説明

プリント配線板及びその製造方法

【課題】インクジェット法により低粘度のソルダーレジストインキを用いても、導体層の角部分からソルダーレジストインキが流れることがなく、導体層の角部分のソルダーレジスト層を所望の厚さに維持する。
【解決手段】プリント基板の製造方法は、基板(1)上に、圭角部分(2a)を有する導体層(2)を形成する工程と、この工程の後に導体層の圭角部分を湾曲形状(2b)とする工程と、この工程の後にインクジェット法により、基板上及び導体上の少なくとも前記湾曲形状部分(2b)を含む箇所にソルダーレジストインキを塗布してソルダーレジスト層(3)を形成する工程とを備え、湾曲形状にする工程は、湾曲形状部分の曲率半径rを導体層の厚さhに対して(1/3)h以上としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導体層(例えば導体回路パターン)を形成した基板上に、インクジェット法によりソルダーレジストインキを塗布する方法及びこの方法により得られるプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
導体回路パターンなどの導体層を形成した基板上に、インクジェット法によりソルダーレジストインキを塗布する方法は周知である。例えば、特開昭56−66089号公報、特開昭56−157089号公報、特開昭58−50794号公報、特公昭59−41320号公報、特開平8−28863号公報参照。
【0003】
インクジェット法を用いて基板上にソルダーレジストインキを塗布する場合、低粘度のソルダーレジストインキを用いる。しかし、ソルダーレジストインキの粘度が低いと導体層の角の部分でソルダーレジストインキが流れて、ここの部分のソルダーレジスト層の被覆厚さが非常に薄くなり、場合によっては被着されずに露出してしまう問題がある。このような場合、所望の特性のプリント配線板を得ることができない。
【0004】
すなわち、インクジェット法以外で塗布する場合、インキの性状が異なり、このような問題は起きていない。例えば、ソルダーレジストの塗布で最も一般的なスクリーン印刷法ではインキは高粘度であり、チクソトロピック(thixotropic)性を持たせることにより、回路に追従した塗布ができ、その結果、導体層の角部分で充分な厚みを持たせることが可能である。また、比較的低粘度のインキが必要となるスプレーコート法やカーテンコート法でも充分なチクソトロピック性を持たせることで、塗布装置内のインキを流動させ、このことにより低粘度を保つことができ、その結果、詰まり等の問題なく塗布することができる。そして、このインキは、基板に塗布された状態では流れが止まるので、導体層の角の部分でも充分な厚みを持たせることが可能である。
【0005】
これに対し、インクジェット法は印刷ヘッド内でインキが滞留する箇所を作り、ピエゾ素子による振動やヒーターによるインキの突沸を利用して噴射させる。このため、他の方法よりも低粘度のインキが必要であり、また、チクソトロピック性を持ったインキでは塗布性に問題が生じてしまい、インクジェット法に適用することはできない。
【0006】
このようなインクジェット法特有の問題に対して、導体層の角部分に、多量のソルダーレジストインキを付着させる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、この方法でも、ソルダーレジストインキが低粘度であるために角部分から流れてしまい、本質的な解決とはいえない。
【特許文献1】特開平8−28863号公報、特許請求の範囲、図面など
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、インクジェット法により低粘度、かつチクソトロピック性の低いソルダーレジストインキを用いても、導体層の角部分からソルダーレジストインキが流れることがなく、導体層の角部分のソルダーレジスト層を所望の厚さに維持することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明は以下の構成を備えている。
【0009】
(1)基板上に、圭角部分を有する導体層を形成する工程と、この導体層を形成する工程の後に導体層の圭角部分を湾曲形状にする工程と、この湾曲形状にする工程の後にインクジェット法により、導体層を形成した基板上にソルダーレジストインキを塗布してソルダーレジスト層を形成する工程とを備えたプリント配線板の製造方法であって、
湾曲形状にする工程は、湾曲形状部分の曲率半径rを導体層の厚さhに対して(1/3)h以上とすることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【0010】
(2)導体層の圭角部分を湾曲形状にする工程は、湾曲形状部分の曲率半径rを導体層の厚さhに対して(1/3)h≦r≦hの範囲とすることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板の製造方法。
【0011】
(3)基板と、基板上の導体層と、導体層を形成した基板上にインクジェット法により塗着されたソルダーレジスト層とを備え、前記導体層の角部分は、曲率半径rが導体層の厚さhに対して(1/3)h以上の湾曲形状をなしていることを特徴とするプリント配線板。
【0012】
ここで「圭角部分」とは、角張った(湾曲形状でない)角部分を意味し、エッチングあるいはめっき等の処理により導体層の角部に必然的に形成される。
【0013】
「湾曲形状」は、バフ研磨やソフトエッチング(プリント配線板の製造工程の中で、薄いエッチング液などを用いて、銅箔表面の酸化物などを取り除く処理)などの処理により形成可能な湾曲形状を意味し、数学的に厳密な半径rの円弧を意味するものではない。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、導体層の角部分を予め湾曲形状にしてからインクジェット法によりソルダーレジストインキを塗布するので、ソルダーレジストインキが低粘度であっても、角部分からソルダーレジストインキが流れることがなく、導体層の角部分のソルダーレジスト層を所望の厚さに維持することができ、信頼性の高いプリント配線板を効率よく製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(1)基板上に、圭角を有する導体層を形成する工程(図1(A)参照)
基板(1)は、従来公知の任意のものを使用することができる。例えば、ガラス布にエポキシ樹脂やポリイミド樹脂等の樹脂を含浸させたものや、セラミックやフェノール樹脂の基体の上に、導体層として、金、銀、銅、白金、アルミニウム等の金属を設けた基板が挙げられる。
【0016】
この基板上に、導体回路パターンなどの導体層(2)に相当するレジストのパターンを形成した後、エッチングあるいはめっき等の処理により導体層(2)を形成する。この導体層の材質は通常銅である。
【0017】
(2)導体層の圭角部分を湾曲形状とする工程(図1(B)参照)
エッチングあるいはめっき等の処理により形成された導体層(2)は、圭角部分(2a)(角部、エッジ部と称される部分)が角張っており、丸みをおびていない。本発明では、バフ研磨やソフトエッチングなどで圭角部分を削り、そこに丸みを持たせる。
【0018】
湾曲形状(丸みの程度)は、その曲率半径rが導体層の厚さhに対して(1/3)h以上,好ましくは(1/3)h≦r≦2hの範囲とするのがよく、より好ましくは(1/2)h≦r≦hの範囲とするのがよい。従来のクリーニングを目的としたバフ研磨では小さすぎ、この場合には、圭角部に丸みを持たせる効果が薄くソルダーレジストインキが流れやすくなる。他方、研磨が多すぎてもその効果は飽和し、また、導体層の削り量が多くなり圭角部分を削る作業性が悪くなり、更に、回路の断面積が小さくなることにより、回路の信頼性が低下するので好ましくない。
【0019】
(3)インクジェット法により、導体層を形成した基板上にソルダーレジストインキを塗布してソルダーレジスト層を形成する工程(図1(C)参照)
インクジェット法は、従来公知の方法をそのまま適用することができ、その処理条件も従来公知の方法を使用することができる。ソルダーレジストインキ組成についても、硬化物がソルダーレジストとしての特性があれば特に限定されることなく使用することができる。
【0020】
このようなインクジェット法に用いられるソルダーレジストは、インクジェットプリンタの種類によっては、印刷ヘッド部を加温できることから、塗布時の粘度(印刷ヘッドの温度における粘度)が約20mPa・s以下で、チクソトロピックインデックス(T・I値)が、1.20以下、好ましくは1.15〜1.0であることが好ましい。チクソトロピックインデックスが高すぎるとインクジェットプリンタのノズルの詰まりが発生しやすくなるので、好ましくない。
【0021】
なお、チクソトロピックインデックス(T・I値)は、BL型粘度計の6rpm値を60rpm値で割った値を示す。
【0022】
常温(25℃)で150mPa・s以下の粘度であれば加温することにより塗布時にこの条件を満足することができる。
【0023】
このようなソルダーレジストとしては、例えば、インクジェットプリンタで塗布後、熱処理により硬化する熱硬化タイプ、インクジェットプリンタで塗布後、紫外線等の活性エネルギー線で硬化する光硬化タイプ、さらに、インクジェットプリンタで塗布後、紫外線等の活性エネルギー線で仮硬化した後、熱処理により、本硬化する光硬化性・熱硬化性タイプなどが挙げられる。
【0024】
具体的には、特開2005−120141号公報記載のカチオン重合性モノマーとカチオン重合開始剤からなる耐熱性のある組成物や特開2005−68280号公報記載の酸無水物と環状エーテル基を有する液状の化合物と光反応性希釈剤と光重合開始剤からなる耐熱性のある組成物などが挙げられる。
【0025】
より具体的には、下記一般式(1)で示されるビスアリルナジイミド化合物、或いは
【0026】
【化1】

【0027】
(式中、Rは、炭素数2〜18のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。)
下記一般式(2)で示されるビスマレイミド化合物を、
【0028】
【化2】

【0029】
(式中、Rは、炭素数2〜32のアルキル基、アリール基、又はアラルキル基を示す。)
溶剤や反応性希釈剤により粘度調整した組成物などが挙げられる。
【0030】
このようなインクジェット用ソルダーレジストインキは、導体層を形成した基板上にインクジェットプリンタで塗布した後、組成にあった好適な方法により硬化する。紫外線等の活性エネルギー線硬化タイプの場合は、紫外線等の活性エネルギー線を照射し光硬化させる。また、加熱硬化タイプの場合は100〜200℃、好ましくは140〜180℃で、10〜60分、熱硬化する。紫外線等の活性エネルギー線硬化と加熱硬化の併用の場合はソルダーレジストインキを塗布した後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して仮硬化を行い、100〜200℃、好ましくは140〜180℃で、10〜60分、熱硬化する。
【0031】
上記インクジェットプリンタとしては、オンデマンド・ピエゾ方式のインクジェットプリンタが好適に用いられ、ノズルを室温、又は約60℃以下に加温して塗布することができる。
【0032】
また、前記活性エネルギー線の照射光源としては、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、キセノンランプ又はメタルハライドランプなどが適当であり、レーザー光線なども活性エネルギー線として利用できる。
【実施例】
【0033】
以下、本発明の実施例等により具体的に説明するが本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下において特に断りのない限り、「部」は質量部を意味するものとする。
【0034】
銅箔厚35μmのFR−4銅張り積層板にエッチング法で100μm幅の直線ラインの回路パターンを形成して、厚み35μm、幅100μmの直線回路を形成した基板を作成し、これを試験片1とした。
【0035】
銅箔厚18μmのFR−4銅張り積層板にエッチング法で100μm幅の直線ラインの回路パターンを形成して、厚み18μm、幅100μmの直線回路を形成した基板を作成し、これを試験片2とした。
【0036】
丸善石油化学社製ビスアリルナジイミド(製品名BANI−X)4質量部、ケイアイ化成社製ビスマレイミド(製品名BMI−80)1質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート5質量部を配合して撹拌溶融させてソルダーレジストインキを作成した。
【0037】
実施例1
試験片1を、バフ番定♯600ついで♯1000のバフ研磨を行なうプリント配線板用バフ研磨機に30回通してクリーニングと同時に回路パターンの角を丸めた。次にピエゾ方式のインクジェットプリンタによりソルダーレジストインキをインキ厚み20μmになるように全面均一に塗布して、160℃、30分間加熱して硬化させた。
【0038】
実施例2
試験片1を、バフ番定♯600ついで♯1000のバフ研磨を行なうプリント配線板用バフ研磨機に60回通してクリーニングと同時に回路パターンの角を丸めた。次にピエゾ方式のインクジェットプリンタによりソルダーレジストインキをインキ厚み20μmになるように全面均一に塗布して、160℃、30分間加熱して硬化させた。
【0039】
実施例3
試験片2を、バフ番定♯600ついで♯1000のバフ研磨を行なうプリント配線板用バフ研磨機に15回通してクリーニングと同時に回路パターンの角を丸めた。次にピエゾ方式のインクジェットプリンタによりソルダーレジストインキをインキ厚み10μmになるように全面均一に塗布して、160℃、30分間加熱して硬化させた。
【0040】
比較例1
試験片1を、バフ番定♯600ついで♯1000のバフ研磨を行なうプリント配線板用バフ研磨機に3回通してクリーニングを行った。次にピエゾ方式のインクジェットプリンタによりソルダーレジストインキをインキ厚み20μmになるように均一に塗布して、160℃、30分間加熱して硬化させた。
【0041】
なお、通常は、バフ研磨回数は一回であるが、かなり汚染されていることを想定して比較例1では3回行なった。
【0042】
比較例2
試験片1を、バフ番定♯600ついで♯1000のバフ研磨を行なうプリント配線板用バフ研磨機に15回通してクリーニングを行った。次にピエゾ方式のインクジェットプリンタによりソルダーレジストインキをインキ厚み20μmになるように均一に塗布して、160℃、30分間加熱して硬化させた。
【0043】
比較例3
試験片2を、特にひどく汚染されていることを想定して上記プリント配線板用バフ研磨機に5回通してクリーニングを行った。次にピエゾ方式のインクジェットプリンタによりソルダーレジストインキを全面にインキ厚み10μmになるように均一に塗布して、160℃、30分間加熱して硬化させた。
【0044】
上記実施例、比較例で得られた各試験片の特性を、下記の評価方法に基づいて調べた。
【0045】
また、これら、実施例及び比較例に係る試験片をそれぞれ切断して、光学顕微鏡により観察して回路パターンの角の湾曲度合(曲率半径)を測定した。
【0046】
(評価方法)
耐酸性
試験片を、10vol%の塩酸に10分間浸漬した後、セロハン粘着テープによるピーリング試験を行った後の塗膜状態を評価した。
【0047】
○:全く変化が認められないもの
×:全面的な剥れはないがパターンの際部(角部分)に剥れが観察される。
【0048】
はんだ耐熱性
試験片を、260℃のはんだ槽に10秒間浸漬後、セロハン粘着テープによるピーリング試験を行った後の塗膜状態を評価した。
【0049】
○:全く変化が認められないもの
×:全面的な剥れはないがパターンの際部に剥れが観察される。
【0050】
無電解金めっき耐性
試験片を、市販の無電解ニッケルめっき浴及び無電解金めっき浴を用いて、ニッケル0.6μm、金0.03μmのめっき被膜を形成した。その後、セロハン粘着テープによるピーリング試験により、硬化塗膜の剥れの有無やめっきのしみ込みの有無を評価した。
【0051】
○:全く変化が認められないもの
×:全面的な剥れはないがパターンの際部に剥れが観察される。
【0052】
これらの測定結果、評価結果を表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
表1から、本発明の範囲内に角を丸めた実施例1〜3は、耐酸性、耐熱性、無電解金めっき耐性がいずれも優れているが、角を十分には丸めていない比較例1〜3は、これらの
特性がいずれも劣っていることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明の一実施態様を示す工程説明図で、(A)は基板上に、圭角を有する導体層を形成する工程を示し、(B)は導体層の圭角部分を湾曲形状とする工程を示し、(C)はインクジェット法により基板上及び導体上にソルダーレジストインキを塗布する工程を示す。
【符号の説明】
【0056】
1…基板
2…導体層
2a…導体層の圭角部分
2b…導体層の湾曲形状とした角部分
3…ソルダーレジスト層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、圭角部分を有する導体層を形成する工程と、この導体層を形成する工程の後に導体層の圭角部分を湾曲形状にする工程と、この湾曲形状にする工程の後にインクジェット法により、導体層を形成した基板上にソルダーレジストインキを塗布してソルダーレジスト層を形成する工程とを備えたプリント配線板の製造方法であって、
湾曲形状にする工程は、湾曲形状部分の曲率半径rを導体層の厚さhに対して(1/3)h以上とすることを特徴とするプリント配線板の製造方法。
【請求項2】
導体層の圭角部分を湾曲形状にする工程は、湾曲形状部分の曲率半径rを導体層の厚さhに対して(1/3)h≦r≦hの範囲とすることを特徴とする請求項1記載のプリント配線板の製造方法。
【請求項3】
基板と、基板上の導体層と、導体層を形成した基板上にインクジェット法により塗着されたソルダーレジスト層とを備え、前記導体層の角部分は、曲率半径rが導体層の厚さhに対して(1/3)h以上の湾曲形状をなしていることを特徴とするプリント配線板。

【図1】
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【公開番号】特開2008−4820(P2008−4820A)
【公開日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−174003(P2006−174003)
【出願日】平成18年6月23日(2006.6.23)
【出願人】(591021305)太陽インキ製造株式会社 (327)
【Fターム(参考)】