説明

ヘッドレスト及びヘッドレストの製造方法

【課題】ヘッドレスト内部に頭部を支持する板状部材が設けられたヘッドレストにおいて、板状部材に十分な剛性を付与すると共に、発泡合成樹脂を注入する際の空洞部の発生を防止することが可能なヘッドレスト及びヘッドレストの製造方法を提供する。
【解決手段】ヘッドレストHRは、袋状に形成された表皮材60と、表皮材60の内部に発泡合成樹脂を注入して一体発泡させたクッション材50と、表皮材60から外部へ延出するピラー部材30と、ピラー部材30に係止される板状部材40と、を備えている。板状部材40は、乗員の頭部を支持する前板部41と、前板部41の端部から発泡合成樹脂の注入方向に対し略直交する方向に延設された屈曲部42,43,44と、を有し、屈曲部42,43,44は、切り欠き部44a,44bが形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドレスト及びヘッドレストの製造方法に係り、特に袋状に形成した表皮内に発泡合成樹脂を注入して、クッション材を一体発泡させて形成されるヘッドレスト及びヘッドレストの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表皮一体発泡ヘッドレストは、複数の表皮部材を縫製して袋状の表皮を形成し、その表皮を成形型の型内に組み付けて、発泡合成樹脂を樹脂注入ノズルから表皮の内部に充填し、発泡合成樹脂を表皮と一体発泡させて、クッション材と表皮を一体に形成している。このような表皮一体発泡ヘッドレストにおいては、表皮の開口部から発泡合成樹脂が外部へ漏れることを防止するために、開口部は、表皮の端部(封止代)が各々内側へ折り返され、これらを当接させるように形成されている。
【0003】
しかしながら、ヘッドレストの形状の影響により、ヘッドレストの隅部まで発泡合成樹脂が十分に行き渡らず、空洞が生じることがある。これに対し、特許文献1では、ピラー部材(特許文献1では「ステー」と記載されている)に板状部材(特許文献1では「邪魔板」と記載されている)を取り付けた技術が開示されている。
【0004】
この板状部材は、ピラー部材の延在方向に対して垂直になるように配設されており、発泡合成樹脂の流れを制御するために備えられる。そして、ヘッドレストの表皮材内に注入された発泡合成樹脂の流れる方向が板状部材対によって制御され、ヘッドレストの隅部まで発泡合成樹脂を充填することができる。
【0005】
一方、ヘッドレストの内部には、ピラー部材の他、乗員の頭部を支持するために備えられる板状部材(プレート)が備えられているものがある。例えば、特許文献2では、乗員の頭部を支持すると共に、乗員の頭部に加わる衝撃を緩和するための板材(特許文献2では、「変形部材」と記載されている)がピラー部材に固着されたヘッドレストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平3−6889号公報
【特許文献2】特開2010−58551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1において開示された技術では、ピラー部材の延在方向に垂直な面を構成するように取り付けられた板状部材によって、発泡合成樹脂の流路が制御される。すなわち、発泡合成樹脂が注入される方向に対して略垂直になるように配設された平面状の板状部材を備えることによって、内部に注入される発泡合成樹脂の流れが制御されるため、発泡合成樹脂がヘッドレストの隅部まで行き渡り、空洞が発生するのを防止することができる。
【0008】
一方、ヘッドレスト内部において、ピラー部材以外に、その他の部材が備えられるヘッドレストは、その内部構造が複雑である。例えば、特許文献2のように、乗員の頭部を支持するための板状部材(プレート)がピラー部材に取り付けられた構成のヘッドレストは、内部構造が複雑である。
【0009】
乗員の頭部を支持するために備えられる板状部材は、ピラー部材の延在方向に沿う方向に面を形成するようにピラー部材に取り付けられている。そして、板状部材には、大きな荷重がかかりやすいことから、剛性を確保するため、周囲にフランジ(屈曲部)が設けられている。このように、特許文献2のヘッドレストに備えられた板状部材は、平面状の板状部材ではなく、ヘッドレスト内部の構成が複雑であり、発泡合成樹脂を注入した場合、特に板状部材の周辺に空洞が生じやすくなる。
【0010】
したがって、特許文献2のように、内部に複雑な構成の部材を備えたヘッドレストは、表皮一体発泡によるものではなく、別途形成されたクッション体を備えたものが一般的であった。しかし、クッション体の製造工程、表皮材の被覆工程において作業者の熟練を要し、製品が均一となりにくいため、発泡合成樹脂の一体発泡により形成されるヘッドレスト及びその製造方法が望まれていた。
【0011】
本発明の目的は、ヘッドレスト内部に頭部を支持する板状部材が設けられたヘッドレストにおいて、板状部材に十分な剛性を付与すると共に、発泡合成樹脂を注入する際の空洞部の発生を防止することが可能なヘッドレスト及びヘッドレストの製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、発泡合成樹脂の空洞部によるクッション性の低下や外観不良が発生することを防止し、製品の均一性を向上させることができるヘッドレスト及びヘッドレストの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題は、本発明の請求項1に係るヘッドレストによれば、袋状に形成された表皮材と、該表皮材の内部に発泡合成樹脂を注入して一体発泡させたクッション材と、前記表皮材から外部へ延出するピラー部材と、該ピラー部材に係止される板状部材と、を備えたヘッドレストであって、前記板状部材は、乗員の頭部を支持する前板部と、該前板部の端部から前記発泡合成樹脂の注入方向に対し略直交する方向に延設された屈曲部と、を有し、該屈曲部は、切り欠き部が形成されてなること、により解決される。
【0013】
このように、乗員の頭部を支持する板状部材が表皮材の内部に設けられたヘッドレストにおいて、板状部材は、特に乗員の頭部を支持する前板部の周縁から屈曲して形成された屈曲部を備えることにより、剛性が向上する。したがって、乗員の頭部による荷重を確実に受け止めることができる。
そして、屈曲部を備えた板状部材が備えられるヘッドレストにおいて、発泡合成樹脂により一体発泡されたクッション体とすることにより、均一な製品とすることができる。しかしながら、発泡合成樹脂を注入する方向が屈曲部の延設方向に対して略直交する方向に備えられていると、発泡合成樹脂は屈曲部の近傍に十分に分散されず、空洞部が形成されてしまい、均一なクッション材とすることが難しい場合がある。
これに対し、屈曲部において切り欠き部を設けることにより、切り欠き部内を発泡合成樹脂が流通しやすくなり、より均一に分散することが可能になる。その結果、発泡合成樹脂の空洞部の発生が防止されるため、クッション性が低下することなく、製品の均一性を保持できる。
特に、板状部材は乗員の頭部を支持するため、その周辺のクッション材に空洞部があると、乗員の頭部が当接した際にクッション性が損なわれ、着座感が低下する虞があるが、上記構成により、板状部材周辺のクッション部材の空洞部の発生が防止されるため、よりクッション性の良いヘッドレストとすることができる。
【0014】
また、請求項2のように、前記表皮材は、前記発泡合成樹脂が注入される開口部を備え、前記切り欠き部は、前記前板部の端部のうち、前記開口部が備えられる側の端部から延設された屈曲部に形成されてなると好適である。
このように、表皮材において、発泡合成樹脂が注入される開口部が形成されており、その開口部から最も近い屈曲部において切り欠き部が形成されていると、発泡合成樹脂をより均一に分散させることができる。また、開口部から最も近い屈曲部の周辺、より詳細には、屈曲部と前板部との境界部分であって、前板部から屈曲部が折り曲げられた内側においては特に空洞部が発生しやすいため、当該部分における空洞部の発生を防止することができる。
【0015】
さらに、請求項3のように、前記開口部は、前記ピラー部材が挿通するピラー孔の近傍に備えられ、前記発泡合成樹脂の注入方向は、前記表皮材から延出した前記ピラー部材の延在方向と略平行に設定されてなると好適である。
このように、発泡合成樹脂をピラー部材の延出方向と略平行となるように、表皮材内に注入することにより、発泡合成樹脂がピラー部材に沿って流動しやすくなるため、表皮材内において、より均一な状態で充填することができる。また、ピラー部材が挿通するピラー孔の近傍に開口部が設けられているため、外観上、発泡合成樹脂を注入するための開口部が目立つことなく、外観不良を防止する効果が高い。
【0016】
また、前記課題は、本発明の請求項4に係るヘッドレストの製造方法によれば、袋状に形成された表皮材を成形型に配設し、前記表皮材の内部にピラー部材に係止された板状部材を配設し、前記表皮材の内部に発泡合成樹脂を注入してクッション材を一体発泡させて形成するヘッドレストの製造方法であって、乗員の頭部を支持する前板部と、該前板部から延設される屈曲部を備えた前記板状部材を形成する工程と、前記屈曲部に切り欠き部を形成する工程と、前記切り欠き部が形成された屈曲部に対して略直交する方向から前記表皮材の内部に前記発泡合成樹脂を注入する工程と、を備えること、により解決される。
【0017】
このように、発泡合成樹脂の注入方向に対して直交する方向に延折される屈曲部を備えた板状部材を有するヘッドレストの製造方法において、屈曲部に切り欠き部を形成する工程を備えていると、屈曲部周辺においても発泡合成樹脂が均一に分散し、空洞部の発生を防止することができる。したがって、発泡合成樹脂の分散が均一であり、クッション性の高いヘッドレストを製造可能である。
【0018】
また、このとき、請求項5のように、前記発泡合成樹脂の注入方向は、前記表皮材から延出した前記ピラー部材の延在方向と略平行に設定されると好適である。
このように、発泡合成樹脂の注入方向をピラー部材の延折方向と同方向にすることにより、発泡合成樹脂がよりスムーズに流動し、均一に表皮材内で分散する。したがって、空洞部の発生を防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1のヘッドレストによれば、板状部材において屈曲部(フランジ部)が形成されているため、より剛性が高くなり、乗員の頭部を確実に保持することが可能となる。また、発泡合成樹脂の空洞部が板状部材の屈曲部近傍に発生するのを防止することができるため、クッション性が良好であり、製品均一性が高いヘッドレストを提供することができる。
請求項2のヘッドレストによれば、より均一に発泡合成樹脂を分散させ、最も発泡合成樹脂の空洞部が形成されやすい部分において空洞部が発生するのを防止することができ、クッション性及び製品均一性の高いヘッドレストを提供することができる。
請求項3のヘッドレストによれば、表皮材内で発泡合成樹脂をスムーズに流動させやすくなり、より均一に分散させることができるため、クッション性の高いヘッドレストを提供することができる。また、発泡合成樹脂を注入する開口部の位置が外観上見えにくい箇所に設けられるため、外観不良の発生を防止することが可能である。
請求項4のヘッドレストの製造方法によれば、発泡合成樹脂の空洞部の発生を防止し、均一な品質のヘッドレストを製造することができる。
請求項5のヘッドレストの製造方法によれば、発泡合成樹脂を表皮材内で効率よく流動させることが可能となるため、均一に分散することができ、クッション性の高いヘッドレストを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るシートの概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るシートフレームの概略斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態に係るヘッドレストフレームの概略斜視図である。
【図4】図3のA−A線に相当する概略断面図である。
【図5】本発明の一実施形態に係るヘッドレストの説明図である。
【図6】図5のB−B線に相当する概略断面図である。
【図7】図5のC−C線に相当する概略断面図である。
【図8】図5のD−D線に相当する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して説明する。なお、以下に説明する部材、配置等は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることはもちろんである。
【0022】
図1乃至図8は本発明の一実施形態に係るものであり、図1はシートの概略斜視図、図2はシートフレームの概略斜視図、図3はヘッドレストフレームの概略斜視図、図4は図3のA−A線に相当する概略断面図、図5はヘッドレストの説明図、図6は図5のB−B線に相当する概略断面図、図7は図5のC−C線に相当する概略断面図、図8は図5のD−D線に相当する概略断面図である。なお、本明細書のヘッドレストHRの説明に関し、「下方」とは、シートバックS1が配設される側であり、「前方」とは、乗員の頭部が当接する側のことを指すものである。また、「左右方向」とは、シートバックフレーム1の幅方向を指すものである。
【0023】
本実施の形態は、図1,図2に示すような、車両用シートSのヘッドレストHRに適用した例である。
【0024】
(車両用シートSの構成)
本実施の形態に係る車両用シートSは、図1で示すように、シートバックS1(背部)、着座部S2、ヘッドレストHRより構成されており、シートバックS1(背部)及び着座部S2はシートフレームFにクッションパッド1a,2aを載置して、表皮材1b,2bで被覆されている。
【0025】
車両用シートSのシートフレームFは、図2で示すように、シートバックS1を構成するシートバックフレーム1、着座部S2を構成する着座フレーム2から構成されている。
着座フレーム2は、上述のようにクッションパッド2aを載置して、クッションパッド2aの上から表皮材2bによって覆われており、乗員を下部から支持する構成となっている。着座フレーム2は脚部で支持されており、この脚部には、図示しないインナレールが取り付けられ、車体フロアに設置されるアウタレールとの間で、前後に位置調整可能なスライド式に組み立てられている。
また着座フレーム2の後端部は、リクライニング機構11を介してシートバックフレーム1と連結されている。
【0026】
シートバックS1は、シートバックフレーム1に、上述のようにクッションパッド1aを載置して、クッションパッド1aの上から表皮材1bにより覆われており、乗員の背中を後方から支持するものである。本実施の形態において、シートバックフレーム1は、図2で示すように、略矩形状の枠体となっている。
【0027】
上下方向に延在する2本のサイドフレーム15は、シートバック幅を構成するため、左右方向に離間して配設されている。そして、サイドフレーム15の上端部側を連結する管状部材としてのメインパイプ16が、サイドフレーム15の端部から上方に延出する。なお、メインパイプ16は、一方のサイドフレーム15から上方に延設された後、他方のサイドフレーム15まで延設される。
【0028】
また、シートバックフレーム1の下方において、下部フレーム17は、サイドフレーム15の下端部側を連結している。なお、本実施形態のシートバックフレーム1は、サイドフレーム15とメインパイプ16と下部フレーム17とが別部材で形成されているが、一体の板状フレーム等で形成することもできる。
【0029】
図2で示すように、管状部材としてのメインパイプ16は、略矩形状に屈曲されており、メインパイプ16の側面部16aは、サイドフレーム15の側板15aに対して上下方向に沿って一部が重なるように配設され、この重なり部分においてサイドフレーム15に固着接合される。
【0030】
また、メインパイプ16の上方には、ヘッドレストHRを配設するためのピラー支持部18,18が備えられている。そして、ピラー支持部18,18には、管状部材からなるピラー部材30が挿入され、固定される。このピラー支持部18,18には、ヘッドレストHRを支持するピラー部材30がガイドロック(不図示)を介して取り付けられて、ヘッドレストHRが取り付けられるようになっている。
なお、上記シートバックフレーム1の構成は一例であり、ピラー部材30が取り付けられる構成であれば、その他、公知のシートバックフレーム1を用いることができる。
【0031】
(ヘッドレストHRの構成)
以下、図3乃至図8を参照して、本発明のヘッドレストHRについて説明する。
ヘッドレストHRは、袋状に形成された表皮材60と、表皮材60の内部に、発泡合成樹脂を注入して発泡させることにより形成されるクッション材50と、表皮材60から外部へ延出するピラー部材30と、ピラー部材30に形成される板状部材40と、を備えている。
すなわち、ヘッドレストフレーム3の外周側を囲うように形成された発泡合成樹脂からなる緩衝材としてのクッション材50を設け、クッション材50の外周に表皮材60を被覆して構成されている。
【0032】
まず、図3,図4に基づいて、ヘッドレストフレーム3について説明する。図3に示すように、ヘッドレストフレーム3は、円筒状部材(パイプ材)若しくは中実の丸棒部材を略コ字状に屈曲して形成されたピラー部材30と、ピラー部材30の頭部側を覆うように配設される板状部材40とを備えている。
【0033】
ピラー部材30は、左右方向に離間して略上下方向に延在するサイドピラー部31,31と、左右のサイドピラー部31,31を上方で連結する上方ピラー部32と、を備えている。
左右に離間して配設されたサイドピラー部31,31は、ヘッドレストフレーム3を適度な傾きで取り付け可能に前後方向に屈曲して構成されている。上述のように、サイドピラー部31,31の下方側を、シートバックフレーム3の上部に設けられたピラー支持部18,18に挿入して取り付けることができる。
【0034】
また、サイドピラー部31,31の中程から上方には板状部材40が取り付けられる。
板状部材40は、適当な厚さ、剛性を備えた板材によって形成されており、乗員の頭部側に配置される前板部41と、前板部41下側の左右側(すなわち、サイドピラー部31,31が配設されている側)から後方側に略垂直に屈曲して延設された屈曲部としての側板部42,42と、前板部41の上方端部から後方側に略垂直に屈曲して延設された屈曲部としての上板部43と、前板部41の下方端部から後方側に略垂直に屈曲して延設された屈曲部としての下板部44と、を備えている。
したがって、板状部材40は、図4に示すように、断面コ字状に形成されており、上板部43と下板部44は、ヘッドレストHRをシートバックフレーム1に取り付けた際、略水平となるように前板部41から後方側へ延設される。
【0035】
また、前板部41には、孔41aが設けられている。孔41aは、上下方向に伸びる中心線(図6中の線X)を軸として、対称に形成されている。なお、孔41aの作用効果は後述する。
【0036】
このように、板状部材40は、乗員の頭部の荷重を受ける前板部41の周縁において、前板部41,側板部42,42上板部43,下板部44とからなるフランジを備えているため、剛性が向上する。したがって、前板部41に孔41aが設けられていても、フランジを備える構成のため、板状部材40は、剛性を損なうことなく、乗員の頭部による荷重を十分に受けることができる。
【0037】
そして、左右に配設された側板部42,42の先端(より詳細には、幅狭に形成された側方接合部42a,42a)がサイドピラー部31,31の側面にそれぞれ固着され、前板部41の上板部43が上方ピラー部32に固着されることで、板状部材40はピラー部材30の頭部側に配設される。このとき、板状部材40は、サイドピラー部31,31よりも若干前方に配設されるようにして取り付けられる(図4参照)。そして、板状部材40は、上方端部(すなわち、上板部43が延設された部分)から下方端部(すなわち、下板部44が延設された部分)にかけて、サイドピラー部31,31から徐々に離間するような角度をもってピラー部材30に取り付けられる。
【0038】
側板部42,42は、前板部41の上下方向の長さよりも短い幅に形成された側方接合部42a,42aを備えている。
そして、板状部材40は、上板部43と、側板部42,42の側方接合部42a,42aの計3カ所でピラー部材30に溶接によって固着されている。このように、板状部材40は、3点によってピラー部材30に固着接合されているため、取付剛性が高い。なお、板状部材40の固着方法は、溶接以外にも、リベット止め、ボルト止め、若しくはスポット溶接など、公知の方法を用いてもよい。
【0039】
板状部材40は、剛性の高い金属、若しくは樹脂から構成することができるが、特に、SUSなどの高い剛性を備える材質によって構成されることが望ましい。このように、剛性の高い材質によって板状部材40を形成することにより、乗員の頭部による荷重をより確実に受け止めることができる。
【0040】
そして、下板部44の開放端部側(すなわち、前板部41との境界線と対向する縁辺)において、切り欠き部44a,44bを備えている。切り欠き部44a,44bは、上下方向に伸びる中心線(図6の線X)を軸として、左右略対称となるように複数形成されている。なお、図6は図5のB−B線に相当する断面図であるが、説明のため、サイドピラー部31,31、上方ピラー部32、板状部材40を実線で示す。
【0041】
切り欠き部44a,44bは、その深さ(切り欠かれる部分の大きさ)が大きすぎると、板状部材40の剛性が低下するため、下板部44の前後方向の長さ(前板部41の境界線から開放端部までの長さ)の約半分程度とするとよい。
【0042】
また、切り欠き部44bは、孔41aの真下に位置するように形成されていると好ましい。この構成の作用効果については後述する。
【0043】
(切り欠き部44a,44bの作用効果)
次に、板状部材40の下板部44に備えられた切り欠き部44a,44bの作用効果について、ヘッドレストHRの構成と共に説明する。
本発明のヘッドレストHRは、袋状に形成された表皮材60と、表皮材60の内部に、発泡合成樹脂を注入して一体発泡させることにより形成されるクッション材50と、表皮材60から外部へ延出するピラー部材30と、ピラー部材30に係止される板状部材40と、を備えている。
【0044】
そして、板状部材40は、上述のように、乗員の頭部を支持する前板部41と、前板部41の端部から屈曲して形成された屈曲部としての上板部43、側板部42,42、下板部44と、を備えている。上板部43、側板部42,42、下板部44は、発泡合成樹脂の注入方向(図8中の矢印で示す方向)を遮る方向(すなわち、発泡合成樹脂の注入方向に対して略直交する方向)に屈曲して延設されている。なお、図8は図5のD−D線に相当する断面図であるが、説明のため、サイドピラー部31、上方ピラー部32、板状部材40を実線で示す。
【0045】
表皮材60には、発泡合成樹脂を注入するための開口部61が備えられており、ピラー部材30が挿通されるピラー孔62の近傍に形成されている。開口部61は、袋状に形成された表皮材60の内側空間内へ入り込むように対向して表皮の一対の端部が折り曲げられて形成される。なお、開口部61を構成する表皮の一対の端部において、その端部辺に連なる切込部が形成されていてもよい。このように、切込部を備えることにより、開口部の近傍で表皮にしわが寄るのを防止することができる。
【0046】
開口部61からは、発泡合成樹脂の注入ノズルが表皮材60の内部に挿入される。なお、注入ノズルは複数本であっても良いが、ヘッドレストHRの左右方向に対称となるように差し込まれると好ましい。そして、図8の矢印に示すように、発泡合成樹脂は、表皮材60から延出するピラー部材30、すなわちサイドピラー部31,31と略平行に設定される。
【0047】
また、上記開口部61は、サイドピラー部31,31が挿通されるピラー孔62の近傍に設けられる。したがって、サイドピラー部31,31が延出される部分近傍から表皮材60の内部に発泡合成樹脂が注入されるため、開口部61を外観上目立たない位置とすることができる。
【0048】
そして、開口部61を上記箇所にて設け、さらに、サイドピラー部31,31に対して発泡合成樹脂の注入方向が略平行に設定されているため、発泡合成樹脂は、ヘッドレストHR内に効率よく充填することができ、ほぼ均一に充填される。
【0049】
一方、上記のように、ピラー部材30に係止された板状部材40は、サイドピラー部31,31と略垂直に交わる方向に延設された屈曲部(側板部42,42,上板部43,下板部44)を備えている。すなわち、発泡合成樹脂の注入方向(発泡合成樹脂の流動方向)を遮る方向(注入方向に対して略垂直に交わる方向)に側板部42,42,上板部43,下板部44が延設されている。
【0050】
上記のように、板状部材40は、乗員の頭部を支持する前板部41と、前板部41から乗員の頭部が当接する側に対して反対側、すなわち後方へ屈曲したフランジ部(側板部42,42,上板部43,下板部44)と、を備えた構成であるため、剛性が向上し、乗員の頭部を支持するために好適である。しかし、このようなフランジ部としての屈曲部(側板部42,42,上板部43,下板部44)を備えることにより、発泡合成樹脂の流動方向が遮られ、発泡合成樹脂が均一に充填されず、一部に空洞部Hが生じることがあった。
【0051】
そして、屈曲部(側板部42,42,上板部43,下板部44)のうち、特に発泡合成樹脂が注入される開口部61の最も近傍に備えられる下板部44の近傍は、発泡合成樹脂が均一に充填することが難しく、空洞部Hが生じることがあった。より詳細には、発泡合成樹脂は、下板部44の上面であって、前板部41と下板部44との境界部分(図8中Hの部分)において十分に充填されにくく、空洞部Hが発生しやすい。
【0052】
これに対し、屈曲部(側板部42,42,上板部43,下板部44)のうち、前板部41において、表皮材60の開口部61が備えられた側の端部から延設された下板部44には、切り欠き部44a,44bを備えることにより、発泡合成樹脂の流動を妨げることなく、発泡合成樹脂の空洞部Hの発生を防止することができ、均一なクッション材50を形成することができる。なお、下板部44において、切り欠き部44a,44bの他にも、発泡合成樹脂が流通可能な孔が設けられた構成とすると、空洞部Hの発生をより確実に防止することが可能になるため、好ましい。
【0053】
また、切り欠き部44a,44bは、上下方向に伸びる中心線(図6の線X)を軸として、左右略対称となるように形成されているため、より均一に発泡合成樹脂を充填することができる。
【0054】
さらに、前板部41には孔41aが設けられており、切り欠き部44bは、サイドピラー部31,31の延在方向において孔41aの真下に位置するように形成されている。これにより、発泡合成樹脂が注入された際、発泡合成樹脂が循環しやすくなり、より均一に発泡合成樹脂が充填される。したがって、空洞部Hの発生を防止する効果が向上する。
【0055】
(ヘッドレストHRの製造方法)
次に、本発明の実施形態に係るヘッドレストHRの製造方法について説明する。
本発明のヘッドレストHRは、袋状の表皮材60を形成し、表皮材60を成形型に配設し、表皮材60の内部にピラー部材30に係止された板状部材40を配設し、表皮材60の内部に発泡合成樹脂を注入してクッション材50を一体発泡させて形成される。
【0056】
そして、上記のヘッドレストHRの製造方法においては、以下の工程が行われる。
まず、乗員の頭部を支持する前板部41と、前板部41から延設される屈曲部(側板部42,42,上板部43,下板部44)を備えた板状部材40を形成する。このとき、一枚の板材を適当な外径に切り抜き、周縁部を前板部41から略垂直に立ち上がるように折曲し、それぞれ側板部42,42,上板部43,下板部44を形成すると、製造工程が簡素化されるため好ましい。また、側板部42,42には、サイドピラー部31,31に接合される側方接合部42aが幅狭になるように板材が切り抜かれていると好ましい。
【0057】
そして、屈曲部としての下板部44において、上記構成の切り欠き部44a,44bを形成する作業が行われる。なお、切り欠き部44a,44bを形成する工程は、上記工程、すなわち、一枚の板材を切り抜き、その周縁を折曲して側板部42,42,上板部43,下板部44を形成する工程よりも前に行われるとより好適である。なお、側板部42,42,上板部43,下板部44を形成した後に切り欠き部44a,44bを形成しても良い。ただし、側板部42,42,上板部43,下板部44を形成する前の段階、すなわち一枚の板材を切り出す際に、下板部44に相当する位置において、切り欠き部44a,44bを予め外径として切除しておくと、作業工程を簡素化することができる。
【0058】
そして、切り欠き部44a,44bが形成された下板部44を備えた板状部材40を、ピラー部材30に係止する。このとき、上板部43は上方ピラー部32に固着し、側板部42,42(側方接合部42a,42a)をサイドピラー部31,31にそれぞれ固着し、三点によって板状部材40をピラー部材30に対して取り付けると良い。
【0059】
上記工程を経て製造されたヘッドレストフレーム3は、袋状に形成された表皮材60を成形型内に配置した後、表皮材60の内部に配設される。また、表皮材60の内部にヘッドレストフレーム3を挿入した後に、成形型内に表皮材60を配置するとよい。このとき、表皮材60は外側に配設される面を内側にして縫製されて、その後、開口部61によって裏返されている。
【0060】
そして、表皮材60において予め形成されていたピラー孔62,62にサイドピラー部31,31を挿通させて表皮材60内にピラー部材30を配設する。その後、開口部61から発泡合成樹脂を注入するための注入ノズルを挿入し、表皮材60の内部に発泡合成樹脂を注入することによってクッション材50を形成する。
【0061】
このとき、側板部42,42,上板部43,下板部44に対し、発泡合成樹脂の注入方向が略直交するように発泡合成樹脂の注入ノズルが配設される。より詳細には、発泡合成樹脂の流入方向は、サイドピラー部31,31に略平行となるように設定されるが、その流動方向に対して下板部44が略直交するように配設されている。そして、上記のように、下板部44は、切り欠き部44a,44bが設けられているため、発泡合成樹脂は、下板部44によって遮られて空洞部Hが生じることなく、均一に充填される。
その後、表皮材60の開口部61から発泡合成樹脂の注入ノズルを抜き取る。
【0062】
上記工程を経ることにより、本発明のヘッドレストHRは、表皮材60の内部にクッション材50と、ピラー部材30と、乗員の頭部を支持する板状部材40とが備えられたヘッドレストHRにおいて、発泡合成樹脂が均一に充填される。このように、板状部材40等によって発泡合成樹脂の注入方向が遮られやすい場合であっても、適当な位置に切り欠き部44aが設けられているため、発泡合成樹脂が偏ることなく表皮材60の内部を流通し、その結果、空洞部Hの発生を防止することができる。
【0063】
本発明に係るヘッドレストHRは、表皮材60の内部に頭部を支持する板状部材40が設けられており、発泡合成樹脂を注入する際に板状部材40の空洞部Hが発生しやすい。しかし、下板部44において、切り欠き部44a,44bが設けられているため、特に板状部材40の近傍であっても、発泡合成樹脂の循環及び流入が起こりやすく、均一に充填することができる。また、発泡合成樹脂の注入方向をサイドピラー部31,31の延在方向に略平行となるように設定することにより、発泡合成樹脂は、サイドピラー部31,31に沿って流通するため、表皮材60の内部で均一に充填されやすくなる。
【0064】
このように、発泡合成樹脂が均一に充填され、空洞部Hの発生が防止されるため、本発明のヘッドレストHR及びヘッドレストHRの製造方法は、クッション性の低下や外観不良の発生を防止することができる。さらに、不規則な空洞部Hの発生が防止されるため、製品均一性を向上させることが可能である。さらにまた、本発明によれば、特に乗員の頭部を支持する板状部材40の近傍において空洞部Hの発生が防止されるため、特にクッション性の高いヘッドレストHRを提供することができる。
【符号の説明】
【0065】
S 車両用シート
S1 シートバック
S2 着座部
HR ヘッドレスト
F シートフレーム
H 空洞部
1 シートバックフレーム
2 着座フレーム
3 ヘッドレストフレーム
1a,2a クッションパッド(パッド材)
1b,2b 表皮材
11 リクライニング機構
15 サイドフレーム
15a 側板
16 メインパイプ(管状部材)
16a 側面部
17 下部フレーム
18 ピラー支持部
30 ピラー部材
31 サイドピラー部
32 上方ピラー部
40 板状部材
41 前板部
41a 孔
42 側板部(屈曲部)
42a 側方接合部
43 上板部(屈曲部)
44 下板部(屈曲部)
44a,44b 切り欠き部
50 クッション材
60 表皮材
61 開口部
62 ピラー孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
袋状に形成された表皮材と、該表皮材の内部に発泡合成樹脂を注入して一体発泡させたクッション材と、前記表皮材から外部へ延出するピラー部材と、該ピラー部材に係止される板状部材と、を備えたヘッドレストであって、
前記板状部材は、乗員の頭部を支持する前板部と、該前板部の端部から前記発泡合成樹脂の注入方向に対し略直交する方向に延設された屈曲部と、を有し、
該屈曲部は、切り欠き部が形成されてなることを特徴とするヘッドレスト。
【請求項2】
前記表皮材は、前記発泡合成樹脂が注入される開口部を備え、
前記切り欠き部は、前記前板部の端部のうち、前記開口部が備えられる側の端部から延設された屈曲部に形成されてなることを特徴とする請求項1に記載のヘッドレスト。
【請求項3】
前記開口部は、前記ピラー部材が挿通するピラー孔の近傍に備えられ、
前記発泡合成樹脂の注入方向は、前記表皮材から延出した前記ピラー部材の延在方向と略平行に設定されてなることを特徴とする請求項1又は2に記載のヘッドレスト。
【請求項4】
袋状に形成された表皮材を成形型に配設し、前記表皮材の内部にピラー部材に係止された板状部材を配設し、前記表皮材の内部に発泡合成樹脂を注入してクッション材を一体発泡させて形成するヘッドレストの製造方法であって、
乗員の頭部を支持する前板部と、該前板部から延設される屈曲部を備えた前記板状部材を形成する工程と、
前記屈曲部に切り欠き部を形成する工程と、
前記切り欠き部が形成された屈曲部に対して略直交する方向から前記表皮材の内部に前記発泡合成樹脂を注入する工程と、を備えることを特徴とするヘッドレストの製造方法。
【請求項5】
前記発泡合成樹脂の注入方向は、前記表皮材から延出した前記ピラー部材の延在方向と略平行に設定されることを特徴とする請求項4に記載のヘッドレストの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−136104(P2012−136104A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−288497(P2010−288497)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】