説明

プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物及びプレストレストコンクリート緊張材

【課題】プレストレストコンクリート緊張用鋼材の表面に塗布される樹脂組成物であって、鋼材への塗布性がよく容易な緊張作業を可能とし、優れた防錆・防食効果や固定効果を有するとともに、緊張後の硬度の発現速度も満足するプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物、及び、このプレグラウト鋼材用樹脂組成物を用いたプレストレストコンクリート緊張材を提供する。
【解決手段】酸素硬化型樹脂(A)、及び軟化点が40℃を越える固形樹脂(B)を含有することを特徴とするプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物であって、固形樹脂(B)の含有量が、酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)との合計100重量部に対して、5重量部以上、60重量部以下であるプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物、及びこのプレグラウト鋼材用樹脂組成物を用いたプレストレストコンクリート緊張材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物、及びこの樹脂組成物を用いたプレストレストコンクリート緊張材に関する。より詳しくは、プレストレストコンクリート(以下、「PC」ともいう。)のポストテンション工法において使用されるPC緊張用鋼材の防食および防錆、並びに該PC緊張用鋼材とコンクリートとの一体化のために、PC緊張用鋼材の表面に塗布されるプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物に関する。また、この硬化性樹脂組成物をその表面に塗布した鋼材をシースで被覆してなるPC緊張材に関する。
【背景技術】
【0002】
PCのポストテンション工法とは、コンクリート内に埋設したシース中に緊張用鋼材を挿入し、コンクリート硬化後に緊張用鋼材を緊張させて緊張力を加え、その反力により予めコンクリートに圧縮応力を与える工法であり、引張強度が弱いとのコンクリートの欠点を補うものである。
【0003】
ここで用いられる緊張用鋼材の周囲は、その防錆、防食のため、又その鋼材とコンクリート間を一体化するために、セメントミルクや樹脂組成物などのグラウト材で覆われる。特に、硬化時間を調整した樹脂組成物(プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物)が塗布された緊張用鋼材をシース内に配置したPC緊張材を使用すれば、緊張用鋼材の挿入作業やグラウト材の注入作業の煩雑さを解決できるので好ましい。
【0004】
このプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物としては、例えば、エポキシ−ケチミン系の樹脂組成物が提案されている(特開2000−281967号公報、特開2002−60465号公報)。一方、特開2004−99834号公報、特開2004−76358号公報、特開2004−76359号公報などでは、エポキシ−ケチミン系の樹脂組成物は、皮膚刺激を与える可能性があることを指摘し、代わりに、酸素硬化型樹脂を使用したプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物が提案されている。
【特許文献1】特開2000−281967号公報
【特許文献2】特開2002−60465号公報
【特許文献3】特開2004−99834号公報
【特許文献4】特開2004−76358号公報
【特許文献5】特開2004−76359号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来の酸素硬化型樹脂は、硬化速度が遅く硬度の発現に時間がかかり、グラウト材としての用途としては実用性が低いとの問題を有していた。そこで、酸素硬化型樹脂を用いながらも、硬化速度がより速いプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物(グラウト材)が望まれていた。
【0006】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたもので、PC緊張用鋼材の表面に塗布されるプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物であって、鋼材への塗布性がよく容易な緊張作業を可能とするとともに、優れた防錆・防食効果やコンクリートと緊張用鋼材を一体化するための優れた固定効果を有するとともに、緊張後の硬度の発現速度も満足するプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を提供することを目的としている。本発明は、さらに、このプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を用い、鋼材が完全防食され、優れた固定効果を有するとともに、緊張後の硬度の発現においても優れるPC緊張材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、酸素硬化型樹脂とともに、室温で固体であるとともに該酸素硬化型樹脂と相溶性のよい固形樹脂を所定量含有する樹脂組成物が、前記の課題を達成することを見いだし、本発明を完成した。
【0008】
すなわち本発明は、その請求項1において、酸素硬化型樹脂(A)、及び、該酸素硬化型樹脂(A)と相溶して均一な液状混合物を形成する固形樹脂(B)を含有することを特徴とするプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物であって、固形樹脂(B)の軟化点が40℃を越え、かつ固形樹脂(B)の含有量が、酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)との合計100重量部に対して、5重量部以上、60重量部以下であることを特徴とするプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
本発明者は、また、前記プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物に架橋剤(C)を添加することにより、硬度の発現速度をより向上できることを見いだした。請求項2に記載の発明はこの知見に基づき完成されたものであり、前記請求項1のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物であって、さらに、酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)に加えて架橋剤(C)を含有し、架橋剤(C)のモル当量が、酸素硬化型樹脂(A)のカルボキシル基及び水酸基の合計1モル当量に対して、0.03以上2.50以下であることを特徴とするプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【0010】
さらに本発明者は、架橋剤(C)を含有するとともに、前記プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を構成する酸素硬化型樹脂(A)中の官能基を増やし、官能基の濃度を以下に述べる範囲とすることによって、硬度の発現速度をさらに向上できることを見いだした。請求項3に記載の発明は、この知見に基づき完成されたものであり、前記請求項2に記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物、すなわち、架橋剤(C)を含有するプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物であって、酸素硬化型樹脂(A)の酸価と水酸基価の和が、10以上かつ50以下であることを特徴とするプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を提供するものである。
【0011】
酸素硬化型樹脂(A)としては、1分子中に酸化重合し得る脂肪酸を1個以上有するものであればよく、アルキド樹脂、ウレタン化油(油変性ウレタン樹脂)、脂肪酸変性エポキシエステルがこの酸素硬化型樹脂として例示される。これらは、公知の樹脂であり、その製造に使用される乾性油、多価アルコール、多塩基酸、イソシアネート類については、特に限定されるものではなく、公知の樹脂の原料と同様なものを使用することができる。
【0012】
アルキド樹脂としては、多価アルコールと、カルボキシル基を2個以上有している多価カルボン酸を重縮合させ、これを(半)乾性油または(半)乾性油脂肪酸で変性した油変性アルキド樹脂、脂肪酸変性アルキド樹脂などが使用可能である。
【0013】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ネオベンチルグリコール、1,3−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが挙げられる。
【0014】
多価カルボン酸としては、例えば、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸などの飽和多塩基酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和多塩基酸が挙げられる。
【0015】
前記の(半)乾性油または(半)乾性油脂肪酸としては、ヨウ素価が100以上であるものが好ましい。これにより、高い架橋密度が得られる。アルキド樹脂の合成に用いられる(半)乾性油としては、麻美油、亜麻仁油、サフラワ油、大豆油、ぬか油、綿実油、えの油、なたね油、桐油、トール油などが挙げられる。
【0016】
(半)乾性油脂肪酸としては、麻美油脂肪酸、亜麻仁油脂肪酸、サフラワ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ぬか油脂肪酸、綿実油脂肪酸、えの油脂肪酸、なたね油脂肪酸、桐油脂肪酸、トール油脂肪酸、しなきり油脂肪酸、ひまし油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、椰子油脂肪酸などが挙げられる。またフェノール樹脂やエポキシ樹脂、イソシアネートなどにより変性したものも使用できる。
【0017】
ウレタン化油とは、(半)乾性油をイソシアネートで変性したものである。ここで(半)乾性油としては、上記アルキド樹脂の場合と同様、ヨウ素価100以上のものが好ましい。イソシアネートとして例えばトリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキシレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ジメチルジシクロヘキシルメタンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0018】
脂肪酸変性エポキシエステルとは、エポキシ基を有する樹脂を(半)乾性油または(半)乾性油脂肪酸により変性したものである。(半)乾性油または(半)乾性油脂肪酸としては、上記アルキド樹脂の場合と同様、ヨウ素価100以上のものが好ましい。
【0019】
エポキシ基を有する樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、多価アルコールとエピクロルヒドリンとの縮合物、多価カルボン酸とエピクロルヒドリンとの縮合物、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型エポキシ樹脂、これらの臭素化物などを挙げることができる。以上の例示については、例示中の一種類を、単独で使用することもでき、又は2種類以上を併用することもできる。
【0020】
本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物は、この酸素硬化型樹脂(A)とともに、軟化点が40℃を越えかつ酸素硬化型樹脂(A)と相溶性の良い固形樹脂(B)を配合することを特徴とする。酸素硬化型樹脂(A)に、固形樹脂(B)を配合することにより、酸素硬化型樹脂(A)の単独では不十分であった硬度の発現速度を上げることができ、グラウト材として適度な硬化速度を発現することができる。
【0021】
固形樹脂(B)は、軟化点が40℃以上の室温で固形の樹脂である。軟化点が40℃未満の樹脂では、室温付近における樹脂の硬さが不十分で、硬化性樹脂組成物の硬度発現時期を早める効果が不充分であり、特に夏季などにおける温度上昇の場合においてこの問題が発生しやすい。より好ましくは軟化点が60℃以上の樹脂である。
【0022】
又、固形樹脂(B)は、酸素硬化型樹脂(A)との相溶性にすぐれ、室温で、酸素硬化型樹脂(A)と混合されることにより、均一な液状混合物(溶液)を形成するものでなければならない。
【0023】
酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)の配合量は、酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)との合計100重量部に対して、固形樹脂(B)が5重量部以上かつ60重量部以下の範囲である。
【0024】
固形樹脂(B)の含有量が5重量部未満の場合、樹脂組成物の硬度の発現速度が低下しグラウト材としての実用性が低くなる。一方60重量部を越える場合は、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎ塗布性が低下するなど、ハンドリングの問題が生じる場合がある。固形樹脂(B)の含有量のより好ましい範囲は、10重量部以上かつ40重量部以下である。
【0025】
このような固形樹脂(B)として使用できる樹脂としては、石油樹脂、キシレン樹脂、スチレン樹脂、レゾール型フェノール樹脂、ノボラック型フェノール樹脂、ロジンエステル、ロジンフェノール、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ケトン樹脂などを挙げることができる。これらの樹脂などから選ばれる1種の樹脂を単独で使用してもよく、また2種以上を併用することもできる。
【0026】
中でも、レゾール型フェノール樹脂(レゾール樹脂)が好ましく例示される。請求項4は、この好ましい態様に該当する。前記のように、固形樹脂(B)を配合することにより樹脂組成物の硬化速度を向上することができるが、レゾール樹脂を用いた場合は、レゾールの自己重合を利用することにより、さらに優れた硬化速度の向上効果が得られると考えられる。
【0027】
ここでレゾール樹脂とは、フェノール類とホルムアルデヒド類とを、ホルムアルデヒド類が過剰の条件で、反応触媒の存在下、加熱して縮合させて、フェノール類にメチロール基を導入してなるものであり、導入したメチロール基はアルキルエーテル化されていてもよい。
【0028】
上記フェノール樹脂を構成するフェノール成分としては、例えば、o−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−エチルフェノール、p−フェニルフェノール、2,3−キシレノール、2,5キシレノール、p−tert−アミノフェノール、p−ノニルフェノール、p−シクロヘキシルフェノール、石炭酸、m−クレゾール、m−エチルフェノール、3,5−キシレノール、m−メトキシフェノール、2,4−キシレノール、2,6−キシレノール、ビスフェノールA、ビスフェノールFが挙げられ、また、キシレン樹脂などで変性されたものも使用できる。これらは、1種の単独で又は2種類以上の組合せで使用することができる。
【0029】
また、固形樹脂(B)として石油樹脂を用いた場合も優れた硬化速度の向上効果が得られ好ましい。請求項5は、この好ましい態様に該当する。
【0030】
石油樹脂とは、ナフサを分解した際に得られる不飽和化合物を重合したものであり、C5留分を原料とする脂肪族系とC9留分を原料とする芳香族系とがある。C5系としては、例えば、シクロペンタジエン系、ジシクロペンタジエン系、ペンテン系、ペンタジエン系、イソプレン系、ピペリレン系、メチルブテン系が挙げられ、C9系としては、例えば、ビニルトルエン系、α−メチルスチレン系、スチレン系、インデン系、クマロン系が挙げられる。またこれらの水添品も使用できる。さらに上記石油樹脂においては、分子中に、炭化水素結合以外に、エステル結合や、水酸基、カルボキシル基及び酸化重合性基などの官能基を含むことができる。
【0031】
架橋剤(C)は、酸素硬化型樹脂(A)中に含有される水酸基やカルボキシル基との架橋反応を起こすものである。アミノ基やイソシアネート基、アクリル基、エポキシ基などの官能基を有する多官能架橋剤(C)を、酸素硬化型樹脂(A)に添加することで、樹脂組成物内部からの硬化を促進できるので、従来の表面からの酸素硬化では不十分であった硬化速度を向上することができる。また、厚膜の塗布の場合でも内部からの均一な硬化を実現できグラウト材として適度な硬化速度を発現することができる。
【0032】
前記架橋剤(C)として利用できるものとしては、エポキシ樹脂、グリシジル基含有オルガノシラン、イソシアネート、メラミン樹脂、オキサゾリン系化合物、カルボジイミド系化合物、アルミニウムキレート化合物などを挙げることができる。以上の例示中の1種類を単独で使用することもでき、又は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。さらに、レゾール樹脂やベンゾオキサジンなどの熱硬化性樹脂と組み合わせて使用してもよい。
【0033】
架橋剤(C)として使用するエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ビスフェノールAとエピクロルヒドリンの縮合物)、ビスフェノールF型エポキシ樹脂(ビスフェノールFとエピクロルヒドリンの縮合物)、フェノールノボラックとエピクロルヒドリンの縮合物、2価アルコールとエピクロルヒドリンの縮合物、2価カルボン酸とエピクロルヒドリンの縮合物などが挙げられ、これらは1種類単独で使用でき、又は2種類以上を併用することもできる。
【0034】
このエポキシ樹脂の具体例としては、商品名:エピコート828、834、1001、871(ジャパンエポキシレジン(株)製)、商品名:エポライト400E、400P(共栄社油脂化学工業(株)製)、商品名:SR−16H、SR−4GL(阪本薬品工業(株)製)が挙げられる。
【0035】
架橋剤(C)として使用するグリシジル基含有オルガノシランとしては、例えば、グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル(メチル)ジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル(ジメチル)メトキシシラン、γ−グリシドキシプロピル(エチル)ジメトキシシランが挙げられる。また、これらを使用したオリゴマーも使用できる。これらのグリシジル基含有オルガノシランは、1種類単独で使用でき又は2種類以上を組み合わせて使用できる。この中でも、コスト、反応性の観点より、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0036】
架橋剤(C)として使用するイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネートなどのイソシアネートモノマー、これらのアダクト変性物やイソシアヌレート変性物などのポリイソシアネートが挙げられる。これらは1種類単独で使用でき又は2種類以上を組み合わせて使用することもできる。
【0037】
架橋剤(C)としてイソシアネート基含有樹脂を使用する場合には、当該イソシアネート基含有樹脂におけるイソシアネート基を、フェノール、キシレノール、アルコール、ε−カプロラクタム、MEKオキシム、又はアセチルアセトンなどで封鎖したイソシアネート基含有樹脂(ブロック型イソシアネート基含有樹脂)を使用することが好ましい。
【0038】
架橋剤(C)として使用するメラミン樹脂としては、一例として、商品名:サイメル300、303、325(サイテック(株)製)を挙げることができる。メラミン樹脂は1種類単独で使用でき又は2種類以上を組み合わせて使用することもできるが、硬化物の物性を考慮すると無溶剤型を使用することが望ましい。
【0039】
架橋剤(C)として使用するオキサゾリン系化合物としては、オキサゾリン基含有ポリマーが挙げられ、具体的には、商品名:エポクロスRPS−1005、WS−500、WS−700、K−2020E((株)日本触媒製)を例示することができる。
【0040】
架橋剤(C)として使用するカルボジイミド系化合物としては、カルボジイミド基を少なくとも2個以上有するものが使用できる。具体的には、商品名:カルボジライト(日清紡績(株)製)などが挙げられる。
【0041】
架橋剤(C)として使用するアルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムエチルアセトアセテートジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(アセチルアセトアセテート)、アルミニウムビスエチルアセトアセテートモノアセチルアセトアセテートが挙げられ、これらを単独で使用、又は2種類以上を組み合わせて使用できる。この際、貯蔵安定性を向上させるために、アセチルアセトン、ダイアセトンアルコール、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルなどを添加することが望ましい。
【0042】
架橋剤(C)の含有量は、そのモル当量が、酸素硬化型樹脂(A)のカルボキシル基及び水酸基の合計1モル当量に対して、0.03以上2.50以下となる範囲が好ましい。このモル当量が2.50を超えると、硬化速度が速くなりすぎ鋼材を緊張する期間を十分に取れず、緊張前に硬化するという問題がある。0.03未満であると、硬化速度を向上する効果が充分得られない。より好ましくは、0.1以上かつ2.0以下である。なお、酸素硬化型樹脂(A)の重量1g当たりのカルボキシル基及び水酸基のモル当量は、酸価、水酸基価と以下に示す関係になる。
カルボキシル基モル当量=酸価/56110
水酸基のモル当量=水酸基価/56110
【0043】
前記のように、架橋剤(C)を添加するとともに、酸素硬化型樹脂(A)中に含まれる官能基、特にカルボキシル基の濃度を上げると、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物の硬化速度をより向上できるので好ましい。酸素硬化型樹脂(A)中の官能基濃度を上げることにより、酸素硬化型樹脂(A)中の架橋点を増やすことができるので、硬化速度を向上できるものと考えられる。
【0044】
酸素硬化型樹脂(A)中の官能基(カルボキシル基)濃度を上げる具体的手段としては、酸素硬化型樹脂(A)の合成に際して、酸の量を過剰にする方法や、酸素硬化型樹脂(A)の水酸基に、酸(無水トリメリット酸)を付加させる方法などが挙げられる。
【0045】
官能基濃度を具体的に示す指標としては、酸価及び水酸基価を用いることができ、酸価と水酸基価の和が、10以上かつ50以下の範囲が好ましい。10未満であると硬化速度の向上が不十分となる問題があり、50を超えると硬化後の樹脂の物性(耐水性等)が低下する問題がある。15以上かつ40以下であるとより好ましい。
【0046】
本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物では、さらに金属触媒を適切な割合で配合することによって、硬化速度を調整することができる。請求項6は、この金属触媒を配合する態様に該当する。金属触媒としては、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸カルシウム、ナフテン酸リチウム、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸鉛、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸銅、ナフテン酸ジルコニウムなどのナフテン酸塩や、オクチル酸コバルト、オクチル酸カルシウム、オクチル酸マンガン、オクチル酸銅、オクチル酸鉛、オクチル酸亜鉛、オクチル酸ジルコニウム、オクチル酸アルミニウム、オクチル酸第1スズなどのオクチル酸塩などが挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0047】
金属触媒は、酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)との合計100重量部に対して、金属分換算で0.05〜1重量部の範囲であることが好ましい。すなわち、金属触媒の含有量が0.05重量部未満になると、酸化による硬化が遅くなる。また、金属触媒の配合量が多くなると、金属触媒を希釈するために使用される溶剤量も増え、ポリエチレンなどから形成されることが多いシースを押出被覆する際にボイドの発生を招くことがあるので、好ましくない。より好ましくは、金属分換算で0.1〜0.8重量部の範囲である。
【0048】
また、本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物には、硬度発現のため、又粘度調整やチクソ性調整のために、各種の充填材を配合することができる。請求項7は、この態様に該当する。この充填材としては、タルク、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカ、アエロジル(超微粒子無水二酸化ケイ素、日本アエロジル社商品名)、ゼオライトなどが挙げられる。充填材の配合量の範囲は特に限定されず、粘度と硬度の関係を考慮して、適宜決定される。
【0049】
さらに、本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物には、粘性調整などのために、少量の有機溶剤などを配合することができる。しかし、有機溶剤を含むと、環境上または作業上問題を生じる可能性があり、また、溶剤が揮発する分有効成分が減少して、性能上の問題を生じる可能性があるので、溶剤量は少ない方が好ましく、無溶剤での使用がより好ましい。
【0050】
本発明のプレグラウト鋼材用樹脂組成物は、塗布作業及び貯蔵安定性の観点より、25℃における粘度が10〜250Pa・sであることが好ましく、より好ましくは15〜150Pa・sである。さらに、40℃における粘度が5Pa・s以上であり、かつ5℃における粘度を[η5]とし、40℃における粘度を[η40]としたときの、log[η5]/log[η40]が3.0未満であることが好ましい。請求項8は、この好ましい態様に該当する。
【0051】
40℃における粘度が5Pa・s未満の場合は、夏場などにおいて、樹脂組成物の流動性が大きくなりすぎて塗布作業が困難になる。又、log[η5]/log[η40]が3.0以上の場合は、塗布時の条件の振れ幅が大きくなり、また季節により緊張可能日数に変動が生じる。log[η5]/log[η40]は、2.7未満がより好ましい。
【0052】
樹脂組成物を塗布したPC緊張用鋼材を用いたPC緊張材は、ポストテンション工法で、硬化前のコンクリート内に埋設され、コンクリートがある程度硬化した段階で、PC緊張用鋼材を緊張し、コンクリートに圧縮応力を与える。従って、コンクリートがある程度硬化するまでは、(コンクリートの発熱が大きい場合でも)硬化しないことが必要で、一方、緊張後はなるべく短時間で硬化することが好ましい。
【0053】
酸素硬化型樹脂の単独の使用では、緊張後の短時間での硬化を達成することは困難であるが、本発明の樹脂組成物では、固形樹脂が添加されているので硬化速度が向上し、前記の条件を満たすように硬化速度を調整することが可能である。硬化速度の調整は、酸素硬化型樹脂に対する金属触媒の含有量を調整する他、変性の為に使用される脂肪酸の種類(ヨウ素価)を変更することによって行うことができる。また、前記のように架橋剤の添加や、酸素硬化型樹脂中の官能基を増やすことにより、硬化速度をより向上させることが可能となる。
【0054】
本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を製造する方法については、特に限定されないが、例えば次のような方法が挙げられる。まず、酸素硬化型樹脂(A)に固形樹脂(B)を相溶又は分散させ、次いで必要に応じて充填剤を加えて、さらに必要に応じて所定量の架橋剤(C)や金属触媒を配合し、ミキサーによって攪拌混合する。混合終了後、真空下にて脱泡を行い、目的とするプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得る。
【0055】
本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物は、PC緊張用鋼材の表面に塗布される。この塗布作業を容易にするため、前記のように、該樹脂組成物は、塗布温度において適度な流動性を有する粘度範囲であることが望まれる。塗布温度としては、0〜40℃の常温付近が好ましいが、必要に応じて樹脂組成物を加熱しながら塗布してもよい。
【0056】
PC緊張用鋼材としては、従来から使用されているプレグラウト鋼材と同様なものが用いられる。具体的には、鋼線、鋼棒などであり、特に、鋼線を複数本撚りあわせたものが用いられる。
【0057】
本発明は、さらに、前記のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を用いたPC緊張材を提供する。すなわち、PC緊張用鋼材、前記本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物からなるグラウト材層を含み前記PC緊張用鋼材の表面を被覆する被覆層、及び、前記被覆層の外周を被覆するシースを有することを特徴とするPC緊張材である(請求項9)。
【0058】
本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物による効果を有効に発揮させるためには、該プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物の厚み、すなわちグラウト材層の厚みは20μm以上であることが好ましい。この厚みが20μm未満になると、緊張時にPC緊張用鋼材とシースとの間の縁切りが十分でなくなり、摩擦係数が大きくなり充分な緊張を行えなくなる。
【0059】
グラウト材層は、本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物からなる層であるが、PC緊張用鋼材の表面は、このグラウト材層を含む被覆層により被覆され、この被覆層が、後に詳述するシースにより覆われる。この被覆層は、グラウト材層のみからなる場合もあるが、さらに他の層を含んでいてもよい。例えば、PC緊張用鋼材の表面が、グラウト材層で被覆され、その外側に他の層が形成されてもよいし、PC緊張用鋼材の表面に他の層が形成され、その外側にグラウト材層が形成されてもよい。
【0060】
グラウト材層は、例えば、本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を、PC緊張用鋼材の表面、又はPC緊張用鋼材上に形成された他の層の表面に塗布して形成することができる。塗布方法については特に限定されるものではない。例えば該樹脂組成物の満たされた樹脂ボックスにPC緊張用鋼材(他の層が形成されているものも含む。)を通過させ、樹脂ボックスの出口に設けられ所望の塗布厚みが達成されるように設計された径を有する穴により余分な樹脂を取り除いて所定量の樹脂を均一に塗布する方法が挙げられる。このようにして形成されたグラウト材層の表面上に、さらに他の層を形成してもよい。
【0061】
グラウト材層及び、場合により1層以上の他の層からなる前記被覆層の外周はシースで被覆される。シースとしては、従来のPC緊張材に使用されているシースと同様なものが使用できる。例えば、ポリエチレンなどの熱可塑性樹脂から形成されるシースや金属シースなどが使用される。シース表面には、コンクリートとの固定を確実にするため好ましくは凹凸が形成されている。
【0062】
本発明のPC緊張材は、前記のようなシースに、グラウト材層を含む被覆層をその表面に有するPC緊張用鋼材を挿入することにより製造することができる。このようにして得られる本発明のPC緊張材は、その長さ方向に垂直な断面において、中心部に鋼材(通常複数本の鋼線を撚り合わせたもの)があり、その周囲が本発明の樹脂組成物からなるグラウト材層を含む被覆層で被覆され、さらにその周囲がシースで被覆されている。PC緊張用鋼材が、さらにシースにより覆われる結果、その防食がより完全なものとなる。
【0063】
このようにして得られる本発明のPC緊張材は、ポストテンション工法で使用することができる。すなわち、硬化前のコンクリート内にこのPC緊張材を埋設し、コンクリートがある程度硬化した段階で、PC緊張用鋼材を緊張してコンクリートに圧縮応力を与える。本発明の樹脂組成物は、緊張が円滑に行われるようにコンクリートがある程度硬化するまでは硬化せず、一方緊張後は常温で短時間に硬化するように、硬化速度が調整されたものであるので、本発明のPC緊張材とコンクリート間の固定効果も優れたものである。
【発明の効果】
【0064】
ポストテンション工法を、PC緊張用鋼材、本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物からなるグラウト材層を含み、前記PC緊張用鋼材の表面を被覆する被覆層、及び前記被覆層の外周を被覆するシース、を有するPC緊張材を使用して行う場合は、緊張用鋼材の挿入作業やグラウト材の注入作業が不要であり、これらの作業にともなう煩雑さを解決することができる。又、本発明のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物は、優れた固定効果を有し、鋼材の緊張後のコンクリートとの一体化に優れており、かつ緊張用鋼材に対する防錆、防食効果も優れるものである。
【0065】
さらに、この樹脂組成物は、コンクリートの硬化過程での発熱により高温にさらされる場合であっても、コンクリートの硬化前に樹脂が硬化し緊張作業を困難にすることはない。また、鋼材緊張後の硬度の発現速度も満足する。特に、架橋剤を添加したり、酸素硬化型樹脂中の官能基を増やした場合は、硬化速度をより高めることができ、鋼材緊張後の硬度の発現速度をより満足する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0066】
次に、本発明を実施するための最良の形態につき、以下に実施例により説明するが、本発明は、この実施例のみに限定されるものではない。
【0067】
(調整例1)(アルキド樹脂Aの調整)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流器を備えたフラスコに、亜麻仁油(ヨウ素価:187)721重量部、ペンタエリスリトール99重量部、ナフテン酸リチウム0.8重量部を仕込み、撹拌しながら250℃まで昇温した。250℃で1時間保持した後、180℃まで温度を下げ、無水フタル酸180重量部、およびキシレン20重量部をさらに仕込み、再度250℃まで昇温した。キシレン還流下で脱水反応をしながら、250℃で5時間撹拌した後、窒素ガスの流量を上げてさらに1時間、250℃で撹拌してキシレンを回収するとともにアルキド樹脂を得た。この樹脂の油長は74%、25℃での粘度は2.9Pa・s、酸価は4.5、水酸基価は28であった。
【0068】
(調整例2)(アルキド樹脂Cの調整)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流器を備えたフラスコに、亜麻仁油(ヨウ素価:187)703重量部、ペンタエリスリトール97重量部、ナフテン酸リチウム0.8重量部を仕込み、撹拌しながら250℃まで昇温した。250℃で1時間保持した後、180℃まで温度を下げ、無水フタル酸176重量部、およびキシレン20重量部をさらに仕込み、再度250℃まで昇温した。キシレン還流下で脱水反応をしながら、250℃で5時間撹拌した後、窒素ガスの流量を上げてさらに1時間、250℃で撹拌してキシレンを回収した。160℃まで温度を下げ、無水トリメリット酸24重量部を仕込み、160℃で1時間撹拌してアルキド樹脂を得た。この樹脂の油長は73%、25℃での粘度は9.8Pa・s、酸価は19、水酸基価は16であった。
【0069】
(調整例3)(ウレタン化油の調整)
攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流器を備えたフラスコに、亜麻仁油(ヨウ素価:187)850重量部、ペンタエリスリトール50重量部、水酸化ナトリウム0.1重量部を仕込み、撹拌しながら250℃まで昇温した。250℃で1時間保持した後、50℃まで温度を下げ、トリレンジイソシアネート100重量部をさらに仕込み、2時間撹拌した後、さらに2時間、120℃で撹拌してウレタン化油を得た。この樹脂の油長は85%、25℃での粘度は1.5Pa・s、酸価は0.1、水酸基価は25であった。
【実施例1】
【0070】
調整例1で得られたアルキド樹脂A(酸素硬化型樹脂(A))の80重量部と、ブチルフェノールレゾール樹脂(固形樹脂(B)、商品名:レヂトップPS−2607、群栄化学工業(株)製、軟化点:65〜80℃)の20重量部を、80℃で1時間混合したものに、アエロジル2.5重量部、タルク80重量部および炭酸カルシウム40重量部からなる充填剤、並びに、硬化触媒として4%ナフテン酸ジルコニウムの9重量部および6%ナフテン酸コバルトの1重量部を混合して、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得た。
【実施例2】
【0071】
酸素硬化型樹脂(A)として、調整例3で得られたウレタン化油を用いた以外は、実施例1と同様にして、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得た。
【実施例3】
【0072】
固形樹脂(B)として、C9石油樹脂(C9芳香族炭化水素留分重合物、商品名:ネオポリマー120:新日本石油化学(株)製、軟化点:120℃)を用い、酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)の混合の温度を80℃から130℃に変えた以外は、実施例1と同様にして、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得た。
【実施例4】
【0073】
実施例1と同じ配合に、さらに、架橋剤(C)として、カルボジライトV−05(カルボジイミド系架橋剤:日清紡績(株)製)1.7重量部(酸素硬化型樹脂(A)のカルボキシル基及び水酸基の合計1モル当量に対して、0.14モル当量)を配合し、他は実施例1と同様にして、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得た。
【実施例5】
【0074】
酸素硬化型樹脂(A)として、調整例2で得られたアルキド樹脂Cを用い、架橋剤(C)として、オルガノシランS−510(オルガノシラン系架橋剤:チッソ(株)製)6.4重量部(酸素硬化型樹脂(A)のカルボキシル基及び水酸基の合計1モル当量に対して、0.54モル当量)を配合した以外は、実施例4と同様にして、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得た。
【0075】
(比較例1)
調整例1で得られたアルキド樹脂(酸素硬化型樹脂(A))の量を100重量部とし、ブチルフェノールレゾール樹脂などの固形樹脂(B)を混合しなかった以外は、実施例1と同様にして、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得た。
【0076】
(比較例2)
調整例3で得られたウレタン化油(酸素硬化型樹脂(A))の量を100重量部とし、ブチルフェノールレゾール樹脂などの固形樹脂(B)を混合しなかった以外は、実施例2と同様にして、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得た。
【0077】
(比較例3)
調整例1で得られたアルキド樹脂(酸素硬化型樹脂(A))の量を98重量部とし、ブチルフェノールレゾール樹脂(固形樹脂(B))の量を2重量部とした以外は、実施例1と同様にして、プレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物を得た。
【0078】
前記の実施例並びに比較例で得られたプレグラウト鋼材用樹脂組成物の、硬化速度を以下に示す方法で評価し、並びに、粘度(5℃、25℃、40℃)および不揮発分(%)を以下に示す方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0079】
[硬化速度の評価]
得られたプレグラウト鋼材用樹脂組成物を、ポリプロピレン製シャーレに、8mmの厚さで塗布し、90℃で30日間放置後のショアD硬度を測定し、硬化速度を評価した。
【0080】
[粘度]
E型粘度計((株)レオロジ製、MR−300VII型)を用いて、5℃、25℃、40℃で測定した。
【0081】
[不揮発分の測定法]
JIS K 6833「接着剤の一般試験方法」に規定される「不揮発分測定」に準拠して測定を行った。
【0082】
【表1】

【0083】
表1に記載の結果より明らかなように、実施例1〜5(本発明品)のプレグラウト鋼材用樹脂組成物は、90℃、30日間の放置で高いショアD硬度を発現し、ポストテンション工法に用いたときPC緊張後の硬度の発現速度も満足すると考えられる。一方、比較例1〜3の組成物は、90℃、30日間の放置で硬化せず、緊張後の硬度の発現速度についても不十分であることが考えられる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素硬化型樹脂(A)、及び、該酸素硬化型樹脂(A)と相溶して均一な液状混合物を形成する固形樹脂(B)を含有することを特徴とするプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物であって、固形樹脂(B)の軟化点が40℃を越え、かつ固形樹脂(B)の含有量が、酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)との合計100重量部に対して、5重量部以上、60重量部以下であることを特徴とするプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
さらに架橋剤(C)を含有し、架橋剤(C)のモル当量が、酸素硬化型樹脂(A)のカルボキシル基及び水酸基の合計1モル当量に対して、0.03以上2.50以下であることを特徴とする請求項1に記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
酸素硬化型樹脂(A)の酸価と水酸基価の和が、10以上かつ50以下であることを特徴とする請求項2に記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
固形樹脂(B)が、レゾール樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
固形樹脂(B)が、石油樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
酸素硬化型樹脂(A)を硬化させるための金属触媒を、酸素硬化型樹脂(A)と固形樹脂(B)との合計100重量部に対して、金属分換算で0.05〜1重量部さらに含有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
さらに充填材を含むことを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物。
【請求項8】
25℃における粘度が10〜250Pa・sであり、40℃における粘度が5Pa・s以上であり、かつ5℃における粘度を[η5]とし、40℃における粘度を[η40]としたときのlog[η5]/log[η40]が、3.0未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれかに記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物。
【請求項9】
プレストレストコンクリート緊張用鋼材、
請求項1ないし請求項8のいずれかに記載のプレグラウト鋼材用硬化性樹脂組成物からなるグラウト材層を含み、前記プレストレストコンクリート緊張用鋼材の表面を被覆する被覆層、及び、
前記被覆層の外周を被覆するシース
を有することを特徴とするプレストレストコンクリート緊張材。