説明

ヘッド基板、記録ヘッド、ヘッドカートリッジ、及び記録装置

【課題】ノズル密度が高くともコンパクトなサイズでのドライバトランジスタの実装が可能で、例えば、温度センサやエネルギ調整回路等の機能回路を実装が可能なヘッド基板を提供することである。
【解決手段】インク供給口と、その長手方向に複数のヒータからなるヒータアレイと、そのアレイ方向に複数のヒータを駆動する複数のトランジスタからなるトランジスタアレイと、トランジスタアレイを駆動する論理回路とをヘッド基板上に配置する。ここで、ヒータアレイとトランジスタアレイとの間に論理回路を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はヘッド基板、記録ヘッド、ヘッドカートリッジ、及び記録装置に関する。本発明は、特に、記録に必要な熱エネルギを発生するヒータとしての電気熱変換素子とそれを駆動する駆動回路を同一基板上に形成したヘッド基板、そのヘッド基板を用いた記録ヘッド、その記録ヘッドを用いたヘッドカートリッジ、及び記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のインクジェット記録装置に搭載される記録ヘッドの電気熱変換素子(ヒータ)とその駆動回路は、例えば、特許文献1に示されているように半導体プロセス技術を用いて同一基板上に形成されている。ここで「駆動回路」とは、ヒータを駆動するための論理回路やドライバトランジスタ等を総括したものをいう。また、インクを供給するためのインク供給口を基板上に設けそれに近接して相対する位置にヒータを配列した形態の基板がすでに提案されている。
【0003】
図9は従来のインクジェット記録ヘッド(以下、記録ヘッド)に用いられるヘッド基板のレイアウト概略構成の一例を示す図である。
【0004】
図9において、100はヒータとその駆動回路を半導体プロセスにより一体形成した基板である。また、101は基板裏面よりインクを供給するためのインク供給口、102はヒータを複数個配列したヒータアレイ、103はヒータに所望の電流を供給するためのドライバトランジスタを複数個配列したドライバトランジスタアレイである。さらに、104aはドライバトランジスタアレイ103の所望のヒータブロック毎に選択駆動する信号を生成する駆動回路の一部を構成する論理回路、105は電源電圧や電気信号を基板外部から入力したり基板外部に出力する接続端子である。
【0005】
図10はインクを吐出するためにヒータに電流を供給するための1セグメント分の等価回路図である。
【0006】
図10において、701はデコーダから送られる所望のブロックに分割されたヒータブロックを選択するためのブロック選択信号と、シフトレジスタからラッチ回路を経て出力された記録データ信号との論理積を演算するAND回路である。702はAND回路701の出力パルスの振幅電圧をドライバトランジスタのゲートを駆動するための電圧に変換する電圧変換回路(LVC)である。703は論理回路の電源となるVDD電源ライン、704はドライバトランジスタのゲート電圧を供給するためのVHT電源ライン、705はヒータ駆動用電源となるVH電源ラインである。706はヒータ、707はヒータ706に電流を供給するためのドライバトランジスタ、708はヒータに流れた電流を回収するためのGNDHラインである。
【0007】
図11はヘッド基板に記録データなどの論理信号が入力されてからヒータを駆動するまでの一連の動作を説明するためのブロック図である。図11では、信号の流れを模式的に矢印で示している。また、図11には1つのインク供給口に対応する回路ブロックが抜き出されて示している。
【0008】
なお、図11において、図9で示したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。
【0009】
ここで、104cは後述するシフトレジスタやデコーダ等の論理回路に論理信号を入力するためのバッファ回路を含む入力回路である。また、104bは外部から入力される記録データを一時的に格納するシフトレジスタやラッチ回路、所望のブロックに分割された複数のヒータを選択するためのブロック選択信号を出力するデコーダなどを含むヘッド基板の端部に配置される論理回路である。また、104aはデコーダからのブロック選択信号やシフトレジスタを経てラッチ回路から出力される記録データ信号との論理積を演算するAND回路や電圧変換回路を少なくとも含んで構成される論理回路である。
【0010】
図11から分かるように、インク供給口101の両側に沿ってヒータアレイ102が設けられ、ヒータアレイ102に沿ってドライバトランジスタアレイ103が設けられ、さらにその背後に論理回路104aが設けられる。
【0011】
入力端子105より記録データがシフトレジスタに入力されると、そのシフトレジスタが記録データを一時的に格納しラッチ回路から記録データ信号が出力される。その後、所望のブロックに分割されたヒータブロックを選択するためのブロック選択信号と記録データ信号とのAND演算がなされ、電流駆動時間を決定するヒートイネーブル信号(HE)に同期してヒータに電流が流れる。この一連の動作をブロック毎に繰り返して記録が行われる。
【0012】
図12は図9に示したヘッド基板のレイアウト図である。
【0013】
図12において、図9で説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付している。
【0014】
図12に示すように、ドライバトランジスタアレイ103を構成する1つのドライバトランジスタ103aは一つのヒータ102aに対応したMOSFETである。
【0015】
また、MOSFETのドレイン電極(D)103bはヒータ102aと直列接続されている。なお、103cはMOSFETのゲート電極、103dはMOSFETのソース電極(S)である。この構成ではヒータ102aとドライバトランジスタ103aとは隣接しておりヒータピッチとドライバトランジスタピッチは同一になっている。
【0016】
最近のインクジェット記録装置(以下、記録装置)では、高速、高品位な記録を実現するために記録ヘッドのノズルの高密度配置が進められている。そして、ノズル製造法の高精度化が進展したことに伴い実サイズで600dpi程度のノズルピッチが実現されている。
【0017】
このノズルピッチに合わせてヒータとそれを駆動するドライバトランジスタがシリコン基板上に形成される。例えば、解像度600dpiのノズルに対しては概ね等しい600dpiピッチにヒータとドライバトランジスタが配置されることとなる。このドライバトランジスタとしてはゲート印加電圧でソース−ドレイン間に流れる電流を制御するMOSトランジスタが用いられることが多い。600dpiピッチにMOSトランジスタを配置する場合、効率的な配置を実現するためにMOSトランジスタのゲートをノズルピッチによらず高密度に配置した上で、複数のMOSトランジスタをノズルピッチに合わせて並列に接続することが行われている。具体的には、4本程度のゲートを並べて配置し接続したMOSトランジスタを用いて600dpiのヒータを駆動する回路構成をとっている。
【0018】
図13はノズル解像度が600dpiのヘッド基板のレイアウト構成の一部を示す図である。なお、図13において、既に説明した構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。103Aはドライバトランジスタ配置領域、107は電源配線である。
【0019】
ところでこれらドライバトランジスタのゲート幅(W)のサイズとしては、ヒータ102aにインク吐出に十分な電流を供給することが可能なゲート幅である必要がある。
【0020】
即ち、ヒータ電流を通電したときにMOSトランジスタの動作点が線形領域であり、かつそのときのオン抵抗がヒータ抵抗に比較して十分に低いことが求められる。例えば、従来の600dpiピッチに配置したMOSトランジスタでは、1ノズルあたり4本のゲートを配置する構成であるため比較的大きいゲート幅(W)のトランジスタを実現できている。即ち、物理的なトランジスタ配置領域103Aの幅の4倍のゲート幅(W)を実現できる。
【0021】
またさらに、現在の記録ヘッドの構成ではトランジスタ配置領域の上層にはヒータへ電源電圧を供給するための電源配線107を配置している。この電源配線は寄生抵抗の制限から、配線幅を一定以上確保する必要がある。従来、600dpi程度のノズルピッチを有する構成において、この配線幅は本来必要としているトランジスタの並列配置したうちの1本のゲート幅(W)よりも大きい幅となっていることが多い。そのため、ドライバトランジスタは余裕を持ってゲート幅を設計することができた。
【特許文献1】特開平5−185594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
しかしながら、ノズル製造法の高精度化は進展しつづけており、さらなる高密度化が期待されている。例えば、600dpiの倍密度である1200dpi程度までノズル密度が向上した構成では、従来の600dpiに対して1ノズルあたり配置可能なトランジスタの並列配置できるゲート本数が4本から2本へと減少することとなる。
【0023】
図14はノズル解像度が1200dpiのヘッド基板のレイアウト構成の一部を示す図である。なお、図14でも、既に説明した構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。103Bはドライバトランジスタ配置領域である。
【0024】
さて、高密度ノズルである1200dpiピッチのノズルに対応する場合、1ノズルあたりの並列配置できるゲート本数が2本となる。このため従来の600dpi(ゲート4本)構成の半分のゲート幅(W)を有したトランジスタしか実現できない。これにより、電源配線により規定される領域のみでは、従来の600dpiの構成では必要なトランジスタのゲート幅を実現できなくなり、電源配線領域を上回る領域にトランジスタを配置する必要が生じることもあり得る。そして、電源配線領域を上回る領域にトランジスタを配置する場合、可能な限りトランジスタのゲート幅(W)を抑えることでヘッド基板サイズを小さくすることがコスト的にも求められる。
【0025】
以上のようにノズルの高密度化によって、ヘッド基板に実装するドライバトランジスタのゲート幅を、特性に余裕を持って設計することが困難となっている。そして、ゲート幅の余裕が少ないドライバトランジスタを用いたヘッド基板では、ドライバトランジスタの特性変化に注意を払った設計が求められる。特に、記録素子にヒータを用いる記録ヘッドでは、ヒータの発熱による発泡現象をインク液滴の吐出に用いているので、ヒータの熱の変化が大きい。また、ドライバトランジスタはヒータの近傍に位置している。そのため、ドライバトランジスタはヒータの熱によりその特性に影響を受けることとなる。
【0026】
以上検討したように、従来の600dpi程度(ゲート4本)のノズル密度のヘッド基板に実装するドライバトランジスタでは十分な長さのゲート幅を確保していたため、このような熱による影響は特に重要な課題として認識されていなかった。しかしながら、更なるノズルの高密度化に対応するためには熱の影響を考慮したヘッド基板の設計が求められる。熱の影響を少なくするためにドライバトランジスタのゲート幅(W)を大きくすることが考えられるが、その方法では、1200dpiピッチのノズル密度のヘッド基板ではチップサイズの増大を招き、コストが上昇するという問題がある。
【0027】
また、ヘッド基板にはその温度をモニタするためのセンサや安定な駆動を実現するためのエネルギ調整回路や外部との電気的な接続を行う電極などを配置することが必要となる場合がある。最近の記録装置では記録速度の向上を目的として、ノズル数を増加させるとともに、ノズル列の長さを長くすることも要求されている。従って、ヘッド基板はノズル列方向にそのサイズを増大させる。ノズル列方向にヘッド基板のサイズが大きいと、記録動作によってノズル列方向に比較的大きな温度分布が生じる傾向がある。
【0028】
従って、ヒータを実装したヘッド基板を用いた記録ヘッドでは、その基板温度によってインク吐出特性が大きく変化するために基板温度を検出することは特に重要である。
【0029】
従来の温度検出では、ヘッド基板の端部などにダイオードを配置し、その順方向電圧から温度を求めたり、ノズル列方向に配線を引き回してその抵抗の温度変化から温度を求めたりすることが行われている。ダイオードをヘッド基板の端部に配置する場合、ダイオードを配置した局所的な領域の温度を検出することとなり、ノズル列方向に配線を引き回しその抵抗変化から温度を求める場合は配線経路の平均的な温度を検出することになる。
【0030】
しかしながら、ノズル列方向に長いヘッド基板では、より高精度な駆動制御を行うために、ノズル列方向の温度分布を測定することが望ましい。しかしながら、ノズル列方向の温度分布を測定するために独立した温度センサをノズル列方向に配置すると、そのような配置がヘッド基板サイズの増大を招くこととなる。
【0031】
そもそもヒータピッチとドライバトランジスタピッチは本来揃える必要がないため、ドライバトランジスタは異なるピッチを取ることが出来る。しかしながら、ヒータとドライバトランジスタのピッチが同一でないとその間の接続の配線は階段状の配線や斜め状の配線(以下、斜め配線)により接続する必要がある。配線には太さや隣り合う配線の間隔などレイアウト上のルールがあるため、斜め配線のためにはヒータとドライバの間隔を広げなければならずヘッド基板のサイズが増大してしまう要因となる。このため、斜め配線によるヘッド基板のサイズ増大を避けるためにはヒータピッチとドライバトランジスタピッチをある程度揃えなければならない。例えば、ヒータピッチに対してドライバトランジスタピッチをより狭くすることができる場合でも、ドライバトランジスタピッチを必要以上に取ることになる。従って、ドライバトランジスタピッチを狭くすれば生じる領域ができず機能回路も配置できないため非効率なレイアウトになってしまっていた。
【0032】
一方、ノズル列が長くなると、その方向のヒータのばらつきや吐出特性のばらつき、あるいは電源端子からヒータまでの寄生配線抵抗のばらつきなども大きな問題となる。
【0033】
このようなノズル列方向のばらつきを補正するために、ノズル列方向のヒータグループごとにエネルギ調整回路を配置することが考えられる。ここで、エネルギ調整回路をヘッド基板の端部に配置する場合、ノズル数(ヒータ数)の増加に伴いヘッド基板の端部に設ける回路の規模が大きくなり、結果として、ヘッド基板のサイズが大きなものとなる。また、ヘッド基板の端部に設けた回路とヒータとを配線で接続する必要があるため、その配線数がヒータグループの数の増加とともに増え、配線領域を確保するためにヘッド基板のサイズが増大する。ヘッド基板の端部での配線領域の増大や配線数の増加を抑制するためには、エネルギ調整回路をノズル列方向に配置することが望ましいが、この場合にも、従来の回路構成のままではヘッド基板のサイズの増大を招くことになる。
【0034】
以上のように、ノズル列方向に温度センサやエネルギ調整回路などを配置することがノズル列方向に長いヘッド基板において求められる場合には、基板サイズの増大という問題が生じる。
【0035】
本発明は上記従来例に鑑みてなされたもので、ノズル密度が高くともコンパクトなサイズでのドライバトランジスタの実装が可能で、例えば、温度センサや電力調整回路等の機能回路を実装が可能なヘッド基板を提供することを目的としている。また、そのヘッド基板を用いた記録ヘッド、ヘッドカートリッジ、及び記録装置を提供することも目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0036】
上記目的を達成するために本発明のヘッド基板は、以下のような構成からなる。
【0037】
即ち、インク供給口と、前記インク供給口の長手方向に沿って配列された、複数のヒータからなるヒータアレイと、前記ヒータアレイのアレイ方向に沿って配列された、前記複数のヒータを駆動する複数のトランジスタからなるトランジスタアレイと、前記トランジスタアレイを駆動する論理回路とを有し、前記ヒータアレイと前記トランジスタアレイとの間に前記論理回路を配置することを特徴とする。
【0038】
また他の発明によれば、上記構成のヘッド基板を用いた記録ヘッドを備える。
【0039】
さらに他の発明によれば、上記記録ヘッドとその記録ヘッドに供給するインクを収容したインクタンクとを一体化したヘッドカートリッジを備える。
【0040】
またさらに他の発明によれば、上記記録ヘッド又はヘッドカートリッジを搭載した記録装置を備える。
【発明の効果】
【0041】
従って本発明によれば、ヘッド基板上にインク供給口、ヒータアレイ、論理回路、トランジスタアレイという順に配置する。これにより、ヒータの熱の影響を受けてインクの吐出特性に影響を及ぼす可能性のあるトランジスタアレイとヒータアレイとの距離が広がり、トランジスタへのヒータの熱の影響が軽減され吐出特性への影響も軽減される。
【0042】
この結果、ヘッド基板のレイアウト設計において、例えば、トランジスタのヒータの熱による吐出特性への影響を抑えることが可能となる。
【0043】
また、トランジスタアレイとヒータアレイの間に論理回路を配置したため、ヒータアレイとトランジスタアレイの距離が広がり、配線上のルールに制約されることなく斜め配線が可能となる。この構成によりトランジスタのピッチとヒータのピッチを揃える必要がなくなりレイアウトの効率を上げることができる。
【0044】
加えて、トランジスタ同士の間隔に余裕がある場合、トランジスタのピッチをヒータのピッチより狭くすることで、トランジスタアレイにアレイ方向に空き領域を形成することができる。例えば、その空き領域に温度センサやエネルギ調整回路や電極などを配置することにより、ヘッド基板のサイズを増大させることなく、ヘッド基板の高機能化を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下添付図面を参照して本発明の好適な実施例について、さらに具体的かつ詳細に説明する。なお、既に説明した部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0046】
なお、この明細書において、「記録」(「プリント」という場合もある)とは、文字、図形等有意の情報を形成する場合のみならず、有意無意を問わない。また人間が視覚で知覚し得るように顕在化したものであるか否かを問わず、広く記録媒体上に画像、模様、パターン等を形成する、または媒体の加工を行う場合も表すものとする。
【0047】
また、「記録媒体」とは、一般的な記録装置で用いられる紙のみならず、広く、布、プラスチック・フィルム、金属板、ガラス、セラミックス、木材、皮革等、インクを受容可能なものも表すものとする。
【0048】
さらに、「インク」(「液体」と言う場合もある)とは、上記「記録(プリント)」の定義と同様広く解釈されるべきものである。従って、記録媒体上に付与されることによって、画像、模様、パターン等の形成または記録媒体の加工、或いはインクの処理(例えば記録媒体に付与されるインク中の色剤の凝固または不溶化)に供され得る液体を表すものとする。
【0049】
以下に用いるヘッド基板とは、シリコン半導体からなる単なる基体を指し示すものではなく、各素子や配線等が設けられた構成を差し示すものである。
【0050】
さらに、基板上とは、単に素子基板の上を指し示すだけでなく、素子基板の表面、表面近傍の素子基板内部側をも示すものである。また、本発明でいう「作り込み」とは、別体の各素子を単に基体表面上に別体として配置することを指し示している言葉ではなく、各素子を半導体回路の製造工程等によって素子板上に一体的に形成、製造することを示すものである。
【0051】
<インクジェット記録装置の説明(図1)>
図1は本発明の代表的な実施例であるインクジェット記録装置1の構成の概要を示す外観斜視図である。
【0052】
図1に示すように、インクジェット記録装置(以下、記録装置という)は、インクジェット方式に従ってインクを吐出して記録を行なう記録ヘッド3をキャリッジ2に搭載し、キャリッジ2を矢印A方向に往復移動させて記録を行う。記録紙などの記録媒体Pを給紙機構5を介して給紙し、記録位置まで搬送し、その記録位置において記録ヘッド3から記録媒体Pにインクを吐出することで記録を行なう。
【0053】
記録装置1のキャリッジ2には記録ヘッド3を搭載するのみならず、記録ヘッド3に供給するインクを貯留するインクカートリッジ6を装着する。インクカートリッジ6はキャリッジ2に対して着脱自在になっている。
【0054】
図1に示した記録装置1はカラー記録が可能であり、そのためにキャリッジ2にはマゼンタ(M)、シアン(C)、イエロ(Y)、ブラック(K)のインクを夫々、収容した4つのインクカートリッジを搭載している。これら4つのインクカートリッジは夫々独立に着脱可能である。
【0055】
この実施例の記録ヘッド3は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式を採用している。このため、電気熱変換体を備えている。この電気熱変換体は各吐出口のそれぞれに対応して設けられ、記録信号に応じて対応する電気熱変換体にパルス電圧を印加することによって対応する吐出口からインクを吐出する。
【0056】
<インクジェット記録装置の制御構成(図2)>
図2は図1に示した記録装置の制御構成を示すブロック図である。
【0057】
図2に示すように、コントローラ600は、MPU601、ROM602、特殊用途集積回路(ASIC)603、RAM604、システムバス605、A/D変換器606などで構成される。ここで、ROM602は後述する制御シーケンスに対応したプログラム、所要のテーブル、その他の固定データを格納する。ASIC603は、キャリッジモータM1の制御、搬送モータM2の制御、及び、記録ヘッド3の制御のための制御信号を生成する。RAM604は、画像データの展開領域やプログラム実行のための作業用領域等として用いられる。システムバス605は、MPU601、ASIC603、RAM604を相互に接続してデータの授受を行う。A/D変換器606は以下に説明するセンサ群からのアナログ信号を入力してA/D変換し、デジタル信号をMPU601に供給する。
【0058】
また、図2において、610は画像データの供給源となるコンピュータ(或いは、画像読取り用のリーダやデジタルカメラなど)でありホスト装置と総称される。ホスト装置610と記録装置1との間ではインタフェース(I/F)611を介して画像データ、コマンド、ステータス信号等を送受信する。この画像データは、例えば、ラスタ形式で入力される。
【0059】
さらに、620はスイッチ群であり、電源スイッチ621、プリントスイッチ622、回復スイッチ623などから構成される。
【0060】
630は装置状態を検出するためのセンサ群であり、位置センサ631、温度センサ632等から構成される。
【0061】
さらに、640はキャリッジ2を矢印A方向に往復走査させるためのキャリッジモータM1を駆動させるキャリッジモータドライバ、642は記録媒体Pを搬送するための搬送モータM2を駆動させる搬送モータドライバである。
【0062】
ASIC603は、記録ヘッド3による記録走査の際に、RAM604の記憶領域に直接アクセスしながら記録ヘッドに対して記録素子(吐出用のヒータ)を駆動するためのデータを転送する。
【0063】
なお、図1に示す構成は、インクカートリッジ6と記録ヘッド3とが分離可能な構成であるが、これらが一体的に形成されて交換可能なヘッドカートリッジを構成しても良い。
【0064】
図3は、インクタンクと記録ヘッドとが一体的に形成されたヘッドカートリッジIJCの構成を示す外観斜視図である。図3において、点線KはインクタンクITと記録ヘッドIJHの境界線である。ヘッドカートリッジIJCにはこれがキャリッジ2に搭載されたときには、キャリッジ2側から供給される電気信号を受け取るための電極(不図示)が設けられており、この電気信号によって、前述のように記録ヘッドIJHが駆動されてインクが吐出される。
【0065】
なお、図3において、500はインク吐出口列である。
【0066】
次に、以上の構成の記録装置と記録ヘッドに用いられるヘッド基板のいくつかの実施例について説明する。
【実施例1】
【0067】
図4は本発明の実施例1に従うヘッド基板のレイアウトを示すブロック図である。
【0068】
なお、図4において、既に説明した構成要素には同じ参照番号を付してその説明は省略する。図4において、103′はトランジスタアレイ、104a′は論理回路である。
【0069】
図5はヘッド基板に記録データが入力されてからヒータを駆動するまでの一連の動作を説明するためのブロック図である。図5では、信号の流れを模式的に矢印で示している。また、図5には1つのインク供給口に対応する回路ブロックが抜き出されて示している。
【0070】
なお、図5において、既に説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付し、その説明は省略する。図5において、104a′は図10で言及したのと同様なAND回路や電圧変換回路を含む論理回路である。
【0071】
図6は図4に示したヘッド基板のレイアウト図である。
【0072】
図6において既に説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付している。
【0073】
実施例1の特徴的な点は、従来例の図9や図12と比較すると分かるように、論理回路とドライバトランジスタアレイの配置を入れ替えた点である。この入れ替えにより、従来、ドライバトランジスタアレイが配置されていたヒータアレイの近傍には論理回路が配置される。
【0074】
ドライバトランジスタは温度が上昇するとオン抵抗が高くなり、ヒータを駆動するヒータ電流が低下し吐出特性に影響を及ぼす場合がある。一方、論理回路はAND回路や電圧変換回路によりデジタル信号処理を行うため、閾値による論理の確定さえできればよいので、ドライバトランジスタのように温度の影響がヒータ駆動特性に表れることはほとんどなく、回路動作上は特に問題となることはない。従って、温度の影響があらわれにくい論理回路をヒータアレイに隣接して配置し、その論理回路に隣接してドライバトランジスタアレイを配置するのである。
【0075】
また、図5に示されているように、この実施例では論理回路を跨いでドライバトランジスタアレイからヒータアレイへの配線が縦断的に引き出されている。図6に示すレイアウトから分かるように様に、ヒータアレイ102とドライバトランジスタアレイ103′との間に論理回路104a′を配置したことによりヒータアレイとドライバトランジスタアレイの間に距離を保つことができる。これにより、ヒータでの発熱のドライバトランジスタへの影響を抑制することができる。
【0076】
以上説明した実施例に従えば、熱の影響を受けて吐出特性に影響を及ぼす可能性のあるドライバトランジスタアレイとヒータアレイの距離が長くなるためドライバトランジスタへのヒータの熱の影響が軽減される。この結果、ノズルピッチが高密度ではない600dpiの場合には、ゲート幅(W)を従来と変えないまま、吐出特性への影響を軽減させることができる。
【実施例2】
【0077】
図15は本発明の実施例2を説明するためのレイアウト図である。
【0078】
図中の符号は図6に示したものと同一である。この構成は、実施例1に示したように103aと104a′の配置を変えたことに合わせ、ヒータが図6の倍密度で配置された場合を示している。
【0079】
従来の構成において600dpiの倍密度である1200dpi程度までノズル密度が向上した場合には、600dpiでは1ノズルあたりのドライバトランジスタのゲートが4本配置可能であった。しかしながら、1200dpiでは1ノズルあたりのゲート2本となり、同じ面積のトランジスタ領域では600dpiと比較して半分のゲート幅(W)を有したドライバトランジスタしか実現できない。この結果、ゲート幅(W)に余裕を持った設計ができずヒータの発熱の影響を受けオン抵抗が変化した場合に吐出特性へ影響を及ぼすことが懸念される。また、ヒータの発熱の影響を受けた場合でも、ドライバトランジスタのオン抵抗の変化を十分小さくするように余裕を持って設計した場合、ゲート幅が長くなってしまう。
【0080】
このためドライバトランジスタ配置領域の拡大によるヘッド基板サイズに対する発熱の影響を小さくするため、この実施例では、図15に示すように、ドライバトランジスタ103aと論理回路104a′を入れ替えている。これにより、熱の影響を受けやすいドライバトランジスタ103aがヒータ102aから離れるため、ドライバトランジスタ103aへの熱の影響が軽減される。この結果、トランジスタのゲート幅(W)の余裕が少なくても、熱による影響を抑えることが可能となる。したがって、ノズルピッチが高密度になりゲート本数が減少してもドライバトランジスタ幅が拡大することによる基板サイズの増大を抑制することができる。
【0081】
以上説明した実施例に従えば、熱の影響を受けて吐出特性に影響を及ぼす可能性のあるドライバトランジスタアレイとヒータアレイの距離が長くなるためドライバトランジスタへのヒータの熱の影響が軽減され吐出特性への影響も軽減される。
【実施例3】
【0082】
図7は本発明の実施例3に従うヘッド基板のレイアウトを示すブロック図である。
【0083】
なお、図7において、既に説明した構成要素には同じ参照番号を付してその説明は省略する。図7において、106は空き領域である。
【0084】
この実施例の特徴は、実施例1の構成に加え、ドライバトランジスタの配置ピッチをヒータピッチよりも小さなものとし、これにより、図7に斜線で示された空き領域106を新たに生みだすことにある。
【0085】
図8は図7に示したヘッド基板のレイアウト図である。
【0086】
図8において既に説明したのと同じ構成要素には同じ参照番号を付している。
【0087】
従来は、この実施例のようにヒータピッチとドライバトランジスタピッチを異なるものとすると、そのピッチ間を配線で接続するために一定の距離を設け、斜め配線をレイアウトすることが必要であった。このため、斜め配線のためだけの領域を確保する必要があった。
【0088】
一方、この実施例によれば、図8から分かるように、ドライバトランジスタアレイと論理回路を入れ替え、斜め配線領域の下層に論理回路を配置する構成をとる。その結果、ヘッド基板のサイズを増大することなく、配線上のルールに制約されることなく斜め配線が可能になる。また、ドライバトランジスタピッチをヒータピッチより狭め、ドライバトランジスタアレイのアレイ方向、即ち、ノズル列方向に新たな領域を生じさせることが可能となる。
【0089】
この実施例では、空き領域106をドライバトランジスタアレイのアレイ方向、即ち、ノズル列方向に設ける。この領域にヘッド基板の温度をモニタする温度センサ、安定な駆動を実現するためのエネルギ調整回路や外部との電気的接続を行う電極などの配置のために用いることができる。
【0090】
従って、温度センサ、エネルギ調整回路や電極などを配置してもヘッド基板のサイズは増大しないという効果がある。
【0091】
また、ノズル列方向に温度センサを配置することにより、ノズル列方向の温度分布を検知することができるという効果も得られる。
【0092】
また、エネルギ調整回路を空き領域106に配置すると、従来のようにヘッド基板の端部にこれを配置する領域は不要となるのみならず、ヘッド基板の端部とヒータブロックとの間を電源配線で接続する必要もなくなる。これにより、配線数が減りヘッド基板上の配線領域が小さくなるため、ノズル数が増加しても基板サイズが増大を抑制できるという効果が得られる。
【0093】
さらに、空き領域106に外部との電気的接続を行う電極等を配置した場合、各電極からは近接しているヒータにのみ電力を供給すれば、ヘッド基板の長手方向の長さに係わらず、電源配線は一定の長さに抑えられる。これにより、電極からヒータまでの寄生配線抵抗の増大も解消され電力損失を低減する効果が得られる。
【0094】
またさらに、空き領域106には外部からの電力供給の電気的接続を行う電極をヘッド基板の裏面へ配設するための貫通電極として配置することも可能となる。この場合、この実施例の構成によれば貫通電極が配置される空き領域106はインク供給口101から最も離れた位置にあるため貫通電極がインクに触れる可能性が減少し信頼性が高まる。このため、ノズル列の長いヘッド基板においてもそのサイズの増大を抑制しつつ、高精度な駆動制御等が行えるのみならず、ヘッド基板全体としてレイアウト効率が高まり、ヘッド基板のコストアップを抑えることが可能になる。
【0095】
以上説明した実施例に従えば、記録ヘッドの機能向上や駆動の最適化などを効率の良いレイアウトのもとに達成することができる。
【0096】
さらに加えて、本発明のインクジェット記録装置の形態としては、コンピュータ等の情報処理機器の画像出力装置として用いられるものの他、リーダ等と組合せた複写装置、さらには送受信機能を有するファクシミリ装置の形態を採るもの等であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】本発明の代表的な実施の形態であるインクジェット記録装置の構成の概要を示す外観斜視図である。
【図2】記録装置の制御回路の構成を示すブロック図である。
【図3】インクタンクと記録ヘッドとが一体的に形成されたヘッドカートリッジIJCの構成を示す外観斜視図である。
【図4】本発明の実施例1に従うヘッド基板のレイアウトを示すブロック図である。
【図5】ヘッド基板に記録データが入力されてからヒータを駆動するまでの一連の動作を説明するためのブロック図である。
【図6】図4に示したヘッド基板のレイアウト図である。
【図7】本発明の実施例3に従うヘッド基板のレイアウトを示すブロック図である。
【図8】図7に示したヘッド基板のレイアウト図である。
【図9】従来のインクジェット記録ヘッドに用いられるヘッド基板のレイアウト概略構成の一例を示す図である。
【図10】インクを吐出するためにヒータに電流を供給するための1セグメント分の等価回路図である。
【図11】ヘッド基板に記録データが入力されてからヒータを駆動するまでの一連の動作を説明するためのブロック図である。
【図12】図9に示したヘッド基板のレイアウト図である。
【図13】ノズル解像度が600dpiのヘッド基板のレイアウト構成の一部を示す図である。
【図14】ノズル解像度が1200dpiのヘッド基板のレイアウト構成の一部を示す図である。
【図15】本発明の実施例2を説明するためのレイアウト図である。
【符号の説明】
【0098】
100 ヘッド基板
101 インク供給口
102 ヒータアレイ
103、103′ ドライバトランジスタアレイ
104a、104a′ 論理回路
105 接続端子
106 空き領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インク供給口と、
前記インク供給口の長手方向に沿って配列された、複数のヒータからなるヒータアレイと、
前記ヒータアレイのアレイ方向に沿って配列された、前記複数のヒータを駆動する複数のトランジスタからなるトランジスタアレイと、
前記トランジスタアレイを駆動する論理回路とを有し、
前記ヒータアレイと前記トランジスタアレイとの間に前記論理回路を配置することを特徴とするヘッド基板。
【請求項2】
前記複数のヒータを配置するピッチと前記複数のトランジスタを配置するピッチとは異なることを特徴とする請求項1に記載のヘッド基板。
【請求項3】
前記複数のトランジスタを配置するピッチが前記複数のヒータを配置するピッチより狭くし、
前記トランジスタアレイのアレイ方向に空き領域を形成することを特徴とする請求項2に記載のヘッド基板。
【請求項4】
前記複数のトランジスタと前記複数のヒータとを接続する配線を斜め配線とし、
前記斜め配線の下層に、前記論理回路を配置することを特徴とする請求項3に記載のヘッド基板。
【請求項5】
前記空き領域に、前記ヘッド基板の温度をモニタする温度センサを設けることを特徴とする請求項3に記載のヘッド基板。
【請求項6】
前記空き領域に、安定な駆動を実現するためのエネルギ調整回路を設けることを特徴とする請求項3又は5に記載のヘッド基板。
【請求項7】
前記空き領域に、外部との電気的な接続を行う電極を設けることを特徴とする請求項3又は5又は6に記載のヘッド基板。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1項に記載のヘッド基板を用いた記録ヘッド。
【請求項9】
請求項8に記載の記録ヘッドと該記録ヘッドにインクを供給するためのインクが貯留されたインクタンクとを有することを特徴とするヘッドカートリッジ。
【請求項10】
請求項8に記載の記録ヘッド或は請求項9に記載のヘッドカートリッジを用いて記録を行う記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−160883(P2009−160883A)
【公開日】平成21年7月23日(2009.7.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−2611(P2008−2611)
【出願日】平成20年1月9日(2008.1.9)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】