面38と放出面39とが形成されている。テーパ面38は、電極基体35の外周面から先端側(放出面39側)に行くにしたがって径が小さくなる形状である。放出面39は軸線と直交する平坦な面であり、その中央部には内部に凹む凹部41が形成されている。放出面39の裏側には、基端部へ向けて突出する凸部43が形成されている。図3に示すように、冷却パイプ14の先端部は、この凸部43の外側を覆うように配置されている。
【0054】
電極材36は、熱電子高放出性材料であるハフニウム(hafnium:Hf)で形成されている。電極材36は、電極基体35の凹部41に挿入され、ろう付けにより固定されている。電極材36は、概ね円筒状に形成されており、先端部には、基端側へ向けて凹む凹部36aが形成されている。
【0055】
[第1案内部材]
第1案内部材4は、図4に示すように、概ね円筒状に形成され、基端側に大径部20を有し、先端側に小径部21を有している。また、第1案内部材4は絶縁性を有する材料で形成されている。第1案内部材4は、ノズル6の内部において、基端側に配置されている。第1案内部材4は軸線方向に貫通する孔4aを有し、この孔4a内に電極3が挿入されている。このように、第1案内部材4は、電極3とノズル6との間に配置されることにより、電極3とノズル6とを電気的に絶縁している。なお、第1案内部材4の内面と電極3の外面との間にはシール部材S2が設けられ、第1案内部材4の外面とノズル6の内面との間にはシール部材S3が設けられている。
【0056】
また、第1案内部材4は、軸線方向において、電極3のフランジ部19の先端側に配置されている。第1案内部材4の基端部はフランジ部19に接触している。第1案内部材4の大径部20の外周面には、軸線方向に延びる複数の溝4bが形成されている。この複数の溝4bの先端側は、第1案内部材4とノズル6の内面との間の空間に連通し、溝4bの基端側の側部は、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間のプラズマガス通路P1に連通している。
【0057】
[第2案内部材]
第2案内部材5は、図4に示すように、軸線方向に貫通する孔5aを有する概ね環状の部材である。第2案内部材5の孔5aには、電極3及び第1案内部材4の小径部21が挿入されている。従って、第2案内部材5は、径方向において、ノズル6の内面と第1案内部材4の小径部21との間に配置されている。また、第2案内部材5は、軸線方向において、第1案内部材4の大径部20とノズル6の内面との間に配置されている。この第2案内部材5の先端側端面には、内部と外部と連通する複数の溝5bが設けられている。各溝5bは、径方向及び周方向に対して斜めに延びている。この第2案内部材5の溝5bを通過したプラズマガスは、電極3の外周を旋回するように流れる。
【0058】
[ノズル]
ノズル6は、銅製であり、図4及び図5に示すように、概ね円筒状に形成されている。このノズル6は、基端側から順に、内部に空間を有する筒状部6aと、筒状部6aの先端側に形成された先端部6bとを有している。
【0059】
ノズル6の筒状部6aの外周面には、軸線方向に沿って所定の領域に冷却用のフィン22が設けられている。冷却用フィン22の外観を図6に示している。ここでは、円周方向及び軸線方向の両方向に沿って形成された凹凸によって冷却用フィン22が形成されている。なお、図7に示すように、軸線方向のみに沿った凹凸によって冷却用フィン22’が形成されていてもよい。
【0060】
筒状部6aの外周面において、冷却用フィン22の基端側には、径方向に突出する突出部23が形成されている。この突出部23の上面23aとノズル支持部13の先端部との間には、図示しない電気接触子が配置されている。この電気接触子を介して、ノズル6はノズル支持部13と電気的に接続されている。
【0061】
筒状部6aの内部空間には、収納部24及び電極対向部25が形成されている。収納部24には、電極3、第1案内部材4、及び第2案内部材5が収納されている。電極対向部25は電極3の先端部と対向する部分であり、第1対向面25a及び第2対向面25bを有している。第1対向面25aは、電極対向部25において基端側に形成され、軸線方向に平行な面である。また、第2対向面25bは、第1対向面25aに連続して先端側に形成されており、先端側に向かって径が小さくなるテーパ面である。すなわち、第2対向面25bはテーパ内面となっている。電極対向部25の各対向面25a,25bと電極3の外周面との間には隙間が形成され、プラズマガスが流れる通路が形成されている。第2対向面(テーパ内面)25bのさらに先端側には、曲面25cが形成されている。
【0062】
先端部6bは、ほぼ円錐状に形成されており、中心部には軸線方向に貫通するオリフィス26が形成されている。このオリフィス26は、曲面25cを介して第2対向面25bに連続している。また、先端部6bの下端には、軸線方向と直交する平坦な先端面26aが形成されている。オリフィス26と先端面26aとの間(境界部)には面取り部26bが形成されている。
【0063】
ノズル6において、第1対向面25aと、テーパ内面としての第2対向面25bと、オリフィス26の内面と、面取り部26bを含む先端面26aと、には、セラミック系材料であるボロンナイトライドの被膜Cがコーティングされている。図5において、被膜Cが形成された部分を太い破線で示している。なお、この実施形態では、電極対向部25において、全内面に被膜Cが形成されているが、少なくとも第2対向面25bのうちの、電極3との最短ギャップの位置(電極3の外周縁44に最も近い位置)から先端側に形成されていればよい。電極材は、主に最短ギャップから先端側に飛散するからである。
【0064】
また、第2対向面25bのテーパ角度αは、この実施形態では90°に設定されている。テーパ角度は、前述の理由から、80°以上105°以下が好ましいが、特に好ましいのは90°である。
【0065】
図8を用いて、ノズルの具体的な寸法形状について説明する。図8において、RU,RD,D1,D2,Hはそれぞれ以下を意味する。
【0066】
RU:曲面25cの基端側の端(上端)。
【0067】
RD:曲面25cの先端側の端(下端)。
【0068】
D1:第1対向面25aが形成された部分の内径。すなわち、テーパ内面25bの最大内径に相当。
【0069】
D2:RUにおける内径。すなわち、テーパ内面25bの最小内径に相当。
【0070】
H :曲面25cの軸線方向の長さ。
【0071】
そして、図9に示すように、テーパ内面25bの最大内径D1に対する最小内径D2の比D2/D1は、0.33以上で0.5以下が好ましい。アーク収束部において特に収束の激しい最小内径D2がノズルの容量を規定するD1に対して0.5より大きくなると、アーク生成時に飛散した電極材がオリフィスに到達するまでの間に電極に対して向かい合う時間が延び、ノズル内面の特に曲面25cに付着する可能性が高くなるからである。なお、図9は、テーパ内面のテーパ角度に対するD2/D1の関係を示したものである。
【0072】
また、図10に示すように、テーパ内面25bの最小内径D2に対する曲面25cの軸線方向の長さHの比H/D2については、0.75以上で0.87以下が好ましい。H/D2が0.87より大きくなると、プラズマが曲面25cで収束する距離が相対的に長くなり、オリフィス迄の距離が延びることでプラズマアークがふらつき易くなる。曲面25cでのアークのふらつきは後に続くオリフィス部で特に顕著に現れることになり、結果としてオリフィス部の被膜の剥離が促進されるからである。なお、図10は、テーパ角度に対するH/D2の関係を示したものである。
【0073】
[キャップ部]
キャップ部7は、図3に示すように、トーチ本体2の先端に取り付けられ、ノズル6を覆う部材である。キャップ部7は、アウターキャップ31と、インナーキャップ32と、シールドキャップ33とを有する。各キャップ31,32,33は、概ね円錐台状に形成され、電極3及びノズル6と同軸に配置されている。
【0074】
アウターキャップ31は、ナット18によってホルダ15に固定されており、トーチ本体2の先端部とノズル支持部13の外側を覆っている。また、アウターキャップ31の内面とホルダ15の外面との間にはシール部材S4が設けられている。アウターキャップ31の先端には、軸線方向に貫通する孔31aが形成されている。
【0075】
インナーキャップ32はアウターキャップ31の孔31aに挿入されている。インナーキャップ32の外面とアウターキャップ31の内面との間にはシール部材S5が設けられている。インナーキャップ32には軸線方向に貫通する32a孔が形成されており、この孔32aにはノズル6の先端部が挿入されている。そして、ノズル6の先端部がインナーキャップ32の内面によって保持されている。ノズル6の先端部の外面とインナーキャップ32の内面との間にはシール部材S6が設けられている。
【0076】
アウターキャップ31及びインナーキャップ32の各内面は、ノズル支持部13及びノズル6の外面に対して間隔を空けて配置されている。これにより、ノズル6を冷却するための冷却液が通過する冷却液通路P2が構成されている。冷却液通路P2は、図示しない冷却液供給パイプ及び冷却液排出パイプを介して冷却システムに接続されている。
【0077】
シールドキャップ33は、アウターキャップ31の孔31aに挿入され、ノズル6の先端部を覆っている。シールドキャップ33の外面とアウターキャップ31の内面との間にはシール部材S7が設けられている。シールドキャップ33は、軸線方向に貫通し、ノズル6の孔6aと同軸に形成された孔33aを有している。また、シールドキャップ33の内面とノズル6の外面との間にはアシストガス通路P3が形成されている。アシストガス通路P3は、冷却液通路P2に対してシール部材S4によって遮断されており、アウターキャップ31の内部に形成されたアシストガス供給通路P4に連通している。アシストガス供給通路P4は、図示しないガス供給パイプを介してガス供給システムに接続されている。
【0078】
[動作]
このプラズマトーチ1では、まず、電極3とノズル6との間に、小流量のプラズマガスが流され、プラズマガスの流れが生成される。すなわち、ガス供給システムから、ノズル支持部13の内面と電極支持部12の外面との間のプラズマガス通路P1にプラズマガスが供給される。プラズマガスは、プラズマガス通路P1から、第1及び第2案内部材4,5に案内されて、旋回しながら電極3の外周を流れる。この状態で、電極3に高電圧が印加されると、電極基体35の放出面39の外周縁とノズル6の内面との間(最短ギャップ位置)に絶縁破壊が発生する。この絶縁破壊をトリガーにして電極3とノズル6の内面との間にパイロットアークが発生する。パイロットアークはノズル6内面の傾斜及び旋回するプラズマガスの流れに沿って中央部に移行し、さらにワークまで延びる。そして、プラズマガスの流量及び電流を増大させることにより、電極3とワークとの間にメインアークが生成される。
【0079】
以上の処理において、プラズマが生成される際に、電極材であるハフニウムが溶融し、ノズル6の内面(特に第2対向面25b)及びオリフィス26の内面に飛散する。しかし、ノズル6及びオリフィス26の内面にはボロンナイトライド被膜Cが形成されているので、これらの内面に溶融ハフニウムは付着しにくい。しかも、ノズル6の第2対向面25bのテーパ角度は90°に設定されているので、プラズマガスの流れがスムーズになる等の理由によって、溶融ハフニウムは、第2対向面25bに対してより付着しにくい。また、溶融ハフニウムが第2対向面25bに付着しても、堆積しにくい。さらに、第2対向面25bとオリフィス26とが曲面25cを介して連続して形成されているので、プラズマガスがノズル内面から離れることなくスムーズにオリフィス26に流入する。このため、溶融ハフニウムの排出が促進され、ノズル6及びオリフィス26の内面に溶融ハフニウムが堆積するのを抑制することができる。
【0080】
また、メインアークが発生した後は、ノズル6の先端面26aにも溶融ハフニウムやワークの溶融物が飛散する。しかし、この実施形態では、この先端面26aにもボロンナイトライド被膜Cが形成されているので、これらの溶融物の付着を抑えることができる。
【0081】
以上から、ボロンナイトライド被膜Cの付着防止効果を長期にわたって良好に維持することができる。このため、特に、ノズル6のオリフィス26の壁面が損傷を受けるのを抑えることができ、従来に比較して長時間にわたって良好な切断品質を維持することができる。すなわち、ノズル6の長寿命化が実現できる。
【0082】
[実験例]
図11にテーパ内面(第2対向面)25bのテーパ角度を種々変えた場合のノズル内面の様子を示している。図11は、ノズル内面及びオリフィスを基端側(図1の上方)から観察したものである。テーパ角度は、図の左から70°、80°、90°、105°、120°に設定されている。また、図の上から順に、ショット数(起動回数)が1回、100回、200回、300回、400回、400回で斜め上方から観察、600回、800回の場合を示している。図11において、白い部分はボロンナイトライド被膜が残っている部分であり、黒い部分はボロンナイトライド被膜が剥離された部分である。なお、供試ノズルのオリフィス直径はφ1.3mm、電流値は135A、ショット数1回あたりの連続アーク起動時間は20秒間とした。
【0083】
この実験結果から明らかなように、テーパ角度が70°の場合は、ショット数が300回でオリフィスの入口部におけるボロンナイトライド被膜が剥離されている。一方、テーパ角度が80°の場合は、400回を越えてオリフィス部のボロンナイトライド被膜が剥離されているが、この場合は長寿命化が図られていると評価できる。また、テーパ角度が90°の場合は、ショット数が800回以上であってもオリフィスの入口部においてダメージがほとんどなく、ボロンナイトライド被膜が残っている。さらに、テーパ角度が105°の場合は、80°の場合と同様で、400回を越えて曲面を主にオリフィス部迄のボロンナイトライド被膜が剥離されているが、この場合は長寿命化が図られていると評価できる。テーパ角度が120°の場合は、ショット数が100回で曲面からオリフィスの入口部におけるボロンナイトライド被膜が剥離されている。
【0084】
このように、テーパ角度が70°や120°の場合は、特にオリフィス入口部のボロンナイトライド被膜が早期に剥離されている。ボロンナイトライド被膜が剥離されると、溶融ハフニウムが付着しやすくなり、オリフィス形状が変化する。オリフィス形状の変化は、切断品質の低下を招くことになる。
【0085】
以上から、テーパ角度を80°以上105°以下に設定すれば、ボロンナイトライド被膜は長時間にわたって維持され、付着防止効果の低下を抑えることができることがわかる。
【0086】
[他の実施形態]
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0087】
(a)前記実施形態では、第2対向面(テーパ内面)25bのテーパ角度を90°に設定したが、80°以上105°以下の角度であれば、同様の作用効果を得ることができる。
【0088】
(b)ボロンナイトライド被膜Cは、第2対向面25bにおいては、少なくとも電極3との最短ギャップ位置から先端側にかけて形成されていればよい。
【0089】
(c)被膜は、第2対向面25bの少なくとも電極3との最短ギャップ位置から曲面25c及びオリフィス26の内面にかけて形成されていればよい。
【0090】
(d)被膜の材料はボロンナイトライドに限定されない。ボロンナイトライド以外のセラミック系材料を用いてもよい。
【符号の説明】
【0091】
1 プラズマトーチ
3 電極
6 ノズル
6a 筒状部
6b 先端部
22 冷却用フィン
25 電極対向部
25a 第1対向面
25b 第2対向面(テーパ内面)
25c 曲面
26 オリフィス
26a 先端面
26b 面取り部
C ボロンナイトライド被膜
【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端側に配置されたワークにプラズマジェットを噴出してワークを切断するためのプラズマ切断装置用ノズルであって、
先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面が形成された空間を内部に有する筒状部と、
前記筒状部の先端側に形成され、前記テーパ内面のさらに先端側に形成されたオリフィスと、ワークに対向する先端面と、を有する先端部と、
を備え、
前記テーパ内面及び前記オリフィスの内面にはセラミック系材料の被膜が形成されており、
前記テーパ内面のテーパ角度は80°以上105°以下である、
プラズマ切断装置用ノズル。
【請求項2】
前記筒状部は前記テーパ内面と前記オリフィスとをつなぐ曲面を有しており、前記曲面にはセラミック系材料の被膜が形成されている、請求項1に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項3】
前記テーパ内面の最大内径D1に対する最小内径D2の比D2/D1は、0.33以上0.5以下である、請求項2に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項4】
前記テーパ内面の最小内径D2に対する前記曲面のノズル軸方向長さHの比H/D2は、0.75以上0.87以下である、請求項2に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項5】
前記先端面にはセラミック系材料の被膜が形成されている、請求項2に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項6】
前記筒状部の外周面には冷却用フィンが設けられている、請求項5に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項7】
前記先端部は、前記オリフィスと前記先端面との間に形成された面取り部をさらに有している、請求項6に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項8】
プラズマ切断装置に設けられるプラズマトーチであって、
請求項1から7のいずれかに記載のノズルと、
先端外周縁部が前記ノズルの前記テーパ内面に対向するように配置された電極と、
を備えたプラズマトーチ。
【請求項1】
先端側に配置されたワークにプラズマジェットを噴出してワークを切断するためのプラズマ切断装置用ノズルであって、
先端側に向かうほど径が小さくなるテーパ内面が形成された空間を内部に有する筒状部と、
前記筒状部の先端側に形成され、前記テーパ内面のさらに先端側に形成されたオリフィスと、ワークに対向する先端面と、を有する先端部と、
を備え、
前記テーパ内面及び前記オリフィスの内面にはセラミック系材料の被膜が形成されており、
前記テーパ内面のテーパ角度は80°以上105°以下である、
プラズマ切断装置用ノズル。
【請求項2】
前記筒状部は前記テーパ内面と前記オリフィスとをつなぐ曲面を有しており、前記曲面にはセラミック系材料の被膜が形成されている、請求項1に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項3】
前記テーパ内面の最大内径D1に対する最小内径D2の比D2/D1は、0.33以上0.5以下である、請求項2に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項4】
前記テーパ内面の最小内径D2に対する前記曲面のノズル軸方向長さHの比H/D2は、0.75以上0.87以下である、請求項2に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項5】
前記先端面にはセラミック系材料の被膜が形成されている、請求項2に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項6】
前記筒状部の外周面には冷却用フィンが設けられている、請求項5に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項7】
前記先端部は、前記オリフィスと前記先端面との間に形成された面取り部をさらに有している、請求項6に記載のプラズマ切断装置用ノズル。
【請求項8】
プラズマ切断装置に設けられるプラズマトーチであって、
請求項1から7のいずれかに記載のノズルと、
先端外周縁部が前記ノズルの前記テーパ内面に対向するように配置された電極と、
を備えたプラズマトーチ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−192442(P2012−192442A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59494(P2011−59494)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(394019082)コマツ産機株式会社 (103)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000001236)株式会社小松製作所 (1,686)
【出願人】(394019082)コマツ産機株式会社 (103)
【Fターム(参考)】
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