説明

プローブピン

【課題】優れた導電性、耐酸化性を有すると共に、プローブピンとして十分な硬度を有する材料を提供する。
【解決手段】本発明は、Au、Ag、Pd、Cuからなり、Au濃度:40〜55重量%、Ag濃度:15〜30重量%、及び、PdとCuとの合計濃度:15〜40重量%であるプローブピン用の材料である。この材料は、更に、Ni、Zn、Coの少なくともいずれか1つの元素を0.6〜5重量%含むことができる。また、これらの合金は、300〜500℃で加熱することにより析出硬化させることができ、より硬度の高い材料とすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体集積回路等の電気的特性を検査するためのプローブピンを構成する材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ウェハー上に形成された半導体集積回路や液晶表示装置等の電気的特性の検査を行う際、複数のプローブピンが配列したプローブカードが用いられている。この検査では、通常、ウェハー上に形成された検査対象物である半導体集積回路素子や液晶表示装置等の複数の電極パッドに、プローブピンを接触させることによって行われている。
【0003】
従来から用いられているプローブピン用の材料としては、ベリリウム銅(Be−Cu)、リン青銅(Cu−Sn−P)、タングステン(W)を使用したもの、パラジウム(Pd)に銀(Ag)等を添加した合金を用いたものなどがある。
【特許文献1】特開平10−038922号公報
【特許文献2】特開平05−154719号公報
【特許文献3】特開2004−093355号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
プローブピン用の材料に対しては、何百万回と行われる繰り返し検査に対して磨耗することのないよう高硬度であることが要求されると共に、電極パッドとの安定的な接触を維持することのできる弾性(高ばね性)が必要である。また、プローブピン自体が酸化すると、生じた酸化皮膜が検査対象物を汚染するおそれがあることから耐酸化性も要求されるところである。更に、プローブピンは電気特性の検査で用いられるものであることから、比抵抗が低く良好な導電材料であることが必要である。
【0005】
従来のプローブピン用の材料は、上記の要求特性の全てを具備したものは少ない。即ち、銅合金やタングステンは、機械的性質においては十分であるが、比較的酸化容易な材料であり、その酸化物が検査対象物上に残渣として残る傾向にある。このような状態で、検査を継続すると導通不良により正確な測定値が得られないこととなる。
【0006】
一方、パラジウム合金は、耐酸化特性においては良好であるが、硬度等においてやや劣る面がある。この点、近年の半導体集積回路等においては高密度化により電極パッドの狭ピッチ化の傾向にあり、これに対応すべくプローブピンの線径を微細にすることが要請されている。この要請に答えるためには、プローブピンの材料として十分な硬度を有するものが必要である。
【0007】
本発明は、以上のような事情を背景になされたものであり、導電性、耐酸化性を有すると共に、プローブピンとして十分な硬度を有する材料を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決すべく、本発明者等は鋭意研究を行い、金(Au)を主体としつつ、これに硬度、導電性を確保するための金属元素を添加したプローブピン用の合金材料を見出した。
【0009】
即ち、本発明は、Au、Ag、Pd、Cuからなり、Au濃度:40〜55重量%、Ag濃度:15〜30重量%、及び、PdとCuとの合計濃度:15〜40重量%であるプローブピン用の材料である。
【0010】
Auは、良好な導電体であると共に耐酸化性に優れる反面、軟らかく硬度面において劣る。本発明は、Auに対する合金元素として、以下の作用を有するAg、Pd、Cuを添加することで、硬度、導電性、耐酸化性のバランスを図っている。
【0011】
ここで、Pd及びCuは、合金の硬度上昇の作用を有するが、導電性に与える影響が異なりPdは比抵抗を上昇させる傾向が、Cuは比抵抗を低下させる傾向がある。また、Agは硬度に対する影響は少なく、比抵抗を低下させる目的で添加される。つまり、Agは、Pdを添加しAu濃度が低下したことによる比抵抗上昇を補うために添加される。
【0012】
そして、上記のような各元素の作用から、プローブピン用途における、硬度、比抵抗を満足させる組成としては、Au濃度を40〜55重量%、Ag濃度を15〜30重量%とし、これにPdとCuとを両元素の合計濃度として15〜40重量%添加するものである。また、より好ましい組成としてはAu濃度40〜50重量%、Ag濃度15〜30重量%、PdとCuとの合計濃度30〜40重量%となるものである。
【0013】
本発明に係る合金は、更に、Ni、Zn、Coの少なくともいずれか1つの元素を0.6〜5重量%含んでいても良い。これらの元素は、硬度上昇において有用である。この添加元素濃度については、0.6重量%未満の添加では、効果がなく、5重量%を超えると比抵抗の上昇が顕著となる。この添加元素の好ましい濃度は、それぞれ0.6〜1重量%であり、この場合における好ましい材料組成は、Au濃度40〜50重量%、Ag濃度15〜30重量%、PdとCuとの合計濃度30〜40重量%であって、Ni、Zn、Coの合計濃度が1〜3重量%となるものである。
【0014】
以上説明したプローブピン用の合金材料は、鋳造のまま或いは成形加工した状態でも十分な硬度を有するが、これを300〜500℃で熱処理し析出硬化させることで硬度をより高くすることができる。熱処理温度については、300℃未満では硬度の上昇はみられず、500℃を超える温度で熱処理すると軟化することから上記温度範囲とする。熱処理の時間は、材料に析出硬化が十分生じる時間を設定するのが好ましい。この点、熱処理は、合金材料をプローブピン用の線材に加工した後に行っても良く、加工後の極細線(線径0.05〜0.5mm)の状態であれば熱処理時間は10〜20秒程度で良い。また、極細線に加工した後の熱処理は、加工後の細線を一定速度で熱処理装置に送って熱処理を行い、これを巻き取ることが多いが、このような場合の送り速度は4〜6m/minとするのが好ましい。送り速度が遅すぎると(熱処理時間が長くなると)、熱処理後の硬度が逆に低下する、熱処理後の細線がくっつく等の問題が生じるおそれがある。尚、熱処理は、プローブピン用の線材に加工する前に行っても良い。また、熱処理雰囲気は、還元性雰囲気(例えば、窒素−水素混合ガス雰囲気)が好ましい。
【0015】
尚、本発明に係る合金材料の好ましい硬度は、加工上がりの状態で、280〜350Hvの範囲内にある。硬度は、合金の溶解鋳造後の加工率により変化するが、通常、加工率は60〜99.9%である。また、このような硬度を有する材料について、熱処理を行うことにより、その硬度は、300〜450Hvに上昇する。
【0016】
尚、本発明に係る材料をプローブピンとする場合、ピン全体が合金材料からなる、いわゆるムク材として構成されたものが好ましい。そして、このプローブピンは、十分な硬度、導電性を有し、耐酸化性にも優れる。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明に係るプローブピン用の材料は、高硬度であり、比抵抗が低く導電性に優れるものである。また、貴金属を主要成分とするものであり耐酸化性にも優れる。本発明によれば、長期間安定的に使用可能であり、かつ、検査対象物を汚染することのないプローブピンを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施例を比較例とともに説明する。本実施形態では、各種の組成の合金を製造し、その硬度、比抵抗を測定・評価した。また、熱処理を行い硬化の有無も検討した。
【0019】
試料は、原料となる各金属を真空溶解してインゴットを作製し(寸法:φ40mm×6mm)、これを断面減少率が80%前後となるように圧延した。圧延後の厚さは1.2mm前後とした。そして、圧延材を切断し、長さ10mm×幅1.0mmの試験片としこれを樹脂埋め込み、研磨して硬度測定用の試料とした。また、圧延材から、別に長さ60mm×幅10mmの試験片を切り出し、これを比抵抗測定用の試料とした。
【0020】
硬度測定はビッカース硬度計により行った。測定条件は、荷重100gf、押し込み時間10秒間とした。また、比抵抗の測定は、電気抵抗計により電気抵抗を測定し、試料の断面積と長さから比抵抗を算出した。
【0021】
そして、硬度測定後の試料を樹脂から取り出し、この試料と比抵抗測定後の試料を窒素雰囲気下で450℃、30分間の熱処理を行い析出硬化させた。ここでの熱処理時間は、試料の大きさを考慮したものである。その後上記と同様にして、熱処理後の試料の硬度測定、比抵抗測定を行った。以上の評価結果を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1から、実施例1〜5の試料は、硬度において、いずれも加工上がりにおいて280HV以上を示すと共に、熱処理により300HVを超えるものであった。また、比抵抗については、合格基準を30μΩcm(従来品の平均的な値)と設定すると、各実施例の試料は、基準を大きく上回ることなく基本的に満足できるものであった。これに対して、比較例は、比抵抗こそ十分に低いものであったが、硬度においては劣るものであった。また、比較例に係る試料では熱処理による硬度上昇効果も期待できないことがわかった。
【0024】
次に、熱処理温度による析出硬化の有無について検討を行った。ここでは、実施例2と同様の組成の合金を溶解鋳造したインゴットを、加工率99.8%で圧延加工し、そして、この圧延材を窒素雰囲気で300〜550℃で熱処理した。熱処理は、長さ1.8mの電気炉に圧延材を5m/minの送り速度で通過させることにより行った。熱処理後、圧延材からφ0.1mm×10mm長さの試料を切り出して、樹脂埋め込み、研磨して硬度測定を行った。硬度測定は上記と同様の条件とした。この結果を図1に示す。
【0025】
図1からわかるように、熱処理を行うことで硬度の上昇が見られるが、450℃以上を境に硬度が低下する傾向が見られ、550℃では加工上がりと同様の硬度となる。従って、熱処理による硬度上昇を図るとしても、その温度は500℃以下にすることが適当であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例2に係る合金の熱処理温度と硬度との関係を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au、Ag、Pd、Cuからなり、Au濃度:40〜55重量%、Ag濃度:15〜30重量%、及び、PdとCuとの合計濃度:15〜40重量%であるプローブピン用の材料。
【請求項2】
更に、Ni、Zn、Coの少なくともいずれか1つの元素を0.6〜5重量%含む請求項1記載のプローブピン用の材料。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の材料を、300〜500℃で加熱することにより析出硬化させてなるプローブピン用の材料。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の材料からなるプローブピン。


【図1】
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【公開番号】特開2008−304266(P2008−304266A)
【公開日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−150737(P2007−150737)
【出願日】平成19年6月6日(2007.6.6)
【特許番号】特許第4176133号(P4176133)
【特許公報発行日】平成20年11月5日(2008.11.5)
【出願人】(000217228)田中貴金属工業株式会社 (146)
【Fターム(参考)】