説明

プロテアーゼ酵素活性に対するアッセイ

プロテアーゼ酵素、例えばβ-セクレターゼ及びカスパーゼ酵素の活性を検出するための生物学的複合体、キット及びアッセイが記載される。生物学的複合体は、酵素を認識してこれと相互作用する(例えば酵素によって切断される)ことができるセグメント、テザー上の第1位置に複合された、複数の蛍光種を含む蛍光体、及びテザー上の第2位置に複合されたクエンチャーを含む。プロテアーゼ酵素(例えばβ-セクレターゼ及びカスパーゼ)を認識してこれと相互作用することができるセグメントは、テザー上の第1位置と第2位置との間に配置されている。複数の蛍光種が互いに会合されることにより、クエンチャーが、蛍光体を増幅型スーパークエンチングできるようになっている。このアッセイは、プロテアーゼ酵素、例えばβ-セクレターゼの活性を阻害する効率に関して潜在的薬物を、潜在的薬物が評価されるハイスループット・フォーマットにおいて、スクリーニングするのに適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2002年8月23日付けで出願された係属中の米国特許出願第10/226,300号明細書に関し、この明細書全体を引用により本明細書中に組み入れる。
【0002】
本発明は全体的に見て、分子相互作用を検出するためのアッセイに関する。具体的には、本出願は、プロテアーゼ酵素(例えばβ-セクレターゼ及びカスパーゼ酵素)の活性を検出するために使用することができる生物学的複合体、これらの生物学的複合体を含むキット、及び酵素活性を検出するためにこれらの生物学的複合体を使用することを伴うアッセイに関する。
【背景技術】
【0003】
プロテアーゼ酵素は細胞生物学において重要な役割を果たし、新しい医薬品のための優先標的となってきている。タンパク質分解酵素活性を測定することへの関心及びその重要性が、研究、創薬及び薬の開発において急速に高まっている。アポトーシスは、発育中、正常組織のターンオーバー中の細胞死に関与する顕著なプロセスであり、また、細胞毒性化合物、低酸素状態、又はウィルス感染に対する暴露に続いて生じる多くの細胞死の原因となる。多くの癌治療薬は、アポトーシスを開始させることによってそれらの効果を発揮する。発癌プロセスでさえ、突然変異原性DNA損傷の生存を可能にするアポトーシスの選択的な重大な欠陥に依存するように見えることがある。アポトーシスは慢性変性プロセス、例えばパーキンソン病及び心不全に関与するのではないかと考えられる。いくつかのカスパーゼ酵素は、アポトーシスの極めて初期の段階を媒介すると考えられる。カスパーゼ酵素はおそらく、アポトーシス細胞死を招く生化学事象をトリガーするための最も重要なエフェクター分子であるので、カスパーゼ活性を見極めるアッセイは、一般に用いられるその他の多くの方法よりも早くアポトーシスを検出することができる。
【0004】
アルツハイマー病は、不溶性アミロイド斑の細胞外沈積を特徴とし、これらのアミロイド斑は4 kDアミロイドβ-ペプチド(Aβ)から成っている。Glenner他、Biochem. Biophys. Res. Commun. 1984, 120, 第885-890頁。Aβは、AβのそれぞれN末端及びC末端を形成するためのβセクレターゼ及びγセクレターゼによる、アミロイド前駆体タンパク質(APP)のタンパク質分解から生じる。Kang他、Nature 1987, 325, 733-736。酵素βセクレターゼは、神経細胞が斑を形成するのに必須であることが示されている。Vassar他、Science 1999, 286, 735-741。
【0005】
アルツハイマー病に対する最近の治療アプローチは、β-セクレターゼ酵素の触媒部位をブロックしてその機能を妨げる薬物を発見することに関与する。このように、この疾患に効果がある新しい薬物を発見するのを容易にするための、ハイスループット・スクリーニングと適合可能な高速で高感度のアッセイ・プラットフォームを開発することが極めて重要である。
【0006】
従って、プロテアーゼ酵素、例えばβ-セクレターゼ及びカスパーゼ酵素の活性を高感度で、迅速且つ正確に検出して定量化することが必要である。
【0007】
要約
本発明の第1の観点によれば、β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができるセグメントを含むテザー;テザー上の第1位置に複合された、複数の蛍光種を含む蛍光体;及び、テザー上の第2位置に複合されたクエンチャー、を含む生物学的複合体が提供される。本発明のこの観点によれば、β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができるセグメントは、テザー上の第1位置と第2位置との間に配置されている。複数の蛍光種は互いに会合されることにより、クエンチャーが、蛍光体を増幅型スーパークエンチングできるようになっている。β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができるセグメントは、ペプチド配列:SEVNLDAEF(配列番号1)を含むことができる。
【0008】
本発明の第2の観点によれば、試料を、上記生物学的複合体と一緒にインキュベートし;そしてインキュベート済試料の蛍光を測定することを含む、試料中のβ-セクレターゼ活性をアッセイする方法が提供される。インキュベート済試料の測定された蛍光は、試料中のβ-セクレターゼ活性の存在及び/又は量を示す。この方法はさらに:対照の蛍光を測定し、そして対照の蛍光とインキュベート済試料の蛍光とを比較することを含み、対照とインキュベート済試料との蛍光の差が、試料中のβ-セクレターゼの存在及び/又は量を示す。試料はβ-セクレターゼ及び試料化合物を含むことができ、そして方法は、β-セクレターゼ活性を阻害する試験化合物の能力に対するアッセイであってよい。蛍光体は固形支持体を含むことができ、固形支持体には複数の蛍光種が会合される。
【0009】
本発明の第3の観点によれば、試料のβ-セクレターゼ活性をアッセイする方法であって:試料を、テザーの第1位置及び第2位置にそれぞれ複合されたクエンチャー及びリガンドを含む生物学的複合体と一緒にインキュベートし、テザーは、β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができる、第1位置と第2位置との間のセグメントを含み;インキュベート済試料に、複数の蛍光種と会合された固形支持体を含む蛍光体を加えることにより、試料混合物を形成し、固形支持体は生物学的複合体のリガンドに結合可能な部分を含むことにより、生物学的複合体が固形支持体に結合することができ、生物学的複合体と固形支持体との結合により、蛍光体を増幅型スーパークエンチングできるようになっており;生物学的複合体上のリガンドを、固形支持体に結合させておき;そして続いて、試料混合物の蛍光を測定する、ことを含む方法が提供される。試料混合物の蛍光量は、試料中のβ-セクレターゼ活性の存在及び/又は量を示す。リガンドは、ビオチン部分であってよく、固形支持体上の部分は、アビジン、ニュートラアビジン又はストレプトアビジン部分であってよい。この方法はさらに:蛍光体を、生物学的複合体を含有するがしかし酵素と一緒にインキュベートされていない第2の試料に加えることにより、対照を形成し;対照の蛍光を測定し;そして対照の蛍光と、試料混合物の蛍光とを比較する、ことを含むことができ、対照と試料混合物との蛍光の差は、試料中のβ-セクレターゼの存在及び/又は量を示す。試料はβ-セクレターゼ及び試験化合物を含むことができ、そしてこの方法はさらに:試験化合物を含有しない第2の試料を、生物学的複合体と一緒にインキュベートし;蛍光体を、インキュベート済の第2の試料に加えることにより、対照を形成し;対照の蛍光を測定し;そして対照の蛍光と、試料混合物の蛍光とを比較する、ことを含むことができ、対照と試料混合物との蛍光の差が、試料中のβ-セクレターゼ活性を阻害する試験化合物の能力を示す。
【0010】
本発明の第4の観点によれば、固形支持体と会合された複数の蛍光種を含む蛍光体;並びにテザーの第1位置と第2位置にそれぞれ複合されたクエンチャー及びリガンドを含む生物学的複合体を含むキットが提供され、テザーは、β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができる、第1位置と第2位置との間のセグメントを含む。固形支持体は、生物学的複合体上のリガンドに結合することができる部分を含み、そして複数の蛍光種が互いに会合されることにより、生物学的複合体のリガンドが固形支持体に結合されると、クエンチャーが、蛍光体を増幅型スーパークエンチングできるようになっている。リガンドはビオチン部分であってよく、リガンドに結合することができる部分は、アビジン、ニュートラアビジン及びストレプトアビジンから成る群から選択することができる。β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができるセグメントは、ペプチド配列:SEVNLDAEF(配列番号1)であってよい。
【0011】
本発明の第5の観点によれば、β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができるセグメントを含むテザー;会合する複数の蛍光種を含む蛍光体の蛍光をクエンチングすることができる、テザー上の第1位置に複合されたクエンチャー;及び、クエンチャー上の第2位置に複合されたビオチン分子を含む生物学的複合体であって、標的生体分子を認識してこれと相互作用することができるセグメントが、テザー上の第1位置と第2位置との間に配置されており、そして、複数の蛍光種が互いに会合されることにより、クエンチャーが、蛍光体を増幅型クエンチングすることができるようになっている、生物学的複合体が提供される。β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができるセグメントは、ペプチド配列:SEVNLDAEF(配列番号1)を含むことができる。
【0012】
本発明の第6の観点によれば、試料中の標的酵素活性をアッセイする方法であって:標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含むテザーに複合されたクエンチャーを含む生物学的複合体と一緒に、試料をインキュベートし;インキュベート済試料に蛍光体を加えることにより、試料混合物を形成し、蛍光体は、互いに会合された複数の蛍光種を含むことにより、蛍光体とクエンチャーとが会合する結果、蛍光体が増幅型スーパークエンチングするるようになっており;そして、標的酵素にテザーを切断させ、テザーの切断の結果、生物学的複合体よりも蛍光体と会合する傾向が大きいクエンチャー含有断片が生じ;そして続いて試料混合物の蛍光を測定することを含む、方法が提供される。試料混合物の蛍光量が、試料中の標的酵素活性の存在及び/又は量を示す。クエンチャーと蛍光体との会合は、クーロン引力、水素結合力、ファン・デル・ワールス力、又は共有結合形成の結果であり得る。例えば、蛍光体及び生物学的複合体はそれぞれ全体で負電荷を有し、そしてクエンチャー含有断片は正味の正電荷を有することができる。蛍光体はアニオン性複合ポリマーであってよく、そしてクエンチャーはカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーであってよい。1実施態様によれば、生物学的複合体は、下記式:
D-E-V-D-QSY7'(配列番号7)
によって表される。
【0013】
別の実施態様によれば、蛍光体は、ドナー・シアニン色素の凝集体を含むバーチャル・ポリマーであり、クエンチャーは、アクセプター・シアニン色素であり、そしてアクセプター・シアニン色素は、テザーに複合されると、ドナー・シアニン色素と凝集体を形成することができない。生物学的複合体がドナー・シアニン色素と凝集体を形成することができないことは、荷電効果又は立体効果の結果であり得る。アクセプター・シアニン色素は、蛍光分子又は非蛍光分子であってよい。アクセプター・シアニン色素が蛍光分子である場合、アクセプターの蛍光を測定することができる。或いは、ドナーの蛍光を測定することもできる。アッセイは細胞内アッセイ又は細胞外アッセイであり得る。
【0014】
本発明の第7の観点によれば、試料中の標的酵素活性をアッセイする方法であって:テザーに複合された蛍光色素を含む生物学的複合体と一緒に、試料をインキュベートし、テザーは、蛍光色素含有断片を生成するために標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含み、そして蛍光色素含有断片は、生物学的複合体とは異なる吸収スペクトルを有する色素凝集体を形成することができ;酵素がテザーを切断するのを許し;そして色素凝集体が生物学的複合体よりも大規模に吸収する波長で試料を励起することにより、試料混合物の蛍光を測定する、ことを含む方法が提供される。試料混合物の蛍光量は、試料中の標的酵素活性の存在及び/又は量を示す。蛍光色素はシアニン分子であってよい。酵素によって生物学的複合体から放出された蛍光色素含有断片は、J-凝集体を形成することができる。標的酵素はカスパーゼ酵素であってよい。例えば、標的酵素はカスパーゼ-3であってよく、生物学的複合体は下記式:
D-E-V-D-シアニン(配列番号8)
によって表される構造を有することができる。
【0015】
本発明の第8の観点によれば、複数の蛍光種を含む蛍光体、及びカスパーゼ酵素によって切断されることが可能なセグメントを含むテザーに複合されたクエンチャーを含む生物学的複合体を含むキットが提供される。本発明のこの実施態様によれば、テザーの切断の結果、生物学的複合体よりも蛍光体と会合する傾向が大きいクエンチャー含有生物学的複合体断片が生じ、そして、蛍光体とクエンチャーとが会合する結果、蛍光体が増幅型スーパークエンチングするようになっている。複数の会合された蛍光種は、固形支持体と会合することができる。標的・カスパーゼ酵素はカスパーゼ-3であってよく、標的酵素によって切断されることが可能なセグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
であってよい。クエンチャー含有生物学的複合体断片は、クーロン引力、水素結合力、ファン・デル・ワールス力、又は共有結合形成を介して、蛍光体と会合することができる。例えば、蛍光体及び生物学的複合体はそれぞれ全体で負電荷を有することができ、そしてクエンチャー含有生物学的複合体断片は、正味の正電荷を有することができる。
【0016】
さらに、蛍光体が、ドナー・シアニン色素の凝集体を含むバーチャル・ポリマーであり、クエンチャーが、アクセプター・シアニン色素であり、そしてアクセプターが、テザーに複合されると、ドナー・シアニン色素と凝集体を形成することができない上記キットも提供される。生物学的複合体がドナーと凝集体を形成することができないことは、荷電効果又は立体効果の結果であり得る。アクセプター・シアニン色素は、蛍光分子又は非蛍光分子であってよい。
【0017】
本発明の第9の観点によれば、カスパーゼ酵素によって切断されることが可能なセグメントを含むテザーと、テザーに複合されたクエンチャーとを含む生物学的複合体が提供される。カスパーゼ酵素はカスパーゼ-3であってよく、カスパーゼ酵素によって切断されることが可能なセグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
であってよい。クエンチャーはカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーであってよい。
【0018】
本発明の第10の観点によれば、テザーに複合された蛍光色素を含む生物学的複合体であって、テザーは、蛍光色素含有断片を生成するために標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含む、生物学的複合体が提供される。蛍光色素含有断片は、生物学的複合体とは異なる吸収スペクトルを有する色素凝集体を形成することができる。標的酵素はカスパーゼ酵素、例えばカスパーゼ-3である。蛍光色素はシアニン色素であってよい。別の実施態様によれば、蛍光色素含有断片は、J-凝集体を形成することができる。標的酵素によって切断されることが可能なセグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
であってよい。
【0019】
実施態様の詳細な説明
バイオセンシングに対するクエンチャー-テザー-リガンド(QTL)アプローチは、電子移動及びエネルギー移動クエンチャーにより、蛍光体、例えば蛍光高分子電解質のスーパークエンチングを利用する。1フォーマットにおいて、蛍光体(例えば蛍光ポリマー)Pは、特異的被分析物の受容体とともに、固形支持体、例えばポリマー・ミクロ球体の表面上に配置される。受容体は、例えば共有結合、又はビオチン-ビオチン結合タンパク質(BBP)の会合によって固形支持(例えばビーズ支持体)に結合することができる。このアッセイは、被分析物と合成QTL複合体との間の受容体を巡る競合に基づいている。ポリマー-受容体集合体の蛍光は、被分析物の結合によっては影響を受けないのに対して、QTLが結合されるとクエンチングされる。小分子及び小タンパク質に対する定量アッセイが、この技術を用いて実証されている。Chen他、Proc. Nat. Acad. Sci. 1999, 96, 12287-12292。
【0020】
2002年8月23日付けで出願された米国特許出願第10/226,300号明細書に開示された、プロテアーゼ酵素のためのセンサーは、蛍光体(例えば蛍光ポリマー)Pと、クエンチャーQとを連結する反応性テザーを含む。QTLのこの改変形は「QTP」と呼ばれ、QTP集合体は、標的酵素によって認識されて切断されるペプチドテザーを介して蛍光体Pに結合されたクエンチャーQを含む反応性分子センサーである。QTP分子と酵素、又はその他の標的分子との特異的会合又は反応が存在しない場合、Pの蛍光は、Qが相対的に近接することにより、減衰されるか、又は完全にクエンチングされる。テザーTが標的によって認識されて切断されると、Q成分とP成分とが分離されるので、P成分の蛍光がオンにされる。Tの酵素誘発型切断は触媒的なので、検出事象の増幅が発生し、ひいては、極めて低いレベルの酵素の検出を可能にする。
【0021】
異なるフォーマットの場合、QTB分子が使用され、ここで、「B」はビオチン基を意味する。付加されたビオチンは、センサー内のポリマーと同じ位置に配置されたビオチン結合タンパク質(BBP)に結合し、そしてクエンチャーによるポリマーの効率的なクエンチングを容易にする。ペプチドが標的酵素によって切断されると、クエンチャーとビオチン基とが互いに分離され、ひいては、ポリマー蛍光のクエンチングが生じない。
【0022】
図1には、プロテアーゼ・アッセイを行うための2つの一般スキームを示す。矢印17及び34によって表される、図1に示された第1スキームにおいて、クエンチャー(16)、ビオチン部分(12)、及びクエンチャー(16)とビオチン部分(12)とを連結するテザー(11)を含む生物学的複合体(10)を、プロテアーゼ(例えばβ-セクレターゼ)酵素(18)と一緒にインキュベートする(17)。テザーは、β-セクレターゼ(18)によって認識(切断)されることが可能な認識配列(14)を含む。次いで、インキュベートされた生物学的複合体を、ビオチン結合タンパク質(23)を含む蛍光体と接触させる(34)。表面上にストレプトアビジン基(25)を有する、蛍光ポリマーでコーティングしたミクロ球体(26)が、図1に蛍光体(23)として示されている。未切断の生物学的複合体(10)のビオチン部分(12)が、蛍光ポリマーでコーティングしたミクロ球体(26)上のストレプトアビジン部分(25)と反応すると、蛍光体(23)の蛍光が、クエンチングされた生物学的複合体(28)によって示されるようにクエンチングされる。しかし、プロテアーゼ・アッセイの第1スキームに示すように、酵素(18)によるテザーの切断から生じたビオチン含有断片(32)のビオチン部分が、ミクロ球体(26)上のストレプトアビジン部分(25)と反応すると、蛍光体(23)の蛍光はクエンチングされない。従って蛍光を用いて、β-セクレターゼ酵素活性の存在及び/又は量を決定することができる。
【0023】
矢印24及び30によって表される、図1に示されたプロテアーゼ・アッセイの第2のスキームの場合、クエンチャー(16)、ビオチン部分(12)、及びクエンチャー(16)とビオチン部分(12)とを連結するテザー(11)を含む生物学的複合体(10)を、ビオチン結合タンパク質(23)を含む蛍光体と、先ず接触させる(24)。テザー(11)は、β-セクレターゼ酵素(18)によって認識(例えば切断)されることが可能な認識配列(14)を含む。未切断の生物学的複合体(10)のビオチン部分(12)が、蛍光ポリマーでコーティングしたミクロ球体(26)上のストレプトアビジン部分(25)と反応すると、蛍光体(23)の蛍光が、クエンチングされた生物学的複合体(28)によって示されるようにクエンチングされる。次いで、結果としてクエンチングされた生物学的複合体(28)をプロテアーゼ(例えばβ-セクレターゼ)酵素(18)と一緒にインキュベートする(30)。酵素(18)によってテザーが切断される結果、クエンチャー含有断片(22)が、蛍光体含有断片(32)から分離される。その結果として、蛍光体からの蛍光が増大する(すなわち蛍光体のクエンチング量が低減される)。
【0024】
QTBアッセイにおいて採用されるペプチド基質は、これらが標的酵素によって認識されて切断されることが可能な中央のペプチド配列と、QTBとポリマー-受容体集合体との結合を容易にする一方の末端のビオチン官能基と、ポリマーと近接させられるとポリマー蛍光を効率的にクエンチングするクエンチャーとを含むという点で三官能性である。
【0025】
β-セクレターゼ酵素は、下記ペプチド配列:
SEVNLDAEF(配列番号1)
を認識してこれに結合することが証明されている。Cai他、Science 1993, 259, 514-516。結合後、酵素はロイシンとアスパラギン酸との間のペプチド結合を切断する。本発明の1実施態様によれば、β-セクレターゼのQTBペプチド基質は、一方の末端でビオチンによって、また他方の末端でクエンチャーによってフランキングされたこのような配列を含むテザーを含む。
【0026】
β-セクレターゼに対するアッセイにおいて採用することができる例示的なペプチド基質の構造は下記の通りである:
(QSY-7)-TEEISEVNLDAEFK-(Nε-ビオチン)(配列番号2);
(QSY-7)-TEEISEVNLDAEFK-(Nε-PEG-ビオチン)(配列番号3);
(AZO)-TEEISEVNLDAEFK-(Nε-ビオチン)(配列番号4);及び
(AZO)-TKKISEVNLDAEFRK-(Nε-ビオチン)(配列番号5)
(上記式中QSY-7、AZO、ビオチン及びPEG-ビオチンは、下記構造:
【化1】

によって表され、そして「*」は、ポリペプチドテザーとの各部分の結合点を表し、「Nε」は、リシン残基(K)のε-アミノ基を介した、ポリペプチドテザーのリシン基とのビオチン部分の連結を表す)。上記QSY-7及びAZO部分は、トレオニン残基の遊離アミノ基を介して、ポリペプチドテザーに結合されている。
【0027】
従ってβ-セクレターゼがペプチドテザーを切断すると、ビオチンは、結果として生じる断片のうちの一方に残るのに対して、クエンチャーはビオチンから物理的に分離され、そして他方の断片上に残る。従ってクエンチャーは、蛍光体-受容体集合体の結合を助けるためのビオチン部分なしのまま残される。その結果、切断された基質のビオチン含有断片は、集合体の蛍光をクエンチングしないはずである。
【0028】
ビオチンは具体的には、ポリマー-BBP集合体のBBPに結合することにより、ポリマーとクエンチャーとを一緒にさせるためのQTB生物学的複合体に含まれる。ビオチンとBBPとの相互作用は上に開示されているが、ビオチン-BBP相互作用を、蛍光体とクエンチャーとを一体化することができる任意の系と容易に置き換えることができる。例えばこの一体化相互作用は、任意の生物学的な抗原-受容体の組み合わせ、又は金属-リガンド結合事象、又は2つ若しくは3つ以上の反応種間の化学反応であってよい。相互作用の一例としては、水素結合、クーロン引力又は共有結合が挙げられる。
【0029】
クエンチャーQは、励起されたポリマーから輻射エネルギーを吸収して蛍光をクエンチングするように設計されている。クエンチャーの一例としては、下記の種:中性種、正電荷種、負電荷種、両性イオン種、非蛍光種、蛍光性種、有機種、無機種、有機金属種、生物学的種又は高分子種、あるいはエネルギー移動種又は電子移動種が挙げられる。本発明の1実施態様によれば、クエンチャーは非蛍光性小分子色素、例えばQSY-7又はアゾ色素である。1実施態様によれば、クエンチャーは、蛍光体の複数の蛍光種を増幅クエンチング又は増幅スーパークエンチングすることができる。別の実施態様によれば、クエンチャーは、蛍光体から吸収された輻射エネルギーを蛍光として再放出することができる。
【0030】
本発明の1実施態様によれば、生物学的複合体のテザーはペプチド配列:
SEVNLDAEF(配列番号1)
を含む。この配列は、より多くのアミノ酸又はその他の化学物質及び生物学的部分によってどちらかの側でフランキングすることができる。QTBテザーの長さはアッセイにとって重要ではない。本発明の実施態様によれば、QTBがポリマー-受容体集合体に結合されると、クエンチャーはポリマーからほぼ100Å以内にある。このスペースは、QTBテザーが著しく長い場合にも達成することができる。それというのも、これらのテザーは通常、何らかの二次折り畳みコンフォメーションを成して存在しており、このコンフォメーションが、クエンチャーをポリマーに近接させるらしいからである。
【0031】
蛍光体(F)は、複数の蛍光種を含む。1実施態様によれば、蛍光体は、中性、正電荷型又は負電荷型又は両性イオン性であってよい複合ポリマーである。蛍光体(F)は、J-タイプ凝集挙動を示すペンダント蛍光色素を有する非複合主テザーを含む側テザーポリマーであってもよい。蛍光体は、複数の独立した小分子蛍光発色団を含んでもよく、これらの発色団は固体表面上で凝集して「バーチャル」ポリマーを形成する。
【0032】
例示的な蛍光ポリマー(1)及び(2)の構造を下に示す:
【化2】

【0033】
本発明の1実施態様によれば、蛍光ポリマーは、溶液中に、又は固形支持体に固定された状態で、ビオチン結合タンパク質(BBP)と一緒に配置される。1実施態様の場合、上記式(1)に示された正電荷型PPEポリマーを、直径0.6 μmのニュートラアビジン官能化型のアニオン性カルボン酸結合型ラテックス・ミクロ球体上に吸着コーティングする(ポリマー集合体A)。別の実施態様の場合、上記式(2)によって表されたビオチニル化アニオン性PPEポリマーをアビジンに複合することにより、溶液センサー集合体を形成する(ポリマー集合体B)。ポリマーはビオチン-アビジン相互作用を介してアビジンに結合することにより、架橋型超分子集合体を形成する。これらの集合体は、QTB生物学的複合体にとって利用可能な遊離ビオチン結合部位を含む。これらの集合体のクエンチング挙動は、混合物中のポリマー(2)とBBPとの比を変えることにより最適化することができる。
【0034】
本発明の1実施態様の場合、これらのポリマー・フォーマットのそれぞれは、ビオチニル化R-フィコエリトリン(BRPE)を添加することにより改善することができる。結果として生じるフォーマットを、ポリマー集合体C及びDと呼ぶ。BRPEドーパントの存在において、励起されたポリマー発色団はこれらのエネルギーを、すぐ近くのBRPE分子に移動し、これらのBRPE分子は次いで、そのエネルギーをより効率的に再放出することにより、先鋭な、赤方偏移された蛍光シグナルを提供する。次いでQTBが結合すると、BRPEの蛍光はクエンチングされる。
【0035】
本発明の別の実施態様の場合、蛍光ポリマーは、フィコエリトリン又はフィコビリソームを含む生物学的集合体である。エネルギーを捕捉してこれを適度に保護された放出部位に集める〜34個の発色団を含有する高分子集合体から成るこれらのタンパク質は、最も蛍光性が高い既知の物質であり、そしてビオチン結合タンパク質に複合されると、これらのタンパク質はβ-セクレターゼ及びその他のプロテアーゼに対するQTPアッセイにおける優れたセンサーとして役立つ(ポリマー集合E)。例えば、1:1共有結合ストレプトアビジン-B-フィコエリトリン複合体(SAv-BPE)は、配列番号2によって表されるβ-セクレターゼ・ペプチド基質の存在において、蛍光複合体2.5 nM溶液の場合シュテルン-ヴォルマークエンチング定数〜1 x 108 M-1によって示されるように、スーパークエンチングを示す。
【0036】
β-セクレターゼに対するQTPアッセイは、本明細書中で明らかにされる種々のポリマー・フォーマット及びペプチド基質を使用して最適化されている。クエンチャーのスーパークエンチング効率と組み合わせて、ポリマーの光捕捉特性によって検出感度を増幅することにより、QTPアッセイの感度は他の蛍光系アッセイよりも有意に高くなる。
【0037】
センサーの1実施態様の場合、QTBをポリマー-受容体集合と一緒にインキュベートすることにより、QTPユニットを形成する。次いで、酵素含有試料をQTPに暴露することにより、β-セクレターゼに対するアッセイを行い、次いで連続するモニタリング・フォーマットにおいて蛍光を「回収」する。クエンチャーがポリマーと近接している場合には、QTPユニットはほとんど又は全く蛍光を有さない。試料中に存在する酵素の活性に応じて、ペプチド基質の切断が発生し、これによりクエンチング応答が低減し、或いは、事実上試料中の蛍光が増大する。センサーの別の実施態様の場合、QTB部分をβ-セクレターゼ酵素含有試料に暴露し、そして短時間にわたってCRTでインキュベートする。インキュベート後、ポリマー-受容体集合体を試料に添加し、そして最終混合物の蛍光強度を測定する。こうして測定された蛍光を、酵素のない同量のQTBとポリマーとを含有する試料と比較することにより、酵素活性だけに起因する蛍光増大の尺度が得られる。酵素及び基質のインキュベーションは、緩衝溶液(アッセイ緩衝液)中で行われる。緩衝溶液は、QTB基質に対する酵素の最大活性を提供するように最適化されている。ポリマーは通常、緩衝溶液(ポリマー緩衝液)中で形成され、緩衝溶液は、反応混合物への添加時に反応をストップさせるという二重の仕事を行うように、そして、ポリマー-QTB相互作用からの最大クエンチング応答を可能にするように最適化されている。センサーのこの実施態様の場合、QTLアッセイは、1nM未満の濃度の溶液中のβ-セクレターゼ活性を30分で検出することができる。
【0038】
別の実施態様の場合、QTLアッセイは、未知の試料中のβ-セクレターゼ活性の阻害を検出することができる。反応混合物中の任意の阻害物質の不存在において、酵素は存在する反応性テザーの大部分を切断するのに対して、有効阻害物質の存在において、酵素はその活性のほとんどを損失する。QTLアッセイは、このような試料中の「蛍光回収」の低下又は完全な欠乏によって、酵素活性の部分的又は全体的な阻害の証拠を提供する。
【0039】
蛍光体の例は、複数の蛍光反復単位を含むポリマー又はオリゴマー、あるいは複数の蛍光種と会合する固形支持体を含む。固形支持体が使用される場合には、この固形支持体には反応性テザーを介して、1又は複数のクエンチャーをそれぞれ連結することができる。固形支持体の一例としては下記のものが挙げられる:ストレプトアビジンでコーティングされた球体;ポリマー・ミクロ球体;シリカ・ミクロ球体;有機ナノ粒子;無機ナノ粒子;磁気ビーズ;磁気粒子;半導体ナノ粒子;量子ドット;膜;スライド;プレート及び試験管。蛍光体は、複合高分子電解質;ビオチニル化複合高分子電解質;官能化複合オリゴマー;荷電複合ポリマー;無荷電複合ポリマー;複合ポリマー・ブレンド;及び、集成型モノマー又はオリゴマーを含むJ-凝集型ポリマー集成体から成る群から選択することができる。例えば、蛍光体は、シアニン・ペンダント基を有するポリ(L-リシン)ポリマー又はオリゴマーであってよい。蛍光体はバーチャル・ポリマーであってもよい。或いは、蛍光体はオリゴ糖から構成することもできる。
【0040】
蛍光ポリマー又はオリゴマーは、固形支持体との共有結合;固形支持体表面上への吸着によって;又は、蛍光ポリマー又はオリゴマー上のビオチン部分と、固形支持体表面上のアビジン、ニュートラアビジン又はストレプトアビジン部分との間の相互作用によって、固形支持体と会合させることができる。
【0041】
蛍光体は、タンパク質分子を介してテザーに複合することができる。タンパク質分子の例は、アビジン、ニュートラアビジン又はストレプトアビジンを含む。
【0042】
1実施態様の場合、STA-200と呼ばれる、β-セクレターゼのよく知られたスタチン由来ペプチド・インヒビターが、試料を15分間だけインキュベートしたときに、ナノモル濃度範囲のIC50値を提供することが判った。β-セクレターゼのスタチン由来ペプチド・インヒビターの構造を下に示す:
KTEISEVN-(Sta)-VAEF-ON(配列番号6)。
上記式中、「Sta」はスタチン残基を表す。本発明のこの実施態様の場合、アッセイは、マイクロウェル・プレート、例えば96ウェル又は384ウェルプレートのウェル内で行われる。このアッセイは従って、ほとんどの薬物スクリーニング・ラボラトリーにおいて利用可能な常用のマイクロプレート・リーダー内で用いるのに便利である。アッセイはβ-セクレターゼ酵素活性の検出に関してホモジニアスで、感受性を有し、そして高速である。本発明のこの実施態様の場合、β-セクレターゼに対するQTLアッセイは、反応混合物中最大10%の範囲のDMSOの存在を許容する。アッセイは反応混合物中最大10%のメタノール及びアセトニトリルの存在を許容する。アッセイはこうして、ハイスループット・フォーマットで、潜在的薬物をスクリーニングするのに適している。このスクリーニングにおいて、潜在的薬物は、ペプチド基質に対するβ-セクレターゼの活性を阻害する効力に関して評価される。本発明のこの実施態様において、アッセイは高ロバストであり、ほぼ10%のペプチド基質変換率で、0.6よりも高いZ'値を提供する。
【0043】
本発明の別の実施態様によれば、試料中の標的酵素活性をアッセイする方法であって:標的酵素によって認識してこの酵素と相互作用することが可能なセグメントを含むテザーに複合されたクエンチャーを含む生物学的複合体と一緒に、試料をインキュベートし;インキュベート済試料に蛍光体を加えることにより、試料混合物を形成し、蛍光体は、互いに会合された複数の蛍光種を含むことにより、蛍光体とクエンチャーとが会合する結果、蛍光体が増幅型スーパークエンチングするようになっており;そして、標的酵素が生物学的複合体を切断してクエンチャーを放出するのを許し;そして続いて試料混合物の蛍光を測定することを含む方法が提供される。試料混合物の蛍光量は、試料中の標的酵素活性の存在及び/又は量を示す。
【0044】
上記アッセイはクエンチャー-テザー(QT)生物学的複合体を使用する。生物学的複合体は、加えられた蛍光体と相互作用してその蛍光をクエンチングすることができない。標的酵素によって切断されると、クエンチャーは生物学的複合体から放出され、ひいては蛍光体とのその相互作用が、蛍光クエンチング応答を引き起こすのを可能にする。クエンチャーと蛍光体との相互作用は、クーロン引力、水素結合力、ファン・デル・ワールス力、又は共有結合形成の結果であってよい。
【0045】
本発明の1実施態様によれば、蛍光体はアニオン性複合ポリマーであり、クエンチャーはカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーである。この実施態様によれば、クエンチャー-テザー生物学的複合体は、全体で負電荷を有し、ひいては蛍光体と相互作用してこれをクエンチングすることはない。しかし、標的酵素により生物学的複合体が切断されると、カチオン性クエンチャーが放出され、これにより蛍光体をクエンチングすることができる。
【0046】
本発明の別の実施態様の場合、蛍光体はドナー・シアニン色素の凝集体を含む「バーチャル・ポリマー」であり、そしてクエンチャーはアクセプター・シアニン色素である。この実施態様によれば、アクセプターはテザーに複合されると、ドナー・シアニン色素との凝集体に関与することができず、従ってドナー蛍光をクエンチングしない。生物学的複合体がドナーと凝集体を形成することができないことは、荷電効果又は立体効果、又はこれらの組み合わせの結果であってよい。しかしテザーが標的酵素によって切断されると、生物学的複合体の断片を含有するクエンチャーは、ドナー・シアニン色素との凝集体に関与することができ、そして結果としてドナー蛍光体をクエンチングする。アクセプター・シアニン色素は、蛍光又は非蛍光分子であってよい。アクセプター・シアニン自体が蛍光性である場合、ドナー・シアニンとの凝集体にこれが関与する結果、アクセプターから増感された蛍光がもたらされる。従って、続いて生じるドナーの蛍光強度の減少、又はアクセプターのシグナル強度の増加によって、試料の酵素活性をモニタリングすることができる。この実施態様によるアッセイは、細胞内及び細胞外の双方のアッセイ・フォーマットにおいて酵素活性を見極めることができる。
【0047】
本発明の別の観点によれば、細胞内試料又は細胞外試料中の標的酵素活性をアッセイする方法であって:テザーに複合された蛍光色素を含む生物学的複合体と一緒に、試料をインキュベートし、蛍光色素は酵素によって生物学的複合体から切断されると、凝集体、例えばJタイプ凝集体を形成することができ、そしてテザーは酵素を認識してこれと相互作用することができるセグメントを含み;酵素が生物学的複合体を切断するのを許し;そして続いて、色素凝集体は吸収するがしかし色素標識付き生物学的複合体は吸収しない波長で試料を励起することにより、試料混合物の蛍光を測定することを含む、方法が提供される。試料混合物の蛍光量は、試料中の標的酵素活性の存在及び/又は量を示す。
【0048】
本発明のこの実施態様によれば、蛍光色素はシアニン分子であってよく、このシアニン分子は、テザーに複合されるとモノマーとして存在し、そして広域の吸収スペクトル及び発光スペクトルを有する。標的酵素によってテザーが切断されると、蛍光色素含有断片は、生物学的複合体から放出され、そして、弱く結合された凝集体、例えば、吸収及び発光の最大値がモノマーと比較して長い波長及び著しく狭いスペクトルに大きくシフトするJ-凝集体を形成することができる。従って凝集体の吸収最大値で試料を励起することによって、試料からの発光をモニタリングすると、生物学的複合体自体から生じるシグナルは低くなるか又は全くなくなる。生物学的複合体の酵素的切断時に得られる遊離色素分子によって形成された色素凝集体の存在において、試料は、酵素活性のインジケーターである強度を有するシグナルを提供することになる。
【0049】
J-凝集体を形成することができるシアニン色素は、Lu他「Surface Enhanced Superquenching of Cyanine Dyes as J-Aggregates on Laponite Clay Nanoparticles」Langmuir、第18巻、第20号、第7706-7713頁(2002)に開示されている。この参考文献はまた、J-凝集型ドナー・シアニン色素の蛍光をクエンチングすることができるアクセプター・シアニン色素を開示している。J-凝集体ポリマーは、Lu他「Superquenching in Cyanine Pendant Poly(L-lysine)Dyes: Dependence on Molecular Weight, Solvent and Aggregation」J. Am. Chem. Soc., 第124巻、第3号(2002)に開示されている。
試験
β-セクレターゼ活性を見極めるための一般化アッセイ処置
384ウェル・プレートにおいて、適宜の濃度のβ-セクレターゼ・ペプチド基質溶液5 mLと、所与の量のβ-セクレターゼ酵素とを、アッセイ緩衝液中で総容積10mLで混合した。同じプレートにおいて、対照試験も準備した。対照試験において、同量のペプチドをアッセイ緩衝液中に取ったが、しかし、酵素は添加しなかった。これらの試験は、試料及び対照の双方に関して、通常3部のセットで行われた。CRTで所与の時間にわたってインキュベートした後、ポリマー緩衝液中の蛍光ポリマーを試料及び対照のウェルに添加した。ウェルのプレートをプレート・リーダー内部で震盪させ、そして試料の蛍光強度を測定した。試料ウェルと対照ウェルとの間の相対蛍光単位の差は、酵素活性の尺度である。
【0050】
上記例において、ポリマーは下記のうちのいずれかを含むことができる:
A. 複合ポリマー1がコーティングされた、ビオチン結合タンパク質(BBP)官能化型のポリスチレンラテックス・カルボン酸ミクロ球体;
B. BBPとビオチニル化ポリマー2との溶液複合体;
C. ビオチンに複合された少量のフィコエリトリン又は関連蛍光タンパク質でドーピングされたAにおけるようなミクロ球体;
D. ビオチンに複合された少量のフィコエリトリン又は関連蛍光タンパク質でドーピングされたBにおけるような溶液センサー;及び
E. フィコエリトリン又は別の蛍光タンパク質とBBPとの共有結合複合体。
【0051】
上記試験におけるペプチド基質は、上記のうちのいずれかであってよい。これらのペプチドの全ては、β-セクレターゼ酵素によって認識されて切断されるアミノ酸配列を含有する。加えて、基質のそれぞれには、一方の末端にはビオチニル基を、そして他方の末端にはクエンチャー分子を標識付けすることができる。
【0052】
下記実施例は、試料中のβ-セクレターゼの活性を見極め、β-セクレターゼの既知のインヒビターの存在において酵素活性の阻害を実証する、種々のポリマー・フォーマット及び種々のペプチドを使用したQTPアッセイの能力を示し、そして種々の潜在的な干渉物質、例えば生理学的濃度の有機溶剤、着色化合物、蛍光化合物、一般に見いだされるタンパク質、界面活性剤、正荷電及び負荷電イオンの存在において、アッセイのロバスト性を証明する。
【0053】
実施例1
384ウェル・プレートのウェルにおけるアッセイ緩衝液中のBSEC-1の400 nM溶液5 μLに、5 μLのアッセイ緩衝液中のβ-セクレターゼ酵素20 ngを添加した。対照ウェル内で、400 nM BSEC-1溶液5 μLを、酵素なしで5 μLのアッセイ緩衝液だけと混合した。混合物を30分間にわたってCRTでインキュベートした。インキュベーション時間終了時に、1 x 107個のミクロ球体を含有するポリマーAの18.5 μL懸濁液をそれぞれのウェルに添加した。プレートをマイクロプレート・リーダー内部で60秒間にわたって震盪させ、次いで試料を420 nmで励起することにより、530 nmにおける発光を調査した。これらの測定のために、475 nmカットオフ・フィルターを使用した。試料及び対照の測定は3部でそれぞれ行い、そしてこれらの結果を平均して信頼性の高いデータを提供した。対照に関して得られた相対蛍光単位(RFU)は5529±286であるのに対して、試料のRFUは9045±109であった。対照を上回る試料のRFUのゲイン(デルタとも呼ばれる)は、試料中のβ-セクレターゼ活性に対して正比例する。
【0054】
実施例2
アゾ色素クエンチャーを含有するBSEC-2ペプチドを試験において使用すると、増強されたアッセイ性能が見られた。BSEC-3の400 nM溶液5 μLに、β-セクレターゼ(60 ng)の溶液5 μLを添加した。対照ウェルを実施例1と同様にここで準備した。酵素及び対照のウェルを、ポリマー添加前にCRTで10分間だけインキュベートした。それぞれのウェルに添加されたポリマー懸濁液は、20 μL中に1 x 107個のミクロ球体を含有した。試料を440 nmで励起し、そして475 nmカットオフ・フィルターを使用することにより、530 nmにおける試料の蛍光強度を調査した。対照に関して得られたRFUは8111±707であるのに対して、試料のRFUは10996±424であった。
【0055】
実施例3
ポリマー・ミクロ球体試料Aを少量のビオチン-R-フィコエリトリン(ビオチン-R-PE)複合体でドーピングすると、アッセイ性能はさらに改善された。1試験において、BSEC-1、BSEC-3(a,b)(異なる供給元によって合成された同じペプチド基質)及びBSEC-4を全て、同一条件下でβ-セクレターゼ酵素に暴露することにより、アッセイにおけるこれらの効率を比較した。10 μLの容積中に1ウェル当たり100 fmolのビオチン-R-PEでドーピングされた5 x 106個のミクロ球体を提供するように設計された比でポリマーAとビオチン-R-PEとを混合することにより、試験開始直前に、ポリマー試料Cを新鮮な状態で調製した。
【0056】
別個のウェル内のアッセイ緩衝液中の各ペプチド基質の300 nM溶液 5 μLに、アッセイ緩衝液5 μL中のβ-セクレターゼ酵素10 ngを添加することにより、反応を開始した。それぞれの反応は3部で行った。対照は、酵素なしのそれぞれのペプチドに対して4部で行った。試料をCRTで60分間にわたってインキュベートした。インキュベーション時間終了時に、ビオチン-R-PEでドーピングされたポリマーCを各ウェルに添加した。プレートをマイクロプレート・リーダー内部で60秒間にわたって震盪させ、次いで試料を440 nmで励起し、そして475 nmカットオフ・フィルターを使用することにより、576 nmにおける発光を調査した。BSEC-1がもたらしたRFU値は対照に関しては6270±196、そして試料に関しては9645±152であった。BSEC-3aがもたらしたRFUは対照に関しては7656±20、そして試料に関しては15022±743であり、これに対してBSEC-3bがもたらしたRFUは、対照に関しては6054±41、そして試料に関しては12265±913であった。これと比較して、BSEC-4がもたらした値は、対照に関しては9207±364、そして試料に関しては9732±319であった。
【0057】
実施例4
56.5 nmolのアビジン(ビオチン結合タンパク質、BBP)と、848 nmolのビオチニル化PPEポリマー2とを総容積11.3 μLで混合し、そしてCRTで24時間にわたってインキュベートすることにより、ポリマー溶液センサーBを調製した。ポリマーとBBPとを、ビオチン-アビジン相互作用を介して互いに合体させることにより、安定した物質を形成した。こうして調製された溶液センサーを、それぞれの試験の開始時にポリマー緩衝液で適宜に希釈した。
【0058】
実施例5
384ウェル・プレートにおけるアッセイ緩衝液中のBSEC-1の400 nM溶液 5 μLに、アッセイ緩衝液5 μL中に溶解されたβ-セクレターゼ 30 ngの溶液5 μLを添加した。混合物を3部形成し、そしてCRTで30分間にわたってインキュベートした。対照ウェルはペプチドだけを含有し、酵素を含有しなかった。インキュベーション後、上記溶液センサの100倍希釈物を20 μLでそれぞれのウェルに添加した。プレートをマイクロプレート・リーダー内部で震盪させ、次いでポリマーを440 nmで励起し、そして530 nmにおける発光強度を測定することにより、ウェルを調査した。対照ウェルが提供した平均RFU値は5400±200であり、酵素を含有する試料ウェルが提供するRFUは、8350±200であった。
【0059】
実施例6
アッセイ性能は、少量のビオチン-R-PEで溶液センサー・ポリマーBをドーピングすることにより著しく改善された。ポリマーBのマスターストックの200倍希釈物をビオチン-R-PEと一緒に、40 μLの混合物中250 fmolのビオチン-R-PEを提供するような比でインキュベートすることにより、それぞれの試験の開始時に、ポリマー・センサーDを形成した。アッセイ緩衝液中のBSEC-3の300 nM溶液5 μLに、アッセイ緩衝液5 μL中のβ-セクレターゼ酵素30 ngを添加した。CRTで30分間にわたって対照混合物及び試料混合物をインキュベートした後、ドーピングされた溶液センサーD 40 μLをそれぞれのウェルに添加した。プレートをマイクロプレート・リーダー内部で60秒間にわたって震盪させ、そして、ポリマーを440 nmで励起し、そして475 nmカットオフ・フィルターを使用して576 nmにおける発光を測定することにより、ウェルの蛍光強度を調査した。対照ウェルが提供した平均RFU値は5200±100であり、これに対して試料ウェルが提供する対応値は、14500±200であった。
【0060】
実施例7
複数の発色団、例えばフィコエリトリンを含有する高蛍光タンパク質を、β-セクレターゼに対するQTLアッセイにおいて独立して採用することができる。アッセイ緩衝液中のBSEC-1の300 nM溶液 5 μLに、アッセイ緩衝液5 μL中のβ-セクレターゼ 20 ngを添加した。対照ウェルはBSEC-1だけを含有し、酵素を含有しなかった。30分間にわたって混合物をインキュベートした後、ストレプトアビジン-B-フィコエリトリン複合体(SAv-BPE、ポリマーE)の5 nM(50 fmol)溶液10 μLをそれぞれのウェルに添加した。プレートをマイクロプレート・リーダー内部で震盪させ、そして490 nmで励起し、そして515 nmカットオフ・フィルターを使用することにより、試料ウェル及び対照ウェルの蛍光強度を576 nmで測定した。対照ウェルが提供した平均RFU値は7671±286であり、これに対して酵素ウェルが提供する対応値は、11828±556であった。
【0061】
BSEC-1の代わりにBSEC-3を用いて、同一条件下でアッセイを行うと、デルタRFUはより良くなる:対照のRFUは11639±335であり、そして試料のRFUは18032±228であった。
【0062】
実施例8
STA-200はよく知られたβ-セクレターゼ活性インヒビターである。アッセイ緩衝液中のBSEC-1の800 nM溶液 2.5 μLに、30 ngのβ-セクレターゼを添加し、そしてその容積をアッセイ緩衝液と一緒に全部で10 μLにした。別のウェルにおいて、800 nM BSEC-1溶液 2.5 μLを、2.5 μLのSTA-200溶液と30 ngのβ-セクレターゼとの予混合された溶液と一緒にインキュベートして、最終容積がやはり10 μLになるようにした。また、2つの対照反応物を別個のウェル内に準備した。一方の対照反応物はアッセイ緩衝液中にペプチドだけを有し、そして他方の対照反応物はアッセイ緩衝液中に、ペプチドとインヒビターとを有した。全ての試料を15分間にわたってCRTでインキュベートし、続いてポリマー緩衝液中のポリマーA懸濁液(1 x 107個のミクロ粒子)19.2 μLをそれぞれに添加した。次いで、440 nmで混合物を励起し、そして475 nmカットオフ・フィルターを使用することにより、混合物を530 nmの発光に関して調査した。ペプチドと酵素とだけから成る混合物は、対照を上回るデルタRFU 4468±85をもたらした。これと比較して、ペプチドと酵素と60 nM STA-200(600 fmol)とから成る混合物がもたらす、対照を上回るデルタRFUは2746±241であるのに対して、250 nM STA-200(2.5 pmol)を含有する混合物の対応値は865±178でしかなかった。
他のプロテアーゼ酵素のためのペプチド基質、キット及びアッセイ
β-セクレターゼのためのペプチド基質、キット及びアッセイは上に開示されている。他のプロテアーゼ酵素、例えばカスパーゼ酵素に対するアッセイに使用することができるペプチド基質の例について以下に論議する。
【0063】
具体的には、試料中の標的酵素活性をアッセイする方法であって:標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含むテザーに複合されたクエンチャーを含む生物学的複合体と一緒に、試料をインキュベートし;インキュベート試料に蛍光体を加えることにより、試料混合物を形成し、蛍光体は、互いに会合された複数の蛍光種を含むことにより、蛍光体とクエンチャーとが会合する結果、蛍光体が増幅型スーパークエンチングするようになっており;そして、標的酵素にテザーを切断させ、テザーの切断の結果、生物学的複合体よりも蛍光体と会合する傾向が大きいクエンチャー含有断片が生じ;そして続いて試料混合物の蛍光を測定することを含む、方法が提供される。試料混合物の蛍光量は、試料中の標的酵素活性の存在及び/又は量を示す。クエンチャーと蛍光体との会合は、クーロン引力、水素結合力、ファン・デル・ワールス力、又は共有結合形成の結果であることが可能である。例えば、蛍光体及び生物学的複合体はそれぞれ全体で負電荷を有することができ、そしてクエンチャー含有断片は、正味の正電荷を有することができる。蛍光体はアニオン性複合ポリマーであることができ、そしてクエンチャーはカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーであることができる。
【0064】
生物学的複合体は、下記式:
D-E-V-D-QSY7'(配列番号7)
によって表すことができ、「QSY7'」は下記式:
【化3】

によって表されるクエンチャー部分を表し、「*」は、クエンチャー部分とテザーとの結合点を表す。配列番号7によって表されるペプチド基質の場合、クエンチャー部分は、クエンチャー上のアミノ基を介してC末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸基に結合される。
【0065】
ポリペプチドテザーは、クエンチャー上のアミン基を介してクエンチャーに複合することができる。アミン基を介してクエンチャーに複合することができるクエンチャーの例を下記に示す:
【化4】

一次アミン基を介してポリペプチドテザーに複合されると、このクエンチャーはQSY7'クエンチャー部分を形成する。アミン基を有する他のクエンチャーを使用することもできる。これらのクエンチャーは、周知の化学合成技術を用いて合成することができる。
【0066】
配列番号7によって表されるQT生物学的複合体の全体的な電荷は-2(D及びE = -1及びQSY7' = +1)である。生物学的複合体は従って、正味の負電荷を有する蛍光体と会合しない傾向を有する。しかし、酵素によってテザーが切断される結果、全体的な正電荷(+1)を有するクエンチャー含有断片が生じる。従ってクエンチャー含有断片は、正味の負電荷を有する蛍光体と会合する傾向を有するようになる。
【0067】
本発明の別の実施態様によれば、蛍光体は、ドナー・シアニン色素の凝集体を含むバーチャル・ポリマーであり、クエンチャーは、アクセプター・シアニン色素であり、そしてアクセプター・シアニン色素は、テザーに複合されると、ドナー・シアニン色素と凝集体を形成することができない。生物学的複合体がドナーと凝集体を形成することができないことは、荷電効果又は立体効果の結果であり得る。アクセプター・シアニン色素は蛍光分子又は非蛍光分子であり得る。アクセプター・シアニン色素が蛍光分子の場合、アクセプターの蛍光分子を測定することができる。或いは、ドナーの蛍光を測定することもできる。本発明のこの実施態様によるアッセイは、細胞内アッセイ又は細胞外アッセイであってよい。
【0068】
本発明の別の実施態様によれば、試料中の標的酵素活性をアッセイする方法であって:テザーに複合された蛍光色素を含む生物学的複合体と一緒に、試料をインキュベートし、テザーは、蛍光色素含有断片を生成するために標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含み、そして蛍光色素含有断片は、生物学的複合体とは異なる吸収スペクトルを有する色素凝集体を形成することができ;そして、標的酵素にテザーを切断させ;そして色素凝集体が生物学的複合体よりも大規模に吸収する波長で試料を励起することにより、試料混合物の蛍光を測定することを含む方法が提供される。試料混合物の蛍光量は、試料中の標的酵素活性の存在及び/又は量を示す。蛍光色素はシアニン分子であってよい。酵素切断によって生物学的複合体から放出された蛍光色素含有断片は、J-凝集体を形成することができる。標的酵素はカスパーゼ酵素であってよい。例えば標的酵素はカスパーゼ-3であってよく、そして生物学的複合体は下記式:
D-E-V-D-シアニン(配列番号8)
によって表される構造を有することができ、上記式中「シアニン」は、シアニン色素部分を表す。
【0069】
シアニン色素部分の一例としては下記のものが挙げられる:
【化5】

【0070】
常用の合成化学処置を用いて、ペプチドテザーにシアニン色素を複合することができる。1実施態様によれば、テザーは、色素の側テザー上の官能基を介して色素に複合することができる。例えば、テザー上の基(すなわちアミノ及びカルボン酸基)と反応性の官能基を有する側基で、シアニン色素を合成することができる。色素上で合成することができる反応基の例は、アミノ基及びカルボン酸基である。色素上で合成することができる反応基の例は、アミノ及びカルボン酸基である。1実施態様によれば、シアニン色素内のアルキル側基を、アミノ及びカルボン酸基で合成することができ、次いでこれを、テザー上のカルボン酸基との複合のために使用することができる。
【0071】
J-凝集体フォーマットにおけるプロテアーゼ・アッセイのために使用することができるペプチド基質の一例を下に示す:
【化6】

上記式中「TETHER(テザー)」は、プロテアーゼ酵素によって切断されることが可能なポリペプチドを表す。カスパーゼ-3酵素アッセイの場合、テザーは下記ペプチド配列:
D-E-V-D(配列番号9)
を含むことができる。この場合テザーは、C末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸基を介して色素部分に結合される。
【0072】
配列:
D-E-V-D(配列番号9)
を含むペプチドテザーがカスパーゼ-3酵素アッセイに関して開示されているが、カスパーゼ-3酵素によって切断され得る他の配列を使用することもできる。さらに上記技術を他のプロテアーゼ酵素に対するアッセイに用いることもできる。テザーは、当該プロテアーゼ酵素によって切断され得るペプチド配列を含む。
【0073】
本発明の別の実施態様によれば、酵素によってテザーが切断される結果、J-凝集体を形成することができる色素含有断片が生じる。凝集体の吸収最大値で試料を励起することにより、試料から発光をモニタリングすると、酵素活性のインジケーターである強度を有するシグナルを提供することができる。
【0074】
上記生物学的複合体、並びに生物学的複合体を含むキットも、本発明の別の実施態様に従って提供される。本発明の別の実施態様によれば、複数の蛍光種を含む蛍光体、及びテザーに複合されたクエンチャーを含む生物学的複合体を含むキットであって、テザーは、カスパーゼ酵素によって切断されることが可能なセグメントを含む。本発明のこの実施態様によれば、テザーの切断の結果、生物学的複合体よりも蛍光体と会合する傾向が大きいクエンチャー含有生物学的複合体断片が生じる。さらに、蛍光体とクエンチャーとが会合する結果、蛍光体が増幅型スーパークエンチングするようになっている。複数の会合された蛍光種を、固形支持体と会合することができる。標的・カスパーゼ酵素はカスパーゼ-3であってよく、標的酵素によって切断されることが可能なセグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
であってよい。クエンチャー含有生物学的複合体断片は、クーロン引力、水素結合力、ファン・デル・ワールス力、又は共有結合形成を介して、蛍光体と会合することができる。例えば、蛍光体及び生物学的複合体はそれぞれ全体で負電荷を有することができ、そしてクエンチャー含有生物学的複合体断片は、正味の正電荷を有することができる。蛍光体はアニオン性複合ポリマーであってよく、またクエンチャーはカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーであってよい。生物学的複合体が、下記式:
D-E-V-D-QSY7'(配列番号7)
によって表される生物学的複合体であり、「QSY7'」はクエンチャー部分:
【化7】

を表し、「*」は、クエンチャー部分とテザーとの結合点を表し、そしてクエンチャー部分は、テザーのC末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸を介してテザーに複合される。
【0075】
クエンチャーは、二価リンカー部分を介してテザーに複合することができる。例えば、ジアミンを使用して、カルボン酸基、例えばQSY7を有するクエンチャーを、ポリペプチドテザーのカルボン酸基に複合することができる。従って、二価リンカー部分はジアミンの残基であってよい。ジアミンの例としては、ジアミノアルカン、例えば1,2-ジアミノエタンが挙げられる。
【0076】
別の実施態様によれば、蛍光体は、ドナー・シアニン色素の凝集体を含むバーチャル・ポリマーであり、クエンチャーは、アクセプター・シアニン色素であり、そしてアクセプターは、テザーに複合されると、ドナー・シアニン色素と凝集体を形成することができない、上記キットも提供される。生物学的複合体がドナーと凝集体を形成することができないことは、荷電効果又は立体効果の結果であり得る。アクセプター・シアニン色素は蛍光分子又は非蛍光分子であり得る。
【0077】
本発明の別の実施態様によれば、カスパーゼ酵素によって切断されることが可能なセグメントを含むテザーと、テザーに複合されたクエンチャーとを含む生物学的複合体が提供される。カスパーゼ酵素はカスパーゼ-3であってよく、そして、カスパーゼ酵素によって切断されることが可能なセグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
であってよい。クエンチャーはカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーである。
【0078】
生物学的複合体が、下記式:
D-E-V-D-QSY7'(配列番号7)
によって表される生物学的複合体であってよく、
「QSY7'」は下記構造:
【化8】

によって表されるクエンチャー部分を表し、「*」は、クエンチャー部分とテザーとの結合点を表し、そしてクエンチャー部分は、テザーのC末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸を介してテザーに複合される。
【0079】
クエンチャーは、二価リンカーを介してテザーに複合することができる。例えば、ジアミンを使用して、カルボン酸基、例えばQSY7を有するクエンチャーを、ポリペプチドテザーのカルボン酸基に複合することができる。従って、二価リンカー部分はジアミンの残基であってよい。ジアミンの例としては、ジアミノアルカン、例えば1,2-ジアミノエタンが挙げられる。
【0080】
本発明の別の実施態様によれば、テザーに複合された蛍光色素を含む生物学的複合体であって、テザーは、蛍光色素含有断片を生成するために標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含む生物学的複合体が提供される。蛍光色素含有断片は、生物学的複合体とは異なる吸収スペクトルを有する色素凝集体を形成することができる。蛍光色素はシアニン色素であってよい。蛍光色素含有断片は、J-凝集体を形成することができる。標的酵素はカスパーゼ酵素、例えばカスパーゼ-3であってよい。標的酵素によって切断されることが可能なセグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
であってよい。生物学的複合体が下記式:
D-E-V-D-シアニン(配列番号8)
によって表される構造を有し、
上記式中「シアニン」は、シアニン色素部分を表し、そしてシアニン色素部分は、テザーのC末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸基に複合される。例えば、生物学的複合体は、下記式:
【化9】

によって表される構造を有することができる。
【0081】
下記の机上の実施例(実施例9及び10)は、カスパーゼ-3酵素活性に対するアッセイに関する。
【0082】
実施例9-QTアッセイ・フォーマット
カスパーゼ-3酵素に対するアッセイにおけるクエンチャー-テザー複合体の使用を、この実施例で説明する。384ウェル・プレートのウェルにおけるアッセイ緩衝液中の配列番号7によって表される既知量のペプチド基質に、カスパーゼ-3酵素を含有する試料を添加する。混合物を数分間にわたってCRTでインキュベートしておく。全体で負電荷を有するペプチド基質を酵素によって切断することにより、負電荷のペプチドと、正電荷のクエンチャーとを分離する。インキュベーション後、上記式2によって表される負電荷ポリマーをウェルに添加し、そして混合物から生じる蛍光を測定し、そして、ペプチド及びポリマーを含有するがしかし酵素を含有しない対照混合物と比較する。試料と対照との間の蛍光の差は、試料中の酵素活性の尺度である。このタイプのアッセイを図2に示す。
【0083】
実施例10-凝集体形成アッセイ
384ウェル・プレートの1つのウェルにおいて、アッセイ緩衝液中の配列番号8によって表される既知量のペプチド基質に、カスパーゼ-3酵素の試料溶液を添加する。別のウェルには、ペプチド基質を酵素なしで取る。プレートをCRTでインキュベートし、そして試料ウェル及び対照ウェルの蛍光強度を、種々の時間で測定した。対照は時間が増しても不変のままであるのに対して、試料は、酵素活性の尺度である蛍光の増大を示す。このタイプのアッセイを図3に示す。
【0084】
上記説明は一例を示すためだけのものであって、本発明を限定しようというものではない。例示の目的で具体的な実施態様を本明細書中で説明してきたが、発明力を行使することなしに、これらの実施態様に種々の改変を加えることができる。全てのこのような改変は、添付の特許請求の範囲の思想及び範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】図1は、プロテアーゼ(例えばβ-セクレターゼ)酵素活性に対するアッセイを行うための2つの一般スキームを示す図である。
【図2】図2は、カスパーゼ-3酵素活性に対するクエンチャー-テザー(QT)アッセイを示す図である。
【図3】図3は、カスパーゼ-3活性に対するJ-凝集体アッセイのフォーマットを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができるセグメントを含むテザー;
該テザー上の第1位置に複合された、複数の蛍光種を含む蛍光体;及び、
該テザー上の第2位置に複合されたクエンチャー
を含む生物学的複合体であって:
標的生体分子を認識してこれと相互作用することができる該セグメントが、該テザー上の該第1位置と該第2位置との間に配置されており、そして、該複数の蛍光種が互いに会合されることにより、該クエンチャーが、該蛍光体を増幅型のスーパークエンチングが可能なようになっている、生物学的複合体。
【請求項2】
β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができる該セグメントが、ペプチド配列:
SEVNLDAEF(配列番号1)
を含む、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項3】
該蛍光体は、複数の蛍光反復単位を含むポリマー又はオリゴマーを含む、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項4】
該蛍光体は、複数の蛍光種と会合された固形支持体を含む、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項5】
1又は複数のクエンチャーが、反応性テザーを介して該固形支持体にそれぞれ連結されている、請求項4に記載の生物学的複合体。
【請求項6】
該固形支持体は、ストレプトアビジンでコーティングされた球体;ポリマー・ミクロ球体;シリカ・ミクロ球体;有機ナノ粒子;無機ナノ粒子;磁気ビーズ;磁気粒子;半導体ナノ粒子;量子ドット;膜;スライド;プレート及び試験管から成る群から選択される、請求項4に記載の生物学的複合体。
【請求項7】
該蛍光体は、複合高分子電解質;蛍光タンパク質;ビオチニル化複合高分子電解質;官能化複合オリゴマー;荷電複合ポリマー;無荷電複合ポリマー;複合ポリマー・ブレンド;及び、集成型モノマー又はオリゴマーを含むJ-凝集型ポリマー集成体から成る群から選択される、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項8】
該蛍光体はバーチャル・ポリマーである、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項9】
該蛍光体は、シアニン・ペンダント基を有するポリ(L-リシン)ポリマー又はオリゴマーである、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項10】
該蛍光体は、オリゴ糖から構成されている、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項11】
該蛍光体は、蛍光ポリマー又はオリゴマーを含む、請求項4に記載の生物学的複合体。
【請求項12】
該蛍光ポリマー又はオリゴマーは、該固形支持体との共有結合;該固形支持体表面上への吸着によって;又は、蛍光ポリマー又はオリゴマー上のビオチン部分と、該固形支持体表面上のアビジン、ニュートラアビジン又はストレプトアビジン部分との間の相互作用によって、該固形支持体と会合させられる、請求項11に記載の生物学的複合体。
【請求項13】
該蛍光体は、タンパク質分子を介して該テザーに複合されている、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項14】
該タンパク質分子は、アビジン;ニュートラアビジン;及びストレプトアビジンから成る群から選択される、請求項13に記載の生物学的複合体。
【請求項15】
該クエンチャーが非蛍光性である、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項16】
該クエンチャーが蛍光性であり、且つ該蛍光体から吸収されたエネルギーを再放出することができる、請求項1に記載の生物学的複合体。
【請求項17】
試料中のβ-セクレターゼ活性をアッセイする方法であって:
該試料を、テザーの第1位置及び第2位置にそれぞれ複合されたクエンチャー及びリガンドを含む生物学的複合体と一緒にインキュベートし、ここで、該テザーは、β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができる、該第1位置と該第2位置との間のセグメントを含む;
該インキュベート済試料に、複数の蛍光種を含む蛍光体を加えることにより、試料混合物を形成し、ここで、該蛍光体は該生物学的複合体のリガンドに結合可能な部分を含むことにより、該生物学的複合体が該蛍光体に結合することができ、そして該蛍光体と該リガンドとの結合により、該蛍光体を増幅型スーパークエンチングできるようになっている;
該生物学的複合体上の該リガンドを、該蛍光体に結合させておき;そして
続いて、該試料混合物の蛍光を測定する
ことを含み、
ここで、該試料混合物の蛍光量が、試料中のβ-セクレターゼ活性の存在及び/又は量を示す、試料中のβ-セクレターゼ活性をアッセイする方法。
【請求項18】
複数の会合された蛍光種が、固形支持体と会合される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
さらに:
該蛍光体を、生物学的複合体を含有するがしかし酵素と一緒にインキュベートされていない第2の試料に加えることにより、対照を形成し;
該対照の蛍光を測定し;そして
該対照の蛍光と、該試料混合物の蛍光とを比較する
ことを含み、
該対照と該試料混合物との蛍光の差が、試料中のβ-セクレターゼの存在及び/又は量を示す、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
該試料がβ-セクレターゼ及び試験化合物を含み、該方法がさらに:
試験化合物を含有しない第2の試料を、該生物学的複合体と一緒にインキュベートし;
該蛍光体を、インキュベート済の該第2の試料に加えることにより、対照を形成し;
該対照の蛍光を測定し;そして
該対照の蛍光と、該試料混合物の蛍光とを比較する
ことを含み、
該対照と該試料混合物との蛍光の差が、試料中のβ-セクレターゼ活性を阻害する該試験化合物の能力を示す、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
該リガンドがビオチン部分であり、該蛍光体上の部分が、アビジン、ニュートラアビジン又はストレプトアビジン部分である、請求項17に記載の方法。
【請求項22】
試料中のβ-セクレターゼ活性をアッセイする方法であって、該方法が:
該試料を、請求項1に記載の生物学的複合体と一緒にインキュベートし;そして
該インキュベート済試料の蛍光を測定する
ことを含み、
該インキュベート済試料の測定された蛍光は、該試料中のβ-セクレターゼ活性の存在及び/又は量を示す、試料中のβ-セクレターゼ活性をアッセイする方法。
【請求項23】
さらに:
対照の蛍光を測定し;そして
該対照の蛍光と、該インキュベート済試料の蛍光とを比較する
ことを含み、
該対照と該インキュベート済試料との蛍光の差が、試料中のβ-セクレターゼ活性の存在又は量を示す、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
該試料がβ-セクレターゼと試験化合物とを含み、そしてβ-セクレターゼ活性を阻害する該試験化合物の能力がアッセイされる、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
該蛍光体が固形支持体を含み、該固形支持体に複数の蛍光種が会合される、請求項22に記載の方法。
【請求項26】
1又は複数のクエンチャーが、反応性テザーを介して該固形支持体にそれぞれ連結されている、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
該固形支持体は、ストレプトアビジンでコーティングされた球体;ポリマー・ミクロ球体;シリカ・ミクロ球体;有機ナノ粒子;無機ナノ粒子;磁気ビーズ;磁気粒子;半導体ナノ粒子;量子ドット;膜;スライド;プレート及び試験管から成る群から選択される、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
複数の蛍光種を含む蛍光体;及び
テザーの第1位置及び第2位置にそれぞれ複合されたクエンチャー及びリガンドを含む生物学的複合体
を含むキットであって;
該テザーは、β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができる、該第1位置と該第2位置との間のセグメントを含み;
該蛍光体は、該生物学的複合体上のリガンドに結合することができる部分を含み、そして該複数の蛍光種が互いに会合されることにより、該リガンドが該蛍光体に結合されると、該クエンチャーが、該蛍光体を増幅型スーパークエンチングできるようになっている、キット。
【請求項29】
会合された該複数の蛍光種が固形支持体に会合される、請求項28に記載のキット。
【請求項30】
リガンドがビオチン部分である、請求項28に記載のキット。
【請求項31】
該リガンドに結合することができる部分は、アビジン、ニュートラアビジン及びストレプトアビジンから成る群から選択されている、請求項28に記載のキット。
【請求項32】
β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができる該セグメントが、ペプチド配列:SEVNLDAEF(配列番号1)を含む、請求項28に記載のキット。
【請求項33】
β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができるセグメントを含むテザー;
会合する複数の蛍光種を含む蛍光体の蛍光をクエンチングすることができる、該テザー上の第1位置に複合されたクエンチャー;及び、
該クエンチャー上の第2位置に複合されたビオチン分子
を含む生物学的複合体であって、
標的生体分子を認識してこれと相互作用することができる該セグメントが、該テザー上の該第1位置と該第2位置との間に配置されており、そして、該複数の蛍光種が互いに会合されることにより、該クエンチャーが、該蛍光体を増幅型クエンチングすることができるようになっている、生物学的複合体。
【請求項34】
β-セクレターゼを認識してこれと相互作用することができる該セグメントが、配列:
SEVNLDAEF(配列番号1)
を有するポリペプチドを含む、請求項33に記載の生物学的複合体。
【請求項35】
(QSY-7)-TEEISEVNLDAEFK-(Nε-ビオチン)(配列番号2);
(QSY-7)-TEEISEVNLDAEFK-(Nε-PEG-ビオチン)(配列番号3);
(AZO)-TEEISEVNLDAEFK-(Nε-ビオチン)(配列番号4);又は
(AZO)-TKKISEVNLDAEFRK-(Nε-ビオチン)(配列番号5);
によって表される構造を有しており、
上記式中QSY-7、AZO、ビオチン及びPEG-ビオチンは、下記構造:
【化1】

を有する部分を表し、
「*」は、該ポリペプチドとの各部分の結合点を表し、「Nε」は、C末端リシン残基のε-アミノ基を介した、該ポリペプチドのリシン基とのビオチン部分又はPEG-ビオチン部分の連結を表し、そしてQSY-7及びAZO部分は、N末端トレオニン残基のアミノ基を介して、該ポリペプチドに結合されている、請求項34に記載の生物学的複合体。
【請求項36】
試料中の標的酵素活性をアッセイする方法であって:
該標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含むテザーに複合されたクエンチャーを含む生物学的複合体と一緒に、該試料をインキュベートし;
該インキュベート済試料に蛍光体を加えることにより、試料混合物を形成し、該蛍光体は、互いに会合された複数の蛍光種を含むことにより、該蛍光体と該クエンチャーとが会合する結果、該蛍光体を増幅型スーパークエンチングできるようになっており;そして、
該標的酵素に該テザーを切断させ、該テザーの切断の結果、該生物学的複合体よりも蛍光体と会合する傾向が大きいクエンチャー含有生物学的複合体断片が生じ;そして続いて該試料混合物の蛍光を測定する
ことを含み;
該試料混合物の蛍光量が、該試料中の標的酵素活性の存在及び/又は量を示す、
試料中の標的酵素活性をアッセイする方法。
【請求項37】
該標的酵素はカスパーゼ酵素である、請求項36に記載の方法。
【請求項38】
該標的酵素はカスパーゼ-3である、請求項36に記載の方法。
【請求項39】
該標的酵素によって切断されることが可能な該セグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
である、請求項38に記載の方法。
【請求項40】
該クエンチャー含有生物学的複合体断片と、該蛍光体との会合は、クーロン引力、水素結合力、ファン・デル・ワールス力、又は共有結合形成を含む、請求項36に記載の方法。
【請求項41】
該蛍光体及び該生物学的複合体がそれぞれ全体で負電荷を有し、そして該クエンチャー含有生物学的複合体断片が、正味の正電荷を有する、請求項36に記載の方法。
【請求項42】
該蛍光体がアニオン性複合ポリマーである、請求項41に記載の方法。
【請求項43】
該クエンチャーがカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーである、請求項41に記載の方法。
【請求項44】
該生物学的複合体が、下記式:
D-E-V-D-QSY7'(配列番号7)
によって表され、「QSY7'」は下記構造:
【化2】

によって表されるクエンチャー部分を表し、「*」は、該クエンチャー部分と該テザーとの結合点を表し、そして該クエンチャー部分は、C末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸を介して該テザーに複合される、請求項41に記載の方法。
【請求項45】
該クエンチャーは、二価リンカーを介して該テザーに複合される、請求項36に記載の方法。
【請求項46】
該二価リンカーはジアミンである、請求項45に記載の方法。
【請求項47】
該蛍光体は、ドナー・シアニン色素の凝集体を含むバーチャル・ポリマーであり、該クエンチャーは、アクセプター・シアニン色素であり、そして該アクセプターは、該テザーに複合されると、ドナー・シアニン色素と凝集体を形成することができない、請求項36に記載の方法。
【請求項48】
該生物学的複合体が該ドナーと凝集体を形成することができないことは、荷電効果又は立体効果の結果である、請求項47に記載の方法。
【請求項49】
該アクセプター・シアニン色素が蛍光性である、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
該アクセプター・シアニン色素が蛍光性であり、そして該アクセプターの蛍光が測定される、請求項47に記載の方法。
【請求項51】
該ドナー・シアニン色素の蛍光が測定される、請求項47に記載の方法。
【請求項52】
該アッセイが細胞内アッセイ又は細胞外アッセイである、請求項47に記載の方法。
【請求項53】
試料中の標的酵素活性をアッセイする方法であって:
テザーに複合された蛍光色素を含む生物学的複合体と一緒に、該試料をインキュベートし、該テザーは、蛍光色素含有断片を生成するために該標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含み、そして該蛍光色素含有断片は、該生物学的複合体とは異なる吸収スペクトルを有する色素凝集体を形成することができ;
該標的酵素に該テザーを切断させ;そして
該色素凝集体が該生物学的複合体よりも大規模に吸収する波長で該試料を励起することにより、該試料混合物の蛍光を測定する
ことを含み;
該試料混合物の蛍光量が、試料中の標的酵素活性の存在及び/又は量を示す、
試料中の標的酵素活性をアッセイする方法。
【請求項54】
該蛍光色素がシアニン色素である、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
該蛍光色素含有断片は、J-凝集体を形成することができる、請求項54に記載の方法。
【請求項56】
該標的酵素はカスパーゼ酵素である、請求項53に記載の方法。
【請求項57】
該標的酵素はカスパーゼ-3である、請求項53に記載の方法。
【請求項58】
該標的酵素によって切断されることが可能な該セグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
である、請求項53に記載の方法。
【請求項59】
該生物学的複合体が下記式:
D-E-V-D-シアニン(配列番号8)
によって表される構造を有し、
上記式中「シアニン」は、シアニン色素部分を表し、そして該シアニン色素部分は、C末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸基に複合される、請求項58に記載の方法。
【請求項60】
該生物学的複合体は、下記式:
【化3】

によって表される構造を有している、請求項59に記載の方法。
【請求項61】
複数の蛍光種を含む蛍光体;及び
カスパーゼ酵素によって切断されることが可能なセグメントを含むテザーに複合されたクエンチャーを含む生物学的複合体
を含むキットであって:
該テザーの切断の結果、該生物学的複合体よりも蛍光体と会合する傾向が大きいクエンチャー含有生物学的複合体断片が生じ、そして、該蛍光体と該クエンチャーとが会合する結果、該蛍光体を増幅型スーパークエンチングできるようになっている、キット。
【請求項62】
複数の会合された蛍光種が、固形支持体と会合される、請求項61に記載のキット。
【請求項63】
該カスパーゼ酵素はカスパーゼ-3である、請求項61に記載のキット。
【請求項64】
該標的酵素によって切断されることが可能な該セグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
である、請求項63に記載のキット。
【請求項65】
該クエンチャー含有生物学的複合体断片は、クーロン引力、水素結合力、ファン・デル・ワールス力、又は共有結合形成を介して、該蛍光体と会合する、請求項61に記載のキット。
【請求項66】
該蛍光体及び該生物学的複合体がそれぞれ全体で負電荷を有し、そして該クエンチャー含有生物学的複合体断片が、正味の正電荷を有する、請求項61に記載のキット。
【請求項67】
該蛍光体がアニオン性複合ポリマーである、請求項66に記載のキット。
【請求項68】
該クエンチャーがカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーである、請求項66に記載のキット。
【請求項69】
該生物学的複合体が、下記式:
D-E-V-D-QSY7'(配列番号7)
によって表され、「QSY7'」は下記構造:
【化4】

によって表されるクエンチャー部分を表し、「*」は、該クエンチャー部分と該テザーとの結合点を表し、そして該クエンチャー部分は、該テザーのC末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸を介して該テザーに複合される、請求項61に記載のキット。
【請求項70】
該クエンチャーは、二価リンカーを介して該テザーに複合されている、請求項61に記載のキット。
【請求項71】
該二価リンカーはジアミンである、請求項70に記載のキット。
【請求項72】
該蛍光体は、ドナー・シアニン色素の凝集体を含むバーチャル・ポリマーであり、該クエンチャーは、アクセプター・シアニン色素であり、そして該アクセプターは、該テザーに複合されると、ドナー・シアニン色素と凝集体を形成することができない、請求項61に記載のキット。
【請求項73】
該生物学的複合体が該ドナーと凝集体を形成することができないことは、荷電効果又は立体効果の結果である、請求項72に記載のキット。
【請求項74】
該アクセプター・シアニン色素が非蛍光分子であるか、又は該蛍光体から吸収されたエネルギーを再放出することができる蛍光分子である、請求項72に記載のキット。
【請求項75】
カスパーゼ酵素によって切断されることが可能なセグメントを含むテザーと;
該テザーに複合されたクエンチャーと
を含む生物学的複合体。
【請求項76】
該カスパーゼ酵素はカスパーゼ-3である、請求項75に記載の生物学的複合体。
【請求項77】
カスパーゼ酵素によって切断されることが可能な該セグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
である、請求項76に記載の生物学的複合体。
【請求項78】
該クエンチャーがカチオン性電子移動クエンチャー又はカチオン性エネルギー移動クエンチャーである、請求項75に記載の生物学的複合体。
【請求項79】
該生物学的複合体が、下記式:
D-E-V-D-QSY7'(配列番号7)
によって表され、「QSY7'」は下記構造:
【化5】

によって表されるクエンチャー部分を表し、「*」は、該クエンチャー部分と該テザーとの結合点を表し、そして該クエンチャー部分は、該テザーのC末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸を介して該テザーに複合される、請求項75に記載の生物学的複合体。
【請求項80】
該クエンチャーは、二価リンカーを介して該テザーに複合されている、請求項75に記載の生物学的複合体。
【請求項81】
該二価リンカーはジアミンである、請求項80に記載の生物学的複合体。
【請求項82】
該クエンチャーはアクセプター・シアニン色素である、請求項75に記載の生物学的複合体。
【請求項83】
該アクセプター・シアニン色素は蛍光性である、請求項82に記載の生物学的複合体。
【請求項84】
テザーに複合された蛍光色素を含む生物学的複合体であって:
該テザーは、蛍光色素含有断片を生成するために該標的酵素によって切断されることが可能なセグメントを含み、そして該蛍光色素含有断片は、該生物学的複合体とは異なる吸収スペクトルを有する色素凝集体を形成することができる、生物学的複合体。
【請求項85】
該蛍光色素はシアニン色素である、請求項84に記載の生物学的複合体。
【請求項86】
該蛍光色素含有断片は、J-凝集体を形成することができる、請求項84に記載の生物学的複合体。
【請求項87】
該標的酵素はカスパーゼ酵素である、請求項84に記載の生物学的複合体。
【請求項88】
該標的酵素はカスパーゼ-3である、請求項84に記載の生物学的複合体。
【請求項89】
該標的酵素によって切断されることが可能な該セグメントは、ペプチド配列:
DEVD(配列番号9)
である、請求項88に記載の生物学的複合体。
【請求項90】
該生物学的複合体が下記式:
D-E-V-D-シアニン(配列番号8)
によって表される構造を有し、
上記式中「シアニン」は、シアニン色素部分を表し、そして該シアニン色素部分は、該テザーのC末端アスパラギン酸残基のα-カルボン酸基に複合される、請求項89に記載の生物学的複合体。
【請求項91】
下記式:
【化6】

によって表される構造を有している、請求項90に記載の生物学的複合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−528183(P2006−528183A)
【公表日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521154(P2006−521154)
【出願日】平成16年7月19日(2004.7.19)
【国際出願番号】PCT/US2004/023083
【国際公開番号】WO2005/007119
【国際公開日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(506020469)キューティーエル バイオシステムズ リミティド ライアビリティ カンパニー (1)
【Fターム(参考)】