説明

プロテインマイクロアレイヤー

【課題】湿度コントロールとクリーン化を同時に行う最もエネルギー消費の少ない湿度調整機構を有するプロテインマイクロアレイヤーの提供。
【解決手段】タンパク質を含む溶液の微小スポットをスポットピンにより基板上に転写して基板上にプローブとしてのタンパク質を含む複数のスポットが高密度に配列されたプロテインアレイチップを製造するプロテインマイクロアレイヤー装置であって、アレイヤー内部の湿度調整に大気を選択的に水蒸気と乾燥空気に分離する中空糸膜型の非多孔質溶解拡散膜を用いることを特徴とするプロテインマイクロアレイヤー

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタンパク質やそれを捕捉する生体分子をチップ基板上に高密度かつ均一なスポット形状に集積固定化するプロテインマイクロアレイヤーに関する。
【背景技術】
【0002】
プローブと呼ばれる生体の遺伝子を有するDNAをガラス基板上に多数スポットし、固定した上に調べる相手となる試料を振りかけて、プローブとの相互作用を調べるいわゆるDNAチップが遺伝子解析を網羅的に行う方法として多用されるようになっている。
通常、多種類のDNAをガラス基板上に高密度にスポットする方法として複数のスポットピンにDNAを付着させてガラス基板に転写するマイクロアレイヤーと呼ばれる装置が知られているが、近年、ヒトゲノムの解読により、医療開発の方向は遺伝子解析から遺伝子がコードするタンパク質(抗体、ペプチド、レクチン等を含む)の機能解析、さらにはタンパク質−遺伝子の相互作用、タンパク質−タンパク質の相互作用を網羅的且つ包括的に解析するプロテオーム解析に急速に移りつつあり、そのツールとしてプロテインアレイチップが注目を集めている。しかしながらタンパク質やタンパク質と結合する抗体などのアレイ(プロテインアレイ)の作製に対してはDNAと同様なマイクロアレイヤーでは適用が困難とされていた。
【0003】
その原因としてタンパク質は不変性のDNAと異なり、環境条件によって様々な修飾を受けている上、三十万種類以上と種類が多く、その構造も性質も多様でかつタンパク質を溶解するソリューションも多種多様であるため、同一条件ではチップ基板上へ均一なスポットを形成させることが困難であった。最近になってアレイする環境の湿度をタンパク質溶液の特性にあわせて変化させることが均一なスポット形成に有効であることが見出され、アレイヤー内部に加湿器や除湿器を装備する例が行われ始めているが、これらはすべてヒーターや冷凍機などによる加湿、減湿の組み合わせで装置構造が複雑であるばかりか、電力などのエネルギーを消費し、またその消費動力分の熱量がアレイヤーの設置されているクリーンルームの熱負荷となる欠点を有していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は動力を使用せずに加湿、減湿が可能な湿度調節機構を有すると同時にアレイヤー内を超クリーンな環境を実現し、アレイヤーが設置される部屋のクリーンルーム化を省略できるプロテインマイクロアレイヤーを提供するものである。これにより加湿、減湿、空調にエネルギーを必要とせず、環境にやさしいアレイヤーが実現可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は通常、圧縮空気から湿度分、すなわち水蒸気を選択的に分離し乾燥空気を製造する非多孔質溶解拡散膜(以下、中空糸膜という)に着目し、この膜を用いてマイクロアレイヤーの加湿、減湿両方の調節ができ、同時にアレイヤー内部をクリーンルーム以上のクリーンな環境を実現するシステムを開発した。
【0006】
すなわち、本発明はプローブとしてのタンパク質を含む溶液を、該溶液に先端を浸漬して三次元で移動するスポットピンを介してチップ基板上に転写し、基板上に複数のスポットを形成せしめるマイクロアレイヤーであって(1)空気から水蒸気を選択的に分離する中空糸膜をアレイヤーの外側に設置し、圧縮空気を該中空糸膜に導入する、(2)中空糸膜から排出される水蒸気と乾燥空気を各々コントロール弁を介して別々にマイクロアレイヤー内に導入し、(3)アレイヤー内の湿度が目標とする湿度になるように湿度制御計の設定に従いコントロール弁が自動的に開度を調節できるようにした マイクロアレイヤーに関する。
【0007】
タンパク質アレイではスポットピンにより均一なスポットを形成せしめるためにはアレイヤー内部の湿度をタンパク質を溶解しているソリューションの性状にあわせて調節することが必要で、通常相対湿度30〜65%の範囲内で調節される。用いるソリューションの性状に適する湿度よりも湿度が低い場合にはスポット形状が欠けやすく、高すぎる場合にはスポット形状が膨潤、拡大して、いずれも解析に適正なスポット形状が得られず、タンパク解析に悪影響を及ぼす。タンパク質アレイでは適正な湿度条件を見出し、アレイ環境をその湿度に調節することがなによりも重要である。従来は加湿の場合は電気ヒーターや超音波などで水を蒸発、気化させたり、減湿の場合は冷凍機で凝縮させたりする方法が一般的でいずれもエネルギーが必要であった。また、アレイヤー自体は周囲環境によるタンパク質の汚染や機能低下を避けるため、クリーンルームに設置されるのが普通であり、クリーンルームを稼動する膨大な動力の消費を必要とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば加湿、減湿操作に動力や電気ヒーターなどエネルギーを使用しないため、エネルギーコストがかからないばかりか、熱負荷もないため、アレイヤーを設置しているクリーンルームの空調に対しても負荷にならないばかりか、同時にアレイヤー内部を超クリーン環境にできる特徴を有するのでクリーンルーム自体を省略でき、環境にやさしいマイクロアレイヤーが実現できる。また、設備的にも膜とコントロール弁と配管だけでよく設備コストが安価にできるという付帯効果も得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
アレイヤー内部の湿度調節に非多孔質溶解拡散膜から成る中空糸膜を利用し、アレイヤーを設置している室内の空気をコンプレッサーなどで圧縮してこの中空糸膜に通して水蒸気と乾燥空気に分離し、加湿を行う場合は分離された該水蒸気をアレイヤー内部に注入することで行い、除湿・脱湿を行う場合は水蒸気を分離された一方の乾燥空気をアレイヤー内部に注入することで加湿、除湿が同一機構によって可能になる。中空糸膜に通す空気はアレイヤーを設置している室内の空気を利用すれば分離された水蒸気と乾燥空気が同じ室内に放出されるので室内の湿度が変わることはなくクリーンルームなどへの負荷もないばかりか、中空糸膜自体が超精密フィルターの役目を兼ねるためそれから発生する水蒸気と乾燥空気はいずれもクリーンでアレイヤー内部をクリーンルーム以上のクリーン環境にできるため結果的にクリーンルームを省略できてエネルギー消費がなくなり環境にやさしいアレイヤーが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】 本発明を示す概念図である。 1はマイクロアレイヤー本体を示す。2,3はスポットピンを保持するピンホルダー4を3次元に移動させるロボットを示し、ピンホルダー4にはスポットピン5が取り付けられている。6はタンパク質溶液を保持するウエルプレートで冷却プレート7に接触するようにはめ込まれている。8は冷却プレート7を冷却するペルチェ(加熱冷却素子)である。9はチップ基板である。10は中空糸膜でコンプレッサー11から送られた圧縮空気を水蒸気と乾燥空気に分離する役目を果たす。分離された水蒸気と乾燥空気はそれぞれ水蒸気配管12、乾燥空気配管13を通ってコントロール弁14、15により、アレイヤー内部に設置された湿度センサー16の設定湿度に応じて開度が調整される。17は圧縮空気の精密フィルターである。
【符号の説明】
【0011】
1 マイクロアレイヤー本体
2 ピン上下移動ロボット
3 ピン前後左右移動ロボット
4 ピンホルダー
5 スポットピン
6 ウエルプレート
7 冷却プレート
8 ペルチェ
9 チップ基板
10 中空糸膜
11 コンプレッサー
12 水蒸気配管
13 乾燥空気配管
14 コントロール弁
15 コントロール弁
16 湿度制御計
17 精密フィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多種類のタンパク質を溶液にしてその極微な液ドットをスポットピンを用いてチップ基板上に高密度にスポットし集積配列固定するプロテインマイクロアレイヤーにおいて、選択的に大気から水蒸気と乾燥空気を分離する非多孔質溶解拡散膜(中空糸膜)を用いて内部を湿度調節できるようにしたことを特徴とするプロテインマイクロアレイヤー

【図1】
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【公開番号】特開2007−132912(P2007−132912A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−351182(P2005−351182)
【出願日】平成17年11月8日(2005.11.8)
【出願人】(592213730)株式会社カケンジェネックス (6)
【Fターム(参考)】