説明

プローブ型光測定装置および光測定方法

【課題】走査トンネル分光(STS)と走査トンネルルミネッセンス分光(STLS)とを試料の同一の局所領域において実施する。
【解決手段】プローブ型光測定装置10として、先端が導電性と光透過性とを有するプローブ110によって、所定のバイアス電圧が印可されたときに試料の表面とプローブ110との間に発生するトンネル電流と、このトンネル電流の電流励起による試料からの信号光とを、複数レベルのバイアス電圧に対してそれぞれ測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プローブ型光測定装置および光測定方法に関し、特に、材料表面近傍の同一の局所領域における電気的・光学的特性を測定するプローブ型光測定装置および光測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、物質のナノメータサイズ領域の特性を利用した、いわゆるナノテクノロジーが進展している。特に、半導体分野においては、量子構造などの研究開発が既に進められており、カーボンナノチューブやフラットパネルディスプレイ等への使用が期待される有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)材料が注目されている。また、生体への適用が期待されるバイオ材料なども注目を集めている。
【0003】
上記したナノテクノロジーを駆使した量子構造を有する材料の開発や、この材料の特性改善には、試料の原子・分子からナノメータサイズの微小領域における電気的・光学的特性を精密に測定することが重要である。このような試料の微小領域における電気的・光学的特性は、微小領域に光照射や電流注入によって生じる散乱光や発光などの光(以下、「信号光」という。)を測定することによって調べることができる。
そのため、個々の単一原子や分子あるいはナノ構造の光特性や電気特性を測定できる極限的に高い空間分解能を持ち、かつ、分光や画像化が可能な光測定装置が強く求められていた。
【0004】
光照射や電流注入によって生じる信号光を測定する方法は、試料の信号光の発生過程に応じて種々の手法に分類される。例えば、試料の表面に光を照射することにより生じる信号光を検出する方法は、フォトルミネッセンス(PL:Photoluminecsence)やラマン錯乱といった手法に分類され、試料に対して電流注入されることにより生じる信号光を検出する方法は、カソードルミネッセンス(CL:Cathodeluminescence)やエレクトロルミネッセンス(EL:Electroluminescence)といった手法に分類される。
上記の各手法は、外部からのエネルギーの供給によって信号光が生じるという点で共通するが、光の発生過程を区別して、光照射により信号光を検出する方法を「光照射光測定」、電流注入により信号光を検出する方法を「電流注入光測定」として、以下、説明をする。
【0005】
従来から、光測定の空間分解能や測定領域に光の波長サイズよりも小さいナノメータレベルが要求される場合には、光の波長サイズより小さな微小開口を持つプローブから光を照射する光照射光測定を実行する走査型近接場光顕微鏡(SNOM)や、導電性プローブから微小領域へ電流を注入する電流注入光測定を実行するトンネル発光顕微鏡(TL)が使用されていた(非特許文献1、非特許文献2)。
【0006】
ここで、光照射光測定において、測定に用いる通常の照射光源で利用できるレーザ光は、紫外線から赤外線の領域にあり、エネルギーの単色性は高いが調整可能なエネルギーの範囲が1〜3電子ボルト(eV)程度とわずかなため、数eVの範囲にある物質のエネルギー帯にわたって照射光源のレーザ光を同調させることは困難である。
【0007】
一方、電流注入光測定を実行するトンネル発光顕微鏡(TL)装置では、集光効率を改善するため、光を収集する機能と電流を供給する機能とを合わせ持つ導電透明プローブが用いられている。この導電透明プローブは、光ファイバの先端を先鋭化して、その表面に導電加工したものである。この導電透明プローブを用いれば、プローブ先端から試料の微小領域に大きな電流を注入し、それによって試料から発せられた光を光源の直近に位置する同じプローブ先端で受光することができる(非特許文献3)。
【0008】
このような電流注入光測定では、導電性プローブから注入する電流のエネルギーの単色性は高くないが、バイアス電圧を調整することにより、注入する電流のエネルギーをほとんどの物質のエネルギー帯が存在する0〜10eV程度の範囲にわたって容易に同調可能であり、さらに高いエネルギーの電流を容易に注入することもできる。
【0009】
また、電流注入の場合、原子レベルが高い空間分解能を持つモホロジー像(STM像)と光像とを同時に取得することが可能である。よって、同一点で光照射と電流注入で生じる信号光の双方を相補的に測定することにより、原子からナノメータレベルの微小領域で物質の多様な特性を精密に測定することが可能である。しかしながら、電流注入で生じる信号光を測定するTL装置と光照射で生じる信号光を測定するSNOM装置は、それぞれ独立した別の装置である。そのため、異なる手法を用いる別個の装置で試料の同一の局所領域を光測定することは極めて困難であり、試料の同一の局所領域における電流注入光測定と光照射光測定とを両立できないといった問題があった。
【0010】
上記の問題に対して、電流注入光測定と光照射光測定との両方の動作を同一装置で可能とする高効率のプローブ型光測定装置が知られている(特許文献1)。特許文献1に記載されたプローブ型光測定装置は、光照射光測定と電流注入光測定とを同時に実施することができるものである。
具体的には、特許文献1に記載されたプローブ型光測定装置は、従来のTL装置に用いられる導電透明プローブから被測定試料表面に光を照射させ、被測定試料から発光される信号光をその導電透明プローブで集光し測定する光照射光測定を実施する構成を備えることにより、被測定試料の同一の局所領域で電流注入光測定と光照射光測定とを可能にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2006−112988号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】R.Toledo-Crow, P.C.Yang, Y.Chen, and M.Vaez-Iravani, “Near-Field differential scanning optical microscope with atomic force regulation”, Appl. Phys. Lett., Vol.60, No.24, 15 June 1992, pp2957-2959.
【非特許文献2】村下 達、「探針集光型トンネル電子発光顕微鏡による半導体ナノメートル領域評価」、応用物理 第70巻 第10号、1191 2001。
【非特許文献3】T.Murashita, “Novel conductiv transparent tip for low-temperature tunneling-electron luminescence microscopy using tip collection”, J. Vac. Sci. Technol. B, Vol.15, No.1, Jan/Feb 1997, pp32-37.
【非特許文献4】尾身 博雄,Ilya Sychugov,小林 慶裕、「同一ナノ領域でのルミネッセンス測定を可能とするトンネル電子・近接場光励起一体型プローブ顕微鏡の開発」、顕微鏡(日本顕微鏡学会)、第44巻 第3号、2009年、174−178頁。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1に記載のプローブ型光測定装置は、電流注入光測定と光照射光測定とを両立させることにより、被測定試料表面の同一の局所領域における電子の状態密度といった試料の電子状態を観測することはできるが、被測定試料表面の同一の局所領域におけるバンドギャップや状態密度遷移、トンネル励起や衝突励起といった電子による励起機構の情報といった詳細な情報を得ることはできなかった。
【0014】
具体的には、バンドギャップや状態密度遷移、トンネル励起や衝突励起といった試料の電子状態の詳細な情報を得るためには、プローブと被測定試料表面との間に加えられるバイアス電圧に応じた被測定試料から発生するトンネル電流の測定(走査トンネル分光:STS)と、プローブと被測定試料表面との間に加えらるバイアス電圧に応じた試料から発光される光量(光子数)の測定(走査トンネルルミネッセンス分光:STLS)とを被測定試料の同一領域で実施する必要があるが、特許文献1に記載の従来技術では、STSとSTLSとを被測定試料の同一領域において実施できないといった問題があった。
【0015】
また、測定試料の同一の局所領域からの発光の起源を解明するためには、測定試料からの信号光を時間分解しさらに波長分解して測定することが有効な手段であるが、特許文献1に記載のプローブ型光測定装置では、光照射光測定において、照射光励起による測定試料からの発光を時間分解しさらに波長分解して測定することができないといった問題があった。
【0016】
そこで本発明は、第1の目的として、走査トンネル分光(STS)と走査トンネルルミネッセンス分光(STLS)とを試料の同一の局所領域において実施することを目的とするものである。
また、第2の目的として、光照射光測定において、照射光励起によって試料から発光される信号光を時間分解しさらに波長分解して測定することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記の目的を達成するために、本発明は、プローブ型光測定装置として、先端が導電性と光透過性とを有するプローブと、被測定試料の表面と前記プローブとの間にバイアス電圧を加える電源部と、所定の前記バイアス電圧が加えられたときに、前記被測定試料の表面と前記プローブとの間に発生するトンネル電流を測定するトンネル電流測定部と、前記プローブの先端によって集光された、被測定試料から発せられる信号光を測定する光測定部と、前記電源部によって加えられる前記バイアス電圧を変化させる制御ユニットと
を備え、前記制御ユニットは、前記トンネル電流測定部および前記光測定部に、複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流およびトンネル電流励起による前記信号光をそれぞれ測定させることを特徴とする。
【0018】
また、本発明における前記制御ユニットは、前記トンネル電流測定部および前記光測定部によって前記トンネル電流と前記トンネル電流励起による前記信号光とがそれぞれ測定されている間、前記バイアス電圧を一定の電圧値に保ち、前記トンネル電流と前記信号光との測定が終了した後に、前記バイアス電圧を所定の電圧値へ変化させても良い。
【0019】
また、本発明における前記制御ユニットは、前記トンネル電流および前記トンネル電流励起による前記信号光を測定するときの複数レベルの前記バイアス電圧を、任意の第1の電圧値からこの第1の電圧値より高い任意の第2の電圧値の間に設定しても良い。
【0020】
また、本発明における前記トンネル電流測定部および光測定部は、前記第1の電圧値から順次高い前記複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流および前記トンネル電流励起による前記信号光と、前記第2の電圧値から順次低い前記複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流および前記トンネル電流励起による前記信号光とをそれぞれ測定しても良い。
【0021】
また、本発明にかかるプローブ型光測定装置は、照射光励起のための照射光を発光し前記プローブを介して照射する照射光光源と、前記プローブの先端によって集光された照射光励起による前記信号光を前記光測定部へ選択的に導光する光分波器とをさらに備え、前記制御ユニットは、前記光測定部が前記トンネル電流励起による前記信号光を測定する場合、前記照射光の光強度を前記被測定試料から前記照射光励起による発光が生じない光強度に設定し、前記光測定部が前記照射光励起による前記信号光を測定する場合、前記バイアス電圧を前記被測定試料から前記トンネル電流励起による発光が生じない電圧値へ設定しても良い。
【0022】
さらに、上記の本発明におけるプローブ型光測定装置に、前記光分波器によって導光された前記信号光を分光して波長毎に分解されたスペクトルを出力する分光器と前記照射光を所定の周期で発光するパルス光へ変調する光変調器とをさらに備え、前記光測定部は、前記照射光励起による前記信号光を測定する場合、前記パルス光の周期に同期して前記分光器により出力された前記信号光のスペクトルを測定しても良い。
【0023】
また、本発明は、光測定方法として、先端が導電性と光透過性とを有するプローブと被測定試料の表面との間に一定のバイアス電圧を加えるステップと、所定の前記バイアス電圧が加えられるときに前記プローブと前記被測定試料の表面との間に発生するトンネル電流とトンネル電流励起による前記被測定試料から発せられる信号光とを測定するステップと、前記バイアス電圧を変更するステップとを備え、複数レベルの前記バイアス電圧に対して前記トンネル電流および前記信号光を測定することを特徴とする。
【0024】
また、本発明における前記バイアス電圧を変更するステップは、前記トンネル電流および前記トンネル電流励起による前記信号光を測定するときの前記複数レベルの前記バイアス電圧を、任意の第1の電圧値からこの第1の電圧値より高い任意の第2の電圧値の間に設定しても良い。
【0025】
また、本発明における前記バイアス電圧を加えるステップは、前記トンネル電流および前記信号光を測定するステップにより前記トンネル電流と前記信号光との測定が実行されている間、加える前記バイアス電圧を一定の電圧値に保ち、前記バイアス電圧を変更するステップは、前記トンネル電流と前記信号光との測定が終了した後、加える前記バイアス電圧を所定の電圧値へ変化させても良い。
【0026】
また、本発明における前記トンネル電流とトンネル電流励起による前記被測定試料から発せられる信号光とを測定するステップは、前記第1の電圧値から順次高い前記複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流および前記信号光と、前記第2の電圧値から順次低い前記複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流および前記信号光とをそれぞれ測定しても良い。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、プローブと被測定試料の表面間に加えられるバイアス電圧に応じたトンネル電流とこのトンネル電流励起による被測定試料からの発光である信号光とをそれぞれ測定することができるため、試料の同一の局所領域における走査トンネル分光(STS)と走査トンネルルミネッセンス分光(STLS)とを同時に実行することが可能となる。
よって、被測定試料表面の同一の局所領域におけるバンドギャップや状態密度遷移、トンネル励起や衝突励起といった電子による励起機構の情報といった試料の電子状態の詳細な情報を取得することができる。
【0028】
さらに、被測定試料表面の同一の局所領域において、トンネル電流を測定しかつトンネル電流励起による発光を観測することができるため、STLSで測定されるトンネル電流励起による被測定試料からの発光をSTSで測定されるトンネル電流で規格化した信号光として測定することができる。
よって、STLSによって取得したデータ、すなわち、プローブと被測定試料表面との間に加えられたバイアス電圧に応じた試料から発光される光量(光子数)のデータの信頼性を向上させることができ、従来よりも信頼性の高い電子状態の詳細な情報を取得することが可能となる。
【0029】
また、本発明によれば、光照射光測定において、所定の周期のパルス光を照射光として被測定試料の表面に照射し、かつ、照射光励起による信号光を分光して波長毎に分解されたスペクトルを取得することにより、パルス光の周期に同期して波長毎に分解された信号光のスペクトルを測定することができる。
よって、被測定試料の同一の局所領域からの発光の起源を解明するために有効な情報を取得することができる。
したがって、本発明によれば、被測定試料の表面の電子状態および被測定試料表面の発光のメカニズムの解明に有力な情報を、同一の測定装置で取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】第1の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置におけるSTS/STLS測定を実行する際のプローブ位置制御の状態とバイアス電圧との関係を示す図である。
【図4】第1の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置におけるSTSとSTLSとの測定タイミングを説明する図である。
【図5】第1の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置の光測定部による信号光の測定タイミングを説明する図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置の構成を示すブロック図である。
【図7】プローブ型光測定装置におけるプローブ走査を実行する構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図面を用いて、本発明の実施の形態を説明する。
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置は、導電性と光透過性とを有する導電透明プローブを用いたプローブ型光測定装置において、被測定試料表面の同一の局所領域における走査トンネル分光(STS)と走査トンネルルミネッセンス分光(STLS)とを実行する機能を備えたものである。
【0032】
図1は、本発明の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置の構成を示すブロック図である。
図1に示すように、本実施の形態にかかるプローブ光測定装置100は、プローブ110と、電源部120と、トンネル電流測定部130と、光測定部140と、制御ユニット150とから構成されており、被測定試料1に対してSTSとSTLSとを実行するものである。
【0033】
プローブ110は、先端が導電性と光透過性とを有しており、また、後述する制御ユニット150からの制御により被測定試料1の表面直近を走査する。
例えば、プローブ110は、光ファイバの先端を先鋭化して、その表面を導電加工した先端を有する導電透明プローブとすることができる。また、導電透明プローブの先端に金属コーティングを施して先端の開口サイズを微小化したナノプローブ(非特許文献4)を用いても良い。
【0034】
このような構造のプローブ110の先端が被測定試料1の表面の直近に配置されることにより、プローブ110と被測定試料1との間に所定のバイアス電圧が印加されるとトンネル電流が発生し、また、プローブ110の先端は、トンネル電流が発生したときにこのトンネル電流の電流励起により生ずる被測定試料1からの信号光を集光することができる。
【0035】
電源部120は、被測定試料1の表面とこの表面に近接したプローブ110との間にバイアス電圧を加える。電源部120によって所定のバイアス電圧が加えられると、被測定試料1の表面上とプローブ先端の表面上との間のトンネル効果によるトンネル電流が発生する。
ここで、STSおよびSTLSが実行される際に電源部120によって加えられるバイアス電圧は、ユーザによって任意に決定することができる。その範囲は、初期値としての第1の電圧値から、この第1の電圧値より高い上限値としての第2の電圧値の間とすることができる。電源部120によって印加されるバイアス電圧の電圧値は、後述する制御ユニット150によって第1の電圧値から第2の電圧値の間で制御される。
【0036】
トンネル電流測定部130は、電源部120によって所定のバイアス電圧が加えられたときに、被測定試料1の表面とプローブ110との間に発生するトンネル電流を測定する。例えば、トンネル電流測定部130は、電流検出器と増幅器とを備え、バイアス電圧に対して発生したトンネル電流を電流検出器によって検出して増幅することにより、トンネル電流の電流値に関する情報を取得することができる。
【0037】
光測定部140は、プローブ110の先端によって集光された、被測定試料1から発せられる信号光を測定する。例えば、光測定部140は、光検出器を備え、プローブ110によって集光された被測定試料1からの信号光を光検出器によって光電変換して検出することにより、信号光の光量に関する情報を取得することができる。具体的には、検出した信号光の光子数に応じた電気信号を積算することにより、光検出器によって検出された信号光の光子数量を求めることができる。
また、光測定部140によって測定されるトンネル電流励起による信号光に基づいて取得できる信号光の光量に関する情報は、測定部130によって測定されたトンネル電流によって規格化された信号光の光量に関する情報とすることができる。
【0038】
制御ユニット150は、被測定試料1の表面上を走査するためにプローブ110の位置制御を行うとともに、電源部120によって印加されるバイアス電圧を変化させてトンネル電流測定部130および光測定部140に、複数レベルのバイアス電圧に対するトンネル電流およびトンネル電流励起による被測定試料1からの信号光をそれぞれ測定させる。
【0039】
具体的には、制御ユニット150は、ユーザによって設定される任意の第1の電圧値と第2の電圧値との間に予め定められた複数レベルのバイアス電圧を電源部120に印加させるよう電圧値を制御し、この複数レベルのバイアス電圧値に対して、被測定試料1の同一の局所領域におけるトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光をトンネル電流測定部130および光測定部140に測定させる。
ここで、トンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定電圧となる複数レベルのバイアス電圧値は、予めユーザによって設定することができ、制御ユニット150のメモリ(不図示)に設定された電圧レベルを表す情報を測定電圧レベルの情報として記憶するとしても良い。
【0040】
このような構成を備えることから、制御ユニット150は、プローブ110を被測定試料1の表面上の任意の地点に固定し、複数レベルのバイアス電圧値に対するトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光をトンネル電流測定部130および光測定部140に測定させ、被測定試料1の同一の局所領域におけるSTSとSTLSとを同時に実行させることを可能とする。
【0041】
なお、本実施の形態にかかるプローブ型光測定装置100のトンネル電流測定部130,光測定部140,制御ユニット150は、CPU(中央演算装置)やメモリ、インターフェースからなるコンピュータ(ハードウェア)にコンピュータプログラム(ソフトウェア)をインストールすることによって実現され、上述したトンネル電流測定部130,光測定部140,制御ユニット150の機能は、上記コンピュータの各種ハードウェア資源と上記コンピュータプログラムとが協働することによって実現される。
また、上記したコンピュータプログラムは、コンピュータが読み取り可能な記録媒体や記憶装置に格納された状態で提供されても良く、電気通信回線を介して提供されても良い。
【0042】
次に、本実施の形態にかかるプローブ型光測定装置100の動作について、図2および図3を参照して説明する。
図2は、本実施の形態にかかるプローブ型光測定装置100の動作を示すフローチャートであり、図3は、プローブ型光測定装置100によるSTS/STLS測定を実行する際のプローブ位置制御の状態とバイアス電圧の変化との関係を示す図である。
【0043】
図2に示すように、プローブ型光測定装置100は、被測定試料1の表面上をプローブ110によって走査することにより被測定試料1の表面状態を原子レベルの分解能で観測するSTM像の観測を実行して被測定試料1の表面の高さに関する情報を取得し、STS/STLS測定を実行する測定位置を選定する(S101)。
ここで、「STS/STLS測定」とは、プローブ位置を固定した状態で複数レベルのバイアス電圧に対してトンネル電流とトンネル電流励起による試料からの発光との測定を実行するものである。
【0044】
上述した(S101)を実行する間のプローブ位置制御の状態とバイアス電圧との関係は、図3に示すように、制御ユニット150によるプローブ位置制御の状態がONであって、所定のバイアス電圧が加えられており、被測定試料1の表面上をプローブ110による被測定試料1のSTM像の観測が実行されている。
STS/STLS測定を実行する際には、この間に制御ユニット150によって測定位置となる被測定試料1の表面上の直近にプローブ110の先端が配置されるようプローブ位置が決定される。
【0045】
制御ユニット150によって測定位置となる被測定試料1の表面上の直近にプローブ110の先端が配置されるようプローブ位置が決定されると、制御ユニット150は、プローブ走査制御を停止してプローブ110を固定するとともに、電源部120によって加えられるバイアス電圧の電圧値をSTS/STLS測定電圧の初期値である第1の電圧値となるよう設定する(S102)。
ここで、「STS/STLS測定電圧」とは、STS/STLS測定における測定電圧である複数レベルのバイアス電圧を意味するものである。具体的には、STS/STLS測定電圧は、STS/STLS測定における測定電圧の下限電圧値である第1の電圧値と上限電圧値である第2の電圧値との間に設定された複数レベルのバイアス電圧である。
【0046】
上述した(S102)を実行する間のプローブ位置制御の状態とバイアス電圧との関係は、図3に示すように、制御ユニット150によるプローブ位置制御の状態はOFFへ切り替えられ、プローブ110の位置が固定される。また、電源部120によって加えられるバイアス電圧は、制御部150によって設定されたSTS/STLS測定電圧の下限電圧値である第1の電圧値へ向かって変化する。
【0047】
制御ユニット150によってプローブ110の位置が固定され、かつ、電源部120によって加えられるバイアス電圧のレベルが第1の電圧値となると、電流測定部130および光測定部140による複数レベルのバイアス電圧に対するトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定、すなわち、被測定試料1の同一の局所領域におけるSTS/STLS測定が実行される(S103)。
【0048】
上述した(S103)の動作を実行する間のプローブ位置制御の状態とバイアス電圧との関係は、図3に示すように、制御ユニット150によるプローブ位置制御の状態がOFFに保持され、プローブ110の固定状態が維持される。
一方、電源部120によって加えられるバイアス電圧は、第1の電圧値からSTS/STLS測定電圧の上限電圧値である第2の電圧値の間に設定された、複数レベルの測定電圧(測定電圧1〜n)の各電圧値となるよう変化する。
【0049】
例えば、図4に示すようなSTS/STLS測定電圧の初期値を下限電圧値である第1の電圧値とした場合、電源部120によって加えられるバイアス電圧は、初期値の第1の電圧値の次に高い電圧値である測定電圧1へ上昇し、順に上限電圧値である第2の電圧値まで上昇した後、第2の電圧値の次に低い電圧値である測定電圧nへ降下し、順に下限電圧値の第1の電圧値まで降下する。なお、図4に示した例とは異なり、STS/STLS測定電圧の初期値を上限電圧の第2の電圧値としても良く、この場合は、バイアス電圧が第2の電圧値から順に低い測定電圧へ降下して第1の電圧値まで降下した後、第1の電圧値から順に高い測定電圧へ上昇して第2の電圧値まで上昇する。
【0050】
被測定試料1の同一の局所領域における複数レベルのバイアス電圧に対するトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定が完了すると、制御ユニット150は、所定の電圧値、例えば、STS/STLS測定開始直前のバイアス電圧値へバイアス電圧を設定する(S104)。
上記の(S104)の動作を実行する間のプローブ位置制御の状態とバイアス電圧との関係は、図3に示すように、制御ユニット150によるプローブ位置制御の状態がOFFに保持され、プローブ110を固定した状態が継続される。また、バイアス電圧は、所定のレベルとなるよう変化する。
【0051】
電源部120によって加えられるバイアス電圧が所定の電圧値となると、制御ユニット150は、プローブ走査制御を再びON状態とすることで、STM像の観測を実行できるようにする(S105)。
上記の(S105)の動作を実行する間のプローブ位置制御の状態とバイアス電圧との関係は、電源部120によって加えられるバイアス電圧が所定の電圧値となり、制御ユニット150によるプローブ位置制御の状態は再びON状態となる。よって、プローブ110によるSTM像の観測が実行可能な状態となる。
【0052】
ここで、STS/STLS測定動作を実行する区間におけるプローブ型光測定装置100の動作ついて、図4および図5を参照して、STS/STLS測定の実行タイミングとバイアス電圧の変化との関係を詳細に説明する。
図4は、STS/STLS測定を実行する際のバイアス電圧の変化とトンネル電流測定およびトンネル電流励起による信号光測定のタイミングとの関係を示す図である。
【0053】
STS/STLS測定電圧の初期値が第1の電圧値である場合、図4に示すように、バイアス電圧のレベルが第1の電圧値となると、制御ユニット150は、第1の電圧値と第2の電圧値との間に予め定められた複数レベルの測定電圧1〜nのうち、第1の電圧値に最も近い電圧値である測定電圧1のレベルとなるようバイアス電圧を変化させ、一定時間待機してバイアス電圧を安定させる(S103−11)。
【0054】
バイアス電圧が測定電圧1のレベルで安定すると、制御ユニット150は、トンネル電流測定部130および光測定部140によってトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定を開始させ、トンネル電流およびトンネル電流励起による信号光を所定時間継続して測定させる(S103−12)。
【0055】
例えば、始めにトンネル電流測定部130にトンネル電流の測定を開始させて安定的にトンネル電流の検出を確認できた後に、光測定部140にトンネル電流励起による信号光の測定を開始させ、測定時間をμ秒単位〜m秒単位とすることで、トンネル電流およびトンネル電流励起による信号光を十分に測定することができる。
また、このとき、トンネル電流測定部130および光測定部140は、バイアス電圧のレベルが測定電圧1のレベルで安定していることを自立的に検出して、トンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定を開始して所定時間測定を継続する構成としても良い。
【0056】
測定電圧1におけるトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定が完了すると、制御ユニット150は、測定電圧1の次にレベルの高い測定電圧2のレベルとなるようバイアス電圧を変化させ、一定時間待機してバイアス電圧を安定させる(S103−13)。
【0057】
バイアス電圧が測定電圧2のレベルで安定すると、制御ユニット150は、トンネル電流測定部130および光測定部140によってトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定を開始させ、トンネル電流およびトンネル電流励起による信号光を所定時間継続して測定させる(S103−14)。
このように、バイアス電圧を第1の電圧値から第2の電圧値まで上昇させ且つSTS/STLS測定電圧の各測定電圧におけるトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定を実行した後、バイアス電圧を第2の電圧値から第1の電圧値まで下降させ且つSTS/STLS測定電圧の各測定電圧におけるトンネル電流およびトンネル電流励起による信号光の測定を実行することで、STS/STLS測定電圧の各測定電圧に対するトンネル電流の電流値に関する情報と、トンネル電流励起による信号光の光量に関する情報とを同時に取得することができる。
【0058】
図5は、光測定部140によるトンネル電流励起による信号光の測定タイミング、すなわちSTLSの実行動作を説明する図である。ここでは、図5を参照して、光測定部140によるSTLSの実行動作を詳細に説明する。
なお、光測定部140は上述したように光検出器を備え、この光検出器は、信号光を電気信号へ変換して光信号を検出する光電変換機能と、検出した光信号に対応する電気信号を入力として信号光の光子数を積算するカウンタ機能とを備えるものとする。
【0059】
図5に示すように、バイアス電圧のレベルを上昇させる制御の開始と同期して、光測定部140はカウンタ機能のレジスタ値をクリアする(S103−21)。例えば、レジスタをリセットするフォトカウンタクリアをアクティブとすることにより、カウンタ機能のレジスタ値をクリア(Clear)することができる。
【0060】
バイアス電圧のレベルが測定電圧のレベルで安定すると、光測定部140は、カウンタ機能のゲートをオープン状態にする、すなわち、カウンタ機能の入力を有効にして、光電変換機能により検出された信号光に対応する電気信号をカウントできるようにする(S103−22)。例えば、カウンタゲートをオープン状態(Open)とするフォトカウンタゲートをアクティブとすることにより、カウンタ機能に入力された電気信号をカウントすることができる。
【0061】
カウンタ機能のゲートがオープン状態となると、光測定部140は、光電変換機能によって検出された信号光に対応する電気信号を受信して、受信した電気信号をカウントすることで検出された信号光の光量を求める(S103−23)。例えば、光測定部140の光電変換機能は、検出した信号光の光子数に応じて電気信号へ変換する機能とすることができ、カウンタ機能は、その光電変換機能から出力された電気信号を受信して積算することにより、測定時間の間に検出した信号光の光子数を求めることができる。
【0062】
所定の測定時間が経過すると、光測定部140は、カウンタ機能のゲートをクローズ状態にし(S103−24)、カウンタ機能によって積算された電気信号の数、すなわち検出された信号光の光子数量を表す値をレジスタへ入力する(S103−25)。光子数量の値が入力され一定時間経過の後、バイアス電圧は、次の測定電圧となるよう変化する(S103−26)。
全ての測定電圧において、光測定部140は、上記の(S103−21)〜(S103−26)の動作を実行することによって、被測定試料1の同一の局所領域におけるSTLSを実施することができる。
【0063】
このように、本実施の形態によれば、プローブと被測定試料の表面間に加えるバイアス電圧に応じたトンネル電流とこのトンネル電流励起による被測定試料からの発光である信号光とを測定することができるため、試料の同一の局所領域における走査トンネル分光(STS)と走査トンネルルミネッセンス分光(STLS)とを同時に実行することができる。 よって、STS/STLS測定を同時に実行することにより、バイアス電圧に対するトンネル電流値の変化を示すSTS曲線と、バイアス電圧に対するトンネル電流励起による信号光の光量の変化を示すSTLS曲線とを取得することができ、被測定試料表面の同一の局所領域におけるバンドギャップや状態密度遷移、トンネル励起や衝突励起といった電子による励起機構の情報といった試料の電子状態の詳細な情報を取得することができる。
【0064】
また、本実施の形態によれば、被測定試料表面の同一の局所領域において、トンネル電流を測定しかつトンネル電流励起による発光を観測することができるため、STLSで測定されるトンネル電流励起による被測定試料からの発光をSTSで測定されるトンネル電流で規格化した信号光として測定することができる。
よって、STLSによって取得したデータ、すなわち、プローブと被測定試料表面との間に加えられたバイアス電圧に応じた試料から発光される光量(光子数)のデータの信頼性を向上させることができ、従来よりも信頼性の高い電子状態の詳細な情報を取得することが可能となる。
【0065】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置は、光照射光測定の機能と第1の実施の形態において説明した電流注入光測定を実現する機能とを同一の装置で実施するものである。なお、第1の実施の形態において説明したプローブ型光測定装置100の構成要素と同一の構成および機能を有するものには、同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0066】
図6は、本発明の実施の形態にかかるプローブ型光測定装置200の構成を示すブロック図である。
プローブ型光測定装置200は、図6に示すように、導電性と光透過性とを有するプローブ110によって、容器2の中に設置された被測定試料1に対する光照射光測定および電流注入光測定を実施するものであり、プローブ110と、電源部120と、トンネル電流測定部130と、光測定部140と、制御ユニット150と、照射光光源260と、光分波器270と、分光器280と、光変調器290とから構成されている。
【0067】
照射光光源260は、光照射光測定を実行する際に、被測定試料1の表面に対しプローブ110を介して照射する照射光を発光する。本実施の形態においては、照射光光源260から発光される照射光はレーザ光とする。以下、照射光は、照射光光源260から発光されたレーザ光として、説明する。
【0068】
光分波器270は、プローブ110の先端によって集光された被測定試料1からの信号光を光測定部140へ選択的に導光する。
例えば、光分波器270に照射光光源260から発光されるレーザ光を全反射させてプローブ110へ導光するハーフミラー271と、プローブ110の先端によって集光された被測定試料1から反射した照射光の成分を減衰させかつ被測定試料1からの信号光成分を透過させる光バンドパスフィルタ(光BPF)272とを備えることにより、照射光光源140から発光された照射光をプローブ110へ導光し、かつ、プローブ110の先端によって集光された被測定試料1からの信号光を光測定部140へ選択的に導光することができる。
【0069】
分光器280は、光分波器270によって導光された信号光を分光して波長毎に分解されたスペクトルを生成し、光測定部140へこのスペクトルを出力する。
光変調器290は、照射光光源260から発光される照射光の周期を任意の周期で発光するパルス光へ変調して光分波器270へ出力する。
【0070】
次に、本実施の形態にかかるプローブ型光測定装置200の上述した各構成要素の接続関係について、特に、光照射光測定を実行する各構成要素の接続関係を説明する。
【0071】
プローブ110の後端には、図6に示すように、光伝送用の光ファイバ3−aが取り付けられており、容器2の外には照射光光源260,光変調器290,光分波器270,分光器280,光測定部140とが設置されている。
また、光測定部140および分光器280には光ファイバ3−bが、照射光光源260および光変量器290には光ファイバ3−cが、光の入出力用としてそれぞれ接続されている。
【0072】
また、光分波器270には、プローブ110、照射光光源260および光測定部140の3方向に光ファイバを接続するためのコネクタ273−1,273−2,273−3が取り付けられており、コネクタ273−1はプローブ110と、コネクタ273−2は分光器280および光測定部140と、コネクタ273−3は光変調器290および照射光光源260とを、それぞれ光ファイバ4−a,4−b,4−cを介して接続する。
このように、プローブ110と光測定部140の間の光伝送路中に、照射光光源260からの照射光が混入することを防ぎ、かつ、被測定試料1からの信号光を低損失で透過させる機能を持つ光分波器270を設置した。
【0073】
次に、本実施の形態にかかるプローブ型光測定装置200の動作、特に光照射光測定の動作について、説明する。
光励起の発光を測定する場合には、光励起発光が生じる程度に強い照射光を照射光光源260から照射する一方で、トンネル電流励起による発光を生じさせないようバイアス電圧を低くする。なお、ここで、バイアス電圧の極性として、プローブ110を正極あるいは負極の何れに設定するものであってもよい。
また、トンネル電流励起の発光を測定する場合では、トンネル電流励起による発光が生じる程度に高いバイアス電圧を供給する一方で、照射光励起による発光を生じさせないよう照射光光源260からの発光強度を低くしまたは停止させる。
【0074】
光励起の発光を測定する場合、本実施の形態にかかるプローブ型光測定装置200は、光励起発光が生じる程度に強い照射光(レーザ光)を照射光光源260から発光させるとともに、トンネル電流による発光が生じないようにバイアス電圧を低くする。
光変調器290は、被測定試料1からの信号光の時間分解測定を行うため、照射光光源260から発光される連続光であるレーザー光を所定の周期で発光するパルスレーザー光へ変調し、光ファイバ4−cを介して光分波器270へ出力する。
【0075】
光分波器270のコネクタ273−1,273−2,273−3の延長線が交差する位置に設置されたハーフミラー271は、光伝送路に対して45°の確度で設置されており、パルスレーザ光の反射成分の波長に対しては反射率が高くなり、信号光の波長に対しては透過率が高くなるように設定されている。そのため、照射光源260から発光され光変調器290によって変調されたパルスレーザー光は、ハーフミラー271で反射され直角に光路を曲げられコネクタ273−1へ導光される。このパルスレーザ光は、光ファイバ4−aを介してプローブ110へ導光されプローブ110から被測定試料1に対して照射される。
また、光分波器270の光BPF272は、コネクタ273−1を経由して導光された被測定試料1からの信号光と、被測定試料1の表面で反射したパルスレーザー光の反射成分とが混合された光(以下、「混合光信号」という。)を受信する。光BPF272は、混合光信号のうち、パルスレーザー光の反射成分のみを減衰させ、被測定試料1からの信号光の成分を透過させる働きをする。
【0076】
具体的には、プローブ110で集光される光(混合信号光)のうち、被測定試料1からの信号光は、プローブ110で集光され光ファイバ4−aを介してコネクタ273−1にパルスレーザ光の照射方向とは逆方向に伝送される。コネクタ273−1から出力される信号光は、特に図示しないが、光分波器270内でレンズにより平行光にコリメートされてから直進してハーフミラー271に達する。ハーフミラーは、上述したように、パルスレーザ光の反射成分の波長に対しては反射率が高くなり、信号光の波長に対しては透過率が高くなるように設定されている。そのため、被測定試料1からの信号光はハーフミラー271を透過してコネクタ273−2へ導光される。
【0077】
一方、混合信号光のうち、混入したパルスレーザ光の反射成分は、信号光に比べてはるかに光強度が高く、このまま光測定部140へ導光されると信号光の測定に悪影響を及ぼすため、除去しなければならない。混合信号光に含まれるパルスレーザ光の反射成分もコネクタ273−1を経由してハーフミラー271に到達するが、ハーフミラー271は、パルスレーザ光の反射成分の波長に対して高い反射率を持つことから、パルスレーザ光の反射成分をコネクタ273−3の方向に反射させてコネクタ273−2の方向には透過させない。
よって、ハーフミラー271は、混合信号光のうち信号光の成分のみを光測定部140へ導光する。ここで、ひかりBPF272は、上記のようにハーフミラー271を透過した信号光以外の不要光成分を除去するためのものである。
【0078】
上述したようなハーフミラー271の効果により、被測定試料1からの信号光を主成分とする光がコネクタ273−2へ導光され、光ファイバ4−bを介して分光器280および光測定部140に導かれる。光測定部140に入力した信号光は、分光器280によって波長毎に分解されたスペクトルとなり、光測定部140に備わる光検出器によって測定信号に変換される。
光測定部140は、光変調器290によって変調されたパルスレーザ光の周期に同期させて、分光器280より出力される信号光を波長分解したスペクトルを光検出器で測定する。
【0079】
一方、電流注入で生じる信号光を測定する場合では、レーザ光励起による発光が生じない程度に同じ測定位置でレーザ光の照射を停止させたのち、信号光の強度が十分になるまでバイアス電圧を高くする。この場合、信号光は光照射光測定の場合と同様に、ハーフミラー271を透過しコネクタ273−2を経由して光測定部140に入るが、照射光は存在していないので、高感度に信号光の検出ができる。すなわち、この光分波器270が組み込まれたプローブ型光測定装置では光照射と電流注入の両方の場合で信号光の高感度の測定が可能となる。
【0080】
次に、本実施の形態にかかるプローブ型光測定装置200の作用効果について、特許文献1に開示される従来技術によるカーボンナノチューブ(CNT)の測定例と比較することにより説明する。
CNTは太さが数ナノメータから数十ナノメータ程度と細く、発光特性は太さや周囲の環境に大きく影響される。一般的にCNTを調べる試料は平坦な基板上に多数のCNTを散布したものである。個々のCNTは太さや層構造などにばらつきがあり、着目した同一のCNTを測定しないと正確な特性は得られない。
したがって、同一のCNTに対してPL(フォトルミネッセンス)とTL(トンネル電子ルミネッセンス)とを行うにはナノメータ・レベルの精度で位置合わせをしなくてはならない。ところがPLとTLを別々の測定装置で測定した場合には、このような精度の位置合わせは事実上不可能であるため、別々の測定装置で測定されたPLスペクトルとTLスペクトルとの間の関連性は保証されない。
【0081】
しかし、特許文献1に開示されるプローブ光測定装置を用いることによりプローブの位置を変えることなくPL測定とTL測定とを実行することが可能になる。そのため、測定されたPLスペクトルとTLスペクトルとは同一のCNTに対するものであることが保証される。それゆえ、その結果を用いて意味のある分析ができる。
また、特許文献1に開示されるプローブ光測定では同一環境で両測定を実施することができるので、別々の装置で測定した時に問題となる試料表面の汚染や試料温度の差異等も生じない利点がある。
【0082】
ここで、特許文献1に開示されるプローブ光測定装置のプローブ走査機能を説明する図を、図7に示す。
図7に示すように、プローブは、ピエゾ効果を有するピエゾ素子Aなどを用いた精密駆動機構に、導電性と光透過性とを有するプローブ先端Bが搭載された構成をなしており、この精密駆動機構は容器に固定されている。また、プローブ先端Bは、被測定試料表面上の直近に配置されている。
プローブは、STMコントロールユニットCの平面走査制御部C−1とフィードバック制御部C−2とによって平面方向(図7におけるX−Y方向)の走査制御および垂直方向(図7におけるZ方向)の高さ制御がなされる。
【0083】
被測定試料1の表面をSTM観察するため、プローブ110を走査させる場合には、STMコントロールユニットCのフィードバック制御部C−1によるフィードバック制御の状態をONとし、トンネル電流検知部Dによって検知されるプローブの探針を流れるトンネル電流が一定となるようピエゾ素子Aに加えるピエゾ駆動電圧を制御し、平面走査制御部C−2によってプローブを平面走査させる。これにより、被測定試料1の表面の凹凸に起因したピエゾ駆動電圧の変化を観察することにより、被測定試料1の表面の凹凸に対応した画像を取得することができる。
【0084】
一方、上述のような特許文献1に開示されるプローブ光測定装置に、第1の実施の形態において説明した機能を備えるとともに波長分解した信号光を照射光の変調周期に同期して測定する機能を備える本実施の形態にかかるプローブ型光測定装置によれば、同一のCNTに対して走査トンネル分光(STS)の測定と走査トンネルルミネッセンス分光(STLS)の測定を同時に行うことができ、CNTの局所的な光物性を解明できるとともに、励起光源のパルス光の周期に同期させて光測定部による光測定を行うことにより、STM,STS,STLSで評価したCNTと同一のCNTに対して時間分解発光測定を行ことができる。これにより、個々のCNTの発光の起源をさらに詳細に解明することができる。
【0085】
すなわち、本実施の形態によれば、試料の同一の局所領域に対してSTS/STLS測定を同時に実行でき、かつ、試料の同一の局所領域に対する光励起による発光の時間分解測定を実行することができることにより、試料表面の発光メカニズムおよび電子状態の解明に有力な情報を同一のプローブ型光測定装置で取得することができる。
【0086】
なお、時間分解発光測定の際に用いる光測定部の光検出器は、検出する発光が微弱光であり、さらに、照射光との同期を取る必要があるため、ゲート機能を有する光検出器(例えば、フォトンカウンタ、ストリークカメラ、あるいはゲート機能を有したCCDカメラ)を用いることとする。
また、本実施の形態において、照射光光源から照射させる照射光は、トンネル電流励起の発光を測定する場合、照射光励起による発光を生じさせない程度に発光強度を低くしまたは停止させるとしたが、本発明にかかるプローブ型光測定装置は、STS/STLS測定の実行中において、照射光励起による発光を生じさせる程度の照射光を照射できる構成としても何ら問題ない。
【産業上の利用可能性】
【0087】
物質のナノメータサイズ領域の特性を観測するトンネル発光顕微鏡に利用することが可能である。
【符号の説明】
【0088】
100,200…プローブ型光測定装置、110…プローブ、120…電源部、130…トンネル電流測定部、140…光測定部、150…制御ユニット、260…照射光光源、270…光分波器、271…ハーフミラー、272…光バンドパスフィルタ、273−1〜273−3…コネクタ、280…分光器、290…光変調器、1…被測定試料、2…容器、3−a〜3−c…光ファイバ、A…ピエゾ素子(精密駆動部)、B…プローブ先端(導電性および光透過性)、C…STMコントロールユニット、C−1…平面走査制御部、C−2…フィードバック制御部、D…トンネル電流検知部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が導電性と光透過性とを有するプローブと、
被測定試料の表面と前記プローブとの間にバイアス電圧を加える電源部と、
所定の前記バイアス電圧が加えられたときに、前記被測定試料の表面と前記プローブとの間に発生するトンネル電流を測定するトンネル電流測定部と、
前記プローブの先端によって集光された、被測定試料から発せられる信号光を測定する光測定部と、
前記電源部によって加えられる前記バイアス電圧を変化させる制御ユニットと
を備え、
前記制御ユニットは、前記トンネル電流測定部および前記光測定部に、複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流およびトンネル電流励起による前記信号光をそれぞれ測定させることを特徴とするプローブ型光測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載されたプローブ型光測定装置において、
前記制御ユニットは、前記トンネル電流測定部および前記光測定部によって前記トンネル電流と前記トンネル電流励起による前記信号光とがそれぞれ測定されている間、前記バイアス電圧を一定の電圧値に保ち、前記トンネル電流と前記信号光との測定が終了した後に、前記バイアス電圧を所定の電圧値へ変化させることを特徴とするプローブ型光測定装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載されたプローブ型光測定装置において、
前記制御ユニットは、前記トンネル電流および前記トンネル電流励起による前記信号光を測定するときの複数レベルの前記バイアス電圧を、任意の第1の電圧値からこの第1の電圧値より高い任意の第2の電圧値の間に設定することを特徴とするプローブ型光測定装置。
【請求項4】
請求項3に記載されたプローブ型光測定装置において、
前記トンネル電流測定部および光測定部は、前記第1の電圧値から順次高い前記複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流および前記トンネル電流励起による前記信号光と、前記第2の電圧値から順次低い前記複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流および前記トンネル電流励起による前記信号光とをそれぞれ測定することを特徴とするプローブ型光測定装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載されたプローブ型光測定装置において、
照射光励起のための照射光を発光し前記プローブを介して照射する照射光光源と、
前記プローブの先端によって集光された照射光励起による前記信号光を前記光測定部へ選択的に導光する光分波器と
をさらに備え、
前記制御ユニットは、前記光測定部が前記トンネル電流励起による前記信号光を測定する場合、前記照射光の光強度を前記被測定試料から前記照射光励起による発光が生じない光強度に設定し、前記光測定部が前記照射光励起による前記信号光を測定する場合、前記バイアス電圧を前記被測定試料から前記トンネル電流励起による発光が生じない電圧値へ設定することを特徴とするプローブ型光測定装置。
【請求項6】
請求項5に記載されたプローブ型光測定装置において、
前記光分波器によって導光された前記信号光を分光して波長毎に分解されたスペクトルを出力する分光器と、
前記照射光を所定の周期で発光するパルス光へ変調する光変調器とをさらに備え、
前記光測定部は、前記照射光励起による前記信号光を測定する場合、前記パルス光の周期に同期して前記分光器により出力された前記信号光のスペクトルを測定することを特徴とするプローブ型光測定装置。
【請求項7】
先端が導電性と光透過性とを有するプローブと被測定試料の表面との間に一定のバイアス電圧を加えるステップと、
所定の前記バイアス電圧が加えられるときに前記プローブと前記被測定試料の表面との間に発生するトンネル電流とトンネル電流励起による前記被測定試料から発せられる信号光とを測定するステップと、
前記バイアス電圧を変更するステップと
を備え、
複数レベルの前記バイアス電圧に対して前記トンネル電流および前記信号光を測定することを特徴とする光測定方法。
【請求項8】
請求項7に記載された光測定方法において、
前記バイアス電圧を変更するステップは、前記トンネル電流および前記トンネル電流励起による前記信号光を測定するときの前記複数レベルの前記バイアス電圧を、任意の第1の電圧値からこの第1の電圧値より高い任意の第2の電圧値の間に設定することを特徴とする光測定方法。
【請求項9】
請求項7または8に記載された光測定方法において、
前記バイアス電圧を加えるステップは、前記トンネル電流および前記信号光を測定するステップにより前記トンネル電流と前記信号光との測定が実行されている間、加える前記バイアス電圧を一定の電圧値に保ち、
前記バイアス電圧を変更するステップは、前記トンネル電流と前記信号光との測定が終了した後、加える前記バイアス電圧を所定の電圧値へ変化させることを特徴とする光測定方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれかに記載された光測定方法において、
前記トンネル電流とトンネル電流励起による前記被測定試料から発せられる信号光とを測定するステップは、前記第1の電圧値から順次高い前記複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流および前記信号光と、前記第2の電圧値から順次低い前記複数レベルの前記バイアス電圧に対する前記トンネル電流および前記信号光とをそれぞれ測定することを特徴とする光測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−88283(P2012−88283A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237663(P2010−237663)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】