説明

プロトン伝導性複合電解質膜、それを用いた膜電極接合体及び燃料電池

【課題】優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立したプロトン伝導性複合電解質膜を提供する。
【解決手段】本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する金属化合物粒子と、プロトン伝導性を有する有機高分子材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含み、前記金属化合物粒子の平均一次粒子径が0.5nm以上5nm以下、その平均二次粒子径が50nm以下、その平均分散粒子径が30nm以下であり、前記金属化合物粒子の含有量が、前記電解質膜の全重量に対して、30重量%以上60重量%以下であり、前記分散剤と前記金属化合物粒子との重量比が、0.1:100〜5:100であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高プロトン伝導性と低燃料透過性とを両立させたプロトン伝導性複合電解質膜、それを用いた膜電極接合体及び燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池に代わる携帯機器用電源として、メタノールあるいは水素を燃料に使う燃料電池〔直接型メタノール燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)及び固体高分子型燃料電池(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)が期待されており、実用化を目指して盛んに開発が行われている。
【0003】
燃料電池の電極は、プロトン伝導性の固体高分子電解質膜の表裏にカソード(酸素極)の触媒層及びアノード(燃料極)の触媒層をそれぞれ配した膜電極接合体(MEA:Membrane Electrode Assembly)から構成されている。上記触媒層は触媒担持カーボンと固体高分子電解質とが適度に混ざり合ったマトリクスとして形成されており、カーボン上の触媒と固体高分子電解質及び反応物質とが接触する三相界面において電極反応が行われる。また、カーボンの繋がりが電子の通り道となり、固体高分子電解質の繋がりがプロトンの通り道となる。
【0004】
例えば、DMFCでは、燃料極の触媒層及び酸素極の触媒層でそれぞれ下記の式(1)及び式(2)に示す反応が起き、電気を取り出すことができる。
【0005】
CH3OH + H2O → CO2 + 6H+ + 6e- (1)
2 + 4H+ + 4e- → 2H2O (2)
DMFCは理論的にリチウムイオン二次電池の約10倍のエネルギー密度を持つとされている。しかし、現状ではリチウムイオン二次電池と比べて、用いるMEAの出力が低く、実用化に至っていない。
【0006】
MEAの出力向上には、構成材料である触媒及び電解質膜の改良、MEAの構造の最適化といったアプローチがある。中でも電解質膜の改良がMEAの出力向上の重要な鍵を握っている。電解質膜に求められる性能としては、(1)プロトン伝導率が高いこと、(2)燃料(メタノールあるいは水素)の透過率が低いこと、の2点が挙げられる。(1)のプロトン伝導率が高いことが要求されるのは、プロトン伝導率が低くなると電解質膜の抵抗が高くなるためであり、膜抵抗の増大は出力低下に直結する。また、(2)の燃料透過率が低いことが要求されるのは、燃料透過率が高くなると燃料極側の燃料が電解質膜を透過して酸素極に達してしまう、いわゆる「クロスオーバー」が起こるためである。酸素極に達した燃料は、酸素極の触媒上で酸素と化学的に反応して熱を発する。このクロスオーバーにより、電解質膜そのものの劣化を招くだけでなく、酸素極の過電圧の増大を招き、MEAの出力低下の原因となる。
【0007】
現在、最も一般的に用いられている電解質膜は、デュポン社製の“ナフィオン”(登録商標)と呼ばれるパーフルオロスルホン酸系電解質膜である。ナフィオンは、疎水性のポリテトラフルオロエチレン(PTFE)骨格に、末端に親水性のスルホン酸基が固定された側鎖を有し、含水状態でスルホン酸基とプロトン及び水分子とが会合して、イオンクラスターを形成する。このクラスター内はスルホン酸基の濃度が高いためにプロトンの通路となり、ナフィオンは高プロトン伝導率を発現する。しかし、ナフィオンは高プロトン伝導率を有するものの、燃料透過率が高いという問題がある。
【0008】
ナフィオン以外の電解質膜としては、炭化水素系電解質膜、芳香族炭化水素系電解質膜等があり、いずれも、スルホン酸基、ホスホン酸基あるいはカルボキシル基等のプロトン供与体を有する。ナフィオン同様、これらの電解質膜でも、含水状態にすることでプロトンが解離し、プロトン伝導性を発現する。ここで、スルホン酸基等のプロトン供与体の濃度を高くすることにより、プロトン伝導率を高くすることが可能である。しかしながら、これらの従来のプロトン伝導性電解質膜は、スルホン酸基等のプロトン供与体の濃度を高くすると、含水量が増加するために膜そのものが膨潤し、それに伴い膜に隙間が形成されるために、燃料透過率も増大してしまう。
【0009】
このように、有機高分子材料のみを用いた単一電解質膜では、プロトン伝導率と燃料透過率との間にはトレードオフの関係があり、高プロトン伝導性・低燃料透過性(低クロスオーバー)を両立する電解質膜を得るのは困難であった。
【0010】
近年、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立する電解質膜として、無機物と有機物とを複合した無機有機複合電解質膜が注目されている。例えば、非特許文献1には、有機物であるポリビニルアルコールに、無機物であるヘテロポリ酸(12タングストリン酸)を分散させた複合電解質膜が開示されている。また、非特許文献2には、有機物であるポリビニルアルコールに、無機物であるゼオライトの一種(モルデナイト)を分散させた複合電解質膜が開示されている。また、非特許文献3には、有機物であるスルホン化ポリエーテルケトンあるいはスルホン化ポリエーテルエーテルケトンに、無機物であるSiO2、TiO2、ZrO2を分散させた複合電解質膜が開示されている。
【0011】
さらに、特許文献1には、有機高分子材料に金属酸化物水和物を分散させた電解質膜が開示されている。また、無機物・有機物の複合電解質膜ではないが、特許文献2には、メタノール及び水に対して実質的に膨潤しない多孔性基材の細孔にプロトン伝導性を有するポリマーを充填させた電解質膜が開示されている。
【0012】
このように、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立した電解質膜として、無機材料と有機材料との複合電解質膜が注目されている。中でも、プロトン伝導性を有する金属化合物とプロトン伝導性を有する有機高分子材料からなる複合電解質膜では、金属化合物そのものがプロトン伝導性を持つために膜の導電性を阻害せず、より向上させることも可能であり、また、無機粒子を含有させることにより膜の骨格を形成し、含水時の膜の膨潤を防ぐことが可能であることから、高プロトン伝導性・低燃料透過性を両立した電解質膜として有望であると考えられる。
【0013】
しかしながら、上記複合電解質膜について、本来備えていると考えられる特性を十分引き出すためには、さまざまな条件が必要である。中でも、分散させる金属化合物の特性や粒径のみならず、膜中における配置、分散状態等を最適化する必要がある。
【非特許文献1】Materials Letters、第57巻、p.1406、2003年
【非特許文献2】AIChE Journal、第49巻、p.991、2003年
【非特許文献3】J.Membrane Science、第203巻、p.215、2002年
【特許文献1】特開2003−331869号公報
【特許文献2】国際公開第00/54351号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
現在、金属化合物の中でも、金属酸化物水和物粒子を複合化させた電解質膜では、プロトン伝導率、燃料透過率等の特性が改善される傾向にあることがわかっているが、金属酸化物水和物粒子の分散状態が最適化されていないために、高プロトン伝導性と低燃料透過性の点では未だ十分な性能を発揮できないのが現状である。
【0015】
図3に従来のプロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子と有機高分子材料とで構成される複合電解質膜の模式断面図を示す。図3において、31がスルホン酸基等のプロトン供与体を有する有機高分子材料であり、32がプロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子であり、図3では、金属酸化物水和物粒子32の具体例として酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・nH2O)を用いた例を示した。有機高分子材料は、含水状態においてプロトン伝導性を示す。これは、含水状態においてスルホン酸基等のプロトン供与体からプロトンが解離して伝導するためである。この有機高分子材料を単体で電解質膜に用いた場合、含水量の増加により膜の膨潤が起こり、それに伴ってメタノールあるいは水素等の燃料も有機高分子材料内を透過してしまう。一方、金属酸化物水和物粒子においては、結晶内及び表面に吸着した水和水を介してプロトンが伝導していく。さらに、これらの無機粒子が高い含有率で存在することによって、無機粒子による骨格を形成すると共に、これらの無機粒子同士を繋ぐ役割をする有機高分子材料もまた、その動きが抑制されるために、含水による膜の膨潤が抑制され、同時に燃料のクロスオーバーも抑制される。また、金属酸化物水和物は無機物としては比較的高いプロトン伝導率を有する。例えば、25℃におけるプロトン伝導性は、酸化ジルコニウム水和物(ZrO2・nH2O)では2.8×10-3S/cm、酸化スズ水和物(SnO2・nH2O)では4.7×10-3S/cmである。さらに、金属酸化物水和物の特性上、水和水を吸着・保持する能力があるために、比較的湿度の低い環境においても、これらの粒子が持つ水分により膜そのもののプロトン伝導性を維持することができる可能性がある。
【0016】
以上のように、有機高分子材料と金属化合物粒子とを組み合わせた複合電解質膜により、燃料の膜透過をブロックしつつ、プロトンは通すことのできる電解質膜を得ることが可能になると考えられる。即ち、有機高分子材料の単一電解質膜に見られるプロトン伝導性と、燃料のクロスオーバーとのトレードオフの関係を改善することができると期待される。しかしながら、実際の複合電解質膜の特性は、金属化合物粒子の分散状態により大きく変わる。このため、高プロトン伝導性と低燃料透過性の点では未だ十分な性能を発揮できないのが現状である。
【0017】
本発明は、上記問題を解決したもので、金属化合物粒子と有機高分子材料からなる複合電解質膜において、金属化合物粒子及び有機高分子材料にさらに分散剤を添加することにより、金属化合物粒子の微細分散を実現したものであり、高プロトン伝導性と低燃料透過性とを有する複合電解質膜を提供する。また、本発明は、その複合電解質膜を用いた高出力の燃料電池用MEA及びそのMEAを用いた燃料電池を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する金属化合物粒子と、プロトン伝導性を有する有機高分子材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、前記金属化合物粒子の平均一次粒子径が、0.5nm以上5nm以下であり、前記金属化合物粒子の平均二次粒子径が、50nm以下であり、前記金属化合物粒子の平均分散粒子径が、30nm以下であり、前記金属化合物粒子の含有量が、前記電解質膜の全重量に対して、30重量%以上60重量%以下であり、前記分散剤と前記金属化合物粒子との重量比が、0.1:100〜5:100であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に配置された上記本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを含むことを特徴とする。
【0020】
さらに、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立したプロトン伝導性複合電解質膜を提供することができる。また、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
前述の金属化合物粒子の一次粒子径が大きくて金属化合物粒子同士の隙間を微細に埋められない状態、また、金属化合物粒子の一次粒子径が小さくても凝集等により二次粒子径が大きくなり、一次粒子の状態で分布する粒子数が少なくなって金属化合物粒子同士の隙間を埋められない状態では、膜中の金属化合物粒子が存在しない有機高分子材料のみで構成される部位の割合が多くなり、その金属化合物同士の隙間を通って燃料が透過したり、有機高分子材料のみで構成される部位の含水による膨潤が起こりやすくなるため、クロスオーバーを十分に抑制することができない。さらに、これらの金属化合物粒子が粗大な凝集体あるいはサブミクロンサイズ以上の粒子径を持つ場合には、悪くすれば、金属化合物粒子を分散させることで、逆にクロスオーバーが増大する場合すらある。よって、分散させる金属化合物粒子の一次粒径及び二次粒径は、ある程度以下にする必要があり、さらにそれらの粒子は、膜骨格を形成し膨潤を防ぐために、膜全体にわたって均一に分布していることが必要である考えられる。
【0023】
この場合の理想的な分散状態を、図1に模式的に示す。図1は、本発明の金属化合物粒子の理想的な分散状態を示す模式図であり、図1において、11が有機高分子材料、12が金属化合物凝集体を示す。
【0024】
また、プロトン伝導性を持つ金属化合物粒子を分散させることで、膜全体のプロトン伝導性を阻害することなく燃料透過率を低減させることができる。この際には、(1)金属化合物粒子の含有率が低い、(2)金属化合物粒子の分散が不均一である、(3)金属化合物粒子の凝集径が大きい等の理由で、有機高分子材料のみで構成される部位が多くなり、金属化合物粒子同士の伝導の繋がりが不連続となれば、いわば直流回路の様に、金属化合物粒子 → 有機高分子材料の親水性クラスター → 金属化合物粒子というように、有機高分子材料を介してプロトンが伝導することとなり、本来の金属化合物粒子の持つ高いプロトン伝導性を効果的に発揮することができない。この場合、凝集体(二次粒子)は、その内部に含まれる金属化合物粒子(一次粒子)のみに着目すれば「直接に接触」するという意味合いで最も近い位置に金属化合物粒子同士が配置されている状態であるように見えるが、図2に示したように、金属化合物粒子の膜中における凝集体間の距離が広くなり、プロトン伝導の道筋を断ってしまうこととなる。図2は、金属化合物粒子の凝集体が粗大化した場合の分散状態を示す模式図であり、図2において、21が有機高分子材料、22が金属化合物凝集体を示す。以上の理由から、プロトン伝導性を向上させる場合には、特に無機粒子の有機高分子材料に対する含有率を高くし、膜全体に対して均一に含有させることで、より良い特性を引き出し得ることが期待される。
【0025】
本発明は、以上の点を鑑みて成されたものであり、以下、本発明の実施形態を説明する。
【0026】
(実施形態1)
先ず、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、プロトン伝導性を有する金属化合物粒子と、プロトン伝導性を有する有機高分子材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含む。
【0027】
上記金属化合物粒子の平均一次粒子径は、0.5nm以上5nm以下である。また、上記金属化合物粒子は、その一次粒子が凝集して二次粒子を形成し、その平均二次粒子径は50nm以下である。さらに、上記金属化合物粒子の一次粒子及び二次粒子を合わせた、その平均分散粒子径は、30nm以下である。金属化合物粒子の粒子径がこれらの範囲内であれば、金属化合物粒子間の隙間が大きくならず、燃料透過率を低くすることができるからである。上記平均二次粒子径及び上記平均分散粒子径の下限値は、上記平均一次粒子径の値程度となる。
【0028】
本発明において、電解質膜中の粒子の平均粒子径は、後述する小角散乱測定により求めることができる。
【0029】
また、上記金属化合物粒子の含有量は、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の全重量に対して、30重量%以上60重量%以下である。30重量%未満では、金属化合物粒子の添加の効果が発現せず、60重量%を超えると、膜の強度が低下し自立膜化が困難となるからである。
【0030】
スルホン酸基を有する分散剤を使用するのは、上記有機高分子材料との相溶性が良いからである。また、上記分散剤と上記金属化合物粒子との重量比は、0.1:100〜5:100である。この範囲内で分散剤を添加することで、上記分散剤で上記金属化合物粒子の表面を分散効果が発揮できる程度に覆うことが可能となり、且つ、上記金属化合物粒子の表面に吸着し得ない過剰の分散剤が上記有機高分子材料中に混在することを防ぐことができるからである。これにより、高いプロトン伝導性を有する金属化合物粒子を、有機高分子材料中に均一に且つ高い含有率で含有させることができ、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを両立したプロトン伝導性複合電解質膜を提供できる。上記分散剤の重量比が、0.1を下回ると分散剤の効果が発現せず、5を超えるとプロトン伝導性を阻害するおそれがあるため好ましくない。
【0031】
上記プロトン伝導性を有する金属化合物としては、酸化ジルコニウム水和物、酸化タングステン水和物、酸化スズ水和物、ニオブをドープした酸化タングステン水和物、酸化ケイ素水和物、酸化リン酸水和物、ジルコニウムをドープした酸化ケイ素水和物、タングストリン酸水和物、モリブドリン酸水和物等の金属酸化物水和物を用いることができる。また、これらの金属酸化物水和物を複数混合して用いることができる。特に、高温作動型PEFC用電解質膜に分散させる金属化合物としては、結晶水によるプロトン伝導が起こりやすい酸化ジルコニウム水和物又は酸化スズ水和物が望ましい。
【0032】
これらの金属酸化物水和物粒子の作製方法は、水和水量の高い微粒子が得られる水系の作製方法を用い、共沈法、水熱法等の公知の作製方法が適用できるが、これらのうち特に、高い水和水量を得るために水熱法を用いることが好ましい。水熱法を用いるに当たっては、通常の水熱法では用いられない、70〜150℃という低い温度範囲で処理することが好ましい。150℃を超える高い温度で水熱処理を行うと、規則的結晶構造が形成されてしまい結晶水が減少することとなる。以上の条件で水熱法を用いて金属酸化物水和物粒子を作製することにより、平均一次粒子径が0.5nm以上5nm以下であり、且つ、水和水量が2.7以上である金属酸化物水和物粒子を得ることができる。
【0033】
特に、上記金属酸化物水和物粒子は、一般式ZrO2・nH2O(n≧2.7)で表される酸化ジルコニウム水和物粒子であることが好ましい。酸化ジルコニウム水和物粒子は、粒子自体のプロトン伝導率が高いからである。上記金属酸化物水和物粒子の1分子当たりの水和水量nは、2.7以上が好ましく、より好ましくは4以上である。これにより、金属化合物粒子自体のプロトン伝導性をより高めることができる。上記水和水量の上限は特に限定されないが、通常は10程度となる。
【0034】
上記一般式中のnは、酸化ジルコニウム水和物粒子を水に分散させた後、濾過し、その後、空気中において60℃で6時間乾燥させた後に示差熱熱重量同時分析(TG/DTA)により測定した数値である。これは、酸化ジルコニウム水和物粒子の水和水量、特に吸着水量は乾燥条件により変化するものであり、酸化ジルコニウム水和物粒子の結晶水と吸着水との総和としての水和水量を相互に比較するための基準を明確にするためである。また、示差熱熱重量同時分析において、酸化ジルコニウム水和物における水和水量変化は、吸着水、結晶水を含めて連続的なものであり、全ての水和水が完全に抜けると、不連続な結晶構造変化が起こるために、約400〜500℃の範囲において発熱ピークが観測される。本発明における水和水量は、示差熱熱重量同時分析において、この発熱ピークが観測される点までの水分量変化から求めたものである。
【0035】
上記プロトン伝導性を有する有機高分子材料としては、パーフルオロカーボンスルホン酸、ポリスチレン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、その他のエンジニアリングプラスチック材料に、スルホン酸基、ホスホン酸基、カルボキシル基等のプロトン供与体をドープあるいは化学的に結合、固定化したものを用いることができる。また上記材料において、架橋構造にすること、あるいは部分フッ素化することにより材料安定性を高めることも望ましい。
【0036】
また、上記スルホン酸基を有する分散剤は、その数平均分子量が150以上1000以下のものが好ましい。分散剤の数平均分子量がこの範囲内であれば、金属化合物粒子の間に侵入しやすく、金属化合物粒子を分散させやすくなるからである。具体的には、例えば、ラウリルベンゼンスルホン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、トルエンスルホン酸塩、スチレンスルホン酸塩、オクチルベンゼンスルホン酸塩、スルホこはく酸ジイソオクチル塩等から少なくとも一種を選択して用いることができる。即ち、一般に高いプロトン伝導性を有し、且つ自立膜を形成し得る有機高分子材料は、長い鎖状構造を持ち、一分子当たり複数のスルホン酸基を持つ場合が多く、これらのスルホン酸基に吸着結合すると考えられる金属化合物が、その有機高分子材料の複雑な三次元構造のために吸着しにくい。それに対して、上記分散剤は、一分子当たりのスルホン酸基数が比較的少なく、分子量が小さいため、分散剤分子の三次元的なサイズが小さく、金属化合物の凝集体の中に入り込みやすい。また、各分散剤のスルホン酸基の数が少ないために、容易に分散剤の全てのスルホン酸基と金属化合物とが吸着結合することができる。従って、この分散剤が金属化合物の表面に吸着することにより、金属化合物をより微細に分散させることが可能となる。
【0037】
さらに、従来のプロトン伝導性有機高分子材料及び金属化合物のみから構成される膜の場合には、有機高分子材料の持つスルホン酸基が複雑な形状を保持したまま金属化合物に吸着することとなるため、その状態を保持するために膜が硬くなるという欠点があるが、上記の分子量の小さな分散剤を使用することにより、有機高分子材料と金属化合物との橋渡しとして柔軟性をも高めることも可能となる。
【0038】
本発明における分散剤の数平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法によって求めることができる。
【0039】
上記分散剤は、ベンゼン環を有する有機材料であることが好ましい。分散剤が、ベンゼン環を有することにより、分散剤と有機高分子材料との結合性が高まり、その結果、金属化合物粒子と有機高分子材料とを分散剤を介してより強固に結合できるからである。また、これにより有機高分子材料と金属化合物との橋渡しとしての機能をより発揮することができる。
【0040】
本発明のプロトン伝導性複合電解質膜には、上記プロトン伝導性を有する高分子材料及びスルホン酸基を有する分散剤に加えて、架橋等のためにポリアリルアミン化合物、ジビニル化合物等の他の材料を添加してもよい。但し、上記他の材料としては、プロトン伝導性を阻害しないものを選択する必要があり、その添加量は、プロトン伝導性に悪影響を与えない範囲とする必要がある。
【0041】
次に、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法について説明する。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の製造方法では、先ず、上記金属化合物粒子、上記有機高分子材料、上記分散剤、必要に応じて他の有機材料及び有機溶媒を混合して、有機溶媒に有機高分子材料及び分散剤を溶解させると共に、金属化合物粒子を分散させて分散体を作製する。
【0042】
上記有機溶媒は、上記有機高分子材料及び上記分散剤等を溶解し、その後に蒸散等により除去し得るものであれば特に制限はなく、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶媒;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のアルキレングリコールモノアルキルエーテル;ジクロロメタン、トリクロロエタン等のハロゲン系溶媒;i−プロピルアルコール、t−ブチルアルコール等のアルコール等を用いることができる。有機溶媒は用いる上記有機高分子材料等に合わせて適宜選択するが、その溶解度は10重量%以上であることが好ましい。この際の溶解度は作製する分散体の固形分量に影響を及ぼすが、この固形分量が少なすぎると、製膜する際に十分な厚みのものが得られにくいために好ましくない。十分な厚みのものを得るために重層塗布するなどの手段もあり、溶解度が10重量%未満の有機溶媒でも必ずしも利用できないわけではないが、均一な膜を得るためには高い塗布技術と複雑な工程が必要となるため、好ましくない。
【0043】
上記金属化合物粒子の含有量は、上記分散体の固形分の全重量に対して、30重量%以上60重量%以下とする。金属化合物粒子の含有量が30重量%未満では、燃料透過性を低下させる点では有効であるが、プロトン伝導性を向上させる効果がほとんど得られない。即ち、金属化合物粒子の含有量が低い場合には必然的に金属化合物粒子間の距離が開き、膜としてのプロトン伝導率は急激に低下する。また、上記含有量が60重量%を超えると、このような高含有量において、自立膜化のための有機高分子材料同士の繋がりを得ようとすれば、必然的に被吸着物である金属化合物粒子の比表面積を減少させなければならない。このことは即ち、金属化合物粒子がより大きな粒子径を持つか、あるいは、凝集により粗大な二次粒子径を持つこととなり、最終的に得られる電解質膜において燃料透過性を低下させることができない。よって、金属化合物の含有量は30重量%以上60重量%以下であることが必要であり、特にプロトン伝導性と低燃料透過性の両者の特性を向上させるという意味では、40重量%以上55重量%以下がより好ましい。
【0044】
上記分散体の作製方法は特に限定されない。例えば、金属化合物粒子を、有機高分子材料及び分散剤を溶解させた溶液中に混合し、分散機を用いて分散することにより作製できる。分散法としては、スターラ法、ボールミル法、ジェットミル法、ナノミル法、超音波法等を用いることができる。
【0045】
次に、上記分散体を基板に塗布し、有機溶媒を蒸発させることで、無機有機複合電解質膜を得ることができる。その後、水に浸漬することで、基板から複合電解質膜を剥がし取ることにより、本発明のプロトン伝導性複合電解質膜が得られる。上記分散体の基板への塗布方法は特に限定されるものではなく、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、ドクターブレード法、グラビアコート法、スクリーン印刷法等を用いることができる。上記基板は、上記分散体を塗布した後に膜を剥がすことができれば特に制限はなく、ガラス板、フッ素樹脂シート、ポリイミドシート等を用いることができる。
【0046】
本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の厚みは特に制限はないが、10μm以上200μm以下が好ましい。実用に耐える膜の強度を得るには10μmより厚い方が好ましく、膜抵抗の低減、即ち発電性能向上のためには200μmより薄い方が好ましい。特に、20μm以上100μm以下が好ましい。溶液キャスト法により製膜した場合、膜厚は溶液濃度あるいは基板上への塗布厚により制御できる。また、溶融材料を用いて製膜する場合、膜厚は溶融プレス法あるいは溶融押し出し法等で得た所定厚さのフィルムを、所定の倍率に延伸することで膜厚を制御できる。
【0047】
以上のようにして、平均一次粒子径が0.5nm以上5nm以上であり、高いプロトン伝導性を有する超微粒子金属化合物粒子を分散させた複合電解質膜を得ることができる。
【0048】
このようにして得られた本発明のプロトン伝導性複合電解質膜の分散状態の評価方法としては、例えば以下のような指標が用いられる。
【0049】
(1)透過型電子顕微鏡(TEM)観察
得られた電解質膜について、その断面のTEM写真を撮影し、目視から凝集粒子径(二次粒子径)及び無機粒子充填率を求めることができる。より凝集粒子径が小さく、無機粒子の充填率が高く、有機材料のみの空間(TEM写真ではバックグラウンドとなるカーボンと同様、白く写る部分)が少ない方が、より微細分散できていると判定することができる。
【0050】
(2)光学測定
黒色以外の無機粒子の一次粒子径が十分に小さく、約200nm以下である場合には、一般的に微細分散していれば可視光を透過する。本発明においては、金属化合物粒子の平均一次粒子径は数nmサイズの粒子を用いるため、分散されていれば必ず、ある割合で可視光を透過する膜となる。この際、膜内部の凝集粒子径が小さくなり、全体として見た際に凝集粒子径のばらつきが少なくなれば、可視光透過を阻害するような粗大粒子が少なくなるために可視光透過率が高くなり、ばらつきによる不均一が少なくなればヘイズ値(表面散乱光)が小さくなる。従って、同じ無機粒子含有率、同じ膜厚であれば、可視光透過率が高く、ヘイズ値が小さい方がより微細分散できていると判定することができる。ここで、ヘイズ値は、日本工業規格(JIS)K7105に規定する曇価である。このような光学特性による判定では、TEM写真による判定では難しい、全体としての「均一性」の評価をすることが可能であり、含有率・膜厚が一定である場合の分散状態の比較評価としては、写真観察と共に有用な方法である。
【0051】
(3)小角散乱測定
得られた電解質膜の透過型小角散乱スペクトルを測定し、その結果から膜中の粒子の平均粒子径及びその分布を求めることができる。各材料の真密度が明らかな場合には、膜厚や含有率等に依存することも無く、一義的に測定することが可能である。但し、小角散乱測定を用いて精密に測定できる平均粒子サイズは、高々100nm程度までであり、また、その分布状態がある程度シャープなものでなければ、正確に粒子径を求めることができない。そのため、より粗大な凝集体を含む場合には、本測定方法を用いることができない。
【0052】
本発明においては、凝集粒子径が微細であることから、分析方法としては以上のいずれの方法を用いてもよいが、凝集粒子径、無機粒子含有率、膜厚等に左右されずに一義的に膜中の粒子の分散状態を判定することのできる、小角散乱測定を用いる。
【0053】
(実施形態2)
次に、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池を説明する。本発明の膜電極接合体は、酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、上記酸素極と上記燃料極との間に配置された実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜とを備える。また、本発明の燃料電池は、上記本発明の膜電極接合体を備えている。本発明のプロトン伝導性複合電解質膜を用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
【0054】
以下、本発明の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池の一例を図面に基づき説明する。
【0055】
図4は、本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池の一例を示す模式断面図である。図4において、燃料電池40は、膜電極接合体41を備え、膜電極接合体41は、酸素極1、燃料極2及びプロトン伝導性複合電解質膜3から構成されている。
【0056】
酸素極1及び燃料極2は、それぞれ、触媒層1b、2bとガス拡散層1a、2aとを備えているが、酸素極1及び燃料極2は、それぞれ触媒層1b、2bのみで構成されていてもよい。また、酸素極1のガス拡散層1a及び燃料極2のガス拡散層2aは、多孔性の電子伝導性材料等で構成することができ、例えば、撥水処理を施した多孔質炭素シート等を用いることができる。プロトン伝導性複合電解質膜3は、実施形態1で説明した本発明のプロトン伝導性複合電解質膜である。
【0057】
また、燃料電池40は、酸素極1のガス拡散層1a及び燃料極2のガス拡散層2aの外側に、それぞれ集電板5、6を備えている。酸素極1側の集電板5には、酸素(空気)を取り込むための孔9が設けられており、さらにリード体5aが接続されている。また、燃料極2側の集電板6には、燃料経路8から燃料(水素等)を取り込むための孔7が設けられており、さらにリード体6aが接続されている。膜電極接合体41は集電板5、6により挟まれ、シール材4で封止されることにより燃料電池40が構成される。
【0058】
集電板4、5としては、例えば、白金、金等の貴金属や、ステンレス鋼等の耐食性金属、又は炭素材料等で構成することができる。また、それらの材料に耐食性向上のために、表面にメッキや塗装が施されていてもよい。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
<金属化合物粒子の作製>
本実施例で用いる金属化合物として、酸化ジルコニウム水和物粒子を下記のようにして作製した。
【0061】
先ず、28%アンモニア水溶液15.12gを300mLの水に溶解してアンモニア水溶液を調製した。また、このアンモニア水溶液とは別に、塩化酸化ジルコニウム8gを100mLの水に溶解してジルコニウム塩水溶液を調製した。
【0062】
次に、上記アンモニア水溶液に上記ジルコニウム塩水溶液を滴下しつつ攪拌し、酸化ジルコニウム水和物粒子を含む沈殿物を生成させた。上記ジルコニウム塩水溶液は全て滴下して用いた。この沈殿物を含む懸濁液のpHは11.8であった。この沈殿物を懸濁液の状態で25℃で15時間、熟成させた。15時間経過後の懸濁液のpHは、11.3であった。
【0063】
続いて、この沈殿物を含む懸濁液をオートクレーブに仕込み、100℃で7時間、水熱処理を施した。
【0064】
最後に、水熱処理後の沈殿物から未反応物や不純物を除去するために、超音波洗浄器を使って水洗した後、濾過を行い、前述の水和水量の測定基準に沿って60℃で6時間、空気中で乾燥を行った。その後、乳鉢で軽く解砕し、酸化ジルコニウム水和物粒子を得た。
【0065】
得られた酸化ジルコニウム水和物粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察し、そのTEM写真を用いて、300個の酸化ジルコニウム水和物粒子の直径又は長軸長さの算術平均を求め、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均一次粒子径を求めたところ、2nmであった。
【0066】
続いて、乾燥終了後1時間経過した上記酸化ジルコニウム水和物粒子について、リガク社製の示差熱天秤(装置型番:TG−DTA−2000S)を用いて示差熱熱重量同時分析(TG/DTA)を行い、一般式ZrO2・nH2Oで表される酸化ジルコニウム水和物粒子の水和水量nを求めたところ、5.5であった。
【0067】
<プロトン伝導性複合電解質膜の作製>
金属化合物粒子として上記酸化ジルコニウム水和物粒子(ZrO2・5.5H2O)を用い、プロトン伝導性を有する有機高分子材料として、ポリエーテルスルホンにスルホン酸基を導入したSM−PES(Sulfonated Methyl−Poly Ether Sulfone)を用いた。SM−PESの乾燥重量当たりのイオン交換容量は、1.25meq/gとした。また、スルホン酸基を有する分散剤としてラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(一分子当たりのスルホン酸基の数=1)を用いた。
【0068】
先ず、SM−PES及びラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムを有機溶媒であるジメチルスルホキシドに溶解させ、SM−PES濃度25重量%及びラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム濃度10重量%の溶液を準備した。次に、この溶液に下記重量割合で、ジメチルスルホキシドと酸化ジルコニウム水和物粒子とを加えて、ボールミル法を用いて30時間混合し、酸化ジルコニウムを分散させた分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 400重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0069】
次に、この分散体を、アプリケータによりガラス板上に塗布し、真空乾燥機により60℃で3時間乾燥することで、ジメチルスルホキシドを蒸発させて製膜した。その後、得られた膜を水に浸漬することで、ガラス板上から剥がし取った。続いて、その膜を1Mの硫酸水溶液に浸漬することでプロトン化し、酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させたプロトン伝導性複合電解質膜とした。得られた複合電解質膜は全体的に均一な白色透明膜であり、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量は50重量%であり、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比は、1:100であり、厚さは25μmであった。
【0070】
このようにして得られた電解質膜について、小角散乱測定から粒子径分布を求めた。その結果、酸化ジルコニウムの一次粒子による3nm程度の粒子分布と、酸化ジルコニウムの一次粒子の凝集体からなる二次粒子による40nm程度の粒子分布との2種が観測された。この結果から酸化ジルコニウム水和物粒子の平均一次粒子径と平均二次粒子径を求め、これら全体の平均粒子径を平均分散粒子径とした。また、電解質膜の断面のTEM観察を行い、これらの分布測定結果が妥当であることを目視により確認した上で、最大二次粒子径を測定した。本実施例の電解質膜の小角散乱測定スペクトルを図5に示し、その電解質膜の断面のTEM写真を図6に示す。以上の酸化ジルコニウム水和物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径、最大二次粒子径を、分散剤の種類、対金属化合物重量比、及び酸化ジルコニウム水和物粒子(金属化合物粒子)の重量%と合わせて表1に示す。
【0071】
(実施例2)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 933重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0072】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量が30重量%、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が1:100、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0073】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径、最大二次粒子径を測定し、その結果を、分散剤の種類、対金属化合物重量比、及び酸化ジルコニウム水和物粒子(金属化合物粒子)の重量%と合わせて表1に示す。
【0074】
(実施例3)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 290重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0075】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量が58重量%、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が1:100、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0076】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径、最大二次粒子径を測定し、その結果を、分散剤の種類、対金属化合物重量比、及び酸化ジルコニウム水和物粒子(金属化合物粒子)の重量%と合わせて表1に示す。
【0077】
(実施例4)
ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムに代えて、スルホこはく酸ジイソオクチル(“エーロゾルOT”、一分子当たりのスルホン酸基の数=1)を用い、以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 400重量部
(3)スルホこはく酸ジイソオクチル(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0078】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量が50重量%、スルホこはく酸ジイソオクチルと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が1:100、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0079】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径、最大二次粒子径を測定し、その結果を、分散剤の種類、対金属化合物重量比、及び酸化ジルコニウム水和物粒子(金属化合物粒子)の重量%と合わせて表1に示す。
【0080】
(実施例5)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 400重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 40重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0081】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量が50重量%、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が4:100、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0082】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径、最大二次粒子径を測定し、その結果を、分散剤の種類、対金属化合物重量比、及び酸化ジルコニウム水和物粒子(金属化合物粒子)の重量%と合わせて表1に示す。
【0083】
(比較例1)
ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムを用いず、以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 400重量部
(3)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0084】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量が50重量%、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0085】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径、最大二次粒子径を測定し、その結果を、酸化ジルコニウム水和物粒子(金属化合物粒子)の重量%と合わせて表1に示す。
【0086】
(比較例2)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 1000重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 4000重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 3重量部
(4)ジメチルスルホキシド 3000重量部
【0087】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量が50重量%、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が0.03:100、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を作製した。
【0088】
このようにして得られたプロトン伝導性複合電解質膜について実施例1と同様にして、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径、最大二次粒子径を測定し、その結果を、分散剤の種類、対金属化合物重量比、及び酸化ジルコニウム水和物粒子(金属化合物粒子)の重量%と合わせて表1に示す。また、本比較例の電解質膜の断面のTEM写真を図7に示す。
【0089】
(比較例3)
以下の重量割合で酸化ジルコニウム水和物粒子を分散させた以外は、実施例1と同様にして分散体を作製した。
(1)酸化ジルコニウム水和物粒子 100重量部
(2)SM−PES溶液(濃度:25重量%) 171重量部
(3)ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム(濃度:10重量%) 10重量部
(4)ジメチルスルホキシド 300重量部
【0090】
その後、この分散体を用いて実施例1と同様にして、乾燥時における酸化ジルコニウム水和物粒子の含有量が70重量%、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムと酸化ジルコニウム水和物粒子との重量比が1:100、厚さが25μmであり、全体的に均一な白色透明のプロトン伝導性複合電解質膜を得たが、機械的強度が非常に弱く、溶媒乾燥時に亀裂が多く発生し、自立膜としての形状保持が困難であった。このため、得られたプロトン伝導性複合電解質膜について、酸化ジルコニウム水和物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径、最大二次粒子径の測定を行わなかった。
【0091】
【表1】

【0092】
表1に示したように、実施例1〜5の電解質膜では、金属化合物粒子の平均分散粒子径、平均二次粒子径及び最大二次粒子径のいずれもが比較例1及び2と比べて小さいことが分かる。効率の良いプロトン伝導を念頭に置いた場合、たとえ平均分散粒子径が微細であっても、中に粗大な二次粒子が存在すれば、プロトン伝導を阻害する要因となるため、平均分散粒子径のみならず、平均二次粒子径、最大二次粒子径のいずれもが微細であることが好ましく、実施例1〜5の結果はこれに見合ったものとなっている。これは、金属化合物粒子をプロトン伝導性有機高分子材料中に分散させる際には、金属化合物粒子は上記有機高分子材料の親水性基に吸着して分散されると考えられるが、上記有機高分子材料と比較して分子量が低く、分子中のスルホン酸基の数が少ない分散剤を用いることで、分散中のスルホン酸基と金属化合物粒子との衝突確率が上昇し、より効率的に分散を行うことができたと考えられる。
【0093】
一方、比較例1では分散剤を添加しなかったため、金属化合物粒子の分散性が低下し、金属化合物粒子の粒子径が大きくなったものと思われる。また、比較例2では、分散剤を添加したものの、その量が少なかったため、分散剤の効果が発現しなかったものと思われる。さらに、比較例3では、金属化合物粒子の含有量が多すぎたため、相対的に有機高分子材料の量が不足し、自立膜を形成することができなかったと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
以上のように本発明のプロトン伝導性複合電解質膜は、優れたプロトン伝導性と低燃料透過性とを有するので、これを用いることにより、より高出力の膜電極接合体及びそれを用いた燃料電池を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】本発明の金属化合物粒子の理想的な分散状態を示す模式図である。
【図2】金属化合物粒子の凝集体が粗大化した場合の分散状態を示す模式図である。
【図3】従来のプロトン伝導性を有する金属酸化物水和物粒子と有機高分子材料とで構成される複合電解質膜の模式断面図である。
【図4】本発明の膜電極接合体とそれを用いた燃料電池の一例を示す模式断面図である。
【図5】実施例1の電解質膜の小角散乱測定スペクトルを示す図である。
【図6】実施例1の電解質膜の断面のTEM写真を示す図である。
【図7】比較例2の電解質膜の断面のTEM写真を示す図である。
【符号の説明】
【0096】
1 酸素極
2 燃料極
3 プロトン伝導性複合電解質膜
11、21、31 有機高分子材料
12、22 金属化合物凝集体
32 金属酸化物水和物粒子
40 燃料電池
41 膜電極接合体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロトン伝導性を有する金属化合物粒子と、プロトン伝導性を有する有機高分子材料と、スルホン酸基を有する分散剤とを含むプロトン伝導性複合電解質膜であって、
前記金属化合物粒子の平均一次粒子径が、0.5nm以上5nm以下であり、
前記金属化合物粒子の平均二次粒子径が、50nm以下であり、
前記金属化合物粒子の平均分散粒子径が、30nm以下であり、
前記金属化合物粒子の含有量が、前記電解質膜の全重量に対して、30重量%以上60重量%以下であり、
前記分散剤と前記金属化合物粒子との重量比が、0.1:100〜5:100であることを特徴とするプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項2】
前記分散剤の数平均分子量が、150以上1000以下である請求項1に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項3】
前記分散剤は、ベンゼン環を有する有機材料である請求項1又は2に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項4】
前記金属化合物粒子は、一般式ZrO2・nH2O(n≧2.7)で表される酸化ジルコニウム水和物粒子である請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜。
【請求項5】
酸素を還元する触媒層を含む酸素極と、燃料を酸化する触媒層を含む燃料極と、前記酸素極と前記燃料極との間に配置された請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロトン伝導性複合電解質膜とを含むことを特徴とする膜電極接合体。
【請求項6】
請求項5に記載の膜電極接合体を含むことを特徴とする燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−138325(P2010−138325A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−317300(P2008−317300)
【出願日】平成20年12月12日(2008.12.12)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】