説明

プロドラッグ

本発明は、前立腺特異抗原(PSA)により切断可能である細胞増殖抑制剤を少なくとも1種含むプロドラッグ、前記プロドラッグの調製方法、および癌の治療において使用するための、前記プロドラッグを医薬的有効量で含有する医薬組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、前立腺特異抗原(PSA)により切断可能である細胞増殖抑制剤を少なくとも1種含むプロドラッグ、前記プロドラッグの調製方法、および癌の治療において使用するための、前記プロドラッグを医薬的有効量で含有する医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在使用されている薬物の大部分は、低分子量を有する化合物であり、患者に全身投与すると高い血漿クリアランスまたは全身クリアランスを示す。さらに、前記低分子量化合物は、拡散により体組織に浸透し、均一な体内分布をもたらす傾向が高い。これら2つが主な原因となって、少量の薬物しか作用部位に到達せず、また、身体の健常組織へ分布することにより、前記薬物が問題のある副作用を生じる。こうした問題は、細胞増殖抑制剤などの高い細胞毒性を有する薬物について特に懸念される。
【0003】
低分子量薬物の選択性を改善し、それによって所望の組織における活性薬剤の濃度を増大させると同時に、副作用を低減するために健常組織におけるその濃度を減少させるためのいくつかの方法が模索されてきた。
【0004】
高分子担体、例えばアルブミンなど、またはその薬物複合体は、体循環において最大で19日間の著しく長い半減期を示す(Peters、T.J.、「Serum Albumin」、Adv.Protein.Chem.、1985、37、161〜245頁参照)。例えば悪性、感染または炎症組織の血管壁は高分子に対して透過性が高いため、血清アルブミンなどの担体は、選択的に標的組織に入り、それによって、いわゆる受動的ターゲティング効果を発揮する(Maeda、H.、Matsumura、Y.、Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Sys.、1989、6、193〜210頁参照)。各薬物は、外因性または内因性アルブミンと結合することができる(DE10310082A1、DE102005009084A1)。
【0005】
癌化学療法を改善するための高分子プロドラッグによる方法が最近報告された(WO2006/092229)。この方法は、下記の2つの特徴に基づいている。すなわち、(i)静脈内投与後、チオール反応性プロドラッグが内因性アルブミンのシステイン34位に迅速および選択的に結合すること、ならびに(ii)アルブミンと結合した薬物が腫瘍部位で酵素的に放出されることである。前立腺特異抗原(PSA)とは、前立腺癌において過剰発現し、プロドラッグ製剤から抗癌剤を選択的に放出させるための分子標的を表すセリンプロテアーゼである。さらに、ペプチド配列Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Argが組み込まれたドキソルビシンのアルブミン結合誘導体がPSAにより効率的に切断され、ドキソルビシン−ジペプチドSer−Arg−DOXOを放出することが示されているが、このジペプチドからの遊離ドキソルビシンのさらなる遊離が48時間を超える半減期でゆっくりと進行したことが示されている。さらに、該プロドラッグは同所性PSA陽性モデルにおいてドキソルビシンより優れていたが、該プロドラッグは、腫瘍寛解を誘発することができなかった(Graeserら、Int.J.Cancer、2008、122、145)。
【0006】
したがって、上述の問題を克服し、所望の作用部位での最終的な細胞増殖抑制剤の放出をより早くすることができるプロドラッグを提供する必要性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Peters、T.J.、「Serum Albumin」、Adv.Protein.Chem.、1985、37、161〜245頁
【非特許文献2】Maeda、H.、Matsumura、Y.、Crit.Rev.Ther.Drug Carrier Sys.、1989、6、193〜210頁
【特許文献1】DE10310082A1
【特許文献2】DE102005009084A1
【特許文献3】WO2006/092229
【非特許文献3】Graeserら、Int.J.Cancer、2008、122、145
【非特許文献4】Kratzら、(2001):Anticancer drug conjugates with macromolecular carriers、Polymeric Biomaterials、第2版所収、S.Dumitriu編、Marcel Dekker、New York、32章、851〜894頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、所望の作用部位での酵素的切断時に遊離細胞増殖抑制剤がより効率的に放出される、癌の治療のための新規のプロドラッグを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の技術的課題は、特許請求の範囲で特徴づけられる実施形態を提供することにより解決される。特に、本発明の一態様において、以下の式I:
R−A−Ser−Leu−Y−Z (I)
を有するプロドラッグであって、
式中、
Rは、タンパク質結合部位;H;C1〜10アルキル、C1〜10アルケニル、C1〜10アルキニルおよびC1〜10アシルからなる群から選択される(環状、分枝鎖状もしくは直鎖状でもよく、必要に応じて1種もしくは複数のヘテロ原子を含有する)非置換もしくは置換残基;またはアリール、アラルキルおよびヘテロアリールからなる群から選択される非置換もしくは置換残基であり;
Aは、L−および/またはD−アミノ酸からなるペプチド配列(アミノ酸残基は同じでも異なっていてもよい)であり;
nは、ペプチド配列中のアミノ酸の数を示す、1〜10、好ましくは1〜8、より好ましくは1〜6、最も好ましくは1〜4、例えば2、3、4、5または6の整数であり;
Yは、リンカー部位であり;
Zは、細胞増殖抑制剤である、
プロドラッグであり、
Rは、ペプチド骨格の末端NH基を介してAに結合していてもよく、Yは、α−C−原子のCOOH基を介してLeuに結合していてもよい、
プロドラッグを提供する。
【0010】
「プロドラッグ」という用語には、本明細書において使用する場合、上記で定義した式(I)が満たされる限り特に制限がない。具体的には、「プロドラッグ」という用語は、不活性またはあまり活性ではない形態でヒトなどの生体に投与され、例えば代謝により活性形態に転換される、任意の形態の薬物(または化合物)を意味する。プロドラッグの活性形態への前記転換には特に制限がなく、投与後に生じるプロドラッグの任意の化学的および/または物理的変化、例えば、作用部位でのプロドラッグの活性部分(特に細胞増殖抑制剤)の放出などが含まれる。
【0011】
本明細書において使用する「タンパク質結合部位」という表現には特に制限がなく、内因性または外因性起源のものでもよい化合物のアミノ、ヒドロキシまたはチオール基と結合することができる任意の官能基を意味する。本発明におけるタンパク質結合部位の好ましい例は、マレイミド基、ハロゲンアセトアミド基、ハロゲンアセテート基、ピリジルチオ基、ビニルカルボニル基、アジリジン基、ジスルフィド基、置換または非置換アセチレン基、ヒドロキシスクシンイミドエステル基である。タンパク質結合部位としては、標準的カップリング剤、例えばジシクロカルボジイミド、酸塩化物、またはペプチドカップリング試薬(BOP、HATU、PyBOPなど)により活性化することができる−COOHまたはSOHなどの官能基も挙げられる。本発明の好ましい実施形態において、タンパク質結合部位はマレイミド基である。
【0012】
1種またはいくつかのプロドラッグを、ペプチド、糖類、血清タンパク質、抗体もしくは抗体フラグメント、成長因子、多糖類、または合成ポリマーなどの任意の好適な担体と結合させることができる。担体は、一般に、タンパク質結合プロドラッグを結合するためのヒドロキシ、アミノまたはチオール基などの好適な官能基を含有し得る。必要であれば、これらは、当業者に知られている手法によって、化学的修飾により担体分子に導入することができる(Kratzら、(2001):Anticancer drug conjugates with macromolecular carriers、Polymeric Biomaterials、第2版、S.Dumitriu編、Marcel Dekker、New York、32章、851〜894頁)。
【0013】
好ましい実施形態において、本発明におけるプロドラッグのタンパク質結合部位により、前記プロドラッグが、例えば注射による投与後に、体液の成分および/または組織成分、好ましくは血清タンパク質、より好ましくは血清アルブミン、特に血清アルブミンのシステイン34とin situで結合し、次いで、医薬として活性な化合物を標的部位に運搬する高分子プロドラッグとして存在することが可能となる。
【0014】
本発明において、「in situ」という用語には、プロドラッグを投与した生体内での、本発明におけるプロドラッグと血清タンパク質、特に血清アルブミンなどの内因性生体分子の結合も含まれる。
【0015】
本発明の好ましい実施形態は、上記したプロドラッグであって、R(タンパク質結合部位およびHは含まない)として定義した残基、例えばカプロン酸基といったC1〜10アシル等の残基が、上記で定義したようなマレイミド基などのタンパク質結合部位により置換されているプロドラッグに関する。本発明のこの実施形態におけるRの一例は、ε−マレイミドカプロン酸(EMC)である。
【0016】
本発明のさらなる実施形態において、例えばカプロン酸基といったC1〜10アシル等のRは、チオール結合基などのタンパク質結合特性を欠いている部位、またはチオール結合基などのタンパク質結合特性を有する部位、例えばマレイミド基により置換されているが、前記タンパク質結合特性はシステインなどの置換基によりブロック/誘導体化されている。この実施形態におけるRの一例を、以下に示す。
【0017】
【化1】

【0018】
本発明の好ましい実施形態は、ペプチド配列中のアミノ酸が、Arg、Asn、Gln、Gly、Phe、Ser、Val、Ile、Leu、His、Lys、AlaおよびTyrからなる群から選択される、上で定義したプロドラッグに関する。上で定義したプロドラッグの好ましい実施形態において、ペプチド配列は、Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr、Arg−Ser−Ser−Tyr−Ser、Arg−Ser−Ser−Tyr−Arg、Ser−Ser−Tyr−Arg、Ser−Ser−Tyr−Tyr、Arg−Arg−Leu−His−Tyr、Arg−Arg−Leu−Asn−Tyr、Ser−Ser−Lys−Leu−GlnおよびArg−Ala−Ser−Tyr−Glnからなる群から選択される。
【0019】
本発明のプロドラッグにおいて定義される細胞増殖抑制剤Zには特に制限がなく、N−ニトロソ尿素、アントラサイクリン、アルキル化剤、代謝拮抗物質、葉酸拮抗剤、カンプトセシン、ビンカアルカロイド、タキサン、カリチアマイシン、マイタンシノイド、アウリスタチン、エポチロン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、プリカマイシン、マイトマイシンCおよびシス型白金(II)錯体からなる群から選択し得る。本発明における好適な細胞増殖抑制剤の例としては、N−ニトロソ尿素ニムスチン、およびそれらの任意の誘導体;アントラサイクリンドキソルビシン、ダウノルビシン、エピルビシン、イダルビシン、ミトキサントロンおよびアメタントロン、ならびにそれらの任意の誘導体;アルキル化剤クロラムブシル、ベンダムスチン、メルファラン、およびオキサザホスホリン、ならびにそれらの任意の誘導体;代謝拮抗物質、例えば、プリン拮抗剤またはピリミジン拮抗剤、5−フルオロラウシル、2’−デオキシ−5−フルオロウリジン、シタラビン、クラドリビン、フルダラビン、ペントスタチン、ゲムシタビンおよびチオグアニン、ならびにそれらの任意の誘導体;葉酸拮抗剤メトトレキセート、またはラルチトレキセド、ペメトレキセドまたはプレビトレキセド、タキサンパクリタキセルおよびドセタキセル、ならびにそれらの任意の誘導体;カンプトセシントポテカン、イリノテカン、9−アミノカンプトセシンおよびカンプトセシン、ならびにそれらの任意の誘導体;ビンカアルカロイドビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびビノレルビン、ならびにそれらの任意の誘導体が挙げられる。
【0020】
「リンカー部位」という表現には、本明細書において使用する場合、少なくとも2つの残基を結合することができ、それによって前記残基同士を化学的に結合させることができる任意の基が含まれる。したがって、本発明の「リンカー部位」には制限がなく、Leuのα−C−原子の末端COOH基および上で定義した式(I)における細胞増殖抑制剤Zの両方を結合させるのに適した任意の化学的部位とすることができる。本発明の好ましい実施形態において、上記で定義したプロドラッグのリンカー部位Yは、p−アミノベンジルオキシカルボニル(PABC)、ο−アミノベンジルオキシカルボニル、N−メチルジアミノエチレンまたは対称なN,N’−ジメチルジアミノエチレン、トリメチルロックラクトン化リンカー、およびビニローグベンジル脱離リンカーからなる群から選択される。
【0021】
切断可能なリンカーは、次々と自然反応的に加水分解して医薬的および/または診断的活性化合物を放出する(不安定な)自壊的スペーサー薬物誘導体をペプチド切断後に生成する、1種または複数のリンカーも含有してもよい。自壊的リンカーの一例としては、p−アミノベンジルオキシカルボニル(PABC)スペーサーや、以下に示すいずれかのものを挙げることができる。下式中、Rは、H、Cl、Br、I、F、NO、CN、OHから選択される官能基または脂肪族もしくは芳香族部位であり、トリガーは、プロテアーゼ基質として作用するペプチドである。そのようなリンカーの具体例を、以下の表1に列挙している。
【0022】
【表1】

【0023】
本発明の特定の実施形態におけるプロドラッグの例を以下に示す。
【0024】
【化2】

【0025】
本発明のさらなる態様において、式II:
R−A (II)
を有する化合物を、式III:
Ser−Leu−Y−Z (III)
を有する化合物と反応させるステップを含む、上記したプロドラッグの調製方法
[式中、R、A、n、Y、およびZは上記した通りである]を提供する。
【0026】
本発明の別の態様は、上記したプロドラッグならびに医薬として許容される担体および/または希釈剤および/またはアジュバントを必要に応じて含有する医薬組成物に関する。具体的には、該医薬組成物は、例えば、塩化ナトリウム溶液または任意の医薬として許容される緩衝液を含有する溶液などの溶媒および希釈剤を含有し得る。さらに、本発明の医薬組成物は、患者への投与に適した任意の形態、例えば注射可能な形態であってもよく、錠剤もしくはカプセル、または吸入用の組成物であってもよい。具体的には、上で定義した医薬組成物は、癌の治療において使用するためのものである。
【0027】
各図は、以下のものを示す。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】HPLCでモニターしたアルブミンと結合した形態の化合物6のPSA(20mg/mL)による切断研究を示す図である。
【図2】HPLCでモニターしたアルブミンと結合した形態の化合物10のPSA(20mg/mL)による切断研究を示す図である。
【図3】HPLCでモニターした化合物5のLNCaP前立腺腫瘍組織ホモジネートによる切断研究を示す図である。
【図4】HPLCでモニターした化合物12のLNCaP前立腺腫瘍組織ホモジネートによる切断研究を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、好ましくは所望の作用部位で酵素的に切断されたときに、その中に含有される細胞増殖抑制剤を驚くほど早く放出する効果を有する新規のプロドラッグを提供する。具体的には、本発明のプロドラッグは、PSA切断時に最適化された放出特性を示す。一般式R−A−Ser−Leu−Y−Z、例えばEMC−Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Leu−PABC−ドキソルビシンおよびEMC−Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Leu−PABC−パクリタキセルのこれらのプロドラッグは、優れた水溶性を示し、例えば、内因性および外因性アルブミンのシステイン34位に迅速に結合することができる。PSAによる切断時にジペプチドSer−Leu−Y−Zが放出される。驚くべきことに、このジペプチドは急速に分解されて、ドキソルビシンおよびパクリタキセルなどの遊離細胞増殖抑制剤Zを、例えば、LNCaP腫瘍ホモジネートの実施例において示すように数時間以内に遊離する。したがって、非常に改善した薬物放出が実現されるという効果があり、それにより、最先端の方式と比較して驚くほど高い細胞増殖抑制剤治療の有効性が得られる。
【0030】
本発明は以下の実施例において例示するが、それらに限定するものではない。
【実施例】
【0031】
HPLCシステム
方法A:別段の定めのない限り、全ての化合物の分析用逆相HPLCを、溶媒送出システム(HPLC Pump 422)、可変波長UV−VIS検出器(HPLC Detector 430)およびNucleosile(登録商標)C−18カラム(100−5、250×4mm、Macherey−Nagel)を使用して、Kontronシステムで実施した。ピーク積分のために、Geminyxソフトウェア(Goebel Instrumentelle Analytik、FRGによるv1.91)を使用した。HPLC条件:流量:1mL/分、グラジエント:0〜5分、100%移動相A;5〜35分、100%移動相Bまで増大;35〜40分、100%移動相B;40〜45分、100%移動相Aまで減少;45〜50分、100%移動相A。移動相A:30%CHCN、70%水+0.1%TFA、移動相B:70%CHCN、30%水+0.1%TFA、注入量:50μL。
【0032】
方法B:ドキソルビシンモデルの切断、結合および安定性研究のためのHPLCを、Merck F−1050蛍光分光光度計(EX.490nm、EM.540nm)およびBischoff製のLambda 1000可視モニター(e=495nm)と接続したBiorad(Munich、Germany)製のBioLogic Duo−Flow System使用して以下のように行った。254nmでのUV検出;カラム:Waters製、プレカラムを備えた300Å、Symmetry C18 5μm[4.6×250mm];クロマトグラフィー条件:流量:1mL/分、移動相A(30%CHCN、70%水+0.1%TFA)、移動相B(50%CHCN、50%水+0.1%TFA)、グラジエント:0〜5分、100%移動相A;5〜35分、100%移動相Bまで増大;35〜40分、100%移動相B;40〜45分、100%移動相Aまで減少;45〜50分、100%移動相A;注入量:50μL。
【0033】
方法C:パクリタキセルモデルの切断、結合および安定性研究のためのHPLCを、溶媒送出システム(HPLCポンプ422)、可変波長UV−VIS検出器(HPLC検出器430)およびWaters製のプレカラムを備えた300Å、Symmetry C18 5μm[4.6×250mm]カラムを用い、Kontronシステムを使用して実施した。ピーク積分のために、Geminyxソフトウェア(Goebel Instrumentelle Analytik、FRGによるv1.91)を使用した。HPLC条件:流量:1mL/分、グラジエント:0〜5分、100%移動相A;5〜35分、100%移動相Bまで増大;35〜40分、100%移動相B;40〜45分、100%移動相Aまで減少;45〜50分、100%移動相A;移動相A:30%CHCN、70%水+0.1%TFA、移動相B:70%CHCN、30%水+0.1%TFA、注入量:50μL。
ドキソルビシンプロドラッグの化学合成
Fmoc−Leu−PABOH(1)の合成
Fmoc−Leu−OH(2.50g、7.07mmol)およびN−エトキシカルボニル−2−エトキシ−1,2−ジヒドロキノリン(EEDQ)(1.90g、7.78mmol)を無水ジクロロメタン(DCM)(150mL)に溶解した。室温で5分間の撹拌後、4−アミノベンジルアルコール(PABOH)(0.95g、7.78mmol)を添加し、24時間撹拌し続けた。次いで、DCMを減圧下で除去し、クロロホルム/メタノール(50:1)を使用して生成物をシリカゲルカラムで精製して、1(3.00g、92%)を白色粉末として得た。APCI−MS(5uA、MeCN):m/z(%)=459.0(100)[M+H];HPLC(220nm):>95%。
H−Leu−PABOH(2)の合成
1(2.50g、5.45mmol)を20%ピペリジンのN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)(5mL)溶液で処理し、反応物を室温で10分間撹拌した。次いで、生成物をジエチルエーテル(500mL)で沈殿させ、ジエチルエーテルで3回洗浄し、真空乾燥して2(1.00g、77%)を白色粉末として得た。APCI−MS(5uA、MeCN):m/z(%)=237.1(100)[M+H];HPLC(220nm):>95%。
Fmoc−Ser(Trt)−Leu−PABOH(3)の合成
Fmoc−Ser(Trt)−OH(1.69g、2.96mmol)およびN−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)(0.34g、2.96mmol)を無水DCM(100mL)に溶解し、0℃で10分間撹拌した。次いで、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(0.61g、2.96mmol)を添加し、反応物を5℃で16時間撹拌した。形成した沈殿物を濾過して取り除き、次いで、2(0.70g、2.96mmol)およびトリエチルアミン(TEA)(0.41μL、0.29g、2.96mmol)を濾液に添加した。室温で4時間の撹拌後、揮発性物質を減圧下で除去し、生成物を酢酸エチル/ヘキサンから結晶化させて、3(1.85g、79%)を白色粉末として得た。APCI−MS(5uA、MeCN):m/z(%)=788.2(100)[M+H];HPLC(220nm):>95%。
Fmoc−Ser(Trt)−Leu−PABC−PNP(4)の合成
3(1.80g、2.28mmol)およびビス(p−ニトロフェニル)カルボネート(2.77g、9.12mmol)の無水DCM(50mL)溶液に、N,N−ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)(1163μL、0.88g、6.84mmol)を0℃で添加し、反応物を室温で48時間撹拌した。次に、揮発性物質を減圧下で除去し、クロロホルム/メタノール(100:1)を使用して残渣をシリカゲルカラムで精製して、4(1.70g、78%)を白色粉末として得た。ESI−MS(5kV、MeOH):m/z(%)=975.2(100)[M+Na];HPLC(220nm):>95%。
H−Ser−Leu−PABC−DOXO(5)の合成
4(0.75g、0.786mmol)の無水DMF(10mL)溶液に、塩酸ドキソルビシン(0.43g、0.78mmol)およびDIEA(134μL、0.1g、0.786mmol)を添加し、反応物を室温で48時間撹拌した。その後、ジエチルアミン(1.5mL)によりFmoc保護基を除去し、反応物を室温で10分間撹拌した。ジエチルエーテル(500mL)により赤色の生成物を沈殿させ、ジエチルエーテルで3回洗浄し、真空乾燥してH−Ser(Trt)−Leu−PABC−DOXO(750mg、85%)を得た。次に、H−Ser(Trt)−Leu−PABC−DOXO(0.30g、0.26mmol)を無水DCM(15mL)に溶解することによりTrt保護基を切断し、1%TFAのDCM(9mL)溶液を15分間滴下した。室温で1時間の撹拌後、クロロホルム/メタノール(20:1)を使用して、形成した沈殿物をシリカゲルカラムで精製して、5(190mg、80%)を赤色粉末として得た。ESI−MS(5kV、MeCN):m/z(%)=915.3(100)[M+Na];HPLC(495nm):>95%。
EMC−Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Leu−PABC−DOXO(6)の合成
無水DMF(10mL)に、EMC−Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−OH(107mg、0.12mmol)5(100mg、0.11mmol)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(22mg、0.33mmol)および4−メチルモルホリン(48μL、44mg、0.44mmol)を溶解した。0℃で15分間の撹拌後、N,N’−ジイソプロピルカルボジイミド(DIPC)(116μL、83mg、0.66mmol)を添加し、反応物を5℃で72時間撹拌した。最終生成物をジエチルエーテル(500mL)で沈殿させ、CHCN/水(40:60)+0.1%TFAを使用して逆相カラムで精製して、純粋な生成物を含有する画分を合わせて凍結乾燥した後に、6(140mg、73%)を赤色粉末として得た。ESI−MS(5kV、MeCN):m/z(%)=1742.7(100)[M+H];HPLC(495nm):>95%。
【0034】
【化3】

【0035】
パクリタキセルプロドラッグの化学合成
Fmoc−Leu−PABC−PNP(7)の合成
1(0.70g、1.52mmol)およびビス(p−ニトロフェニル)カルボネート(2.32g、7.63mmol)の0℃の無水DMF(20mL)溶液に、DIEA(779μL、0.59g、4.57mmol)を添加し、反応物を室温で48時間撹拌した。次に、揮発性物質を減圧下で除去し、クロロホルム/メタノール(50:1)を使用して残渣をシリカゲルカラムで精製して、7(800mg、84%)を白色粉末として得た。ESI−MS(5kV、MeCN):m/z(%)=623.9(100)[M+H];HPLC(220nm):>95%。
Fmoc−Leu−PABC−パクリタキセル(8)の合成
パクリタキセル(0.37g、0.44mmol)および4−ジメチルアミノピリジン(DMAP)(0.05g、0.44mmol)を7(0.27g、0.44mmol)の無水DCM(15mL)溶液に添加し、反応物を室温で24時間、暗所で撹拌した。次に、DCM(20mL)を添加し、反応混合物をNaHCO、ブラインで抽出し、硫酸ナトリウムで乾燥した。酢酸エチル/ヘキサン(1:1)を使用して残渣をシリカゲルカラムで精製して、8(550mg、93%)を白色粉末として得た。ESI−MS(5kV、MeOH):m/z(%)=1360.1(100)[M+Na];+HPLC(230nm):>95%。
H−Leu−PABC−パクリタキセル(9)の合成
8(0.50g、0.37mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(10mL)中の1%の1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ−7−エン(DBU)を用いて室温で45秒間処理し、ジエチルエーテル(500mL)中の1MのHClにより生成物を沈殿させた。次いで、クロロホルム/メタノール(7:1)を使用して、沈殿した生成物をシリカゲルカラムで精製して、9(350mg、84%)を白色粉末として得た。ESI−MS(5kV、MeOH):m/z(%)=1116.1(100)[M+H];HPLC(230nm):>95%。
EMC−Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−Leu−PABC−パクリタキセル(10)の合成
EMC−Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr−Ser−OH(84mg、88.68μmol)、9(90mg、80.61μmol)、HOBt(30mg、241.83μmol)および4−メチルモルホリン(35μL、30mg、322.2μmol)を無水DMF(10mL)に溶解した。0℃で15分間の撹拌後、DIPC(75μL、60mg、483.6μmol)を添加し、反応物を5℃で72時間撹拌した。10をジエチルエーテル(100mL)で沈殿させ、CHCN/水(40:60)+0.1%TFAを使用して逆相カラムで精製して、純粋な生成物を含有する画分を合わせて凍結乾燥した後に10(75mg、45%)を白色粉末として得た。ESI−MS(3kV、MeCN):m/z(%)=1027.2(100)[M/2+2H]2+;HPLC(230nm):>95%。
Fmoc−Ser−Leu−PABC−パクリタキセル(11)の合成
DIEA(15μL、0.011g、0.089mmol)をFmoc−Ser−OH(0.029g、0.089mmol)および[2−(1H−9−アゾベンゾトリアゾール−l−イル)−1,1,3,3−テトラメチルアミニウムヘキサフルオロホスフェート](HATU)(0.034g、0.089mmol)の無水DMF(3mL)溶液に添加した。室温で30分間の反応混合物の撹拌後、9(0.1g、0.089mmol)およびDIEA(15μL、0.011g、0.089mmol)を添加し、反応物を2時間撹拌した。次に、揮発性物質を減圧下で除去し、酢酸エチル/ヘキサン(2:1)を使用して残渣をシリカゲルカラムで精製して、11(115mg、90%)を白色粉末として得た。ESI−MS(5kV、MeOH):m/z(%)=1447.1(100)[M+Na];HPLC(230nm):>95%。
H−Ser−Leu−PABC−パクリタキセル(12)の合成
11(0.1g、0.070mmol)をTHF(3mL)中の1%DBUで室温で45秒間処理し、ジエチルエーテル(200mL)中の1MのHClにより生成物を沈殿させ、次いで、クロロホルム/メタノール(7:1)を使用して、沈殿した生成物をシリカゲルカラムで精製して、12(75mg、89%)を白色粉末として得た。ESI−MS(5kV、MeOH):m/z(%)=1225.1(100)[M+Na];HPLC(230nm):>95%。
【0036】
【化4】

【0037】
アルブミンと結合した形態の6および10の切断研究
6のアルブミン複合体の合成
6の溶液[5%グルコース溶液(300μL)中の2mg]をヒト血清アルブミン(Octapharma製の5%溶液)(1700μL)に添加することによりアルブミン複合体を調製した。混合物を37℃で1時間インキュベートした。その後のサイズ排除クロマトグラフィー(Sephacryl(登録商標)S−100;10mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH7.4)の後にアルブミン複合体を得た。ドキソルビシンに関するε値[ε495(pH7.4)=10650M−1cm−1]を使用して試料中のアントラサイクリンの含量を求めた。該複合体中の6の濃度を、CENTRIPREP(登録商標)−10濃縮装置(Amicon、Germany)で試料を4℃および4500rpmで濃縮することにより400±50μMに調整した。各試料を−20℃で凍結保存し、使用の前に解凍した。
PSAによるアルブミンと結合した形態の6の酵素的切断
アルブミンと結合した形態の6(100μM)を酵素的に活性なPSA(20μg/mL)と37℃でインキュベートし、HPLC(方法B)を使用して様々な時点で切断をモニターした。
LNCaP前立腺腫瘍組織ホモジネートによる5の切断
5(100μM)をLNCaP前立腺腫瘍組織ホモジネートと37℃でインキュベートし、以下の移動相;移動相A(30%CHCN、70%水および0.1%TFA)、移動相B(70%CHCN、30%水および0.1%TFA)を使用して、HPLC(方法B)を使用して様々な時点で切断をモニターした。
10のアルブミン複合体の合成
10の溶液[50μLのポリ(エチレングリコール)−400+200μLの5%グルコース溶液中の1mg]をヒト血清アルブミン(Octapharma製の5%溶液)に300μMの最終濃度で添加することによりプロドラッグのアルブミン複合体を調製し、混合物を37℃で1時間インキュベートした。各試料を−20℃で凍結保存し、使用の前に解凍した。
PSAによるアルブミンと結合した形態の10の酵素的切断
アルブミンと結合した形態10(100μM)を酵素的に活性なPSA(20μg/mL)と共に37℃でインキュベートし、HPLC(方法C)を使用して様々な時点で切断をモニターした。
LNCaP前立腺腫瘍組織ホモジネートによる12の切断
12(100μM)をLNCaP前立腺腫瘍組織ホモジネートと37℃でインキュベートし、HPLC(方法C)を使用して様々な時点で切断をモニターした。
切断結果
図1および図2に示すように、アルブミンと結合した形態の6および10はいずれも、PSΑを介した切断により、アルブミン複合体が数時間以内に効率的に切断されて、ドキソルビシン−ジペプチド(H−Ser−Leu−PABC−DOXO)またはパクリタキセルジペプチド(H−Ser−Leu−PABC−パクリタキセル)を遊離したことが明らかとなった。さらに、図3および図4に示すように、これらの薬物−ジペプチドは、LNCaP前立腺腫瘍組織ホモジネートの実施例において約3時間以内に完全な切断を示し、遊離細胞毒性薬(ドキソルビシンまたはパクリタキセル)を遊離した。自己脱離リンカー(PABC)をペプチド配列と活性薬物の間に組み込むことにより、切断速度が高められた。切断プロセスに関与する反応は、以下のスキームに示している。
【0038】
【化5−1】

【0039】
【化5−2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式I:
R−A−Ser−Leu−Y−Z (I)
を有するプロドラッグ
[式中、
Rは、タンパク質結合部位、H、C1〜10アルキル、C1〜10アルケニル、C1〜10アルキニルおよびC1〜10アシルからなる群から選択される(環状、分枝鎖状もしくは直鎖状でもよく、必要に応じて1種もしくは複数のヘテロ原子を含有する)非置換もしくは置換残基、またはアリール、アラルキルおよびヘテロアリールからなる群から選択される非置換もしくは置換残基であり;
Aは、L−および/またはD−アミノ酸からなるペプチド配列(アミノ酸残基は同じでも異なっていてもよい)であり;
nは、ペプチド配列中のアミノ酸の数を示す1〜10の整数であり;
Yは、リンカー部位であり;
Zは、細胞増殖抑制剤
である]。
【請求項2】
Rについて定義された残基が、タンパク質結合部位により置換されている、請求項1に記載のプロドラッグ。
【請求項3】
タンパク質結合基が、マレイミド基、ハロゲンアセトアミド基、ハロゲンアセテート基、ピリジルチオ基、ビニルカルボニル基、アジリジン基、ジスルフィド基、置換または非置換アセチレン基、およびヒドロキシスクシンイミドエステル基からなる群から選択される、請求項1または2に記載のプロドラッグ。
【請求項4】
タンパク質結合基がマレイミドである、請求項1から3のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項5】
RがC1〜10アシルである、請求項1から4のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項6】
Rがカプロン酸基である、請求項1から5のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項7】
Rがε−マレイミドカプロン酸(EMC)である、請求項1から6のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項8】
ペプチド配列中のアミノ酸が、Arg、Asn、Gln、Gly、Phe、Ala、Leu、Ile、Val、His、Lys、Ser、およびTyrからなる群から選択される、請求項1から7のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項9】
ペプチド配列が、Arg−Ser−Ser−Tyr−Tyr、Arg−Ser−Ser−Tyr−Ser、Arg−Ser−Ser−Tyr−Arg、Ser−Ser−Tyr−Arg、Ser−Ser−Tyr−Tyr、Arg−Arg−Leu−His−Tyr、Arg−Arg−Leu−Asn−Tyr、Ser−Ser−Lys−Leu−GlnおよびArg−Ala−Ser−Tyr−Glnからなる群から選択される、請求項1から8のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項10】
Yが、p−アミノベンジルオキシカルボニル(PABC)、N−メチルジアミノエチレンまたは対称性N,N−ジメチルジアミノエチレン、トリメチルロックラクトン化リンカー、およびビニローグベンジル脱離リンカーである、請求項1から9のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項11】
細胞増殖抑制剤が、N−ニトロソ尿素、アントラサイクリン、アルキル化剤、代謝拮抗物質、葉酸拮抗剤、カンプトセシン、ビンカアルカロイド、タキサン、カリチアマイシン、マイタンシノイド、アウリスタチン、エポチロン、ブレオマイシン、ダクチノマイシン、プリカマイシン、マイトマイシンCおよびシス型白金(II)錯体からなる群から選択される、請求項1から10のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項12】
以下の式:
【化1】

のうちの1つを有する請求項1〜11のいずれか一項に記載のプロドラッグ。
【請求項13】
式II:
R−A (II)
を有する化合物を式III:
Ser−Leu−Y−Z (III)
を有する化合物と反応させるステップを含む、請求項1〜12のいずれか一項に記載の化合物の調製方法、
[式中、R、A、n、Y、およびZは請求項1〜12のいずれか一項に記載の通りである]。
【請求項14】
請求項1〜12のいずれか一項に記載のプロドラッグをプロドラッグとして、ならびに医薬として許容される担体および/または希釈剤および/またはアジュバントを必要に応じて含有する医薬組成物。
【請求項15】
癌の治療において使用するための請求項14に記載の医薬組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2012−519720(P2012−519720A)
【公表日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553344(P2011−553344)
【出願日】平成22年3月9日(2010.3.9)
【国際出願番号】PCT/EP2010/001461
【国際公開番号】WO2010/102788
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(501477462)ケイテーベー ツモルフォルシュングスゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (4)
【Fターム(参考)】