説明

プロトン伝導性材料、膜―電極接合剤、プロトン伝導性膜、接合層付プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池

【課題】本発明は、高濃度燃料を用いて発電する場合においても高い発電性能を発揮し、かつ高燃料バリア性を実現すると共に、膜と電極との接合強度を向上させることが可能なプロトン伝導性材料、膜―電極接合剤、プロトン伝導性膜、接合層付プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供する。
【解決手段】 酸基を含む高分子材料と、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)を含むプロトン伝導性材料;かかるプロトン伝導性材料からなる膜−電極接合剤;かかるプロトン伝導性材料を用いて作製されたプロトン伝導性膜;プロトン伝導性膜のいずれか一方の表面又は両表面に、膜−電極接合剤を用いて膜−電極接合層が形成されている接合層付プロトン伝導性膜;かかる接合層付プロトン伝導性膜に、燃料極及び酸素極が接合された膜−電極接合体;かかる膜−電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロトン伝導性材料、膜―電極接合剤、プロトン伝導性膜、接合層付プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、それを構成する電解質の種類により、リン酸形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形、固体高分子形等に分類されるが、中でも固体高分子形燃料電池(以下において、「PEFC」という。)は、他の方式に比べて、装置が小型かつ高出力であるため、小規模オンサイト形発電用、車両パワーソース等の移動用や携帯機器用の燃料電池等として、次世代の主力を担うシステムと位置付けられている。
【0003】
PEFCの基本構造は、プロトン(水素イオン)伝導性膜の両側に、白金等の触媒が担持された電極が配置され、更にその両外側に燃料を供給するための構造を有する一対のセパレータが配置されている。この基本構造を単位セルとして、隣り合う複数セルを相互に連結することで、所望の電力を取り出すことが可能となる。このような接合体の片側(一般的にアノード又は燃料極と呼ばれる)から、例えば、水素を燃料として供給すると、燃料極側では、触媒によりH2→2H++2e-の反応が起こり、プロトンと電子が生じる。ここで、プロトンは、電極に接触しているプロトン伝導性膜を通して反対極(一般的にカソード又は酸素極と呼ばれる)側に供給される。又、電子は、燃料極側の電極で集電され、電気として使用された後、酸素極側に供給される。一方、酸素極側では、供給された酸素、プロトン伝導性膜を通過してきたプロトン、電気として使用された電子を受け取り、触媒により1/2O2+2H++2e-→H2Oの反応が起こる。
【0004】
このように、燃料電池の作動による化学反応は、プロトン伝導性膜と触媒が担持されたガス拡散電極の界面部分で起こるため、膜、電極、及び触媒の界面構造が、発電効率、性能面等に大きく影響する。プロトン伝導性膜とガス拡散電極との接合体は、一般に「膜−電極接合体」(MEA:Membrane / Electrode Assembly)と呼ばれ、燃料電池の主要な技術開発分野の1つとなっている。
【0005】
MEAにおいては、膜、触媒、電極が適度な界面を持って結合されている必要がある。即ち、燃料極側を例として挙げれば、燃料である水素等が触媒表面に接触でき、水素から発生したプロトンと電子がそれぞれ膜、電極に効率的に受け渡される必要がある。現在のところ、燃料電池用のプロトン伝導性膜として最も標準的に使用されているものは、熱可塑性を有するスルホン化フッ素系樹脂(代表例:DuPont社製、商品名「ナフィオン(登録商標)」)である。
【0006】
しかしながら、熱可塑性を有するスルホン化フッ素系樹脂は、固体高分子形燃料電池を稼働する際の耐熱性が不足するという問題があった。即ち、スルホン基の凝集によりイオンチャネルが形成され、プロトン伝導性を発揮するものの、熱可塑性を有するが故に、特定の温度以上では塑性変形し、イオンチャネル構造が破壊されてしまうという欠点がある。このため、ガラス転移温度(Tg)である約130℃以上では短時間で、又、100〜130℃でも徐々に塑性変形が起こり、イオン伝導性が低下することにより、高燃料バリア性を維持することが難しい。
【0007】
近年、燃料電池の燃料としてアルコール、エーテル、炭化水素類等の水素以外の燃料を用い、触媒によりこれらの燃料からプロトンと電子とを取り出す燃料電池も検討されている。このような燃料電池の代表例はメタノール(通常、水溶液として用いる)を燃料とする直接メタノール型燃料電池(DMFC)である。DMFCは、外部改質器を必要とせず、燃料の取扱いが容易なため、燃料電池の多様な種類のうちで小型、携帯用電源として最も期待されている。
【0008】
しかしながら、前述のスルホン化フッ素系樹脂膜は、メタノールとの親和性が極めて高いことから、メタノールを吸収することにより大きく膨潤してしまう。その結果、メタノールが、膨潤したプロトン伝導性膜を透過し、カソード側へ漏れ出す、いわゆるメタノールクロスオーバー(MCO)が発生し、燃料電池の出力を大きく低下させてしまうという深刻な問題がある。
【0009】
一方、スルホン化フッ素系樹脂以外に、炭化水素系、無機系等、様々な種類のプロトン伝導性膜も盛んに開発されている。例えば、有機ケイ素化合物は、強い結合エネルギーを有するケイ素−酸素結合からなり、化学的安定性、耐熱性及び耐酸化性が高く、その組成によって多くの特異な性質を付与できるため、電気、電子、事務機器、建築、食品、医療、繊維、プラスチック、紙、パルプ、塗料ゴムといったあらゆる産業分野で使用されている。
【0010】
この有機ケイ素化合物を利用し、ケイ素−酸素結合からなる架橋構造を有するプロトン伝導性膜が開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。ケイ素−酸素結合からなる架橋構造は、プロトン伝導性膜のように、強い酸性(プロトン存在)条件下で、高温高湿に晒される場合でも比較的安定であり、燃料電池膜内部の架橋構造として好適に用いることができる。さらに、メタノールなどのアルコールを燃料として用いた場合でも、ケイ素−酸素架橋構造により膨潤を小さく抑えられるため、メタノールクロスオーバーを小さくすることが期待できる。
【0011】
しかしながら、有機ケイ素化合物としてケイ素−酸素結合を含む場合は、主骨格がポリシロキサンという無機成分であるために剛直となり、一度硬化してしまうと柔軟性がなくなる。そのため、有機ケイ素化合物膜と熱可塑性樹脂電極とを接着させた場合に、高い接着性を発現することが難しい場合がある。一方で、ケイ素―酸素結合より柔軟性の高いケイ素―炭素結合を含むプロトン伝導膜の場合は、ケイ素―炭素結合の分子間力が非常に弱いため湿度変化による影響を受けやすく、耐衝撃性及び燃料バリア性が低くなるという問題がある。燃料バリア性が低いと、特に高濃度燃料を用いて運転する場合には、燃料透過により燃料電池の発電性能が悪くなる。また、アノードで発生したプロトンをカソード側に運ぶ際には随伴水が必要であるが、高濃度燃料を用いた場合は、元々系内に水が少ないため、随伴水の不足が発生し、プロトン伝導性が低下する場合がある。また、高濃度燃料の供給により、プロトン伝導性膜が膨潤して変形し、膜と電極との接合強度が弱くなる場合もある。
【特許文献1】特許第3679104号公報
【特許文献2】国際公開WO03/026051号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、高濃度燃料を用いて発電する場合においても、高い発電性能を発揮でき、高燃料バリア性を実現すると共に、膜と電極との接合強度を向上させることが可能なプロトン伝導性材料、膜―電極接合剤、プロトン伝導性膜、接合層付プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、
本発明は、酸基を含む高分子材料と、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)を含むことを特徴とするプロトン伝導性材料を提供する。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記水酸基含有構造体(P)が、リンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含むことが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記化合物(a)のヒドロキシアルコキシ基が、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基のいずれかであることが好ましい。

本発明のプロトン伝導性材料は、前記重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)が、ポリリン酸を含むことが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記水酸基含有構造体(P)が、ポリビニルアルコールを更に含むことが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記水酸基含有構造体(P)が、酸基含有構造体(H)を更に含むことが好ましい。
【0014】
また、本発明は、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)及びリンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)と、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)とを含むプロトン伝導性材料であって、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式(I)で表される構造体であることを特徴とするプロトン伝導性材料を提供する。
【0015】
【化1】

【0016】
(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【0017】
また、本発明は、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)及びリンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)と、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と、該ケイ素−酸素結合型構造体(A)とケイ素−酸素結合によって連結され、シラン化合物と共有結合し、且つ酸基を有する酸基含有構造体(B)とを含むプロトン伝導性材料であって、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式(I)で表される構造体であり、 且つ前記酸基含有構造体(B)中に、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)とを共有結合させた構造体を含むことを特徴とするプロトン伝導性材料を提供する。
【0018】
【化2】

【0019】
(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【0020】
本発明のプロトン伝導性材料は、前記水酸基含有構造体(P)が、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)又は酸基含有構造体(B)の少なくとも一方と結合していることが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記酸基含有構造体(B)中の前記酸基の原子団が、少なくとも4つ以上の炭素−炭素単結合距離を介してケイ素−酸素結合を有するケイ素と結合していることが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記酸基含有化合物(β)が、プロトン付加が可能なヘテロ原子を3つ以上有し、メチレン基を含むアクリルアミド又は(メタ)アクリレートであることが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記酸基含有化合物(β)が、スルホン酸基を有することが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)、前記シラン化合物(α)、及び前記酸基含有化合物(β)のいずれかと結合可能な官能基を1分子中に2つ以上有する架橋剤(C)の化合物を更に含むことが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)と前記シラン化合物(α)の総配合量が、重合性不飽和二重結合を一つ以上有する前記架橋剤(C)の配合量に対して、40〜120質量%であることが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記シラン化合物(α)の配合量が、重合性不飽和二重結合を一つ以上有する前記架橋剤(C)に対して、10〜70質量%であることが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)、前記酸基含有構造体(B)および前記架橋剤(C)が相互に共有結合してなる個々の粒子が結合した連続体であることが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記粒子の平均粒径が、3〜200nmであることが好ましい。
本発明のプロトン伝導性材料は、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)、前記酸基含有構造体(B)、および重合性不飽和二重結合を一つ以上有する前記架橋剤(C)が、相互に共有結合してなることが好ましい。
【0021】
また、本発明は、上記本発明のプロトン伝導性材料からなることを特徴とする膜−電極接合剤を提供する。
本発明の膜−電極接合剤は、高分子材料(Q)により複合強化されていることが好ましい。
【0022】
また、本発明は、上記本発明のプロトン伝導性材料を用いて作製されたことを特徴とするプロトン伝導性膜を提供する。
本発明のプロトン伝導性膜は、一方の表面中に存在するケイ素原子数(X0)と、他方の表面中に存在するケイ素原子数(Xz)が、
o/Xz≧1.3
の関係を満たすことが好ましい。
本発明のプロトン伝導性膜は、高分子材料(Q)により複合強化されていることが好ましい。
【0023】
また、本発明は、プロトン伝導性膜のいずれか一方の表面又は両表面に、上記本発明のの膜−電極接合剤を用いて、膜−電極接合層が形成されていることを特徴とする接合層付プロトン伝導性膜を提供する。
本発明の接合層付プロトン伝導性膜は、前記プロトン伝導性膜が、上記本発明のプロトン伝導性膜であることが好ましい。
本発明の接合層付プロトン伝導性膜は、前記プロトン伝導性膜が、酸基含有構造体(H)と、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)とを含み、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式(I)で表される構造体であることが好ましい。
【0024】
【化3】

【0025】
(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【0026】
本発明の接合層付プロトン伝導性膜は、前記プロトン伝導性膜が、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と、シラン化合物と共有結合し、且つ酸基を有する酸基含有構造体(B)とがケイ素―酸素結合によって連結され、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式で表される構造体であり、且つ前記酸基含有構造体(B)中に、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)とを共有結合させた構造体が含まれることが好ましい。
【0027】
【化4】

【0028】
(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【0029】
また、本発明は、上記本発明の接合層付プロトン伝導性膜に、燃料極及び酸素極が接合されたことを特徴とする膜−電極接合体を提供する。
【0030】
また、本発明は、上記本発明の膜−電極接合体を備えることを特徴とする固体高分子形燃料電池を提供する。
本発明の固体高分子形燃料電池は、前記膜−電極接合体を単位セルとして、前記単位セルの外側に、燃料および/又は酸素の通路となる一対のセパレータが設置されるとともに、隣り合う複数の前記単位セルが相互に連結されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、高濃度燃料を用いて発電する場合においても、高い発電性能を発揮でき、高燃料バリア性を実現すると共に、膜と電極との接合強度を向上させることが可能なプロトン伝導性材料、膜―電極接合剤、プロトン伝導性膜、接合層付プロトン伝導性膜、膜−電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には、同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。従って、具体的な寸法等は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0033】
<プロトン伝導性材料>
本発明の実施の形態に係るプロトン伝導性材料は、(1)プロトン伝導性膜と電極とを接合する際に用いられる膜−電極接合剤、或いは(2)本実施形態に係るプロトン伝導性膜、等に利用可能であって、酸基を含む高分子材料と、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)を含んでいる。
酸基を含む高分子材料は、特に限定されないが、リンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を含むものが好ましく、リンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)であることがより好ましい。
【0034】
水酸基含有構造体(P)を含むことにより、上記(1)の場合には、プロトン伝導性膜と電極とを接合する際にプロトン伝導性膜と電極との境界面に酸基を高濃度に存在させることができるため、境界面のプロトン濃度を上昇せしめることが可能となり、長時間安定した燃料電池作動が達成できる。
【0035】
一方、上記(2)の場合には、プロトン伝導性膜中に酸基が高濃度に存在する状態を確保できるため、プロトン伝導性膜中のプロトン濃度を上昇せしめることが可能となる。また、スルホン酸が多く存在しながら、水、メタノールに対する膨潤を抑制でき、形状を維持することができる。その結果、パッシブ型の燃料電池にメタノールの高濃度燃料等を導入した場合においても、MCOを抑制でき、燃料透過による発電能力の低下を抑制可能なプロトン伝導性膜を提供できる。
なお、膜−電極接合剤の成分は例示であり、下記(A)に例示する成分の他にも下記(B)に示す成分を含んでも構わないし、必要に応じて、その他の添加剤を加えても構わない。
【0036】
(A)膜−電極接合剤として利用する場合のプロトン伝導性材料の例
水酸基含有構造体(P)は、酸基を含む高分子材料と、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)を構成要素として含み、該化合物(a)とリンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含むのが好ましい。この場合、(b)と(a)を混合する際の重量比は[(b)/(a)]で定められる重量比が0.5〜2であるのが好ましく、より好ましくは、1〜1.8である。水酸基含有構造体(P)は、(解離プロトンのmmol数)/(g重量)で定められるmEqの値が0.5〜5、より好ましくは2〜4の範囲とするのが好ましい。これにより、高濃度燃料を用いた場合においても、高い発電性能を発揮でき、高い燃料バリア性を実現すると共に、膜と電極との接合強度をより向上させることができる。
【0037】
ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)としては、ヒドロキシアルコキシ基が、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基のいずれかである化合物を含むことが好ましい。化合物(a)のヒドロキシル基1つあたりの分子量は、30以上かつ300以下であることが好ましい。また、化合物(a)は、重合性不飽和二重結合を有していてもよく、その場合の重合性不飽和二重結合1つあたりの分子量は、100以上かつ300以下であることが好ましい。
【0038】
このようなヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)としては、例えば、水酸基型低分子材料、水酸基型モノマー材料、水酸基型有機無機ハイブリッド材料の少なくとも1種が用いられる。
【0039】
水酸基型低分子材料としては、1,3−ビス(2,3−ジヒドロキシプロポキシ)−2−プロパノールを好適に用いることができる。他に例えば、ビス(2,3−ジヒドロキシプロピル)エーテル、1,2,3−プロパントリオール、グリセロールトリグリシジルエーテル、グリセロールトリプロポキシレートトリグリシジルエーテル、グリセロール三酢酸等であってもよい。
【0040】
水酸基型モノマー材料としては、グリセロール1,3−ジグリセロレートジアクリレートを好適に用いることができる。他に例えば、1,3−ジメタクリル酸グリセロール又はメチリデングリセロール又はグリセロールモノメタクリレート又はグリセロールモノアセテート又は3−(アクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート又は3−アリルオキシ−1,2−プロパンジオール等であってもよい。
【0041】
水酸基型有機無機ハイブリッド材料としては、グリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物を好適に用いることができる。他に例えば、ケイ酸ナトリウム・n水和物と上記水酸基型低分子材料や水酸基型モノマー材料を反応させて得られる化合物であってもよい。
【0042】
リンを含む重合性無機酸成分(b)としては、例えば、ポリリン酸を好適に用いることができる。他に例えば、リン酸ナトリウム・n水和物と他の重合性無機成分を反応させて得られる化合物であってもよい。
【0043】
水酸基含有構造体(P)として、例えば、ポリビニルアルコールを更に含んでいてもよい。ポリビニルアルコールの重合度は、3000以上であるのが好ましく、より好ましくは4000以上である。ポリビニルアルコールのケン化度は、95%以上であるのが好ましく、より好ましくは99%以上である。また、親水性樹脂を架橋することができる架橋材として、ジヒドラジド、トリヒドラジド類、ジカルボン酸、トリカルボン酸類、ジアミン、トリアミン類、ジアルデヒド、トリアルデヒド類等を使用しても良い。水酸基含有構造体(P)として、更に酸基含有構造体(H)を含んでいてもよい。
【0044】
酸基含有構造体(H)としては、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸、3−スルホプロピルメタクリレート、4,4’−ジアミノスチルベンゼン−2,2’−ジスルホン酸、イタコン酸ビス(3−スルホプロピル)等のモノマーを重合させたポリマーがあげられる。
【0045】
また、水酸基含有構造体(P)を形成するモノマーと結合可能な官能基を有し酸基を含まないモノマーユニットや水酸基含有構造体(P)または(P)を形成するモノマーと結合可能な官能基を複数有する架橋剤を更に含んでも良い。例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、スチレン等や、N,N’ーメチレンビス(アクリルアミド)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ビス(アクリロイルオキシ)ブタン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1−(アクリロイルオキシ)−3−(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、ジビニルベンゼン、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ビニルメタクリレート等を好適に用いることができる。
【0046】
また、酸基含有構造体(H)としては、酸基を有しかつSi−O結合により膜の架橋構造と結合できる下記構造式(II)で表される構造体であることが好ましい。
【0047】
【化5】

【0048】
(式中、Xは架橋に関与する−O−結合またはOH基であり、R3は少なくとも一つの酸基を有する分子鎖基を表し、R4はメチル、エチル、プロピル又はフェニル基のいずれかの基を表し、mは0、1又は2のいずれかである。)
その際、R3は少なくとも1以上の酸基を有しており、共有結合により架橋基と結合している。酸基としては、スルホン酸、ホスホン酸、カルボン酸、硫酸、リン酸、硼酸など、種々の酸を用いることができるが、特にpKaが低く、プロトン濃度を十分に確保可能で熱的にも安定なスルホン酸が好ましく用いられる。
【0049】
酸基がスルホン酸の場合、R3としては次の式(III)で示される構造であることが好ましい。
【0050】
【化6】

【0051】
(式中、nは1〜20の整数である)
【0052】
スルホン酸と架橋構造間の構造体は特に限定されないが、本発明の目的から、耐熱性、耐酸性、耐酸化性等に優れている必要がある。これらを満足する構造の一つとして、上式(III)で示されるポリメチレン鎖があり、式(III)の構造では、ポリメチレン鎖は分岐しておらず、また、スルホン酸基はポリメチレン鎖の末端に存在する。
【0053】
このうち、nが3の構造体の原料の一つである3−トリヒロドキシシリルプロピルスルホン酸は、Gelest社より市販されており、また、臭化アリルを原料とした合成法も確立されており、入手が容易であるため、特に好ましく用いることができる。また、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、商品名「サイラエースS−810」)を原料に硬化体を作製し、この硬化体のメルカプト基を酸化することにより上式(III)の構造を実現することもできる。
【0054】
さらに、下記式(IV)の構造を有するオリゴマー、ポリマーを原料に硬化体を作製し、この硬化体のメルカプト基を酸化することにより上式(III)の構造を実現することもできる。
【0055】
【化7】

【0056】
(式中、R6は、H、CH3、C25、C37又はC65基のいずれかの基を示し、R4はCH3、C25、C37、C65、OH、OCH3、OC25、OC65基又はO−Si結合のいずれかの基を示し、mは1〜20の整数、nは3〜500の整数である。)
ここで、上式(IV)中のR4がOCH3基であり、mが3であり、nが10のものは、信越シリコーン社より市販されている(X−41−1805)。
【0057】
その他に、接着補助剤として、シリカ粉体、カルシウム系粉体、セラミック系粉体、タルク、カオリン等の無機粉体をプロトン伝導性材料中に加えてもよい。シリカ粉体としては、中空シリカ粒子(シリカバルーン)、無アルカリガラスなどを好ましく用いることができる。
【0058】
(2)プロトン伝導性膜として利用する場合に好適なプロトン伝導性材料の例
<第1のプロトン伝導性膜用プロトン伝導性材料>
本実施形態に係る第1のプロトン伝導性膜用プロトン伝導性材料は、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)及びリンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)と、ケイ素−酸素結合型構造体(A)とを含むことを特徴とするプロトン伝導性材料であって、ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式(I)で表されるのが好ましい。
【0059】
【化8】

【0060】
(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【0061】
式(I)で表されるように、ケイ素−酸素結合型構造体(A)は、無機物だけから構成される場合もあれば、有機化合物を複合した有機無機複合体で構成されている場合もある。有機化合物を複合する場合は、無機物のもつ耐熱性と有機物のもつ柔軟性を両方兼ね備えた燃料電池膜を形成することができる。このような化合物を有する場合には、架橋構造間の分子構造設計により柔軟性をはじめとする各膜物性の調整が可能である。燃料電池膜としての重要な特性の1つである燃料ガスバリア性についても、架橋密度や構造の制御により制御可能となる。
【0062】
ケイ素−酸素結合型構造体(A)としては、例えば1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,6−ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、1,9−ビス(トリエトキシシリル)ノナン、1,8−ビス(トリエトキシシリル)オクタン、1,8−ビス(ジエトキシメチルシリル)オクタン、1,4−ビス(トリメトキシシリルエチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリルエチル)ベンゼン、1,8−ビス(メチルジエトキシシリル)オクタン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリメトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン等のメトキシ体、及びこれらのエトキシ体、イソプロポキシ体、ブトキシ体等との共重合体等を好ましく用いることができる。又、本発明はこれに限定されるものではない。
【0063】
適切なケイ素−酸素結合型構造体(A)を用いることでシリカ架橋粒子を形成させることもできる。また、架橋密度や粒子間結合強度を調整することで、プロトン伝導性膜の強度、可撓性を制御することもできる。水酸基含有構造体(P)は上記と同様であるので記載を省略する。
【0064】
本発明に係るプロトン伝導性材料は、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)、前記酸基含有構造体(B)、および重合性不飽和二重結合を一つ以上有する前記架橋剤(C)が、相互に共有結合してなるものが好ましい。
【0065】
<第2のプロトン伝導性膜用プロトン伝導性材料>
本実施形態に係る第2のプロトン伝導性膜用プロトン伝導性材料は、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)及びリンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)と;ケイ素−酸素結合型構造体(A)と;ケイ素−酸素結合型構造体(A)とケイ素−酸素結合によって連結され、シラン化合物と共有結合し、且つ酸基を有する酸基含有構造体(B)と;を含むプロトン伝導性材料であって、ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式(I)で表されるのが好ましい。
【0066】
【化9】

【0067】
(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【0068】
水酸基含有構造体(P)及びケイ素−酸素結合型構造体(A)は上記と同様であるので記載を省略する。なお、水酸基含有構造体(P)は、ケイ素−酸素結合型構造体(A)又は酸基含有構造体(B)の少なくとも一方と結合していることが好ましい。
【0069】
プロトン伝導性材料は、酸基含有構造体(B)を含むことにより、膜中に酸基が高濃度に存在する状態を確保できるとともに、膜中のプロトン濃度を上昇せしめることが可能となり、長時間安定した燃料電池作動を達成可能な膜が得られる。
【0070】
酸基含有構造体(B)中の前記酸基の原子団は、少なくとも4つ以上の炭素−炭素単結合距離を介してケイ素−酸素結合を有するケイ素と結合していることが好ましい。また、酸基含有化合物(β)が、プロトン付加が可能なヘテロ原子を3つ以上有し、メチレン基が2つ以上連結した直鎖構造を含むアクリルアミド又は(メタ)アクリレートであることが好ましい。その場合、ヘテロ原子がスルホン酸を構成する原子団であることが好ましい。
【0071】
特に本実施形態では、酸基含有構造体(B)として、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)とを共有結合させた構造体を含むのが好ましい。
【0072】
シラン化合物(α)としては、3−(トリメトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(メチルジメトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(トリエトキシシリル)プロピルアクリレート、3−(メチルジエトキシシリル)プロピルアクリレート、トリメトキシビニルシラン、トリエトキシビニルシラン、3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリルレート、3−(メチルジメトキシシリル)プロピルメタクリルレート、3−(トリエトキシシリル)プロピルメタクリルレート、3−(メチルジエトキシシリル)プロピルメタクリルレート、p−スチリルトリメトキシシラン、p−スチリルトリエトキシシラン等が好適に用いられる。本発明に用いられる化合物としては、ケイ素−酸素結合と不飽和二重結合を有する化合物が特に好ましい。
【0073】
酸基含有化合物(β)としては、酸基及び重合性不飽和二重結合を有する化合物が好ましく、更に好ましくは、プロトン付加が可能なヘテロ原子を3つ以上有し、メチレン基が2つ以上連結した直鎖構造を含むアクリルアミド又は(メタ)アクリレートが好ましい。更に好ましくは、そのヘテロ原子として、スルホン酸を構成する原子団が含まれていることが好ましい。このような酸基含有化合物(β)としては、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸、3−スルホプロピルメタクリレート、p−スチルスルホン酸、4,4’−ジアミノスチルベンゼン−2,2’−ジスルホン酸、イタコン酸ビス(3−スルホプロピル)等を好ましく用いることができる。
【0074】
その他添加剤として、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)、前記シラン化合物(α)、及び前記酸基含有化合物(β)のいずれかと結合可能な官能基を1分子中に2つ以上有する架橋剤(C)の化合物、或いは、相溶化剤(D)を添加してもよい。
【0075】
架橋剤(C)としては、酸基含有構造体(B)の構成成分であるシラン化合物(α)や酸基含有化合物(β)に結合可能な官能基を1分子中に2つ以上有する架橋剤が好ましく、重合性不飽和二重結合を一つ以上有するものが特に好ましく、例えば、N,N’ーメチレンビス(アクリルアミド)、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,4−ビス(アクリロイルオキシ)ブタン、1,3−ビス(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、1−(アクリロイルオキシ)−3−(メタクリロイルオキシ)−2−プロパノール、ジビニルベンゼン、3−(メタクリロイルアミノ)プロピルトリメチルアンモニウムクロリド、ビニルメタクリレートなどの炭化水素系架橋剤を好ましく用いることができる。また、2,2,2ートリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート等のフッ素系モノマー等を含ませてもよい。
架橋剤(C)の混合割合は、架橋剤(C)の官能基数をNf、分子量をNm、モル数をNn、アクリレート又はメタアクリレート(β)のモル数Bnとすると、下記式(1)又は(2)の少なくとも一方の関係を満たすことが好ましい。
m/Nf<200 ・・・(1)
n/Bn<1 ・・・(2)
上記の範囲を逸脱した場合、粒子の酸基濃度が低下し、プロトン伝導性が低下するおそれがある。
【0076】
相溶化剤(D)としては、各成分を均一に混合させる機能をもつものであれば、特に限定せず、モノアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩などのアニオン系界面活性剤や、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの非イオン性界面活性剤が好適に使用される。また、相溶化剤としての機能だけでなく、プロトン伝導性膜を構成する材料として必要な機能、例えばプロトン伝導性、架橋反応性などを併せ持つ材料であってもよい。
図1に、第2のプロトン伝導性膜用プロトン伝導性材料の構造イメージ例を示す。架橋基本構造体(骨格)となるケイ素−酸素結合型構造体(A)と、シラン化合物(α)に酸基含有化合物(β)が反応して共有結合した酸基含有構造体(B)とを少なくとも含む。
【0077】
一般に、ケイ素−酸素架橋構造体は構造が剛直なため、極性の高い部分が多くあると温度変動によるプロトン伝導性、燃料バリア性の性能劣化を生じさせる場合がある。本実施形態では、図1に示すように、酸基含有化合物(β)中の酸を構成する原子団が、シラン化合物(α)を介して結合することにより、酸を構成する原子団−ケイ素間の距離を一定以上離すように架橋構造を形成していくことが可能なため、高燃料バリア性、強度等の膜の様々な特性をより向上させることができる。更に、酸基含有構造体(B)中に、有機部位を多く有することにより柔軟性が付与されるため、プロトン伝導膜としての耐衝撃性が強くなる。また、必要に応じて架橋剤(C)を導入することにより、柔軟且つ強固な架橋構造を得ることができるため、高耐衝撃性及び高耐極性溶媒性がより強化される。
【0078】
図2(a)に、本実施形態に係るプロトン伝導性材料を構成するケイ素−酸素結合型構造体(A)、シラン化合物(α)、酸基含有化合物(β)、架橋剤(C)の構造の例を示す。シラン化合物(α)中のR8は、置換及び無置換の炭化水素基、ヘテロ原子の群から選ばれる原子団を、R9、R10、R11は、置換及び無置換の炭化水素基、水素原子、ヘテロ原子、ハロゲン原子の群から選ばれる少なくとも1種含む原子団を表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、少なくとも1種はケイ素−酸素結合を形成する。)。酸基含有化合物(β)中のR12は、置換及び無置換の炭化水素基、ヘテロ原子の群から選ばれる原子団を、Xは水中での酸解離定数で定義されるpKaが5以下の原子団を表す。架橋剤(C)中のR13は、置換及び無置換の炭化水素基、ヘテロ原子の群から選ばれる原子団を表す。また、図2(b)に、ケイ素−酸素結合形構造体(A)及び酸基含有構造体(B)を少なくとも含むプロトン伝導性材料の構造イメージ図を示す。
【0079】
酸基含有化合物(β)の一例として、図2(c)に2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸30を、図2(d)に2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40を示す。図2(c)において、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸30は、酸基としてのスルホン酸基31とメタクリロイル基32とを有するメタクリル酸エステルである。メタクリロイル基32は重合性不飽和二重結合32aを有する。2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸30は、プロトン付加が可能なヘテロ原子(ここでは酸素原子)を3つ以上有する。スルホン酸基32を構成する硫黄原子33とエステル結合を構成する酸素原子34とは、炭素原子の結合35を介して結合されている。この結合35はメチレン基が二つ連結した直鎖構造である。2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸30は、シラン化合物(α)を介してケイ素−酸素結合型構造体(A)と結合する。これにより、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸30中のスルホン酸基31を構成する硫黄原子33とシラン化合物(α)のケイ素原子との間は、結合35由来の二つの連続した炭素原子の結合によって結合される。また、2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸30は重合性不飽和二重結合(メタクリロイル基32)を有するため、シラン化合物(α)と2−(メタクリロイルオキシ)エチルスルホン酸30との共有結合により、スルホン酸基31を構成する硫黄原子33とシラン化合物(α)由来のケイ素原子21との間は、少なくとも4つ以上の炭素結合以上の距離を介して結合される。
【0080】
図2(d)において、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40は、酸基としてのスルホン酸基41とアクリルアミド基42とを有する。アクリルアミド基42は重合性不飽和二重結合42aを有する。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40は、プロトン付加が可能なヘテロ原子(ここでは酸素原子)を3つ以上有する。スルホン酸基41を構成する硫黄原子43とアクリルアミド基42を構成する窒素原子44とは、炭素原子の結合45を介して結合されている。この結合45は炭素原子が二つ連結した直鎖構造である。2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40は、シラン化合物(α)を介してケイ素−酸素結合型構造体(A)と結合する。これにより、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40のスルホン酸基41を構成する硫黄原子43とシラン化合物(α)のケイ素原子との間は、結合45由来の二つの連続した炭素原子の結合によって結合される。また、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40は重合性不飽和二重結合(アクリルアミド基42)を有するため、シラン化合物(α)と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸40との共有結合により、スルホン酸基41を構成する硫黄原子43とシラン化合物(α)由来のケイ素原子21との間は、少なくとも4つ以上の炭素結合以上の距離を介して結合される。
【0081】
図1、図2(a)〜(d)に示す例は一例であり、プロトン伝導性材料の構造はこれに限定されないことは勿論である。例えば、(α)と(β)が結合していることに加えて、(α)同士や(β)同士が重合体を形成したり、(C)が(α)、(β)又は(C)と架橋構造体を形成したりしても良い。
【0082】
第2のプロトン伝導性材料においては、酸基含有構造体(B)中の酸基の原子団が少なくとも4つ以上の炭素結合以上の距離を介してシロキサン結合を有するケイ素と結合している場合、酸基−ケイ素結合の距離が近い場合に起こる場合がある極性溶媒の急激な侵入による膜の破壊、特性劣化を抑制することが可能となる。
【0083】
本発明に係るプロトン伝導性材料においては、ケイ素−酸素結合型構造体(A)とシラン化合物(α)の総配合量が、架橋剤(C)に対して、40〜120質量%であることが好ましく、より好ましくは60〜100質量%である。総配合量が40質量%より少ないと、硬化後に膜の組成が不均一になり、発電性能が悪くなる傾向がある。反対に総配合量が120質量%より多いと、熱衝撃や圧力といった外部刺激に対する耐久性が低下し、プロトン伝導性が悪くなることがある。
さらに、シラン化合物(α)の配合量が、架橋剤(C)に対して、10〜70質量%であることが好ましく、より好ましくは20〜50質量%である。配合量が10質量%より少ないと、硬化後に膜の組成が不均一になり、発電性能が悪くなる傾向がある。反対に配合量が70質量%より多いと、熱衝撃や圧力といった外部刺激に対する耐久性が低下し、プロトン伝導性が悪くなることがある。
【0084】
本発明に係るプロトン伝導性材料は、個々の粒子が結合した連続体の構造であることが好ましい。そして、かかる粒子は、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)、前記酸基含有構造体(B)および前記架橋剤(C)が相互に共有結合してなる化合物で構成されていることが好ましい。
前記粒子の平均粒径は、3〜200nmであることが好ましい。
【0085】
<プロトン伝導性膜>
本発明の実施の形態に係るプロトン伝導性膜としては、例えば、ナフィオン(登録商標)膜等のスルホン化フッ素系樹脂や芳香族環を主鎖中に有するいわゆるエンジニアリングプラスチックにスルホン酸やリン酸を導入したものや、酸をドープしたシリカガラス、酸をドープした有機無機複合膜等が挙げられる。特に、本実施形態に係るプロトン伝導性膜としては、上述した第1のプロトン伝導性膜用プロトン伝導性材料を用いて作製された第1のプロトン伝導性膜や、第2のプロトン伝導性膜用プロトン伝導性材料を用いて作製された第2のプロトン伝導性膜を用いるのが好ましい。
【0086】
本発明に係るプロトン伝導性膜においては、電解質の構造が粒子状であって、個々の粒子が結合した連続体の構造であることが望ましい。さらに、粒子表面は酸基を有しており、粒子と粒子との間にプロトンパスが形成されていることが好ましい。このような構造をとることにより、電解質の機械的強度が向上し、かつ効率的にプロトンが伝導される。ここで粒子は球形が好ましいが、不定形粒子でもよい。不定形粒子とは完全な曲面により構成されておらず、一部または全部に角のある箇所を有する粒子をいう。粒径は平均粒子径で3nmから200nmが好ましく、より好ましくは、10nmから100nmである。平均粒子径が200nmを超えるとプロトン伝導を担う粒子の表面積が減少し、高い伝導度が得られなくなり、また、粒子の間隙が大きくなりすぎて脆くなる。一方、3nm以下では均一層に近くなり、より少ない酸基で効率的なプロトン伝導をさせることができなくなる場合がある。より好ましくは10〜100nmである。平均粒径範囲を前述の範囲とすることにより、十分な強度を確保しつつも、プロトン伝導経路を十分に確保することができる。粒径は、例えば電界放射形走査電子顕微鏡(FE−SEM)といった電子顕微鏡写真から直接求めることも出来るが、小角X線散乱などの手段によっても求めることが出来る。また、粒径の分布については、均一な粒径の粒子の連続体であっても、不均一な粒径の粒子の連続体であってもよい。ここで、粒子の粒径分布が均一であると、粒径にもよるが幾何学的に間隙が出来やすく、高いイオン伝導度を発揮できる可能性がある。一方、粒径分布に幅があると、密なパッキングが可能であり、燃料ガスバリア性の向上や膜の強度向上に寄与する。従って使用状況に応じて粒径分布を選ぶようにするのが望ましい。粒径制御は、用いる原料の構造、分子量、溶媒種類・濃度、反応温度などの条件調整により可能である。
【0087】
なお、プロトン伝導性膜の強度を高めるために、多孔性の高分子材料(Q)に含浸させて膜を形成してもよい。高分子材料(Q)としては、例えば、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリイミドからなる高分子材料を用いることができる。フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリイミドからなる高分子材料としては、膜厚が20〜100μm、孔径が0.01〜0.4μm、空孔率が30%以上である多孔質材料が用いられる。多孔質材料は、親水化処理が施されていることが好ましい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレンを好適に用いることができる。
【0088】
また、本実施形態に係るプロトン伝導性膜においては、シラン化合物(α)中の重合性不飽和二重結合の反応率が30%以上となるように結合された状態が好ましく、より好ましくは50%以上である。酸基含有化合物(β)中の重合性不飽和二重結合の反応率は、30%以上となるように結合された状態が好ましく、より好ましくは50%以上である。ここで、「重合性不飽和二重結合の反応率」とは、膜作製時に導入する化合物中に元来含まれる二重結合の数を100%とした場合に対する、膜作成後に元来のまま変化せず含まれている二重結合の数を差し引いた時の割合を示す。
【0089】
プロトン伝導性材料中のシラン化合物(α)の反応重合性については、シラン化合物(α)同士の重合数及び(C)を介した(α)同士の重合数をpα−α、シラン化合物(α)と酸基含有化合物(β)との重合数及び(C)を介した(α)と(β)との重合数をpα−β、とした時、以下の式(3)の関係を満たすことが好ましい。
α−α/pα−β<1 ・・・(3)
【0090】
また、本実施形態に係るプロトン伝導性膜においては、膜中に含まれるプロトン付加が可能なヘテロ原子の全非共有電子対の5%以上がプロトン付加されていることが好ましい。
【0091】
図3に示すように、本実施形態に係るプロトン伝導性膜1は、アノード電極と接合される第1主表面1a及びカソード電極と接合される第2主表面1bを有しており、第1主表面中に存在するケイ素原子数(アノード側表面原子数(X0))が、第2主表面中に存在するケイ素原子数(カソード側表面原子数(Xz))より多く形成されている。
【0092】
好ましくは、アノード電極とプロトン伝導性膜1との接触表面を原点0、原点0からpμmのケイ素原子数を(Xp)、メタノール水溶液濃度を(Cm)vol%で定義するとき、厚さzμmのプロトン伝導性膜は、以下の関係式(4)〜(7)を満たすことが好ましい。
o≧Xp≧Xz (0≦p≦z) ・・・(4)
o/Xz ≧1.3 ・・・(5)
Cm>30(ただし1aがアノードと接合し、1bがカソードと接合する。)
・・・(6)
Cm≦30(ただし1aがカソードと接合し、1bがアノードと接合する。)
・・・(7)
【0093】
このような膜は、実施の形態に係るプロトン伝導性膜の原料である重合性組成物を本硬化前に遠心分離すること等により得られる。
【0094】
<膜−電極接合体>
本発明の実施の形態に係る膜−電極接合体は、上述のプロトン伝導性材料からなる膜−電極接合剤を用いることにより、従来の膜−電極接合体に比べて、プロトン伝導性、燃料耐性、酸化耐性及び接合強度を向上させることができる。なお、プロトン伝導性材料を膜−電極接合体中に含ませる方法としては、例えば2種類ある。
【0095】
第1の方法は、プロトン伝導性膜とその両面に配置される電極との間に、本実施形態に係る膜−電極接合剤(プロトン伝導性材料)を介在させ、プロトン伝導性膜と電極とを接合させる方法である。そのため、第1の方法によって得られた膜−電極接合体は、プロトン伝導性膜と;プロトン伝導性膜の両面に配置される電極と;プロトン伝導性膜と電極の間に介在し、両者を接合する接合層と;を有し、接合層が本発明の実施の形態に係るプロトン伝導性材料を含む構成を有している。
【0096】
第2の方法としては、例えばプロトン伝導性膜の両面に接合される電極の一部(触媒層)を本発明に係る膜−電極接合体を用いて作製し、作製された電極とプロトン伝導性膜とを直接接合させる方法である。即ち、第2の方法では、例えば、ガス拡散層表面に触媒層を形成する際に、本発明の実施の形態に係るプロトン伝導性材料を用いる。そして、作製された電極とプロトン伝導性膜とを直接接合するものである。そのため、第2の方法によって得られた膜−電極接合体は、プロトン伝導性膜と;プロトン伝導性膜の両面に配置され、触媒層およびガス拡散層とからなる電極と;を有し、触媒層中のプロトン伝導体を本発明に係るプロトン伝導性材料としたものである。なお、プロトン伝導性膜と電極の触媒層とは、互いに接合されている。
【0097】
以下においては、説明のため、第1の方法によって得られる膜−電極接合体を図4を用いて説明するが、第2の方法も下記材料と同様な材料を用いることができる。
【0098】
実施の形態に係る膜−電極接合体は、図4に例示するように、プロトン伝導性膜1と、プロトン伝導膜1の両面に配置された接合層2a,2bと、接合層2a,2bを介してプロトン伝導性膜1に接合された電極5a,5bとを備える。
【0099】
電極5a,5bとしては、特に限定されず、市販のナフィオン(登録商標)電極等を用いることができる。電極5aは、ガス拡散層4aとガス拡散層4aの表面上に形成された触媒層3aを有する。電極5bは、ガス拡散層4bと、ガス拡散層4aの表面上に形成された触媒層3bを有する。触媒層3a,3bは、例えば、白金等の触媒が担持された層である。触媒層3aは、接合層2aと接しており、触媒層3bは、接合層2bと接している。
【0100】
ガス拡散層4a,4bは、撥水化されていることが好ましい。特に、カソード側の電極では、生成された水によってフラッディングを起こしてしまうことがあるが、ガス拡散層4a,4bを撥水化することで、生成水を排除することができ、フラッディングの発生を効果的に抑制することができる。ガス拡散層4a,4bとしては、撥水性材料であるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)と、電子媒体であるカーボンブラックとの混合体であってもよい。この場合、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)との混合比は、好ましくは重量比で3:7〜7:3、より好ましくは5:5である。ガス拡散層4a,4bの厚みは、好ましくは上限0.1mmである。0.1mmを超えると、抵抗値が大きくなり、出力が低下することもある。また、カーボンブラックとしては、比表面積が10m2/g以上のものを好適に用いることができる。
【0101】
接合層2a,2bは、プロトン伝導性膜1と電極5a,5bとの間に配置されることにより、プロトン伝導性膜1と電極5a,5bとの接合強度を向上させる役割を果たす。接合層2a,2bは、後述するプロトン伝導性材料を含んでいる。
【0102】
本発明の実施の形態に係る膜−電極接合体によれば、膜−電極接合体中にプロトン伝導性材料を含有させることにより、高濃度の燃料を用いた場合においても膜と電極の接合強度を向上させること可能となり、発電性能を向上させ、高燃料バリア性も実現することが可能となる。また、この膜−電極接合体を単位セルとして、その外側に、燃料及び酸素の通路となる一対のセパレータが設置されるとともに、隣り合う複数の単位セルが相互に連結させれば、固体高分子形燃料電池が製造できる。
【0103】
<膜−電極接合体の製造方法>
(第1の製造方法)
次に、本発明の実施の形態に係るプロトン伝導性材料(膜−電極接合剤)を用いた膜−電極接合体の製造方法を説明する。本発明の実施の形態に係る膜−電極接合体の製造方法は、プロトン伝導性膜を作製する工程と;膜−電極接合剤を作製する工程と;プロトン伝導性膜の表面又はプロトン伝導性膜の表面と対向する電極の表面に膜−電極接合剤を配置する工程と;膜−電極接合剤を介してプロトン伝導性膜と電極とを貼り合わせる工程と;膜−電極接合剤を硬化させる工程とを含む。ここでは一例として上述した第2のプロトン伝導性膜の第1の製造方法を説明する。
【0104】
1.プロトン伝導性膜の製造工程
本発明に好適なプロトン伝導性膜は、例えば、メルカプト基を有し、かつメルカプト基と共有結合した縮合反応可能な加水分解性シリル基と、及び/又はシラノール基を有するメルカプト基含有化合物(E)と極性制御剤(F)とを含有する混合物を調整する第1の工程と;第1の工程で得られた混合物にケイ素−酸素型構造体(A)とシラン化合物(α)及び酸基含有化合物(β)を混合させて、重合性組成物を形成する第2の工程と;第2の工程で得られた重合性組成物を成膜する第3の工程と;加水分解性シリル基を加水分解及び縮合、及び/又はシラノール基を縮合させることによってケイ素−酸素架橋構造を構築する第4の工程と;膜中のメルカプト基を酸化してスルホン酸基とし、スルホン酸基を導入する第5の工程により製造できる。
【0105】
−第1の工程−
第1の工程では、メルカプト基を有し、かつ、メルカプト基と共有結合した縮合反応可能な加水分解性シリル基と、及び/又はシラノール基を有するメルカプト基含有化合物(E)と、極性制御剤(F)とを含有する混合物を調製する。
【0106】
メルカプト基含有化合物(E)としては、メルカプト基を有し、かつ、メルカプト基と共有結合した縮合反応可能な加水分解性シリル基、及び/又はシラノール基を有していれば特に制限はない。
【0107】
メルカプト基含有化合物(E)の例としては、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルトリブトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエキトキシシラン、2−メルカプトエチルトリプロポキシシラン、2−メルカプトエチルトリブトキシシラン、メルカプトメチルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジプロポキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジブトキシシラン、3−メルカプトプロピルエチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルブチルジエトキシシラン、3−メルカプトプロピルフェニルジメトキシシラン、メルカプトメチルメチルジエトキシシラン等が例示されるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0108】
この中でも3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)社製)が大量且つ安価に入手することができ、好ましく用いることができる。
【0109】
なお、メルカプト基含有化合物(E)としては、メルカプト基含有化合物を縮合することにより得られるメルカプト基含有化合物の縮合体を用いてもよい。
【0110】
極性制御剤(F)としては、粒子を形成するための構造制御剤であって、本発明において好適に用いることができる。極性制御剤(F)は有機液体であって、水溶性であることが望ましい。
【0111】
このような有機物としては、水酸基、エーテル基、アミド基、エステル基などの極性置換基を有しているもの、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸基又はその塩を有しているもの、アミン等の塩基基又はその塩を有しているものなどが挙げられる。
【0112】
具体的には、グリセリン及びその誘導体、エチレングリコール及びその誘導体、エチレングリコール重合体(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、各種分子量のポリエチレングリコールなど)、グルコース、フルクトース、マンニット、ソルビット、スクロースなどの糖類、ペンタエリスリトールなどの多価水酸基化合物、ポリオキシアルキレン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリル酸などの水溶性樹脂、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等の炭酸エステル類、ジメチルスルホキシド等のアルキル硫黄酸化物、ジメチルホルムアミド等のアミド類、エチレングリコールモノメチルエーテルなどのポリオキシエチレンアルキルエーテル類、等があげられるが本発明はこれに限定されるものではない。
【0113】
混合方法:
これらの混合物を調製する場合には、溶媒を用いてもよい。用いる溶媒は、それぞれの材料が均一に混合可能であれば良く、特に制限はない。一般的には、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、t−プタノールなどのアルコール系溶媒、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒などが好適に用いることができる。
【0114】
−第2の工程−
第2の工程では、第1の工程で得られた混合物にケイ素−酸素結合型構造体(A)とシラン化合物(α)と酸基含有化合物(β)と水酸基含有構造体(P)とを混合させて得られる重合性組成物を調整する。重合性組成物は、シラン化合物(α)と酸基含有化合物(β)と水酸基含有構造体(P)を適宜調整して用いることにより、第1の工程で得られた混合物を用いて膜を作製する場合に比べて、プロトン伝導性膜に柔軟性及び高耐極性溶媒性を与えることができる。
【0115】
ケイ素−酸素結合型構造体(A)としては、上述した化合物を用いることができるが、中でもテトラメトキシシラン、テトラエトキシシランは汎用品であり、安価で大量且つ容易に入手可能であるため好ましく用いることができる。シラン化合物(α)としては、上述した化合物を用いることができるが、中でも3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)を好ましく用いることができる。酸基含有化合物(β)としては、上述した化合物を用いることができるが、中でも2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)(和光純薬社製)を好ましく用いることができる。
【0116】
第2の工程では、架橋剤(C)を加えることが好ましい。架橋剤(C)としては、上述した化合物を用いることができるが、中でもトリメチロールプロパントリアクリレートや、ネオペンチルグリコールジアクリレート等を好ましく用いることができる。
【0117】
この工程では、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)とが共重合するように化合物の種類、配合比率、重合条件を適宜選択できる。さらに(α)と(β)により形成された(B)とケイ素−酸素型構造体(A)とがシロキサン結合により連結されるように、化合物の種類、配合比率、および第2、第3、第4の工程の条件を設定することができる。
【0118】
更に、第2の工程では、本発明の目的を損なわない範囲で、ドデシル硫酸ナトリウム等の相溶化剤、光重合開始剤、熱重合開始剤等の任意の成分を添加することができる。
【0119】
重合性組成物作製時においては、シラン化合物(α)中の重合性不飽和二重結合の反応率が30%以上、より好ましくは50%以上、酸基含有化合物(β)中の重合性不飽和二重結合の反応率が、30%以上、より好ましくは50%以上となるように架橋分子間の分子構造と反応条件を設計して各成分を調整するのが好ましい。
【0120】
−第3の工程−
第3の工程は、第2の工程で得た重合性組成物を膜状に成形(成膜)する。第2の工程で得られた重合性組成物を膜状に成形するためには、キャスト、コート、注型など、公知の方法を用いることができる。膜状に成形する方法としては、均一な膜を得ることができる方法であれば特に制限はない。膜の厚みは特に制限されないが、10μmから1mmの間の任意の厚みとなるように形成することができる。燃料電池用のプロトン伝導性膜は、プロトン伝導性、燃料バリア性、膜の機械的強度から膜厚は適宜決定され、通常、膜厚が20〜300μmのものが好ましく用いることができるため、本発明のプロトン伝導性膜の膜厚もこれに準じて製造する。
【0121】
又、この成膜工程を行う際に、繊維、マット、フィプリルなどの支持体、補強材を添加してもよいし、又、これら支持体に含浸させてもよい。これら支持体、補強材は、耐熱性と耐酸性を勘案してガラス材料、シリコーン樹脂材料、フッ素樹脂材料、環状ポリオレフィン材料、超高分子量ポリオレフィン材料等から適宜選択し、用いることができる。
【0122】
含浸する方法としては、ディップ法、ポッティング法、ロールプレス法、真空プレス法など、限定されることなく、公知の方法を用いることができ、又、加熱、加圧等を行ってもよい。
【0123】
本実施形態においては、プロトン伝導性膜を複合強化するために、フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリイミドからなる高分子材料に含浸させることが好ましい。フッ素樹脂、ポリエチレン、ポリイミドからなる高分子材料としては、膜厚が20〜100μm、孔径が0.05〜0.2μm、空孔率が60%以上である多孔質材料が好ましく用いられる。多孔質材料は、親水化処理が施されていることが好ましい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレンを好適に用いることができる。
【0124】
−第4の工程−
第4の工程は、第3の工程で成膜した膜状物に含まれる加水分解性シリル基を加水分解及び縮合、及び/又はシラノール基を縮合させることにより、ケイ素−酸素架橋構造からなる粒子の連続体を構成要素として含む膜を形成する。
【0125】
本実施形態におけるプロトン伝導性膜は、アルコキシシリル基等の加水分解、縮合により、架橋構造を形成し、高温においても安定的にプロトン伝導性を発揮し、形状変化等も少ないことを特徴とする。このようなアルコキシシリル基等の加水分解、縮合によるSi−O−Si結合の生成はゾルゲル反応としてよく知られている。
【0126】
ゾルゲル反応においては、反応加速及び制御のために、触媒が用いられるのが普通である。触媒は、通常、酸又は塩基が用いられる。
【0127】
プロトン伝導性膜の製造方法において用いる触媒(G)としては、酸であっても塩基であってもよい。酸触媒を用いる場合には、塩酸、硫酸、リン酸、酢酸などのプレンステッド酸を用いる。酸の種類、濃度等は特に限定されず、入手可能な範囲のものであればよい。
【0128】
塩基触媒としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、有機アミン類が好ましく用いることができる。又、縮合触媒としてフッ化カリウム、フッ化アンモニウム、テトラメチルアンモニウムフロリド、テトラエチルアンモニウムフロリドなどフッ化物を用いても良い。
【0129】
触媒を導入する工程は、第1の工程から第4の工程のいずれのタイミングでもよい。最も簡便なのは第1の工程で混合物を調製する際に導入する方法であるが、この場合には第3の工程である成膜におけるポットライフやセット時間を勘案する必要がある。
【0130】
縮合反応は室温でも可能であるが、反応時間を短縮し、より効率的な硬化を行うためには加熱を行う方がよい。加熱は公知の方法で良く、オーブンによる加熱やオートクレープによる加圧加熱、遠赤外線加熱、電磁誘導加熱、マイクロ波加熱などが使用できる。加熱は室温から300℃までの任意の温度で行うことができ、100〜250℃で行うことが好ましい。この際、減圧下、窒素下、あるいはアルゴン下等、不活性ガス等の元で加熱しても良い。
【0131】
又、加熱は室温である程度時間をかけて硬化させてから、高温に徐々に昇温するなど、急激な環境変化を避ける方法を採用してもよい。
【0132】
又、加水分解で必要な水を補給するために水蒸気下で行っても良く、又、急激な膜の乾燥を防ぐため、溶媒蒸気下で行ってもよい。
【0133】
第4の工程を経た膜は、必要に応じて水洗により未反応物や効果触媒を取り除き、更に硫酸などでイオン交換を行ってもよい。
【0134】
−第5の工程−
第5の工程は、膜中のメルカプト基を酸化してスルホン酸基とし、粒子の表面にスルホン酸基を導入する工程である。
【0135】
洗浄する際に用いる水は、蒸留水、イオン交換水など、金属イオンを含まないものが好ましい。水洗においては、加熱しても良く、加圧や振動を与えてより水洗を効率化してもよい。更に、膜中への浸透を促進するために、水にメタノール、エタノール、n−プロパノール、i−プロパノール、アセトン、テトラヒドロフラン等を加えた混合溶剤を用いてもよい。
【0136】
本実施形態で用いるメルカプト基酸化方法としては、特に制限されないが、一般的な酸化剤を用いることができる。具体的には、例えば、新実験化学講座(丸善、第3版、第15巻、1976)において述べられているように、硝酸、過酸化水素、酸素、有機過酸(過カルボン酸)、臭素水、次亜塩素酸塩、次亜臭素酸塩、過マンガン酸カリウム、クロム酸などの酸化剤を用いることができる。
【0137】
以上の膜作製方法は好ましい一例であり、この方法に限定されず、例えば、第1の工程で得た混合物を主成分として、第3の工程、第4の工程、第5の工程を経て、膜を作製すれば、より耐熱性や燃料バリア性が高い膜が得られる。また、別の例では、第2の工程で得た組成物を第3の工程、第4の工程を経て、膜を作製すれば、より柔軟性、膜/電極接着性の高い膜が得られる。
【0138】
2.膜−電極接合剤(プロトン伝導性材料)を作製する工程
次に、プロトン伝導性膜の製造工程で得られたプロトン伝導性膜の両面に配置する膜−電極接合剤を作製する。
【0139】
3.膜−電極接合剤を配置する工程
次に、プロトン伝導性膜の表面上又はプロトン伝導性膜の表面と貼り合わせるための電極の表面上に、膜−電極接合剤を塗布する。塗布する方法としては、例えば、ロールコート法、スプレーコート法、ドクターブレード法、ディップコート法、転写法、及び電着塗装法などを用いることができる。
【0140】
4.貼り合わせ工程
次に、膜−電極接合剤を介してプロトン伝導性膜と電極とを貼り合わせる。貼り合わせる際に、圧力をかけてもよく、加熱してもよい。貼り合わせ時の温度としては、好ましい下限が20℃であり、上限は特に限定されないが、膜の物性を損なわない程度が適切であり、通常、300℃以下の温度で行うことが好ましい。また、圧力をかけながら貼り合わせることにより、プロトン伝導性膜と電極との密着性が向上するため、反応効率の高い接合面が形成できる。圧力は、0.5Ncm/cm2以上、電極や膜が破壊されない圧力以下とするのが好ましい。
【0141】
5.硬化工程
次に、電極を貼り合わせて得られた膜−電極接合体を硬化させる。この際、加熱を行うことが好ましい。加熱の方法としては、特に限定されず、オーブン等の熱源による加熱、遠赤外線加熱、誘導加熱等任意の加熱方法を用いることができる。
【0142】
(第2の製造方法)
膜−電極接合体の第2の製造方法として、第1の製造方法における「1.プロトン伝導性膜の製造工程」及び「2.膜−電極接合剤を作製する工程」を経た後に、以下の3A〜5Aに示す工程を経てもよい。
【0143】
3A.膜−電極接合剤を配置する工程
第1の製造方法において説明した「3.膜−電極接合剤を配置する工程」と実質的に同様の方法で、プロトン伝導性膜の表面に膜−電極接合剤を塗布する。その後、膜を乾燥させて接合層付き膜を得る。乾燥の際は、真空乾燥や加熱乾燥、加熱プレスなどの方法を用いることができる。
【0144】
4A.貼り合わせ工程
得られた接合層付き膜に水、メタノールなどの極性溶媒を含浸させ、接合層付き膜を軟化および/または膨潤させる。そして、軟化および/または膨潤した接合層付き膜に、電極(燃料極および酸素極)を貼付する。その後、第1の製造方法において説明した「4.貼り合わせ工程」と実質的に同様の方法で加熱プレスする。
【0145】
5A.硬化工程
貼り合わせ工程4Aによって得られた膜−電極接合体を硬化させる。この際、加熱を行うことが好ましい。加熱の方法としては、特に限定されず、オーブン等の熱源による加熱、遠赤外線加熱、誘導加熱等任意の加熱方法を用いることができる。
【0146】
実施の形態に係る膜―電極接合体の第2の製造方法を用いる場合は、接合剤が膜を構成する電解質とは異なる組成であり、その乾燥皮膜の膨潤率が膜の電解質材料の膨潤率より大きいことが特に好ましい。
【0147】
また、第2の製造方法を用いることにより、「3A.膜−電極接合剤を配置する工程」から「4A.貼り合わせ工程」までの時間を、1週間や1ヶ月以上の時間単位で長くとることができる。
【0148】
さらに、第2の製造方法によれば、接合剤の電極への含浸が多すぎて発電出力が低くなったりする不具合が起こりにくく、工程条件の設定が容易となる。
【0149】
なお、ケイ素−酸素結合を有するケイ素−酸素結合型構造体(A)として、液状のアルコキシシランとケイ酸および/またはケイ酸塩水溶液を含む場合は、第2の製造方法を用いて膜−電極接合体を作製することが特に好ましい。
【0150】
ケイ酸および/またはケイ酸塩の水溶液を含む場合は、「3A.膜−電極接合剤を配置する工程」において、ゲル化した皮膜を形成しやすいためである。皮膜は極性溶媒が完全に蒸発している必要はなく、また、ケイ素−酸素結合を有する架橋性化合物が完全に反応している必要はない。ケイ酸および/またはケイ酸塩の含有量により、「4A.貼り合わせ工程」での軟化および/または膨潤の程度を容易に調整できるため、膜−電極の高い接着性と発電時の高い出力を両立できる。
【0151】
さらに、「4A.貼り合わせ工程」および/または「5A.硬化工程」において加熱硬化すると、アルコキシシランが加水分解、重縮合することにより強固な3次元架橋構造が形成されるため、耐熱性、耐膨潤性、耐水性などが向上される。この場合、アルコキシシランは完全に反応していることが好ましい。なお、反応率は、29Si−NMR解析法などにより測定した縮合度により見積もることができる。
【実施例】
【0152】
次に、本発明を更に詳しく説明するために以下に実施例を挙げるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0153】
(実施例1)
3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(信越化学社製、KBM−803)53.0g、テトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)131.2g及びメタノール26.5gをフラスコに計量し、0℃で10分撹拌した。そこに、0.01N塩酸15.6gとメタノール20.8gとを混合した溶液を添加し、0℃で1時間撹拌し、40℃に昇温後、更に2時間撹拌した。次いで、フッ化カリウム(和光純薬社製)0.114gとメタノール29.7gとを混合した溶液を添加し、40℃で1時間撹拌し、80℃に昇温後、更に2時間撹拌した。混合溶液を0℃に冷却し、その後、40℃真空にてアルコールを分留した。得られた溶液を0℃に冷却し、ジエチルエーテル200mLを加えて、0℃で10分撹拌した後、メンブレンフィルター(ミリポア社製、オムニポアメンブレン孔径0.2μm)を用いて濾過した。得られた濾液から40℃真空にてジエチルエーテルを分留し、メルカプト基含有シランオリゴマーを得た。
【0154】
得られたメルカプト基含有シランオリゴマー1.86gとビス(トリエトキシシリル)オクタン(Gelest社製)2.26gを混合した液に、水0.11gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.05gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)30%水溶液12.5gと3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.3gとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成社製)0.1gを滴下した。さらに、水酸基含有構造体(P)として1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.02gとグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを加えた。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得た。
【0155】
重合組成物1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶かして得られた溶液をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、UV照射してから室温で80時間養生した。ギアオーブンを用いて130℃で24時間加熱硬化した後、酢酸60mL、30%過酸化水素水15mLを混合して調整した過酢酸に浸漬し、ホットプレートにて60℃で1時間加熱した。得られた膜を過酢酸溶液から取り出し、80℃の水に各1時間、2回浸漬して過酢酸溶液を充分に除いて、半透明のプロトン伝導性フィルムを得た。
また、得られたプロトン伝導性フィルムの破断面をFE−SEMにより観察したところ、電解質内部において径が50ナノメートルから80ナノメートル程度の不定形粒子構造をとっていることが確認された。
【0156】
(実施例2)
実施例1のグリセロール1,3−ジグリセレートジアクリレート0.05g(アルドリッチ社製)の代わりにグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gへ変更した以外は、同じ工程を経て半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0157】
(実施例3)
実施例1で得られたメルカプト基含有シランオリゴマー1.86gとビス(トリエトキシシリル)オクタン(Gelest社製)2.26gを混合した液に、水0.11gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.05gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)30%水溶液12.5gと3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.3gとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成社製)0.1gを滴下した。さらに、水酸基含有構造体(P)としてモノメタクリル酸(和光純薬社製)0.05gとグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを加えた。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得た。
【0158】
重合組成物1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶かして得られた溶液をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、UV照射してから室温で80時間養生した。ギアオーブンを用いて130℃で24時間加熱硬化した後、酢酸60mL、30%過酸化水素水15mLを混合して調整した過酢酸に浸漬し、ホットプレートにて60℃で1時間加熱した。得られた膜を過酢酸溶液から取り出し、80℃の水に各1時間、2回浸漬して過酢酸溶液を充分に除いて、半透明のプロトン伝導性フィルムを得た。
【0159】
(実施例4)
実施例1で得られたメルカプト基含有シランオリゴマー1.86gとビス(トリエトキシシリル)オクタン(Gelest社製)2.26gを混合した液に、水0.11gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.05gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)30%水溶液12.5gと3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.3gとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成社製)0.1gを滴下した。さらに、水酸基含有構造体(P)としてポリりん酸0.1gとモノメタクリル酸(和光純薬社製)0.05gと1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.02gとグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを加えた。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得た。
【0160】
重合組成物1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶かして得られた溶液をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、UV照射してから室温で80時間養生した。ギアオーブンを用いて130℃で24時間加熱硬化した後、酢酸60mL、30%過酸化水素水15mLを混合して調整した過酢酸に浸漬し、ホットプレートにて60℃で1時間加熱した。得られた膜を過酢酸溶液から取り出し、80℃の水に各1時間、2回浸漬して過酢酸溶液を充分に除いて、半透明のプロトン伝導性フィルムを得た。
【0161】
(実施例5)
実施例1で得られたメルカプト基含有シランオリゴマー1.86gとビス(トリエトキシシリル)オクタン(Gelest社製)2.26gを混合した液に、水0.11gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.05gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)30%水溶液12.5gと3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.3gとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成社製)0.1gを滴下した。さらに、水酸基含有構造体(P)として、ポリりん酸0.1gと5wt%に調整したポリビニルアルコール(和光純薬社製)水溶液1gとモノメタクリル酸(和光純薬社製)0.05gと1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.02gとグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを加えた。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得た。
【0162】
重合組成物1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶かして得られた溶液をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、UV照射してから室温で80時間養生した。ギアオーブンを用いて130℃で24時間加熱硬化した後、酢酸60mL、30%過酸化水素水15mLを混合して調整した過酢酸に浸漬し、ホットプレートにて60℃で1時間加熱した。得られた膜を過酢酸溶液から取り出し、80℃の水に各1時間、2回浸漬して過酢酸溶液を充分に除いて、半透明のプロトン伝導性フィルムを得た。
【0163】
(実施例6)
実施例1で得られたメルカプト基含有シランオリゴマー2.17gとトリエトキシビニルシラン(信越化学社製、KBE−1003)0.81gとテトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)2.43gとテトラメトキシシラン(東京化成社製)0.86gを混合した液に、水0.15gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.07gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)30%水溶液14.1gを滴下した。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得たこと以外は、N,N−ジメチルホルムアミド溶液にした以降、UV照射、養生、焼成、酸化と同じ工程を経て半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0164】
ポリりん酸(和光純薬社製)0.4gと1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.2gとグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを5wt%に調整したポリビニルアルコール(和光純薬社製)水溶液1gを超音波ホモジナイザーで均一に分散させて膜表面に塗布した。精密プレス機を用いて、120℃、1kNの条件下、3分間プレスを行った。このサイクルを繰り返し、厚み15μmの接合層を形成し、半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0165】
(実施例7)
実施例1で得られたメルカプト基含有シランオリゴマー1.86gとトリエトキシビニルシラン(信越化学社製、KBE−1003)0.62gとテトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)3.51gとを混合した液に、水0.11gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.05gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(Aldrich社製)30%水溶液12.5gと1,4−ジビニルベンゼン(和光純薬社製)0.3gとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成社製)を滴下した。さらに、水酸基含有構造体(P)としてポリりん酸(和光純薬社製)0.2gと5wt%に調整したポリビニルアルコール(和光純薬社製)水溶液1gとモノメタクリル酸(和光純薬社製)0.05gと1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.02gとグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを加えた。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得たこと以外は、N,N−ジメチルホルムアミド溶液にした以降、UV照射、養生、焼成、酸化と同じ工程を経て半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0166】
(実施例8)
実施例1で得られたメルカプト基含有シランオリゴマー1.86gとビス(トリエトキシシリル)オクタン(Gelest社製)2.26gを混合した液に、水0.11gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.05gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(アルドリッチ社製)30%水溶液12.5gと3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート(東京化成社製)0.3gとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成社製)0.1gを滴下した。さらに、水酸基含有構造体(P)としてポリりん酸(和光純薬社製)0.2gと5wt%に調整したポリビニルアルコール(和光純薬社製)水溶液1gとモノメタクリル酸(和光純薬社製)0.05gと1,2,3−プロパントリオール(アルドリッチ社製)0.02gとグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを加えた。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得た。
【0167】
重合組成物1gをN,N−ジメチルホルムアミド10mLに溶かして得られた溶液をテフロン(登録商標)基板状にキャストし、UV照射してから室温で80時間養生した。ギアオーブンを用いて130℃で24時間加熱硬化した後、酢酸60mL、30%過酸化水素水15mLを混合して調整した過酢酸に浸漬し、ホットプレートにて60℃で1時間加熱した。得られた膜を過酢酸溶液から取り出し、80℃の水に各1時間、2回浸漬して過酢酸溶液を充分に除いて、半透明のプロトン伝導性フィルムを得た。
【0168】
(実施例9)
実施例1で得られたメルカプト基含有シランオリゴマー1.86gとトリエトキシビニルシラン(信越化学社製、KBE−1003)0.62gとテトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)3.51gとを混合した液に、水0.11gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.05gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(Aldrich社製)30%水溶液12.5gと1,4−ジビニルベンゼン(和光純薬社製)0.3gとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとネオペンチルグリコールジアクリレート(東京化成社製)を滴下した。さらに、水酸基含有構造体(P)として、ポリりん酸(和光純薬社製)0.2gと5wt%に調整したポリビニルアルコール(和光純薬社製)水溶液1gとモノメタクリル酸(和光純薬社製)0.05gとグリセロール(アルドリッチ社製)0.02gとグリセロール2−りん酸二ナトリウムn水和物(和光純薬社製)0.02gを加えた。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得たこと以外は、N,N−ジメチルホルムアミド溶液にした以降、UV照射、養生、焼成、酸化と同じ工程を経て半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0169】
(実施例10)
実施例9で得られた重合組成物3gをフッ素樹脂フィルム上でポリエチレン製多孔質膜(厚み:20〜60μm、空孔率:80〜95%、平均孔径:0.5〜1.0μm)に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚が50μmになるようにレベリングした。フィルムを剥がし、UV照射してから室温で80時間養生した。フッ素樹脂フィルムを新たに膜に被せ、2枚のガラス板でフッ素樹脂フィルムを介して挟み、この状態でガラス製の容器に水500mLとともに入れた。ギアオーブンを用いて80℃で24時間加熱硬化し、焼成して膜を得たこと以外は同じ酸化工程を経て半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0170】
(実施例11)
実施例10で得られたプロトン伝導性膜を1辺が5cmの正方形に切り出し、5%硫酸(和光純薬社製)0.1gとポリスチレンスルホン酸(アルドリッチ社製)2gとポリアクリル酸(アルドリッチ社製)1gとポリビニルピロリドン(アルドリッチ社製)1gの混合溶液に浸漬し、ホットプレートにて80℃で30分加熱した。得られた膜を混合溶液から取り出し、80℃の水に各1時間、2回浸漬して充分に洗浄した後、半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0171】
(実施例12)
実施例9で得られた重合組成物3gをフッ素樹脂フィルム上でポリエチレン製多孔質膜(厚み:20〜60μm、空孔率:80〜95%、平均孔径:0.5〜1.0μm)に含浸させた。含浸後の膜にフッ素樹脂フィルムを被せ、その上からアプリケーターで膜厚が50μmになるようにレベリングした。フッ素樹脂フィルムを被せたまま室温で24時間養生した後、遠心力が膜表面に垂直になるように配置して、固定し、遠心分離機にかけた。回転速度120rpmで10分間遠心分離を行った。内径面をアノード面に、外径面をカソード面として取り扱った。フィルムを剥がし、UV照射してから室温で80時間養生した。フッ素樹脂フィルムを新たに膜に被せ、2枚のガラス板でフッ素樹脂フィルムを介して挟み、この状態でガラス製の容器に水500mLとともに入れた。ギアオーブンを用いて80℃で24時間加熱硬化し、焼成して膜を得たこと以外は同じ酸化工程を経て半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0172】
(比較例1)
実施例1において得られたメルカプト基含有シランオリゴマー3.86gとテトラエトキシシラン(信越化学社製、KBE−04)1.51gとを混合した液に、水0.08gとトリエチルアミン(和光純薬社製)0.03gとを滴下した。室温で10分攪拌した後、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとビニルメタクリレート(東京化成社製)0.2gを滴下した。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.1gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.1gを添加し、重合性組成物を得たこと以外は、フッ素樹脂フィルム上でポリエチレン製多孔質膜に含浸する以降同じ工程を経て半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0173】
(比較例2)
比較例1において室温で10分攪拌した後、アクリルアミド(和光純薬社製)0.1gとトリメチルプロパントリアクリレート(東京化成社製)0.3gとポリ(2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸)(Aldrich社製)15wt%水溶液を5wt%に希釈した後、21.6gとN,N’-メチレンビスアクリルアミド(和光純薬社製)10%水溶液1gとビニルメタクリレート(東京化成社製)0.1gを滴下した。混合溶液を0℃に冷却し、5分間撹拌した。光重合開始剤(ライトケミカル社製、KR−02)0.05gと熱重合開始剤のアゾビスイソブチロニトリル(和光純薬社製)0.07gを添加し、室温で30分間撹拌し、重合性組成物を得たこと以外は、フッ素樹脂フィルム上でポリエチレン製多孔質膜に含浸する以降同じ工程を経て半透明のプロトン伝導性膜を得た。
【0174】
(比較例3)
プロトン伝導性膜として市販のナフィオン117(登録商標、デュポン社製)を用いた。
【0175】
<評価方法>
(1)プロトン伝導性評価
本発明の製造方法により得られたプロトン伝導性膜を通例の電気化学セル(例えば特開2002−184427号公報中、図3に記載されたものと同一のもの)にセットし、プロトン伝導性膜と白金板とを密着させた。この白金板に、電気化学インピーダンス測定装置(ソーラトロン社製、1260型)を接続し、周波数0.1Hz〜100kHzの領域でインピーダンス測定し、イオン伝導性膜のプロトン伝導度を評価した。
【0176】
なお、上記測定では、サンプルは、電気的に絶縁された密閉容器中に支持され、高濃度メタノール雰囲気(64wt%)で、温度コントローラーによりセル温度を室温から80℃まで変化させ、それぞれの温度でプロトン伝導度の測定を行った。
【0177】
プロトン伝導性膜の伝導度を、代表的なフッ素系スルホン酸であるナフィオン117を同条件で測って得られた値で割った比をプロトン伝導性の指標とした。
【0178】
(2)メタノール透過性評価
メタノール透過係数(以下、「MCO」という。)を、以下の方法により測定した。
【0179】
まず、直径2cmの円形の窓を有する円形セル2つを用い、窓の部分でゴムパッキンを介してプロトン伝導性膜を挟み込み、一方のセルに純メタノールを、他方のセルに純水を入れ、25℃にて1時間、スターラーで攪拌した。その後、純水側に透過したメタノールの濃度X(重量%)をガスクロマトグラフィーにより測定し、下式によりMCOを算出した。
【0180】
【数1】

【0181】
プロトン伝導性膜のMCOを、代表的なフッ素系スルホン酸であるナフィオン117を同条件で測って得られた値で割った比をメタノール透過性の指標とした。
【0182】
(3)MEA耐久性(耐温度衝撃性と形状保持安定性)評価
プロトン伝導性膜を1辺が5cmの正方形に切断し、純メタノールに浸漬し、25℃において12時間放置した。その後、60℃で1時間加熱した後、0℃まで冷却して、そのまま1時間放置した。再び25℃まで温度を上げ、12時間放置した。これを1サイクルとし、3サイクル行った。
【0183】
続いて膜を充分水で濡らして含水させた後、膜を1辺が2.5cm角の電極で挟み、精密プレス機を用いて、140℃、1kNの条件下、3分間プレスを行い、膜−電極接合体を得た。それぞれサンプル瓶に満たされた64wt%メタノール中に浸し、80℃に保って放置した。24h後、浸漬したプロトン伝導性膜MEAを取り出し、MEA構造が維持されているかどうかを確認し、温度衝撃性と形状保持安定性の指標として表した。
(○:MEA構造を維持している、×:電極の剥がれが目視で確認できる)
【0184】
(4)耐極性溶媒性評価
プロトン伝導性膜を1辺が5cmの正方形に切断し、それぞれサンプル瓶に満たされた100mLの純メタノール中に浸し、60℃に保って放置した。100時間後、浸漬したプロトン伝導性膜を取り出した。乾燥した後、浸漬による重量減少量を浸漬前の重量で割ってメタノール重量減少率を算出し、1からメタノール重量減少率をひいて100をかけた値を耐メタノール重量保持率と定め、極性溶媒に対する耐溶解性評価の指標として表した。
【0185】
(5)ナフィオン電極接着性評価
プロトン伝導性膜を1辺が5cmの正方形に切断し、充分に水で濡らして含水させた後、膜を1辺が2.5cm角のナフィオン電極で挟み、精密プレス機を用いて、140℃、1kNの条件下、3分間プレスを行い、膜−電極接合体を得た。
【0186】
片側電極を両面テープで固定し、90°剥離試験機を使って電解質膜の側部75mm2を1cm/secの速度で引き剥がし、その電極−膜間の接着強度を同条件のナフィオン膜−ナフィオン電極接合体で得られた強度で割った比をナフィオン電極接着性評価の指標とした。
【0187】
(6)低濃度発電性能評価
膜−電極接合体を、燃料電池用単セル(JARI標準セル)に規定の方法でセットした。このセルを燃料電池発電評価装置(エヌエフ回路ブロック設計社製、「As−510」)にセットし、セルの温度を40℃、メタノールの濃度を15vol%、流量を毎分1mL、空気の流量を毎分100mLで運転し、セルのI−Vを計測し最大出力を比較した。
実施例、比較例で作製したMEAの発電性能を比較するための評価基準として、比較例3の最大出力を1として、相対値を評価した。
【0188】
(7)高濃度発電性能評価
評価方法(6)の、メタノールの濃度を50vol%とした以外は、同じ方法で評価を行った。
【0189】
<結果>
得られた結果を表1に示す。
【0190】
【表1】

【0191】
表1に示すように、実施例1〜12で得られたプロトン伝導性膜は、比較例1〜3と比べて、同等以上のプロトン伝導性を発現していることが分かった。
実施例1〜12で得られたプロトン伝導性膜は比較例1〜3と比べて、高いMEA耐久性を示した。また比較例2、3と比べて高いMCOと耐極性溶媒性を示した。その結果、一般的なプロトン伝導性膜であるナフィオン117(登録商標)と比べると、高濃度発電性能が非常に高いことを示した。
よって、実施例1〜12は、いずれも高プロトン伝導性とMCOを兼ね備え、高い耐久性、電極接着性、発電性能を示すことが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0192】
【図1】本実施形態に係るプロトン伝導性材料の構造の例を示す概略図である。
【図2】本実施形態に係るプロトン伝導性材料の各成分の例を示す概略図である。
【図3】本実施形態に係るプロトン伝導性膜の表面状態を表す説明図である
【図4】膜実施形態に係る膜−電極接合体を示す概略図である。
【符号の説明】
【0193】
1…プロトン伝導性膜
1a…第1主面
1b…第2主面
2a,2b…接合層
3a,3b…触媒層
4a,4b…ガス拡散層
5a,5b…電極
10…膜−電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸基を含む高分子材料と、ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)を含むことを特徴とするプロトン伝導性材料。
【請求項2】
前記水酸基含有構造体(P)が、リンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含むことを特徴とする請求項1に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項3】
前記化合物(a)のヒドロキシアルコキシ基が、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、ヒドロキシプロポキシ基のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項4】
前記重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)が、ポリリン酸を含むことを特徴とする請求項2又は3に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項5】
前記水酸基含有構造体(P)が、ポリビニルアルコールを更に含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項6】
前記水酸基含有構造体(P)が、酸基含有構造体(H)を更に含むことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項7】
ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)及びリンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)と、
ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と
を含むプロトン伝導性材料であって、
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式(I)で表される構造体であることを特徴とするプロトン伝導性材料。
【化1】

(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【請求項8】
ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)及びリンを含む重合性無機酸成分および/又は無機酸重合体(b)を構成要素として含む水酸基含有構造体(P)と、
ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と、
該ケイ素−酸素結合型構造体(A)とケイ素−酸素結合によって連結され、シラン化合物と共有結合し、且つ酸基を有する酸基含有構造体(B)と
を含むプロトン伝導性材料であって、
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式(I)で表される構造体であり、
且つ前記酸基含有構造体(B)中に、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)とを共有結合させた構造体を含むことを特徴とするプロトン伝導性材料。
【化2】

(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【請求項9】
前記水酸基含有構造体(P)が、前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)又は酸基含有構造体(B)の少なくとも一方と結合していることを特徴とする請求項8に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項10】
前記酸基含有構造体(B)中の前記酸基の原子団が、少なくとも4つ以上の炭素−炭素単結合距離を介してケイ素−酸素結合を有するケイ素と結合していることを特徴とする請求項8又は9に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項11】
前記酸基含有化合物(β)が、プロトン付加が可能なヘテロ原子を3つ以上有し、メチレン基を含むアクリルアミド又は(メタ)アクリレートであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項12】
前記酸基含有化合物(β)が、スルホン酸基を有することを特徴とする請求項11に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項13】
前記ヒドロキシアルコキシ基を持つ化合物(a)、前記シラン化合物(α)、及び前記酸基含有化合物(β)のいずれかと結合可能な官能基を1分子中に2つ以上有する架橋剤(C)の化合物を更に含むことを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項14】
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)と前記シラン化合物(α)の総配合量が、重合性不飽和二重結合を一つ以上有する前記架橋剤(C)の配合量に対して、40〜120質量%であることを特徴とする請求項13に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項15】
前記シラン化合物(α)の配合量が、重合性不飽和二重結合を一つ以上有する前記架橋剤(C)に対して、10〜70質量%であることを特徴とする請求項13又は14に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項16】
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)、前記酸基含有構造体(B)および前記架橋剤(C)が相互に共有結合してなる個々の粒子が結合した連続体であることを特徴とする請求項15に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項17】
前記粒子の平均粒径が、3〜200nmであることを特徴とする請求項16に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項18】
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)、前記酸基含有構造体(B)、および重合性不飽和二重結合を一つ以上有する前記架橋剤(C)が、相互に共有結合してなることを特徴とする請求項17に記載のプロトン伝導性材料。
【請求項19】
請求項1〜18のいずれか1項に記載のプロトン伝導性材料からなることを特徴とする膜−電極接合剤。
【請求項20】
高分子材料(Q)により複合強化されていることを特徴とする請求項19に記載の膜−電極接合剤。
【請求項21】
請求項1〜18のいずれか1項に記載のプロトン伝導性材料を用いて作製されたことを特徴とするプロトン伝導性膜。
【請求項22】
一方の表面中に存在するケイ素原子数(X0)と、他方の表面中に存在するケイ素原子数(Xz)が、
o/Xz≧1.3
の関係を満たすことを特徴とする請求項21に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項23】
高分子材料(Q)により複合強化されていることを特徴とする請求項21又は22に記載のプロトン伝導性膜。
【請求項24】
プロトン伝導性膜のいずれか一方の表面又は両表面に、請求項19又は20に記載の膜−電極接合剤を用いて、膜−電極接合層が形成されていることを特徴とする接合層付プロトン伝導性膜。
【請求項25】
前記プロトン伝導性膜が、請求項21〜23のいずれか一項に記載のプロトン伝導性膜であることを特徴とする請求項24に記載の接合層付プロトン伝導性膜。
【請求項26】
前記プロトン伝導性膜が、酸基含有構造体(H)と、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)とを含み、
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式(I)で表される構造体であることを特徴とする請求項25に記載の接合層付プロトン伝導性膜。
【化3】

(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【請求項27】
前記プロトン伝導性膜が、ケイ素−酸素結合による架橋構造を含むケイ素−酸素結合型構造体(A)と、シラン化合物と共有結合し、且つ酸基を有する酸基含有構造体(B)とがケイ素―酸素結合によって連結され、
前記ケイ素−酸素結合型構造体(A)が、下記の一般式で表される構造体であり、
且つ前記酸基含有構造体(B)中に、重合性不飽和二重結合を有するシラン化合物(α)と酸基及び重合性不飽和二重結合を有する酸基含有化合物(β)とを共有結合させた構造体が含まれることを特徴とする請求項25に記載の接合層付プロトン伝導性膜。
【化4】

(式(I)中、R1は炭素数1〜50の置換および/またはヘテロ原子を含みうる鎖状炭化水素基、又は酸素原子であり、R2、R3、R4、R5、R6、R7は、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシキ基、ブトキシ基、水酸基、O−Si−のいずれかを表し、それぞれ同じであっても異なっていても良く、R1〜R7のうち少なくとも1つは酸素原子を含み、R2、R3、R6のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siであり、且つR4、R5、R7のうち少なくとも一つは架橋に関与するO−Siである。)
【請求項28】
請求項24〜27のいずれか1項に記載の接合層付プロトン伝導性膜に、燃料極及び酸素極が接合されたことを特徴とする膜−電極接合体。
【請求項29】
請求項28に記載の膜−電極接合体を備えることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
【請求項30】
前記膜−電極接合体を単位セルとして、前記単位セルの外側に、燃料および/又は酸素の通路となる一対のセパレータが設置されるとともに、隣り合う複数の前記単位セルが相互に連結されていることを特徴とする請求項29に記載の固体高分子形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−99564(P2009−99564A)
【公開日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−250752(P2008−250752)
【出願日】平成20年9月29日(2008.9.29)
【出願人】(000002174)積水化学工業株式会社 (5,781)
【Fターム(参考)】