説明

プロピレンの製造方法

【課題】 酸化ジルコニウムをペンタシル型アルミノシリケートに担持させた触媒を用い、高温でも高い触媒活性を維持して、ジメチルエーテルから効率よくプロピレンを製造しうる方法を提供する。
【解決手段】 上記課題は、ジメチルエーテルを気相で触媒と接触させてプロピレンを製造するにあたり、前記触媒としてSiO2/Al23がモル比で20〜250のペンタシル型のアルミノシリケートに酸化ジルコニウムを担持し、これをさらにリン酸水溶液および/または硫酸水溶液で処理した触媒を使用することを特徴とするプロピレンの製造方法によって解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジメチルエーテルを原料としてプロピレンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレンは、石油分解ガスから分離精製されてきたが、分離精製や輸送の容易さから天然ガス等を一旦メタノールやジメチルエーテルに変え、これを原料に消費地でプロピレンを製造する技術が脚光を浴びつつある。
【0003】
このメタノールやジメチルエーテルをプロピレン等の低級オレフィンに変える触媒として、アルミノシリケートゼオライトにリン酸マグネシウムを担持させた触媒(特許文献1)、アルカリ土類金属変性アルカリ土類金属含有ゼオライト触媒(特許
文献2)、アルカリ土類金属含アルミノホスホシリケート(特許文献3)、Si/Al原子比が少なくとも10のペンタシル型アルミノシリケート(特許文献4)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開昭64−31733号公報
【特許文献1】特開昭64−50827号公報
【特許文献1】特開昭64−51316号公報
【特許文献1】特開平4−217928号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記各種触媒のうちペンタシル型アルミノシリケート触媒は、大きさが均一でかつストレートな細孔が三次元的につながっているため、炭素質物質の析出が起こりにくい構造である。したがって触媒の長期安定性(長寿命)が期待される。また比較的強い固体酸性質を有しており、高温での熱安定性が高い点でも優れている。
【0006】
このペンタシル型の結晶性アルミノシリケートを触媒として、ジメチルエーテルからプロピレンを製造する方法においては、280〜700℃の温度にわたって反応が進行するが、高温ほど高い反応率が得られる。
【0007】
しかし、ペンタシル型の結晶性アルミノシリケートは、高温になると徐々に結晶
の崩壊が始まり、それに伴って触媒性能の劣化が起こるため、長時間にわたって高
い反応成績を維持することができない。また、高温では、コーク(炭素質物質)の
生成が顕著となって、これがペンタシル型の結晶性アルミノシリケートの表面を被覆あるいは表面に蓄積するため、急激な触媒活性の低下が起こる。
【0008】
本発明の目的は、酸化ジルコニウムをペンタシル型アルミノシリケートに担持させた触媒を用い、高温でも高い触媒活性を維持して、ジメチルエーテルから効率よくプロピレンを製造しうる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するべく鋭意検討の結果、酸化ジルコニウムをペンタシル型アルミノシリケートに担持させた触媒をリン酸水溶液および/または硫酸水溶液で処理することによってより高い温度で触媒活性を維持し、ジメチルエーテルからプロピレンを効率よく生成させることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明はジメチルエーテルを気相で触媒と接触させてプロピレンを製造するにあたり、前記触媒としてSiO2/Al23がモル比で20〜250のペンタシル型のアルミノシリケートに酸化ジルコニウムを担持し、これをさらにリン酸水溶液および/または硫酸水溶液で処理した触媒を使用することを特徴とするプロピレンの製造方法に関するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法により、ジメチルエーテルからプロピレンを長時間にわたり高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の方法に使用される触媒はペンタシル型のアルミノシリケートに酸化ジルコニウムを担持させたものであるが、このペンタシル型とは、ゼオライトの一種で、アルキルアンモニウムカチオンをテンプレートに用いて、水熱合成によって製造される結晶性物質である。ペンタシル型の特徴は、(1)酸素10員環で規定される細孔径、(2)強い固体酸性質、(3)高いシリカ組成(高Si/Al原子比)の3点をあげることができる。結晶構造に由来する直径0.53×0.56nmと0.51×0.55nmの2種類の細孔が三次元的につながっており、ベンゼン環の径よりも少し大きい細孔径を有している。また、ゼオライトの中では強い固体酸性をもつ。結晶性が高く、高シリカ組成のゼオライトを合成しやすい。Si/Al原子比は通常12から500と高く、Al濃度が小さいので、酸密度が低い。また、疎水性をもち、熱安定性・高温の水蒸気に対する耐久性が高い。酸素10員環からなる細孔の大きさに基づく形状選択性も大きな特徴である。このため、工業的にさまざまな反応に対して固体酸触媒および触媒の担体として用いられている。
このペンタシル型アルミノシリケートは市販されている。
【0013】
この触媒に適するアルミノシリケートのSiO2/Al23の比率はモル比で20〜250程度であり、30〜150程度のものが好ましい。また、粒径は平均粒径で0.1〜10mm程度のものが適当である。
【0014】
酸化ジルコニウムの担持効果は高温での活性維持と選択性の向上にある。ペンタシル型アルミノシリケートに酸化ジルコニウムを担持させる方法は特に制限はなく、沈殿法、混練法、含浸法を利用できる。例えば、水溶性ジルコニウム化合物を酸性水溶液としてこれにペンタシル型アルミノシリケート粉末を懸濁させ、アルカリを加えてジルコニウム化合物をアルミノシリケート粒子表面に折出させることができる。このジルコニウム化合物は酸素雰囲気での焼成など常法によって酸化物を変えればよい。
【0015】
触媒中のアルミノシリケートと酸化ジルコニウムの比率は重量比で10/90〜99/1程度、好ましくは20/80〜97/3程度が適当である。この触媒は種々の目的で第三成分を含むことができる。
【0016】
処理効果は活性および選択性の向上にある。触媒のリン酸水溶液および/または硫酸水溶液による処理は、触媒をリン酸水溶液および/または硫酸水溶液と接触させることによって行うことができる。この接触は、例えば室温で10〜60分間攪拌すればよい。上記のように処理を行うことにより、触媒の活性、選択性が向上する。
【0017】
リン酸水溶液の濃度は0.1〜3M程度、特に0.3〜2M程度、硫酸水溶液の濃度は0.01〜2M、特に0.05〜1.5M程度とすることが好ましい。使用量は、リン酸および/または硫酸の量は酸化ジルコニウムとアルミノシリケートとの合計重量における割合で0.1〜20重量%程度、好ましくは0.2〜15重量%程度とすることが好ましい。両者を含むときは両者の和が0.1〜30重量%程度。
この量は処理後にリン酸あるいは硫酸(いずれも遊離、塩の形態を問わない。)として触媒中に残存する量であり、リン酸および硫酸はいずれも酸でなければならない。
【0018】
水分の除去は放置でもよいが加熱することが好ましい。
【0019】
水分除去後は焼成を行なう。この焼成は空気中などの酸素雰囲気で110〜150℃で5〜40時間程度行えばよい。
【0020】
焼成後は必要により加圧成形し、粉砕し、分級して所望の粒度の触媒を得ることができる。
【0021】
この触媒に気相でジメチルエーテルを接触させてプロピレンを製造する。反応温度は300〜650℃程度、好ましくは350〜600℃程度、圧力は0.1〜50kg/cm2・G程度、好ましくは0.5〜30kg/cm2・G程度とし、接触時間(W/F)は1〜40g−cat・h/mol程度が適当である。
【0022】
ジメチルエーテルはそのまま送入してもよいが、窒素、炭酸ガス、水素等の不活性ガスでDHEを希釈して送入することによって、供給速度の均一化が図れるので好ましい。
【実施例1】
【0023】
I.触媒の調製
1)触媒番号(1)
蒸留水約400mlに酸化塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)1.57gを溶解し、これにペンタシル型の結晶性アルミノシリケート(ズードケミー製、SiO2/Al23=83.7、平均粒径0.5mm)3.4gを投入した後、80℃で2時間撹拌して、室温になるまで放置した。次いでこのものに2.5Mのアンモニア水溶液をpHが9になるまで滴下して、室温で2時間撹拌した後、生成した固体生成物をろ過、洗浄した。得られた固体2gを120℃で一昼夜乾燥後、20mlの1Mリン酸水溶液に加えて室温で30分撹拌した。その後このものを120℃で一昼夜乾燥後、空気中500℃で3時間焼成した。さらに得られた粉末を加圧成形後、粉砕して20〜40メッシュに分級して、目的の触媒(1)を得た。
【0024】
2)触媒番号(2)
蒸留水約400mlに酸化塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)0.52gを溶解し、これにペンタシル型の結晶性アルミノシリケート(ズードケミー製、SiO2/Al23=83.7)3.8gを投入した後、80℃で2時間撹拌して、室温になるまで放置した。次いでこのものに2.5Mのアンモニア水溶液をpHが9になるまで滴下して、室温で2時間撹拌した後、生成した固体生成物をろ過、洗浄した。得られた固体2gを120℃で一昼夜乾燥後、20mlの1Mリン酸水溶液に加えて室温で30分撹拌した。その後このものを120℃で一昼夜乾燥後、空気中500℃で3時間焼成した。さらに得られた粉末を加圧成形後、粉砕して20〜40メッシュに分級して、目的の触媒(2)を得た。
【0025】
3)触媒番号(3)
蒸留水約400mlに酸化塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)5.23gを溶解し、これにペンタシル型の結晶性アルミノシリケート(ズードケミー製、SiO2/Al23=83.7)2.0gを投入した後、80℃で2時間撹拌して、室温になるまで放置した。次いでこのものに2.5Mのアンモニア水溶液をpHが9になるまで滴下して、室温で2時間撹拌した後、生成した固体生成物をろ過、洗浄した。得られた固体2gを120℃で一昼夜乾燥後、20mlの1Mリン酸水溶液に加えて室温で30分撹拌した。その後このものを120℃で一昼夜乾燥後、空気中500℃で3時間焼成した。さらに得られた粉末を加圧成形後、粉砕して20〜40メッシュに分級して、目的の触媒(3)を得た。
【0026】
4)触媒番号(4)
蒸留水約400mlに酸化塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)7.58gを溶解し、これにペンタシル型の結晶性アルミノシリケート(ズードケミー製、SiO2/Al23=83.7)1.0gを投入した後、80℃で2時間撹拌して、室温になるまで放置した。次いでこのものに2.5Mのアンモニア水溶液をpHが9になるまで滴下して、室温で2時間撹拌した後、生成した固体生成物をろ過、洗浄した。得られた固体2gを120℃で一昼夜乾燥後、20mlの1Mリン酸水溶液に加えて室温で30分撹拌した。その後このものを120℃で一昼夜乾燥後、空気中500℃で3時間焼成した。さらに得られた粉末を加圧成形後、粉砕して20〜40メッシュに分級して、目的の触媒(4)を得た。
【0027】
5)触媒番号(5)
蒸留水約400mlに酸化塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)1.57gを溶解し、これにペンタシル型の結晶性アルミノシリケート(ズードケミー製、SiO2/Al23=83.7)3.4gを投入した後、80℃で2時間撹拌して、室温になるまで放置した。次いでこのものに2.5Mのアンモニア水溶液をpHが9になるまで滴下して、室温で2時間撹拌した後、生成した固体生成物をろ過、洗浄した。得られた固体2gを120℃で一昼夜乾燥後、20mlの0.5M硫酸水溶液に加えて室温で30分撹拌した。その後このものを120℃で一昼夜乾燥後、空気中500℃で3時間焼成した。さらに得られた粉末を加圧成形後、粉砕して20〜40メッシュに分級して、目的の触媒(5)を得た。
【0028】
6)触媒番号(6)
ペンタシル型の結晶性アルミノシリケート(ズードケミー製、SiO2/Al23=83.7)を加圧成形後、粉砕して20〜40メッシュに分級して、目的の触媒(6)を得た。
【0029】
7)触媒番号(7)
蒸留水約400mlに酸化塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)1.57gを溶解し、これにペンタシル型の結晶性アルミノシリケート(ズードケミー製、SiO2/Al23=83.7)3.4gを投入した後、80℃で2時間撹拌して、室温になるまで放置した。次いでこのものに2.5Mのアンモニア水溶液をpHが9になるまで滴下して、室温で2時間撹拌した後、生成した固体生成物をろ過、洗浄した。その後このものを120℃で一昼夜乾燥後、空気中500℃で3時間焼成した。さらに得られた粉末を加圧成形後、粉砕して20〜40メッシュに分級して、目的の触媒(7)を得た。
【0030】
8)触媒番号(8)
蒸留水約400mlに酸化塩化ジルコニウム八水和物(ZrOCl2・8H2O)7.85gを溶解し、これに2.5Mのアンモニア水溶液をpHが9になるまで滴下して、室温で2時間撹拌した。ついで生成した固体生成物をろ過、洗浄した。得られた固体2gを120℃で一昼夜乾燥後、20mlの1Mリン酸水溶液に加えて室温で30分撹拌した。その後このものを120℃で一昼夜乾燥後、空気中500℃で3時間焼成した。さらに得られた粉末を加圧成形後、粉砕して20〜40メッシュに分級して、目的の触媒(8)を得た。
【0031】
II.反応方法
内径14mm、長さ820mmの反応管に所定量の上記触媒を充填した。この反応管にジメチルエーテルと窒素との混合割合が容積比で1:5の混合ガスを、接触時間(W/F)が10g−cat・h/molになるように供給し、450または550℃の温度で2または100時間反応させた。
以上の操作により得られた反応生成物および未反応物はガスクロマトグラフにより分析した。
【0032】
III.実験結果
実験結果を第1〜4表に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
【表2】

【0035】
【表3】

【0036】
【表4】

【0037】
表1〜表4より反応温度、反応時間が同じ条件では、実施例のC3=の生成物選択率は比較例に比べて高く、本発明ではプロピレンを効率よく生成可能であることがわかる。又、実施例では反応温度が450℃→550℃と高温になってもC3=の生成物選択率は変わらず、触媒性能低下が起こらず、高い触媒活性を維持しているのがわかる(例えば実施例1と実施例6)。さらに実施例では反応時間が2h→100hと長時間にわたっても上記反応温度の場合と同様に、触媒性能は劣化せず良好である(例えば実施例5と実施例10)。一方、比較例では、反応温度が550℃又は反応時間が100hと高温又は長時間になる事によりC3生成物選択率が下がり、触媒性能が劣っている(例えば比較例1と比較例4、比較例1と比較例7)
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明のプロピレンの製造方法はジメチルエーテルを原料とするものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジメチルエーテルを気相で触媒と接触させてプロピレンを製造するにあたり、前記触媒としてSiO2/Al23がモル比で20〜250のペンタシル型のアルミノシリケートに酸化ジルコニウムを担持し、これをさらにリン酸水溶液および/または硫酸水溶液で処理した触媒を使用することを特徴とするプロピレンの製造方法
【請求項2】
処理がリン酸水溶液によって行われ、触媒中のリン酸の含有率が0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1に記載の方法
【請求項3】
処理が硫酸水溶液によって行われ、触媒中の硫酸の含有率が0.1〜20重量%であることを特徴とする請求項1に記載の方法

【公開番号】特開2006−16345(P2006−16345A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−196407(P2004−196407)
【出願日】平成16年7月2日(2004.7.2)
【出願人】(504002610)JFE技研株式会社 (8)
【Fターム(参考)】