説明

プリント配線板用基板およびプリント配線板ならびにプリント配線板用基板の製造方法

【課題】導電層の剥離強度の低下を抑制することのできるプリント配線板用基板およびプリント配線板ならびにプリント配線板用基板の製造方法を提供することにある。
【解決手段】プリント配線板用基板1は、絶縁性基材10と、この絶縁性基材10に積層された第1導電層21と、この第1導電層21に積層された第2導電層24とを含む。第1導電層21は、金属粒子22Aと、第1導電層21に含まれる金属および金属イオンの拡散を抑制する金属不活性剤とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板およびプリント配線板ならびにプリント配線板用基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の母材であるプリント配線板用基板は、絶縁性基材の表面に第1導電層を形成し、この第1導電層に第2導電層を積層することにより、形成される。第1導電層は、無電解めっきや真空蒸着により形成されている。これら以外の方法としては、特許文献1に記載されているようにスパッタリング法により第1導電層を形成する方法もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3570802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、第1導電層の形成方法として、導電性粒子を含有した導電性インクを塗布する方法が提案されている。しかし、この方法により形成された第1導電層の剥離強度の持続性については改善の余地がある。
【0005】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導電層の剥離強度の低下を抑制することのできるプリント配線板用基板およびプリント配線板ならびにプリント配線板用基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記目的を達成するための手段およびその作用効果について記載する。
(1)請求項1に記載の発明は、絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板において、前記第1導電層は、導電性を有する金属粒子と、同層に含まれる金属および金属イオンの少なくとも一方の拡散を抑制する金属不活性剤とを含むことを要旨とする。
【0007】
プリント配線板用基板を放置したり高温に晒したりすると、第1導電層の金属が絶縁性基材にまで拡散して、絶縁性基材を通して侵入してきた酸素に接して酸化する。この結果、絶縁性基材と第1導電層との間に金属酸化膜が形成される。金属酸化膜は絶縁性基材と第1導電層との接着力を低下させるため、プリント配線板用基板の剥離強度が低下する。
【0008】
上記発明では、第1導電層内に金属不活性剤を含めている。金属不活性剤は、金属および金属イオンのいずれかまたはその両方の拡散を抑制し、金属および金属イオンを同第1導電層内に留め、酸素と接触する機会を少なくする。これにより、金属酸化物の形成が抑制され、金属および金属イオンのいずれかまたは両方の拡散に伴う絶縁性基材に対する第1導電層の剥離強度の低下が抑制される。
【0009】
(2)請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のプリント配線板用基板において、前記第1導電層は、前記金属粒子と前記金属不活性剤とを含む導電性インクの塗布により形成されていることを要旨とする。
【0010】
導電性インクの塗布作業は真空環境下で行う必要がない。このため、上記発明によれば、スパッタリング法や真空蒸着法により第1導電層を形成する場合と異なり、真空装置を用いることなく同層を形成することができる。
【0011】
(3)請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のプリント配線板用基板において、前記第1導電層内の前記金属粒子に対する前記金属不活性剤の質量比は、1/1000〜1/10であることを要旨とする。
【0012】
金属粒子に対する金属不活性剤の質量比が、1/1000未満であるとき、金属または金属イオンの拡散を抑制するために十分な量ではないため、剥離強度の低下を抑制する効果が小さい。一方、金属粒子に対する金属不活性剤の質量比が、1/10よりも大きいとき、絶縁性基材と第1導電層との接着力を阻害するようになるため、絶縁性基材と第1導電層との間の接着力を小さくする。
【0013】
上記発明によれば、金属粒子に対する金属不活性剤の質量比を、1/1000〜1/10としているため、絶縁性基材と第1導電層との間の剥離強度を確保しつつ、かつ金属または金属イオンの拡散に伴う剥離強度の低下を抑制することができる。
【0014】
(4)請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板において、前記金属粒子は、同金属粒子の母材である金属イオンと、この金属イオンを還元する還元剤と、前記金属イオンおよび前記還元剤の少なくとも一方に配位する錯化剤と、前記金属粒子を分散させる析出金属分散剤とを含む溶液中で、前記金属イオンを還元して析出させることにより形成されるものであることを要旨とする。
【0015】
析出金属分散剤は、溶液中に析出する金属粒子の凝集を抑制する。錯化剤としては、3価のチタンイオンおよび金属イオンの少なくとも一方に配位して、析出する金属粒子の粒径のばらつきを小さくするものが選択される。このため、上記製法により形成される金属粒子は、析出金属分散剤および錯化剤のいずれか一方または両方が含まれない溶液中で形成される金属粒子と比べて、粒径のばらつきが小さい。従って、上記発明によれば、第1導電層の表面を平滑とし、かつ、第1導電層を緻密なものとすることができる。
【0016】
(5)請求項5に記載の発明は、請求項4に記載のプリント配線板用基板において、前記還元剤は3価のチタンであることを要旨とする。
3価のチタンは、他の金属、例えばコバルトまたは鉄に比べると、溶液中の金属イオンを効率的に還元する。また、酸化したチタン、すなわち4価のチタンを電解により効率的に還元することができ、チタンを再利用することができる。このようなことから、上記発明によれば、他の遷移金属により還元して形成される金属粒子を含むプリント配線板用基板よりも、プリント配線板用基板の量産性を高いものとすることができる。
【0017】
(6)請求項6に記載の発明は、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板において、前記金属粒子の粒は、1nm以上500nm以下であることを要旨とする。
【0018】
金属粒子が1nm未満のとき、金属粒子同士の凝集作用が増大するため結果的に金属粒子の粒径が大きくなるとともに粒径のばらつきも大きくなる。金属粒子の粒子径が500nmよりも大きいとき、この金属粒子により層を形成したときに金属粒子同士間の隙間が大きくなる。一方、上記発明では、粒子径が1nm以上500nm以下である金属粒子により第1導電層が形成されているため、粒子径が1nm未満の金属粒子を含む導電性インク、または500nmより大きい金属粒子を含む導電性インクを用いて形成された第1導電層によりも緻密な層とすることができる。
【0019】
(7)請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板において、前記金属粒子は銅により形成され、前記金属不活性剤は、N,N−ビス(2−エチルへキシル)−[(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチル]アミン、N,N−ビス(2−エチルへキシル)−(4または5)−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、3−(n−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、およびデカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、ベンゾイミダゾール、イミダゾール化合物ならびにこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種であることを要旨とする。
【0020】
これら金属不活性剤は銅および銅イオンの少なくとも一方の拡散を抑制する。この発明によれば、第1導電層に金属不活性剤が含まれるため、銅または銅イオンの拡散が抑制される。この結果、絶縁性基材に含まれる酸素と銅または銅イオンとが接触する機会が少なくなり、銅酸化物の形成が抑制され、第1導電層と絶縁性基材との間の剥離強度の低下が抑制される。
【0021】
(8)請求項8に記載の発明は、請求項1〜7のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板において、前記金属粒子は銅により形成され、前記第2導電層は銅めっきにより形成されていることを要旨とする。
【0022】
絶縁性基材と第1導電層との剥離強度を向上するためのプリント配線板用基板の製造方法として次のような方法がある。第1導電層をニッケル粒子等により形成し、第2導電層を銅により形成する。しかし、この製法により形成されたプリント配線板用基板に導電パターンを形成する場合、第1導電層と第2導電層との材質が異なるため、層別に異なる条件でエッチングする必要がある。このため、第1導電層と第2導電層との材質が同質であるものと比較して、パターン形成の工数が多くなる。この点、本発明によれば、第1導電層に金属不活性剤を含めるとともに、第1導電層と第2導電層をともに銅により形成しているため、パターン形成の工数が増加しない。
【0023】
(9)請求項9に記載の発明は、エッチングにより形成された導電パターンを有するプリント配線板において、母材が請求項1〜8のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板であることを要旨とする。
【0024】
この発明によれば、プリント配線板は金属不活性剤を含むプリント配線板用基板1を母材としているため、金属不活性剤を含まないプリント配線板用基板を用いて形成したプリント配線板よりも、高温処理等をした後の導電パターンの剥離強度の低下を抑制することができる。
【0025】
(10)請求項10に記載の発明は、絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板の製造方法において、前記絶縁性基材の積層面に、金属粒子と、金属および金属イオンの少なくとも一方を不活性にする金属不活性剤とを含有する導電性インクを前記積層面に塗布することにより前記第1導電層を形成する第1導電層形成工程と、前記第1導電層形成工程の後に、前記第1導電層の上に前記第2導電層を形成する第2導電層形成工程とを含むことを要旨とする。
【0026】
この発明によれば、導電性インクを塗布し、溶媒を蒸発し、金属粒子を焼結することで第1導電層を形成することができる。このため、真空蒸着法またはスパッタリング法により絶縁性基材の表面に第1導電層を形成するものと比較して、製造工程を簡単なものとすることができる。
【0027】
(11)請求項11に記載の発明は、絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板の製造方法において、前記絶縁性基材の積層面に、金属粒子と、金属および金属イオンの少なくとも一方を不活性にする金属不活性剤とを含有する導電性インクを前記積層面に塗布することにより前記第1導電層を形成する第1導電層形成工程と、前記第1導電層形成工程の後に無電解めっきをすることにより前記第1導電層に無電解めっき層を形成する無電解めっき工程と、前記無電解めっき工程の後に、前記無電解めっき層の上に前記第2導電層を形成する第2導電層形成工程とを含むことを要旨とする。
【0028】
この発明によれば、第1導電層形成工程の後に無電解めっきを行って第1導電層に無電解めっき層を形成する。これにより、第1導電層が形成されたときに生じる金属粒子同士の空隙を無電解めっきのめっき金属により埋めることができるため、第1導電層を緻密にすることができる。
【0029】
(12)請求項12に記載の発明は、絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板の製造方法において、前記絶縁性基材の積層面に、金属粒子を含有する導電性インクを前記積層面に塗布し、金属粒子を焼結することにより、前記第1導電層としての金属粒子層を形成する第1層形成工程と、前記第1層形成工程後、金属粒子層22の上に、金属不活性剤を塗布する不活性剤塗布工程と、前記不活性剤塗布工程の後、無電解めっきをすることにより前記金属粒子層の上に無電解めっき層を形成する無電解めっき工程と、前記無電解めっき工程の後に、前記無電解めっき層の上に前記第2導電層を形成する第2導電層形成工程とを含むことを要旨とする。
【0030】
この発明によれば、絶縁性基材に導電性インクの塗布し、金属粒子を焼結し、その後、金属粒子層に金属不活性剤を塗布することで、金属不活性剤を含む導電層(第1導電層)を形成することができる。
【0031】
また、金属粒子層の焼結後に金属不活性剤を塗布するため、金属粒子の焼結の際の加熱により金属不活性剤が分解することを考慮して同不活性剤を選択する必要がない。このため、金属不活性剤の選択の幅が広がる。
【0032】
(13)請求項13に記載の発明は、請求項10〜12のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板の製造方法において、前記導電性インクの溶媒として極性溶媒を用いるとともに、前記第1導電層形成工程の前に、前記絶縁性基材の積層面を親水化処理することを要旨とする。
【0033】
この発明によれば、導電性インクを塗布する前に絶縁性基材の積層面を親水化処理するため、導電性インクが絶縁性基材の積層面上で、斑状に寄り集まることを抑制することができる。これにより、導電性インクを絶縁性基材に斑なく塗布することができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、導電層の剥離強度の低下を抑制することのできるプリント配線板用基板およびプリント配線板ならびにプリント配線板用基板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一実施形態のプリント配線板用基板の断面構造を示す断面図。
【図2】同実施形態のプリント配線板用基板について、同基板の製造方法の手順を示すフローチャート。
【図3】同実施形態のプリント配線板用基板について、その剥離強度の測定方法を模式的に示す模式図。
【図4】同実施形態のプリント配線板用基板の実施例と比較例との剥離強度を比較したテーブル。
【発明を実施するための形態】
【0036】
図1を参照して本発明のプリント配線板用基板の一実施形態について説明する。
<プリント配線板用基板>
プリント配線板用基板1は、絶縁性基材10と、絶縁性基材10の一方の面(以下、「積層面10A」)に形成される第1導電層21と、第1導電層21の上に積層される第2導電層24とを含む。なお、以降では、第1導電層21と第2導電層24とを含めて導電層20とする。
【0037】
絶縁性基材10は、絶縁性の板材または絶縁性のフィルムにより形成される。例えば、板材としては、紙フェノール板、紙エポキシ板が挙げられる。フィルムとしてはポリイミドフィルムが挙げられる。
【0038】
第1導電層21は、金属粒子22Aにより形成されている金属粒子層22と、無電解めっき法により形成されている無電解めっき層23とを含む。金属粒子22Aの直径(以下、「粒子径」)は1〜500nmに範囲内にある。金属粒子層22の層厚は、0.001〜0.5μmの範囲内とされる。金属粒子22Aは銅により形成されている。金属粒子22Aとして、Cu以外に、Ag、Au、Pt、Pd、Ru、Sn、Ni、Fe、Co、Ti、Inの金属粒子22Aを用いてもよい。
【0039】
なお、金属粒子22Aの粒子径を1〜500nmとしているが、同粒子径は30〜100nmに範囲内とすることが好ましい。この場合、金属粒子層22の層厚を、金属粒子22Aの粒子径を1〜500nmに範囲内としたものに比べて均一にすることができる。
【0040】
金属粒子層22には、金属不活性剤が含まれる。金属不活性剤とは、金属および金属イオンのいずれかまたは両方の拡散を抑制する物質をいう。金属不活性剤は、金属および金属イオンと錯体を形成することにより、金属および金属イオンの容積を大きくして、導電層内での拡散を行いにくくする。
【0041】
金属不活性剤としては、N,N−ビス(2−エチルへキシル)−[(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチル]アミン、N,N−ビス(2−エチルへキシル)−(4または5)−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、3−(n−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、およびデカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド(以下、「金属不活性剤A」)、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール化合物が挙げられる。なお、これらの金属不活性剤および、これら金属不活性剤の混合物よりなる群から1または数種類を選択したものを、金属不活性剤として用いることもできる。特に、金属不活性剤Aは、耐熱性が高く、第1導電層21の形成のときの焼結温度下でも分解しないため、好適である。
【0042】
金属粒子22Aの量に対する金属不活性剤の量との比は、質量比で、1/1000〜1/10とされている。この質量比は実験的に求められる値であり、特に、銅粒子に対して金属不活性剤Aを用いるときに、上記質量比とすることが好ましい。
【0043】
無電解めっき層23は、金属粒子22A同士の間の空隙をめっき金属で埋めて、金属粒子層22の表面を平滑化する。無電解めっき層23の層厚は、絶縁性基材10の積層面10Aを基準面とし、0.05μm〜2.0μmとされる。無電解めっきの材料として、Cu、Ag、Ni等が挙げられる。
【0044】
金属粒子22Aが銅粒子の場合、当該銅粒子との密着性の観点からCuまたはNiが好ましい。ただし、プリント配線板用基板1を母材とするプリント配線板のエッチング工程を考慮すると、金属粒子層22と無電解めっき層23と第2導電層24との材料を同一とすることが好ましい。すなわち、金属粒子層22と無電解めっき層23と第2導電層24とが異種の金属により形成されているとき、プリント配線板用基板1を母材としてプリント配線板を形成する際、エッチング工程において層ごとに異なるエッチング条件で行うことが必要となるため、工程が複雑になる。一方、金属粒子層22を銅粒子で形成し、無電解めっき層23を銅とし、第2導電層24を銅により形成したときは、同じ条件で金属粒子層22と無電解めっき層23と第2導電層24とをエッチングすることができる。
【0045】
第2導電層24は、Cu等の電気めっきにより形成される。また第2導電層24の層厚は第1導電層21の層厚よりも大きい。例えば、第2導電層24の層厚は、1μm〜数十μmとされる。この層厚は、プリント配線板用基板1の用途に応じて適宜設定される。
【0046】
<プリント配線板用基板の製造方法>
図2を参照して、本発明のプリント配線板用基板1の製造方法について説明する。
絶縁性基材10として、ロールに巻かれた連続材または所定の寸法の板材が用いられる。連続材が用いられるとき、連続材の一部をロールから引き出した状態で各処理が行われる。板材が用いられるときは、板材を自動搬送して各処理が行われる。
【0047】
まず、ステップS100において、絶縁性基材10の表面処理(親水化処理)が行われる。表面処理の方法としては、プラズマにより絶縁性基材10に金属結合官能基を形成するプラズマ処理、アルカリ性水溶液に絶縁性基材10を浸漬することにより金属結合官能基を形成するアルカリ処理がある。また、コロナ放電により対象物の表面を改質するコロナ処理、紫外線により対象物の表面を改質するUV処理により、表面処理を行うこともできる。
【0048】
プラズマ処理としては、アルゴン雰囲気下で対象物の表面を改質するアルゴンプラズマ、酸素雰囲気下で対象物の表面を改質する酸素プラズマが挙げられる。例えば、表面処理により、絶縁性基材10の表面と導電性インクの溶媒との接触角(以下、「水接触角」)が60°以下にされる。
【0049】
次に、絶縁性基材10に第1導電層21を形成する。
第1導電層21の形成工程(第1導電層形成工程)には、導電性インクを絶縁性基材10に塗布する塗布工程と、導電性インクの乾燥工程と、金属粒子22Aを焼結する熱処理工程と、無電解めっき層23を形成する無電解めっき工程とが含まれる。
【0050】
導電性インクは、金属粒子22Aと、上記金属不活性剤と、溶媒と、溶媒に金属粒子22Aを分散させる粒子分散剤とを含む。溶媒として例えば水が用いられる。水以外にも、エタノール等の揮発性溶媒または水と揮発性溶媒の混合液を用いることができる。金属粒子22Aの大きさは、上記に示したように粒子径が1〜500nmとされている。導電性インク内の金属不活性剤の量は、上記に示したように、金属粒子22Aの量との関係で決められる。すなわち、金属粒子22Aに対する金属不活性剤の量は、質量比で、1/1000〜1/10とされる。
【0051】
金属粒子22Aを分散する粒子分散剤としては、例えば、分子量が2000〜10万の高分子分散剤が用いられる。これは次の理由による。分子量が2000未満の高分子分散剤を用いると、溶媒中に金属粒子22Aを均一に分散させることができないことがある。分子量が100,000より大きい高分子分散剤を用いると、導電性インクの乾燥後にも金属粒子22A同士の間に残り、その後の熱処理工程における金属粒子22A同士の結合が阻害される場合がある。
【0052】
具体的には、粒子分散剤として、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系の高分子分散剤、またポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース等の分子中にカルボン酸基を有する炭化水素系の高分子分散剤等が用いられる。
【0053】
ステップS110の塗布工程では、ローラにより、導電性インクを絶縁性基材10に塗布する。塗布方法は、ロールコート法に限定されない。例えば、スピンコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、スリットコート法、ディップコート法等の方法を用いることができる。また、スクリーン印刷またはディスペンサによる印刷を用いることにより、絶縁性基材10の一部に導電性インクを塗布することができる。
【0054】
ステップS120の乾燥工程では、導電性インクに含まれる水を蒸発させる。例えば、大気圧、60℃の環境下において所定時間保持する。これにより導電性インクの水が蒸発して、金属粒子22Aが薄い層となって絶縁性基材10に残留する。
【0055】
ステップS130の熱処理工程では、金属粒子22Aを焼結するとともに、金属粒子22Aおよび金属不活性剤以外の有機物(以下、「残留有機物」)を除去する。残留有機物としては、導電性インクに含まれる粒子分散剤が挙げられる。熱処理は、金属粒子22Aの酸化を抑制する雰囲気下で行われる。例えば、酸素濃度を1000ppm以下の雰囲気下で熱処理される。また、還元雰囲気下、例えば水素雰囲気下で熱処理してもよい。
【0056】
ところで、熱処理温度は、絶縁性基材10の耐熱温度を考慮して設定される。例えば、絶縁性基材10としてポリイミドフィルムが用いられているときは、ポリイミドフィルムの耐熱温度よりも低い500℃以下で熱処理が行われる。また、残留有機物を除去する必要があるため、熱処理温度は、同残留有機物が分解除去される温度の下限温度である150℃よりも高い温度に設定される。以上の理由により、熱処理温度は、150℃〜500℃の温度範囲とされる。
【0057】
次に、ステップS140において、金属粒子層22の表面に無電解めっきをする。これにより、金属粒子22A同士の間の空隙をめっき金属により埋めて、金属粒子層22の表面に緻密な無電解めっき層23を形成する。
【0058】
次に、ステップS150(第2導電層形成工程)において、電気めっき法により、無電解めっき層23の上に第2導電層24を形成する。平坦な無電解めっき層23の上に第2導電層24が形成されるため、第2導電層24の表面も平坦になる。第2導電層24の層厚はプリント配線板用基板1の用途により設定される。
【0059】
(金属粒子)
導電性インクに用いられる金属粒子22Aの製造方法について説明する。
金属粒子22Aは、チタン還元法により形成される。チタン還元法では、Tiイオンの酸化により溶媒中に溶解している金属イオンを析出させる。これにより、粒状の金属粒子22Aを形成される。具体的には、pH調整剤と錯化剤と析出金属分散剤と金属イオンとを含む水溶液(以下、「金属イオン水溶液」)中で3価のチタンを4価のチタンに酸化することにより水溶液中の金属イオンを還元して、金属粒子22Aを析出させる。
【0060】
なお、錯化剤としては、3価のチタンイオンおよび金属イオンの少なくとも一方に配位して、析出する金属粒子22Aの粒径のばらつきを小さくするものが選択される。例えば、錯化剤として、クエン酸三ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酢酸ナトリウム等が用いられる。
【0061】
上記析出金属分散剤は、金属イオン水溶液に析出する金属粒子22Aを溶液中で分散させる。チタン還元法により析出する粒子は十数nm以下であるため、金属粒子22Aは溶液中で凝集する。このような凝集の発生を抑制するものとして析出金属分散剤が用いられる。析出金属分散剤としては、例えば、1分子中にポリエチレンイミン部分とポリエチレンオキサイド部分とを有する共重合体(以下、「イミンオキサイド共重合体」)、または、ポリエチレンイミン、ポリビニルピロリドン等のアミン系分散剤、またはカルボキシメチルセルロース等のカルボン酸基を有する炭化水素系分散剤等が用いられる。特に、上記イミンオキサイド共重合体は、溶液中での金属粒子22Aの凝集を抑制するとともに、金属粒子22Aの平均粒子径を小さくかつ粒子のばらつきを小さくする。
【0062】
本実施形態に係るプリント配線板用基板1の実施例と、これと対比する比較例について説明する。
<実施例1>
(材料)
・絶縁性基材10として、ポリイミドフィルム(製品名カプトン(登録商標)EN−S)を用いる。
・導電性インクは、溶媒を水とし、粒子径40nmの銅粒子(金属粒子)を粒子分散剤により分散し、銅濃度を8質量%とし、金属不活性剤としての金属不活性剤A(デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド)の量を銅粒子の量に対し質量比で1/100として、調整される。
【0063】
(製造条件)
・ポリイミドフィルムを窒素ガス雰囲気下で30分間にわたってプラズマ処理を行う。
・プラズマ処理後、ポリイミドフィルムの表面にローラにより導電性インクを塗布する。なお、導電性インクの塗布厚は、同インクを熱処理した後において金属粒子層22の層厚が0.1μmとなるように設定されている。導電性インクを塗布した後、60℃で10分間、大気圧条件下で乾燥する。
・乾燥工程後のポリイミドフィルムを窒素雰囲気下(酸素濃度100ppm以下)、350℃で30分間、熱処理をする。
・熱処理工程後、金属粒子層22の表面に、厚さ0.2μmとなるように銅の無電解めっきを行う。
・無電解めっき工程後、銅の電気めっきを行い、銅めっき(第2導電層24)の層厚を12μmとする。
【0064】
(試料評価)
ポリイミドフィルムと導電層20との間の剥離強度を次の剥離試験方法により、計測する。
・試料の形成直後に、当該試料の剥離強度を計測する。
・試料を大気圧下かつ温度150℃の恒温槽に投入し、168時間放置(以下、「高温処理」)した後、恒温槽から試料を取り出し、剥離強度を計測する。
【0065】
図3を参照して、剥離強度の測定方法を説明する。まず、試料を、ポリイミドフィルムを下側にして剛性のある基礎台に貼り付ける。次に、ポリイミドフィルムから導電層20の一部を剥がし、導電層20を引き剥がすための把持部20Aを設ける。そして、把持部20Aを180度剥離方向に向けて、引っ張り速度50mm/minにて引っ張りつつ、剥離強度を測定する。なお、180度剥離方向とは、絶縁性基材10と、この絶縁性基材10から剥がされた導電層20との間の角度が180度となる方向を示す。そして、上記の方法により剥離強度を計測した結果、6N/cm以上であるとき、剥離強度は良好とし、6N/cm未満のとき剥離強度不足と判定する。
(結果)
・試料形成後のプリント配線板用基板1の剥離強度は、8N/cmであった。剥離強度は良好。
・高温処理後のプリント配線板用基板1の剥離強度は、8N/cmであった。剥離強度は良好。
【0066】
<実施例2>
(材料)
・絶縁性基材10は実施例1と同じ。
・導電性インクは、溶媒を水とし、粒子径40nmの銅粒子(金属粒子)を粒子分散剤により分散し、銅濃度を8質量%とし、金属不活性剤としての金属不活性剤Aの量を銅粒子の量に対して質量比で1/1000として、調整される。
【0067】
(製造条件)
・実施例1と同じ。
(試料計測方法)
・実施例1と同様。
(結果)
・試料形成後のプリント配線板用基板1の剥離強度は、8N/cmであった。剥離強度は良好。
・高温処理後のプリント配線板用基板1の剥離強度は、8N/cmであった。剥離強度は良好。
【0068】
<比較例1>
(材料)
・絶縁性基材10は実施例1と同じ。
・導電性インクは、溶媒を水とし、粒子径40nmの銅粒子(金属粒子)を粒子分散剤により分散し、銅濃度を8質量%とし、金属不活性剤としての金属不活性剤Aの量を銅粒子の量に対して質量比で1/1として、調整される。
【0069】
(製造条件)
・実施例1と同じ。
(試料計測方法)
・実施例1と同様。
(結果)
・試料形成後のプリント配線板用基板1の剥離強度は、2N/cmであった。剥離強度は不足。
・高温処理後のプリント配線板用基板1の剥離強度は、1N/cmであった。剥離強度は不足。
【0070】
<比較例2>
(材料)
・絶縁性基材10は実施例1と同じ。
・導電性インクは、溶媒を水とし、粒子径40nmの銅粒子(金属粒子)を粒子分散剤により分散し、銅濃度を8質量%として調整される。なお、金属不活性剤としての金属不活性剤Aを用いていない。
【0071】
(製造条件)
・実施例1と同じ。
(試料計測方法)
・実施例1と同様。
(結果)
・試料形成後のプリント配線板用基板1の剥離強度は、8N/cmであった。剥離強度は良好。
・高温処理後のプリント配線板用基板1の剥離強度は、1N/cmであった。剥離強度は不足。
【0072】
<実施例と比較例との対比>
図4を参照して、実施例および比較例を比較する。
実施例1および実施例2に示すように、銅粒子(金属粒子)の量に対する金属不活性剤Aの量の比率が1/100、1/1000のときは、試料形成直後の剥離強度および高温処理後の剥離強度はともに良好である。また、第1実施例の試料および第2実施例の試料はともに高温処理後において導電層20と絶縁性基材10との間に金属酸化膜は形成されていない。なお、実施例としては挙げていないが、銅粒子の量に対する金属不活性剤Aの量の比率が1/10においても、試料形成直後の剥離強度および高温処理後の剥離強度は、良好であった。
【0073】
一方、比較例3に示すように、銅粒子の量に対する金属不活性剤Aの量の比率が1であるとき、試料成形直後の剥離強度および高温処理後の剥離強度が小さくなる。これは、銅粒子と絶縁性基材10との間に入り込む金属不活性剤Aが増大して、銅粒子と絶縁性基材10との接着力を阻害するためであると考えられる。
【0074】
比較例4に示すように、金属不活性剤Aを含まない導電性インクにより形成した試料は、試料形成直後の剥離強度は、良好である。これは、金属不活性剤Aによる銅粒子と絶縁性基材10との間の接着力の阻害がないためと考えられる。しかし、高温処理後の剥離強度は低い。比較例4の試料では、導電層20と絶縁性基材10との間に銅酸化膜が形成されている。剥離試験の結果では、銅酸化膜の部分で、導電層20が絶縁性基材10から剥離している。
【0075】
以上のことから、金属不活性剤A(デカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド)に代表される金属不活性剤は次のような作用をすると考えられる。プリント配線板用基板1において、金属不活性剤は、金属粒子22Aの表面および絶縁性基材10の表面に存在する。プリント配線板用基板1の高温処理が行われたとき、金属粒子22Aおよび無電解めっき層23から金属または金属イオンが拡散する。金属不活性剤がない場合は、金属または金属イオンは、絶縁性基材10を通して侵入した酸素と接触して酸化する。これによって、第1導電層21と絶縁性基材10との間に金属酸化膜が形成される。この結果、絶縁性基材10に対する第1導電層21の剥離強度が低下する。
【0076】
これに対し、本実施形態のプリント配線板用基板1では、第1導電層21内の金属不活性剤が、金属または金属イオンの少なくとも一方と結合して、金属または金属イオンの拡散を抑制する。このため、金属または金属イオンが、第1導電層21と絶縁性基材10と境界面または絶縁性基材10の内部に侵入することが抑制される。これにより、金属および金属イオンが酸素と接触し酸化反応する頻度が少なくなり、第1導電層21と絶縁性基材10との間の金属酸化膜の形成が抑制されて、絶縁性基材10に対する第1導電層21の剥離強度の低下が抑制される。
【0077】
本実施形態によれば以下の作用効果を奏することができる。
(1)上記実施形態では、第1導電層21は、導電性を有する金属粒子22Aと、第1導電層21に含まれる金属および金属イオンの少なくとも一方の拡散を抑制する金属不活性剤とを含む。
【0078】
プリント配線板用基板1を放置したり高温に晒したりすると、第1導電層21の金属が絶縁性基材10にまで拡散して、絶縁性基材10を通して侵入した酸素に接して酸化する。この結果、絶縁性基材10と第1導電層21との間に金属酸化膜が形成される。金属酸化膜は絶縁性基材10と第1導電層21との接着力を低下させるため、プリント配線板用基板1の剥離強度が低下する。
【0079】
上記構成では、第1導電層21内に金属不活性剤を含めている。金属不活性剤は、金属および金属イオンのいずれかまたはその両方の拡散を抑制し、金属および金属イオンを同第1導電層21内に留め、酸素と接触する機会を少なくする。これにより、金属酸化物の形成が抑制され、金属および金属イオンのいずれかまたはその両方の拡散に伴う絶縁性基材10に対する第1導電層21の剥離強度の低下が抑制される。
【0080】
(2)上記実施形態では、第1導電層21は、金属粒子22Aと金属不活性剤とを含む導電性インクの塗布により形成されている。
導電性インクの塗布作業は真空環境下で行う必要がない。このため、上記構成によれば、スパッタリング法や真空蒸着法により第1導電層21を形成する方法と異なり、真空装置を用いることなく第1導電層21を形成することができる。
【0081】
(3)上記実施形態では、第1導電層21内の金属粒子22Aに対する金属不活性剤の質量比は、1/1000〜1/10とされている。
金属粒子22Aに対する金属不活性剤の質量比が、1/1000未満であるとき、金属または金属イオンの拡散を抑制するために十分な量ではない。このため、剥離強度の低下を抑制する効果が小さい。一方、金属粒子22Aに対する金属不活性剤の質量比が、1/10よりも大きいとき、絶縁性基材10と第1導電層21との接着力を阻害するようになる。このため、絶縁性基材10と第1導電層21との間の接着力が小さくなる。
【0082】
上記構成によれば、金属粒子22Aに対する金属不活性剤の質量比を、1/1000〜1/10としているため、絶縁性基材10と第1導電層21との間の剥離強度(接着力)を確保しつつ、かつ金属または金属イオンの拡散に伴う剥離強度の低下を抑制することができる。
【0083】
(4)上記実施形態では、金属粒子22Aは、同金属粒子22Aの母材である金属イオンと、この金属イオンを還元する還元剤と、金属イオンおよび還元剤の少なくとも一方に配位する錯化剤と、金属粒子22Aを分散させる析出金属分散剤とを含む溶液中で、金属イオンを還元して析出させることにより形成されたものである。
【0084】
析出金属分散剤は、溶液中に析出する金属粒子22Aの凝集を抑制する。錯化剤は、金属イオンと錯体を形成することにより析出する金属粒子22Aの粒径のばらつきを小さくする。このため、上記製法により形成される金属粒子22Aは、析出金属分散剤および錯化剤のいずれか一方または両方が含まれない溶液中で形成される金属粒子22Aと比べて、粒径のばらつきが小さい。従って、上記構成によれば、第1導電層21の表面を平滑とし、かつ、第1導電層21を緻密なものとすることができる。
【0085】
(5)上記実施形態では、還元剤は3価のチタンを用いている。3価のチタンは、他の金属、例えばコバルトまたは鉄に比べると、溶液中の金属イオンを効率的に還元する。また、酸化したチタン、すなわち4価のチタンを電解により効率的に還元することができ、チタンを再利用することができる。このようなことから、上記構成によれば、他の遷移金属により還元して形成される金属粒子22Aを含むプリント配線板用基板1よりも、プリント配線板用基板1の量産性を高いものとすることができる。
【0086】
(6)上記実施形態では、金属粒子22Aの粒は、1nm以上500nm以下である。金属粒子22Aが1nm未満のとき、金属粒子22A同士の凝集作用が増大するため結果的に金属粒子の粒径が大きくなるとともに粒径のばらつきも大きくなる。金属粒子22Aの粒子径が500nmよりも大きいとき、この金属粒子22Aにより層を形成したときに金属粒子22A同士間の隙間が大きくなる。一方、上記構成では、粒子径が1nm以上500nm以下である金属粒子22Aにより第1導電層21が形成されているため、粒子径が1nm未満の金属粒子22Aを含む導電性インク、または500nmより大きい金属粒子22Aを含む導電性インクを用いて形成された第1導電層21によりも、緻密な層とすることができる。
【0087】
(7)上記実施形態では、金属粒子22Aは銅により形成されている。また、金属不活性剤は、N,N−ビス(2−エチルへキシル)−[(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチル]アミン、N,N−ビス(2−エチルへキシル)−(4または5)−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、3−(n−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、およびデカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、ベンゾイミダゾール等のイミダゾール化合物ならびにこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種が選択される。
【0088】
これら金属不活性剤は銅イオンの拡散を抑制する。上記構成によれば、第1導電層21に金属不活性剤が含まれるため、銅または銅イオンの拡散が抑制される。この結果、絶縁性基材10に含まれる酸素と銅または銅イオンとが接触する機会が少なくなり、銅酸化物の形成が抑制され、第1導電層21と絶縁性基材10との間の剥離強度の低下が抑制される。
【0089】
(8)上記実施形態では、金属粒子22Aは銅により形成され、第2導電層24は銅めっきにより形成されている。
絶縁性基材10と第1導電層21との剥離強度を向上するためのプリント配線板用基板1の製造方法として、次のような方法がある。まず、第1導電層21をニッケル粒子等により形成し、第2導電層24を銅により形成する。しかし、この製法により形成されたプリント配線板用基板1に導電パターンを形成する場合、第1導電層21と第2導電層24との材質が異なるため、層別に異なる条件でエッチングする必要がある。このため、第1導電層21と第2導電層24との材質が同質であるものと比較して、パターン形成の工数が多くなる。この点、上記構成によれば、第1導電層21に金属不活性剤を含めるとともに、第1導電層21と第2導電層24をともに銅により形成しているため、パターン形成の工数は増加しない。
【0090】
(9)上記実施形態に示す製造方法では、絶縁性基材10の積層面10Aに第1導電層21を形成する第1導電層形成工程と、第1導電層形成工程の後に、第1導電層21の上に第2導電層24を形成する第2導電層形成工程とを含む。上記第1導電層形成工程では、絶縁性基材10の積層面10Aに、金属粒子22Aと、金属不活性剤とを含有する導電性インクを積層面10Aに塗布し、導電性インクの溶媒を蒸発させる。
【0091】
この構成によれば、導電性インクを塗布し、溶媒を蒸発し、金属粒子22Aを焼結することにより、第1導電層21を形成することができる。このため、真空蒸着法またはスパッタリング法により絶縁性基材10の表面に第1導電層21を形成するものと比較して、製造工程を簡単なものとすることができる。
【0092】
(10)上記実施形態に示す製造方法では、上記第1導電層形成工程と、第1導電層21に無電解めっき層23を形成する無電解めっき工程と、無電解めっき工程の後に、無電解めっき層23の上に第2導電層24を形成する第2導電層形成工程とを含む。
【0093】
この構成によれば、第1導電層形成工程の後に無電解めっきを行って第1導電層21に無電解めっき層23を形成する。これにより、第1導電層21が形成されたときに生じる金属粒子22A同士の空隙をめっき金属により埋めることができるため、第1導電層21を緻密にすることができる。
【0094】
(11)上記実施形態に示す製造方法では、導電性インクの溶媒として極性溶媒を用いるとともに、第1導電層形成工程の前に絶縁性基材10の積層面10Aを親水化処理する。
【0095】
この構成によれば、導電性インクを塗布する前に絶縁性基材10の積層面10Aを親水化処理するため、導電性インクが絶縁性基材10の積層面10A上で、斑状に寄り集まることを抑制することができる。これにより、導電性インクを絶縁性基材10に斑なく塗布することができる。
【0096】
(その他の実施形態)
なお、本発明の実施態様は上記各実施例にて示した態様に限られるものではなく、これを例えば以下に示すように変更して実施することもできる。また以下の各変形例は、上記各実施例についてのみ適用されるものではなく、異なる変形例同士を互いに組み合わせて実施することもできる。
【0097】
・上記実施形態では、金属不活性剤として、金属および金属イオンの少なくとも一方の拡散を抑制するものを採用しているが、この性質に加えて、金属または金属イオンの酸化を抑制する防酸化作用の有するものを採用することもできる。
【0098】
・上記実施形態では、導電性インクに金属不活性剤を含めているが、次の方法により、金属不活性剤を塗布してもよい。すなわち、金属不活性剤を含まない導電性インクを絶縁性基材10に塗布する。その後、溶媒の蒸発および金属粒子22Aの焼結により、金属粒子層22を形成する(第1層形成工程)。その後、金属粒子層22の上に、金属不活性剤を塗布する(不活性剤塗布工程)。不活性剤塗布工程後の工程は、上記実施形態と同様である。このような製造方法によれば、金属不活性剤が金属粒子22Aを焼結する工程により分解することを考慮して金属不活性剤を選択する必要がないため、金属不活性剤の選択の幅が広がる。
【0099】
・上記実施形態では、プリント配線板用基板1の製造方法において、絶縁性基材10を表面処理しているが、導電性インクの絶縁性基材10に対する濡れ性が高く、導電性インクが斑なく塗布されるとき場合は、この表面処理工程を省略することができる。
【0100】
・上記実施形態では、導電性インクを塗布して金属粒子層22を形成した後、電解めっきを行う前に無電解めっきを行っているが、この無電界めっきを省略することもできる。
・上記実施形態では、金属粒子22Aはチタン還元法により形成しているが、これ以外の方法により金属粒子22Aを形成してもよい。例えば、ボールミル等の粉砕機により金属粉を粉砕する方法、レーザで対象金属を蒸発させて金属粒子22Aを形成するレーザ法等を用いることができる。
【0101】
・上記実施形態では、絶縁性基材10の片面に導電層20が設けられたプリント配線板用基板1について本発明を適用しているが、絶縁性基材10の両面に導電層20が設けられたプリント配線板用基板1について本発明を適用することができる。
【0102】
・上記実施形態では、第1導電層21内に金属不活性剤を含むプリント配線板用基板1について説明した。プリント配線板用基板1は、セミアディティブ法またはサブトラクティブ法により導電パターンが形成されるプリント配線板の母材として用いられる。プリント配線板用基板1を母材として形成したプリント配線板は、プリント配線板用基板1の構成を有するため、プリント配線板用基板1と同様の効果を奏する。すなわち、このプリント配線板は、金属不活性剤を含まないプリント配線板用基板を用いて形成したプリント配線板よりも、高温処理後の導電パターンの剥離強度の低下を抑制することができる。
【符号の説明】
【0103】
1…プリント配線板用基板、10…絶縁性基材、10A…積層面、20…導電層、20A…把持部、21…第1導電層、22…金属粒子層、22A…金属粒子、23…無電解めっき層、24…第2導電層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板において、
前記第1導電層は、導電性を有する金属粒子と、同層に含まれる金属および金属イオンの少なくとも一方の拡散を抑制する金属不活性剤とを含む
ことを特徴とするプリント配線板用基板。
【請求項2】
請求項1に記載のプリント配線板用基板において、
前記第1導電層は、前記金属粒子と前記金属不活性剤とを含む導電性インクの塗布により形成されている
ことを特徴とするプリント配線板用基板。
【請求項3】
請求項1または2に記載のプリント配線板用基板において、
前記第1導電層内の前記金属粒子に対する前記金属不活性剤の質量比は、1/1000〜1/10である
ことを特徴とするプリント配線板用基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板において、
前記金属粒子は、同金属粒子の母材である金属イオンと、この金属イオンを還元する還元剤と、前記金属イオンおよび前記還元剤の少なくとも一方に配位する錯化剤と、前記金属粒子を分散させる析出金属分散剤とを含む溶液中で、前記金属イオンを還元して析出させることにより形成されるものである
ことを特徴とするプリント配線板用基板。
【請求項5】
請求項4に記載のプリント配線板用基板において、
前記還元剤は3価のチタンである
ことを特徴とするプリント配線板用基板。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板において、
前記金属粒子の粒は、1nm以上500nm以下である
ことを特徴とするプリント配線板用基板。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板において、
前記金属粒子は銅により形成され、
前記金属不活性剤は、N,N−ビス(2−エチルへキシル)−[(1,2,4−トリアゾール−1−イル)メチル]アミン、N,N−ビス(2−エチルへキシル)−(4または5)−メチル−1H−ベンゾトリアゾール−1−メチルアミン、3−(n−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、およびデカメチレンカルボン酸ジサリチロイルヒドラジド、ベンゾイミダゾール、イミダゾール化合物ならびにこれらの混合物からなる群より選択される少なくとも1種である
ことを特徴とするプリント配線板用基板。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板において、
前記金属粒子は銅により形成され、
前記第2導電層は銅めっきにより形成されている
ことを特徴とするプリント配線板用基板。
【請求項9】
エッチングにより形成された導電パターンを有するプリント配線板において、
母材が請求項1〜8のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板である
ことを特徴とするプリント配線板。
【請求項10】
絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板の製造方法において、
前記絶縁性基材の積層面に、金属粒子と、金属および金属イオンの少なくとも一方を不活性にする金属不活性剤とを含有する導電性インクを前記積層面に塗布することにより前記第1導電層を形成する第1導電層形成工程と、
前記第1導電層形成工程の後に、前記第1導電層の上に前記第2導電層を形成する第2導電層形成工程とを含む
ことを特徴とするプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項11】
絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板の製造方法において、
前記絶縁性基材の積層面に、金属粒子と、金属および金属イオンの少なくとも一方を不活性にする金属不活性剤とを含有する導電性インクを前記積層面に塗布することにより前記第1導電層を形成する第1導電層形成工程と、
前記第1導電層形成工程の後に無電解めっきをすることにより前記第1導電層に無電解めっき層を形成する無電解めっき工程と、
前記無電解めっき工程の後に、前記無電解めっき層の上に前記第2導電層を形成する第2導電層形成工程とを含む
ことを特徴とするプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項12】
絶縁性基材と、この絶縁性基材に積層された第1導電層と、この第1導電層に積層された第2導電層とを含むプリント配線板用基板の製造方法において、
前記絶縁性基材の積層面に、金属粒子を含有する導電性インクを前記積層面に塗布し、金属粒子を焼結することにより、前記第1導電層としての金属粒子層を形成する第1層形成工程と、
前記第1層形成工程後、金属粒子層22の上に、金属不活性剤を塗布する不活性剤塗布工程と、
前記不活性剤塗布工程の後、無電解めっきをすることにより前記金属粒子層の上に無電解めっき層を形成する無電解めっき工程と、
前記無電解めっき工程の後に、前記無電解めっき層の上に前記第2導電層を形成する第2導電層形成工程とを含む
ことを特徴とするプリント配線板用基板の製造方法。
【請求項13】
請求項10〜12のいずれか一項に記載のプリント配線板用基板の製造方法において、
前記導電性インクの溶媒として極性溶媒を用いるとともに、前記第1導電層形成工程の前に、前記絶縁性基材の積層面を親水化処理する
ことを特徴とするプリント配線板用基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−114152(P2012−114152A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−260177(P2010−260177)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】