説明

プロピレンの製造方法

【課題】炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料混合物からプロピレンを製造するに当たり、反応速度を維持した上で芳香族化合物やパラフィン等の副生を抑制し、高選択率かつ高収率でプロピレンを効率的に製造する。
【解決手段】条件(A)(反応器に供給する炭素数4以上のオレフィンの量が、反応器に供給するメタノールのモル数とジメチルエーテルのモル数の2倍との合計に対して、モル比で0.5以上10以下)と条件(B)(反応器に供給する全供給成分中の、炭素数4以上のオレフィンとメタノールとジメチルエーテルの合計濃度が20体積%以上80体積%以下)とを満たすように、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料を希釈剤(C)(パラフィン類、芳香族類、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウム)で希釈して接触反応に供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料混合物からプロピレンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プロピレンを製造する方法としては、従来からナフサのスチームクラッキングや減圧軽油の流動接触分解が一般的に実施されており、近年ではエチレンと2−ブテンを原料としたメタセシス反応やメタノールおよび/またはジメチルエーテルを原料としたMTOプロセスも注目を浴びている。一方、炭素数4以上のオレフィンとメタノール等の含酸素化合物を原料として低級オレフィンを製造する方法も知られている(特許文献1)。
【0003】
上記特許文献1では、その実施例において、高濃度のオレフィンおよびメタノールを含む条件下で反応を行っているが、その理由は明らかではない。本発明者が知る限りにおいては、このような具体的記載のある文献がないからである。
しかし、本発明者らが推測するに、メタノール等の含酸素化合物を加えない炭素数4以上のオレフィンの接触クラッキングは、高濃度オレフィンの条件で行うのが一般的であると、特許文献1の発明者が考えていたものと思われる。
そこで、後述の参考例1,2に記載したような確認実験を行った。この結果、原料のオレフィン濃度が低いほど芳香族化合物やパラフィン等の副生は抑制されるが、反応速度が遅くなり必要な触媒量が多くなるという不都合が生じることが確認できた。これにより、特許文献1において高濃度のオレフィンおよびメタノールを含む条件下で反応を行っていたのは、このような不都合を回避するためであると推測できた。
【特許文献1】米国特許第6888038号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料混合物からプロピレンを製造するにあたり、高濃度反応条件を採用することは芳香族化合物やパラフィン等の副生成物量の増大につながる。そして、これらの望ましくない副生成物の生成は、目的とするプロピレン収率の低下のみならず、触媒劣化の促進や、精製工程の煩雑化等、反応プロセスにもたらす悪影響も大きい。
【0005】
本発明は、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料混合物を、反応器中で触媒と接触させてプロピレンを製造するに当たり、反応速度を維持した上で芳香族化合物やパラフィン等の副生を抑制し、プロピレンを高選択率にかつ効率的に製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ね、メタノール等の含酸素化合物を原料とした場合の従来のプロピレン製造条件、さらには従来の当業者の技術常識を根本的に見直した結果、メタノール、ジメチルエーテルといった含酸素化合物を原料中に含む反応系では、原料のオレフィン、メタノールおよびジメチルエーテルの濃度を下げても反応速度の低下(すなわち目的物であるブテンの転化率)はほとんど起こらないこと、そして、これらの濃度を下げることにより、芳香族化合物やパラフィン類など望ましくない副生物の生成を著しく抑制することができ、触媒寿命も長くすることができる結果、触媒量を増やすことなく高選択的にかつ効率的にプロピレンを製造することができることを見出して本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明の第1の要旨は、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料混合物を、反応器中で触媒と接触させてプロピレンを製造する方法において、下記条件(A)と条件(B)とを満たすように炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料を下記希釈剤(C)で希釈して接触反応に供することを特徴とするプロピレンの製造方法、に存する。
条件(A):反応器に供給する炭素数4以上のオレフィンの量が、反応器に供給するメタノールのモル数とジメチルエーテルのモル数の2倍との合計に対して、モル比で0.5以上10以下
条件(B):反応器に供給する全供給成分中の、炭素数4以上のオレフィンとメタノールとジメチルエーテルの合計濃度が20体積%以上80体積%以下
条件(C):パラフィン類、芳香族類、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、アルゴン、およびヘリウムから選ばれる1種または2種以上
【0008】
本発明の第2の要旨は、上記方法において、前記触媒が、ゼオライトを触媒活性成分として含むことを特徴とするプロピレンの製造方法、に存する。
【0009】
本発明の第3の要旨は、上記方法において、 前記ゼオライトが、MFI、MEL、MOR、MWW、CHA、BEA、およびFAUから選ばれる一つまたは複数の混合物であることを特徴とするプロピレンの製造方法、に存する。
【0010】
本発明の第4の要旨は、上記方法において、前記ゼオライトが、MFI、MEL、MWW、およびCHAから選ばれる一つまたは複数の混合物であることを特徴とするプロピレンの製造方法、に存する。
【0011】
本発明の第5の要旨は、上記方法において、前記反応器入口のガス温度が400℃以上600℃以下であることを特徴とするプロピレンの製造方法、に存する。
【0012】
本発明の第6の要旨は、上記方法において、前記反応器が固定床反応器であることを特徴とするプロピレンの製造方法、に存する。
【0013】
本発明の第7の要旨は、上記方法において、前記反応器出口ガスに含まれる炭素数4以上の炭化水素の少なくとも一部を該反応器入口にリサイクルすることを特徴とするプロピレンの製造方法、に存する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料混合物からプロピレンを製造するに当たり、反応速度を維持した上で芳香族化合物やパラフィン等の副生を抑制し、高選択率かつ高収率でプロピレンを効率的に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための代表的な態様を具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の態様に限定されるものではない。
【0016】
[触媒]
まず、本発明で用いる触媒について説明する。
本発明に係る反応に用いられる触媒としては、ブレンステッド酸点を有する固体状のものであれば特に限定されず、従来公知の触媒が用いられ、例えば、カオリン等の粘土鉱物;粘土鉱物等の担体に硫酸、燐酸等の酸を含浸・担持させたもの;酸性型イオン交換樹脂;ゼオライト類;燐酸アルミニウム類;Al−MCM41等のメソポーラスシリカアルミナ等の固体酸触媒が挙げられる。
【0017】
これらの固体酸触媒のうちでも、分子篩効果を有するものが好ましく、また、酸強度があまり高くないものが好ましい。
【0018】
前記固体酸触媒のうち、分子篩効果を有するゼオライト類や燐酸アルミニウム類の構造としては、International Zeolite Association(IZA)が規定するコードで表すと、例えば、AEI、AET、AEL、AFI、AFO、AFS、AST、ATN、BEA、CAN、CHA、EMT、ERI、EUO、FAU、FER、LEV、LTL、MAZ、MEL、MFI、MOR、MTT、MTW、MWW、OFF、PAU、RHO、STT、TON等が挙げられる。その中でも触媒のフレームワーク密度が18.0T/nm以下である触媒が好ましいく、このようなものとしては、好ましくは、MFI、MEL、MOR、MWW、FAU、BEA、CHAで、より好ましくは、MFI、MEL、MOR、MWW、CHA、特に好ましくはMFI、MEL、MWW、CHAが挙げられる。
ここで、フレームワーク密度(単位:T/nm)とは、ゼオライトの単位体積(1nm)当たりに存在するT原子(ゼオライトの骨格を構成する原子のうち、酸素以外の原子)の個数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まるものである。
【0019】
更に、該固体酸触媒としてより好ましくは、細孔径が0.3〜0.9nmのミクロ細孔を有し、BET比表面積が200〜700m2/g、細孔容積が0.1〜0.5cc/gである結晶性アルミノシリケート類、メタロシリケート類、メタロアルミノシリケート類又は結晶性燐酸アルミニウム類等が好ましい。なお、ここで言う細孔径とは、International Zeolite Association(IZA)が定める結晶学的なチャネル直径(Crystallographic free diameter of the channels)を示し、細孔(チャネル)の形状が真円形の場合は、その直径をさし、細孔の形状が楕円形の場合は、短径をさす。
【0020】
また、アルミノシリケートの中では、SiO/Alのモル比が10以上のものが好ましい。SiO/Alモル比が低すぎると触媒の耐久性が低下するため好ましくない。SiO/Alのモル比の上限は通常10000以下である。好ましくは、2000以下である。SiO/Alのモル比がこれより高すぎると触媒活性が低下してしまうため好ましくない。上記モル比は、蛍光X線や化学分析法などの常法により求めることができる。
触媒中のアルミニウム含量は触媒調製の際の原料仕込み量でコントロールすることができ、また、調製後にスチーミング等によりAlを減らすこともできる。また、Alの一部をホウ素やガリウム等の他の元素に置き換えても良く、特にホウ素で置換することが好ましい。
【0021】
これらの触媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0022】
本発明においては、上述のような触媒活性成分を、そのまま触媒として反応に用いても良いし、反応に不活性な物質やバインダーを用いて、造粒・成型して、或いはこれらを混合して反応に用いても良い。該反応に不活性な物質やバインダーとしては、アルミナまたはアルミナゾル、シリカ、シリカゲル、石英、およびそれらの混合物等が挙げられる。
【0023】
なお、上記した触媒組成は、これらの反応に不活性な物質やバインダー等を含まない触媒活性成分のみの組成である。しかして、本発明に係る触媒とは、これらの反応に不活性な物質やバインダー等を含む場合は、前述の触媒活性成分とこれらの反応に不活性な物質やバインダー等とを合わせて触媒と称し、これらの反応に不活性な物質やバインダー等を含まない場合は、触媒活性成分のみで触媒と称す。
【0024】
本発明で用いる触媒の粒径は合成時の条件により異なるが、通常、平均粒径として0.01μm〜500μmである。触媒の粒径が大き過ぎると、触媒活性を示す表面積が小さくなり、小さ過ぎると取り扱い性が劣るものとなり、いずれの場合も好ましくない。この平均粒径は、SEM観察等により求めることができる。
【0025】
本発明で用いる触媒の調製方法は特に限定されず、一般的に水熱合成と呼ばれる公知の方法により調製することが可能である。また、水熱合成後にイオン交換、脱アルミニウム処理、含浸や担持などの修飾により組成を変えることも可能である。
本発明で使用する触媒は、反応に供する際に、上記物性ないし組成を有しているものであれば良く、いずれの方法によって調製されたものであっても良い。
【0026】
[反応原料]
次に、本発明で反応原料とする炭素数4以上のオレフィン、メタノール、ジメチルエーテルについて説明する。
【0027】
<オレフィン>
反応の原料として用いる炭素数4以上のオレフィンとしては、特に限定されるものではない。例えば、石油供給原料から接触分解法または蒸気分解法等により製造されるもの(C4ラフィネート−1、C4ラフィネート−2等)、石炭のガス化により得られる水素/CO混合ガスを原料としてFT(フィッシャートロプシュ)合成を行うことにより得られるもの、エチレンの二量化反応を含むオリゴマー化反応により得られるもの、炭素数4以上のパラフィンの脱水素法または酸化脱水素法により得られるもの、MTO反応によって得られるもの、アルコールの脱水反応によって得られるもの、炭素数4以上のジエン化合物の水素化反応により得られるもの等の、公知の各種方法により得られる、炭素数4以上、特に炭素数4〜10のオレフィンを任意に用いることができ、このとき各製造方法に起因する炭素数4以上のオレフィン以外の化合物が任意に混合した状態のものをそのまま用いても良いし、精製したオレフィンを用いても良い。
【0028】
<メタノール、ジメチルエーテル>
反応の原料として用いるメタノールおよび/またはジメチルエーテルの製造由来は特に限定されない。例えば、石炭および天然ガス、ならびに製鉄業における副生物由来の水素/COの混合ガスの水素化反応により得られるもの、植物由来のアルコール類の改質反応により得られるもの、発酵法により得られるもの、再循環プラスチックや都市廃棄物等の有機物質から得られるもの等が挙げられる。このとき各製造方法に起因するメタノールおよびジメチルエーテル以外の化合物が任意に混合した状態のものをそのまま用いても良いし、精製したものを用いても良い。
【0029】
[反応操作・条件]
以下に、前述の触媒および反応原料を用いる本発明のプロピレン製造反応の操作・条件について説明する。
【0030】
<反応器>
本発明における、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとの反応は、気相反応である。この気相反応器の形態に特に制限はないが、通常、連続式の固定床反応器や流動床反応器が選ばれる。
【0031】
なお、反応器に前述の触媒を充填する際、触媒層の温度分布を小さく抑えるために、石英砂、アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ等の反応に不活性な粒状物を、触媒と混合して充填しても良い。この場合、石英砂等の反応に不活性な粒状物の使用量は特に制限はない。なお、この粒状物は、触媒との均一混合性の面から、触媒と同程度の粒径であることが好ましい。
【0032】
また、反応器には、反応に伴う発熱を分散させることを目的に、反応基質(反応原料)を分割して供給しても良い。
【0033】
本発明で用いる触媒は、従来の触媒に比べてコーキングが少なく、触媒劣化の速度は遅いが、1年以上の連続運転を行う場合には運転中に触媒再生を行う必要がある。
例えば、固定床反応器を選択する場合、反応器を少なくとも二つ以上設置し、反応と再生を切り替えながら運転することが望ましい。固定床反応器の形態としては、多管式の反応器または断熱型の反応器が選ばれる。
一方、流動床反応器を選択する場合、触媒を連続的に再生槽に送り、再生槽において再生された触媒を連続的に反応器に戻しながら反応を行うことが好ましい。
【0034】
ここで、触媒の再生操作としては、反応器から導入された触媒を、酸素を含有した窒素ガスや水蒸気などで処理することにより再生するものが挙げられる。
【0035】
<オレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルの供給濃度比>
本発明においては、反応器に供給する炭素数4以上のオレフィンの量は、反応器に供給するメタノールのモル数とジメチルエーテルのモル数の2倍との合計に対して、モル比で0.5以上、好ましくは0.8以上であって、10以下、好ましくは5以下とする(条件(A))。
即ち、炭素数4以上のオレフィンの供給モル量をMc4、メタノールの供給モル量をM、ジメチルエーテルの供給モル量をMdmとした場合、Mc4は(M+2Mdm)の0.5〜10倍、好ましくは0.8〜5倍である。
この供給濃度比が低すぎても高すぎても反応が遅くなり好ましくなく、特に、この供給濃度比が低すぎると、原料のオレフィンの消費量が減少するため好ましくない。
【0036】
即ち、本発明においては、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを適切な濃度比で供給することにより、後述の基質濃度を下げた上で反応速度を著しく高めることが特徴である。
なお、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを反応器に供給する際には、これらを別々に供給しても、予め一部または全部を混合した後に供給してもよい。
【0037】
<基質濃度>
本発明において、反応器に供給する全供給成分中の、炭素数4以上のオレフィンとメタノールとジメチルエーテルの合計濃度(基質濃度)は、20体積%以上80体積%以下、好ましくは30体積%以上70体積%以下である(条件(B))。
この基質濃度が高すぎると芳香族化合物やパラフィン類の生成が顕著になりプロピレンの選択率が低下する傾向がある。逆に、この基質濃度が低すぎると、反応速度が遅くなるため多量の触媒が必要となり、さらに生成物の精製コストや反応設備の建設費も大きくなり経済的でない。
上記の好ましい基質濃度範囲内で反応を行うことにより、適切な触媒量で且つ望ましくない副生物の生成を抑制しながら、低コストでプロピレンを製造することができる。
従って、このような基質濃度となるように、本発明では、以下に記載する希釈剤(希釈剤(C))で反応基質を希釈する。
【0038】
<希釈剤>
反応器内には、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルの他に、パラフィン類、芳香族類、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、アルゴン、ヘリウム、および、それらの混合物といった、反応に不活性な気体を存在させることができる。なお、これらの希釈剤のうち、パラフィン類や芳香族類は、反応条件によっては若干反応することがあるが、反応量が少ないことから、希釈剤として定義する。
このような希釈剤としては、反応原料に含まれている不純物をそのまま使用しても良いし、別途調製した希釈剤を反応原料と混合して用いても良い。
また、希釈剤は反応器に入れる前に反応原料と混合しても良いし、反応原料とは別に反応器に供給しても良い。
【0039】
<空間速度>
ここで言う空間速度とは、触媒(触媒活性成分)の重量当たりの反応原料である炭素数4以上のオレフィンの流量であり、ここで触媒の重量とは触媒の造粒・成型に使用する不活性成分やバインダーを含まない触媒活性成分の重量である。また、流量は炭素数4以上のオレフィンの流量(重量/時間)である。
【0040】
空間速度は、0.1Hr−1から500Hr−1の間が好ましく、1.0Hr−1から100Hr−1の間が更に好ましい。空間速度が高すぎると原料のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルの転化率が低く、また、十分なプロピレン選択率が得られない。また、空間速度が低すぎると、一定の生産量を得るのに必要な触媒量が多くなり反応器が大きくなりすぎると共に、芳香族化合物やパラフィン等の好ましくない副生成物が生成し、プロピレン選択率が低下するため好ましくない。
【0041】
<反応温度>
反応温度の下限としては、反応器入口のガス温度として通常約300℃以上、好ましくは400℃以上であり、反応温度の上限としては、通常700℃以下、好ましくは600℃以下である。反応温度が低すぎると、反応速度が低く、未反応原料が多く残る傾向となり、更にプロピレンの収率も低下する。一方で反応温度が高すぎるとプロピレンの収率が著しく低下する。
【0042】
<反応圧力>
反応圧力の上限は通常2MPa(絶対圧、以下同様)以下好ましくは1MPa以下であり、より好ましくは0.7MPa以下である。また、反応圧力の下限は特に制限されないが、通常1kPa以上、好ましくは50kPa以上である。反応圧力が高すぎるとパラフィン類や芳香族化合物等の好ましくない副生成物の生成量が増え、プロピレンの収率が低下する傾向がある。反応圧力が低すぎると反応速度が遅くなる傾向がある。
【0043】
<反応生成物>
反応器出口ガス(反応器流出物)としては、反応生成物であるプロピレン、未反応原料、副生成物および希釈剤を含む混合ガスが得られる。該混合ガス中のプロピレン濃度は通常5〜95重量%である。
未反応原料は、通常炭素数4以上のオレフィンである。反応条件によってはメタノールおよび/またはジメチルエーテルが含まれるが、メタノールおよび/またはジメチルエーテルの転化率が100%になるような反応条件で反応を行うのが好ましい。それにより、反応生成物と未反応原料との分離が容易になる。
副生成物としてはエチレン、炭素数が4以上のオレフィン類、パラフィン類、芳香族化合物および水が挙げられる。
【0044】
<生成物の分離>
反応器出口ガスとしての、反応生成物であるプロピレン、未反応原料、副生成物および希釈剤を含む混合ガスは、公知の分離・精製設備に導入し、それぞれの成分に応じて回収、精製、リサイクル、排出の処理を行えば良い。
【0045】
この分離・精製方法の一つの態様として、反応器出口のガスを冷却・圧縮し、凝縮した大部分の水分を除去する工程を含み、水分を除去した後の一部水分を含んだ炭化水素流体をモレキュラーシーブ等で乾燥し、その後蒸留により各オレフィンおよびパラフィンを精製する工程を含む方法が適用される。上記方法において、圧縮した炭化水素流体を一つの蒸留塔に供給しても良いが、多段階の圧縮機を設置し、凝縮しやすい炭化水素と凝縮しにくい炭化水素を粗分離し、これらを別々の蒸留塔に供給して蒸留を行っても良い。
【0046】
プロピレン以外の成分(オレフィン、パラフィン等)の一部または全ては、上記分離・精製された後に反応原料と混合するか、または直接反応器に供給することでリサイクルするのが好ましい。また、副生成物のうち、反応に不活性な成分は希釈剤として再利用することができる。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0048】
なお、以下の実施例、比較例および参考例で用いた触媒は、次のようにして調製した。
[触媒調製]
<調製例1>
臭化テトラ−n−プロピルアンモニウム(TPABr)26.6gおよび水酸化ナトリウム4.8gを順次、水280gに溶解し、次にコロイダルシリカ(SiO2=40重量%、Al<0.1重量%)75gと水35gとの混合液をゆっくり加え、十分攪拌して水性ゲルを得た。次に、このゲルを1000mlのオートクレーブに仕込み、自圧下、300rpmで攪拌しながら170℃で72時間、水熱合成を行った。生成物は加圧濾過により固体成分を分離し、十分水洗を行った後に100℃で24時間乾燥した。乾燥後の触媒は、空気流通下550℃で6時間焼成を行い、Na型のアルミノシリケートを得た。
【0049】
このNa型のアルミノシリケート2.0gを1Mの硝酸アンモニウム水溶液40ccに懸濁させ、80℃で2時間攪拌した。処理後の液は吸引濾過により固体成分を分離し、十分水洗を行った後、再度1Mの硝酸アンモニウム水溶液40ccに懸濁させ、80℃で2時間攪拌した。処理後の液は吸引濾過により固体成分を分離し、十分水洗を行った後、100℃で24時間乾燥した。乾燥後の触媒は、空気流通下500℃で4時間焼成を行い、H型のアルミノシリケート(「触媒A」という)を得た。
【0050】
この触媒Aは、XRD(X線回折)によりゼオライトの構造がMFI型であることを確認した。
この触媒Aの組成を化学分析により定量したところ、SiO2/Al=1100(モル比)であった。
【0051】
<調製例2>
臭化テトラ−n−プロピルアンモニウム(TPABr)26.6g、ホウ酸12.4g、硝酸アルミニウム・9水和物1.25gおよび水酸化ナトリウム4.8gを順次、水280gに溶解し、次にコロイダルシリカ(SiO2=40重量%、Al=約0.06重量%)75gと水35gとの混合液をゆっくり加え、十分攪拌して水性ゲルを得た。次に、このゲルを1000mlのオートクレーブに仕込み、自圧下、300rpmで攪拌しながら170℃で72時間水熱合成を行った。その後の処理は調製例1と同様の操作を行い、H型のボロアルミノシリケート(「触媒B」という)を得た。
【0052】
この触媒Bは、XRDによりゼオライトの構造がMFI型であることを確認した。
この触媒Bの組成を化学分析により定量したところ、SiO2/Al=324(モル比)、SiO2/B=94(モル比)であった。
【0053】
[プロピレンの製造]
以下に上記触媒A,Bを用いたプロピレンの製造実施例及び比較例を示す。
【0054】
<実施例1>
触媒Aを用いてプロピレンの製造を行った。
反応には常圧固定床流通反応装置を用い、内径6mmの石英製反応管に、上記触媒A25mgと、石英砂0.5gの混合物を充填した。この反応器にイソブテン(20体積%)、メタノール(10体積%)および窒素(70体積%)に調製したガスを蒸発器を通して供給した。反応温度(反応器入口ガス温度)は550℃とした。反応開始後、70分後にガスクロマトグラフィーで生成物の分析を行った。
表1に反応条件および反応結果を示した。
ブテン転化率は51.2%、メタノール転化率は100%、プロピレンの選択率は52.7%であった。一方、芳香族化合物とパラフィンの合計の選択率は1.8%であり、非常に低いレベルであった。
【0055】
<実施例2>
原料ガス濃度のイソブテンとメタノールの濃度をそれぞれ2倍にした以外は実施例1と同様の反応条件において反応を行った。表1に反応条件および反応結果を示した。ブテン転化率は64.7%、メタノール転化率は100%、プロピレンの選択率は54.9%であった。芳香族化合物とパラフィンの合計の選択率は6.4%であり、実施例1よりは多いものの、低いレベルであった。
【0056】
<実施例3>
原料ガス濃度のイソブテンとメタノールの濃度をそれぞれ2.33倍にした以外は実施例1と同様の反応条件において反応を行った。表1に反応条件および反応結果を示した。ブテン転化率は64.9%、メタノール転化率は100%、プロピレンの選択率は52.7%であった。芳香族化合物とパラフィンの合計の選択率は9.1%であり、実施例1、2よりは多いものの、低いレベルであった。
【0057】
<比較例1>
原料ガス濃度のイソブテンとメタノールの濃度をそれぞれ3倍にした以外は実施例1と同様の反応条件において反応を行った。表1に反応条件および反応結果を示した。ブテン転化率は65.1%、メタノール転化率は100%、プロピレンの選択率は47.4%であった。芳香族化合物とパラフィンの合計の選択率は15.3%であり、実施例1〜3と比べ著しく増加しておりプロピレンの選択率も満足できるレベルではなかった。
【0058】
<実施例4>
触媒Aの代わりに触媒Bを用い、イソブテン15体積%、メタノール15体積%、窒素70体積%に調製したガスを蒸発器を通して反応器に供給した以外は実施例1と同様に反応を行った。表1に反応条件および反応結果を示した。ブテン転化率は50.0%、メタノール転化率は100%、プロピレンの選択率は52.7%であった。一方、芳香族化合物とパラフィンの合計の選択率は2.1%であり、非常に低いレベルであった。
【0059】
<実施例5>
原料ガス濃度のイソブテンとメタノールの濃度をそれぞれ2倍にした以外は実施例4と同様の反応条件において反応を行った。表1に反応条件および反応結果を示した。ブテン転化率は59.0%、メタノール転化率は100%、プロピレンの選択率は54.7%であった。芳香族化合物とパラフィンの合計の選択率は5.7%であり、実施例4よりは多いものの、低いレベルであった。
【0060】
<実施例6>
原料ガス濃度のイソブテンとメタノールの濃度をそれぞれ2.33倍にした以外は実施例4と同様の反応条件において反応を行った。表1に反応条件および反応結果を示した。ブテン転化率は59.2%、メタノール転化率は100%、プロピレンの選択率は52.1%であった。芳香族化合物とパラフィンの合計の選択率は8.4%であり、実施例4,5よりは多いものの、低いレベルであった。
【0061】
<比較例2>
原料ガス濃度のイソブテンとメタノールの濃度をそれぞれ3倍にした以外は実施例4と同様の反応条件において反応を行った。表1に反応条件および反応結果を示した。ブテン転化率は59.5%、メタノール転化率は100%、プロピレンの選択率は47.6%であった。芳香族化合物とパラフィンの合計の選択率は14.8%であり、実施例4〜6と比べ著しく増加しておりプロピレンの選択率も満足できるレベルではなかった。
【0062】
<参考例1,2>
原料のメタノールを添加する代わりに窒素の供給流量を増やした以外は実施例1,2と同様の反応条件において反応を行った。表1に反応条件および反応結果を示した。実施例1と2では原料濃度が1/2になっても転化率は大きく変わらなかったのに対し、参考例1と2では、原料濃度が1/2になることにより転化率は大きく低下した。
【0063】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料混合物を、反応器中で触媒と接触させてプロピレンを製造する方法において、下記条件(A)と条件(B)とを満たすように、炭素数4以上のオレフィンとメタノールおよび/またはジメチルエーテルとを含む原料を下記希釈剤(C)で希釈して接触反応に供することを特徴とするプロピレンの製造方法。
条件(A):反応器に供給する炭素数4以上のオレフィンの量が、反応器に供給するメタノールのモル数とジメチルエーテルのモル数の2倍との合計に対して、モル比で0.5以上10以下
条件(B):反応器に供給する全供給成分中の、炭素数4以上のオレフィンとメタノールとジメチルエーテルの合計濃度が20体積%以上80体積%以下
条件(C):パラフィン類、芳香族類、水蒸気、二酸化炭素、一酸化炭素、窒素、アルゴン、およびヘリウムから選ばれる1種または2種以上
【請求項2】
前記触媒が、ゼオライトを触媒活性成分として含むことを特徴とする請求項1に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項3】
前記ゼオライトが、MFI、MEL、MOR、MWW、CHA、BEA、およびFAUから選ばれる一つまたは複数の混合物であることを特徴とする請求項2に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項4】
前記ゼオライトが、MFI、MEL、MWW、およびCHAから選ばれる一つまたは複数の混合物であることを特徴とする請求項3に記載のプロピレンの製造方法。
【請求項5】
前記反応器入口のガス温度が400℃以上600℃以下であることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【請求項6】
前記反応器が固定床反応器であることを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。
【請求項7】
前記反応器出口ガスに含まれる炭素数4以上の炭化水素の少なくとも一部を該反応器入口にリサイクルすることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のプロピレンの製造方法。

【公開番号】特開2007−302652(P2007−302652A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−77069(P2007−77069)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】