説明

ヘテロポリ酸の分離方法

【課題】 低エネルギーコストで、ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を高効率に分離して、高いヘテロポリ酸回収率を実現し、しかも種々の反応系に適用することができるヘテロポリ酸の分離方法を提供する。
【解決手段】 ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を分離する方法であって、有機高分子膜を用いて分子篩によりヘテロポリ酸を分離する工程を含み、該有機高分子膜の25℃、0.1MPaにおける純水の透過速度が1g/min/m以上であることを特徴とするヘテロポリ酸の分離方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロポリ酸の分離方法に関する。より詳しくは、種々の反応に均一系触媒として用いられるヘテロポリ酸を分離し、反応生成物を精製したり、分離したヘテロポリ酸を回収して再利用したりするための分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロポリ酸は、二種以上の酸素酸が縮合した無機酸素酸であり、種々の反応に均一系触媒として用いられることが期待され、これを用いた反応が種々検討されている。
このヘテロポリ酸を工業的に用いようとする場合、ヘテロポリ酸自体が高価であるために、たとえわずかであっても反応前後での損失(ロス)が生産コストに大きな影響を与えることになる。そこで、反応に使用した後に、分離、回収してリサイクルすることが求められている。ヘテロポリ酸触媒が種々の反応に適用され、そのような反応が工業的に多く行われるようになれば、ヘテロポリ酸の分離・回収技術の重要性は増大していくことになる。
しかしながら、ヘテロポリ酸が均一系触媒として用いられることが多いことから、そのようなヘテロポリ酸を含む反応溶液からヘテロポリ酸を高い率で分離回収することは困難であるのが現状であり、ヘテロポリ酸の効率的な分離回収を達成することができ、しかも種々の反応系に適用することができる方法が望まれるところであった。
【0003】
従来の触媒分離技術としては、例えば、液中に溶解している触媒を通過させない無機膜を用いて、透過側を減圧にし、蒸気として溶媒及び除去成分を分離する方法によるヘテロポリ酸の分離方法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。若しくは、擬溶融状態のクラスター酸触媒を用いた植物系繊維材料の分解方法の中で、用いるクラスター酸触媒と生成する糖類とを分離する方法として、酸素10員環のMFI、βゼオライト、酸素12員環のモルデナイト等の多孔性物質を用いることができることが開示されている(例えば、特許文献2参照)。また、触媒の分離に有機高分子膜を用いた例としては、例えば、ポリアミドの逆浸透膜を用いたヘテロポリ酸の膜分離や(例えば、非特許文献1参照。)、ニトロセルロースでできた孔のサイズが3μmの膜を用いたヘテロポリ酸を含む会合体の回収が開示されている(例えば、非特許文献2参照。)。若しくは、ナフィオン(Nafion)を用いて、ヘテロポリ酸濃度が1%のヘテロポリ酸水溶液からヘテロポリ酸(H[PMo1240]・3HO)を分離して回収することができることが開示されている(例えば、非特許文献3参照)。
このように、ヘテロポリ酸の分離技術が開示されてはいるが、分離効率を精査して検討したような技術ではなく、これらを適用しただけでは、ヘテロポリ酸のロスを充分に解消することはできなかった。また、ヘテロポリ酸の効率的な分離回収、有効利用に寄与することができるといえるほど効率的な分離回収方法ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−285625号公報(第1−2、8頁)
【特許文献2】特開2008−271787号公報(第1−2、12頁)
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M・A・フェドトフ(M.A. FEDOTOV)他、「カタリシス レターズ(Catalysis Letters)」(米国)、1990年、第6巻、pp.417−422
【非特許文献2】チヨ・マツバラ(Chiyo Matsubara)他、「アナリスト(ANALYST)」(英国)、1987年、第112巻、pp.1257−1260
【非特許文献3】S・ロイ・チョハリー(S. Roy Chowdhury)他、「デサリネーション(Desalination)」(オランダ)、2002年、第144巻、pp.41−46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のように、ヘテロポリ酸を含む溶液からヘテロポリ酸を分離する方法について検討されている。
しかしながら、特許文献1では、液中に溶解している触媒を通過させない無機膜を用いて、透過側を減圧にし、蒸気として溶媒及び除去成分を分離する方法によってヘテロポリ酸を分離するために、溶媒及び除去成分の気化が必要であり、エネルギーコストがかかってしまう。また、無機膜としてゼオライト等からなるモレキュラーシーブ膜が用いられることになるが、このような無機膜を用いてヘテロポリ酸を分離する場合、無機膜を構成する金属酸化物がヘテロポリ酸を吸着する性質を有するために、無機膜ではヘテロポリ酸が吸着してしまい、分離回収にロスを生じることになる。更に、特許文献2には、ヘテロポリ酸を膜分離で回収する実施形態が記載され、モルデナイト膜を用いたリンタングステン酸を分離回収したことが記載されているが、リンタングステン酸等のヘテロポリ酸の回収率についての記載はなく、無機膜を用いる上で必須である支持体の多孔質アルミナにヘテロポリ酸が吸着することにより、ヘテロポリ酸の回収率が低下することになる。一方、支持体を必要としない有機高分子膜を用いてヘテロポリ酸を分離した例が非特許文献1〜3に開示されている。しかしながら、非特許文献1では、膜として逆浸透膜を用いており、逆浸透膜は一般的に非常に高い圧力での運転が必要であるためにエネルギーコストが高くなってしまい、その上、透過物の透過する速度が充分ではないために分離効率が悪い。非特許文献2では、孔のサイズが3μmの膜を用いており、これは精密濾過膜に相当するが、精密濾過膜は一般的にゲル等の非常に細かい固形分と液体とを分離するものであり、均一に溶解したヘテロポリ酸を分離することはできない。非特許文献3では、膜としてナフィオン膜を用いているが、溶媒の透過速度が著しく低い上に、ヘテロポリ酸と溶媒との分離が悪い。
このように、エネルギーコストが低く、かつ、触媒ロスを充分に低減して均一に溶解したヘテロポリ酸を高効率に分離し、高い回収率を実現するような方法は見出されておらず、そのようなヘテロポリ酸の分離方法が求められている。特に、ヘテロポリ酸を高濃度で用いる場合には、分離回収効率の優劣が触媒ロスに大きく影響することになり、このような場合においても高い分離回収効率を実現することは、ヘテロポリ酸を用いる種々の反応系において技術的意義がきわめて高いといえる。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、低エネルギーコストで、ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を高効率に分離して、高いヘテロポリ酸回収率を実現し、しかも種々の反応系に適用することができるヘテロポリ酸の分離方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、ヘテロポリ酸を分離する方法の中でも、ヘテロポリ酸以外のその他の成分を気化させる必要のある方法とは異なり、ヘテロポリ酸含有溶液中の成分の相変化を伴わない分離方法によって分離するエネルギーコストの低い膜分離について種々検討し、分離膜として有機高分子膜に着目した。有機高分子膜は、多種多様な細孔径のものがあることから、ヘテロポリ酸含有溶液に含まれるヘテロポリ酸種の分子サイズ、又は、ヘテロポリ酸含有溶液にヘテロポリ酸以外の溶質が含まれている場合には、ヘテロポリ酸種とヘテロポリ酸以外の溶質との分子サイズに応じて適切な有機高分子膜を選択して使用することで、ヘテロポリ酸の回収率を高めることができるだけでなく、分離膜として無機膜を用いる場合と異なり、大容量の多孔質支持体を必要としないために、多孔質支持体へのヘテロポリ酸の吸着に起因するヘテロポリ酸回収率のロスを免れることができることを見出した。また、25℃、0.1MPaにおける純水の透過速度が1g/min/m以上である有機高分子膜を用いることによって、溶媒の透過速度が充分なものとなり、ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を高効率に分離することが可能となることも見出した。このような有機高分子膜を用いた膜分離は、ヘテロポリ酸含有溶液のヘテロポリ酸濃度やヘテロポリ酸の分子量に関わらずにヘテロポリ酸を効率的に分離することができるため、ヘテロポリ酸濃度の高い溶液からヘテロポリ酸を分離する場合やヘテロポリ酸含有溶液に含まれるヘテロポリ酸が単量体である場合といった、従来のヘテロポリ酸分離方法では高効率なヘテロポリ酸の分離回収が実現出来なかった場合において、特に有効であることを見出した。更に、ヘテロポリ酸含有溶液にヘテロポリ酸以外の溶質が含まれる場合であって、該ヘテロポリ酸以外の溶質が有機物である場合には、有機高分子膜は該有機物と高い親和性を示すために、ヘテロポリ酸含有溶液を液状のまま濾過することによって、容易にヘテロポリ酸を分離することが可能であることも見出した。このような有機高分子膜を用いると、ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸とその他の成分とを分離するに当たり、溶液中の成分の相変化を行うことなく、ヘテロポリ酸を高い透過阻止率で阻止するとともに、その他の成分を高い透過率で透過させることができ、効率的な分離が低エネルギーコストで可能となることを見出し、上記課題をみごとに解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
【0009】
すなわち本発明は、ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を分離する方法であって、有機高分子膜を用いて分子篩によりヘテロポリ酸を分離する工程を含み、該有機高分子膜の25℃、0.1MPaにおける純水の透過速度が1g/min/m以上であるヘテロポリ酸の分離方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0010】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法は、有機高分子膜を用いて分子篩によりヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を分離する工程を含むものである。分子篩とは、分子量差に基づいて化合物を分離するものであり、本発明のヘテロポリ酸の分離方法は、このような原理に従ってヘテロポリ酸が分離されることになる限り、有機高分子膜は、1種であっても2種以上を用いてもよい。また、少なくとも1つの有機高分子膜を用いて分離されることになる限り、その他の分離方法と組み合わせて用いてもよく、有機高分子膜を用いて分離する工程を含む限り、その他の分離工程を含んでいてもよい。
なお、本発明のヘテロポリ酸の分離方法は、有機高分子膜を用いてヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を分離するものであるが、有機高分子膜を用いてヘテロポリ酸の少なくとも一部がヘテロポリ酸含有溶液に含まれるヘテロポリ酸以外の成分のいずれかから分離されることになる限り、本発明の分離方法に該当する。中でも、ヘテロポリ酸の少なくとも一部がヘテロポリ酸含有溶液に含まれるヘテロポリ酸以外の全ての成分から分離されることが好ましい。
【0011】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法において用いられる有機高分子膜は、25℃、0.1MPaにおける純水の透過速度が1g/min/m以上のものである。したがって、非特許文献3に開示のナフィオン膜のように25℃、0.1MPaの条件において純水が透過しない膜は、本発明における有機高分子膜には該当しない。有機高分子膜の25℃、0.1MPaにおける純水の透過速度が1g/min/m以上であることにより、溶媒の透過速度が充分な膜となり、ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を高効率に分離することが可能となる。
上記純水の透過速度は、5〜1000g/min/mであることが好ましい。より好ましくは、10〜800g/min/mである。更に好ましくは、20〜800g/min/mであり、特に好ましくは、30〜800g/min/mである。
なお、純水の透過速度は、例えば、各分離膜のモジュールに純水を通液した状態で0.1MPaに加圧した時に得られる透過液の流速を測定することにより求めることができる。
【0012】
上記有機高分子膜の分画分子量は、分離効率の面から500000以下であることが好ましい。より好ましくは300000以下であり、更に好ましくは、100000以下である。なお、分画分子量とは、有機高分子膜を用いて膜分離を行った場合に透過を阻止できる最低の分子量を表すが、本発明においては、有機高分子膜により90%が透過を阻止される分子の分子量を分画分子量とする。
【0013】
上記有機高分子膜の種類としては、限外濾過膜、透析膜、ナノ濾過膜、逆浸透膜と一般的に呼ばれているものが挙げられるが、本発明のヘテロポリ酸の分離方法において用いられる有機高分子膜は、ナノ濾過膜又は限外濾過膜であることが好ましい。有機高分子膜が、ナノ濾過膜又は限外濾過膜であると、例えば、低分子の有機物等のヘテロポリ酸以外の溶質がヘテロポリ酸含有溶液に含まれている場合に、ヘテロポリ酸とヘテロポリ酸以外の溶質とを分離することが可能となる。より好ましくは、ナノ濾過膜である。
【0014】
上記有機高分子膜の材質としては、炭素膜、再生セルロース、酢酸セルロース、ニトロセルロース、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリ塩化ビニル、アラミド、ポリイミド、芳香族ポリアミド、親水化ポリアミド、ポリエステル、ポリ酸化エチレン、ポリビニルアルコール、ポリエチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアミノ酸、及び、それらにカチオン交換基を導入したもの等が挙げられる。この中でも、酸、熱、圧力に対する安定性の観点から、好ましくは、炭素膜、再生セルロース、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、親水化ポリアミド、及び、それらにカチオン交換基を導入したものであり、より好ましくは、再生セルロース、酢酸セルロース、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、親水化ポリアミド、及び、それらにカチオン交換基を導入したものである。特に好ましくは、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、芳香族ポリアミド、親水化ポリアミド、及び、それらにカチオン交換基を導入したものである。
【0015】
上記有機高分子膜の使用形態としては、管状、袋状、中空糸状、平膜状、スパイラル状等が挙げられ、好ましくは中空糸状、スパイラル状である。より好ましくはスパイラル状である。
上記有機高分子膜の厚みとしては、10mm以下が好ましく、1mm以下がより好ましく、0.1mm以下が更に好ましい。
【0016】
上記有機高分子膜は、カチオン交換基を有する高分子膜であることが好ましい。カチオン交換基を有する有機高分子膜を用いてヘテロポリ酸含有溶液からのヘテロポリ酸の分離を行った場合には、ヘテロポリ酸と高分子膜のカチオン交換基とが電気的な相互作用により反発し合うこととなる。そのためにヘテロポリ酸が高分子膜に近づきにくくなり、高分子膜を通過することがより難しくなる。これにより、ヘテロポリ酸の膜の透過がより妨げられ、ロスをより少なくしたヘテロポリ酸の分離、回収が可能となる。中でも、上記有機高分子膜は、スルホン酸基を有する高分子膜であることがより好ましい。
【0017】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法において用いられる有機高分子膜としては、例えば、以下のものが挙げられる。なお、これらは全て、商品名によって表記されている。
ポール社製限外濾過膜:オメガシリーズ、アルファシリーズ、旭化成ケミカルズ社製限外濾過膜:マイクローザAPシリーズ、マイクローザSPシリーズ、マイクローザAVシリーズ、マイクローザSWシリーズ、マイクローザKCVシリーズ、日東電工社製限外濾過膜:NTU−2120、RS50、日東電工社製ナノ濾過膜:NTR−7250、NTR−7259、NTR−7410、NTR−7450、日東電工社製逆浸透膜:NTR−70、NTR−759、ES−40、ES−20、ES−15、ES−10、LES90、LF−10、ミリポア社製限外濾過膜:バイオマックス膜、ウルトラセル膜、ダイセンメンブレン・システムズ社製限外濾過膜:NADIR UHシリーズ、NADIR UPシリーズ、NADIR USシリーズ、NADIR UCシリーズ、NADIR UVシリーズ、ダイセンメンブレン・システムズ社製ナノ濾過膜:NADIR NP010、NADIR NP030、ダイセンメンブレン・システムズ社製逆浸透膜:NADIR SW、東レ社製ナノ濾過膜:SUシリーズ、東レ社製逆浸透膜:SUシリーズ、SULシリーズ、SCシリーズ、GEウォーター・アンド・プロセス・テクノロジーズ社製限外濾過膜:Gシリーズ膜、Pシリーズ膜、MWシリーズ膜、GEウォーター・アンド・プロセス・テクノロジーズ社製ナノ濾過膜:DESALシリーズ、コーク・メンブレン社製ナノ濾過膜:MPTシリーズ、MPSシリーズ。
これらの中でも、スルホン酸基を有する有機高分子膜としては、NTR−7450、Gシリーズ膜等が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、好ましくは、オメガシリーズ、マイクローザAVシリーズ、マイクローザSWシリーズ、RS50、NTR−7250、NTR−7259、NTR−7410、NTR−7450、バイオマックス膜、NADIR UHシリーズ、NADIR UPシリーズ、NADIR USシリーズ、NADIR UCシリーズ、NADIR UVシリーズ、NADIR NP010、NADIR NP030、SUシリーズ、Gシリーズ膜、Pシリーズ膜、MWシリーズ膜、DESALシリーズ、MPSシリーズであり、より好ましくは、NTR−7410、NTR−7450、NADIR NP010、NADIR NP030、Gシリーズ膜、DESALシリーズ、MPSシリーズであり、更に好ましくは、NTR−7410、NTR−7450、Gシリーズ膜、DESALシリーズ、MPSシリーズである。
【0019】
本発明においてヘテロポリ酸含有溶液の濃度は、特に制限されない。通常、溶液の膜分離を行う際には、低濃度の溶液が用いられ、高濃度の溶液では溶質の分離を充分に行うことができない。しかしながら、本発明のヘテロポリ酸の分離方法においては、ヘテロポリ酸含有溶液の濃度が高濃度であっても、ヘテロポリ酸を分離することが可能であるため、ヘテロポリ酸含有溶液の濃度が高濃度である場合に、本発明の効果がより顕著に発揮されることとなる。
上記ヘテロポリ酸含有溶液が、ヘテロポリ酸の濃度が1質量%以上であることもまた、本発明の好適な実施形態の1つである。本発明の好適な実施形態としてより好ましくは、2質量%以上であり、更に好ましくは、4質量%以上である。
なお、本発明においては、ヘテロポリ酸の質量をヘテロポリ酸の質量と溶媒の質量との合計質量で除したものをヘテロポリ酸の濃度として表している。
【0020】
上記溶媒としては、特に制限されず、ヘテロポリ酸含有溶液の用途等により選択することができるが、例えば、水、各種アルコール類、各種エーテル類、各種エステル類等が挙げられる。
【0021】
本発明においては、ヘテロポリ酸の分子量、有機高分子膜の分画分子量の大小関係は、ヘテロポリ酸の分子量>有機高分子膜の分画分子量であることが好ましい。また、ヘテロポリ酸含有溶液にヘテロポリ酸以外の溶質が含まれている場合には、ヘテロポリ酸の分子量>有機高分子膜の分画分子量>ヘテロポリ酸以外の溶質の分子量という大小関係であることが好ましい。このような条件で膜分離を実施すると、ヘテロポリ酸は有機高分子膜を透過せずに原液側(濃縮液側)に留まり、ヘテロポリ酸以外の溶質及び溶媒は膜を透過し透過液側に移動する。その結果、ヘテロポリ酸が濃縮され、高い濃度で回収することが可能となる。さらにヘテロポリ酸の濃縮が必要な場合は、そのまま膜分離によって低エネルギーで濃縮することができる。このように、本発明のヘテロポリ酸の分離方法では、高い濃度でヘテロポリ酸を回収することができ、かつ回収率も高いことがメリットである。
【0022】
上記ヘテロポリ酸の分子量と上記有機高分子膜の分画分子量との差は、100以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、500以上であることが更に好ましい。
また、上記ヘテロポリ酸の分子量としては、1000以上10000以下であることが好ましい。ヘテロポリ酸の分子量がこのような範囲であるようなヘテロポリ酸含有溶液からのヘテロポリ酸の高効率な分離回収はこれまで困難であったが、本発明においてはそのような範囲のヘテロポリ酸も効率よく分離することが可能であるために、ヘテロポリ酸の分子量が上記範囲である場合に、本発明の効果がより顕著に発揮されることとなる。より好ましくは、1000以上7500以下であり、更に好ましくは、1000以上5000以下である。
【0023】
本発明において用いられるヘテロポリ酸としては、特に制限されないが、例えば、ケギン型リンタングステン酸(HPW1240)、ドーソン型リンタングステン酸(H1862)等のリンタングステン酸、ケギン型ケイタングステン酸(HSiW1240)等のケイタングステン酸、ケギン型ホウタングステン酸(HBW1240)等のホウタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、リンバナドタングステン酸、ケイバナドタングステン酸、リンバナドモリブデン酸、ケイバナドタングステン酸、金属置換型ヘテロポリ酸等が挙げられる。各種反応における触媒活性の観点から、この中でも、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸が好ましく、リンタングステン酸、ケイタングステン酸がより好ましく、リンタングステン酸が更に好ましい。
また、プロトンの一部がカチオン種で置換された塩構造になっていてもよい。その場合、カチオン種は特に制限されず、例えば、ナトリウム、マグネシウム、アンモニウム等が挙げられる。
上記ヘテロポリ酸及びそれらの塩は1種類で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法における膜分離の方法としては、原液側(濃縮液側)を加圧する方法、透過液側を減圧する方法、浸透圧で拡散させる方法、遠心分離による方法、電位差を利用する方法等が挙げられるが、好ましくは原液側を加圧する方法、浸透圧で拡散させる方法であり、より好ましくは原液側を加圧する方法である。原液側を加圧する方法の場合、膜分離実施時の圧力(ゲージ圧)は、0.01MPa以上であるが好ましく、より好ましくは0.05MPa以上であり、更に好ましくは0.1MPa以上である。
【0025】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法の分離形式としては、特に限定されないが、操作の簡便さの観点から、濾過形式であることが好ましい。該濾過形式としては、デットエンド形式、クロスフロー形式いずれも適用できるが、本発明のヘテロポリ酸の分離方法においては、ヘテロポリ酸含有溶液が高濃度であっても、ヘテロポリ酸の分離を高効率に行うことが可能であることから、好ましくはクロスフロー形式である。
クロスフロー形式の膜分離は、例えば、スパイラル状の分離膜モジュールに送液ポンプにて分離対象液を送液しながら加圧することで透過液を取得する方法により行うことができる。
膜分離実施時の温度は0〜100℃が好ましく、より好ましくは0〜80℃であり、更に好ましくは5〜50℃である。膜分離としてはバッチ式、連続式、半連続式、いずれの方法も用いることが出来るが、好ましくはバッチ式、連続式である。
【0026】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法における透過液の膜透過速度は、ヘテロポリ酸及びその他の溶質の濃度、並びに、膜分離実施時の圧力(ゲージ圧)により設定することが可能である。
透過液の膜透過速度は、分離膜及び分離膜モジュールの耐久圧力により上限値が制限される以外は特に制限されないが、ヘテロポリ酸の分離効率及び後述する透過阻止率の観点から、50g/min/m以上であることが好ましく、より好ましくは、100g/min/m以上であり、最も好ましくは、200g/min/m以上である。
なお、透過液の膜透過速度は、例えば、膜分離時の透過液の流速を測定することにより求めることができる。
【0027】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法におけるヘテロポリ酸の透過阻止率としては、ヘテロポリ酸濃度が1質量%を超えるヘテロポリ酸含有溶液を膜分離に供して、透過液量が膜分離に供する溶液の液量の10%に達した時のヘテロポリ酸透過阻止率(初期ヘテロポリ酸透過阻止率)が、70%以上であることが好ましい。初期ヘテロポリ酸透過阻止率がそのような範囲である場合には、ヘテロポリ酸の透過が充分に阻止されており、ヘテロポリ酸を充分に分離することができているとすることができる。より好ましくは、80%以上であり、更に好ましくは、85%以上である。
また、本発明のヘテロポリ酸の分離方法は、ヘテロポリ酸含有溶液の濃度が高濃度であっても、ヘテロポリ酸を分離することが可能であるため、分離過程が進み膜分離に供した溶液が濃縮されてきてもヘテロポリ酸の透過阻止率を落とさずにヘテロポリ酸の分離を行うことができる。すなわち、本発明のヘテロポリ酸の分離方法において、ヘテロポリ酸濃度が1質量%を超えるヘテロポリ酸含有溶液を膜分離に供して、透過液量が膜分離に供する溶液の液量の50%に達した時のヘテロポリ酸透過阻止率が、70%以上であることもまた本発明の好適な実施形態の1つである。好適な実施形態としてより好ましくは、透過液量が膜分離に供する溶液の液量の50%に達した時のヘテロポリ酸透過阻止率が、80%以上であり、更に好ましくは、85%以上である。
なお、ヘテロポリ酸の透過阻止率は、下記の計算式(1)より算出することができる。
【0028】
R=1−Cp/Cb (1)
【0029】
上記式(1)中、Rは、ヘテロポリ酸の透過阻止率を、Cpは、透過液側のヘテロポリ酸濃度を、Cbは、原液側のヘテロポリ酸濃度をそれぞれ表している。
【0030】
また、本発明のヘテロポリ酸の分離方法において膜分離に供するヘテロポリ酸含有溶液は、ヘテロポリ酸以外の溶質を含んでいてもよく、中でも、ヘテロポリ酸含有溶液が、分子量1000以下の有機物を含む形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。そして更には、該有機物が糖類を含む形態もまた、本発明の好適な実施形態の1つである。
【0031】
上記ヘテロポリ酸含有溶液に含まれる分子量1000以下の有機物の含有濃度は、特に制限されない。
また、上記分子量1000以下の有機物を含むヘテロポリ酸含有溶液を、本発明のヘテロポリ酸の分離方法によって分離した時の、該有機物の膜透過率は、70%以上であることが好ましい。有機物の透過率がそのような範囲であった場合には、有機物が有機高分子膜を充分に透過しているということができ、有機物は膜を透過し、上記のとおりヘテロポリ酸は膜の透過が阻止されることから、ヘテロポリ酸と、有機物及び溶媒とを充分に効率的に分離することができているとすることができる。より好ましくは、80%以上であり、更に好ましくは、90%以上である。
なお、有機物の膜透過率は、膜分離に供する溶液の有機物濃度と透過液の有機物濃度とから算出することができる。
【0032】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法によって効率的に分離されたヘテロポリ酸を回収することによって、高いヘテロポリ酸回収率を実現することができる。このような、本発明のヘテロポリ酸の分離方法を用いて、ヘテロポリ酸を回収する工程を含むヘテロポリ酸の回収方法もまた、本発明の1つである。
上記ヘテロポリ酸回収率としては、ヘテロポリ酸濃度が1質量%を超えるヘテロポリ酸含有溶液を膜分離に供した時に、70%以上であることが好ましい。より好ましくは、80%以上であり、更に好ましくは、90%以上である。
なお、ヘテロポリ酸の回収率は、分離後の濃縮液側に残存したヘテロポリ酸量の、分離前にヘテロポリ酸含有溶液に含有されるヘテロポリ酸量に対する割合として求めることができる。
【0033】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法は、有機高分子膜を用いて分子篩により分離することから、特殊な操作を必要とすることなく、工業的に種々の反応系に適用することができる。
上記反応系としては例えば、エポキシ化反応、アルカン酸化反応、芳香族側鎖アルキル基酸化反応、芳香族水酸基酸化反応、アルコール酸化反応等の酸化反応;オレフィンの異性化反応及び水和反応、アルコール脱水反応、エーテル化反応、エステル化反応、フリーデル・クラフツ反応、重合反応、バイオマス糖化反応を含む加水分解反応等の酸触媒反応が挙げられる。これらの中でも、本発明のヘテロポリ酸の分離方法を適用する特に好ましい1つの形態としては、ヘテロポリ酸を用いたバイオマス糖化方法において、糖化反応後のヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を分離する際に適用することが挙げられる。バイオマスの糖化方法は、近年注目される石油代替エネルギー技術の1つであり、このような技術に本発明を適用することは、バイオマス生成物の精製技術、コスト低減技術として特に重要な技術的意義を有することになる。
上記バイオマスからの単糖類の製造において、反応後のヘテロポリ酸含有溶液には、バイオマスの糖化反応により得られる反応生成物である糖類が含まれることになるが、このようなヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸と糖類とを分離する工程に、本発明のヘテロポリ酸の分離方法を好適に用いることができる。
上記糖類としては、例えば、グルコース、キシロース、アラビノース、マンノース、ガラクトース、ウロン酸、グルコサミン等が挙げられる。
【発明の効果】
【0034】
本発明のヘテロポリ酸の分離方法は、上述の構成よりなり、低エネルギーコストで、ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を高効率に分離して、高いヘテロポリ酸回収率が得られるようなヘテロポリ酸の分離方法である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「重量部」を、「%」は「質量%」意味するものとする。
【0036】
下記実施例及び比較例では、下記のようにして、測定を行った。
(1)透過液の膜透過速度
膜分離時の透過液の流速を測定することにより求めた。
(2)ヘテロポリ酸の定量
結合誘導プラズマ分析(ICP分析)により、下記装置を用いて、タングステン量を定量し、リンタングステン酸量、又は、ケイタングステン酸量を算出した。
装置:ICPE−9000(商品名、島津製作所社製)
(3)グルコースの定量
液体クロマトグラフィ(HPLC)LC−8020(東ソー社製)を用いて、以下の条件により行った。
測定条件:
カラム TSK−GEL Amide80(商品名、東ソー社製)
カラム温度 60℃
移動相 アセトニトリル−水混合溶媒(体積比:75/25)
検出器 RI
【0037】
下記実施例及び比較例では、下記の計算式により、評価を行った。
(1)初期ヘテロポリ酸透過阻止率
初期ヘテロポリ酸透過阻止率は、透過液量が膜分離に供する溶液の液量の10%に達した時のヘテロポリ酸透過阻止率を表している。
ヘテロポリ酸透過阻止率(%)=[{(膜分離に供する溶液のヘテロポリ酸濃度)−(透過液のヘテロポリ酸濃度)}/(膜分離に供する溶液のヘテロポリ酸濃度)]×100
(2)グルコース透過率
グルコース透過率(%)={(透過液のグルコース濃度)/(膜分離に供する溶液のグルコース濃度)}×100
【0038】
<金属酸化物によるヘテロポリ酸吸着実験>
(比較例1)
サンゴバン・ノルプロ社製γ−アルミナ(商品名「SA6576」)1gを15.5%のリンタングステン酸水溶液30gに加えて1時間浸漬後の溶液中のリンタングステン酸濃度を測定したところ、リンタングステン酸濃度が14.2%まで低下した。仕込みのリンタングステン酸の8.4%がγ−アルミナに吸着したことを確認した。
なお、リンタングステン酸としては、リンタングステン酸(商品名、日本無機化学工業社製)を用いた。
【0039】
<金属酸化物によるヘテロポリ酸吸着実験>
(比較例2〜5)
金属酸化物として表1に記載の金属酸化物を用いて、比較例1と同様に吸着実験を行った。
【0040】
<有機高分子膜によるヘテロポリ酸吸着実験>
(実施例1〜4)
金属酸化物の代わりに、表1に記載の有機高分子膜を用いて、比較例1と同様に吸着実験を行った。
ヘテロポリ酸吸着実験の結果を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
<ヘテロポリ酸分離実験>
(実施例5)
ナノ濾過膜であるNTR−7450(日東電工社製)の平膜を取り付けた分離膜評価装置メンブレンマスターC10−T(日東電工社製;膜面積60cm)を用いて、ヘテロポリ酸の分離実験を行った。このメンブレンマスターC10−Tに分離対象液を送液ポンプにて供給することで膜に対して平行な液の流れができるのでクロスフロー形式での分離膜評価が可能になる。膜分離に供する分離対象液を100g(リンタングステン酸(日本無機化学工業社製、商品名「リンタングステン酸」)4g、グルコース(関東化学社製、商品名「D(+)−グルコース」)10g含有)加えた。続いて、濃縮液側(膜分離に供する溶液を含む側)を0.3MPaに加圧して、温度25℃、フィード流速100ml/分で膜分離を行った。その際の透過液の膜透過速度は105g/min/mであった。そして、膜を隔てた透過側に50gの透過液を得た。
初期リンタングステン酸透過阻止率は、99.8%であり、グルコースの透過率は、99%であった。
【0043】
<ヘテロポリ酸分離実験>
(実施例6〜14)
分離条件を表2のように変更した以外は、実施例5と同様に分離実験を行った。
ヘテロポリ酸分離実験の結果を表2に示す。
【0044】
【表2】

【0045】
<ヘテロポリ酸分離実験>
(実施例15)
ナノ濾過膜であるNTR−7450(日東電工社製)の平膜を取り付けた分離膜評価装置SEPA−CF(GEウォーター・アンド・プロセス・テクノロジーズ社製)を用いて、ヘテロポリ酸の分離実験を行った。このSEPA−CFに分離対象液を送液ポンプにて供給することで膜に対して平行な液の流れができるのでクロスフロー形式での分離膜評価が可能になる。膜分離に供する分離対象液を3000g(リンタングステン酸(日本無機化学工業社製、商品名「リンタングステン酸」)300g、グルコース(関東化学社製、商品名「D(+)−グルコース」)450g含有)加えた。続いて、濃縮液側(膜分離に供する溶液を含む側)を1.0MPaに加圧して、温度25℃、フィード流速200ml/分で膜分離を行った。その際の透過液の膜透過速度は450g/min/mであった。そして、膜を隔てた透過側に50gの透過液を得た。
初期リンタングステン酸透過阻止率は、99.9%であり、グルコースの透過率は、100%であった。
【0046】
<ヘテロポリ酸分離実験>
(実施例16、17)
濃縮液側の操作圧を表3のように変更した以外は、実施例15と同様に分離実験を行った。
ヘテロポリ酸分離実験の結果を表3に示す。
【0047】
<ヘテロポリ酸分離実験>
(実施例18)
リンタングステン酸の代わりにケイタングステン酸(日本無機化学工業社製、商品名「ケイタングステン酸」)を用いた以外は、実施例15と同様に分離実験を行った。
ヘテロポリ酸分離実験の結果を表3に示す。
なお、表1〜表3中の略語は以下のとおりである。
NORPRO:サンゴバン・ノルプロ社
KOCH:コーク・メンブレン社
GE:GEウォーター・アンド・プロセス・テクノロジーズ社
NF:有機高分子ナノ濾過膜
UF:有機高分子限外濾過膜
【0048】
【表3】

【0049】
表1の結果から、無機膜を構成する金属酸化物がリンタングステン酸を吸着するのに対して、有機高分子膜は、リンタングステン酸を吸着しないことが確認された。このことから、無機膜を用いてリンタングステン酸を分離する際に問題となる金属酸化物がリンタングステン酸を吸着することによるリンタングステン酸のロスを、有機高分子膜を用いることで抑制することができることがわかった(比較例1〜5、実施例1〜4)。
表2及び表3の結果から、ヘテロポリ酸含有溶液からのヘテロポリ酸の分離に、25℃、0.1MPaにおける純水の透過速度が1g/min/m以上である有機高分子膜を用いた膜分離を行うことにより、ヘテロポリ酸含有溶液のヘテロポリ酸濃度が高い場合であっても、ヘテロポリ酸を極めて高い透過阻止率で透過を阻止することができ、ヘテロポリ酸を高効率に分離することが可能であることが分かった。そして、ヘテロポリ酸含有溶液にグルコースが含まれている場合に、ヘテロポリ酸とグルコースとを充分に分離することが可能であることが分かった(実施例5〜18)。また、ヘテロポリ酸含有溶液に含まれるグルコースの濃度を高くした場合や、操作圧を高くして透過液の膜透過速度を上げた場合であっても、ヘテロポリ酸を極めて高い透過阻止率で透過を阻止することができ、ヘテロポリ酸とグルコースとを充分に分離することが可能であることが分かった(実施例15〜18)。
更には表3の結果から、ヘテロポリ酸の種類としてはリンタングステン酸に限らず、本発明のヘテロポリ酸の分離方法が有効であることが実証された(実施例18)。
なお、上記実施例においては、特定の有機高分子膜を用いてヘテロポリ酸の膜分離を行った例が示されているが、有機高分子膜がヘテロポリ酸をヘテロポリ酸含有溶液から分離する機構は、すべて同様であることから、上記実施例、比較例の結果から、本明細書において開示した種々の形態において本発明が適用でき、有利な作用効果を発揮することができるといえる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸含有溶液からヘテロポリ酸を分離する方法であって、
有機高分子膜を用いて分子篩によりヘテロポリ酸を分離する工程を含み、
該有機高分子膜の25℃、0.1MPaにおける純水の透過速度が1g/min/m以上であることを特徴とするヘテロポリ酸の分離方法。
【請求項2】
前記有機高分子膜は、ナノ濾過膜又は限外濾過膜であることを特徴とする請求項1に記載のヘテロポリ酸の分離方法。
【請求項3】
前記ヘテロポリ酸含有溶液は、分子量1000以下の有機物を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のヘテロポリ酸の分離方法。
【請求項4】
前記有機高分子膜は、カチオン交換基を有する高分子膜であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のヘテロポリ酸の分離方法。
【請求項5】
前記有機高分子膜は、スルホン酸基を有する高分子膜であることを特徴とする請求項4に記載のヘテロポリ酸の分離方法。
【請求項6】
前記有機物は、糖類を含むことを特徴とする請求項3に記載のヘテロポリ酸の分離方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載のヘテロポリ酸の分離方法を用いて、ヘテロポリ酸を回収する工程を含むことを特徴とするヘテロポリ酸の回収方法。

【公開番号】特開2011−25224(P2011−25224A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68931(P2010−68931)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】