説明

プロセス制御システム

【課題】制御ノウハウに相当する制御ロジックを自動的に作成すると共に、今制御ロジックがどのように動作するかを確認することができるプロセス制御システムを提供する。
【解決手段】プラント10のプロセスを制御するプロセスコントローラ21に対し、プロセスを制御するための、各種の状態信号や測定値、制御目標値、及び制御量を含むプロセスデータを蓄積するデータ保存部32を設け、この蓄積されたプロセスデータから、プロセスの状態量に対する制御目標値を満足する制御量及び制御結果に関するデータを用い、制御ロジック作成装置31で、これらデータ相互の関係から制御ノウハウに相当する好適な制御ロジックを作成する。作成された制御ロジックは、制御シミュレーション機能33、プロセスシミュレーション機能34を有するシミュレータ35でシミュレートし、検証された制御ロジックがプロセスコントローラ21の制御ロジックとして適用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運転ノウハウを自動抽出する制御ロジック作成装置を有したプロセス制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
上下水道施設の運用・管理において、団塊世代を中心とする熟練技術者の大量退職に伴う技術継承に関する課題は重大な問題である。施設を管理する組織は、いかに熟練技術者の知識や経験を引き継いでいくか、日ごろの業務を通じて熟練者から若手技術者に直接指導するなど、試行錯誤による取り組みで対応を行っている。しかし、作業効率が落ちるなどの課題があり、技術を継承する若手技術者についても財政上の問題などにより、十分に確保できないことが多い。
【0003】
今後とも上下水道施設を安全、安心かつ効率的に運用・管理するためには、必要なノウハウの蓄積と活用を実現することが必要である。
【0004】
そのための実現手段の一つとして、製油装置の操業に関するデータを分類内容情報と関連付けしてナレッジバンクに蓄積させ、要求に対応して所定の分類でそのデータを表示し、情報の傾向判断が容易になるデータ処理装置、その方法、そのシステムおよびプログラムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、浄化水供給施設の監視と制御を行なうネットワークシステムが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
これらの従来技術では、データ保存部化によって、工場プロセスの操業データの知識データベース化を図るか、あるいは現場に作業員を配置することなく公衆回線に接続したシステムにより、遠隔でプロセス挙動を監視し、その異常を検知している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−186533号公報
【特許文献2】特開2005−74418号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、得られたノウハウによる制御を、実際のプロセス制御に適用する場合には、その制御がどのように動作するか確認しておく必要があるが、これまでそのような手段はなかった。このため、ノウハウによる制御が適切であることは、別途理論式に基づいてその制御動作を解析的に評価するか、あるいは実験的にプロセスを動かして確認する必要があった。
【0009】
本発明の目的は、制御ノウハウに相当する制御ロジックを自動的に作成すると共に、今制御ロジックがどのように動作するかを確認することができるプロセス制御システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によるプロセス制御システムは、制御対象のプラントのプロセスを、前記プラント側から入力される各種の状態信号や状態量に基づき、予め設定した制御目標値を満足すべく制御するプロセスコントローラと、前記プロセスを制御するための、前記プラント側で生じる各種の状態信号や状態量、前記プロセスへの制御目標値、及び制御量を含むプロセスデータを蓄積するデータ保存部と、このデータ保存部に蓄積されたプロセスデータから、前記プロセスの状態量に応じて制御目標値を満足する制御量及び制御結果に関するデータを用い、これらデータ相互の関係から制御ノウハウに相当する好適な制御ロジックを作成する制御ロジック作成装置と、前記プロセスコントローラを模擬する制御シミュレーション機能、及び制御対象プロセスを模擬するプロセスシミュレーション機能を有し、前記作成された制御ロジックをシミュレートするシミュレータとを備え、このシミュレータにより検証された制御ロジックが前記プロセスコントローラの制御ロジックとして適用されることを特徴とする。
【0011】
また、本発明によるプロセス制御システムは、制御対象のプラントの複数のプロセスを、前記プラント側から入力される各種の状態信号や状態量に基づき、予め設定した制御目標値を満足すべく前記プロセス毎に制御するプロセスコントローラを備えた監視制御システムと、前記プロセスを制御するための、前記プラント側から入力される各種の状態信号や状態量、前記プロセスへの制御目標値、及び制御量を含むプロセスデータを蓄積するデータ保存部と、このデータ保存部に蓄積されたプロセスデータから、前記プロセスの状態量に応じて前記制御目標値を満足する制御量及び制御結果に関するデータを用い、これらデータ相互の関係から前記複数のプロセスから成るプラント全体を制御する制御ノウハウに相当する好適な制御ロジックを作成する制御ロジック作成装置と、前記プロセスコントローラを模擬する制御シミュレーション機能、及び制御対象プロセスを模擬するプロセスシミュレーション機能を有し、前記作成された制御ロジックをシミュレートするシミュレータとを備え、このシミュレータにより検証された制御ロジックが前記監視制御システムの対応するプロセスコントローラの制御ロジックとして適用されるようにしてもよい。
【0012】
本発明では、前記シミュレータは、前記プロセスコントローラから、現状のプロセス値がオンラインで設定され、前記制御ロジックを検証するようにしてもよい。
【0013】
また、本発明では、前記制御ロジック作成装置は制御ロジックを複数作成し、シミュレータは作成された複数の制御ロジックをそれぞれ検証しており、このシミュレータの検証結果から最適な制御ロジックを選択して前記プロセスコントローラに適用させる制御ロジック選択手段をさらに有する構成としてもよい。
【0014】
また、本発明では、前記データ保存部は、遠隔地に設けられたプラントのプロセスコントローラから通信機能によりプロセスデータを入手して蓄積し、前記シミュレータにより検証された制御ロジックは、通信機能によりプロセスコントローラへ提供されるようにしてもよい。
【0015】
さらに、本発明では、前記データ保存部は、遠隔地に設けられた複数のプラントの各プロセスコントローラから通信機能によりプロセスデータを入手してプラント毎に蓄積し、前記制御ロジック作成装置はプラント毎に制御ロジックを作成し、前記シミュレータにより検証された制御ロジックは、通信機能により対応するプラントのプロセスコントローラへ提供されるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、制御ノウハウに相当する制御ロジックを自動的に作成すると共に、この制御ロジックを、シミュレータにより模擬的に動作させてその結果を確認することで、作成された制御ロジックを用いて、プラントのプロセスを適切に制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明によるプロセス制御システムの一実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図2】図1で示したプロセスコントローラと制御対象プラントのプロセスとの関係を説明する詳細図である。
【図3】本発明で用いるSVMを説明するための特性図である。
【図4】本発明の、複数のプロセスコントローラを有する監視制御システムを用いた場合の実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図5】本発明の、プロセスコントローラからプロセスデータをオンラインで入力して作成された制御ロジックのシミュレーションを行う実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図6】本発明の、複数作成された制御ロジックのシミュレーションをそれぞれ行い、最適なものを選択する実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図7】本発明の、プロセス制御装置への現状と異なる入力を扱う実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図8】本発明の、遠隔地にあるプラントのプロセスコントローラとのデータのやり取りを通信機能で行う実施の形態を示す機能ブロック図である。
【図9】本発明の、遠隔地にある複数のプラントの各プロセスコントローラとのデータのやり取りを通信機能で行う実施の形態を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明によるプロセス制御システムの一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0019】
図1は、浄水場の浄水プラント10における凝集処理プロセスを表す。凝集沈殿処理プロセスの目的は、沈殿池濁度の値が目標値となるように、処理すべき原水に適正な凝集剤を注入し、適度な攪拌を行って、原水中に含まれる濁質をフロック化し、その後の沈殿ろ過処理によって濁質除去を行うことである。沈殿池濁度に影響を及ぼす要素(外乱)としては、原水濁度や水温、原水pH、攪拌池での攪拌強度、沈殿池の状態などが考えられる。そこで、これらの状態に応じて適切に凝集剤を注入し、適切な攪拌強度を保つ必要がある。
【0020】
浄水プラント10は、図2で拡大表示するように、河川などの複数の取水源(A系〜D系)から原水を取水し、着水井11、活性炭接触池12、混和池13、フロック形成池14、沈殿池15などによって浄水処理を行う。
【0021】
着水井11は、取水した原水を貯留する。活性炭接触池12は、活性炭との接触により、原水に着色した色や臭いなどを除去する。混和池13は、原水に対し図示しない凝集剤注入装置によって凝集剤を注入し、攪拌機(フラッシュミキサ)13mにより急速攪拌する。フロック形成池14は、凝集剤を注入され、混和された被処理水を、攪拌機14mにより比較的低速で攪拌し、フロックを形成させる。沈殿池15は、フロックを形成した被処理水から、フロックを沈殿させ、上澄水を処理水として排出する。
【0022】
着水井11への取水配管、及び混和池13への流入配管にはそれぞれ流量計16,17が設けられている。流量計17は、混和池13への原水流入流量測定手段となる。また、混和池13の前段、例えば、活性炭接触池12には、原水の水質測定手段として、原水濁度計18、原水水温計19がそれぞれ設けられる。さらに、沈殿池15の出口には処理水の濁度を測定する濁度計20が設けられる。
【0023】
このような浄水プラント10に対し、その凝集処理プロセスを制御するためのプロセスコントローラ21が設けられている。このプロセスコントローラ21は、制御対象のプラント10のプロセスを、プラント10側から入力される各種の状態信号や状態量(測定値)に基づき、予め設定した制御目標値を満足すべく制御する。例えば、図2で示すように、プロセスコントローラ21には、浄水プラント10の活性炭接触池12に設けられた原水濁度計18、及び原水水温計19の測定値が入力され、これらの測定値(原水濁度、及び原水水温)に対応した凝集剤の注入率が、操作員のノウハウなどに基づくパラメータの設定などにより決定され、設定手段21aにより制御目標値として設定される。そして、設定された注入率と浄水プラント10に設けられた流量計17側から入力される混和知流入流量とにより凝集剤注入量が制御量として求められ、凝集剤注入設備41に出力される。凝集剤注入設備41は、この求められた注入量に従って混和知13へ凝集剤を注入する。
【0024】
プロセス制御装置30は、プロセスコントローラ21からの情報を取り込み、制御ノウハウに相当する制御ロジックを作成し、かつ評価してプロセスコントローラ21適用させる機能を有するものであり、データ保存部32、制御ロジック作成装置31、シミュレータ35を有する。
【0025】
データ保存部32は、プロセスを制御するための、プラント10側から入力される各種の状態信号や測定値、プロセスへの制御目標値、及び制御量を含むプロセスデータを蓄積する。図2で示した凝集処理プロセスを例にとって説明すると、プロセスコントローラ21に対して浄水プラント10側から入力される水温、濁度、混和池流入流量などの測定値や、その他の各種状態信号、制御目標値としてプロセスコントローラ21で決定される凝集剤の注入率、制御目標値に対する制御量である凝集剤の注入量、制御結果としての沈殿池出口濁度などを含むプロセスデータを蓄積する。
【0026】
制御ロジック作成装置31は、このデータ保存部32に蓄積されたプロセスデータから、プロセスの状態量、この状態量に対応する制御目標値、この制御目標値を満足する制御量及び制御結果に関するデータを用い、これらデータ相互の関係から制御ノウハウに相当する好適な制御ロジックを作成する。図2の例で単純化して説明すると、プロセスコントローラ21に設定される凝集剤の注入率(制御目標値)は、浄水プラント10側から入力される水温、濁度等の値(プロセスの状態量)に応じて、操作員がこれまでの経験などに基づくノウハウにより各種パラメータを設定して決定していた。データ保存部32には、プロセスの状態量である水温、濁度、これら状態量に応じて決定された制御目標値としての凝集剤の注入率、この決定された制御目標値に基づく制御量としての凝集剤の注入量、制御結果である沈殿池出口濁度が、それぞれ所定期間分蓄積されているので、制御ロジック作成装置31は、前述のように、これらプロセスの状態量、この状態量に対応した制御目標値、この制御目標値を満足する制御量及び制御結果に関するデータを用い、これらデータ相互の関係から制御ノウハウに相当する好適な制御ロジックを作成する。
【0027】
この制御ロジックの作成については、本件出願人が特願2008-145178で出願した手法により実施する。この手法について、以下概要を説明する。
【0028】
制御ロジック作成装置31は、図示しないが対象プロセス絞り込み手段を有し、データ保存部32から読み出した過去のプロセスデータが、上下水道施設を構成する処理プロセスのどのプロセスに相当するかを判別する。その判別結果は、判別した対象プロセスに対応するプロセス区別信号として図示しないデータ相関解析手段へ送る。
【0029】
対象プロセス絞込み手段において、上下水道施設を構成する処理プロセスのどのプロセスかを判別するには特定の数値解析手法を利用する。すなわち、対象プロセス絞込み手段は、上下水道施設を構成する処理プロセスのどのプロセスかを、自己組織化マップ法や、サポートベクトルマシン法(SVM)という手法を用いて判別するものとする。
【0030】
ここではSVMについて説明する。SVMにより知識を抽出する際は、データ間における変動またはそれにかかわる制御目標値設定、操作に関わるノウハウまたは知識をデータの範囲ごとにプロセスデータをグルーピングまたは分類する。
【0031】
SVM法は以下の手順に従う。
【0032】
学習データ集合(x1、y1)、(x2、y2)…、(xm、ym)
内積カーネル H(x、x’)=[(x・x’)+1]q
正則化パラメータCがあるとするとき、次の制約条件のもとで、
Σyi・αi=0、0≦αi≦C(制約条件)
Max Σαi−1/2ΣαiαjyiyjH(xi、xj)とするα1、…、αmを2次計画法で求める。
【0033】
学習データとして、たとえば(xm、ym)=(濁度、凝集剤注入率)などとして、2次計画問題を解くと、原水pHや水温によって注入すべき濁度と凝集剤注入率(薬剤注入率)との関係が図3に示すように2つの群に分類される。図3は、横軸に薬剤注入率(相対値)をとり、縦軸に濁度(相対値)をとって、薬剤注入率と濁度との相関を調べた結果を示す特性図である。図から明らかなように、これらのデータ群は大きく分けて2つのグループに分かれる。すなわち、第1のグループは特性線Aの近傍に分布する白丸プロットのデータ群であり、第2のグループは特性線Bの近傍に分布する黒丸プロットのデータ群である。対象プロセス絞込み手段は、データ保存部から入る対象プロセスデータが上記2つの特性線A、Bのうちのいずれに属するかを判別して、その結果を信号化してをデータ相関解析手段へ送る。
【0034】
データ相関解析手段は、データ保存部32に保存されている過去のデータ信号、今回直接得たデータ信号、プロセス区別信号とに基づきデータ間の相関関係を解析し、相関関係解析信号を図示しない知識抽出手段へ送る。
【0035】
知識抽出手段は、上述した去のデータ信号、今回直接得たデータ信号、プロセス区別信号と相関関係解析信号とに基づき、データ間における変動またはそれにかかわる制御目標値を設定し、操作に関わるノウハウまたは知識をデータの範囲ごとにプロセスデータをグルーピングまたは分類することにより制御ロジックとして抽出する。
【0036】
抽出した知識信号はプロセスコントローラ21において、各機器の制御量を求め、それらに対応する制御信号出力させるためのものである。これらの制御信号は、凝集剤の投入においては、凝集剤(PACもしくは硫酸バンド)注入率を含むものである。
【0037】
制御ロジック作成装置31は、作成された制御ロジックが、実際のプロセスコントローラに適用できることを、シミュレータ35により確認した後、プロセスコントローラ21に提供する。
【0038】
シミュレータ35は、制御ロジック作成装置31により作成された制御ロジックを、データ保存部に蓄積された過去のプロセスデータを用いてシュミレーションするものであり、プロセスコントローラを模擬する制御シミュレーション機能33と、制御対象プロセスを模擬するプロセスシミュレーション機能34とを有する。
【0039】
ここで、制御シミュレーション機能33は、上述のように、図2に示すような水温と濁度を入力として注入率を演算するようなプロセスコントローラの動作を模擬的に計算する。また、プロセスシミュレーション機能は制御対象の挙動を模擬計算する。
【0040】
例えば、制御対象が混和池プロセスの挙動であれば、注入された凝集剤と水中の浮遊物との反応を模擬計算する。この反応の模擬計算は、式(1)で示される。
【数1】

ここで
ρ:水の密度(例えば、1.0×103kg/m3、20℃)
C:攪拌翼の抵抗係数(=1.5)
α:攪拌翼iの運動方向に直角な面積(m2
ν:攪拌翼iの平均速度(m/s)
μ:水の粘性係数(例えば、1.0×10-3kg/m・s、20℃)
V:混和池の容量(m3
である。
【0041】
この模擬計算により、攪拌機であるフラッシュミキサ13mの回転数(G)の理論値が得られる。
【0042】
一方、制御対象が撹拌により濁質をフロック化するフロック形成池14の場合、この反応の模擬計算は式(2)、(3)で示される。
【数2】

ここで、
N:単位時間単位体積あたりのフロックの衝突回数(1/m3・s)
n′:単位体積中の直径d′のフロック数(1/m3
n″:単位体積中の直径d″のフロック数(1/m3
P:単位時間単位体積あたりの仕事量(攪拌強度でもある)
μ:水の粘性係数(例えば、1.0×10-3kg/m・s、20℃)
G:速度勾配(1/s)(水温により変動)
である。
【0043】
上記式(2)から、フロックの衝突結合の回数、すなわちフロック形成速度Nは、次の関係にある。
a.フロック粒子数(n′n″)に比例する
b.フロック粒子径(d′d″)の3乗に比例する
c.G値に比例する
攪拌機であるプロペラの回転数(G)の理論値が得られる。
【0044】
このようにシミュレータ35は、実際のプロセス混和池又はフロック形成池とプロセスコントローラ21の挙動を、全て制御シミュレーション機能33とプロセスシミュレーション機能34で模擬することができる。この作用を用いて制御ロジック作成装置31により自動的に獲得された制御ロジックの動作が適切であることを、前述のように、データ保存部32に蓄えられた過去のプロセスデータを用いて検証することで、対象プロセスを適切に制御することが可能になる。
【0045】
次に、図4で示す実施の形態を説明する浄水プラントは、この実施の形態では、図1及び図2で示した浄水プラント10の沈殿池15に対して塩素注入制御を追加したものである。したがって、この浄水プラント10を監視制御する監視制御システム22内には、図示しないが、凝集剤制御用のプロセスコントローラの他に塩素注入制御用のプロセスコントローラを持っている。すなわち、浄水システム10は、図2で示したように、着水井11、活性炭接触池12、混和池13、フロック形成池14、沈殿池15など複数のプロセスから構成されており、多数の機器が、図4で示すように、監視制御システム22によって制御されている。
【0046】
この監視制御システム22では、上述のように、混和池13に対する凝集剤注入制御や、沈殿池15に対する塩素注入制御を行う個々のプロセスコントローラによる制御を包含して浄水プラント10全体を制御している。
【0047】
プロセス制御装置30においては、制御ロジック作成装置31は、監視制御システム22の情報を蓄えたデータ保存部32のデータを用いて、例えばサポートベクターマシン(SVM)や強化学習、ニューラルネットワークモデルといった技術を適用して、制御ロジックを自動的に獲得している。
【0048】
また、この制御ロジック作成装置31は、自動的に獲得された制御ロジックが制御監視システム22に適用できることを、制御シミュレーション機能33とプロセスシミュレーション機能34を有するシミュレータ35により確認させる。すなわち、複数個のプロセスを有する対象プラントに対応するように、プロセスコントローラを複数個作用させる、対象プラント10全体の制御ロジックをシミュレーションする。その結果、自動抽出されたプラント全体の制御ロジックが検証され、監視制御システム22に適用されて、この制御ロジックによる制御を行うことが可能となる。
【0049】
このように、監視制御システム22は、制御対象プラント10の複数のプロセスを、プロセス毎に制御するプロセスコントローラを複数備えており、データ保存部32は、監視制御システム22から、プラント10の全体プロセスを制御するためのプロセスデータを入手し、蓄積する。制御ロジック作成装置31は、データ保存部32に蓄積されたプロセスデータを用い、これらデータ相互の関係から複数のプロセスから成るプラント全体を制御する制御ロジックを作成する。作成された制御ロジックは、シミュレータ35によりシミュレートする。このシミュレータ35により検証された制御ロジックが監視制御システム22の対応するプロセスコントローラの制御ロジックとして適用される。
【0050】
次に、図5の実施の形態を説明する。ここではオンラインで稼動しているプロセスコントローラ21の状態値をシミュレータ35に入力している。すなわち、オンラインで制御シミュレーション機能33とプロセスシミュレーション機能34を用いて、対象とする制御ロジックのシミュレーションとプロセスのシミュレーションを自動的に実施する。そして、その結果を制御目標値と比較して評価することで、現在オンライン上で起きている状態の変化に対して適切に制御することが可能になる。
【0051】
すなわち、オンラインシステム上でオンラインデータをシミュレータに入力することにより、このシミュレータを用いて今後のプロセスの状態変動とその状態変動に対する制御を自動的に計算することができ、将来の変化に対する適切な制御を確認できる。
【0052】
次に、図6の実施の形態を説明する。この実施の形態では、制御ロジック作成装置31は制御ロジックを複数作成し、シミュレータ35は作成された複数の制御ロジックをそれぞれ検証する。そして、新たに設けた制御ロジック選択手段40により、このシミュレータ35検証結果から最適な制御ロジックを選択して、プロセスコントローラ21に適用させるように構成している。
【0053】
すなわち、制御ロジック作成装置31では、プロセスコントローラ21のプロセスデータを蓄えたデータ保存部32のデータを用いて、前述したSVM法、或いは、他の例えば強化学習法やニューラルネットワークモデル等を適用して、自動的に複数の制御ロジックを獲得する。ここで、それぞれの手法で作成された制御ロジックをそれぞれ制御[A]、制御[B]、制御[C]とする。シミュレータ35では、制御[A]、制御[B]、制御[C]による制御ロジックをシミュレーションして、各々の制御結果を出力する。制御ロジック選択手段40は、制御[A]、制御[B]、制御[C]の制御結果から最もよい制御ロジックを選択する。例えば、一日の凝集剤注入量の総和を評価値として、その評価値が最小となる制御結果を抽出する方法で選択する。そして、この制御ロジック選択手段40で選択された最もよい制御ロジックをプロセスコントローラ21に与えて、凝集剤注入量を制御する。これにより図6のプロセス制御装置30は、複数個の制御ロジックの中から最適な制御を実施することを可能になる。
【0054】
このように、複数個自動抽出したプロセス制御ロジックを評価して、最も適切な制御ロジックを自動的に選択することができる。
【0055】
次に、図7の実施の形態を説明する。この実施の形態では、図2で示した実施の形態でのプロセスコントローラ21に対する入力である濁度、水温に対して、pH(酸性、アルカリ性の判定指数)を加えて、図2とは異なる制御方法で凝集剤注入量を制御している。このように現状とは異なる制御方法も、データ保存部32に蓄えられたプロセスデータを用いて、制御ロジック作成装置31により自動的に制御ロジックを獲得し、シミュレータ35により動作を確認することができる。
【0056】
すなわち、現在の制御方法とは異なる入出力を組み合わせた新しい制御ロジックを自動的に生成し、自動的に検証するプロセス制御を可能にする。
【0057】
次に、図8の実施の形態を説明する。この実施の形態では、プロセス制御装置30のデータ保存部32は、遠隔地に設けられたプラント110の監視制御システム122に設けられた図示しないプロセスコントローラから、通信機能50によりプロセスデータを入手して蓄積している。また、制御ロジック作成装置31で作成された制御ロジックは、シミュレータ35により検証された後、通信機能50 により、遠隔地の監視制御システム122に設けられたプロセスコントローラ21へ提供される。
【0058】
すなわち、この実施の形態では、浄水プラント110に対して通信機能50を有する監視制御システム122が設置され、浄水プラント110の複数のプロセスの多数の機器が制御されている。一方、プロセス制御装置30は、遠隔地に設置され浄水プラント110に対して中央側などに設けられており、公衆電話回線や専用電話回線、あるいはインターネットといった通信機能50を介して浄水プラント110の制御監視情報を入手し、データ保存部32に蓄えている。制御ロジック作成装置31は、この蓄積されたデータを用いて自動的に制御ロジックを獲得し、さらにシミュレータ35により動作を確認する。動作を確認された制御ロジックは、再び通信機能50を介して監視制御システム122に提供され、その制御ロジックでプロセスを制御することができる。これにより遠隔にある浄水プラント110に対して、その地にプロセス制御装置30を設置することなく、中央側のプロセス制御装置30にて、遠隔地のデータを用いて、自動的に制御ロジックを作成することができる。
【0059】
次に、図9の実施の形態を説明する。この実施の形態では、プロセス制御装置30のデータ保存部32は、遠隔地に設けられた複数のプラント110X,110Y,110Zの監視制御システム122X,122Y,122Zに設けられた各プロセスコントローラから通信機能50によりプロセスデータを入手してプラント毎に蓄積する。制御ロジック作成装置31はプラント毎に制御ロジックを作成し、シミュレータ35により検証された制御ロジックは、通信機能50により対応するプラント110X,110Y,110Zの監視制御システム122X,122Y,122Zに設けられたプロセスコントローラへ提供される。
【0060】
すなわち、この実施の形態では、遠隔地にある浄水プラント110Xや、別の遠隔にある浄水プラント110Yや、また別の遠隔にある浄水プラント110Zに対しても、各々の遠隔地にプロセス制御装置30を設置することなく、一つの中央側のプロセス制御装置30のデータ保存部32に各々のデータ、すなわち浄水プラント110Xのデータ、浄水プラント110Yのデータ、浄水プラント110Zのデータを蓄えることのみで、これらの遠隔地のデータを用いて、自動的に制御ロジックを作成することができる。
【符号の説明】
【0061】
10,110…制御対象のプラント
21…プロセスコントローラ
22、122…監視制御システム
31…制御ロジック作成装置
32…データ保存部
33…制御シミュレーション機能
34…プロセスシミュレーション機能
35…シミュレータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御対象のプラントのプロセスを、前記プラント側から入力される各種の状態信号や状態量に基づき、予め設定した制御目標値を満足すべく制御するプロセスコントローラと、
前記プロセスを制御するための、前記プラント側で生じる各種の状態信号や状態量、前記プロセスへの制御目標値、及び制御量を含むプロセスデータを蓄積するデータ保存部と、
このデータ保存部に蓄積されたプロセスデータから、前記プロセスの状態量に応じて制御目標値を満足する制御量及び制御結果に関するデータを用い、これらデータ相互の関係から制御ノウハウに相当する好適な制御ロジックを作成する制御ロジック作成装置と、
前記プロセスコントローラを模擬する制御シミュレーション機能、及び制御対象プロセスを模擬するプロセスシミュレーション機能を有し、前記作成された制御ロジックをシミュレートするシミュレータとを備え、
このシミュレータにより検証された制御ロジックが前記プロセスコントローラの制御ロジックとして適用される
ことを特徴とするプロセス制御システム。
【請求項2】
制御対象のプラントの複数のプロセスを、前記プラント側から入力される各種の状態信号や状態量に基づき、予め設定した制御目標値を満足すべく前記プロセス毎に制御するプロセスコントローラを備えた監視制御システムと、
前記プロセスを制御するための、前記プラント側から入力される各種の状態信号や状態量、前記プロセスへの制御目標値、及び制御量を含むプロセスデータを蓄積するデータ保存部と、
このデータ保存部に蓄積されたプロセスデータから、前記プロセスの状態量に応じて前記制御目標値を満足する制御量及び制御結果に関するデータを用い、これらデータ相互の関係から前記複数のプロセスから成るプラント全体を制御する制御ノウハウに相当する好適な制御ロジックを作成する制御ロジック作成装置と、
前記プロセスコントローラを模擬する制御シミュレーション機能、及び制御対象プロセスを模擬するプロセスシミュレーション機能を有し、前記作成された制御ロジックをシミュレートするシミュレータとを備え、
このシミュレータにより検証された制御ロジックが前記監視制御システムの対応するプロセスコントローラの制御ロジックとして適用される
ことを特徴とするプロセス制御システム。
【請求項3】
前記シミュレータは、前記プロセスコントローラから、現状のプロセス値がオンラインで設定され、前記制御ロジックを検証することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のプロセス制御システム。
【請求項4】
前記制御ロジック作成装置は制御ロジックを複数作成し、シミュレータは作成された複数の制御ロジックをそれぞれ検証しており、
このシミュレータの検証結果から最適な制御ロジックを選択して前記プロセスコントローラに適用させる制御ロジック選択手段をさらに有することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【請求項5】
前記データ保存部は、遠隔地に設けられたプラントのプロセスコントローラから通信機能によりプロセスデータを入手して蓄積し、前記シミュレータにより検証された制御ロジックは、通信機能によりプロセスコントローラへ提供されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のプロセス制御システム。
【請求項6】
前記データ保存部は、遠隔地に設けられた複数のプラントの各プロセスコントローラから通信機能によりプロセスデータを入手してプラント毎に蓄積し、前記制御ロジック作成装置はプラント毎に制御ロジックを作成し、前記シミュレータにより検証された制御ロジックは、通信機能により対応するプラントのプロセスコントローラへ提供されることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のプロセス制御システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−197714(P2011−197714A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60375(P2010−60375)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】