説明

ヘッド支持機構

【課題】不要な共振を抑制して高い位置決め応答性を有するヘッド支持機構を提供する。
【解決手段】ヘッド素子を搭載したスライダ2がロードビーム5の先端側に配置されているヘッド支持機構であって、ロードビームの先端部に形成された支点突起9と、スライダを支点突起周りに回動自在に支持するように設けられたジンバル部と、スライダを支点突起周りに回動させる変位部材3と、スライダを含むジンバル部の重心を支点突起に合わせるように、ジンバル部の対称軸上に設けられたカウンターバランス405とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気ディスク装置に設けられるヘッド支持機構に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明は、コンピュータの記憶装置等として用いられる磁気ディスク等のディスク装置に設けられるヘッド支持機構に関し、特に、磁気ディスク装置においてデータを高記録密度化するために好適なヘッド支持機構に関する。
近年、磁気ディスク装置に設けられた磁気ディスクの記録密度は、日を追う毎に高密度化が進んでいる。磁気ディスクに対するデータの記録および再生に使用される磁気ヘッドは、通常、スライダに搭載されており、磁気ヘッドが搭載されたスライダは、磁気ディスク装置内に設けられたヘッド支持機構によって支持されている。ヘッド支持機構は、ヘッド支持アームに取り付けられ、このヘッド支持アームが、ボイスコイルモータ(VCM)によって回動されるようになっている。
【0003】
磁気ディスクに対してデータをさらに高密度で記録するためには、磁気ディスクに対して磁気ヘッドをさらに高度に位置決めする必要がある。このために、磁気ヘッドを高精度に位置決めするヘッド支持機構が既に提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献2には、ロードビームは静止した状態でスライダが支点突起を中心に回動する方式が提案されている。スライダを含む回動部分の慣性中心を支点突起に一致させるように、スライダ保持板の一部であってスライダ保持板の両先端に設けられ、かつロードビームの支点突起を通る中心軸に線対称に設けられたカウンターバランスの構成が示されている。これにより、スライダ保持板を含めたスライダ回転部の慣性軸を支点突起とほぼ一致させる。これによりスライダのエアーベアリングによる負圧力に対抗してスライダを持ち上げディスクから離間させる際、スライダの姿勢の安定化を図ることが記載されている。
【0005】
しかしながら上記の従来の構成では、一対の変位部材によりスライダを微少変位させるときの反力がロードビームの共振周波数での共振を励起して、ヘッドを所定のディスク上のトラックに高速位置決めすることができない問題を有していた。
【0006】
また、特許文献2の方式において、スライダを含む回転部の慣性質量が大きくなるためスライダの回転モードの共振周波数を上げられないという問題も有していた。
さらにロードビームの共振周波数を励起させないためにスライダを含む回転部の重心を正確に調整する必要も生じてきた。
また、さらに,カウンターバランスがヘッド支持機構の両側に張り出した形状をしており、ディスクの回転から生じる風の影響を大きく受けヘッド位置決め性能に影響を与えるという問題が生じてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平2−227886号公報
【特許文献2】特開2002−324374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の構成では、一対の変位部材によりスライダを微少変位させるときの反力がSWAYモードとよばれるロードビームの共振周波数での共振を励起して、ロードビームの不要な振動を生じさせてしまい、ヘッドを所定のディスク上のトラックに高速位置決めすることができない問題があった。
またディスクの高速回転による風の影響による不要な共振を受けずに高速位置決めするためには、スライダとジンバル部を合わせたスライダ回転モードの共振周波数を高めることが望ましい。
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、不要な共振を抑制して高い位置決め応答性を有するヘッド支持機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的を達成するために本発明のヘッド支持機構は、ヘッド素子を搭載したスライダがロードビームの先端側に配置されているヘッド支持機構であって、前記ロードビームの先端部に形成された支点突起と、前記スライダとロードビームとの間に介装され、前記スライダを前記支点突起まわりに回動自在に支持するジンバル部と、前記スライダに対してその平面方向に沿って回転力を付与して前記支点突起周りに回動させる変位部材と、前記ジンバル部を含めたスライダにおける回転時の重心を前記支点突起に合わせるとともに、前記ジンバルの一部であってジンバル部の対称軸上に設けられたカウンターバランスと、を備えた構成を有している。
【0010】
この構成によって、変位部材により回動動作するスライダとジンバル部を含めた回動部の反動がサスペンションに伝わらないように、回動部の重心を支点突起に合わせるとともに、回動部の慣性質量を最小に設定できる。これによって、共振周波数特性を向上させることができる。これにより、高い位置決め応答性のあるヘッド支持機構が得られる。
【0011】
上記の2つの目的のうち、まず、ロードビームのSWAYモードを励起させないためには後述の本発明のカウンターバランスを設けて、支点突起からカウンターバランスの端までの距離を調整することで可能である。このとき、カウンターバランスは、前記スライダを含むジンバル部の重心を前記支点突起に合わせるように、前記ジンバル部の対称軸上に設けることが必要である(図11)。
【0012】
上記の2つの目的のうち、スライダとジンバル部をあわせたスライダ回転モードの共振周波数を高めるためには、前記カウンターバランスの慣性質量を小さくすることで可能になる。この慣性質量を小さくするために、本発明のような位置にカウンターバランスを配置した(図15)。
【0013】
実際のスライダが回動する際の動作周波数はスライダとジンバル部をあわせたスライダ回転モードの共振周波数よりも低いところしか使えないので、共振周波数をあげることができると動作周波数もあげることができるので位置きめを高速で行うことができる。
【0014】
本発明は、スライダを含めたジンバル部の重心を支点突起に一致させることにより、ロードビームのSWAYモードを励起させないことができる。さらに、ジンバル部の重心をあわせるために設けられたカウンターバランスをジンバル部の対称軸上に設けることで、スライダとジンバル部を合わせた回動部の回転共振の周波数をより高い共振周波数に改善できる。
【0015】
また、半田をカウンターバランスに付加し、重心調整を行うことでより確実にSWAYモードによる影響を除去することができる。このように高い共振周波数のヘッド支持機構を実現することにより、より高速にヘッド素子をトラックに追従させることが可能となりハードディスクドライブの記録再生速度の高速化が可能になる。また、カウンターバランスの一部からリミッタ機構を構成することで、簡単な構成を実現できる。さらに、カウンターバランスをジンバル部の対称軸上に設けることにより、ディスクの回転による風乱による影響を大幅に改善できる。
【0016】
本発明は、ヘッド素子を搭載したスライダがロードビームの先端側に配置されているヘッド支持機構であって、前記ロードビームの先端部に形成された支点突起と、前記スライダとロードビームとの間に介装され、前記スライダを前記支点突起まわりに回動自在に支持するジンバル部と、前記スライダに対してその平面方向に沿って回転力を付与して前記支点突起周りに回動させる変位部材と、前記ジンバル部を含めたスライダにおける回転時の重心を前記支点突起に合わせるとともに、ジンバル部の対称軸上に設けられた前記ジンバルの一部であるカウンターバランスと、を備えたことにより、ロードビームが有している固有振動を励起させないので高い位置決め応答性のあるヘッド支持機構が得られるという作用を有する。
【0017】
さらに本発明は、スライダ保持板を含めたスライダの回転時の慣性軸を正確に支点突起と一致させるために、ジンバル部の重心を調整するために、前記カウンターバランス上に設けられた重心調整機構とを設けたことにより、変位部材により回動動作するスライダとジンバル部を含めた回動部の反動がサスペンションに伝わらないように、回動部の重心を微少に調整することができる。これにより、より高い位置決め応答性のあるヘッド支持機構が得られる。
【0018】
さらに本発明は、スライダをアンロードさせる際スライダをディスクから引き上げるために設けられるリミッタ機構を、前記カウンターバランスの一部から形成したものであり、限られたスペースにカウンターバランスとリミッタ機構とを設けることができるという作用を有する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、SWAYモードとよばれるロードビームの共振周波数での共振を励起させずに不要な振動を抑制させることができ、さらに、スライダとジンバル部をあわせたスライダ回転モードの共振周波数を高めることで、従来よりもディスクの高速回転による風の影響をうけずに不要な共振を抑制させることができる。結果として、高いヘッド位置決め応答性能を持つヘッド支持機構を得ることができるという効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の概観奢侈図である。
【図2】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構を搭載したハードディスクドライブの概略平面図である。
【図3】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の分解斜視図である。
【図4a】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の平面図である。
【図4b】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の側面図である。
【図4c】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の先端部平面図である。
【図4d】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の先端部斜視図である。
【図5】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のスライダのエアーベアリング面からみた平面図である。
【図6】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のフレクシャのスライダ貼り付け近傍の平面図である。
【図7】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のフレクシャのスライダ貼り付け近傍のステンレス構造を示す平面図である。
【図8】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のリンク機構の斜視図である。
【図9】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のフレクシャの断面構成図である。
【図10a】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の圧電体素子の平面図である。
【図10b】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の圧電体素子の中央部の断面図である。
【図10c】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の圧電体素子の両端部の断面図である。
【図11】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構の動作図である。
【図12a】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のカウンターバランスの大きさの異なるモデルの比較図である。
【図12b】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のカウンターバランスの大きさの異なるモデルの比較図である。
【図12c】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のカウンターバランスの大きさの異なるモデルの比較図である。
【図13a】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のカウンターバランスの大きさの異なるモデル(図12)に対応する周波数応答特性図である。
【図13b】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のカウンターバランスの大きさの異なるモデル(図12)に対応する周波数応答特性図である。
【図13c】本発明の実施形態1におけるヘッド支持機構のカウンターバランスの大きさの異なるモデル(図12)に対応する周波数応答特性図である。
【図14a】ヘッド支持機構のロードビームのSWAYモードの動作を示した概略図である。
【図14b】ヘッド支持機構のロードビームのSWAYモードの動作を示した概略図である。
【図15a】カウンターバランスを対称軸(Y軸)上に設置したときの効果についての概略説明図である。
【図15b】カウンターバランスを対称軸(Y軸)上に設置したときの効果についての概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに以下に記載した構成要素は、適宜組み合わせることができる。
【0022】
図1は本発明の実施形態1のヘッド支持機構1の概観斜視図である。ヘッド支持機構1は、スライダ2(図示せず)、ロードビーム5、ベースプレート6、ヘッドの信号を伝える配線を備えたフレクシャ4からなっている。また、ヘッド支持機構1の先端には、スライダ2を上下に移動させるためのタブ5cが設けられている。
【0023】
図2は、本実施形態1のヘッド支持機構1を搭載した磁気ディスク装置を示した概略平面図である。磁気ディスク装置300は、磁気ディスク301、ボイスコイルモータ304、ヘッド支持アーム302によって構成されている。ヘッド支持アーム302の先端にはヘッド支持機構1が固定されている。ヘッド支持機構1には、その先端にタブ5cが設けられている。停止時には、スライダ2は、ランプロード303とタブ5cによってディスク301から離間されている。磁気ディスク装置が動作状態に移行するときには、ボイスコイルモータ304に通電されヘッド支持アーム302が反時計方向に回動し、ヘッド支持機構1のタブ5cはランプロード303の傾斜面303aによって徐々に下降しスライダ2は、ディスク301上に滑らかにローディングされる。また、磁気ディスク装置300が動作を終了する時、ボイスコイルモータ304によりヘッド支持アーム302が時計方向に回動し、スライダ2は、ディスク301上からスムーズにアンローディングされる。
【0024】
図3は、本実施形態1のヘッド支持機構1の分解斜視図である。ヘッド支持機構1は、ヘッド素子2aを設けたスライダ2、スライダ2を微少に回転させるアクチュエータである一対の圧電素子3、スライダ2と圧電素子3を保持するとともにスライダ2に設けられたヘッド素子2aの信号を伝送する配線を形成したフレクシャ4、スライダ2がディスク301上に浮上させるための加重を加えるロードビーム5、前記ロードビーム5をヘッド支持アームに対して固定するベースプレート6とから成り立っている。
圧電素子2の材料としては、PZT(Pb(Ti,Zr)O:チタン酸ジルコン酸鉛)、Ba(バリウム)及びCa(カルシウム)を含む酸化物固溶体からなる非鉛圧電材料、Ba(Ti1−xZr)O及び(Ba1−y)TiO、(K,Na)NbOなどが挙げられる。
【0025】
図4aは、ヘッド支持機構1をディスク面に対して上から見た平面図で、図4bは、スライダ2がディスク301上に浮上している状態の側面図である。図4aに示すように、例えばステンレススチールからなるロードビーム5には、一対の板バネ5a、5bが一体形成されており、このバネ力でディスク301に対するスライダ2のロード荷重を発生させている。例えばステンレススチールからなるフレクシャ4は、ロードビーム5の下面にスポット溶接5d(4箇所)で固定されている。ベースプレート6は、一部を円形に絞り出した圧入部6aを有しており、この圧入部6aはヘッド支持アーム302に設けられた穴に機械的に圧入固定される。ロードビーム5の先端部付近に凸形状(ディスク面方向に)に加工された支点突起9が形成され、スライダ2は、その頂点でイタバネ5a、5bで発生したロード荷重を受け、エアーベアリング面(ABS)で発生した空気圧とロード加重とがバランスして、ディスク301上を浮上している。
【0026】
図4cは、ヘッド支持機構1の先端部の平面図である。
図4dは、ヘッド支持機構1の先端部の斜視図である。
ロードビーム5の先端部には異形の穴5eが設けられ、フレクシャ4の一部を切り起こしたジンバル部の一部としてリミッタ408が隙間を介して係合している。磁気ディスク装置300が停止モードに移行する時、スライダ2をディスク301から持ち上げるが、このときスライダ2のエアーベアリング面(ABS)で生じる負圧力に対抗して引き上げるために設けられている。
【0027】
図5は、ヘッド支持機構1のスライダ取り付け部分をスライダ2のエアーベアリング面(ABS)から見た図である。
図6は、図5に示したヘッド支持機構1からスライダ2と圧電素子3を除外して示したフレクシャ4のスライダ取り付け部分の形状および構造を示した図である。
また、図7は、ヘッド支持機構1のジンバル部400のステンレス基板4aの形状を示している。
図9は、図6のA−A断面を示した図である。フレクシャ4は、ステンレス基板4a上に絶縁層4b、導電層4c、カバー層4dを積層させ、エッチングにて所定の形状に加工して配線構造を構成したものである。
【0028】
図5において、スライダ2は、支点突起9がエアーベアリング面の図芯に位置するようにフレクシャ4に接着されている。また、スライダ2の一側面には、ヘッド素子2aとの信号を授受する接続端子(図示せず)が設けられ、この接続端子とフレクシャ4に設けられたパッド7a〜7hを半田ボールで接続する。パッド7a〜7hは、それぞれに対応した配線8a〜8hによってヘッド支持機構1の取り付け基端方向に向かって延長され接続されている。
圧電素子3の電極3a、3bは、フレクシャ4の圧電駆動パッド11a、11bおよび圧電駆動パッド11c、11dに半田ボールにて接続されている。なお、圧電駆動パッド11a、11dは、フレクシャのステンレス基板4aにスルーホールで導通され接地されている。圧電駆動パッド11b、11cは、配線8i、8jによってヘッド支持機構1の取り付け基端方向に向かって延長され接続されている。
【0029】
ジンバル部について、図7を用いて説明する。例えばステンレススチールからなるジンバル部400は、スライダ貼り付け部402、アウトリガ404、カウンターバランス405を含む一点鎖線で示した部分を指す。ジンバル部は、スライダ2を支点突起9周りに回動自在に支持するように設けられている。
【0030】
スライダ貼り付け部402は、一対のアウトリガ404で支えられている。アウトリガ404のヘッド支持機構1の基端側は,ロードビーム5とスポット溶接5dで固定されている。このアウトリガ404はその弾性を利用してジンバル部が支点突起9をピボット支点として自在に姿勢を変えうる構成となっている。ジンバル部400は、アウトリガ404によりX軸周りの回転(ピッチ方向)、Y軸周りの回転(ロール方向)に自在に回転可能になっている。
【0031】
図7の支点突起9を原点に座標を表記した。
アウトリガ404の中央部には、ステンレス基板4a の一部をほぼ直角に曲げ加工したリンク403が形成されている。図7における矢印D方向から見た図を図8に示した。
この構造は、左右対称でかつ左右の曲げた部位の延長した線が交差する点が支点突起9に一致するか、あるいは支点突起の近傍に位置するように構成されている。これによりジンバル部400がZ軸周りに回転(ヨー方向)可能になっている。
【0032】
ジンバル部400には、重心を支点突起9に合わせるためのカウンターバランス405がジンバル部の一部として設けられ、その端部に複数の重心調整パッド14が設けられている。カウンターバランス405は、スライダ2を含むジンバル部の重心を支点突起9に合わせるように、ジンバル部400の対称軸上に設けることが必要である。
図9は、図6のA−A断面を示した図である。このパッド14は、ジンバル部の重心を調整するために、カウンターバランス405上に設けられたものであり、図9に示すフレクシャの積層構造における導電層4cが露出しており、この部分に半田ボールを付加して重心調整を行いスライダとジンバル部を含めた回動部の重心を支点突起9に正確に一致させる。なお、重心を合わせるために用いる比重の大きな素材としては、半田に限るものではない。例えば金ボールや銀ボールでもよい。比重の大きな接着剤等を用いても良い。また、パッドの配置も一直線上でなくてもよく、カウンターバランス上の任意の場所に設定しても良い。
【0033】
また、カウンターバランス405とスライダ貼り付け部402の間に、切り起こしてフック状に形成したジンバル部の一部としてリミッタ408が設けられている。これによりアンロード時において、スライダ2をディスク301からエアーベアリング面(ABS)で生じる負圧力に対抗して引き上げることができる。
【0034】
図10aは、圧電素子3の平面図、図10b、cは、圧電素子3がフレクシャ4上に接着された際の断面構造を示した図である。圧電素子の中央部の図10aにおける長さLの範囲は、図10bに示す構造となっており、図10bは図10aのB−B断面を示した図である。また、圧電素子3の両端部の長さM、Nの範囲は、図10cに断面構造を示す。図10cは図10aのC−C断面を示した図であり、ステンレス基板4a上に設けられている。図10b、図10cにおいて、圧電素子3は、絶縁層4b上に接着剤10によって貼り付けられている。また、圧電素子3には、圧電材料3cの上下面に白金製薄膜電極が設けられ上面にはカバーコート13で覆われている。薄膜電極12aは電極3aと、薄膜電極12bは電極3bとつながっている。電極3aと3bに電圧を加えることで圧電材料3cに積層方向に、電界を加えることができる。
【0035】
本発明の実施形態1のヘッド支持機構1についてその動作を説明する。
薄膜電極12に電圧を加え、圧電材料の分極と同じ方向、つまり積層方向の矢印Gの方向に電界が加われば、圧電素子3の有効長L部分は収縮する。一方、圧電材料の分極と逆方向に電界が加われば、圧電素子3の有効長L部分は伸びる。なお、圧電材料3cの分極方向を図10b、図10cに矢印Gで示した。
【0036】
図11は、圧電素子3に左右逆の電界が加わった時の、圧電素子の伸縮の状態を示した図である。圧電素子3−Lが伸びると、補強部407―Lを介して配線8−Lが押される。一方、圧電素子3−Rが収縮すると、補強部407―Rを介して配線8−Rを引っ張ることになる。なお、補強部407は、圧電素子3の変位を配線8に伝達するために設けられたステンレス基板4aで形成された部分である。
【0037】
一方、スライダ2、スライダ貼り付け部402、アウトリガ404、カウンターバランス405を含むジンバル部400は、リンク403によるリンク機構によって支点突起9を中心に、図11の矢印Eのように回動する。カウンターバランス405は、スライダ2を含むジンバル部の重心を前記支点突起に合わせるように、前記ジンバル部の対称軸上に設けることが必要である。
これは、一対のリンク403の延長線上の交点(瞬間中心)が支点突起9に一致しているためである。電圧が印加され圧電素子3が交互に伸縮すると、ジンバル部400は、支点突起9を中心に往復回動運動することになる。ここで、スライダ2とジンバル部400を含む回動部トータルの重心は支点突起9に一致しているので、ジンバル部400が往復回動運動したとしても、ロードビーム5に全く反作用が生じない。
【0038】
次に、回動部の慣性質量を小さくする手段として、考慮すべき点について図15を用いて説明する。図15は、カウンターバランス405をジンバル部400の対称軸上(ここではわかりやすくするためにY軸とします)に設置したときの効果について説明した図である。図15aは、特許文献2にも開示されている図12aに示された従来のカウンターバランスの概略モデルを示す。左右のカウンターバランスの質量は支点突起9に対して45度方向に開いて設けられ、左右にm/2の質量が付加されている。一方図15bは、本実施形態1におけるカウンターバランスの概略モデルで、X軸に対するバランスをとるために、ジンバル部の対称軸上(Y軸)に質量mが付加されている。なお、どちらの場合もカウンターバランスでその重心が支点突起に一致している。
【0039】
ここで、付加したカウンターバランス405の慣性モーメントを見てみると、従来の図15aの場合、
カウンターバランスの慣性=√2*m*L
本実施形態1である図15bの場合、
カウンターバランスの慣性は、
カウンターバランスの慣性=m*L
となる。ここで、Lは、X軸まわりのバランスを考慮したときの支点突起からカウンターバランスまでの距離である。したがって、従来のカウンターバランスは、本実施形態1に比較して√2倍大きくなってしまう。よって、カウンターバランス405をジンバル部の対称軸上(Y軸)に設けることでジンバル部の慣性質量を最小にでき、スライダ2とジンバル部400を合わせたスライダ回転モードの共振周波数を高めることになる。
【0040】
さらに図15aの場合、ハードディスクドライブ内のディスクの高速回転により生じる風の影響を受けやすい。すなわち、カウンターバランスが左右に張り出した構成であるため、風によるジンバル部の対称軸(Y軸)を中心としたモーメントが発生しやすく不要な共振によりヘッド位置決め性能を劣化させる可能性を有している。本実施形態1では、ジンバル部の対称軸上にカウンターバランスが設けられているのでジンバル部の対称軸を中心のモーメントによる風乱は生じにくい。
【0041】
次に本発明の、ジンバル部400の重心位置と圧電素子3の伸縮駆動によりスライダのヘッド素子2aの応答特性について説明する。
図12は、カウンターバランス405の大きさの異なるモデルを示した。図12aは、前記ジンバルの一部であるカウンターバランス405の端から支点突起9までの距離がP、図12bは、距離がQ、図12cは、スライダ2とジンバル部400を合わせた回動部の重心が支点突起9に一致したモデルで、距離がRである。
ここで各カウンターバランス405の端から支点突起9までの距離は、おおよそ
P<<Q<R
となっている。
【0042】
これらのモデルで、左右の圧電素子3に逆方向に電界を加えて駆動させたときの、駆動周波数に対するヘッド素子2aの応答特性を図13に示した。
カウンターバランス405の端から支点突起9までの距離がPのモデルの応答特性を図13a示す。このモデルのスライダ2とジンバル部400を合わせた回動部の重心は、大きく支点突起9からヘッド素子2a側にシフトしている。結果として23.3kHz付近に大きな共振が現れている。この共振はロードビーム5の固有モードのSWAYモードである。この特性は、SWAY共振点(23.3kHz)以上の高い周波数でスライダ2を回動させようとしても、スライダ2は信号に追従しないことを示している。なお、SWAYモードとは、サスペンション全体がヘッドがオフトラックする方向に共振するモードである。
【0043】
カウンターバランス405の端から支点突起9までの距離がQのモデルの応答特性を、
図13bに示す。前の図13aに比べるとカウンターバランスの重量が大きくなり23.3kHzのSWAYモードの共振レベルは小さくなっている。
カウンターバランス405の端から支点突起9までの距離がRのモデルの応答特性を
図13cに示す。この場合は、スライダ2とジンバル部400を合わせた回動部の重心が支点突起9に一致している。したがって、ジンバル部400が回動往復運動してもロードビーム5に反力が加わらずロードビーム5の固有モードの23.3kHzのSWAYモードを励起しない。すなわち、ロードビームの不要な振動を抑制できる。SWAYモードとよばれるロードビームの共振周波数での共振を励起させずに不要な振動を抑制させることができる。
【0044】
図14aは、ロードビーム5の固有モードであるSWAYモードの動作(矢印F方向の振動)を示した概略図である。スライダ2とジンバル部400を合わせた回動部の重心Hが支点突起9(図14ではスライダ2の中心点)からずれているために重心移動の反力がロードビームの板バネ5a、5bに影響を与えてロードビーム5全体が左右に揺動する。一方、図14bは、スライダ2とジンバル部400を合わせた回動部の重心Hが支点突起9(図14ではスライダ2の中心点)に一致しているので、重心移動がない。そのためロードビーム5に反力が作用しないので、ロードビーム5は静止している。したがってスライダ2とジンバル部400を合わせた回動部の重心Hを支点突起9に合わせることにより、ロードビームの不要な振動を抑制でき周波数特性を改善することができる。
【0045】
再度、図13の各周波数特性を見てみると、先のSWAYモードのさらに高い周波数領域でスライダ回転モードの共振点がみられる。
図13aにおいてカウンターバランス405の端から支点突起9までの距離がPのモデルでは、38kHz,図13bにおいて距離がQのモデルでは35kHz、図13c重心が一致した距離がRのモデルでは34kHzとなっている。この共振モードは、スライダ2とジンバル部400を合わせた回動部の回転共振であり、回動部の慣性質量が小さいほど高い周波数となる。したがって、スライダ2とジンバル部400を合わせた回動部の重心を支点突起に一致させかつジンバル部400の慣性質量を小さくすることで、総合的に高い周波数応答特性を得ることができる。
【0046】
スライダとジンバル部をあわせたスライダ回転モードの共振周波数を高めることで、従来よりもディスクの高速回転による風の影響をうけずに不要な共振を抑制させることができる。スライダとジンバル部をあわせたスライダ回転モードの共振周波数を高めるためには、カウンターバランスの慣性質量を小さくすることで可能になる。この慣性質量を小さくするために、本発明のような位置にカウンターバランスを配置した。実際のスライダが回動する際の動作周波数はスライダとジンバル部をあわせたスライダ回転モードの共振周波数よりも低いところしか使えないので、共振周波数をあげることができると動作周波数もあげることができるので位置きめを高速で行うことができる。
【符号の説明】
【0047】
1 ヘッド支持機構
2 スライダ
3 圧電素子
4 フレクシャ
4a ステンレス基板
4b 絶縁層
4c 導電層
4d カバー層
5 ロードビーム
5a 板バネ
5b 板バネ
5c タブ
5d スポット溶接ポイント
6 ベースプレート
6a 圧入部
7a〜7h パッド
8 配線
9 支点突起
10 接着剤
11a〜11d 圧電駆動パッド
12 薄膜電極
13 カバーコート
14 重心調整パッド
400 ジンバル部
401 拘束部
402 スライダ貼り付け部
403 リンク
404 アウトリガ
405 カウンターバランス
406 圧電素子貼り付け部
407 補強部
408 リミッタ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘッド素子を搭載したスライダがロードビームの先端側に配置されているヘッド支持機構であって、
前記ロードビームの先端部に形成された支点突起と、
前記スライダを有し、該スライダを前記支点突起周りに回動自在に支持するように設けられたジンバル部と、
前記スライダを前記支点突起周りに回動させる変位部材と、
前記スライダを含むジンバル部の重心を前記支点突起に合わせるように、前記ジンバル部の対称軸上に設けられたカウンターバランスと
を備えたことを特徴とするヘッド支持機構。
【請求項2】
前記カウンターバランスは、前記ジンバルの一部からなることを特徴とする請求項1に記載のヘッド支持機構。
【請求項3】
前記ジンバル部の重心を調整するために、前記カウンターバランス上に設けられた重心調整機構を備えることを特徴とする請求項1から2のいずれかに記載のヘッド支持機構。
【請求項4】
前記重心調整機構は、前記カウンターバランス上に比重の大きな素材を付加するための複数のパッド部であることを特徴とする請求項3に記載のヘッド支持機構。
【請求項5】
前記比重の大きな素材は、半田であることを特徴とする請求項4に記載のヘッド支持機構。
【請求項6】
前記変位部材は、
フレクシャの絶縁膜上に設けられた圧電素子を含み、
該圧電素子の変位を、ステンレス基板で形成された補強部を介して配線を押したり引っ張ったりすることにより、前記スライダを前記支点突起周りに回動させることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のヘッド支持機構。
【請求項7】
前記スライダをアンロードさせる際スライダをディスクから引き上げるために設けられるリミッタ機構を、前記カウンターバランスの一部から形成したことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のヘッド支持機構。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図4c】
image rotate

【図4d】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10a】
image rotate

【図10b】
image rotate

【図10c】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12a】
image rotate

【図12b】
image rotate

【図12c】
image rotate

【図13a】
image rotate

【図13b】
image rotate

【図13c】
image rotate

【図14a】
image rotate

【図14b】
image rotate

【図15a】
image rotate

【図15b】
image rotate


【公開番号】特開2012−238350(P2012−238350A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−105775(P2011−105775)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】