説明

プリプレグの製造装置およびプリプレグの製造方法

【課題】繊維束への樹脂含浸量および繊維束の拡幅量を向上することができるプリプレグの製造装置を提供する。
【解決手段】繊維束にマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグを製造するプリプレグの製造装置であって、繊維束にマトリックス樹脂を塗布するための樹脂塗布手段と、繊維束を加圧するための一対の加圧ローラと、一対の加圧ローラの少なくとも一方を加圧ローラの回転軸に対して直交方向に往復駆動させる往復機構と、を有するプリプレグの製造装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグの製造装置およびプリプレグの製造方法に関し、特に、高圧タンク製造用プリプレグの製造装置および高圧タンク製造用プリプレグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池自動車や天然ガス自動車等には、燃料ガスとしての水素ガスや天然ガス等を貯蔵する高圧タンクが搭載される。高圧タンクとして、樹脂製または金属製タンク(ライナ:内容器)の外面に単位密度当りの強度が非常に高い炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)等を巻き付けて補強した高圧タンクが知られている。このような高圧タンクを製造する際、例えばフィラメントワインディング法のように炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を含浸させた状態で樹脂製タンクの外面に巻き付けて繊維層を形成した後、マトリックス樹脂を硬化させて補強層を形成する方法がある。このフィラメントワインディング法において、高速化、工程の簡素化等を目的に、通常、炭素繊維等の繊維束に未硬化のエポキシ樹脂等のマトリックス樹脂を予め含浸させ、ボビン等に巻き付けたプリプレグを用いる。
【0003】
プリプレグの製造において、繊維束にマトリックス樹脂を含浸させる際、樹脂溶液を貯留した浸漬槽に繊維束を浸漬して含浸させる方法、または、繊維束の上から樹脂を塗布した後、加圧ローラ等により加圧する方法によってマトリックス樹脂を繊維束全体に広げていくが、繊維束を浸漬したり、繊維束にマトリックス樹脂を塗布して加圧ローラ等により加圧するだけでは、繊維束の中までマトリックス樹脂が浸透しにくいため、樹脂含浸量が低くなることがある。
【0004】
また、フィラメントワインディング法で高圧タンク等の成形体を製造する場合、繊維束をできるたけ拡幅した状態(幅を拡げた状態)でライナ等に巻き付けた方が、強度等の点で好ましい。しかし、繊維束を浸漬したり、繊維束にマトリックス樹脂を塗布して加圧ローラ等により加圧するだけでは、繊維束の拡幅量が小さく、充分ではない場合がある。
【0005】
このように樹脂含浸量が低く、繊維束の拡幅量が小さい状態のプリプレグを用いてフィラメントワインディング法により製造した高圧タンク等の成形品は、強度等の性能低下の原因となることがある。
【0006】
特許文献1には、樹脂の含浸が良好でボイドが少なく、繊維の乱れが無い幅広の熱可塑性一方向プリプレグシートを高速で生産するために、連続補強繊維のトウに熱可塑性樹脂を含浸させると同時にテープ状にしたトウプリプレグを幅方向に複数本引き揃えて並べた後、加熱下、加圧してシート状にする熱可塑性一方向プリプレグシートの製造法が記載されている。
【0007】
特許文献2には、簡便でしかも高速に炭素繊維束の開繊を毛羽立ちなく行うために、10本以上のお互いに平行に引き揃えられた炭素繊維束を、複数のローラ群上を所定角度に屈曲させながら通過させて開繊する装置において、ローラの軸方向に振動する振動フリー回転ローラと無振動フリー回転ローラとを1組とするローラ組を、2〜10組配列させてなるとともに、振動フリー回転ローラ径を20〜50mmとし、無振動フリー回転ローラ径を50〜120mmとし、かつ該それぞれのローラ間の、炭素繊維束がローラに接触していない距離を10〜100mmになるように設定した炭素繊維束の開繊装置が記載されている。
【0008】
しかし、特許文献1,2の技術では、樹脂含浸量が低く、繊維束の拡幅量が充分ではない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−024830号公報
【特許文献2】特開平10−292238号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、繊維束への樹脂含浸量および繊維束の拡幅量を向上することができるプリプレグの製造装置およびプリプレグの製造方法である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、繊維束にマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグを製造するプリプレグの製造装置であって、繊維束にマトリックス樹脂を塗布するための樹脂塗布手段と、繊維束を加圧するための一対の加圧ローラと、前記一対の加圧ローラの少なくとも一方を前記加圧ローラの回転軸方向に往復駆動させる往復機構と、を有するプリプレグの製造装置である。
【0012】
また、前記プリプレグの製造装置において、前記一対の加圧ローラの少なくとも一方が、加熱機構を有することが好ましい。
【0013】
また、本発明は、繊維束にマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグを製造するプリプレグの製造方法であって、繊維束にマトリックス樹脂を塗布する塗布工程と、前記繊維束への前記マトリックス樹脂の塗布後および塗布前の少なくともいずれかにおいて、一対の加圧ローラの少なくとも一方を前記加圧ローラの回転軸方向に往復させながら繊維束を加圧する加圧工程と、を含むプリプレグの製造方法である。
【0014】
また、前記プリプレグの製造方法において、前記加圧工程において、前記一対の加圧ローラの少なくとも一方を加熱することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、繊維束へのマトリックス樹脂の塗布後および塗布前の少なくともいずれかにおいて、一対の加圧ローラの少なくとも一方を加圧ローラの回転軸方向に往復させながら繊維束を加圧することにより、繊維束への樹脂含浸量および繊維束の拡幅量を向上することができるプリプレグの製造装置およびプリプレグの製造方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施形態に係る高圧タンク製造用プリプレグの製造装置の一例の全体構成を示す概略図である。
【図2】本発明の実施形態に係る高圧タンク製造用プリプレグの製造装置における加圧ローラの構成の一例を示す概略図である。
【図3】本発明の実施形態における繊維束の拡幅の状態を示す概略断面模式図である。
【図4】本発明の実施形態に係る高圧タンク製造用プリプレグの製造装置の他の例の全体構成を示す概略図である。
【図5】本発明の実施形態に係る高圧タンクの製造装置の一例の全体構成を示す概略図である。
【図6】本発明の実施形態における高圧タンクの軸方向の断面を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
本発明の実施形態に係るプリプレグの製造装置の一例の全体構成の概略を図1に示す。また、本実施形態に係るプリプレグの製造装置における加圧ローラの構成の一例の概略を図2に示す。
【0019】
図1に示すように、プリプレグ製造装置1は、繊維束20を送り出すための送り出しローラ10と、繊維束20を加圧して拡幅するための一対の加圧ローラ12と、繊維束20を引き取るための引取ローラ14と、繊維束20を巻き取るための巻取ローラ16と、繊維束20にマトリックス樹脂を塗布するための樹脂塗布手段としての樹脂塗布装置18とを備える。
【0020】
プリプレグ製造装置1において、送り出しローラ10、加圧ローラ12、引取ローラ14、巻取ローラ16が装置の上流部から下流部に向かって配置されている。また、送り出しローラ10と加圧ローラ12との間には、樹脂塗布装置18が設置されている。
【0021】
本実施形態に係るプリプレグの製造方法およびプリプレグ製造装置1の動作について説明する。
【0022】
図1に示すように、送り出しローラ10から繊維束20が送り出され、樹脂塗布装置18により繊維束20にマトリックス樹脂が塗布される(塗布工程)。マトリックス樹脂が塗布された繊維束20は、図2に示すように、互いに対向する一対の加圧ローラ12a,12bによって挟まれて圧力がかけられるとともに、図示しない往復機構によって加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方が加圧ローラ12a,12bの回転軸方向に往復駆動されることにより拡幅される(加圧工程)。拡幅された繊維束20は、図1の引取ローラ14を経由し、必要に応じて冷却された後、巻取ローラ16により巻き取られる。こうして、繊維束20にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグが形成される。
【0023】
図3に、加圧ローラ12a,12bによる繊維束20の拡幅の状態を示す概略断面模式図を示す。繊維束20は、互いに対向する一対の加圧ローラ12a,12bによって挟まれて圧力がかけられるとともに、加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方が加圧ローラ12a,12bの回転軸方向に往復されることにより、繊維束20を構成する繊維22が拡げられ、略扁平な状態になる。このとき、加圧ローラ12の加圧および往復駆動により、繊維束20の中までマトリックス樹脂(図3において図示せず)が浸透しやすくなり、繊維束20に塗布されたマトリックス樹脂が繊維束20の全体に含浸されて、樹脂含浸量が向上し、繊維束20の拡幅量も向上する。また、樹脂含浸量の均一性が向上し、樹脂含浸量のばらつきが抑制される。
【0024】
繊維束20の拡幅量の向上は、例えば、拡幅前の繊維束の幅に対する拡幅後の繊維束の幅の比率(%)として定義される拡幅率によって表される。本実施形態においては、加圧ローラ12を往復駆動させない場合の拡幅率100%〜110%程度に比べて、例えば、拡幅率として150%〜200%程度にまで向上させることができる。
【0025】
加圧ローラ12の材質としては、繊維束20にできるだけ損傷等を与えずに拡幅させることができるものであればよく、特に制限はないが、例えば、樹脂、金属等が挙げられる。繊維束20にできるだけ損傷等を与えない等の点から通常は樹脂である。
【0026】
加圧ローラ12により繊維束20にかける圧力としては、繊維束20にできるだけ損傷等を与えずに拡幅させることができる程度の圧力であればよく、特に制限はない。圧力が高いほど繊維が解束されて拡幅量が向上するが、繊維が損傷しやすくなる傾向にある。
【0027】
加圧ローラ12は、加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方を加圧ローラ12a,12bの回転軸方向に往復駆動させればよい。例えば、繊維束20の上方に位置する加圧ローラ12aを往復駆動させずに、繊維束20の下方に位置する加圧ローラ12bを往復駆動させてもよいし、繊維束20の下方に位置する加圧ローラ12bを往復駆動させずに、繊維束20の上方に位置する加圧ローラ12aを往復駆動させてもよいし、繊維束20の上方に位置する加圧ローラ12aおよび下方に位置する加圧ローラ12bの両方を往復駆動させてもよい。
【0028】
加圧ローラ12a,12bの往復駆動の幅としては、繊維束20にできるだけ損傷等を与えずに拡幅させることができる程度の幅であればよく、特に制限はない。幅が大きいほど繊維が解束されて拡幅量が向上するが、繊維が損傷しやすくなる傾向にある。
【0029】
加圧ローラ12a,12bの往復駆動の速度としては、繊維束20にできるだけ損傷等を与えずに拡幅させることができる程度の速度であればよく、特に制限はないが、例えば、5〜10m/minの範囲とすればよい。速度が大きいほど繊維が解束されて拡幅量が向上するが、繊維が損傷しやすくなる傾向にある。また、加圧ローラ12a,12bの往復駆動の速度は、加圧ローラ12a,12bにより繊維束20にかける圧力等に応じて、適宜設定することができる。
【0030】
加圧ローラ12a,12bを往復駆動させる往復機構としては、加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方を往復駆動させるものであればよく、特に制限はない。
【0031】
なお、加圧ローラ12によって拡幅した後の繊維束20の拡幅量または拡幅率等をモニタリング手段によりモニタリングして、加圧ローラ12の圧力、往復駆動の幅、速度等をフィードバック制御してもよい。
【0032】
樹脂塗布装置18としては、繊維束20にマトリックス樹脂を塗布することができるものであればよく、特に制限はないが、例えば、繊維束20にマトリックス樹脂を滴下する滴下方式、繊維束20にマトリックス樹脂をローラ等により塗布するローラ方式、マトリックス樹脂を含んだ浸漬槽に繊維束20を浸漬させる浸漬方式等のものを用いることができる。浸漬方式の場合、浸漬槽内に加圧ローラを設置して、加圧および往復駆動させてもよい。マトリックス樹脂の塗布において、樹脂そのものを用いて塗布してもよいし、樹脂を溶媒に混合、溶解した樹脂溶液を用いて塗布してもよい。
【0033】
本実施形態において、一対の加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方が加熱機構を有していてもよい。加熱機構により、加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方を加熱することによって、繊維束20の中までマトリックス樹脂がより浸透しやすくなり、樹脂の含浸効果および繊維束の拡幅効果をさらに向上することができる。
【0034】
加圧ローラ12a,12bの温度としては、繊維束20にできるだけ損傷等を与えずに、マトリックス樹脂ができるだけ劣化しない程度の温度であればよく、特に制限はないが、例えば、マトリックス樹脂の硬化温度未満、好ましくはマトリックス樹脂の硬化温度−50℃〜−80℃の範囲とすればよい。マトリックス樹脂の硬化温度未満で温度が高いほどマトリックス樹脂が浸透しやすくなる傾向にある。
【0035】
加圧ローラ12a,12bを加熱する加熱機構としては、加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方を加熱するものであればよく、特に制限はない。例えば、電熱線等の発熱体を用いる方式、温水等の熱媒を用いる方式等が挙げられる。
【0036】
本発明の実施形態に係るプリプレグの製造装置の他の例の全体構成の概略を図4に示す。
【0037】
図4のプリプレグ製造装置3において、送り出しローラ10、加圧ローラ12、引取ローラ14、巻取ローラ16が装置の上流部から下流部に向かって配置されている。また、加圧ローラ12と引取ローラ14との間には、樹脂塗布装置18が設置されている。
【0038】
図4に示すように、送り出しローラ10から繊維束20が送り出され、互いに対向する一対の加圧ローラ12a,12bによって挟まれて圧力がかけられるとともに、図示しない往復機構によって加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方が加圧ローラ12a,12bの回転軸方向に往復駆動されることにより繊維束20が拡幅される(加圧工程)。その後、拡幅された繊維束20に、樹脂塗布装置18によりマトリックス樹脂が塗布される(塗布工程)。マトリックス樹脂が塗布された繊維束20は、引取ローラ14を経由し、必要に応じて冷却された後、巻取ローラ16により巻き取られる。こうして、繊維束20にマトリックス樹脂を含浸させたプリプレグが形成される。
【0039】
図3に示すように、繊維束20は、互いに対向する一対の加圧ローラ12a,12bによって挟まれて圧力がかけられるとともに、加圧ローラ12a,12bのうち少なくとも一方が加圧ローラ12a,12bの回転軸方向に往復されることにより、繊維束20を構成する繊維22が拡げられ、略扁平な状態になる。この後、マトリックス樹脂が塗布されると、繊維束20の中までマトリックス樹脂が浸透しやすくなり、繊維束20に塗布されたマトリックス樹脂が繊維束20の全体に含浸されて、樹脂含浸量が向上し、繊維束20の拡幅量も向上する。また、樹脂含浸量の均一性が向上し、樹脂含浸量のばらつきが抑制される。
【0040】
図4のプリプレグ製造装置3において、樹脂塗布装置18と引取ローラ14との間に、一対の加圧ローラ(第二加圧ローラ)をさらに設置して、拡幅後マトリックス樹脂が塗布された繊維束20に圧力をかけるとともに、一対の加圧ローラのうち少なくとも一方を加圧ローラの回転軸方向に往復駆動させて、さらに加圧、拡幅してもよい(第二加圧工程)。本構成により、樹脂含浸量をさらに向上させ、繊維束20の拡幅量をさらに向上させることができる。
【0041】
以上のような本実施形態に係るプリプレグの製造装置およびプリプレグの製造方法により得られるプリプレグを用いると、フィラメントワインディング法等により製造した高圧タンク等の成形品における強度等の性能が向上し、品質の安定化を図ることができる。
【0042】
本実施形態に係るプリプレグの製造装置およびプリプレグの製造方法により得られるプリプレグは、樹脂溶液を含浸させて硬化した繊維強化プラスチック材(FRP材)等として、各種素材の強化材等に用いることができる。例えば、炭素繊維の場合、炭素繊維の繊維束にエポキシ樹脂等の樹脂溶液を含浸させた炭素繊維強化プラスチック材(CFRP材)として、高圧タンク、自動車用シャフト、航空機の胴体、部品等の補強材として用いることができる。
【0043】
以下に、フィラメントワインディング法による高圧タンクの製造方法の一例を示す。
【0044】
フィラメントワインディング法による高圧タンクの製造装置の一例の全体構成の概略を図5に示す。
【0045】
図5に示すように、高圧タンクの製造装置5は、繊維巻き付け装置24を備える。繊維巻き付け装置24は、ライナ30を支持するための回転支持部26を有する。また、高圧タンクの製造装置5は、プリプレグの製造装置およびプリプレグの製造方法により得たプリプレグ36を備える。
【0046】
図5に示すように、ライナ30は、繊維巻き付け装置24の回転支持部26に設置される。例えば、略円柱状のライナ30は図6に示すようなライナ30の軸を通したシャフト34によって、図5に示すように回転支持部26に支持される。回転支持部26によってライナ30が回転され、プリプレグ36から繰り出された、マトリックス樹脂が含浸された繊維束40が、ライナ30の外面に巻き付けられる。こうして、ライナ30の外面に繊維束40が所定の厚みおよび所定の方向で巻き付けられ繊維層が形成される(繊維層形成工程)。
【0047】
ライナ30に繊維束40を巻き付ける前に、図5のように拡幅ローラ38等の拡幅手段を設けて、拡幅ローラ38等に繊維束40を押し付けて、さらに拡幅しておいてもよい。
【0048】
プリプレグ36の代わりに、例えば、上記プリプレグ製造装置を繊維巻き付け装置24の上流側に接続してもよい。
【0049】
繊維束40の巻き付け工程後、高圧タンク28は、加熱炉等において熱処理される。高圧タンク28は、例えば130℃程度で、10〜15時間程度加熱される。この加熱により、熱硬化性樹脂等が含浸された繊維束40が熱硬化され(硬化工程)、図6に示すような補強層32が形成される。その後、高圧タンク28は冷却される。このようにして、ライナ30の外面に補強層32が形成された高圧タンク28が製造される。
【0050】
高圧タンク28は、ライナ(内容器)30、補強層(外層)32を含んで構成されている。また、高圧タンク28は、ガス充填・放出口等を備えてもよい。
【0051】
ライナ30は、略円柱状等に形成されてなり、例えば高圧水素ガスなどの媒体をその内部に収容するためのものであり、水素ガス等のガスに直接接触する層である。ライナ30の形状、サイズ、厚みは使用目的、仕様等に応じたものを任意に選択することができる。ライナ30の厚みは、例えば、2mm〜4mmの範囲である。
【0052】
ライナ30は、樹脂材料、金属等を含んで構成される。ライナ30を構成する樹脂材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。ライナを構成する金属としては、アルミ合金等の金属が挙げられる。ライナの肉厚やライナを構成する材料の種類は、ライナ30に要求される強度、気密性、成形性等に応じて適宜選択することができる。これらのうち、強度や耐ガス透過性等の点からナイロン等のポリアミド樹脂が好ましい。
【0053】
樹脂材料から構成されるライナ30は、例えば、上記樹脂の射出成形により成形される。例えば、金型にポリアミド樹脂等の樹脂を流し込んで、略半円柱体を2つ成型し、それらをレーザ等により溶着して樹脂のライナ30が成形される。この射出成形により、厚みが略均一なライナ30が成形される。
【0054】
補強層32は、ライナ30の外側を覆うように設けられてライナ30を補強する層であり、例えば、繊維およびマトリックス樹脂を含んで構成される。補強層32を構成する繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、金属繊維等が挙げられる。
【0055】
また、補強層32を構成するマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ABS樹脂、ポリスチレン、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリイミド、フッ素樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂やポリウレタン等が挙げられる。これらのうち、強度や接着性等の点からエポキシ樹脂が好ましい。
【0056】
補強層32は、例えば、繊維の繊維束にマトリックス樹脂溶液を含浸させた状態でライナ30の外面に巻き付けた後、樹脂を硬化させて形成することができる。
【0057】
補強層32の厚みは、巻き付ける繊維束40の層数等により調整することができ、例えば、20mm〜40mmの範囲である。繊維束40の層数は例えば、30層〜60層程度である。
【0058】
繊維束40は、例えば、上記繊維が10,000〜40,000本程度束ねられたものである。
【0059】
通常、繊維束40の巻き付け方向は、ライナ30の回転軸に対して略垂直方向、または斜め方向である。
【0060】
本実施形態に係る高圧タンク28は、例えば、移動体に搭載され、内部に高圧ガスを貯蔵する高圧タンクである。また、高圧タンク28は、据え置き型の高圧タンクであってもよい。
【0061】
ここで、移動体としては、二輪の車両、バスや乗用車等の四輪以上の自動車のほか、電車、船舶、航空機、ロボットなどが挙げられ、特に燃料電池車両である。高圧ガスとしては、水素ガスや圧縮天然ガスなどが挙げられる。
【符号の説明】
【0062】
1,3 プリプレグ製造装置、5 高圧タンクの製造装置、10 送り出しローラ、12,12a,12b 加圧ローラ、14 引取ローラ、16 巻取ローラ、18 樹脂塗布装置、20,40 繊維束、22 繊維、24 繊維巻き付け装置、26 回転支持部、28 高圧タンク、30 ライナ(内容器)、32 補強層(外層)、34 シャフト、36 プリプレグ、38 拡幅ローラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維束にマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグを製造するプリプレグの製造装置であって、
繊維束にマトリックス樹脂を塗布するための樹脂塗布手段と、
繊維束を加圧するための一対の加圧ローラと、
前記一対の加圧ローラの少なくとも一方を前記加圧ローラの回転軸方向に往復駆動させる往復機構と、
を有することを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項2】
請求項1に記載のプリプレグの製造装置であって、
前記一対の加圧ローラの少なくとも一方が、加熱機構を有することを特徴とするプリプレグの製造装置。
【請求項3】
繊維束にマトリックス樹脂を含浸させてプリプレグを製造するプリプレグの製造方法であって、
繊維束にマトリックス樹脂を塗布する塗布工程と、
前記繊維束への前記マトリックス樹脂の塗布後および塗布前の少なくともいずれかにおいて、一対の加圧ローラの少なくとも一方を前記加圧ローラの回転方向に往復させながら繊維束を加圧する加圧工程と、
を含むことを特徴とするプリプレグの製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のプリプレグの製造方法であって、
前記加圧工程において、前記一対の加圧ローラの少なくとも一方を加熱することを特徴とするプリプレグの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−240666(P2011−240666A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−116654(P2010−116654)
【出願日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】