説明

プレキャスト梁の継手構造

【課題】標準品のネジ節鉄筋に適用可能なプレキャスト梁の継手構造を提供すること、製作コストを低減可能なプレキャスト梁の継手構造を提供すること、現場での作業能率を向上可能なプレキャスト梁の継手構造を提供すること等である。
【解決手段】各対のネジ節鉄筋10,20の端部同士をスリーブナット30を介して接続するプレキャスト梁の継手構造において、スリーブナットのネジ孔部41が、ネジ節鉄筋よりも大径のネジ山41aと、軸心方向に所定幅の且つ軸心と平行な螺旋周面41cを有するネジ溝41bとを有し、ネジ孔部41のネジ溝に内嵌状に装着されて、ネジ節鉄筋10が内嵌状に螺合可能なコイルバネ45を設け、スリーブナットが一方のネジ節鉄筋20に螺合結合された状態から回転操作され両方のネジ節鉄筋に螺合されるように、これらネジ節鉄筋のネジ位相差に応じてコイルバネが軸心方向へ変位可能に構成された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はプレキャスト梁の継手構造に関し、特に1対のプレキャスト梁の対となるネジ節鉄筋の端部同士を接続するスリーブナットが、両ネジ節鉄筋にネジ位相差があってもスリーブナットとネジ節鉄筋間に装着したコイルバネを介して、一方のネジ節鉄筋に螺合結合された状態から回転操作して両方のネジ節鉄筋に螺合結合可能にしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建築物を建設する場合に、その建設の工期短縮とコストダウンを図る為に、工場において柱,梁,壁,床(天井)等のプレキャストコンクリート部材(PC部材)を個別に製造し、そのPC部材を建設現場に搬送し、その建設現場で搭載して組み立てる所謂プレキャスト工法が主流になりつつある。
【0003】
前記PC部材であるプレキャスト梁(以下、PC梁という)は、複数の主筋を型枠内の所定位置にセットした後に型枠内にコンクリートを打設することで製造されるが、主筋として複数のネジ節鉄筋を適用し、それらのネジ節鉄筋の両端部をコンクリート外へ露出させ、建設現場で隣接状に設置される1対のPC梁の同軸状の各対となる2本のネジ節鉄筋の対向端部同士をスリーブナット部材を介して接続するPC梁の継手構造が公知である。
【0004】
従来のPC梁の継手構造では、スリーブナット部材が、一方のPC梁のネジ節鉄筋の端部に外嵌螺合した状態で、1対のPC梁が隣接状に設置される。その後、スリーブナット部材を回動させて、他方のPC梁のネジ節鉄筋の方へ所定距離だけ移動させて、その両方のPC梁のネジ節鉄筋の端部に外嵌螺合させることで、1対のネジ節鉄筋を接続する。
【0005】
ところで、PC梁の対となる2本のネジ節鉄筋のネジ位相が合わない(ネジピッチの連続性を確保できない)場合、一方のPC梁のネジ節鉄筋の端部に外嵌螺合された外嵌ナット部材を回動させて、他方のPC梁のネジ節鉄筋の方へ移動させて、他方のPC梁のネジ節鉄筋の端部にも外嵌螺合させることが困難になる。
【0006】
ここで、特許文献1に記載の第1の棒鋼のねじ継手では、ネジ節鉄筋の対向端部同士を連結するカプラー(スリーブナット部材)の半分に一条雌ネジのネジ孔を形成し、他の半分に多条雌ネジのネジ孔を形成し、多条雌ネジのネジ孔に、ネジ節鉄筋のネジピッチと等しい螺旋ピッチのコイル状線材を内嵌螺合し、コイル状線材とこれに螺合されるネジ節鉄筋の間には、軸心方向への相対移動を許す隙間を形成することで、各対のネジ節鉄筋のネジ位相差を吸収するように構成してある。但し、特許文献1の記載から推定すると、上記のネジ位相差の大きさに応じて、多条雌ネジのネジ孔の複数条のネジ溝のうちから、コイル状線材を内嵌螺合させるネジ溝を選択してコイル状線材を装着する必要がある。
【0007】
また、特許文献1に記載の第2の棒鋼のねじ継手では、カプラーの全長に亙って、多条雌ネジのネジ孔を形成し、カプラーの半分は、上記と同様のコイル状線材を介して片方のネジ節鉄筋に螺合連結し、カプラーの他の半分は、上記と同様のコイル状線材を介して他方のネジ節鉄筋に螺合連結する構成が採用されている。
【特許文献1】特開平8- 319696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1の棒鋼のねじ継手では、多条雌ネジのネジ孔にコイル状線材を介して内嵌螺合されるネジ節鉄筋では、特許文献1の図6に示す隙間mを形成する関係上、標準的なネジ節鉄筋と異なる形状のネジ節鉄筋を用いる必要があるため、適用範囲が制約され、汎用性に欠ける。また、多条雌ネジのネジ孔を形成するため製作コスト面で不利である。
しかも、各対のネジ節鉄筋の端部のネジ位相差の大きさに応じて、多条雌ネジのネジ孔の複数条のネジ溝のうちから、コイル状線材を内嵌螺合させるネジ溝を選択してコイル状線材を装着する必要があるため、その作業が面倒で、現場での作業能率を高めることが難しい。
【0009】
本発明の目的は、標準品のネジ節鉄筋に適用可能なプレキャスト梁の継手構造を提供すること、製作コストを低減可能なプレキャスト梁の継手構造を提供すること、現場での作業能率を向上可能なプレキャスト梁の継手構造を提供すること等である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1のプレキャスト梁の継手構造は、隣接状に設置された1対のプレキャスト梁の対となる同軸状の第1,第2ネジ節鉄筋の対向端部同士を、これら対向端部に螺合して結合される第1,第2ネジ孔部を有するスリーブナットを介して接続するプレキャスト梁の継手構造において、前記第1ネジ孔部が、第1,第2ネジ節鉄筋よりも大径のネジ山と、軸心方向に所定幅の軸心と平行な螺旋周面を有するネジ溝とを有し、前記第1ネジ孔部のネジ溝に内嵌状に装着されて、第1ネジ節鉄筋が内嵌状に螺合可能なコイルバネを備え、前記スリーブナットが第1,第2ネジ節鉄筋の一方に螺合結合された状態から回転操作され第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合されるように、第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相の差に応じてコイルバネが軸心方向へ変位可能に構成されたことを特徴としている。
【0011】
第1,第2ネジ節鉄筋の対向端部同士を接続する際に、第1,第2ネジ節鉄筋の一方に螺合結合された状態からスリーブナットを回転操作して、第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合する際に、スリーブナットに内嵌状に装着されているコイルバネが第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相の差に応じて軸心方向に変位して、スリーブナットの一部が第1,第2ネジ節鉄筋の他方に螺合することで、第1,第2ネジ節鉄筋がスリーブナットとコイルバネにより連結される。
【0012】
請求項2のプレキャスト梁の継手構造は、請求項1の発明において、前記螺旋周面の前記所定幅は、第1ネジ節鉄筋のネジピッチの半分以上の幅であることを特徴としている。
請求項3のプレキャスト梁の継手構造は、請求項1又は2の発明において、前記スリーブナットにコイルバネの一端部を係止するバネ係止部を形成したことを特徴としている。
【0013】
請求項4のプレキャスト梁の継手構造は、請求項1〜3の何れかの発明において、前記スリーブナットが第2ネジ節鉄筋に螺合結合された状態から回転操作され第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合されるように、コイルバネが軸心方向へ順次弾性変形して変位可能に構成されたことを特徴としている。
【0014】
請求項5のプレキャスト梁の継手構造は、請求項1〜4の何れかの発明において、前記第2ネジ節鉄筋が第2ネジ孔部に直接内嵌状に螺合されたことを特徴としている。
請求項6のプレキャスト梁の継手構造は、請求項5の発明において、前記第2ネジ孔部が第1ネジ孔部よりも短く形成されたことを特徴としている。
【0015】
請求項7のプレキャスト梁の継手構造は、請求項1〜4の何れかの発明において、前記第2ネジ孔部が、第1,第2ネジ節鉄筋よりも大径のネジ山と、軸心方向に所定幅の且つ軸心と平行な螺旋周面を有するネジ溝とを有し、前記第2ネジ孔部のネジ溝に内嵌状に装着されて、第2ネジ節鉄筋が内嵌状に螺合可能な第2のコイルバネを備え、前記スリーブナットが第1,第2ネジ節鉄筋の一方に螺合結合された状態から回転操作され第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合されるように、第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相の差に応じて第2のコイルバネが軸心方向へ変位可能に構成されたことを特徴としている。
【0016】
請求項8のプレキャスト梁の継手構造は、請求項7の発明において、前記コイルバネと前記第2のコイルバネが1つのコイルバネ部材から成ることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明によれば、第1,第2ネジ節鉄筋が標準品のネジ節鉄筋であっても、何ら支障なく接続することができるため、適用範囲が制約されず、汎用性に優れる。
第1,第2ネジ節鉄筋にネジ位相の差がある場合でも、ネジ位相の差に応じて第1ネジ孔部に内嵌されたコイルバネが第1,第2ネジ節鉄筋の軸心方向へ変位するため、一方のネジ節鉄筋に螺合結合された状態からスリーブナットを回転操作するだけで、両方のネジ節鉄筋に容易に螺合結合することができるので、スリーブナットによる組付け性を向上させることができ、現場における作業能率が向上させることができる。
スリーブナットに形成する第1ネジ孔部が第1,第2ネジ節鉄筋よりも大径のネジ山と、軸心方向に所定幅の軸心と平行な螺旋周面を有するネジ溝とを有する簡単な構造のものであるため、製作コストが高価にならず有利である。
【0018】
請求項2の発明によれば、前記螺旋周面の前記所定幅は、第1ネジ節鉄筋のネジピッチの半分以上の幅であるので、最大180度までの第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相差を吸収することができる。
【0019】
請求項3の発明によれば、前記スリーブナットにコイルバネの一端部を係止するバネ係止部を形成したので、スリーブナットとコイルバネとが一体的に回転し、コイルバネを第1ネジ節鉄筋に円滑に螺合させることができ、スリーブナットの組付けの作業能率を向上させることができる。
【0020】
請求項4の発明によれば、前記スリーブナットが第2ネジ節鉄筋に螺合結合された状態から回転操作されてスリーブナットが、第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合されるように、コイルバネが軸心方向へ順次弾性変形して変位可能に構成されたので、第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相差をコイルバネの軸心方向への弾性変形を介して吸収することで、スリーブナットを回転操作するだけで第2ネジ節鉄筋から第1,第2ネジ節鉄筋に螺合結合でき、スリーブナットの組付けの作業能率を向上させることができる。
【0021】
請求項5の発明によれば、前記第2ネジ節鉄筋が第2ネジ孔部に直接内嵌状に螺合されたので、スリーブナットと第2ネジ節鉄筋の連結強度を高めることができる。
請求項6の発明によれば、前記第2ネジ孔部が第1ネジ孔部よりも短く形成されたので、スリーブナットの長さを小さくし製作コストを低減可能である。
【0022】
請求項7の発明によれば、第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相差に応じて、第1ネジ孔部に内嵌されたコイルバネが軸心方向へ変位すると共に、第2ネジ孔部に内嵌された第2のコイルバネが軸心方向へ変位可能なので、一方のネジ節鉄筋に螺合結合された状態からスリーブナットを回転操作するだけで、両方のネジ節鉄筋を容易に確実に螺合結合することができるので、スリーブナットの組付け作業の能率を高めることができる。
【0023】
請求項8の発明によれば、前記コイルバネと前記第2のコイルバネが1つのコイルバネ部材から成るので、それらコイルバネのコストを低減できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明を実施するための最良の形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0025】
本発明に係るプレキャスト梁の継手構造は、隣接状に設置された1対のプレキャスト梁の対となる同軸状の第1,第2ネジ節鉄筋の対向端部同士を、これら対向端部に螺合して結合される第1,第2ネジ孔部を有するスリーブナットを介して接続するプレキャスト梁の継手構造である。
【0026】
前記第1ネジ孔部が、第1,第2ネジ節鉄筋よりも大径のネジ山と、軸心方向に所定幅の軸心と平行な螺旋周面を有するネジ溝とを有する。第1ネジ孔部のネジ溝に内嵌状に装着されて、第1ネジ節鉄筋が内嵌状に螺合可能なコイルバネが設けられている。
スリーブナットが第1,第2ネジ節鉄筋の一方に螺合結合された状態から回転操作され第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合されるように、第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相の差に応じてコイルバネが軸心方向へ変位可能に構成されている。
【0027】
最初に、第1,第2プレキャスト梁1,2について説明する。
図1、図2に示すように、第1,第2プレキャスト梁1,2(プレキャストコンクリート製の梁、以下、第1,第2PC梁1,2という)は、工場で個別に成形されて建設現場に搬送され、その建設現場で、第1PC梁1の長さ方向中央部分がプレキャストコンクリート柱3の上端部に載置連結されるとともに、第2PC梁2の長さ方向中央部分がプレキャストコンクリート柱4の上端部に載置連結されて、第1,第2PC梁1,2が隣接状に設置される。
【0028】
第1,第2PC梁1,2は、夫々、主筋としての複数(8本)のネジ節鉄筋10,20と、複数のネジ節鉄筋10,20を埋設しているコンクリート11,21とを有する。第1PC梁1の複数のネジ節鉄筋10と第2PC梁2の複数のネジ節鉄筋20は、夫々、第1,第2PC梁1,2の長さ方向に水平に互いに平行関係を維持して延び、その両端部がコンクリート11,21外へ露出している。尚、ネジ節鉄筋10,20は、同径で同じネジ節を有するものであり、両側面に1対の平行面が形成された標準的なネジ節鉄筋である。
【0029】
尚、第1PC梁1のコンクリート11の長さ方向中央部分には、柱3から上方へ突出して延びる複数の鉄筋3aが貫通する複数の鉄筋貫通孔11aが形成され、同様に、第2PC梁2のコンクリート21の長さ方向中央部分には、柱4から上方へ突出して延びる複数の鉄筋4aが貫通する複数の鉄筋貫通孔21aが形成されている。
【0030】
図2に示すように、第1,第2PC梁1,2が隣接状に設置されると、第1PC梁1の複数のネジ節鉄筋10と、この複数のネジ節鉄筋10に対応する第2PC梁2の複数のネジ節鉄筋20が、夫々、同軸状に配置されて僅かな隙間7を空けて対向し、これら複数のネジ節鉄筋10,20の対向端部同士が、後述する複数のスリーブナット30(機械式継手30)を介して接続される。
【0031】
次に、第1,第2PC梁1,2の継手構造について詳細に説明する。
図2〜図11に示すように、この第1,第2PC梁1,2の継手構造は、隣接状に設置された1対のPC梁1,2の対となる同軸状の1対のネジ節鉄筋10,20の対向端部同士をスリーブナット30と、ネジ節鉄筋10に外嵌状に軸心方向に変位可能に螺合され且つスリーブナット30に内嵌されたコイルバネ45を介して接続するものである。尚、図3における上下左右を上下左右として説明する。
【0032】
図3に示すように、この1対のPC梁1,2の継手構造を構成するため、スリーブナット30が、これに内嵌螺合されたコイルバネ45と共に、第2PC梁2のネジ節鉄筋20の端部に、第1PC梁1と干渉しないように螺合結合された状態にして、第1,第2PC梁1,2が組み付け位置に搭載した後、スリーブナット30とコイルバネ45を右方へ移動するように回転操作する。すると、図4に示すように、スリーブナット30が、第1PC梁1のネジ節鉄筋10の方へ設定位置まで移動し、スリーブナット30の第1筒部31とコイルバネ45が第1PC梁1のネジ節鉄筋10の端部に螺合結合される。
【0033】
図5〜図7に示すように、スリーブナット30は、例えばオーステンパー球状黒鉛鋳鉄製のものである。このスリーブナット30は、右側約2/3長さ部分を構成する第1筒部31と、左側約1/3長さ部分を構成し且つ第1筒部31よりも短い第2筒部32とを有する。第1筒部31は、回転操作用の工具が着脱可能な八角筒の外形と、ネジ節鉄筋10の端部がコイルバネ45を介して螺合結合される第1ネジ孔部41とを有する。
第2筒部32は、円筒の外形と、ネジ節鉄筋20の端部が螺合結合される第2ネジ孔部42とを有する。第1筒部31の左端部の内部には、ネジ孔部41,42と間に形成された軸心方向に所定の長さのある円筒孔からなる中央孔部43が形成されている。
【0034】
第1筒部31の内部にはネジ孔部41と中央孔部42とが連通状に形成されている。第2筒部32の内部には中央孔部42に連通するネジ孔部42が形成されている。ネジ孔部42の軸心方向長さは、ネジ孔部41の軸心方向長さよりも短く形成されている。尚、第1筒部31の外形は八角筒に限らず、六角筒に形成してもよく、その他、回転操作用の工具が着脱可能な種々の形状に形成してもよい。
【0035】
第1ネジ孔部41は、ネジ節鉄筋10,20よりも大径の台形のネジ山41aと、軸心方向に所定幅の軸心と平行な螺旋周面41cを有する台形のネジ溝42bとを有し、ネジ山41a及びネジ溝42bのピッチは、ネジ節鉄筋10,20のネジ節のピッチと等しく設定されている。上記の螺旋周面42cの所定幅は、ネジ節鉄筋10,20のネジピッチの半分以上の幅に形成されている。このネジ孔部41に、ネジ節鉄筋10,20が内嵌状に螺合可能なコイルバネ45が内嵌状に装着されており、コイルバネ45をネジ節鉄筋10に外嵌螺合させて第1筒部31を螺合した状態において、前記螺旋周面41cを介してコイルバネ45が軸心方向に相対的に移動可能になっている。
【0036】
第2ネジ孔部42は、ネジ孔部41よりも小径の台形のネジ山42aと台形のネジ溝42bとを有しており、第2ネジ孔部42は、ネジ節鉄筋20の端部がガタつきなしに内嵌螺合されるネジ孔に形成されている。スリーブナット30が、ネジ節鉄筋10,20の対向端部同士を接続している状態では、このネジ孔部42にネジ節鉄筋20が直接内嵌状に螺合される。
【0037】
コイルバネ45は、ネジ節鉄筋10,20のネジ節ピッチの約1/4〜1/3程度の直径を有するバネ鋼製のコイル状線材から形成されている。コイルバネ45の螺旋ピッチは、ネジ節ピッチと等しく設定されている。コイルバネ45は、ネジ孔部31に内嵌状に螺合され、ネジ節鉄筋10の端部に外嵌状に螺合されることで、スリーブナット30とネジ節鉄筋10の端部とを結合している。
【0038】
スリーブナット30の第1筒部31の先端部には、コイルバネ45の先端部45aを係止する切欠き状のバネ係止部31aが軸心方向に細長く形成され、ネジ孔部41に内嵌されたコイルバネ45が係止されている。バネ係止部31aの軸心方向長さは、螺旋周面41cの軸心長さよりも幾分大きく形成されている。
第1筒部31の基端部には、スリーブナット30がネジ節鉄筋10,20に結合された後に、グラウト材(モルタル系クラウト材)を注入する為の中央孔部43に連通する上下1対のグラウト注入口31bが形成されている。尚、グラウト材は、スリーブナット30とネジ節鉄筋10,20及びコイルバネ45の間の隙間と中央孔部43に充填されて固化され、それら部材の連結状態を固定状態にする。
【0039】
次に、このプレキャスト梁の継手構造の作用について説明する。
先ず、図8に示すように、隣接状に配置される第1,第2PC梁1,2の対となる同軸状のネジ節鉄筋10,20のうちネジ節鉄筋20の端部に、ネジ節鉄筋10の端部に干渉しないようにスリーブナット30を螺合結合した状態にする。但し、第1筒部31の第1ネジ孔部41には、コイルバネ45が内嵌螺合されている。
【0040】
この状態で、第1,第2PC梁1,2を所期の搭載位置に搭載してから、ネジ節鉄筋10,20の端部同士をスリーブナット30を介して接続する。
その接続の為に、スリーブナット30をネジ節鉄筋20に対して右ネジ方向へ回転操作すると、スリーブナット30とコイルバネ45が一体的に回動して右方へ移動していく。コイルバネ45の右端がネジ節鉄筋10の先端に係合するとき、ネジ節鉄筋10,20のネジ位相に差がある場合、図9に示すように、コイルバネ45の先端部が、ネジ節鉄筋10のネジ溝に挿入されるまで、コイルバネ45がネジ節鉄筋10の先端で押圧されたり、或いはネジ節鉄筋10のネジ山で引っ張られたりして、螺旋周面41cの範囲内で圧縮したり、伸長したりして、ネジ節鉄筋10の先端に係合し、その後、ネジ節鉄筋10の先端に係合する部位におけるコイルバネ45の軸心方向への弾性変形を介して、スリーブナット30がネジ節鉄筋10に外嵌螺合していく。
【0041】
その後、図11に示すように、ネジ節鉄筋10,20の隙間7がスリーブナット30の中央孔部43に到達するまでスリーブナット30の回転操作を行なうと、ネジ節鉄筋10,20への螺合連結が完了する。このように、スリーブナット30は、ネジ節鉄筋20に螺合結合された状態から回転操作されてネジ節鉄筋10に螺合結合されるように、コイルバネ45が軸心方向へ順次弾性変形するように構成されている。尚、ネジ節鉄筋10にスリーブナット30を螺合結合し、回転操作することでネジ節鉄筋20に螺合結合するように構成しても良い。
【0042】
次に、本発明のプレキャスト梁の継手構造の効果について説明する。
以上説明したように、このPC梁の継手構造によれば、スリーブナット30の構造と、コイルバネ45に工夫を凝らすことにより、第1,第2ネジ節鉄筋10,20の構造に何ら制約を付けないため、第1,第2ネジ節鉄筋10,20が標準品のネジ節鉄筋であっても、何ら支障なく接続することができるため、適用範囲が制約されず、汎用性に優れる。
【0043】
接続対象のネジ節鉄筋10,20にネジ位相差がある場合でも、スリーブナット30のネジ孔部41に内嵌螺合されたコイルバネ45がネジ位相差に応じて軸心方向へ変位してネジ位相差を吸収する構成であるので、一方のネジ節鉄筋20に第1,第2筒部材31,32を螺合結合した状態からスリーブナット30を回転操作するだけで、スリーブナット30の第1筒部31を他方のネジ節鉄筋10に容易に螺合接続し、スリーブナット30とコイルバネ45を介して、ネジ節鉄筋10,20の端部同士を強力に接続することができるので、ネジ節鉄筋10,20に対するスリーブナット30の組付け作業の作業能率を高めることができる。
【0044】
スリーブナット30に形成する第1ネジ孔部41が第1,第2ネジ節鉄筋10,20よりも大径のネジ山41aと、軸心方向に所定幅の軸心と平行な螺旋周面41cを有するネジ溝41bとを有する簡単な構造のものであるため、製作コストが高価にならず有利である。
【0045】
螺旋周面41cの前記所定幅は、第1ネジ節鉄筋10のネジピッチの半分以上の幅であるので、最大180度までの第1,第2ネジ節鉄筋10,20のネジ位相差を吸収することができる。スリーブナット30にコイルバネ45の一端部を係止するバネ係止部31aを形成したので、スリーブナッ30トとコイルバネ45とが一体的に回転し、コイルバネ45を第1ネジ節鉄筋10に円滑に螺合させることができ、スリーブナット30の組付けの作業能率を向上させることができる。
【0046】
スリーブナット30が第2ネジ節鉄筋20に螺合結合された状態から回転操作されてスリーブナット30が、第1,第2ネジ節鉄筋10,20の両方に螺合結合されるように、コイルバネ45が軸心方向へ順次弾性変形して変位可能に構成されたので、第1,第2ネジ節鉄筋10,20のネジ位相差をコイルバネ45の軸心方向への弾性変形を介して吸収することで、スリーブナット30を回転操作するだけで第2ネジ節鉄筋20から第1,第2ネジ節鉄筋10,20に螺合させることができ、スリーブナット30を組付ける作業能率を向上させることができる。
【0047】
第2ネジ節鉄筋20が第2ネジ孔部42に直接内嵌状に螺合されるので、スリーブナット30と第2ネジ節鉄筋20の連結強度を高めることができる。
第2ネジ孔部42が第1ネジ孔部41よりも短く形成されたので、スリーブナット30の長さを短縮して小さくして製作コストを低減可能である。
【実施例2】
【0048】
前記実施例1のスリーブナット30を部分的に変更した例について説明する。但し、前記実施例1と同様の構成要素には同様の符号を付して説明を省略する。
図12,図13に示すように、スリーブナット30Aは、前記第1筒部31と同様の構造を有する全長に亙る筒部33を有する。筒部33の内部には、前記実施例と同様のネジ山41aと、螺旋周面41cを有するネジ溝41bとを有するネジ孔41が全長に亙って形成されている。筒部33の左端部には、前記実施例と同様のバネ係止部33aが形成され、筒部33の長さ方向の途中部には、前記実施例と同様のグラウト注入口31bと同様の、上下1対のグラウト注入口33bが形成されている。
【0049】
ネジ孔41には、前記実施例のコイルスプリング45と同様のコイルスプリング45Aが全長に亙って内嵌螺合され、コイルスプリング45Aの左端部45aがバネ係止部33aに係止されている。尚、バネ係止部33aを筒部33の右端部に形成しても良い。
【0050】
ネジ節鉄筋10にコイルスプリング45Aと共に内嵌螺合されたスリーブナット30Aを回転操作して、コイルスプリング45Aとスリーブナット30Aの左側半分を、他方のネジ節鉄筋20に螺合結合する際に、前記実施例と同様に、スリーブナット30Aが螺旋周面41cの幅の範囲内でスライド可能であるため、ネジ節鉄筋10,20の隙間7の付近においてコイルバネ45Aが軸心方向に順次弾性変形し、ネジ節鉄筋10,20のネジ位相差を吸収する。
【0051】
このように、この実施例2のプレキャスト梁の継手構造は、基本的に、前記実施例1の継手構造と同様の作用、効果を奏する。但し、コイルバネ45Aとして実施例1のコイルバネ45よりも長いコイルバネが必要となる分だけ前記実施例1の継手構造と比較して不利である。しかし、スリーブナット30Aの亙って、ネジ節鉄筋10,20のネジ位相差吸収機能があるため、最大360度のネジ位相差まで吸収可能になるため、ネジ位相差吸収の面で有利である。
【0052】
次に、前記実施例を部分的に変更した変更例について説明する。
1]前記実施例1の第2ネジ孔部にネジ節鉄筋10,20よりも大径のネジ山と、軸心方向に所定幅の且つ軸心と平行な螺旋周面を有するネジ溝とを形成し、ネジ節鉄筋20が内嵌状に螺合可能な第2のコイルバネが内嵌状に装着されてもよい。つまり、実施例2のコイルバネ45Aを左右に分断し、グラウト注入口33bより左側部分に対応するコイルバネと、グラウト注入口33bより右側部分に対応するコイルバネとを設けてもよい。
2]その他、当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱することなく、前記実施例1,2に種々の変更を付加した形態で本発明を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の実施例に係る第1,第2PC梁(設置時)の斜視図である。
【図2】第1,第2PC梁を接続した継手構造の概略平面図である。
【図3】2本のネジ節鉄筋を接続する前の状態の要部正面図である。
【図4】2本のネジ節鉄筋を接続した後の状態の要部正面図である。
【図5】スリーブナットの正面図である。
【図6】スリーブナットの側面図である。
【図7】図5のVII−VII線断面図である。
【図8】1対のネジ節鉄筋の端部とスリーブナット(接続前)の断面図である。
【図9】1対のネジ節鉄筋の端部とスリーブナット(接続途中)の断面図である。
【図10】1対のネジ節鉄筋の端部とスリーブナット(接続途中)の断面図である。
【図11】1対のネジ節鉄筋の端部とスリーブナット(接続後)の断面図である。
【図12】実施例2に係るスリーブナットの断面図である。
【図13】1対のネジ節鉄筋の端部とスリーブナット(接続後)の断面図である。
【符号の説明】
【0054】
1,2 PC梁
10,20 ネジ節鉄筋
30,30A スリーブナット
31 第1筒部
31a バネ係止部
32 第2筒部
33 筒部
33a バネ係止部
41 第1ネジ孔部
41a ネジ山
41b ネジ溝
41c 螺旋周面
42 第2ネジ孔部
45,45A コイルバネ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣接状に設置された1対のプレキャスト梁の対となる同軸状の第1,第2ネジ節鉄筋の対向端部同士を、これら対向端部に螺合して結合される第1,第2ネジ孔部を有するスリーブナットを介して接続するプレキャスト梁の継手構造において、
前記第1ネジ孔部が、第1,第2ネジ節鉄筋よりも大径のネジ山と、軸心方向に所定幅の軸心と平行な螺旋周面を有するネジ溝とを有し、
前記第1ネジ孔部のネジ溝に内嵌状に装着されて、第1ネジ節鉄筋が内嵌状に螺合可能なコイルバネを備え、
前記スリーブナットが第1,第2ネジ節鉄筋の一方に螺合結合された状態から回転操作され第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合されるように、第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相の差に応じてコイルバネが軸心方向へ変位可能に構成されたことを特徴とするプレキャスト梁の継手構造。
【請求項2】
前記螺旋周面の前記所定幅は、第1ネジ節鉄筋のネジピッチの半分以上の幅であることを特徴とする請求項1に記載のプレキャスト梁の継手構造。
【請求項3】
前記スリーブナットにコイルバネの一端部を係止するバネ係止部を形成したことを特徴とする請求項1又は2に記載のプレキャスト梁の継手構造。
【請求項4】
前記スリーブナットが第2ネジ節鉄筋に螺合結合された状態から回転操作され第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合されるように、コイルバネが軸心方向へ順次弾性変形して変位可能に構成されたことを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載のプレキャスト梁の継手構造。
【請求項5】
前記第2ネジ節鉄筋が第2ネジ孔部に直接内嵌状に螺合されたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のプレキャスト梁の継手構造。
【請求項6】
前記第2ネジ孔部が第1ネジ孔部よりも短く形成されたことを特徴とする請求項5に記載のプレキャスト梁の継手構造。
【請求項7】
前記第2ネジ孔部が、第1,第2ネジ節鉄筋よりも大径のネジ山と、軸心方向に所定幅の且つ軸心と平行な螺旋周面を有するネジ溝とを有し、
前記第2ネジ孔部のネジ溝に内嵌状に装着されて、第2ネジ節鉄筋が内嵌状に螺合可能な第2のコイルバネを備え、
前記スリーブナットが第1,第2ネジ節鉄筋の一方に螺合結合された状態から回転操作され第1,第2ネジ節鉄筋の両方に螺合結合されるように、第1,第2ネジ節鉄筋のネジ位相の差に応じて第2のコイルバネが軸心方向へ変位可能に構成されたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のプレキャスト梁の継手構造。
【請求項8】
前記コイルバネと前記第2のコイルバネが1つのコイルバネ部材から成ることを特徴とする請求項7に記載のプレキャスト梁の継手構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−144397(P2010−144397A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322110(P2008−322110)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000225005)株式会社トップコン (4)
【出願人】(000150615)株式会社長谷工コーポレーション (94)
【Fターム(参考)】