説明

プーリ及びその製造方法

【課題】耐摩耗性を有すると共に、軽量化を図ったプーリを得る。
【解決手段】断面形状が略U字または略V字状に形成されて径方向外側に開いたプーリ溝8を有する外輪部材2を備える。また、外輪部材2の内周を装着可能な外筒部10と、外筒部10の一端側と接続し径方向内側に延出した周壁部12と、外筒部10の他端側から径方向外側に拡径した傾斜鍔部14とを有する内輪部材4を備える。外輪部材2と内輪部材4とをプレス成形する。外筒部10に装着した外輪部材2を傾斜鍔部14に接触させ周壁部12の一部から径方向外側に折り曲げ形成したかしめ部16を外輪部材2に接触させ、かしめ部16と傾斜鍔部14とにより外輪部材2を挟んで外輪部材2と内輪部材4とをかしめ固定した。内輪部材4は、外筒部10と同芯上に間隔をあけて内周に軸受部材6が装着される内筒部20を有し、内筒部20の一端側に周壁部12を接続した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ・ロープ等を巻き掛けるプーリ溝を有するプーリ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、特許文献1や特許文献2にあるように、ワイヤ・ロープ等が巻き掛けられるプーリは、構造用鋼材等から切削加工により形成したり、あるいは、鋳物からプーリ溝等を切削加工により形成したりしている。
【0003】
また、プーリの使用に際しては、プーリをフレームに回転可能に支持して滑車を構成し、滑車に所定の軸の廻りに揺動可能とした首振り機能を付与し、プーリ溝にワイヤ・ロープを巻き掛けて、ワイヤ・ロープを必要な方向に引き出すようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−138750号公報
【特許文献2】特開2009−299399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、こうした従来のものでは、切削加工により形成しており、ワイヤ・ロープ等を巻き掛けて使用した場合、ワイヤ・ロープの移動量に対してプーリ溝の周長が小さかったり、ワイヤ・ロープの硬度に対してプーリの硬度が小さかったりすると、プーリ自体が摩耗しやすく、ワイヤ・ロープ等の破損の一因となるという問題があった。
【0006】
また、切削加工によりプーリの幅を一定の厚さに形成すると、切削加工はしやすいが、プーリが厚くなり、重量が重くなるので、このプーリを用いた滑車の首振り機能や回転効率が落ちる要因の一因となるという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、耐摩耗性を有すると共に、軽量化を図ったプーリ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を達成すべく、本発明は課題を解決するため次の手段を取った。即ち、
断面形状が略U字または略V字状に形成されて径方向外側に開いたプーリ溝を有する外輪部材を備え、
また、前記外輪部材の内周を装着可能な外筒部と、前記外筒部の一端側と接続し径方向内側に延出した周壁部と、前記外筒部の他端側から径方向外側に拡径した傾斜鍔部とを有する内輪部材を備え、
前記外筒部に装着した前記外輪部材を前記傾斜鍔部に接触させ前記周壁部の一部から径方向外側に折り曲げ形成したかしめ部を前記外輪部材に接触させ、前記かしめ部と前記傾斜鍔部とにより前記外輪部材を挟んで前記外輪部材と前記内輪部材とをかしめ固定したことを特徴とするプーリがそれである。
【0009】
前記内輪部材は、前記外筒部と同芯上に間隔をあけて内周に軸受部材が装着される内筒部を有し、前記内筒部の一端側に前記周壁部を接続した構成としてもよい。その際、前記外輪部材と前記内輪部材とをプレス成形した構成としてもよい。
【0010】
断面形状が略U字または略V字状に形成されて径方向外側に開いたプーリ溝を有する外輪部材をプレス成形し、
また、前記外輪部材の内周を装着可能な外筒部と、前記外筒部の一端側と接続し径方向内側に延出した周壁部と、前記外筒部の他端側から径方向外側に拡径した傾斜鍔部とを有する内輪部材をプレス成形すると共に、前記内輪部材には前記周壁部の一部から前記外筒部の軸方向に延出したかしめ部をプレス成形し、
前記外筒部に前記外輪部材を装着して仮組みし、
かしめ治具により前記かしめ部を前記外輪部材の外側に折り曲げて前記かしめ部と前記傾斜鍔部とにより前記外輪部材を挟んで前記外輪部材と前記内輪部材とをかしめ固定したことを特徴とするプーリの製造方法がそれである。
【0011】
前記かしめ治具は前記外輪部材を前記傾斜鍔部に押し付け、前記かしめ部を傾斜面で押圧して前記外輪部材の外側に折り曲げてかしめ固定してもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のプーリ及びその製造方法によると、外輪部材をプレス成形するので、圧延材料から成形でき、プーリ溝の表面粗さを滑らかにできると共に、プレス加工表面の加工硬化により、耐摩耗性を向上させることができ、また、プレス成形により板材より形成するので肉厚を薄くでき、軽量化を図ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態としてのプーリの正面図である。
【図2】図1のAA断面図である。
【図3】本実施形態の外輪部材の正面図である。
【図4】図3のBB断面図である。
【図5】本実施形態のかしめ固定前の内輪部材の正面図である。
【図6】本実施形態のかしめ固定前の内輪部材の右側面図である。
【図7】図5のCC断面図である。
【図8】本実施形態のプーリを用いた滑車の正面図である。
【図9】本実施形態のかしめ固定開始状態のかしめ治具の断面図である。
【図10】本実施形態のかしめ固定終了状態のかしめ治具の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下本発明を実施するための形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1、図2に示すように、1はプーリで、プーリ1は、外輪部材2と、内輪部材4と、ボールベアリングを用いた軸受部材6とを備えている。図3、図4に示すように、外輪部材2はリング状に、かつ、断面形状が略U字または略V字状に形成されて、外輪部材2の外周に径方向外側に開いたプーリ溝8が形成されている。
【0015】
外輪部材2は圧延鋼板からプレス成形されており、例えば、圧延鋼板を絞り成形して円筒部を形成して、円筒部を断面形状が略U字または略V字状になるようにプレス成形している。プーリ溝8は底壁8aが円弧状で、底壁8aの両側から径方向外側に、傾斜した側壁8b,8cが形成されている。
【0016】
外輪部材2の素材に圧延鋼板を用いることができるので、プーリ溝8の表面粗さは滑らかで、しかも、プレス成形しているので、プーリ溝8の表面が加工硬化し、プーリ溝8の表面の硬度が硬く成形されてので、耐摩耗性が向上する。
【0017】
内輪部材4は、図5〜図7に示すように、外輪部材2の底壁8aの内周を装着可能な外筒部10を備え、外輪部材2の底壁8aの内周と外筒部10の外周との嵌め合いは、緩み嵌めでも、締まり嵌めでもよいが、径方向のガタは少ないほうがよい。
【0018】
また、内輪部材4は、外筒部10の一端側に接続し、径方向内側に向かって延出した周壁部12を備えると共に、外筒部10の他端側から径方向外側に拡径した傾斜鍔部14を備えている。傾斜鍔部14は、外筒部10に装着した外輪部材2の一方の側壁8cが接触するような傾斜角度に形成されている。必ずしも傾斜鍔部14と一方の側壁8cとが全面で密着する傾斜角度に形成する必要はない。
【0019】
外筒部10の他端側には、外筒部10から軸方向に延出したかしめ部16が形成されている。本実施形態では、かしめ部16は4箇所に設けられており、内輪部材4をプレス成形する際に、周壁部12の一部をコ字状に切り欠いて切欠18を形成している。切欠18は、外筒部10の外周にまで達するように形成されており、内輪部材4をプレス成形する際に、かしめ部16も形成される。
【0020】
内輪部材4には、外筒部10と同芯上に外筒部10の内側に間隔をあけて内筒部20が設けられている。内筒部20の内径は軸受部材6を圧入できるように形成されており、内筒部20の一端側には周壁部12が接続されている。内筒部20の軸方向長さは、軸受部材6の圧入により、軸受部材6と内筒部20とを固定できる程度に形成すればよい。
【0021】
尚、内筒部20と軸受部材6とをかしめ等により固定してもよく、軸受部材6はボールベアリングに限らず、滑り軸受でもよい。また、軸受部材6を設ける場合に限らす、内筒部20を図示しない軸に取り付けてもよく、あるいは、内筒部20を設けることなく、周壁部12を図示しない軸等に直接取り付けるようにしてもよい。
【0022】
外輪部材2と、内輪部材4と、軸受部材6とを一体に組み立てる際には、内輪部材4の内筒部20の内周に軸受部材6を圧入する。そして、内輪部材4の外筒部10に外輪部材2の内周を装着して、外輪部材2の一方の側壁8cを傾斜鍔部14に接触させて仮組する。
【0023】
この仮組した外輪部材2と、内輪部材4と、軸受部材6とを、図9に示すように、かしめ治具30に装着する。かしめ治具30は、固定側治具32と移動側治具34とを備え、固定側治具32は平坦なプレート36とプレート36に立設された円柱台38とを備えている。
【0024】
円柱台38の上端面38aには軸方向中心に逃げ孔40が形成されており、逃げ孔40は上端面38aに仮組した外輪部材2と、内輪部材4と、軸受部材6とを水平にして載せた際に、軸受部材6の内輪が接触しないように形成されている。逃げ孔40と同芯上に軸受部材6の内径にほぼ等しいガイド孔42が穿設されている。
【0025】
円柱台38の外径は内輪部材4の傾斜鍔部14の外径よりも大きく、外輪部材2の外径よりも小さく形成されている。上端面38aに仮組した外輪部材2と、内輪部材4と、軸受部材6とを傾斜鍔部14側を下にして水平に載せると、内輪部材4の傾斜鍔部14の外周下側が上端面38aに接触し、外輪部材2の外周下側は上端面38aに接触することなく円柱台38の外側に配置される。
【0026】
移動側治具34は、円柱状の第1移動側部材44と、第1移動側部材44が摺動可能に挿入された円筒状の第2移動側部材46とを備えている。第2移動側部材46の下端面46aは平坦に形成されると共に、下端面46aには軸方向に収納孔48が形成されている。収納孔48の直径は外輪部材2の外径よりも少し小さく形成されて、下端面46aが外輪部材2の外周端に接触できるように形成されている。
【0027】
また、第2移動側部材46には、収納孔48と同芯上に摺動孔50が形成され、摺動孔50に連接して大径孔52が形成されている。摺動孔50には第1移動側部材44が摺動可能に挿入され、大径孔52にはコイルばね54が挿入されると共に、コイルばね54は第1移動側部材44の後端に取り付けられた台板56と第2移動側部材46との間に介装され、第2移動側部材46を下方に付勢している。
【0028】
第1移動側部材44の下端側には、収納孔48に収納可能な大径部58が形成されており、大径部58の下端側には4つの爪部60が形成されている。また、第1移動側部材44の下端側から軸方向に逃げ孔62、連通孔64、挿入孔66が順に連接して形成されている。
【0029】
挿入孔66にはガイドピン68が挿入され、ガイドピン68の先端は軸受部材6の内輪とガイド孔42とに挿入できる直径に形成されており、ガイドピン68は第1移動側部材44から下方に突出されている。
【0030】
4つの爪部60は4つのかしめ部16にそれぞれ対応して形成されており、各爪部60は下側外向きの傾斜面60aが形成されており、図9、図10に示すように、上端面38aに仮組した外輪部材2と、内輪部材4と、軸受部材6とを水平にして載せて、移動側治具34を下降させた際に、傾斜面60aがかしめ部16の上端に接触するように形成されている。また、爪部60は、移動側治具34を下降させた際、切欠18に挿入できる大きさに形成されている。
【0031】
プーリ1を組み立てる際には、固定側治具32の上端面38aに仮組した外輪部材2と、内輪部材4と、軸受部材6とを水平にして載せる。そして、移動側治具34を下降させると、ガイドピン68の先端が軸受部材6の内輪内に挿入され、更に下降させるとガイド孔42に挿入される。
【0032】
これにより、仮組した外輪部材2、内輪部材4、軸受部材6とかしめ治具30との径方向の位置決めが行われる。そして、更に、移動側治具34を下降させると、爪部60の傾斜面60aがかしめ部16の上端に接触し、かしめ部16を径方向外側に折り曲げる。
【0033】
また、第2移動側部材46の下端面46aが外輪部材2に接触して、外輪部材2を押圧し、外輪部材2を傾斜鍔部14に押し付ける。外輪部材2が傾斜鍔部14に接触して押し付けられると、第2移動側部材46の下降は停止し、第1移動側部材44がコイルばね54の付勢力に抗して下降される。外輪部材2が傾斜鍔部14に接触して押し付けられた際に、傾斜鍔部14が円錐状に傾斜しているので、外輪部材2の軸方向中心と軸受部材6の軸方向中心との自動調整が行われると共に、外輪部材2の傾きも水平に調整される。
【0034】
第1移動側部材44が更に下降すると、傾斜面60aがかしめ部16を径方向外側に折り曲げて、かしめ部16を外輪部材2に接触させ、かしめ部16と傾斜鍔部14とにより外輪部材2を挟んで、外輪部材2を内輪部材4にかしめ固定する。かしめ固定により、プーリ1の組立が終了する。
【0035】
図8に示すように、この組み立てたプーリ1をフレーム71に支持軸72を介して組み込んで、滑車74を形成し、プーリ1に図示しないワイヤ・ロープを巻き掛ける。ワイヤ・ロープが移動すると、プーリ1が回転して、ワイヤ・ロープを滑らかに移動させる。
【0036】
プーリ1は板材からプレス成形されているので、重量が軽く、ワイヤ・ロープの移動に伴ってプーリ1が回転されると、プーリ1はワイヤ・ロープの移動に速やかに追従して回転する。また、本実施形態では、ワイヤ・ロープが移動方向に対して直交方向に振れると、フレーム71が揺動軸76の廻りに揺動する。この場合でも、プーリ1の重量が軽いので、ワイヤ・ロープの直交方向の振れに対しても、速やかにフレーム71が揺動してワイヤ・ロープを適切にガイドすることができる。
【0037】
組立に際しては、かしめ治具30を用いることにより、外輪部材2と内輪部材4とのかしめ固定を容易に行うことができる。しかも、外輪部材2と内輪部材4との特別の位置決め等に注意を払うことなく、容易に位置決めが行われ、かしめ固定作業が容易である。
【0038】
以上本発明はこの様な実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0039】
1…プーリ 2…外輪部材
4…内輪部材 6…軸受部材
8…プーリ溝 10…外筒部
12…周壁部 14…傾斜鍔部
16…かしめ部 18…切欠
20…内筒部 30…かしめ治具
32…固定側治具 34…移動側治具
38…円柱台 44…第1移動側部材
46…第2移動側部材 60…爪部
60a…傾斜面 68…ガイドピン
74…滑車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面形状が略U字または略V字状に形成されて径方向外側に開いたプーリ溝を有する外輪部材を備え、
また、前記外輪部材の内周を装着可能な外筒部と、前記外筒部の一端側と接続し径方向内側に延出した周壁部と、前記外筒部の他端側から径方向外側に拡径した傾斜鍔部とを有する内輪部材を備え、
前記外筒部に装着した前記外輪部材を前記傾斜鍔部に接触させ前記周壁部の一部から径方向外側に折り曲げ形成したかしめ部を前記外輪部材に接触させ、前記かしめ部と前記傾斜鍔部とにより前記外輪部材を挟んで前記外輪部材と前記内輪部材とをかしめ固定したことを特徴とするプーリ。
【請求項2】
前記内輪部材は、前記外筒部と同芯上に間隔をあけて内周に軸受部材が装着される内筒部を有し、前記内筒部の一端側に前記周壁部を接続したことを特徴とする請求項1に記載のプーリ。
【請求項3】
前記外輪部材と前記内輪部材とをプレス成形したことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のプーリ。
【請求項4】
断面形状が略U字または略V字状に形成されて径方向外側に開いたプーリ溝を有する外輪部材をプレス成形し、
また、前記外輪部材の内周を装着可能な外筒部と、前記外筒部の一端側と接続し径方向内側に延出した周壁部と、前記外筒部の他端側から径方向外側に拡径した傾斜鍔部とを有する内輪部材をプレス成形すると共に、前記内輪部材には前記周壁部の一部から前記外筒部の軸方向に延出したかしめ部をプレス成形し、
前記外筒部に前記外輪部材を装着して仮組みし、
かしめ治具により前記かしめ部を前記外輪部材の外側に折り曲げて前記かしめ部と前記傾斜鍔部とにより前記外輪部材を挟んで前記外輪部材と前記内輪部材とをかしめ固定したことを特徴とするプーリの製造方法。
【請求項5】
前記かしめ治具は前記外輪部材を前記傾斜鍔部に押し付け、前記かしめ部を傾斜面で押圧して前記外輪部材の外側に折り曲げてかしめ固定することを特徴とする請求項4に記載のプーリの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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