説明

プレス機

【課題】複数のプレス金型を搭載し複数のプレス加工を同時に行なうプレス機において、ワークの型間搬送を簡略かつ短時間化し、プレス作業効率を向上できるプレス機を提案する。
【解決手段】ボルスタ上に3セット以上のプレス金型を非線形に配置してプレスラインを構成し、プレス金型間でワークを搬送する搬送手段をボルスタ上に設置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数セットのプレス金型を効率良く稼動させることができるプレス機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の車体構成品や部品などを製造する際には、一つの金型セット(上下型)を搭載した複数のプレス機で直列状のプレスラインを構成し、絞り成形、トリミング、カーリング等をプレス機毎に順次施して所望の製品形状を得ている。最近ではプレスラインの省人化や機数削減を企図し、1台のプレス機に能力内で複数のプレス金型セットを直列搭載し、1回のプレスショット(力行)にて同時に複数のプレス成形を実現するプレス機が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1は、1台のプレス機のボルスタ上にトリミング型とカーリング型の下型を搭載し対応する各上型をスライドに取付けて、1ショットで同時に2加工を実施することを開示している。1台のプレス機で同時に複数のプレス金型を駆動することで、設備運用費と要員の削減が図られ、加工効率の向上が図られるとある。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のプレス機では1台に集約できるものの、型間のワーク搬送人員、ワークを型に搬入する人員、型から搬出する人員は依然として必要であり、僅かな省人化メリットしか享受できない。
【0005】
また、特許文献2の図8の実施形態においては、1台のプレス機に複数のプレス金型を環状搭載し1ショットで同時成形するプレス機と、プレス機外に設置し金型間のワーク搬送を請け負う搬送ロボットが開示されている。搬送ロボットは、ロボットアームが水平に回動/伸縮するとともにアーム先端の複数ヘッドも回動し、ワークの向きを変えつつ円周軌道上の各金型間を搬送する。これにより、ワークの型間搬送およびプレス機への搬入/搬出の省人化が達成できるとされる。
【0006】
しかしながら、搬送ロボットがプレス機外に設置されているので、プレスショット毎にアーム及び複数ヘッドギアを機外まで待避せねばならず、待避/復帰時間と所要動力が工程上の重大な浪費となる。また、遠くから長尺アームを伸縮/回動させるのでワークの位置精度を保証し難いとともに、ロボット自体の機械的信頼性上も好ましくない。さらに、円周軌道上に型を配するので位置により型及びワークの向きが一義的に決まり、型同士を密集配置させられず広大なボルスタ、ひいては大型プレス機が必要となる問題もある。
【0007】
【特許文献1】特許第3383525号公報
【特許文献2】特開2003−145299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記問題に鑑み、1台のプレス機に複数のプレス金型を搭載し1ショットで同時成形するプレス機において、設備費用と要員の削減を図るとともに作業効率の向上を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、1番目の発明では、複数のプレス金型の各下型をボルスタ上に搭載するとともに各上型をスライドに取付け、複数のプレス加工を同時に行なうプレス機において、3セット以上のプレス金型を非線形に配置してプレスラインを構成し、前記プレス金型間でワークを搬送する搬送手段をボルスタ上に設置した。
【0010】
2番目の発明では、1番目の発明において、各搬送手段はプレスラインにおける上流のプレス金型からその直下流のプレス金型へとワークを搬送する。
【0011】
3番目の発明では、1または2番目の発明において、搬送手段は先端にワークを吸着可能なアームを有し、アームは鉛直軸周りに回動自在であるとともに鉛直方向にも移動自在である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、1台のプレス機に複数のプレス金型を搭載し1ショットで同時成形するプレス機において、設備費用と要員の削減を図るとともに作業効率の向上を達成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明のプレス機について説明する。図1は本発明の第1の実施形態によるプレス機の、プレスショット間に上昇したスライダ部より見下ろした俯瞰視である。図1乃至図6に示す各中間成形品(ワーク)の搬送は、連続するプレスショット間(スライダと上型が上昇している間)に遂行される。
【0014】
プレス機1のベース上に、四隅のフレーム3と干渉しないようボルスタ2がセットされている。ボルスタ2上には、第1下型4,第2下型5,第3下型6が略三角状に配置され、慣用手段にてボルスタ2に固定されている。そして各下型と対向する位置で、図示しない各上型がスライダに取り付けられている。各上型と下型による金型3セットでプレスラインを構成しており、3回のプレス成形工程を経てワーク素材が最終形状たる第3成形品15へと成形される。なお、プレス機1自体は汎用の500トン・リンクモーションプレス機であり、ボルスタ2も一般的なボルスタであるが、段替えのため容易に機外へ搬出できる構造が好ましい。
【0015】
具体的なプレスラインは、第1下型4(及び対向する上型)による第1のプレス成形〜第2下型5(及び対向する上型)による第2のプレス成形〜第3下型6(及び対向する上型)による第3のプレス成形により構成される。本実施例における製造物はハット状のカバーであって、先ず、第1のプレス成形にて板材12に絞り加工を施し、凹部と周縁フランジ部を形成する。次いで、その直下流の工程として、第2のプレス成形にて更なる成形を加えるとともに周縁フランジ外側の余肉をトリムする。更にその直下流の工程として、第3のプレス成形にて周縁フランジ外周を折り曲げるとともに取付け用の小孔を穿設して、所期のカバー製品を得る。図1においては、第1下型4,第2下型5,第3下型6にはそれぞれプレスショット直後のワークである第1成形品13,第2成形品14,第3成形品15が載置されており、次工程の(直下流の)金型への搬送を待っている状態を示す。
【0016】
ボルスタ2上にはワークの型間搬送手段2台から成る搬送装置10が設置されている。第1下型4から第2下型5への搬送には第1アーム18が専用搬送機として対応し、第2下型から第3下型への搬送は第2アーム19が対応する。すなわち、プレスラインにおける上流のプレス金型とその直下流のプレス金型という1組につき、1台の搬送手段が設けられている。
【0017】
図2にて各ワークの搬送装置10を詳説する。ボルスタ2に固定され伸縮自在なリフタ29の上部にベース20が水平に取付けられており、ベース20両端にはモータ27,28及びギア部25,26が取付けられている。第1アーム18と第2アーム19はギア部25,26による減速駆動により、それぞれ第1回動軸23,第2回動軸24周りに水平面内を回動される。第1アーム18先端にはワーク把持手段たるハンド21が、第2アーム19先端にはハンド22が取付けられており、各ハンドはバキュームや電磁石等の慣用手段によってワークを内側から吸着自在である。そして、リフタ29の鉛直上方(矢印D方向)への伸延によって、各アーム、ハンド、ワークは同時に鉛直上方へ平行移動する。反対にリフタ29の収縮によって、各アーム、ハンド、ワークは同時に鉛直下方へ平行移動する。ベース20にはリフタ29と平行なシャフト30,31が摺動自在に貫通しており、昇降時のベース20の回動や傾斜を防止している。
【0018】
なお、第1アーム18と第2アーム19の回動、及びリフタ29の伸縮のための動力は、モータ駆動、エア駆動、油圧駆動など、適宜選択すればよく、それらの運転はプレス機やワーク搬入/搬出装置、スクラップ排出装置等と統合的に協調制御されることが望ましい。また、各アームに対して各ハンドも回動自在とすると、ワーク及び金型の設置レイアウトの自由度が更に向上するが、本実施例のようにアームとハンドが非回動で済むようなプレスラインであれば、機構を追加し複雑化する必要はない。
【0019】
また、ボルスタ2上には、第3下型6から第3成形品15を機外まで搬出する(払い出す)払出装置11が設置固定されている。払出装置11はワークを押す棒状の払出部材17と、払出部材17を平行に駆動し機外まで移動させる駆動手段16とから成る。プレスショット時には、払出部材17は図1に記載のごとく第3下型6と第2アーム19の間に収納され、金型及びスライドと干渉しないよう原位置に待避している。そして、スライド上昇時に、第3下型から浮き上がった第3成形品15を機外へ搬出する。
【0020】
更に、ボルスタ2上の第2下型5の両脇には第1コンベア7と第2コンベア8が設置され、それぞれ第1下型4、第3下型6近傍から始まり機外へ延出している。両コンベアの稼動によって、各金型から排出されたスクラップが機外へ確実に排出される。そして、プレス機1の外には、ワーク素材たる板材12を機内の第1下型上まで搬送する挿入装置9が設置されている。
【0021】
以上の構成によって、本発明においてどのようにプレス加工を遂行するかについて説明する。図1は、プレスショットが終了しスライド及び各上型が上昇した直後の状態であって、搬送装置10による型間搬送が開始される直前で、まだ第1アーム18及び第2アーム19及び払出部材17は、それぞれ原位置に待避している。この直後に各アームによる各成形品の搬送が開始される。すなわち、第1アーム18はA方向へ回動し第1成形品13を吸着に向かい、第2アーム19はB方向へ回動し第2成形品14を吸着に向かう。また、払出部材17もこの直後に第3成形品15を移送開始する。なお、ワーク素材たる板材12を機内へ搬入する挿入装置9は、まだ機外で待機している。また、直前のプレスショットで第2成形品と分離され4分割された周縁のスクラップは、まだこの時点では第2成形品と一体に図示されているが、離反(落下)を開始している場合もある。次いで、図3に示すワーク搬送工程に移る。
【0022】
図3において、第1アーム18はハンド21が第1成形品13上に達して回動を停止し、降下してハンド21で第1成形品13を吸着した後に上昇する。第2アーム19もハンド22が第2成形品14上に達して回動を停止し、降下してハンド22で第2成形品14を吸着した後に上昇する。上昇するのは、回動中に金型や補機等との干渉を回避するためであるが、特に必要がなければ上昇/下降の必要はない。払出部材17は第3成形品を押して移送中である。このタイミングで、板材12を先端に保持した挿入装置9が、第1下型13方向へ移動を開始する。なお、直前のプレスショットで第2成形品と分離された周縁のスクラップ32,33,34,35は自重と振動で第2成形品から離反しつつ相互に分離し、第1コンベア7と第2コンベア8の上に落下して機外へ排出される。また、同じく直前のプレスショットで第3成形品から打ち抜かれた微細なスクラップ36も、第2コンベア8上に落下し機外へ排出される。
【0023】
図4は各成形品の搬送途中の状態を示し、第1アーム18及び第2アーム19はそれぞれF,G方向へ回動中である。払出部材17は第3成形品を移送終了し、第3成形品は機外へ排出された状態である。挿入装置9はまだ第1下型13方向へ移動中で、スクラップ32,33,34,35,36も、第1コンベア7と第2コンベア8にて機外へ排出中である。
【0024】
図5は、第1アーム18が第1成形品13を第2下型5上に載置し、第2アーム19が第2成形品14を第3下型6上に載置して、各ワークの型間搬送が終了した状態である。この後、第1アーム18はL方向に回動するとともに第2アーム19がM方向へ回動して、原位置に復帰する。同時に、板材12も第1下型4上に載置され、挿入装置9は機外へ待避を開始する。また、第3成形品を排出完了した払出部材17も、N方向へ平行移動し原位置復帰する。このような各部の復帰動作が完了した状態が、図6である。
【0025】
図6においては、第1下型上に板材12がセットされ、第2下型5上に第1成形品13がセットされ、第3下型6上に第2成形品14がセットされ、第1アーム18と第2アーム19と払出部材17が原位置へ待避して、スライド及び上型の下降によるプレスショットを待つばかりの状態を示す。そして、プレスショットにより板材12は第1成形品13となり、第2下型5上の第1成形品13は第2成形品14となり、第3下型6上の第2成形品14は第3成形品15となる。すなわち、スライド及び上型の上昇後は、再度図1の状態となる。これにて、本発明によるプレス加工の1サイクルが遂行された。実工程においては、このサイクルを連続して円滑に行なう。
【0026】
このように、プレスラインの上流と直下流の1組の金型の近傍に1台、プレスショットの邪魔にならない小型搬送装置を専用設置したことにより、その1組間のワーク搬送が保証されるため、その1組と前後で接続する他の1組はインライン上にある必要がなくなる。結果、ボルスタ上にプレスラインを自由設定できることとなり、非線形かつ最小間隔で複数の金型を配置でき、プレスラインが大幅に短縮可能となる。したがって、搬送人員省略やプレス機小型化はもとより、搬送時間を最小にできると同時に搬送後のワーク位置精度も保証可能となり、総じてプレス加工の作業効率を著しく向上可能である。
【0027】
また、搬送装置をプレス機外ではなく搬送すべき経路の近傍に設置し、1台当り1組の型間だけの搬送専用としたので、搬送装置を小型化できプレス機内のボルスタとスライドの間に設置可能となった。それにより搬送の速度と精度を高められ、稼動エネルギーも削減でき、更にプレス加工の作業効率を向上可能となった。ちなみに従来のプレス機内直列金型配置における金型占有率(ボルスタ面積に占める割合)が34%であったのに対して、第1の実施形態においては、金型占有率を90%にまで高めることができた。
【0028】
図7は本発明の第2の実施形態によるプレス機の、プレスショット間に上昇したスライダ部より見下ろした俯瞰視である。第1の実施形態とプレス機本体及びプレスラインは同じであるが、アームの回動が第1の実施形態が外回りであるのに対し、第2の実施形態は内回りである点が異なる。以下、第1の実施形態と相違箇所のみ詳説する。
【0029】
ボルスタ2の両側(図の左右端)には、第1ベース42と第2ベース43が設置され、それら上部には回動自在に第1アーム40と第2アーム41が取付けられている。両アームは図示しない駆動手段によって、第1の実施形態と同様に昇降及び回動/停止が自在とされている。そして、第1アーム40先端にはハンド44が、第2アーム41先端にはハンド45が取付けられ、ワークを吸着自在とされている。払出装置46もボルスタの外側に取付けられ、払出部材48は内側へ延出し、駆動手段47によって平行駆動される。
【0030】
以上の構成によって、本実施形態においてどのようにプレス加工を遂行するかについて説明する。第1アーム40は第1成形品13を吸着後にO区間を回動し、第2下型5上に第1成形品13をセットした後に、Q区間を回動して待避位置49にて停止する。同じく第2アーム41は第2成形品14を吸着後にP区間を回動し、第3下型6上に第2成形品14をセットした後に、R区間を回動して待避位置50にて停止する。なお、両アームが同時に回動するとワーク同士が衝接するので、どちらか一方が先に回動し、待避位置での停止を待って他方が回動〜待避を行なうことが好ましい。そして、両アームが待避位置49,50に停止した後に、プレスショットが実施される。
【0031】
上記のごとくアームを内回り回動させても搬送は可能であるが、両アームの干渉が発生すると待機分だけ作業時間が嵩む問題がある。本実施形態は、なんらかの理由で外回り設定が不可能な場合に用いるとよい。また、第1及び第2の実施形態では金型が3セットでプレスラインが略3角形であるが、これに限ることなく、設置金型及び搬送手段の数は任意であるし、プレスラインも自由にレイアウトすればよい。以上、本発明の実施形態を説明してきたが、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更があっても、本発明に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、上型と下型で金属をプレス成形する、あらゆる種類のプレス機に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1の実施形態の構成を示す図である。
【図2】第1の実施形態の構成を示す図である。
【図3】第1の実施形態の構成を示す図である。
【図4】第1の実施形態の構成を示す図である。
【図5】第1の実施形態の構成を示す図である。
【図6】第1の実施形態の構成を示す図である。
【図7】第2の実施形態の構成を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1 プレス機
2 ボルスタ
3 フレーム
4 第1下型
5 第2下型
6 第3下型
7 第1コンベア
8 第2コンベア
9 挿入装置
10 搬送装置
11,46 払出装置
12 板材
13 第1成形品
14 第2成形品
15 第3成形品
16,47 駆動手段
17,48 払出部材
18,40 第1アーム
19,41 第2アーム
20,42,43 ベース
21,22,44,45 ハンド
23 第1回動軸
24 第2回動軸
25,26 ギア部
27,28 モータ
29 リフタ
30,31 シャフト
32,33,34,35,36 スクラップ
49,50 待避位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のプレス金型の各下型をボルスタ上に搭載するとともに各上型をスライドに取付け、複数のプレス加工を同時に行なうプレス機において、
3セット以上のプレス金型を非線形に配置してプレスラインを構成し、
前記プレス金型間でワークを搬送する搬送手段をボルスタ上に設置した、
ことを特徴とするプレス機。
【請求項2】
前記各搬送手段は、プレスラインにおける上流のプレス金型からその直下流のプレス金型へとワークを搬送する、
ことを特徴とする請求項1に記載のプレス機。
【請求項3】
前記搬送手段は先端にワークを吸着可能なアームを有し、
該アームは鉛直軸周りに回動自在であるとともに鉛直方向にも移動自在である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のプレス機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−126314(P2008−126314A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−345031(P2006−345031)
【出願日】平成18年11月24日(2006.11.24)
【出願人】(390010227)株式会社三五 (148)
【Fターム(参考)】