説明

プランルカスト水和物の付着凝集性を低減する方法

【課題】プランルカスト水和物を高濃度に含む粉体を用いて造粒する場合、プランルカスト水和物の付着凝集性が低減され、かつ得られる造粒物の付着凝集性も改善される方法を提供する。
【解決手段】プランルカスト水和物を高濃度に含む粉体を用いて造粒する際に、特定の天然高分子化合物またはその誘導体を配合することにより、上記の課題を解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プランルカスト水和物の付着凝集性を低減する方法、プランルカスト水和物を含有する造粒物の製造方法、その方法により得られる造粒物、およびその造粒物を用いて得られる固形製剤に関するものである。
さらに詳しくは、本発明は、プランルカスト水和物にデキストリン等の天然高分子化合物またはその誘導体を配合することからなるプランルカスト水和物の付着凝集性を低減する方法、プランルカスト水和物にデキストリン等の天然高分子化合物またはその誘導体を配合してなる粉末組成物を造粒することからなるプランルカスト水和物含有造粒物の製造方法、その製造方法により得られるプランルカスト水和物含有造粒物、およびその造粒物を用いて得られる固形製剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
4−オキソ−8−[(4−フェニルブトキシ)ベンゾイルアミノ]−2−(テトラゾール−5−イル)−4H−ベンゾピラン・1/2水和物(一般名:プランルカスト水和物)は、ロイコトリエンに対する強力な拮抗活性を有する化合物であり、気管支喘息やアレルギー性鼻炎などの治療に広く用いられている。
しかしながら、プランルカスト水和物は、付着凝集性が極めて強い微粉末であり、プランルカスト水和物を配合した混合粉末を造粒、打錠またはカプセル充填する場合、杵や臼、ターンテーブル等に該粉末が付着凝集して、連続運転に支障を来たすという問題があった。
【0003】
この問題を解決する方法として、プランルカスト水和物、糖類、水溶性高分子および/または界面活性剤を含有する組成物を噴霧乾燥法により造粒する方法が知られている(特許文献1)。
さらに、プランルカスト水和物にヒドロゲル形成物質を配合し、撹拌造粒して得られる製剤も知られている(特許文献2)。
【0004】
しかしながら、上記の特許文献1に記載の方法は、噴霧乾燥によるものであり、装置の巨大化、エネルギーの多消費などを伴うという問題がある。
また、特許文献2の方法による場合、ある程度の量のヒドロゲル形成物質を必要とするため、打錠機または圧縮機能を有するカプセル充填機により製造される錠剤やカプセル剤では、崩壊性が遅延する傾向がある。圧縮機能のないカプセル充填機を使用すれば、崩壊性の問題はなくなるものの、カプセル内に充填する内容物の嵩が大きくなるため、カプセルが大きくなるという問題が生じる。
【特許文献1】特許番号第2958863号公報
【特許文献2】特開2005−187406号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、プランルカスト水和物を高濃度に含む粉体を圧縮して製剤化する場合、プランルカスト水和物の付着凝集性が低減されて、製剤化の際の連続運転に支障を来たさないような方法、ならびに得られる造粒物を圧縮して固形製剤としたときに該固形製剤が良好な崩壊性を有するプランルカスト水和物含有固形製剤の開発が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、プランルカスト水和物含有固形製剤の製造に際して、プランルカスト水和物にアラビアゴム、キサンタンガム、トラガントガム、寒天、デンプン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、デキストリン、α化デンプン、部分α化デンプン、α−、β―もしくはγ−シクロデキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウムおよびプルランからなる群から選択される天然高分子化合物(以下、単に「天然高分子化合物」ともいう)またはその誘導体を配合することからなるプランルカスト水和物の付着凝集を低減する方法、該方法を利用したプランルカスト水和物含有造粒物の製造方法、該製造法により得られる造粒物、および該造粒物を成形してなる固形製剤が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、プランルカスト水和物を高濃度に含む粉体を用いて造粒する場合、プランルカスト水和物の付着凝集性に起因する障害を回避でき、かつ得られる造粒物の付着凝集性も低減され、しかも該造粒物から得られる固形製剤が良好な崩壊性を有するという効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明における天然高分子化合物としては、アラビアゴム、キサンタンガム、トラガントガム、寒天およびデンプン(例えば、馬鈴薯デンプン、トウモロコシデンプン)などが挙げられ、これらの天然高分子化合物の誘導体としては、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステルならびに、デキストリン、α化デンプン(マツノリン(登録商標))、部分α化デンプン、α−、β−もしくはγ−シクロデキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウムおよびプルランのようなデンプン誘導体が挙げられる。
これらの中でも、アラビアゴム、デキストリン、α化デンプンおよびプルランがより好ましく、中でもデキストリンが特に好ましい。
【0009】
上記の天然高分子化合物およびその誘導体の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、通常、平均粒子径が0.1μm〜200μm程度のものが好ましい。
【0010】
本発明の方法によりプランルカスト水和物の付着凝集性を低減する際の、天然高分子化合物またはその誘導体の配合割合は、特に限定されないが、プランルカスト水和物100重量部に対して、0.1〜30重量部、好ましくは1.0〜15.0重量部である。
【0011】
本発明の造粒物は、上記の配合物に、必要に応じて結合剤、賦形剤、崩壊剤などを添加し、例えば撹拌造粒機、撹拌流動層造粒機、撹拌転動流動層造粒機、流動層造粒機のような通常の造粒機を用いて、常法により製造される。
【0012】
上記のようにして得られる造粒物を用いて製造される本発明の固形製剤としては、錠剤、カプセル剤等が挙げられる。
【0013】
これらの固形製剤は、前記のようにして得られる造粒物に、必要に応じて結合剤、賦形剤、滑沢剤等の通常の添加剤を加えて、常法により打錠、カプセル充填などすることにより製造される。
【0014】
本発明によれば、造粒物自体の付着凝集性も改善されているため、かかる造粒物を用いて固形製剤を製造する際にも、造粒物の付着凝集性に起因する障害を回避でき、連続運転に支障を来たさない。
その上、本発明の造粒物を用いて圧縮打錠あるいは、カプセルに圧縮充填して得られる固形製剤は、その崩壊性が低下しない、すなわち良好な崩壊性を有するという特長を有する。
【0015】
なお、本明細書中で使用される「良好な崩壊性」とは、錠剤あるいは圧縮充填されたカプセル剤の内容物が、第十五改正日本薬局方の崩壊試験法による場合、30分以内に崩壊することを意味する。
【0016】
以下、実施例、比較例および試験例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
実施例1:
プランルカスト水和物112.50g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV JAPAN)18.75g、軽質無水ケイ酸(商品名:アドソリダー−101、フロイント産業)2.25g、デキストリン(商品名:パインデックス、松谷化学)10.00gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー、深江パウテック)にて混合し、精製水30.14gを投入し造粒した。得られた造粒物を乾燥し、22メッシュ篩で整粒し、造粒物を得た。
【0018】
実施例2:
プランルカスト水和物112.50g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV JAPAN)18.75g、軽質無水ケイ酸(商品名:アドソリダー−101,フロイント産業)2.25g、アルファー化デンプン(商品名:マツノリン,松谷化学)10.00gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー,深江パウテック)にて混合し、精製水51.66gを投入し造粒した。得られた造粒物を乾燥し、22メッシュ篩で整粒し、造粒物を得た。
【0019】
実施例3:
プランルカスト水和物112.50g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV JAPAN)18.75g、軽質無水ケイ酸(商品名:アドソリダー−101、フロイント産業)2.25g、プルラン(商品名:プルランPI−20、林原商事)10.00gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー,深江パウテック)にて混合し、精製水35.88gを投入し造粒した。得られた造粒物を乾燥し、22メッシュ篩で整粒し、造粒物を得た。
【0020】
実施例4:
プランルカスト水和物112.50g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV JAPAN)18.75g、軽質無水ケイ酸(商品名:アドソリダー−101、フロイント産業)2.25g、アラビアゴム末(商品名:アラビアゴム末、日本粉末薬品)10.00gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー、深江パウテック)にて混合し、精製水35.88gを投入し造粒した。得られた造粒物を乾燥し、22メッシュ篩で整粒し、造粒物を得た。
【0021】
比較例1:
プランルカスト水和物112.50g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV JAPAN)18.75g、軽質無水ケイ酸(商品名:アドソリダー−101、フロイント産業)2.25g、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(商品名:TC−5EW、信越化学)10.00gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー、深江パウテック)にて混合し、50%エタノール43.05gを投入し造粒した。得られた造粒物を乾燥し、22メッシュ篩で整粒し、造粒物を得た。
【0022】
比較例2:
プランルカスト水和物112.50g、乳糖(商品名:乳糖200M、DMV JAPAN)18.75g、軽質無水ケイ酸(商品名:アドソリダー−101、フロイント産業)2.25g、ヒドロキシプロピルセルロース(商品名:HPC−L、日本曹達)10.00gを高速攪拌造粒機(ハイスピードミキサー、深江パウテック)にて混合し、精製水35.88gを投入し造粒した。得られた造粒物を乾燥し、22メッシュ篩で整粒し、造粒物を得た。
【0023】
試験例1
実施例1〜4ならびに比較例1および2で得られた造粒物の、粉体特性測定装置(パウダテスタ、ホソカワミクロン製)による安息角の評価結果を表1に示す。一般的に安息角の値は,付着凝集性の強い粉体ほど大きな値を示す傾向がある。
【0024】
【表1】

【0025】
実施例1〜4で得られた造粒物は、比較例1および2のヒドロゲル形成物質を添加した造粒物より低い数値を示した。このことは、天然高分子化合物またはその誘導体を用いてプランルカスト水和物を造粒することにより、造粒物の付着凝集性がヒドロゲル形成物質より低減できることを意味する。
【0026】
実施例5
前記の実施例1および2ならびに比較例1および2で得られた造粒物に、クロスポビドン(商品名:ポリプラスドンXL−10、ISP・ジャパン)4.50gおよびステアリン酸マグネシウム(商品名:ステアリン酸マグネシウム、太平化学産業)2.00gを加え混合した後、打錠機(ロータリー打錠機,菊水製作所製)により圧縮して、直径7.5mm、厚み2.8mm、硬度7〜9kgfの錠剤を得た。
また、上記の混合物を、カプセル充填機(MG COMPACT、MG2製)を用いて4号カプセル(Su-Heung社製)に圧縮充填して、カプセル剤を得た。
【0027】
なお、実施例1および2で得られた造粒物について、連続打錠中の混合物の流動性ならびに杵へのスティッキングおよびキャッピングの有無を観察したが、流動性は良好であり、スティッキングおよびキャッピングは観察されなかった。
【0028】
試験例2
固形製剤の崩壊性の評価は、第十五改正日本薬局方の一般試験法(崩壊試験法)に準じて行った(試験液:水、補助盤なし)。錠剤については、溶出試験(水900ml、50rpmパドル法)にて錠剤の形状が完全に崩れる時間も崩壊時間として観察した。カプセル剤については、カプセル自体の崩壊の影響を除くために、カプセルから圧縮充填された内容物を取り出し、その内容物について崩壊試験を実施した。
その結果(6回の平均値)を表2に示す。
【0029】
【表2】

【0030】
以上の試験例1および2により、難水溶性物質であるプランルカスト水和物を高濃度に含んでいても、本発明における天然高分子化合物またはその誘導体を添加して造粒することにより、プランルカスト水和物の付着凝集性が低減されるのみならず、得られた造粒物の付着凝集性も改善され、しかもかかる造粒物を圧縮成形して得られる固形製剤は良好な崩壊性を示すことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プランルカスト水和物に、アラビアゴム、キサンタンガム、トラガントガム、寒天、デンプン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、デキストリン、α化デンプン、部分α化デンプン、α−、β―もしくはγ−シクロデキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウムおよびプルランからなる群から選択される天然高分子化合物またはその誘導体を配合することを特徴とする、プランルカスト水和物の付着凝集性を低減する方法。
【請求項2】
天然高分子化合物またはその誘導体がデキストリン、α化デンプン、プルランおよびアラビアゴムから選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
天然高分子化合物がデキストリンである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
プランルカスト水和物に、アラビアゴム、キサンタンガム、トラガントガム、寒天、デンプン、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、デキストリン、α化デンプン、部分α化デンプン、α−、β―もしくはγ−シクロデキストリン、カルボキシメチルスターチナトリウムおよびプルランからなる群から選択される天然高分子化合物またはその誘導体を配合することを特徴とする、プランルカスト水和物含有造粒物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載の製造方法により得られるプランルカスト水和物含有造粒物。
【請求項6】
請求項5に記載の造粒物を打錠またはカプセル充填して得られる固形製剤。

【公開番号】特開2008−162966(P2008−162966A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−355932(P2006−355932)
【出願日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【出願人】(592235075)大正薬品工業株式会社 (11)
【Fターム(参考)】