説明

プラネタリギヤ装置

【課題】小型化を図りながらケースから放出されるギヤノイズを確実に低減することができるプラネタリギヤ装置を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様は、リングギヤ22がトランスミッションケース11に対して固定されるプラネタリギヤ装置において、リングギヤ22は、中間壁12aに対し回り止め機構36cにより回り止めされるリングギヤフランジ25を介して中間壁12aに固定され、回り止め機構36cは、中間壁12aにて同心円上に複数形成された圧入穴12cと、リングギヤフランジ25にて圧入穴12cに対応する位置に設けられたピン挿入穴26と、圧入穴12cとピン挿入穴26とに嵌合され中間壁12aに対しリングギヤフランジ25を軸方向に相対的に移動可能な状態で回り止めするピン60と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機等に用いられるプラネタリギヤ装置に係わり、詳しくは、ギヤノイズを低減させるプラネタリギヤ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
駆動源としてモータジェネレータを備える車両(ハイブリッド自動車や電気自動車など)には、モータジェネレータの回転を減速して出力軸に伝達する減速機構(プラネタリギヤ装置)を備えているものがある。この減速機構は、サンギヤ、キャリヤ、及びリングギヤにより構成されている。そして、これらの構成要素のうち、キャリヤあるいはリングギヤのいずれか一方を固定する必要がある。どちらを固定するかは、要求される仕様などにより決定される。
【0003】
ここで、リングギヤ固定の場合として、例えば、リングギヤの外周でケースに固定しているものがある。この場合、ピニオンギヤが自転するとともに公転するので、ピニオンギヤに潤滑油を供給するための油路を形成する必要がない。ところが、リングギヤ固定の場合には、ギヤの噛み合いによる振動や、強制力(減速機構作動時にピニオンギヤからリングギヤに対して作用する力)によるリングギヤ自体の変形により生じる振動が、直接、ケースの外周部に伝達されてしまい、ケースから放出されるギヤノイズが大きくなるという問題がある。
【0004】
そこで、リングギヤの内周に設けたスプラインを介して当該リングギヤをリングギヤフランジと噛み合わせて、当該リングギヤフランジをケースにボルトで締結することにより、リングギヤをケースに固定しているものがある。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−079625号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、リングギヤフランジをケースにボルトで締結すると、ボルトの軸力で発生する座面摩擦力によりトルクを受けることになるが、大きなトルクに対応するにはボルトが多数必要となる。そのため、ボルトを締結するネジ孔を多数設けるスペースが必要になる。また、ボルトの頭部の軸方向のスペースが必要になり、プラネタリギヤの軸方向の長さが大きくなってしまう。したがって、減速機構が大型化してしまう。
【0007】
そこで、本発明は上記した問題点を解決するためになされたものであり、小型化を図りながらケースから放出されるギヤノイズを確実に低減することができるプラネタリギヤ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するためになされた本発明の一形態は、ケースの内部に収容され、サンギヤと、前記サンギヤと同軸上に配置されたリングギヤと、前記サンギヤと前記リングギヤとに噛み合うプラネタリピニオンギヤと、前記プラネタリピニオンギヤを保持するプラネタリキャリヤと、を有し、前記リングギヤが前記ケースに対して固定されるプラネタリギヤ装置において、前記リングギヤの内周側に配置されるリングギヤフランジを有し、前記リングギヤは、前記ケースにて内径側に向かって形成されるケース壁に対し回り止め機構により回り止めされる前記リングギヤフランジを介して前記ケース壁に固定され、前記回り止め機構は、前記ケース壁にて同心円上に複数形成されたケース穴と、前記リングギヤフランジにて前記ケース穴に対応する位置に設けられたフランジ穴と、前記ケース穴と前記フランジ穴とに嵌合され前記ケース壁に対し前記リングギヤフランジを軸方向に相対的に移動可能な状態で回り止めする回り止め部材と、を備えること、を特徴とする。
【0009】
このプラネタリギヤ装置では、リングギヤが固定されている。詳しくは、リングギヤが、回り止め機構によりケース壁に対し固定(回り止め)されたリングギヤフランジを介し、ケース壁に固定されている。つまり、リングギヤの外周でケースに固定するのではなく、リングギヤフランジをケースの一部分であるケース壁に固定(回り止め)することにより、リングギヤをケースに対して固定している。これにより、リングギヤの外周とケースとの物理的接触がなくなるため、ギヤの噛み合いによる振動や、強制力によるリングギヤ自体の変形による振動が、ケース外周へ伝達されにくくなる。また、その他の要因によるリングギヤの振動は、ケース壁を介してケース外周へと伝達される。これらのことから、ケースから放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【0010】
また、回り止め機構は、ケース壁にて形成されたケース穴と、リングギヤフランジにて形成されたフランジ穴と、ケース穴とフランジ穴とに嵌合されケース壁に対しリングギヤフランジを軸方向に相対的に移動可能な状態で回り止めする回り止め部材と、を備える。このように、単純に穴加工を施すことにより形成することができるケース穴とフランジ穴に、回り止め部材を嵌合させている。そのため、ケース穴とフランジ穴の位置精度や回り止め部材の加工精度が出し易く、複数の回り止め部材に均等にせん断力を作用させることができる。したがって、大きなトルクが作用する場合でも、回り止め部材の数を少なくしたり、回り止め部材の大きさを小さくすることができ、回り止め機構を小型化できる。ゆえに、プラネタリギヤ装置の小型化を図りながら、ケースから放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【0011】
上記した態様においては、前記回り止め部材は、前記ケース穴に圧入されるとともに、前記フランジ穴に遊嵌されていること、が好ましい。
【0012】
この態様によれば、回り止め部材はケース穴に圧入されているので、ケース穴と回り止め部材との間のガタつきをなくすことができ、ケース穴に偏荷重が入力されることを抑制できる。そのため、ケースの耐久性が向上する。
【0013】
上記した態様においては、前記ケース穴は前記ケース壁を貫通する穴であり、前記回り止め部材は、前記軸方向について、前記ケース穴よりも長く、前記ケース壁に対して前記リングギヤフランジが配置される側とは反対側の端部が前記ケース穴から突出していること、が好ましい。
【0014】
この態様によれば、ケース穴はケース壁を貫通する穴であり、回り止め部材は軸方向について、ケース穴よりも長く、ケース壁に対してリングギヤフランジが配置される側とは反対側の端部がケース穴から突出している。これにより、回り止め部材におけるケース壁に対してリングギヤフランジが配置される側の端部にて荷重を受けても、回り止め部材とケース穴との嵌合が外れない。
【0015】
上記した態様においては、前記回り止め部材は、前記ケース壁に対して前記リングギヤフランジが配置される側とは反対側の端部に前記ケース穴よりも径が大きいフランジ部を備えること、が好ましい。
【0016】
この態様によれば、回り止め部材はケース壁に対してリングギヤフランジが配置される側とは反対側の端部にケース穴よりも径が大きいフランジ部を備える。これにより、回り止め部材におけるケース壁に対してリングギヤフランジが配置される側の端部にて荷重を受けても、より確実に回り止め部材とケース穴との嵌合が外れない。
【0017】
上記した態様においては、前記リングギヤフランジは、芯出し機構により前記ケース壁に対し位置決めされ、前記芯出し機構は、前記リングギヤフランジのボス部と前記ケース壁との嵌合によるものであり、前記回り止め機構は、前記芯出し機構より外周側に配置されていること、が好ましい。
【0018】
この態様によれば、リングギヤフランジは芯出し機構によりケース壁に対し位置決めされ、芯出し機構はリングギヤフランジのボス部とケース壁との嵌合によるものであり、回り止め機構は芯出し機構より外周側に配置されている。そして、当該芯出し機構により、リングギヤは芯出しを行うことができる。さらに、リングギヤがリングギヤフランジを介して固定されているので、リングギヤとピニオンギヤとの噛み合いによる調芯もできる。これらのことにより、リングギヤの芯出しを精度良く行うことができる。
【0019】
また、回り止め機構が、芯出し機構より外周側に配置されているため、回り止め機構をリングギヤフランジのうち比較的外周側に配置することができる。これにより、回り止め機構に作用する荷重を小さくすることができるため、リングギヤを定位置にしっかりと固定することができる。そして、このことと上記したリングギヤの高精度な芯出しにより、リングギヤとピニオンギヤとの歯当たりを向上させることができる。これにより、ギヤ耐久性を低下させることなく、ギヤノイズを小さくすることができる。従って、ケースから放出されるギヤノイズをより低減することができる。
【0020】
さらに、回り止め機構が芯出し機構より外周側に配置されており、ガタつきを小さく抑えた芯出し機構を内周側に配置し、ガタつきが芯出し機構よりも大きくなりうる回り止め機構を外周側に配置している。これにより、ケース壁とリングギヤフランジとの熱膨張率の差によるかじりを防止できる。
【0021】
上記した態様においては、前記ボス部は、前記軸方向について前記回り止め部材における前記ケース壁に対して前記リングギヤフランジが配置される側に突出した部分よりも長いこと、が好ましい。
【0022】
この態様によれば、ボス部は、軸方向について回り止め部材のケース壁に対してリングギヤフランジが配置される側に突出した部分よりも長い。そのため、リングギヤフランジをケース壁に組み付ける際に、リングギヤフランジのボス部をケース壁に組み付けながらケース壁に圧入した回り止め部材をリングギヤフランジのフランジ穴に挿入することができる。そのため、ケース壁へのリングギヤフランジの組み付け性が向上する。
【0023】
上記した態様においては、前記リングギヤフランジは、前記軸方向についての前記ケース壁に対する相対的な移動量を軸受と前記サンギヤとを介して前記ケースにより規制されていること、が好ましい。
【0024】
この態様によれば、リングギヤフランジは、軸方向についてのケース壁に対する相対的な移動量をサンギヤと軸受とを介してケースにより規制されている。そのため、例えばボルトなどの締結手段を用いてリングギヤフランジの軸方向についてのケース壁に対する相対的な移動量を規制する場合には常に締結力による圧力がケースに加わるが、この態様によればそのようなことはない。したがって、ケースの強度の向上を図りながら、リングギヤフランジの軸方向についてのケース壁に対する相対的な移動量を規制することができる。
【0025】
上記した態様においては、前記回り止め部材は棒状部材であること、が好ましい。
【0026】
この態様によれば、回り止め部材は棒状部材である。そのため、より確実に回り止め部材の加工精度が出し易く、より確実に複数の回り止め部材に均等にせん断力を作用させることができる。したがって、より確実にプラネタリギヤ装置の小型化を図りながら、ケースから放出されるギヤノイズを低減することができる。
【0027】
上記した態様においては、前記ケース穴と前記フランジ穴は円柱状穴であり、前記棒状部材は円柱状部材であること、が好ましい。
【0028】
この態様によれば、ケース穴とフランジ穴は円柱状穴であり、棒状部材は円柱状部材である。そのため、より確実にケース穴とフランジ穴の位置精度や棒状部材の加工精度が出し易く、さらに確実に複数の棒状部材(回り止め部材)に均等にせん断力を作用させることができる。したがって、プラネタリギヤ装置のさらなる小型化を図りながら、ケースから放出されるギヤノイズをさらに低減することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係るプラネタリギヤ装置によれば、小型化を図りながらケースから放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施の形態に係る駆動装置の減速機構付近における概略構成を示す断面図である。
【図2】中間壁に形成された圧入穴の配置を示す図である。
【図3】モータジェネレータ側から見たリングギヤフランジの平面図である。
【図4】回り止め機構の第1変形例の概略構成を示す断面図である。
【図5】回り止め機構の第2変形例の概略構成を示す断面図である。
【図6】回り止め機構の第3変形例の概略構成を示す断面図である。
【図7】中間壁に形成された圧入穴と潤滑用といと油孔の配置を示す図である。
【図8】回り止め機構の第4変形例の概略構成を示す断面図である。
【図9】第4変形例におけるピン周辺の拡大図である。
【図10】ピンの一端部が中間壁から突出していない場合を想定した図である。
【図11】ピンの一端部が中間壁から突出していない場合においてピンの他端部にトルクが作用したときを示す図である。
【図12】ピンの一端部が中間壁から突出していない場合においてピンの他端部にトルクが作用しなくなったときを示す図である。
【図13】第4変形例においてピンの一端部が中間壁から突出していることを示す概略図である。
【図14】第4変形例においてピンの他端部にトルクが作用したときを示す図である。
【図15】第4変形例においてピンの他端部にトルクが作用しなくなったときを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明のプラネタリギヤ装置を有する車両用駆動装置を具体化した好適な実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。本実施の形態は、フロントエンジン・リヤドライブ(FR)のハイブリッド車に搭載される縦置式の駆動装置である。そこで、本実施の形態に係る駆動装置について、図1を参照しながら説明する。図1は、実施の形態に係る駆動装置の減速機構(プラネタリギヤ装置)付近における概略構成を示す断面図である。
【0032】
図1に示すように、本実施の形態に係る駆動装置10は、モータジェネレータMGと、モータジェネレータMGに接続された減速機構20(プラネタリギヤ装置)と、減速機構20に接続された出力軸15とを備えている。そして、これらがメインハウジング12及びエクステンションハウジング13で構成されるトランスミッションケース11の内部に収容されている。これらメインハウジング12とエクステンションハウジング13は、それぞれアルミニウムなどの金属材料を成形加工したものであり、接合面に設けられたノックピンを介して位置決めされ、接合されている。そして、駆動装置10では、モータジェネレータMGの回転を減速機構20で減速して、出力軸15から出力することができるようになっている。
【0033】
モータジェネレータMGは、電力の供給により駆動する電動機としての機能(力行機能)と、機械エネルギを電気エネルギに変換する発電機としての機能(回生機能)とを兼ね備えている。モータジェネレータMGは、主として電動機として作動する。そして、モータジェネレータMGとしては、例えば、交流同期型のモータジェネレータを用いることができ、電力供給装置としては、例えば、バッテリやキャパシタなどの蓄電装置、あるいは公知の燃料電池などを用いることができる。
【0034】
このようなモータジェネレータMGは、メインハウジング12に固定されたステータ50と、回転自在なロータ51とを有している。ステータ50は、ステータコア52と、ステータコア52に巻回されたコイル53とを有している。これらのロータ51及びステータコア52は、それぞれ所定肉厚の電磁鋼板を、その厚さ方向(図1では左右方向)に複数枚を積層して構成したものである。そして、ロータ51の中心にロータ軸16が配置され、ロータ51とロータ軸16とが連結されている。これにより、ロータ51とロータ軸16とが一体となって回転する。ロータ軸16は、一対の軸受に回転可能に支持されている。一対の軸受のうち、減速機構20側に配置される軸受54が、メインハウジング12の一部であり当該メインハウジング12にて内径側に向かって形成される中間壁12aに固定されている。この中間壁12aは、モータジェネレータMGと減速機構20とを隔てている。
【0035】
そして、モータジェネレータMGと同軸上に、中間壁12aを挟むようにして、減速機構20が配置されている。これにより、トランスミッションケース11内では中間壁12aにより、モータジェネレータMGと減速機構20とが隔離されている。減速機構20は、トランスミッションケース11の内部に収容されており、いわゆるシングルピニオン構成のプラネタリギヤ装置である。すなわち、減速機構20は、サンギヤ21と、サンギヤ21と同軸上に配置されたリングギヤ22と、サンギヤ21およびリングギヤ22に噛合するプラネタリピニオンギヤ23を保持したプラネタリキャリヤ24とを有している。そして、プラネタリキャリヤ24は、出力軸15に溶接により接合されており、出力軸15は、回転可能に軸受29に支持されている。なお、軸受29は、出力軸15のスラスト方向への移動を規制するようにエクステンションハウジング13に固定されている。
【0036】
この減速機構20では、リングギヤ22がトランスミッションケース11(メインハウジング12)に固定されている。そして、ロータ軸16とサンギヤ21とがスプライン係合され、プラネタリキャリヤ24と出力軸15とが溶接により接合されている。これにより、減速機構20において、ロータ軸16の回転速度がプラネタリギヤユニットにより減速されて出力軸15に伝達されるようになっている。
【0037】
ここで、リングギヤ22の固定構造について、図1の他に図2及び図3も参照しながら説明する。図2は、中間壁に形成された圧入穴の配置を示す図である。図3は、モータジェネレータ側から見たリングギヤフランジの平面図である。
【0038】
図1に示すように、リングギヤ22は、当該リングギヤ22の内周側に配置されるリングギヤフランジ25を介して中間壁12aに固定されている。具体的には、リングギヤフランジ25のボス部25aの外周と、中間壁12aに形成した嵌合穴12bとで嵌合(本実施の形態では、インロー嵌め合いを行っているが、これには限られない)を行う。また、中間壁12aに設けた円柱状のピン30(本発明における「回り止め部材」、「棒状部材」の一例)をリングギヤフランジ25に形成したピン挿入穴26(本発明における「フランジ穴」の一例)に挿入している(遊びを持たせながら嵌合させている)。これにより、リングギヤフランジ25は、中間壁12aに対し回り止めされる。また、これにより、リングギヤ22を中間壁12aに固定している。さらに具体的には、ピン30は、リングギヤフランジ25とリングギヤ22とを中間壁12aに対し軸方向に相対的に移動可能な状態で固定(回り止め)している。このため、リングギヤ22の外周がトランスミッションケース11と物理的に接触しないため、減速機構20でのギヤの噛み合いによる振動や、強制力によるリングギヤ22自体の変形による振動が、トランスミッションケース11の外側へ伝達されにくくなる。また、その他の要因によるリングギヤ22の振動は、中間壁12aを介してトランスミッションケース11の外側へと伝達される。これらのことから、駆動装置10においてトランスミッションケース11から放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【0039】
また、リングギヤフランジ25の中間壁12aに対する軸方向の相対的な移動可能量は、トランスミッションケース11のエクステンションハウジング13により、ピン30とピン挿入穴26との嵌合が外れない量に規制されている。具体的には、リングギヤフランジ25の中間壁12aに対する軸方向の相対的な移動可能量は、軸受28aとサンギヤ21と軸受28bと出力軸15と軸受29を介してエクステンションハウジング13により規制されている。なお、軸受28aの両側や軸受28bの両側、および、出力軸15と軸受29との間には、ワッシャが設けられている。そのため、例えばボルトなどの締結手段を用いてリングギヤフランジ25の軸方向についての中間壁12aに対する相対的な移動可能量を規制する場合には常に締結力による圧力がトランスミッションケース11に加わるが、上記した実施の形態によればそのようなことはない。したがって、トランスミッションケース11の強度の向上を図りながら、リングギヤフランジ25の軸方向についての中間壁12aに対する相対的な移動量を規制することができる。
【0040】
なお、リングギヤフランジ25と中間壁12aとは、ワッシャ27を介して接触している。このワッシャ27には、中間壁12aに入り込む爪部27aが複数形成されている。本実施の形態では、ワッシャ27に3つの爪部27aが形成されている。爪部27aにより、ワッシャ27が中間壁12aに固定(回り止め)されている。このワッシャ27により、中間壁12aの摩耗を防止している。
【0041】
そして、リングギヤ22は、リングギヤフランジ25のボス部25aと中間壁12aの嵌合穴12bとのインロー嵌め合いによる芯出し機構35により、芯出しを行うことができる。このように本実施の形態では、リングギヤ22の芯出し機構35を、リングギヤフランジ25のボス部25aと中間壁12aの嵌合穴12bとで構成している。また、リングギヤ22の外周が固定されていないため、リングギヤ22とプラネタリピニオンギヤ23との噛み合いによるリングギヤ22の調芯を行うことができる。これらのことにより、本実施の形態におけるリングギヤの固定構造によれば、リングギヤ22の芯出しを精度良く行うことができる。
【0042】
ここで、リングギヤ22を中間壁12aに固定(回り止め)するためのピン30とピン挿入穴26は、同心円上に等間隔で複数個形成されている。ピン30は、図2に示す中間壁12aに同心円上に等間隔で複数形成された円柱状穴の圧入穴12c(本発明における「ケース穴」の一例)に圧入されている。本実施の形態では、中間壁12aに6つの圧入穴12cが形成され、各圧入穴12cにピン30がそれぞれ圧入(嵌合)されている。一方、リングギヤフランジ25には、図3に示すように、中間壁12aに圧入されたピン30が挿入される円柱状穴のピン挿入穴26が、リングギヤフランジ25の周方向について前記の圧入穴12cに対応する位相の位置に形成されている。なお、ピン挿入穴26の径を、ピン30の径よりほんの僅かに大きくして、減速機構20の中間壁12aへの取付性を向上させている。そして、ピン30がピン挿入穴26に挿入されることにより、リングギヤ22が中間壁12aに固定(回り止め)される。すなわち、本実施の形態では、回り止め機構36を、中間壁12aの圧入穴12cに圧入したピン30と、リングギヤフランジ25のピン挿入穴26という非常に簡単な構造で構成している。
【0043】
このようなピン30と圧入穴12cとピン挿入穴26とによる回り止め機構36は、図1に示すように、ボス部25aと嵌合穴12bとによる芯出し機構35より外周側に配置されている。このため、回り止め機構36をリングギヤフランジ25のうち比較的外周側に配置することができる。これにより、ピン30に作用する荷重を小さくすることができるため、比較的大きなトルクが減速機構20に入力される場合にも、リングギヤ22を定位置にしっかりと固定することができる。その結果として、芯出し機構35によるリングギヤ22の精度の良い芯出しと相まって、リングギヤ22とプラネタリピニオンギヤ23との歯当たりを向上させることができる。従って、減速機構20におけるギヤ耐久性を低下させることがない。
【0044】
また、単純に穴加工を施すことにより形成することができる圧入穴12cとピン挿入穴26とに、ピン30を嵌合させている。そのため、圧入穴12cとピン挿入穴26の位置精度やピン30の加工精度が出し易く、複数のピン30に均等にせん断力を作用させることができる。特に、圧入穴12cとピン挿入穴26は円柱状穴でありピン30は円柱状部材であるので、より確実に圧入穴12cとピン挿入穴26の位置精度やピン30の加工精度が出し易く、が出し易い。そのため、大きなトルクが作用する場合でも、ピン30の本数を出来るだけ少なくしたり、ピン30の大きさを出来るだけ小さくすることができ、回り止め機構36を小型化できる。したがって、減速機構20の小型化を図りながら、トランスミッションケース11から放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【0045】
また、ピン30は圧入穴12cに圧入されているので、圧入穴12cとピン30との間のガタつきをなくすことができ、圧入穴12cに偏荷重が入力されることを抑制できる。そのため、トランスミッションケース11の耐久性が向上する。
【0046】
なお、回り止め機構は、ピンをリングギヤフランジ25に設け、中間壁12aにピン挿入穴を形成することによって構成することもできる。しかしながら、本実施の形態のように、中間壁12aにピン30を設け、リングギヤフランジ25にピン挿入穴26を形成して回り止め機構36を構成することにより、メインハウジング12の加工時に、中間壁12aに嵌合穴12bと圧入穴12cを同時に加工することができる。これにより、両者の加工精度が向上するため、リングギヤ22の芯出し精度が向上させることができ、ギヤノイズの低減に有利となる。
【0047】
また、リングギヤ22の回り止め(固定)を、ピン係合で行う代わりに、中間壁12aとリングギヤフランジ25のどちらかに螺子穴を設け、両者をボルトにより締結することで行うこともできる。ところが、このようなボルト締結では、ボルト緩みが懸念されるため、大きめのボルト締結力を発生させる必要があるので、ボルト本数を多くしたり、ボルト長さを長くしなければならなくなる。これでは、製品コスト及び生産コストの上昇を招いてしまう。また、ボルトの配置スペースを確保するために駆動装置が大型化してしまう。このようなことから、リングギヤ22の回り止め(固定)を、ボルト締結で行うことは現実的ではない。
【0048】
そして、本実施の形態における回り止め機構36では、メインハウジング12とエクステンションハウジング13との位置合わせを行うためのノックピンを打ち込むノック穴を、嵌合穴12b及び圧入穴12cと同時にメインハウジング12に加工することができる。このため、メインハウジング12とエクステンションハウジング13との位置合わせを精度良く行うことができるので、減速機構20の位置精度を出すことができる。これは、メインハウジング12の中間壁12aに形成した嵌合穴12bを利用してリングギヤ22の芯出しを行い、減速機構20のプラネタリキャリヤ24を支持する軸受29をエクステンションハウジング13に固定しているからである。このようにして、減速機構20全体の位置精度を出せることは、ギヤノイズ低減及びギヤ耐久性に有利に作用する。また、嵌合穴12b、圧入穴12c、及びノック穴を同時に加工することができるとともに、ピン30とノックピンを同時に打ち込むことができるため、生産性が良い。
【0049】
このような回り止め機構36は、モータジェネレータMGのロータ軸16を支持する軸受54の外側(つまり、軸受54は回り止め機構36よりも内径側に配置されている)であって、コイルエンド53aよりも内径側に配置されている。このため、モータジェネレータMGのコイルエンド53aの内径側にある空きスペースを利用して回り止め機構36を配置することができる。これにより、リングギヤ22をリングギヤフランジ25を介してトランスミッションケース11に固定するための回り止め機構36の配置スペースを新たに設ける必要がなくなる。従って、本実施におけるリングギヤ22の固定構造を採用しても、駆動装置10の軸方寸法が増加することはない。
【0050】
また、回り止め機構36は、軸方向にてコイルエンド53a、軸受54、及び芯出し機構35に重なり合うように配置されている。これにより、駆動装置10の軸方向寸法を短縮する、つまり、軸方向における小型化を図ることができる。
【0051】
さらに、回り止め機構36において、ピン30を圧入する圧入穴12c及びピン30を挿入するピン挿入穴26は、段付き穴となっている。具体的に、圧入穴12c及びピン挿入穴26は、ピン30が圧入又は挿入される大径穴部分と、大径穴部分より径の小さく小径穴部分を備えている。これにより、万が一、圧入穴12cに圧入したピン30が中間壁12aから外れたとしても、ピン30が圧入穴12c及びピン挿入穴26から抜け落ちることを防止することができる。従って、ピン30が中間壁12aから外れた場合であっても、ピン30によりリングギヤ22の回り止め(固定)を確実に行うことができる。なお、圧入穴及びピン挿入穴を、段付き穴の代わりに有底穴とすることもできる。
【0052】
続いて、上記した駆動装置10の動作について簡単に説明する。モータジェネレータMGを電動機として駆動させると、モータジェネレータMGの動力(トルク)が、ロータ軸16を介してサンギヤ21に伝達される。そうすると、減速機構20においてはリングギヤ22が固定されているため、サンギヤ21に噛合するプラネタリピニオンギヤ23が自転しながら公転する。これにより、サンギヤ21の回転が減速されてプラネタリキャリヤ24に伝達され、プラネタリキャリヤ24に噛合する出力軸15が回転する。このようにして、駆動装置10では、モータジェネレータMGの回転が減速機構20で減速されて出力軸15に伝達される。
【0053】
プラネタリピニオンギヤ23の回転中、リングギヤ22はプラネタリピニオンギヤ23から径方向外側に力を受けるために変形する。ところが、本実施の形態に係る駆動装置10では、リングギヤ22の外周とトランスミッションケース11とが接触していないため、リングギヤ22自体の変形によって発生する振動が、トランスミッションケース11に伝達され難い。また、プラネタリピニオンギヤ23とリングギヤ22との噛み合いによる振動もトランスミッションケース11に伝達され難い。このため、トランスミッションケース11から放出されるギヤノイズを低減することができる。
【0054】
そして、上記したようにリングギヤ22の芯出しが精度良く行われているので、プラネタリピニオンギヤ23とリングギヤ22との歯当たりが非常に良好である。このため、減速機構20におけるギヤの耐久性が向上するとともに、ギヤノイズ自体を低減することができる。従って、トランスミッションケース11から放出されるギヤノイズをより低減することができる。
【0055】
ここで、回り止め機構の変形例について、図4〜図15を参照しながら説明する。図4は、第1変形例の概略構成を示す図である。図5は、第2変形例の概略構成を示す図である。図6は、第3変形例の概略構成を示す図である。図7は、第3変形例において中間壁に形成された圧入穴と潤滑用といと油孔の配置を示す図である。図8は、第4変形例の概略構成を示す図である。図9は、第4変形例におけるピン周辺の拡大図である。図10〜図15は、第4変形例においてピンの一端部が中間壁から突出していることの効果についての説明図である。
【0056】
そして、第1変形例では、アンカーボルトを使用してリングギヤ22を固定する例を、第2変形例では、スプライン係合によりリングギヤ22を固定する例を挙げる。また、第3変形例では、フランジ部を備えるピンを使用してリングギヤ22を固定する例を挙げる。また、第4変形例では、円柱状のピンを使用してリングギヤ22を固定する例を挙げる。
【0057】
まず、第1変形例について説明する。第1変形例では、図4に示すように、回り止め機構36aにおいて、ピン30の代わりにアンカーボルト31を使用している。このアンカーボルト31は、中間壁12aに圧入穴12cの代わりに、当該中間壁12aを貫通するように形成されたねじ孔12dに対して螺合されて締結されている。そして、アンカーボルト31の先端部31aが中間壁12aから突出しており、この先端部31aが、リングギヤフランジ25にピン挿入穴26の代わりに形成されたピン挿入穴26aに挿入されている。これにより、リングギヤ22がリングギヤフランジ25を介して中間壁12aに固定されている。つまり、第1変形例では、回り止め機構36aが、アンカーボルト31と、ねじ孔12dと、ピン挿入穴26aとにより構成されている。そして、アンカーボルト31は、リングギヤフランジ25とリングギヤ22とを中間壁12aに対し軸方向に相対的に移動可能な状態で固定(回り止め)している。
【0058】
このように、回り止め機構36aにアンカーボルト31を用いることにより、ピン30に比べ中間壁12aからの抜け(ガタつきも含む)に対する信頼性を高めることができる。その結果、長期にわたってリングギヤ22をしっかりと位置決めした状態で固定することができる。これにより、リングギヤ22とプラネタリピニオンギヤ23との歯当たりが長期間悪化することがないため、減速機構20におけるギヤ耐久性が良くなるとともに、ギヤノイズも小さくなる。
【0059】
次に、第2変形例について説明する。第2変形例では、図5に示すように、回り止め機構36bにおいて、ピン30とピン挿入穴26との係合の代わりにスプライン係合を利用している。具体的には、リングギヤフランジ25のボス部25aの外周に形成された雄スプライン32aと、中間壁12aの嵌合穴12bの内周に形成された雌スプライン32bとがスプライン係合されている。この雄スプライン32aと雌スプライン32bとのスプライン係合により、リングギヤ22がリングギヤフランジ25を介して中間壁12aに固定されている。つまり、第2変形例では、回り止め機構36bが、雄スプライン32aと雌スプライン32bとにより構成されている。
【0060】
このように、回り止め機構36bとして、雄スプライン32aと雌スプライン32bとによるスプライン係合を利用することにより、複数本のピン30やアンカーボルト31を中間壁12aに固定する作業が不要となる。このため、駆動装置10の組付け作業が簡単になり、駆動装置10の生産性が良くなり製品コストの低減に寄与することができる。
【0061】
次に、第3変形例について説明する。第3変形例では、図6に示すように、回り止め機構36cにおいて、ピン30の代わりにフランジ部60aを備えるピン60(本発明における「回り止め部材」、「棒状部材」の一例)を使用している。このピン60は、モータジェネレータMG側から順に、フランジ部60a、圧入部60b、先端部60cを備えている。すなわち、ピン60においてフランジ部60aは、中間壁12aに対してリングギヤフランジ25が配置される側とは反対側の端部に備わっている。そして、フランジ部60aの径は圧入部60bの径よりも大きく形成され、すなわち、フランジ部60aの径は中間壁12aを貫通する圧入穴12cの径よりも大きく形成され、先端部60cの径は圧入部60bの径よりも小さく形成されている。このピン60は、中間壁12aの圧入穴12cに圧入して固定されている。また、ピン60の先端部60cが中間壁12aから突出しており、この先端部60cがリングギヤフランジ25のピン挿入穴26に挿入されている。また、ピン60のモータジェネレータMG側に、円環状の抜け止め用のプレート62を設けている。このプレート62は、中間壁12aにボルト64で締結して固定されている。
【0062】
なお、ピン挿入穴26の径を、ピン60の先端部60cの径よりほんの僅か大きくして、減速機構20の中間壁12aへの取付性を向上させている。そして、ピン60の先端部60cがピン挿入穴26に挿入されることにより、リングギヤ22がリングギヤフランジ25を介して中間壁12aに固定(回り止め)されている。つまり、第3変形例では、回り止め機構36cが、ピン60と、圧入穴12cと、ピン挿入穴26と、プレート62と、ボルト64により構成されている。そして、ピン60は、リングギヤフランジ25とリングギヤ22とを中間壁12aに対し軸方向に相対的に移動可能な状態で固定(回り止め)している。
【0063】
このように、ピン60は中間壁12aよりもモータジェネレータMG側にフランジ部60aを備えているので、ピン60は中間壁12aから外れてピン抜けが発生し易い減速機構20側に抜けない。そのため、回り止め機構36cにピン60を用いることにより、ピン30に比べ中間壁12aからの抜けに対する信頼性を高めることができる。なお、ピン60のモータジェネレータMG側に円環状の抜け止め用のプレート62を設けているので、ピン60は中間壁12aから外れてモータジェネレータMG側にも抜けない。
【0064】
また、ピン60を中間壁12aの圧入穴12cに圧入する時にフランジ部60aを押すことにより、安定してピン60を中間壁12aの圧入穴12cに圧入することができる。また、ピン60はフランジ部60aを備えているので、ピン60に方向性が出る。また、前記の第1変形例のねじ孔12dのようなボルト溝のネジ加工における加工精度よりも圧入穴12cの穴加工にける加工精度のほうが出し易いので、生産性が向上する。
【0065】
また、ピン60について、リングギヤフランジ25のピン挿入穴26に挿入して嵌合させる先端部60cの径を、中間壁12aの圧入穴12cに圧入する圧入部60bの径より小さくしている。これにより、ピン60を中間壁12aの圧入穴12cに圧入する時に、まず、ピン60の先端部60cを圧入穴12cに挿入してピン60の軸方向の向きを圧入穴12cの中心軸の向きと合わせるようにピン60の向きを正した後に、ピン60の圧入部60bを中間壁12aの圧入穴12cに圧入することができる。このように、ピン60を圧入穴12cに圧入する時にピン60の倒れが発生しないので、ピン60の位置精度が向上する。そして、このようにピン60の位置精度が向上することにより、リングギヤ22を所定の位置に固定することができる。その結果として、芯出し機構35によるリングギヤ22の精度の良い芯出しと相まって、リングギヤ22とプラネタリピニオンギヤ23との歯当たりを向上させることができる。従って、減速機構20におけるギヤ耐久性が良くなるとともに、ギヤノイズも小さくなる。
【0066】
また、図6に示すように、中間壁12aは、回り止め機構36cの外径側に潤滑用とい66と油孔68を備えている。油孔68は、軸方向に中間壁12aを貫通している。これにより、図6において矢印で示すように、モータジェネレータMGのコイル53から流れ込む冷却油を潤滑用とい66で受けて油孔68に流れ込むように誘導し、油孔68を介して減速機構20側に循環させてピン60まで流し込み、冷却油をピン60の潤滑油として再利用することができる。このようにモータジェネレータMGのコイル53の冷却油をピン60の潤滑として再利用することにより、ピン60がリングギヤフランジ25との間で擦れて摩耗するおそれがなくなる。
【0067】
また、図7に示すように、駆動装置10を車両に搭載した時に少なくとも中間壁12aの中心軸Xよりも上側(図7の上側)となる位置に4つの潤滑用とい66と油孔68を配置している。そして、6つの圧入穴12cのうちの最も上側(図7の最も上側)に位置する2つの圧入穴12cよりも上側の位置に、2つの潤滑用とい66と油孔68を配置している。なお、潤滑用とい66と油孔68の数は特に限定されず、適宜変更してもよい。このように潤滑用とい66と油孔68とを配置することにより、油孔68から流れ出た冷却油は、6つの圧入穴12cに圧入された6つのピン60の全てに確実に流れ込む。なお、図7は、中間壁12aに形成された圧入穴12cと潤滑用とい66と油孔68の配置を示す図である。このような潤滑用とい66と油孔68は、前記の図1で示した実施の形態や、前記の第1変形例にも適宜採用することができる。
【0068】
また、図6に示すように、リングギヤフランジ25のピン挿入穴26は、プラネタリキャリヤ24側に大径穴部分26bを備えている。そして、この大径穴部分26bは、ピン60を中間壁12aの圧入穴12cに圧入して固定したときに、ピン60の先端部60cの最先端部60dが突出する部分となる。これにより、トルクが減速機構20に入力されるときに、ピン挿入穴26とピン60は面で接触して擦れるので、ピン挿入穴26において段付き摩耗を防止できる。
【0069】
また、前記の図1に示す実施の形態に比べてリングギヤフランジ25のボス部25aの軸方向の長さが大きくなっている。詳細には、ボス部25aは、軸方向についてピン60の先端部60c(中間壁12aに対してリングギヤフランジ25が配置される側に突出した部分)よりも長い。これにより、リングギヤフランジ25のボス部25aを中間壁12aの嵌合穴12bに嵌合させながら、ピン60が圧入穴12cに圧入された中間壁12aにリングギヤフランジ25を容易に組み付けることができるので、中間壁12aに対するリングギヤフランジ25の組み付け性が向上する。また、リングギヤフランジ25の傾きを抑制することができるので、リングギヤ22の芯出し精度がさらに向上する。
【0070】
また、単純に穴加工を施すことにより形成することができる圧入穴12cとピン挿入穴26とに、ピン60を嵌合させている。そのため、圧入穴12cとピン挿入穴26の位置精度やピン60の加工精度が出し易く、複数のピン60に均等にせん断力を作用させることができる。そのため、大きなトルクが作用する場合でも、ピン60の本数を出来るだけ少なくしたり、ピン60の大きさを出来るだけ小さくすることができ、回り止め機構36cを小型化できる。したがって、減速機構20の小型化を図りながら、トランスミッションケース11から放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【0071】
また、ピン60は圧入穴12cに圧入されているので、圧入穴12cとピン60との間のガタつきをなくすことができ、圧入穴12cに偏荷重が入力されることを抑制できる。そのため、トランスミッションケース11の耐久性が向上する。
【0072】
次に、第4変形例について説明する。第4変形例では、図8に示すように、回り止め機構36dにおいて、円柱状のピン70(本発明における「回り止め部材」、「棒状部材」の一例)を使用している。ピン70は、図9に示すように、軸方向の一端部70a(中間壁12aに対してリングギヤフランジ25が配置される側とは反対側の端部)と、軸方向の他端部70d(中間壁12aに対してリングギヤフランジ25が配置される側の端部)と、を備えている。また、ピン70は、一端部70aにおいて面取り部70bを備え、さらに、圧入部70cを備えている。
【0073】
このピン70は、軸方向について中間壁12aを貫通する圧入穴12cより長く形成され、圧入部70cの一部が圧入穴12cに圧入されて中間壁12aに固定されている。また、ピン70の他端部70dが中間壁12aから突出しており、この他端部70dがリングギヤフランジ25のピン挿入穴26に挿入されている(遊びを持たせながら嵌合されている)。このようにして、ピン70は、リングギヤフランジ25とリングギヤ22とを中間壁12aに対し軸方向に相対的に移動可能な状態で固定(回り止め)している。
【0074】
そして特に、ピン70の一端部70aが中間壁12aの圧入穴12cから突出している。詳しくは、図9に示すように、一端部70aにおいて面取り部70bと圧入部70cとの境界部70eが中間壁12aからモータジェネレータMGが配置される側に突出している。
【0075】
ここで、ピン70の一端部70aが中間壁12aから突出していることの効果について、図10〜図15を用いて説明する。なお、説明の便宜上、図10〜図15においては、中間壁12aとピン70とを模式的に示しており、リングギヤフランジ25を省略している。
【0076】
そこでまず、図10に示すようにピン70の一端部70aが中間壁12aから突出していない場合を想定する。すると、図11に示すように他端部70dがトルク(荷重)を受けたときに、ピン70が傾いて軸方向に移動し、圧入抜け部分72が生じる。そして、他端部70dがトルクを受けなくなったとき、図12に示すようにピン70は圧入抜け部分72の分だけ押し出されることになる。さらに、その後も他端部70dが繰り返しトルクを受けると、ピン70が圧入穴12cから抜けてしまうおそれがある。
【0077】
これに対し、第4変形例では、図13に示すように(詳細には前記の図8や図9に示すように)、ピン70の一端部70aが中間壁12aから突出している。すると、図14に示すように、他端部70dがトルクを受けたときにピン70が傾いても前記のような圧入抜け部分72が生じない。これにより、他端部70dがトルクを受けなくなったときに、図15に示すようにピン70は押し出されない。そのため、その後も他端部70dが繰り返しトルクを受けたとしても、ピン70が圧入穴12cから抜けない。
【0078】
このように、第4変形例によれば、ピン70の一端部70aが中間壁12aから突出しているので、ピン70の他端部70dが繰り返しトルクを受けたとしても、ピン70が圧入穴12cから抜けない、という効果をさらに得ることができる。
【0079】
また、単純に穴加工を施すことにより形成することができる圧入穴12cとピン挿入穴26とに、ピン70を嵌合させている。そのため、圧入穴12cとピン挿入穴26の位置精度やピン70の加工精度が出し易く、複数のピン70に均等にせん断力を作用させることができる。そのため、大きなトルクが作用する場合でも、ピン70の本数を出来るだけ少なくしたり、ピン70の大きさを出来るだけ小さくすることができ、回り止め機構36dを小型化できる。したがって、減速機構20の小型化を図りながら、トランスミッションケース11から放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【0080】
以上、詳細に説明したように本実施の形態に係る駆動装置10によれば、リングギヤ22が、芯出し機構35及び回り止め機構36により中間壁12aに対し位置決めされて固定されたリングギヤフランジ25を介し、中間壁12aに固定されている。これにより、リングギヤ22の外周とトランスミッションケース11との物理的な接触がなくなるため、ギヤの噛み合いによる振動や、強制力によるリングギヤ22自体の変形による振動が、トランスミッションケース11の外周へ伝達されにくくなる。また、その他の要因によるリングギヤ22の振動が、中間壁12aを介してトランスミッションケース11の外周へと伝達される。これらのことから、トランスミッションケース11から放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【0081】
そして、駆動装置10では、リングギヤフランジ25のボス部25aと中間壁12aとのインロー嵌め合いによる芯出し機構35により、リングギヤ22の芯出しを行うことができる。また、リングギヤ22がリングギヤフランジ25を介して固定されているため、リングギヤ22とプラネタリピニオンギヤ23との噛み合いによる調芯もできる。これらのことにより、リングギヤ22の芯出しを精度良く行うことができる。
【0082】
さらに、駆動装置10では、回り止め機構36が、芯出し機構35より外周側に配置されているため、回り止め機構36をリングギヤフランジ25のうち比較的外周側に配置することができる。これにより、回り止め機構36(主にピン30)に作用する荷重を小さくすることができるため、リングギヤ22を定位置にしっかりと固定することができる。そして、このことと上記したリングギヤ22の高精度な芯出しにより、リングギヤ22とプラネタリピニオンギヤ23との歯当たりを向上させることができる。これにより、ギヤ耐久性を低下させることなく、ギヤノイズを小さくすることができる。従って、トランスミッションケース11から放出されるギヤノイズをより低減することができる。また、ガタつきを小さく抑えた芯出し機構35を内周側に配置し、ガタつきが芯出し機構35よりも大きくなりうる回り止め機構36を外周側に配置している。これにより、中間壁12aとリングギヤフランジ25との熱膨張率の差によるかじりを防止できる。
【0083】
また、単純に穴加工を施すことにより形成することができる圧入穴12cとピン挿入穴26とに、ピン30,60,70を嵌合させている。特に、圧入穴12cとピン挿入穴26は円柱状穴であるので、より確実に圧入穴12cとピン挿入穴26の位置精度やピン30,60,70の加工精度が出し易い。そのため、大きなトルクが作用する場合でも、ピン30,60,70の本数を出来るだけ少なくしたり、ピン30,60,70の大きさを出来るだけ小さくすることができ、回り止め機構36,36c,36dを小型化できる。したがって、減速機構20の小型化を図りながら、トランスミッションケース11から放出されるギヤノイズを確実に低減することができる。
【0084】
なお、上記した実施の形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内で種々の改良、変形が可能であることはもちろんである。例えば、上記した実施の形態では、中間壁12aにピン30やアンカーボルト31などを用いて突起部を設けているが、メインハウジング12の成形時に突起部を一体成形することもできる。もちろん、このようにして一体成形する突起部は、メインハウジング12ではなく、リングギヤフランジ25に設けることもできる。
【0085】
また、上記した実施の形態では、フロントエンジン・リヤドライブ(FR)車に搭載される縦置式の駆動装置に本発明を適用したものを例示したが、本発明はフロントエンジン・フロントドライブ(FF)車に搭載される横置式の駆動装置に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0086】
10 駆動装置
11 トランスミッションケース
12a 中間壁
12b 嵌合穴
12c 圧入穴
15 出力軸
20 減速機構
22 リングギヤ
25 リングギヤフランジ
25a ボス部
26 ピン挿入穴
30 ピン
35 芯出し機構
36 回り止め機構
36c 回り止め機構
36d 回り止め機構
60 ピン
60a フランジ部
70 ピン
MG モータジェネレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースの内部に収容され、サンギヤと、前記サンギヤと同軸上に配置されたリングギヤと、前記サンギヤと前記リングギヤとに噛み合うプラネタリピニオンギヤと、前記プラネタリピニオンギヤを保持するプラネタリキャリヤと、を有し、前記リングギヤが前記ケースに対して固定されるプラネタリギヤ装置において、
前記リングギヤの内周側に配置されるリングギヤフランジを有し、
前記リングギヤは、前記ケースにて内径側に向かって形成されるケース壁に対し回り止め機構により回り止めされる前記リングギヤフランジを介して前記ケース壁に固定され、
前記回り止め機構は、前記ケース壁にて同心円上に複数形成されたケース穴と、前記リングギヤフランジにて前記ケース穴に対応する位置に設けられたフランジ穴と、前記ケース穴と前記フランジ穴とに嵌合され前記ケース壁に対し前記リングギヤフランジを軸方向に相対的に移動可能な状態で回り止めする回り止め部材と、を備えること、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。
【請求項2】
請求項1のプラネタリギヤ装置において、
前記回り止め部材は、前記ケース穴に圧入されるとともに、前記フランジ穴に遊嵌されていること、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。
【請求項3】
請求項1または2のプラネタリギヤ装置において、
前記ケース穴は前記ケース壁を貫通する穴であり、
前記回り止め部材は、前記軸方向について、前記ケース穴よりも長く、前記ケース壁に対して前記リングギヤフランジが配置される側とは反対側の端部が前記ケース穴から突出していること、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つのプラネタリギヤ装置において、
前記回り止め部材は、前記ケース壁に対して前記リングギヤフランジが配置される側とは反対側の端部に前記ケース穴よりも径が大きいフランジ部を備えること、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つのプラネタリギヤ装置において、
前記リングギヤフランジは、芯出し機構により前記ケース壁に対し位置決めされ、
前記芯出し機構は、前記リングギヤフランジのボス部と前記ケース壁との嵌合によるものであり、
前記回り止め機構は、前記芯出し機構より外周側に配置されていること、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。
【請求項6】
請求項5のプラネタリギヤ装置において、
前記ボス部は、前記軸方向について前記回り止め部材における前記ケース壁に対して前記リングギヤフランジが配置される側に突出した部分よりも長いこと、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つのプラネタリギヤ装置において、
前記リングギヤフランジは、前記軸方向についての前記ケース壁に対する相対的な移動量を軸受と前記サンギヤとを介して前記ケースにより規制されていること、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つのプラネタリギヤ装置において、
前記回り止め部材は棒状部材であること、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。
【請求項9】
請求項8のプラネタリギヤ装置において、
前記ケース穴と前記フランジ穴は円柱状穴であり、
前記棒状部材は円柱状部材であること、
を特徴とするプラネタリギヤ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−64454(P2013−64454A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203966(P2011−203966)
【出願日】平成23年9月19日(2011.9.19)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】