説明

プリント基板の絶縁構造および電気機器

【課題】プリント基板の導電部の絶縁を確保するため、絶縁物を導電体間に充填するだけならばコーティングや絶縁体の充填を行えばよい。しかし、電気機器ではメンテナンスや故障時等に部品交換が簡単にできなければならず、生産時の組み立て容易性やメンテナンス時の作業容易性を悪化させることなく絶縁性を向上する必要がある。
【解決手段】半導体素子が取り付けられており半導体素子の端子近傍に設けられたスリットを有するプリント基板と、プリント基板のスリットに挿通され半導体素子の端子間の絶縁を行う絶縁部材を備え、絶縁部材のうちスリットに挿通する部分の少なくとも一部は挿通方向に対して直角方向に折り曲げ可能な折り曲げ部であり、折り曲げ部を折り曲げてスリットに挿通し、挿通した後に折り曲げ部の折り曲げが戻ることで、絶縁部材がスリットから挿通方向とは反対方向に抜けることを抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば溶接装置等の電気機器の内部で使用されるプリント基板の絶縁構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば溶接装置のような電気機器おいて、電気機器の内部には、半導体素子の導電を制御するため等に用いられるプリント基板が設けられている。そして、この半導体素子を冷却するため、冷却ファン等を用いて電気機器の外部から電気機器の内部に空気を取り込むものが一般的に知られている。この冷却を行う場合、導電性粉塵等も電気機器内に取り込まれる可能性がある。そして、電気機器内に取り込まれた導電性粉塵等がプリント基板や半導体素子に付着してしまい、その量が増えると、プリント基板の導電部や半導体素子の接続端子間の絶縁が維持できなくなる場合も起こりうる。
【0003】
従来の半導体素子の絶縁構造としては、接続端子間の距離を離す、あるいは、半導体素子を内包するケースの外表面に段差を設けることで絶縁距離や沿面距離を確保することが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、半導体と導電体だけで構成される場合は、絶縁部材により半導体の導電体部を囲むものがある(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平2−270357号公報
【特許文献2】特開2009−188312号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
絶縁を確保するため、単に絶縁物を導電体間に充填するだけでよいのであれば、樹脂によるコーティングや絶縁体の充填を行えばよい。しかしながら、電気機器においてはメンテナンスや故障時等に部品交換等が簡単にできなければならない。つまり、生産時の組み立て容易性はもちろんのこと、電気機器のメンテナンス時の作業容易性が求められる。
【0007】
従って、単に絶縁物を導電体間に充填する絶縁構成とすることは難しいといった課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のプリント基板の絶縁構造は、半導体素子が取り付けられており前記半導体素子の端子の近傍に設けられたスリットを有するプリント基板と、前記プリント基板のスリットに挿通され前記半導体素子の端子間の絶縁を行う絶縁部材を備え、前記絶縁部材のうち前記スリットに挿通する部分の少なくとも一部は挿通方向に対して直角方向に折り曲げ可能な折り曲げ部であり、前記折り曲げ部を折り曲げて前記スリットに挿通し、挿通した後に前記折り曲げ部の折り曲げが戻ることで、前記絶縁部材が前記スリットから挿通方向とは反対方向に抜けることを抑制するものである。
【0009】
また、本発明のプリント基板の絶縁構造は、第1の半導体素子と第2の半導体素子が取り付けられており前記第1の半導体素子の端子の近傍に設けられた第1のスリットと前記第2の半導体素子の端子の近傍に設けられた第2のスリット有するプリント基板と、前記プリント基板の前記第1のスリットおよび前記第2のスリットに挿通され前記第1の半導体素子の端子間および前記第2の半導体素子の端子間の絶縁を行う絶縁部材を備え、前記絶縁部材のうち前記第1のスリットに挿通する部分の少なくとも一部は挿通方向に対して直角方向に折り曲げ可能な第1の折り曲げ部であり、前記絶縁部材のうち前記第2のスリットに挿通する部分の少なくとも一部は挿通方向に対して直角方向に折り曲げ可能な第2の折り曲げ部であり、前記第1の折り曲げ部を折り曲げて前記第1のスリットに挿通し、前記第2の折り曲げ部を折り曲げて前記第2のスリットに挿通し、挿通した後に前記第1の折り曲げ部と前記第2の折り曲げ部の折り曲げが戻ることで前記絶縁部材が前記第1のスリットや前記第2のスリットから挿通方向とは反対方向に抜けることを抑制するものである。
【0010】
また、本発明のプリント基板の絶縁構造が、上記に加えて、絶縁部材のうち第1のスリットや第2のスリットに挿通しない部分のうち少なくとも一部が、前記第1のスリットから前記第2のスリットまでの間で、かつ、第1の折り曲げ部や第2の折り曲げ部が位置する側のプリント基板の面とは反対側の面に位置することで、前記絶縁部材が挿通方向に抜けることを抑制するものである。
【0011】
また、本発明のプリント基板の絶縁構造が、上記に加えて、第1の折り曲げ部と第2の折り曲げ部は、弾性変形により折り曲げが戻るものである。
【0012】
また、本発明のプリント基板の絶縁構造が、上記に加えて、第1のスリットは略コの字形状であり、第2のスリットは略L字形状をつなぎ合わせた形状としたものである。
【0013】
また、本発明の電気機器は、上記絶縁構造を有するプリント基板を備えたものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、プリント基板に設けたスリットに挿通した絶縁部材により、プリント基板の導電体間の絶縁を確保することができる。
【0015】
特に、開口部を有する筐体を備えた電気機器の内部に設けられたプリント基板において、電気機器の外部から電気機器の内部に侵入した導電性物質に対し、プリント基板のスリットに挿通した絶縁部材により、プリント基板の導電体間の絶縁を確保することができる。
【0016】
また、絶縁部材により長い沿面距離を確保でき、絶縁性を維持した安全性の高い電気機器を提供することが可能となる。
【0017】
また、簡単な絶縁構造としているため、半導体素子やプリント基板の装着後に簡単に絶縁部材を電気機器内に固定することができ、電気機器の製造に関して高い生産効率を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施の形態1におけるヒートシンクと半導体素子とプリント基板と絶縁部材からなる構造体を示す斜視図
【図2】実施の形態1におけるヒートシンクに半導体素子を装着した状態を示す斜視図
【図3】実施の形態1におけるヒートシンクと半導体素子とプリント基板とからなる構造体を示す斜視図
【図4】実施の形態1における第1のスリットと第2のスリットを備えたプリント基板を示す斜視図
【図5】実施の形態におけるヒートシンクと半導体素子とプリント基板からなる構造体に絶縁部材を挿入する前の状態を示す斜視図
【図6】実施の形態1におけるプリント基板へ挿入する前の絶縁部材の状態を示す斜視図
【図7】実施の形態1におけるプリント基板へ挿入した後の絶縁部材の状態を示す斜視図
【図8】実施の形態1における絶縁部材をプリント基板へ挿入した後の状態を示すプリント基板下側から見た斜視図
【図9】実施の形態1における絶縁部材を取り付けたプリント基板を溶接装置に取り付けた状態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図1から図9を用いて説明する。
【0020】
(実施の形態1)
詳細は後述するが、図1は、ヒートシンク9と、第1の半導体素子5から第4の半導体素子8までの4つの半導体素子と、プリント基板2と、絶縁部材1を2つ組み合わせた構造体であり、例えば、溶接装置等の電気機器の内部に設けられて使用されるものである。
【0021】
次に、図1の構造体の組み立てについて、図2から図8を用いて説明する。
【0022】
図2は、放熱機能を有するヒートシンク9に、第1の半導体素子5から第4の半導体素子8までの4つの半導体素子を装着した状態を示す斜視図である。なお、これらの半導体は動作することにより発熱するものである。
【0023】
次に、図3は、図2の状態において、第1の半導体素子5から第4の半導体素子8までの4つの半導体素子に1枚のプリント基板2を取り付けた状態を示す斜視図である。なお、各半導体素子は、導電部としてのネジ部と、ネジ部と螺合するネジ穴部を備えている。また、プリント基板2には、図4に示すように、半導体素子のネジ部を挿通するための穴が複数設けられている。そして、各半導体素子のネジ部を取り外した状態で半導体素子の上にプリント基板2を配置し、この状態で半導体素子のネジ部を半導体素子のネジ穴部に螺合させることで、プリント基板2を各半導体素子に取り付ける。
【0024】
次に、図5は、図3の状態において、各半導体素子の導電部の絶縁を強化するための絶縁部材1を取り付ける前の状態を示している。
【0025】
ここで、プリント基板2には、図4で示すように、絶縁部材1の一部を挿通するための第1のスリット3と第2のスリット4が設けられている。第1のスリット3は、略L字形状を2つ繋げた略Z字形状の貫通穴である。また、第2のスリット4は、略コの字形状の貫通穴である。図4では、第1のスリット3と第2のスリット4とを各々2つ設けた例を示している。
【0026】
また、図6と図7は、絶縁部材1を示す図である。図7は、絶縁部材1の定常状態の形状を示している。図6は、絶縁部材1の一部である折り曲げ部10を折り曲げた状態を示している。なお、この折り曲げ部10の折り曲げ方向は、後述する絶縁部材1をプリント基板2の第1のスリット3と第2のスリット4に挿通する方向に対して直角の方向である。また、絶縁部材1の折り曲げ部10は弾性変形するものであり、力を加え続けて折り曲げ部10を折り曲げた状態を示す図6の状態から、折り曲げ部10を折り曲げた状態とする力を除くと、折り曲げ部10が弾性変形して図7に示す定常状態となる。
【0027】
そして、図6に示すように絶縁部材1の折り曲げ部10を折り曲げた状態で、折り曲げ部10を含む絶縁部材1の一部をプリント基板2の第1のスリット3と第2のスリット4に挿通する。
【0028】
プリント基板2の第1のスリット3と第2のスリット4を通り抜けた絶縁部材1の折り曲げ部10は、弾性変形により折り曲げが戻ることで図7に示す定常状態となる。
【0029】
プリント基板2の第1のスリット3と第2のスリット4に絶縁部材1を挿通した状態で、プリント基板2の下面側、すなわち、プリント基板2の絶縁部材1の折り曲げ部10が存在する側からプリント基板2を見た状態を図8に示す。図8に示すように、プリント基板2の第1のスリット3と第2のスリット4を通り抜けた絶縁部材1の折り曲げ部10が弾性変形により折り曲げが戻ることにより、絶縁部材1がプリント基板2への挿通方向とは反対方向に抜けることを防ぐことができる。
【0030】
また、絶縁部材1のうちで第1のスリット3や第2のスリット4に挿通しない部分のうち少なくとも一部が、第1のスリット3から第2のスリット4までの間で、かつ、2つの折り曲げ部10が位置する側のプリント基板2の面とは反対側の面に位置することで、絶縁部材1がプリント基板2への挿通方向に抜けることを防ぐことができる。
【0031】
このように、本実施の形態によれば、絶縁部材1を安定して保持することができ、安定して絶縁を確保することができる。
【0032】
なお、図1は、図5の状態から絶縁部材1をプリント基板2に取り付けた状態を示している。
【0033】
次に、図1で示す構造体を備えた電気機器の一例として、溶接を行うために溶接出力を行う溶接装置を例にして説明する。
【0034】
図9は溶接装置の外観図である。説明のため、溶接装置内に設けられたプリント基板2と絶縁部材1が見えるように側面破断部12を設けている。図9において、溶接装置の筐体には、溶接装置内を冷却するための開口部11が設けられている。溶接装置内に設けられた図示しない冷却ファンの動作により、溶接装置内に開口部11を通って冷却風が取り込まれる。なお、冷却風が取り込まれると同時に、導電性の粉塵等が開口部11から溶接装置内に進入し、プリント基板2の近傍に堆積する場合もある。
【0035】
しかし、本実施の形態の溶接装置によれば、プリント基板2に関して上述した絶縁構造を有している。従って、溶接装置の外部から溶接装置の内部に侵入した導電性物質に対し、プリント基板2に設けられた第1のスリット3や第2のスリット4に挿通した絶縁部材1により、プリント基板2の導電体間の絶縁を確保することができる。
【0036】
また、絶縁部材1により長い沿面距離を確保でき、絶縁性を維持した安全性の高い溶接装置を提供することが可能となる。
【0037】
また、簡単な絶縁構造としているため、半導体素子5から半導体素子8やプリント基板2を溶接装置に装着後でも、簡単に絶縁部材1を溶接装置内のプリント基板2に固定することができ、溶接装置の製造に関して高い生産効率を維持することができる。
【0038】
このように、簡単な構成で安定した絶縁を実現することができ、生産時の組み立て容易性や電気機器のメンテナンス時の作業容易性を悪化させることなく絶縁性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明によれば、絶縁を安定して行うことができるプリント基板の絶縁構造を実現することができ、例えば、この絶縁構造を備えたプリント基板を有する電気機器においては、電気機器内に侵入した導電性物質が堆積しても絶縁性を維持できるため、電気機器の安全性を向上することができ、特に導電性物質が多い環境で使用する電気機器およびその内部で用いるプリント基板の絶縁・防振構造として産業上有用である。
【符号の説明】
【0040】
1 絶縁部材
2 プリント基板
3 第1のスリット
4 第2のスリット
5 第1の半導体素子
6 第2の半導体素子
7 第3の半導体素子
8 第4の半導体素子
9 ヒートシンク
10 折り曲げ部
11 開口部
12 側面破断部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体素子が取り付けられており前記半導体素子の端子の近傍に設けられたスリットを有するプリント基板と、前記プリント基板のスリットに挿通され前記半導体素子の端子間の絶縁を行う絶縁部材を備え、前記絶縁部材のうち前記スリットに挿通する部分の少なくとも一部は挿通方向に対して直角方向に折り曲げ可能な折り曲げ部であり、前記折り曲げ部を折り曲げて前記スリットに挿通し、挿通した後に前記折り曲げ部の折り曲げが戻ることで、前記絶縁部材が前記スリットから挿通方向とは反対方向に抜けることを抑制するプリント基板の絶縁構造。
【請求項2】
第1の半導体素子と第2の半導体素子が取り付けられており前記第1の半導体素子の端子の近傍に設けられた第1のスリットと前記第2の半導体素子の端子の近傍に設けられた第2のスリット有するプリント基板と、前記プリント基板の前記第1のスリットおよび前記第2のスリットに挿通され前記第1の半導体素子の端子間および前記第2の半導体素子の端子間の絶縁を行う絶縁部材を備え、前記絶縁部材のうち前記第1のスリットに挿通する部分の少なくとも一部は挿通方向に対して直角方向に折り曲げ可能な第1の折り曲げ部であり、前記絶縁部材のうち前記第2のスリットに挿通する部分の少なくとも一部は挿通方向に対して直角方向に折り曲げ可能な第2の折り曲げ部であり、前記第1の折り曲げ部を折り曲げて前記第1のスリットに挿通し、前記第2の折り曲げ部を折り曲げて前記第2のスリットに挿通し、挿通した後に前記第1の折り曲げ部と前記第2の折り曲げ部の折り曲げが戻ることで前記絶縁部材が前記第1のスリットや前記第2のスリットから挿通方向とは反対方向に抜けることを抑制するプリント基板の絶縁構造。
【請求項3】
絶縁部材のうち第1のスリットや第2のスリットに挿通しない部分のうち少なくとも一部が、前記第1のスリットから前記第2のスリットまでの間で、かつ、第1の折り曲げ部や第2の折り曲げ部が位置する側のプリント基板の面とは反対側の面に位置することで、前記絶縁部材が挿通方向に抜けることを抑制する請求項2記載のプリント基板の絶縁構造。
【請求項4】
第1の折り曲げ部と第2の折り曲げ部は、弾性変形により折り曲げが戻る請求項2または3記載のプリント基板の絶縁構造。
【請求項5】
第1のスリットは略コの字形状であり、第2のスリットは略L字形状をつなぎ合わせた形状である請求項2から4のいずれか1項に記載のプリント基板の絶縁構造。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の絶縁構造を有するプリント基板を備えた電気機器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−64615(P2012−64615A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−205125(P2010−205125)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】