説明

プラント用機器の内部の清掃方法及び装置

【課題】プラント用機器内の清掃をその高さ位置にかかわらず安全にかつ容易に行うことが可能な清掃方法を提供する。
【解決手段】この方法は、点検口13が設けられた側壁12を有するプラント用機器10の内側面に付着した異物18の除去に適用されるものであり、前記点検口13から清掃用工具20を挿入してその先端部26を異物18に突き当てることにより当該異物18に機械エネルギーを与えてこれを除去することと、清掃用工具20の長手方向の中間部分に索状体48を接続し、この索状体48を介して清掃用工具20に上向きの弾性力を与えることにより、異物18の除去中に清掃用工具20の上下方向の動きを許容しながら当該清掃用工具20の自重に起因する下向きの力を低減させることと、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ごみ焼却システムにおける減温塔をはじめとするプラント用機器の内側面に付着したクリンカなどの異物を除去するための清掃方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プラント用機器の内側面には、様々な異物が付着する。例えば、ごみ焼却システムに設けられる減温塔では、燃焼ガス中に含まれる灰粒子が塔内側面に付着し、クリンカとして堆積する。この堆積物は放置すると成長して機器の良好な運転を妨げるため、定期的に除去される必要がある。
【0003】
このようなクリンカなどの機器内付着物を除去する方法として、特許文献1には、当該付着物を湿潤させる工程と、その湿潤させた付着物に対してケレン棒、振動工具、衝撃工具などにより機械的エネルギーを与えることにより前記付着物を除去する工程とを含むものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−202485号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記プラント用機器として、大きな全高を有するものが多く存在する。このような機器の上部の内側面に付着した異物を除去するためには、機器内に高さ寸法の大きい足場を組む必要がある。しかし、このような足場の設置には多くの工数を要するとともに、機器内での作業についての安全管理が難しいという課題がある。
【0006】
そこで、本発明は、プラント用機器内の清掃をその高さ位置にかかわらず安全にかつ容易に行うことが可能な清掃方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段として、本発明者等は、プラント用機器の側壁に設けられた点検口(例えばマンホール)に着目し、当該点検口から清掃用工具(例えば振動工具)を挿入して当該工具の先端部を機器内付着物に突き当てることに想到した。このような方法によれば、機器内に足場を組む必要がなく、機器外の既設の作業場を利用して清掃作業を進めることが可能である。
【0008】
しかし、この方法では、前記点検口からターゲットとなる付着物に至ることが可能な長尺の清掃用工具を使用しなければならない。例えば、前記点検口からこれと対向する部位に付着した異物の除去をするためには、機器の内径よりも大きな長さを有するきわめて長尺な清掃用工具を要する。この清掃用工具の自重並びに当該自重による下向きのモーメントは非常に大きく、これに抗して作業者が清掃用工具を上下左右に操作しながら清掃作業を進めることは容易でない。
【0009】
本発明は、このような点に鑑み、プラント用機器の側壁に設けられた点検口を利用して当該機器の外部から安全かつ容易に機器内の清掃を行うことが可能な清掃方法を提供する。具体的に、この方法は、前記点検口から清掃用工具を挿入して当該清掃用工具の先端部を前記機器の内側面に付着した異物に突き当てることにより当該異物に機械エネルギーを与えてこれを除去することと、当該清掃用工具の長手方向の中間部分に索状体を接続し、この索状体を介して当該清掃用工具に上向きの弾性力(弾性変形可能な部材の弾性復元力)を与えることにより、前記異物の除去中に前記清掃用工具の上下方向の動きを許容しながら当該清掃用工具の自重に起因する下向きの力を低減させること、とを含む。
【0010】
この方法では、前記清掃用工具に与えられる上向きの弾性力により、当該清掃用工具の上下の動きを許容しながら当該清掃用工具に作用する下向きの力及びこれに起因する下向きのモーメントが低減されるため、前記清掃用工具が長尺であっても、作業者は比較的小さな力で当該清掃用工具を支持し、かつ、これを上下に動かしながら(もちろん左右方向にも動かしてよい。)作業を進めることができる。
【0011】
前記弾性力を付与するための具体的手段としては、例えば前記索状体をばねを介して前記機器または固定側設備(例えば機器外部の作業場)に連結してもよいが、前記清掃用工具の上方に巻取り装置を吊下げてこの巻取り装置と前記清掃用工具の中間部位とを接続するのがよい。ここで、前記巻取り装置は、回転可能なドラムと、このドラムに巻き付けられ、かつ、先端部が垂下する巻取り索状体と、この巻取り索状体を上向きに巻き取る向きに前記ドラムの回転方向を付勢する巻取り用ばね部材とを有し、前記巻取り索状体の先端部が直接または別の索状体を介して間接的に前記清掃用工具の中間部位に接続される。
【0012】
この方法では、前記巻取り装置自身がバランスウエイトとして作用することにより、作業中における前記清掃用工具の(振動等に起因する)動きを抑制し、安定した作業を可能にする。
【0013】
前記巻取り装置の吊下げは、当該巻取り装置をその巻取り索状体とは別の吊下げ用索状体の一方の端に連結し、この吊下げ用索状体を前記巻取り装置の上方に設けられた滑車に掛けた状態で当該吊下げ用索状体を前記機器の外部に導出して保持することにより行われるのが、よい。この方法では、機器外部での前記吊下げ用索状体の操作により、前記巻取り装置の高さ位置を前記清掃用工具に対する上向き弾性力の付与に適した位置に容易に調節することができる。
【0014】
前記滑車は、前記清掃用工具が挿入される点検口よりも上側の点検口から機器内に挿入される滑車支持部材に取付けられることにより支持されるのが、好ましい。ここで、当該滑車支持部材として、前記機器の内部に向かう方向に伸長可能なものを用いれば、当該滑車支持部材を収縮させた状態で機器の側壁の近くで容易に前記巻取り索状体と前記清掃用工具との連結を行うことができ、その連結後に前記清掃用工具の機器内への挿入とともに前記滑車支持部材を伸長させることで、この滑車支持部材に取付けられた滑車及びこの滑車から吊下げられる巻取り装置を前記清掃用工具の中間部位に対応した位置へ容易に移動させることができる。
【0015】
また本発明は、このような清掃方法を実現するための清掃装置を提供する。この清掃装置は、プラント用機器の側壁の内側面に付着した異物に突き当たった状態で当該異物に機械エネルギーを与えることにより当該異物を除去することが可能な先端部を有し、かつ、前記側壁に設けられた点検口から挿入されることにより前記先端部が前記異物に到達することが可能な長さを有する清掃用工具と、当該清掃用工具の長手方向の中間部分に上向きの弾性力を付与することにより、前記異物の除去中に前記清掃用工具の上下方向の動きを許容しながら当該清掃用工具の自重に起因する下向きの力を低減させる弾性力付与装置とを備える。この弾性力付与装置は、巻取り装置と、この巻取り装置を前記清掃用工具の上方の位置に吊下げる吊下げ機構とを有する。前記巻取り装置は、回転可能なドラムと、このドラムに巻き付けられ、かつ、先端部が垂下する巻取り索状体と、この巻取り索状体を上向きに巻き取る向きに前記ドラムの回転方向を付勢する巻取り用ばね部材とを有し、前記巻取り索状体は、直接または別の索状体を介して間接的に前記清掃用工具の中間部位に接続される先端部を有する。
【0016】
前記吊下げ機構は、滑車と、前記巻取り装置の上方の位置に前記滑車を支持する滑車支持部材と、この吊下げ用索状体の一方の端が前記巻取り装置に連結され、他端が前記機器の外部に導出されて保持される吊下げ用索状体とを有するものが、好適である。
【0017】
また、前記清掃用工具は、前記先端部に加え、この先端部が一方の端に固定された工具軸と、振動を生成するための動力を出力する動力源を含む工具本体と、この工具本体と前記工具軸との間に介在し、当該工具軸の他方の端を着脱可能に保持するとともに前記動力源が生成する動力によって前記工具軸をその軸方向と平行な方向に振動させるアタッチメントとを含むものが、好適である。このアタッチメントは、前記動力源の生成する動力によって前記工具軸及びこれに固定された先端部を当該工具軸の軸方向と平行な方向に振動させることにより、当該先端部による異物の除去効果を促進することができる。また、当該アタッチメントは前記工具軸を着脱可能に保持するので、当該工具軸及びこれに固定される先端部の交換が可能であり、これにより、共通の工具本体を用いながら工具軸の長さや先端部の形状を状況に応じて変更することができる。
【0018】
前記アタッチメントは、例えば、前記工具軸を着脱可能に保持する保持部と、この保持部と前記工具本体との間に介在する振動変換部とを有し、この振動変換部は、前記保持部及び前記工具本体にそれぞれ連結される端部を両側に有し、かつ、前記保持部及び前記工具本体のうちの少なくとも一方に対して前記工具軸と平行な方向である振動方向に限られた範囲内でのみ相対的に往復動可能となるように連結される連結軸と、その相対的に往復動可能な連結状態を保持するとともに当該往復動を許容するように弾性変形する連結保持用ばね部材と、を有するものが、好適である。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によれば、プラント用機器の側壁に設けられた点検口を利用して当該機器の外部から安全かつ容易に機器内の清掃を行うことが可能な清掃方法、及びこの清掃方法に好適な清掃装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る減温塔上部の清掃の工程及びその清掃に用いられる装置を示す断面図である。
【図2】前記装置に含まれる清掃用工具を示す側面図である。
【図3】(a)は前記装置に含まれる滑車支持部材を示す側面図、(b)は当該滑車支持部材の正面図である。
【図4】前記装置に含まれる巻取り装置の斜視図である。
【図5】減温塔における互いに異なる複数の位置で前記清掃の工程が実施される状態を示す断面図である。
【図6】(a)は本発明に係る清掃用工具のうちアタッチメントを含む例の詳細を示す図であって当該アタッチメントが完全装着される前の状態を示す一部断面側面図、(b)は当該アタッチメントの完全装着後の状態を示す一部断面側面図である。
【図7】(a)は前記アタッチメントにおける連結軸を構成する原軸の側面図、(b)は当該連結軸を含む振動変換部の側面図である。
【図8】(a)(b)は前記清掃用工具の先端部の形状の例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好ましい実施の形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
図1は、例えばごみ焼却システムの減温塔であるプラント用機器(以下「機器」と称する。)10の上部を示す。この機器10は、側壁12を有し、この側壁12には互いに高さ位置の異なる複数の点検口(ここではマンホール)が設けられている。これらの点検口のうち、図1は前記機器10の上端部分に設けられる第1点検口13及びその上方の第2点検口14を示している。前記側壁12には、前記各点検口13,14の周囲からそれぞれ外向きに突出する筒部16が設けられ、各筒部16の外端から外向きにフランジ部17が突出している。
【0023】
この実施の形態では、前記側壁12のうち前記第1点検口13のやや下方の位置であって当該第1点検口13と反対側の位置に付着した異物(例えばクリンカ)18が除去される。この異物18の除去作業すなわち清掃作業は、この実施の形態では、前記第1点検口13から機器10内に挿入される清掃用工具20と、これに上向きの弾性力を付与するための弾性力付与装置30とを備える。
【0024】
前記清掃用工具20は、前記第1点検口13から挿入された状態で機械的エネルギーである振動エネルギーを前記異物18に与えてその除去を行うものであり、工具本体22と、工具軸24と、先端部26とを有する。
【0025】
前記工具本体22は、作業者により把持されることが可能な形状を有するとともに、前記工具軸24をその軸方向に振動させるためのモータを内蔵する。このモータは、空気圧などの流体圧により駆動されるものでもよいし、電動モータでもよい。
【0026】
前記工具軸24は、前記工具本体22に装着され、当該工具本体22が内蔵する前記モータの出力によりその軸方向に振動する。この工具軸24の工具本体22側の端部の周囲には、当該工具軸24を先端部側に付勢するためのコイルばね28が装着されている。
【0027】
前記先端部26は、前記工具軸24の先端部(前記工具本体22と反対側の端)に固定され、前記異物18に突き当てられた状態で前記工具軸24と一体に振動することにより、前記異物18を前記側壁12から剥離させる。図1に示される先端部26は、鋭利な刃を有するチゼルからなり、その刃が振動しながら前記異物18に突き当てられることにより当該異物18のハツリを行う。しかし、この先端部26は、当該刃を有するものに限られない。例えば、打撃の反復により前記異物18を破壊して崩落させるハンマー式のものでもよい。
【0028】
前記工具軸24は、その軸方向に長尺であり、前記第1点検口13から前記異物18に向かって挿入されることにより前記刃部26を前記異物18に至らせるだけの軸長を有する。この工具軸24の適当な中間部位には、上向きに突出する被吊下げ部25が設けられ、この被吊下げ部25は水平方向に開口する孔を囲む形状を有する。
【0029】
前記弾性力付与装置30は、前記機器10内に挿入された清掃用工具20の工具軸24の中間部位を吊下げながらこれに上向きの弾性力を付与することにより、当該工具軸24の上下方向(及び左右方向)の動きを許容しながら当該清掃用工具20の自重に起因する下向きの力を低減させるためのもので、巻取り装置40と、この巻取り装置40を前記清掃用工具20の上方の位置に吊下げる吊下げ機構50とを有する。
【0030】
前記巻取り装置40は、図3に示すように、ドラム42と、このドラム42を水平軸回りに回転可能に収容するケーシング44と、前記ドラム42に巻き付けられる巻取り索状体46と、図略の巻取り用ばね部材(ここでは渦巻きばね)とを有する。
【0031】
前記巻取り索状体46は、前記ドラム42に固定される図略の基端部と、前記ケーシング44の外部に導出されかつ当該ケーシング44から垂下する先端部47とを有し、この先端部47が前記清掃用工具20の工具軸24の被吊下げ部25に連結される。前記渦巻きばねは、前記ドラム42に装着され、このドラム42の回転方向を当該ドラム42が前記巻取り索状体46を上向きに巻き取る向きに付勢する。前記先端部47は、この実施の形態では、前記巻取り索状体46とは別の索状体である連結用ロープ48を介して間接的に前記被吊下げ部25に連結されるが、当該先端部47は当該被吊下げ部25に直接連結されてもよい。
【0032】
前記吊下げ機構50は、吊下げ用索状体である吊下げロープ52と、滑車54と、滑車支持部材60とを備え、この滑車支持部材60が前記滑車54を前記巻取り装置40の上方の位置に回転可能に支持する。前記吊下げロープ52は、その途中部分が前記滑車54に掛けられ、一方の端が前記巻取り装置40のケーシング44の上端に連結され、他端が前記第1点検口13を通じて機器10の外部に導出され、保持される。
【0033】
前記滑車支持部材60は、この実施の形態では、前記第1点検口13の上方の第2点検口14から前記機器10内に挿入された状態で前記滑車54を支持するものであり、支持部材本体62と、伸縮ロッド64とを有する。
【0034】
支持部材本体62は、前記機器10に固定された状態(ここでは第2点検口14側の筒部16のフランジ部17に固定された状態)で前記伸縮ロッド64を水平方向に伸縮可能に支持するものであり、前記伸縮ロッド64が挿通可能なスリーブ65と、前記フランジ部17に固定される固定部66とを有する。
【0035】
前記固定部66は、前記スリーブ65を水平姿勢で保持するスリーブ保持部66aと、このスリーブ保持部66aの上端に連なるフランジ固定部66bとを有する。フランジ固定部66bは、前記フランジ部17の上端部に固定可能であり、その固定により前記スリーブ65は前記フランジ部17の上端部のすぐ下方の位置に据付けられる。
【0036】
前記伸縮ロッド64は、前記フランジ部17に固定された支持部材本体62の前記スリーブ65に沿って水平方向にスライドすることにより、図4(a)の二点鎖線に示すように、前記機器10内に向かって所定のストロークSだけ伸長することが可能である。この伸縮ロッド64の先端部には、前記滑車54がぶら下げられる滑車支持部67を有し、この滑車支持部67に取付けられた滑車54は、前記伸縮ロッド64の伸長に伴って機器10の内方へ水平移動する。この実施の形態では、前記伸縮ロッド64の中間部に照明灯支持部68が設けられ、この照明灯支持部68から図1に示す照明灯70がぶら下げられる。
【0037】
次に、この装置を用いた前記異物18の除去要領、すなわち清掃要領の一例を説明する。ただし、作業の順は必ずしも以下のものに限られない。
【0038】
1)準備段階として、a)滑車支持部材60の伸縮ロッド64が収縮し、b)吊下げロープ52の中間部が滑車54に掛けられ、c)当該吊下げロープ52の一端が巻取り装置40のケーシング44の上端に連結され、かつ、d)この巻取り装置40の巻取り索状体46の先端部47に連結用ロープ48の上端が連結された状態で、滑車支持部材60が機器10の外部から第2点検口14を通じて機器10内に挿入される。この挿入により、前記滑車54は前記第2点検口14のすぐ内方に位置する。また、前記吊下げロープ52の他端は第1点検口13を通じて機器10の外部に導出され、仮保持される。
【0039】
2)清掃用工具20が先端部26を先頭にして第1点検口13から機器10内に挿入される。この段階では、前記清掃用工具20の工具軸24の中間部位にある被吊下げ部25が前記第1点検口13のすぐ内方に位置する深さまで清掃用工具20の挿入が行われる。
【0040】
3)2)の状態で、当該第1点検口13を通じて、当該被吊下げ部25に前記連結用ロープ48の下端を連結する作業が機器10の外部から行われる。これにより、巻取り装置40が巻取り索状体46を巻き取る力が連結用ロープ48を介して前記被吊下げ部25に上向きの弾性力として作用する状態となる。
【0041】
4)前記清掃用工具20の先端部26が目標となる異物18に突き当たる位置(図1に示す位置)までさらに清掃用工具20が挿入される。この挿入に伴い、滑車支持部材60の伸縮ロッド64を伸長させることにより、当該伸縮ロッド64に取付けられた滑車54を前記清掃用工具20の挿入にかかわらず前記被吊下げ部25の上方の位置(すなわち当該被吊下げ部25の吊下げに好適な位置)まで進めることができる。
【0042】
5)前記巻取り装置40の高さ位置は、前記吊下げロープ52の操作によって調節が可能であり、その高さ位置は、前記巻取り装置40の巻取り力が前記被吊下げ部25に上向きの弾性力として作用することが可能な位置、換言すれば、当該巻取り装置40の巻取り索状体46が前記清掃用工具40の当該巻取り装置40の渦巻きばねの弾性力に抗してある程度引出される位置に調節される。
【0043】
6)5)の状態で、工具本体22内のモータを作動させて工具軸24及び先端部26を振動させるとともに、当該先端部26を上下左右に適当に動かすことで、異物18の除去作業を進めることができる。すなわち、作業者は、機器10の外部において第1点検口13の近傍に設置された既存の作業場から機器10内の清掃を行うことが可能であり、よって機器10の内部に新たな足場を組む必要がない。
【0044】
ここで、前記清掃用工具20はきわめて長尺であって、当該工具20には大きな重力が作用するが、当該工具20の工具軸22の中間部位の被吊下げ部25には弾性力付与装置30における巻取り装置40の巻取り力に相当する上向きの弾性力が付与されているから、当該弾性力と前記重力との相殺により、作業者が把持している工具本体22に作用する下向きのモーメントは小さい。従って、作業者は、当該清掃用工具20が長尺であるにもかかわらず、その先端部を軽い力で上下左右に操作することが可能である。
【0045】
この効果は、例えば前記巻取り装置40を省略して単純にコイルばねを適所(例えば吊下げロープ52と機器10との間)に介在させることによっても、得ることが可能であるが、前記巻取り装置40の使用は、この巻取り装置40自身がバランスウエイトとして機能することにより、清掃用工具20の姿勢を安定させることができるという利点がある。すなわち、前記滑車54と前記被吊下げ部25との間に介在する巻取り装置40は、その慣性により、前記清掃用工具20がそれ自身の生成する振動等に起因して揺れ動くのを抑制することが可能であり、これにより、清掃用工具20の位置を安定させて作業を容易にすることができる。
【0046】
また、本発明では、前記滑車54を省略することも可能であり、例えば図1に示される伸縮ロッド64の先端から直接巻取り装置40を吊下げることも可能であるが、前記滑車54及びこれに掛けられる吊下げロープ52の使用は、巻取り装置40の高さ位置の調節を機器10の外部から(図1では第1点検口13の作業場から)容易に行うことを可能にする。具体的には、当該吊下げロープ52を適宜引張り、あるいは繰り出すことにより、巻取り装置40を上下させることができ、その調節後に適当な部位(例えばフランジ部17)に固定することで、前記巻取り装置40の高さ位置を固定することが可能である。あるいは、前記吊下げロープ52の端を作業場に設置されたウインチのドラムに固定すれば、このウインチによる吊下げロープ52の巻上げ/巻下げによって前記巻取り装置40を上下させることができる。
【0047】
図5は、前記滑車54の使用による巻取り装置40の高さ位置の調節を有効に利用する施工例を示している。同図は、対象機器として全高の大きい減温塔80の上部を示しており、点検口として上から順に4つの点検口81,82,83,84が示されている。前記滑車支持部材60は最上の点検口81から減温塔80内に挿入されており、この滑車支持部材60及びこれに使用される滑車54を共通に用いて、上から2番目の点検口82より斜め下向きに清掃用工具20を挿入することによる異物18Aの除去作業(同図実線)と、上から3番目の点検口83より水平方向に清掃用工具20を挿入することによる前記異物18Aの除去作業(同図二点鎖線)と、さらに下側の点検口84よりやや上向きに清掃用工具20を挿入することによる、前記異物18Aよりも下側の部位に付着した異物18Bの除去作業(同図二点鎖線)と、を行うことができる。
【0048】
すなわち、図5に例示される3つの作業は、その作業位置(高さ位置)が互いに大きく異なるにもかかわらず、当該滑車54からの巻取り装置40の吊下げ長さを変える(吊下げロープ52を操作する、もしくは長さの異なるロープに交換する)ことによって、最上の点検口81から挿入される滑車支持部材60及び滑車54を動かすことなく遂行することが可能である。このことは、作業効率の向上に大きく寄与する。
【0049】
また、本実施形態に係る清掃装置がプラント用機器と接続される部分は滑車支持部材のみであり、かつ、この部分が機器設備(例えばフランジ部)に脱着可能であることから、特別な機器を用いることなく、本清掃方法及び装置を既存の設備に適用することが可能である。
【0050】
本発明に係る清掃用工具の具体的な形状や構造は図2に示した清掃用工具20のそれに限定されない。例えば、図6(a)(b)に示すような清掃用工具20′によれば、下記のような優れた効果を得ることが可能である。
【0051】
この清掃用工具20′は、前記清掃用工具20に含まれる工具本体22、工具軸24、及び先端部26に加え、当該工具本体22と当該工具軸24との間に介在するアタッチメント100を具備する。このアタッチメント100は、前記工具軸24の基端(すなわち先端と反対側の端)を着脱可能に保持するとともに、前記工具本体22が内蔵する動力源が生成する動力によって前記工具軸24をその軸方向と平行な方向(以下「振動方向」と称する。)に振動させるものであり、保持部110と、連結軸120と、一対の引張コイルばね130とを有する。
【0052】
前記保持部110は、前記工具軸24の基端を着脱可能に保持する保持部を構成するもので、全体が筒状をなす。具体的には、前記工具軸24の基端が挿入可能な内径をもつ工具軸挿入部114と、この工具軸挿入部114よりも小さい内径をもつ連結軸挿入部112とを前後に連続して有する。図例では、前記工具軸24は中空の筒状であり、その基端部が前記工具軸挿入部114に挿入された状態でこれを径方向に貫通するボルト116と当該ボルト116に装着されるダブルナット118とにより固定される。また、前記連結軸挿入部112の外周面には前記引張コイルばね130の形状に対応した螺旋状の凹溝113が形成されている。同様に工具本体22の外周面上にも凹溝が形成されている。
【0053】
前記連結軸120は、前記保持部110と前記工具本体22との間に介在し、前記引張コイルばね130とともに振動変換部を構成するものである。この連結軸120の長手方向の中央部位には他の部分よりも大径の大径部121が設けられ、同様に前記工具本体22側の端の近傍部位及び前記保持部110側の端の近傍部位にもそれぞれ大径部122,124が設けられている。
【0054】
この連結軸120のうち前記大径部122よりも外側の部分(工具本体側端部123)が前記工具本体22に設けられた軸挿入孔に挿入されることにより、図6(a)(b)に示すように前記大径部122が前記工具本体22に当接する位置から所定ストローク(当該端部が当該軸挿入孔から離脱しない範囲)で前記振動方向に往復動可能となるように当該工具本体側端部が当該工具本体22に連結される。同様に、この連結軸120のうち前記大径部124よりも外側の部分(保持部側端部125)が前記保持部110の連結軸挿入部112内に挿入されることにより、図6(a)(b)に示すように前記大径部124が前記保持部110に当接する位置から所定ストローク(当該端部が当該連結軸挿入部112から離脱しない範囲)で前記振動方向に往復動可能となるように当該保持部側端部125が当該保持部110に連結される。
【0055】
前記各引張コイルばね130は、前記大径部122と前記工具本体22との間、及び、前記大径部124と前記保持部110との間、にそれぞれまたがって配設される。具体的に、工具本体22側の引張コイルばね30の一方の端部は、当該工具本体22の外周面上に設けられた凹溝に嵌め込まれ、他方の端部は前記大径部122に被さるようにしてこれに固定される。同様に、保持部110側の引張コイルばね30の一方の端部は、当該保持部110の凹溝113に嵌め込まれ、他方の端部は前記大径部124に被さるようにしてこれに固定される。このようにして配設された引張コイルばね130は、前記工具本体22と前記工具本体側端部123との連結状態、及び、前記保持部110と前記保持部側端部125との連結状態をそれぞれ保持するとともに、前記所定ストローク内での相対的な往復動を許容するように伸縮方向に弾性変形する。
【0056】
このアタッチメント100は、例えば次のようにして製造されることが可能である。
【0057】
1)図7(a)に示すような原軸(連結軸120の元となる軸)120′を用意する。この連結軸120′は、工具本体側(図7(a)では右側)から順に、前記工具本体側端部123、前記大径部122、本体部126、および小径部127を一体に有する。
【0058】
2)保持部側(図7(a)(b)では左側)から一方の引張コイルばね130を前記大径部122の付近まで進め、その後に、大径部121を構成するカラーを前記本体部126の中央部位の外側に例えば締まり嵌めによって固定する。
【0059】
3)保持部側から他方の引張コイルばね130を前記カラー(大径部121)の手前まで進め、その後に、大径部124を構成するカラーを前記本体部126と前記小径部127とに跨る部位の外側に例えば締まり嵌めによって固定する。これにより、図7(b)に示すような振動伝達部が完成する。
【0060】
4)図6(a)に示すように連結軸120の工具本体側端部123及び保持部側端部125をそれぞれ工具本体22の軸挿入孔及び保持部110の連結軸挿入部112内に挿入し、さらに、この状態から各引張コイルばね130を工具本体22の螺旋状の凹溝及び保持部110の螺旋状の凹溝113に嵌め込む。
【0061】
このようなアタッチメント100を備えた清掃用工具20′において、工具本体22が内蔵する動力源が出力する動力は、前記連結軸120を前記振動方向に振動させ、この振動は工具軸24に伝えられて当該工具軸24及びその先端に固定された先端部26を前記振動方向に振動させる。この振動は、当該先端部26による異物18(図1)の剥離効果を促進する。
【0062】
前記カラーの固定方法は締まり嵌めに限定されない。しかし、溶接を用いない固定は、カラー部分が振動により外れることが無いという利点がある。
【0063】
前記アタッチメント100の保持部110は、前記工具軸24を着脱可能に保持するので、当該工具軸24及びこれに固定される先端部26の交換が可能であり、これにより、共通の工具本体を用いながら工具軸24の長さや先端部26の形状を状況に応じて変更することができる。例えば、先端部26として、図6,図7及び図8(a)に示すような先尖りの円錐状の先端26aをもつものや、図8(b)に示すような平型刃先26bをもつものを状況に応じて使い分けることが可能である。
【0064】
なお、前記連結軸120については、必ずしもその両端部がそれぞれ工具本体22と保持部110とに相対移動(往復動)可能に連結されていなくてもよい。例えば連結軸120が工具本体22及び保持部110のいずれか一方に(例えば溶接により)リジッドに固定されていても、他方に対して相対的に往復動可能に連結されていれば、振動の伝達が可能である。
【0065】
前記連結軸120と前記保持部110は一体に形成されてもよい。例えば、これらは単一の部材から削り出されたものでもよい。
【0066】
また、本発明が適用されるプラント用機器は減温塔に限定されない。例えば、本発明は、焼却炉や溶融炉、ボイラーなどのプラント用機器に適用されることも可能である。
【符号の説明】
【0067】
10 プラント用機器
12 側壁
13 第1点検口
14 第2点検口
18,18A,18B 異物
20 清掃用工具
22 工具本体
24 工具軸
25 被吊下げ部
26 先端部
30 弾性力付与装置
40 巻取り装置
42 ドラム
46 索状体
47 連結用ロープ(別の索状体)
50 吊下げ機構
52 吊下げロープ(吊下げ用索状体)
54 滑車
60 滑車支持部材
70 照明灯
80 減温塔
81〜84 点検口
100 アタッチメント
110 保持部
112 連結軸挿入部
113 凹溝
114 工具軸挿入部
116 ボルト
118 ダブルナット
120 連結軸
130 引張コイルばね(連結保持用ばね部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
点検口が設けられた側壁を有するプラント用機器の内側面に付着した異物を除去するための清掃方法であって、
前記点検口から清掃用工具を挿入して当該清掃用工具の先端部を前記機器の内側面に付着した異物に突き当てることにより当該異物に機械エネルギーを与えてこれを除去することと、
当該清掃用工具の長手方向の中間部分に索状体を接続し、この索状体を介して当該清掃用工具に上向きの弾性力を与えることにより、前記異物の除去中に前記清掃用工具の上下方向の動きを許容しながら当該清掃用工具の自重に起因する下向きの力を低減させることと、を含むプラント用機器の清掃方法。
【請求項2】
請求項1記載のプラント用機器の清掃方法において、
前記清掃用工具の中間部位への上向きの弾性力の付与は、当該清掃用工具の上方に巻取り装置を吊下げてこの巻取り装置と前記中間部位とを接続することにより行われ、当該巻取り装置には、回転可能なドラムと、このドラムに巻き付けられ、かつ、先端部が垂下する巻取り索状体と、この巻取り索状体を上向きに巻き取る向きに前記ドラムの回転方向を付勢する巻取り用ばね部材とを有するものが用いられ、前記巻取り索状体の先端部が前記清掃用工具の中間部位に接続される、プラント用機器の清掃方法。
【請求項3】
請求項2記載のプラント用機器の清掃方法において、
前記巻取り装置の吊下げは、当該巻取り装置をその巻取り索状体とは別の吊下げ用索状体の一方の端に連結し、この吊下げ用索状体を前記巻取り装置の上方に設けられた滑車に掛けた状態で当該吊下げ用索状体を前記機器の外部に導出して保持することにより行われる、プラント用機器の清掃方法。
【請求項4】
請求項3記載のプラント用機器の清掃方法において、前記滑車は、前記清掃用工具が挿入される点検口よりも上側の点検口から機器内に挿入される滑車支持部材に取付けられることにより支持される、プラント用機器の清掃方法。
【請求項5】
請求項4記載のプラント用機器の清掃方法において、前記滑車支持部材には、前記機器の内部に向かう方向に伸長可能なものが用いられる、プラント用機器の清掃方法。
【請求項6】
点検口が設けられた側壁を有するプラント用機器の内側面に付着した異物を除去するための清掃装置であって、
プラント用機器の側壁の内側面に付着した異物に突き当たった状態で当該異物に機械エネルギーを与えることにより当該異物を除去することが可能な先端部を有し、かつ、前記側壁に設けられた点検口から挿入されることにより前記先端部が前記異物に到達することが可能な長さを有する清掃用工具と、
当該清掃用工具の長手方向の中間部分に上向きの弾性力を付与することにより、前記異物の除去中に前記清掃用工具の上下方向の動きを許容しながら当該清掃用工具の自重に起因する下向きの力を低減させる弾性力付与装置と、を備え、
前記弾性力付与装置は、巻取り装置と、この巻取り装置を前記清掃用工具の上方の位置に吊下げる吊下げ機構とを有し、前記巻取り装置は、回転可能なドラムと、このドラムに巻き付けられ、かつ、先端部が垂下する巻取り索状体と、この巻取り索状体を上向きに巻き取る向きに前記ドラムの回転方向を付勢する巻取り用ばね部材とを有し、前記巻取り索状体は、直接または別の索状体を介して間接的に前記清掃用工具の中間部位に接続される先端部を有する、プラント用機器の清掃装置。
【請求項7】
請求項6記載のプラント用機器の清掃装置において、
前記吊下げ機構は、滑車と、前記巻取り装置の上方の位置に前記滑車を支持する滑車支持部材と、この吊下げ用索状体の一方の端が前記巻取り装置に連結され、他端が前記機器の外部に導出されて保持される吊下げ用索状体とを有する、プラント用機器の清掃装置。
【請求項8】
請求項6または7記載のプラント用機器の清掃装置において、
前記清掃用工具は、前記先端部に加え、この先端部が一方の端に固定された工具軸と、振動を生成するための動力を出力する動力源を含む工具本体と、この工具本体と前記工具軸との間に介在し、当該工具軸の他方の端を着脱可能に保持するとともに前記動力源が生成する動力によって前記工具軸をその軸方向と平行な方向に振動させるアタッチメントとを含む、プラント用機器の清掃装置。
【請求項9】
請求項8記載のプラント用機器の清掃装置において、
前記アタッチメントは、前記工具軸を着脱可能に保持する保持部と、この保持部と前記工具本体との間に介在する振動変換部とを有し、この振動変換部は、前記保持部及び前記工具本体にそれぞれ連結される端部を両側に有し、かつ、前記保持部及び前記工具本体のうちの少なくとも一方に対して前記工具軸と平行な方向である振動方向に限られた範囲内でのみ相対的に往復動可能となるように連結される連結軸と、その相対的に往復動可能な連結状態を保持するとともに当該往復動を許容するように弾性変形する連結保持用ばね部材と、を有する、プラント用機器の清掃装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−31791(P2013−31791A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−168171(P2011−168171)
【出願日】平成23年8月1日(2011.8.1)
【出願人】(000192590)株式会社神鋼環境ソリューション (534)
【Fターム(参考)】