説明

プラズマ発生手段、プラズマ発生装置及び元素分析方法

【課題】狭小部に電界を集中させてプラズマを発生させる際に、狭小部や電極に発生する気泡を速やかに除去することのできるプラズマ発生手段、プラズマ発生装置及び元素分析方法を提供すること。
【解決手段】プラズマ発生装置10では第1の連通部14a、第1の膨出部17a、狭小部16、第2の連通部14b、第2の膨出部17bからなる流路13が発光部本体12内に形成されている。狭小部16の断面積は前後の第1及び第2の膨出部17a,17bよりも著しく小さい。第1及び第2の連通部14a,14bには可撓性チューブ18が接続されておりシリンジポンプ装置21により導電性溶液は上流(第1の連通部14a側)から流路13内に流れ込んでいる。パルス電圧の印加に伴って狭小部16及び第1及び第2の電極20A,20Bに発生する気泡は下流側に導電性溶液とともに排出されることとなり、次回の印加の際の邪魔になることがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は溶液中に含まれている元素を分析するために元素固有のプラズマ光を発光させるプラズマ発生手段、プラズマ発生装置及びプラズマ発生手段を使用した元素分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
溶液中に含まれている元素を分析するために、従来から分光分析装置が用いられている。分光分析装置は放射されたプラズマ光を分光器によって分光して元素特有のスペクト線に分け、その有無と強度を受光素子で検出し、光の強度を測定する事により試料に含まれる目的元素の定性あるいは定量分析を行うものである。光分析装置では目的元素のスペクトルを分光器によって分光するようになっている。従来の光分析装置の一例を特許文献1〜3として挙げる。
分光分析装置は計測の前提としてプラズマ発生装置が必要である。プラズマ発生装置の機能としてはプラズマ光を取りこんでその分光特性を検出することから、強度があって発光時間の長い安定したプラズマ光が必要となる。例えば上記特許文献2に示すようなアルゴンの保持ガスを使用してプラズマの維持を図るタイプもあるが、その場合にはガスボンベが必要であり、装置が大型化して利便性に欠けていた。そのため、現状において特許文献4に開示されるプラズマ発生装置が提案されている。特許文献4に開示されたプラズマ発生装置は溶液中に電極を挿入し、電極間の通路を極端に狭い狭小部として構成することで、狭小部に電界を集中させて高熱化することで気泡を発生させ、その気泡中にプラズマを発生させるというものである。このような方式でのプラズマ発生装置は不純物の混入が少なく、簡易なシステムで安定的なプラズマ光を得ることができる。この方式のプラズマ発生装置においては、好適でばらつきのない安定した強度のプラズマ光を得るためには、液を移送させつつ、連続的な通電ではなく、パルス化して印加することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−31139号公報
【特許文献2】特開平7−286960号公報
【特許文献3】特開平2−28544号公報
【特許文献4】特許第3932368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献4のようなプラズマ発生装置では一回のパルス放電で生成した気泡がすぐには消失せず狭小部に滞留するため、この気泡が次のパルス放電の際のプラズマの発光強度に影響を与えたり、インピーダンス値に影響を与えてしまう可能性があった。また、気泡は電解によって電極周囲にも発生し、この電極に発生した気泡もインピーダンス値に影響を与えてしまう可能性があった。そのため、これら気泡の影響で発光強度が不安定となり測定値のばらつきが生じるという問題があった。
本発明は、上記課題を解消するためになされたものであり、その目的は、狭小部に電界を集中させてプラズマを発生させる際に、狭小部や電極に発生する気泡を速やかに除去することのできるプラズマ発生手段、プラズマ発生装置及び元素分析方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために請求項1の発明では、絶縁性材料で形成した流路に同流路の断面積よりも著しく小さな断面積の狭小部を形成し、同狭小部を挟んだ前後をそれぞれ第1及び第2の流路とし、同第1及び第2の流路内にそれぞれ第1及び第2の電極を配置するとともに、前記第1及び第2の流路並びに狭小部に導電性溶液を満たし、前記電極間に電流を流して前記狭小部に集中的に電界を印加させることによって生ずる気泡中にプラズマを発生させるとともに、前記第1の流路から第2の流路方向に向って導電性溶液を流動させることで前記狭小部に留まる気泡を前記狭小部から排出するようにしたことをその要旨とする。
また、請求項2に記載の発明では請求項1に記載の発明の構成に加え、前記導電性溶液を流動させることで前記第1及び第2の電極の周囲に発生した気泡を取り除くようにしたことをその要旨とする。
また、請求項3に記載の発明では請求項1又は2に記載の発明では、前記電極に対して所定のオン時間と所定のオフ時間の繰り返しによって周期的にパルス電圧を印加し、少なくとも流動する導電性溶液が前記狭小部を通過する時間よりも長いオフ時間に設定することをその要旨とする。
また、請求項4に記載の発明では請求項2又は3に記載の発明の構成に加え、少なくとも導電性溶液が前記狭小部の位置から前記第2の電極位置を通過する時間よりも長いオフ時間とすることをその要旨とする。
また、請求項5に記載の発明では請求項2〜4のいずれかに記載の発明の構成に加え、少なくとも導電性溶液が前記第1の電極位置から前記第2の電極位置を通過する時間よりも、長いオフ時間とすることをその要旨とする。
また、請求項6に記載の発明では、前記パルス電圧の所定のオフ時間に対する導電性溶液を流動させる流量を下記式に基づいて設定することをその要旨とする。
【0006】
【数1】

【0007】
また、請求項7に記載の発明では、請求項1〜6のいずれかに記載の発明の構成に加え、前記第1及び第2の電極を上方から下垂させ、その先端部位を前記狭小部の外方であって前記狭小部の上下幅内に進出させて配置することをその要旨とする。
【0008】
また、請求項8に記載の発明では請求項1〜7のいずれかのプラズマ発生手段であって、前記狭小部で発生したプラズマを分光して分析することをその要旨とする。
また、請求項9に記載の発明では、導電性溶液中に電流を流すことでプラズマを発生させるプラズマ発生装置であって、第1の流路と、第2の流路と、前記第1及び第2の流路間を連通する前記第1及び第2の流路の断面積よりも著しく小さな断面積の狭小部とをそれぞれ絶縁性材料で形成し、前記狭小部には集中的に電界が印加されるように前記第1の流路と前記第2の流路にはそれぞれ電極を配設するとともに、前記第1の流路の上流位置には導電性溶液の貯留槽を配設し、送出手段によって同貯留槽から前記第1の流路に対して所定の流量で導電性溶液を導入するとともに、前記第2の流路の下流位置に形成した排出口から導電性溶液を排出するようにし、、前記狭小部に留まる気泡を前記狭小部から排出するようにしたことをその要旨とする。
また、請求項10に記載の発明では、請求項9に記載の発明の構成に加え、前記電極に対して所定のオン時間と所定のオフ時間の繰り返し周期のパルス電圧を印加する電源装置を併設し、オフ時間を前記送出手段によって送出される導電性溶液が前記狭小部を通過する時間よりも長い時間となるように設定したことをその要旨とする。
また、請求項11に記載の発明では、請求項9又は10に記載の発明の構成に加え、前記第1及び第2の電極を上方から下垂させ、その先端部位を前記狭小部の外方であって前記狭小部の上下幅内に進出させて配置することをその要旨とする。
【0009】
上記のような構成とすれば、狭小部に気泡が発生しても、導電性溶液が狭小部を流れて狭小部に留まる気泡を排出させるため、すでに発光の終了した気泡が狭小部における次回の発光の邪魔となることがなく、発光強度の安定化に寄与することとなる。
より具体的な構成として、送出手段によって貯留槽から導電性溶液を第1の流路に対して導入し、第2の流路の下流位置に形成した排出口から排出することで流れを作り出すことが想定される。特にこのような構成とすれば、一旦使用した導電性溶液は排出口から排出され、再利用されないため導電性溶液の濃度が常に一定に保たれ測定値の安定化に貢献する。
また、プラズマ発生手段は更に狭小部で発生したプラズマを分光して分析することで元素分析装置と利用することができる。
【0010】
また、導電性溶液を流動させる際には狭小部内の気泡と同時に第1及び第2の電極の周囲に発生した気泡を取り除くようにすることが好ましい。電解によって第1及び第2の電極の周囲に発生した気泡を取り除くことで、気泡が電極に接触していることによるインピーダンスの上昇を防止し、安定した電力を電極に供給することで発光強度の安定化に寄与することができるからである。
尚、導電性溶液を流動させて第1及び第2の電極の周囲に発生した気泡を取り除く場合には、完全にすべての気泡を完全に取り除くことを念頭においているわけではない。流速や気泡の大きさに応じて気泡の除去状況は異なるものであり、少なくとも気泡が除去されている状態ではインピーダンスが低下して発光効率の向上が認められるからである。
【0011】
また、上記構成においてはプラズマ発生用の電流として電極に対して所定のオン時間と所定のオフ時間の繰り返しによって周期的にパルス電圧を印加し、主要な気泡はオンの時間に狭小部で発生する。従って、少なくとも流動する導電性溶液が狭小部を通過するのに要する時間よりも長いオフ時間を設定することがより好ましい。これは気泡が、狭小部に残留すると、プラズマの発光が著しく影響を受けるためである。
更に、より好ましくは導電性溶液が狭小部から前記第2の電極位置を通過する時間よりも長いオフ時間とすることがより好ましい。
これは、狭小部で発生した気泡が、第2の電極と第1の電極の間にあると、少なからず電流を遮り、プラズマの発光に影響するためである。
更に、より好ましくは導電性溶液が第1の電極位置から前記第2の電極位置を通過する時間よりも長いオフ時間とすることがより好ましい。
これは気泡の電極に与える影響を更に排除するためであって、電圧オンの時に第1の電極を離れた気泡が、第2の電極位置よりも下流に流れてから次のパルス電圧がオンするようにしたものである。
ここにオフ時間に対応する単位時間当たりの流量を設定する場合には、上記数式を使用して流量が最適な条件になるようにすることが好ましい。流量が少なすぎればもっと多くすることで発光強度やばらつきを改善することができるものの、多すぎるとすでに発光強度が飽和状態にあるにも関わらず無駄に多くの流量を与えることとなり、エネルギー効率が悪化するからである。
【0012】
また、構造的に第1及び第2の電極の先端部位が狭小部の開口部にそれぞれ面した位置に配置されることが好ましい。このような配置位置とすることで、もっとも気泡が付着しやすい電極の先端部位と狭小部とが一直性上に並ぶこととなり、導電性溶液が流動して気泡が押し流される際の気泡の排出がスムーズとなるからである。
【発明の効果】
【0013】
上記各請求項に記載の発明によれば、狭小部に電界を集中させてプラズマを発生させる際に、狭小部に滞留する気泡を速やかに除去することのでき、測定のばらつきがなく安定した再現性のよい発光強度のプラズマ光を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明における実施の形態のプラズマ発生装置の概略の構成を説明する模式図。
【図2】実施の形態における凹部の形状の平面図。
【図3】本発明のプラズマ発生装置を用いた分光分析装置のイメージ図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態として例えば図1に示すような構成のプラズマ発生装置10を示す。尚、図1は模式的に表したもので各部の寸法は必ずしも正確なものではない。プラズマ発生装置10は石英ガラス製の2枚の正方形形状のチップ11a,11bを張り合わせて構成された発光部本体12を備えている。チップ11a,11bを張り合わせた状態で発光部本体12内部には流路13が形成される。流路13は上側チップ11aにおいて上下に連通するように形成された円筒状の第1及び第2の連通部14a,14bと、下側のチップ11bの上面側に形成された凹部15との組み合わせによって構成されている。図2に示すように、凹部15は中央がくびれた砂時計形状の平面形状をなしており、中央のくびれ部分が狭小部16とされている。狭小部16を挟んだ前後の第1及び第2の膨出部17a,17bに第1及び第2の連通部14a,14bはそれぞれ接続されることとなる。狭小部16はその前後の第1及び第2の膨出部17a,17bの断面積よりも著しく小さく構成されており、本実施の形態においては凹部15の深さは100μm、くびれ部分の幅は80μm、長さは1mm、第1及び第2の膨出部17a,17bの幅は3mmに設計されているが、この寸法は適宜変更可能である。
【0016】
第1及び第2の連通部14a,14bにはそれぞれ可撓性チューブ18の基端側が接続されている。第1の連通部14aに接続された可撓性チューブ18の先端側、つまり上流側には貯留槽及び送出手段としてのシリンジポンプ装置21が配設されている。第2の連通部14bに接続された可撓性チューブ18の先端側、つまり下流側は廃液用のバケツ22の上部位置に配置されている。
第1の電極20Aは可撓性チューブ18の基端寄り側面から内部に挿入され、下垂されて第1の連通部14a方向に延出されている。第2の電極20Aの先端は第1の膨出部17a内に配置されている。第2の電極20Bは可撓性チューブ18の基端寄り側面から内部に挿入され、下垂されて第2の連通部14b方向に延出されている。第2の電極20Bの先端は第2の膨出部17b内に配置されている。両電極20A,20Bは棒状の白金電極とされている。両電極20A,20Bを結ぶ直線は狭小部16を通過する。
第1及び第2の電極20A,20Bは電源装置としてのパルス電圧装置23に接続されており、所定のパルス電圧が印加されるようになっている。
【0017】
上記のような構成のプラズマ発生装置10において、プラズマ発光動作をさせるものとする。まず、導電性溶液を流路13及び可撓性チューブ18内に充填し、シリンジポンプ装置23を一定の押し出し速度となるように駆動を開始すると同時にパルス電圧装置23からのパルス電圧の印加を開始する。そして、狭小部16位置に発生するプラズマ光を例えば光ファイバー25(図1参照)を用いて測光部31に取り入れ、分光してスペクトルを得る。次いで、算出部32において数値を算出し、モニターやプリンターのような出力装置によって算出結果を出力する。プラズマ発生装置10、測光部31及び算出部32によって分光分析装置33が構成される。
導電性溶液は測定データを得る間において常時流動して第1の連通部14a、第1の膨出部17a、狭小部16、第2の膨出部17b、第2の連通部14bの順に流れており、パルス電圧の印加に伴って狭小部16及び第1及び第2の電極20A,20B(特に凹部15に進出している下端寄り)に発生する気泡が下流に排出されるようになっている。導電性溶液の流速は通過する流路13の平均断面積を求め、流量を除することで平均流速として求めることができ、適宜流量を変更することで流速も変更できる。つまり、ある位置に存在する溶液がある位置に達するまでの時間は平均断面積が分かれば流量との関係で算出可能である。そのため、本実施の形態では前回の気泡が次の回のパルス電圧を印加するまでの時間内に下流に排出されるように流量を設定することが可能である。ここでは少なくとも狭小部16に気泡が残っている場合や、第1の電極20Aから除かれた気泡が狭小部16を通過している場合、更に第2の電極20Bの近傍に流れてきた気泡が存在している場合に次の回のパルス電圧が印加されないようにパルス間隔を設定する。つまり、次の回のパルス電圧の印加までに、最低限狭小部16内の気泡が排出されることが好ましく、更にそれが第2の電極20Bよりも下流に移動していることが好ましく、更に、第1の電極20Aの周りの気泡が第2の電極20Bよりも下流に移動していることが好ましい。
本実施の形態のプラズマ発生装置10は以下のように変更して実施することも可能である。
・本実施の形態の第1及び第2の電極20A,20Bは白金電極を使用したが、その他の材質、例えばカーボン電極を使用することも可能である。
・発光部本体12の材質は上記以外の透明体でもよい。
・ポンプ装置としてシリンジポンプ装置21以外の手段を使うことも可能である。
・シリンジポンプ装置21を使用したため、貯留槽もシリンジポンプ装置21は兼ねているが別体で導電性溶液用のタンクを用意することも可能である。
・プラズマ光を測光部31に取り入れる場合には上記のような光ファイバー25を用いずに、発光部本体12を直接測光部31の入光部位置に配置するようにしてもよい。
・凹部15の形状や第1及び第2の連通部14a,14bの形状は適宜変更可能である。
・本実施の形態では実験装置的な簡略化した構成で説明するが、商業的に利用できる他の構成でプラズマ発生装置10を構築することも可能である。
【0018】
以下、上記実施の形態の装置を使用した本発明の実施例について説明する。尚、以下の実施例の条件は適宜変更することが可能である。
(実施例1)
下記のような条件で、元素が鉛である場合の発光強度とそのばらつき(CV)を評価した。ばらつき(CV)はパルス回数の標準偏差(σ)をまず求め、得られた標準偏差を発光強度で除することで求めた。評価結果は表1及び2に示す。
使用した導電性溶液:硝酸0.1N/L
パルス電圧値:1500ボルト
パルス回数:2000回
パルス周期条件:印加オン時間3ms、 印加オフ時間0.1s
対象元素:鉛(Pb)
流量条件:500μl/min
尚、流速は流量を断面積で除したものであるため、導電性溶液が通過する部分の断面積で速度は一定ではない。そのため、ここでは単位時間当たりの流量を採用する。
【0019】
(実施例2)
使用した導電性溶液、パルス電圧値、パルス回数、パルス周期条件、対象元素:鉛(Pb)については実施例1と同じ条件とし、流量条件:1000μl/minとした。
(実施例3)
使用した導電性溶液、パルス電圧値、パルス回数、パルス周期条件、対象元素:鉛(Pb)については実施例1と同じ条件とし、流量条件:1200μl/minとした。
(実施例4)
使用した導電性溶液、パルス電圧値、パルス回数、パルス周期条件、対象元素:鉛(Pb)については実施例1と同じ条件とし、流量条件:1500μl/minとした。
(実施例5)
使用した導電性溶液、パルス電圧値、パルス回数、パルス周期条件、対象元素:鉛(Pb)については実施例1と同じ条件とし、流量条件:2000μl/minとした。
<結果>
同じ電圧条件で、かつ同じパルス周期条件とすることで導電性溶液の流量を多くしていくと発光強度が増していくことから、気泡を多く排除することで発光効率が向上することがわかる。一方、ある流量までは発光強度が増すものの、この実施例では1500〜2000μl/minで発光強度のピークがあり、それ以上流量を多くしても発光強度は上がらないという知見が得られた。これは気泡が十分排除できているので発光効率の向上はすでに望めない状態であるといえる。発光強度に対するばらつき(CV)は、1500μl/minまでは向上するが、2000μl/min付近で飽和状態に近づくことがわかる。
【0020】
【表1】

【0021】
【表2】

【0022】
上記実施例1〜5の結果から、導電性溶液の流量を多くすることで発光強度が向上することが理解できるものの、流量を必要以上に多くしても発光効率には寄与せず無駄なエネルギーの消費となることがわかった。そのため、出願人は導電性溶液の流量についてのエネルギー効率を最適にする特性についてパルス周期条件との関係で検討した。
表3はパルス周期条件として印加オン時間3msにおける印加オフ時間と上記ばらつき(CV)との関係を示したグラフ(曲線)である。グラフは縦軸に流量をとり印加オフ時間を横軸にとったもので流量と印加オフ時間の関係が反比例となるグラフであり、その他の条件(印加電圧、印加時間、導電性溶液の種類、狭小部の形状等)によって固有の定数が与えられることとなる。また、一例としてA,B,C,D,E位置でのばらつき(CV)を表4に示す。曲線上が最適な流量と印加オフ時間の関係であり、それよりも下方域ではばらつき(CV)は悪くなり、上方域では飽和して流量に関係なく近似したばらつき(CV)となる。
このグラフから、印加オフ時間が長くなると流量が少なくとも十分な発光効率が得られることがわかる。つまり、流量が少なくとも次のパルス電圧の印加、つまりプラズマ発光動作までの時間に余裕があるため前回の気泡を排出することができるので、発光効率を維持することができると考えられる。
従って、単位時間あたりでのパルス回数を多くする場合にはパルス周期が短くなるため流量を多くするようにし、流量に関するエネルギー効率を上げる場合には流量を少なくしてパルス周期を長くするという場合に応じた対応によって発光効率を維持することができる。流量に関するエネルギー効率を考慮すると上記グラフの線上が最も好ましい。
【0023】
【表3】

【0024】
【表4】

【符号の説明】
【0025】
10…プラズマ発生装置、13…流路、16…狭小部、14a…第1の流路の一部となる第1の連通部、14b…第2の流路の一部となる第2の連通部、17a…第1の流路の一部となる第1の膨出部、17b…第2の流路の一部となる第2の膨出部、20A…第1の電極、20B…第2の電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性材料で形成した流路に同流路の断面積よりも著しく小さな断面積の狭小部を形成し、同狭小部を挟んだ前後をそれぞれ第1及び第2の流路とし、同第1及び第2の流路内にそれぞれ第1及び第2の電極を配置するとともに、前記第1及び第2の流路並びに狭小部に導電性溶液を満たし、前記電極間に電流を流して前記狭小部に集中的に電界を印加させることによって生ずる気泡中にプラズマを発生させるとともに、前記第1の流路から第2の流路方向に向って導電性溶液を流動させることで前記狭小部に留まる気泡を前記狭小部から排出するようにしたことを特徴とするプラズマ発生手段。
【請求項2】
前記導電性溶液を流動させることで前記第1及び第2の電極の周囲に発生した気泡を取り除くようにしたことを特徴とする請求項1に記載のプラズマ発生手段。
【請求項3】
前記電極に対して所定のオン時間と所定のオフ時間の繰り返しによって周期的にパルス電圧を印加し、少なくとも流動する導電性溶液が前記狭小部を通過する時間よりも長いオフ時間に設定することを特徴とする請求項2に記載のプラズマ発生手段。
【請求項4】
少なくとも導電性溶液が前記狭小部の位置から前記第2の電極位置を通過する時間よりも長いオフ時間とすることを特徴とする請求項2又は3に記載のプラズマ発生手段。
【請求項5】
少なくとも導電性溶液が前記第1の電極位置から前記第2の電極位置を通過する時間よりも、長いオフ時間とすることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載のプラズマ発生手段。
【請求項6】
前記パルス電圧の所定のオフ時間に対する導電性溶液を流動させる流量を下記式に基づいて設定することを特徴とする請求項3〜5のいずれかに記載のプラズマ発生手段。
【数1】

【請求項7】
前記第1及び第2の電極を上方から下垂させ、その先端部位を前記狭小部の外方であって前記狭小部の上下幅内に進出させて配置することを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプラズマ発生手段。
【請求項8】
請求項1〜7のプラズマ発生手段であって、前記狭小部で発生したプラズマを分光して分析することを特徴とする元素分析方法。
【請求項9】
導電性溶液中に電流を流すことでプラズマを発生させるプラズマ発生装置であって、第1の流路と、第2の流路と、前記第1及び第2の流路間を連通する前記第1及び第2の流路の断面積よりも著しく小さな断面積の狭小部とをそれぞれ絶縁性材料で形成し、前記狭小部には集中的に電界が印加されるように前記第1の流路と前記第2の流路にはそれぞれ電極を配設するとともに、前記第1の流路の上流位置には導電性溶液の貯留槽を配設し、送出手段によって同貯留槽から前記第1の流路に対して所定の流量で導電性溶液を導入するとともに、前記第2の流路の下流位置に形成した排出口から導電性溶液を排出するようにし、前記狭小部に留まる気泡を前記狭小部から排出するようにしたことを特徴とするプラズマ発生装置。
【請求項10】
前記電極に対して所定のオン時間と所定のオフ時間の繰り返し周期の電圧を印加する電源装置を併設し、オフ時間を前記送出手段によって送出される導電性溶液が前記狭小部を通過する時間よりも長い時間となるように設定したことを特徴とする請求項9に記載のプラズマ発生装置。
【請求項11】
前記第1及び第2の電極を上方から下垂させ、その先端部位を前記狭小部の外方であって前記狭小部の上下幅内に進出させて配置することを特徴とする請求項9又は10に記載のプラズマ発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−180045(P2011−180045A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−45967(P2010−45967)
【出願日】平成22年3月2日(2010.3.2)
【出願人】(304024430)国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 (169)
【出願人】(000219738)東海光学株式会社 (112)
【出願人】(506314841)株式会社マイクロエミッション (3)
【Fターム(参考)】