説明

プレキャストコンクリート部材の圧着接合方法

【課題】
PCa部材相互をPC鋼棒の緊張力(プレストレス)で強固に接合するに際し、その緊張力の導入がトルクレンチにより容易に行えるようにする。
更に、PC鋼棒の緊張力をトルクコントロールにより行った場合でも、確実に緊張力がPC鋼棒全体に伝わっていることを確認できるようにする。
【解決手段】
相互に接合されるプレキャストコンクリート部材1,2に渡ってPC鋼棒9を配置し、該PC鋼棒9の両端に刻設した雄ねじ9aに夫々ナット13,13aを螺着し、該一方のナット13を締め付けてコンクリート部材1,2を接合する方法であって、前記PC鋼棒9の周囲に接着材40を充填し、これを硬化させて、PC鋼棒9を部材1,2に接着させた後、前記一方のナット13を締め付け回転して前記接着材40を切断し、両プレキャストコンクリート部材1,2を圧着接合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレキャストコンクリート部材の圧着接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プレキャストコンクリート部材(以下PCa部材ともいう)からなる壁版相互や床版相互を接合する方法として、例えば図17〜19に示すように、接合する一方のPCa部材101の接合面に凹状のシアコッター102を形成するとともに、そのPCa部材101内の鉄筋103を前記シアコッター102内に突出し、接合する他方のPCa部材104に、前記シアコッター102、鉄筋103に対応するシアコッター105、鉄筋106を設け、前記両PCa部材101、104を図17〜19に示すように配置し、前記両鉄筋103,106間を接合筋107を介して溶接接合し、前記両シアコッター102,105内にグラウト等を充填し、両PCa部材101,104を接合するものが知られている。
【0003】
また、硬化したPCa部材に圧縮力を加えることで、そのPCa部材のひび割れの調節、構造体のスリム化等の効果を発揮させるプレストレストコンクリート工法が知られている。
【0004】
ところで、前記壁版相互や床版相互を強固に一体化したい要望がある。
そこで、前記PCa壁版相互やPCa床版相互を、前記のプレストレストコンクリート工法で強固に接合して一体化することも考えられる。
【0005】
しかし、前記のプレストレストコンクリート工法は、一般に、油圧ジャッキで鉄筋を軸方向に緊張すると同時に荷重計で緊張力を計測する手法であることから、このようなプレストレストコンクリート工法は、その油圧ジャッキを用いる作業が特殊であり、作業者、建設現場監督から敬遠されやすく、かつ、大型な機器を用いることから、施工コストアップの要因ともなっている。
【0006】
そのため、PCa壁版相互やPCa床版相互を簡易な施工方法で強固に一体接合できる接合方法が要望されていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで本発明は、前記の油圧ジャッキで緊張するプレキャストコンクリート工法を用いることなく、PCa壁版相互やPCa床版相互等のPCa部材相互を、PC鋼棒に備えたナットを締め付けることで強固に接合でき、かつ、この緊張力の導入を油圧ジャッキに比べて、構造、操作が簡易なトルクレンチで行え、更に、PC鋼棒に緊張力が導入されているか否かの確認が容易にできるコンクリート部材の圧着接合方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の課題を解決するために、請求項1記載の発明は、相互に接合されるプレキャストコンクリート部材に渡ってPC鋼棒を配置し、該PC鋼棒の両端に刻設した雄ねじに夫々ナットを螺着し、該一方のナットを締め付けることにより、両プレキャストコンクリート部材を接合する方法であって、
前記PC鋼棒の周囲に空間を設け、該空間内に接着材を充填し、これを硬化させて、PC鋼棒を前記接着材により前記プレキャストコンクリート部材に付着させた後、
前記一方のナットを締め付け回転して、前記PC鋼棒に緊張力を導入し、この緊張力の導入により前記接着材による付着を切断して両プレキャストコンクリート部材を相互に圧着接合することを特徴とするものである。
【0009】
請求項2記載の発明は、前記請求項1記載の発明において、前記締め付け回転する一方のナットとは反対側の他方のナットを、前記PC鋼棒が接着材により接着された状態において、プレキャストコンクリート部材との間に空隙を設けて配置しておくことを特徴とするものである。
【0010】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の発明において、相互に接合させるプレキャストコンクリート部材に、夫々の接合側端面との間に受圧部を設けて座堀りを形成し、前記受圧部に、前記座堀りの開口側面と同一面側が開口するPC鋼棒配置用溝を形成し、前記PC鋼棒を、前記PC鋼棒配置用溝内に、その開口側から挿入して配置することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、PC鋼棒を接着材によりPCa部材に接着した状態で一方のナットを締め付け回転するため、締め回転の初期にはPC鋼棒及び他方のナットが供回りせず、PC鋼棒に軸方向への緊張力が導入される。そして、更に一方のナットを締め付け回転すると、PC鋼棒の伸長と断面縮小により接着材が切断され、PC鋼棒の緊張力(軸力)が増大し、両PCa部材が相互に強固に接合される。そのため、前記一方のナットをトルクレンチで回転することで両PCa部材を強固に接合できる。更に、ナットのトルク量とPC鋼棒の軸力との関係を予め定めておき、必要な軸力をトクルレンチによるトルク量で管理することができ、所望の軸力で接合できる。したがって、前記従来の荷重計付き油圧ジャッキによる緊張力導入方法に比べて、緊張作業の管理が容易で、かつ、施工コストの低減を図ることができる。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、PC鋼棒への緊張作業が行われていない状態では他方のナットが空隙により空回転でき、PC鋼棒へ所定の軸力を導入すると接着材が切断されてPC鋼棒が縮小し、他方のナットがPCa部材側へ圧着し、手操作による該ナット或いはそのワッシャー等の回転ができなくなる。そのため、この他方のナットやそのワッシャー等が回転しないことを手操作で確認することにより、PC鋼棒の緊張力導入をトルクコントロールにより行った場合でも、確実に緊張力がPC鋼棒全体に伝わっていることが確認できる。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、PC鋼棒の配置が容易に行える。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を示すもので、PCa壁版の接合状態を示す正面図。
【図2】図1の一方のPCa壁版を接合側端面より見たH−H側面図。
【図3】図1の接合部とPC鋼棒の斜視図。
【図4】図1の接合部におけるPC鋼棒を配置しない前の正面図。
【図5】図4のI−I線断面図。
【図6】図5のJ−J線断面図。
【図7】図4の状態においてPC鋼棒を配置した正面図。
【図8】図7のK−K線断面図。
【図9】図8のL−L線断面図。
【図10】図7の状態において接着材を充填した正面図。
【図11】図10のM−M線断面図。
【図12】図10における他方のナット部を示す拡大正面図。
【図13】図12のN−N線断面図。
【図14】図11のP−P線断面図。
【図15】直径9.2mmのPC鋼棒におけるトルクと軸力の関係を示す図。
【図16】直径13mmのPC鋼棒におけるトルクと軸力の関係を示す図。
【図17】従来の接合方法を示す正面図。
【図18】図17に示すPCa壁版の接合側端面より見た図。
【図19】図17の接合部を示す拡大正面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、任意のプレキャストコンクリート部材(以下PCa部材ともいう)相互の接合に用いることができるもので、以下において、壁式プレキャスト鉄筋コンクリート造建物におけるプレキャストコンクリート製の壁版(以下PCa壁版ともいう)の接合方法に用いた図1乃至図16の実施例に基づいて説明する。
【0016】
図1は接合する相互のPCa壁版1,2の配置状態の正面図、図2は図1のH−H線から見た一方のPCa壁版1の接合端面を示す図、図3は接合部とPC鋼棒の斜視図である。
【0017】
接合する一方のPCa壁版1の一方の接合側端面3から壁面に沿って所定量離れた位置には、一方の壁面4のみに開口する一方の有底の座堀り5が形成されており、該座堀り5と前記接合側端面3間には、該PCa壁版1の主体部と同厚の受圧部6がPCa壁版1の主体部と一体にコンクリートで設けられている。該受圧部6の前記座堀り5側面、すなわり、座堀り5における前記接合側端面3側は、PCa壁版1の一方の壁面4と直交する面からなる受圧面7になっている。この受圧面7から接合側端面3までの距離すなわち、受圧部6の幅をL1とする。
【0018】
前記受圧部6には、前記接合側端面3及び前記受圧面7に対して直交する方向に、PC鋼棒配置用溝8が形成されている。該PC鋼棒配置用溝8は、その外側が前記一方の壁面4に開口し、底部がPCa壁版1の壁厚の中央部より深い位置に達し、溝方向の両端が前記接合側端面3と座堀り5に開口する有底溝に形成されている。更に、該PC鋼棒配置用溝8の溝幅は、後述するPC鋼棒9の直径よりも大きく形成されており、後述する接着材の充填前には、該溝8内に配置されるPC鋼棒9の周りに空間が生じるようになっている。更に、溝幅は、図6に示すように、底部から一方の壁面4方向に至るにつれて拡径している。
【0019】
前記の座堀り5、受圧部6、PC鋼棒配置用溝8により接合部10を構成している。該接合部10は、図1,2に示すように、PC壁版1において、接合側端面3の長手方向に沿って複数個、適宜間隔L4を有して設けられている。図の実施例では、PCa壁厚が130mm、PCa壁高さ2609mmで前記間隔L4を約400mmとした。該接合部10の個数、大きさ、間隔は任意に設定する。
【0020】
なお、図1のPCa壁版1における接合側端面3に対する他方の側(左側)の接合側端面側にも、必要により前記と同様の接合部10が前記と同様に配置される。
【0021】
次に、前記一方のPCa壁版1に対して接合される他方のPCa壁版2について説明する。
【0022】
この他方のPCa壁版2における前記一方のPCa壁版1の接合側端面3と接合される接合側端面3a側には、前記一方のPCa壁版1の前記接合部10と同様の接合部10aが両PCa壁版1と2の接合中心線X(図4参照)を中心として略対称に配置形成されている。
【0023】
この接合部10aを構成する座堀り5a、受圧部6a、受圧面7a、PC鋼棒配置用溝8aは、前記の一方のPCa壁版1の座堀り5、受圧部6、受圧面7、PC鋼棒配置用溝8と同一構造であるため、その説明は省略する。
【0024】
また、前記他方のPCa壁版2の接合部10aは、図1に示すように、前記一方のPCa壁版1の接合部10と同数、同間隔で形成配置され、両PCa壁版1,2を接合配置した際に、両接合部10,10aの両PC鋼棒配置用溝8,8aが、夫々の軸芯が同一線上に位置するように配置されている。
【0025】
次に、前記両PCa壁版1,2の接合に用いるPC鋼棒9について説明する。
PC鋼棒9は、一般に使用される丸鋼棒のPC鋼棒を使用するもので、例えば、JISG3109の丸鋼棒に規定されるA種2号、B種1号,2号、C種1号等、引張強度1030N/mm以上、伸び5%以上のものを使用する。また、該PC鋼棒9は所望の直径のものを使用し、その両端部には、雄ねじ9a,9aが刻設され、このPC鋼棒9の全長は、図7〜9に示すように、両PCa壁版1,2を接合位置に配置した状態において、両PCa壁版1,2間の目地20の幅L2と、一方のPCa壁版1の受圧部6の幅L1と、他方のPCa壁版2の受圧部6aの幅L1の総合計よりも長く形成され、該PC鋼棒9を図7〜9に示すように、両PCa壁版1,2に渡ってPC鋼棒配置用溝8,8a内に配置した際に、その両端部の雄ねじ9a,9a部が両座堀り5,5a内へ突出するようになっている。なお、該PC鋼棒の全長は、実施に際し、約400mmのものを使用した。また、PC鋼棒9の両雄ねじ9a,9aの軸方向長は、後述するように、他方のナット13aを所定位置に配置でき、一方のナット13を所定の緊張力を導入できる位置まで締め回転できる長さに設定されている。
【0026】
また、前記PC鋼棒9の一方側には、支圧板11及びワッシャー12が嵌合されるとともに、雄ねじ9aにナット13が螺合され、また、他方側には、支圧板11a及びワッシャー12aが嵌合されるとともに、雄ねじ9aにナット13aが螺合されるようになっている。前記支圧板11,11aは、前記PC鋼棒配置用溝8,8aの溝幅より大きく、前記受圧面7,7aに係合する大きさに設定されている。
【0027】
前記両PCa壁版1,2の接合側端面3,3aには、図1,2に示すように、シアコッター30が形成されている。該シアコッター30は、図1,2に示すように、PCa壁版の上下部と、前記接合部10,10間、10a,10a間に形成されている。
【0028】
次に、前記の構成による両PCa壁版1,2の圧着接合方法について説明する。
先ず、接合する両PCa壁版1と2を図1に示すように、夫々の接合端面3,3aが目地分離間して対向するように配置して建て込む。
【0029】
次に、図7〜9に示すように、一端部に支圧板11、ワッシャー12を嵌合し、雄ねじ9aにナット13を螺合して備え、他端部に支圧板11a、ワッシャー12aを嵌合し、雄ねじ9aにナット13aを螺合して備えたPC鋼棒9を、両PCa壁版1,2の両PC鋼棒配置用溝8.8a内に、その開口側の壁面4側から挿入し、両PCa壁版1,2に渡って配置する。
【0030】
また、このPC鋼棒9の配置状態は、例えば、図7,8のナット締付け側である左側の支圧板11とワッシャー12とナット13は相互に接触するとともに、支圧板11が受圧面7に接触し、また、確認側である右側の支圧板11aは受圧面7aに接触し、この支圧板11aとワッシャー12aとは所定量L3分離間させて空隙dを設け、このワッシャー12aとナット13aとは接触した状態とする。なお、前記の所定量L3の空隙dは、受圧面7aとナット13a間に設けられていればよく、受圧面7aと支圧板11a間又はワッシャー12aとナット13a間において設けてもよい。すなわち、ナット13aは空転するように若干緩められている。
【0031】
また、前記の空隙dの所定量L3は、後述のように、充填された接着材の硬化によりPC鋼棒9が固定された状態において、ナット13aを若干空回転できて、ナット13aが締め忘れられていることが確認できる程度に設定するもので、例えば、所定量L3を0.5mm程度とする。
【0032】
前記により、図7,8の左側のナット13が締め付け用ナットとなり、右側のナット13aが確認用ナットとなっている。
【0033】
次に、前記PC鋼棒9の配置状態において、目地20の前後開口部、PC鋼棒配置用溝8,8aにおける、PC鋼棒9部を除く開口部を、図示しない適宜閉塞手段(型枠等)で塞ぎ、目地20の上端開口部から接着材40を注入し、接着材40を図10〜14に示すように、目地20とPC鋼棒配置用溝8,8a内に充填し、接着材40を、PC鋼棒配置用溝8,8a内のPC鋼棒9の周面とPCa壁版1,2における受圧部6,6aに付着させる。
【0034】
この接着材40としては、モルタル、コンクリート、モルタルに膨張材を混入した無収縮グラウト、エポキシ系接着材などの接着材を使用でき、実施に際しては、無収縮グラウトを使用した。
【0035】
次に、前記の接着材40を養生硬化させた後、前記閉塞手段を外す。これにより、前記PC鋼棒9と両PCa壁版1,2は硬化した接着材40により接着される。この接着材40の硬化状態において、前記他方のナット(確認用ナット)13aを、ワッシャー12aが作業者の手で回転できる程度に緩めておく。例えば、ワッシャー12aと支圧板11aとの間に、前記所定量L3分の空隙dができるようにする。この所定量L3は、例えば0.5mm以下とする。
【0036】
次に、作業者が図示しない作業用トルクレンチのナット係合部を一方の座堀り5を通じて一方の締め付け用のナット13に係合し、該トルクレンチを手操作で締め作動して、一方のナット13を、設定されたトルク量まで回転し、PC鋼棒9に緊張力を導入する。このトルクレンチとしては、あらかじめ、締め付けたいトルクを目盛りで設定しておき、カチンという感触と音で締め付けトルクが分かるシグナル式トルクレンチや、負荷されているトルクを目盛りで読み取る直読式トルクレンチなどを用いることができる。
【0037】
前記の緊張力が導入されると、PC鋼棒9が引き伸ばされるとともに、該PC鋼棒9の断面積が減少する。この断面積の減少現象は、PC鋼棒9の一方のナット13側から他方のナット13a側へ進み、この断面の減少により、PC鋼棒9の表面と接着材40との付着が、一方のナット13側から他方のナット13a側に順次切れる。
【0038】
このようにして、全体の付着が切れ、デボンド状態になると、引き伸ばされたPC鋼棒9は、その復元力により軸方向に縮小し、PC鋼棒9とともに他方のナット13a、ワッシャー12aが受圧面7a側へ移動する。
【0039】
このとき、前記PC鋼棒9の伸長量よりも前記空隙dのL3を小さく、例えば、PC鋼棒9の伸長量を0.5mmよりも大きくし、空隙dの所定量L3を0.5mm以下とすることにより、前記のPC鋼棒9の復元力による縮小により、ナット13aが受圧面7a側へ移動し、ナット13a、ワッシャー12a、支圧板11aが相互に圧着し、かつ、支圧板11aが受圧面7aに圧着する。
【0040】
この圧着状態で更に、一方のナット13を前記トルクレンチで締め方向に回転し、更に、PC鋼棒9に軸方向の緊張力(軸力)を導入する。
【0041】
この一方のナット13の回転に際しては、他方のナット13aが受圧面7a側へ圧着されるため、PC鋼棒9と他方のナット13aが一方のナット13の締め回転と供回りすることはなく、ナット13の回転により、PC鋼棒9に更に大きい緊張力(軸力)が導入される。この緊張力はトルク量の増大につれて増大する。
【0042】
トルク量が任意に定めた所定値に達すると、トクルレンチの回転操作を終了し、一方のナット13の回転を停止し、トルク導入作業を終了する。
【0043】
これにより、PC鋼棒9に所定の軸力が導入され、一方のPCa壁版1の受圧部6と他方のPCa壁板1aの受圧部6a、すなわち、両PCa壁版1,2が、PC鋼棒9に導入された前記の所定の軸力、すなわち、所定のプレストレスで接合される。
【0044】
そして、図1の各接合部10において、前記の締め付け作業を行い、両PCa壁版1,2をプレストレストコンクリート工法で一体に連結する。
【0045】
また、各接合部10のうち前記のトルクレンチによる緊張力導入作業を忘れた接合部10には、その接合部10における他方のナット13a側に前記の所定量L3分の隙間dが残存したままであるため、そのワッシャー12aやナット13aは空転可能状態にある。
【0046】
そのため、作業者が各ワッシャー12aやナット13aが回転するか否かを手で確認することにより、ワッシャー12aやナット13aが回転すれば、軸力導入がされておらず、また、回転しなければ軸力導入されていることが分り、PC鋼棒9の緊張力導入をトルクコントロールにより行った場合でも、確実に緊張力がPC鋼棒全体に伝わっているか否かの確認ができる。これにより、PC鋼棒9の緊張力導入の管理が容易に行える。
【0047】
そして、緊張力導入作業後、必要により、座堀り5,5aをコンクリート等で埋める。
次に、前記の導入トルク量と導入軸力との関係及び接着材の切断時期等について説明する。
【0048】
一般に、ねじとトルクと軸力の関係式は次の公式で表わされる。
T=F{d2/2(μ/cosα+tanβ)+μn・dn/2}・・・(1)
T:締付トルク[N・m]、F1:軸力[N]、d2:有効径[mm]、dn:座部有効径、μ:ねじ部摩擦係数、μn:座部摩擦係数、α:ねじれの半角(ISOねじ30°)、β:リード角(tanβ)
実施に用いる9.2mmのPC鋼棒と、これに螺合するナットを用い、そのPC鋼棒の雄ねじにナットを螺合し、このナットを締め回転して、その締付トルクとPC鋼棒の軸力(導入力)の関係を、上記(1)式より求めた結果、図15に示す破線(予測値)Aの結果が得られた。
【0049】
次に、前記と同様の直径が9.2mmのPC鋼棒とナットを用い、本発明の前記実施例のPCa壁版の接合方法、すなわち、コンクリート部材とPC鋼棒9との間に接着材40を充填し、他方のナット13aをL3分離間し、一方のナット13を締め付け回転して接合する方法において、ナット13の回転トルクと、PC鋼棒9の軸力(導入力)を実験により測定した結果、図15の実線(実験値)Bの結果が得られた。
【0050】
この予測値Aと実験値Bを対比すると、実験値Bでは、トルク導入の開始(C点)から所定のトルク値(D点)までは、軸力は発生しなかった。これは、PC鋼棒9と接着材40との間の摩擦力により軸力は発生しなかったと考えられる。
【0051】
更に、ナット13を回転してトルクを増大させると、PC鋼棒9が引き伸ばされるとともに断面積の縮小により接着材40が切断され、他方のナット13aが受圧面7a側に圧着されて、軸力が増大し、その後、実験値Bのトルクと軸力の関係は、前記予測値Aのトルクと軸力との関係と略同様になった。
【0052】
そこで、直径9.2mmのPC鋼棒を用いる場合には、軸力約20kN以上に対応する約40Nm以上の任意のトルクで締め付ければよく、実施に際しては、約71(Nm)のトルクで約28(kN)の軸力で接合するようにした。
【0053】
また、直径が13mmのPC鋼棒とナットを用いる場合は、図16の破線Eの予測値となる。一方実験値は実線Fとなった。この場合には、PC鋼棒9と接着材40との間の摩擦力により軸力が発生しないトルク値はG点であった。
【0054】
更に、ナットを回転してトルクを増大させると、接着材40が切断され、実験値Fのトルクと軸力の関係は、前記予測値Eのトルクと軸力との関係と略同様になった。
【0055】
そこで、直径13mmのPC鋼棒を用いる場合には、軸力約40kN以上に対応する約100Nm以上の任意のトルクで締め付ければよく、実施に際しては、約214(Nm)のトルクで約63(kN)の軸力で接合するようにした。
【0056】
また、PC鋼棒の直径は、接合箇所により異なり、前記の直径9.2mm、13mm以外に17mm、23mm等を使用することができ、これらのものについても、これらの予測値と実験値から前記のようにトルク値を定める。
【0057】
なお、PC鋼棒9の配置は、前記実施例とは左右反対にして、右側のナットを締め付け用ナットとし、左側のナットを確認用としてもよい。
【0058】
以上のようであるから、前記の実施例によれば、次のような効果を奏する。
PC鋼棒が接着材によりPCa部材に接着されているので、ナット13の回転初期において、PC鋼棒とナット13aが供回りすることがなく、PC鋼棒への緊張力の導入が確実に行える。
【0059】
PC鋼棒への緊張力の導入が、トルクレンチで行えるため、従来の荷重計付き油圧ジャッキを用いるものに比べて、作業が容易で、かつ、施工コストの低減を図ることができる。
【0060】
確認用ナット側を緩めた状態で接着材の充填及びPC鋼棒に緊張力付与の作業を行い、所定の緊張力付与後は確認用ナット側のワッシャー、ナットがPC部材側に圧接して回転しないようにしたので、この回転の有無を確認することで、PC鋼棒の緊張力導入の有無を確認することができ、緊張力の導入をトルクコントロールにより行っても、確実に緊張力がPC鋼棒全体に伝わっていることの確認が容易にできる。
【0061】
また、PC鋼棒配置用溝8,8aを設けることにより、PC鋼棒9の配置が容易に行える。
【0062】
なお、本発明は上記の実施例の外、以下の実施例にも適用できる。
例えば、PCa床版相互、PCa屋根版相互を前記の方法で接合してもよい。
【0063】
また、その他の、PCa壁版とPCa床版相互、PCa壁版とPCa屋根版相互、PCa壁版とPCa柱相互等のPCa部材相互の接合に用いることができる。この場合において、前記実施例の座堀りの双方又は1方を設けることなく、PC鋼棒を両PCa部材に貫通して配置し、その雄ねじ部をPCa部材の外側に突出させ、支圧板、ワッシャー、ナットを、PCa部材の外面に直接配置してもよい。
【0064】
また、前記実施例では、PCa部材の表裏の一面に開口するPC鋼棒配置用溝を設け、前記一面側からPC鋼棒を溝に挿入するようにしたが、このPC鋼棒配置用溝の代りに、PCa部材を貫通する穴とし、この穴の一端側からPC鋼棒を挿通してもよい。
【符号の説明】
【0065】
1,2 プレキャストコンクリート部材
3,3a 接合側端面
5,5a 座堀り
6,6a 受圧部
8,8a PC鋼棒配置用溝
9 PC鋼棒
9a 雄ねじ
13,13a ナット
40 接着材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に接合されるプレキャストコンクリート部材に渡ってPC鋼棒を配置し、該PC鋼棒の両端に刻設した雄ねじに夫々ナットを螺着し、該一方のナットを締め付けることにより、両プレキャストコンクリート部材を接合する方法であって、
前記PC鋼棒の周囲に空間を設け、該空間内に接着材を充填し、これを硬化させて、PC鋼棒を前記接着材により前記プレキャストコンクリート部材に付着させた後、
前記一方のナットを締め付け回転して、前記PC鋼棒に緊張力を導入し、この緊張力の導入により前記接着材による付着を切断して両プレキャストコンクリート部材相互を圧着接合することを特徴とするプレキャストコンクリート部材の圧着接合方法。
【請求項2】
前記締め付け回転する一方のナットとは反対側の他方のナットを、前記PC鋼棒が接着材により接着された状態において、プレキャストコンクリート部材との間に空隙を設けて配置しておくことを特徴とする請求項1記載のプレキャストコンクリート部材の圧着接合方法。
【請求項3】
相互に接合させるプレキャストコンクリート部材に、夫々の接合側端面との間に受圧部を設けて座堀りを形成し、前記受圧部に、前記座堀りの開口側面と同一面側が開口するPC鋼棒配置用溝を形成し、前記PC鋼棒を、前記PC鋼棒配置用溝内に、その開口側から挿入して配置することを特徴とする請求項1又は2記載のプレキャストコンクリート部材の圧着接合方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate


【公開番号】特開2013−28954(P2013−28954A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165612(P2011−165612)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000241474)トヨタT&S建設株式会社 (52)
【Fターム(参考)】