説明

プレフィルドシリンジ

【課題】患者に投与する薬液の量のばらつきをなくす。
【解決手段】プレフィルドシリンジは、一端が生体に穿刺される針管と、針管の他端が連通されると共に薬液が収納され、少なくとも一部が軟質に形成された薬液容器と、薬液容器を収納する外筒と、を備えている。また、薬液容器を挟んで薬液容器を横断面視野で隙間が生じないように挟持するスライダと、スライダを外筒の軸方向に移動させる押圧部と、備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンジ内に予め薬液を収納したプレフィルドシリンジに関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザ等の感染症を予防するワクチンを投与する予防接種の多くは、皮下注射により行われるが、特に、小児は、じっとせずに動くことがあり、また、皮膚が柔らかいため、シリンジの穿刺針を目標とする穿刺深さに穿刺することができない虞がある。
【0003】
そこで、このような課題を解決するために、穿刺針のハブに、その穿刺針を囲むように筒状体を設けてなる穿刺針組立体が提案されている(特許文献1を参照)。この穿刺針組立体によれば、筒状体の先端が表皮に当接することにより、穿刺針と表皮との位置関係が規制され、穿刺針を目標とする穿刺深さに穿刺することができる。
【0004】
なお、ワクチンを、皮下ではなく、免疫担当細胞が多く存在する皮膚上層部に投与することにより、そのワクチンの投与量を減らすことが期待されている。なお、皮膚上層部は、皮膚のうち、表皮及び真皮(真皮層)を指す。
【0005】
このようなシリンジでは、予防接種の際、1回毎に、ワクチンをシリンジ内に吸引する必要があるので、吸引量が一定にならず、患者に投与する薬液の量にばらつきが生じるという問題がある。
【0006】
この問題を解決するため、一定量の薬液が収納された薬液カートリッジを装着して使用するタイプのシリンジが知られている(特許文献2を参照)。このシリンジは、使用の際、シリンジ本体に対し、薬液カートリッジ及び両頭針をそれぞれ装着して用いる。また、シリンジ本体は、滅菌処理を施すことにより複数回繰り返し使用され、薬液カートリッジ及び頭針は、一回のみ使用され、使い捨てとされる。
【0007】
従来の歯科用のシリンジは、薬液カートリッジを装着して使用するタイプであるので、使用の際、その準備を容易に行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−37456号公報
【特許文献2】特開2002−159575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2に記載のシリンジでは、針管の基端部が薬液カートリッジの底面よりも高い位置にあるため、患者に薬液を投与した後でも、薬液カートリッジ内に薬液が残る可能性がある。したがって、患者に投与する薬液の量にばらつきが生じるという問題が依然としてある。
【0010】
本発明の目的は、上記の問題点を考慮し、患者に投与する薬液の量のばらつきをなくすプレフィルドシリンジを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明のプレフィルドシリンジは、一端が生体に穿刺される針管と、針管の他端が連通されると共に薬液が収納され、少なくとも一部が軟質に形成された薬液容器と、薬液容器を収納する外筒と、を備えている。また、薬液容器を挟んで薬液容器を横断面視野で隙間が生じないように挟持するスライダと、スライダを外筒の軸方向に移動させる押圧部と、備えている。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプレフィルドシリンジによれば、薬液容器をスライダで扱くことにより、このスライダの横断面における薬液容器の隙間をなくすことができるので、薬液容器内の薬液すべてを針管から排出することができる。これにより、常に一定量の薬液を患者に投与でき、患者に投与する薬液の量のばらつきをなくすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のプレフィルドシリンジの第1の実施の形態例を示す軸方向の断面図である。
【図2】本発明のプレフィルドシリンジの第1の実施の形態例を示す径方向の断面図である。
【図3】本発明のプレフィルドシリンジの第1の実施の形態例における穿刺途中の状態を示す断面図である。
【図4】本発明のプレフィルドシリンジの第1の実施の形態例における穿刺途中の状態を示す断面図である。
【図5】本発明のプレフィルドシリンジの第1の実施の形態例における穿刺後の状態を示す断面図である。
【図6】本発明のプレフィルドシリンジの第2の実施の形態例を示す断面図である。
【図7】本発明のプレフィルドシリンジの第2の実施の形態例を示す径方向の断面図である。
【図8】本発明のプレフィルドシリンジの第3の実施の形態例を示す軸方向の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明のプレフィルドシリンジの実施形態例について、図1〜図8を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。また、本発明は、以下の形態に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態例
1−1.プレフィルドシリンジの構成例
1−2.プレフィルドシリンジの使用方法
2.第2の実施の形態例
3.第3の実施の形態例
【0015】
<1.第1の実施の形態例>
1−1.プレフィルドシリンジの構成例
まず、図1〜図5を参照して本発明の第1の実施の形態例(以下、「本例」という。)に係るプレフィルドシリンジについて説明する。
図1は本例のプレフィルドシリンジを示す軸方向の断面図、図2は本例のプレフィルドシリンジを示す径方向の断面図である。図3及び4は本例のプレフィルドにおける穿刺途中の状態を示す断面図、図5は穿刺後の状態を示す断面図である。
【0016】
図1に示すように、プレフィルドシリンジ1は、予め生体に投与する薬液Mが収納されている。このプレフィルドシリンジ1は、薬液容器8と、薬液容器8を収納する外筒2と、針孔を有する中空の針管3と、針管3を保持する針ハブ4と、押し子5と、キャップ7とを備えている。
【0017】
このプレフィルドシリンジ1に予め収納される薬液Mとしては、本例では、例えばインフルエンザ等の各種の感染症を予防する各種のワクチンが挙げられるが、ワクチンに限定されるものではない。なお、ワクチン以外では、例えば、ブドウ糖等の糖質注射液、塩化ナトリウムや乳酸カリウム等の電解質補正用注射液、ビタミン剤、抗生物質注射液、造影剤、ステロイド剤、蛋白質分解酵素阻害剤、脂肪乳剤、抗癌剤、麻酔薬、覚せい剤、麻薬、ヘパリンカルシウム、抗体医薬等が挙げられる。
【0018】
[外筒]
まず、外筒2について説明する。
外筒2は、筒孔2aを有する円筒形状に形成されている。この外筒2は、軸方向の両端が開口している。
【0019】
外筒2の材質としては、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリ−(4−メチルペンテン−1)、ポリカーボネート、アクリル樹脂、アクリルニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ブタジエン−スチレン共重合体、ポリアミド(例えば、ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6・10、ナイロン12)のような各種樹脂が挙げられる。その中でも、成形が容易であるという点で、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリ−(4−メチルペンテン−1)等の樹脂を用いることが好ましい。なお、外筒2の材質は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが好ましい。
【0020】
[薬液容器]
次に、薬液容器8について説明する。
薬液容器8は、軟質の容器本体26と、この容器本体26に収納される棒状に形成された硬質の中芯32と有する。
【0021】
容器本体26は、略円筒形状の軟質のチューブ15と、このチューブ15の一端において、チューブ15の内面同士が融着して形成された熱シール部16からなっている(図2(a)を参照)。そのため、容器本体26のチューブ15は、他端が開口している。このような容器本体26の内周の一部に中芯32の外周面の一部が接着・固定されて薬液収納部19が形成されている(図2(c)を参照)。中芯32は、その軸が外筒2の軸と平行になるように配置される。なお、中芯32の径方向の断面積は、チューブ15の中空部分の径方向の断面の面積よりも小さくなるように形成されており、中芯32の外周の長さとチューブ15の内周の長さはほぼ等しくなっている。
【0022】
また、容器本体26の強シール部16は、薬液容器固定部31により、外筒2の内周面に2箇所で固定されており(図2(a)を参照)、薬液収納部19が外筒2内の所定位置に配置されている。この薬液収納部19内には、薬液Mが収納されている。
【0023】
薬液収納部19の中途部には、その開口を閉じるように、容器本体26の内周面及び中芯32の外周面を剥離可能に融着した弱シール部17が形成されている。そのため、薬液Mは、薬液収納部19と弱シール部17で囲まれる薬液空間25内に密封される。この薬液空間25は、弱シール部17により気密的に封止された密閉空間であり、無菌状態が保持されている。
【0024】
ここで、前述の弱シール部17は、例えば、後述するスライダ33や手指等で薬液収納部19を押圧(圧迫)し、薬液空間25の内圧を所定のしきい値以上に高めることにより剥離するように構成されている。
【0025】
薬液空間25に収納される薬液Mの量(薬液空間25の体積)は、特に限定されないが、例えば、0.02〜2.0mL程度が好ましく、0.05〜0.8mL程度がより好ましい。すなわち、プレフィルドシリンジ1は、特に、このような少量の薬液を投与する場合に好適なものである。
【0026】
また、薬液収納部19には、チューブ15の他端でその開口を閉じる強シール部18が設けられている。この強シール部18は、チューブ15の他端部を、針ハブ4の当接部34及び針管3に融着して形成されている。
【0027】
チューブ15の材料としては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、エチレン−酢酸ビニル共重合体のようなポリオレフィン、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー等の各種熱可塑性エラストマーあるいはこれらを任意に組み合わせたもの(ブレンド樹脂、ポリマーアロイ、積層体等)が挙げられる。これらの樹脂材料は、柔軟性、透明性に富んでおり、また、高圧蒸気滅菌(オートクレーブ滅菌)に耐えられる耐熱性、耐水性を有している点で好ましい。一方、中芯32の構成材料は、外筒2と同じような硬質な材料である必要がある。なお、チューブ15や中芯32の構成材料は、内部の視認性を確保するために、実質的に透明であることが好ましい。
【0028】
チューブ15の材料として特に好ましいものとしては、ポリエチレンまたはポリプロピレンに、スチレン−ブタジエン共重合体やスチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体等のスチレン系エラストマー、あるいはエチレン−ブテン共重合体やエチレン−プロピレン共重合体等のオレフィン系エラストマー等のエラストマーをブレンドして柔軟化した軟質樹脂を挙げることができる。この材料は、高強度で柔軟性に富み、耐熱性(特に滅菌時の耐熱性)、耐水性が高い他、加工性が特に優れ、製造コストの低減を図れる点で好ましい。さらに、2種以上の融点(軟化点)の異なる材料を用いることになるので、強シール部16,18と弱シール部17との間のシール条件の設定や、弱シール部17のシール強度の安定化を容易かつ良好に行うことができる。
【0029】
チューブ15を構成するシート材の厚さは、特に限定されず、その材質等の他の条件によって異なるが、通常は、0.01〜0.30mm程度であるのが好ましく、0.05〜0.15mm程度であるのがより好ましい。
【0030】
なお、薬液空間25には、薬液と共に空気等の気体が充填されていてもよく、また、充填されていなくてもよい。この空気の充填、非充填は、必要に応じて適宜選択することができる。
【0031】
外筒2は、1対の開口部23が形成されている。この開口部23は、外筒2の外側から薬液収納部19を押圧して薬液Mを攪拌する操作を行うための窓になっている。これら1対の開口部23は、薬液収納部19を挟んで互いに対向するように配置されている。使用者は、開口部23から外筒2内に手指を挿入し、その手指で薬液収納部19を揉む等して変形させ、薬液を攪拌する。
【0032】
開口部23の形状は、特に限定されず、例えば円形や四角形等の多角形、楕円形等であってもよい。
【0033】
また、開口部23の寸法は、特に限定されず、外筒2や薬液収納部19の寸法等の諸条件に応じて適宜決定される。なお、開口部23の大きさは、手指で薬液収納部19を揉んで変形させることができる最小の大きさであることが好ましい。すなわち、開口部23の直径は、例えば、10〜20mm程度であることが好ましく、13〜17mm程度であることがより好ましい。
【0034】
また、開口部23は、図示しない軟質のシートで被覆されていてもよい。また、このシートとしては、例えば、空気を通過させ、菌を通過させない除菌用のフィルターを用いてもよい。この場合も、シートを介して薬液収納部19を揉む等して変形させ、薬液を攪拌することができる。
【0035】
[針管]
次に、針管3について説明する。
針管3は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で22〜33Gのサイズ(外径0.2〜0.7mm)のものを使用することができる。なお、薬液を皮膚上層部に投与する(以下、「皮内投与」という)場合には、26〜33Gのサイズのものを用いることができ、好ましくは30〜33Gのものを使用することができる。
【0036】
針管3の一端には、生体に穿刺される第1の針先9が設けられ、他端には押し子5に設けたスライダ33に穿刺される第2の針先10が設けられている。第1の針先9は、刃面9aを有している。この刃面9aの針管3が延びる方向の長さ(以下、「ベベル長B」という)は、後述する皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、また、33Gの針管に短ベベルを形成したときのベベル長である約0.5mm以上であればよい。つまり、ベベル長Bは、0.5〜1.4mmの範囲に設定されるのが好ましい。
【0037】
さらに、ベベル長Bは、皮膚上層部の最薄の厚さが0.9mm(小児)以下であればなおよい。すなわち、ベベル長Bは、0.5〜0.9mmの範囲に設定されることがより好ましい。なお、「短ベベル」とは、注射用針に一般的に用いられる、針の長手方向に対して18〜25°をなす刃面を指す。
【0038】
第2の針先10は、刃面10aを有している。この刃面10aの針管3が延びる方向の長さは、任意に設定することができるが、第1の針先9の刃面9aと同じ長さに設定することができる。そして、この針管3は、針ハブ4によってその中間部を保持されている。
【0039】
針管3の材料としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管3は、ストレート針や、少なくとも一部がテーパー構造となっているテーパー針を適用することができる。テーパー針としては、第1の針先9側の外径よりも第2の針先10側の外径を大きくし、その中間部分をテーパー構造とすればよい。なお、この場合は、第1の針先9と第2の針先10の形状が異なる。
【0040】
[針ハブ]
次に、針管を保持する針ハブについて説明する。
針ハブ4は、略円板状のハブ本体11と、調整部12と、安定部13と、押圧目安部であるガイド部14と、当接部34とを備えている。この針ハブ4は、針管3を保持した状態で外筒2及び薬液容器8それぞれの一端側の開口を閉じている。そして、針管3の第2の針先10は、薬液容器8の弱シール部17及び薬液収納部19と、針ハブ4とによって囲まれる内部空間20内に配置されている。
【0041】
ハブ本体11の一端側には、調整部12及び安定部13が設けられており、他端側には、当接部34が設けられている。この針ハブ4の材質としては、特に限定されないが、例えば、上述した外筒2の材質と同様のものを用いることができる。さらに、針ハブ4は、外筒2と一体に形成してもよい。
【0042】
次に、調整部12について説明する。
調整部12は、ハブ本体11の一端面11aの中央部に設けられており、ハブ本体11の軸方向に突出する凸部として形成されている。この調整部12の軸心は、ハブ本体11の軸心に一致している。そして、この調整部12には、針管3が貫通している。また、調整部12の端面は、針管3の第1の針先9側が突出する針突出面12aになっている。
【0043】
針突出面12aは、針管3の軸方向に直交する平面として形成されている。この針突出面12aは、針管3を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して針管3を穿刺する深さを規定する。つまり、針管3が皮膚上層部に穿刺される深さは、針突出面12aから突出する針管3の長さ(以下、「突出長L」という。)によって決定される。
【0044】
皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5〜3.0mmの範囲内にある。そのため、針管3の突出長Lは、0.5〜3.0mmの範囲に設定することができる。
【0045】
ところで、ワクチンは一般的に上腕部に投与されるが、皮内投与の場合には、皮膚が厚い肩周辺部、特に三角筋部が好ましい。そこで、小児19人と大人31人について、三角筋の皮膚上層部の厚みを測定した。この測定は、超音波測定装置(NP60R−UBM 小動物用高解像度用エコー、ネッパジーン(株))を用いて、超音波反射率の高い皮膚上層部を造影することで行った。なお、測定値が対数正規分布となっていたため、幾何平均によってMEAN±2SDの範囲を求めた。
【0046】
その結果、小児の三角筋における皮膚上層部の厚みは、0.9〜1.6mmであった。また、成人の三角筋における皮膚上層部の厚みは、遠位部で1.4〜2.6mm、中央部で1.4〜2.5mm、近位部で1.5〜2.5mmであった。以上のことから、三角筋における皮膚上層部の厚みは、小児の場合で0.9mm以上、成人の場合で1.4mm以上であることが確認された。したがって、三角筋の皮膚上層部における注射において、針管3の突出長Lは、0.9〜1.4mmの範囲に設定することが好ましい。
【0047】
突出長Lをこのように設定することで、第1の針先9の刃面9aを皮膚上層部に確実に位置させることが可能となる。その結果、刃面9aに開口する針孔(薬液排出口)は、刃面9a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部に位置することが可能である。なお、薬液排出口が皮膚上層部に位置しても、第1の針先9が皮膚上層部よりも深く刺されば、第1の針先9の端部の側面と切開された皮膚との間から薬液Mが皮下に流れてしまうため、刃面9aが確実に皮膚上層部にあることが重要である。
【0048】
なお、皮内投与に用いる場合には、26Gよりも太い針管では、ベベル長Bを1.0mm以下にすることは難しい。したがって、針管3における第1の針先9の突出長Lを好ましい範囲(0.9〜1.4mm)に設定するには、26Gよりも細い針管を使用することが好ましい。
【0049】
針突出面12aは、周縁から針管3の周面までの距離Sが1.4mm以下となるように形成し、好ましくは0.3〜1.4mmの範囲で形成する。この針突出面12aの周縁から針管3の周面までの距離Sは、皮膚上層部へ薬液を投与することで形成される水疱に圧力が加わることを考慮して設定している。つまり、針突出面12aは、皮膚上層部に形成される水疱よりも十分に小さく、水疱の形成を妨げない大きさに設定している。その結果、針突出面12aが針管3の周囲の皮膚を押圧して、投与された薬液が漏れるということを防止することができる。
【0050】
次に、安定部13について説明する。
安定部13は、ハブ本体11の一端面11aに設けられている。この安定部13は、一端面11aの周縁部に連続する筒状に形成されている。この安定部13の筒孔には、針管3における第1の針先9及び調整部12が配置されている。つまり、安定部13は、針管3が貫通する調整部12の周囲を覆う筒状に形成されている。
【0051】
また、図3に示すように、針管3の第1の針先9を生体に穿刺すると、針突出面12aが皮膚の表面に接触すると共に安定部13の端面13aも皮膚の表面に接触する。このとき、安定部13の端面13aが皮膚に接触することでプレフィルドシリンジ1が安定し、針管3を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。
【0052】
なお、安定部13の端面13aは、針突出面12aと同一平面上に位置させたり、また、針突出面12aよりも針管3の第1の針先9側に位置させたりしても、針管3を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。なお、安定部13を皮膚に押し付けた際の皮膚の盛り上がりを考慮すると、安定部13の端面13aと針突出面12aにおける軸方向の距離rは、1.3mm以下に設定することが好ましい。
【0053】
また、安定部13の内径dは、皮膚に形成される水疱の直径と同等であるか、それよりも大きい値に設定されている。具体的には、安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離Tが4mm〜15mmの範囲となるように設定されている。これにより、安定部13の内壁面から水疱に圧力が印加されことによって水疱形成が阻害されることを防止することができる。
【0054】
安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離Tは、4mm以上であれば、特に上限はない。しかしながら、距離Tを大きくすると、安定部13の外径が大きくなるため、小児のように細い腕に針管3を穿刺する場合に、安定部13の端面13a全体を皮膚に接触させることが難しくなる。そのため、距離Tは、小児の腕の細さを考慮して15mmを最大と規定することが好ましい。
【0055】
また、針突出面12aの周縁から針管3の周面までの距離Sが0.3mm以上であれば、調整部12が皮膚に進入することはない。したがって、安定部13の内壁面から針突出面12aの周縁までの距離T(4mm以上)及び針突出面12aの直径(約0.3mm)を考慮すると、安定部13の内径dは9mm以上に設定することができる。
【0056】
次に、押圧目安部であるガイド部14について説明する。
ガイド部14は、ハブ本体11の側面部に設けられている。このガイド部14は、ハブ本体11の側面部からハブ本体11の半径外方向に突出するリング状にフランジとして形成されている。そして、ガイド部14は、安定部13の外周面に対して略垂直に突出している。
【0057】
さらにに、ガイド部14は、皮膚と接触する接触面14aを有している。接触面14aは、安定部13の端面13aと略平行をなす平面である。ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触するまで安定部13を押し付けることにより、安定部13及び針管3が皮膚を押圧する力を常に所定値以上に確保することができる。これにより、針管3の針突出面12aから突出している部分(突出長Lに相当)が確実に皮膚内に穿刺される。
【0058】
そして、ガイド部14の接触面14aから安定部13の端面13aまでの距離は、針管3、安定部13及び針管3が適正な押圧力で皮膚に穿刺することができるようにその長さが設定されている(図3参照)。以下、この長さを「ガイド部高さy」という。
【0059】
なお、針管3及び安定部13の適正な押圧力は、例えば、3〜20Nである。その結果、使用者に対して針管3及び安定部13による皮膚への押圧力をガイド部14で案内することができると共に針管3の第1の針先9及び刃面9aを皮膚上層部に確実に位置させることができ、使用者に安心感を与えることができるという効果が得られる。
【0060】
具体的には、安定部13の内径dが11〜14mmの範囲の場合、ガイド部高さyは、ガイド部14の突出端面から安定部13の外周面までの長さx(以下、ガイド部長さx)と呼ぶ。)に基づいて、適宜設定される。例えば、安定部13の内径dが12mmであって、ガイド部長さxが3.0mmのとき、ガイド部高さyは、2.3〜6.6mmの範囲に設定されている。
【0061】
次に、当接部34について説明する。
当接部34は、ハブ本体11の一端面11aと対向する他方の他端面11bの中央部に設けられている。この当接部34は、ハブ本体11の軸方向に略円柱状に突出する凸部として形成されている。当接部34は、外筒2の一端側の開口及び薬液容器8の開口を針ハブ4で閉じた際に、前述した内部空間20内に配置される。そして、この当接部34には、針管3が貫通しており、当接部34の端面から針管3の第2の針先10が突出している。
【0062】
また、本例では、針管3の軸心と調整部12及び当接部34の軸心が一致している。しかしながら、針管3の軸心と当接部34の軸心を一致させなくても、その目的は達成できるものである。
【0063】
[押し子]
次に、押し子5について説明する。
押し子5は、略円柱状の押し子本体21と、スライダ33とを有している。押し子本体21の直径は、外筒2の筒孔2aの直径よりも小さく形成されている。押し子本体21の一端側には、フランジ部22が形成されている。押し子5の他端側は、スライダ33と共に外筒2の筒孔2a内に挿入されている。
【0064】
押し子本体21の他端側は、スライダ33に接続される接続部24になっている。この接続部24は、押し子本体21の軸方向に延びる2本の柱状に形成されており、薬液容器8及び薬液容器固定部31を避けてスライダ33の一端面33bに接続されている(図2(a)を参照)。
【0065】
このような押し子本体21の材質としては、特に限定されないが、例えば、上述した外筒2の材質と同様のものを用いることができる。なお、押し子本体21の材質は、内部の視認性を確保できるために、実質的に透明であることが好ましい。
【0066】
スライダ33は、円筒形状に形成されており、その直径は外筒2の筒孔2aの直径とほぼ等しいか少し小さい。このスライダ33には、薬液収納部19を潰すように挟むための孔33aがその軸方向に開けられている。そのため、この孔33aの径方向の断面の形状は、中芯32の径方向の断面の形状と相似になるように形成されている(図2(b)を参照)。スライダ33は、押し子本体21が押圧されると、筒孔2a内を軸方向に摺動しつつ薬液収納部19をその軸方向に扱く。
【0067】
スライダ33の材質としては、特に限定されないが、薬液収納部19を挟んだ際に、容器本体26の内周面と中芯32の外周面とを完全に密着させるために、弾性材料で構成することが好ましい。この弾性材料としては、例えば、天然ゴム、ブチルゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、シリコーンゴム、イソブチレンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、あるいはそれらの混合物等を挙げることができる。
【0068】
[キャップ]
次に、キャップ7について説明する。
キャップ7は、針管3の第1の針先9と、針ハブ4の調整部12及び安定部13を囲む空間を封止する部材である。そして、キャップ7は、針ハブ4の安定部13に着脱可能に装着される。
【0069】
このキャップ7は、先端側に底部を有する有底の筒状、本例では、有底の円筒状に形成されている。キャップ7の側面が安定部13の外周面に装着されることにより、キャップ7内部が密閉される。プレフィルドシリンジ1が未使用の状態では、安定部13にキャップ7が装着されており、針管3における第1の針先9の周囲の空間が無菌状態になっている。そして、プレフィルドシリンジ1を使用する際、キャップ7は、針ハブ4から取り外され、針管3の第1の針先9の封止が解除される。
【0070】
キャップ7の材質としては、特に限定されないが、例えば、上述した外筒2の材質や、押し子5の材質と同様のものを用いてもよい。
【0071】
1−2.プレフィルドシリンジの使用方法
次に、本例のプレフィルドシリンジ1の使用方法について、図1及び図3〜図5を参照して説明する。
【0072】
まず、使用者は、使用者は、必要に応じて薬液Mを攪拌する。薬液Mを攪拌する場合は、1対の開口部23から外筒2内に手指を挿入し、その手指で薬液容器8の薬液収納部19を所定回数揉んで変形させる。これにより、薬液Mが攪拌され、沈降物が溶解する。次に、図1に示すように、使用者は、針ハブ4の安定部13からキャップ7を取り外す。これにより、針管3の第1の針先9の封止が解除される。続いて、使用者は、手指で薬液収納部19をさらに強く変形させると、薬液空間25の内圧が所定のしきい値以上に高まり、弱シール部17が剥離する。このとき内部空間20内の空気が、針管3の第2の針先10を通って、第1の針先9からプレフィルドシリンジ1の外部にすべて排出される。
【0073】
以上の処理が完了した後、使用者は、安定部13の端面13aを皮膚に対向させる。これにより、針管3の第1の針先9が、穿刺する皮膚に対向される。次に、図3に示すように、プレフィルドシリンジ1を皮膚に対してほぼ垂直に移動させ、針管3を皮膚に穿刺すると共に安定部13の端面13aを皮膚に押し付ける。
【0074】
ここで、調整部12の針突出面12aと安定部13の端面13aは、同一平面上に位置している。これにより、調整部12の針突出面12aが皮膚に接触して皮膚を平らに変形させることができ、針管3の第1の針先9を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0075】
次に、ガイド部14の接触面14aが皮膚に接触するまで安定部13を押し付ける。ここで、ガイド部高さyは、針管3及び安定部13が適正な押圧力で皮膚に穿刺することができるようにその長さが設定されている。そのため、安定部13によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。したがって、使用者に対して安定部13の押圧力を案内することができると共に適正な押圧力で安定部13を皮膚に押し付けることができ、針管3の第1の針先9及び刃面9aを確実に皮膚上層部内に位置させることができる。
【0076】
このように、ガイド部14が安定部13の押圧力を案内する目印となることで、針管3の第1の針先9を皮膚上層部に確実に位置させることができ、皮膚上層部内に確実に薬液Mを投与することができると共に、使用者の安心感を向上させることが可能である。
【0077】
また、安定部13が皮膚と当接することで、針管3を安定させて、針管3を皮膚に対して真っ直ぐに穿刺することができる。よって、針管3に生じるブレを防止することができ、薬液の安定した投与を行うことができる。
【0078】
例えば0.5mm程度のごく短い突出長の針では、第1の針先9を皮膚に当接させても皮膚に刺さらない場合がある。しかし、安定部13が皮膚に押し付けられて垂直方向に皮膚が押し下げられると、安定部13の内側の皮膚が引っ張られて皮膚に張力が加わった状態となる。そのため、針管3の第1の針先9に対して皮膚が逃げ難くなるので、安定部13は、皮膚に第1の針先9がより刺さり易くなるという効果も有している。
【0079】
さらに、突出長Lが0.5〜3.0mmの範囲に設定されているため、針管3の第1の針先9及び刃面9aは、確実に皮膚上層部内に位置する。調整部12は、針管3の周囲に密着して固定されており、針管3の調整部12を貫通する部分と調整部12との間には間隙が生じないようになっている。
【0080】
そのため、調整部12の針突出面12aを皮膚に当接させると、針管3の周囲の皮膚を平らに変形させることができる。その結果、針管3を突出長Lだけ皮膚に穿刺させることができ、針管3の第1の針先9を皮膚上層部内に確実に位置させることができる。
【0081】
次に、使用者は、図4に示すように、押し子5の押し子本体21を押圧すると、スライダ33が外筒2の軸方向に沿って筒孔2a内を摺動する。そして、スライダ33が、外筒2の軸方向に薬液収納部19を扱き、薬液収納部19内、すなわち薬液空間25に充填された薬液Mが針管3の第2の針先10を通って、第1の針先9から生体内に排出される。このとき、スライダ33により、当該スライダの横断面における薬液収納部19の隙間をなくすことができるので薬液収納部19の扱かれた箇所に薬液Mが残留するのを防止できる。
【0082】
続いて、図5に示すように、押し子5の押し子本体21をさらに押すと、スライダ33の他端面33cと容器本体26の外周面とが密着すると共に、当該容器本体26の内周面と当接部34の端面とが密着する。このとき、針管3の第2の針先10が容器本体26とスライダ33に穿刺されて薬液空間25が消失される。これにより、薬液空間25に有った薬液Mが針管3の第2の針先10を通って、第1の針先9から生体内にすべて排出される。
【0083】
ここで、調整部12の針突出面12aと安定部13の内径dを適正な大きさに設定したため、注入した薬液Mが体外へ漏れないようにすることができ、薬液Mを皮膚上層部内に確実に投与することができる。これにより、本例のプレフィルドシリンジ1を用いた薬液Mの投与が完了する。
【0084】
<2.第2の実施の形態例>
次に、図6及び図7を参照して本発明のプレフィルドシリンジの第2の実施の形態例について説明する。
図6は第2の実施形態に係るプレフィルドシリンジを示す軸方向の断面図、図2は第2の実施形態に係るプレフィルドシリンジを示す径方向の断面図である。
【0085】
この第2の実施形態に係るプレフィルドシリンジ51が第1の実施形態に係るプレフィルドシリンジ1と異なるところは、中芯32(図1を参照)を削除した薬液容器61と、薬液容器61を扱くためのスライダ71とを設けた点である。そのため、ここでは、薬液容器61及びスライダ71について説明し、プレフィルドシリンジ1と共通する部分については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0086】
図5に示すように、薬液容器61は、略円筒形状の軟質のチューブ15と、このチューブ15の一端を融着して形成された強シール部16からなっている(図7(a)を参照)。そのため、薬液容器61のチューブ15は、他端が開口している。そして、薬液容器61には、チューブ15の他端で開口する薬液収納部66が形成される。
【0087】
また、この強シール部16は薬液容器固定部31により、外筒2の内周面に2箇所で固定されており(図7(a)を参照)、薬液収納部66が外筒2内の所定位置に配置される。この薬液収納部66内には、薬液Mが収納されている。
【0088】
薬液収納部66の中途部には、その開口を閉じるように、チューブ15の内周面同士を剥離可能に融着した弱シール部64が形成されている。そのため、薬液Mは、薬液収納部66と弱シール部64で囲まれる薬液空間63内に密封される。この薬液空間63は、弱シール部64により気密的に封止された密閉空間であり、無菌状態が保持されている。
【0089】
また、薬液収納部66には、チューブ15の他端でその開口を閉じる強シール部65設けられている。この強シール部65は、チューブ15の内周面と、針ハブ4の当接部34の端部及び針管3とを融着することにより形成されている。
【0090】
次に、スライダ71について説明する。
スライダ71は、圧延部72と、圧延部72を収納・固定する固定部73とよりなる。
圧延部72は、薬液収納部66を扱くための一対のローラ74a,74bと、各ローラ74a,74bがそれぞれの軸方向に回転可能なように固定するローラホルダ75を含んで構成される。各ローラ74a,74bは、円柱状に形成されている。ローラ74aの回転軸とローラ74bの回転軸とは、互いに平行であって外筒2の軸方向と直交する平面上に配置されている。また、両ローラ74a,74bは、当該両ローラ74a,74bで薬液収納部66を扱く際に、チューブ15の内周面同士が密着するような間隔でローラホルダ75に固定されている。すなわち、このスライダの横断面におけるチューブ15の隙間をなくすことができる。
【0091】
その他の構成及びプレフィルドシリンジ51の使用方法は、上述した第1の実施の形態に係るプレフィルドシリンジ1と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成を有するプレフィルドシリンジ51によっても、上述した第1の実施の形態に係るプレフィルドシリンジ1と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0092】
なお、上述した第1及び2の実施形態では、スライダを移動させるのに2本の接続部を用いたが、スライダを移動させることができきればどのようなものでもよい。例えば、スライダに接続される接続部は、1本または3本以上であってもよい。
【0093】
また、上述した第2の実施形態では、圧延部を設けたスライダで薬液収納部を扱いたが、このスライダの代替として、チューブの表面のすべり性が高い場合は、薬液収納部の内周面同士を密着できる孔を有するスライダを設けてもよい。
【0094】
また、上述した第2の実施形態において、ローラ74a,74bは、ラチェット機構などを用いて、一方向にのみ回転可能に構成してもよい。この場合に、ローラ74aの回転方向とローラ74bの回転方向は、互いに逆向きとなっていることが好ましい。
【0095】
<3.第3の実施形態例>
次に、図8を参照して本発明のプレフィルドシリンジの第3の実施の形態例について説明する。
図8は第3の実施形態に係るプレフィルドシリンジを示す軸方向の断面図である。
【0096】
この第3の実施形態に係るプレフィルドシリンジ81は、第1の実施形態に係るプレフィルドシリンジ1の押し子5の代替として、コイルバネ82と、蓋84をとを備える。そのため、ここでは、コイルバネ82及び蓋84を中心に説明し、プレフィルドシリンジ1と共通する部分については同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0097】
図5に示すように、蓋84は、外筒2の開口を閉じるように固定される略円板状の蓋本体87と、蓋本体87の端面87aの略中央部に設けられた薬液容器固定部88を備える。
【0098】
薬液容器固定部88は、蓋本体87の軸方向に突出する凸部として形成されている。そして、この薬液容器固定部88と強シール部16とが接着され、薬液収納部19が外筒2内の所定位置に固定されている。
【0099】
コイルバネ82は、その内部に薬液容器固定部88が収納されるように、外筒2の筒孔2a内に圧縮されて配置される。そして、コイルバネ82の一端は、蓋本体87に固定されており、他端は、スライダ33に固定されている。
【0100】
ここで、このプレフィルドシリンジ81では、外筒2の側壁に、挿入孔89が形成されている。この挿入孔89は、スライダ33の他端面33cの近傍に設けられており、外筒2の筒孔2aには、挿入孔89を通じて係止部材83が差し込まれている。係止部材83は、その側面とスライダ33の他端面33cとが当接するように配置されており、コイルバネ82によるスライダ33の移動を係止している。そのため、係止部材83が挿入孔89から差し込まれている状態では、スライダ33及び蓋本体87によってコイルバネ82の圧縮状態が保たれている。
【0101】
このようなプレフィルドシリンジ81において、使用者が、挿入孔89から係止部材83を抜くと、コイルバネ82の圧縮が解かれ、そのバネ力により、スライダ33が外筒2の軸方向に沿って筒孔2a内を摺動する。そして、スライダ33が、その軸方向に薬液収納部19を扱くことで、薬液収納部19内の薬液Mが針管3の第2の針先10を通って、第1の針先9から生体内に排出される。
【0102】
その他の構成及びプレフィルドシリンジ81の使用方法は、上述した第1の実施の形態に係るプレフィルドシリンジ1と同様であるため、それらの説明は省略する。このような構成を有するプレフィルドシリンジ81によっても、上述した第1の実施の形態に係るプレフィルドシリンジ1と同様の作用及び効果を得ることができる。
【0103】
なお、上述した各実施形態において、チューブを多層化し、表面層にポリプロピレン等の潤滑性の高い樹脂層を形成してもよい。これにより、スライダとチューブ間の摩擦により、チューブが座屈することなく、スライダが摺動するようになる。
【0104】
また、上述した各実施形態では、押圧目安部をフランジ状に形成した例を説明したが、これに限定されるものではない。例えば安定部の外周面を略垂直に切り欠いて段部を設けることで押圧目安部を形成してもよい。
【0105】
また、薬液を皮膚上層部に投与するために針ハブに調整部、安定部及び押圧目安部であるガイド部を設けた例を説明したが、これに限定されるものではなく、調整部、安定部及びガイド部を設けなくてもよい。また、本発明のプレフィルドシリンジは、薬液を皮下に投与するために用いるプレフィルドシリンジにも適用できるものである。
【0106】
以上、本発明の各実施形態の例について説明したが、本発明は上記各実施形態例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨を逸脱しない限りにおいて、他の変形例、応用例を含むことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0107】
1,51,81…プレフィルドシリンジ、 2…外筒、 2a…筒孔、 3…針管、 4…針ハブ、 5…押し子、 7…キャップ、 8,61…薬液容器、 9…第1の針先、 10…第2の針先、 11…ハブ本体、 12…調整部、 13…安定部、 13a…端面、 14…ガイド部、 14a…接触面、 15…チューブ、 16,18,65…強シール部、 17,64…弱シール部、 19,66…薬液収納部、 20…内部空間、 21…押し子本体、 22…フランジ部、 23…開口部、 24…押圧部、 25,63…薬液空間、 31,88…薬液容器固定部、 32…中芯、 33,71…スライダ、 33a…筒孔、 34…当接部、 72…圧延部、 73…固定部、 74…ローラ、 75…ローラホルダ、 82…コイルバネ、 83…係止部材、 84…蓋、 87…蓋本体、 89…挿入孔、 B…ベベル長、 L…突出長、 S…針突出面の周縁から針管の周面までの距離、 T…安定部の内壁面から調整部の外周面までの距離、 x…ガイド部長さ、 y…ガイド部高さ、 d…内径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端が生体に穿刺される針管と、
前記針管の他端が連通されると共に薬液が収納され、少なくとも一部が軟質に形成された薬液容器と、
前記薬液容器を収納する外筒と、
前記薬液容器を挟んで前記薬液容器を横断面視野で隙間が生じないように挟持するスライダと、
前記スライダを前記外筒の軸方向に移動させる押圧部と、を備えた
ことを特徴とするプレフィルドシリンジ。
【請求項2】
前記薬液容器は、軟質の容器本体と、該容器本体内に収納され、前記容器本体よりも硬質の中芯とを含み、
前記スライダは、自身と前記中芯とで前記容器本体を挟み込むために、該中芯と容器本体が貫通する孔を有している
ことを特徴とする請求項1に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項3】
前記容器本体の内周の長さは、前記中芯の外周の長さに等しい
ことを特徴とする請求項2に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項4】
前記薬液容器は、軟質のチューブで形成されており、
前記スライダには、前記薬液容器を挟み込む一対のローラを有している
ことを特徴とする請求項1に記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項5】
前記押圧部は、前記スライダを付勢するためのバネ部材からなる
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項6】
前記外筒は、前記薬液容器の軟質部分を変形させて前記薬液を攪拌するための開口を有している
請求項1〜5のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項7】
前記針管の周囲には、前記針管の一端が突出する針突出面を有する調整部が設けられている
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項8】
前記針管の一端の周囲を覆うように配置されて前記針管を生体に穿刺する場合に皮膚と接触する端面を有する安定部を設けた
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれに記載のプレフィルドシリンジ。
【請求項9】
前記針管は、22G〜33Gである
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載のプレフィルドシリンジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−212184(P2011−212184A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82584(P2010−82584)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】