説明

プロピレン重合用固体触媒成分の製造方法

【課題】優れた製品品質を備えた、高MFR、かつ高コモノマー含量のプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造するのに充分な性能を示す触媒成分及びその触媒成分の製造方法を提供する。
【解決手段】下記の成分(A1)、(A2)、(A3)、(A4)および(A5)を接触してなり、且つ成分(A5)の使用量が成分(A4)に対するモル比(A5/A4)で0.01〜1.0であることを特徴とするプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法など。
成分(A1):チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分として含有する固体成分
成分(A2):アルケニル基を有するケイ素化合物
成分(A3):有機ケイ素化合物
成分(A4):有機アルミニウム化合物
成分(A5):式:AlX(Xはハロゲン)で表されるハロゲン化アルミニウム化合物

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プロピレン重合用固体触媒成分の製造方法に関し、更に詳しくは、特定の触媒成分を特定の気相法重合プロセスに用いることにより、高い生産性でプロピレン系ブロック共重合体、とりわけメルトマスフローレート(以下、MFRとも称する。)が高く、ランダム共重合体中のコモノマー含量の高いプロピレン系ブロック共重合体を製造できるプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン系重合体は、剛性や耐熱性などの機械的物性が良好であり、比較的安価に製造することが可能なことから、広い用途に適用されている。プロピレン系重合体は、単独重合体としてだけではなく、エチレンやブテンなどのコモノマーとの共重合体としても、広く用いられている。中でも、剛性と耐衝撃強度の両方を求められる用途には、ブロック共重合体を用いることが多い。プロピレン系ブロック共重合体とは、主としてプロピレンからなる重合体成分と、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分とのブレンドを意味し、一般的には、それぞれの成分に対応する条件で順次重合を行うことにより、反応器中でそれぞれの成分をブレンドする手法を用いて製造される。
【0003】
プロピレン系ブロック共重合体の代表的な用途の一つとして、自動車のバンパーなどの射出成形用途が挙げられる。近年、射出成形工程の生産性を向上させるために、プロピレン系ブロック共重合体のMFRを高くすることが望まれている。プロピレン系ブロック共重合体のMFRは、プロピレンからなる重合体成分のMFR、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分のMFR、及び、ブロック共重合体中のランダム共重合体成分の含量、の3つで一意的に決まるものである。
ブロック共重合体の品質、特に耐衝撃強度を高めるためには、ランダム共重合体成分のMFR及びランダム共重合体成分の含量をある一定の範囲内とすることが必要であり、高い品質を維持した上で、ブロック共重合体のMFRを高めるためには、主としてプロピレンからなる重合体成分のMFRを一層高くすることが望まれている。
【0004】
また、射出成形用途として求められる物性の一つとして耐衝撃強度があり、特に自動車のバンパーなどに使用される場合は、プロピレン系ブロック共重合体の耐衝撃強度、とりわけ低温耐衝撃強度を向上させることが望まれている。低温耐衝撃強度は、ランダム共重合体成分の脆化温度に依存するため、ランダム共重合体成分中のプロピレン含量が高すぎると、脆化温度が高くなり、低温耐衝撃強度が不足する。低温耐衝撃強度を高くするためには、ランダム共重合体成分の脆化温度を低くする必要があり、そのためには、ランダム共重合体成分中のプロピレン以外のコモノマー含量、特に、エチレン含量をより高くすることが望ましい。
【0005】
一方、プロピレン系重合体の製造プロセスに関しては、工程の簡略化と生産コストの低減及び生産性の向上などの観点から、技術改良が続けられてきた。プロピレン系重合体が工業的に製造され始めた当時は、触媒の性能が低く、得られたプロピレン系重合体から触媒残さやアタクチックポリマーを除去する工程が必要であり、溶媒を用いたスラリー法などの重合プロセスが主体であった。
その後、触媒性能が格段に進歩するにつれ、現在では、気相法プロセスが主流となっている。各種気相法プロセスの中でも、液化プロピレンの潜熱を利用して、重合熱を除去する方法は、小さな設備で大きな除熱能力を持つことができる点で、優位性のあるものである。
液化プロピレンの蒸発潜熱を利用して、重合熱を除去する形式のオレフィンの気相反応器として、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型反応器が知られている。
一般的に、重合反応により触媒粒子は、ポリマー粒子へと徐々に成長していく。横型反応器で重合を行う場合、重合によるポリプロピレンの生成と機械的な撹拌の2つの力により、これらの粒子は、徐々に成長しながら、反応器の軸方向に沿って進んでいく。そのため、反応器の上流から触媒を導入し、下流に向かって重合していくことにより、成長度すなわち滞留時間のそろった粒子が経時的に並ぶことになる。すなわち、横型反応器では、フローパターンがピストンフロー型となり、完全混合槽を数台直列に並べた場合と同程度に滞留時間分布を狭くする効果がある。これは、その他の重合反応器には見られない優れた特徴であり、単一の反応器で2個、3個又はそれ以上の反応器と同等な固体混合度を容易に達成することができる点で、経済的に有利である。
【0006】
ポリプロピレンの製造を行う際に、液化プロピレンの蒸発潜熱を利用して、重合熱の除去を行い、かつ、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型筒状反応器を用いる手法は、上記の様な優れた特徴を有している。
プロピレン系ブロック共重合体の製造を行う際には、第一重合工程で、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)を製造し、第二重合工程で、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)を製造することが一般的である。この際、第一重合工程を出て第二重合工程に入るポリマー粒子の滞留時間分布が広いと、第二重合工程を行う反応器でファウリングが生じたり、製品であるブロック共重合体の面耐衝撃強度が低下したりする問題が発生しやすい。これは、滞留時間分布の広さに起因して、第二重合工程に入ってくるポリマー粒子の持つ活性のばらつきが大きくなり、第二重合工程で過度にランダム共重合体成分を製造してしまう粒子が増加するためであると、考えられている。
ゆえに、プロピレン系ブロック共重合体を製造する場合には、滞留時間分布の狭い製造方法を用いることが望ましく、この観点からも、水平軸回りに回転する撹拌機を有する横型筒状反応器を用いる手法は、その他の方法に比し高い優位性を有していると言える。
【0007】
この様に、液化プロピレンの潜熱を利用した気相法プロセスは、優れた特徴を有しているが、近年望まれているMFRが高く、ランダム共重合体成分の含量の高いプロピレン系ブロック共重合体を製造する場合には、生産性の面で解決すべき課題を抱えている。液化プロピレンの潜熱を利用する場合、反応器から未反応ガスを抜き出し、熱交換器で冷却することにより液化させ、フレッシュな原料とともに、再び反応器へ戻すのが一般的な方法である。ガスが液化する温度(露点)は、圧力およびガスの組成に依存するため、プロピレン単独の露点に対して、プロピレンに、水素やエチレンなどの露点の低いガス成分を混合していくと、混合量の増加に従って、露点が低下する。熱交換器の冷却能力は、設備によって決まるものであり、同一設備を使用する場合には、ガス成分の露点が低くなるほど、ガスを液化させる能力が低下、すなわち、除熱能力が低下してしまう。
【0008】
プロピレン系ブロック共重合体としては、主としてプロピレンからなる重合体成分のMFRが高く、ランダム共重合体成分のコモノマー含量が大きいものが要求されていることは、前述した通りである。
ポリプロピレンを製造する場合には、連鎖移動反応を起こす能力のある水素を、分子量調節剤として用いるのが一般的である。よりMFRの高い、すなわち、より分子量の低いポリプロピレンを製造するためには、より高濃度の水素を用いる必要がある。
よって、液化プロピレンの潜熱を利用する気相法プロセスでは、高MFRのポリプロピレンを製造しようとすると、高濃度の水素を用いるがゆえに、未反応ガス中の水素濃度も高く、露点が低くなる傾向があり、除熱の問題から、生産性が落ちてしまう問題が発生する。また、エチレンなどの露点が低いコモノマーで、高コモノマー含量のランダム共重合体成分を製造するときも、同様の問題が発生する。すなわち、高濃度のコモノマーを用いるがゆえに、未反応ガス中のコモノマー濃度も高く、露点が低くなる傾向があり、リサイクル系での除熱能力不足が顕在化する。
上記に記載した通り、高MFRのプロピレン系ブロック共重合体の製造を行う場合には、第一重合工程において、この除熱や生産性が落ちてしまう問題が大きくなり、高コモノマー含量のプロピレン系ブロック共重合体の製造を行う場合には、第二重合工程において、この除熱や生産性が落ちてしまう問題が大きくなる。
このような問題を解決するには、より低い水素濃度で高いMFRのポリプロピレンが製造でき、より低いコモノマー濃度で高いコモノマー含量のランダム共重合体成分が製造できることが望まれる。そして、水素あるいはコモノマーの濃度が低ければ、未反応ガス中のそれらの濃度も低くなり、露点の低下を抑えることができ、生産性を向上することができると考えられる。
【0009】
重合触媒を改良することにより、この上記の課題を解決する方法が幾つか提案されている。例えば、高MFRのポリプロピレンを製造するという課題を解決する方法としては、助触媒として有機アルミニウム成分とアルモキサンを併用する方法(例えば、特許文献1参照。)、助触媒として有機アルミニウム成分と有機亜鉛成分を併用する方法(例えば、特許文献2参照。)、アミノ基を有する有機ケイ素化合物を用いる方法(例えば、特許文献3〜5参照。)、分岐若しくは脂環式炭化水素基とアミノ基を併せ持つ特定の有機ケイ素化合物を使用する方法(例えば、特許文献6、7参照。)、ビニル基やアリル基のようなアルケニル基を有する特殊な構造のケイ素化合物を使用する方法(例えば、特許文献8〜10参照。)等が提案されている。
また、コモノマーの共重合性の課題を解決する方法としては、Ti−N結合を有するチタン化合物を用いる方法(例えば、特許文献11参照。)、2段階目の重合時に有機ケイ素化合物及び飽和炭化水素を用いる方法(例えば、特許文献12参照。)等が提案されている。
さらに、塩化チタンと塩化アルミニウムの錯体を利用し、オレフィン重合の活性を向上させる方法(例えば、特許文献13,14参照。)や、ハロゲン化マグネシウムとハロゲン化アルミニウムを共粉砕した固体成分に用いて、ポリプロピレンの立体規則性を改良する方法(例えば、特許文献15参照。)、チタン、マグネシウムおよびハロゲンを必須成分とする固体成分に、塩化アルミニウムなどの無機ハロゲン化合物を接触させて、ポリプロピレンの立体規則性を改良する方法(例えば、特許文献16参照。)が提案されている。
【0010】
しかしながら、上記の提案された先行技術のように、それぞれの性能が改良されてきているが、本発明者等が知る限りでは、活性、立体規則性、高MFRポリプロピレンの生産性、高コモノマー含量のプロピレン系共重合体の生産性、といったすべての性能を十分に満たす技術は、未だなく、更なる改良技術の開発が強く望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平7−25927号公報
【特許文献2】特開平8−67710号公報
【特許文献3】特開平8−3215号公報
【特許文献4】特開2004−315742号公報
【特許文献5】特開2005−48045号公報
【特許文献6】特開平8−100019号公報
【特許文献7】特開平8−157519号公報
【特許文献8】特開平3−234707号公報
【特許文献9】特開2006−169283号公報
【特許文献10】特開2007−106939号公報
【特許文献11】特開平6−228223号公報
【特許文献12】特開平9−87329号公報
【特許文献13】特公昭37−1886号公報
【特許文献14】特公昭45−12862号公報
【特許文献15】特開昭56−22302号公報
【特許文献16】特開平5−93013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、優れた製品品質を備えた、高MFR、かつ高コモノマー含量のプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造するのに充分な性能を示す触媒成分及びその触媒成分の製造方法を提供することにある。また、その触媒成分を用いたプロピレン系ブロック共重合体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題を解決するため、チーグラー触媒やチーグラー触媒の製造方法における各種の触媒成分の性質や化学的構造などについて、全般的な思考及び探索を行い、多種の触媒成分について検討及び実験を重ね、触媒の活性点に関して、立体特異性やモノマーの関与にかかわる化合物を探索した。
その結果、本発明者は、新規な要件としてのハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を、チタン、マグネシウム、ハロゲンを必須成分として含有する固体成分(A1)、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)および有機アルミニウム化合物(A4)と共に接触処理することにより、得られた触媒成分は、水素応答性を高くでき、かつコモノマー共重合性が著しく向上することを見出した。すなわち、本発明者は、新規な本手法において、ハロゲン化アルミニウム化合物が特定の条件で固体触媒成分(A)中に含まれることにより、活性点となるチタンの電子状態を変化させ、水素応答性及びコモノマー共重合性が著しく高くなり、また、重合体の立体規則性と触媒活性を高度に維持した、非常にバランスの取れた固体触媒成分(A)を得ることができることを見出した。
さらに、この手法に関して、各種プロセスへの応用手法を鋭意検討したところ、上記の固体触媒成分(A)または該固体触媒成分(A)を含む触媒と、主に液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行う気相法プロセスと組み合わせた場合、高MFRであり、ランダム共重合体成分中のコモノマー含量の高いプロピレン系ブロック共重合体の生産性を著しく高め、加えて、プロピレン系ブロック共重合体の製造可能範囲を拡大することができることを見出し、これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、下記の成分(A1)、(A2)、(A3)、(A4)および(A5)を接触してなり、且つ成分(A5)の使用量が成分(A4)に対するモル比(A5/A4)で0.01〜1.0であることを特徴とするプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法が提供される。
成分(A1):チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分として含有する固体成分
成分(A2):アルケニル基を有するケイ素化合物
成分(A3):有機ケイ素化合物
成分(A4):下記式で表される有機アルミニウム化合物
AlX(OR
(式中、Rは、炭化水素基を表す。Xは、ハロゲンまたは水素を表す。Rは、炭化水素基またはAlによる架橋基を表す。a≧1、0≦b≦2、0≦c≦2、a+b+c=3である。)
成分(A5):下記式で表されるハロゲン化アルミニウム化合物
AlX
(式中、Xは、ハロゲンを表す。)
【0015】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、成分(A2)のアルケニル基を有するケイ素化合物がビニルシラン化合物であることを特徴とするプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、成分(A1)の固体成分中のマグネシウムは、ハロゲン化マグネシウム化合物およびアルコキシマグネシウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を由来とすることを特徴とするプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法が提供される。
さらに、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、成分(A1)の固体成分中のチタンは、アルコキシチタン化合物およびハロゲン化チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を由来とすることを特徴とするプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0017】
本発明のプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法により得られるプロピレン重合用固体触媒成分(A)を用いれば、高MFRであって、ランダム共重合体成分中のコモノマー含量の高いプロピレン系ブロック共重合体を、高い生産性で製造することができる。
また、本発明に係るプロピレン重合用固体触媒成分(A)及びその固体触媒成分(A)からなるプロピレン重合用触媒は、触媒活性が非常に高いので、プロピレン系ブロック共重合体の製造コストも低減することが可能である。さらに加えて、得られるポリプロピレンの立体規則性が高く、ランダム共重合体成分中のコモノマー含量を高くすることができるため、常温だけでなく、低温においても、剛性と耐衝撃強度のバランスに優れた高品質な製品を得ることができる。
こうして得られたプロピレン系重合体は、自動車部品や家電部品に代表される射出成形用途に、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】チーグラー系触媒に関する、本発明の技術内容を理解するためのフローチャート図である。
【図2】実施例および比較例で用いたポリプロピレンの製造プロセスを表す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、触媒、製造プロセス及び条件、プロピレン系重合体、プロピレン系重合体の用途について、本発明を具体的かつ詳細に説明する。
【0020】
I.触媒
本発明において、プロピレン重合用触媒は、チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分として含有する固体成分(A1)、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、特定の有機アルミニウム化合物(A4)及びハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を、特定の条件で接触させてなる固体触媒成分(A)と、有機アルミニウム化合物(B)とを用いることを特徴とする。
この際、プロピレン重合用触媒には、本発明の効果を損なわない範囲で、有機ケイ素化合物(C)、及び少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(D)、などの任意成分を用いることができる。
【0021】
1.固体触媒成分(A)
(1)チタン、マグネシウム、ハロゲンを必須成分として含有する固体成分(A1)
本発明で用いる固体触媒成分(A)の構成成分である固体成分(A1)は、チタン、マグネシウム、ハロゲンを必須成分として含有するものであれば、任意のものを用いることができる。ここで、「必須成分として含有する」ということは、挙示の三成分以外に、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の成分を任意の形態で含んでも良いということを示すものである。チタン、マグネシウム、ハロゲンを必須成分として含有する固体成分自体は公知のものである。
【0022】
(1−1)チタン(A1a)
本発明に係る固体成分(A1)で用いるチタンの源となるチタン化合物としては、任意のものを用いることができる。
その代表的な例としては、特開平3−234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。チタンの価数に関しては、4価、3価、2価、0価の任意の価数を持つチタン化合物を用いることができるが、好ましくは4価および3価のチタン化合物、更に好ましくは4価のチタン化合物を用いることが望ましい。
4価のチタン化合物の具体例としては、四塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類、テトラブトキシチタンに代表されるアルコキシチタン化合物類、テトラブトキシチタンダイマー(BuO)Ti−O−Ti(OBu)に代表されるTi−O−Ti結合を有するアルコキシチタンの縮合化合物類、ジシクロペンタジエニルチタニウムジクロライドに代表される有機チタン化合物類、などを挙げることができる。この中で、四塩化チタンとテトラブトキシチタンが特に好ましい
また、3価のチタン化合物の具体例としては、三塩化チタンに代表されるハロゲン化チタン化合物類を挙げることができる。三塩化チタンは、水素還元型、金属アルミニウム還元型、金属チタン還元型、有機アルミニウム還元型、など、公知の任意の方法で製造された化合物を用いることができる。
上記のチタン化合物類は、単独で用いるだけではなく、複数の化合物を併用することも可能である。また、上記チタン化合物類の混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Ti(OBu)Cl4−m;0<m<4などの化合物)、また、フタル酸エステル等のその他の化合物との錯化物(例えば、Ph(COBu)・TiClなどの化合物)、などを用いることができる。
【0023】
(1−2)マグネシウム(A1b)
本発明に係る固体成分(A1)で用いるマグネシウムの源となるマグネシウム化合物としては、任意のものを用いることができる。
その代表的な例としては、特開平3−234707号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、塩化マグネシウムに代表されるハロゲン化マグネシウム化合物類、ジエトキシマグネシウムに代表されるアルコキシマグネシウム化合物類、金属マグネシウム、酸化マグネシウムに代表されるオキシマグネシウム化合物類、水酸化マグネシウムに代表されるヒドロキシマグネシウム化合物類、ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール化合物類、ブチルオクチルマグネシウムに代表される有機マグネシウム化合物類、炭酸マグネシウムやステアリン酸マグネシウムに代表される無機酸及び有機酸のマグネシウム塩化合物類、及びそれらの混合物や平均組成式がそれらの混合された式となる化合物(例えば、Mg(OEt)Cl2−m;0<m<2などの化合物)、などを用いることができる。この中で特に好ましいのは、塩化マグネシウム、ジエトキシマグネシウム、金属マグネシウム、ブチルマグネシウムクロライドである。
【0024】
特に、プロピレン系ブロック共重合体を製造する場合は、触媒粒径が大きいことが好ましく、マグネシウム化合物としては、触媒粒径を制御し易いジアルコキシマグネシウムを用いることが好ましい。ジアルコキシマグネシウムは、事前に製造されたものを用いるだけでなく、触媒製造工程の中で金属マグネシウムとハロゲンあるいはハロゲン含有金属化合物の存在下に、アルコールを反応させて得たものを用いることもできる。
更に、本発明において、成分(A1b)として好適なジアルコキシマグネシウムは、顆粒状又は粉末状であり、その形状は、不定形あるいは球状のものを使用し得る。例えば、球状のジアルコキシマグネシウムを使用した場合、より良好な粒子形状と狭い粒度分布を有する重合体粉末が得られ、重合操作時の生成重合体粉末の取扱い操作性が向上し、生成重合体粉末に含まれる微粉に起因する閉塞等の問題が解消される。
【0025】
上記の球状ジアルコキシマグネシウムは、必ずしも真球状である必要はなく、楕円形状あるいは馬鈴薯形状のものを用いることもできる。具体的にその粒子の形状は、長軸径(l)と短軸径(w)との比(l/w)が3以下であり、好ましくは1〜2であり、より好ましくは1〜1.5である。
また、上記ジアルコキシマグネシウムの平均粒径は、1〜200μmのものが使用し得る。好ましくは5〜150μmである。球状のジアルコキシマグネシウムの場合、その平均粒径は、1〜100μm、好ましくは5〜50μmであり、更に好ましくは10〜40μmである。また、その粒度については、微粉及び粗粉の少ない、粒度分布の狭いものを使用することが望ましい。具体的には、5μm以下の粒子が20%以下であり、好ましくは10%以下である。一方、100μm以上の粒子が10%以下であり、好ましくは5%以下である。更にその粒度分布をln(D90/D10)(ここで、D90は、積算粒度で90%における粒径、D10は、積算粒度で10%における粒径である。)で表すと、3以下であり、好ましくは2以下である。
上記の如き球状のジアルコキシマグネシウムの製造方法は、例えば、特開昭58−41832号公報、特開昭62−51633号公報、特開平3−74341号公報、特開平4−368391号公報、特開平8−73388号公報などに例示されている。
【0026】
(1−3)ハロゲン(A1c)
本発明に係る固体成分(A1)で用いるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、及びそれらの混合物を用いることができる。この中で塩素が特に好ましい。
ハロゲンは、上記のチタン化合物類及び/又はマグネシウム化合物から供給されるのが一般的であるが、その他の化合物より供給することもできる。代表的な例としては、四塩化ケイ素に代表されるハロゲン化ケイ素化合物類、1,2−ジクロロエタンやベンジルクロライドに代表されるハロゲン化有機化合物類、トリクロロボランに代表されるハロゲン化ボラン化合物類、五塩化リンに代表されるハロゲン化リン化合物類、六塩化タングステンに代表されるハロゲン化タングステン化合物類、五塩化モリブデンに代表されるハロゲン化モリブデン化合物類、などを挙げることができる。これらの化合物は、単独で用いるだけでなく、併用することも可能である。この中で、四塩化ケイ素が特に好ましい。
【0027】
(1−4)電子供与性化合物(A1d)
本発明で用いる固体成分(A1)には、任意成分として、電子供与性化合物(A1d)を含有していても良い。
電子供与性化合物の代表的な例としては、特開2004−124090号公報に開示されている化合物を挙げることができる。一般的には、有機酸及び無機酸並びにそれらの誘導体(エステル、酸無水物、酸ハライド、アミド)化合物類、エーテル化合物類、ケトン化合物類、アルデヒド化合物類、アルコール化合物類、アミン化合物類、などを用いることが望ましい。
【0028】
電子供与性化合物(A1d)として用いることのできる有機酸化合物としては、フタル酸に代表される芳香族多価カルボン酸化合物類、安息香酸に代表される芳香族カルボン酸化合物類、2−n−ブチル−マロン酸の様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸や2−n−ブチル−コハク酸の様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸に代表される脂肪族多価カルボン酸化合物類、プロピオン酸に代表される脂肪族カルボン酸化合物類、ベンゼンスルホン酸やメタンスルホン酸に代表される芳香族及び脂肪族のスルホン酸化合物類、などを例示することができる。
これらのカルボン酸化合物類及びスルホン酸化合物類は、芳香族・脂肪族に関わらず、マレイン酸の様に、分子中の任意の場所に任意の数だけ不飽和結合を有しても良い。
【0029】
電子供与性化合物(A1d)として用いることのできる有機酸の誘導体化合物としては、上記有機酸のエステル、酸無水物、酸ハライド、アミド、などを例示することができる。
エステルの構成要素であるアルコールとしては、脂肪族及び芳香族アルコールを用いることができる。これらのアルコールの中でも、エチル基、ブチル基、イソブチル基、ヘプチル基、オクチル基、ドデシル基、等の炭素数1〜20の脂肪族の遊離基からなるアルコールが好ましい。更に好ましくは炭素数2〜12の脂肪族の遊離基からなるアルコールが望ましい。また、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、等の脂環式の遊離基からなるアルコールを用いることもできる。
【0030】
酸ハライドの構成要素であるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、等を用いることができる。中でも、塩素が最も好ましい。多価有機酸のポリハライドの場合は、複数のハロゲンが同一であっても異なっていても良い。
また、アミドの構成要素であるアミンとしては、脂肪族及び芳香族アミンを用いることができる。これらのアミンの中でも、アンモニア、エチルアミンやジブチルアミンに代表される脂肪族アミン、アニリンやベンジルアミンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有するアミン、などを好ましい化合物として例示することができる。
【0031】
電子供与性化合物(A1d)として用いることのできる無機酸化合物としては、炭酸、リン酸、ケイ酸、硫酸、硝酸、などを例示することができる。
これらの無機酸の誘導体化合物としては、エステルを用いることが望ましい。テトラエトキシシラン(ケイ酸エチル)、テトラブトキシシラン(ケイ酸ブチル)、リン酸トリブチルなどを具体例として挙げることができる。
【0032】
電子供与性化合物(A1d)として用いることのできるエーテル化合物としては、ジブチルエーテルに代表される脂肪族エーテル化合物類、ジフェニルエーテルに代表される芳香族エーテル化合物類、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパンや2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパンの様な2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3−ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレン、に代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類などを例示することができる。
【0033】
電子供与性化合物(A1d)として用いることのできるケトン化合物としては、メチルエチルケトンに代表される脂肪族ケトン化合物類、アセトフェノンに代表される芳香族ケトン化合物類、2,2,4,6,6−ペンタメチル−3,5−ヘプタンジオンに代表される多価ケトン化合物類、などを例示することができる。
また、電子供与性化合物(A1d)として用いることのできるアルデヒド化合物としては、プロピオンアルデヒドに代表される脂肪族アルデヒド化合物類、ベンズアルデヒドに代表される芳香族アルデヒド化合物類、などを例示することができる。
さらに、電子供与性化合物(A1d)として用いることのできるアルコール化合物としては、ブタノールや2−エチルヘキサノールに代表される脂肪族アルコール化合物類、フェノール、クレゾールに代表されるフェノール誘導体化合物類、グリセリンや1,1’−ビ−2−ナフトールに代表される脂肪族若しくは芳香族の多価アルコール化合物類、などを例示することができる。
【0034】
また、電子供与性化合物(A1d)として用いることのできるアミン化合物としては、ジエチルアミンに代表される脂肪族アミン化合物類、2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジンに代表される窒素含有脂環式化合物類、アニリンに代表される芳香族アミン化合物類、ピリジンに代表される窒素原子含有芳香族化合物類、1,3−ビス(ジメチルアミノ)−2,2−ジメチルプロパンに代表される多価アミン化合物類、などを例示することができる。
【0035】
さらに、電子供与性化合物(A1d)として用いることのできる化合物として、上記の複数の官能基を同一分子内に含有する化合物を用いることもできる。その様な化合物の例として、酢酸−(2−エトキシエチル)や3−エトキシ−2−t−ブチルプロピオン酸エチルに代表されるアルコキシ基を分子内に有するエステル化合物類、2−ベンゾイル−安息香酸エチルに代表されるケトエステル化合物類、(1−t−ブチル−2−メトキシエチル)メチルケトンに代表されるケトエーテル化合物類、N,N−ジメチル−2,2−ジメチル−3−メトキシプロピルアミンに代表されるアミノエーテル化合物類、エポキシクロロプロパンに代表されるハロゲノエーテル化合物類などを挙げることができる。
【0036】
これらの電子供与性化合物(A1d)は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。これらの中で好ましいのは、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジヘプチルに代表されるフタル酸エステル化合物類、フタロイルジクロライドに代表されるフタル酸ハライド化合物類、2−n−ブチル−マロン酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基を有するマロン酸エステル化合物類、2−n−ブチル−コハク酸ジエチルの様な2位に一つ又は二つの置換基若しくは2位と3位にそれぞれ一つ以上の置換基を有するコハク酸エステル化合物類、2−イソプロピル−2−イソブチル−1,3−ジメトキシプロパンや2−イソプロピル−2−イソペンチル−1,3−ジメトキシプロパンの様な2位に一つ又は二つの置換基を有する1,3−ジメトキシプロパンに代表される脂肪族多価エーテル化合物類、9,9−ビス(メトキシメチル)フルオレンに代表される芳香族の遊離基を分子内に有する多価エーテル化合物類などである。
【0037】
(1−5)固体成分(A1)の調製
本発明における固体成分(A1)を構成する各成分の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものであり得るが、一般的には次の範囲が好ましい。
チタン化合物類の使用量は、使用するマグネシウム化合物類の使用量に対して、モル比(チタン化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.0001〜1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.01〜10の範囲内が望ましい。マグネシウム化合物類及びチタン化合物類以外に、ハロゲン源となる化合物を使用する場合は、その使用量は、マグネシウム化合物類及びチタン化合物類の各々がハロゲンを含むか含まないかに関わらず、使用するマグネシウム化合物類の使用量に対して、モル比(ハロゲン源となる化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.01〜1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1〜100の範囲内が望ましい。
固体成分(A1)を調製する際に、任意成分として用いる電子供与性化合物(A1d)を用いる場合の使用量は、使用するマグネシウム化合物の量に対して、モル比(電子供与性化合物のモル数/マグネシウム化合物のモル数)で、好ましくは0.001〜10の範囲内であり、特に好ましくは0.01〜5の範囲内が望ましい。
【0038】
本発明における固体成分(A1)は、上記各成分を接触して得られる。上記各成分の接触条件は、分子状酸素の不存在下で行うことが好ましく、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触温度は、−50〜200℃程度、好ましくは0〜150℃である。接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、並びに、不活性溶媒の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。
【0039】
また、固体成分(A1)の調製の際には、中間及び/又は最後に、不活性溶媒で洗浄を行っても良い。好ましい溶媒種としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物、トルエンなどの芳香族炭化水素化合物、及び、1,2−ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素化合物、などを例示することができる。
【0040】
なお、本発明における固体成分(A1)の調製方法としては、任意の方法を用いることができるが、具体的には、下記の(i)〜(vii)として説明する方法を例示することができる。ただし、本発明は、下記例示により何ら制限されるものではない。
【0041】
(i)共粉砕法
塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物をチタン化合物と共粉砕することにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する方法。必要に応じて、電子供与性化合物等の任意成分と同時に、又は、別工程で共粉砕しても良い。機械的粉砕方法としては、回転ボールミルや振動ミル等の任意の粉砕機を用いることができる。溶媒を用いない乾式粉砕法だけでなく、不活性溶媒共存下で共粉砕する湿式粉砕法を用いることもできる。
【0042】
(ii)加熱処理法
塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物とチタン化合物を不活性溶媒中で撹拌することにより接触処理を行い、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する方法。チタン化合物として四塩化チタンなどの液状の化合物を用いる場合は、不活性溶媒なしで接触処理することもできる。必要に応じて、電子供与性化合物やハロゲン化ケイ素化合物等の任意成分を同時に、又は、別工程で接触させても良い。接触温度に特に制限はないが、90℃〜130℃程度の比較的高い温度で接触処理する方が好ましい場合が多い。
【0043】
(iii)溶解析出法
溶解析出法は、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物を電子供与性化合物と接触させることにより溶解し、生じた溶解液と析出剤を接触させて析出反応を起こすことにより、粒子形成を行う方法である。
溶解に用いる電子供与性化合物の例としては、アルコール化合物類、エポキシ化合物類、リン酸エステル化合物類、アルコキシ基を有するケイ素化合物類、アルコキシ基を有するチタン化合物類、エーテル化合物類などを挙げることができる。また、析出剤の例としては、ハロゲン化チタン化合物類、ハロゲン化ケイ素化合物類、塩化水素、ハロゲン含有炭化水素化合物類、Si−H結合を有するシロキサン化合物類(ポリシロキサン化合物類を含む)、アルミニウム化合物類、などを例示することができる。
溶解液と析出剤の接触方法としては、溶解液に析出剤を添加しても良いし、析出剤に溶解液を添加しても良い。溶解、析出のどちらの工程でも、チタン化合物を用いない場合は、析出反応により形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。更に必要に応じて、こうして形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与性化合物と接触させても良い。この際、電子供与性化合物は溶解に用いるものとは異なっていても良いし、同じであっても良い。これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、溶解、析出、チタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。また、溶解、析出、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0044】
(iv)造粒法
造粒法は、溶解析出法と同様に、塩化マグネシウムに代表されるハロゲンを含有するマグネシウム化合物を電子供与性化合物と接触させることにより溶解し、生じた溶解液を主に物理的な手法により造粒する方法である。溶解に用いる電子供与性化合物の例は、溶解析出法の例に同じである。
造粒手法の例としては、高温の溶解液を低温の不活性溶媒中に滴下する方法、高温の気相部に向かって溶解液をノズルから噴き出して乾燥する方法、低温の気相部に向かって溶解液をノズルから噴き出して冷却する方法、などを挙げることができる。造粒により形成した粒子をチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。更に、必要に応じて、ハロゲン化ケイ素化合物類、電子供与性化合物、などの任意成分と接触させても良い。この際、電子供与性化合物は溶解に用いるものとは異なっていても良いし、同じであっても良い。これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、溶解やチタン化合物との接触の際に一緒に接触させることもできる。また、溶解、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0045】
(v)Mg化合物のハロゲン化法
Mg化合物のハロゲン化法は、ハロゲンを含有しないマグネシウム化合物に対して、ハロゲン化剤を接触させてハロゲン化する方法である。
ハロゲンを含有しないマグネシウム化合物の例としては、ジアルコキシマグネシウム化合物類、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、脂肪酸のマグネシウム塩、などを挙げることができる。ジアルコキシマグネシウム化合物類を用いる場合は、金属マグネシウムとアルコールとの反応により系中で調製したものを用いることもできる。この調製法を用いる場合は、出発原料であるハロゲンを含まないマグネシウム化合物の段階で造粒等により粒子形成を行うのが一般的である。
ハロゲン化剤の例としては、ハロゲン化チタン化合物類、ハロゲン化ケイ素化合物類、ハロゲン化リン化合物類、などを挙げることができる。ハロゲン化剤として、ハロゲン化チタン化合物類を用いない場合は、ハロゲン化により形成したハロゲン含有マグネシウム化合物を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。更に必要に応じて、こうして形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与性化合物と接触させても良い。これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、ハロゲンを含まないマグネシウム化合物のハロゲン化やチタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。また、ハロゲン化、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0046】
(vi)有機マグネシウム化合物からの析出法
ブチルマグネシウムクロライドに代表されるグリニャール試薬、ジアルキルマグネシウム化合物、などの有機マグネシウム化合物類の溶液に析出剤を接触させる方法である。
析出剤の例としては、チタン化合物類、ケイ素化合物類、塩化水素、などを挙げることができる。析出剤として、チタン化合物を用いない場合は、析出反応により形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。更に必要に応じて、こうして形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与性化合物と接触させても良い。これらの任意成分の接触順序については特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、析出やチタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。また、析出、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0047】
(vii)含浸法
有機マグネシウム化合物類の溶液、若しくは、マグネシウム化合物を電子供与性化合物で溶解した溶液を、無機化合物の担体、若しくは、有機化合物の担体に含浸させる方法である。
有機マグネシウム化合物類の例は、有機マグネシウム化合物からの析出法の例に同じである。マグネシウム化合物の溶解に用いるマグネシウム化合物は、ハロゲンを含んでいても含んでいなくても良く、電子供与性化合物の例は、溶解析出法の例に同じである。無機化合物の担体の例としては、シリカ、アルミナ、マグネシア、などを挙げることができる。有機化合物の担体の例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、などを挙げることができる。含浸処理後の担体粒子は、析出剤との化学反応や乾燥等の物理的処理によりマグネシウム化合物を析出させて固定化する。析出剤の例は、溶解析出法の例に同じである。析出剤としてチタン化合物を用いない場合は、こうして形成した粒子を更にチタン化合物と接触させることにより、マグネシウム化合物上にチタン化合物を担持する。更に必要に応じて、こうして形成した粒子をハロゲン化チタン化合物類やハロゲン化ケイ素化合物類などの任意成分と接触させても良く、電子供与性化合物と接触させても良い。これらの任意成分の接触順序については、特に制限はなく、独立工程として接触させても良いし、含浸、析出、乾燥、チタン化合物類との接触の際に一緒に接触させることもできる。また、含浸、析出、チタン化合物類との接触、任意成分との接触、のいずれの工程においても、不活性溶媒が存在しても良い。
【0048】
(viii)複合法
上記(i)〜(vii)に記載した方法を組み合わせて、用いることもできる。組み合わせの例としては、「塩化マグネシウムを電子供与性化合物と共粉砕した後にハロゲン化チタン化合物類と加熱処理する方法」、「塩化マグネシウム化合物を電子供与性化合物と共粉砕した後に別の電子供与性化合物を用いて溶解し、更に析出剤を用いて析出する方法」、「ジアルコキシマグネシウム化合物を電子供与性化合物により溶解し、ハロゲン化チタン化合物類と接触させることにより析出させると同時にマグネシウム化合物をハロゲン化する方法」、「ジアルコキシマグネシウム化合物に二酸化炭素を接触させることにより、炭酸エステルマグネシウム化合物類を生成すると同時に溶解し、形成した溶解液をシリカに含浸させ、その後塩化水素と接触させることによりマグネシウム化合物をハロゲン化すると同時に析出固定化し、更にハロゲン化チタン化合物類と接触させることによりチタン化合物を担持する方法」、などを挙げることができる。
【0049】
(2)アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)
本発明で用いられるアルケニル基を有するケイ素化合物(A2)としては、特開平2−34707号公報、特開2003−292522号公報、及び特開2006−169283号公報に開示された化合物などを用いることができる。
一般的には、下記一般式にて表される化合物を用いることが望ましい。
SiR4−n
(ここで、Rは、アルケニル基であり、Rは、水素、ハロゲン、アルキル基またはアルコキシ基であり、nは、1≦n≦4を示す。)
【0050】
式中、Rは、アルケニル基を表し、ビニル基、アリル基、3−ブテニル基が好ましく、ビニル基、アリル基が特に好ましい。nの値が2以上の場合、複数あるRは、同一であっても異なっても良い。
【0051】
また、式中、Rは、水素、ハロゲン、アルキル基またはアルコキシ基を表す。
として用いることのできるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。また、Rがアルキル基である場合は、一般に炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12のアルキル基である。Rとして用いることのできるアルキル基の具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いることが望ましい。
がアルコキシ基である場合は、一般に炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜12のアルコキシ基である。Rとして用いることのできるアルコキシ基の具体的な例としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、i−プロポキシ基、i−ブトキシ基、s−ブトキシ基、t−ブトキシ基などを用いることが望ましい。
nの値が2以下の場合、複数あるRは、同一であっても異なっても良い。
【0052】
具体的には、ビニルシラン、メチルビニルシラン、ジメチルビニルシラン、トリメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、ジクロロメチルビニルシラン、クロロジメチルビニルシラン、クロロメチルビニルシラン、トリエチルビニルシラン、クロロジエチルビニルシラン、ジクロロエチルビニルシラン、ジメチルエチルビニルシラン、ジエチルメチルビニルシラン、トリペンチルビニルシラン、トリフェニルビニルシラン、ジフェニルメチルビニルシラン、ジメチルフェニルビニルシラン、CH=CH−Si(CH(CCH)、(CH=CH)(CHSi−O−Si(CH(CH=CH)、ジビニルシラン、ジクロロジビニルシラン、ジメチルジビニルシラン、ジフェニルジビニルシラン、アリルトリメチルシラン、アリルトリエチルシラン、アリルトリビニルシラン、アリルメチルジビニルシラン、アリルジメチルビニルシラン、アリルメチルジクロロシラン、アリルトリクロロシラン、アリルトリブロモシラン、ジアリルジメチルシラン、ジアリルジエチルシラン、ジアリルジビニルシラン、ジアリルメチルビニルシラン、ジアリルメチルクロロシラン、ジアリルジクロロシラン、ジアリルジブロモシラン、トリアリルメチルシラン、トリアリルエチルシラン、トリアリルビニルシラン、トリアリルクロロシラン、トリアリルブロモシラン、テトラアリルシラン、ジ−3−ブテニルジメチルシラン、ジ−3−ブテニルシランジエチルシラン、ジ−3−ブテニルシランジビニルシラン、ジ−3−ブテニルシランメチルビニルシラン、ジ−3−ブテニルシランメチルクロロシラン、ジ−3−ブテニルシランジクロロシラン、トリ−3−ブテニルシランエチルシラン、トリ−3−ブテニルシランビニルシラン、トリ−3−ブテニルシランクロロシラン、トリ−3−ブテニルシランブロモシラン、テトラ−3−ブテニルシランなどを例示することができる。
これらの中でも、ビニルシラン化合物類が好ましく、とりわけトリメチルビニルシラン、トリクロロビニルシラン、ジメチルジビニルシランが好ましい。
【0053】
アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)の使用量の量比は、本発明の作用と効果を損なわない範囲で任意のものであり得るが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)の使用量は、固体成分(A1)を構成するチタン成分(A1a)に対するモル比(アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.001〜1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.01〜100の範囲内である。
【0054】
本発明で用いられるアルケニル基を有するケイ素化合物(A2)は、活性点となり得るチタン原子にアルケニル基で配位しており、有機アルミ化合物によるチタン原子の過還元や不純物などによる活性点の失活を防ぐ目的で用いられる。
【0055】
(3)有機ケイ素化合物(A3)
本発明で用いられる有機ケイ素化合物(A3)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。
一般的には、下記一般式にて表される化合物を用いることが望ましい。
Si(OR3−m
(式中、Rは、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基であり、Rは、水素、ハロゲン、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表し、Rは、炭化水素基であり、mは、1≦m≦3を示す。)
【0056】
式中、Rは、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。
が炭化水素基である場合、アルケニル基を除く炭化水素基である。Rとして用いることのできる炭化水素基は、一般に炭素数1〜20、好ましくは炭素数3〜10のものである。Rとして用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、n−プロピル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。より好ましくは、Rとして分岐状脂肪族炭化水素基または脂環式炭化水素基を用いることが望ましく、とりわけ、i−プロピル基、i−ブチル基、t−ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いることが望ましい。
また、Rがヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、ヘテロ原子が、窒素、酸素、硫黄、リンまたはケイ素から選ばれることが望ましく、とりわけ、窒素または酸素であることが望ましい。Rのヘテロ原子含有炭化水素基の骨格構造としては、Rが炭化水素基である場合の例示から選ぶことが望ましい。とりわけ、N,N−ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
【0057】
また、式中、Rは、水素、ハロゲン、炭化水素基またはヘテロ原子含有炭化水素基を表す。
として用いることのできるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。また、Rが炭化水素基である場合、アルケニル基を除く炭化水素基である。Rとして用いることのできる炭化水素基は、一般に炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10のものである。Rとして用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、シクロペンチル基やシクロヘキシル基に代表される脂環式炭化水素基、フェニル基に代表される芳香族炭化水素基、などを挙げることができる。中でも、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、テキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、などを用いることが望ましい。
また、Rがヘテロ原子含有炭化水素基である場合は、Rがヘテロ原子含有炭化水素基である場合の例示から選ぶことが望ましい。とりわけ、N,N−ジエチルアミノ基、キノリノ基、イソキノリノ基、などが好ましい。
mの値が2の場合、二つあるRは、同一であっても異なっても良い。また、mの値に関わらず、Rは、Rと同一であっても異なっても良い。
【0058】
また、式中、Rは、炭化水素基を表す。Rとして用いることのできる炭化水素基は、一般に炭素数1〜20、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜5のものである。
として用いることのできる炭化水素基の具体的な例としては、メチル基やエチル基に代表される直鎖状脂肪族炭化水素基、i−プロピル基やt−ブチル基に代表される分岐状脂肪族炭化水素基、などを挙げることができる。中でも、メチル基とエチル基が最も好ましい。mの値が2以上である場合、複数存在するRは、同一であっても異なっても良い。
【0059】
本発明で用いることのできる有機ケイ素化合物(A3)の好ましい例としては、t−Bu(Me)Si(OMe)、t−Bu(Me)Si(OEt)、t−Bu(Et)Si(OMe)、t−Bu(n−Pr)Si(OMe)、c−Hex(Me)Si(OMe)、c−Hex(Et)Si(OMe)、c−PenSi(OMe)、i−PrSi(OMe)、i−BuSi(OMe)、i−Pr(i−Bu)Si(OMe)、n−Pr(Me)Si(OMe)、t−BuSi(OEt)、(EtN)Si(OMe)、EtN−Si(OEt)
【0060】
【化1】

【0061】
などを挙げることができる。
これらの有機ケイ素化合物類は、単独で用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0062】
有機ケイ素化合物(A3)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものであり得るが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
有機ケイ素化合物(A3)の使用量は、固体成分(A1)を構成するチタン成分(A1a)に対するモル比で(有機ケイ素化合物(A3)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01〜1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.1〜100の範囲内が望ましい。
【0063】
本発明で用いられる有機ケイ素化合物(A3)は、活性点となり得るチタン原子の近傍に配位し、活性点の触媒活性やポリマーの規則性といった触媒性能を制御していると、考えられている。
【0064】
(4)有機アルミニウム化合物(A4)
本発明において、用いられる有機アルミニウム化合物(A4)としては、下記一般式で示された化合物等を用いることができる。
AlX(OR
(式中、Rは、炭化水素基を表す。Xは、ハロゲンまたは水素を表す。Rは、炭化水素基またはAlによる架橋基を表す。a≧1、0≦b≦2、0≦c≦2、a+b+c=3である。)
【0065】
式中、Rは、炭化水素基であり、好ましくは炭素数1〜10、更に好ましくは炭素数1〜8、特に好ましくは炭素数1〜6、のものを用いることが望ましい。Rの具体的な例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、ヘキシル基、オクチル基、などを挙げることができる。この中で、メチル基、エチル基、イソブチル基が最も好ましい。
また、式中、Xは、ハロゲンまたは水素である。Xとして用いることのできるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素などを例示することができる。この中で、塩素が特に好ましい。
さらに、式中、Rは、炭化水素基またはAlによる架橋基である。Rが炭化水素基である場合には、Rの炭化水素基の例示と同じ群からRを選択することができる。また、有機アルミニウム化合物(A4)として、メチルアルモキサンに代表されるアルモキサン化合物類を用いることも可能であり、その場合Rは、Alによる架橋基を表す。
【0066】
有機アルミニウム化合物(A4)として用いることのできる化合物の例としては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリオクチルアルミニウム、ジエチルアルミニウムクロライド、エチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムエトキサイド、メチルアルモキサン、などを挙げることができる。中でも、トリエチルアルミニウムとトリイソブチルアルミニウムが好ましい。
有機アルミニウム化合物(A4)は、単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0067】
有機アルミニウム化合物(A4)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものでありうるが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
有機アルミニウム化合物(A4)の使用量は、固体成分(A1)を構成するチタン成分(A1a)に対するアルミニウムの原子比(アルミニウム原子のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.1〜100の範囲内であり、特に好ましくは1〜50の範囲内が望ましい。
【0068】
本発明で用いられる有機アルミニウム化合物(A4)は、固体触媒成分(A)中に有機ケイ素化合物(A3)を効率よく担持させることを目的として用いられる。従って、本重合時に、助触媒として用いられる有機アルミニウム化合物(B)とは、使用目的が異なり、区別される。
【0069】
(5)ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)
本発明で用いられるハロゲン化アルミニウム化合物(A5)としては、下記一般式にて表される化合物を用いることが望ましい。
【0070】
AlX
(式中、Xは、ハロゲンを表す。)
【0071】
式中、Xはハロゲンである。Xとして用いることのできるハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、沃素、などを例示することができる。
ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)として用いることのできる化合物の例としては、フッ化アルミニウム、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、沃化アルミニウム、などを挙げることができる。中でも、塩化アルミニウムが好ましい。
また、ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)は、単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
【0072】
本発明において、ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものであり得るが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
すなわち、ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)の使用量は、固体触媒成分(A1)を構成するチタン成分(A1a)に対するアルミニウムの原子比(アルミニウム原子のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.001〜100の範囲内であり、特に好ましくは0.1〜2.5の範囲内が望ましい。
【0073】
また、ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)の使用量は、有機アルミニウム化合物(A4)に対するモル比(A5/A4)で、0.01〜1.0の範囲が好ましく、特に好ましくは0.1〜0.5の範囲内が望ましい。
ここで、ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)の使用量が有機アルミニウム化合物(A4)に対するモル比で1.0を超えた場合は、ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)からの電子供与性が強すぎることにより、活性が著しく低下してしまう。また一方、使用量(モル比)が0.01未満では、活性点となるチタンの電子状態を規制することができず、立体規則性やコモノマーの共重合性といった触媒性能について、充分な向上が認められず、本発明の効果が発現しない。
【0074】
(6)少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)
本発明における固体触媒成分(A)は、固体成分(A1)、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)およびハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を接触させてなるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、他の任意成分を、任意の方法で接触させても良い。
この様な任意成分の例として、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)を挙げることができる。
本発明で用いてもよい少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)としては、特開平3−294302号公報および特開平8−333413号公報に開示された化合物等を用いることができる。
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)は、単独の化合を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)の使用量の量比は、本発明の効果を損なわない範囲で任意のものであり得るが、一般的には、次に示す範囲内が好ましい。
すなわち、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分(A1a)に対するモル比(少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01〜10,000の範囲内であり、特に好ましくは0.5〜500の範囲内が望ましい。
【0075】
(7)固体触媒成分(A)の調製方法
本発明における固体触媒成分(A)は、固体成分(A1)、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)およびハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を接触させてなるものである。この際、本発明の効果を損なわない範囲で、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)等の他の任意成分を任意の方法で接触させても良い。
【0076】
固体触媒成分(A)の各構成成分の接触条件は、分子状酸素の不存在下で行うことが必要であるものの、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の条件を用いることができる。一般的には、次の条件が好ましい。
接触温度は、−50〜200℃程度、好ましくは−10〜100℃、更に好ましくは0〜70℃、とりわけ好ましくは10〜60℃である。接触方法としては、回転ボールミルや振動ミルなどによる機械的な方法、並びに、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法、などを例示することができる。好ましくは、不活性希釈剤の存在下に撹拌により接触させる方法を用いることが望ましい。
固体成分(A1)、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)およびハロゲン化アルミニウム化合物(A5)の接触手順に関しては、任意の手順を用いることができる。
具体的な例としては、下記の手順(i)〜手順(iv)などが挙げられる。
【0077】
手順(i):固体成分(A1)にアルケニル基を有するケイ素化合物(A2)を接触させ、次いで有機ケイ素化合物(A3)を接触させた後、有機アルミニウム化合物(A4)を接触させ、更にハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を接触させる方法
手順(ii):固体成分(A1)にアルケニル基を有するケイ素化合物(A2)を接触させ、次いで有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)およびハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を接触させる方法
手順(iii):固体成分(A1)にアルケニル基を有するケイ素化合物(A2)及び有機ケイ素化合物(A3)を接触させ、有機アルミニウム化合物(A4)その後にハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を接触させる方法
手順(iv):全ての化合物を同時に接触させる方法
【0078】
この中でも、手順(ii)及び手順(iv)が好ましい。
任意成分として、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)を用いる場合も、上記と同様に、任意の順序で接触させることができる。
また、固体成分(A1)に対して、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)並びに、ハロゲン化アルミニウム化合物(A5)のいずれも、任意の回数を接触させることもできる。この際、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)並びにハロゲン化アルミニウム化合物(A5)のいずれも、複数回の接触で用いる化合物が互いに同一であっても異なっても良い。
また、先に各成分の使用量の範囲を示したが、これは1回当たりに接触させる使用量であり、複数回使用するときは、1回の使用量が前述した使用量の範囲内であれば、何回接触させても良い。
固体触媒成分(A)の調製の際には、中間及び/又は最後に、不活性溶媒で洗浄を行っても良い。好ましい溶媒種としては、ヘプタンなどの脂肪族炭化水素化合物、トルエンなどの芳香族炭化水素化合物、及び、1,2−ジクロロエチレンやクロロベンゼンなどのハロゲン含有炭化水素化合物、などを例示することができる。
【0079】
本発明における固体触媒成分(A)は、本重合で使用する前に、予備重合されていても良い。重合プロセスに先立って、予め少量のポリマーを触媒周囲に生成させることによって、触媒がより均一となり、微粉の発生量を抑えることができる。
予備重合におけるモノマーとしては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。
具体的な化合物の例としては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、などに代表されるオレフィン類、スチレン、α−メチルスチレン、アリルベンゼン、クロロスチレン、などに代表されるスチレン類似化合物、及び、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,5−ヘキサジエン、2,6−オクタジエン、ジシクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエン、1,9−デカジエン、ジビニルベンゼン類、などに代表されるジエン化合物類、などを挙げることができる。
中でも、エチレン、プロピレン、3−メチルブテン−1、4−メチルペンテン−1、スチレン、ジビニルベンゼン類、などが特に好ましい。
【0080】
固体触媒成分(A)として予備重合されたものを用いる場合には、固体触媒成分(A)の調製手順において、任意の手順で予備重合を行うことができる。例えば、固体成分(A1)を予備重合した後に、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)並びにハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を接触させることができる。また、固体成分(A1)、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)並びにハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を接触させた後に、予備重合を行うこともできる。更に、固体成分(A1)、アルケニル基を有するケイ素化合物(A2)、有機ケイ素化合物(A3)、有機アルミニウム化合物(A4)並びにハロゲン化アルミニウム化合物(A5)を接触させる際に、同時に予備重合を行っても良い。
【0081】
固体触媒成分(A)または固体成分(A1)と上記のモノマーとの反応条件は、本発明の効果を損なわない範囲で任意の条件を用いることができる。一般的には、以下の範囲内が好ましい。
固体触媒成分(A)または固体成分(A1)1グラムあたりの基準で、上記モノマーの予備重合量は、0.001〜100gの範囲内であり、好ましくは0.1〜50g、更に好ましくは0.5〜10gの範囲内が望ましい。予備重合時の反応温度は、−150〜150℃、好ましくは0〜100℃である。そして、予備重合時の反応温度は、本重合のときの重合温度よりも低くすることが望ましい。反応は、一般的に撹拌下に行うことが好ましく、そのときヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒を存在させることもできる。
予備重合は、複数回行っても良く、この際用いるモノマーは、同一であっても異なっても良い。また、予備重合後にヘキサン、ヘプタン等の不活性溶媒で洗浄を行うこともできる。
【0082】
2.有機アルミニウム化合物(B)
本発明においては、触媒として、上記の固体触媒成分(A)及び有機アルミニウム化合物(B)を用いることが必須要件である。
本発明において、有機アルミニウム化合物(B)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。好ましくは、固体触媒成分(A)を調製する際の成分である有機アルミニウム化合物(A4)における例示と同じ群から選択することができる。
固体触媒成分(A)を調製する際に、必須成分として用いる有機アルミニウム化合物(A4)と、触媒の必須成分として用いる有機アルミニウム化合物(B)とが同一であっても異なっても良い。
有機アルミニウム化合物(B)は、単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
有機アルミニウム化合物(B)の使用量は、固体触媒成分(A)のチタン成分(A1a)に対するモル比(有機アルミニウム化合物(B)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは1〜5,000の範囲内であり、特に好ましくは10〜500の範囲内が望ましい。
【0083】
3.触媒における任意成分(C)
本発明においては、触媒として、固体触媒成分(A)及び有機アルミニウム化合物(B)を用いることが必須要件であるが、本発明の効果を損なわない範囲で、下記に説明する有機ケイ素化合物(C1)、及び少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)、などの任意成分を用いることができる。
【0084】
(1)有機ケイ素化合物(C1)
本発明においては、プロピレン重合用触媒として、固体触媒成分(A)及び有機アルミニウム化合物(B)を用いる。この際、本発明の効果を損なわない範囲で、有機ケイ素化合物(C1)を用いることができる。
【0085】
本発明の触媒において、任意成分として用いられる有機ケイ素化合物(C1)としては、特開2004−124090号公報に開示された化合物等を用いることができる。
好ましくは、固体触媒成分(A)を調製する際の成分である有機ケイ素化合物(A3)における例示と同じ群から選択することができる。
また、ここで使用される有機ケイ素化合物(C1)は、固体触媒成分(A)に含まれる有機ケイ素化合物(A3)と同一であっても異なってもよい。
【0086】
有機ケイ素化合物(C1)を用いる場合の使用量は、プロピレン重合用固体触媒成分(A)を構成するチタン成分(A1a)に対するモル比(有機ケイ素化合物(C1)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01〜10,000の範囲内であり、特に好ましくは0.5〜500の範囲内が望ましい。
立体規則性やコモノマーの共重合性といった触媒性能は、固体触媒成分(A)に含まれる有機ケイ素化合物(A4)により、大きく支配され、ここで用いられる有機ケイ素化合物(C1)は、その性能を僅かに高める程度の効果がある。
有機ケイ素化合物(C1)を用いる場合の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分(A1a)に対するモル比(有機ケイ素化合物(C1)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01〜10,000の範囲内であり、特に好ましくは0.5〜500の範囲内が望ましい。
【0087】
(2)少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)
本発明に係る触媒において、任意成分として用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)としては、特開平3−294302号公報および特開平8−333413号公報に開示された化合物等を用いることができる。好ましくは、固体触媒成分(A)において用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)における例示と同じ群から選択することができる。この際、固体触媒成分(A)を調製する際に任意成分として用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(A6)と、触媒の任意成分として用いられる少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)とが、同一であっても異なっても良い。
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)は、単独の化合物を用いるだけでなく、複数の化合物を併用することもできる。
少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)を用いる場合の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分(A1a)に対するモル比(少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.01〜10,000の範囲内であり、特に好ましくは0.5〜500の範囲内が望ましい。
【0088】
(3)その他の化合物(C3)
本発明に係る触媒において、本発明の効果を損なわない限り、上記の有機ケイ素化合物(C1)、及び、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)以外の成分を、触媒の任意成分として用いることができる。例えば、特開2004−124090号公報に開示された様に、分子内にC(=O)N結合を有する化合物(C3)を用いることにより、冷キシレンに溶解する成分(CXS)の様な非晶性成分の生成を抑制することができる。この場合、テトラメチルウレア、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、1−エチル−2−ピロリジノン、などを好まし例として挙げることができる。また、特開平8−66710号公報に開示された様に、ジエチル亜鉛の様なAl以外の金属原子を持つ有機金属化合物を用いることもできる。
分子内にC(=O)N結合を有する化合物(C3)を用いる場合の使用量は、固体触媒成分(A)を構成するチタン成分(A1a)に対するモル比(分子内にC(=O)N結合を有する化合物(C3)のモル数/チタン原子のモル数)で、好ましくは0.001〜1,000の範囲内であり、特に好ましくは0.05〜500の範囲内が望ましい。
【0089】
II.ポリプロピレンの製造
1.ポリプロピレンの製造方法
本発明に係るポリプロピレンの製造方法は、上記のプロピレン重合用触媒を用いてプロピレンの重合を行う方法である。プロピレンを単独重合してプロピレン単独重合体を製造すること、プロピレンとエチレン及び/又はα−オレフィンとを共重合してプロピレン系ランダム共重合体又はプロピレン系ブロック共重合体を製造することができる。
本発明に係るプロピレン重合用触媒は、水素応答性及びコモノマーの共重合性が良好なので、プロピレンブロック共重合体の製造に適していると考えられる。
【0090】
2.製造プロセス及び重合条件
本発明に係るポリプロピレンの製造プロセスとしては、炭化水素溶媒を用いるスラリー法プロセス、実質的に溶媒を用いない液相無溶媒法プロセス又は気相法プロセスをあげることができる。スラリー法プロセスの場合の重合溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサン等の炭化水素溶媒が用いられる。採用される重合方法は、連続式重合、回分式重合又は多段式重合等いかなる方法でもよい。
【0091】
この中でも、本発明に用いられるポリプロピレンの製造プロセスとしては、主に液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行う気相法プロセスであることが特に好ましい。
ここで、気相法とは、液が全く存在しないことを意味しない。重合を行う相が実質的に気相であれば良く、本発明の効果を阻害しない範囲で、液が存在しても良い。この液としては、除熱のための液化プロピレンだけでなく、ヘキサンなどの不活性炭化水素成分を例示することができる。
【0092】
反応器内の混合様式としては、流動床を用いる方法、攪拌機を用いる方法、のどちらを用いても良い。攪拌機を用いる場合には、攪拌機を備えた流動床を用いることもできる。
攪拌機は、攪拌軸が鉛直方向を向いていても、水平方向を向いていても良い。攪拌翼の形状としては、パドル、ヘリカル、ゲート、など任意のものを用いることができる。このうち、攪拌軸を水平方向に向けて、パドル翼若しくはゲート翼を用いる方法が最も好ましい。
【0093】
攪拌軸を水平方向に有する反応器としては、横型反応器があげることができる。横型反応器は、水平方向に細長く、上流端と下流端を持つ。反応器の上流から触媒を導入し、下流に向かって重合していくことにより、触媒粒子は、ポリマー粒子へと徐々に成長していく。そのため、横型反応器では、フローパターンがピストンフロー型となり、完全混合槽を数台直列に並べた場合と同程度に滞留時間分布を狭くすることができる。
【0094】
重合反応器の並び方については、本発明の効果を阻害しない限り任意の方法を用いることができる。反応器の数に関しては、特に制限がないが、プロピレン系ブロック共重合体の製造のためには、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)を製造する第一重合工程を行う反応器と、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)を製造する第二重合工程を行う反応器と、各々1個以上の反応器が必要である。
第一重合工程及び/又は第二重合工程において、複数の反応器を用いる場合には、それぞれ直列に繋いでも良いし、並列に繋いでも良い。この際、第一重合工程を行う少なくとも1個の反応器と、第二重合工程を行う少なくとも1個の反応器が、直列に繋がった並び方にすることが望ましい。
また、第一重合工程及び/又は第二重合工程において、反応器の数を増やすことなく滞留時間分布を更に狭くする方法として、反応器の中にパウダーの移動を制限する堰を設けることもできる。堰の形態としては、反応器に固定された固定堰を用いても良いし、回転軸に固定された回転堰を用いても良い。
重合方法としては、バッチ法と連続法のどちらを用いても良いが、生産性の観点から連続法を用いることが望ましい。特に好まし例としては、2〜4個の反応器を直列に繋いで連続法で重合する方法を例示することができる。
【0095】
液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行う方法としては、任意の方法を用いることができる。液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行うためには、実質的に液の状態にあるプロピレンを反応器に供給すればよい。フレッシュな液化プロピレンを反応器に供給することもできるが、一般的には、リサイクルプロピレンを用いることが望ましい。リサイクルプロピレンを用いる一般的な手順は、以下に例示される。
反応器からプロピレンを含むガスを抜き出し、そのガスを冷却して少なくとも一部を液化させ、液化した成分の少なくとも一部を反応器に供給する。この際、液化する成分は、プロピレンを含む必要があるが、ブテンに代表されるコモノマー成分やイソブタンに代表される不活性炭化水素成分を含んでいても良い。
【0096】
液化プロピレンの供給方法は、実質的に液の状態にあるプロピレンを反応器に供給するものである限り、任意の方法を用いることができる。ポリプロピレン粒子のベッドに供給しても良いし、気相部に供給しても良い。気相部に供給する場合は、反応器内部の気相部に供給しても良いし、リサイクルガスラインに供給しても良い。特に、攪拌軸を水平方向に向ける攪拌混合槽の場合には、反応器内部の気相部に供給することが望ましい。
【0097】
本発明において、主に液化プロピレンの潜熱を用いて除熱を行うということは、液化プロピレンの潜熱だけを用いて除熱を行うことを意味しない。本発明の効果を阻害しない限り、他の除熱方法を併用することができる。具体的には、反応器に備え付けたジャケットを用いて除熱する方法、反応器からガスの一部を抜き出して熱交換器により冷却し再びガスを反応器に戻す方法、などを例示することができる。ただし、本発明においては、液化プロピレンの潜熱を用いた除熱が主体である必要がある。具体的には、少なくとも一つの反応器において、除熱量の少なくとも半分を、液化プロピレンの潜熱を用いて除熱する必要がある。
【0098】
温度や圧力の様な重合条件は、本発明の効果を阻害しない限り、任意に設定することができる。具体的には、重合温度は、好ましくは0℃以上、更に好ましくは30℃以上、特に好ましくは40℃以上であり、好ましくは100℃以下、更に好ましくは90℃以下、特に好ましくは80℃以下である。重合圧力は、好ましくは1200kPa以上、更に好ましくは1400kPa以上、特に好ましくは1600kPa以上であり、好ましくは4200kPa以下、更に好ましくは3500kPa以下、特に好ましくは3000kPa以下である。ただし、重合圧力は、重合温度におけるプロピレンの蒸圧力より低く設定するべきではない。
滞留時間は、反応器の構成や製品インデックスに合わせて任意に調整することができる。一般的には、30分〜5時間の範囲内で設定される。
【0099】
本発明に係る重合触媒やその他の任意成分は、公知の方法を用いて反応器に供給することができる。重合触媒については、そのまま粉末状で反応器に供給してもよいが、ヘキサンやミネラルオイル等の不活性溶媒を用いて希釈した上で供給しても良い。
本発明に係る重合触媒は、非常に活性が高いので、希釈した上で反応器へ供給する方が好ましい。特に、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)として、エチレンプロピレンランダム共重合体等を製造する際には、極めて活性が高くなり、希釈が不充分だとファウリング等のトラブルを起こす可能性がある。
この様な場合には、任意成分(C)である有機ケイ素化合物(C1)、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)、及び、分子内にC(=O)N結合を有する化合物(C3)から選ばれる化合物、からなる群の少なくとも一つを用いることが有効である。
固体触媒成分(A)を反応器に供給する前に、これらの任意成分(C)を接触させると、ファウリング防止効果が更に高くなり、好ましい。この際、両成分の接触方法は、任意であるが、固体触媒成分(A)を反応器へ供給するラインへ任意成分(C)を供給するか、若しくは、固体触媒成分を不活性溶媒により希釈した所へ任意成分(C)を添加することが好ましい。
【0100】
プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)を製造する第二重合工程では、任意成分として、活性抑制剤を用いることができる。
活性抑制剤を添加すると、反応器のファウリングを低減することができる。また、面耐衝撃強度などの品質を向上させる効果も期待できる。反応器に添加することにより、第二重合工程における活性を添加しない場合の活性より低くすることができる限り、活性抑制剤としては、任意の化合物を用いることができる。
この様な活性抑制剤の例として、アルコールやアミンなどの活性水素基を有する化合物、酸素、エーテル、ケトンなどの酸素原子を含む化合物、等を例示することができる。いずれの場合も、官能基は1つ以上であっても良い(ポリアルコール、ポリエーテル、ポリケトン、アルコキシ基を有するアルコール、などでも良い)。好ましくは、アルコール、酸素、ケトン、エーテルである。
この中で最も好ましいのは、酸素である。酸素を用いる場合、窒素やプロピレン等のその他のガスと混合して希釈して用いても良い。酸素の添加量は、本発明の効果を阻害しない限り任意であるが、固体触媒成分(A)に含まれるTi原子に対する酸素のモル比(酸素/Ti)の値として、1〜1000であることが好ましい。更に好ましくは5〜500、最も好ましくは10〜100である。酸素の添加量がこの範囲より少ないと、ファウリング抑制効果が低下して好ましくない。一方、酸素の添加量がこの範囲より多いと、活性が低くなりすぎて、成分(b)を必要なだけ重合することができなくなり、好ましくない。
【0101】
同一インデックスのプロピレン系ブロック共重合体を製造する場合、活性抑制剤をより多く添加する方がファウリング防止や製品品質の観点で望ましい。
プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分を製造する第二重合工程における活性が高い程、より多くの活性抑制剤を添加することができるので好ましい。本発明の製造方法によって得た触媒系を用いることにより、第一重合工程と第二重合工程を合わせた全体の活性だけでなく、第二重合工程における活性も、一層高めることができるため、活性抑制剤をより多く添加することができる。また、ファウリングを防止するために、最低限必要な量の活性抑制剤を添加した場合で比較すると、従来の触媒よりも、第二重合工程の活性が高くなり、故に、より多い量のプロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)を製造することができる。
すなわち、従来の触媒系と比較して、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分の含量が高いプロピレン系ブロック共重合体を、安定に製造することが可能になる。
活性抑制剤の添加方法としては、本発明の効果を阻害しない限り、任意の方法を用いることができる。酸素を用いる場合は、リサイクルガスラインに添加することが望ましい。
【0102】
III.プロピレン系ブロック共重合体
本発明を用いることにより得られるプロピレン系ブロック共重合体は、製造コストが低く、成形性と品質に優れたものである。特に、MFRが高く、ランダム共重合体中のコモノマー含量の高いプロピレン系ブロック共重合体に関して、高品質で安価に製造する方法が、本発明中に開示されている。
また、本発明を用いることにより得られるプロピレン系ブロック共重合体は、第一重合工程で製造される主としてプロピレンからなる重合体成分(a)中の冷キシレン可溶分(CXS)等の指標により表される非晶性成分が少ないため、発煙、目やに、型汚れ、樹脂焼けなどの成形トラブルを起こしにくい特徴がある。
非晶性成分が少ないことにより、成形品の結晶性も高く、剛性に優れている。更に、高い融点も示し、耐熱性にも優れている。また、第二重合工程で製造されるランダム共重合体中のコモノマー含量を高くすることができるため、ランダム共重合体の脆化温度が低くすることができ耐衝撃強度、とりわけ低温耐衝撃強度を高めることができる。また、ランダム共重合体中のコモノマー含量、特にエチレン含量が低いと、光沢が高くなる傾向にあるが、必ずしも全ての用途において、高光沢が望まれている訳ではない。本発明を用いることにより、ランダム共重合体中のエチレン含量を高くすることができ、結果として、光沢を低く制御することが可能となる。
【0103】
以下、各重合体成分について詳細に説明する。
(i)主としてプロピレンからなる重合体成分(a)
本発明における主としてプロピレンからなる重合体成分(a)は、MFR(試験条件:230℃、2.16kg荷重)が50g/10分以上であることが好ましく、より好ましくはMFRが50〜1,000g/10分、更に好ましくは60〜800g/10分、最も好ましくは100〜500g/10分である。CXSは、3重量%以下が好ましく、より好ましくは0.1〜2.5重量%であり、更に好ましくは0.2〜2.0重量%、最も好ましくは0.3〜1.8重量%である。
ここでCXSは、以下の手法で測定された値として定義される。
試料(約5g)を140℃のp−キシレン(300ml)中に一度完全に溶解させる。
その後23℃まで冷却し、23℃で12時間ポリマーを析出させる。析出したポリマーを濾別した後、濾液からp−キシレンを蒸発させる。p−キシレンを蒸発させた後に残ったポリマーを100℃で2時間減圧乾燥する。乾燥後のポリマーを秤量し、試料に対する重量%としてCXSの値を得る。
【0104】
MFRを調整するためには、連鎖移動剤である水素の反応器における濃度を調整すれば良い。水素濃度を高くすれば、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)のMFRが高くなり、逆も又同様である。本発明に係る触媒を用いると、比較的水素濃度の低い条件で、MFRを高くすることができるだけでなく、高MFRでも立体規則性が高く、CXSの低いポリプロピレンを製造することができる特徴がある。
本発明で規定した範囲内で、更に、CXSを下げるためには、任意成分である有機ケイ素化合物(C1)、少なくとも二つのエーテル結合を有する化合物(C2)、及び、分子内にC(=O)N結合を有する化合物(C3)から選ばれる化合物、からなる群の少なくとも一つを用いることが有効である。これらの任意成分の使用量が多いほど、CXSの低い、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)を得ることができる。
【0105】
プロピレン系ブロック共重合体の剛性を高めるためには、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)は、プロピレン単独重合体であることが望ましい。ただし、ヒンジ特性や成形性等を改良する目的で、少量のコモノマーとの共重合体とすることができる。具体的には、成分(a)は、エチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のモノマーを5重量%以下の含量で含むことができる。好ましくは、プロピレン以外のモノマーは、エチレン及び/又は1−ブテンであることが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。炭素数9以上のα−オレフィンでは、触媒活性が著しく低下して好ましくない。また、成分(a)中のプロピレン以外のモノマーの含量が5重量%を超えると、剛性が著しく低下して好ましくない。
ここで、その他のモノマーの含量は、任意の分析手法により求めることができる。具体的な例としては、赤外分光分析法(IR)、核磁気共鳴分析法(NMR)、などを挙げることができる。
【0106】
(ii)プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)
本発明におけるプロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)は、エチレン及び炭素数4〜8のα−オレフィンからなる群から選ばれる1以上のモノマーとプロピレンとのランダム共重合体である。好ましくは、プロピレン以外のモノマーは、エチレン及び/又は1−ブテンであることが望ましく、最も望ましいのはエチレンである。
炭素数9以上のα−オレフィンでは、触媒活性が著しく低下して、好ましくない。成分(b)中のプロピレンの含量は、20〜65重量%である。プロピレンの含量がこの範囲より低く外れると、ランダム共重合体成分(b)が硬くなりすぎてしまうために、耐衝撃強度が著しく低下してしまい、一方、プロピレンの含量が高く外れてしまうと、ランダム共重合体成分(b)のガラス転移温度が高くなり、低温における耐衝撃強度が低下してしまう。プロピレンの含量は、より好ましくは30〜60重量%であり、特に好ましくは35〜55重量%である。
【0107】
成分(b)中のプロピレンの含量を調節するためには、成分(b)の重合を行う反応器における各モノマーの濃度を変えればよい。成分(b)中のプロピレンの含量は、成分(a)中のその他のモノマー成分と同様の手法により、分析することができる。
成分(b)のMFR(試験条件:230℃、2.16kg荷重)は、任意の値とすることができるが、好ましくは0.001〜100g/10分、より好ましくは0.01〜50g/10分、更に好ましくは0.1〜10g/10分、最も好ましくは0.5〜5g/10分である。成分(b)のMFRが上記の範囲より高すぎると、ブロック共重合体がべたつく様になり好ましくない。一方、成分(b)のMFRが上記の範囲より低すぎると、分散が悪くなるためにゲルが増加し、ブロック共重合体を成形した際の外観が著しく悪化して好ましくない。
成分(b)のMFRは、成分(a)のMFRと同様の手法により、調整することができる。
【0108】
本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体は、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)とプロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)を10:90〜90:10の重量比で含む。成分(b)の含量が10重量%より少ないと、耐衝撃強度が低くなって好ましくない。一方、成分(b)の含量が90重量%より多いと、剛性が低くなって好ましくない。好ましくは、成分(a)と成分(b)の重量比が30:70〜90:10の重量比の範囲内、更に好ましくは成分(a)と成分(b)の重量比が50:50〜90:10の重量比の範囲内、とりわけ好ましくは成分(a)と成分(b)の重量比が60:40〜90:10の重量比の範囲内、最も好ましくは成分(a)と成分(b)の重量比が65:35〜80:20の重量比の範囲内である。
成分(a)と成分(b)の重量比を調節するためには、成分(a)を製造する第一重合工程と成分(b)を製造する第二重合工程の製造量比を制御すればよい。重合温度や滞留時間を変化させることにより、両者の製造量比を制御できることは、当該事業者には良く知られたことである。
成分(a)と成分(b)の重量比は、任意の公知の方法により求めることができる。具体的には、第一重合工程と第二重合工程の生産量の割合から求めることができる。また、成分(a)と成分(b)の結晶性の差を利用して、TREF(昇温溶出分別法)により分析することもできる。
【0109】
プロピレン系ブロック共重合体のMFRは、任意の値とすることができるが、好ましくは10〜1,000g/10分であることが望ましい。より好ましくはMFRが20〜500g/10分、更に好ましくは25〜100g/10分、最も好ましくは30〜60g/10分であることが望ましい。MFRが低すぎると、射出成形性などが劣り、高すぎると耐衝撃強度などの物性に悪影響を与える。
また、プロピレン系ブロック共重合体のMFRは、主としてプロピレンからなる重合体成分(a)のMFR、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)のMFR、成分(a)と成分(b)の量比、の3つの因子により一義的に決まる。従って、ブロック共重合体のMFRは、この3つの因子を調整することにより、制御することができる。品質と成形性とのバランスを良くするには、このうち成分(a)のMFRを高くすることにより、ブロック共重合体のMFRを高くすることが望ましい。
【0110】
なお、本発明を用いることにより、MFRが高いプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造することができるため、本発明におけるプロピレン系ブロック共重合体は、CR処理しなくても良い点で、従来法より優れている。従来の製造方法では、高MFRのブロック共重合体を高い生産性で製造することが困難であるため、低いMFRのブロック共重合体を(高い生産性で)製造し、この低いMFRのブロック共重合体を造粒工程などにおいて、過酸化物などのラジカル発生剤で処理することにより、MFRを高くする手法が一般に用いられている。通常、この過酸化物などによる処理をCR処理と呼ぶ。このCR処理を行うと、ブロック共重合体のMFRを高くすることができるが、過酸化物などの分解物が副生するため、臭い・色相・味などの点でブロック共重合体の品質が低下する点に問題がある。また、プロピレンとその他のモノマーとのランダム共重合体成分(b)が架橋して、ゲルを生成しやすい点も、問題である。
ゆえに、CR処理を行うことなく、高MFRのプロピレン系ブロック共重合体を高い生産性で製造することができる本発明は、従来技術に比して、高い優位性を示すものである。
【0111】
また、本発明の製造方法によって得た触媒系を用いることにより得られるポリマー粒子は、優れた粒子性状を示す。一般的に、ポリマー粒子の粒子性状は、ポリマー嵩密度、粒径分布、粒子外観などにより評価される。
本発明により得られるポリマー粒子は、ポリマー嵩密度が、0.35〜0.55g/mlの範囲内、好ましくは、0.40〜0.50g/mlの範囲内である。ポリマー粒子の大きさは、任意の値を取ることができるが、平均粒径は、好ましくは1,000〜3,000μmの範囲内、特に好ましくは1,100〜2,000μmであることが望ましい。
【0112】
IV.ポリプロピレンの用途
本発明を用いて製造されたプロピレン系ブロック共重合体は、任意の用途に用いることができる。中でも、高MFRでランダム共重合体中のコモノマー含量の高いプロピレン系ブロック共重合体は、望ましい分野に対して好適に用いることができる。特に好ましい例としては、射出成形、射出圧縮成形、などの成形分野を挙げることができる。
より具体的な用途としては、雑貨品に代表される一般射出用材料、バンパーやインストルメンタルパネル等に代表される自動車用材料、冷蔵庫や掃除機の筐体等に代表される家電用材料、ヨーグルト容器等に代表される耐衝撃性食品包装材料、カップ麺容器等に代表される耐熱食品包装材料、衛生製品用不織布等に代表される繊維用材料、サポーター等に代表される伸縮性繊維用材料、などに好ましく用いることができる。
【実施例】
【0113】
以下、実施例を用いて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。本発明における各物性値の測定方法を以下に示す。
(1)MFR(メルトマスフローレート):
タカラ社製メルトインデクサーを用い、JIS K7210の「プラスチック―熱可塑性プラスチックのメルトマスフローレート(MFR)及びメルトボリュームフローレート(MVR)の試験方法」の試験条件:230℃、2.16kg荷重に準拠して、測定し評価した。
【0114】
(2)ポリマー嵩密度:
パウダー試料の嵩密度をASTM D1895−69に準ずる装置を使用し測定した。
(3)ポリマー平均粒径:
パウダー試料の粒径分布をJIS Z8801の「試験用ふるい」に準拠して、篩い分け法により測定した。得られた粒径分布において、重量基準で積算50wt%となる粒径を平均粒径とした。
【0115】
(4)CXS:
試料(約5g)を140℃のp−キシレン(300ml)中に一度完全に溶解させた。その後23℃まで冷却し、23℃で12時間ポリマーを析出させた。析出したポリマーを濾別した後、濾液からp−キシレンを蒸発させた。p−キシレンを蒸発させた後に残ったポリマーを100℃で2時間減圧乾燥した。乾燥後のポリマーを秤量し、試料に対するwt%としてCXSの値を得た。
(5)密度:
MFR測定時に得られた押出ストランドを用い、JIS K7112D法に準拠して密度勾配管法で行った。
【0116】
(6)エチレン含量の定量:
共重合体中の平均エチレン含量については、下記の手順に従って赤外分光光度計を用いて測定した。
(i)サンプルの調製
試料を加熱加圧プレスにより厚さ500μmのシートに成形した。プレス条件は、温度190℃、予熱時間2分、加圧圧力50MPa、加圧時間2分とした。
(ii)赤外分光光度計による吸光度の測定
上記にて得られたシートを用い、以下の条件にて、吸収量を測定した。
装置:島津FTIR−8300
分解能:4.0cm−1
測定範囲:4,000〜400cm−1
吸光度ピーク面積算出範囲:700〜760cm−1
(iii)エチレン含量の算出
予めNMRでエチレン含量を定量してあるサンプルを用いて検量線を作成し、この検量線に基づいてエチレン含量を算出した。
【0117】
(7)Ti含量:
試料を精確に秤量し、加水分解した上で比色法を用いて測定した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含量を計算した。
(8)ケイ素化合物含量:
試料を精確に秤量し、メタノールで分解した。ガスクロマトグラフィーを用いて標準サンプルと比較することにより、得られたメタノール溶液中のケイ素化合物濃度を求めた。メタノール中のケイ素化合物濃度と試料の重量から、試料に含まれるケイ素化合物の含量を算出した。予備重合後の試料については、予備重合ポリマーを除いた重量を用いて含量を算出した。
【0118】
[実施例1]
1.固体触媒成分(A)の調製
攪拌機を備え、窒素ガスで充分に置換された、容量2000mlの丸底フラスコに、ジエトキシマグネシウム150g及びトルエン750mlを装入し、懸濁状態とした。
次いで、該懸濁液を、攪拌機を具備し、窒素ガスで充分に置換された、容量2000mlの丸底フラスコに予め装てんされたトルエン450ml及び四塩化チタン300mlの溶液中に添加した。
次いで、該懸濁液を5℃で1時間反応させた。その後、フタル酸−n−ブチル22.5mlを添加して、100℃ まで昇温した後、攪拌しながら2時間第一反応処理した。反応終了後、生成物を80℃のトルエン1300mlで4回洗浄し、新たにトルエン1200ml及び四塩化チタン300mlを加えて、攪拌しながら110℃で2時間の第二反応処理を行った。中間洗浄及び第二反応処理を、更にもう一度繰り返した。
次いで、生成物を40℃のヘプタン1300mlで7回洗浄し、濾過、乾燥して、粉末状の固体成分(A1)を得た。この固体成分中のチタン含有量を測定したところ、2.9wt%であった。
【0119】
次に、攪拌機を備え、窒素ガスで充分に置換された、容量500mlの丸底フラスコに、上記固体成分(A1)として12gを導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分(A1)の濃度が60mg/mlとなる様に調整した。ここに、成分(A2)としてジメチルジビニルシランを3.0ml、成分(A3)として(i−Pr)Si(OMe)を2.4ml、成分(A4)としてEtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして2.6g添加し、さらに成分(A5)としてAlClを0.6g添加し、30℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、固体触媒成分(A)のスラリーを得た。
【0120】
2.予備重合
上記で得られた固体触媒成分を用いて、以下の手順により予備重合を行った。
上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、触媒成分の濃度が20mg/mlとなる様に調整した。スラリーを10℃以下に冷却した後、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして1.0g添加し、8gのプロピレンを20分かけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に10分反応を継続した。
次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーの真空乾燥を行い、触媒成分(A)を得た。
この固体触媒成分(A)は、固体成分1g当たり1.9gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが2.2wt%、(i−Pr)Si(OMe)が3.5wt%、Alが1.1wt%含まれていた。
【0121】
3.プロピレンの重合
撹拌及び温度制御装置を有する内容積3.0リットルのステンレス鋼製オートクレーブを真空下で加熱乾燥し、室温まで冷却してプロピレン置換した後、成分(B)としてEtAlを400ミリグラム、及び水素を8000ミリリットル導入し、次いで液体プロピレンを750グラム導入して、内部温度を70℃に合わせた後に、上記の固体触媒成分(A)を10ミリグラム圧入して、プロピレンを重合させた。1時間後にプロピレン及び水素を充分パージして第1段階での重合を終わらせた。
第1段階でのポリマー収量は、350gであった。精製窒素流通下で20g抜き出した。ここで抜き出したサンプルのMFRは140g/10min、CXSは1.5wt%であった。
【0122】
次いで、攪拌しながら75℃まで昇温し、昇温後にプロピレンガスとエチレンガスを全重合圧力が2.0MPaになるよう装入し、第2段階の重合開始とした。全重合圧力が2.0MPaで一定になるようプロピレンとエチレンの混合ガスを供給しながら、75℃で30分重合を行った。ここでエチレン濃度のプロピレン濃度に対する比が0.25であった。
最終的に得られたプロピレン系ブロック共重合体を分析したところ、MFRは26g/10minであった。また、プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレンエチレンランダム共重合体成分の含量は20wt%、プロピレンエチレンランダム共重合体成分中のエチレン含量は35wt%であった。ポリプロピレン粒子は、さらさらしており、ポリマー嵩密度(BD)は0.42g/mlであった。結果を表1に示す。
【0123】
[実施例2]
実施例1のプロピレンの重合において、エチレン濃度のプロピレン濃度に対する比が0.55にした以外は、全く同様に行った。結果を表1に示す。
【0124】
[実施例3]
実施例1の固体触媒成分(A)の調製において、成分(A5)のAlClの使用量を1.2gとした以外は、全く同様に行った。
この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.8wt%、(i−Pr)Si(OMe)が3.7wt%、Alが2.0wt%含まれていた。
また、重合は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0125】
[比較例1]
実施例1の固体触媒成分(A)の調製において、成分(A5)のAlClの使用しなかった以外は、全く同様に行った。
この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.7wt%、(i−Pr)Si(OMe)が4.6wt%含まれていた。
また、重合は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0126】
[比較例2]
比較例1の触媒を用いて、実施例2の条件で、プロピレンの重合を行った。結果を表1に示す。
【0127】
[比較例3]
実施例1の固体触媒成分(A)の調製において、成分(A5)のAlClの使用量を4.0gとした以外は、全く同様に行った。
この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.6wt%、(i−Pr)Si(OMe)が3.2wt%、Alが3.5wt%含まれていた。
また、重合は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0128】
[比較例4]
比較例1の固体触媒成分(A)の調製において、成分(A4)としてEtAlに、さらにEtAlClを0.5g追加した以外は、全く同様に行った。
この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが2.1wt%、(i−Pr)Si(OMe)が2.7wt%、Alが2.3wt%含まれていた。
また、重合は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表1に示す。
【0129】
【表1】

【0130】
[実施例4]
1.固体触媒成分(A)の調製
攪拌機を備え、窒素ガスで充分に置換された、容量2000mlの丸底フラスコに、精製したn−ヘプタン120mlを導入した。更に、MgClを15g、Ti(O−n−Bu)を109ml添加して、90℃で2hr反応を行った。反応生成物を40℃に冷却し、メチルハイドロジェンポリシロキサン(20センチストークスのもの)を24ml添加した。40℃で4hr反応を行った後、析出した固体生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。
次いで、精製したn−ヘプタンを導入して、上記固体生成物の濃度が250mg/mlとなる様に調整した。ここに、SiClを18ml添加して、90℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、反応生成物の濃度が250mg/mlとなる様に精製したn−ヘプタンを導入した。フタル酸ジクロライド1.4ml添加して、90℃で1hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、反応生成物の濃度が500mg/mlとなる様に精製したn−ヘプタンを導入した。
ここへ、TiClを26ml添加し、95℃で3hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、固体成分(A1)のスラリーを得た。
このスラリーの一部をサンプリングして乾燥した。分析したところ、固体成分(A1)のTi含量は2.5wt%であった。
【0131】
次に、攪拌機を備え、窒素ガスで充分に置換された、容量500mlの丸底フラスコに、上記固体成分(A1)として12gを導入した。精製したn−ヘプタンを導入して、固体成分(A1)の濃度が60mg/mlとなる様に調整した。ここに、成分(A2)としてジメチルジビニルシランを3.0ml、成分(A3)として(i−Pr)Si(OMe)を2.4ml、成分(A4)としてEtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして2.6g添加し、さらに成分(A5)としてAlClを0.6g添加し、30℃で2hr反応を行った。反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄し、固体触媒成分(A)のスラリーを得た。
【0132】
2.予備重合
上記で得られた固体触媒成分(A)を用いて、以下の手順により予備重合を行った。
上記のスラリーに精製したn−ヘプタンを導入して、触媒成分の濃度が20mg/mlとなる様に調整した。スラリーを10℃以下に冷却した後、EtAlのn−ヘプタン希釈液をEtAlとして1.0g添加し、8gのプロピレンを20分かけて供給した。プロピレンの供給が終わった後、更に10分反応を継続した。
次いで、気相部を窒素で充分に置換し、反応生成物を精製したn−ヘプタンで充分に洗浄した。得られたスラリーの真空乾燥を行い、触媒成分(A)を得た。
この固体触媒成分(A)は、固体成分1g当たり1.9gのポリプロピレンを含んでいた。分析したところ、この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが0.9wt%、(i−Pr)Si(OMe)が5.0wt%、Alが0.9wt%含まれていた。
【0133】
3.プロピレンの重合
撹拌及び温度制御装置を有する内容積3.0リットルのステンレス鋼製オートクレーブを真空下で加熱乾燥し、室温まで冷却してプロピレン置換した後、成分(B)としてEtAlを400ミリグラム、及び水素を8000ミリリットル導入し、次いで液体プロピレンを750グラム導入して、内部温度を70℃に合わせた後に、上記の固体触媒成分(A)を10ミリグラム圧入して、プロピレンを重合させた。1時間後にプロピレン及び水素を充分パージして第1段階での重合を終わらせた。
第1段階でのポリマー収量は、330gであった。精製窒素流通下で20g抜き出した。ここで抜き出したサンプルのMFRは170g/10min、CXSは0.9wt%であった。
【0134】
次いで、攪拌しながら75℃まで昇温し、昇温後にプロピレンガスとエチレンガスを全重合圧力が2.0MPaになるよう装入し、第2段階の重合開始とした。全重合圧力が2.0MPaで一定になるようプロピレンとエチレンの混合ガスを供給しながら、75℃で30分重合を行った。ここでエチレン濃度のプロピレン濃度に対する比が0.25であった。
最終的に得られたプロピレン系ブロック共重合体を分析したところ、MFRは52g/10minであった。また、プロピレン系ブロック共重合体中のプロピレンエチレンランダム共重合体成分の含量は9wt%、プロピレンエチレンランダム共重合体成分中のエチレン含量は25wt%であった。ポリプロピレン粒子は、さらさらしており、ポリマー嵩密度(BD)は0.42g/mlであった。結果を表2に示す。
【0135】
[比較例5]
実施例4の固体触媒成分(A)の調整において、成分(A5)のAlClを使用しなかった以外は、全く同様に行った。
この固体触媒成分(A)のポリプロピレンを除いた部分には、Tiが1.0wt%、(i−Pr)Si(OMe)が6.0wt%含まれていた。
また、重合は、実施例1と同様の方法で行った。結果を表2に示す。
【0136】
【表2】

【0137】
[実施例5]
1.プロピレンの重合
添付した図1に示したフローシートによって説明する。
2台の反応器を用いる気相重合反応器を用いた。2台の重合器1及び10は、内径D:340mm、長さL:1260mm、回転軸の径:90mm、内容積:110dm3の攪拌機を備えた連続式横型気相重合器(長さ/直径=3.7)である。
重合器1内を窒素置換後、500μm以下の重合体粒子を除去したポリプロピレン粉末(平均粒径1500μm)を25kg導入し、実施例1で得られた固体触媒成分(A)をn−ヘキサンスラリーとして重合器1内に連続的に供給した。固体触媒成分(A)の供給速度は、ポリプロピレンの生産レートが一定の値となる様に調節した。また、AlEtの15wt%n−ヘキサン溶液を固体触媒成分(A)中のTi原子1モルに対し、モル比が100となるように連続的に供給した。また、重合器1内の水素濃度のプロピレン濃度に対する比が0.08となるように水素を、重合器1内の圧力が2.2MPa、温度が65℃を保つようにプロピレンモノマーをそれぞれ重合器1内に供給した。重合器1から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管4を通して反応器系外に抜き出し、冷却・凝縮させて液化プロピレンと混合ガスに分離した。混合ガスは、リサイクルガス配管2を通して重合器1に戻した。また、プロピレン重合体の分子量を調節するための水素ガスも配管2より供給した。反応器系外で凝縮させた液化プロピレンは、フレッシュな原料プロピレンと一緒に原料混合ガス供給配管3から供給した。重合熱は、この配管3から供給する液化プロピレンの気化熱により除去した。
【0138】
重合器1内で生成したポリプロピレンは、重合体の保有レベルが反応容積の50容量%となる様に重合体抜き出し配管5を通して重合器1から連続的に抜き出し、第2重合工程の重合器10に供給した。
重合器10内に、第1重合工程からの重合体、プロピレンガスを連続的に供給し、プロピレンエチレンランダム共重合を行った。反応条件は、温度60℃、圧力2.0MPaとした。重合器10から排出される未反応ガスは、未反応ガス抜き出し配管8を通して反応器系外に抜き出し、冷却・凝縮させて液化プロピレンと混合ガスに分離した。混合ガスはリサイクルガス配管7を通して重合器10に戻した。また、エチレンガスと水素ガスも配管7より供給し、重合器10内のエチレン濃度のプロピレン濃度に対する比が0.32、水素濃度のエチレン濃度に対する比が0.1、となる様に調節した。反応器系外で凝縮させた液化プロピレンは、フレッシュな原料プロピレンと一緒に原料混合ガス配管6から供給した。重合熱は、この配管6から供給する液化プロピレンの気化熱により除去した。更に、重合器1に供給する固体触媒成分(A)に含まれるTi原子に対して、モル比が30となる様に、活性抑制剤として酸素を配管7より供給した。
【0139】
第2重合工程で生成したプロピレン系ブロック共重合体は、重合体の保有レベルが反応容積の60容量%となる様に重合体抜き出し配管9を通して、重合器10から連続的に抜き出した。抜き出したパウダーは、ガス回収機12でガス類を分離し、パウダー部は回収系に抜き出した。
ポリプロピレン系ブロック共重合体の生産レートは15kg/hr、重合器1内の平均滞留時間は1.6hr、重合器10内の平均滞留時間は1.0hrであった。生産レートを固体触媒成分(A)の供給速度(ただし予備重合ポリマーは除く)で割った値として活性を求めたところ、50,000g−PP/g−触媒であった。
【0140】
重合器1から一部取り出したサンプルを分析したところ、MFRは130g/10min、CXSは1.5wt%であった。最終的に得られたポリプロピレン系ブロック共重合体を分析したところ、MFRは31g/10minであった。また、ポリプロピレン系ブロック共重合体中のプロピレンエチレンランダム共重合体成分の含量は23wt%、プロピレンエチレンランダム共重合体成分中のエチレン含量は50wt%であった。ポリプロピレン粒子は、さらさらしており、ポリマー嵩密度(BD)は0.44g/ml、平均粒径は1,230μmであった。結果を表3に示す。
【0141】
[比較例6]
実施例5の重合プロセスにて、比較例1の固体触媒成分(A)を用いて重合を行った。結果を表3に示す。
【0142】
【表3】

【0143】
表1〜3から明らかなように、実施例1〜5及び比較例1〜6を対比検討すると、本発明では、高MFRであり、高いエチレン含量のプロピレンエチレンブロック共重合体が得られていることが明白である。触媒活性も高く、得られたポリマー粒子の性状も良好である。更に、プロピレン単独重合体の立体規則性も高く、非常にバランスの優れた触媒である。
具体的には、実施例1〜3は、比較例1〜4と対比することで、特定量のハロゲン化アルミニウムを接触処理することにより、同一エチレン濃度でプロピレンエチレンランダム共重合体中のエチレン含量を増加させることができている。また、触媒活性も高く、同一水素濃度で高いMFRのプロピレンエチレンブロック共重合体を製造することができている。
また、実施例4は、実施例1とは製造方法の異なる固体成分(A1)を用いて評価を行っている。比較例5と比較することにより、前述の結果と同様に、プロピレン単独重合体の立体規則性が高く、プロピレンエチレンランダム共重合体中のエチレン含量も向上しており高い触媒性能を示していることがわかる。
さらに、実施例5と比較例6では、横型の気相重合プロセスに、実施例1、比較例1の固体触媒成分(A)を使用したものであるが、実施例1と比較例1の対比と同様に、実施例5では、プロピレンエチレンランダム共重合体中のエチレン含量を増加させることができ、触媒活性も高く、同一水素濃度で高いMFRのプロピレンエチレンブロック共重合体を製造することができている。
従って、実施例は、高MFRであり、高エチレン含量のプロピレンエチレンブロック共重合体の製造という観点で、生産性、触媒活性、立体規則性、粒子性状といった触媒性能の全般にわたり、比較例に比して、優れた結果が得られていると言える。
【産業上の利用可能性】
【0144】
本発明を用いて製造されたプロピレン系ブロック共重合体は、任意の用途に用いることができる。中でも、高MFRでランダム共重合体中のコモノマー含量の高いプロピレン系ブロック共重合体が、望ましい分野に対して好適に用いることができる。特に好ましい例としては、射出成形、射出圧縮成形、などの成形分野を挙げることができる。
より具体的な用途としては、雑貨品に代表される一般射出用材料、バンパーやインストルメンタルパネル等に代表される自動車用材料、冷蔵庫や掃除機の筐体等に代表される家電用材料、ヨーグルト容器等に代表される耐衝撃性食品包装材料、カップ麺容器等に代表される耐熱食品包装材料、衛生製品用不織布等に代表される繊維用材料、サポーター等に代表される伸縮性繊維用材料、などに好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0145】
1 重合器(第1重合工程)
2 リサイクルガス配管
3 原料混合ガス配管
4 未反応ガス抜き出し配管
5 重合体抜き出し配管
6 原料混合ガス配管
7 リサイクルガス配管
8 未反応ガス抜き出し配管
9 重合体抜き出し配管
10 重合器(第2重合工程)
11 活性抑制剤添加用配管
12 ガス回収機
13 バグフィルター

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の成分(A1)、(A2)、(A3)、(A4)および(A5)を接触してなり、且つ成分(A5)の使用量が成分(A4)に対するモル比(A5/A4)で0.01〜1.0であることを特徴とするプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法。
成分(A1):チタン、マグネシウム及びハロゲンを必須成分として含有する固体成分
成分(A2):アルケニル基を有するケイ素化合物
成分(A3):有機ケイ素化合物
成分(A4):下記式で表される有機アルミニウム化合物
AlX(OR
(式中、Rは、炭化水素基を表す。Xは、ハロゲンまたは水素を表す。Rは、炭化水素基またはAlによる架橋基を表す。a≧1、0≦b≦2、0≦c≦2、a+b+c=3である。)
成分(A5):下記式で表されるハロゲン化アルミニウム化合物
AlX
(式中、Xは、ハロゲンを表す。)
【請求項2】
成分(A2)のアルケニル基を有するケイ素化合物がビニルシラン化合物であることを特徴とする請求項1に記載のプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項3】
成分(A1)の固体成分中のマグネシウムは、ハロゲン化マグネシウム化合物およびアルコキシマグネシウム化合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの化合物を由来とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法。
【請求項4】
成分(A1)の固体成分中のチタンは、アルコキシチタン化合物およびハロゲン化チタン化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つの化合物を由来とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプロピレン重合用固体触媒成分の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−31280(P2012−31280A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−171959(P2010−171959)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(596133485)日本ポリプロ株式会社 (577)
【Fターム(参考)】