説明

プレス成形方法

【課題】 設備コストの増大を抑えてバリの発生が少ないプレス成形方法を提供する。
【解決手段】 成形材料1を受けトレイ2の上に載せた後、この受けトレイ2を成形材料1とともに下型3の上に載せてセットする。下型3と上型4の間で成形材料1をプレス成形した後、受けトレイ2とともに成形材料1のプレス成形品5を脱型する。成形材料1やそのプレス成形品5と受けトレイ2とを一組としてハンドリングするために、下型3の個数を増大させる必要が無い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントなどの水硬性材料を主成分とする窯業系成形材料などを成形する際のプレス成形方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、セメントと水を含む成形材料をプレスにより成形することが行われている(例えば、特許文献1参照)。図3に成形材料のプレス成形方法の一例を示す。この方法では、まず、図3(a)に示すように、所定量の成形材料1をプレス成形機10内にセットした下型3の上面(成形面)の上に載せる。次に、図3(b)に示すように、プレス成形機10にセットした上型4を下動させて型締めし、下型3と上型4との間に上記成形材料1を挟持してプレス成形する。次に、図3(c)に示すように、上型4を上動させて型開きし、図3(d)に示すように、成形材料1のプレス成形品5を下型3から脱型した後、プレス成形品5を養生硬化させるようにするものである。
【0003】
しかし、このように成形材料1を成形用金型の下型3の成形面に直接投入し、プレス成形後にプレス成形品5のみを金型から取り出す場合、成形材料1が硬化前で軟らかく、保形性が低いために、プレス成形品5がハンドリング時に崩れてしまい、プレス成形品5のみを金型から取り出すのはほとんど不可能であった。
【0004】
そこで、成形材料1を下型3の上に載せた状態でハンドリングすることが提案されている。すなわち、図4(a)に示すように、成形用金型の下型3の上に成形材料1を載せた後、図4(b)に示すように、この下型3を成形材料1とともにプレス成形機10内に投入してセットする。次に、図4(c)に示すように、プレス成形機10にセットした上型4を下動させて型締めし、下型3と上型4との間に上記成形材料1を挟持してプレス成形する。次に、図4(d)に示すように、上型4を上動させて型開きし、成形材料1のプレス成形品5を下型3の上に載せた状態でプレス成形機10から取り出す。この後、プレス成形品5を下型3の上に載せたまま養生硬化させ、図4(e)に示すように、養生硬化後にプレス成形品5を下型3から脱型するものである。
【0005】
しかし、この方法では、成形材料1やそのプレス成形品5と下型3とを一組としてハンドリングするために、下型3の必要個数が増大し、設備コストが増大するという問題があった。また、多数の下型3を順次繰り返し回転させて使用するために、上型4との型締め精度が低くなり、上型4と下型3のクリアランス部から成形材料1が漏れだしてバリが発生しやすくなるという問題があった。
【特許文献1】特開昭62−236709号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、設備コストの増大を抑えてバリの発生が少ないプレス成形方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のプレス成形方法は、成形材料1を受けトレイ2の上に載せた後、この受けトレイ2を成形材料1とともに下型3の上に載せてセットし、下型3と上型4の間で成形材料1をプレス成形した後、受けトレイ2とともに成形材料1のプレス成形品5を脱型することを特徴とするものである。
【0008】
本発明にあっては、下型3の周囲に受けトレイ2との隙間12を閉塞するための緩衝材6を設けるのが好ましい。
【0009】
また、本発明にあっては、成形材料1として、セメント、水、油性物質及び乳化剤を含むセメント含有逆エマルジョン組成物を用いることができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明にあっては、成形材料1やそのプレス成形品5と受けトレイ2とを一組としてハンドリングするために、下型3の個数を増大させる必要が無く、下型3による設備コストの増大を抑えることができるものである。また、上型4と対になる下型3は一つにすることができ、下型3と上型4との型締め精度が低くならないようにすることができる。従って、上型4と下型3のクリアランス部から成形材料1が漏れだしにくくなり、バリの発生を少なくすることができるものである。
【0011】
また、機械加工精度などにより生じる下型3と受けトレイ2との隙間12を緩衝材6によって埋めることができ、上記隙間12への成形材料1の回り込みを防止して成形不良の発生を防止することができるものである。
【0012】
また、本発明は、成形材料1として、セメント、水、油性物質及び乳化剤を含むセメント含有逆エマルジョン組成物のような保形性の低い材料に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0014】
本発明で用いる成形材料1はセメントと水を含む窯業系のセメント組成物を用いることができる。
【0015】
本発明で用いる受けトレイ2は、薄い金属板を絞り加工などにより下型3の成形面に沿う形状に形成したものである。金属板としてはステンレス鋼板(SUS板)、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛アルミニウム合金めっき鋼板(GL鋼板)、亜鉛/アルミニウム/マグネシウム合金めっき鋼板(ZAM)、鉄板などで厚み0.8〜3.2mmのものを用いることができる。このように受けトレイ2を薄い金属板の絞り加工品で形成することによって、下型3よりも安価に作製することができ、多数の下型3を作製するよりも受けトレイ2を多数作製する方が設備コストを少なくすることができる。
【0016】
そして、本発明のプレス成形方法は以下のようにして行う。まず、図1(a)に示すように、計量等により所定量に切り出した成形材料1を受けトレイ2の上に載せる。成形材料1はシート状態で受けトレイ2に供給してもよいし、塊状態で受けトレイ2に供給してもよい。次に、図1(b)に示すように、成形材料1を載せた受けトレイ2を成形材料1とともに下型3の上に載せてセットする。ここで、下型3は上型4と対で使用される成形用金型であって、型開きした状態でプレス成形機10にセットされている。次に、図1(c)に示すように、プレス成形機10にセットした上型4を下動させて型締めし、下型3と上型4との間に上記成形材料1及び受けトレイ2を挟持してプレス成形する。このプレス成形によって成形材料1は、上型4の成形面(下面)に沿った形状の上面と、受けトレイ2の上面に沿った下面とを有する略板状のプレス成形品5に形成される。次に、図1(d)に示すように、上型4を上動させて型開きした後、図1(e)に示すように、プレス成形品5を受けトレイ2の上に載せた状態で下型3から取り出す。この後、プレス成形品5を下型3の上に載せたまま養生硬化させ、養生硬化後にプレス成形品(製品)5を受けトレイ2から取り外すようにする。受けトレイ2は再度図1(a)の工程に戻されて使用される。
【0017】
そして、本発明では保形性が低くて軟らかい成形材料1のプレス成形において、成形材料1を受けトレイ2に載せた状態で成形用金型に対して搬送して供給したり搬出して脱型したりし、成形材料1を容易にハンドリングすることが可能となるものである。従って、下型3よりも安価な受けトレイ2を多量に作製することによって、下型3の個数を増大させる必要が無く、下型3による設備コストの増大を抑えることができるものである。また、上型4と対になる下型3は一つにしてプレス成形機10に固定した状態にすることができ、下型3と上型4との型締め精度が低くならないようにすることができる。従って、上型4と下型3のかみ合わせ部分の機械加工精度を向上させることが可能となり、上型4と下型3のクリアランス部から成形材料1が漏れだしにくくなり、バリの発生を少なくすることができるものである。さらに、プレス成形品5を受けトレイ2に載せた状態で養生硬化させるので、受けトレイ2の周端に沿ってプレス成形品5のバリ取りを行うことができ、バリ取り工程を単純化することができるものである。
【0018】
本発明において、下型3の成形面の周囲に受けトレイ2との隙間12を埋めて閉塞するための緩衝材6を設けるのが好ましい。この緩衝材6はEPDM(発泡弾性シール材)やゴムパッキンなどの弾性部材であって、特に材質は制限されない。また、図2(a)に示すように、緩衝材6は平面視で下型3の成形面3aを囲うように配設されているが、図2(b)に示すように、緩衝材6の上部は下型3の成形面3aよりも僅かに上側に突出して設けられている。すなわち、図2(c)に示すように、下型3の周端部には上面と側面とに開口する凹段部11が下型3の全周に亘って形成されており、その凹段部11の全長に亘って断面略角形の緩衝材6が嵌め込まれていると共に凹段部11に嵌め込まれた緩衝材6の上面が下型3の成形面(上面)3aよりも上側に位置した状態となっている。そして、上述のように受けトレイ2を下型3の上にセットすると、受けトレイ2の周端部が緩衝材6の上に載るが、プレス成形時の圧力で緩衝材6が圧縮されて押し潰されることにより、受けトレイ2の下面と下型3の成形面3aの隙間12の開口が閉塞されることになる。従って、機械加工精度が低いことなどに起因する下型3と受けトレイ2との隙間12を緩衝材6によって埋めて閉塞し、成形材料1が隙間12に回り込まないようにすることができ、成形材料1の回り込みによる成形不良を低減することができるものである。
【0019】
本発明において、成形材料1としては、セメント、水、油性物質及び乳化剤を含むセメント含有逆エマルジョン組成物を用いるのが好ましい。このセメント含有逆エマルジョン組成物は他のセメント系成形材料よりも流動性が良くて複雑な形状に成形しやすいが、保形性が低くなり変形しやすい。そこで、上記のような受けトレイ2を用いて搬送や成形や養生硬化するのが好ましい。
【0020】
セメントとしては、特に制限されるものではないが、ポルトランドセメント、フライアッシュセメント、高炉セメント、アルミナセメント、ハイアルミナセメント、シリカヒューム等を用いることができ、また一種単独で用いたり、二種以上を併用したりすることができる。
【0021】
また、油性物質としては、水と逆エマルジョン(W/Oエマルジョン)を形成しうるものであれば、特に制限はなく、通常疎水性の液状物質が利用され、例えば、トルエン、キシレン、灯油、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等が挙げられる。特に、油性物質として、スチレン、ジビニルベンゼン、メチルメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、不飽和ポリエステル樹脂等の重合性二重結合を有するもの(ビニル単量体)を使用すれば、セメントの水和反応と重合性二重結合を有する油性物質の重合反応が同時に起こり、ポリマーがマトリックスを形成して、優れた物理的、機械的性質を有するプレス成形品(セメント成形品)が得られるので望ましい。
【0022】
また、重合性二重結合を有する油性物質を使用する場合には、油性物質の重合を促進するために、有機過酸化物や過硫酸塩等の重合開始剤、例えばt−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等を併用することが望ましい。また、トリメチロールプロパントリメタクリレート等の架橋剤を併用することもできる。
【0023】
セメント含有逆エマルジョン組成物中の油性物質の含有量は、セメント含有逆エマルジョン組成物中に水との逆エマルジョンを形成でき、且つ得られるプレス成形品(無機質成形体)に所望の特性が付与されるように、適宜調整されるものであるが、例えばセメント含有逆エマルジョン組成物中の水と固形分の総量に対して5〜10体積%の範囲であることが好ましい。
【0024】
また、セメント含有逆エマルジョン組成物には上記成分の他に、乳化剤(逆乳化剤)を配合することが好ましい。乳化剤は逆エマルジョンに安定性を付与するために配合されるものであり、例えばソルビタンセスキオレート、グリセロールモノステアレート、ソルビタンモノオレート、ジエチレングリコールモノステアレート、ソルビタンモノステアレート、ジグリセロールモノオレート等の非イオン性界面活性剤、各種アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤等を用いることができる。このような乳化剤の含有量も適宜調整することができるが、好ましくはセメント含有逆エマルジョン組成物中の水と固形分の総量に対して1〜3体積%の範囲とするものである。
【0025】
また、セメント含有逆エマルジョン組成物中には、さらに適宜量の軽量骨材、シリカ系骨材、有機繊維等の補強材や、各種添加剤を配合することができる。軽量骨材としては例えばフライアッシュバルーン、パーライト、シラスバルーン等のほか、発泡ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン発泡体等の有機発泡体等を用いることができ、その含有量はセメント100質量部に対して20〜40質量部の範囲とすることが好ましい。また、シリカ系骨材としては例えば砂利、ガラス粉、アルミナシリケート等を用いることができ、その含有量はセメント100質量部に対して100質量部以下とすることが好ましい。また、有機繊維としては例えばポリプロピレン繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維等を用いることができ、その含有量はセメント100質量部に対して3〜6質量部の範囲とすることが好ましい。
【0026】
また、上記のセメント含有逆エマルジョン組成物は、水/セメントの混合比を変化させることでセメント系成形品の比重を自由にコントロールすることができるという特長を有しているものである。本発明において、セメント含有逆エマルジョン組成物において、セメントと水の比率は任意に設定することができるが、質量比率で、セメント1に対して水0.3〜2の範囲が一般的に好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態の一例を示し、(a)乃至(e)は工程の概略図である。
【図2】同上の下型の一例を示し、(a)は平面図、(b)は断面図、(c)は一部の断面図である。
【図3】従来例の一例を示し、(a)乃至(d)は工程の概略図である。
【図4】従来例の他例を示し、(a)乃至(e)は工程の概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 成形材料
2 受けトレイ
3 下型
4 上型
5 プレス成形品
6 緩衝材
12 隙間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形材料を受けトレイの上に載せた後、この受けトレイを成形材料とともに下型の上に載せてセットし、下型と上型の間で成形材料をプレス成形した後、受けトレイとともに成形材料のプレス成形品を脱型することを特徴とするプレス成形方法。
【請求項2】
下型の周囲に受けトレイとの隙間を閉塞するための緩衝材を設けることを特徴とする請求項1に記載のプレス成形方法。
【請求項3】
成形材料として、セメント、水、油性物質及び乳化剤を含むセメント含有逆エマルジョン組成物を用いることを特徴とする請求項1又は2に記載のプレス成形方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2007−38418(P2007−38418A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−221785(P2005−221785)
【出願日】平成17年7月29日(2005.7.29)
【出願人】(503367376)クボタ松下電工外装株式会社 (467)
【Fターム(参考)】