説明

プロコアギュラントリン脂質の検出方法

【課題】プロコアギュラントリン脂質の検出方法
【解決手段】本発明は、サンプル中のプロコアギュラントリン脂質の量を測定するための方法に関する。該方法は、以下の順序で行われる工程(i)から(iii)を含む:(i)前記サンプルと、プロコアギュラントリン脂質を含まないか少なくともベース血漿の凝固能力を減少するのに十分にプロコアギュラントリン脂質を実質的に含まないようにされたベース血漿との混合物を形成する、ここにおいて、前記ベース血漿は、ホスホリパーゼによる処置によってプロコアギュラントリン脂質を含まないか又は実質的に含まないようにされる;(ii)前記混合物を、プロコアギュラントリン脂質が該混合物の律速成分である条件において、血漿の凝固を活性化するための試薬と接触させる;及び、(iii)前記混合物の凝固時間を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液凝固試験に関し、より詳細には、血栓症及び血小板の活性化のマーカー並びに潜在的な血栓性危険因子のための改良された方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ホスファチジルセリンのような陰イオン性のリン脂質を含む、プロコアギュラントリン脂質は、血液凝固の機構において重要な役割を有する。プロコアギュラントリン脂質は、VIIIa因子及びIXa因子によるX因子のXa因子への転換のための内在性凝固経路において必要とされ、またXa因子によるプロトロンビンのトロンビンへの切断のための通常の経路においても必要とされる。それらは組織因子活性化複合体の一部を形成する。抗血栓機構において、それらは、トロンビン/トロンボモジュリン複合体によるタンパク質Cの活性化、及び、活性化されたタンパク質CによるVa因子の破壊に関与する。
【0003】
低レベルのプロコアギュラントリン脂質は、恐らくは種々の細胞に由来する微小粒子、主に血小板として、典型的には健康体の血液中に存在するが、しかし、例えば外傷及び血液凝固、補体又は免疫性機構の活性化などに応答して血小板が活性化されたとき、それらのレベルが上昇する。インビトロにおいて、血小板は、凍結解凍した後、又はコラーゲン/トロンビン又は膜破壊薬剤(例えばイオノフォア)による活性化の後に、最大のプロコアギュラント活性を表す。インビボでの血小板の異常活性は、血栓の発症、塞栓症、敗血症、播種性血管内血液凝固、及び梗塞の間に生じる。逆に言えば、血小板の不適切な活性化は、フォンウィルブラント病のようなある種の血液疾患において、及び種々の血小板異常に伴って生じる。
【0004】
プロコアギュラントリン脂質は、患者の血液血漿サンプル中で、例えばラッセルクサリヘビ毒液試験(以降「RVVT」と称す)のような凝固アッセイによって、慣例に従って検出されることができるが、そのようなアッセイは、より慣習的には、ループス抗凝固剤の診断のために用いられる。RVVTで用いられる毒液は、V因子及びX因子を特異的に活性化するメタロプロテアーゼを含んでいる。毒的及びカルシウムイオンの添加後、患者のサンプル中のプロコアギュラントリン脂質にほとんど絶対的に依存して凝固が進行する。患者のサンプル中のプロコアギュラントリン脂質の量は、試験混合物がフィブリン及び凝固を形成し、それによって、チューブ中の流れがやみ、或いは光学的な濁度が上昇し、或いは穴又は隙間を遮断するのに要した時間によって決定される。凝固時間又はフィブリン血塊が形成するのに必要な時間は、これにおける終点指示薬として置換され、続いて、主要な凝固酵素、トロンビンによって作用されて容易に検出可能な有色産物を産する色素産生基質によって表される。
【0005】
患者が、不充分なX因子、V因子、II因子、又はフィブリノーゲンのような因子欠損を有するのではないかと疑われるとき、或いは抗凝固剤を受けているとき、該患者のサンプルは、典型的には、そのサンプル中に欠失している因子を補充する目的で、血小板を含まない正常ヒト血漿サンプルと混合される。この血小板を含まない正常ヒト血漿は、典型的には、「ベース血漿(substrate plasma)」として知られている。それらのアッセイで用いられるベース血漿は、理想的には血小板を含まないものであり、さもなければ、凝固は該患者のサンプルに含まれるプロコアギュラントリン脂質に絶対的に依存しない。
【0006】
RVVT及び他の凝固アッセイにおいて、ベース血漿は通常、高速遠心分離及び/又は濾過によって調製される。この方法で主に不都合な点は、ベース血漿からのプロコアギュラントリン脂質の除去を制御することが困難であるという点である。新鮮な血漿が必要であり、これは、しばしば、得るのに都合が悪い。一旦血漿が凍結されると、その中に含まれる血小板が活性化されてプロコアギュラントリン脂質を放出する。従って、RVVT及び患者のサンプル中のプロコアギュラントリン脂質の検出のための他の凝固アッセイによって提供される感受性、並びに、それらのアッセイの特異性を制御する能力は、限られている。さらに不都合な点は、中性浮力を有するか又は濾過で除去するには小さすぎる細胞性微粒子の中に、それらの方法では除去できないものがあるということである。
【0007】
プロコアギュラントリン脂質の測定のための現在の方法のさらに不都合な点は、例えば抗体のような凝固阻害剤に対するそれらの感受性である。それらの抗体は、自己免疫性疾患、例えば「抗リン脂質症候群」において頻繁に発生し、リン脂質含有試薬を使用するほとんどの凝固試験において延長をもたらし、それによってプロコアギュラントリン脂質のための現在の試験において誤った陰性の結果を与える。
【発明の開示】
【発明の概要】
【0008】
血栓発症の原因におけるプロコアギュラントリン脂質の役割の観点から、及びそれらの血小板又は細胞の活性化のマーカーとしての可能性の観点から、サンプル中のプロコアギュラントリン脂質の存在及び量を検出するための改良された方法が必要である。
【0009】
それゆえ、本発明の第一の側面に従って、サンプル中のプロコアギュラントリン脂質の量を測定する方法が提供される。該方法は、以下の順序で行われる工程(i)から(iii)を含む:(i)前記サンプルと、プロコアギュラントリン脂質を含まないか少なくともベース血漿の凝固能力を減少するのに十分にプロコアギュラントリン脂質を実質的に含まないようにされたベース血漿との混合物を形成する、ここにおいて、前記ベース血漿は、ホスホリパーゼによる処置によってプロコアギュラントリン脂質を含まないか又は実質的に含まないようにされる;(ii)前記混合物を、プロコアギュラントリン脂質が該混合物の律速成分である条件において、血漿の凝固を活性化するための試薬と接触させる;及び、(iii)前記混合物の凝固時間を測定する。
【0010】
本発明の第二の側面に従って、サンプル中の活性化された血小板及び細胞に由来する微小粒子の量の測定方法が提供される。該方法は、以下の順序で行われる工程(i)から(iii)を含む:(i)前記サンプルと、プロコアギュラントリン脂質を含まないか少なくともベース血漿の凝固能力を減少するのに十分にプロコアギュラントリン脂質を実質的に含まないようにされたベース血漿との混合物を形成する;(ii)前記混合物を、プロコアギュラントリン脂質が該混合物を凝固させる条件において、血漿の凝固を活性化するための試薬と接触させる;及び、(iii)前記混合物の凝固時間を測定する。
【0011】
本発明の第三の側面に従って、患者が最近の血栓発症を有しているかどうかを評価する方法を提供する。該方法は、以下の順序で行われる工程(i)から(iii)を含む:(i)前記サンプルと、プロコアギュラントリン脂質を含まないか少なくともベース血漿の凝固能力を減少するのに十分にプロコアギュラントリン脂質を実質的に含まないようにされたベース血漿との混合物を形成する;(ii)前記混合物を、プロコアギュラントリン脂質が該混合物を凝固させる条件において、血漿の凝固を活性化するための試薬と接触させる;及び、(iii)前記混合物の凝固時間を測定する。
【0012】
血栓発症の例は、深部静脈血栓、塞栓症又は梗塞である。「最近」とは、血栓発症から派生するプロコアギュラントリン脂質が循環中に検出される得る期限の範囲を意味する。他のさらなる血小板活性化が発生しない場合、そのような事象から12時間までが推定される。
【0013】
本発明の第四の側面に従って、サンプル中のプロコアギュラントリン脂質のレベルの測定において使用するためのベース血漿の調製方法が提供される。該方法は、ベース血漿の凝固能力を少なくとも減少させるのに十分にプロコアギュラントリン脂質を分解するために、ベース血漿をホスホリパーゼで処理することを含む。
【0014】
本発明の第五の側面に従って、前記第四の側面の方法によって調整されたベース血漿が提供される。これは、未知量のプロコアギュラントリン脂質を含む試験血漿をホスホリパーゼのみと共にインキュベートし、そのリン脂質感受性試験の結果を、そのようなインキュベーションの前後で比較するという概念を含む。この試験の著しい延長は、リン脂質を含まないベース血漿の添加を必要とすること無くプロコアギュラントリン脂質が存在しているということを確証する。
【0015】
本発明の第六の側面に従って、サンプル中のプロコアギュラントリン脂質のレベルを測定するためのキットが提供される。該キットは、(i)ベース血漿の凝固能力を少なくとも減少させるのに十分にリン脂質を分解するために、ホスホリパーゼによって処理されたベース血漿;(ii)リン脂質依存的な様式での血漿の凝固を活性化するための試薬;及び
(iii)既知レベルのプロコアギュラントリン脂質を含む参照製剤;を含む。
【0016】
既知のレベルのプロコアギュラントリン脂質を含む参照製剤も、参照グラフを作成するための較正薬剤として用いられ得る。
【発明の説明】
【0017】
本発明は、上記のように確認されている不利益の問題に立ち向かい、一つの態様において、サンプルが前記方法のより低い感受性限界以上の検出可能なプロコアギュラントリン脂質を含有するか否かを測定する方法を提供し、第二の態様において、どれほど含むかを測定する方法を提供する。該方法は、該サンプルと、プロコアギュラントリン脂質を含まないか、リン脂質依存的な凝固試験において少なくともベース血漿の凝固能力を減少するのに十分にプロコアギュラントリン脂質を実質的に含まないようにされたベース血漿との混合物を形成することを含む。該ベース血漿は、ホスホリパーゼによる処理によってプロコアギュラントリン脂質を含まないか又は実質的に含まないようにされ得る。
【0018】
リン脂質依存的な凝固試験は、ラッセルクサリヘビ毒液によって開始されるもの、又はその毒液からのX因子活性化因子によって開始されるもの、又はシュードナジャ・テキティリスからのリン脂質依存的プロトロンビン活性化因子によって開始されるもの、又はより好ましくはヒト、動物又は組換え起源のXa因子によって開始されるものであってよい。
【0019】
前記血漿は、ヒト血漿又は非ヒト血漿であってよく、好ましくは非ヒト血漿であり、より好ましくは動物血漿である。
【0020】
前記血漿は、例えば、血漿中のリン脂質を破壊する酵素で処理することによって、プロコアギュラントリン脂質を含まないようにするか又は実質的に含まないようにすることができる。
【0021】
例えば、ウマ血漿のXa因子活性化された凝固時間を50秒から120秒に延長するためには、2×10-5%のナジャ・ニグリコリス毒液とともに、37℃で1時間インキュベーションすることが必要である。種々の血漿前処理プロトコールの詳細は、下記の例1に示した。次いで該混合物を、プロコアギュラントリン脂質の濃度が凝固時間に影響するような条件下で、血漿の凝固を活性化するための試薬と接触させる。該サンプルがプロコアギュラントリン脂質を含むかどうかの測定は、該混合物の凝固が生じる時を測定することによって行われる。
【0022】
ここに記載するように、本発明者らは、サンプル中のプロコアギュラントリン脂質を測定するための凝固試験、例えばXa因子に基づく試験の感受性が、そのプロコアギュラントリン脂質がホスホリパーゼでの処理によって破壊された組成物であるベース血漿を用いることによって改良されることを発見した。より具体的には、ホスホリパーゼで処理されたベース血漿を含む混合物は、未処理の貧血小板血漿又は通常の遠心処理された血漿を含む混合物の凝固時間と比較して、凝固時間が上昇することが認められた(例2)。試験血漿と同じ量、従って同じ量の添加されたプロコアギュラントリン脂質が、全ての混合物中に提供されことから、当然の結果として、非処理及び遠心されたベース血漿を含む混合物の凝固時間の減少が、ベース血漿及びサンプルの両者からのプロコアギュラントリン脂質の検出によって引き起こされたということになる。処理されたベース血漿を含む混合物は、増加した凝固時間を有しているが、プロコアギュラントリン脂質のみが該混合物に寄与し、それ故にアッセイで検出され、サンプルから引き出されることから、改良された感受性を有する。
【0023】
多くの酵素が典型的に、血漿に添加された場合に活性の能力を持たないために、この結果は驚くべきものである。これは、血漿が、酵素活性を阻害し得る異種起源の分子の複合体混合物であるためである。例えば、血漿は、アポリポタンパク質、アネキシン及びベータ-2-糖タンパク質1などのリン脂質に強く結合するタンパク質を含み、これらはホスホリパーゼのための基質の有効性を妨げ得る。さらに、ホスホリパーゼは通常、それらの酵素活性にカルシウムを必要とし、これは、血液凝固試験のために集められた血漿において通常用いられるクエン酸塩加の抗凝固剤によって大きく減少される。さらに、血漿はまた、特異的酵素の活性を阻害し得る分子の阻害剤を含む。例えば、抗トリプシン(トリプシンに結合して阻害する)、抗トロンビン(トロンビンを阻害する)及び抗プラスミン(プラスミン活性を阻害する)。恐らく、ヒト血漿中のほとんどのホスホリパーゼの主な阻害剤は、アネキシンVである。
【0024】
典型的なベース血漿は、ホスホリパーゼで処理されたものである。そのようなホスホリパーゼの例は、塩基性ホスホリパーゼA2である。該ホスホリパーゼは、例えば組換えDNA技術によって合成的に調製されることができ、また或いは生物体に由来することもできる。例えば、該ホスホリパーゼは、ヘビの毒液に由来し得る。これを例示するものとして、ナジャ・モッサンビカ及びN ニグリコリスの毒液に由来するホスホリパーゼは、ベース血漿の処理に特に有用である。有用な他のタイプの毒液は、アグキストロドン・ハリス(Agkistrodon halys)、ビペラ種、特にベラス(Berus)及びルッセリ(Russeli)、クロタラス・ドウリサス(Crotalus durissus)、エンヒドリナ・シストーサ(Enhydrina schistosa)、オキシウラヌス・スクテラタス(Oxyuranus scutellatus)及びアピス・メリフェラ(Apis mellifera)である。血漿中でそれらに有効性を与える毒液ホスホリパーゼの主要な特徴は、恐らく、高い等電点のpHによって示される塩基性性質である。もっとも効果的な毒液由来ホスホリパーゼは、構造的な相同性を共有している。
【0025】
ベース血漿を処理するのに用いるホスホリパーゼを提供し得る他の生物体には、ステプトロマイセス・ビオラセオルベル、ビブリオ種、ウエルチ菌、バチルス・セレウスが含まれる。
【0026】
当然の結果として、陰イオン性リン脂質、例えばホスファチジルセリンは、血栓症において重要であり、典型的には、ベース血漿中のプロコアギュラントリン脂質を破壊するための酵素は、血漿中のホスファチジルセリンを破壊する能力を有するものである。上記したように、適宜に処理されたベース血漿の使用は、例えばRVVT又はXa因子に基づく試験のようなプロコアギュラントリン脂質の検出のための凝固アッセイにおいて、ホスファチジルセリンの検出のための特異性を改善する。
【0027】
本発明の方法で用いるためのベース血漿は、その中の全てのリン脂質を破壊する処理をされることが必要ではないということは、理解されるべきである。しかしながら、該ベース血漿は、典型的には、プロコアギュラントリン脂質依存的な凝固活性化因子(例えば、ラッセルクサリヘビ毒液)によって活性化されたとき、その凝固能力が、酵素によって処理されたベース血漿中のプロコアギュラントリン脂質の破壊によって、少なくとも減少するように処理される。典型的には、そのような試薬によって活性化された場合の該ベース血漿の凝固能力は、ベース血漿中の実質的に全てのプロコアギュラントリン脂質、主としてリン脂質のホスファチジルセリン成分が酵素によって破壊された時に減少する。典型的には、ベース血漿を1×10-5%の全N ニグリコリス毒液(精製された酵素を実質的に含まない)で、約37℃で約1時間処理することによって、酵素による貧血小板ベース血漿中の実質的に全てのプロコアギュラントリン脂質を破壊するのに十分である。個々の血漿を枯渇させる実際の状況は、それらの初期に含む遊離のプロコアギュラントリン脂質に強く依存し、これは、血小板又は他の細胞性細片による汚染の度合いに依存する(例えば例1を参照)。よって、高レベルの血小板を含む血漿は、すでにリン脂質が低いものと比べて、より長いインキュベーション時間又はより高いホスホリパーゼ濃度を必要とする。既にリン脂質が低い血漿で開始することが好ましい。このホスホリパーゼ処理は、最も血小板が少ない血漿において、総計0.1%のリン脂質の約0.001%のみを破壊する。典型的には、ホスファチジルセリンの割合:総リン脂質は、約1:100,000である。Xa因子活性化凝固時間(これ以降「XACT」と称す)のようなリン脂質感受性試験は、常に患者の血漿中の100-1000 ng/mLを検出する。より短いインキュベーション時間が、より高い濃度のホスホリパーゼに用いることができ、より長いインキュベーション時間が、より低い濃度のホスホリパーゼに必要とされることは、理解されるであろう。よって、正常なブタ血漿中のN ニグリコリス毒液(NNV)の400 ng/mLは、X因子活性化された凝固時間を48秒から100秒まで延長するために、37℃で40分を必要とし、一方、200 ng/mLのNNVは、同様に100秒の至適なXACT結果を達成するために90分を必要とする(詳細は例1を参照されたい)。本発明の方法は、ベース血漿中の全てのプロコアギュラントリン脂質が酵素で処理されて破壊された場合にプロコアギュラントリン脂質に最も感受性であることは理解されるであろう。
【0028】
本発明で用いられる毒液の活性が本来進行性であるために、一旦、リン脂質のレベルが十分に枯渇すれば、それらと血漿との相互作用を停止することが望ましい。これは、希抗血清と用いられている毒液に対して作られた抗体によって行うことができる。商業的に入手可能な、用いられる特定のクラスの毒液(例えばコブラ)に対する抗毒液は、0.01〜1%の濃度で有効である。
【0029】
ベース血漿は、患者のサンプルが欠失している因子を補正する任意の組成であってよい。例えば、患者のサンプルがV因子欠損である場合、該ベース血漿は、患者のサンプルの血漿の凝固に影響可能なように、過剰のV因子を含む。他のベース血漿の例は、混合されたサンプル中の任意の欠損を補償するのに十分な機能的レベルで、XII因子、プレカリクレイン、高分子量キニノーゲン、XI因子、VIII因子、IX因子、X因子、V因子、プロトロンビン、及びフィブリノーゲンから成る群から選択される全ての因子を含むものである。そのようなベース血漿は、カオリン又は表面活性化凝固時間試験において用いられ得る。組織因子を活性化因子として用いる試験の場合、該ベース血漿はVII因子、X因子、V因子、II因子及びI因子(フィブリノーゲン)を同じ目的のために含んでいなければならない。
【0030】
ラッセルクサリヘビ毒液試験のような試験を用いる場合、これは、X因子と、以降に呈される凝固カスケードにおける因子、即ち、X因子、V因子、II因子、及びフィブリノーゲンの凝固因子を必要とする。X因子より以前の因子は、正常な結果のためには存在する必要がない。Xa因子に基づく試験が用いられる場合は、正常な結果をその系で得るためにはX因子でさえ必要なく、V因子、II因子及びI因子(フィブリノーゲン)のみが必要である。コブラ科毒液のリン脂質依存的なプロトロンビン活性化因子は、凝固を誘発するのにII因子(プロトロンビン)より以前の因子は必要としない。例えばタイパン毒液に基づく試験が用いられる場合は、正常な結果を得るためには、プロトロンビン及びフィブリノーゲンのみが必要である。フィブリノーゲン又はI因子は、凝固の終点のためのマーカーを提供するためにのみ必要である。トロンビン生成の最大速度は、或いは、分光光度的に検出され得る有色の最終産物にトロンビンによって転換される、色素生産性トリペプチド基質を用いて検出されることができる。
【0031】
典型的なベース血漿は、クエン酸塩加血液に由来する。適切な血漿は、ヒト血漿サンプルの凝固の促進に有効であると知られているものである。なぜならば、それらは試験サンプル中に多様に存在する因子を提供するからである。そのような血漿の例には、ほとんどの哺乳類の血漿が含まれる。本発明の方法で用いられるために、個々で例示されるものには、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、サル、イヌ、ネコ、キツネ、ゾウ、ラマ、ウサギ、ミンク、アライグマ、カンガルー、ヒト及びそれらの混合物に由来する血漿が含まれる。
【0032】
ベース血漿を提供するための血漿は、プロコアギュラントリン脂質の存在及び/又は量を試験する個体に由来するものであってよい。この場合、血漿標本は、既知の量のホスホリパーゼ(例えば 100 ng/mL のN ニグリコリス毒液)と共にインキュベーションする前及びインキュベーションした後のXa因子活性化凝固時間によって試験され得る。第一と第二の結果の相違は、どれほどのプロコアギュラントリン脂質がホスホリパーゼ処理によって破壊されたかと比例する。
【0033】
しかしながら、プロコアギュラントリン脂質に結合するヒトタンパク質に対して血清学的活性を有する抗体(例えばベータ2糖タンパク質1及びプロトロンビン(例えばループス阻害因子抗体))がある種のヒトにおいて生成される場合に、本発明の方法でベース血漿としてヒト血漿を使用することは、そのような阻害因子に望ましくない何らかの感受性をもたらす。結果的に、そのような標本は、それらの抗体の存在がアッセイされる。動物血漿がベース血漿を提供するために用いられる場合、本発明の利点は、該方法が、ヒト血漿に基づく方法よりもヒト凝固因子又はループスコファクターに対して作られる抗体への感受性がより低いということである。そのような抗体は、患者中に予想外に生じ得るものであり、混乱と現存の凝固試験方法への不信頼性をもたらす。
【0034】
試験標本が変化した凝固性を有する場合、特に、試験される個体が抗凝固剤を投与された場合、ベース血漿が、凝固を阻害する抗凝固能を制御するための少なくとも一つの薬剤をさらに含むことが必要であることは理解されるであろう。最も有用でありそうなそれらの薬剤は、凝固を阻害するヘパリンの能力を制御可能なものである。というのも、ヘパリンは、抗凝固剤として広く使用されているからである。それらの薬剤には、硫酸プロタミン及びポリブレン又は硫酸プロタミンが含まれる。しかしながら、他の薬剤も、ヒルジン及びそのアナログに対する抗体又は他の抗凝固アンタゴニストを含む。
【0035】
ベース血漿は、通常、液体又は再構成される形態において使用される。しかしながら、「部分的な治療(point of care)」デバイスにおける使用のために、血液又は血漿それ自体の適用される標本によって再構成される乾燥組成物の一部として存在することもできる。
【0036】
試験において混合物の凝固を活性化するための試薬は、その後のプロコアギュラントリン脂質依存的な様式で進行する凝固を活性化しなければならない。そのような試薬の例は、X因子をXa因子に転換する能力を有するもの、又は、プロトロンビンをトロンビンに転換する能力を有するものである。従って、本発明の方法で用いられる試薬は、ラッセルクサリヘビ毒液又は関連するクサリヘビ科の毒液からのX因子活性化因子又はXa因子或いは、オーストラリア・コブラ・シュードナジャ又はオキシウラヌス・スクテラタス科のようなコブラ科の毒液に由来する他のリン脂質依存的なプロトロンビン活性化因子である。ヒト以外の哺乳類に由来する試薬は特に有用であり、例えばウシ起源のXa因子が有用である(例4を参照)。活性化因子、組織因子、IXa因子、XIa因子、及びVIIa因子と接触するような凝固機構を高めるよう作用する試薬を用いてもよいが、しかしそれらは該系のリン脂質への特異性を減少させ、また、患者の血漿変数による干渉に対してより脆弱である。
【0037】
凝固活性化因子は、新規のDNA配列に基づく組換え前駆物質からの酵素であってもよい。そのようなプロコアギュラントは、そのような抗体によって認識される共通のエピトープの検出によって抗体を阻害する非感受性を与えられる。それらの試薬は、通常は液体形体で用いられるが、「部分的な治療」デバイスにおける適用のための乾燥形態で提供されることもでき、そのような場合は、それらは血漿又は血液標本の適用された標本によって再構成される。
【0038】
本発明の方法が、ヒト患者に由来する血漿又は血液サンプルに関して最も広く適用されることが予測される一方、該方法は、動物の領域におけるプロコアギュラントリン脂質の検出に用いられ得ることは理解されるべきである。この態様は、動物血液による物質表面の成体適合性及び実験薬物の効果のインビボ又はインビトロでのアセスメントのための動物実験的研究に有用である。プロコアギュラントリン脂質を試験されるサンプルは、血液、血漿、血清又は他の任意の流体であってよい。クエン酸又はEDTAのようなカルシウム結合剤によって抗凝固化された場合は、そのような薬剤のレベルは、他の凝固試験で用いられたものと同様であるべきである。
【0039】
上記した本発明の第一の側面において、サンプル中のプロコアギュラントリン脂質の量を測定する方法が提供される。
【0040】
該測定は、既知量のプロコアギュラントリン脂質を含む参照血漿と比較することによって行われ、未知数は適切に作成された較正曲線から内挿される。
【0041】
プロコアギュラントリン脂質が典型的には活性化された血小板及び血小板微小粒子に局在するため、当然の結果として、本発明の第一の側面に従った血小板に富む血漿におけるプロコアギュラントリン脂質の量の測定は、サンプル中の活性化された血小板及び血小板微小粒子の量を定量化することを可能にする。
【0042】
従って、上記第二の側面において、本発明は、サンプル中の活性化された血小板及び細胞由来微小粒子の量を測定する方法を提供し、該方法は、本発明の第一の側面に従う。
【0043】
上記したように、異常な血小板又は細胞の活性は、血栓発症、塞栓症、組織外傷、免疫プロセス(補体活性を含む)、敗血症、播種性血管内血液凝固又は梗塞の結果として生じ得る。極度の場合において、又は免疫学的プロセスのために、それは血小板減少症をもたらし得る。個体が例えば血栓症、脳卒中又は心筋梗塞などの血小板活性化に関わる臨床的な状況を有しているかどうかを測定することを可能にすることは有益である。本発明者らは、プロコアギュラントリン脂質の量を測定することによって、活性化された血小板又は血小板微小粒子の量を測定する方法は、それらの状況を有するそれらの個体の診断を可能にすると認識している。
【0044】
よって、上記したような第三の側面において、本発明は、患者が、深部静脈血栓症、塞栓症、梗塞のような血栓発症を最近有しているかどうかを評価する方法を提供し、該方法は、本発明の第二の側面に従う。
【0045】
上気したような第四の側面において、本発明は、個体がプロコアギュラントリン脂質を含んでいるかどうかの測定に用いられる、ベース血漿を調製する方法を提供する。該方法は、ベース血漿の凝固能力を少なくとも減少させるのに十分に、プロコアギュラントリン脂質を破壊するための酵素でベース血漿を処理することを含む。
【0046】
本発明の第五の側面の方法において酵素を使用することによって、定義された量のプロコアギュラントリン脂質を含むベース血漿のパネル(panel)を提供することが可能である。これは、パネル、所望の量のプロコアギュラントリン脂質を含むベース血漿からの使用を選択することによって、本発明の第一及び第二の側面の方法の感受性を制御することを可能にする。この選択肢は、特定の機器のための、合理的な又は最適化されたベースライン凝固時間を提供する。ヘビ毒液は、それらが極めて低い濃度で使用されることができ、またそれらの活性が、例えばホスホリパーゼに対して有効な抗血清及び抗体の使用によって、その後に制御可能であるために、本発明の第四の側面において使用するための酵素を提供するのに特に有用である。しかしながら、組換えDNA技術、或いは他の生物体から由来するホスホリパーゼ酵素を制御することが可能な薬剤、又は阻害性成分が使用可能であることも理解されるであろう。従って、本発明の第四の側面の方法のさらなる工程は、ベース血漿を、プロコアギュラントリン脂質を破壊するための酵素の能力を制御するための少なくとも一つの薬剤と接触させることを含む。
【0047】
また、他の態様において、該第五の側面の方法は、ベース血漿を、凝固を阻害する例えばヘパリンのような治療的抗凝固剤の能力を制御するための、ポリブレン又は硫酸プロタミンのような少なくとも一つの薬剤と混合するさらなる工程を含む。
【0048】
上記第五の側面において、本発明は、該第四の側面の方法によって調製されるベース血漿を提供する。
【0049】
上記第六の側面において、本発明は、個体がプロコアギュラントリン脂質を含むか否かを測定するためのキットを提供し、該キットは、(i)ベース血漿の凝固能力を少なくとも減少させるのに十分にリン脂質を分解するために、酵素によって処理されたベース血漿;及び、(ii)リン脂質依存的な様式における血漿の凝固の活性化のための試薬;及び、(iii)既知レベルのプロコアギュラントリン脂質を含む参照製剤を含み、ここにおいて、既知レベルのプロコアギュラントリン脂質を含む該参照製剤は、参照グラフの作成のための較正薬剤として使用され得る。
【本発明を実施するための最適な様式及び他の様式】
【0050】
本発明は、以下の実施例に関連して説明されるが、発明の範囲がそれらに限定されるものと解釈されるべきではない。
【0051】
[例1]
粗製動物血漿におけるN ニグリコリス毒液の進行性効果
目的:多様な種の血小板含有血漿のプロコアギュラントリン脂質を減少させ、それによってプロコアギュラントリン脂質の凝固試験におけるそれらのベース血漿の感受性を改良する、典型的な毒液ホスホリパーゼの進行性及び選択性効果を証明する。
【0052】
方法:血液サンプルを、ヒトボランティアから清潔な静脈穿刺によって、新たに撃ったウマ(ウマ)から心臓穿刺によって、屠殺場のブタからの動脈血流によって、及び雄牛(ウシ)から同様にすることによって、3.2%クエン酸三ナトリウム抗凝固剤の最終容量の1/10に収集した。該サンプルを3,000 rpmで20分間遠心分離し、極めて可変性の血小板数(ヒトのサンプルで約5×109/L、しかし動物の血漿は測定していない)を有する上清貧血小板血漿を-30℃で凍結した。
【0053】
続いて、解凍した貧血小板サンプルを、図1に示した濃度のN ニグリコリス毒液(NNV)と混合した後、或いはその処置なしで、37℃でインキュベートした。標本を1又は2時間の間隔で取り出し、XACT試験のためのXa因子/カルシウム試薬で試験した。
【0054】
結果:それらを図1に示す。NNV添加なしの全ての血漿におけるXACT結果は、適度に安定であった。しかしながらNNVが存在すると、XACTの結果はインキュベーション期間を超えて延長された。
【0055】
ウシ及びブタ血漿は、恐らくは過剰な遊離プロコアギュラントリン脂質のために最も短い初期の結果を与えたが、それらは何れも、4×10-5%及び8×10-5%のNNVと共に2時間インキュベーションした後には2倍になった。
【0056】
コメント:NNVとのインキュベーションによるXACT結果におけるこれらの上昇は、活性化された部分的なトロンボプラスチン時間(APTT)、プロトロンビン時間(PT)又は他の凝固試験における著しい変化によっては達成されない。これは、NNVの主要な効果がそれらの凝固試験に関与する凝固因子の分解によるものではなく、それらの試験が感受性でないリン脂質の損失によるものであるということを確証するものである。
【0057】
[例2]
N ニグリコリスによるヒト血漿の前処理
目的:微量のN ニグリコリス毒液による正常ヒト血漿の処理が、遠心分離と比較して、Xa因子に基づく凝固試験において血小板により高い感受性を有する産物(ベース血漿)を与えることを示す。
【0058】
方法:血小板を「含まない」の正常ヒト血漿中に種々のレベルの凍結-解凍した正常血小板に富む血漿(PRP 初期250×109血小板/L)を含む試験血漿を調製した。血小板を含まない血漿(PFP)は、高速遠心分離及び0.22ミクロンのシリンジフィルターを通して濾過して得た。
【0059】
それらの試験血漿を、等容量の3つの異なるベース血漿と混合し、その後、Xa因子に基づく凝固試験で試験した。3つの異なるベース血漿は、
1.正常「貧」血小板ヒト血漿(PPP)
2.同じPPPを15,000gで10分間遠心分離したもの
3.同じPPPを1×10-5%のN ニグリコリス毒液と共に、37℃で20分処理したもの(これ以降、「NNV処理」と称す)。
【0060】
0.015 Mの塩化カルシウム、0.1 Mの塩化ナトリウム、0.02 MのHEPES pH 7.0のバッファー中に、0.001 U/mLのウシXa因子を含有するXa因子試薬を、37℃のST4(Diagnostica Stago, Paris, France)凝固マシーンにおいて、0.1 mLの試薬との0.05 mLの血漿ミックスの一部として用いた。
【0061】
結果:表1は、種々の血小板数を含む試験血漿と二つの異なる方法によって調製されたベースプールされた正常血漿(substrate pooled normal plasma)(PNP)との1:1混合物における、Xa因子凝固時間の結果を秒で示す。
【表1】

【0062】
コメント:これらの実験は、NNV処置が、凝固時間の結果において高速遠心分離によって得られたものを超えるより大きな上昇を達成することを示している。これは結果として、血小板への感受性を改良することになる。
【0063】
[例3]
N ニグリコリス毒液による前処理が血小板感受性に与える影響
目的:ウシ血漿に基づくラッセルクサリヘビ毒液凝固試験系の感受性の増強における、N ニグリコリス毒液の影響を証明する。
【0064】
方法:凍結-解凍の希釈系列、その他、正常ヒト血小板に富む血漿(初期血小板数 250×109/L)を、正常ウシ血漿、及び、5×10-5%のN ニグリコリス毒液と共に20℃で50分処理したウシ血漿で作製した。これらの血漿サンプルを、等容量の種々のラッセルクサリヘビ毒液及びカルシウム含有試薬と混合し、そして、ACL300血塊測時(timing)機器(Instrumentation Laboratory SpA, Milan, Italy)におけるトロンビン時間様式(TT様式は、等容量の血漿及び試薬を用いる)の37℃での凝固終了点に合わせた。0.025 Mの塩化カルシウムを含む試薬中のラッセルクサリヘビ毒液濃度は、10-5%から10-6%まで変動させ、前者の試薬は2×10-4%のN ニグリコリス毒液を添加した後に試験した。
【0065】
結果:得られた結果を図2に要約した。1×10-5%のRVVを用いた試験系の血小板に対する感受性が極めて低く、1×109/L未満の血小板レベルでプラトーになることが明らかになった。RVV凝固時間は、RVV濃度を10倍から10-6%まで減少することによって延長されたが、応答曲線の勾配によって示された血小板に対する感受性は改良されなかった。RVV中に20×10-5%NNVを含む試薬(RVV=10-5%)は、感受性をわずかに上昇させた。
【0066】
血小板に対する高い感受性は、血小板濃度を希釈するために用いられる前に、ウシ血漿を5×10-5%のNNVで前インキュベートしたときに得られた。この場合、血小板数0.1〜1.0が正確に定量化され得る。
【0067】
[例4]
種々の凝固活性化因子の比較
目的:プロコアギュラントリン脂質をアッセイするための試験系において、四つの異なるリン脂質依存性凝固活性化因子の感受性を比較する。
【0068】
方法:血小板に富む血漿の希釈液を、以下に示した血小板を含まない正常ヒト血漿で調製した。これらのサンプルを、4つの異なる凝固試験系で試験した。全ての試験は、37℃で、ST4で実施した。試薬及び方法は以下のとおりである。
【0069】
1.カオリン凝固試験(KCT)を、水中の1%カオリン懸濁液0.05 mLを用いて3分前インキュベートし、次いで、0.025 Mの塩化カルシウム0.05 mLでカルシウム再添加した、0.05 mLの血漿サンプルを用いて実施した。
【0070】
2.ラッセルクサリヘビ毒液試験(RVV)を、0.025 Mの塩化カルシウム中に2×10-6%のRVVを含有する試薬の0.05 mLと、0.05 mLのサンプルを混合して、凝固終了点までの時間を測定して実施した。
【0071】
3.Xa因子に基づく凝固試験(FXa-CT)を、0.025 Mの塩化カルシウム中に0.001 U/mLのウシXa因子を含有する試薬の0.05 mLと、0.05 mLのサンプルを混合して、凝固終了点までの時間を測定して実施した。
【0072】
4.テキスタリン(Textarin)(TM-Pentapharm, Basel, Switzerland)凝固試験(TX-CT)を、0.025 Mの塩化カルシウム中に2 U/mLの脱脂した市販のテキスタリン試薬を含有する試薬0.05 mLと、0.05 mLのサンプルを混合して、凝固終了点までの時間を測定して実施した。
【0073】
結果:得られた結果を図3に示した。RVVT及びKCT試験は、血小板に対して類似した感受性を示した。活性化X因子に基づいた凝固試験(XACT)は、血小板に対して最も高い感受性を示した。血小板に最も低い感受性を示した試験は、脱脂したテキスタリンに基づく試験であった。しかしながら、これは、代わりの目的、即ち、ループス阻害剤の検出のために意図される、この市販の試薬からのリン脂質の不適切な除去のためであり得る可能性がある。
【0074】
コメント:テキスタリン試薬は、そのようなプロコアギュラントを含むと知られている幾つかのオーストラリアのコブラの一つ、シュードナジャ・テキスティリス(Pseudonaja textilis)の毒液に由来する典型的なリン脂質依存性プロトロンビン活性化因子である。
【0075】
[例5]
前記方法及び具体的な研究の典型的な使用
目的:前記方法が、全ての既知の凝固因子の欠損に非感受性であることを例証する。また、個々の凝固因子を欠損した種々の商業的に入手可能な血漿中における遊離のプロコアギュラントリン脂質を検出する。
【0076】
方法:特定の因子アッセイで用いるためにマークした種々の凍結-乾燥した個々の凝固因子欠損血漿を、プロコアギュラントリン脂質のための新たな試験で用いて試験した。このように、種々の供給者(Dade/Behring, IL/Beckman-Coulter and Diagnostica Stago)からのバイアルを、それぞれ新たに1 mLの水で再構築した。試験は、25μlのNNV-処理したベース血漿(ロット3004)を、25μlのそれぞれの因子欠損血漿及び50μlのXa因子試薬と共に、Stago ST4凝固機械で用いた。
【0077】
結果:表2に示す。
【表2】

【0078】
コメント:プールされた凍結貧血小板血漿は、約5%の正常血小板数(約10×109血小板/L)を含むために、血小板を含まない正常血漿と比較して比較的短いFXa凝固時間を与えた。
【0079】
それらの結果は、試験サンプル中の任意の個々の血漿凝固因子の総数の欠乏は、FXa試験を延長しないことを示した。それはまた、ここで用いたVIII因子、IX因子及びX因子を欠失した血漿が、この試験で検出可能なプロコアギュラントリン脂質の適切な量を含んでいることを示す。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の方法は、臨床的な研究室の科学において広く適用可能である。
上記は本発明の幾つかの態様を記載したのみであって、当業者には発明の範囲から逸脱することなく改変可能であることは明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】図1は、例1に記載したように、多様な種の正常血漿を、N ニグリコリス毒液で処理し或いは処理せずにインキュベートした影響を表す。
【図2】図2は、血小板感受性における、N ニグリコリス毒液による前処理の影響を粟原図。
【図3】図3は、血小板リン脂質の種々の試験の感受性を表す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル中のプロコアギュラントリン脂質の量を測定する方法であって、該方法は、以下の順序で行われる工程(i)から(iii)を含む方法:
(i)前記サンプルと、プロコアギュラントリン脂質を含まないか少なくともベース血漿の凝固能力を減少するのに十分にプロコアギュラントリン脂質を実質的に含まないようにされたベース血漿との混合物を形成する、ここにおいて、前記ベース血漿は、ホスホリパーゼによる処置によってプロコアギュラントリン脂質を含まないか又は実質的に含まないようにされる;
(ii)前記混合物を、プロコアギュラントリン脂質が該混合物の律速成分である条件において、血漿の凝固を活性化するための試薬と接触させる;及び、
(iii)前記混合物の凝固時間を測定する。
【請求項2】
前記サンプルが、血液、血漿及び血清から成る群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記血液が抗凝固化された血液である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記測定が、既知量のプロコアギュラントリン脂質を含む参照血漿又は溶液と、適切に作成された較正曲線から内挿されうる未知数を比較することで行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ベース血漿が、クエン酸塩加血液である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記ベース血漿が、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、サル、イヌ、ネコ、キツネ、ゾウ、ラマ、ウサギ、ミンク、アライグマ、カンガルー、ヒト及びそれらの混合物から成る群の脊椎動物から選択されるメンバーから得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記ベース血漿が、非ヒト源から得られることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ベース血漿がブタから得られることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記ホスホリパーゼが、ナジャ・モッサンビカ(Naja mossambica)、ナジャ・ニグリコリス(Naja nigricollis)、アグキストロドン・ハリス(Agkistrodon halys)、ビペラ・ベラス(Vipera Berus)、ビペラ・ルッセリ(Vipera Russeli)、クロタラス・ドウリサス(Crotalus durissus)、エンヒルドリナ・シストース(Enhyrdrina schistose)、オキシウラヌス・スクテラタス(Oxyuranus scutellatus)及びアピス・メリフェラ(Apis mellifera)から成る群から選択される毒液から得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記ホスホリパーゼが、ステプトロマイセス・ビオラセオルベル(Steptromyces violaceoruber)、ビブリオ種(Vibrio species)、ウエルチ菌(Clostridium perfringens)、又はバチルス・セレウス(Bacillus cereus)から成る群から選択される一つから得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記血漿の凝固を活性化するための試薬が、Xa因子である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記血漿の凝固を活性化するための試薬が、X因子をXa因子に転換する能力を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記試薬がラッセルクサリヘビの毒液である、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記試薬が、クサリヘビ科の毒液のX因子活性化因子である、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
前記血漿の凝固を活性化するための試薬が、プロトロンビンをトロンビンに転換する能力を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記プロトロンビンのトロンビンへの転換が、リン脂質依存的な様式である、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記試薬は、コブラ毒液に由来するリン脂質依存的なプロトロンビン活性化因子である、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
前記コブラ毒液は、オーストラリア・コブラ・シュードナジャ(Australian cobra Pseudonaja)又はオキシウラヌス・スクテラタス(Oxyuranus scutellatus)科からのものである、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
サンプル中の活性化された血小板及び細胞に由来する微小粒子の量の測定方法であって、該方法は、以下の順序で行われる工程(i)から(iii)を含む方法:
(i)前記サンプルと、プロコアギュラントリン脂質を含まないか少なくともベース血漿の凝固能力を減少するのに十分にプロコアギュラントリン脂質を実質的に含まないようにされたベース血漿との混合物を形成する;
(ii)前記混合物を、プロコアギュラントリン脂質が該混合物を凝固させる条件において、血漿の凝固を活性化するための試薬と接触させる;及び、
(iii)前記混合物の凝固時間を測定する。
【請求項20】
前記方法は、患者が最近の血栓発症を有しているかどうかを決定する、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記方法は、患者が血小板活性化に関与する臨床的な疾患を有するかどうかを決定する、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記血栓の発症は、播種性血管内血液凝固、深部静脈血栓、塞栓症、組織外傷、敗血症、及び梗塞から成る群から選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
前記ベース血漿は、ホスホリパーゼによる処理によって、プロコアギュラントリン脂質を含まないか又は実質的に含まないようにされる、請求項19に記載の方法。
【請求項24】
前記ホスホリパーゼが、ナジャ・モッサンビカ(Naja mossambica)、ナジャ・ニグリコリス(Naja ニグリコリス)、アグキストロドン・ハリス(Agkistrodon halys)、ビペラ・ベラス(Vipera Berus)、ビペラ・ルッセリ(Vipera Russeli)、クロタラス・ドウリサス(Crotalus durissus)、エンヒルドリナ・シストース(Enhyrdrina schistose)、オキシウラヌス・スクテラタス(Oxyuranus scutellatus)及びアピス・メリフェラ(Apis mellifera)から成る群から選択される毒液から得られることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記ホスホリパーゼが、ステプトロマイセス・ビオラセオルベル(Steptromyces violaceoruber)、ビブリオ種(Vibrio species)、ウエルチ菌(Clostridium perfringens)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)から成る群から選択される一つから得られることを特徴とする、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
前記血漿の凝固を活性化するための試薬が、Xa因子である、請求項19に記載の方法。
【請求項27】
前記血漿の凝固を活性化するための試薬が、X因子をXa因子に転換する能力を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項28】
前記試薬がラッセルクサリヘビの毒液である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記試薬が、クサリヘビ科の毒液からのX因子活性化因子である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記血漿の凝固を活性化するための試薬が、プロトロンビンをトロンビンに転換する能力を有する、請求項19に記載の方法。
【請求項31】
前記プロトロンビンのトロンビンへの転換が、リン脂質依存的な様式である、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記試薬は、コブラ毒液に由来するリン脂質依存的なプロトロンビン活性化因子である、請求項30又は31に記載の方法。
【請求項33】
前記コブラ毒液は、オーストラリア・コブラ・シュードナジャ(Australian cobra Pseudonaja)又はオキシウラヌス・スクテラタス(Oxyuranus scutellatus)科からのものである、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記ベース血漿が、V因子及びプロトロンビンから形成される、請求項19に記載の方法。
【請求項35】
前記V因子及びプロトロンビンがリン脂質を含まないことを特徴とする、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記V因子及びプロトロンビンが、動物又はヒト起源のものである、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
前記方法のベース血漿が、前記酵素のプロコアギュラントリン脂質を分解する能力を制御するための少なくとも一つの薬剤と接触される、請求項23に記載の方法。
【請求項38】
前記ベース血漿を、凝固を阻害するための治療的抗凝固剤の能力を制御するための少なくとも一つの薬剤と混合する工程をさらに含む、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
凝固を阻害するための治療的抗凝固剤の能力を制御するための前記薬剤が、ポリブレン又は硫酸プロタミンである、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
前記ベース血漿が、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ラクダ、サル、イヌ、ネコ、キツネ、ゾウ、ラマ、ウサギ、ミンク、アライグマ、カンガルー、ヒト及びそれらの混合物から成る群から選択されるメンバーから得られることを特徴とする、請求項19〜39の何れか一項に記載の方法。
【請求項41】
サンプル中のプロコアギュラントリン脂質のレベルの測定において使用するためのベース血漿の調製方法であって、該方法は、ベース血漿の凝固能力を少なくとも減少させるのに十分にプロコアギュラントリン脂質を分解するために、ベース血漿をホスホリパーゼで処理することを含む方法。
【請求項42】
請求項41に記載の方法によって調製されたベース血漿。
【請求項43】
サンプル中のプロコアギュラントリン脂質のレベルを測定するためのキットであって、
(i)ベース血漿の凝固能力を少なくとも減少させるのに十分にリン脂質を分解するために、ホスホリパーゼによって処理されたベース血漿;
(ii)リン脂質依存的な様式での血漿の凝固を活性化するための試薬;及び
(iii)既知レベルのプロコアギュラントリン脂質を含む参照製剤;
を含むキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−505636(P2007−505636A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527221(P2006−527221)
【出願日】平成16年9月22日(2004.9.22)
【国際出願番号】PCT/AU2004/001291
【国際公開番号】WO2005/029093
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(506096213)ヒーマテックス・リサーチ・ピーティーワイ・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】