説明

プローブ針

【課題】主に電子部品及び基板などの導通検査に用いる検査用のプローブユニットへの組み付け時やプローブユニットの使用時において、プローブユニットに設けられたプローブ針装着穴に対する滑り性等に優れたプローブ針を提供する。
【解決手段】ピン形状の金属導体2の外周に多層絶縁被膜3を有する胴体部と、金属導体2の両端に多層絶縁被膜3を有しない端部2a,2bとを有するプローブ針1であって、多層絶縁被膜3が、金属導体2上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜4と、ベース被膜4上に設けられて滑り性を有するフッ素系被膜5とで少なくとも構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り性に優れたプローブ針に関し、更に詳しくは、主に電子部品及び基板などの導通検査に用いる検査用のプローブユニットへの組み付け時やプローブユニットの使用時において、プローブユニットに設けられたプローブ針装着穴に対する滑り性等に優れたプローブ針に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等に使用される高密度実装基板、又は、パソコン等に組み込まれるBGA(Ball Grid Array)やCSP(Chip Size Package)等のICパッケージ基板等、様々な回路基板が多く用いられている。このような回路基板は、実装の前後の工程において、例えば直流抵抗値の測定や導通検査等が行われ、その電気特性の良否が検査されている。電気特性の良否の検査は、電気特性を測定する検査装置に接続された検査装置用治具(以下、「プローブユニット」という。)を用いて行われ、例えば、プローブユニットに装着されたピン形状のプローブ針の先端を、その回路基板の電極(以下「被測定体」ともいう。)に接触させることにより行われている(例えば特許文献1を参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開2007−322369号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の図6、図7及び図9には、各種形態のプローブ針を装着しプローブユニットが記載されているが、こうしたプローブユニットへのプローブ針の組み付けは、ガイド板(特許文献1中の符号20,30,120,130)に設けられた複数から数千のプローブ針装着穴(以下、単に「穴」という。)それぞれにプローブ針を一本ずつ挿入して行われる。そのため、穴への挿入を容易に行うためには、プローブ針の表面の絶縁被膜は滑り性に優れることが望ましい。
【0005】
また、プローブユニットに組み付けられたプローブ針は、その後のプローブユニットの駆動によりプローブ針とプローブユニットの穴との間で擦れが生じる。こうした擦れは、(1)発生した摩擦抵抗によりプローブ針と穴との間の円滑な摺動が妨げられて摺動不良が起こる、(2)そうした摺動不良により検査精度が低下して検査不良が生じる、(3)プローブ針表面の絶縁被膜やプローブユニットの穴が負荷を受けてそれぞれの寿命が低下する、等の問題が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的は、主に電子部品及び基板などの導通検査に用いる検査用のプローブユニットへの組み付け時やプローブユニットの使用時において、プローブユニットに設けられたプローブ針装着穴に対する滑り性等に優れたプローブ針を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明のプローブ針は、ピン形状の金属導体の外周に多層絶縁被膜を有する胴体部と、前記金属導体の両端に該多層絶縁被膜を有しない端部とを有するプローブ針であって、前記多層絶縁被膜が、前記金属導体上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜と、該ベース被膜上に設けられて滑り性を有するフッ素系被膜とで少なくとも構成されていることを特徴とする。
【0008】
この発明によれば、多層絶縁被膜が、金属導体上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜と、そのベース被膜上に設けられて滑り性を有するフッ素系被膜とで少なくとも構成されているので、プローブ針全体としての被膜強度と耐電圧を確保できるとともに、フッ素系被膜の良好な滑り性によりプローブユニットへの装着時や使用時に生じ得る上記課題(穴への挿入の容易化、摺動不良・検査不良の低減、プローブ針・プローブユニットの寿命向上)を解決することができる。
【0009】
本発明のプローブ針の好ましい態様は、前記フッ素系被膜が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、及びクロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体から選ばれるいずれか1又は2以上を含むように構成する。
【0010】
本発明のプローブ針の好ましい態様は、前記ベース被膜が、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選ばれる少なくとも1又は2以上の樹脂を含むように構成する。
【0011】
本発明のプローブ針の好ましい態様は、前記フッ素系被膜が、着色剤により着色されているように構成する。
【0012】
この発明によれば、フッ素系被膜が着色剤により着色されているので、上記の作用効果に加え、着色されたフッ素系被膜の色によってプローブ針の種類等を識別できる。
【0013】
本発明のプローブ針の好ましい態様は、前記フッ素系被膜の色を、前記金属導体の線径、前記多層絶縁被膜の厚さ、前記金属導体の端部形状等の構造仕様が異なる毎に識別可能に変えているように構成する。
【0014】
この発明によれば、フッ素系被膜の色を金属導体の線径、多層絶縁被膜の厚さ、金属導体の端部形状等の構造仕様が異なる毎に識別可能に変えているので、上記の作用効果に加え、フッ素系被膜の色によってプローブ針を仕様毎に識別できる。その結果、仕様の異なる複数種のプローブ針を管理したり併用したりする場合において、それらを容易且つ誤り無く管理することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のプローブ針によれば、プローブ針全体としての被膜強度と耐電圧を確保できるとともに、フッ素系被膜の良好な滑り性によりプローブユニットへの装着時や使用時に生じ得る上記課題(穴への挿入の容易化、摺動不良・検査不良の低減、プローブ針・プローブユニットの寿命向上)を解決することができる。
【0016】
また、本発明のプローブ針によれば、上記効果に加え、着色されたフッ素系被膜の色によってプローブ針の仕様毎に識別できるので、仕様の異なる複数種のプローブ針を管理したり併用したりする場合において、それらを容易且つ誤り無く管理することができる。特に、プローブユニット毎に異なる仕様のプローブ針を用いる場合には、本来組み付けるプローブユニットではないプローブユニットに異なる仕様のプローブ針を装着してしまうことがなく、また、仕様の異なるプローブ針を単一のプローブユニットに併用する場合には、本来組み付ける箇所ではない箇所に異なる金属導体径のプローブ針を装着してしまうことを防ぐこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明のプローブ針について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0018】
[プローブ針]
図1は本発明のプローブ針の一例を示す模式断面図であり、図2は本発明のプローブ針の全体形状の一例を示す模式平面図である。また、図3は、本発明のプローブ針を装着したプローブユニットの一例を示す概略構成図である。本発明のプローブ針1は、図1及び図2に示すように、ピン形状の金属導体2の外周に多層絶縁被膜3を有する胴体部と、金属導体2の両端に多層絶縁被膜3を有しない端部とを有し、その両端に加重を与えてたわませることにより被測定体に対する接触圧力を得て電気特性を測定する方式のプローブ針である。そして、このプローブ針1の特徴は、その多層絶縁被膜3が、金属導体2上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜4と、そのベース被膜4上に設けられて滑り性を有するフッ素系被膜5とで少なくとも構成されていることにある。
【0019】
図2において、端部2aは、被測定体側に配置されて図3に示す被測定体11の電極12に接触する「先端」側の金属導体2の端部であり、端部2bは、検査装置側に配置されて検査装置(図示しない)のリード線50に接触する「後端」側の金属導体2の端部である。また、被膜端部3aは、上記先端側の多層絶縁被膜3の加工端部であり、被膜端部3bは、上記後端側の多層絶縁被膜3の加工端部である。また、本願において、片端部とは、本願発明のプローブ針1の特定の端部を指し、両端部とは、本願発明のプローブ針1の両側の端部を指す。また、図2の例では、プローブ針1の先端側(端部2a側)の金属導体2は、多層絶縁被膜3が設けられていない露出部を所定の長さ有し、後端側(端部2b側)の金属導体2は、多層絶縁被膜3が設けられていない露出部をあまり有していない態様であるが、その後端側(端部2b側)を先端側と同様にして金属導体2の露出部を有するようにしてもよい。
【0020】
以下、各構成要素について説明する。
【0021】
(金属導体)
金属導体2は、所定の長さに加工されてなるピン形状の導体であり、高い導電性と高い弾性率を有する金属線(「金属ばね線」ともいう。)を切断加工されている。金属導体2に用いられる金属としては、広い弾性域を持つ金属を挙げることができ、例えばベリリウム銅等の銅合金、タングステン、レニウムタングステン、鋼(例えば高速度鋼:SKH)等を好ましく用いることができる。
【0022】
金属導体2は、通常、上記の金属が所定の径の線状導体となるまで冷間又は熱間伸線等の塑性加工が施される。金属導体2の外径は、プローブユニット10(図3を参照。)において隣り合う各プローブ針1の間隔に応じて、20μm以上400μm以下、好ましくは25μm以上200μm以下の範囲内から任意に選択することができる。
【0023】
また、プローブ針1をプローブユニット10に装着し易くし、且つ、プローブユニット10の使用時においてプローブ針1の先端2aがガイド板20の案内穴に引っかかることによりプローブ針1の動きが妨げられるのを防止する観点からは、金属導体2の真直度が高いことが好ましく、具体的には真直度が曲率半径Rで1000mm以上であることが好ましい。真直度の高い金属導体2は、通常、多層絶縁被膜3が設けられる前の長尺の金属線を予め直線矯正処理することにより行われる。ここでの直線矯正処理は、例えば回転ダイス式直線矯正装置等によって行われる。
【0024】
金属導体2の先端側の端部2a及び/又は後端側の端部2bの形状は、図示しないが、半球形状、円錐形状、先端に半球形状を有する円錐形状、先端に平坦形状を有する円錐形状、等から選ばれるいずれかとすることができる。ここでいう「半球形状」、「円錐形状」は、正確な半球や円錐を含むが、略円錐や略半球も含む。
【0025】
金属導体2の端部2a,2bにおいては、金属導体2と、被測定体11の電極12又は検査装置のリード線50との接触抵抗値の上昇を抑制するために、めっき層が端部2a,2bに設けられていてもよい。めっき層を形成する金属としては、ニッケル、金、ロジウム等の金属や金合金等の合金を挙げることができる。めっき層は、単層であってもよいし複層であってもよい。複層のめっき層としては、ニッケルめっき層上に金めっき層が形成されたものを好ましく挙げることができる。めっき層は、通常、多層絶縁被膜3を形成した金属導体2を切断した後、多層絶縁被膜3の剥離加工と金属導体2の端部加工を行った後に形成される。
【0026】
(多層絶縁被膜)
多層絶縁被膜3は、図1に示すように、金属導体2上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜4と、そのベース被膜4上に設けられて滑り性を有するフッ素系被膜5とで少なくとも構成されている。ここで、多層絶縁被膜3の構成を「少なくとも」としているのは、多層絶縁被膜3を構成するベース被膜4とフッ素系被膜5以外に、他の被膜を有していてもよいことを意味するが、その場合における他の被膜は、フッ素系被膜5上の最外層としては設けられず、金属導体2とベース被膜4との間、又は、ベース被膜4とフッ素系被膜5との間に設けられる。
【0027】
こうした多層絶縁被膜3は、基本的には、金属導体2上に設けられて被測定体11の電気特性を検査する際のプローブ針同士の接触を防いで短絡を防止するように作用するものであるが、更に加えて、ベース被膜4によりプローブ針全体としての被膜強度と耐電圧を確保するとともに、フッ素系被膜5の良好な滑り性によりプローブユニットへの装着時や使用時に生じ得る課題解決(穴への挿入の容易化、摺動不良・検査不良の低減、プローブ針・プローブユニットの寿命向上)を実現することができる。
【0028】
ベース被膜4は、プローブ針全体としての被膜強度と耐電圧を担保する役割を有するものであり、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選ばれる少なくとも1又は2以上の樹脂を含むように構成される。なお、より耐熱性が要求される場合には、ポリエステルイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂等で形成されることが好ましい。
【0029】
ベース被膜4の厚さは、金属導体2の種類と外径、フッ素系被膜5を含めた最終的なプローブ針1にどの程度の被膜強度と耐電圧を持たせるか等によって任意に設定されるが、通常は1μm以上50μm以下程度、好ましくは3μm以上40μm以下程度の範囲を例示できる。金属導体2上へのベース被膜4の形成は、通常、長尺の金属導体2上に連続エナメル焼き付け方法によって行うことが好ましいが、もちろん他の方法で形成したものであってもよい。
【0030】
ここで、ベース被膜4が担保する被膜強度は、本願では後述の実施例で説明するピール試験で測定したベース被膜4と金属導体2との密着力(密着性)で評価した。被膜強度(密着力)は0.5N以上程度であればよく、0.7N以上程度であればより好ましい。また、ベース被膜4が担保する耐電圧についても、「JIS C 3003 エナメル線試験方法の絶縁破壊試験」によって測定した値で評価し、1.0kV以上であればよく、1.5kV以上であればより好ましい。なお、被膜強度と耐電圧の好ましい値は、ベース被膜4の膜厚を厚くすることにより実現することができる。
【0031】
フッ素系被膜5は、プローブ針に優れた滑り性を担保する役割を有するものであり、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びクロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)から選ばれるいずれか1又は2以上を含むように構成される。フッ素系被膜5の厚さは、金属導体2の外径、ベース被膜4の種類と厚さ等によって任意に設定されるが、通常は2μm以上50μm以下程度、好ましくは5μm以上30μm以下程度の範囲を例示できる。ベース被膜4上へのフッ素系被膜5の形成は、通常、ベース被膜4を形成した後の長尺の金属導体2上に連続焼き付け方法によって行うことが好ましいが、もちろん他の方法で形成したものであってもよい。
【0032】
ここで、フッ素系被膜5が担保する滑り性については、ベース被膜4とフッ素系被膜5とからなる多層絶縁被膜3を形成したプローブ針1を2本垂直に交差させて所定の荷重を負荷し、一方のプローブ針1を引抜いたときの摩擦係数を測定して評価した。滑り性は、摩擦係数が0.2以下程度であればよく、0.08以下程度であればより好ましい。
【0033】
フッ素系被膜5は、上記したベース被膜4に比べて被膜強度と耐電圧は乏しいという性質があるが、本発明では、これら被膜強度と耐電圧は上記のベース被膜4で担保させ、滑り性をフッ素系被膜5で担保させることができるので、極めてバランスのよい多層絶縁被膜3とすることができる。しかも、ベース被膜4とフッ素系被膜5との密着性も優れているので、層間剥離等も生じないという利点がある。
【0034】
本発明においては、フッ素系被膜5が、着色剤により着色されているように構成することもできる。着色剤としては、クロモフタールブルー4GNP(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、イルガライトグリーン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)、クロモフタールレッドBRN(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)等の顔料を挙げることができ、これらの着色剤の1又は2以上をフッ素系被膜5の構成樹脂中に所定量配合することにより、所望の色にすることができる。そうした色としては、青、緑、黄、赤等を挙げることができる。着色剤をフッ素系被膜5の上記構成樹脂に配合してなるフッ素系被膜5をベース被膜4上に設けて多層絶縁被膜3を構成した場合の方が、着色剤をベース被膜4の上記構成樹脂に配合して絶縁被膜を構成した場合よりも、色味が鮮明であり、各色によって識別可能となる。
【0035】
着色させたフッ素系被膜5を利用し、その色によってプローブ針1の種類等を識別することができる。仕様の異なる複数種のプローブ針1としては、例えば、金属導体2の外径が異なるもの、金属導体2の端部形状が異なるもの、絶縁被膜3の厚さや端部形状の異なるもの、金属導体2の長さが異なるもの等々を挙げることができる。こうした場合において、仕様毎にフッ素系被膜5の色を変化させて識別可能にすることにより、複数種のプローブ針1を管理したり併用したりする場合において、それらを容易且つ誤り無く管理することができる。特に、プローブユニット毎に異なる仕様のプローブ針1を用いる場合には、本来組み付けるプローブユニットではないプローブユニットに異なる仕様のプローブ針を装着してしまうことがなく、また、仕様の異なるプローブ針を単一のプローブユニットに併用する場合には、本来組み付ける箇所ではない箇所に異なる金属導体径のプローブ針を装着してしまうことを防ぐこともできる。
【0036】
以上、ベース被膜4とフッ素系被膜5とを少なくとも有する多層絶縁被膜3が構成されるが、その多層絶縁被膜3の総厚さは、金属導体2の外径や、最終的なプローブ針1にどの程度の被膜強度と耐電圧を持たせるか、また、滑り性を持たせるか等によって任意に設定されるが、通常は3μm以上100μm以下程度、好ましくは6μm以上70μm以下程度の範囲を例示できる。
【0037】
こうして得られた本発明のプローブ針1は、ベース被膜4によりプローブ針全体としての被膜強度と耐電圧を確保できるとともに、フッ素系被膜5の良好な滑り性によりプローブユニットへの装着時や使用時に生じ得る上記課題解決(穴への挿入の容易化、摺動不良・検査不良の低減、プローブ針・プローブユニットの寿命向上)を実現することができる。また、上記効果に加え、着色されたフッ素系被膜5の色によってプローブ針1の仕様毎に識別できるので、仕様の異なる複数種のプローブ針1を管理したり併用したりする場合において、それらを容易且つ誤り無く管理することができる。
【0038】
(製造方法)
次に、上記本発明のプローブ針の製造方法について説明する。プローブ針1の製造方法としては、例えば、長尺の金属導体2を準備する工程と、その長尺の金属導体2上にベース被膜4を形成する工程と、そのベース被膜4上にフッ素系被膜5を形成する工程と、多層絶縁被膜3が形成された長尺の金属導体2を切断する工程と、切断された多層絶縁被膜付き金属導体2の片端部又は両端部を加工する工程と、を有する。
【0039】
長尺の金属導体2を準備する工程は、金属を所定の径の線状導体となるまで冷間又は熱間圧延乃至伸線等の塑性加工する工程である。こうして準備された長尺の金属導体2は、好ましくは通常の連続焼き付け装置(エナメル線の製造装置)に供され、長尺の金属導体2上に連続してベース被膜4を形成する。なお、この連続焼き付け装置は、ボビン等の線材供線装置から繰出された線状の金属導体(以下、線材ともいう。)に、塗料槽にてエナメル塗料を塗布した後、その直後に設けたダイスやフェルト等の塗料絞り具で線材表面の塗布塗料を略均一厚さに扱き、その後その線材を電熱炉や熱風循環炉等の高温の焼付炉に導入し、炉内で線材上に塗布された塗料中の溶剤を揮発除去して塗料を反応硬化させ、硬化塗膜層を線材表面に形成して焼付炉から導出し、導出された線材を再び塗料槽、塗料絞り具及び焼付炉を通過させる工程を複数回繰り返し、線材表面に所望の厚さの硬化塗膜層を形成した後、キャプスタン等の引取装置により引取りボビン等の巻取装置に巻き取ることによって、連続して焼付けエナメル被膜を形成する装置である。こうした連続焼き付け装置を用いることにより、均一な膜厚を有する被膜を簡便に形成することができる。この工程においては、通常、ベース被膜4が所望の厚さになるまで、エナメル塗料の塗布と焼付けが繰り返し行われる。エナメル塗料は、プローブ針の説明箇所で既に説明した樹脂と有機溶媒とを混合して調製される。
【0040】
次に、上記同様の連続焼き付け装置により、ベース被膜4上にフッ素系被膜5を形成する。連続焼き付け装置については上記したのと同様である。なお、上記したフッ素系被膜5の構成樹脂には、押出成膜タイプのものと塗布型成膜タイプのものがあるが、本発明では、塗布型成膜タイプのものを好ましく用いる。具体的には、押出成膜タイプのものでもフッ素系被膜の成膜は可能であるが、本発明のプローブ針1の用途としては厚さが厚くなりすぎて好ましくなく、さらに、焼成温度が高いために金属導体2が鈍ってしまい、寿命低下の原因になるという問題がある。一方、塗布型成膜タイプのものは、厚さを上記したフッ素系被膜5の厚さ範囲内にすることが可能であり、さらに焼成温度も比較的低く、金属導体2に与える影響が少ないという利点がある。
【0041】
次いで、多層絶縁被膜3が形成された長尺の金属導体2を切断し(切断工程)、その後、切断された多層絶縁被膜付き金属導体2の片端部又は両端部を加工する(端部加工工程)。切断工程は、多層絶縁被膜3が形成された長尺の金属導体2を所定の長さに定尺切断する工程である。この切断工程においては、例えば定尺切断装置等を用い、多層絶縁被膜3が形成された長尺の金属導体を、その端部が加工されることを考慮して所定の長さに切断する。
【0042】
切断工程に供される多層絶縁被膜3が形成された長尺の金属導体は、プローブ針1の説明箇所で既に説明したように、ばね性を有する長尺の金属導体2上にベース被膜4の構成樹脂塗料の塗布と焼付けを繰り返し行うベース被膜形成工程と、その後に引き続いて行われる、ベース被膜4上にフッ素系被膜5の構成樹脂塗料の塗布と焼付けを繰り返し行うフッ素系被膜形成工程とにより形成される。
【0043】
なお、切断工程の前には、金属導体の真直度を高めておくことが望ましい。そのための手段としては、真直度の高い金属導体2を入手し、その金属導体を用いて多層絶縁被膜3を形成したり、金属導体2を真直矯正し、その金属導体2を用いて多層絶縁被膜3を形成したりすることが好ましい。直線矯正は、長尺の金属導体2に軸方向の張力を加えながら電流焼鈍することにより行うことができる。なお、真直度の高い多層絶縁被膜付き金属導体としては、例えば、本件特許出願人である東京特殊電線株式会社の有する特許(特許第3415442号)に係る材料が好ましく用いられる。
【0044】
端部加工工程は、切断された多層絶縁被膜付き金属導体2の片端部又は両端部について、金属導体2の端部(2a,2b)と多層絶縁被膜3の端部(3a,3b)を同時又は別時に研削加工等する工程である。この端部加工工程後には、加工した後の端部(すなわち金属導体が露出した端部)をめっき処理するめっき工程を設けてもよい。このめっき工程により、接触抵抗を低下させるためのめっき層を端部に形成することができる。
【0045】
更に、端部加工工程後には、例えば図2に示すように、プローブ針1の被測定体側の先端側の端部2aから一定の長さ分だけ多層絶縁被膜3を除去した領域を形成する絶縁被膜除去工程を有していてもよい。多層絶縁被膜3を除去した側の多層絶縁被膜3の端部3aは、電気特性の測定時に用いられるガイド板20の案内穴に当接し、プローブユニット10が備えるガイド板20からのプローブ針1の抜け落ちをなくすストッパーとして機能する。このときの多層絶縁被膜3の除去は、剥離しようとする領域にレーザー光を照射したり、ストリッパー等の機械的な剥離手段を用いたりして行うことができる。このときの多層絶縁被膜3の除去は、端部を研削加工する前に行ってもよいし後に行ってもよい。また、多層絶縁被膜3の除去が端部を研削加工した後に行う場合には、その絶縁被膜の除去は上記めっき工程の前に行ってもよいし後に行ってもよいが、めっき工程後に行われることが好ましい。
【0046】
(プローブ針を用いた電気特性の検査方法)
次に、上述した本発明のプローブ針を用いた電気特性の検査方法について説明する。図3は本発明のプローブ針を備えたプローブユニットを用いて被測定体の電気特性を検査する方法を説明するための模式断面図である。なお、ここでの検査方法は一例であり、図示の装置構成に限定されないことは言うまでもない。
【0047】
本発明のプローブ針1は、プローブユニット10に装着されて回路基板等の被測定体11の電気特性の良否の検査に利用される。プローブユニット10は、図3に示すように、複数本から数千本のプローブ針1と、プローブ針1を被測定体11の電極12にガイドするガイド板20と、プローブ針1を検査装置のリード線50にガイドするガイド板30とを備えている。検査装置側のガイド板30は、プローブ針1の外径よりも若干大きい案内穴を有し、その案内穴は一本一本のプローブ針1の金属導体2をリード線50にガイドする。被測定体側のガイド板20は、図3に示す形態のプローブユニット10においては、金属導体2の直径よりも若干大きい案内穴を有し、その案内穴は一本一本のプローブ針1の金属導体2を電極21にガイドする。
【0048】
プローブユニット10と被測定体11は、被測定体11の電気特性を検査する際、プローブ針1と電極12とが対応するように位置制御される。電気特性の検査は、プローブユニット10を上下させ、プローブ針1の弾性力を利用して被測定体11の電極12にプローブ針1の先端2aを所定の圧力で押し当てることにより行われる。このとき、プローブ針1の後端2bはリード線50に接触し、被測定体11からの電気信号がそのリード線50を通って検査装置(図示しない。)に送られる。なお、図3中、符号40はリード線用の保持板を示している。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例に基づいて説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【0050】
(実施例1)
金属導体2として、長尺の真直ベリリウム銅線(外径0.065mm)を用いた。また、多層絶縁被膜3については、ベース被膜用の塗料として、ポリエステル樹脂系のエナメル塗料(東特塗料株式会社製、商品名:L3330KF−N)を用い、フッ素系被膜用の塗料として、フッ素樹脂エナメル塗料(デュポン社製、商品名:954−101)を用いた。顔料としては、緑色顔料であるイルガライトグリーン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を用い、上記のフッ素系被膜用の塗料に配合させた。
【0051】
まず、ボビン等の線材供線装置から繰出された上記ベリリウム銅線からなる線材に、塗料槽にて上記ポリエステル樹脂系のエナメル塗料を塗布した。その後、直後に設けたフェルト(塗料絞り具)で線材表面の塗布塗料を略均一厚さに扱き、その後その線材を焼付炉に導入し、炉内で線材上に塗布された塗料中の溶剤を揮発除去して塗料を反応硬化させ、硬化塗膜層を線材表面に形成して焼付炉から導出し、導出された線材を再び塗料槽、塗料絞り具及び焼付炉を順次通過させる工程を3回繰り返し、線材表面に厚さ7.5μmの硬化塗膜層であるベース被膜4を形成した。引き続いて、そのベース被膜4上に、塗料槽にて上記フッ素系樹脂塗料(顔料含む。)を塗布し、上記同様の連続焼き付け工程に供して、塗料槽、塗料絞り具及び焼付炉を順次通過させる工程を5回繰り返し、ベース被膜表面に厚さ7.5μmの硬化塗膜層であるフッ素系被膜5を形成した。そして、キャプスタン等の引取装置により引取りボビン等の巻取装置に巻き取った。なお、連続焼き付け工程は、ベース被膜形成時においては、炉長3m、炉温450℃、供線速度10m/分で行い、フッ素系被膜形成時においては、炉長3m、炉温350℃、供線速度10m/分で行った。本願におけるベース被膜4とフッ素系被膜5の「厚さ」は、LASER SCAN MICROMETER(Mitutoyo社製、測定部型番:LSM−500S、表示部型番:LSM−6200)を用いて、インラインで連続測定した外径測定結果に基づいて、「平均膜厚」で評価している。
【0052】
次に、多層絶縁被膜3(総厚15μm)が形成された長尺の金属導体を定尺切断機で切断して長さ25mmの多層絶縁被膜付き金属導体を切り出し、その多層絶縁被膜付き金属導体の両端部を研削加工装置によりベリリウム銅線と多層絶縁被膜3とを同時に半球形状に加工した。研削加工は、エメリー紙を貼った回転円盤上に定尺切断した多層絶縁被膜付き金属導体の端部を押し当てて研削した。その後、先端側の多層絶縁被膜3を所定長さレーザー剥離し、図2に示す態様からなる実施例1のプローブ針1を製造した。なお、ここで成膜されたフッ素系被膜は、鮮やかな緑色を呈していた。
【0053】
(実施例2)
フッ素系被膜用の塗料として、フッ素樹脂エナメル塗料(デュポン社製、商品名:954−103)を用い、顔料としては、赤色顔料であるクロモフタールレッドBRN(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を用い、上記のフッ素系被膜用の塗料に配合させた他は、実施例1と同様にして実施例2のプローブ針を製造した。
【0054】
(実施例3)
ベース被膜4の厚さを5μm、フッ素系被膜5の厚さを10μmとして総厚15μmの多層絶縁被膜3を形成した他は、実施例1と同様にして実施例3のプローブ針を製造した。
【0055】
(比較例1)
フッ素系被膜を形成せず、実施例1のベース被膜のみを厚さ15μmで形成した他は、実施例1と同様にして比較例1のプローブ針を製造した。なお、ここでは、緑色顔料であるイルガライトグリーン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製)を上記のベース被膜用の塗料に配合させた。
【0056】
(比較例2)
ベース被膜を形成せず、実施例1のフッ素系被膜のみを厚さ15μmで形成した他は、実施例1と同様にして比較例2のプローブ針を製造した。
【0057】
(各特性の測定、評価)
被膜強度(密着力)は、精密万能試験機(島津製作所社製、型番:AG−I)を用いたピール試験(密着性試験)で評価した。具体的には、金属導体径とほぼ同じ径(0.065mm〜0.067mm)のダイスに各プローブ針1の先端2aを通し、後端2bから荷重を与えたときの試験荷重を上記装置で検知し、得られた値を相互に比較して密着性を評価した。その値が大きいほど密着性に優れ、小さいほど密着性に劣ることになる。
【0058】
耐電圧は、自動交流耐圧試験機(東京精電社製、型番:ITS−20005T.SP)を用い、「JIS C 3003 エナメル線試験方法の絶縁破壊試験」の条件で測定した結果で評価した。
【0059】
滑り性は、精密万能試験機(島津製作所社製、型番:AG−I)を用い、被膜のついたプローブ針を2本垂直に交差させて所定の荷重(100g)を負荷し、一方のプローブ針を引抜いたときの摩擦係数を測定した結果で評価した。
【0060】
着色性(色味)は、目視により観察して鮮やかさと識別性を評価した。下記表1中、「優」は緑色が鮮やかに着色されており、他の色に対しても十分に識別可能である場合であり、「良」は前記ほどではないが緑色が着色されており、他の色に対しても識別可能である場合であり、「可」はよく見ると緑色が着色されており、他の色に対しても実用上識別可能である場合である。ここでは、「良」と「優」を採用可能なものとした。
【0061】
(評価と結果)
実施例1〜3及び比較例1,2について、被膜強度(密着性)、耐電圧、摩擦係数(滑り性)、着色性の評価結果を表1に示す。実施例1〜3のプローブ針はいずれの特性とも良好な結果であった。
【0062】
【表1】

【0063】
この実験結果をもとにさらに検討を行った結果、多層絶縁被膜3の「着色性」を考慮しなくてもよい場合には、[ベース被膜の厚さ]と[フッ素系被膜の厚さ]との関係は各特性(被膜強度、耐電圧、摩擦係数)を考慮して上述した任意の厚さ範囲に設定されることが望ましいが、一方、多層絶縁被膜3の「着色性」を考慮する場合には、表1の結果より、フッ素系被膜にはある程度の厚さが最低限必要となる。
【0064】
この点について検討した結果、着色性の観点からは、フッ素系被膜の厚さは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましいことが分かった。なお、上限は既述のとおりである。さらに加えて、[ベース被膜の厚さ]と[フッ素系被膜の厚さ]との関係からは、着色性を保持し且つ必要な被膜強度と耐電圧を確保できる厚さ(既述のように1μm以上、好ましくは3μm以上。)という前提のもとでは、[ベース被膜の厚さ]/[フッ素系被膜の厚さ]=1/1〜0.1/1であることが好ましいことが分かった。すなわち、着色性を保持できるフッ素系被膜の厚さは、ベース被膜の厚さ以上になることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明のプローブ針の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明のプローブ針の全体形状の一例を示す模式平面図である。
【図3】本発明のプローブ針を装着したプローブユニットの一例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0066】
1 プローブ針
2 金属導体
2a,2b 端部
3 多層絶縁被膜
3a,3b 端部
4 ベース被膜
5 フッ素系被膜
10 プローブユニット
11 被測定体
12 電極
20 被測定体側のガイド板
30 検査装置側のガイド板
40 リード線用の保持板
50 リード線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピン形状の金属導体の外周に多層絶縁被膜を有する胴体部と、前記金属導体の両端に該多層絶縁被膜を有しない端部とを有するプローブ針であって、
前記多層絶縁被膜が、前記金属導体上に設けられて被膜強度及び耐電圧を有するベース被膜と、該ベース被膜上に設けられて滑り性を有するフッ素系被膜とで少なくとも構成されていることを特徴とするプローブ針。
【請求項2】
前記フッ素系被膜が、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド、ポリクロロトリフルオロエチレン、及びクロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体から選ばれるいずれか1又は2以上を含む、請求項1に記載のプローブ針。
【請求項3】
前記ベース被膜が、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂から選ばれる少なくとも1又は2以上の樹脂を含む、請求項1又は2に記載のプローブ針。
【請求項4】
前記フッ素系被膜が、着色剤により着色されている、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプローブ針。
【請求項5】
前記フッ素系被膜の色を、前記金属導体の線径、前記多層絶縁被膜の厚さ、前記金属導体の端部形状等の構造仕様が異なる毎に識別可能に変えている、請求項4に記載のプローブ針。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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