説明

プリント配線板用熱融着性シート

【課題】高温下でも接着体に樹脂ダレや被着体ズレを生ぜず、金属や基板樹脂に対して接着性の良好なプリント配線板用熱融着性シートを提供する。
【解決手段】下記の共重合体(a)60〜85質量部に対して、グラフト成分(b)15〜40質量部をグラフト化して得られるグラフト共重合体を成形してなるプリント配線板用熱融着性シート
(a)非極性α−オレフィンまたは非極性共役ジエンである非極性単量体(a1)60〜95質量%と、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有無水カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸エステル、エチレン性不飽和結合含有アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の極性単量体(a2)5〜40質量%を共重合してなる共重合体
(b)非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)70〜95質量%と、2官能エチレン性不飽和単量体(b2)5〜30質量%からなるグラフト成分

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板に用いられる熱融着性シートに関する。より詳しくは、プリント配線板またはプリント配線板上に実装された半導体素子等の電子部品と、放熱板や補強材との間の接着固定に用いられる熱融着性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高度情報化社会の目覚ましい進展に伴い、電子材料にも一層の小型・軽量化、高性能・高機能型化、高信頼性が望まれつつある。半導体等の電子部品を実装したプリント配線板には、剛性や平面性を向上させるために補強板が積層されたり、電子部品の単位発熱量の増大を解消するために放熱板が積層されたりすることが多くなっている。これらの積層物を固定用には、生産性の点から、シート状の接着材料が主流になっている。シート状接着材料としては、アウトガス発生が少なくリペアが可能なため、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂の使用が望まれている。熱可塑性樹脂を用いた接着材料は一般に、接着剤シート単独あるいは保持フィルムと付随して用いられ、被着体間に挟まれたのち熱圧着されることで接着力が生じる、熱融着性シートとして用いられる。
【0003】
一方で、電子材料分野においては鉛フリーはんだの普及が浸透し、接着に要する加熱時間の延長や接着温度の上昇に伴い、電子部品と同様、熱融着性シートに対しても良好な耐熱性が求められつつある。従来のオレフィン系樹脂等の熱可塑性樹脂を用いた熱融着性シートを接着に用いる場合、熱硬化性樹脂を用いた熱融着性シートと比較して形状安定性に問題があった。形状安定性とは、接着後の熱融着性シートが、その軟化点以上の温度においても安定した形状を保持することを意味する。熱可塑性樹脂を用いた熱融着性シートは、被着体との熱圧着時に被着体端面のはみ出し(樹脂ダレ)が起きたり、ハンダリフロー作業等の工程温度下で圧力負荷された場合に被着体の位置の不整合(被着体ズレ)が起きたりしやすく、接着されたプリント配線板の信頼性に影響が生じかねない。
一般に、接着材料と被着体との間の接着力は、双方の極性による接着力、および投錨効果(溶融組成物が被着体表面の微小な凹凸に物理的に入り込むことによる接着効果)によって得られるとされている。熱融着性シートの場合、樹脂成分の極性成分を導入すると接着力は向上するが、同時に絶縁性の低下を招く。実用上の信頼性を確保するため、極性成分の導入量には自ずと限度がある。
【0004】
特許文献1には、非極性オレフィン系重合体セグメントとビニル系重合体セグメントからなるグラフト共重合体からなる熱接着性接着剤が、また特許文献2には、該グラフト共重合体にさらに粘着付与剤や熱可塑性エラストマーを添加した熱接着性接着剤組成物が開示されており、良好な接着性能と高い信頼性が示されている。しかしながら、これらの開示技術では、熱融着性シート用の材料としては先に述べた樹脂ダレや被着体ズレの問題を解決するには至っていない。
熱可塑性樹脂の一部を架橋して用いた熱融着性シートによって耐熱性を向上させる技術も知られるところである(例えば、特許文献3)が、この開示技術でも問題の解決は得られない。架橋構造の導入によって、樹脂の流動性は下がり形状安定性は向上するものの、同時に架橋により投錨効果も低下するので結果的に接着力は著しく下がってしまう。形状安定性の向上と高い接着力の維持は二律背反の関係にあるのである。
このように、実用上十分に高い接着強度を有しながら、高温における良好な形状保持性を有する熱融着性シートが望まれているのである。
【特許文献1】特開平8−225778号公報
【特許文献2】特開2006−89626号公報
【特許文献3】特開2005−248088号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高温下でも接着後の接着体に樹脂ダレや被着体ズレの問題が生ぜず、金属や基板樹脂に対して良好な接着性を有するプリント配線板用熱融着性シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の共重合体からなる被グラフト成分に対して、非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体と2官能エチレン性不飽和単量体からなるグラフト成分を特定比率でグラフト化して得られるグラフト共重合体を成形してなるプリント配線板用熱融着性シートが、前記の課題を解決しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は次の〔1〕である。
〔1〕下記の共重合体(a)60〜85質量部に対して、グラフト成分(b)15〜40質量部をグラフト化して得られるグラフト共重合体を成形してなるプリント配線板用熱融着性シート。
(a)非極性α−オレフィンまたは非極性共役ジエンである非極性単量体(a1)60〜95質量%と、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有無水カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸エステル、エチレン性不飽和結合含有アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の極性単量体(a2)5〜40質量%を共重合してなる共重合体
(b)非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)70〜95質量%と、2官能エチレン性不飽和単量体(b2)5〜30質量%からなるグラフト成分
【発明の効果】
【0008】
本発明により、高温下でも接着後の接着体に樹脂ダレや被着体ズレの問題が生ぜず、金属や基板樹脂に対して良好な接着性を有するプリント配線板用熱融着性シートが提供され、プリント配線板上の接着の用途に好適に使用することができ、電子機器の小型・軽量化、高性能・高機能型化、高信頼性化を達することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の最良と思われる実施形態について詳細に説明する。
本発明のプリント配線板用熱融着性シートは、以下に示す共重合体(a)に、グラフト成分(b)をグラフト化して得られるグラフト共重合体を成形してなる。
【0010】
<共重合体(a)> 本発明における共重合体(a)は、非極性単量体(a1)と極性単量体(a2)を共重合してなる。
<非極性単量体(a1)>
本発明に用いる非極性単量体(a1)は非極性α−オレフィンまたは非極性共役ジエンより選ばれる少なくとも1種の非極性単量体であり、分子中に極性官能基を有さない。
非極性単量体(a1)の非極性α−オレフィンの具体例としては、エチレン、プロピレン、ブテン、オクテン等が挙げられる。また非極性共役ジエンの具体例としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3ブタジエン等が挙げられる。非極性単量体(a1)は1種または2種以上を混合して用いることができる。
共重合体(a)中における非極性単量体(a1)の割合は60〜95質量%であり、好ましくは65〜93質量%である。この割合が95質量%よりも多い場合には、共重合体(a)は非極性α−オレフィン系重合体や非極性共役ジエン系重合体の特性を強く示し、また極性単量体比率の低下に伴い、極性の大きい被着体表面との分子間相互作用が低下するため、プリント配線板用熱融着性シートは極性の大きい表面に対する接着力が低下する。一方で60質量%よりも少ない場合には、溶融樹脂の張力が低下し樹脂が破断しやすくなったり、押出装置やカレンダーロール等フィルム化装置への樹脂粘着が著しくなったりするのでシート成形が困難となる。
【0011】
<極性単量体(a2)>
本発明に用いる極性単量体(a2)はエチレン性不飽和結合含有カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有無水カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸エステル、エチレン性不飽和結合含有アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の極性単量体である。
極性単量体(a2)は、分子中にエチレン性不飽和結合を有し、また本発明のプリント配線板用熱融着性シートが金属等の極性表面への接着力を発揮するため分子中に極性官能基を有する。極性官能基としては、後述の理由から、酸素を含有する官能基である酸無水物基、カルボキシル基、カルボン酸エステル基、ヒドロキシル基が挙げられ、すなわち極性単量体(a2)は、これらの官能基を有するエチレン性不飽和結合含有単量体、すなわちエチレン性不飽和結合含有カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有無水カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸エステル、エチレン性不飽和結合含有アルコールである。
エチレン性不飽和結合含有カルボン酸の具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸等が挙げられる。エチレン性不飽和結合含有無水カルボン酸の具体例としては、無水マレイン酸、無水コハク酸等が挙げられる。エチレン性不飽和結合含有カルボン酸エステルの具体例としては、グリシジルメタクリレート、エチルアクリレート、酢酸ビニル等が挙げられる。エチレン性不飽和結合含有アルコールの具体例としては、ビニルアルコール等が挙げられる。極性単量体(a2)は1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
本発明に用いる共重合体(a)成分とグラフト成分(b)とのグラフト共重合体において、(a)分子と(b)分子との極性に差異が生じることにより、両セグメントは分離しようとする方向に向かう。また、グラフト成分(b)については後述するが、グラフト成分は(b2)分子により(b1)分子が架橋された網目構造を呈する。(a)分子と(b)分子との間に極性の差が生じることにより、網目構造を形成した(b)成分は、(a)成分をマトリックス(海)とする中にドメイン(島)として相分離した状態で存在する。そして(a)分子と(b)分子との極性の差により相分離の程度が異なってくる。仮にこれらの極性がほぼ同程度であるとすると、両セグメントの相分離は殆ど起こらず、両セグメントがほぼ均質になる。すなわち網目構造と(a)成分が分かれずに入り混じった状態である。
一方で、上記の極性の差が適切な差を有することにより、両セグメントが相分離され、(a)をマトリックス成分、(b)をドメイン成分とする相分離構造を有するようになる。後述するが、熱負荷時に(a)成分は熱融解するものの、(b2)成分で架橋された(b)成分は網目構造を有するため、熱負荷によっても大きく軟化することはない。そのため微視的に見ると、プリント配線板用熱融着性シートの熱圧着時には(a)成分の流動が(b)成分により阻害されるため、巨視的にはプリント配線板用熱融着性シート組成物の流動性が低下し、そのためプリント配線板用熱融着性シートの形状安定性が良好であるという特徴を成す。また、網目構造と海・島構造を有することで、熱圧着時には(b)成分を掻き分けるように(a)成分が被着体表面に接触するために(b)成分でグラフト化されることによる被着体との接着力低下が打ち消されると推測される。
また、上記の極性の差がさらに大きくなると、両セグメントの相分離は顕著になり、ドメインのサイズが一層大きくなるため、プリント配線板用熱融着性シート組成物の流動性が殆ど無くなってしまう。
上述の極性単量体(a2)の有する極性官能基は適度に高い極性を有するために、上記の特定の(a1)成分および(b)成分とともにグラフト共重合体の形で用いることによって、樹脂や金属等の被着体の極性表面に、相互作用点が凝集することなく分散的に相互作用するために流動を伴う投錨効果が効果的に発現して、被着体との高い接着力が得られると推測される。
以上により、本発明のプリント配線板用熱融着性シートは良好な形状安定性というグラフト共重合に起因する性質と、良好な接着性という極性官能基に起因する性質とを併せ持つのである。
本発明に用いる共重合体(a)中における極性単量体(a2)の割合は5〜40質量%であり、好ましくは7〜35質量%である。この割合が5質量%よりも少ない場合には、共重合体(a)は非極性α−オレフィン系重合体や非極性共役ジエン系重合体の特性を強く示し、また極性単量体比率の低下に伴い、極性の大きい被着体表面との分子間相互作用が低下するため、プリント配線板用熱融着性シートは金属被着体等、極性の大きい表面に対する接着力が低下する。一方で40質量%よりも多い場合には、溶融樹脂の張力が低下し樹脂が破断しやすくなったり、押出装置やカレンダーロール等フィルム化装置への樹脂粘着が著しくひどくなったりしてシート成形が困難となる。
【0013】
<共重合体(a)中の(a1)、(a2)両成分>
共重合体(a)は(a1)成分と極性単量体(a2)成分の共重合体である。(a2)成分の効果、すなわちその極性により、諸々の被着体に対して良好な接着力を発揮する。(a)成分中における(a1)と(a2)の比率を調整することで被着体との接着性を調節できる。(a)成分の具体例としては、EGMA(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体)、EEA(エチレン−エチルアクリレート共重合体)、EMA(エチレン−メタクリル酸共重合体)、EVOH(エチレン−ビニルアルコール共重合体)、エチレン−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体、プロピレン−酢酸ビニル共重合体、プロピレン−グリシジルメタクリレート共重合体、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、エチレン−プロピレン−グリシジルメタクリレート共重合体等の非極性α−オレフィン含有共重合体、ブタジエン−メチルメタクリレート共重合体、ブタジエン−グリシジルメタクリレート共重合体等の非極性共役ジエン含有共重合体等が挙げられる。(a)成分は1種または2種以上を混合して用いることができる。
【0014】
<グラフト成分(b)>
本発明に用いるグラフト成分(b)は、(a)成分とグラフト共重合が可能であるビニル基を有する単量体であり、非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)と、2官能エチレン性不飽和単量体(b2)から構成される。
<非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)>
本発明に用いる非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)は、重合してセグメント化すると高いガラス転移温度(Tg)および分解開始温度を有するので、本発明のプリント配線板用熱融着性シートに高い熱安定性を付与する働きをする。非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)は、後述の(b2)成分により架橋構造(網目構造)を形成し、その架橋構造体が(a)成分との極性の差により、(a)成分をマトリックスとするドメインを形成させる。
本発明に用いる(b1)成分としては、具体的には、スチレン、α−メチルスチレン、α−エチルスチレン等のスチレン系単量体;2−ビニルトルエン等のビニルトルエン系単量体等が挙げられる。非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)は1種または2種以上を混合して用いることができる。
グラフト成分グラフト成分(b)中における非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)の割合は70〜95質量%であり、好ましくは75〜85質量%である。この割合が95質量%よりも多い場合は、上述の架橋構造の密度が低下しマトリックスとドメインの相分離が弱くなるため、溶融樹脂の張力が低下し、樹脂が破断しやすくシート成形が困難となったり、接着後の形状安定性が低下する。一方でこの割合が70質量%よりも少ない場合は、架橋構造の密度が顕著に高くなり、マトリックスとドメインの相分離が顕著となるため、樹脂が脆くなったり、流動性が著しく低下して押出が困難となったりしてシート成形が困難となり、また流動性が著しく低下することに起因して金属被着体等極性の大きい表面に対する接着力が低下する。
【0015】
<2官能エチレン性不飽和単量体(b2)>
2官能エチレン性不飽和単量体(b2)は(b1)成分を架橋させる分子構造を有する。(b)成分は2官能エチレン性不飽和単量体(b2)の分子により(b1)成分の分子同士が架橋された架橋構造(網目構造)をとり、さらに(b)成分が(a)成分にグラフト結合する。2官能エチレン性不飽和単量体(b2)と(b1)成分から形成される架橋構造の密度に起因して、2官能エチレン性不飽和単量体(b2)を含有しない場合と比べて組成物の軟化点を大きく上回る温度においても分子の熱運動が抑制される。このため、熱可塑性である本発明のプリント配線板用熱融着性シートの形状保持性を熱硬化性の接着シートに匹敵する程度まで著しく高めることができる。
2官能エチレン性不飽和単量体(b2)の具体例としては、ジビニルベンゼン等の芳香族系2官能エチレン性不飽和単量体;ジエチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート等の脂肪族系2官能エチレン性不飽和単量体が挙げられ、ガラス転移温度の向上の点からジビニルベンゼンが好ましく挙げられる。2官能エチレン性不飽和単量体(b2)は1種または2種以上を混合して用いることができる。
グラフト成分(b)中における2官能エチレン性不飽和単量体(b2)の割合は5〜30質量%であり、好ましくは15〜25質量%である。この割合が5質量%よりも少ない場合は、上述の架橋構造の密度が低下しマトリックスとドメインの相分離が弱くなるため、溶融樹脂の張力が低下し、樹脂が破断しやすくシート成形が困難となったり、接着後の形状安定性が低下する。一方でこの割合が30質量%よりも多い場合は、上述の架橋構造の密度が高くなりマトリックスとドメインの相分離が顕著となるため、樹脂が脆くなったり流動性が著しく低下して押出が困難となったりするのでシート成形が困難となり、また流動性が著しく低下することに起因して被着体との接触が十分に成されず、接着力が低下する。
【0016】
<グラフト共重合体>
本発明に用いるグラフト成分(a)成分に対して(b)成分をグラフト化して得られるグラフト共重合体は熱可塑性であり、かつ基板や金属等極性の異なる被着体に対し接着性を有するとともに、軟化点よりも高温下における形状安定性が良好である。
このグラフト共重合体は、(a)をマトリックス成分、(b)をドメイン成分とする相分離構造を有する。先述の通り、従来の熱可塑性樹脂を用いた接着シートと比較すると、本発明のプリント配線板用熱融着性シートは(b2)成分の架橋構造に起因して、高温における樹脂ダレ抑制効果といった巨視的な形状安定性は向上している。一方で、熱圧着時に上記の相分離構造におけるマトリックス成分が被着体表面の微小な凹凸に物理的に入り込むため、接着力の低下は無く、良好な接着力と良好な形状安定性の両立が可能となる。
さて、(a1)成分の重合体(ポリエチレン、ポリプロピレン等)単独と比較すると、(a1)成分と(a2)成分との共重合体(a)は必ずしも流動性が抑えられない。すなわち(a)の流動性を抑制するためには分子構造や重合条件等を制御する必要がある。そこで本発明のように、(a1)に対して特定の(a2)を特定比率共重合させてなる(a)に対し、特定の(b1)と(b2)を特定比率グラフト共重合させることにより、上述のように(a)と架橋構造を呈する(b)とが、その極性の差により相分離構造を呈する。この架橋構造と相分離構造とに起因して流動性が抑制され、形状安定性が良好となり、かつ良好な接着性をも両立できるのである。
【0017】
グラフト共重合体中における(a)成分の割合は60〜85質量%であり、好ましくは65〜80質量%である。この割合が85質量%より多い場合は、上述の相分離状態におけるドメインの密度が小さくなるため、グラフト共重合体は融点以上において高い流動性を示し、溶融樹脂の張力が低下するため、樹脂が破断しやすくシート成形が困難となり、また接着後の形状安定性が低下する。一方でこの割合が60質量%よりも少ない場合は、上述の相分離状態におけるドメインの密度が高くなるため、樹脂が脆くなったり、流動性が著しく低下して押出が困難となったりしてシート成形が困難となり、また流動性が著しく低下することに起因して被着体との接触が十分に成されず、接着力が低下する。
【0018】
グラフト共重合体の製造方法は、一般によく知られる含浸グラフト重合法、連鎖移動法、電離性放射線照射法等が挙げられる。これらの中で、作業安全面で優位かつ、グラフト効率が高く、熱による凝集が起き難いため性能が効果的に現れる含浸グラフト重合法が好ましい。本方法によるグラフト共重合体製造法は通常以下の通りである。(a)成分を水に懸濁させ、別途(b)成分にラジカル共重合性有機過酸化物を(b)成分100質量部に対して0.1〜10質量部と、10時間の半減期を得るための分解温度が40〜90℃であるラジカル重合開始剤を(b)成分およびラジカル共重合性有機過酸化物の合計100質量部に対して0.01〜5質量部を溶解させた溶液を加える。次いで、前記ラジカル共重合性有機過酸化物を(a)成分に含浸させる。その後、ラジカル重合開始剤の分解が実質的に起こらない温度にまでこの水性懸濁液を昇温させ、(b)成分およびラジカル共重合性有機過酸化物を(a)成分中で共重合させ、グラフト化前駆体を得る。このグラフト化前駆体を100〜300℃溶融下で混練し、目的のグラフト共重合体を得る。
【0019】
このようにして生成されたグラフト共重合体組成物には、本発明の目的を損ねない範囲において酸化防止剤、紫外線防止剤、難燃剤、着色剤、導電性フィラー、熱伝導性フィラー等の添加剤を添加して使用することができる。
【0020】
グラフト共重合体組成物の流動性の指標としてはMFR(メルトマスフローレイト)値がある。MFR値は好ましくは230℃、10kgf条件下で0.1〜25g/10分であり、より好ましくは0.2〜15g/10分である。MFR値が0.1g/10分未満であると、下記に示すTダイ法、インフレーション成形法、カレンダーロール成形法のシート成形にあたって樹脂の押出機内での流動性が不足するため、押出が困難となり装置故障のリスクが大きくなる。一方25g/10分を上回ると、溶融樹脂の張力が低下するため、樹脂が破断しやすくシート成形が困難となる。
【0021】
<プリント配線板用熱融着性シート>
本発明のプリント配線板用熱融着性シートは、上述のグラフト共重合体を成形して得られる。成型方法については、Tダイ法、インフレーション成形法、カレンダーロール成形法、プレス成形法等の方法を取ることができる。Tダイ法、インフレーション成形法、カレンダーロール成形法は加熱溶融樹脂を押出機で押し出し、それぞれ所定の方法にてフィルム成形させる。シート厚み制御の容易性の点からは、Tダイ法およびカレンダーロール成形法が好ましい。押出機を用いる際の温度、あるいはプレス成形時のプレス温度は、グラフト共重合体が十分に軟化し、かつ高温での熱分解が実用上問題とならない範囲で行えばよく、通常は接着シート組成物の軟化点よりも20℃以上高い温度であり、一般的には100〜250℃の範囲である。
このようにして成形されるプリント配線板用熱融着性シートを用いるための好ましい方法は、接着させる被着体間に接着シートを挟み込み熱圧着させる方法である。接着シート厚みは、通常20〜500μmであり、30〜300μmが好ましい。厚みが薄すぎるとシート成形が困難となり、被着体表面の微小な凹凸により接着シート組成物が被着体表面に満遍なく行き渡りにくくなり、接着強度が低下する。厚みが厚すぎると、接着後の形状安定性が低下する。
【0022】
本発明のプリント配線板用熱融着性シートは、金属、樹脂、繊維、セラミック、ガラス、導電性シリコンいずれにも実用上十分な接着力を示す。金属としては、アルミニウム、銅、真鍮、ステンレス、鉄、クロム等に使用できる。樹脂としてはエポキシ樹脂、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリオレフィン系グラフトポリマー、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等に使用できる。それゆえに本接着シートは極性の異なる異種材料間の接着にも好適に用いることができる。
【0023】
本発明のプリント配線板用熱融着性シートは、リジッド基板、FPC基板、積層基板等のプリント配線板や、それらのプリント配線板上に実装された半導体素子等の電子部品と、放熱板や補強材との間の接着固定に好適に用いることができる。
本発明のプリント配線板用熱融着性シートは通常、接着させる被着体(接着固定されるもの同士)間に本発明のプリント配線板用熱融着性シートを挟み込み、ハンドプレス成形機や真空プレス装置等の熱と圧力を同時に負荷できる装置を用いて熱圧着させ、所定時間経過後に常温まで冷却する方法を取る。
本発明のプリント配線板用熱融着性シートの厚みは、通常20〜500μmであり、30〜300μmが好ましい。厚みが薄すぎるとシート成形が困難となるし、被着体表面の微小な凹凸により本発明のプリント配線板用熱融着性シートのグラフト共重合体が被着体表面に満遍なく行き渡りにくくなり、接着強度を低下させる可能性が増す。一方で厚みが厚すぎると、接着後の形状安定性が低下する可能性が増す。
【0024】
被着体間に本発明のプリント配線板用熱融着性シートを挟み込み熱圧着させるときの温度は、通常100〜260℃であり、120〜240℃が好ましい。その温度が低すぎると接着強度の低下が問題となる可能性が増す。一方で、温度が高すぎると、本発明のプリント配線板用熱融着性シートのグラフト共重合体の熱分解が起こりやすくなり、接着部位の信頼性低下の可能性が増す。
被着体間に本発明のプリント配線板用熱融着性シートを挟み込み熱圧着させるときの圧力は、通常0.1〜20MPaであり、1〜15MPaが好ましい。その圧力が低すぎると接着強度の低下が問題となる可能性が増す。一方で圧力が高すぎると、被着体自体にもその圧力が負荷されるため、接着体が破壊される可能性が増す。
被着体間に本発明のプリント配線板用熱融着性シートを挟み込み熱圧着させるときの熱圧着時間は、通常1〜30分であり、2〜20分が好ましい。熱圧着時間が短すぎると接着強度の低下が問題となる可能性が増す。また熱圧着時間が長すぎると、グラフト共重合体の熱分解が起こりやすくなり、接着部位の信頼性低下の可能性が増す。
【実施例】
【0025】
以下に、参考例、実施例および比較例を挙げて前記実施形態をさらに具体的に説明する。例中の%は特に断らない限り質量%を示す。
まず、各例に用いたプリント配線板用熱融着性シートの評価方法を示す。
(プリント配線板用熱融着性シート組成物の流動性評価方法)
樹脂ペレット状のプリント配線板用熱融着性シート組成物について、230℃、10kgf荷重下におけるMFR(メルトフローレート)測定により、10分間辺りの樹脂流出質量を評価した。
【0026】
(接着シートの樹脂ダレ程度の評価方法、および被着体ズレ程度の評価方法)
樹脂ペレット状のプリント配線板用熱融着性シート組成物を成形して得られた厚さ300μmの接着シートを一辺50mmの正方形状とした。別途、一辺50mmの正方形状のアルミニウム板(厚さ400μm)を2枚準備した。
上記で得られた正方形状の接着シートを、正方形状のアルミニウム板2枚の間に各辺ともずれないように揃えて挟み込み、プレス機を用いて200℃、20kgf/cmで1分間の熱圧着を行った。熱圧着後、アルミニウム板と接着シートが接着された試験片を常温まで冷却し、回収した。試験片の各辺における樹脂のはみ出した長さを測定し、その平均値を接着シートの樹脂ダレ程度の指標とした。また、熱圧着後のアルミニウム板2枚のズレの最大長さを測定した。
樹脂ダレ程度、被着体ズレ程度ともに、試験数(n)2回の平均値を採用した。
【0027】
(接着性の評価方法)
樹脂ペレット状のプリント配線板用熱融着性シート組成物を成形して得られた厚さ300μmの接着シートを一辺120mmの正方形状とした。別途、一辺120mmの正方形状のアルミニウム板(厚さ200μm)を1枚準備し、接着シートとアルミニウム板を各辺ともずれないように揃えて重ね、ハンドプレス機を用いて200℃、300kgf/cmで1分間の熱圧着を行った。熱圧着後、アルミニウム板と接着シートが接着された試験片を常温まで急冷させ、回収した。試験片を幅10mmの短冊状に裁断し、引張速度50mm/秒で90度剥離強度(接着強度)を測定した。同様な方法により、ポリプロピレンと接着シートとを熱圧着させ、接着強度を測定した。
いずれの接着強度とも、試験数(n)5回の平均値を採用した。
次に、各例に用いたプリント配線板用熱融着性シートの製造方法を実施例1に示す。
【0028】
(実施例1)
内容積10リットルのステンレス製反応容器に純水3400gを入れ、さらに懸濁剤としてポリビニルアルコール2.7gおよびハイドロキシアパタイト27gを溶解(分散)させた。この中にペレット状の、グリシジルメタクリレート含有比率12質量%であるエチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(EGMA)「ボンドファースト」(住友化学(株))1400gを入れ、攪拌、分散した。別途、ラジカル重合開始剤としてのベンゾイルペルオキシド3g、ラジカル共重合性有機過酸化物としてt−ブチルペルオキシメタクリロイロキシエチルカーボネート18gを、非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体であるスチレン480gと2官能エチレン性不飽和単量体であるジビニルベンゼン120g中に溶解させ、この溶液を反応容器中に投入、攪拌した。
続いて、反応容器温度を55〜65℃に昇温し、2時間攪拌することにより、ラジカル重合開始剤およびラジカル重合性有機過酸化物を含むビニル単量体をEGMAペレット中に含浸させた。続いて温度を80〜95℃に上昇、その温度にて5時間攪拌することにより、含浸重合を完結させ、さらに濾過・水洗および乾燥させ、グラフト化前駆体を得た。次いで、このグラフト化前駆体をラボプラストミル一軸押出機((株)東洋精機製作所製)で200℃にて押し出し、グラフト化反応させることによりグラフト共重合体であるプリント配線板用熱融着性シート組成物を得た。
次いで得られた組成物を、前記のラボプラストミル一軸押出機に併桔させたTダイ(ディップ幅0.6mm)で200℃にて押し出し、押し出された直後にロールで引っ張りながら巻き取ることにより、シートを得た。ロール巻取り速さを変えることで、シートの厚みは50〜600μmの範囲で可変であった。ここで得られたグラフト共重合体およびシートを、先述の各種評価に供試した。その結果を表1に示す。
【0029】
(実施例2〜12)
実施例1に示した方法と同様の製造方法を用いて、表1に示す種々の共重合体(a)、グラフト成分(b1)および(b2)からなるペレット状のグラフト共重合体を得た。またペレットを、先述のラボプラストミル一軸押出機に併桔させたTダイ(ディップ幅0.6mm)で200℃にて押し出し、直後にロールで引っ張りながら巻き取ることによるか、押し出しが困難であった場合はペレットをハンドプレス機を用いて200℃、300kgf/cmで熱圧延することによりシートを得た。ここで得られたグラフト共重合体およびシートを先述の評価試験に供試した。その結果を表1に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
表中の略号の意味は次の通りである。
EGMA1:エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学工業(株)製「ボンドファ−ストE」、グリシジルメタクリレート含有量12質量%、MFR:3g/10分(190℃/2.16kgf)、重量平均分子量263000)
EGMA2:エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学工業(株)製「ボンドファ−スト2C」、グリシジルメタクリレート含有量6質量%、MFR:3g/10分(190℃/2.16kgf))
EGMA・MA:エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体(住友化学工業(株)製「ボンドファ−スト7L」、グリシジルメタクリレート含有量3質量%、アクリル酸メチル27質量%、MFR:7g/10分(190℃/2.16kgf))
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体(日本ユニカー(株)製「NUC8451」、酢酸ビニル含有量15質量%、MFR:1.5g/10分(190℃/2.16kgf))
EVOH:エチレン−ポリビニルアルコール共重合体(エチレンと酢酸ビニルを高圧容器中でラジカル重合させ、次いで未反応モノマーを除去後、苛性ソーダで鹸化することにより得られたもの、ポリビニルアルコール含有量40質量%、MFR:8.4g/10分(190℃/2.16kgf))
EEA−MAH:エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体(アトフィナ社製「TX8030」、エチルアクリレート含有量13質量%、無水マレイン酸含有量2質量%、MFR:5.0g/10分(190℃/2.16kgf))
BGMA:ブタジエン−グリシジルメタクリレート共重合体(ブタジエンとグリシジルメタクリレートを高圧容器中でラジカル重合法にて重合させたもの、グリシジルメタクリレート含有量10質量%、MFR:1.4g/10分(190℃/2.16kgf))
PGMA:プロピレン−グリシジルメタクリレート共重合体(プロピレンとグリシジルメタクリレートを高圧容器中でラジカル重合法にて重合させたもの、グリシジルメタクリレート含有量20質量%、MFR:2.5g/10分(190℃/2.16kgf))
EMA:エチレン−メタクリル酸共重合体(ニュクレルN1108C、三井・デュポンポリケミカル(株)製、メタクリル酸含有量12質量%、MFR:8g/10分(190℃/2.16kgf))
MeSt:α−メチルスチレン
St:スチレン
VTL:2−ビニルトルエン
DVB:ジビニルベンゼン
DGA:ジエチレングリコールジアクリレート
EGDM:エチレングリコールジメタクリレート
【0032】
(比較例1)
実施例1に示したものと同一のペレット状のグリシジルメタクリレート共重合他(EGMA)を、ハンドプレス機を用いて180℃、300kgf/cmで潰すことにより、厚さ300μmのシートを得た。ペレット状、およびシート状のEGMAを先述の評価試験に供試した。その結果を表2に示す。
(比較例2〜11)
実施例1に示した方法と同様の製造方法を用いて、表2に示す種々の共重合体、グラフト成分からなるグラフト共重合体およびシートを得た。ここで得られたグラフト共重合体およびシートを、先述の評価試験に供試した。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】

【0034】
表中の略号の意味は次の通りである。
EGMA1:エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体(住友化学工業(株)製「ボンドファ−ストE」、グリシジルメタクリレート含有量12質量%、MFR:3g/10分(190℃/2.16kgf)、重量平均分子量263000)
EMA:エチレン−メタクリル酸共重合体(三井・デュポンポリケミカル(株)製「ニュクレルAN4214C」、メタクリル酸含有量4質量%、MFR:7g/10分(190℃/2.16kgf))
EVA:エチレン−酢酸ビニル共重合体(日本ユニカー(株)製「NUC8451」、酢酸ビニル含有量15質量%、MFR:1.5g/10分(190℃/2.16kgf))
EEA−MAH:エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体(アトフィナ社製「TX8030」、エチルアクリレート含有量13質量%、無水マレイン酸含有量2質量%、MFR:5.0g/10分(190℃/2.16kgf))
EPVC:エチレン塩化ビニル共重合体(エチレンと塩化ビニルを水系で懸濁重合させて作製したもの、塩化ビニル含有率20%、MFR:6g/10分(190℃/2.16kgf))
MBS:ブタジエンスチレンメチルメタクリレート共重合体(電気化学工業(株)製「THポリマーTH−21」、メチルメタクリレート含有率12%、MFR:2,8g/10分(220℃/5kgf))
PP:ポリプロピレン(サンアロマー(株)製「サンアロマーPM671A」、MFR:7g/10分(230℃/2.16kgf))
St:スチレン
DVB:ジビニルベンゼン
CHMA:シクロへキシルメタクリレート
DGA:ジエチレングリコールジアクリレート
【0035】
表1に示したように、実施例1から12において、本発明のプリント配線板用熱融着性シートは、極性表面を有する被着体であるAlや非極性の被着体であるポリプロピレンとの接着強度はいずれも0.5以上となり、良好な接着力を有することが分かる。また先述の、被着体との熱圧着による接着シートの樹脂ダレの程度はいずれも初期のシート大きさ:50×50(mm)に対して0.6mm以内という結果であり、その際の被着体ズレは確認されなかった。
組成物の流動性については、本実施例における評価で適用した熱圧着温度よりも高い230℃におけるMFRで一桁の値であり、先述の一軸押出機での押し出しによるフィルム成形は可能であった。
【0036】
これに対して、表2に示した比較例1では、接着力は非常に大きく良好であるものの、(b)成分を含有していないことに起因して流動性が高く、被着体との熱圧着による接着シートの樹脂ダレは初期のシート大きさ:50×50(mm)に対して5.5mmに達し、その際に1mmを超える被着体ズレが確認された。熱圧着時に樹脂ダレが多いため、圧力負荷方向への被着体の移動量が多くなり、被着体がずれやすくなることを示している。また230℃でのMFRは90以上と非常に高い値となっており、先述の一軸押出機でのフィルム成形は困難であった。
比較例7においても、(b)成分を含有していないため樹脂ダレが顕著である。さらに(a2)成分を含有していないことから、極性表面を有するAlとの接着力は低下した。
比較例4においては、(b)成分中における(b2)成分の比率が高いことに起因して、230℃でのMFRはゼロであり、先述の一軸押出機でのフィルム成形は、機械への負荷が大きく困難であった。
比較例5においては、(a)成分中における(a2)成分の比率が低いことや組成物中における(b)成分の比率が高いことに起因して、極性表面を有するAlとの接着力は低下した。また組成物中における(b)成分の比率が高いことに起因して、230℃でのMFRはゼロであり、先述の一軸押出機でのフィルム成形は、機械への負荷が大きく困難であった。
比較例3においては、接着力は比較的良好である反面、(b2)成分を含有していないことや、組成物中における(a)成分の比率が高いことに起因して、実施例と比較してMFRは高く、熱圧着による樹脂ダレが顕著である。
比較例2、6、8においては、(b2)成分を含有していないことに起因して、熱圧着による樹脂ダレが顕著である。また実施例と比較してMFRは高く、先述の一軸押出機でのフィルム成形は実質的に不可能であると判断された。
【0037】
また、比較例9においては、グラフト共重合体の主鎖成分がエチレンと塩化ビニルの共重合体であるが、主鎖成分中の塩化ビニルの極性が顕著に高く、(b)成分の極性との差異が大きいことに起因して、MFRが約0と、流動性が顕著に低下する結果となった。
比較例10においては、グラフト共重合体の主鎖成分がブタジエンスチレンメチルメタクリレート共重合体であるが、グラフト共重合体中の主鎖成分中における非極性単量体が、本発明における(a1)成分と異なることに起因して、Alとの接着力がかなり低下している。
比較例11においては、単官能エチレン性不飽和単量体として、極性かつ芳香環を有さないシクロへキシルメタクリレートを含有する。(a)成分と(b)成分との極性が近くなることに起因して、MFRが上昇し、また樹脂ダレが大きくなっているため、形状安定性が低下していることが分かる。また芳香環を含有しない組成であることに起因して、物性が脆く、フィルム成形が困難であるという結果であった。
【0038】
以上より、本発明のプリント配線板用熱融着性シートは、高温域においても形状保持性に優れ、かつ極性の性質が異なる異種材料間において優れた接着性を有するため、電子材料分野において好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の共重合体(a)60〜85質量部に対して、グラフト成分(b)15〜40質量部をグラフト化して得られるグラフト共重合体を成形してなるプリント配線板用熱融着性シート。
(a)非極性α−オレフィンまたは非極性共役ジエンである非極性単量体(a1)60〜95質量%と、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有無水カルボン酸、エチレン性不飽和結合含有カルボン酸エステル、エチレン性不飽和結合含有アルコールからなる群より選ばれる少なくとも1種の極性単量体(a2)5〜40質量%を共重合してなる共重合体
(b)非極性芳香族系の単官能エチレン性不飽和単量体(b1)70〜95質量%と、2官能エチレン性不飽和単量体(b2)5〜30質量%からなるグラフト成分

【公開番号】特開2009−126900(P2009−126900A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−301402(P2007−301402)
【出願日】平成19年11月21日(2007.11.21)
【出願人】(000004341)日油株式会社 (896)
【Fターム(参考)】