説明

プロトン伝導体組成物およびプロトン伝導性複合膜

【課題】100℃以上の高温領域でも十分に高いプロトン伝導性を有する、プロトン伝導体組成物及びプロトン伝導膜を提供する。
【解決手段】本発明に係るプロトン伝導膜は、スルホン酸基を有するポリアリーレンに、フラーレン分子を構成する炭素原子にプロトン解離性の基またはその基を含む原子団が結合している水溶性フラーレン誘導体を添加することにより、100℃以上の高温領域でも高いプロトン伝導性を有する。前記スルホン酸基を有するポリアリーレン100質量部に対して、水溶性フラーレン誘導体を0.01〜50質量部含有することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、固体高分子型燃料電池に好適に用いられる、プロトン伝導体組成物及びプロトン伝導性複合膜に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池は、固体電解質膜と、この固体電解質膜を挟持する一対の触媒電極とから構成されている。燃料である水素は一方の電極でイオン化され、この水素イオンは固体高分子電解質膜中を拡散した後に他方の電極で酸素と結合する。このとき2つの電極を外部回路で接続していると、電流が流れ、外部回路に電力が供給される。ここで固体高分子電解質膜は、水素イオンを拡散させるとともに、燃料ガスの水素と酸素を物理的に隔離し、かつ電子の流れを遮断する機能を担っている。
【0003】
このような固体高分子電解質膜としては、パーフルオロカーボンスルホン酸膜に代表されるフッ素系電解質膜がある。このフッ素系電解質膜は化学的安定性に優れていることから、過酷な条件下で使用される燃料電池や水分解のための電解質膜として使用されている。
【0004】
上記のようなフッ素系電解質膜に代表される多くの電解質膜は、ガラス転移点が比較的低く、スルホン酸基がイオンサイトであることから水和力が比較的弱いため、水の沸点以上の温度環境下、かつ、飽和水蒸気圧以下においては電解質膜の乾燥が起こりプロトン伝導度が低下する。また、フッ素系電解質膜はガス透過性が高く、電解質膜内を透過したガスが触媒近傍で反応し、副生成物である過酸化水素水あるいは過酸化物ラジカルが膜の劣化を促進させるという問題がある。さらに、高温条件下で使用しようとすると、電解質膜が軟化してクリープ現象が生じることにより、両極が短絡して発電不能となる問題があり、そのため、燃料電池の作動温度を100℃以下、好ましくは80℃以下に限定せざるをえなかった。
【0005】
また、自動車用の低公害動力源、民生用小型分散電源、携帯用電源等に、従来のフッ素系電解質膜を応用するためには、低分子の炭化水素を原燃料として水素ガスに改質して用いる場合、改質ガスを冷却したり、改質ガス中の一酸化炭素を除去する必要があるなどシステムを複雑にする要因になっていた。
【0006】
燃料電池は、高い温度で作動させるほうが電極触媒が高活性になって電極過電圧が低下し、電極の一酸化炭素による被毒も少なくなるため望ましい。したがって、高温下(100℃以上)においても充分なプロトン伝導度を示す固体高分子電解質膜の開発が望まれている。
【0007】
米国特許第5403675号公報(特許文献1)には、スルホン化された剛直ポリフェニレンからなる固体高分子電解質膜が開示されている。このポリマーは、フェニレン連鎖からなる芳香族化合物を重合して得られるポリマーを主成分とし、これをスルホン化剤と反応させてスルホン酸基を導入している。このポリマーからなる電解質膜は、ガスバリア性が高く、電解膜の劣化の要因となる過酸化水素や過酸化物ラジカル等の生成が起こりにくいという利点があり、さらに、熱変形温度が高いことから高温でのクリープ耐性に優れるという利点を持っている。
【0008】
また、特許文献2には、水溶性フラーレン誘導体と、ヒドロキシル基を有する高分子材料との混合物が加熱処理されてなるプロトン伝導膜が提案されている。
【特許文献1】米国特許5403675号公報
【特許文献2】特開平2004−14120号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1のスルホン化された剛直ポリフェニレンからなる固体高分子電解質膜は、スルホン酸基の導入量の増加によって、プロトン伝導度が向上するものの、同時に得られるスルホン化ポリマーの耐熱水性および靭性などは著しく損なわれるという問題がある。
【0010】
特許文献2のプロトン伝導膜では、水溶性フラーレン誘導体と、ヒドロキシル基を有する高分子材料との混合物を加熱処理することにより、80℃以上の耐熱性を有していることが記載されており、具体的には、高分子材料として、PVAや、シラノール含有ポリ有機シロキサン等が挙げられている。しかしながら、これらの高分子材料を用いた場合においても、耐熱水性が不充分であり、100℃以上の高温領域でのプロトン伝導性は未だ不充分である。
【0011】
本願発明の課題は、100℃以上の高温領域でも充分に高いプロトン伝導性を有するプロトン伝導膜を得ることができるプロトン伝導体組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、このような従来技術における問題点に鑑み鋭意検討した結果、スルホン酸基を有するポリアリーレンと、フラーレン分子を構成する炭素原子とが結合することで、高温下(100℃以上)においても充分な強度を維持するとともに、優れたプロトン伝導度を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0013】
(1)スルホン酸基を有するポリアリーレンと、フラーレン分子を構成する炭素原子にプロトン解離性の基またはその基を含む原子団が結合している水溶性フラーレン誘導体と、を含むプロトン伝導体組成物。
【0014】
(2)前記スルホン酸基を有するポリアリーレン100質量部に対して、前記水溶性フラーレン誘導体を0.01〜50質量部含有する(1)記載のプロトン伝導体組成物。
【0015】
(3)前記スルホン酸基を有するポリアリーレンが、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも含む(1)又は(2)記載のプロトン伝導体組成物。
【化1】

(式(1)中、Yは2価の電子吸引性基を表し、Zは2価の電子供与性基又は直接結合を表し、Arは−SOHで表される置換基を有する芳香族基を表し、kは0〜10の整数を表し、1は0〜10の整数を表し、jは1〜4の整数を表す。)
【0016】
(4)前記スルホン酸基を有するポリアリーレンが、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式下記一般式(2)と(3)で表される繰り返し単位のうち少なくとも一方と、を含む(1)から(3)いずれか記載のプロトン伝導体組成物。
【化2】

(式(1)中、Yは2価の電子吸引性基を表し、Zは2価の電子供与性基又は直接結合を表し、Arは−SOHで表される置換基を有する芳香族基を表し、kは0〜10の整数を表し、1は0〜10の整数を表し、jは1〜4の整数を表す。)
【化3】

(式(2)中、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、アリール基及びニトリル基からなる群より選ばれる原子又は基を表し、Wは2価の電子吸引性基又は単結合を表し、Tは単結合又は2価の有機基を表し、pは0又は正の整数を表す。)
【化4】

(式(3)中、Bは独立に酸素原子又は硫黄原子であり、R〜R11は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、ニトリル基及びアルキル基からなる群より選ばれる原子又は基を表し、nは2以上の整数を表し、Qは下記一般式(q)で表される構造を表す。)
【化5】

(式(q)中、Aは独立に、2価の原子、2価の有機基、直接結合のいずれかであり、R12〜R19は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、ニトリル基、アルキル基及び芳香族基からなる群より選ばれる原子又は基を表す。)
【0017】
(5)(1)から(4)いずれか記載のプロトン伝導体組成物からなるプロトン伝導膜。
【発明の効果】
【0018】
本発明のプロトン伝導体組成物によれば、100℃以上の高温領域でも充分に高いプロトン伝導性を有するプロトン伝導膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明に係るプロトン伝導体組成物およびプロトン伝導性複合膜について詳細に説明する。本発明に係るプロトン伝導体組成物は、スルホン酸基を有するポリアリーレンと、水溶性フラーレン誘導体とを含む。まず、スルホン酸基を有するポリアリーレンについて説明する。
【0020】
<一般式(1)を含むポリアリーレン>
本発明に用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、特に限定されないが、下記一般式(1)で表される構成単位を少なくとも含む重合体が好ましい。
【0021】
【化6】

【0022】
上記の一般式(1)について説明すると、式(1)中、Yは2価の電子吸引性基を示し、具体的には−CO−、−SO−、−SO−、−CONH−、−COO−、−(CF)1−(ここで、1は1〜10の整数である)、−C(CF−などが挙げられる。Zは2価の電子供与性基または直接結合を示し、電子供与性基の具体例としては、−(CH)−、−C(CH−、−O−、−S−、−CH=CH−、−C≡C−、及び、下記の基等が挙げられる。
【0023】
【化7】

【0024】
なお、電子吸引性基とは、ハメット(Hammett)置換基常数がフェニル基のm位の場合、0.06以上、p位の場合、0.01以上の値となる基をいう。Arは−SOHで表される置換基を有する芳香族基を示し、芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンチル基などが挙げられる。これらの基のうち、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0025】
また、kは0〜10、好ましくは0〜2の整数、lは0〜10、好ましくは0〜2の整数を示し、jは1〜4の整数を示す。
【0026】
<一般式(1)を含むポリアリーレンの製造方法>
上記スルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(1)で表される構造単位となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーから、スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを製造し、このスルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを加水分解して、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。
【0027】
また、スルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(1)においてスルホン酸基およびスルホン酸エステル基を有しない構成単位からなるポリアリーレンを予め合成し、この重合体をスルホン化することにより合成することもできる。
【0028】
上記一般式(1)の構造単位となりうるモノマーとしては、例えば、下記一般式(4)
で表されるスルホン酸エステル(以下、モノマー(4)ともいう。)が挙げられる。
【0029】
【化8】

【0030】
式(4)中、Xはフッ素を除くハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素)、−OSOZ(ここで、Zはアルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す。)から選ばれる原子または基を示し、Y、Z、Ar、k、lおよびjは、それぞれ上記一般式(1)中のY、Z、Ar、k、lおよびjと同義である。
【0031】
は炭素原子数1〜20、好ましくは4〜20の炭化水素基を示し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、iso−プロピル基、tert−ブチル基、iso−ブチル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、ネオペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチル基、アダマンタンメチル基、2−エチルヘキシル基、ビシクロ[2.2.1]へプチル基、ビシクロ[2.2.1]へプチルメチル基、テトラヒドロフルフリル基、2−メチルブチル基、3,3−ジメチル−2,4−ジオキソランメチル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]へプチルメチル基などの直鎖状炭化水素基、分岐状炭化水素基、脂環式炭化水素基、5員の複素環を有する炭化水素基などが挙げられる。これらの中では、n−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]へプチルメチル基が好ましく、特にネオペンチル基が好ましい。
【0032】
Arは-SOで表わされる置換基を有する芳香族基を示し、芳香族基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナンチル基などが挙げられる。これらの基のうち、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0033】
置換基−SOは、芳香族基に1個または2個以上置換しており、置換基−SOが2個以上置換している場合には、これらの置換基は互いに同一でも異なっていてもよい。
【0034】
ここで、Rは炭素原子数1〜20、好ましくは4〜20の炭化水素基を示し、具体的には上記炭素原子数1〜20の炭化水素基などが挙げられる。これらの中では、n−ブチル基、ネオペンチル基、テトラヒドロフルフリル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル
基、シクロヘキシルメチル基、アダマンチルメチル基、ビシクロ[2.2.1]へプチルメチル基が好ましく、特にネオペンチル基が好ましい。
【0035】
kは0〜10、好ましくは0〜2の整数を示し、lは0〜10、好ましくは0〜2の整数を示し、jは1〜4の整数を示す。モノマー(4)の具体例としては、以下の様な化合物が挙げられる。
【0036】
【化9】

【0037】
【化10】

【0038】
【化11】

【0039】
【化12】

【0040】
【化13】

【0041】
【化14】

【0042】
【化15】

【0043】
【化16】

【0044】
【化17】

【0045】
また、上記化合物において、塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物、−CO−が−SO−に置き換わった化合物、ならびに、塩素原子が臭素原子に置き換わり、かつ、−CO−が−SO−に置き換わった化合物なども挙げられる。
【0046】
一般式(4)中のR基は1級のアルコール由来で、β炭素が3級または4級炭素であることが、重合工程中の安定性に優れ、脱エステル化によるスルホン酸の生成に起因する重合阻害や架橋を引き起こさない点で好ましく、さらには、これらのエステル基は1級アルコール由来でβ位が4級炭素であることが好ましい。
【0047】
また、上記一般式(4)において、スルホン酸基およびスルホン酸エステル基を有しない化合物の具体例としては、下記の様な化合物が挙げられる。
【0048】
【化18】

【0049】
【化19】

【0050】
上記化合物において、塩素原子が臭素原子に置き換わった化合物、−CO−が−SO−に置き換わった化合物、ならびに、上記化合物において塩素原子が臭素原子に置き換わり、かつ、−CO−が−SO−に置き換わった化合物なども挙げられる。
【0051】
<一般式(1)と(2)を含むポリアリーレン>
本発明に用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、特に限定されないが、上記一般式(1)で表される構成単位と、下記一般式(2)で表される構造単位と、を含む重合体であることも好ましい。一般式(1)で表される構成単位については、上記と同様であるのでその説明を省略する。
【0052】
次に、下記の一般式(2)について説明する。
【0053】
【化20】

【0054】
〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、アリール基及びニトリル基からなる群より選ばれる原子又は基を表す。
【0055】
アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基などが挙げられ、メチル基、エチル基などが好ましい。フッ素置換アルキル基としては、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基などが挙げられ、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基などが好ましい。アリル基としては、プロペニル基などが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられる。
【0056】
Wは単結合または2価の電子吸引性基を示し、Tは単結合または2価の有機基を示す。pは0または正の整数であり、上限は通常100、好ましくは10〜80である。
【0057】
本発明に用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(1)で表される構成単位と、上記一般式(2)で表される構成単位とを含む、下記一般式(a)で表される重合体が好ましい。
【0058】
【化21】

【0059】
式(a)中、W、T、Y、Z、Ar、k、l、j、pおよびR〜Rは、それぞれ上記と同義である。xおよびyは、x+y=100モル%とした場合のモル比を示す。
【0060】
本発明で用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、式(1)で表される構成単位を0.5〜100モル%、好ましくは10〜99.999モル%の割合で、式(2)で表される構成単位を99.5〜0モル%、好ましくは90〜0.001モル%の割合で含有していることが好ましい。
【0061】
<一般式(1)及び(2)を含むポリアリーレンの製造方法>
上記スルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(1)で表される構造単位となりうるスルホン酸エステル基を有するモノマーと、上記一般式(2)で表される構造単位となりうるオリゴマーを共重合させ、スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを製造し、このスルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを加水分解して、スルホン酸エステル基をスルホン酸基に変換することにより合成することができる。
【0062】
また、スルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(1)においてスルホン酸基およびスルホン酸エステル基を有しない構成単位と、上記一般式で表される構成単位からなるポリアリーレンを予め合成し、この重合体をスルホン化することにより合成することもできる。
【0063】
上記一般式(2)の構造単位となりうるオリゴマーとしては、例えば下記一般式(5)で表されるオリゴマー(以下、オリゴマー(5)ともいう。)が挙げられる。ここで、R〜R、W、T、pは、それぞれ上記一般式(2)中のR〜Rと同義である。
【0064】
【化22】

【0065】
式(5)中、R’およびR’’は互いに同一でも異なっていてもよく、フッ素原子を除くハロゲン原子または−OSOZ(ここで、Zはアルキル基、フッ素置換アルキル基またはアリール基を示す。)で表される基を示す。Zが示すアルキル基としてはメチル基、エチル基などが挙げられ、フッ素置換アルキル基としてはトリフルオロメチル基などが挙げられ、アリール基としてはフェニル基、p−トリル基などが挙げられる。
【0066】
上記一般式(5)で表される化合物としては、p=0の場合、たとえば、4,4’−ジクロロペンゾフェノン、4,4’−ジクロロべンズアニリド、ビス(クロロフェニル)ジフルオロメタン、2,2−ビス(4−クロロフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4−クロロ安息香酸−4−クロロフェニル、ビス(4−クロロフェニル)スルホキシド、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロべンゾニトリル、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンが挙げられる。これらの化合物において、塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物、さらにこれらの化合物において4位に置換したハロゲン原子の少なくとも1つ以上が3位に置換した化合物なども挙げられる。
【0067】
また、p=1の場合、上記一般式(5)で表される化合物としては、たとえば、4,4’−ビス(4−クロロベンゾイル)ジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−クロロべンゾイルアミノ)ジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−クロロフェニノレスルホニル)ジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−クロロフェニル)ジフェニルエーテルジカルボキシレート、4,4’−ビス〔(4−クロロフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロブロピノレ〕ジフェニルエーテル、4,4’−ビス〔(4−クロロフェニル)テトラフルオロエチル〕ジフェニルエーテル、これらの化合物において、塩素原子が臭素原子またはヨウ素原子に置き換わった化合物、さらにこれらの化合物において4位に置換したハロゲン原子が3位に置換した化合物、さらにこれらの化合物においてジフェニルエーテルの4位に置換した基の少なくとも1つが3位に置換した化合物なども挙げられる。
【0068】
さらに上記一般式(5)で表される化合物としては、2,2−ビス[4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル]−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、ビス[4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル]スルホン、及び下記式で表される化合物などが挙げられる。
【0069】
【化23】

【0070】
【化24】

【0071】
上記一般式(5)で表される化合物は、たとえば、以下に示す方法で合成することができる。まず、電子吸引性基で連結されたビスフェノールを、対応するビスフェノールのアルカリ金属塩とするために、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイドなどの誘電率の高い極性溶媒中でリチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩などを加える。
【0072】
アルカリ金属はフェノールの水酸基に対して過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.5倍当量で用いる。この際、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトールなどの水と共沸する溶媒を共存させて、電子吸引性基で活性化されたフッ素、塩素等のハロゲン原子で置換された芳香族ジハライド化合物、例えば、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、4,4’−クロロフルオロペンゾフェノン、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、4−フルオロフェニル−4’−クロロフェニルスルホン、ビス(3−ニトロ−4−クロロフェニル)スルホン、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロベンゾニトリル、ヘキサフルオロベンゼン、デカフルオロビフェニル、2,5−ジフルオロペンゾフェノン、1,3−ビス(4−クロロベンゾイル)ベンゼンなどを反応させる。反応性から言えば、フッ素化合物が好ましいが、次の芳香族カップリング反応を考慮した場合、末端が塩素原子となるように芳香族求核置換反応を組み立てる必要がある。
【0073】
活性芳香族ジハライドはビスフェノールに対し、2〜4倍モル、好ましくは2.2〜2.8倍モルの使用である。芳香族求核置換反応の前に予め、ビスフェノールのアルカリ金属塩としていてもよい。反応温度は60℃〜300℃で、好ましくは80℃〜250℃の範囲である。反応時間は15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲である。最も好ましい方法としては、下記式で示される活性芳香族ジハライドとして反応性の異なるハロゲン原子を一個ずつ有するクロロフルオロ体を用いることであり、フッ素原子が優先してフェノキシドと求核置換反応が起きるので、目的の活性化された末端クロロ体を得るのに好都合である。
【0074】
【化25】

【0075】
式中、Wは一般式(5)に関して定義した通りである。また、特開平2−159号公報に記載のように求核置換反応と親電子置換反応とを組み合わせて、目的の電子吸引性基および電子供与性基からなる屈曲性化合物を合成してもよい。具体的には、電子吸引性基で活性化された芳香族ビスハライド、例えばビス(4−クロロフェニル)スルホンをフェノールで求核置換反応させてビスフェノキシ化合物とし、次いで、このビスフェノキシ化合物と4−クロロ安息香酸クロライドとのフリーデルクラフト反応から目的の化合物を得ることができる。
【0076】
ここで用いる電子吸引性基で活性化された芳香族ビスハライドとしては、上記で例示した化合物が挙げられる。フェノール化合物は置換されていてもよいが、耐熱性や屈曲性の観点から無置換化合物が好ましい。なお、フェノールの置換反応にはアルカリ金属塩とすることが好ましく、使用可能なアルカリ金属化合物としては、上記で例示した化合物が挙げられる。使用量はフェノール1モルに対し、1.2〜2倍モルである。反応に際し、上述した極性溶媒や水との共沸溶媒を用いることができる。
【0077】
クロロ安息香酸クロライドは、ビスフェノキシ化合物に対し2〜4倍モル、好ましくは2.2〜3倍モルで使用される。また、ビスフェノキシ化合物と、アシル化剤であるクロロ安息香酸クロライドとのフリーデルクラフト反応は、塩化アルミニウム、三フッ化ホウ素、塩化亜鉛などのフリーデルクラフト活性化剤の存在下で行うことが好ましい。フリーデルクラフト活性化剤は、アシル化剤のクロロ安息香酸などの活性ハライド化合物1モルに対し、1.1〜2倍当量使用する。反応時間は15分〜10時間の範囲で、反応温度は−20℃から80℃の範囲である。使用溶媒は、フリーデルクラフト反応に不活性な、クロロベンゼンやニトロベンゼンなどを用いることができる。
【0078】
また、一般式(5)において、pが2以上である化合物は、例えば、一般式(5)において電子供与性基Tであるエーテル性酸素の供給源となるビスフェノールと、電子吸引性基Wである、>C=O、−SO−および>C(CF)2から選ばれる少なくとも1種の基とを組み合わせた化合物、具体的には2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホンなどのビスフェノールのアルカリ金属塩と、過剰の4,4−ジクロロベンゾフェノン、ビス(4−クロロフェニル)スルホンなどの活性芳香族ハロゲン化合物との置換反応を、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホランなどの極性溶媒の存在下で前記単量体の合成手法に順次重合して得られる。
【0079】
このような化合物の例示としては、下記式で表される化合物などを挙げることができる。
【0080】
【化26】

【0081】
【化27】

【0082】
【化28】

【0083】
上記化学式において、pは0または正の整数であり、上限は通常100、好ましくは10〜80である。
【0084】
スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンは、上述したモノマー(4)とオリゴマー(5)とを触媒の存在下に反応させることにより合成されるが、この際使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系としては、i)遷移金属塩および配位子となる化合物(以下「配位子成分」という。)、または配位子が配位された遷移金属錯体(銅塩を含む)、および(ii)還元剤を必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために、「塩」を添加してもよい。
【0085】
ここで、遷移金属塩としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケノレアセチルアセトナートなどのニッケル化合物;塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウムなどのパラジウム化合物;塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄などの鉄化合物;塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルトなどのコバルト化合物などが挙げられる。これらのうち特に、塩化ニッケノレ、臭化ニッケルなどが好ましい。
【0086】
また、配位子成分としては、トリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジン、1,5−シクロオクタジエン、1,3−ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパンなどが挙げられる。これらのうち、トリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジンが好ましい。上記配位子成分である化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0087】
さらに、配位子が配位された遷移金属錯体としては、例えば、塩化ニッケノレビス(トリフェニルホスフイン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、硝酸ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2’−ビピリジン)、臭化ニッケル(2,2’−)−ビピリジン)、ヨウ化ニッケル(2,2’−)−ビピリジン)、硝酸ニッケル(2,2’−ビピリジン)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムなどが挙げられる。これらのうち、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2’−ビピリジン)が好ましい。
【0088】
上記触媒系に使用することができる還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウムなどが挙げられる。これらのうち、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。これらの還元剤は、有機酸などの酸に接触させることにより、より活性化して用いることができる。
【0089】
また、上記触媒系において使用することのできる「塩」としては、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどのナトリウム化合物、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウムなどのカリウム化合物、フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチノレアンモニウム、臭テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウムなどのアンモニウム化合物などが挙げられる。これらのうち、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0090】
各成分の使用割合は、遷移金属塩または遷移金属錯体が、上記モノマーの総計((4)+(5)、以下同じ)1モルに対し、通常0.0001〜10モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。0.0001モル未満では、重合反応が十分に進行しないことがあり、一方、10モルを超えると、分子量が低下することがある。
【0091】
触媒系において、遷移金属塩および配位子成分を用いる場合、この配位子成分の使用割合は、遷移金属塩1モルに対し、通常0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、触媒活性が不十分となることがあり、一方、100モルを超えると、分子量が低下することがある。
【0092】
また、還元剤の使用割合は、上記モノマーの総計1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、重合が十分進行しないことがあり、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難になることがある。
【0093】
さらに、「塩」を使用する場合、その使用割合は、上記モノマーの総計1モルに対し、通常、0.001〜100モル、好ましくは0.01〜1モルである。0.001モル未満では、重合速度を上げる効果が不十分であることがあり、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難となることがある。
【0094】
モノマー(4)とオリゴマー(5)とを反応させる際に使用することのできる重合溶媒としては、例えばテトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。これらのうち、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノンが好ましい。重合溶媒中における上記モノマーの総計の濃度は、通常1〜90質量%、好ましくは5〜40質量%である。重合する際の重合温度は、通常0〜200℃、好ましくは50〜120℃である。また、重合時間は、通常0.5〜100時間、好ましくは1〜40時間である。
【0095】
モノマー(4)を用いて得られたスルホン酸エステル基を有するポリアリーレンは、スルホン酸エステル基を加水分解して、スルホン酸基に変換することによりスルホン酸基を有するポリアリーレンとすることができる。
【0096】
加水分解の方法としては、(1)少量の塩酸を含む過剰量の水またはアルコールに、上記スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを投入し、5分間以上撹拌する方法(2)トリフルオロ酢酸中で、上記スルホン酸エステル基を有するポリアリーレンを80〜120℃程度の温度で5〜10時間程度反応させる方法(3)スルホン酸エステル基を有するポリアリーレン中のスルホン酸エステル基(−SOR)1モルに対して1〜3倍モルのリチウムブロマイドを含む溶液、例えばN−メチルピロリドンなどの溶液中で、上記ポリアリーレンを80〜150℃程度の温度で3〜10時間程度反応させた後、塩酸を添加する方法などを挙げることができる。
【0097】
上記スルホン酸基を有するポリアリーレンは、上記一般式(4)で表されるモノマー(4)においてスルホン酸基およびスルホン酸エステル基を有しないモノマーと、上記一般式(5)で表されるオリゴマー(5)とを共重合させることにより、ポリアリーレン系共重合体を予め合成し、このポリアリーレン系共重合体をスルホン化することにより合成することもできる。この場合、上記合成方法に準じた方法によりスルホン酸基を有しないポリアリーレンを製造した後、スルホン化剤を用い、スルホン酸基を有しないポリアリーレンにスルホン酸基を導入することにより、スルホン酸基を有するポリアリーレンを得ることができる。
【0098】
スルホン酸基を導入する方法としては、例えば、上記スルホン酸基を有しないポリアリーレンを、無溶剤下または溶剤存在下で、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、硫酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの公知のスルホン化剤を用いて、公知の条件でスルホン化する方法が挙げられる〔Po1ymer Preprints,Japan,Vo1.42,No.3,p.730(1993);Po1ymer Preprints,Japan,Vol.43,No.3,p.736(1994);Po1ymer Preprints,Japan,Vo1,42,N0,7,p.2490〜2492(1993)〕。
【0099】
スルホン化の際に用いられる溶剤としては、例えば、n−へキサンなどの炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン系極性溶剤、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化炭化水素などが挙げられる。反応温度は特に制限はないが、通常−50〜200℃、好ましくは−10〜100℃である。また、反応時間は、通常0.5〜1,000時間、好ましくは1〜200時間である。
【0100】
上記のような方法により製造されるスルホン酸基を有するポリアリーレン(b)中のスルホン酸基量は、通常0.3〜5meq/g、好ましくは0.5〜3meq/g、さらに好ましくは0.8〜2.8meq/gである。0.3meq/g未満では、プロトン伝導度が低く実用的ではない。一方、5meq/gを超えると、耐水性が大幅に低下してしまうことがあるため好ましくない。
【0101】
上記スルホン酸基量は、例えばモノマー(4)およびオリゴマー(5)の種類、使用割合、組み合わせを変えることにより、調整することができる。このようにして得られるスルホン酸基を有するポリアリーレンの分子量は、ゲルパーミエションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万である。1万未満では、成形フィルムにクラックが発生するなど、塗膜性が不充分であり、また強度的性質にも問題がある。一方、100万を超えると、溶解性が不充分となり、また溶液粘度が高くなるため加工性が悪化するなどの問題がある。
【0102】
本発明のプロトン伝導体組成物には、老化防止剤、好ましくは分子量500以上の、ヒンダードフェノール系化合物を含有してもよい。ヒンダードフェノール系化合物としては、トリエチレングリコールービス[3−(3−t−ブチル5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX245)、1,6−へキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX259)、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン(商品名:IRGANOX565)、ペンタエリスリチルーテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX1010)、2,2−チオージエチレンビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート](商品名:IRGANOX1035)、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)(商品名:IRGANOX1076)、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)(IRGAONOX1098)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン(商品名:IRGANOX1330)、トリス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト(商品名:IRGANOX3114)、3,9−ビス[2−〔3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ〕−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン(商品名:SumilizerGA−80)などを挙げることができる。
【0103】
上記ヒンダードフェノール系化合物は、スルホン酸基を有するポリアリーレン100質量部に対して0.01〜10質量部の量で使用することが好ましい。
【0104】
<一般式(1)と(3)を含むポリアリーレン>
本発明に用いられるスルホン酸基を有するポリアリーレンは、特に限定されないが、上記一般式(1)で表される構成単位と、下記一般式(3)で表される構造単位と、を含む重合体であることも好ましい。一般式(1)で表される構成単位については、上記と同様であるのでその説明を省略する。
【0105】
次に、下記の一般式(3)について説明する。
【0106】
【化29】

【0107】
(式(3)中、Bは独立に酸素原子又は硫黄原子であり、R〜R11は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、ニトリル基及びアルキル基からなる群より選ばれる原子又は基を表し、nは2以上の整数を表し、Qは下記一般式(q)で表される構造を表す。)
【0108】
【化30】

【0109】
(式(q)中、Aは独立に、2価の原子、2価の有機基、直接結合のいずれかであり、R12〜R19は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、ニトリル基、アルキル基及び芳香族基からなる群より選ばれる原子又は基を表す。芳香族基はその誘導体を含む。)
【0110】
上記一般式(1)で表される構成単位と、一般式(3)で表される構成単位とを少なくとも含む重合体は、ブロックコポリマーであることが好ましい。このブロックコポリマーは、一般式(1)においてArで表される芳香族基にスルホン酸基が導入されてスルホン化物を形成する。この結果、スルホン化された前記第1の繰り返し単位は親水性部を形成し、スルホン化されない前記第2の繰り返し単位は疎水部となるので、親水部と疎水部とを備えるブロックコポリマーを得ることができる。
【0111】
また、一般式(3)で表される繰り返し単位は、構造中にニトリル基(−CN)を含むので、前記ポリアリーレン系重合体の耐熱性、耐酸性を高くすることができると共に、この繰り返し単位の疎水性をさらに高めることができ、親水部と疎水部との相分離を促進できるため、少量の水でも効率よくイオン伝導性を付与することができ、ポリアリーレン系重合体の寸法変化率を低く抑えることができる。従って、優れた耐熱性、耐酸性、イオン伝導性とを得ることができる。また、該ポリアリーレン系重合体のスルホン化物寸法変化率が低くなるので、膜−電極構造体にした場合、高分子電解質膜と電極触媒層との間で優れた接着性を得ることができる。
【0112】
一般式(3)において、R〜Rで示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基等を挙げることができるが、メチル基、エチル基等が好ましい。また、一般式(3)において、nは2以上の整数であり、上限は通常100、好ましくは80である。
【0113】
一般式(q)において、R〜R11で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基等を挙げることができるが、メチル基、エチル基等が好ましい。また、一般式(q)において、R〜R11で示される芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、フェノキシジフェニル基、フェニルフェニル基、ナフトキシフェニル等を挙げることができる。
【0114】
一般式(q)において、Aで示される2価の有機基としては、例えば、−CO−、−CONH−、−(CF−(ここで、pは1〜10の整数である)、−C(CF3)2−、−COO−、−SO−、−SO−等の電子吸引性基、−O−、−S−、−CH=CH−、−C≡C−、及び次式で表される基等の電子供与性基等を挙げることができる。尚、前記電子吸引性基とは、ハメット(Hammett)置換基定数がフェニル基のm位の場合、0.06以上、p位の場合、0.01以上の値となる基をいう。
【0115】
【化31】

【0116】
また、一般式(q)において、電子供与性基は次の一般式(6)で示される基であってもよい。
【0117】
【化32】

【0118】
(式中、R12〜R19は、水素原子、フッ素原子、アルキル基または芳香族基であって、互いに同一でも異なっていてもよく、芳香族基はその誘導体を含む。)
【0119】
一般式(6)において、R12〜R19で示されるアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、アミル基、ヘキシル基等を挙げることができるが、メチル基、エチル基等が好ましい。また、一般式(6)において、R12〜R19で示される芳香族基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、ピリジル基、フェノキシジフェニル基、フェニルフェニル基、ナフトキシフェニル等を挙げることができる。
【0120】
また、前記一般式(q)で表される構造は、前記Aが、−CONH−、−(CF−(ここでpは1〜10の整数である)、−C(CF)2−、−COO−、−SO−、及び−S0−からなる群から選ばれる1種の有機基である第1の構造と、直接結合または前記式(4)で表される有機基である第2の構造とを含むものであってもよい。
【0121】
この場合、前記一般式(q)で表される構造は、第1の構造70〜99モル%と、第2の構造1〜30モル%とからなる(ただし、該第1の構造と該第2の構造との合計を100モル%とする)ことが好ましい。また、第1の構造の含有量は20〜99モル%がより好ましく、30〜95モル%が更に好ましく、35〜90モル%が特に好ましい。また、第2の構造の含有量は1〜80モル%がより好ましく、5〜70モル%が更に好ましく、10〜65モル%が特に好ましい。第1の構造の含有量と第2の構造の含有量とがこの範囲にあることにより、一般式(1)で表される第1の繰り返し単位と、一般式(3)で表される第2の繰り返し単位と、を含有するポリアリーレン系重合体の寸法変化率をより低く抑えることが可能となる。
【0122】
上記のプロトン伝導体組成物には、一般式(1)及び(2)を含むポリアリーレンと同様の、老化防止剤、好ましくは分子量500以上の、ヒンダードフェノール系化合物を含有してもよい。
【0123】
<一般式(1)及び(3)を含むポリアリーレンの製造方法>
上記スルホン酸基を有するポリアリーレンは、例えば、上記一般式(4)で表される化合物と、下記一般式(7)で表される化合物とを、遷移金属化合物を含む触媒の存在下で共重合反応させることにより合成することができる。
【0124】
【化33】

【0125】
一般式(7)において、B、R〜R、n、Qは、一般式(3)と同義であり、X’は、フッ素を除くハロゲン原子(塩素、臭素、ヨウ素)、−OSOCH3、−OSOCFからなる群から選ばれる原子または基を示す。
【0126】
一般式(7)で表される化合物は、例えば、次のような反応により合成することができる。
【0127】
まず、2価の原子もしくは有機基または直接結合で連結されたビスフェノールを、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン、ジメチルスルホキサイド等の誘電率の高い極性溶媒に溶解し、対応するビスフェノールのアルカリ金属塩とするために、該極性溶媒中で、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、水素化アルカリ金属、水酸化アルカリ金属、アルカリ金属炭酸塩等を加える。アルカリ金属はフェノールの水酸基に対し、過剰気味で反応させ、通常、1.1〜2倍当量、好ましくは1.2〜1.5倍当量で使用する。このとき、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、アニソール等の水と共沸する溶媒を共存させて、反応の進行を促進させることが好ましい。
【0128】
次いで、前記ビスフェノールのアルカリ金属塩と、塩素等のハロゲン原子及びニトリル基で置換されたペンゾニトリル系化合物とを反応させる。前記ペンゾニトリル系化合物としては、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,6−ジフルオロペンゾニトリル、2,5−ジクロロペンゾニトリル、2,5−ジフルオロペンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジニトロベンゾニトリル、2,5−ジニトロベンゾニトリル、2,4−ジニトロベンゾニトリル等を挙げることができる。前記化合物の中では、ジクロロベンゾニトリル系化合物が好ましく、2,6−ジクロロペンゾニトリルがさらに好ましい。
【0129】
前記ペンゾニトリル系化合物は、ビスフェノールに対し1.0001〜3倍モル、好ましくは1.001〜2倍モルの量で用いられる。また両末端が塩素原子となるように、反応終了後に、例えば、2,6−ジクロロベンゾニトリルを過剰に加えてさらに反応させてもよい。ジフルオロペンゾニトリル系化合物やジニトロベンゾニトリル系化合物を用いた場合には、反応後半でジクロロベンゾニトリル系化合物を添加する等の方法で、両末端が塩素原子となるよう反応を工夫することが必要である。前記反応は、反応温度が60℃〜300℃、好ましくは80℃〜250℃の範囲で、反応時間が15分〜100時間、好ましくは1時間〜24時間の範囲で行われる。
【0130】
前記反応により得られたオリゴマー乃至ポリマーは、ポリマーの一般的な精製方法、例えば、溶解−沈殿の操作によって精製することができる。分子量は、過剰の芳香族ジクロライドとビスフェノールとの反応モル比によって調整することができる。前記反応系では、ニトリル基で置換された芳香族ジクロライドが過剰に存在しているため、得られるオリゴマー乃至ポリマーの分子末端は、ニトリル基で置換された芳香族クロライドになっている。
【0131】
ニトリル基で置換された芳香族クロライドを分子末端に有するオリゴマーまたはポリマーの具体的な化合物として、例えば、次の化合物を挙げることができる。
【0132】
【化34】

【0133】
【化35】

【0134】
一般式(4)で表される化合物と、一般式(7)で表される化合物との共重合反応において、一般式(4)で表される化合物の使用量は、全量に対して99.999〜10モル%、好ましくは99.9〜20モル%の範囲であり、一般式(7)で表される化合物の使用量は、全量に対して0.001〜90モル%、好ましくは0.1〜80モル%の範囲である。
【0135】
前記共重合反応に使用される触媒は、遷移金属化合物を含む触媒系であり、この触媒系は、遷移金属塩及び配位子となる化合物(以下、配位子成分という)、または配位子が配位された遷移金属金書体(銅塩を含む)と、還元剤とを必須成分とし、さらに、重合速度を上げるために、塩を添加してもよい。
【0136】
ここで、遷移金属塩としては、塩化ニッケル、臭化ニッケル、ヨウ化ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート等のニッケル化合物、塩化パラジウム、臭化パラジウム、ヨウ化パラジウム等のパラジウム化合物、塩化鉄、臭化鉄、ヨウ化鉄等の鉄化合物、塩化コバルト、臭化コバルト、ヨウ化コバルト等のコバルト化合物等を挙げることができる。前記遷移金属塩のうち、特に、塩化ニッケル、臭化ニッケル等が好ましい。
【0137】
また、前記配位子成分としては、トリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジン、1,5−シクロオクタジエン、1,3−ビス(ジフェニルホスヒノ)プロパン等を挙げることができる。これらのうち、トリフェニルホスフィン、2,2’−ビピリジンが好ましい。前記配位子成分である化合物は、1種単独で、あるいは2種以上を併用することができる。
【0138】
さらに、前記配位子が配位された遷移金属錯体としては、例えば、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、臭化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、ヨウ化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、硝酸ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2’−ビピリジン)、臭化ニッケル(2,2’−ビピリジン)、ヨウ化ニッケル(2,2’−ビピリジン)、硝酸ニッケル(2,2’−ビピリジン)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスファイト)ニッケル、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム等を挙げることができる。前記配位子が配位された遷移金属錯体のうち、塩化ニッケルビス(トリフェニルホスフィン)、塩化ニッケル(2,2’−ビピリジン)が好ましい。
【0139】
前記触媒系に使用することができる還元剤としては、例えば、鉄、亜鉛、マンガン、アルミニウム、マグネシウム、ナトリウム、カルシウム等を挙げることができる。前記還元剤のうち、亜鉛、マグネシウム、マンガンが好ましい。前記還元剤は、有機酸等の酸に接触させることにより、より活性化して用いることができる。
【0140】
また、前記触媒系において使用することのできる前記塩としては、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、硫酸ナトリウム等のナトリウム化合物、フッ化カリウム、塩化カリウム、臭化カリウム、ヨウ化カリウム、硫酸カリウム等のカリウム化合物、フッ化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、硫酸テトラエチルアンモニウム等のアンモニウム化合物等を挙げることができる。前記塩のうち、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、臭化カリウム、臭化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウムが好ましい。
【0141】
前記触媒系において、遷移金属塩または遷移金属錯体の使用割合は、一般式(4)で表される化合物と、一般式(7)で表される化合物との合計1モルに対し、通常、0.0001〜10モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。0.0001モル未満では、重合反応が十分に進行しないことがあり、一方、10モルを超えると、分子量が低下することがある。
【0142】
前記触媒系において、遷移金属塩及び配位子成分を用いる場合、この配位子成分の使用割合は、前記遷移金属塩1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、触媒活性が不十分となることがあり、一方、100モルを超えると、分子量が低下することがある。
【0143】
また、前記触媒系において、還元剤の使用割合は、一般式(4)で表される化合物と、一般式(7)で表される化合物との合計1モルに対し、通常、0.1〜100モル、好ましくは1〜10モルである。0.1モル未満では、重合が十分進行しないことがあり、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難になることがある。
【0144】
さらに、前記触媒系において、前記塩を使用する場合、その使用割合は、一般式(6)で表される化合物と、一般式(7)で表される化合物との合計1モルに対し、通常、0.001〜100モル、好ましくは0.01〜1モルである。0.001モル未満では、重合速度を上げる効果が不十分であることがあり、100モルを超えると、得られる重合体の精製が困難となることがある。
【0145】
前記共重合反応に使用することのできる重合溶媒としては、例えば、テトラヒドロフラン、シクロヘキサノン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−プチロラクトン、スルホラン、γ−プチロラクタム、ジメチルイミダゾリジノン、テトラメチル尿素等を挙げることができる。これらのうち、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドンが好ましい。前記重合溶媒は、十分に乾燥してから用いることが好ましい。
【0146】
重合溶媒中における前記一般式(4)で表される化合物と、一般式(7)で表される化合物との合計の濃度は、通常、1〜90重量%、好ましくは5〜40重量%である。また、重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは50〜120℃であり、重合時間は、通常、0.5〜100時間、好ましくは1〜40時間である。
【0147】
前記のようにして得られるポリアリーレン系重合体の分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(以下、GPCと略記する)によるポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万、好ましくは2万〜80万である。ポリスチレン換算重量平均分子量が1万未満では、成形ヒルムにクラックが発生する等、塗膜性が不十分であり、また強度的性質にも問題がある。一方、ポリスチレン換算重量平均分子量100万を超えると、溶解性が不十分となり、また溶液粘度が高く、加工性が不良になる等の問題がある。
【0148】
前記ポリアリーレン系重合体のスルホン化物は、該ポリアリーレン系重合体自体をスルホン化してもよく、一般式(4)においてスルホン酸エステル基で置換されているArを備える化合物を用いてポリアリーレン系重合体のスルホン酸エステル化物を合成した後、該スルホン酸エステル化物を加水分解して、対応するポリアリーレン系重合体のスルホン化物としてもよい。
【0149】
スルホン酸基を有しない前記ポリアリーレン系重合体をスルホン化するには、スルホン化剤を用いて該ポリアリーレン系重合体にスルホン酸基を導入する。前記スルホン酸基を導入する方法としては、例えば、前記スルホン酸基を有しないポリアリーレン系重合体を、無水硫酸、発煙硫酸、クロルスルホン酸、硫酸、亜硫酸水素ナトリウム等の公知のスルホン化剤を用いて、公知の条件でスルホン化する方法により行うことができる(例えば、Polymer Preprints,Japan,Vol.42,No.3,p.730(1993)、Polymer Preprints,Japan,Vol.43,No.3,p.736(1994)、Polymer Preprints,Japan,Vol.42,No.7,p.2490〜2492(1993)参照)。
【0150】
すなわち、このスルホン化の反応条件としては、前記スルホン酸基を有しないポリアリーレン系重合体を、無溶剤下または溶剤存在下で、前記スルホン化剤と反応させる。前記溶剤としては、例えば、n−ヘキサン等の炭化水素溶剤、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶剤、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドのような非プロトン系極性溶剤のほか、テトラクロロエタン、ジクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素等を挙げることができる。反応温度は特に制限はないが、通常、−50〜200℃、好ましくは−10〜100℃である。また、反応時間は、通常、0.5〜1,000時間、好ましくは1〜200時間である。
【0151】
一方、前記ポリアリーレン系重合体のスルホン酸エステル化物を加水分解して、対応するポリアリーレン系重合体のスルホン化物とする場合には、まず、一般式(4)においてスルホン酸エステル基で置換されているArを備える化合物を、前記共重合反応と同様にして、一般式(7)で表される化合物と反応させることにより、ポリアリーレン系車合体のスルホン酸エステル化物を合成する。
【0152】
前記ポリアリーレン系重合体のスルホン酸エステル化物の加水分解の方法としては、少量の塩酸を含む過剰量の水またはアルコールに、前記ポリアリーレン系重合体のスルホン酸エステル化物を投入し、5分間以上鏡拝する方法、トリフルオロ酢酸中で、前記ポリアリーレン系重合体のスルホン酸エステル化物を80〜120℃程度の温度で5〜10時間程度反応させる方法、ポリアリーレン系重合体中のスルホン酸エステル基(−SOR)1モルに対して、1〜3倍モルのリチウムブロマイドを含む溶液、例えばN−メチルピロリドン等の溶液中で、該重合体を80〜150℃程度の温度で3〜10時間程度反応させた後、塩酸を添加する方法等を挙げることができる。
【0153】
前記加水分解によれば、前記ポリアリーレン系重合体のスルホン酸エステル化物のスルホン酸エステル基(−SOR)をスルホン酸基(−SOH)に転換することにより、対応するポリアリーレン系重合体のスルホン化物を得ることができる。前記ポリアリーレン系重合体のスルホン化物においては、ポリアリーレン系重合体のスルホン酸エステル化物中のスルホン酸エステル基(−SOR)の90%以上が、スルホン酸基(−SOH)に転換していることが好ましい。
【0154】
このようにして得られるポリアリーレン系重合体のスルホン化物中の、スルホン酸基量は、0.5〜3meq/g、好ましくは0.8〜2.8meq/gである。0.5meq/g未満では、十分なプロトン伝導性が得られないことがあり、一方、3meq/gを超えると、親水性が向上し、水溶性ポリマーとなってしまうか、水溶性でなくとも熱水に可溶となってしまうか、または水溶性に至らずとも耐久性が低下することがある。
【0155】
前記のスルホン酸基量は、前記一般式(4)で表される化合物と、一般式(7)で表される化合物との使用割合、さらに前記一般式(4)で表される化合物と、一般式(7)で表される化合物との種類、組合せを変えることにより、容易に調整することができる。
【0156】
尚、前記ポリアリーレン系重合体のスルホン化物の構造は、赤外線吸収スペクトルによって、1,030〜1,045cm−、1,160〜1,190cm−のS=O吸収、1,130〜1,250cm−のC−O−C吸収、1,640〜1,660cm−のC=O吸収等により確認することができ、これらの組成比は、スルホン酸の中和滴定や、元素分析により知ることができる。また、前記ポリアリーレン系重合体のスルホン化物の構造は、核磁気共鳴スペクトル(H−NMR)により、6.8〜8.0ppmの芳香族プロトンのピークから確認することができる。
【0157】
<水溶性フラーレン誘導体>
フラーレンとしては、公知のものが利用でき、球状炭素クラスター分子C(n=36、60、70、76、78、80、82、84等)が例示できる。そして、このフラーレン分子をハロゲン原子と反応させてハロゲン化フラーレンを生成し、当該ハロゲン化フラーレンに、例えば、水酸化物や亜硫酸塩を反応させる方法、当該ハロゲン化フラーレンとプロトン解離性の基を有する芳香族化合物との置換反応をする方法などにより、プロトン解離性の基またはその基を含む原子団を結合させることができる。プロトン解離性の基としては、−XH又は−C(YH)(ZH)−(X、Y及びZは2価の結合手を有する任意の原子若しくは原子団である。)であり、具体的には−OH又は−OH含有の原子団、即ち−OSOH、−COOH、−SOH、−OPO(OH)のいずれかであることが好ましい。また、プロトン解離性の基が−C(YH)(ZH)−の構造をもつ場合、この基を含む原子団の両端でフラーレン骨格を構成する2個の炭素原子と結合して、3員環以上の環構造であることも好ましい。
【0158】
このような水溶性フラーレン誘導体の具体例としては、C60(CSOH)が挙げられる。なお、上記の水溶性フラーレン誘導体は市販されている公知のものを用いてもよい。
<プロトン伝導体組成物>
本発明のプロトン伝導体組成物は、スルホン酸基を有するポリアリーレンと、水溶性フラーレン誘導体と、を含む。プロトン伝導体組成物における水溶性フラーレン誘導体の含有量は、スルホン酸基を有するポリアリーレン100質量部に対して、水溶性フラーレン誘導体を0.01〜50質量部含有することが好ましく、0.1〜25質量部含有することがより好ましい。
【0159】
水溶性フラーレン誘導体の含有量が0.01質量部未満であると、充分な耐久性を付与することができなくなるので好ましくない。また、この含有量が50質量%を超えると、プロトン伝導膜中のプロトンの移動を阻害し、電圧低下を引き起こすので好ましくない。
【0160】
<プロトン伝導膜>
本発明に係るプロトン伝導膜は、上記プロトン伝導体組成物を用いてフィルム状に成形することにより製造される。
【0161】
プロトン伝導膜を製造する方法としては、特に制限されず、例えば、上記ポリマー成分とキノン化合物とを含有する組成物を有機溶媒に溶解して、均質な溶液状の組成物とした後、この溶液を基体上にキャストすることによりフィルム状に成形するキャスティング法、または、ポリマー成分を混合溶融した後に押出し成形によってフィルムを製造する方法などが挙げられる。
【0162】
キャスティング法に用いられる有機溶媒としては、特に限定されないが、γ一ブチロラクトン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチル尿素などの非プロトン系極性溶剤などが挙げられる。これらの溶剤には、さらにメタノール、エタノール、N−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、1−メトキシ−2−プロパノールなどのアルコール系溶剤が混合されていてもよい。
【0163】
また、キャスティングを行う場合、ポリマー成分を有機溶媒に溶解した溶液の固形分濃度、すなわちポリマー成分の割合は、3〜40質量%、好ましくは5〜35質量%である。上記範囲よりも低いと、充分な厚さの塗膜が得られないことがあり、また、ピンホールが生成しやすい傾向にあり、一方、上記範囲を超えると、充分に流延せず、均一な塗膜が得られないことがあり、また、表面平滑性に欠けることがある。
【0164】
キャスティング法で用いられる基体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリブチレンテレフタレート(PBT)フィルム、ナイロン6フィルム、ナイロン6,6フィルム、ポリプロピレンフィルム、ポリカーボネートフィルムなどのプラスチックフィルムのほか、ガラス板などが挙げられ、好ましくはPETフィルム、ガラス板である。
【0165】
また、この基体として用いられるプラスチックフィルム(板)の厚みは、通常50〜250μm、好ましくは75〜200μmであり、ガラス板の厚みは、通常1〜5mmである。
【0166】
上記キャスティング法による製膜後、室温〜200℃、好ましくは50〜150℃で、5〜180分、好ましくは5〜120分、加熱・乾燥することにより、プロトン伝導膜が得られる。乾燥は、常圧〜真空下の条件が適用できる。また、加熱は、逐次昇温して処理してもよい。
【0167】
上記のようにして製造されるプロトン伝導膜の乾燥膜厚は、通常10〜150μm、好ましくは20〜80μmである。
【0168】
本発明のプロトン伝導膜は、スルホン酸基を有するポリアリーレンと、水溶性フラーレン誘導体とが複合化(積層化も含む)されており、スルホン酸基を有するポリアリーレンのみからなる伝導膜に比べて、強度的性質、靭性および耐熱水性などを維持するとともに、高温においても優れたプロトン伝導性を示す。
【実施例】
【0169】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0170】
実施例中の各種の測定項目は下記のようにして求めた。
(スルホン酸基の当量(イオン交換容量))
得られたスルホン酸基を有するポリアリーレンの水洗水が中性になるまで蒸留水で洗浄し、フリーの残存している酸を除いて充分に水洗した後、乾燥させた。この後、所定量を秤量し、THF/水の混合溶剤に溶解させ、フェノールフタレインを指示薬としてNaOHの標準液を用いて滴定を行い、中和点からスルホン酸基の当量(イオン交換容量)(meq/g)を求めた。
【0171】
(分子量測定)
本実施例のスルホン酸基を有するポリアリーレンの重量平均分子量および数平均分子量は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用い、GPCによって測定されたポリスチレン換算の分子量である。
【0172】
(プロトン伝導度)
交流抵抗は、前記膜試料を5mm幅の短冊状とし、この膜試料の表面に白金線(φ=0.5mm)を押し当て、恒温恒湿装置中にこの膜試料を保持して、白金線間の交流インピーダンス測定から求めた。すなわち、100℃、120℃、150℃、飽和水蒸気圧の環境下で交流10kHzにおけるインピーダンスを測定した。抵抗測定装置として、Solartron社製SI1260インピーダンスアナライザを用い、恒温恒湿装置には、エスペック社製小型環境試験機SH−241を使用した。白金線は5mm間隔に5本押し当てて、線間距離を5〜20mmに変化させて、交流抵抗を測定した。線間距離と抵抗の勾配から膜の比抵抗を算出し、比抵抗の逆数から交流インピーダンスを算出し、このインピーダンスから、プロトン伝導度を求めた。
比抵抗R[Ω・cm]=0.5[cm]×膜厚[cm]×抵抗線間勾配[Ω/cm]
【0173】
(成膜製評価)
成膜性は、基材にキャストして成形した膜を、乾燥時および乾燥後基材から剥離させる際に、膜にクラックの発生有無で評価を行った。
【0174】
クラックが発生しなかったものを良として「○」で表示し、クラックが発生したものは不良として「×」で表示した。
【0175】
[合成例1]
(オリゴマーの調整)
攪拌機、温度計、Dean−Stark管、窒素導入の三方コックを取り付けたILの三つ口のフラスコに、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)67.3g(0.20モル)、4,4’−ジクロロベンゾフェノン(4,4’−DCBP)60.3g(0.24モル)、炭酸カリウム71.9g(0.52モル)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)300mL、トルエン150mLをとり、オイルバス中、窒素雰囲気化で加熱し攪拌下130℃で反応させた。反応により生成する水をトルエンと共沸させ、Dean−Stark管で系外に除去しながら反応させると、約3時間で水の生成がほとんど認められなくなった。反応温度を130℃から徐々に150℃まで上げた。その後、反応温度を徐々に150℃まで上げながら大部分のトルエンを除去し、150℃で10時間反応を続けた後、4,4’−DCBP 10.0g(0.040モル)を加え、さらに5時間反応した。得られた反応液を放冷後、副生した無機化合物の沈殿物を濾過除去し、濾液を4Lのメタノール中に投入した。沈殿した生成物を濾別、回収し乾燥後、テトラヒドロフラン300mLに溶解した。これをメタノール4Lに再沈殿し、目的の化合物95g(収率85%)を得た。得られた重合体のGPC(THF溶媒)で求めたポリスチレン換算の数平均分子量は11200であった。また、得られた化合物は下記式で表されるオリゴマー(以下、「BCPAFオリゴマー」という)であった。
【0176】
【化36】

【0177】
[合成例2]
(スルホン化ポリマーの合成)
攪拌機、温度計、冷却管、Dean−stark管、窒素導入の三方コックを取り付けた1Lの三口のフラスコに、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオペンチル(A−SOneo−Pe)39−58g(98.64ミリモル)、(1)で得られたBCPAFオリゴマ−(Mn=11,200)15.23g(1.36ミリモル)、Ni(PPhC11.67g(2.55ミリモル)、PPh10.49g(40ミリモル)、NaI0.45g(3ミリモル)、亜鉛末15.69g(240ミリモル)、乾燥NMP390mlを窒素下で加えた。反応系を攪拌下に加熱し(最終的には75℃まで加温)、3時間反応させた。重合反応液をTHF250mlで希釈し、30分攪拌し、セライトを濾過助剤に用いて濾過し、濾液を大過剰のメタノール1500mlに注いで凝固させた。凝固物を濾集、風乾し、さらにTHF/NMP(それぞれ200/300ml)に再溶解し、大過剰のメタノール1500ml凝固析出させた。風乾後、加熱乾燥により目的の黄色繊維状のネオペンチル基で保護されたスルホン酸誘導体からなる共重合体(PolyAB−SOneo−Pe)47.0g(収率99%)を得た。GPCによる分子量は、数平均分子量(Mn)が47,600、質量平均分子量(Mw)が15,9000であった。得られたPolyAB−S0neo−Pe5.1gをNMP60mlに溶解し、90℃に加温した。反応系に、メタノール50m1と濃塩酸8mlとの混合物を一時に加えて懸濁状態とし、温和な還流条件で10時間反応させた。蒸留装置を設置し、過剰のメタノールを溜去させ、淡緑色の透明液体を得た。この溶液を大量の水/メタノール(1:1重量比)中に注いで、ポリマーを凝固させた後、洗浄水のpHが6以上となるまで、イオン交換水でポリマーを洗浄した。こうして得られたポリマーのIRスペクトルおよびイオン交換容量の定量分析から、スルホン酸エステル基(−S0)は定量的にスルホン酸基(−S0H)に転換していることがわかった。得られたスルホン酸基を有するポリアリーレン共重合体のGPCによる分子量は、Mnが53,200、Mwが185,000であり、スルホン酸当量は1.9meq/gであった。
【0178】
[合成例3]
(オリゴマーの調製)
攪拌機、温度計、Dean−stark管、窒素導入管、冷却管をとりつけた1Lの三口フラスコに、2,6−ジクロロベンゾニトリル48.8g(284mmol)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン89.5g(266mmol)、炭酸カリウム47,8g(346mmol)をはかりとった。窒素置換後、スルホラン346mL、トルエン173mLを加えて攪拌した。オイルバスで反応液を150℃で加熱還流させた。反応によって生成する水はDean−stark管にトラップした。3時間後、水の生成がほとんど認められなくなったところで、トルエンをDean−stark管から系外に除去した。徐々に反応温度を200℃に上げ、3時間攪拌を続けた後、2,6−ジクロロべンゾニトリル9.2g(53mmol)を加え、さらに5時間反応させた。反応液を放冷機、トルエン100mLを加えて希釈した。反応液に不溶の無機塩を濾過し、濾液をメタノール2Lに注いで生成物を沈殿させた。沈殿した生成物を濾過、乾燥後、テトラヒドロフラン250mLに溶解し、これをメタノール2Lに注いで再沈殿させた。沈殿した白色粉末を濾過、乾燥し、目的物109gを得た。GPCで測定した数平均分子量(Mn)は9,500であった。この化合物のH−NMRスペクトルから、得られた化合物は下記式で表されるオリゴマーであることを確認した。
【0179】
【化37】

【0180】
[合成例4]
(スルホン化ポリマーの合成)
攪拌機、温度計、窒素導入管をとりつけた1Lの三口フラスコに、3−(2,5−ジクロロベンゾイル)ベンゼンスルホン酸ネオベンチル135.2g(337mmol)、実施例1で得られたMn9,500の疎水性ユニット48.7g(5.1mmol)、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロリド6.71g(10.3mmol)、ヨウ化ナトリウム1.54g(10.3mmol)、トリフェニルホスフィン35.9g(137mmol)、亜鉛53.7g(821mmol)をはかりとり、乾燥窒素置換した。ここにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)430mLを加え、反応温度を80℃に保持しながら3時間攪拌を続けた後、DMAc730mLを加えて希釈し、不溶物を濾過した。得られた溶液を攪拌機、温度計、窒素導入管を取り付けた2Lの三口フラスコに入れた。115℃に加熱攪拌し、臭化リチウム44g(506mmol)を加えた。7時間攪拌後、アセトン5Lに注いで生成物を沈殿させた。ついで、1N塩酸、純水の順で洗浄後、乾燥して目的の重合体122gを得た。得られた重合体の重量平均分子量(Mw)は135,000であったH−NMRスペクトルから、得られた重合体は下記式で表されるスルホン化ポリマーと推定される。また、スルホン酸当量は2.4meq/gであった。
【0181】
【化38】

【0182】
<実施例1>
合成例2で得られたスルホン酸を有するポリアリーレン60g、メタノール136gおよびN−メチル−2−ピロリドン204gを1000ccのポリ瓶にとり、攪拌して均一なポリマー溶液を得た。これに水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)1.8g(3質量%)を加え、ディスパーサーにより20分混合し、均一分散させた。上記の溶液をPETフィルム上にパーコータ一法によりキャストし、80℃で30分間、次いで140℃で60分間乾燥することで、膜厚40μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0183】
<実施例2>
実施例1において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)の添加量を0・06g(0.1質量%)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ42μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0184】
<実施例3>
実施例1において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)の添加量を0.006g(0.01質量%)とした以外は、実施例1と同様にして厚さ41μmの均一な団体電解質膜を得た。
【0185】
<実施例4>
合成例4で、得られたスルホン酸を有するポリアリーレン60g、メタノール136gおよびN―メチル−2−ピロリドン204gを1000ccのポリ瓶にとり、攪拌して均一なポリマー溶液を得た。これに水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)3g(5質量%)を加え、ディスパーサーにより20分混合し、均一分散させた。上記の溶液をPETフィルム上にバーコータ一法によりキャストし、80℃で30分間、次いで140℃で60分間乾燥することで、膜厚41μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0186】
<実施例5>
実施例4において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)の添加量を6g(10質量%)とした以外は、実施例4と同様にして膜厚42μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0187】
<実施例6>
実施例1において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)の添加量を15g(25質量%)とした以外は、実施例1と同様にして膜厚40μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0188】
<実施例7>
実施例1において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)の添加量を30g(50質量%)とした以外は、実施例1と同様にして膜厚43μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0189】
<比較例1>
実施例1において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして膜厚41umの均一な固体電解質膜を得た。
【0190】
<比較例2>
実施例4において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)を添加しなかった以外は、実施例4と同様にして膜厚40μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0191】
<比較例3>
実施例1において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)の添加量を0.003g(0.005質量%)とした以外は、実施例1と同様にして膜厚43μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0192】
<比較例4>
実施例1において、水溶性フラーレン誘導体C60(CSOH)の添加量を33g(55質量%)とした以外は、実施例1と同様にして膜厚44μmの均一な固体電解質膜を得た。
【0193】
実施例1〜4、比較例1〜4で得られた電解質膜の評価結果を表1に示す。
【0194】
【表1】

【0195】
本実施例によれば、水溶性フラーレン誘導体を、スルホン酸基を有するポリアリーレン100質量部に対して0.01〜50質量部、より好ましくは0.1〜25質量部添加することにより、100℃以上の高温領域においても十分に高いプロトン伝導性を有するプロトン伝導体組成物及び該組成物からなるプロトン伝導膜が得られることがわかる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有するポリアリーレンと、フラーレン分子を構成する炭素原子にプロトン解離性の基またはその基を含む原子団が結合している水溶性フラーレン誘導体と、を含むプロトン伝導体組成物。
【請求項2】
前記スルホン酸基を有するポリアリーレン100質量部に対して、前記水溶性フラーレン誘導体を0.01〜50質量部含有する請求項1記載のプロトン伝導体組成物。
【請求項3】
前記スルホン酸基を有するポリアリーレンが、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を少なくとも含む請求項1又は2記載のプロトン伝導体組成物。
【化1】

(式(1)中、Yは2価の電子吸引性基を表し、Zは2価の電子供与性基又は直接結合を表し、Arは−SOHで表される置換基を有する芳香族基を表し、kは0〜10の整数を表し、1は0〜10の整数を表し、jは1〜4の整数を表す。)
【請求項4】
前記スルホン酸基を有するポリアリーレンが、下記一般式(1)で表される繰り返し単位と、下記一般式(2)と(3)で表される繰り返し単位のうち少なくとも一方と、を含む請求項1から3いずれか記載のプロトン伝導体組成物。
【化2】

(式(1)中、Yは2価の電子吸引性基を表し、Zは2価の電子供与性基又は直接結合を表し、Arは−SOHで表される置換基を有する芳香族基を表し、kは0〜10の整数を表し、1は0〜10の整数を表し、jは1〜4の整数を表す。)
【化3】

(式(2)中、R〜Rは互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリル基、アリール基及びニトリル基からなる群より選ばれる原子又は基を表し、Wは2価の電子吸引性基又は単結合を表し、Tは単結合又は2価の有機基を表し、pは0又は正の整数を表す。)
【化4】

(式(3)中、Bは独立に酸素原子又は硫黄原子であり、R〜R11は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、ニトリル基及びアルキル基からなる群より選ばれる原子又は基を表し、nは2以上の整数を表し、Qは下記一般式(q)で表される構造を表す。)
【化5】

(式(q)中、Aは独立に、2価の原子、2価の有機基、直接結合のいずれかであり、R12〜R19は互いに同一でも異なっていてもよく、水素原子、フッ素原子、ニトリル基、アルキル基及び芳香族基からなる群より選ばれる原子又は基を表す。)
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載のプロトン伝導体組成物からなるプロトン伝導膜。

【公開番号】特開2006−335816(P2006−335816A)
【公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−159834(P2005−159834)
【出願日】平成17年5月31日(2005.5.31)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】