説明

プラント機器の炉壁構造

【課題】定検時などで運転を停止したときにプラント機器の内壁表面に付着した付着物を容易に剥離可能に構成するプラント機器の炉壁構造を提供することを課題とする。
【解決手段】プラント機器の金属壁からなる内壁表面に灰、飛灰、クリンカ等の付着物が付着して形成されるプラント機器の炉壁構造において、前記プラント機器の金属壁からなる内壁表面に水で湿潤させることによって該金属壁の境界から剥離可能な状態に化学変化する塗布剤を予め塗布して内壁表面を被膜した後、前記塗布剤による被膜上に付着した付着物に対して放水し、前記付着物をプラント機器の内壁表面から剥離可能に構成させた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プラント機器の炉壁構造に係り、特にプラント機器の金属壁からなる内壁表面に付着する灰、飛灰、クリンカ等の付着物を剥離可能に構成されるプラント機器の炉壁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラント、ごみ焼却プラント等のプラント機器では、運転中に灰、飛灰、クリンカ等の付着物がプラント機器の壁面に付着する。例えば、火力発電プラントでは高温高圧の蒸気を発生させるために石炭焚きボイラを使用することが多い。ボイラから出る燃焼灰はフライアッシュとクリンカアッシュとからなるが、前者は排ガスに伴われて出ていく浮遊灰で集塵機により捕捉され、後者は火炉から水溜めに落とされる塊状の灰であり、水冷、固化、水切り、破砕して粒状とされる。いずれも廃棄されるものであるが、その成分の大部分はシリカとアルミナであることから、最近ではフライアッシュセメントの原料として使用されることも多くなってきている。
【0003】
上記したクリンカアッシュ(以下、クリンカと称す)は、例えば図3に示す石炭焚きボイラ20では運転中に火炉上部の炉壁1及び主蒸気管や再熱器管などのエレメント部23に付着していた(図3中の符号15)。このため、定検時において、石炭焚きボイラ20内部に点検作業者を入れる前に付着固化し巨大化したクリンカ15を除去する必要がある。
【0004】
上記したクリンカアッシュの除去方法として最も一般的なのは、スートブロワ21を用いてスートブローを行う方法である。スートブロワ21は、一般的にはボイラの運転中に高圧の水蒸気をボイラ水管の表面に吹き付けて、その流体力によりボイラ水管の表面の付着物を吹き飛ばす装置である。また、覗き窓22からの放水による除去やデスラッガによる除去も知られている。
【0005】
さらに、従来から用いられている灰やクリンカ等を除去作業は、ボイラ内に作業員が立ち入って、灰やクリンカ等を剥ぎ取るための冶具を用いたり、ショットブラストをかけたり、水洗いをすることも行っているが、上下方向のボイラ水管群とボイラ水管群の間の狭い隙間に寝転がって作業を行うことやダイオキシンの被爆から防護するための装備が必要であることから、作業員に大きな負荷がかかっていた。
よって、上記した従来の除去方法では安全性に問題があるとともに、クリンカ15を充分に除去できなかったり、長時間を要したりするため、一日も早く定検器間を短縮するための問題となっている。
【0006】
こういったクリンカの除去方法の先行技術としては、例えば特許文献1(特開2004−202485号公報)に、ごみ焼却、発電、製鉄、化学、石油等のプラント機器に付着する灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物を湿潤させる前処理工程と、前記プラント機器から湿潤させた前記付着物を除去する除去工程とを備えるプラント機器の清掃方法が開示されている。また、前記除去工程とは、付着物に研掃材を吹きつけるブラストによる除去、付着物に水を噴射するジェットによる除去、ケレン棒、振動工具、衝撃工具又はバキューム等を使用した手作業による除去の少なくとも一つが使用されている。
【0007】
【特許文献1】特開2004−202485号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示した方法は、ごみ燃焼炉で燃焼させたときに付着した付着物を除去する前に付着物を水で湿潤させ、湿潤して付着力が低下した付着物を除去するものであり、湿潤させて付着力を低下させても除去させる工程もあわせて必要である。
プラント機器の定検時ではその運転を停止しているため、利益を出すためにはできるだけ早く運転開始することが望ましく、クリンカを早く除去して定検期間を一日でも短縮することが求められている。
【0009】
そこで、本発明はかかる従来技術の課題に鑑み、定検時などで運転を停止したときにプラント機器の内壁表面に付着した付着物を容易に剥離可能に構成するプラント機器の炉壁構造を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するため、プラント機器の金属壁からなる内壁表面に灰、飛灰、クリンカ等の付着物が付着して形成されるプラント機器の炉壁構造において、
前記プラント機器の金属壁からなる内壁表面に水で湿潤させることによって該金属壁の境界から剥離可能な状態に化学変化する塗布剤を予め塗布して内壁表面を被膜した後、前記塗布剤による被膜上に付着した付着物に対して放水し、前記付着物をプラント機器の内壁表面から剥離可能に構成させたことを特徴とする。
【0011】
かかる発明によれば、前記プラント機器の金属壁からなる内壁表面に水で湿潤させることによって該金属壁の境界から剥離可能な状態に化学変化する塗布剤を予め塗布して内壁表面を被膜することにより、塗布剤による被膜上に付着した付着物に対して放水するだけで前記付着物をプラント機器の内壁表面から剥離可能にすることができるため、付着物の除去効率が上昇する。そして、付着物が金属壁の境界から容易に剥離されるため、付着物が自然落下する可能性も高まる。
【0012】
また、前記プラント機器の内壁表面に塗布される塗布剤は金属酸化物であり、水との反応により水酸化物へと変化することを特徴とする。
このように、塗布剤として金属酸化物を用い、その金属酸化物が水との反応により水酸化物へと変化することにより、プラント機器の炉壁に塗布された塗布剤が水で湿潤することによる体積変化や、水酸化物自体に強度がないために付着強度が低下し、付着物が剥離容易となる。
【0013】
また、前記塗布剤は、気化液体に混和された状態で金属壁に吹きつけられて形成される粉粒固化体であることを特徴とする。
本発明によれば、粉粒固化体である塗布剤は、揮発性を有する気化液体に混和された状態でプラント機器の金属壁からなる内壁表面に吹きつけられる。これにより、前記気化液体が前記内壁表面で気化し、塗布剤が内壁表面に付着して被膜が形成される。この被膜は上記したように水で湿潤することにより付着強度が低下するので、付着物が付着しても被膜により剥離容易となる。
【0014】
さらに、前記塗布剤は、酸化カルシウム若しくは酸化マグネシウムの粉体を含むことを特徴とする。付着物が付着固化する部位に、塗布剤として酸化カルシウム若しくは酸化マグネシウムの粉体を含有させた塗布剤を用いることにより、塗布剤による被膜が高温で熱的に安定となり、且つ低温で水と反応して水酸化物に変化する。よって、定検のためプラント機器の運転を停止した後に付着物に対して放水することにより容易に付着物が剥離可能となる。
なお、酸化カルシウムも酸化マグネシウムも安価であり上記した塗布剤として好適に用いられる。特に酸化マグネシウムは塗布性が良く、付着強度が酸化カルシウムよりも弱いので剥離性がより良い。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、プラント機器の金属壁からなる内壁表面に水で湿潤させることによって該金属壁の境界から剥離可能な状態に化学変化する塗布剤を予め塗布して内壁表面を被膜することにより、塗布剤による被膜上に付着した付着物に対して放水するだけで前記付着物をプラント機器の内壁表面から剥離容易にすることができるため、付着物の除去効率が上昇する。そして、付着物が金属壁の境界から容易に剥離されるため、付着物が自然落下する可能性も高まる。
よって、定検などで運転を停止したときにプラント機器の内壁表面に付着した付着物を容易に剥離可能に構成するプラント機器の炉壁構造を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
ここで、本発明の実施形態におけるプラント機器の炉壁構造は、発電、ごみ焼却、製鉄、化学、石油等のプラント機器に適用され、ボイラ、主蒸気管や再熱器管、配管等の壁面に付着する付着する灰、飛灰、又はクリンカ等の付着物が付着固化する部位に特に形成されるものである。
【0017】
図1は、本発明の実施形態におけるスプレーガンの断面構成図である。
図1に示されるスプレーガン3は、塗布剤を塗布するものであって、本体12と容器4とが一体的に形成され、本体12の内部には圧縮空気を連通される通路10と、塗布剤を噴霧する流出口13とを備える。
【0018】
本実施形態における塗布剤は、酸化カルシウム若しくは酸化マグネシウムの粉体を含むものであり、スプレーガン3で炉壁に塗布するときは気化液体と混合したサスペンションを用いている。なお、塗布剤は安価であることから酸化カルシウム若しくは酸化マグネシウムが好ましいが、酸化ストロンチウムや酸化バリウムを用いることも可能である。また、前記気化液体は、揮発性が優れているアルコールが好適であり、特にエタノール若しくはプロパノールが揮発性及び取扱性の点から好ましい。
塗布剤の粒径やアルコールの種類及び配合比等はスプレーできる濃度で、且つスプレーした後に当該部位に塗布できれば条件を限定するものではないが、塗布剤とアルコールを混合したサスペンション中の粉末が沈降しないようにするために粒径は50μm以下が好ましい。
【0019】
図1において、容器4には前記塗布剤とアルコールのサスペンション5が供給され、撹拌モータ8によって撹拌翼7が回転され、塗布剤である粉末が沈降しないように容器4内でサスペンション5が撹拌される。
撹拌されるサスペンション5は、容器4と本体12との間に設けられる弁体6によって容器4からの流出量を調節され、エアコンプレッサ9から配管11を介して通路10に導入された圧縮空気によって運ばれ、流出口13から炉壁に向って噴霧される。噴霧箇所はクリンカが付着すると推測される部位が特に好ましいが、炉壁全面に噴霧しても良い。
【0020】
噴霧された塗布剤は、アルコールが気化して図2に示すように炉壁に被膜される。図2は炉壁における塗布剤の塗布状況、及びクリンカの付着状況を示す概略断面図である。
図2に示すように、炉壁1に塗布された塗布剤は被膜2を形成する。この塗布剤からなる被膜2は高温で熱的に安定である。なお、被膜2の膜厚は高温時に剥離しない程度の厚さの数十ミクロンぐらいが好ましい。
【0021】
炉壁1に被膜2を形成してプラント機器を運転すると、図2のように被膜2の上にクリンカ15が形成される。このようにして形成されるクリンカ15は、定検時などプラント機器の運転を停止した後に水をクリンカ15が形成される箇所に放水することで、金属壁からなる炉壁1の境界から剥離容易な状態に化学変化する被膜2により、容易に剥離可能となる。
この剥離容易となったクリンカは、自然落下によって除去されることもあれば、スートブロワやデスラッガ、放水によって除去することも可能であるし、工具を使って衝撃や振動を与えて炉壁から除去することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明によれば、定検時などで運転を停止したときにプラント機器の内壁表面に付着した付着物を容易に剥離可能に構成することができるので、発電、ごみ焼却、製鉄、化学、石油等のプラント機器の炉壁構造への適用に際して有益である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態におけるスプレーガンの断面構成図である。
【図2】炉壁における塗布剤の塗布状況、及びクリンカの付着状況を示す概略断面図である。
【図3】従来の石炭焚きボイラの炉壁に付着するクリンカの状況と、そのクリンカを除去する方法を示す説明図である。
【符号の説明】
【0024】
1 炉壁
2 被膜
3 スプレーガン
4 容器
5 エマルジョン
7 撹拌翼
15 クリンカ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント機器の金属壁からなる内壁表面に灰、飛灰、クリンカ等の付着物が付着して形成されるプラント機器の炉壁構造において、
前記プラント機器の金属壁からなる内壁表面に水で湿潤させることによって該金属壁の境界から剥離可能な状態に化学変化する塗布剤を予め塗布して内壁表面を被膜した後、前記塗布剤による被膜上に付着した付着物に対して放水し、前記付着物をプラント機器の内壁表面から剥離可能に構成させたことを特徴とするプラント機器の炉壁構造。
【請求項2】
前記プラント機器の内壁表面に塗布される塗布剤は金属酸化物であり、水との反応により水酸化物へと変化することを特徴とする請求項1記載のプラント機器の炉壁構造。
【請求項3】
前記塗布剤は、気化液体に混和された状態で金属壁に吹きつけられて形成される粉粒固化体であることを特徴とする請求項2記載のプラント機器の炉壁構造。
【請求項4】
前記塗布剤は、酸化カルシウム若しくは酸化マグネシウムの粉体を含むことを特徴とする請求項3記載のプラント機器の炉壁構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−121799(P2010−121799A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−293553(P2008−293553)
【出願日】平成20年11月17日(2008.11.17)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】