説明

プロスタグランジンE1を含むエマルション組成物

【課題】貯蔵安定性が改善されたプロスタグランジンE1(PGE1)のエマルション組成物の提供。
【解決手段】プロスタグランジンE1(PGE1)の安定性を改善する非プロトン供与性界面活性剤を含むエマルション組成物。該エマルション組成物の実施形態は、有効量のPGE1、該エマルション組成物の重量に対して約1%〜約30%(w/w)の、油基剤としての製薬上許容される油、該油基剤の重量に対して約1%〜約30%(w/w)の、高い純度を有するリン脂質、該油基剤の重量に対して約1.6%〜約40%(w/w)の非プロトン供与性界面活性剤、および該エマルション組成物の残量としての水を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、エマルション組成物、より詳しくは、プロスタグランジンE1(PGE1)を含むエマルション組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
プロスタグランジンは、平滑筋の収縮および弛緩、血管の拡張および収縮、血圧の制御、血小板凝集の抑制ならびに炎症のモジュレーションのような広範囲の身体機能に関与しているホルモン様物質である。したがって、プロスタグランジンは、高血圧、血栓症、喘息および胃腸潰瘍の治療、妊娠中の哺乳動物における分娩および流産の誘発ならびに動脈硬化の予防における医薬または治療用化合物として開発されている。
【0003】
プロスタグランジンエマルションの安定性または他の治療機能関連特性を改善するための多数のアプローチが存在する。日本国特許公開番号JP59141518は、プロスタグランジンA1(すなわち、PGA1)のin vivo半減期を延長させうるプロスタグランジン脂肪エマルションを開示している。米国特許第4,684,633号は、プロスタグランジンが水中油型エマルション内に取り込まれた場合にこれらの化合物が安定化されるばかりでなく静脈内投与にも適合化されうること、およびホスファチジルエタノールアミンを含有しないリン脂質の乳化剤としての使用がプロスタグランジンの安定性に更に寄与することを開示している。該特許は、ポリアルキレングリコール、ポリオキシアルキレン共重合体、水素化ヒマシ油-ポリオキシアルキレン誘導体およびヒマシ油-ポリオキシアルキレン誘導体、ゼラチンならびにヒドロキシエチル-デンプンよりなる群から選ばれるノニオン界面活性剤を組成物中のプロスタグランジンの1重量部に対して0.1〜5重量部の割合で更に含有するプロスタグランジンエマルション組成物を記載している。しかし、この米国特許に記載されている実施例はいずれも、乳化剤としてノニオン界面活性剤を使用していない。日本国特許公開番号JP4069340は、ダイズ油の代わりに高純度ゴマ油を使用する安定化された透明なPGE1油基剤エマルションを開示している。日本国特許公開番号JP433833は、高級脂肪酸を含有しない、油基剤としてのゴマ油および乳化剤としてのリン脂質を含むPGE1脂肪エマルションを開示している。日本国特許公開JP11279082は、PGE1の血中循環時間を改善するためにポリエチレングリコール結合リン脂質、レシチンおよび脂肪油を含む注射用脂肪エマルションを開示している。該実施形態においては、循環時間を改善するために、70%の純度を有するホスファチジルコリンであるレシチンを使用したが、より高い純度を有するジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)はそのような改善をもたらし得なかった。比較的長期にわたり優れた貯蔵安定性を有するエマルション組成物を提供することが尚も必要とされている。
【発明の開示】
【0004】
発明の概要
本発明は、改善された貯蔵安定性を有するPGE1エマルション組成物を提供する。本発明の1つの態様は、補助乳化剤として非プロトン供与性界面活性剤を含む、改善された貯蔵安定性を有するPGE1を含むエマルション組成物に関する。
【0005】
本発明の1つの実施形態においては、該エマルション組成物は、有効量のPGE1、該エマルション組成物の重量に対して約1〜約30%(重量/重量%)(%(w/w))の製薬上許容される油、該油基剤の重量に対して約1%〜約30%(w/w)の、高い純度を有するリン脂質、該油基剤の重量に対して約1.6%〜約40%(w/w)の非プロトン供与性界面活性剤、および該組成物の残量としての水を含む。
【0006】
本発明のもう1つの一般的態様は、有効量のPGE1、製薬上許容される油、乳化剤、および該製薬上許容される油の重量に対して約1.6%〜約40%(w/w)の非プロトン供与性界面活性剤を混合することを含む、エマルション組成物におけるPGE1の安定性を改善するための方法に関する。
【0007】
本発明のもう1つの一般的態様は、本発明のいずれかの実施形態のエマルション組成物の治療的有効量を対象に投与することを含む、対象におけるPGE1に関連した疾患または障害の治療方法に関する。
【0008】
本発明の更なる態様および利点は、部分的には以下の説明に記載されており、部分的には該説明から明らかであり、あるいは本発明の実施により判明しうる。本発明の態様および利点は、添付の特許請求の範囲において特に記載されている要素および組合せにより認識され達成されるであろう。
【0009】
前記の一般的な説明および以下の詳細な説明は専ら例示および説明のためのものであり、特許請求されている本発明を限定するものではないと理解されるべきである。
【0010】
発明の詳細な説明
「背景技術」および本明細書の全体にわたり、種々の刊行物、論文および特許が引用または記載されている。これらの参考文献のそれぞれの全体を参照により本明細書に組み入れることとする。本明細書中に含まれている、文書、操作、材料、装置、物品などの考察は、本発明に関する状況を示すためのものである。そのような考察は、これらの事物のいずれか又は全てが、開示または特許請求されているいずれかの発明に関する先行技術の一部を構成することを自認するものではない。
【0011】
特に示さない限り、本明細書中で用いる全ての科学技術用語は、本発明に関連した分野の当業者に一般に理解されているのと同じ意義を有する。本出願においては、本明細書において定められた意義を有する或る用語が頻繁に用いられている。文脈に明らかに矛盾する場合を除き、本明細書および添付の特許請求の範囲において用いられている単数形表現は複数指示対象を含む。
【0012】
本発明の1つの一般的態様は、改善された貯蔵安定性を有する、PGE1を含むエマルション組成物に関する。該エマルション組成物は特に、非プロトン供与性界面活性剤を補助乳化剤として含む。本発明の1つの実施形態においては、油滴を安定化させ油滴の粒度分布を維持するために1以上の非プロトン供与性界面活性剤を使用する。したがって、本発明は、長期の貯蔵期間(例えば、1週間または1ヶ月以上)中の分解を伴うことなく乳化組成物またはエマルション中に実質的に大量のPGE1が残存または保有されることを可能にする、先行技術と比較して比較的高い貯蔵安定性を有する、PGE1を含むエマルション組成物に関する。
【0013】
本明細書中で用いる「貯蔵安定性」なる語は、PGE1が、該乳化組成物中に元々含有されていたPGE1の量に対して実質的に80%以上という比較的大量で、且つ実質的に同じ物理的形態で残存する傾向を意味する。本発明の特定の実施形態においては、約4℃で貯蔵された該乳化組成物の貯蔵寿命は約24ヶ月以上、約10℃では約15ヶ月以上であり、これに対して、従来の組成物においてはそれぞれ約15ヶ月および約9ヶ月である。さらに、本発明の実施形態においては、約40℃で貯蔵された該乳化組成物の貯蔵寿命は1週間以上である。
【0014】
本発明の1つの具体例においては、該エマルション組成物は、有効量のPGE1、該エマルション組成物の重量に対して約1〜約30%(w/w)の、油基剤としての製薬上許容される油、該油基剤の重量に対して約1%〜約30%(w/w)のリン脂質、該油基剤の重量に対して約1.6%〜約40%(w/w)の非プロトン供与性界面活性剤、および該組成物の残量としての水を提供する。
【0015】
本明細書中で用いる「有効量」なる語は、エマルション組成物を対象に投与した場合に該対象に治療的有効量のPGE1を与える、該エマルション組成物中に含まれるPGE1の量を意味する。
【0016】
本明細書中で用いる「治療的有効量」なる語は、研究者、獣医、医師または他の臨床家により求められている、対象の組織系または対象における生物学的または医学的応答を惹起するPGE1の量を意味する。該生物学的または医学的応答は、PGE1に関連した疾患または障害の治療から生じる臨床的に観察可能な有益な効果を含む。本発明の1つの実施形態においては、PGE1の治療的有効量は、対象に投与された場合に、PGE1に関連した既存の疾患または障害を阻止する。本発明のもう1つの実施形態においては、PGE1の治療的有効量は、PGE1に関連した疾患または障害を、該疾患または障害の発生の前または後に、PGE1の治療的有効量が対象に投与されていない場合に観察されるであろうものに対して約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%または90%またはそれ以上より低い程度にまで軽減する。
【0017】
エマルション組成物中に含まれるPGE1の「有効量」は、該エマルション組成物中の他の成分の存在、該エマルション組成物の用量範囲、該エマルション組成物の投与方法、使用する個々のPGE1の特性などのような要因に応じて様々となりうることを、当業者は認識するであろう。対象へのPGE1の投与の効果を評価して、エマルション組成物中に含有させるべきPGE1の有効量を当業者が決定するのを可能にするためには、標準的な手法で行うことが可能である。
【0018】
本発明においては、PGE1の有効量は、例えば、該PGE1エマルション組成物の1ミリリットル(ml)当たり約0.1マイクログラム(μg)〜約100μg、約0.5μg〜約50μg、または約1μg〜約10μgでありうる。本発明の1つの実施形態においては、PGE1の有効量は、該エマルション組成物の容量または重量に対してそれぞれ約5μg/ml(w/v)または約0.0005%(w/w)である。しかし、PGE1エマルション組成物中に含まれうるPGE1の有効量は、例示されている量に限定されない。
【0019】
本明細書中で用いる「対象」なる語は、治療、観察または研究の対象である動物、好ましくは哺乳動物を意味する。対象の具体例としては、ヒト、家畜動物(肉牛および乳牛、ヒツジ、家禽、ブタなど)、またはコンパニオンアニマル(イヌ、ネコ、ウマなど)が挙げられる。
【0020】
本明細書中で用いる「プロスタグランジンE1(PGE1)」なる語は、式(I):
【化1】

の化合物を含む。
【0021】
本発明においては、動物脂質、植物油および合成油、例えばダイズ油、綿実油、ナタネ油、ゴマ油、トウモロコシ油、ラッカセイ油、ヒマワリ油、魚油および任意のトリグリセリドを含む任意の製薬上許容される油を油基剤として使用することが可能である。本明細書中で用いる「トリグリセリド」は、グリセロールの3つのヒドロキシル基のそれぞれが脂肪酸により修飾されている天然に存在する又は合成された脂質またはエステルのクラスを含む。該脂肪酸は、同じ種類または異なる種類のものでありうる。該脂肪酸は飽和または不飽和でありうる。各脂肪酸の鎖長は種々の長さであることが可能であり、例えば約6〜26炭素原子でありうる。本発明の1つの実施形態においては、該油基剤は中鎖トリグリセリド(MCT)油でありうる。本明細書中で用いる「中鎖トリグリセリド(MCT)」なる語は、約6〜約14炭素原子の中等度のサイズの鎖長をそれぞれが有する1以上の脂肪酸を含有するトリグリセリドまたはそれらの混合物を意味する。本発明の1つの実施形態においては、MCTは、8および10炭素原子を有する約95%以上の飽和脂肪酸(例えば、カプリル酸およびカプリン酸)を主として含有するトリグリセリドの混合物である。特に、MCTは、約95%(w/w)以上のカプリル酸およびカプリン酸を主として含有するトリグリセリドの混合物、例えばLipoid GmBH, GermanyのLIPOID MCT(登録商標)またはNOF Corp., JapanのPanacet 810(登録商標)(JPE)である。本発明のもう1つの具体例においては、MCTは、カプリルおよびカプリン脂肪酸の飽和ヤシおよびパーム核油誘導体とグリセリンまたはプロピレングリコールとのエステルの混合物、例えばCondea Chemie GmbH(Witten, Germany)のMiglyol(登録商標)天然油である。
【0022】
本発明においては、リンを含有する任意の脂質分子でありうる、高い純度を有するリン脂質を、乳化剤として該組成物に加える。本明細書中で用いる「リン脂質」は、グリセロールまたはスフィンゴシン骨格および1本または2本の脂肪酸鎖、および該骨格上の炭素に結合した負荷電リン酸基から構成される分子のクラスを含み、ここで、該負荷電リン酸基は通常、コリンまたはイノシトールのような窒素含有頭部基に結合している。本明細書中で用いる「高い純度を有するリン脂質」は、いずれかのリン脂質調製物であって、約95%(w/w)以上の純粋なリン脂質を該調製物中に含有するもの、または95%(w/w)以上の純度を有する任意のリン脂質調製物でありうる。通常のPGE1エマルション組成物においてはリン脂質調製物が一般に使用されるが、そのような調製物は、70%(w/w)のオーダーの、より低い純度を有する。本発明においては、この場合に使用するリン脂質は、高い純度を有するリン脂質である。本発明において使用しうるリン脂質の具体例には、ホスファチジルリン脂質、グリセロリン脂質およびスフィンゴミエリンが含まれるが、これらに限定されるものではない。ホスファチジルリン脂質の具体例には、水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)およびジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、卵ホスファチジルコリン(EPC)およびダイズホスファチジルコリン(SPC)、オレオイルパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジペトロセリノイルホスファチジルコリン、パルミトイルエライドイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジウンデカノイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリンおよびジノナノイルホスファチジルコリンよりなる群から選ばれるホスファチジルコリンが含まれる。
【0023】
本発明の実施形態においては、該組成物における補助乳化剤として非プロトン供与性界面活性剤を使用する。本明細書中で用いる「非プロトン供与性界面活性剤」なる語は、界面活性分子または界面活性物質であって、プロトンを供与しない又は該界面活性分子もしくは該界面活性物質の100mol当たり1mol(1mol%)以下のプロトンを供与し、該界面活性分子または該界面活性物質を含有する水性組成物のpHが約4〜約8であるものを意味する。本発明の実施形態においては、非プロトン供与性界面活性剤はノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または双性イオン(「両性」としても公知である)界面活性剤でありうる。界面活性剤は通常、疎水性基(「尾部」)および親水性基(「頭部」)の両方を含有する両親媒性である有機化合物である。ノニオン界面活性剤は、形式的に荷電した基をその頭部に有さない。カチオン界面活性剤は正味の正の電荷をその頭部に含有する。双性イオン界面活性剤は電気的に中性であるが、異なる原子上に形式的な正および負の電荷を含有する。非プロトン供与性界面活性剤の具体例には、ポロキサマー、例えば、商品名Pluronic(登録商標)のポリアルキレングリコール(例えば、約1,000〜約20,000ダルトン、好ましくは約4,000ダルトン〜約6,000ダルトンの平均分子量を有するポリエチレングリコール)、ポリアルキレン共重合体(例えば、約1,000ダルトン〜約20,000ダルトン、好ましくは約6,000ダルトン〜約10,000ダルトンの平均分子量を有するポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体);ヒマシ油-ポリオキシアルキレン誘導体、例えば商品名Cremophor(登録商標)で入手可能なもの、例えばポリオキシル35ヒマシ油(Cremophor(登録商標)EL)、ポリオキシル40水素化ヒマシ油およびポリオキシル60水素化ヒマシ油;ポリソルベート、例えばポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(ポリソルベート20)、ポリオキシエチレンソルビタンモノパルミタート(ポリソルベート40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアラート(ポリソルベート60)、ポリオキシエチレンソルビタントリステアラート(ポリソルベート65)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(ポリソルベート80)、例えば商標Tween(登録商標)で入手可能なもの;または12-ヒドロキシステアリン酸のポリオキシエチレン(15)エステル(ポリエチレングリコール660 12-ヒドロキシステアラート)(Solutol(登録商標)HS15)、またはビタミンEの誘導体、例えばd-アルファ-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシナート(TPGS)、またはカチオン界面活性剤、例えばドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、または双性イオン界面活性剤、例えば3-(N,N-ジメチルパルミチルアンモニオ)-プロパンスルホナートが含まれる。本発明の特定の実施形態においては、該非プロトン供与性界面活性剤は、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレアート(ポリソルベート80)、ポリオキシル35ヒマシ油(Cremophor(登録商標)EL)、d-アルファ-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシナート(TPGS)、および12-ヒドロキシステアリン酸のポリオキシエチレン(15)エステル(ポリエチレングリコール660 12-ヒドロキシステアラート)(Solutol(登録商標)HS15)よりなる群から選ばれる。本発明のもう1つの具体例においては、該非プロトン供与性界面活性剤は、約500〜約10,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールを含有するポリエチレングリコール由来リン脂質、例えば1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-mPEG2000)である。
【0024】
通常、過剰量の界面活性剤または乳化剤は、液体コロイド中に分散した界面活性分子の凝集物であるミセルの形成を招く。PGE1を含むエマルション組成物におけるミセルの形成は水へのPGE1の露出を増加させ、ついでPGE1の分解を開始させるため、該ミセル形成を回避し又は最小限にすべきである。したがって、本発明においては、該エマルション組成物中の非プロトン供与性界面活性剤の量は、約1.6%を超えるが、約40%(w/w)以下、例えば約1.6%〜約40%(w/w)、好ましくは約2%〜約15%(油基剤の重量に対する比率)にすべきである。
【0025】
また、該エマルション組成物は、該エマルションの等張化または安定化のために適量の等張化剤をも含みうる。本発明の一例においては、約0.05%〜約10%(w/w)の比率の等張化剤、例えばグリセロール、糖または塩を該組成物に加えることが可能である。該エマルション組成物は、本明細書に記載の成分に限定されない他の添加剤を含有しうる。
【0026】
本発明の1つの特定の例においては、該エマルション組成物は、該エマルション組成物の重量に対して約0.0005%(w/w)のPGE1、該エマルション組成物の重量に対して約15%(w/w)の、油基剤としてのMCT油、該油基剤の重量に対して約18%(w/w)の、高い純度を有するEPC、該油基剤の重量に対して約2.4%(w/w)のポリソルベート80、および該エマルション組成物の残量としての水を含む。本発明のもう1つの特定の例においては、該エマルション組成物は、該エマルション組成物の重量に対して約0.0005%(w/w)のPGE1、該エマルション組成物の重量に対して約10%(w/w)の、油基剤としてのMCT油、該油基剤の重量に対して約18%(w/w)の、高い純度を有するEPC、該油基剤の重量に対して約2.4%(w/w)のDSPE-mPEG2000、および該エマルション組成物の残量としての水を含む。
【0027】
本発明のもう1つの一般的態様は、エマルション組成物におけるPGE1の安定性を改善するための方法に関する。該方法は、有効量のPGE1、製薬上許容される油、および該製薬上許容される油の重量に対して約1.6%〜約40%(w/w)の非プロトン供与性界面活性剤を混合することを含む。高い純度を有するリン脂質、水、安定剤および等張化剤のような追加的な成分を該エマルション組成物中に加え、混合することも可能である。
【0028】
本発明の1つの実施形態においては、有効量のPGE1、該エマルション組成物の重量に対して約1%〜約30%(w/w)の製薬上許容される油、該油基剤の重量に対して約1%〜約30%(w/w)の、高い純度を有するリン脂質、該油基剤の重量に対して約1.6%〜約40%(w/w)の非プロトン供与性界面活性剤、および適量の水を混合することを含む方法により、該エマルション組成物を製造した。
【0029】
本発明の実施形態によるエマルション組成物は、本開示を考慮して、当技術分野で一般に用いられている任意の標準的な方法により製造することが可能である。本発明の1つの実施形態においては、PGE1、高い純度を有するリン脂質、および所定量の非プロトン供与性界面活性剤、ならびに場合によっては1以上の添加剤を、必要量の油基剤と混合して溶液を得る。適量の水を該溶液に加える。該混合物を、例えば加圧ジェット型ホモジナイザーまたはウルトラソニケーターのような機械的ホモジナイザーにより乳化して、PGE1を含有する均一化された極めて微細な脂肪エマルションを得る。
【0030】
本発明の実施形態は更に、本発明の実施形態によるエマルション組成物を使用する、PGE1に関連した疾患または障害の治療方法に関する。該方法は、PGE1関連疾患または障害を治療するために、治療的有効量の本発明のいずれかの実施形態のエマルション組成物を対象に投与することを含む。該エマルション組成物の治療的有効量は、対象における該疾患または障害を阻止し、抑制し、予防し、遅延させ、寛解し、軽減するものである。
【0031】
本発明の実施形態によるエマルション組成物は、プロスタグランジンが一般に投与される目的のために対象に投与されうる。該エマルション組成物は静脈(静脈内、IV)、筋肉(筋肉内、IM)または皮膚下(皮下、SC)への注射または注入により投与されうる。また、経皮、鼻腔内(吸入剤)または経口投与も本発明において用いられうる。該エマルション組成物は、中心静脈、体腔、膀胱または骨盤内に一時的または永久的に挿入されたカテーテルまたは入口によっても投与されうる。限定的なものではないが例えば、本発明の実施形態におけるエマルション組成物は、1分当たり体重1kg当たりPGE1および他の治療用物質約0.02ng〜約5ngの速度の持続的な静脈内注入により対象に投与されうる。さらに、もう1つの例においては、本発明の実施形態によるエマルション組成物は注射により対象に投与されうる。
【0032】
本発明の実施形態における組成物中のPGE1の同時投与は、本発明のエマルション組成物の投与と同時(すなわち、同じ時)、該投与の前または後のその他の治療用物質の投与を含みうる。当業者は、本開示を考慮して、治療される対象の障害または疾患および状態に基づき、本発明の個々の薬物および化合物の投与の適当な時機、順序または投与量を、困難を伴うことなく決定するであろう。
【0033】
つぎに、以下の具体的かつ非限定的な実施例により本発明を更に詳しく説明することとする。
【実施例1】
【0034】
PGE1とポリソルベート80とを含むエマルション組成物TLC01の製造
式(I)のPGE1と非プロトン供与性界面活性剤ポリソルベート80とを含むエマルション組成物を本実施例において製造した。任意の他のPGE1と任意の他の非プロトン供与性界面活性剤とを含むエマルション組成物を製造するために、本実施例と同様の方法を用いることが可能である。
【0035】
式(I)のPGE1および他の化学物質をSigma, USAから購入した。ポリソルベート80をSigma, USA、NOF corp., JapanまたはImperial Chemical Industries PLC, London, United Kingdomから購入した。MCT油(約95%以上のカプリル酸およびカプリン酸を主として含有するトリグリセリドの混合物)、例えばLIPOID MCT(登録商標)をLipoid GmbH, Germanyから、あるいはPanacet 810(登録商標)をNOF Corp., Japanから購入した。卵ホスファチジルコリン(EPC)(純度:95〜100%および純度:80〜85%)をAvanti, USA、NOF Corp., JapanまたはLipoid GmbH, Germanyから購入した。
【0036】
ついで0.9gのEPC(純度:95〜100%)、500μgのPGE1、5gの精製MCT油、2.21gのグリセロールおよび0.12gのポリソルベート80を含有する組成物を91.77gの注射用蒸留水(WFI)と混合した。該混合物をウルトラソニケーター(Sonicator 3000, Misonix, Inc., Farmingdale, NY., USA)でホモジナイズした。PGE1を含有する均一化された微分散脂肪エマルションを得た。該エマルションの粒径をレーザー粒子分析器で測定した。該エマルションの滴は約0.5μm未満のサイズを有していた。
【実施例2】
【0037】
PGE1と他の非プロトン供与性界面活性剤とを含むエマルション組成物の製造
実施例1に記載されているのと同様の方法を用いて、PGE1と種々の非プロトン供与性界面活性剤とを含む種々のエマルション組成物を製造した。
【0038】
非プロトン供与性界面活性剤を種々の入手源から入手した。ポリエチレングリコール-15-ヒドロキシステアラート(Solutol(登録商標)HS15)およびポリオキシ35ヒマシ油(Cremophor(登録商標)EL)をBASF, Germanyから入手した。D-アルファ-トコフェリルポリエチレングリコール1000スクシナート(TPGS)をEastman, USAから入手した。3-(N,N-ジメチルパルミチルアンモニオ)プロパンスルホナートおよびドデシルトリメチルアンモニウムブロミドをSigma, USAから入手した。DSPE-mPEG2000をAvanti, USAまたはNOF Corp., Japanから購入した。
【0039】
種々のエマルション組成物中の成分およびそれらの量を表Iに示す。
【表1】

【実施例3】
【0040】
該エマルション組成物中のPGE1の貯蔵安定性の測定
一連のエマルション組成物中のPGE1の貯蔵安定性を本実施例において測定した。PGE1を含む任意のエマルション組成物中の任意のPGE1の貯蔵安定性を測定するために、本実施例と同様の方法を用いることが可能である。
【0041】
商業的に入手可能な製品Liple(登録商標)(Mitsubishi Pharma Corp., Tokyo, Japan)を、本発明の実施形態によるエマルション組成物との比較のための参照体として使用した。比較のための種々のエマルション組成物中の成分およびそれらの量を表Iに示す。
【0042】
密封された透明なアンプル内で暗所にて貯蔵されたエマルション組成物中のPGE1の安定性を、該エマルション組成物を40℃で1週間または1ヶ月間インキュベートした後に保有されたPGE1の割合(%)としてHPLC分析により測定した。また、該インキュベーション期間後の該エマルション組成物の外観(相分離の有無)により該エマルション組成物中のPGE1の安定性を測定した。該貯蔵安定性試験の結果を以下の表IIに示す。
【表2】

【0043】
表IIに示した結果は、オレイン酸(プロトン供与性界面活性剤)を含むエマルション組成物においては、1ヶ月後に残存したPGE1の量が、本発明の実施形態による非プロトン供与性界面活性剤を含むエマルション組成物の場合より少なかったことを示している。
【0044】
40℃で1週間または1ヶ月の貯蔵中、実施例1に従い製造したポリソルベート80を含む製剤TLC01、ならびに実施例2に従い製造した、それぞれSolutol(登録商標)HS15およびCremophor(登録商標)ELを含むTLC01およびTLC03などの本発明のエマルション組成物においては、相分離が観察されなかった。オレイン酸(プロトン供与性界面活性剤)の代わりに非プロトン供与性界面活性剤を該エマルション組成物中の油基剤の重量に対して少なくとも約1.6%(w/w)の濃度で該エマルション組成物中で補助乳化剤として使用した場合には、該エマルション組成物中のPGE1の安定性の改善がもたらされたことが、表IIの結果から明らかであった。
【0045】
表IIに示す結果は、EPC(純度:80〜85%)を含む製剤A3の組成物においては、1週間後に残存したPGE1の量が、本発明の、高い純度のEPC(純度:95〜100%)を含む製剤TLC11の組成物の場合より少ないことを示した。
【0046】
本発明の広範な発明概念から逸脱することなく前記の実施形態に変更を施すことが可能であると当業者に理解されるであろう。したがって、本発明は、開示されている特定の実施形態に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲により定義される本発明の精神および範囲内の修飾を包含すると意図されると理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有効量のPGE1、エマルション組成物の重量に対して1%〜30%(w/w)の、油基剤としての製薬上許容される油、該油基剤の重量に対して1%〜30%(w/w)の、高い純度を有するリン脂質、該油基剤の重量に対して1.6%〜40%(w/w)の非プロトン供与性界面活性剤、およびエマルション組成物の残量としての水を含んでなるエマルション組成物。
【請求項2】
該非プロトン供与性界面活性剤がプロトンを供与しない、または1mol%以下のプロトンを供与し、該非プロトン供与性界面活性剤を含有する水性組成物のpHが4〜8の様々な値をとる、請求項1記載のエマルション組成物。
【請求項3】
該非プロトン供与性界面活性剤がノニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤または双性イオン界面活性剤である、請求項1記載のエマルション組成物。
【請求項4】
該非プロトン供与性界面活性剤がノニオン界面活性剤である、請求項1記載のエマルション組成物。
【請求項5】
該非プロトン供与性界面活性剤がポリソルベートである、請求項1記載のエマルション組成物。
【請求項6】
該非プロトン供与性界面活性剤がポリソルベート80である、請求項5記載のエマルション組成物。
【請求項7】
該非プロトン供与性界面活性剤がヒマシ油-ポリオキシアルキレン誘導体である、請求項1記載のエマルション組成物。
【請求項8】
該非プロトン供与性界面活性剤がポリオキシル35ヒマシ油である、請求項7記載のエマルション組成物。
【請求項9】
該非プロトン供与性界面活性剤がポリエチレングリコール660 12-ヒドロキシステアラートである、請求項1記載のエマルション組成物。
【請求項10】
該非プロトン供与性界面活性剤が、500〜10,000ダルトンの分子量を有するポリエチレングリコールを含有するポリエチレングリコール由来リン脂質である、請求項1記載のエマルション組成物。
【請求項11】
該非プロトン供与性界面活性剤が1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスホエタノールアミン-N-[メトキシ(ポリエチレングリコール)-2000](DSPE-mPEG2000)である、請求項10記載のエマルション組成物。
【請求項12】
高い純度が95%(w/w)以上である、請求項1〜11のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項13】
該リン脂質が、水素化卵ホスファチジルコリン(HEPC)、水素化ダイズホスファチジルコリン(HSPC)、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジアラキドイルホスファチジルコリン、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、卵ホスファチジルコリン(EPC)、ダイズホスファチジルコリン(SPC)、オレオイルパルミトイルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)、ジペトロセリノイルホスファチジルコリン、パルミトイルエライドイルホスファチジルコリン、パルミトイルオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジウンデカノイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリンおよびジノナノイルホスファチジルコリンよりなる群から選ばれるホスファチジルコリンである、請求項1〜12のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項14】
該リン脂質が、95%(w/w)以上の純度を有する卵ホスファチジルコリン(EPC)である、請求項1〜11のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項15】
該油基剤がトリグリセリドを含む、請求項1〜14のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項16】
該油基剤が中鎖トリグリセリド(MCT)油を含む、請求項15記載のエマルション組成物。
【請求項17】
該MCTが、95%(w/w)以上のカプリル酸およびカプリン酸を含有するトリグリセリドの混合物である、請求項16記載のエマルション組成物。
【請求項18】
該非プロトン供与性界面活性剤が該油基剤の重量に対して2%〜15%(w/w)の量で存在する、請求項1〜17のいずれか1項記載のエマルション組成物。
【請求項19】
エマルション組成物の重量に対して0.0005%(w/w)のPGE1、エマルション組成物の重量に対して15%(w/w)の、油基剤としてのMCT油、該油基剤の重量に対して18%(w/w)の、95%(w/w)以上の純度を有するEPC、該油基剤の重量に対して2.4%(w/w)のポリソルベート80、およびエマルション組成物の残量としての水を含んでなるエマルション組成物。
【請求項20】
エマルション組成物の重量に対して0.0005%(w/w)のPGE1、エマルション組成物の重量に対して10%(w/w)の、油基剤としてのMCT油、該油基剤の重量に対して18%(w/w)の、95%(w/w)以上の純度を有するEPC、該油基剤の重量に対して2.4%(w/w)のDSPE-mPEG2000、およびエマルション組成物の残量としての水を含んでなるエマルション組成物。
【請求項21】
有効量のPGE1、製薬上許容される油、乳化剤、および該製薬上許容される油の重量に対して1.6%〜40%(w/w)の非プロトン供与性界面活性剤を混合することを含んでなる、エマルション組成物におけるPGE1の安定性を改善するための方法。

【公開番号】特開2008−231086(P2008−231086A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−245191(P2007−245191)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(507317971)タイワン リポソーム カンパニー リミテッド (2)
【出願人】(507317166)ティーエルシー バイオファーマシューティカルズ,インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】